令和2(ワ)33192損害賠償請求事件
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裁判所 |
請求棄却 東京地方裁判所東京地方裁判所
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裁判年月日 |
令和4年7月19日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
原告甲 被告株式会社講談社
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法令 |
著作権
著作権法41条1回
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キーワード |
侵害25回 損害賠償6回 分割6回 ライセンス1回
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主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
1 本件は、原告が、被告に対し、被告の発行する雑誌に掲載された記事のうち、20
2 前提事実(証拠等の記載のないものは当事者間に争いがない。)
3 争点
1 争点1(名誉毀損の成否)について
8000万円を交付させたが、後に原告の話は虚偽であることが判明し、
2 争点2(肖像権侵害の成否)について5
3 争点3(著作権侵害の成否)について
4 争点4(消滅時効の成否)について
5 争点5(損害)について
1 争点1(名誉毀損の成否)について
2009年に離婚したこと、当時原告は借金を重ね、その総額が莫大な
15%を支払うとの原告の発言を信じ、約2億8000万円もの金銭を
2は、本件記載4と併せ読めば、単にAが原告に金銭を払ったという事
2億4600万円を出資したと認めるのが相当である。
8月19日であることから、乙5の会話が本件雑誌発行後の同月18日
2 争点2(肖像権侵害の成否)について
3 争点3(著作権侵害の成否)について
4 結論
1 甲氏の度重なる借金問題などで、'09 年に離婚した。
2
8000 万円ほどを渡してしまったのです。
3 私の他にも何人もの人が同じように彼にカネを渡してしまっています。
4 |
事件の概要 |
1 本件は、原告が、被告に対し、被告の発行する雑誌に掲載された記事のうち、20
別紙記事目録記載1ないし4の各記載は、原告の社会的評価を低下させる事実
を公然と摘示したものであるから、同記載の掲載は名誉毀損に当たり、別紙写
真目録写真1ないし4の各写真は、いずれも、原告の容ぼうが写っており、原
告が著作権を有するものであるから、同写真の掲載は、原告の肖像権及び著作
権を侵害するとして、不法行為に基づき、損害賠償金600万円(名誉毀損に25
つき400万円並びに肖像権侵害及び著作権侵害につき各100万円)及び弁
護士費用60万円の合計660万円と、上記雑誌の発行日である平成29年8
月17日から平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合
による遅延損害金の支払を、それぞれ求めた事案である。 |
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判決文
令和4年7月19日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
令和2年(ワ)第33192号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 令和4年5月13日
判 決
5 原 告 甲
同訴訟代理人弁護士 田 邉 一 隆
被 告 株 式 会 社 講 談 社
同訴訟代理人弁護士 弘 中 惇 一 郎
同 大 木 勇
10 同 竹 﨑 裕
ほ か
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
15 事 実 及 び 理 由
第1 請求
被告は、原告に対し、660万円及びこれに対する平成29年8月17日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
20 1 本件は、原告が、被告に対し、被告の発行する雑誌に掲載された記事のうち、
別紙記事目録記載1ないし4の各記載は、原告の社会的評価を低下させる事実
を公然と摘示したものであるから、同記載の掲載は名誉毀損に当たり、別紙写
真目録写真1ないし4の各写真は、いずれも、原告の容ぼうが写っており、原
告が著作権を有するものであるから、同写真の掲載は、原告の肖像権及び著作
25 権を侵害するとして、不法行為に基づき、損害賠償金600万円(名誉毀損に
つき400万円並びに肖像権侵害及び著作権侵害につき各100万円)及び弁
護士費用60万円の合計660万円と、上記雑誌の発行日である平成29年8
月17日から平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合
による遅延損害金の支払を、それぞれ求めた事案である。
2 前提事実(証拠等の記載のないものは当事者間に争いがない。)
5 ⑴ 当事者
ア 原告は、プロデュース業やライセンス商品の製造販売事業を営むST&
M株式会社(以下「ST&M社」という。)と、飲食業を営む株式会社A
&Aオーケストラ(以下「A&A社」という。)の2社で事業を行ってい
た者である。(甲16、原告本人)
10 イ 被告は、出版を業とする株式会社である。
⑵ 記事及び写真の公開
被告は、平成29年8月17日、「元嫁乙の名も利用した前夫の『怪しす
ぎる出資話』」と題する記事(以下「本件記事」という。)が掲載された雑
