令和3(行ケ)10165審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
|
裁判年月日 |
令和4年8月30日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
原告スリーアール株式会社(旧商号スリー・アールシ 被告Yper株式会社
|
対象物 |
配送5荷物保管装置 |
法令 |
特許権
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キーワード |
実施63回 審決37回 進歩性14回 無効6回 特許権1回 無効審判1回 分割1回
|
主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
1 特許庁における手続の経緯等
⑴ 被告は、平成30年1月30日を出願日とする特許出願(特願2018-
25470号)の一部を分割して、同年10月19日、発明の名称を「配送5
荷物保管装置」とする発明について特許出願(特願2018-197825
号)をし、令和2年2月28日、特許権の設定登録(特許第6667748
号。請求項の数7。以下、この特許を「本件特許」という。)を受けた。(甲 |
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判決文
令和4年8月30日判決言渡
令和3年(行ケ)第10165号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和4年6月16日
判 決
原 告 スリーアール株式会社
(旧商号 スリー・アールシ
ステム株式会社)
10 同訴訟代理人弁護士 田 中 雅 敏
同 堀 田 明 希
同訴訟代理人弁理士 有 吉 修 一 朗
同 森 田 靖 之
同 筒 井 宣 圭
15 同 遠 藤 聡 子
被 告 Y p e r 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 鮫 島 正 洋
20 同 杉 尾 雄 一
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
25 第1 請求
特許庁が無効2020-800075号事件について令和3年11月17
日にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等
⑴ 被告は、平成30年1月30日を出願日とする特許出願(特願2018-
5 25470号)の一部を分割して、同年10月19日、発明の名称を「配送
荷物保管装置」とする発明について特許出願(特願2018-197825
号)をし、令和2年2月28日、特許権の設定登録(特許第6667748
号。請求項の数7。以下、この特許を「本件特許」という。)を受けた。(甲
1の1及び2)
10 ⑵ 原告は、令和2年8月19日、本件特許につき、無効審判請求をした(無
効2020-800075号事件)。(甲14)
⑶ 特許庁は、令和3年11月17日、「本件審判の請求は、成り立たない。」
との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同月29日、原
告に送達された。
15 ⑷ 原告は、令和3年12月27日、本件審決の取消しを求めて本件訴えを提
起した。
2 特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は、次のとおりである(甲1の1。以下、
順に「本件発明1」等といい、併せて「本件各発明」と総称する。 。
)
20 ⑴ 請求項1
「開口部と収納部を備えた配送荷物収納体と、前記配送荷物収納体の開口
部を施錠する施錠体と、前記配送荷物収納体とドアの一部とを接続する接続
体とを備えた配送荷物保管装置であって、
前記配送荷物収納体は、配送荷物を収納しない第1の形態と、配送荷物を
25 収納する第2の形態に変更することができ、前記第1の形態より、前記第2
の形態が大きく、
前記接続体は、前記ドアの一部と前記配送荷物収納体との距離を伸縮可能
とする伸縮部を備え、
前記接続体は、前記伸縮部により、前記接続体の一方が前記ドアの一部に
接続され、前記接続体の他方が前記配送荷物収納体に接続されるものであり、
5 前記配送荷物収納体が前記第1の形態の場合に前記伸縮部を短縮した状
態として前記配送荷物収納体が前記ドアの一部に吊り下げられた状態とし、
前記配送荷物収納体が前記第2の形態の場合に前記配送荷物収納体を地面に
設置できる長さに前記伸縮部を伸長した状態として前記配送荷物収納体が地
面に設置された状態とすることを可能としたことを特徴とする配送荷物保管
10 装置。」
⑵ 請求項2
「前記第1の形態は配送荷物収納体を折り畳み固定した状態であり、前記
第2の形態は配送荷物収納体を広げた状態であることを特徴とする請求項1
に記載された配送荷物保管装置。」
15 ⑶ 請求項3
「前記接続体は、本体部と、前記配送荷物収納体と接続する第1の接続部
と、前記ドアの一部と接続する第2の接続部とを備え、前記第2の接続部に
前記伸縮部を備え、前記第2の接続部を伸長した状態とした場合でも、前記
本体部と前記配送荷物収納体とが近接することを特徴とする請求項1又は2
20 に記載された配送荷物保管装置。」
⑷ 請求項4
「前記接続体は、前記第1の接続部を施錠する施錠部を備えることを特徴
とする請求項3に記載された配送荷物保管装置。」
⑸ 請求項5
25 「前記施錠体は、電子錠であることを特徴とする請求項1乃至4に記載さ
れた配送荷物保管装置。」
⑹ 請求項6
「請求項1乃至5に記載された配送荷物保管装置を使用する方法であって、
配送荷物の荷受人が、前記配送荷物収納体を前記第1の形態で、かつ、前
記接続体を短縮した状態で、前記接続体を前記ドアの一部に吊り下げて接続
5 する第1のステップと、
配送荷物の配送人が、前記配送荷物収納体を地面に設置できる長さに前記
伸縮部を伸長すること及び前記配送荷物収納体を前記第2の形態に変更する
ことをした上で、配送荷物を前記配送荷物収納体の収納部に収納し前記施錠
体を施錠する第2のステップと、
10 配送荷物の荷受人が、前記施錠体を開錠し、前記配送荷物収納体に収納さ
れた配送荷物を取り出す第3のステップとを備える配送荷物保管装置を使用
する方法。」
⑺ 請求項7
「請求項1乃至5に記載された配送荷物保管装置を使用する方法であって、
15 配送荷物の荷送人が、前記配送荷物収納体が前記第2の形態で配送荷物を
前記収納部に収納した上で前記施錠体を施錠すること及び前記配送荷物収納
体を地面に設置できる長さに前記伸縮部を伸長した状態で前記接続体を前記
ドアの一部に吊り下げて接続することを行う第1のステップと、
配送荷物の配送人が、前記施錠体を開錠し、前記配送荷物収納体に収納さ
20 れた配送荷物を取り出した上で、前記配送荷物収納体を前記第1の形態に変
更すること及び前記伸縮部を短縮することを行う第2のステップとを備える
配送荷物保管装置を使用する方法。」
3 本件審決の理由の要旨
⑴ 本件審決の理由は、別紙審決書(写し)記載のとおりであり、要するに、
25 以下の無効理由は、いずれも理由がなく、本件特許を無効とすることはでき
ないというものである。
ア 無効理由1(進歩性欠如)について
(ア) 本件発明1は、甲2の公開特許公報(特開2005-288065号。
以下「甲2公報」という。 に記載された発明
) (以下「甲2発明」という。)
に、甲4の公開特許公報(特開平11-152190号。以下「甲4公
5 報」という。)に記載された発明(以下「甲4発明」という。)及び以下
の甲5ないし甲7の各公報等(以下、書証番号に従い「甲5公報」等と
いう。 に記載された周知技術を適用することにより、
) 当業者が容易に発
明をすることができたものである。
a 甲5:実願昭62-13036号(実開昭63-122564号)
10 のマイクロフィルム
b 甲6:公開特許公報(特開平9-212763号)
c 甲7:実願昭55-99006号(実開昭57-21757号)の
マイクロフィルム
(イ) 本件発明2ないし5は、甲2発明及び甲4公報ないし甲7公報に記載
15 された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたもので
ある。
(ウ) 本件発明6及び7は、甲2発明、甲3の公表特許公報(特表2017
-521103号)ないし甲7公報に記載された事項に基づいて、当業
者が容易に発明をすることができたものである。
20 イ 無効理由2(サポート要件違反及び明確性要件違反)について
本件各発明は、「伸縮部」 「開口部」 「施錠体」及び「接続体」に関し、
、 、
本件特許に係る明細書(以下、図面と併せて「本件明細書等」という。)に
記載されたものではなく、また、発明の内容が不明確である。
⑵ 本件審決が認定した甲2発明のうち、後記の取消事由に関するものは、次
25 のとおりである(以下、「甲2発明1」という。 。
)
「開口部と収納部を備えた宅配容器本体17と、前記宅配容器本体17の
開口部を施錠する符号錠2と、前記宅配容器本体17とドアノブとを接続す
る盗難防止用連結ワイヤ1とを備えた宅配容器であって、
前記宅配容器本体17は、配達物を収納しない未収納時の形態と、配達物
を収納する配達物投入時の形態に変更することができ、前記未収納時の形態
5 より、前記配達物投入時の形態が大きく、
前記盗難防止用連結ワイヤ1は、前記盗難防止用連結ワイヤ1の一方が前
記ドアノブに接続され、前記盗難防止用連結ワイヤ1の他方が前記宅配容器
本体17に接続されるものであり、
前記宅配容器本体17が前記未収納時の形態の場合に前記宅配容器本体
10 17が前記ドアノブに掛けられた状態とし、前記宅配容器本体17が前記配
達物投入時の形態の場合に前記宅配容器本体17を床に置ける状態として前
記宅配容器本体17が床に置かれた状態とすることを可能とした宅配容器。」
⑶ 本件審決が認定した本件発明1と甲2発明1との一致点及び相違点は、次
のとおりである。
15 ア 一致点
「開口部と収納部を備えた配送荷物収納体と、前記配送荷物収納体の開
口部を施錠する施錠体と、前記配送荷物収納体とドアの一部とを接続する
接続体とを備えた配送荷物保管装置であって、
前記配送荷物収納体は、配送荷物を収納しない第1の形態と、配送荷物
20 を収納する第2の形態に変更することができ、前記第1の形態より、前記
第2の形態が大きく、
前記接続体は、前記接続体の一方が前記ドアの一部に接続され、前記接
続体の他方が前記配送荷物収納体に接続されるものであり、
前記配送荷物収納体が前記第1の形態の場合に前記配送荷物収納体が
25 前記ドアの一部に吊り下げられた状態とし、前記配送荷物収納体が前記第
2の形態の場合に前記配送荷物収納体を地面に設置できる状態として前
記配送荷物収納体が地面に設置された状態とすることを可能とした配送
荷物保管装置。」
イ 相違点
(ア) 相違点1
5 「本件発明1は、『接続体』が、『前記ドアの一部と前記配送荷物収納
体との距離を伸縮可能とする伸縮部』を備えるのに対し、甲2発明1は、
そのような構成を備えていない点。」
(イ) 相違点2
「本件発明1は、
『接続体』が、
『前記伸縮部により、』前記接続体の一
10 方が前記ドアの一部に接続され、前記接続体の他方が前記配送荷物収納
体に接続されるものであるのに対し、甲2発明1は、
『盗難防止用連結ワ
イヤ1』が、前記盗難防止用連結ワイヤ1の一方が前記ドアノブに接続
され、前記盗難防止用連結ワイヤ1の他方が前記宅配容器本体17に接
続されるものであるが、伸縮部に係る構成を備えていない点。」
15 (ウ) 相違点3
「本件発明1は、前記配送荷物収納体が前記第1の形態の場合に『前
記伸縮部を短縮した状態として』前記配送荷物収納体が前記ドアの一部
に吊り下げられた状態とするのに対し、甲2発明1は、前記宅配容器本
体17が前記未収納時の形態の場合に前記宅配容器本体17が前記ドア
20 ノブに掛けられた状態とするが、伸縮部に係る構成を備えていない点。」
(エ) 相違点4
「本件発明1は、前記配送荷物収納体が前記第2の形態の場合に前記
配送荷物収納体を地面に設置できる『長さに前記伸縮部を伸長した』状
態として前記配送荷物収納体が地面に設置された状態とするのに対し、
25 甲2発明1は、前記宅配容器本体17が前記配達物投入時の形態の場合
に前記宅配容器本体17を床に置ける状態として前記宅配容器本体17
が床に置かれた状態とするが、伸縮部に係る構成を備えていない点。」
4 原告の主張する取消事由
⑴ 取消事由1
本件発明1の甲2発明1に対する進歩性の有無に関する判断の誤り
5 ⑵ 取消事由2
本件発明2ないし7の甲2発明1に対する進歩性の有無に関する判断の
誤り
⑶ 取消事由3
サポート要件に関する判断の誤り
10 ⑷ 取消事由4
明確性要件に関する判断の誤り
第3 当事者の主張
1 取消事由1(本件発明1の甲2発明1に対する進歩性の有無に関する判断の
誤り)について
15 〔原告の主張〕
以下のとおり、技術分野の関連性、課題や作用・機能の共通性、主引用発明
又は副引用発明の内容中の示唆等を総合的に考慮すれば、主引用発明である甲
2発明1に、副引用発明である甲4発明及び甲5公報ないし甲7公報から認定
される周知技術を適用することの動機付けが認められ、他方で、本件発明1は
20 甲2発明1に比してさしたる効果も認められず、本件発明1の進歩性は否定さ
れるべきであるから、本件審決の判断には誤りがある。
⑴ 技術分野の関連性
ア 甲2発明1は、宅配容器及びこれに使用される盗難防止用具に関する発
明であり、甲4発明は、荷物配達用具及びこれに使用される盗難防止用具
25 に関する発明であるから、配送荷物保管装置及びその盗難防止具という技
術分野が共通する。
イ 甲5公報ないし甲7公報が公開されたのは、本件特許の出願の約21年
ないし36年前であることからすれば、これらの公報に記載された技術的
事項(以下、順に「甲5技術」等という。)は周知技術であったといえる。
また、甲5技術ないし甲7技術は、それぞれ異なる用途に用いられるもの
5 ではあるが、いずれも「一方の接続部を施錠対象物に固定して施錠し、他
方の接続部を固定物に固定する盗難防止具」に係るものである上、盗難防
止具はあらゆる用途に用いられ、伸縮部を備えるか否かは当業者が適宜選
択し得る事項である。したがって、甲5技術ないし甲7技術は、甲2発明
1及び甲4発明と技術分野が共通するといえる。
