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令和3(ワ)22940不正競争行為差止等請求事件

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裁判所 一部認容 東京地方裁判所東京地方裁判所
裁判年月日 令和4年10月28日
事件種別 民事
当事者 原告株式会社ツインズ
被告A 株式会社COOLKNOTJAPAN
法令 不正競争
不正競争防止法2条1項21号9回
特許法70条2項1回
キーワード 特許権96回
侵害91回
実施30回
損害賠償12回
差止12回
進歩性3回
無効3回
主文 1 被告らは、原告が別紙物件目録記載の製品を製造又は販売することが、
2 被告らは、原告に対し、連帯して、100万円及びこれに対する令和3
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は、これを9分し、その7を原告の負担とし、その余は被告ら
5 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。5
事件の概要 1 本件は、原告が、被告らが原告の取引先に対して、原告の製造又は販売する 製品は被告Aが共有する特許権を侵害している旨の通知書を送付した行為が、 不正競争防止法2条1項21号にいう不正競争行為及び共同不法行為を構成す ると主張して、被告らに対し、同法3条1項に基づき同行為の差止めを求める15 とともに、同行為により原告に損害が生じたと主張して、被告らに対し、同法 4条及び民法719条1項に基づき損害賠償金1000万円及びこれに対する 訴状送達の日の翌日である令和3年9月11日から支払済みまで民法所定の年 3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

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判決文

令和4年10月28日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官

令和3年(ワ)第22940号 不正競争行為差止等請求事件

口頭弁論終結日 令和4年8月5日

判 決

原 告 株 式 会 社 ツ イ ン ズ

同訴訟代理人弁護士 橋 本 芳 則

同 森 本 純

同 小 野 隆 大

同訴訟復代理人弁護士 芳 賀 彩

同訴訟代理人弁理士 荒 川 伸 夫

同 高 橋 智 洋

被 告 A

(以下「被告A」という。)

被 告 株式会社COOLKNOT JAPAN

(以下「被告会社」という。)

上記両名訴訟代理人弁護士 山 内 貴 博

同 浜 崎 翔 多

同 政 木 佑 介

同 石 戸 孝 則

上記両名補佐人弁理士 石 橋 良 規

同 奥 和 幸

主 文

1 被告らは、原告が別紙物件目録記載の製品を製造又は販売することが、

別紙特許権目録記載の特許権を侵害する旨を原告の取引先その他の第三者

に告知し、又は流布してはならない。

2 被告らは、原告に対し、連帯して、100万円及びこれに対する令和3

年9月11日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。

3 原告のその余の請求を棄却する。

4 訴訟費用は、これを9分し、その7を原告の負担とし、その余は被告ら

の負担とする。

5 5 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。

事 実 及 び 理 由

第1 請求の趣旨

1 主文第1項と同旨2 被告らは、原告に対し、連帯して、1000万円及びこれに対する令和3年9月11日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

1 本件は、原告が、被告らが原告の取引先に対して、原告の製造又は販売する製品は被告Aが共有する特許権を侵害している旨の通知書を送付した行為が、不正競争防止法2条1項21号にいう不正競争行為及び共同不法行為を構成すると主張して、被告らに対し、同法3条1項に基づき同行為の差止めを求めるとともに、同行為により原告に損害が生じたと主張して、被告らに対し、同法4条及び民法719条1項に基づき損害賠償金1000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和3年9月11日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。2 前提事実(証拠等の記載のないものは当事者間に争いがない。)

⑴ 当事者ア 原告は、「結ばない靴紐」(紐の端部を結ばなくても緩んだり解けたりすることがない靴紐をいう。以下同じ。)を主とするスポーツ用品の製造・販売等を目的とする株式会社である。イ 被告会社は、「結ばない靴紐」の販売を業とする株式会社であり、被告Aは、被告会社の代表取締役である。

⑵ 本件特許ア 原告と被告Aは、別紙特許権目録記載の特許(以下「本件特許」といい、本件特許に係る特許権を「本件特許権」という。)の共有者である。イ 本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載内容は、次のとおりである

5 (以下、請求項1に記載された発明を「本件発明」という。なお、下線部は補正部分である。)。(甲20の2、乙2の2、弁論の全趣旨)「間隔をあけて繰返し配置され、自身に加えられる軸方向張力の大小によって径の大きさが変化するこぶを有する伸縮性素材からなるチューブ状ひも本体と、ひも本体のチューブ状構造によって構成される中心の管部分に非伸縮性素材からなり、こぶのコアを構成し、こぶの径変化に応じたこぶ両端距離の変化に追随するようこぶ対応部分にて丸められた中心ひもと、を備えたひも。」

⑶ 本件訴訟に至る経緯ア 原告は、平成25年1月頃から、「キャタピラン」との名称で「結ばない靴紐」製品を製造・販売していた。イ 被告Aは、平成28年6月、原告に対し、原告が本件発明の技術的範囲に属する製品(「キャタピラン」、「キャタピービジネス」、「キャタピーアスリート」、「キャタピーゴルフ」、「キャタピーコード」及び「キャタピーワークスニーカー」をいい、以下、併せて「キャタピラン等」という。)を製造・販売し、本件特許権(被告Aの共有持分権)を侵害したなどと主張して、損害賠償請求訴訟(以下「前訴」という。)を提起し、併せて、被告会社を設立して、「結ばない靴紐」(商品名「COOLKNOT」。以下「被告製品」という。)を販売し始め、「結ばない靴紐」の市場において原告と競業するようになった。(乙7の2、弁論の全趣旨)ウ 前訴の第1審裁判所は、平成29年3月29日、被告Aの請求を棄却する判決を言い渡した。上記判決に対して被告Aが控訴したところ、前訴の控訴審裁判所は、平成30年12月26日、本件特許権(被告Aの共有持分権)侵害の不法行為に基づく損害賠償請求の原因(数額の点は除く。)は理由があるとの中

5 間判決(以下「本件中間判決」という。)を言い渡した。(乙7の2、弁論の全趣旨)そして、同控訴審裁判所は、令和2年11月30日、原判決を変更して被告Aの請求を一部認容し、原告に対し、被告Aへの金員の支払を命じたほか、本件特許権の持分4分の1の移転登録手続をすることなどを命じる判決を言い渡した。(乙7の3)原告は、上記判決に対して上告したものの、令和2年12月17日、被告Aとの間で当該上告を取り下げる旨の内容を含んだ覚書を締結したため、その後、当該上告を取り下げた。(乙11、弁論の全趣旨)エ 原告は、令和元年5月頃から現在に至るまで、キャタピラン等を設計変更した「結ばない靴紐」製品である「キャタピラン+」、「キャタピーエアー+」、「キャタピラン+リフレクター」、「キャタピーエアー+リフレクター」(以下、併せて「キャタピラン+等」という。)を製造・販売している。(弁論の全趣旨)オ 被告Aは、令和3年5月7日、原告及び原告の代表者であるBに対し、キャタピラン+等が本件特許権を侵害すると主張して、キャタピラン+等の製造・販売等の差止め等を求める仮処分(以下「本件仮処分」という。)を申し立てた。(甲22、弁論の全趣旨)これに対し、原告は、令和3年7月30日、同仮処分手続において、第1主張書面を提出した。

⑷ 被告Aによる原告取引先への通知被告Aは、令和3年8月19日、原告の取引先10社に対して、被告Aとしては、原告が現在も製造・販売しているキャタピラン+等は、被告Aらが保有する本件特許権を侵害していると考えているなどと記載された別紙通知書(以下「本件通知書」という。なお、同通知書の宛先は、送付先によって異なる。)を送付した(以下「本件告知行為」という。)。その内容は、別

5 紙のとおりである。(弁論の全趣旨)

⑸ 先行文献本件特許の優先日より前に、特許公報(甲8。昭56―21862、昭和56年5月21日公告。以下「甲8公報」といい、同公報に記載された発明を「甲8発明」という。)が存在した。3 争点

⑴ 虚偽告知の有無(争点1)ア 充足論(争点1-1)イ 無効論(争点1-2)ウ 「虚偽の事実」該当性(争点1-3)

⑵ 本件告知行為の違法性の有無(争点2)

⑶ 被告会社の通知主体該当性(争点3)

⑷ 損害(争点4)

第3 争点に関する当事者の主張

1 争点1(虚偽告知の有無)について

(原告の主張)

以下に述べるとおり、キャタピラン+等が本件特許権を侵害していないことは明らかであるから、キャタピラン+等が本件特許権を侵害しているとの本件通知書の内容は、明らかに虚偽の事実である。

⑴ 争点1-1(充足論)について

原告が製造・販売するキャタピラン+等は、以下のとおり、いずれも構成要件Bが定める「『中心ひも』が『非伸縮性素材からなり』との構成」も「(非伸縮性素材からなり、こぶのコアを構成し、)こぶの径変化に応じたこぶ両端距離の変化に追随するようこぶ対応部分にて丸められた中心ひも」も備えていない。ア 本件発明の構成要件は、次のとおり分説することができる。

5 A① 間隔をあけて繰返し配置され、

② 自身に加えられる軸方向張力の大小によって径の大きさが変化す

るこぶを有する

③ 伸縮性素材からなるチューブ状ひも本体と、

B ひも本体のチューブ状構造によって構成される中心の管部分に非伸縮性素材からなり、こぶのコアを構成し、こぶの径変化に応じたこぶ両端距離の変化に追随するようこぶ対応部分にて丸められた中心ひもと、C を備えたひも。この点につき、被告らは、構成要件Bを、構成要件B①「ひも本体のチューブ状構造によって構成される中心の管部分に非伸縮性素材からなり」と構成要件B②「こぶのコアを構成し、こぶの径変化に応じたこぶ両端距離の変化に追随するようこぶ対応部分にて丸められた中心ひもと、」とに分説しているが、本件発明では、「非伸縮性素材からな」る「中心ひも」が、「こぶの径変化に応じたこぶ両端距離の変化に追随するようこぶ対応部分にて丸められ」、「こぶのコアを構成」するのであるから、これらは技術的な関連性が高く、一体として把握すべきものである。したがって、構成要件Bは、構成要件B①と構成要件B②に分説するのではなく、これらを1個の構成要件として捉えるのが相当である。本件特許の願書に添付された明細書及び図面(以下「本件明細書等」という。)の段落【0018】及び【0022】等の記載によれば、本件発明の「伸縮性素材」は、伸縮性に優れた繊維素材(あるいは糸状素材)を意味する用語と解するのが相当である。また、本件明細書等の段落【0023】において、「『非伸縮性』とは、『伸縮性に乏しい』ことを意味する技術用語であって、『伸縮性を有さない』ことを意味するものではない。」とされていることなどによ