誌(以下「本件雑誌」という。)を発行した。本件記事は、原告の出資話の
15 被害者として「Aさん」(以下「A」という。なお、本件記事中のAは、丙
のことである。)が原告の事業に出資した経緯等を語る内容となっており、
別紙記事目録記載1ないし4の各記載が含まれている。(甲1)
また、本件記事には、別紙写真目録写真1ないし4の各写真(以下「本件
写真」という。)が掲載されており、同写真には、いずれも原告の容ぼうが
20 写っている。
⑶ 刑事判決
原告は、プロ野球グッズへの出資名目で知人から金員を詐取したとして、
平成30年に逮捕され、令和2年12月に有罪判決が確定した。(甲16、
乙2、弁論の全趣旨)
25 ⑷ 消滅時効の援用
被告は、令和4年3月9日の本件第2回口頭弁論期日において、原告に対
し、本件記事に係る名誉毀損、肖像権侵害及び著作権侵害の各損害賠償請求
権について、消滅時効を援用するとの意思表示をした。(当裁判所に顕著な
事実)
3 争点
5 ⑴ 名誉毀損の成否(争点1)
⑵ 肖像権侵害の成否(争点2)
⑶ 著作権侵害の成否(争点3)
⑷ 消滅時効の成否(争点4)
⑸ 損害(争点5)
10 第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(名誉毀損の成否)について
(原告の主張)
⑴ 社会的評価の低下について
ア 別紙記事目録記載1の記載(以下「本件記載1」という。)は、一般の
15 読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、原告の度重なる借金問題など
が原因となって原告が元妻と離婚したという事実を摘示するものであると
ころ、原告が、元妻と離婚に至るほどの深刻な借金問題を複数抱えており、
このような借金問題などが原因となって現実に離婚に至ったとの印象を与
えるものであるから、会社経営者である原告の経済的信用や人格に対する
20 信頼を損ね、原告の社会的評価を低下させるものである。
イ 別紙記事目録記載2の記載(以下「本件記載2」という。)及び同4の
記載(以下「本件記載4」という。)は、一般の読者の普通の注意と読み
方を基準とすれば、原告がプロ野球グッズの製造販売事業を営んでおらず、
毎月億単位の売上げもなく、各球団に数千万円の請求書を送ってもおらず、
25 出資金に対し売上げの15%を支払う意思も能力もないのに、Aに対し、
それらがあるかのように申し向け、Aをしてその旨信じさせ、合計約2億
8000万円を交付させたが、後に原告の話は虚偽であることが判明し、
原告が詐欺を認めてAに謝罪したとの事実を摘示するものである。そうす
ると、本件記載2及び4は、会社経営者である原告の経済的信用や人格に
対する信頼を損ね、原告の社会的評価を低下させるものといえる。
5 ウ 別紙記事目録記載3の記載(以下「本件記載3」という。)は、一般の
読者の普通の注意と読み方を基準として、本件記載2及び4と併せ読めば、
原告が、上記イ記載の詐欺行為をA以外の複数の相手方に対して行い、出
資させたとの事実を摘示するものであるところ、原告が多数の相手方に対
して出資詐欺を行ったとの印象を与えるものであるから、会社経営者であ
10 る原告の経済的信用や人格に対する信頼を損ね、原告の社会的評価を低下
させるものである。
⑵ 公共性及び公益目的性について
原告がAに対し出資詐欺を行ったとの本件記事の内容は、Aが被告の記者
に情報提供をしたものであるが、Aは、原告に対する出資金の返済を得るた
15 めに、警察やマスコミを利用して原告に圧力をかけ続けていたところ、被告
の記者もAの私的利益の追求に同調したにすぎない。
すなわち、本件記事はAの私的利益追求のために公表されたものであるか
ら、公共性及び公益目的性に欠けるものである。
⑶ 真実性及び真実相当性について
20 ア 本件記載1について
原告が元妻と2009年に離婚したことは真実であるが、離婚原因が原
告の度重なる借金問題などであったことは真実ではない。
また、離婚原因は離婚当事者しか知り得ないことであるから、真実であ
ると信じる相当な理由となり得る資料としては、当事者への取材しかあり
25 得ないところ、被告の記者は、原告にも原告の元妻にも取材をしていない
のであるから、上記離婚原因を真実であると信じる相当な理由があったと
はいえない。
イ 本件記載2及び4について
本件記載2及び4は、前記⑴イのとおり、原告がプロ野球グッズの製
造販売事業を営んでいないにもかかわらず同事業を行っているかのよう
5 にAに対して申し向けたとの事実を摘示していると解することができる
が、実際には、原告が実質的に経営していたST&M社は、平成28年
当時、プロ野球グッズの製造販売事業を行っていた。
原告がAに対し、「売上げは毎月億単位です」と言ったことは真実で
はなく、プロ野球グッズ、東京メトロ関連グッズ及びボトルウォーター
10 を全て合算し、かつ、現在受注している分の売上げが数億円であると言
ったにすぎない。
原告が「資金を出してくれたら、売上げの15%をお支払いします」
と言ったことは真実ではなく、原告は、出資金の10%又は15%の利
益を上乗せすると言っただけである。
15 原告がAから詐欺ではないかと詰問された際に、「すみません、そう
言われても仕方がありません」と認めたことは真実ではない。原告は、
プロ野球グッズの売上規模についてAに虚偽を申し向けたことを謝罪し
たにすぎず、詐欺を認め謝罪したわけではない。また、原告は、Aの息
子をなだめるために上記発言をしたにすぎない。
20 Aは、原告が約定の期日までに出資金及び利息を返済できないであろ
うことを認識した上で、ST&M社及びA&A社を買収するために出資