10 ウ 本件審決は、盗難防止具という技術分野ではなく、甲2発明1に係る配
送荷物保管装置という特定の用途に係る技術分野の枠組みで判断し、甲5
技術ないし甲7技術が周知技術であると認定しなかったものであり、その
判断には誤りがある。
⑵ 課題の共通性
15 ア 課題の共通性については、主引用発明及び副引用発明の各課題を問題と
すべきところ、甲2公報及び甲4公報の記載によれば、甲2発明1及び甲
4発明は、「軽量であり持ち運びができるとともに設置場所が限定されず、
かつ大型の配達物や複数の配達物が収納できる防犯性に優れる配送荷物
保管装置を提供する」という課題において共通する。
20 イ また、甲7公報の記載によれば、甲7技術の課題は、
「自転車のような軽
量な被施錠物がそのまま持ち去られないようにするとともに、被施錠物の
設置場所が特定の場所に限定されないようにする盗難防止具の提供」であ
る。そして、甲7技術が周知技術であることを考慮すると、上記課題は「盗
難防止具」の技術分野においては周知の課題であり、さらに、主引用発明
25 である甲2発明1において開示されている配送荷物保管装置に使用され
る盗難防止具においても内在する課題であることは自明であるから、甲2
発明1、甲4発明及び甲7技術は、課題が共通する。
⑶ 作用・機能の共通性
一般に、作用・機能の共通性と課題の共通性とは表裏の関係にあるから、
上記⑵で主張したところによれば、甲2発明1、甲4発明及び甲7技術は、
5 作用・機能が共通する。
⑷ 主引用発明又は副引用発明の内容中の示唆
ア 甲2公報の段落【0008】 【0015】及び【0022】並びに図3
、
の記載によれば、甲2公報においては、宅配容器本体が「第1の形態の場
合にドアノブから吊り下げ、第2の形態の場合に設置面に設置する」とい
10 う技術思想が示唆されているものといえる。
また、甲4公報の段落【0028】ないし【0030】 【0055】及
、
び【0056】並びに図1、3及び5の記載によれば、甲4公報において
は、「第1の形態の場合には連結機構を短尺にしてドアノブから吊り下げ、
第2の形態の場合には連結機構を長尺にして設置面に設置する」という技
15 術思想が示唆されているといえる。
イ そして、甲7技術の防犯嵌合具は、甲2発明1における盗難防止用連結
ワイヤと同様に、被施錠物と固定物とを接続するためのものであるから、
同ワイヤの代替手段となり得るものである上、1本のワイヤで第1の形態
及び第2の形態の両方を実現すことができるという点で、甲2発明1にお
20 ける盗難防止用連結ワイヤよりも簡便な手段であるから、これを同ワイヤ
に代えて適用することは、当業者にとって容易なことである。また、上記
の着想の過程において、甲4公報に開示された実施例が着想の契機となり
得る。
ウ したがって、甲2公報及び甲4公報に基づいて、本件発明1の伸縮部に
25 係る構成を導くための動機が希薄であるとする本件審決の判断には誤り
がある。
⑸ 顕著な効果の有無
本件発明1及び甲2発明1の効果は、いずれも、配送荷物を収納しない状
態では「ドア等に接続した状態でも目立たない」というものであり、配送荷
物を収納した状態では「重い荷物も受け取ることができる」というものであ
5 って、両発明の効果には差がない。
⑹ 予備的主張
ア 進歩性判断においては、課題の共通性、作用・機能の共通性及び引用発
明の内容中の示唆とは別に、対象発明に係る構成(本件発明1においては
伸縮部を有する盗難防止具)が周知技術であることをもって、動機付けの
10 事由として認められるものと解される。
イ そして、本件発明1の伸縮部を有する接続体のように、被施錠物の設置
位置が特定の位置に固定されないようにするために固定物と被施錠物との
距離を可変とすることができる伸縮自在な接続体を備えた盗難防止具は、
甲7公報において開示されているなど本件特許が出願された時点における
15 周知技術であったところ、甲2発明1における盗難防止用連結ワイヤに上
記周知技術を適用して同ワイヤを伸縮自在とすることは、本件発明1の伸
縮部を有する接続体の動作そのものというべきである。
ウ したがって、仮に、甲2発明1に甲4発明及び甲5公報ないし甲7公報
から認定される周知技術を適用することが容易に想到し得ないとしても、
20 甲2発明1との関係で相違点1ないし4に係る本件発明1の伸縮部の構成
が周知技術である限り、かかる周知技術を甲2発明1に適用した上で本件
発明1の構成とすることの動機付けは認められるべきである。
〔被告の主張〕
以下のとおり、原告が主張する技術分野の関連性、課題や作用・機能の共通
25 性、主引用発明又は副引用発明の内容中の示唆については、いずれも甲2発明
1に対して甲4公報ないし甲7公報に記載された事項を適用する動機付けを与
えるものではないから、本件発明1は、甲2発明1及び甲4公報ないし甲7公
報に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたもの
とは認められないとした本件審決の判断に誤りはない。
⑴ 〔原告の主張〕⑴に対し
5 ア 甲5公報ないし甲7公報には、特定の用途のための盗難防止具しか記載
されていないのであるから、各公報が公開されてからの期間を考慮したと
しても、一般的に、
「一方の接続部を施錠対象物に固定して施錠し、他方の
接続部を固定物に固定する盗難防止具」が周知技術であったと認定するこ
とはできない。また、そもそも、甲5公報及び甲6公報には、伸縮物を有
10 さない構造が記載されており、伸縮部を有する構造は甲7公報にしか記載
されていないのであるから、甲5公報ないし甲7公報に共通の事項が記載
されていることを前提とする周知技術が存在する余地はない。
イ 本件審決は、仮に、甲5技術ないし甲7技術が周知技術であることを前
提としても、甲2発明1に対し、甲7技術を適用することは当業者が容易
15 に想到し得たものではないと判断したものであり、甲7技術が周知技術で
あることを何ら考慮していないという原告の主張は、前提を誤っている。
また、そもそも、
「盗難防止具」の技術分野の枠組みで判断した場合に、い
かにして甲2発明1に甲7技術を適用することを容易に想到し得たとい
えるのかは不明であるが、現に、甲2発明1は、配送荷物保管装置に関す
20 るものであることからすれば、本件審決が、配送荷物保管装置の技術分野
の枠組みで判断したことに誤りはない。
⑵ 〔原告の主張〕⑵に対し
ア 原告が指摘する甲2公報及び甲4公報の記載をみても、甲2発明1及び
甲4発明の課題が共通するものとはいえない。
25 イ 副引用発明が周知技術であることが立証されれば、副引用発明に記載さ
れている課題自体の周知性が立証されなくとも、副引用発明に記載されて
いる課題が周知であると認められるものではないから、仮に、甲7技術が
周知であったとしても、
「持ち運びが容易で、被施錠物の固定場所が特定の
場所に限定されないような盗難防止具の提供」という課題が周知となるも
のではなく、甲2発明1において内在する課題とはならない。したがって、
5 甲2発明1と甲7技術の課題は共通しない。
⑶ 〔原告の主張〕⑶に対し
上記⑵で主張したとおり、甲2発明1、甲4発明及び甲7技術は、課題が
共通しないから、作用・機能も共通しない。
⑷ 〔原告の主張〕⑷に対し
10 ア そもそも、進歩性判断において動機付けの有無の考慮要素となる示唆は、
主引用発明について問題となるものであり、本件審決は、甲2公報におけ
る示唆の有無について判断しているのであるから、甲2発明1に甲7技術
を適用することの示唆が甲4公報に記載されているか否かを問題にしな
かった本件審決の判断に誤りはない。
15 イ 本件発明1の「第1の形態」とは、配送荷物を収納しない配送荷物収納
体の形態であり、
「第2の形態」とは、第1の形態から変更して、第1の形
態より大きくした、配送荷物を収納する配送荷物収納体の形態を意味する。
他方で、甲4公報には、一般的な大きさの段ボールサイズの荷物配達用
具が地面に設置された第1の実施例(図1)及び小さくて軽い荷物を収納
20 する荷物配達用具がドアノブに吊り下げられた第3の実施例(図5)が記
載されているが、これらはいずれも荷物を収納する形態であり、甲4公報
には本件発明1にいう「第1の形態」は記載されていない。また、これら
は全く異なる大きさのものであり、形態を変更できる収納用具が記載され
ているものではないから、甲4公報には、本件発明1にいう「第2の形態」
25 は記載されていない。
したがって、甲4公報には、
「第1の形態の場合には連結機構を短尺にし
てドアノブから吊り下げ、第2の形態の場合には連結機構を長尺にして設
置面に設置する」という技術思想は開示されていない。
ウ 甲4公報の図1に記載された連結機構の長さは一定であり(段落【00
38】 、図5に記載された連結機構も、第1の実施例より短くしたものに
)
5 すぎず、その長さは一定であって、伸長又は短縮できるものではない(段
落【0056】 。
)
したがって、甲4公報には、
「短縮」及び「伸長」可能な伸縮部を備える
「接続体」に相当する構成が開示されていない。
エ 以上によれば、甲4公報は、甲2発明1に甲7技術を適用することの動
10 機付けを与えるものではないから、甲2公報に甲7技術を適用することの
示唆がないことを理由として、甲2発明1に甲7技術を適用することの動
機付けが希薄であるとした本件審決の判断に誤りはない。
⑸ 〔原告の主張〕⑸に対し
本件審決は、相違点1ないし4に係る伸縮部の有無によって奏される効果
15 が異なると判断したものであり、何らの誤りはない。
⑹ 〔原告の主張〕⑹に対し
周知技術は、動機付けを考慮するための一要素にすぎないから、周知技術
であることのみをもって動機付けがあるということはできない。
2 取消事由2(本件発明2ないし7の甲2発明1に対する進歩性の有無に関す
20 る判断の誤り)について
〔原告の主張〕
前記1において主張したとおり、本件審決の相違点1ないし4に係る進歩性
に関する本件審決の判断には誤りがあるから、本件発明2ないし7の甲2発明
1に対する進歩性の有無に関する本件審決の判断も誤りである。
25 〔被告の主張〕
争う。
3 取消事由3(サポート要件に関する判断の誤り)について
〔原告の主張〕
以下のとおり、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載がない発明を含むも
のであり、サポート要件に適合しない。また、本件発明2ないし7は、請求項
5 1を引用し、本件発明1を発明特定事項に含むものであるから、同様にサポー
ト要件に適合しない。
⑴ 「伸縮部」について
特許請求の範囲の記載からすれば、本件発明1における「伸縮部」にはあ
らゆる構成が含まれる。しかしながら、本件明細書等には、伸縮部の実施形
10 態として、図4の巻取り式ワイヤ錠のほか、段落【0029】の「ワイヤー
を巻き尺(メジャー)に用いられているぜんまいバネを用いて巻き取る構造」
及び「ゴム等の伸縮性のある材料を用いて伸縮させ」る構造が記載されてい
るのみであり、それ以外の実施形態については何らサポートされていない。
⑵ 「開口部」について
15 本件発明1において、
「開口部」及び「収納部」は、配送荷物収納体を構成
する独立した構成要件とされており、また、本件各発明の課題には、住人と
配当業者との間における鍵の持ち合いが含まれる。そして、この課題に着目
した当業者は、
「開口部」について、配送荷物収納体の内部と外部とを連通す
るための開口部という解釈のほかにも、配送荷物収納体の側面等に形成され、
20 ダイヤル式施錠体を開錠するための番号を記載したメモを収納するための開
口部という解釈をすることもできるため、
「開口部」の構成については多義的
に解釈することができるといえる。他方で、本件明細書等には、
「開口部」に
ついて、配送荷物収納体の内部と外部とを連通するための開口部という実施
形態のみが開示されているにすぎず、この内容を、施錠体を開錠するための
25 鍵を収納するための開口部の構成まで拡張ないし一般化することはできない。
⑶ 「施錠体」について
特許請求の範囲の記載からすれば、本件発明1における「施錠体」にはあ
らゆる実施形態が含まれる。しかしながら、本件発明1における「施錠体」
については、鍵やダイヤル式の南京錠及び電子錠等、多義的な解釈が可能で
あるところ、本件各発明の課題には住人と配達業者との間における鍵の持ち
5 合いが含まれるから、当業者は、本件発明1の施錠体について、鍵を用いな
いダイヤル式錠又は電子錠のみにより課題を解決することができると認識す
る。そうすると、本件発明1については、住人と配達業者との間で事前に鍵
を持ち合う鍵式の錠についてはサポートされていないことになる。
⑷ 「接続体」について
10 特許請求の範囲の記載からすれば、本件発明1の「接続体」にはあらゆる
実施形態が含まれる。しかしながら、本件明細書等の記載によれば、本件各
発明が「盗難の防止」を目的とすることは明らかであるところ、本件各発明
における「接続体」については、ドアの一部に対して「配送物保管装置4の
盗難を防止」できる構造のみがサポートされているにすぎず、それ以外の構
15 造(例えば、フック等によりドアの一部に引っ掛けられていることにより誰
もが容易に着脱できる構造)についてはサポートされていない。
〔被告の主張〕
⑴ 〔原告の主張〕⑴に対し
原告の主張は、巻取り式ワイヤ錠等以外の実施形態という特定の具体例が
20 発明の詳細な説明に記載されていないことを理由とするものであるところ、
特定の具体例が発明の詳細な説明に記載されていないことをもって、当然に、
サポート要件に違反するということはできない。
⑵ 〔原告の主張〕⑵に対し
原告の主張は、配送荷物収納体の内部と外部を連通するための開口部以外
25 の実施形態という特定の具体例が発明の詳細な説明に記載されていないこと
を理由とするものであるところ、特定の具体例が発明の詳細な説明に記載さ
れていないことをもって、当然に、サポート要件に違反するということはで
きない。
⑶ 〔原告の主張〕⑶に対し
原告の主張は、住人と配達業者との間で事前に鍵を持ち合う方式において、
5 鍵式の錠という特定の具体例が発明の詳細な説明に記載されていないことを
理由とするものであるところ、特定の具体例が発明の詳細な説明に記載され
ていないことをもって、当然に、サポート要件に違反するということはでき
ない。
⑷ 〔原告の主張〕⑷に対し
10 本件明細書等の段落【0005】及び【0006】の記載によれば、本件
発明1において、