5 れば、本件発明の「非伸縮性素材」は、伸縮性に乏しい繊維素材を意味

する用語と解するのが相当である。本件発明の「伸縮性素材からなるひも本体」とは、本件明細書等の段落【0018】、【0020】、【0022】及び【0025】が示すとおり、伸縮性素材のみから形成される構成に限定されるものではなく、伸縮性素材と非伸縮性素材とを編込み等により組み合わせた構成も含むものであり、ひも本体が、その含有する伸縮性素材の性質により、軸方向張力を加える又は除荷した場合に、少ない力で十分に伸びて又は収縮することを意味するものである。他方、本件発明の「非伸縮性素材からなる中心ひも」は、非伸縮性素材のみから形成され、「伸縮性素材からなるひも本体」と比して伸縮性が乏しく、「ひも」全体を伸縮させるために機能しないひもを意味するものである。上記「非伸縮性素材からなる中心ひも」の意義及び本件明細書等の記載に照らせば、本件発明の「非伸縮性素材からなり、こぶのコアを構成し、こぶの径変化に応じたこぶ両端距離の変化に追随するようこぶ対応部分にて丸められた中心ひも」とは、

① ひも本体に張力が加わっていない状態において、こぶ両端距離

(長さL1)よりも長い「非伸縮性素材からなる中心ひも」(長さL2)が、こぶ対応部分に収納されている(L2>L1)こぶ対応部分において、「非伸縮性素材からなる中心ひも」は、軸心がひも本体の軸心から変位して、らせん形状等をなすことにより、こぶを形成する

② ひも本体に張力が加えられ、こぶの両端距離が延びると(長さL

1’、L1’>L1)、これに併せて(追随して)、非伸縮性素材からなる中心ひもが、ひも本体の軸方向に拡がるように展開する

5 (L2≧L1’)

構成と解するのが相当である。イ キャタピラン+等の芯材で使用されているナイロン糸にはウーリー加工が施されているから、当該ナイロン糸は高い伸縮性を有する伸縮性素材である。また、キャタピラン+等の芯材を構成する他方の糸であるスパンデックス糸は、高い伸縮性を有する繊維素材である。したがって、キャタピラン+等の芯材は、非伸縮性素材を使用しておらず、2種類の伸縮性素材により製造された撚糸をリリアン編みして製造したものといえる。キャタピラン+等の芯材は、軸心方向に張力が加えられれば伸長する性質を有するが、張力を除荷すると、芯材が自ら収縮して、直ちに元の長さにまで戻る。また、キャタピラン+等では、同一の伸び率まで伸長するのに要する張力が、芯材の方が外層よりも少なく、同一の張力を加えた場合、芯材の方が外層よりも伸び率が高い。ウ 本件発明の「非伸縮性素材からなる中心ひも」は、上記のとおり、①非伸縮性素材(伸縮性に乏しい繊維素材)のみから形成され、②「伸縮性素材からなるひも本体」と比して伸縮性が乏しく、「ひも」全体を伸縮させるために機能しない中心ひもである。これに対し、キャタピラン+等の芯材には、上記のとおり、ウーリー加工を施したナイロン糸とスパンデック糸が用いられているところ、これらの素材はいずれも高い伸縮性を有する繊維素材であるから、本件発明が定める「非伸縮性素材」には該当せず、「伸縮性素材」に該当する。したがって、キャタピラン+等は「非伸縮性素材」を使用しておらず、本件発明の構成要件B「非伸縮性素材からなり」を充足するものではない。本件発明の構成要件B「非伸縮性素材からなり、こぶのコアを構成し、

5 こぶの径変化に応じたこぶ両端距離の変化に追随するようこぶ対応部分

にて丸められた中心ひも」は、上記のとおり、①こぶ両端距離(長さL1)よりも「非伸縮性素材からなる中心ひも」(長さL2)が長く(L2>L1)、②ひも本体に張力が加えられると、これに併せて(追随して)、中心ひもが、ひも本体の軸方向に拡がるように展開するという構成である。これに対し、キャタピラン+等では、芯材が靴紐と略同寸であり(L1≒L2)、軸方向に張力が加えられると、靴紐が伸長するのに伴い、芯材が伸長し、張力が除荷されると、芯材も自ら収縮する構成であるから、上記①及び②のいずれの構成も備えていない。したがって、キャタピラン+等は、「(非伸縮性素材からなり、こぶのコアを構成し、)こぶの径変化に応じたこぶ両端距離の変化に追随するようこぶ対応部分にて丸められた中心ひも」も備えておらず、本件発明の構成要件Bを充足するものではない。

⑵ 争点1-2(無効論)について

以下に述べるとおり、本件発明は、甲8公報(主引例)に対して周知技術を適用することによって容易に想到し得たものであるから、進歩性が欠如している。ア 甲8には、次の発明(甲8発明)が開示されている。間隔をあけて繰返し配置され、自身に加えられる軸方向張力の大小によって径の大きさが変化するこぶ部を有する伸縮性を有する糸からなる中空状の組紐イ 本件発明と甲8発明は、次の点で一致する。間隔をあけて繰返し配置され、自身に加えられる軸方向張力の大小によって径の大きさが変化するこぶを有する伸縮性素材からなるチューブ状ひも本体を備えたひもである点

5 本件発明と甲8発明は、次の点で相違する。

本件発明は、「ひも本体のチューブ状構造によって構成される中心の管部分に非伸縮性素材からなり、こぶのコアを構成し、こぶの径変化に応じたこぶ両端距離の変化に追随するようこぶ対応部分にて丸められた中心ひも」を備えているのに対し、甲8発明は、これを備えているか否かにつき記載がない点ウ 甲8発明は、組紐に関する発明であるところ、靴紐は、実用組紐の代表例の一つであり(甲1、2、9、10)、かつ、「自身に加えられる軸方向張力の大小によって径の大きさが変化する『こぶ部』が繰り返し配置された中空組紐の靴紐」は、甲11ないし13にも開示された周知技術(以下「周知技術1」という。)である。そうすると、甲8発明に接した当業者には、同発明を靴紐に使用しようとすることに動機付けがある。また、中空組紐である靴紐について、強度を向上させるために、中空組紐の中心に芯材を設ける構成は、甲9、10及び14に開示された周知技術(以下「周知技術2」という。)である。そして、靴紐に強度が求められることは自明の課題であるから、甲8発明に接した当業者は、同発明を靴紐に使用することを検討するに当たり、組紐の中空部に芯材を設けることを検討する。さらに、「自身に加えられる軸方向張力の大小によって径の大きさが変化するこぶを有する伸縮性素材からなるチューブ状ひも本体を備えたひも」では、過度の張力が加わって破断することを防止する必要があることが周知の課題である中、この課題を解決するために、「ひも本体のチューブ状構造によって構成される中心の管部分に非伸縮性素材からなり、こぶのコアを構成し、こぶの径変化に応じたこぶ両端距離の変化に追随するようこぶ対応部分にて丸められた中心ひも」なる構成を備えることは、甲15ないし17に開示されており、これは、本件特許出願前における組紐・紐の

5 技術分野における周知技術(以下「周知技術3」という。)である。そう

すると、甲8発明に接した当業者には、組紐の中空部に芯材を設けて靴紐とすることを検討するに当たり、この周知な課題を解決するために当該周知技術の構成を適用する動機付けがある。したがって、甲8発明に接した当業者は、これらの周知技術を適用することにより、本件発明の上記相違点に係る構成を備えた靴紐を容易に想到し得たのであるから、本件発明は進歩性が欠如した発明でしかない。

⑶ 争点1-3(「虚偽の事実」該当性)について

被告らは、本件通知書では被告Aの主観的見解を述べたにすぎないから、本件通知書に虚偽の事実は含まれていないと主張するが、本件通知書は、本件特許権を侵害する余地のないキャタピラン+等まで侵害品ではないかとの誤認を招く危険を内包しており、単に被告らの主観的見解を記載したにとどまるものではない。(被告らの主張)以下に述べるとおり、原告によるキャタピラン+等の製造・販売は、本件特許権を侵害するものであるから、本件通知書に虚偽の事実が含まれると評価する余地はない。また、そもそも本件通知書では被告Aの主観的見解が述べられたにすぎないから、キャタピラン+等が本件特許権を侵害しているか否かにかかわらず、本件告知行為が虚偽の事実の告知に該当しないことは明らかである。

⑴ 争点1-1(充足論)について

ア 本件発明の構成要件は、次のとおり分説することができる。A① 間隔をあけて繰返し配置され、

② 自身に加えられる軸方向張力の大小によって径の大きさが変化する

こぶを有する

③ 伸縮性素材からなるチューブ状ひも本体と、

B① ひも本体のチューブ状構造によって構成される中心の管部分に非伸

5 縮性素材からなり、

② こぶのコアを構成し、こぶの径変化に応じたこぶ両端距離の変化に

追随するようこぶ対応部分にて丸められた中心ひもと、C を備えたひも。この点、原告は、構成要件B①及び②は技術的関連性が高いため、これらは1個の構成要件として捉えるべきであると主張する。しかしながら、構成要件B②は、「ひもを繰り返し使用した結果ひも本体のこぶ部分が復元しづらくなることを防ぐ」ために設けられた要件であるのに対し、構成要件B①は、中心ひもに伸縮性素材を用いる必要はないという消極的理由から設けられた要件であるから、両者は要件として設けられた理由を異にするものであり、技術的に関連しているものでもない。したがって、両者を1個の構成要件として捉えるのは適切ではない。イ 上記の構成要件の分説に即してキャタピラン+等の構成を示すと、以下のとおりとなる。a① 6~8mmの距離をあけて複数個配置され、

② 軸方向張力を加えない状態では軸方向に直交する周の直径は概ね7

~8mmであるが、軸方向に張力を加えると前記周の直径は7~8mmよりも小さくなるこぶを有する

③ ゴム及びナイロンを編み込むことによって形成された伸び縮みする

性質を有する素材からなる中空のひもと、b① 前記ひもの中空部内に存在し、ナイロンにポリウレタンが混合された素材からなり、

② 前記こぶの中心部分を構成し、前記中空のひもに軸方向張力を加え

ることにより前記こぶの軸方向に直交する周の直径が減少することに応じ前記こぶの両端の距離が増大するときはこれに追随して伸張し、軸方向張力を解放することにより前記こぶの軸方向に直交する