したのであるから、Aは、出資金等の返済可能性について錯誤に陥って
いない。すなわち、Aは、出資に際してST&M社及びA&A社の全株
式に譲渡担保権を設定し、後に譲渡担保権を実行するとA&A社の実質
25 的経営者として振る舞っているから、Aは、出資時点において、原告が
出資金を約定の期限までに返済できないことを認識しつつ、上記2社を
買収するために出資したにすぎない。
Aは、上記 のとおり、期限までに返済できないことを認識した上で
出資したのであるから、原告の欺罔行為とAの出資との間に因果関係は
存在しない。
5 被告の記者は、原告が各球団に請求書を送っているかのように申し向
けた点については相当な資料に基づきこれを信じたといえるが、その余
の点については、相当な資料に基づきこれを信じたということはできな
い。特に、プロ野球グッズの製造販売事業を行っていないにもかかわら
ず行っているかのように申し向けたことについては、明らかにこれに反
10 する資料があるにもかかわらず、あえて当該事実を摘示している。
また、原告が詐欺を認めて謝罪した内容の録音については、当該録音
に係る音声ファイルの最終更新日時が本件雑誌の発行日より後であるこ
となどから、被告の記者は、本件記事執筆前に当該録音を聞いていたと
はいえない。仮に本件記事執筆前に当該録音を聞いていたとしても、原
15 告が謝罪した部分のみを聞いたにすぎないと考えられるから、原告が詐
欺を認めて謝罪したことについて、相当な資料に基づきこれを信じたと
いうことはできない。
ウ 本件記載3について
原告は、出資金の債権者らに対して分割で返済していたから、原告とA
20 以外の債権者らとの間では、債権者らが出資した時点で、出資金を分割し
て返済する旨の黙示の合意が成立していたということができ、原告におい
て出資金を返済する意思及び能力がなかったということはできないし、債
権者らについて錯誤及び因果関係は存在しない。したがって、本件記載3
は真実ではない。
25 また、被告の記者は、Aからの取材のみに基づいて本件記載3を執筆し
ているから、相当な資料に基づきこれを信じたということもできない。
(被告の主張)
⑴ 社会的評価の低下について
ア 本件記載1について、借入れや離婚が直ちに否定的に評価されるわけで
はないから、このような事実を摘示したからといって、原告の社会的評価
5 を低下させることにはならない。また、原告の経営する会社が借入れをし
ていたことや、原告が離婚したことは、本件雑誌の発行以前に大きく報道
されていたから、本件記載1によって原告の社会的評価が低下する余地は
ない。
イ 本件記載2は、原告がAに売上げの証拠を示し、それを信じたAが原告
10 に投資をしたというものであるから、原告の社会的評価を低下させるもの
ではない。
ウ 本件記載3は、Aの他にも原告の言葉を信じて原告に投資をした者が複
数いるという事実を摘示したものにすぎないから、原告の社会的評価を低
下させるものではない。
15 ⑵ 公共性及び公益目的性について
原告は、本件雑誌発行当時、著名な元プロテニス選手で、著名な会社経営
者でもあったから、相当程度の社会的地位と社会的影響力を有していた。そ
のような原告が、虚偽の事実を述べて投資をさせたが返済せず、原告自身、
詐欺と言われても仕方がないと述べ、これについて捜査が始まっているとい
20 う事実は、公共の利害に関する事実であることは明らかである。
そして、本件記事は、このような社会的に重大な関心事について報じるも
のであり、国民の知る権利に資するために掲載されたものであるから、専ら
公益を図る目的で掲載されたものである。
具体的には、本件記載2ないし4は、上記社会的関心事の核心をなすもの
25 であるから、当然に公共性及び公益目的性が認められる。また、本件記載1
は、読者の理解を促進するために、原告が上記行為に至った経緯の一環とし
て原告の来歴を紹介するものであり、上記社会的関心事との関連性を有する
から、公共性及び公益目的性が認められる。
⑶ 真実性及び真実相当性について
ア 本件記載1について
5 本件記載1は、原告が離婚した事実、原告が離婚するまでに度重なる借
金問題を抱えていた事実及び原告の離婚の原因が原告の借金問題にあると
いう事実を摘示したものであるが、これらの事実は、他の報道でも報じら
れているとおり、真実であるし、仮に真実でないとしても、真実であると
信じたことについて相当の理由がある。
10 イ 本件記載2及び4について
本件記載2は、原告がAに対して売上げは毎月億単位と述べた上でグ
ッズの請求書やグッズを見せたという事実、原告がAに対して資金を出
したら売上げの15%を支払うと述べた事実及びAが原告の言葉を信じ
て原告に約2億8000万円を渡したという事実を摘示したものである
15 が、これらの事実は、被告の記者がAから聞き取りをしたとおりのもの
であり、聞き取りの際には、原告が経営する会社からプロ野球球団等に
宛てられた請求書等の提供を受けていた。
したがって、上記各事実は真実であるし、仮に真実でないとしても、
Aの話とAから提供された資料が合致していることから、被告がAの話
20 を信じたことについて相当の理由がある。
本件記載4は、Aが原告に対し、詐欺ではないのかと詰問したところ、
原告が謝罪した上で、そう言われても仕方がないと答えたという事実を
摘示したものであるが、当該事実は、被告の記者がAから聞き取りをし
たとおりのものであって真実であるし、仮に真実でないとしても、上記
25 のとおり、被告がAの話を信じたことについて相当の理由がある。
ウ 本件記載3について
本件記載3は、原告に金銭を渡した者が、Aの他にも複数いるという事
実を摘示したものであるが、当該事実は、被告の記者がAから聞き取りを
したとおりのものであって真実であるし、仮に真実でないとしても、上記