「盗難を防止」することが直接の課題とされていないことは
明らかであるから、本件審決の判断に誤りはない。また、原告が指摘する本
件明細書等の各段落には、
「盗難を防止」することが本件発明1の課題である
とは記載されていない。
15 4 取消事由4(明確性要件に関する判断の誤り)について
〔原告の主張〕
以下のとおり、本件発明1は、明確性要件に適合しない。また、本件発明2
ないし7は、請求項1を引用し、本件発明1を発明特定事項に含むものである
から、同様に明確性要件に適合しない。
20 ⑴ 「伸縮部」について
前記3⑴で主張したとおり、本件発明1における「伸縮部」には本件明細
書等に開示されていない実施形態が含まれており、本件発明1の作用効果を
奏しない構成も含まれることになるから、「伸縮部」の記載は不明確である。
⑵ 「開口部」について
25 前記3⑵で主張したとおり、本件各発明における「開口部」は多義的に解
釈することができるから、「開口部」の記載は不明確である。
⑶ 「施錠体」について
前記3⑶で主張したとおり、本件発明1における「施錠体」は多義的に解
釈することができるから、「施錠体」の記載は不明確である。
⑷ 「接続体」について
5 以下のとおり、本件発明1における「接続体」の記載は不明確である。
ア 本件審決は、
「接続体」が「第1の接続部」及び「第2の接続部」の一対
の構成であることを前提に判断しているが、少なくとも本件発明1におい
ては、接続部が3か所以上に設けられている場合等、
「接続体」が一対の構
成ではない場合もあるから、
「接続体」の構成を多義的に解釈することが可
10 能であり、このような場合には、必ずしもドアの一部に接続されている部
位が「一方」で、配送荷物収納体に接続されている部位が「他方」である
と一義的かつ明確に理解できるものではない。
イ 本件審決は、
「接続体」に関し、本件各発明の伸縮部が配送荷物収納体を
「地面に設置できる程の長さにまで伸長可能であることは明らか」である
15 などと判断しているが、
「地面に設置できる程の長さ」との表現は極めて抽
象的である上、本件明細書等にもその具体的な長さに関する記載はないか
ら、技術常識を参酌したとしても、当業者がその長さの程度を理解するこ
とは困難である。
ウ 本件審決は、「地面」について、「多層階の建物における2階よりも上の
20 フロアに設置されたドアの場合には、
『地面』が当該フロアの床面を意味す
ることは明確」であるなどと判断しているが、一般に「地面」とは「大地
の表面」を意味する上、本件明細書等にも「地面」の具体的な定義に関す
る記載はないから、技術常識を参酌したとしても、当業者が「地面」の意
味内容について一義的かつ明確に理解することは困難である。
25 〔被告の主張〕
⑴ 〔原告の主張〕⑴ないし⑶に対し
原告の主張⑴ないし⑶は、本件審決の誤りを何ら指摘するものではない。
また、本件審決の判断に何らの誤りはない。
⑵ 〔原告の主張〕⑷に対し
ア 本件審決は、本件発明1の「第1の接続部」及び「第2の接続部」が一
5 対の構成であることを前提としていない。また、原告が主張する「3か所
以上に接続部が設けられている場合」であっても、
「第1の接続部」 「第
及び
2の接続部」の個数は限定されていないのであるから、
「一方」 「他方」
及び
の意義が不明確となるものではない。
イ 本件審決は、伸縮部が伸縮可能であることを理由として、地面とドアと
10 の距離に差異がある、すなわち、地面とドアとの距離がどの程度の長さか
が定まっていないとしても、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確
であるとはいえないと判断しているものであり、「地面に設置できる長さ」
がどの程度の長さであるかは、明確性において何ら問題とはならない。
ウ 本件発明1は、ドアの付近で用いられるものであり、
「地面」は、配送荷
15 物収納体が設置される場所の表面であることからすれば、多層階の建物に
おける2階より上のフロアにおいては、当該フロアの床面が「地面」を意
味することは明確である。
第4 当裁判所の判断
1 本件各発明について
20 ⑴ 特許請求の範囲
本件各発明の特許請求の範囲の記載は、前記第2の2のとおりである。
⑵ 本件明細書等の記載
本件明細書等には、次のとおりの記載がある(甲1の1。図1ないし8に
ついては、別紙本件明細書等図面目録記載のとおりである。 。
)
25 ア 技術分野
「本発明は、例えば、インターネットのオンラインショッピングにより
購入した商品の宅配荷物の受取りに用いられる収納装置に関するもので
ある。 (段落【0001】
」 )
イ 背景技術
「インターネットなどによるオンラインショッピングにより購入した
5 商品の荷物の宅配が増加する一方で、独身者や共働き世帯の増加により、
購入者が荷物の配送時に不在となっている。これにより、配送業者にとっ
ては、再配達のコストが問題となる。また、ユーザー(荷受人、購入者)
にとっては、荷物をなかなか受取ることができない、という問題が生じる。
配送業者、ユーザーの双方にとって、荷物の受け渡しを円滑に行うことが、
10 重要な課題となっている。 (段落【0002】
」 )
「かかる課題を解決するため、不在時の荷物の受取りを可能にするため
に、荷物の受取りに用いられる配送荷物保管装置が、自宅のドアのノブに
設置される等の形で利用されている。例えば、特許文献1(判決注:特開
2003‐189996号公報)に記載された配送荷物保管装置1は、配
15 送荷物の収納体である収納袋2と係留手段である係留体3とからなり、該
収納袋2の開口部の両周縁部に閉蓋部材2a、2bをそれぞれ設け、一方
の閉蓋部材2aの両端部に短い円筒状の係合筒体4aを固着すると共に
他方の閉蓋部材2bの両端部より内方位置に短い円筒状の係合筒体4b
を固着し、前記開口部を閉じたとき両閉蓋部材2a、2bが当接して左右
20 の隣り合う係合筒体4a、4b及び4a、4bの孔4cが一直線状となり、
これら係合筒体4a、4bに係留体3の第1係止手段の係止横杆5を挿通
すると共に第2係止手段6の湾曲部6aにおいてドアのノブに係止して
施錠する。 (段落【0003】
」 )
ウ 発明が解決しようとする課題
25 「しかし、特許文献1に記載された配送荷物保管装置は、収納体の容量
が小さいことから、収納できる配送荷物の大きさが大きく制限されること
や、配送荷物が収納されていない状態でも収納体の大きさが目立ち、見栄
えが良くなかった。また、特許文献1に記載された配送荷物保管装置は、
住人と配送業者との間で事前に鍵を持ち合う必要があった。 (段落【00
」
05】)
5 「このように従来の配送荷物保管装置は、使用者にとって利用性が良く
なかった。そこで、本発明は、使用者にとって利用性が高い配送荷物保管
装置を提供することにある。 (段落【0006】
」 )
エ 課題を解決するための手段
「かかる課題を解決すべく、第1の発明は、開口部と収納部を備えた配
10 送荷物収納体と、前記配送荷物収納体の開口部を施錠する施錠体と、前記
配送荷物収納体と固定された物体とを接続する接続体とを備えた配送荷
物保管装置であって、前記配送荷物収納体は、配送荷物を収納しない第1
の形態と、配送荷物を収納する第2の形態に変更することができ、第1の
形態より、第2の形態が大きいことを特徴とする配送荷物保管装置であ
15 る。 (段落【0007】
」 )
「前記第1の形態は配送荷物収納体を折り畳み固定した状態であり、前
記第2の形態は配送荷物収納体を広げた状態であることを特徴とするこ
とが好ましい。 (段落【0008】
」 )
「前記接続体は、前記物体と前記配送荷物収納体又は前記物体との距離
20 を伸縮可能とする伸縮部を備えることを特徴とすることが好ましい。 (段
」
落【0009】)
「前記接続体は、前記配送荷物収納体と接続する第1の接続部と、前記
物体と接続する第2の接続部を備え、前記第2の接続部に前記伸縮部を備
えることが好ましい。 (段落【0010】
」 )
25 「前記第2の接続部は、施錠することにより前記配送荷物収納体と接続
する施錠部を備えることを特徴とすることが好ましい。(段落
」 【0011】)
「前記物体は、住宅や事業所等のドアの一部であることが好ましい。」
(段落【0012】)
「前記施錠体は、電子錠としてもよい。 (段落【0013】
」 )
「かかる課題を解決すべく、第2の発明は、上記の配送荷物保管装置を
5 使用する方法であって、配送荷物の荷受人が、前記配送荷物収納体が前記
第1の形態で前記接続体を前記物体の一部に吊り下げて接続する第1の
ステップと、配送荷物の配送人が、前記配送荷物収納体を前記第2の形態
に変更し、配送荷物を前記配送荷物収納体の収納部に収納した上で、前記
施錠体を施錠する第2のステップと、配送荷物の荷受人が、前記施錠体を
10 開錠し、前記配送荷物収納体の収納部に収納された配送荷物を取り出す第
3のステップとを備える配送荷物保管装置を使用する方法である。 (段落
」
【0014】)
「かかる課題を解決すべく、第3の発明は、上記配送荷物保管装置を使
用する方法であって、配送荷物の荷受人が、前記配送荷物収納体を前記第
15 1の形態で前記接続体を前記物体に吊り下げて接続する第1のステップ
と、配送荷物の配送人が、前記配送荷物収納体を地面に設置できる長さに
前記伸縮部を伸長すること及び前記配送荷物収納体を前記第2の形態に
変更することをした上で、配送荷物を前記配送荷物収納体の収納部に収納
し前記施錠体を施錠する第2のステップと、配送荷物の荷受人が、前記施
20 錠体を開錠し、前記配送荷物収納体に収納された配送荷物を取り出す第3
のステップとを備える配送荷物保管装置を使用する方法である。 (段落
」
【0015】)
「かかる課題を解決すべく、第4の発明は、配送荷物の荷送人が、前記
配送荷物収納体が前記第2の形態で配送荷物を前記収納部に収納した上
25 で前記施錠体を施錠すること及び前記接続体を前記物体の一部に吊り下
げて接続することを行う第1のステップと、配送荷物の配送人が、前記施
錠体を開錠し、前記配送荷物収納体に収納された配送荷物を取り出した上
で、前記配送荷物収納体を前記第1の形態に変更する第2のステップとを
備える配送荷物保管装置を使用する方法である。 (段落【0016】
」 )
オ 発明の効果
5 「本発明の配送荷物保管装置は、配送荷物を収納している状態と配送荷
物を収納していない状態において形態を変更できることから、配送荷物を
収納しない場合には、コンパクトな大きさで見栄えが良く、配送荷物を収
納する場合は、大きな配送荷物も収納することが可能となり、利用性がよ
い。 (段落【0017】
」 )
10 「また、接続体が伸縮部を備えることから、配送荷物を収納しない状態
では、配送荷物保管装置をドア等に接続した状態でも目立たず、配送荷物
を収納した状態では、配送荷物収納体を地面に置くことができる点で、重
い配送荷物も受け取ることができ、利用性がよい。 (段落【0018】
」 )
「本発明の配送荷物保管装置の使用方法では、必ずしも、事前に、荷受
15 人と配送業者との間で鍵を持ち合う必要もないため、利用性がよい。 (段
」
落【0019】)
カ 図面の簡単な説明
「【図1】配送荷物収納体の第1の形態を示す図面である。
【図2】配送荷物収納体の第2の形態を示す図面である。
20 【図3】施錠体2の一例を示す図面である。
【図4】接続体3の一例を示す図面である。
【図5】配送荷物を収納していない配送荷物保管装置の使用状態を示す図
面である。
【図6】配送荷物を収納した配送荷物保管装置の使用状態を示す図面であ
25 る。
【図7】荷受人が、配送荷物保管装置を用いて、配送荷物を受け取る際の
方法を示すフローチャートの図面である。
【図8】荷受人が、配送荷物保管装置を用いて、配送荷物を発送する際の
方法を示すフローチャートの図面である。 (段落【0020】
」 )
キ 発明を実施するための形態
5 「図1及び図2は、本実施形態に係る配送荷物保管装置に用いる配送荷
物収納体1の一例を示す図面である。図1は、配送荷物収納体1の第1の
形態の一例を示す図であり、第1の形態は、配送荷物収納体1に配送荷物
を収納しない状態で用いることを想定した形態である。図2は、配送荷物
収納体1の第2の形態の一例を示す図であり、第2の形態は、配送荷物収
10 納体1に配送荷物を収納した状態で用いることを想定した形態である。」
(段落【0021】)
「配送荷物収納体1は、折り畳むことが可能である。配送荷物収納体1
を折り畳んだ状態にすることにより、配送荷物を収納しない場合に、配送
荷物収納体1をコンパクトな大きさにすることができ、自宅の前に設置し
15 た際に、目立たないことから、見栄え良く、使用することができる。 (段
」
落【0022】)
「配送荷物収納体1は、配送荷物を収納するための開口部11、配送荷
物を収納するための収納部12、接続体3と接続するための接続部13、
配送荷物収納体1を折り畳んだ状態に保持するための固定部14、荷受人
20 が配送荷物収納体1を持ち運ぶ際に保持するための保持部15を備える。」
(段落【0023】)
「また、配送荷物収納体1は、荷物を収納した場合、荷物の盗難等を防
止する目的で、開口部11を施錠可能とするために、図示されていない、
施錠体2を取り付けるための施錠体取付部を備える。本実施形態において、
25 施錠体取付部は、開口部11に備えられた両開きのファスナーの2つのス
ライダーのそれぞれに備わったホールであり、当該ホールのそれぞれに、
施錠体2の掛金部21を通し、施錠体2を施錠することにより、開口部1
1を施錠することができる。接続部13は、接続体3の第1の接続部13
を通すためのホールを備える。 (段落【0024】
」 )
「図3は、配送荷物収納体1の開口部11を施錠するための施錠体2の
5 一例を示す図面である。本実施形態において、施錠体2は、いわゆる南京
錠であり、掛金部21と本体部22とを備え、掛金部21の一方が本体2
2と離れてスライドしたり回転したりする。南京錠には、正しい鍵を用い
て施錠及び開錠するタイプの鍵型と、正しい数字や文字等を組み合わせた
場合に開錠するタイプのダイヤル錠型のものがあるが、本実施例では、鍵
10 型を用いて説明する。施錠体2を、開錠する場合、正しい鍵又は正しい数
字や文字等が必要となるが、施錠する場合は、鍵等が必要とならないタイ
プを用いれば、配送業者が配送荷物を配送荷物収納体1に収納した後、鍵
等がなくても施錠体2を施錠することができ、荷受人と配送業者の間で鍵
を持ち合わなくてもよい。 (段落【0025】