5 周の直径が増大することに応じ前記こぶの両端の距離が減少すると

きはこれに追随して収縮するように、前記こぶの内部で略球状で存在する中心ひもと、c を備えたひも。ウ 構成要件A①の「間隔をあけて繰返し配置され(たこぶ)」とは、ひも上に、各こぶが隣接する他のこぶと距離をあけて複数個配置されている状態のことをいうものと解される(本件明細書等の段落【0014】)。キャタピラン+等においてみると、構成a①のとおり、ひも上に、6~8mmの距離をあけて複数個のこぶが配置されているから、各こぶが隣接するこぶと距離をあけて複数個配置されている(乙5の1ないし3、乙6の1ないし3)。したがって、構成要件A①を充足する。構成要件A②の「自身に加えられる軸方向張力の大小によって径の大きさが変化する」とは、軸方向張力が大きくなればなるほど上記こぶ部分の径が小さくなり、当該張力が弱くなればなるほど小さくなった径が戻るように上記こぶ部分の径が大きくなることをいうものと解される(本件明細書等の段落【0015】)。キャタピラン+等においてみると、構成a②のとおり、こぶを有し、当該こぶは、軸方向張力を加えない状態であると軸方向に対する周の直径は7~8mmであるが、軸方向の張力を大きくすると前記周の直径は7~8mmよりも小さくなるものである。このように、キャタピラン+等は、軸方向張力が大きくなればなるほど径が小さくなり、当該張力が弱くなればなるほど小さくなった径が戻るように径が大きくなるこぶを有するといえる。したがって、構成要件A②を充足する。

5 構成要件A③の「伸縮性素材からなる(ひも本体)」とは、伸び縮み

する性質を有する素材を含んで構成されているひも本体をいうものと解され、ゴムのような伸縮性素材のみからなる場合のみならず、これにナイロンのような非伸縮性素材が編み込まれて形成された素材からなるような場合も「伸縮性素材からなる」に該当する(本件明細書等の段落【0018】、【0024】)。そして、「チューブ状ひも本体」とは、筒状に造形されており中空部分が存在するひも本体をいうものと解される。キャタピラン+等においてみると、構成a③のとおり、ひも本体は、ゴム及びナイロンを編み込むことによって形成された伸び縮みする性質を有する素材からなるものであるから、構成要件A③の「伸縮性素材からなる」を充足する。また、キャタピラン+等は、筒状に造形されており中空部分が存在するひも本体を有するから、「チューブ状ひも本体」を充足する。したがって、構成要件A③を充足する。構成要件B①の「ひも本体のチューブ状構造によって構成される中心の管部分に」とは、構成要件A③により構成された中空部分に、中心ひもが存在することを意味する。また、中心ひもが「非伸縮性素材からなる」については、「ひも本体に軸方向の張力を加え伸縮させる場合でも、中心ひもは前記ゴム状素材のようには伸縮しない」とされており(本件明細書等の段落【0031】)、「『ゴム状素材』とは、ゴムのように伸縮性に優れた糸状素材のことを指して(いる)」(同段落【0022】)ことからすれば、「非伸縮性素材からな(る中心ひも)」とは、ゴム状素材のようには伸縮しない繊維素材からなる中心ひもをいうと解される。この解釈は、「『非伸縮性』とは、『伸縮性に乏しい』ことを意味する技術用語であって、『伸縮性を有さない』ことを意味するもの

5 ではない」との記載(同段落【0023】)とも整合するものである。

キャタピラン+等においてみると、構成b①のとおり、中心ひもは、構成要件A③を充足する構成a③によるひもの中空部内に存在し、伸縮性に乏しい繊維素材であるナイロンに弾性素材であるポリウレタンが混合された素材であって、ゴム状素材のようには伸縮しない繊維素材からなる構成であるから、「ひも本体のチューブ状構造によって構成される中心の管部分に非伸縮性素材からなり」を充足する。したがって、構成要件B①を充足する。構成要件B②の「こぶのコアを構成し」とは、構成要件A②にいうこぶの中心部分を構成する中心ひもをいうと解される。そして、「こぶの径変化に応じたこぶ両端距離の変化に追随するようこぶ対応部分にて丸められた中心ひも」とは、前記こぶに軸方向張力を加えることにより前記こぶの軸方向の径が増大し、これに応じて前記こぶの両端の距離が離れるときは自らの形状も軸方向に引き延ばされ、軸方向張力を解放することにより前記軸方向の径が減少し、これに応じて前記こぶの両端の距離が縮まるときは自らの形状も縮小するように、前記こぶの内部で略球状で存在する中心ひもを意味するものと解される。キャタピラン+等の中心ひもにおいてみると、構成b②のとおり、中空であるひも本体のこぶ対応部分において略球状で存在し、こぶの中心を構成するものである。また、キャタピラン+等は、軸方向張力を加えることにより前記こぶの軸方向の径が増大しこれに応じて前記こぶの両端の距離が増大するときはこれに追随して伸張し、軸方向張力を解放することにより前記こぶの軸方向の径が減少しこれに応じて前記こぶの両端の距離が減少するときはこれに追随して収縮するように、前記こぶの内部で略球状で存在する中心ひもを備えるものである。したがって、構成要件B②を充足する。

5 構成要件Cは、以上の構成要件を備えるひもをいうところ、キャタピ

ラン+等は、構成要件A①ないしB②をいずれも充足するひもであるから、構成要件Cを充足する。

⑵ 争点1-2(無効論)について

原告は、周知技術1ないし3が存在することを前提に、本件発明の進歩性が否定されると主張するが、以下に述べるとおり、周知技術3は存在しないから、

(原告の主張)

は、前提を欠き、失当である。ア 原告が主張する周知技術3は、中心ひもが「こぶのコアを構成」することを内容とするものであるところ、本件発明において「こぶのコアを構成」するというためには、単にこぶの中心部分に中心ひもが存在しているというだけでは足りず、こぶを形成するためのコアとして機能するために、中心ひもがこぶ対応部分にて丸められていること、換言すると、こぶのない部分のひも本体の内側の径よりも大きくなる箇所が中心ひものこぶ対応部分に設けられていることが必要となる。しかしながら、原告が周知技術3の根拠として挙げる甲15ないし17に開示されている技術は、以下のとおり、いずれも中心ひもが「こぶのコア」を構成するものではないため、周知技術3の根拠とはなり得ない。イ 甲15においては、軸方向張力が加えられていない際に弛緩することになるセグメント3´を余裕のある状態で収納することができるような空間を確保するためにジャケット1にふくらみ部分が設けられている。つまり、甲15のジャケット1のふくらみ部分とセグメント3´は、遊びのある状態のセグメント3´を収納する空間を確保するためにジャケット1にふくらみ部分が設けられているという関係にあるにすぎないのであって、甲15のジャケット1のふくらみ部分を保持するためにジャケット1のふくらみがない箇所の内側の径よりも大きくなるようにセグメント3´が弛緩した状態で設けられているわけではない。そのため、

5 セグメント3´は、そのふくらみ部分を形成するためのコアとして機能

することはなく、「こぶは繰返しの利用にも耐えうるだけの固さを保持することが可能になる」という効果を奏するものでもない。したがって、甲15は、「こぶのコアを構成」する中心ひもに関する技術ではない。甲16においては、軸方向張力が加えられていない際には弛緩することになるロープ9を余裕のある状態で収納することができるような空間を確保するためにスリーブ13にふくらみ部分が設けられている。つまり、スリーブ13のふくらみ部分とロープ9は、スリーブ13に軸方向張力が加えられていないときに弛緩している状態のロープ9を収納する空間を確保するためにスリーブ13のふくらみ部分が設けられているという関係にあるにすぎないのであって、甲16のスリーブ13のふくらみ部分を保持するためにスリーブ13のふくらみがない箇所の内側の径よりも大きくなるようにロープ9が弛緩した状態で設けられているわけではない。そのため、ロープ9はそのこぶを形成するためのコアとして機能することはなく、「こぶは繰返しの利用にも耐えうるだけの固さを保持することが可能になる」という効果を奏するものでもない。したがって、甲16は、「こぶのコアを構成」する中心ひもに関する技術ではない。なお、甲16のスリーブ13は、ロープ9の一部分を覆っているにすぎず、「ひも本体」を構成するものでもない。甲17においては、軸方向張力が加えられていない際には弛緩することとなる釣糸6を余裕のある状態で収納することができるような空間を確保するためにゴム管1にふくらみ部分が設けられている。つまり、ゴム管1のふくらみ部分と釣糸6は、ゴム管1に軸方向張力が加えられていないときに弛緩した状態となっている釣糸6を収納する空間を確保するためにゴム管1のふくらみ部分が設けられているという関係にあるに

5 すぎないのであって、甲17のゴム管1のふくらみ部分を保持するため

に、ゴム管1のふくらみがない箇所の内側の径よりも大きくなるように釣糸6が弛緩した状態で設けられているわけではない。そのため、釣糸6はそのふくらみ部分を形成するためのコアとして機能することはなく、「こぶは繰返しの利用にも耐えうるだけの固さを保持することが可能になる」効果を奏するものでもない。したがって、甲17は、「こぶのコアを構成」する中心ひもに関する技術ではない。

⑶ 争点1-3(「虚偽の事実」該当性)について

不正競争防止法2条1項21号にいう「虚偽の事実」とは、実際の事実とは相違した事実をいうため、事実ではなく単に主観的見解を述べるものにすぎない場合には、「虚偽の事実」であると評価される余地はない。本件通知書では、「『キャタピラン+等』の各製品の製造・販売等の差止めを求める仮処分を東京地方裁判所に提起しました。」との記載に続けて、「通知人としては、ツインズ社(原告)が現在も製造・販売しているキャタピラン+等は、通知人らが保有する本件特許権を侵害していると考えております。」と記載されており、被告Aがキャタピラン+等について製造・販売等の差止めの仮処分を提起したところであり、裁判所による判断がこれから下される段階にあることを明示し、また、被告Aの個人の考えであることを明示した上で、被告Aとしてはキャタピラン+等も本件特許権の侵害品であると考えているという主観的見解を述べたものにすぎない。のみならず、本件通知書のキャタピラン+等に関する記載が客観的事実ではなく、通知人の主観的見解にすぎないものであることは、本件通知書に対する原告の取引先の回答書において、キャタピラン+等が本件特許権を侵害しているとの主張に対する反論が記載されていることからも明らかである。