イ のとおり、被告がAの話を信じたことについて相当の理由がある。
5 2 争点2(肖像権侵害の成否)について
(原告の主張)
本件記事には、原告の容ぼうが写った本件写真が掲載されているから、被告
は、本件記事を公表したことにより、原告の肖像権を侵害した。
本件記事は、原告の社会的評価を著しく低下させる記載を含むものであるか
10 ら、原告に一定の知名度があったとしても、原告の容姿を撮影した写真を掲載
されない利益は、なお保護に値する。
また、本件写真を見た程度で、数億円の出資を決断するはずはないから、A
が原告に出資したことは、本件写真と無関係である。したがって、本件写真を
本件記事に掲載する必要性はない。
15 (被告の主張)
原告は、本件雑誌発行当時、著名な元プロテニス選手であり、著名な会社経
営者でもあった上、自らの姿を現した上でメディアに出て活動をしていた時期
もあったから、肖像権の要保護性は相対的に低い。
また、本件写真は、いずれもプライベートな場面を写したものではなく、原
20 告が著名人と一緒にいる場面を不特定多数人に撮影させたもののようである。
すなわち、そもそも本件写真は、不特定多数人に見られることを前提に撮影さ
れたものであるから、本件写真が公表されないことの利益は小さい。
さらに、本件写真は、原告にとって単なる取引相手であるAが、原告の事務
所を訪れた際に、特に制限を加えられることもなく原告から交付されたもので
25 あるから、原告にとって、公表されないことに特段の利益があるものとは考え
にくい。
他方で、本件写真は、原告が著名人と親交のあることをAに示し、Aが原告
の言葉を信じて投資する一因となったものであり、本件記事の報道目的との関
係で掲載が必要なものであった。
したがって、本件写真を公表されないという原告の利益は極めて小さい一方
5 で、本件記事に本件写真を掲載する必要性は高いから、本件写真の掲載は、社
会通念上受忍の限度を超えて原告の人格的利益を侵害するものとはいえず、同
掲載について不法行為は成立しない。
3 争点3(著作権侵害の成否)について
(原告の主張)
10 本件写真は、原告が、補助者を使って、原告の指示どおりの構図やアングル
等で撮影したものであり、本件写真には原告の思想が表明されているから、本
件写真の著作権はいずれも原告に帰属するし、本件写真は著作物性を有する。
したがって、被告は、本件写真が掲載された本件記事を公表したことにより、
原告の著作権を侵害した。
15 (被告の主張)
本件写真のようなスナップ写真については、シャッターチャンスの捉え方
に著作物性が認められるとされており、シャッターチャンスが原告の指示によ
って左右されたとは考えられないから、本件写真の著作権者は、原告ではなく
実際に撮影した者である。
20 仮に著作権侵害に当たるとしても、上記2のとおり、本件写真は本件記事の
報道目的との関係で掲載が必要なものであったから、時事の事件の報道のため
の利用(著作権法41条)に当たり、違法性が阻却される。
4 争点4(消滅時効の成否)について
(被告の主張)
25 被告の記者は、平成29年8月14日、原告に架電し、本件記事が本件雑誌
に掲載されることを伝えており、同記事の掲載後には、原告からAに対して同
記事に関する問合せの連絡が来ている。そうすると、原告は、同月18日の本
件雑誌の発売後間もなく本件記事の存在と内容を知ったと考えられる。
したがって、仮に名誉毀損、肖像権侵害又は著作権侵害の各不法行為が成立
したとしても、令和2年8月18日頃には各損害賠償請求権の消滅時効は完成
5 している。
この点について、原告は、被告が当該消滅時効を援用することが信義誠実の
原則に反し、権利の濫用に当たると主張するが、被告が消滅時効を援用しない
との信頼を原告に生じさせたという事情はないし、被告が原告による訴え提起
を不可能又は著しく困難にさせたという事情もないから、原告の主張は理由が
10 ない。
(原告の主張)
原告が平成29年8月18日頃に本件記事の存在及びその内容を知ったこと
は否認する。同月頃、被告の記者から原告に対し架電があったことは認めるが、
本件記事の詳細な内容は知らされなかった。そのため、原告が本件記事を読み
15 損害の発生を現実に認識したのは、早くとも平成30年6月1日である。
仮に原告が本件記事の存在及びその内容を平成29年8月18日頃知ってい
たとしても、本件で請求している各損害賠償請求権の消滅時効完成時には、原
告は刑事事件で勾留中であったから、同時効完成時に原告が同損害賠償を求め
る訴訟を提起することは社会通念上不可能又は著しく困難であった。したがっ
20 て、原告が当時そのような状況にいたことを知っている被告が、上記各損害賠
償請求権の消滅時効を援用することは、信義誠実の原則に反し、権利の濫用に
当たる。
5 争点5(損害)について
(原告の主張)
25 前記1ないし3の名誉毀損、肖像権侵害及び著作権侵害の各不法行為によって
原告が被った損害を金銭的に評価すると、600万円(名誉毀損につき400万
円、肖像権侵害及び著作権侵害につき各100万円)は下らない。
また、原告は、本件訴訟の提起を弁護士に依頼しなければならなかったところ、
弁護士費用は60万円を下らない。
(被告の主張)
5 争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(名誉毀損の成否)について
⑴ 本件記載1について
ア 社会的評価の低下について
10 新聞記事等の報道の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについ
ては、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきもの
である(最高裁昭和29年(オ)第634号同31年7月20日第二小
法廷判決・民集10巻8号1059頁参照)。
これを本件についてみると、前記前提事実によれば、本件記載1は、
15 一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、原告の度重なる借金
問題などが原因となって原告が元妻と離婚したという事実を摘示するも
のと認められるから、本件記載1が、原告の社会的評価を低下させるも
のであることは明らかである。
これに対し、被告は、借入れや離婚の事実が社会的評価を低下させる
20 ことにはならない旨主張するが、原告が離婚に至るほど複数の借金を抱
えていた事実は、原告の経済的信用を著しく低下させるものであるから、
本件記載1によって原告の社会的評価が低下することは明らかである。
また、被告は、原告の経営する会社が借入れをしていたことや原告が
離婚したことは、本件雑誌の発行以前に大きく報道されていたから、本
25 件記載1によって原告の社会的評価が低下する余地はないと主張する。
しかしながら、証拠(乙1の1ないし4)及び弁論の全趣旨によれば、
当該報道は、本件雑誌の発行よりも数年ないし10年程度前のものであ
る上、本件全証拠によっても、本件雑誌発行当時、当該報道によって、
本件記載1の摘示する上記事実が、更に原告の社会的評価を低下させる
余地のないほど広く社会に周知されていたと認めることはできず、被告
5 の主張は、前提を欠くものといえる。
したがって、被告の主張は、採用することができない。
イ 公共性及び公益目的性について
民事上の不法行為である名誉毀損については、その行為が公共の利害
に関する事実に係り専ら公益を図る目的に出た場合には、摘示された事
10 実が真実であることが証明されたときは、上記行為には違法性がなく、
不法行為は成立しないものと解するのが相当であり、もし、上記事実が
真実であることが証明されなくても、その行為者においてその事実を真
実と信じるについて相当の理由があるときには、上記行為には故意若し
くは過失がなく、結局、不法行為は成立しないものと解するのが相当で
15 ある(最高裁昭和37年(オ)第815号同41年6月23日第一小法
廷判決・民集20巻5号1118頁参照)。
これを本件についてみると、前記前提事実によれば、本件記事の内容
は、原告が虚偽の事実を述べてAに出資させ、後に原告自身も詐欺と言
われても仕方がないとAに認めた旨を記載するものであり、それ自体、
20 社会的に強い非難の対象とされる行為である。そして、証拠(甲16、
原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、元プロテニス選手であ
り、本件雑誌発行当時、会社を経営するなどして、社会的地位を有して
いたことが認められる。
これらの事情を踏まえると、社会的地位を有していた原告が社会的に
25 強い非難の対象とされる行為を犯したのであるから、その行為に対する
社会の関心は高かったものといえる。そうすると、本件記載1は、その
行為に関連する事情を摘示するものとして、公共の利害に関する事実に
係り専ら公益を図る目的で掲載されたものと認めるのが相当である。
これに対し、原告は、本件記事は、原告に対する出資金の返済を得る
ために、警察やマスコミを利用して原告に圧力をかけ続けていたAの私
5 的利益追求のために公表されたものであるから、公共性及び公益目的性
に欠けると主張する。しかしながら、Aが原告に圧力をかけ続けていた
事実を認めるに足りる証拠はなく、原告の主張は、その前提を欠く。そ
もそも、上記において説示したとおり、社会的地位を有していた原告の
上記行為に対する社会的な関心の高さを踏まえると、原告の主張は、上
10 記判断を左右するものとはいえない。
したがって、原告の主張は、採用することができない。
ウ 真実性及び真実相当性について
証拠(乙1の1ないし4)及び弁論の全趣旨によれば、原告が元妻と
2009年に離婚したこと、当時原告は借金を重ね、その総額が莫大な
15 ものになっていたこと、借金が当該離婚の一因となったこと、以上の事
実が認められる。
したがって、本件記載1に摘示された事実は、真実であると認められ
る。
これに対し、原告は、離婚原因が原告の度重なる借金問題などであっ
20 たことは真実ではないと主張するが、前掲証拠によれば、少なくとも借
金問題が離婚の一因であったものと認めるのが相当であり、原告の主張
は、上記判断を左右するに至らない。
したがって、原告の主張は、採用することができない。
⑵ 本件記載2及び4について
25 ア 社会的評価の低下について
前記前提事実によれば、本件記載2及び4は、一般の読者の普通の注
意と読み方を基準とすれば、Aが、原告からグッズの製造費用としてプ
ロ野球球団に送ったという請求書を示された上、出資をしたら売上げの
15%を支払うとの原告の発言を信じ、約2億8000万円もの金銭を
原告に渡したものの、後に原告は各球団に請求書を送っていないことを
5 認めるとともに、原告自身が詐欺だと言われても仕方がない旨認めたと
いう事実を摘示するものであることが認められる。そうすると、本件記
載2及び4は、Aが騙されて原告に金銭を払い、原告もこれを認める事
実を摘示するものであるから、原告の社会的評価を低下させるものであ
ることは明らかである。
10 これに対し、被告は、本件記載2は、原告がAに売上げの証拠を示し、
それを信じたAが原告に投資をしたというものであるから、原告の社会
的評価を低下させるものではないと主張する。しかしながら、本件記載
2は、本件記載4と併せ読めば、単にAが原告に金銭を払ったという事
実ではなく、Aが騙されて原告に金銭を払い、原告もこれを認めたとい