」 )
15 「図4は、配送荷物収納体1と物体を接続するための接続体3の一例を
示す図である。接続体3は、配送荷物収納体1と接続体3を接続するため
の第1の接続部31と、固定された物体と接続体3を接続するための第2
の接続部32と、第1の接続部31を施錠するための施錠部33とを備え
る。 (段落【0026】
」 )
20 「第2の接続部32は、配送荷物が配送荷物保管装置4と共に盗難され
ることを防止するために、接続体3を固定された物体と接続する。固定さ
れた物体は、例えば、住宅のドアの取っ手、住宅のドアのノブ、住宅のド
アの蝶番、住宅のポストの支柱等が考えられるが、これらに限定されない。」
(段落【0027】)
25 「第1の接続部31は、金属製のワイヤーであり、ワイヤーを配送荷物
収納体1の接続部13のホールに通し、施錠部33を施錠することにより、
荷受人以外の者が配送荷物収納体1を接続体3から取り外せないように
し、配送荷物収納体1の盗難を防止することができる。本実施形態におい
ては、接続体3を簡易に、配送荷物収納体1に固定可能とするために、施
錠部33により施錠する構造としたが、荷受人以外の者が配送荷物収納体
5 1を接続体3から取り外せない構造であれば、いかなる構造としてもよい。
例えば、第1の接続部31に、第2の接続部32が備えるホール部35と
同様のホール部を設け、配送荷物収納体1の接続部13のホールに、当該
ホール部を通し、当該ホール部に本体部36を通すことによって、接続体
3と第1の接続部31を接続してもよい。この場合、施錠部33は不要と
10 なる。 (段落【0028】
」 )
「第2の接続部32は、金属製のワイヤーであり、固定された物体と配
送荷物収納体1との距離を伸縮可能とするために、長さを伸縮可能な伸縮
部34を備える。配送荷物収納体1に配送荷物を収納していない場合、伸
縮部34を短縮した状態にすることにより、配送荷物保管装置4をコンパ
15 クトな大きさにすることができ、自宅の前に設置した際に、目立たないこ
とから、見栄え良く、使用することができる。配送荷物収納体1に配送荷
物を収納していない場合、伸縮部34を伸長した状態にすることにより、
配送荷物収納体1を地面に置くことができ、重い配送荷物を収納する場合
に、配送荷物収納体1や住宅のドアの取っ手等を変形等させないで使用す
20 ることができる。伸縮部34は、少なくとも、第2の接続部32を住宅の
ドアの取っ手に固定した場合に、配送荷物収納体1を地面に置ける長さ、
つまり、少なくとも、一般的な住宅のドアと地面の距離の長さに伸長でき
る。伸縮部34は、いかなる構造によって伸縮をしてもよい。例えば、ワ
イヤーを巻き尺(メジャー)に用いられているぜんまいバネを用いて巻き
25 取る構造としてもよい。また、例えば、ゴム等の伸縮性のある材料を用い
て伸縮させてもよいが、外力により破断しない材料である必要がある。」
(段落【0029】)
「第2の接続部32は、配送荷物収納体1の盗難を防止し得る構造であ
れば、いかなる構造によって、固定された物体と接続することとしてもよ
い。本実施形態では、ドアの取っ手に、第2の接続部32が備えるホール
5 部35を通し、ホール部35に本体部36を通すことによって、接続体3
とドアの取っ手を接続するものであるが、鍵等を用いて接続体3とドアの
取っ手を接続してもよい。 (段落【0030】
」 )
「本実施形態においては、第2の接続部32に、伸縮部34を設け、第
2の接続部32を伸縮可能としたが、伸縮部34は、接続体3の一部又は
10 接続体3と配送荷物収納体1若しくは固定された物体との間に介在する
部材が伸縮することとしてもよい。接続体3の一部が伸縮する場合として、
例えば、第1の接続部31を、ワイヤーを巻き尺(メジャー)に用いられ
ているぜんまいバネを用いて巻き取る構造として、伸縮させることとして
もよい。ただし、第1の接続部31を伸縮させるよりも、第2の接続部3
15 2を伸縮させた方が、伸長させた場合に、接続体3が配送荷物収納体1側
に近接し、固定された物体の回りの見栄えが良くなり、利用性に優れる。
接続体3と配送荷物収納体1との間に介在する部材が伸縮する場合とし
て、例えば、第1の接続部31と配送荷物収納体1との間に伸縮性があり、
かつ、外力により破断しない部材を介在させてもよい。」
(段落【0031】)
20 「図5は、配送荷物を収納していない配送荷物保管装置4の使用状態を
示す図面である。接続体3の第1の接続部31を配送荷物収納体1の接続
部13のホールに通し、施錠部33で施錠することにより、配送荷物収納
体1の盗難を防止する。また、ドアの取っ手のホール5に、接続体3の第
2の接続部32が供えるホール部35を通し、ホール部35に本体部36
25 を通すことによって、接続体3とドアの取っ手5を接続し、配送荷物保管
装置4の盗難を防止する。配送荷物収納体1は、折り畳まれた状態であり、
接続体3の伸縮部34は短縮した状態であることから、配送荷物保管装置
4はコンパクトな大きさであり、配送荷物保管装置4をドアに接続した状
態でも目立たず、利用性がよい。 (段落【0032】
」 )
「図5において、施錠体2は、配送荷物収納体1のファスナーのスライ
5 ダーに、施錠されずに、取り付けられているが、配送荷物収納体1の内部
又は配送荷物収納体1と近接した位置に、開錠された状態で設置されてい
れば、いかなる態様で、設置されていてもよい。 (段落【0033】
」 )
「図6は、配送荷物を収納した配送荷物保管装置4の使用状態を示す図
面である。配送荷物収納体1の収納部12には、荷物が収納されている。
10 配送荷物収納体1の開口部11に備えられた両開きのファスナーの2つ
のスライダーのそれぞれのホールには、施錠体2の掛金部21が通された
状態で、施錠体2が施錠されていることから、配送荷物を配送荷物収納体
1から取り出すことができないため、配送荷物の盗難を防止することがで
きる。 (段落【0034】
」 )
15 「配送荷物収納体1は地面に設置されており、接続体3の伸縮部34は、
配送荷物収納体1を地面に置くことができる長さに伸長されている。 (段
」
落【0035】)
「図7は、荷受人が、配送荷物保管装置4を用いて、配送荷物を受け取
る際の方法を示すフローチャートである。 (段落【0036】
」 )
20 「S11において、荷受人は、配送荷物収納体1を折り畳んだ状態、施
錠体2を開錠した状態及び接続体3の伸縮部34を短縮した状態で、配送
荷物保管装置4を、ドアの取っ手に接続し備え付ける。荷受人は、配送荷
物保管装置4を備え付けた状態で、外出等することができる。S11が完
了すると、図5の状態となる。 (段落【0037】
」 )
25 「S12、S13において、荷受人が、配送荷物保管装置4を、上記の
状態で備え付けることにより、配送荷物の配送業者は、伸縮部34を伸長
した後、配送荷物収納体1を広げて収納部12に配送荷物を収納し、配送
荷物収納体1を地面に置き、施錠体2を施錠する。施錠体2を施錠する時
に、正しい鍵や正しい数字や文字は必要とならないことから、荷受人は、
配送業者と鍵を持ち合う必要や、数字や文字を共有する必要がない。 (段
」
5 落【0038】)
「配送荷物の配送業者が、伸縮部34を伸長するタイミングは、いずれ
のタイミングでもよく、上記のとおりS12をS13の先にしてもよいし、
S13をS12の先にすることしてもよい。また、配送荷物収納体1を広
げた後で、伸縮部34を伸長し、その後、収納部12に配送荷物を収納し、
10 施錠体2を施錠させてもよい。また、配送荷物が軽量である場合は、必ず
しも、伸縮部34を伸長させる必要はないことから、S12を省略するこ
とも可能である。 (段落【0039】
」 )
「配送荷物の配送業者は、配送荷物保管装置4の使用方法を理解してい
ることが前提であることから、荷受人が、配送荷物保管装置4をドアの取
15 っ手等に備え付けることにより、配送荷物の配送業者に、S12及びS1
3を実行させることが可能である。 (段落【0040】
」 )
「S12及びS13が完了すると、図6の状態となる。 (段落【004
」
1】)
「S14において、荷受人は、施錠体2を開錠し、配送荷物を配送荷物
20 収納体1から取り出す。 (段落【0042】
」 )
「本実施形態においては、住宅のドア等に、配送荷物保管装置4を設置
することとし、住宅の住人を荷受人であることを前提に説明をしたが、小
規模の事業所のドア等に、配送荷物保管装置4を設置し、従業者等を荷受
人として、配送荷物保管装置4を利用してもよい。また、荷受人は、単数
25 に限られず、住宅の住人の場合、家族のような集団を含み、事業所の場合、
同一事業所で働く複数の従業員を含む。 (段落【0043】
」 )
「(変形実施例1)
本実施形態において、配送荷物収納体1は、折り畳み構造とすることに
より、第1の形態と第2の形態の間で形態を変更できることとしたが、第
2の形態より、第1の形態の容積を小さくできる構造であれば、いかなる
5 構造でもよい。例えば、配送荷物収納体1の収納部12を伸縮性のある素
材とし、第1の形態においては縮小した状態であり、収納荷物を収納した
場合は、収納部12の大きさが収納荷物と同程度の大きさに伸長すること
としてもよい。 (段落【0044】
」 )
「(変形実施例2)
10 本実施形態において、配送荷物収納体1と施錠体2とは、独立している
が、配送荷物収納体1と施錠体2とを一体としてもよい。すなわち、配送
荷物収納体1の開口部11を施錠することができれば、施錠体2は、配送
荷物収納体1の一部であってもよい。 (段落【0045】
」 )
「(変形実施例3)
15 本実施形態では、配送荷物収納体1と接続体3とを第1の接続部で接続
し、施錠部33で施錠する構造としており、利用性の観点から、施錠部3
3を開錠すれば、配送荷物収納体1と接続体3とは、取り外し可能な構成
としたが、配送荷物収納体1と接続体3とを一体の構成とし取り外し不可
能としてもよい。 (段落【0046】
」 )
20 「(変形実施例4)
本実施形態では、施錠体2は、いわゆる南京錠であり、鍵又はダイアル
により開錠することとしていたが、電気で開閉操作を行う電子錠を用いる
こととしてもよい。電子錠にもさまざまなタイプがあるが、例えば、テン
キーから、予め指定された開錠番号を入力する暗証番号型を用いることや、
25 RFIDを用いて開錠するRFID型を用いることとしてもよい。電子錠
を用いた場合、荷受人と配送業者の間で、鍵を容易に共有することができ
るため、鍵を共有する方法としても、利用性が失われない。電子錠を用い
た場合、配送業者と容易に鍵を共有できることから、配送荷物保管装置4
を、荷物の受取りだけでなく、荷物の発送に用いる場合にも、配送荷物の
盗難を防止することができる。 (段落【0047】
」 )
5 「図8は、施錠体2に電子錠を用いた場合に、荷送人が配送荷物を発送
するときのフローチャートを示す図面である。 (段落【0048】
」 )
「S21において、荷送人は、配送荷物収納体1を広げ、配送荷物を収
納し、施錠体2を施錠する。また、接続体3の伸縮部34を伸長し、配送
荷物収納体1を地面に設置する。この場合、図6の状態となる。また、配
10 送荷物が軽量である場合は、必ずしも、伸縮部34を伸長させる必要はな
い。 (段落【0049】
」 )
「S22において、配送業者は、施錠体2を開錠し、配送荷物を取出し、
配送荷物収納体1を折り畳む。 (段落【0050】
」 )
「S23において、配送業者は、伸縮部34を短縮する。なお、S23
15 は、S22の前に行ってもよく、S22の途中で行ってもよい。(段落
」 【0
051】)
「S22及びS23が完了すると、図5の状態となる。なお、この場合、
施錠体2は開錠された状態でも施錠された状態であってもいずれでもよ
い。 (段落【0052】
」 )
20 「(変形実施例5)
本実施形態において、荷受人が住宅のドアに配送荷物保管装置4を設置
する使用方法を説明したが、マンション等の集合住宅の場合、マンション
の管理者が、マンションの共有部に、配送荷物保管装置4を配置しておき、
配送業者が、マンションに設置された宅配ロッカーが荷物で満室で使用で
25 きなかった場合等に、配置された配送荷物保管装置4を用いて、住宅のド
ア等に配送荷物保管装置4を設置し、配送荷物を住宅の前まで配送するこ
ととしてもよい。この場合、図7のS11乃至S13を配送業者が行うこ
ととなる。 (段落【0053】
」 )
⑶ 本件各発明の技術的意義
上記⑴及び⑵によれば、本件各発明の技術的意義は、次のとおりであると
5 認められる。
ア 本件各発明は、宅配荷物の受取りに用いられる収納装置に関する発明で
ある。(段落【0001】)
イ 以前から、荷受人等が不在であっても荷物の受取を可能とするために、
自宅のドアノブに設置する配送荷物保管装置が存在したが、収納体の容量
10 が小さいために配送荷物の大きさが制限されたり、配送荷物が収納されて
いない状態であっても収納体の大きさが目立ち、見栄えが良くなかったり、
住人と配送業者との間で事前に鍵を持ち合う必要があったりした。(段落
【0002】 【0003】及び【0005】
、 )
ウ 本件各発明は、上記の課題を解決するために、各請求項に記載された構
15 成を採ることにより、使用者にとって利用性が高い配送荷物保管装置を提
供することを目的とする。(段落【0006】ないし【0016】)
エ 本件各発明の配送荷物保管装置は、配送荷物を収納している状態と配送
荷物を収納していない状態とに形態を変更することができる。このため、
配送荷物を収納していない状態においては、コンパクトな大きさで見栄え
20 が良い上、ドア等に接続した状態であっても目立たない。また、配送荷物
を収納した状態においては、大きな配送荷物も収納することが可能である
上、配送荷物収納体を地面に置くことができ、重い配送荷物も受け取るこ
とができる。このように、本件各発明の構成を採ることにより、配送荷物
保管装置としての利用性が良くなるという効果を奏する。
25 さらに、本件各発明の使用方法によれば、必ずしも、事前に荷受人と配
送業者との間で鍵を持ち合う必要がないため、配送荷物保管装置としての
利用性が良くなるという効果を奏する。
(段落【0017】ないし【001
9】)
2 取消事由4(明確性要件に関する判断の誤り)について
⑴ 判断基準
5 特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載
だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業
者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第
三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断
するのが相当である。
10 ⑵ 検討
以下、原告が特許請求の範囲の記載が不明確であると主張する点について
検討する。
ア 「伸縮部」(前記第3の4〔原告の主張〕⑴)について
(ア) 原告は、本件発明1における「伸縮部」には本件明細書等に開示され
15 ていない実施形態が含まれており、本件発明1の作用効果を奏しない構
成も含まれることになるから、
「伸縮部」の記載は不明確である旨主張す
る。
(イ) そこで検討するに、本件発明1の特許請求の範囲には、
「前記ドアの一
部と前記配送荷物収納体との距離を伸縮可能とする伸縮部」と記載され
20 ているところ、一般的な用語の意味からすれば、本件発明1における「伸
縮部」とは、ドアの一部と配送荷物収納体との距離を伸び縮みさせるこ
とができる部分を意味することは明らかである。
そして、上記の特許請求の範囲の記載においては、
「伸縮部」の具体的
構成が特定されておらず、本件明細書等の段落【0029】には、
「伸縮
25 部」はいかなる構造によって伸縮をしてもよい旨が記載されていること
からすれば、本件発明1における「伸縮部」は、様々な構成を包含する
ものではあるものの、当業者であれば、ドアの一部と配送荷物収納体と
の距離を伸び縮みさせることができる部材や構造であれば、適宜のもの
を選択して用いることができると理解するものといえる。
以上によれば、本件発明1における「伸縮部」との文言が、第三者に
5 不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるということはできない。
(ウ) したがって、原告の上記主張は採用することができない。
イ 「開口部」(同〔原告の主張〕⑵)について
(ア) 原告は、本件各発明の課題には住人と配当業者との間における鍵の持
ち合いが含まれ、この課題に着目した当業者は、本件発明1における「開
10 口部」について、配送荷物収納体の内部と外部とを連通するための開口
部という解釈のほかにも、配送荷物収納体の側面等に形成され、ダイヤ
ル式施錠体を開錠するための番号を記載したメモを収納するための開口
部という解釈をすることもでき、上記「開口部」の記載は多義的に解釈
することが可能であるから、不明確である旨主張する。
15 (イ) そこで検討するに、本件各発明は、配送荷物を収納するための配送荷
物収納体であり、配送荷物を出し入れする部分が必須の構成となるとこ
ろ、本件発明1の特許請求の範囲には、
「開口部と収納部を備えた配送荷
物収納体」と記載されており、一般に、
「開口部」とは、外に向かって穴
が開いている部分を意味することからすれば、本件発明1における「収
20 納部」とは、配送荷物を収納するための部分を意味するものであり、
「開
口部」とは、この「収納部」に配送荷物を出し入れするために開けられ
ている部分を意味することは明らかである。
なお、本件発明1の特許請求の範囲には、「開口部を施錠する施錠体」
と記載されていることからすれば、当業者が、かかる「開口部」につい
25 て、配送荷物収納体の側面等に形成され、ダイヤル式施錠体を開錠する
ための番号を記載したメモを収納するための開口部を意味するものと解
釈するとは考え難いというべきである。
以上によれば、本件発明1における「開口部」との文言が、第三者に
不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるということはできない。
(ウ) したがって、原告の上記主張は採用することができない。
5 ウ 「施錠体」(同〔原告の主張〕⑶)について
(ア) 原告は、本件発明1における「施錠体」について、鍵やダイヤル式の
南京錠及び電子錠等、多義的な解釈が可能であるから、不明確である旨
主張する。
(イ) そこで検討するに、一般に、
「施錠体」とは、錠に鍵をかけるための物
10 を意味するといえるところ、本件発明1の特許請求の範囲には、
「前記配
送荷物収納体の開口部を施錠する施錠体」と記載されていることからす
れば、本件発明1における「施錠体」とは、配送荷物収納体の開口部を
閉じる錠に鍵をかけるための物を意味することは明らかである。
そして、上記の特許請求の範囲の記載においては、
「施錠体」の具体的
15 構成が特定されておらず、本件明細書等においても、施錠体の種類を限
定する記載はないことからすれば、本件発明1における「施錠体」は、
様々な構成を包含するものではあるものの、当業者であれば、開口部を
施錠することができる部材や構造であれば、適宜のものを選択して用い
ることができると理解するものといえる。
20 以上によれば、本件発明1における「施錠体」との文言が、第三者に
不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるということはできない。
(ウ) したがって、原告の上記主張は採用することができない。
エ 「接続体」(同〔原告の主張〕⑷)について
(ア) 本件発明1の特許請求の範囲には、「前記配送荷物収納体とドアの一
25 部とを接続する接続体」と記載されているところ、一般に、
「接続」とは
二つ以上のものをつなぐことを意味することからすれば、本件発明1に
おける「接続体」とは、ドアの一部と配送荷物収納体とをつなぐ部材や
構造を意味することは明らかである。また、本件発明1の特許請求の範
囲には、
「前記接続体は、前記ドアの一部と前記配送荷物収納体との距離
を伸縮可能とする伸縮部を備え」と記載されていることからすれば、
「接
5 続体」は、上記アで検討した「伸縮部」を備えるものであることも明ら
かである。
そして、上記の特許請求の範囲の記載においては、
「伸縮部」を備える
ものであること以外には、「接続体」の具体的構成が特定されておらず、
本件明細書等においても、接続体の種類を限定する記載はないことから
10 すれば、本件発明1における「接続体」は、様々な構成を包含するもの
ではあるものの、当業者であれば、配送荷物収納体とドアの一部とを接
続することができ、伸縮部を備えた部材や構造であれば、適宜のものを
選択して用いることができると理解するものといえる。また、当業者が、
伸縮部の構成について、適宜のものを選択して用いることができると理
15 解するものといえることは、上記アで検討したとおりである。
以上によれば、本件発明1における「接続体」との文言が、第三者に
不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるということはできない。
(イ) 上記に関し原告は、「接続体」が一対の構成ではない場合もあるから、
「接続体」の構成を多義的に解釈することが可能であり、このような場
20 合には、必ずしもドアの一部に接続されている部位が「一方」で、配送
荷物収納体に接続されている部位が「他方」であると一義的かつ明確に
理解できるものではない旨主張する。
しかしながら、上記のとおりの本件発明1の特許請求の範囲の記載か
らすれば、
「接続体」について、ドアの一部に接続される側を「一方」と
25 し、配送荷物収納体に接続される側を「他方」としていることは明らか
であり、当業者がその意味内容を理解することができないとは考え難く、
このことは、3か所以上に接続部が設けられる場合であっても同様であ
るから、本件発明1の特許請求の範囲における「一方」及び「他方」と
の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるというこ
とはできない。
5 したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(ウ) また、原告は、本件発明1の特許請求の範囲における「地面に設置で
きる長さ」との記載は不明確である旨主張する。
しかしながら、本件各発明は、配送荷物を収納するための配送荷物収
納体であるところ、
「接続体」の一方が接続されるドアは、人が使用する
10 ドアであり、その大きさは一定の範囲に収まるものであることは明らか
である。そうすると、
「接続体」がドアに接続される位置及びその位置か
ら配送荷物収納体が置かれる地面までの距離についても、一定の範囲に
収まることは明らかであるから、本件発明1の特許請求の範囲における
「地面に設置できる長さ」との記載が、第三者に不測の不利益を及ぼす
15 ほどに不明確であるということはできない。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(エ) さらに、原告は、一般に「地面」とは「大地の表面」を意味する上、
本件明細書等にも「地面」の具体的な定義に関する記載はないから、
「地
面」の意味内容について一義的かつ明確に理解することは困難である旨
20 主張する。
しかしながら、一般に、
「地面」とは、大地の表面のみならず、場所の
表面を意味することもあるといえるところ、本件発明1は、建物のドア
の一部と接続した配送荷物収納体をドア付近の「地面」に設置するもの
であることからすれば、本件発明1の配送荷物保管装置を多層階住宅の
25 2階以上に所在する部屋のドアに接続して使用する場合における「地面」
とは、当該ドア周辺の床面を意味することは明らかである。そうすると、
本件発明1における「地面」との記載が、第三者に不測の不利益を及ぼ
すほどに不明確であるということはできない。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
⑶ 小括
5 以上によれば、本件各発明は、明確性要件に反するものとはいえず、本件
審決の判断に誤りはないから、取消事由4は理由がない。
3 取消事由3(サポート要件に関する判断の誤り)について
⑴ 判断基準
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特
10 許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲
に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な
説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲の
ものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術
常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか
15 否かを検討して判断するのが相当である。
⑵ 本件各発明が解決しようとする課題
前記1⑶のとおり、本件各発明が解決しようとする課題は、従来の配送荷
物保管装置においては、収納することができる配送荷物の大きさに制限があ
ったこと、配送荷物が収納されていない状態における収納体の大きさが目立
20 ち、見栄えが良くなかったこと、住人と配送業者との間において鍵を持ち合
う必要があったことから、これらの課題を解決し、使用者にとって利用性が
高い配送荷物保管装置を提供することにある。
⑶ 検討
以下、原告がサポート要件違反を主張する各点について検討する。
25 ア 「伸縮部」(前記第3の3〔原告の主張〕⑴)について
(ア) 本件発明1は、「ドアの一部と前記配送荷物収納体との距離を伸縮可
能とする伸縮部」を備えるものであるところ、前記2⑵アで検討したと
おり、本件発明1における「伸縮部」は、様々な構成を包含するもので
はあるものの、当業者であれば、ドアの一部と配送荷物収納体との距離
を伸び縮みさせることができる部材や構造であれば、適宜のものを選択
5 して用いることができると理解するものといえる。
そして、本件明細書等には、ドアの一部と配送荷物収納体との距離を
伸縮可能とするために、長さを伸縮することが可能な伸縮部を備えた接
続体が記載されている(段落【0007】 【0009】 【0012】及
、 、
び【0026】ないし【0028】)ほか、接続体が伸縮部を備えること
10 により、配送荷物を収納しない状態では配送荷物保管装置が目立たず、
配送荷物を収納した状態では重い荷物も受け取ることができ、利用性が
よい旨が記載されている(段落【0018】及び【0029】 。
)
そうすると、当業者は、上記の各記載から、
「伸縮部」について、ドア
の一部と配送荷物収納体との距離を伸び縮みさせることができる部材や
15 構造であれば、上記⑵の本件各発明の課題を解決できると認識できるも
のといえる。
(イ) 原告は、本件発明1における「伸縮部」にはあらゆる構成が含まれる
にもかかわらず、本件明細書等には、図4の巻取り式ワイヤ錠及び段落
【0029】に記載された構造以外の実施形態については何らサポート
20 されていない旨主張する。
しかしながら、特定の具体例が発明の詳細な説明に記載されていない
ことをもって当然にサポート要件に反するとされるものではないという
べきであるところ、本件明細書等の段落【0029】には、接続体の具
体例が挙げられており、上記のとおりの他の記載も併せ考慮すれば、当
25 業者は、
「伸縮部」について、本件各発明の課題を解決できると認識でき
るというべきである。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
イ 「開口部」(同〔原告の主張〕⑵)について
(ア) 本件発明1は、
「開口部と収納部を備えた配送荷物収納体」であるとこ
ろ、前記2⑵イで検討したとおり、当業者は、本件発明1における「開
5 口部」とは、配送荷物を収納するための部分である「収納部」に配送荷
物を出し入れするために開けられている部分を意味すると理解するもの
といえる。
そして、本件明細書等には、配送荷物を出し入れするための開口部が
記載されている(段落【0007】及び【0023】)ほか、このような
10 開口部を備える本件各発明の配送荷物収納体は、配送荷物を収納しない
場合には折り畳んだ状態にすることにより、目立たず、見栄え良く使用
することができる旨が記載されている(段落【0021】及び【002
2】 。
)
そうすると、当業者は、上記の各記載から、
「開口部」について、配送
15 荷物収納体への荷物の出し入れが可能であれば、上記⑵の本件各発明の
課題を解決できると認識できるものといえる。