5 2 争点2(本件告知行為の違法性の有無)について

(被告らの主張)本件通知書に虚偽の事実が含まれていたとしても、以下に述べるとおり、本件告知行為は、本件特許の特許権者による正当な権利行使であり、違法性が阻却される。

⑴ 本件告知行為は、本件特許権の侵害品であることが前訴の判決によって認

められたキャタピラン等について、原告の取引先が原告から仕入れた上で販売して本件特許権を侵害していることから、当該仕入れ先に対して、当該侵害品の販売の停止及びこれまで販売した侵害品の数量の確認を求めることを主たる目的とするものである。キャタピラン+等については、これに付随させる形で、現在係争中であること、すなわち、本件特許権を侵害する侵害品であるか否かについてはまだ争われていることを明示した上で、キャタピラン+等の販売の停止とキャタピラン+等の販売数の確認を求めたにすぎない。このように、被告Aは、本件通知書に接した者においてキャタピラン+等が本件特許権の侵害品であることが客観的に認められたと誤解することのないよう細心の注意を払っていたのであり、現に、そのように誤読した送付先は一つも存在しない。本件特許の特許権者である被告Aは、本件告知行為に先立ち、特許権者として通常必要とされる事実調査及び法的検討を行った上で、キャタピラン+等が本件特許権の侵害品であると考え、これを販売し本件特許権を侵害している者に対して特許権者としての権利を行使する旨通知しており、このような通知は、特許権者に当然に認められる行為の範囲内であって、仮に結果として侵害品ではないと判断されたとしても、それは事後的な事情にすぎず、そのことから直ちに遡って被告Aによる本件告知行為が特許権者としての正当な行為の範囲を逸脱したと判断されることにはならない。

⑵ 本件通知書は、本件特許権を侵害している原告の取引先の全てではなく、

5 そのうちのある程度の損害賠償額になると予想される10社に限定して送付

しており、本件通知書の送付後に被告Aが更に通知書を送付する等の行為をしたこともなく、継続して通知行為をしているものではない。

⑶ 被告Aが本件通知書を送付した原告の取引先10社は、①本件通知書を受

領した後もキャタピラン+等の取扱いを停止しなかった3社、②そもそもキャタピラン+等を取り扱っていなかった3社、③令和3年12月にキャタピラン+等の取扱いを停止した2社、④令和3年9月にキャタピラン+等の取扱いを停止した2社に各分類される。そして、キャタピラン+等の取扱いを停止した取引先においても、本件通知書の記載によって、キャタピラン+等が本件特許権を侵害すると認識したものは一つもない。

(原告の主張)

以下に述べるとおり、本件告知行為は、「結ばない靴紐」市場の競争で被告らが優位に立つことを目的とした行為であり、正当な権利行使とはいえず、違法性は明白である。

⑴ 本件通知書は、「本件特許権を侵害していると考えております」などと被

告らの主観的見解を述べたような体裁をとっているが、その内容は、キャタピラン+等についても、販売停止に加え、販売を今後一切行わないことを誓約する書面を提出させるとともに、利益額が分かる資料の開示まで求め、速やかに回答がない場合には法的手続を取ることを検討するというものであり、本件通知書の全体を見れば、極めて威嚇的・自力執行的要素の強い内容となっている。また、被告らは、キャタピラン等については本件特許権侵害であると認定された事実があるため、旧品であるキャタピラン等については原告及び原告の取引先において既に販売終了となっていることを認識しながら、上記事実を引用した上で、キャタピラン等のみならず新製品であるキャタピラン+等についても販売停止等を求めており、本件告知行為の真の目的が、キャタピ

5 ラン等の販売差止め等を求めることではなく、新製品であるキャタピラン+

等を市場から排除することにあったことは明らかである。

⑵ 被告らが本件通知書を送付した10社は、キャタピラン等の売上額上位2

0社から選定されたものであるが、被告らは、単に売上額上位から順に選定したわけではなく、キャタピラン等の取扱いをやめて被告製品に乗り換えた取引先は除外しているから、「結ばない靴紐」市場で優位に立つという意図を有していたといえる。

⑶ 本件通知書の送付先である10社のうち、元々キャタピラン+等の取扱い

がなかった会社を除いた9社のうち5社が、キャタピラン+等の販売を中止し、大量の商品を返品している。

3 争点3(被告会社の通知主体該当性)について

(原告の主張)

被告会社は、被告会社が本件特許権の持分を有しないことや、本件通知書の送付名義人が被告Aであることを理由に、被告会社は本件告知行為の主体ではないと主張する。しかしながら、不正競争防止法2条1項21号は、競争関係にある他人に対する不当な攻撃により、営業上、有利な地位に立とうとする行為を禁止するものである。そのため、営業誹謗行為の主体については、本件告知行為に至る経緯や被告らの目的等に照らして、本件告知行為による利益(営業上有利な地位を得るという利益)を享受する実質的な主体が誰かという観点も含めて判断されなければならない。この点につき、被告会社は原告と競争関係にある一方、被告Aは、個人事業として「結ばない靴紐」製品の小売業を営んでいるわけではないため、本件告知行為により「結ばない靴紐」市場において、営業上有利な地位に立つという利益を享受するのは、「結ばない靴紐」製品を販売している被告会社であることや、本件通知書にも「A氏(株式会社COOLKNOT JAPAN代表者

5 代表取締役)」と記載されていることからすれば、被告会社も本件告知行為の

主体であるといえる。(被告会社の主張)本件通知書は、被告A個人が主体となって送付したものであり、被告会社が本件告知行為の主体であると解する余地はない。すなわち、本件通知書における「通知人」は、本件特許権侵害を理由とする差止請求権等を有する者であることが前提となっている。そして、本件特許権は被告A個人が共有しているものであり、被告会社はその持分を一切有していないから、被告会社は本件特許権侵害を理由とする差止請求権等を有する者ではなく、本件告知行為の主体になり得ない。また、本件通知書に「A代理人」と記載されていることから明らかなとおり、本件通知書は、被告Aの代理人が、被告A個人を代理して送付したものである。本件通知書の「A氏(株式会社COOLKNOT JAPAN代表者代表取締役)」という記載は、単に被告Aの属性を説明するものにすぎず、被告Aが被告会社の機関として被告会社のために本件通知を行ったことを意味するものではない。

4 争点4(損害)について

(原告の主張)

本件通知書の送付先のうち5社が本件通知書を受けてキャタピラン+等の販売を中止し、大量の商品を返品してきたのであり、本件告知行為により原告に多大な損害が生じたことは明らかである。また、本件通知書の送付先は、キャタピラン+等が本件特許権を侵害する可能性があると認識したからこそ、原告との取引を停止し、商品を返品してきたのであるから、取引の停止と、本件通知書にキャタピラン+等が本件特許権を侵害する旨の記載があることとの間に、因果関係があることは明らかである。そして、本件告知行為により原告が被った営業上の信用の毀損は甚大なもの

5 であり、その損害額は、信用毀損による無形の損害に限定しても1000万円

を下らない。なお、原告は、個別の逸失利益ではなく、全体としての信用毀損(無形損害)のみを主張するものである(第1回弁論準備手続調書参照)。(被告らの主張)前記2のとおり、本件通知書の記載は、同通知書に接した者においてキャタピラン+等が本件特許権の侵害品であると認識させるようなものではないから、本件告知行為は、法的保護が必要となる程度に原告の信用を低下させるものではない。また、実際にも、前記2で述べたとおり、本件通知書を受領した10社においてキャタピラン+等が特許侵害品であると認識した取引先等は存在せず、有形損害は発生していないから、法的保護に値する無形損害など一切発生していないことは明らかである。仮に原告に何らかの無形損害が発生していたとしても、キャタピラン+等の取扱いを停止した取引先のうち、キャタピラン+等が裁判所において係争中の製品であることをその理由とした取引先は存在するが、キャタピラン+等が本件特許権の侵害品であると認識したため取扱いを停止した取引先は1社も存在しない。したがって、仮に原告に何らかの無形損害が生じていたとしても、それはキャタピラン+等が本件特許権の侵害品であるという「虚偽の事実」以外の記載に起因するものであるから、キャタピラン+等が本件特許権の侵害品であるという「虚偽の事実」の告知と当該無形損害との間に、相当因果関係は存在しない。

第4 当裁判所の判断

1 本件発明の内容本件明細書等(甲20の2、乙2の2)には、次のとおりの記載があることが認められる。

⑴ 技術分野「本発明はチューブ状ひも本体を備えたひもに関する。」(【0001】)

5 ⑵ 背景技術「従来から、靴ひものように固定のために穴通しが必要なひもに関し、ゴムなどの弾性を有する線状素材を中心となるコアとし、そのコアの外周を繊維で覆って形成されたひもであって、外周の繊維部分には、ひも靴などの通し穴にいったん通した後はその穴に引っ掛かるこぶを編んで備えることによって、結ばなくとも緩みが生じないひもに関する技術が知られている。」(【0002】)「ひも靴の通し穴にいったん通すことができる上にその後はその穴に引っかかるように編まれたこぶの動作原理は、そのひもに対して加えられる張力に応じて自在にその径を変化するこぶの構造にある。すなわち、当該ひもはコアとしてのゴムとこのコアとなるゴムに両端が固定され、その中心が固定されない非弾性(可撓性)のこぶを複数編んで配置した構造を有する。コアとなるゴムに張力を与えることでゴムは伸び、従ってこぶの両端間距離が伸びるのでこれに挟まれたこぶの中心部分は平坦化してその径は小さくなる。さらに、その張力が消えるとゴムは再び元の長さに戻り、従ってこぶの両端間距離はもとに戻るのでこぶは再び元のこぶ形状に復元し、その径は大きくなる。このようにしてこぶの平坦化と復元、すなわちこぶの径の小大をひもに対して与える張力によって操ることができるので、前述のとおり、ひも通しの際にはこぶを平坦化して径小とし、穴に通りやすくし、ひも通しが終了したさいにひもに対する張力を小さくすることでこぶを復元し径大とし、結ばなくとも緩まない靴ひもを実現できる。」(【0003】)⑶ 発明が解決しようとする課題「しかしながら、上記従来の技術では、非弾性のこぶの両端をコアとなるゴムに固定するためこぶの両端と固定関係にあるゴムの部分はひもに高い張力がかかっても伸びることはない。なぜなら、こぶは非弾性の繊維を編んだ