15 う事実を摘示するものである。そうすると、被告の主張は、上記事実と
は異なる事実を前提とするものである。
したがって、被告の主張は、採用することができない。
イ 公共性及び公益目的性について
本件記載2及び4が、公共の利害に関する事実に係り専ら公益を図る目
20 的に出たものであることは、前記⑴イにおいて説示したところと異なると
ころはない。
ウ 本件記載2の真実性及び真実相当性について
証拠(甲16、乙3の1ないし9、乙8、証人丙、原告本人)及び弁
論の全趣旨によれば、原告が、平成28年9月初め頃、A(丙)に対し、
25 グッズの製造・販売に係るプロ野球球団への請求書や、ボトルウォータ
ーの製造・販売に係る食品会社等への請求書(乙3の1ないし9。以下
「本件請求書」という。)を見せた上で、当該事業への発注が数億円あ
ると話したこと、実際に本件請求書の同年8月分の合計請求額が数億円
に上ること、その際に原告がA(丙)に対し、出資してくれれば売上げ
の15%を支払う旨話し、A(丙)が原告に対し、同月以降、3回にわ
5 たって約2億4600万円を渡したこと、以上の事実が認められる。
そして、本件記載2は、A(丙)が、原告から毎月億単位の売上げが
あると言われ、グッズの製造費用として各球団に送ったという数千万円
の額の請求書を渡されるなどされ、出資してくれたら売上げの15%を
支払うとの原告の言葉を信じ、原告に合計2億8000万円ほどを渡し
10 た旨を摘示しているところ、上記認定事実によれば、これらの記載は真
実であると認められる。
これに対し、原告は、本件記載2は、①原告がプロ野球グッズの製造
販売事業を営んでいないにもかかわらず同事業を行っているかのように
Aに対して申し向けたとの事実を摘示しているところ、実際には、原告
15 が実質的に経営していたST&M社は、平成28年当時、プロ野球グッ
ズの製造販売事業を行っていた、②原告はAに対し、売上げは毎月億単
位であるとは言っておらず、プロ野球グッズ、東京メトロ関連グッズ及
びボトルウォーターを全て合算し、かつ、現在受注している分の売上げ
が数億円であると言ったにすぎない、③原告は出資してくれたら売上げ
20 の15%を支払うとは言っておらず、出資金の10%又は15%の利益
を上乗せすると言っただけである、④Aは、原告が約定の期日までに出
資金及び利息を返済できないであろうことを認識した上で、ST&M社
及びA&A社を買収するために出資したのであるから、Aは、出資金等
の返済可能性について錯誤に陥っていないし、原告の欺罔行為とAの出
25 資との間に因果関係は存在しないと主張する。
しかしながら、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として本件記
載2を読めば、本件記載2において原告がプロ野球グッズの製造販売事
業を営んでいないという事実まで摘示しているものと認めることはでき
ず、原告の主張は、その前提を欠く。したがって、原告の上記①の主張
は、採用することができない。
5 また、平成28年8月分のプロ野球球団や食品会社等への合計請求額
が数億円に上ること及び当該数億円の本件請求書を示したこと自体は原
告も認めていること(原告本人)からすれば、毎月の売上げが億単位だ
とは言っていない旨の原告の供述は、それ自体信用性が低いものといえ
る。したがって、原告の上記②の主張は、採用することができない。
10 次に、原告は、A(丙)に対し、本件請求書を見せながら、プロ野球
グッズや飲料水の製造代金の立替えを依頼したところ、証拠(乙8、証
人丙、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、本件事実関係においては、
当該立替金額(出資金額)は、本件請求書記載の金額である売上金額と
実質的には異ならないものと認めるのが相当であるから、原告は、丙に
15 対し、出資してくれたら売上げ(すなわち出資金)の15%を支払う旨
述べたものといえる。したがって、原告の上記③の主張は、採用するこ
とができない。
さらに、証拠(甲16、乙8、証人丙、原告本人)及び弁論の全趣旨
によれば、丙は、原告に出資するに際し、ST&M社及びA&A社の各
20 株式に譲渡担保権を設定し、その後返済期限までに返済がなかったため
譲渡担保権を実行したことが認められるものの、証拠(証人丙、原告本
人)及び弁論の全趣旨によれば、そもそもST&M社は丙の出資に係る
事業を行っていたところ、丙に対し当該出資金を一部しか返済できない
ような経営状況の会社であったことが認められるのであるから、ST&
25 M社の株式に、約2億4600万円の出資金額に見合うほどの価値があ
ったものと認めることはできず、A&A社についても、当該出資金額に
見合うほどの価値があることを認めるに足りる的確な証拠はない。その
他に、丙が当時ST&M社及びA&A社を買収するために原告に出資し
たことを認めるに足りる証拠はなく、かえって、丙は、上記のとおり、
ひと月分の合計請求額が数億円に上る本件請求書を示された上で原告に
5 出資をしているのであるから、極めて多額の当該売上げを前提として約
2億4600万円を出資したと認めるのが相当である。
そうすると、丙が上記各株式に譲渡担保権を設定したのは、原告には
株式のほかに資産がなかったからとみるのが自然であって、原告の主張
が、丙が結果的に上記各株式を取得したことを踏まえた後付けのものに
10 すぎないことは、上記の事情に照らし、明らかであるといえる。
したがって、原告の上記④の主張は、採用することができない。
エ 本件記載4の真実性及び真実相当性について
証拠(甲16、乙4の1ないし6、乙5の1、2、乙8、証人丙、原