(イ) 原告は、本件各発明の課題には、住人と配当業者との間における鍵の
持ち合いが含まれることからすれば、本件発明1における「開口部」は
多義的に解釈することができる旨主張する。
20 しかしながら、前記2⑵イで検討したとおり、本件発明1における「開
口部」について、原告が主張するような解釈を採ることはできないとい
うべきである。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
ウ 「施錠体」(同〔原告の主張〕⑶)について
25 (ア) 本件発明1は、
「配送荷物収納体の開口部を施錠する施錠体」を備える
ものであるところ、前記2⑵ウで検討したとおり、当業者は、本件発明
1における「施錠体」とは、配送荷物収納体の開口部を閉じる錠に鍵を
かけるための物を意味すると理解するものといえる。
そして、本件明細書等には、配送荷物収納体の開口部に備えられた両
開きのファスナーを施錠することができる施錠体が記載され(段落【0
5 024】及び【0034】 、施錠体の具体例として、鍵又はダイヤル式
)
の南京錠及び電子錠が記載されている(段落【0025】及び【004
7】 ほか、
) 鍵等が必要とならないタイプの施錠体を用いれば荷受人と配
送業者との間で鍵を持ち合わなくてもよく、また、電子錠を用いれば鍵
を容易に共有することができる旨が記載されている(段落【0025】
10 及び【0038】 。
)
そうすると、当業者は、上記の各記載から、
「施錠体」について、開口
部を施錠することができるものであれば、上記⑵の本件各発明の課題を
解決できると認識できるものといえる。
(イ) 原告は、本件各発明の課題には住人と配達業者との間における鍵の持
15 ち合いが含まれるから、当業者は、本件発明1の施錠体について、鍵を
用いないダイヤル式錠又は電子錠のみにより課題を解決することがで
きると認識するが、本件明細書等には、住人と配達業者との間で事前に
鍵を持ち合う鍵式の錠について記載されていない旨主張する。
しかしながら、本件明細書等には、発明の効果に関して「本発明の配
20 送荷物保管装置の使用方法では、必ずしも、事前に、荷受人と配送業者
との間で鍵を持ち合う必要もない」(段落【0019】)と記載されてい
る上、実施例に関する記載においても、
「施錠する場合は、鍵等が必要と
ならないタイプを用いれば、
・・・荷受人と配送業者の間で鍵を持ち合わ
なくてもよい。 (段落【0025】
」 )と記載されていることからすれば、
25 本件各発明においては、事前に荷受人と配送業者との間で鍵を持ち合う
態様が排除されているものではなく、鍵の持ち合いの点で利用性を向上
させることは付加的な効果にとどまるものといえる。
そうすると、当業者は、
「施錠体」について、鍵を用いないダイヤル式
錠又は電子錠を用いなければ課題を解決することができないと認識する
ものではないというべきである。
5 したがって、原告の上記主張は採用することができない。
エ 「接続体」(同〔原告の主張〕⑷)について
(ア) 本件発明1は、「前記配送荷物収納体とドアの一部とを接続する接続
体」を備えるものであり、また、
「前記接続体は、前記ドアの一部と前記
配送荷物収納体との距離を伸縮可能とする伸縮部を備え」るとされてい
10 るところ、前記2⑵エで検討したとおり、当業者は、本件発明1におけ
る「接続体」とは、ドアの一部と配送荷物収納体とをつなぐ部材や構造
を意味し、また、
「伸縮部」を備えたものであると理解するものといえる。
そして、本件明細書等には、配送荷物収納体と接続体を接続するため
の第1の接続部と、固定された物体と接続体を接続するための第2の接
15 続部とを備えた接続体が記載されている(段落【0026】)ほか、上記
アで検討したとおり、ドアの一部と配送荷物収納体との距離を伸縮可能
とするために、長さを伸縮することが可能な伸縮部を備えた接続体が記
載され、また、接続体が伸縮部を備えることにより、配送荷物を収納し
ない状態では配送荷物保管装置が目立たず、配送荷物を収納した状態で
20 は重い荷物も受け取ることができ、利用性がよい旨が記載されている。
そうすると、当業者は、上記の各記載から、
「接続体」について、上記
の伸縮部を備え、ドアの一部と配送荷物収納体とをつなぐ部材や構造で
あれば、上記⑵の本件各発明の課題を解決できると認識できるものとい
える。
25 (イ) 原告は、本件各発明が「盗難の防止」を目的とすることは明らかであ
るところ、本件各発明における「接続体」について、ドアの一部に対し
て「配送物保管装置4の盗難を防止」できる構造以外の構造が記載され
ていない旨主張する。
しかしながら、本件各発明の課題は、上記⑵のとおりであって、原告
が指摘する本件明細書等の記載を考慮しても、本件各発明の課題に「盗
5 難の防止」が含まれるものとはいえない。また、本件各発明の配送荷物
収納体は配送荷物を収納するものであることから、当然に盗難防止の機
能を備えることが要求されるものであるとしても、盗難防止が発明の直
接的な課題とされていない以上、一般的な盗難防止機能が備わっていれ
ば足りるというべきであるところ、当業者は、発明の詳細な説明にドア
10 の一部と配送荷物収納体とをつなぐ構造が記載されていれば、配送荷物
収納体が一定の盗難防止機能を備えていると認識するものといえるか
ら、かかる構造以外の構造が本件明細書等に記載されていないからとい
って、サポート要件に反するということはできない。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
15 ⑷ 小括
以上によれば、本件各発明は、サポート要件に反するものとはいえず、本
件審決の判断に誤りはないから、取消事由3は理由がない。
4 取消事由1(本件発明1の甲2発明1に対する進歩性の有無に関する判断の
誤り)について
20 ⑴ 主引用発明(甲2発明1)について
ア 甲2公報の記載
甲2公報には、発明の名称を「宅配容器と盗難防止システム」とする発
明に関し、次のとおりの記載がある(甲2。図1ないし6については、別
紙甲2公報図面目録記載のとおりである。 。
)
25 (ア) 特許請求の範囲
a 請求項1
「受取側が留守宅や防犯上直接受取りせず、間接的に配達物を受取
る宅配容器において下枠と折り畳まれる中間部筒状体に形状を確保す
る複数の中間枠を有し、
配達物を縦方向から投入ができ、投入配達物に挟み込まれている中
5 間部筒状体も上枠を持ち上げることにより下枠固定状態で中間枠と共
にスムーズに追随でき、上枠を配達物上部まで持ち上げることで初め
て宅配容器形状になり、宅配容器の施錠方法として上枠部に容器開閉
のファスナ部の引き手をダブルにし、ダブル引き手の穴に鍵部のツル
を通すことで宅配容器の施錠できることを特徴とする宅配容器。」
10 b 請求項5
「両端リングワイヤの片側ワイヤ部リングを玄関周りの固定物に引
掛け、もう片側ワイヤ部のリングと宅配容器上枠ファスナ部のダブル
引き手の穴に鍵部のツルを通し、連結させて鍵を掛けることと、取手
のついた大型配達物も取手部分にワイヤ部リングを通過させ、ワイヤ
15 部リングとワイヤに鍵のツル部を通して鍵が掛けられることを特徴と
した、盗難防止両端リングワイヤ活用の請求項1の宅配容器。」
(イ) 発明の詳細な説明
a 背景技術
「近年、宅配業者の進展に伴い、きめ細かいサービスが行なわれて
20 いる。これに伴い殆どの配送荷物が宅配されているのが現実である。
受取側をみると、大会社や共同住宅内で宅配ボックスの設置がされて
いる所は大きな問題は起きてないが、共同住宅内に宅配ボックスが設
置されているケースも少なく、況してや一般家庭においても固定物の
宅配ボックスを設置する環境にない。
25 近年留守宅も多く、また防犯上間接的に配達物を受取る希望も多く、
従来このような時は殆どの場合は再配送せざるを得ないため、配送効
率も悪くしているのが現状である。 (段落【0002】
」 )
「よって、近年一般家庭向け宅配ボックスの多くの提案がされてい
るが、殆んど宅配ボックスが堅牢で固定スペースが必要であり、複数
の宅配業者を意識した施錠システムが確立していないため、普及して
5 いないのが現状である。
当然1日に複数宅配業者が同一宅配ボックスに入れることなど不可
能である。
これらを解決することが宅配配送業務の効率化に繋がる。」
(段落【0
003】)
10 b 発明が解決しようとする課題
「宅配容器については防犯対策を考慮するがあまりに、堅牢で持ち
運びができず、外部に常時設置する必要がある。これでは無駄なスペ
ースや邪魔になる為、余り実用には適さない。共同住宅の宅配ボック
ス以外、実施例が殆んどない。
15 よって、軽量で常に持ち運びができ、かつ大型配達物や複数の配達
物が収納できる宅配容器の提供にある。 (段落【0004】
」 )
「また、当然宅配容器に対する防犯対策として、部外者による悪戯
や配達物の破損・盗難等の防止に万全を期する必要がある。」
(段落【0
005】)
20 「最大の課題は宅配容器用鍵の開錠・施錠が配達員にもでき、かつ
部外者には鍵の開錠が出来ないことの条件が必要である。
これは配達員が認知できるナンバーを活用した鍵の提供にある。」
(段落【0006】)
「また宅配容器盗難防止のため、玄関周りの固定部と宅配容器を連
25 結し、宅配容器が持ち去られない機能が必要である。 (段落【000
」
7】)
c 課題を解決するための手段
「本発明は、以上のような従来の欠点に鑑み、請求項1に記載の発
明は、未収納時には鞄形状に収納でき、かつ軽量のため常時外部に設
置しておく必要もなく、必要に応じてドアノブ等に掛けておけばよい
5 構造とした。
宅配員はドアノブ等から外し、下枠を下にして床に置き、上枠ファ
スナ部ダブル引き手の鍵を開錠、ファスナを開け、配達物を投入する。
・・・
配達物投入時には宅配容器が鞄形状で折り畳まれており、中間部筒
10 状体が配達物に挟み込まれているが、下枠が固定状態で上枠を持ち上
げることができ、中間部筒状体も中間枠と共に軽くスムーズに追随で
きる構造とした。
収納配達物上部まで上枠を持ち上げ、上枠ファスナ部ダブル引き手
を閉める。
15 上枠は収納物に支えられ、高さ方向は収納物の形状通りで初めて宅
配容器形状になることを特徴とした。
このため、配達物以上の宅配容器スペースをとることもなく、フレ
キシブル性もあり、大型配達物や複数の配達物も受け取り可能な宅配
容器とした。 (段落【0008】
」 )
20 「請求項5に記載の発明は、両端リングワイヤにより請求項1の宅
配容器盗難防止として、片側のリングを玄関内側ノブや玄関周りの固
定物に引掛け、反対側のリングと宅配容器30のファスナ部ダブル引
き手の穴に鍵部のツルを差込み、施錠連結することにより宅配容器盗
難防止の役目をしている。 (段落【0013】
」 )
25 d 発明の効果
「以上の説明から明らかなように、本発明の請求項1記載の発明は
以上の構成とした。未収納時の宅配容器は鞄状態になりスペースを取
らず、軽くて持ち運びが自由で必要に応じてドアノブ等に掛ければ良
く、固定スペースが必要ない。
収納時には配達物の高さ以上に嵩張ることはなく、フレキシブル性
5 もあり複数の配達物が収納できる。 (段落【0015】
」 )
「また、本発明の請求項5記載の発明は以上のように構成した。
宅配容器を玄関周りの固定物とワイヤを符号錠にて連結施錠する
ことにより宅配容器の盗難防止ができる。 (段落【0019】
」 )
e 発明を実施するための最良の形態
10 「本実施形態の宅配容器と盗難防止システムはワイヤ1を図3・図
4に示すようにドアノブや玄関周り固定物に引っ掛け、図2に示す鞄
形状宅配容器のファスナ部3のダブル引き手4とワイヤ部1のリング
を符号錠2にて図8に示す状態に施錠する。図3に示す玄関表側に宅
配容器取っ手15をドアノブに掛け、受取人のリモート14にて警報
15 装置10をONにする。
・・・」(段落【0022】)
「・・・
図8に示す、宅配容器の符号錠2のダイヤル20を伝票記載の受取
側 電 話番 号 に セ ッ ト し 、 マス タ キ ー を 符 号 錠 2の 1 9 に 差 込 み 開
20 錠、・
・ ・ファスナ部3のダブル引き手4にて開け、図5の状態にする。」
(段落【0023】)
「配達物を図5の宅配容器枠内に投入する。・・・
上枠5を持ち配達物上面まで持ち上げる。このとき投入配達物の下
側に畳み込まれた中間部筒状体8は挟み込まれた状態になっている。
25 下枠6は固定状態で中間部筒状体8と中間枠7は上枠5に追随し、
スムーズに持ち上げることができる。 (段落【0024】
」 )
「上枠5を配逹物上面に被せ、宅配容器上枠ファスナ部3を閉め、
ワイヤ部1のリングとファスナ部のダブル引き手4の穴に符号錠部2
のツルを通し、連結施錠し、図8の状態する。符号錠ダイヤル20を
ランダムにしてキーを抜く、図6の状態になる。高さ方向は配達物上
5 面に上枠5が載った状態で容器形状を形成し、初めて宅配容器形状に
なる。
・・・」(段落【0025】)
「配達物を取り出すには、受取人が警報装置をリモート14にてO
FFにし、符号錠のダイヤル20を電話番号に合わせとキーにて開錠、
10 配達物を取り出し、宅配容器を図2の鞄形状に収納する。 (段落【0
」
026】)
「このように構成した実施形態では今まで実現できなかった、軽量
でスペースを取らず、持ち運び自由な図2の宅配容器でありながら、
宅配容器・配達物に対する部外者の悪戯や盗難等を防止するために警
15 報装置10と図7のワイヤ1によって玄関周りの固定物と宅配容器を
符号錠2にて連結施錠することで防止した。
・・・
また、宅配容器の施錠に符号錠を用い、配達員が認知できる受取側
電話番号とマスタキーにより符号錠の施錠、開錠ができることが、今
20 回の留守宅や防犯上間接的に配達物を配送可能にした最大の発明で
す。 (段落【0027】
」 )
イ 甲2発明1の内容
上記アによれば、甲2発明1の内容は、本件審決が認定したとおり(前
記第2の3⑵)であると認められる(原告も争っていない。 。
)
25 ウ 本件発明1と甲2発明1との一致点及び相違点
前記1並びに上記ア及びイによれば、本件発明1と甲2発明1との一致
点及び相違点は、本件審決が認定したとおり(前記第2の3⑶)であると
認められる(原告も争っていない。 。
)
⑵ 副引用発明(甲4発明)について
ア 甲4公報の記載
5 甲4公報には、発明の名称を「荷物配達方法及び荷物配達用具」とする
発明に関し、発明の詳細な説明として、次のとおりの記載がある(甲4。