5 ものであり、このゴムの部分は逆に非弾性の繊維に固定されている関係にあるためである。また、こぶの中心部分に対応するゴムの部分はひもに繰り返し高い張力が加えられるたびに伸び縮みを繰り返す。つまり、同じ弾性のコアであっても伸び縮みが激しい部分とまったく伸び縮みしない部分とが共存し、その境界領域に高いひずみが蓄積され、ひずみが限界に達すると最終的には断裂に至る。ゴムのような比較的弱い素材に対してひずみが蓄積するような動作を必須とする点でこの技術には問題があった。」(【0006】)⑷ 課題を解決するための手段「以上のような課題を解決するために、本件発明は、間隔をあけて繰返し配置され、自身に加えられる軸方向張力の大小によって径の大きさが変化するこぶを有する伸縮性素材からなるチューブ状ひも本体を備えたひもなどを提案する。」(【0007】)⑸ 発明の効果「主に以上のような構成をとる本件発明によって、断裂しにくくかつ結ばなくとも緩みや弛みが生じにくい経済的および効率的に優れたひもを提供することが可能となる。」(【0008】)⑹ 発明を実施するための形態「以下、本発明の各実施形態について図面と共に説明する。実施形態と請求項の相互の関係は、以下のとおりである。まず、実施形態1および実施形態3は、主に請求項1に対応する。実施形態2は、主に請求項2に対応する。・・・」(【0010】)<実施形態1>「図1は、本発明のひもの一部を示す図である。この図にあるように、本実施形態のひもは、間隔をあけて繰返し配置され、自身に加えられる軸方向

5 張力の大小によって径の大きさが変化するこぶを有する伸縮性素材からなるチューブ状ひも本体を備えることを特徴とする。当該構成とすることにより、ひも本体に強い張力を繰返し加えても断裂などしにくいひもを実現できた。」(【0011】)【図1】「図1が示すように、本実施形態の「ひも」0100は、間隔を開けて繰返し配置されるこぶを有するチューブ状ひも本体からなる。具体的には、こぶは「中心部分」0101と「端部分」0102を繰り返すことにより配置されている。いっぽう、図2は本実施形態の軸方向張力を加えた状態のひもを示す図である。この図で示すように、軸方向張力を加えることによってこぶ部分の径は収縮するように変化する。そして軸方向に加えられていた張力が除かれると、ひも本体が収縮することに伴い、ふたたびこぶ部分の径が膨張するように変化する。」(【0013】)「本実施形態のひもにおける「こぶ」に関し、「間隔をあけて繰返し配置され」とは、こぶがひも上に複数個配置されている状態のことを指している。複数個のこぶはそれぞれの中心部分が間隔を開けて配置されていればよく、

5 当該間隔が均一である必要はない。すなわち、こぶは中心部分が一定間隔で配置されていてもよいし、ランダムに配置されていてもよく、その間隔は設計事項である。図3や図4で示すように、靴と足とを固定する場合や、ズボンと腰とを固定する場合など、当該構成をとる本実施形態のひもによって、利用目的の異なる様々なケースに対応したひもを提供することが可能になる。」(【0014】)【図3】【図4】「なお、こぶについて『自身に加えられる軸方向張力の大小によって径の

5 大きさが変化する』とは、具体的には、軸方向張力が大きくなればなるほど径が小さくなり、当該張力が弱くなればなるほど小さくなった径が戻るように大きくなることを指している。」(【0015】)「なお、本発明のひもが有する『こぶ』とは、ひものうち何らの軸方向張力も加えられていない状態のもとで、こぶがない部分の径に比して大きな径を有している部分のことを指している。すなわち、こぶはひも本体の一部であって、当然にひも本体と同様、後に詳しく説明する伸縮性素材からなる。」(【0017】)「『伸縮性素材からなる』とは、ひもが伸び縮みする性質を有する素材からなることを意味している。伸縮性素材としては、天然ゴムや合成ゴムなどを用いることが考えられ、これらの素材を単独で用いてひも全体を図12で示すようなゴムチューブ状に構成してもよいし、これらの素材とポリエステルやナイロン、アクリル、ポリウレタンなどの非伸縮性素材とを組み合わせて用いてもよい。いずれにしても、ひも本体全体が伸縮性素材からなる本構成をとることによって、軸方向張力を加えることで伸縮性素材からなるひも全体が伸び縮むため、ひもの各部分にひずみが生じにくくなり、ひも本体に強い張力を繰り返し加えても、断裂しにくいひもを提供することが可能となる。」(【0018】)「当該構成をとる本実施形態のひもにより、ひも本体に強い張力を加えて

5 もこぶ形状を維持したまま繰返し使用することが可能となり、前記従来技術が抱えていた課題を解決することが可能になる。」(【0019】)<実施形態2>「図6は、本実施形態のひもの全体を示す斜視図である。この図にあるように、本実施形態のひもは、基本的に実施形態1で説明したひもと同様であるが、伸縮性素材は、ゴム状素材と非伸縮性の通常素材との編み込みによって構成されていることを特徴とする。かかる特徴を備える構成とすることにより、ひもに対してあまり負荷をかけることなく軸方向に伸縮することが可能となる。」(【0020】)【図6】「本実施形態のひもの構成は、基本的には実施形態1の図1などを用いて説明したひもと共通する。そのため以下では、相違点である伸縮性素材の構成を中心に説明する。」(【0021】)「『ゴム状素材』とは、ゴムのように伸縮性に優れた糸状素材のことを指しており、軸方向に対し力を加えることによって良く伸びる効果を生じさせ

5 る機能を有する。ここで、『ゴム状』とはあくまで素材の性質を示す表現であって、対象となる素材としてゴムそのものを排除する意図ではない。したがって、天然ゴムや合成ゴムなどの種類を問わず、ゴムそのものもここでいう『ゴム状素材』に当然に含まれる。ゴム状素材を編み込む構造をとることによって、ひもに対し軸方向張力を加えた場合、少ない力で十分に伸びることが可能となる。」(【0022】)「『非伸縮性の通常素材』とは、前記ゴム状素材との比較において伸縮性に乏しい繊維素材のことを指す。すなわち、『非伸縮性』とは、『伸縮性に乏しい』ことを意味する技術用語であって、『伸縮性を有さない』ことを意味するものではない。非伸縮性の通常素材としては、例えば前記ポリエステルやナイロン、アクリル、ポリウレタンなどの繊維素材が挙げられる。線密度の高い繊維素材であるこれらの通常素材を編み込む構造をとることによって、丈夫で断裂しにくいひもを形成することが可能になる。また、通常素材を用いることにより、ゴム状素材のみでは成形が困難な様々な形状のこぶを成形することも可能となる。」(【0023】)「なお、ゴム状素材と通常素材とは、互いの編み込みによって本実施形態の伸縮性素材を構成する。ここでいう『編み込み』とは、ゴム状素材と通常素材とを互いに交差するように編んでいく方法全般のことを指している。当該構成を用いることにより、ゴム状素材を用いることによる利点と、通常素材を用いることによる利点とを同時に実現することが可能となる。具体的には、ゴム状素材は丈夫な通常素材と編み込まれることにより生じる摩擦力により強い軸方向張力を加えられても縮んだり断裂しにくくなり、通常素材もゴム状素材と編み込まれることにより、過大な負荷がかかることなく軸方向に伸縮することが可能となる。」(【0024】)「通常素材を用いる以上のような構成をとる本実施形態のひもにより、実施形態1の効果に加え、様々なデザインのひもを形成することが可能になる

5 ほか、ひもが丈夫で断裂しにくくなるのみならず、繊維状の通常素材が通し穴との抵抗を緩和し、滑りやすくすることも可能となる。」(【0027】)<実施形態3>「図7は、本実施形態のひもの概要を示す図である。この図にあるように、本実施形態のひもは、基本的に実施形態1で説明したひもと同様であるが、ひも本体のチューブ状構造によって構成される中心の『管部分』0703に非伸縮性素材からなり、こぶのコアを構成し、こぶの径変化に応じたこぶ両端距離の変化に追随するよう『こぶ対応部分』0704にて丸められた『中心ひも』0705を有することを特徴とする。このような特徴を備える構成とすることにより、ひもを繰り返し使用した結果ひも本体のこぶ部分が復元しづらくなることを防ぐ効果をもたらす。」(【0028】)【図7】「本実施形態のひもの構成は、基本的には実施形態1の図1などを用いて説明したひもと共通する。そのため以下では、相違点である中心ひもに関する説明を中心的におこなう。」(【0029】)「『中心ひも』は、こぶの径変化に応じたこぶ両端距離の変化に追随する機能を有しており、こぶ対応部分にて丸められてこぶのコアを構成している。

5 『こぶの径変化に応じたこぶ両端距離の変化』とは、ひも本体に対し大小の軸方向張力が加わることによりこぶの径変化が生じ、当該径変化に対応するようにこぶの両端距離も変化する本発明のひもの特徴のことを指している。そして、このような変化に『追随する機能』とは、例えば、前記こぶの両端距離が短くなれば中心ひもの後記丸められた部分がさらに収縮するように丸まり、両端距離が広くなれば中心ひもの丸められた部分が伸びる機能のことを意味している。ここで、中心ひものうち丸められている部分はひも本体のこぶに対応する部分に設けられている。当該構成のもとでは、ひも本体を構成する伸縮性素材は張力が加えられていない間は、中心ひものこぶ対応部分を沿うようにこぶを形成することになるため、前記こぶ対応部分がこぶを形成するためのコアとして機能する。そして、内側にてコアとして機能する中心ひもを有することにより、当該こぶは繰返しの利用にも耐えうるだけの固さを保持することが可能になる。なお、中心ひもをこぶのコアとして機能させるためには、当該こぶ対応部分の位置がずれないでおく必要がある。そのようなこぶのコアとしての機能を確保するため、中心ひもはそれぞれのこぶの対応部分をつなぎ、例えばひもの端部などでひもと固定されているひも状構造をとる必要がある。」(【0030】)「なお、中心ひもはひもを伸縮させるために機能させる必要はないので、伸縮性素材を用いる必要はなく、非伸縮性素材からなっていればよい。即ち、ひも本体に軸方向の張力を加え伸縮させる場合でも、中心ひもは前記ゴム状素材のようには伸縮しない。中心ひもは、ひも本体よりもやや長い長さで構成されており、『丸められた部分』とは、例えばらせん形状をなしている。当該構成をとることにより、ひもを繰り返し伸縮して使用しても、当該丸められた部分が絡まってこぶの復元が困難になる事態を回避することが可能になる。」(【0031】)