告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告が本件請求書をプロ野球球団
15 や食品会社等に送付していないこと、当該事実について問い詰められた
原告が、プロ野球球団等に本件請求書を送付していないことを認めたこ
と、詐欺ではないかと問い詰められた原告が、結果的にはそうなる旨A
(丙)に認めたこと、以上の事実が認められる。
そして、本件記載4は、原告が、各球団へ請求書を送付しておらず、
20 詐欺に当たると言われても仕方がないことをAに認めた旨を摘示してい
るところ、上記認定事実によれば、これらの記載は真実であると認めら
れる。
これに対し、原告は、プロ野球グッズの売上規模について丙に虚偽を
申し向けたことを謝罪したにすぎず、詐欺を認めて謝罪したわけではな
25 いし、原告の事務所に押し掛けて暴れる丙の息子をなだめるために、同
人に同調したにすぎないと主張し、これに沿う供述をする。
しかしながら、証拠(乙5の1、2)によれば、「全部ふたを開けて
みたら、これ、詐欺じゃないですか。どうなんですか、答えてみてくだ
さい。これ全部詐欺じゃないですか。」と言われた原告が、「でも、結
果そう言われたら、ほんとそうですね。」と発言していることが認めら
5 れることからすると、原告が詐欺を認めたことは明らかである。のみな
らず、証拠(乙5の1、2)及び弁論の全趣旨によれば、丙の息子が暴
れている様子はうかがわれず、かえって、丙の息子は、原告との間で、
入出金明細や本件請求書等の書類を見るなどして一つずつ事実関係を確
認していることが認められるから、原告は、暴れる丙の息子をなだめる
10 ために上記発言をしたものとも認めることはできない。
また、原告は、乙5の1の音声ファイルの最終更新日時が平成29年
8月19日であることから、乙5の会話が本件雑誌発行後の同月18日
になされた可能性があると主張する。しかしながら、音声ファイルの更
新日時は、当該ファイル内の音声が録音された日時を直ちに示すもので
15 はなく、かえって、証拠(乙11、証人丁)及び弁論の全趣旨によれば、
丙は、本件雑誌発行前である取材時の同月13日には、上記発言につい
ては録音がある旨述べていたことが認められることからすると、乙5の
会話が、本件雑誌発行後の同月18日になされたものと認めることはで
きない。
20 したがって、原告の主張は、いずれも採用することができない。
⑶ 本件記載3について
ア 社会的評価の低下について
前記前提事実によれば、本件記載3は、Aの他にも複数人がAと同様
に原告に出資した事実が摘示されているところ、一般の読者の普通の注
25 意と読み方を基準として、本件記載2及び4と併せ読めば、Aの他にも
複数人が原告に虚偽の事実を告げられ出資したという事実を摘示するも
のと認められる。そうすると、本件記載3が、原告の社会的評価を低下
させるものであることは明らかである。
これに対し、被告は、本件記載3は、Aの他にも原告の言葉を信じて
原告に投資をした者が複数いるという事実を摘示したものにすぎないか
5 ら、原告の社会的評価を低下させるものではないと主張する。しかしな
がら、本件記載3は、本件記載2及び4と併せ読めば、Aの他にも複数
人が原告に虚偽の事実を告げられ出資したという事実を摘示するものと
いえることは、上記において説示したとおりである。そうすると、被告
の主張は、本件記事のうち本件記載3の部分のみを取り出して摘示事実
10 を理解するものであって、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とす
るものとはいえない。したがって、被告の主張は、採用することができ
ない。
イ 公共性及び公益目的性について
本件記載2及び4は、Aが騙されて原告に金銭を払い、原告も詐欺であ
15 る旨認めたという事実を摘示するものであるところ、これらが公共の利害
に関する事実に係り専ら公益を図る目的に出たものであることは、前記⑵
イにおいて説示したとおりである。そして、本件記載3は、Aの他にも同
様に原告に金銭を払った者がいるというものであって、本件記載2及び4
と同様の事実を摘示するものであるから、公共性及び公益目的性において
20 本件記載2及び4と異なるところはないというべきである。
したがって、本件記載3も、公共の利害に関する事実に係り専ら公益を
図る目的に出たものであることが認められる。
ウ 真実性及び真実相当性について
証拠(乙8、10、11、証人丙、証人丁)及び弁論の全趣旨によれ
25 ば、丙の他にも、原告に虚偽の請求書を示された上で、原告に出資した
人が複数いることが認められる。そうすると、A(丙)の他にも複数人
が原告に虚偽の事実を告げられ出資したという事実を摘示している本件
記載3は、真実であると認められる。
これに対し、原告は、出資金の債権者らに対して分割で返済していた
から、原告とA以外の債権者らとの間では、債権者らが出資した時点で、
5 出資金を分割して返済する旨の黙示の合意が成立していたということが
でき、原告において出資金を返済する意思及び能力がなかったというこ
とはできないし、債権者らについて錯誤及び因果関係は存在しないと主
張する。しかしながら、出資金を債権者らに分割で返済していたことや、
A以外の債権者らとの間で出資金を分割して返済する旨の黙示の合意が
10 成立していたことを認めるに足りる証拠はなく、原告の主張は、具体的
な裏付けを欠くというほかない。
したがって、原告の主張は、採用することができない。
⑷ 小括
以上によれば、本件記載1ないし4は、いずれも原告の社会的評価を低下
15 させるものであると認められるものの、いずれも公共の利害に関する事実に
係り専ら公益を図る目的に出たものであり、摘示された事実が真実であると