図1、図3及び図5については、別紙甲4公報図面目録記載のとおりであ
る。 。
)
(ア) 発明の属する技術分野
10 「本発明は、宅配便や郵便小包などの荷物を配達する場合において、
配達先が留守のときに荷物を配達先に置いて届けても、荷物を盗まれな
いように配達先に保持し、配達先の人が帰って来たときに確実に受け取
ってもらうための荷物配達方法及び荷物配達用具に関するものである。」
(段落【0001】)
15 「特に、全ての配達先を対象として、不特定に発生する留守宅への荷
物の配達を、安価に実現するための荷物配達方法及び荷物配達用具に関
するものである。 (段落【0002】
」 )
「また、配達先の家や商店などに人が居ても居なくても、受取人に直
接手渡しするのではなく、荷物を置いてくるだけで確実に受取人に配達
20 することにも利用できる荷物配達方法及び荷物配達用具に関するもので
ある。 (段落【0003】
」 )
(イ) 課題を解決するための手段
「全ての配達先を対象として、配達先が留守だったときに、荷物を届
けて盗まれないように配達先に置いて保持しておき、配達先の人が帰宅
25 したときに確実に玄関先で荷物を受け取ってもらうための方法や用具が
従来なかったという課題を解決するために、本発明では、配達先の玄関
ドアのドアノブや水道管などの建造物に取り付けるための取付機構と、
配達する荷物を収納しておくための荷物収納具と、さらに、取付機構と
荷物収納具を容易に取り外せないように連結する任意の長さを設けた連
結機構とにより、荷物配達用具を構成している。 (段落【0017】
」 )
5 「そして、本発明の荷物収納用具を配達員しか取り外すことができな
いようにするために、取付機構に取付用錠を設け、配達する荷物が盗ま
れないようにするために、配達する荷物を荷物収納具に入れた後で袋口
用錠を施錠することで荷物が取り出せない構造としているため、この袋
口用錠の解錠手段のみを配達先に提供し、取付用錠の解錠手段を配達員
10 が持ち帰ることで、本発明の荷物配達方法を実現している。 (段落【0
」
018】)
「本発明の荷物配達用具を使用して、留守宅へ荷物を届ける場合には、
荷物収納具の袋部の中に配達する荷物を収納して、袋口を袋口結束具で
閉塞した後に袋口用錠を施錠したうえで、取付機構を配達先の玄関ドア
15 のドアノブや水道管などの建造物に取り付けて取付用錠を施錠すること
で、ドアノブや水道管などの建造物に本発明の荷物配達用具を取り外せ
ないように取り付けることができる。 (段落【0019】
」 )
「取付機構と荷物収納具とを取り外せないように連結する連結機構を、
容易に切断できなくて可撓性のあるワイヤーやチェーンで構成すること
20 により、取付機構をドアノブや水道管などの建造物に取り付けた場合に、
配達する荷物を入れた荷物収納具を持ち去ることができないようにして
いる。 (段落【0028】
」 )
「さらに、袋部に荷物を入れた荷物収納具をドアの開閉に支障のない
位置の床面に置いた状態で、取付機構を玄関ドアのドアノブや水道管な
25 どの建造物に取り付けられる程度の長さで連結部を構成するため、重い
荷物を荷物収納具に収納した場合でも、配達先の建造物に取り付けるた
めの加工や工事が不要であり、ドアの開閉に支障を与えない状態で本発
明の荷物配達用具を使用して留守宅へ荷物を届けることができるのであ
る。(段落【0029】
」 )
「また、軽くて小さい荷物用として、ドアノブにぶら下げられるよう
5 に短い連結機構と小さな荷物収納具で構成することもできる。 段落
(
」 【0
030】)
「以上のように、本発明の荷物配達用具を使って留守宅に荷物を配達
する場合は、袋部に荷物を収納してから袋口を袋口結束具で閉塞して、
袋口用錠を施錠することで荷物を取り出せない状態として、ドアの開閉
10 に支障のない場所に荷物収納具を置き、袋口用鍵などの解錠手段を配達
先の郵便受けなどに入れて、取付機構を配達先のドアノブや水道管など
の建造物に取り付けてから取付用錠を施錠して、配達員が取付用錠の解
錠手段を持ち帰ることにより、配達作業は終了する。 段落
(
」 【0031】)
(ウ) 発明の実施の形態
15 「図1と図2に、第1の実施例を示す。 (段落【0035】
」 )
「第1の実施例では、図1に示すように、横棒型のドアノブ42aに
取り付けて使用できる構造の荷物配達用具を示しており、可撓性があっ
て容易に切断できない可撓ベルト11を設けた取付機構1と、複数の数
字を事前に設定した数字に一致させることで解錠できる数字式錠で構成
20 した袋口用錠23aを設けた袋口結束具22を、切れにくい布に細いワ
イヤーを織り込んだ折り畳みできる構造の袋部21に取り付けた構造と
した荷物収納具2とを、連結機構3により取り外せないように連結して
構成している。 (段落【0036】
」 )
「図1では、第1の実施例の荷物配達用具に配達する荷物を収納して、
25 留守宅の玄関先の床に置いて届けた状態を示しているが、玄関ドア41
のドアノブ42aに、取付機構1の可撓ベルト11を密着させた状態で
巻き付けて取り付けており、この状態で取付用錠12aを施錠状態とす
ることにより、ドアノブ42aから取付機構1を外せないように取り付
けることを可能にしている。 (段落【0037】
」 )
「さらに、取付機構1と荷物収納具2を切り離せないように連結して
5 いる連結機構3を、可撓性のあるワイヤー31に柔らかいビニールチュ
ーブ32を被せた構造として、取付機構1をドアノブ42aに取り付け
ても玄関ドア41の開閉に支障を与えない位置に荷物収納具2を置くこ
とができる長さとしている。 (段落【0038】
」 )
「この実施例では、配達員は、配達先である留守宅の玄関ドア41の
10 開閉に支障を与えない位置に荷物収納具2を置いて、袋部21に配達す
る荷物を入れて、袋口結束具22のワイヤー部24を、袋部21の袋口
25に設けた袋口用リング26の中を通して袋口25を絞り込んで閉塞
し、袋口用錠23aのワイヤー部受口27にワイヤー部24の先端を挿
入し施錠状態としてから、連結機構3を伸ばして、ドアノブ42aの付
15 け根に取付機構1の可撓ベルト11を巻き付けて密着させた状態で、取
付用錠12aに可撓ベルト11を通して施錠したのち、数字式錠で構成
している袋口用錠23aを解錠するための数字の組み合わせを記入した
配達用のメモを、配達先の郵便受け43か玄関ドア41の隙間から入れ
ることにより荷物の配達作業は終了する。 (段落【0039】
」 )
20 「第2の実施例では、図3に示すように、円筒型のドアノブ42bに
取り付けて使用する場合に適した構造の取付機構1と、荷物収納具2の
袋部21を折り畳みできる箱21aと蓋21bで構成したことを特徴と
している。 (段落【0047】
」 )
「具体的には、取付機構1に手錠型の保持部11aを設けて、保持部
25 11aを回転させて円筒型のドアノブ42bに取り付けたときに、円筒
型のドアノブ42bの取っ手に、取付機構1が引っ掛かって取れない状
態となる構造としている。 (段落【0048】
」 )
「また、連結機構3は、硬質プラスチックで作ったチェーンで構成し
ているため、軽量であるのに加えて、十分な強度もあり、玄関ドア41
などに傷をつけることも防げるし、短く折り畳むこともできる。 (段落
」
5 【0049】)
「さらに、荷物収納具2の袋部21を、外圧が加わっても変形や破損
しない材質で作った折り畳みできる箱21aと蓋21bで構成している
ため、持ち歩くときは、図4に示すように箱21aの側面中央部から折
り曲げて箱21aを平板状にすることで、邪魔にならない状態で持ち歩
10 けるし、外圧を加えない状態で配達しなければならない壊れ物などの荷
物を、箱21aを立体的な状態に戻してから収納して、蓋21bで蓋を
してから掛金具29を袋口結束具22に嵌合させて、袋口用錠23aを
施錠状態とすることで、荷物に外圧が加わらない状態でしかも荷物を取
り出せない状態で配達することができる。 (段落【0050】
」 )
15 「また、袋口結束具22に、袋口用錠23aの他に鍵固定用錠23c
も設けているため、配達員が袋口用錠23aを施錠状態としたのち、鍵
固定用錠23cを解錠状態にして袋口用鍵23bを抜き取って、さらに
鍵固定用錠23cを施錠状態にして鍵固定用鍵23dも抜き取り、袋口
用鍵23bのみを配達先の郵便受けなどに入れることで配達を終了す
20 る。(段落【0051】
」 )
「図5に、第3の実施例を示す。 (段落【0054】
」 )
「第3の実施例では、小さくて軽い荷物を配達する場合に効果的に利
用できる荷物配達用具を示している。 (段落【0055】
」 )
「取付機構1は、第1の実施例と同様の構造としているが、連結機構
25 3は短くしており、荷物収納具2は、ドアノブに吊り下げてもドアノブ
の開閉操作に支障を与えない程度の重さと大きさにしているため、小さ
くて軽い荷物の場合には、本実施例の荷物配達用具を利用することによ
り、持ち運びが便利で、配達先にとっても比較的邪魔にならない状態で
配達することができる。 (段落【0056】
」 )
「さらに、袋口結束具22の袋口25を、ファスナー25bで開閉す
5 る構造としており、袋口25のファスナー25bを閉めて、ファスナー
つまみ部25aを袋口用錠23aの袋口用錠保持部23fに引っ掛けて
施錠すれば、袋口25を閉塞できるので、袋口25を配達員が閉塞する
ときも、配達先の人が帰宅したときに袋口25を開放するときも、ファ
スナー25bの開閉操作で容易に行うことができる。 段落
(
」 【0058】)
10 (エ) 発明の効果
「本発明の荷物配達用具では、留守である配達先の玄関のドアノブヘ
取り付けることができるため、配達先の人が帰宅したときに間違いなく
荷物が配達されていることを確認できるのに加え、ドアノブに取り付け
た状態で荷物を収納した荷物収納具をドアの開閉に支障のない位置の床
15 面に置くことができるため、ドアの開閉も自由に行えるし、ドアノブヘ
の重量負担を与えることもないため、配達先の迷惑になる可能性も少な
い。(段落【0070】
」 )
イ 甲4発明の内容
上記アによれば、甲4発明の内容は、次のとおりであると認められる。
20 (ア) 甲4発明は、留守宅への荷物の配達を安価に実現し、荷物を置いてく
るだけで確実に受取人に配達することにも利用できる、荷物配達方法及
び荷物配達用具に関する発明である。
(段落【0002】 【0003】
及び )
(イ) 従来は、全ての配達先を対象として、配達先が留守であった場合に、配
達先に置いた荷物を盗まれないように保持しておき、配達先の人が帰宅
25 したときに確実に荷物を受け取ってもらうための方法や用具がないこ
とが課題とされていた。(段落【0017】)
(ウ) 上記課題を解決するために、甲4発明の荷物配達用具は、配達先の玄
関ドアのドアノブや水道管などの建造物に取り付けるための取付機構
と、配達する荷物を収納しておくための荷物収納具と、取付機構及び荷
物収納具を容易に取り外せないように連結する任意の長さの連結機構
5 とで構成されている。(段落【0017】)
(エ) 甲4発明の第1の実施例及び第3の実施例は、次のとおりである。
a 第1の実施例
取付機構1と荷物収納具2を切り離せないように連結している連
結機構3を、可撓性のあるワイヤー31に柔らかいビニールチューブ
10 32を被せた構造として、取付機構1をドアノブ42aに取り付けて
も玄関ドア41の開閉に支障を与えない位置に荷物収納具2を置くこ
とができる長さとするもの。(段落【0036】ないし【0039】、
図1)
b 第3の実施例
15 小さくて軽い荷物を配達する場合に効果的に利用できる荷物配達
用具であって、連結機構3は短くして、荷物収納具2は、ドアノブに
吊り下げてもドアノブの開閉操作に支障を与えない程度の重さと大き
さにするもの。(段落【0054】ないし【0056】、図5)
⑶ 周知技術について
20 ア 甲5技術
甲5公報には、考案の名称を「スキー盗難防止具」とする考案に関し、
考案の詳細な説明として、次のとおりの記載がある(甲5。第1図ないし
第3図については、別紙甲5公報図面目録記載のとおりである。 。
)
(ア) 産業上の利用分野
25 「本考案は、スキー、ストックなどを盗難から守る構造簡易なスキー
盗難防止具に関するものである。 (1頁13行目ないし15行目)
」
(イ) 考案が解決しようとする問題点
「フレームにスキー、ストックを放置したままでは、それらが盗難に
あったり紛失したりする恐れがある。 (2頁5行目ないし7行目)
」
(ウ) 問題点を解決するための手段
5 「本考案は、このような点を解決したもので、・・・
針金、ワイヤーロープ、チェーンなどのような可撓自在にして簡単に
切断できない紐状材1の一端部に止着用輪部2を形成し、この紐状材1
の他端部と途中に夫々前記止着用輪部2に挿入可能な錠止着用輪部3・
4を形成し、この2つの錠止着用輪部3・4の間隔を1組のスキー材5
10 を抱持して施錠できる間隔に形成したことを特徴とするものである。」
(2頁9行目ないし3頁2行目)
(エ) 作用
「本具により一組のスキー材5をフレーム6の桟7、固定桟杆などに
つなぎ留める場合は次のようにする。
15 例えば第3図に示したようなフレーム6の桟7に紐状材1の一端部を
略半巻し、止着用輪部2に反対側の錠止着用輪部3・4を順々に挿入し
て引き出して、第1図に示すように桟7に紐状材1の一端部を取り外し
不能に巻付け、第2図に示すようにフレーム6に立て掛けた、一組のス
キー材5の適当個所(金具8の中間が最適)を、引き出した紐状材1の
20 錠止着用輪部3・4の間の部分で抱きかかえ状態に巻き、向かい合わせ
状態の錠止着用輪部3・4に錠9を掛けると、紐状材1の一端部が桟7
に連結され、一組のスキー材5がその他端部で抱持され、且つ施錠され
るからスキー材5は紐状材1で桟7に取り外し不能に止着された状態に
確保される。 (3頁4行目ないし4頁4行目)
」
25 (オ) 実施例
「図面は紐状材1として、ワイヤーロープを採用し、所要長のワイヤ
ーロープの一端部を輪状に折り返し、この折り返し端部をかしめ筒10
によりかしめた場合を図示している。
図面は、前記ワイヤーロープの他端部と途中を止着用輪部2よりやや
小さい輪状に折り返し、この折り返し端部を同じくかしめ筒10により
5 かしめて錠止着用輪部4を形成した場合を図示している。
尚、第2図は南京錠と呼ばれる錠9を2つの錠止着用輪部3・4間に
かけた場合を図示している。
第4図は予め差込錠と呼ばれる錠9の一方の雌部9’を紐状材1の止