5 「以上のような構成をとる本実施形態のひもにより、実施形態1の効果に加え、ひもを繰り返し使用した結果ひも本体のこぶ部分が復元しづらくなることを防ぐ効果をもたらす。」(【0032】)

2 争点1-1(充足論)について⑴ 本件発明を構成要件に分説すると、次のとおりである。A① 間隔をあけて繰返し配置され、

② 自身に加えられる軸方向張力の大小によって径の大きさが変化するこぶを有する

③ 伸縮性素材からなるチューブ状ひも本体と、B① ひも本体のチューブ状構造によって構成される中心の管部分に非伸縮性素材からなり、② こぶのコアを構成し、こぶの径変化に応じたこぶ両端距離の変化に追随するようこぶ対応部分にて丸められた中心ひもと、C を備えたひも。⑵ 構成要件B①の「非伸縮性素材」の意義ア 本件発明の構成要件には、「伸縮性素材」及び「非伸縮性素材」という文言が記載されるにとどまり、当該素材自体の性質等を規定する記載は認められない。そして、本件明細書等には、「伸縮性素材」につき、「『伸縮性素材からなる』とは、ひもが伸び縮みする性質を有する素材からなることを意味している。」(【0018】)、「『ゴム状素材』とは、ゴムのように伸縮性に優れた糸状素材のことを指しており、軸方向に対し力を加えることによって良く伸びる効果を生じさせる機能を有する。」(【0022】)と記載され、伸縮性素材として「ゴム状素材」が例示されている。他方、本件明細書等には、「非伸縮性素材」につき、「中心ひもはひもを伸縮させるために機能させる必要はないので、伸縮性素材を用いる必要はなく、非伸縮性素材からなっていればよい。即ち、ひも本体に軸方向

5 の張力を加え伸縮させる場合でも、中心ひもは前記ゴム状素材のようには伸縮しない。」(【0031】)、「『非伸縮性の通常素材』とは、前記ゴム状素材との比較において伸縮性に乏しい繊維素材のことを指す。すなわち、『非伸縮性』とは、『伸縮性に乏しい』ことを意味する技術用語であって、『伸縮性を有さない』ことを意味するものではない。」(【0023】)と記載され、「非伸縮性の通常素材」は、上記において例示された「ゴム状素材」との比較において伸縮性に乏しい素材であると規定している。上記構成要件及び本件明細書等の各記載によれば、本件発明に規定する「伸縮性素材」とは、伸び縮みする性質を有するものであるのに対し、「非伸縮性素材」とは、「伸縮性素材」との比較において伸縮性に乏しい素材であれば足り、それ以上の限定を付すものではない。したがって、非伸縮性素材からなる中心ひも(構成要件B①)は、伸縮性素材からなるひも本体(構成要件A③)よりも、伸縮性が乏しいものと解するのが相当である。イ これに対し、被告らは、本件明細書等には、「中心ひも」が「ひも本体」と比較して伸縮性が乏しいものでなければならない旨の記載はないと主張する。しかしながら、上記認定に係る本件明細書等において、「『非伸縮性の通常素材』とは、前記ゴム状素材との比較において伸縮性に乏しい繊維素材のことを指す。」(【0023】)、「中心ひもはひもを伸縮させるために機能させる必要はないので、伸縮性素材を用いる必要はなく、非伸縮性素材からなっていればよい」(【0031】)と記載されていることなどを踏まえると、伸縮性素材の方が非伸縮性素材よりも伸縮性に優れていることが前提となっていることは明らかである。そうすると、被告らの主張は、本件明細書等を考慮して上記用語の意義を解釈するものとはいえず(特許法70条2項参照)、採用することができない。

5 また、被告らは、「中心ひも」の作製に用いられた素材それ自体を見て、優れた伸縮性を有するか否かを判断すべきであると主張する。しかしながら、本件明細書等において、「ひも本体全体が伸縮性素材からなる本構成をとることによって、軸方向張力を加えることで伸縮性素材からなるひも全体が伸び縮むため、ひもの各部分にひずみが生じにくくなり、ひも本体に強い張力を繰り返し加えても、断裂しにくいひもを提供することが可能となる。」(【0018】)、「ひも本体に軸方向の張力を加え伸縮させる場合でも、中心ひもは前記ゴム状素材のようには伸縮しない。」(【0031】)と記載されていることからすれば、「伸縮性素材」にいう作製に用いられた素材自体の伸縮性をいうものではないことは明らかであるから、被告らの主張は、本件明細書等の記載とは異なる前提に立つものである。したがって、被告らの主張は、採用することができない。⑶ 構成要件B①の充足性ア 証拠(甲4ないし6)及び弁論の全趣旨によれば、キャタピラン+等の芯材は、ウーリー加工を施したナイロン糸1本とスパンデック糸1本とを予め撚った糸6本をリリアン編みして製造したものであり、当該芯材は、約200%の伸縮率を有し、同一の張力を加えた場合、芯材の方が外層よりも伸び率が高いことが認められる。そうすると、キャタピラン+等においては、ひも本体よりも中心ひもに相当する芯材の方が伸縮性を有するものであるから、キャタピラン+等の中心ひも(芯材)は、非伸縮性素材からなるものと認めることはできない。したがって、キャタピラン+等は、構成要件B①の「非伸縮性素材からなり」を充足するものとはいえない。イ これに対し、被告らは、キャタピラン+等において、中心ひもは、ひも本体が密に編まれている部分では押しつぶされ、ひも本体のこぶに対応する部分ではこぶの形に沿うように略球状になっているから、キャタピラン

5 +等内の中心ひもと、キャタピラン+等から取り出されて単独のひもとなっている状態の中心ひもとでは、その存在状態が異なり、この違いを捨象した試験結果である甲6に基づいて、中心ひもの方がひも本体よりも伸び率が高いということはできないと主張する。しかしながら、上記認定に係る本件明細書等の内容に鑑みると、伸縮性の判断に当たり被告ら主張に係る構成を比較すべきものとする記載を認めることはできず、被告らの主張は、独自の見解をいうものである。本件発明において、非伸縮性素材からなる中心ひもが、伸縮性素材からなるひも本体よりも伸縮性に乏しいという構成を採用していることは、上記において説示したとおりであり、上記試験結果によれば、キャタピラン+等が上記構成を採用していないことは、自明である。したがって、被告らの主張は、採用することができない。

⑷ まとめ以上によれば、キャタピラン+等は、本件発明の構成要件B①を充足するものではない。したがって、構成要件充足性に関するその余の点について判断するまでもなく、キャタピラン+等を製造又は販売する行為は、本件特許権を侵害するものとは認められない。

3 争点1-3(「虚偽の事実」該当性)について⑴ 競争関係にある者が、競業者の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し又は流布する行為は、競業者を不利な立場に置き、自ら競争上有利な地位に立とうとするものであるから、公正な競争を阻害することになる。このような結果を防止し、事業者間の公正な競争を確保する観点から、不正競争防止法2条1項21号は、上記行為を不正競争の一類型と定めるものである。そ

して、競争関係にある者において、裁判所が知的財産権侵害に係る判断を示

す前に当該判断とは異なる法的な見解を事前に告知し又は流布する行為は、

知的財産権侵害の結果の重大性に鑑みると、競業者の営業上の信用を害する

ことによって、上記と同様に、公正な競争を阻害することは明らかである。

そうすると、法的な見解の表明それ自体は、意見ないし論評の表明に当たる

ものであるとしても(最高裁平成15年(受)第1793号、第1794号

同16年7月15日第一小法廷判決・民集58巻5号1615頁参照)、上

記行為は、不正競争防止法2条1項21号の上記の趣旨目的に鑑み、不正競

争の一類型に含まれると解するのが相当である。

したがって、競争関係にある者が、裁判所が知的財産権侵害に係る判断を

示す前に当該判断とは異なる法的な見解を事前に告知し又は流布する場合に

は、当該見解は、不正競争防止法2条1項21号にいう「虚偽の事実」に含

まれるものと解するのが相当である。

これを本件についてみると、前記前提事実によれば、キャタピラン+等は、

裁判所が本件特許権を侵害すると判断したキャタピラン等を設計変更したも

のであり、前記2のとおり、少なくともキャタピラン+等については裁判所

が本件特許権を侵害するものではないと判断するにもかかわらず、本件通知

書には、キャタピラン+等は本件特許権を侵害していると考えているなどと

記載されていることが認められる。そうすると、本件通知書の内容は、裁判

所においてキャタピラン+等が本件特許権を侵害しない旨の判断を示す前に

当該判断とは異なる法的な見解を事前に告知するものとして、不正競争防止

法2条1項21号にいう「虚偽の事実」を含むものと認めるのが相当である。

これに対し、被告らは、本件通知書は、「通知人らが保有する本件特許権

を侵害していると考えております。」として単に被告Aの主観的見解を述べ

たものにすぎないから、不正競争防止法2条1項21号にいう「虚偽の事実」

を含まないと主張する。しかしながら、法的な見解を述べるものであっても、

公正な競争を阻害するものであり、上記にいう「虚偽の事実」に含まれると

解すべきことは、上記において説示したとおりである。そもそも、本件通知

書では、キャタピラン+等についても販売の即時停止及び損害賠償額の算定

に関する資料の開示まで求めているのであるから、単に主観的見解を述べた

という被告らの主張は、当を得ないものである。そうすると、被告らの主張

は、後記4において違法性判断の考慮事情とされるのは格別、上記判断を左

右するに至らない。

したがって、被告らの主張は、採用することができない。

争点2(本件告知行為の違法性の有無)について

⑴ 認定事実

前記前提事実、後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認め

られる。

ア 原告は、平成25年1月頃から、「キャタピラン」との名称で「結ばな

い靴紐」製品を製造・販売していた。(前提事実⑶ア)

イ 被告Aは、平成28年6月、原告に対し、キャタピラン等が本件特許権

を侵害しているなどと主張して、損害賠償請求訴訟(前訴)を提起し、併

せて、被告会社を設立した上、「結ばない靴紐」(被告製品)を販売し始

め、「結ばない靴紐」の市場において原告と競業するようになった。(前

提事実⑶イ)