認められるから、本件記載1ないし4を掲載した行為は、違法性がなく、不
法行為を構成するものとはいえない。仮に、摘示された事実が真実ではない
とする原告の主張を前提としたとしても、証拠(乙7、9ないし11、証人
20 丁)及び弁論の全趣旨によれば、被告の担当者は、A(丙)を直接取材の上、
本件記載1ないし4につき詳細な供述の裏付けを入手していたことが認めら
れるのであるから、被告においてその事実を真実と信じるについて相当の理
由があるといえ、上記主張は、結論を左右するものではない。
その他に、原告提出に係る準備書面及び証拠を改めて検討しても、上記判
25 断を左右するものとはいえない。原告の主張は、いずれも採用することがで
きない。
2 争点2(肖像権侵害の成否)について
肖像は、個人の人格の象徴であるから、当該個人は、人格権に由来するもの
として、みだりに自己の容ぼう等を撮影等されず、又は自己の容ぼう等を撮影
等された写真等をみだりに公表されない権利を有すると解するのが相当である
5 (最高裁昭和40年(あ)第1187号同44年12月24日大法廷判決・刑
集23巻12号1625頁、最高裁平成15年(受)第281号同17年11
月10日第一小法廷判決・民集59巻9号2428頁、最高裁平成21年(受)
第2056号同24年2月2日第一小法廷判決・民集66巻2号89頁各参
照)。他方、人の容ぼう等の撮影、公表が正当な表現行為、創作行為等として
10 許されるべき場合もあるというべきである。そうすると、肖像等を無断で撮影、
公表等する行為は、①撮影等された者(以下「被撮影者」という。)の私的領
域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合において、当該情報が公
共の利害に関する事項ではないとき、②公的領域において撮影し又は撮影され
た情報を公表する場合において、当該情報が社会通念上受忍すべき限度を超え
15 て被撮影者を侮辱するものであるとき、③公的領域において撮影し又は撮影さ
れた情報を公表する場合において、当該情報が公表されることによって社会通
念上受忍すべき限度を超えて平穏に日常生活を送る被撮影者の利益を害するお
それがあるときなど、被撮影者の被る精神的苦痛が社会通念上受忍すべき限度
を超える場合に限り、肖像権を侵害するものとして、不法行為法上違法となる
20 と解するのが相当である。
これを本件についてみると、証拠(甲1、16)及び弁論の全趣旨によれば、
本件写真は、元プロテニス選手で当時社会的地位もあった原告が、いずれも、
著名人と並んで笑顔で握手等をしている場面を撮影したものであるから、公的
領域において撮影されたものと認めるのが相当である。そして、本件写真の上
25 記の内容によれば、原告を侮辱するものではなく、原告のブログで公開されて
いた写真であったという事情も考慮すれば、平穏に日常生活を送る原告の利益
を害するものともいえない。仮に、本件写真が私的領域において撮影されたも
のと認定したとしても、証拠(甲1、16、乙6の1ないし4、乙7、8、証
人丙、証人丁)及び弁論の全趣旨によれば、本件写真は、原告と著名人との親
交を示すものであり、A(丙)をして原告が億単位の出資をするに足りる人物
5 であると思わせて、A(丙)が原告に出資する理由の一つとなったものと認め
られることからすると、本件写真は、原告が社会的に強い非難の対象とされる
行為を犯した旨を摘示する本件記事を補足するものであるから、公共の利害に
関する事項であるといえることは明らかである。そうすると、仮に上記のとお
り認定したとしても、上記の結論を左右するものとはいえない。
10 したがって、被告が本件写真を原告に無断で本件雑誌に掲載する行為は、肖
像権を侵害するものとして不法行為法上違法であるということはできない。
以上によれば、肖像権侵害をいう原告の主張は、採用することができない。
3 争点3(著作権侵害の成否)について
原告は、本件写真につき、原告が補助者を使って原告の指示どおりに撮影さ
15 せたものであり、本件写真の著作権は、いずれも原告に帰属すると主張するも
のの、当該事実を認めるに足りる証拠がなく、本件写真の著作権が原告に帰属
するものと認めることはできない。
したがって、著作権侵害をいう原告の主張は、採用することができない。
4 結論
20 よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がない
から、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
25 中 島 基 至
裁判官
小 田 誉 太 郎
裁判官
古 賀 千 尋
(別紙)
記 事 目 録
記 載
1 甲氏の度重なる借金問題などで、'09 年に離婚した。
甲は、「売り上げは毎月億単位です」と言っていて、グッズの製造費用
として各球団に送ったという数千万円の額の請求書を渡され、見せられ
た。実際に作っているというグッズも見せられました。「資金を出して
2
くれたら、売り上げの 15%をお支払いします」という甲の言葉を信じて
しまったのです。結局、去年の 9 月から何度かに分けて、合計で2億
8000 万円ほどを渡してしまったのです。
3 私の他にも何人もの人が同じように彼にカネを渡してしまっています。
甲を問い詰めると、各球団への請求書など送っていないことを認めたん
です。後に私が弁護士を通じて各球団に問い合わせたら、彼の話はまる
4
でデタラメだということもわかった。私が「詐欺じゃないか」と詰問し
たら「すみません、そう言われても仕方がありません」と認めました。
(別紙)
写 真 目 録
(省略)
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