着用輪部2に止着して置き、他方の雄部9”を途中の錠止着用輪部4に
10 止着して置いた場合を図示しているが、この場合、差し込み錠付の製品
として市販しても良い。 (4頁10行目ないし5頁8行目)
」
イ 甲6技術
甲6公報には、発明の名称を「盗難防止装置」とする発明に関し、発明
の詳細な説明として、次のとおりの記載がある(甲6。図1については、
15 別紙甲6公報図面目録記載のとおりである。 。
)
(ア) 発明の属する技術分野
「本発明は、不使用時の自転車やオートバイ等に装着して使用する盗
難防止装置に関する。 (段落【0001】
」 )
(イ) 従来の技術
20 「駐輪場や庭先などに停めた自転車やオートバイ等に使用する盗難防
止装置は、・・・最近ではいわゆるワイヤ錠が多用されている。・・・」
(段落【0002】)
「そこで、本発明が解決しようとする課題は、自転車やオートバイ等
の盗難防止効果が高く、万一盗難された場合でも盗難車および窃盗犯の
25 発見に役立つ盗難防止装置を提供することにある。 (段落【0008】
」 )
(ウ) 課題を解決するための手段
「前記課題を解決するため、本発明の盗難防止装置では、気密性チュ
ーブで被覆されたワイヤの基端部を錠本体に固定し、同ワイヤの先端部
に設けた錠前差込金具を係脱可能に係止する錠前受金具を前記錠本体又
は前記気密性チューブに設けたワイヤ錠において、前記気密性チューブ
5 が切断されると噴き出す噴出物質を前記気密性チューブ内に封入したこ
とを特徴とする。 (段落【0009】
」 )
(エ) 発明の実施の形態
「また、図3に示すようにチューブ4の基端部は錠本体9に固定され、
基端部に設けた伸縮性を有する蛇腹11が液体10の内圧により伸展し
10 た状態になっている。さらに、図5に示すようにチューブ4の先端部に
は錠前差込金具7を設け、図2に示すようにチューブ4に設けた錠前受
金具8に係脱可能に係止する。一方、鍵12を使用することにより、錠
前差込金具7を錠前受金具8から離脱させることができる。また、フッ
ク3を解錠する場合には鍵13を使用する。 (段落【0021】
」 )
15 「盗難防止装置2は、従来のワイヤ錠と同様、車輪1にフック3を通
して施錠し、ワイヤ5入りのチューブ4をポール6に巻き付け、チュー
ブ4先端部の錠前差込金具7をチューブ4に設けた錠前受金具8に係止
することにより完全な施錠状態が得られる。 (段落【0022】
」 )
ウ 甲7技術
20 甲7公報には、考案の名称を「手錠機能を備える防犯嵌合具」とする考
案に関し、考案の詳細な説明として、次のとおりの記載がある(甲7。第
1図及び第5図については、別紙甲7公報図面目録記載のとおりである。 。
)
(ア) 「この考案は自転車、自動車などを固定物に継ぎ止める防犯嵌合具に
関し、使用しない時は装飾品として普通の手錠の機能を有しガンマニア
25 などの好むものであり、使用する時は嵌合具本体同志を連結する条体を
長くし移動物に一端の嵌合具本体を嵌合し、もう一端の嵌合具本体を木、
ガードレールなどの固定物に嵌合することにより強固に移動物を固定
できる手錠機能を備える防犯嵌合具に関するものである。 (2頁1行目
」
ないし9行目)
(イ) 「従来、・・・鎖の両端に各々嵌合機構を備え鎖が無端になるものにお
5 いては車輪と本体とを鎖で回し込み無端にして車輪をロックするので
錠の信頼性が高く盗難防止が図られる。
・・・この場合鎖を無端とするた
め長さが半分となり短くなるので固定場所が限られるしまた鎖を長く
すれば持ち運びに不便となる欠点がある。
この考案は上記のような欠点を解決せんとするものであり、その要旨
10 とするところは鍵機構を有する開閉自在な嵌合具本体を条体で連結して
なる嵌合具において、前記条体中に伸縮体を介在せしめることにより未
使用時は、手錠の機能を備え防犯的装飾効果があり、使用時は手錠機能
により自動車、自転車などの移動物を固定物にワンタッチで嵌合できか
つ車の固定場所が限定されず盗難防止を図ることができる手錠様能を備
15 える防犯嵌合具を提供することを目的とする。 (2頁10行目ないし3
」
頁15行目)
(ウ) 「第1図および第2図に示すのは本考案による手錠機能を備える防犯
嵌合具の一実施例である。
・・・
20 本図では鍵で開けるようになっているが数字を組み合せロックが開放
されるダイヤル式のものであってもよいことはもちろんである。このよ
うな嵌合具本体1同志を鎖などの条体9で連結して2つの嵌合具本体1
が一体化されている。この条体9中にはコイルバネを各々条体9の端部
に接続してなる伸縮体10を設けている。 (3頁18行目ないし4頁1
」
25 9行目)
(エ) 「使用時にはこの蓋12を収納部11のネジからはずしコイルバネを
伸長させ嵌合具本体同志を長くし各々固定物、移動物に嵌合できるよう
になっている。
第3図は本考案による手錠機能を備える防犯嵌合具の異なる実施例で
あり、上記実施例における伸縮体10をロッドで形成したものであり手
5 で引き伸ばすだけである程度の長さが得られ嵌合具本体同志の引離しが
容易な構造となっている。第4図は上記実施例における伸縮体10が条
体9を収納するケースを設けたことにより条体9の伸長を図り嵌合具本
体同志を引離すことができるようにしたものでこの場合条体9を一定の
長さにセットするレバー13を備えている。 (5頁2行目ないし15行
」
10 目)
(オ) 「この考案による手錠機能を備える防犯嵌合具は上記のように鍵機構
を有する開閉自在嵌合具本体同志を条体で連結してなる嵌合具におい
て、前記条体中に伸縮体を介在してなるものであるから、未使用時は手
錠の機能を備えているので装飾的防犯効果が期待でき、使用時には伸縮
15 体を伸長して一端の嵌合具本体を自動車、自転車の移動物に嵌合させ、
他端をガードレール、木などの固定物に嵌合させ移動物の固定ができ
る。 (6頁4行目ないし12行目)
」
⑷ 容易想到性について
ア 本件発明1と甲2発明1との相違点1ないし4は、前記第2の3⑶イの
20 とおりであるところ、これらはいずれも本件発明1における伸縮部を備え
ているか否かをその内容とするものといえる。
そこで、以下、本件特許が出願された当時の当業者が、甲2発明1、甲
4発明及び甲5公報ないし甲7公報から認定される周知技術に基づいて、
甲2発明1について上記伸縮部を備えることを容易に想到し得たか否か
25 について検討する。
イ まず、主引用発明である甲2発明1について検討するに、甲2公報にお
いて、盗難防止用連結ワイヤを伸縮可能なものとすることが記載又は示唆
されているというべき記載は見当たらない。
また、前記⑴のとおり、甲2発明1は、盗難防止用連結ワイヤの一方を
ドアノブや玄関周り固定物に接続し、他方を宅配容器本体に接続するもの
5 であるところ、甲2公報の段落【0022】並びに図3及び図4の記載に
よれば、甲2発明1の盗難防止用連結ワイヤは、玄関内側のドアノブや建
物内部の玄関周り固定物に接続するものであるといえる。さらに、甲2公
報の段落【0022】及び図3の記載によれば、甲2発明1において、配
達物を収納していないときの形態の宅配容器本体をドアノブに掛ける際
10 には、宅配容器本体に備えられた「宅配容器取っ手」を使用することとさ
れている。
このように、甲2発明1においては、配達物を収納していないときの形
態の宅配容器は、
「宅配容器取っ手」を使用して玄関外側のドアノブに掛け
られ、他方で、宅配容器に接続された盗難防止用連結ワイヤは、玄関内側
15 のドアノブや建物内部の玄関周り固定物に接続することとなるのである
から、同ワイヤは、これを可能とするのに十分な長さを確保する必要があ
るといえる。そうすると、配達物を収納していないときの形態における甲
2発明1においては、盗難防止用連結ワイヤの長さを、ドアの一部に吊り
下げられるように短縮する構成は採用し得ず、そのような構成を採る動機
20 付けは存しないというべきである。
以上によれば、甲2発明1において、盗難防止用連結ワイヤを伸縮可能
なものとすることは動機付けられないというべきである。なお、上記に照
らすと、甲2発明1においては、少なくとも相違点3に係る本件発明1の
構成を採ることについて、阻害要因が存するというべきである。
25 ウ 次に、副引用発明である甲4発明について検討するに、前記⑵のとおり、
甲4発明は、配達先の玄関ドアのドアノブや水道管等の建造物に取り付け
るための取付機構と、配達する荷物を収納しておくための荷物収納具と、
取付機構及び荷物収納具を容易に取り外せないように連結する任意の長
さの連結機構とで構成される荷物配達用具である。
そこで、甲4公報において、上記の連結機構を伸縮可能なものとするこ
5 とが記載又は示唆されているか否かについて検討するに、前記⑵のとおり、
甲4公報には、連結機構の長さが異なる実施例として、取付機構をドアノ
ブに取り付けても玄関ドアの開閉に支障を与えない位置に荷物収納具を
置くことができるような長さの連結機構を用いた第1の実施例と、連結機
構を短くして荷物収納具をドアノブに吊り下げる態様とする第3の実施
10 例とが記載されているものの、甲4公報の記載全体をみると、これらは別
異の実施態様として記載されているものというべきであるから、これらの
実施例の記載をもって、甲4公報において連結機構を伸縮可能なものとす
ることが記載又は示唆されているものとはいえない。そして、このほか、
甲4公報において、連結機構を伸縮可能なものとすることが記載又は示唆
15 されているというべき記載は見当たらない。
以上によれば、甲4発明は、連結機構を伸縮可能とする構成を含むもの
ではなく、本件発明1における伸縮部に相当する構成を備えていないとい
うべきであるから、甲4発明を甲2発明1に適用しても、相違点1ないし
4に係る本件発明1の構成には至らないというべきであり、また、技術的
20 内容としても、本件発明1における伸縮部に相当する構成を採ることは想
定されていないというべきである。
エ さらに、甲5技術ないし甲7技術について検討するに、前記⑶によれば、
甲5技術ないし甲7技術は、いずれも接続部の一方を施錠対象物に固定し
て施錠し、接続部の他方を固定物に固定する盗難防止具をその内容とする
25 ものであり、このような盗難防止具は、本件特許が出願された当時におけ
る周知技術であったといえる。
しかしながら、甲5技術ないし甲7技術のうち、伸縮する部材や構造が
使用されているのは甲7技術のみであることからすれば、上記の盗難防止
具において、本件発明1における伸縮部に相当する構成を備えることまで
が周知技術であったと認めることはできない。
5 オ 上記イないしエのとおり、甲2発明1において、盗難防止用連結ワイヤ
を伸縮可能なものとすることは動機付けられないこと、副引用発明である
甲4発明を適用しても相違点1ないし4に係る本件発明1の構成に至る
ものではなく、甲4発明の技術的内容としても、本件発明1における伸縮
部に相当する構成を採ることは想定されていないというべきであること、
10 甲5公報ないし甲7公報から認定される周知技術には、本件発明1におけ
る伸縮部に相当する構成は含まれないことからすれば、当業者が、甲2発
明1、甲4発明及び甲5公報ないし甲7公報から認定される周知技術に基
づいて、相違点1ないし4に係る本件発明1の各構成を容易に想到し得た
ものとは認められない。
15 ⑸ 原告の主張に対する判断
ア 前記第3の1〔原告の主張〕⑴ないし⑸について
原告が、前記第3の1〔原告の主張〕⑴ないし⑸において主張する点を
考慮しても、前記⑷で検討したところに照らせば、当業者が、甲2発明1、
甲4発明及び甲5公報ないし甲7公報から認定される周知技術に基づい
20 て、相違点1ないし4に係る本件発明1の各構成を容易に想到し得たもの
とは認められない。
イ 同〔原告の主張〕⑹について
(ア) 原告は、予備的主張として、接続体が伸縮自在な盗難防止具である甲
7技術が周知技術であったことを前提に、かかる周知技術を甲2発明1
25 に適用して本件発明1の構成とすることの動機付けが認められるべき
である旨主張する。
(イ) しかしながら、仮に、原告が主張するとおり、接続体が伸縮自在な盗
難防止具である甲7技術が周知技術であり、これを甲2発明1に適用す
ることが動機付けられ得るとしても、前記⑷イで検討したとおり、甲2
発明1においては、少なくとも相違点3に係る本件発明1の構成を採る
5 ことについて、阻害要因が存するというべきであることからすれば、当
業者が、甲2発明1に甲7技術を適用して本件発明1の構成とすること
を容易に想到し得たものとは認められない。
(ウ) したがって、原告の上記主張は採用することができない。
⑹ 小括
10 以上によれば、本件発明1について、甲2発明1に対する進歩性を欠くも
のとはいえず、本件審決の判断に誤りはないから、取消事由1は理由がない。
5 取消事由2(本件発明2ないし7の甲2発明1に対する進歩性の有無に関す
る判断の誤り)について
⑴ 前記第2の2のとおり、本件発明2ないし7は、いずれも本件発明1の構
15 成を含むものであるところ、前記4で検討したとおり、当業者は、本件発明
1と甲2発明1との相違点1ないし4に係る本件発明1の各構成を容易に想
到し得たものとは認められないから、本件発明2ないし7に係る構成につい
ても、容易に想到し得たものとは認められない。
⑵ したがって、本件発明2ないし7について、甲2発明1に対する進歩性を
20 欠くものとはいえず、本件審決の判断に誤りはないから、取消事由2は理由
がない。
6 結論
よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のと
おり判決する。
25 知的財産高等裁判所第3部
5 裁判長裁判官
東 海 林 保
10 裁判官
中 平 健
15 裁判官
都 野 道 紀
(別 紙)
本件明細書等図面目録
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
5 【図6】
【図7】
【図8】
(別 紙)
甲2公報図面目録
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
5 【図5】
【図6】
(別 紙)
甲4公報図面目録
【図1】 【図3】
【図5】
(別 紙)
甲5公報図面目録
【第1図】 【第2図】
【第3図】
(別 紙)
甲6公報図面目録
【図1】
(別 紙)
甲7公報図面目録
【第1図】
【第5図】
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