ウ 前訴の控訴審裁判所は、平成30年12月26日、本件特許権(被告A

の共有持分権をいう。)侵害の不法行為に基づく損害賠償請求(数額の点

は除く。)は理由があるとの中間判決(本件中間判決)を言い渡した。

(前提事実⑶ウ)

本件中間判決後、被告Aは、前訴の控訴審裁判所の審理において、原告

の取引先280社を嘱託先として、損害の立証に係る調査嘱託(以下「本

件調査嘱託」という。)を申し立てた。(弁論の全趣旨)

エ 原告は、本件中間判決を受け、平成31年4月19日、令和元年5月中

旬頃にキャタピラン+等の販売を開始する旨プレスリリースを行い、実際

に同月頃から、キャタピラン等を設計変更したキャタピラン+等の製造・

販売を始めた。(前提事実⑶エ、甲41、弁論の全趣旨)

オ 前訴の控訴審裁判所は、令和2年11月30日、被告Aの請求を一部認

容し、原告に対し、被告Aに金員を支払うことや、本件特許権の持分4分

の1の移転登録手続をすることなどを命じる判決を言い渡した。(前提事

実⑶ウ)

カ 原告は、上記判決に対して上告したが、令和2年12月17日、被告A

との間で、当該上告を取り下げる旨の内容を含む覚書を締結したため、そ

の後、当該上告を取り下げた。(前提事実⑶ウ)

キ 原告と被告Aは、令和3年1月頃以降、本件特許以外の問題も含めた包

括的和解に向けて協議(以下「本件包括協議」という。)を行い、当時の

原告代理人は、同月下旬、被告Aの代理人に対し、キャタピラン等の限界

利益を算定した資料をメールで送付した。また、当時の原告代理人は、当

該メールにおいて、被告Aの代理人に対し、キャタピラン+等への入替え

に伴う在庫回収が生じているため、キャタピラン等については利益が非常

に少額となっている旨伝えた。(甲40の1ないし3、弁論の全趣旨)

本件包括協議の中で、被告Aは、原告に対し、「結ばない靴紐」市場か

らの撤退を求め、撤退しない場合の選択肢として原告が被告会社を買い取

る案を示し、原告が買取金額を提示したが、最終的には合意に至らなかっ

た。(弁論の全趣旨)

ク 被告Aは、令和3年5月7日、原告及び原告の代表者であるBに対し、

キャタピラン+等が本件特許権を侵害すると主張して、キャタピラン+等

の製造・販売等の差止め等を求める仮処分(本件仮処分)を申し立てた。

これに対し、原告は、同年7月30日、第1主張書面を提出した。(前提

事実⑶オ)

ケ 被告Aは、令和3年8月19日、別紙通知書の内容のとおり、原告の取

引先10社に対して、被告Aとしては、キャタピラン+等は、本件特許権

を侵害していると考えているなどと記載された本件通知書を送付した(本

件告知行為)。(前提事実⑷。なお、通知人に被告会社も含むといえるこ

とは後記5のとおりである。)

そして、本件通知書は、本件調査嘱託の結果を受け、原告の取引先のう

ち、キャタピラン等の売上げが多く、通知人においてある程度の損害賠償

額になると予想した10社に対し送付された。(弁論の全趣旨)

コ 本件通知書の送付先である10社のうち、3社は、原告からキャタピラ

ン+等については本件特許権を侵害していない旨の説明を受けたこともあ

り、キャタピラン+等の取扱いを停止しなかった(ただし、うち1社から

は、令和4年5月にキャタピラン+等が返品された。)。また、上記10

社のうち2社は令和3年9月に、別の2社は同年12月に、それぞれキャ

タピラン+等の取扱いを停止した。なお、上記10社のうち3社は、そも

そもキャタピラン+等を取り扱っていなかった(ただし、うち1社は、本

件告知行為後、キャタピラン+等の関連商品であるキャタピーコード+の

取扱いを停止した。)。(甲48ないし50、弁論の全趣旨)

⑵ 告知行為の違法性

ア 競業者が知的財産権を侵害していないにもかかわらず、その権利者にお

いて当該競業者が当該知的財産権を侵害する旨告知し又は流布する行為は、

不正競争防止法2条1項21号に定める不正競争に該当する。もっとも、

上記行為が、知的財産権の正当な権利行使の一環としてなされたものと認

められる場合には、知的財産権の重要性に鑑み、違法性を欠くものという

べきである。

イ これを本件についてみると、前記前提事実によれば、本件通知書(別紙

参照)には、知的財産高等裁判所において、キャタピラン等の製造が本件

特許権を侵害する旨の判決が言い渡されたこと、原告が、当該判決を受け

入れ、キャタピラン等の製造・販売が本件特許権侵害になることを認めた

こと、残された諸問題について包括的な和解による全面的な解決のため、

原告と被告A間で協議が続けられてきたものの、全てについては合意に至

ることができず、被告Aはキャタピラン+等の製造・販売等の差止めを求

める仮処分を提起したこと、通知人としては、原告が現在も製造・販売し

ているキャタピラン+等は、本件特許権を侵害していると考えていること、

通知人は、貴社(送付先のこと。以下同じ。)が、上記判決が対象とした

キャタピラン等を原告から仕入れている事実を把握していること、特許権

を侵害するキャタピラン等を貴社が販売する行為も本件特許権を侵害する

行為であり、貴社に対し、キャタピラン等の販売の差止め、在庫の廃棄、

損害賠償等を請求する権利を有していること、直ちにキャタピラン等、キ

ャタピラン+等及びこれらを靴紐として装着する等している靴等の商品の

販売を停止し、かつ、それらの販売を今後一切行わないことを誓約する書

面の提出を求めること、損害額の算定のため、貴社が上記の商品を販売開

始してから現在に至るまでの利益額が分かる資料の送付も求めること、2

週間以内に回答がなかったときは、貴社に対し、法的手続を取ることを検

討せざるを得ないこと、本件特許権侵害による貴社の法的責任は、原告の

法的責任とは別個の責任であるため、対応は原告に委ねる等の回答は認め

られないこと、以上の内容が順に記載されていることが認められる。

上記認定事実によれば、本件通知書は、キャタピラン+等については、

裁判所によって本件特許権を侵害する旨の判断が未だされていないにもか

かわらず、キャタピラン等について裁判所によって本件特許権を侵害する

旨の判断が確定した経緯を詳述した上、キャタピラン+等についても、キ

ャタピラン等と同様に、本件特許権を侵害する趣旨を述べて、販売の即時

停止及び損害賠償額の算定に関する資料の開示を求めるものであることが

認められる。

そうすると、原告と被告会社は、「結ばない靴紐」の市場において競業

しているところ、本件告知行為は、本件通知書の上記内容に鑑みると、裁

判所によって本件特許権を侵害する旨の判断が確定したキャタピラン等の

存在を奇貨として、そのキャタピラン等の改良品であるキャタピラン+等

についても、販売の即時停止及び損害賠償額の算定を実現させて、「結ば

ない靴紐」の市場からこれを排斥しようとするものであると認めるのが相

当である。

したがって、一般の読み手の普通の注意と読み方とを基準として判断す

れば、本件告知行為の相手方は、裁判所によって本件特許権を侵害する旨

の判断が確定したキャタピラン等と同様に、キャタピラン+等についても、

本件特許権を侵害するおそれがあるとの強い印象を受けるものと認めるの

が相当である。

現に、前記認定事実によれば、本件告知行為は、原告の取引先のうち、

キャタピラン等の売上げが多く、通知人においてある程度の損害賠償額に

なると予想した10社に対し行われたところ、このうち4社は、本件告知

行為によって、キャタピラン+等の取扱いを停止していることが認められ

るのであるから、原告は、重要な取引先4社からキャタピラン+等につき

取引を停止されたということができる。そして、本件告知行為を受けたの

に、キャタピラン+等について取扱いを停止しなかった3社についても、

原告がキャタピラン+等については本件特許権を侵害していない旨説明を

したことが取引継続の一因となっていることが認められ、そのうち1社か

らは、最終的にキャタピラン+等が返品されていることも認められる。

しかも、前記認定事実によれば、原告は、前訴の本件中間判決を受け、

平成31年4月19日、令和元年5月中旬頃にキャタピラン+等の販売を

開始する旨プレスリリースを行い、実際に同月頃から、キャタピラン等を

設計変更したキャタピラン+等の製造・販売を始めていたのであり、本件

包括協議において、原告から被告Aに対し、キャタピラン+等への入替え

に伴い、キャタピラン等の在庫を回収していることが伝えられた上、現に

その際添付された資料(甲40の2)によれば令和元年7月以降のキャタ

ピラン等の売上高がマイナスになっていることが認められる。そうすると、

本件告知行為時点で、被告Aは、原告がキャタピラン等からキャタピラン

+等へ商品を入れ替え、「結ばない靴紐」の市場においてキャタピラン等

の販売が縮小していることを十分に認識していたといえる。これらの事情

を踏まえると、本件通知書において、通知人は、キャタピラン等及びキャ

タピラン+等の販売停止を求めているものの、その主眼は、「結ばない靴

紐」の市場に新規参入してきたキャタピラン+等の販売停止にあったもの

と認めるのが相当である。

のみならず、本件告知行為は、本件仮処分手続において原告が第1主張

書面を提出してから約3週間後になされているところ、同書面によれば、

原告は、本件発明の解釈として、非伸縮性素材からなる中心ひもは、伸縮

性素材からなるひも本体と比して伸縮性が乏しい旨指摘した上で、キャタ

ピラン+等のひも本体と芯材(中心ひも)の伸縮性を比較した試験結果の

疎明資料を用いて、キャタピラン+等は本件特許権を侵害しないと主張し

たことが認められる。そして、そもそもキャタピラン+等は、キャタピラ

ン等が本件特許権を侵害する旨の前訴の本件中間判決を受けて製造・販売

されたものであるところ、被告Aは前訴の当事者である上、プレスリリー

ス(甲41)やキャタピラン+等への入替えをしている旨のメール(甲4

の1)を通じて、このような経緯は被告らも当然認識していたといえる。

そうすると、被告らは、キャタピラン+等は、キャタピラン等とは異なり、

本件特許権を侵害しないように製造された改良品であることを前提に、キ

ャタピラン+等が本件特許権を侵害するか否かについて慎重に調査すべき

であったといえるが、被告らがそのような調査をしたことを認めるに足り

る的確な証拠はない。

かえって、前記2のとおり、キャタピラン+等が本件発明の構成要件B

①を充足しているかについては、構成要件B①の解釈に争いがあるものの、

「非伸縮性素材」が「伸縮性素材」よりも伸縮性に乏しいものであること

は文言上当然想定すべき解釈であるし、当該解釈を前提とした場合に、キ

ャタピラン+等が同構成要件を充足しないことは、ひも本体と中心ひも

(芯材)の伸縮性の違いを調べれば容易に明らかにされることである上、

当該調査もキャタピラン+等(靴紐)を切断するなどして容易に行えるも

のである。それにもかかわらず、被告ら(通知人に被告会社も含むことは

後記5のとおりである。)は、そのような調査をしないばかりか、当該構

成要件の解釈や伸縮性に係る調査結果を原告から詳細に主張書面で指摘さ

れた後に、漫然と、キャタピラン+等が本件特許権を侵害しているとの本

件告知行為に及んだことが認められる。

そうすると、被告らは、遅くとも原告の上記第1主張書面を受領した時

点で、キャタピラン+等については本件特許権を侵害しない可能性が相当

程度あることについて容易に認識できたにもかかわらず、その直後にあえ

て本件告知行為を行ったということができる。

これらの事情を総合して、本件告知行為の実態を詳細にみると、本件告

知行為は、裁判所によって本件特許権を侵害する旨の判断が確定したキャ

タピラン等の存在を奇貨として、本件特許権を侵害しないように改良され

たキャタピラン+等についても、裁判所による判断がされる前に、本件特

許権を侵害する趣旨を告知し、原告の取引先に対する信用を毀損すること

によってキャタピラン+等を早期に「結ばない靴紐」の市場から排斥し、

競業する事業者間の競争において優位に立つことを目的としてされたもの

であることが認められ、その態様は、悪質であるといわざるを得ない。

したがって、本件告知行為は、本件特許権の正当な権利行使の一環とし

てなされたものであると認めることはできず、違法性を欠くものというこ

とはできない。そして、上記において説示した事情を踏まえると、被告ら

には明らかに過失があったものと認めるのが相当である。

ウ これに対し、被告らは、本件通知書はキャタピラン+等が本件特許権の

侵害品であることが客観的に認められたと誤解することのないように記載

されており、現に、そのように誤読した送付先は一つも存在しないし、継

続して通知行為を行ってはいないことなどからすれば、本件告知行為は、

本件特許の特許権者による正当な権利行使であると主張する。

しかしながら、証拠(甲34の1、乙A12)及び弁論の全趣旨によれ

ば、本件告知行為後、現に、①原告に対し、キャタピラン+等の販売開始

に当たり、問題がないということだったにもかかわらず、被告会社から本

件通知書が届いていること、原告は問題ないと今も言うが、当社としては

どうなるか分からないものを現段階で扱うことはできないので返品・清算

したい旨通知してきた取引先のほか、②被告Aに対し、キャタピラン等及

びキャタピラン+等に関する原告及び被告A間の紛争が解決するまで、こ

れらの商品の販売を停止する旨回答してきた取引先があったことが認めら

れる。そうすると、上記において説示したとおり、本件通知書の内容に鑑

みると、本件告知行為の相手方は、裁判所によって本件特許権を侵害する

旨の判断が確定したキャタピラン等と同様に、キャタピラン+等について

も本件特許権を侵害するおそれがあるとの強い印象を受けたと認めるのが

相当である。したがって、キャタピラン+等が本件特許権の侵害品である

ことが客観的に認められたと誤解されていない旨の被告らの主張を前提と

しても、上記判断を左右するに至らない。

そして、本件告知行為が1回のみであり継続的なものではないとの被告

らの主張についても、被告らは、本件告知行為の約2週間後には、かえっ

て原告から、本件告知行為の不当を訴える本件訴訟を提起されているので

あるから、そもそも本件告知行為を継続し得なかったとみるのが自然であ

る上、本件告知行為が1回のみであっても、キャタピラン+等の取引を停

止した取引先が4社あることからすれば、その影響が軽微なものであった

とは到底いうことはできない。

これらの事情を踏まえると、本件告知行為の悪質性に照らし、被告らの

主張は上記認定を左右するものではない。

その他に、被告らは本件告知行為の違法性及び過失の有無について縷々

主張するが、本件告知行為の悪質性に鑑みると、上記判断を左右するもの

とはいえない。したがって、被告らの主張は、いずれも採用することはで

きない。

争点3(被告会社の通知主体該当性)について

前記前提事実によれば、本件通知書には、差出人欄に「A代理人」、本文に

「当職らは、A氏(株式会社 COOLKNOT JAPAN代表者代表取締

役、以下「通知人」といいます。)から委任を受けた代理人として、貴社に対

し、以下のとおりご連絡いたします。」と記載された上で、通知人と原告との

間における前訴において、キャタピラン等の製造が、通知人が共有する本件特

許権を侵害する旨の判決が言い渡されたこと、キャタピラン等及びキャタピラ

ン+等の販売を停止し、当該商品の利益額が分かる資料を送付するよう求める

ことが記載されていることが認められる。そして、上記4において認定したと

ころによれば、本件告知行為は、裁判所によって本件特許権を侵害する旨の判

断が確定したキャタピラン等の存在を奇貨として、本件特許権を侵害しないよ

うに改良されたキャタピラン+等についても、裁判所による判断がされる前に、

本件特許権を侵害する趣旨を告知し、原告の取引先に対する信用を毀損するこ

とによってキャタピラン+等を早期に「結ばない靴紐」の市場から排斥し、競

業する事業者間の競争において優位に立つことを目的としてされたものである

ことが認められる。

上記各認定事実によれば、本件通知書には、通知人が被告会社の代表取締役

である旨の肩書も付されている上、本件通知書の内容が実現されれば、「結ば

ない靴紐」の市場において優位に立つのは、被告会社であることは自明である

から、一般の読み手の普通の注意と読み方とを基準として判断すれば、「結ば

ない靴紐」製品を販売していない被告Aのみならず、同製品を販売して原告と

市場で競業する被告会社についても、本件告知行為の主体であると容易に認識

されるものといえる。現に、証拠(甲34の1)及び弁論の全趣旨によれば、

本件通知書を受領した取引先の中には、本件告知行為の主体が被告会社である

と明らかに認識している取引先も存在することが認められる。

これらの事情の下においては、被告会社も、被告Aと共同で本件通知書によ

り本件告知行為をした者と認めるのが相当である。

これに対して、被告会社は、本件特許権は被告A個人が共有しているもので

あり、被告会社はその持分を一切有していないから、被告会社は本件特許権侵

害を理由とする差止請求権等を有する者ではなく、本件告知行為の主体になり

得ないと主張する。しかしながら、本件告知行為が本件特許権の行使の一環と

しての外形をとりながら、その実質は、競業者である原告の取引先に対する信

用を毀損することなどを目的としてされたものであることは、上記説示のとお

りである。そうすると、被告会社の主張は、本件通知書の実質を看過するもの

であり、一般の読み手の普通の注意と読み方とを基準として本件通知書の内容

を主張するものとはいえない。

したがって、被告会社の主張は、採用することができない。

争点4(損害)について

原告は、本件特許権を侵害する旨の前訴の裁判所の判断を踏まえ、「結ばな

い靴紐」の市場からキャタピラン等を撤退させ、新たにその改良品であるキャ

タピラン+等をもって市場に参入したところ、当該改良品までもがキャタピラ

ン等と同様に本件特許権を侵害するものである旨取引先に虚偽の事実を告知さ

れているところ、このような本件告知行為に至る経緯のほか、本件通知書の内

容、これが送付された取引先の数、キャタピラン+等の取引を停止した取引先

の数、その後の原告の取引先に対する対応その他の本件に現れた一切の事情を

総合考慮して、本件告知行為により原告の営業上の信用が毀損された無形損害

の額を算定すれば、本件告知行為の悪質性に鑑みると、無形損害の額であって

も少なくとも100万円を下らないと認めるのが相当である。

したがって、本件告知行為による損害額は、100万円の限度で認めるのが

相当である。

これに対し、被告らは、本件通知書の記載は、キャタピラン+等が本件特許

権の侵害品であると認識させるようなものではなく、実際にも、本件通知書を

受領した10社においてキャタピラン+等が特許侵害品であると認識した取引

先等は存在せず、有形損害は発生していないから、法的保護に値する無形損害

など一切発生していないことは明らかであるし、仮に原告に何らかの無形損害

が生じていたとしても、それはキャタピラン+等が本件特許権の侵害品である

という「虚偽の事実」以外の記載に起因するものであって、当該無形損害との

間に相当因果関係は存在しないと主張する。

しかしながら、本件告知行為の相手方が、裁判所によって本件特許権を侵害

する旨の判断が確定したキャタピラン等と同様に、キャタピラン+等について

も本件特許権を侵害するおそれがあるとの強い印象を受けるものと認められる

ことは、上記において繰り返し説示したとおりである。そして、現にキャタピ

ラン+等の取引を停止した取引先が4社あると認められることも、上記におい

て繰り返し説示したとおりである。したがって、被告らの主張は、本件告知行

為の悪質性又はその後に生じた重大な影響を看過するものに帰し、上記判断を

左右するものとはいえない。

その他に、被告らは本件告知行為による無形損害の発生について縷々主張す

るが、本件告知行為の悪質性等に鑑みると、いずれも上記結論を左右するもの

ではない。

したがって、被告らの主張は、いずれも採用することができない。

第5 結論

よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は、主文記載

の限度で理由があるから、これを認容し、その余を棄却することとし、仮執行

免脱宣言については、相当ではないからこれを付さないこととして、主文のと

おり判決する。

東京地方裁判所民事第40部

裁判長裁判官

中 島 基 至

裁判官

古 賀 千 尋

裁判官

國 井 陽 平

(別紙)

物 件 目 録

1 キャタピラン+

2 キャタピーエアー+

3 キャタピラン+リフレクター

4 キャタピーエアー+リフレクター

(別紙)

特 許 権 目 録特許番号 特許第5079926号発明の名称 チューブ状ひも本体を備えたひも出願日 平成24年7月4日登録日 平成24年9月7日

(別紙)

通 知 書(以下、省略)

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