令和2(行ケ)10120審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
令和4年11月9日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
原告エイサーインコーポレイテッド 被告ピービーエックスホールディングエルエルシー
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法令 |
商標権
商標法50条8回 商標法50条1項2回 商標法2条3項8号2回 民法1条3項1回 民法1条2項1回 商標法50条2項1回 商標法1条1回
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キーワード |
商標権62回 審決16回 無効審判1回 無効1回 ライセンス1回
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主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30 |
事件の概要 |
本件は,商標法50条1項に基づく商標登録取消審判請求に対して,これを認め
た審決の取消訴訟である。争点は,以下の1の商標(以下,「本件商標」という。)
の使用の有無である。 |
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判決文
令和4年11月9日判決言渡
令和2年(行ケ)第10120号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和3年4月22日
判 決
原 告 エイサー インコーポレイテッド
同訴訟代理人弁護士 田 中 克 郎
同訴訟復代理人弁護士 佐 藤 力 哉
関 川 淳 子
同訴訟代理人弁理士 佐 藤 俊 司
廣 中 健
太 田 雅 苗 子
被 告 ピービーエックス ホールディング エルエルシー
同訴訟代理人弁理士 小 暮 理 恵 子
行 田 朋 弘
安 部 光 河
村 山 靖 彦
実 広 信 哉
阿 部 達 彦
渡 部 崇
堀 江 健 太 郎
黒 田 晋 平
崔 允 辰
松 尾 直 樹
塩 尻 一 尋
飯 田 雅 人
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30
日と定める。
事 実 及 び 理 由
以下,書証を掲記する際には,枝番号の全てを含むときは,その記載を省略する
ことがある。
第1 請求
特許庁が取消2018-300153号事件について令和2年6月8日にした審
決を取り消す。
第2 事案の概要
本件は,商標法50条1項に基づく商標登録取消審判請求に対して,これを認め
た審決の取消訴訟である。争点は,以下の1の商標(以下,「本件商標」という。)
の使用の有無である。
1 本件商標について
原告は,別紙「商標目録」記載の「商標」のとおりの構成からなる商標について,
同別紙の「指定商品・区分」記載の商品を指定商品とする商標登録第224478
8号商標の商標権者である(甲1,2)。
2 特許庁における手続の経緯等
被告は,平成30年3月16日,特許庁に対し,本件商標の指定商品中,第7類
「起動器,交流電動機及び直流電動機(陸上の乗物用の交流電動機及び直流電動機
〔その部品を除く。〕を除く。,交流発電機,直流発電機」
) ,第9類「配電用又は制
御用の機械器具,回転変流機,調相機,電池,電線及びケーブル,電気通信機械器
具,電子応用機械器具及びその部品」及び第12類「全指定商品」
(以下,これらの
指定商品を「本件指定商品」という。)の商標登録を取り消すことを求めて,商標法
50条1項に基づき商標登録の取消審判(以下,
「本件審判」という。 を請求した。
)
特許庁は,本件審判の請求を,同月30日に登録し,取消2018-30015
3号事件として審理した上で,令和2年6月8日,
「登録第2244788号商標の
指定商品中,第7類『起動器,交流電動機及び直流電動機(陸上の乗物用の交流電
動機及び直流電動機〔その部品を除く。〕を除く。,交流発電機,直流発電機』
) ,第
9類『配電用又は制御用の機械器具,回転変流機,調相機,電池,電線及びケーブ
ル,電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品』及び第12類『全指定商
品』についての商標登録を取り消す。 との審決
」 (以下,
「本件審決」という。 をし,
)
その謄本は,同月18日,原告に送達された。
本件商標登録について,商標法50条2項に規定する「審判の請求の登録前3年
以内」とは,平成27年3月30日から平成30年3月29日までの期間(以下,
「本件要証期間」という。)となる。
3 本件審決の理由
(1) 液晶パネルについて
甲8(CHIKAZO〔当時の運営責任者名A〕 amazon.co.jp における
の 「Packard
Bell Easy Note tk37 シリーズ 15.6 " LCD LED 表示画面 WXGA HD Screen Size: 15.6"
LED-1366-768-G-40-15.6-14140」と題するウェブページのプリントアウト)による
と,平成30年7月23日に,「Packard Bell Easy Note tk37 シリーズ 15.6」と称す
る商品「交換用液晶パネル」が,価格10万5065円で,販売を目的として「C
HIKAZO」によりAmazonで広告されたといえる(以下,CHIKAZO」
「
のウェブサイトの上記ページを「本件ウェブページ」といい,本件ウェブページに
記載された「交換用液晶パネル」を「本件液晶パネル」という。。
)
しかし,本件液晶パネルは,Amazonでの取扱い開始日が平成29年8月8
日であることは確認できるものの,商標権者に係る商品であるとする表示はなく,
また,商標権者により製造されたものであるかも不明であり,さらに,上記販売元
と商標権者の関係も不明である。
また,本件商標は,その構成中「PACKARD BELL」の文字とその上下
に配された赤色の帯状図形からなるもので,全体として一体的に表されたものと看
取されるが,本件液晶パネルに表示された「Packard Bell」の文字(以
下,「本件使用商標」という。)は,文字のみであって,本件商標が有する文字の上
下に配されている赤色の帯状図形はない。
本件使用商標は,文字のみより構成され,本件商標が有する特徴的な構造である
帯状図形を伴わないものであり,自他商品識別標識として本件商標と同一の機能を
果たすものといえないから,本件商標と社会通念上同一の商標ということはできな
い。
(2) コンピュータモニター用ディスプレイ用操作ガイドについて
甲17(セカイモンにおける「B」の「Packard Bell 1989 By Epson America
Incorporated computer vintage」と題するウェブページのプリントアウト) 甲19
, (セ
カイモンにおける「コンピュータモニター用ディスプレイ用操作ガイド」の購入詳
細のプリントアウト)によると,出品者が「B」であって,
「sekaimon」の
ウ ェ ブ サ イ ト に 出 品 さ れ た 「 Packard Bell 1989 By Epson America Incorporated
computer vintage」と称する商品は,
「PACKARD BELL」の文字とその上下
に配された赤色の帯状図形からなるものが一部に表示された複数の書類であり,当
該商品は,平成31年10月1日にセカイモン物流センターに到着して,同年10
月10日に顧客に商品が配達されたものである。
当該商品には,
「PACKARD BELL」の文字とその上下に配された赤色の
帯状図形からなる本件商標と社会通念上同一といい得るものが表示されているもの
の,当該商品が「コンピュータモニター用ディスプレイ用操作ガイド」であること
はもとより,
「商品情報」の記載からも,いかなる商品であるか,その詳細は不明で
ある。また,当該商品が商標権者に係る商品であるとする表示はなく,商標権者に
より製造されたものであるかも不明であり,出品者(取引者)と商標権者との関係
も不明である。さらに,上記の取引は,本件要証期間内の取引とはいえない。
(3) コンピュータユーザーマニュアルについて
甲21(セカイモンにおける出品者「C」の「Packard Bell IS/VT 286 Microsoft GW
Basic Interpreter Computer User Manual (A5)」と題するウェブページのプリントアウ
ト)によると,出品者が「C」であって,
「sekaimon」のウェブサイトに出
品された「Computer User Manual (A5)」と称する商品「ユーザーマニュアル」には,
白色のバインダー及びそのバインダーのケースに「PACKARD BELL」の
文字とその上下に赤色の帯状図形が表示されている。
当該商品には,中間に配された「PACKARD BELL」の文字とその上下
に配された赤色の帯状図形からなる本件商標と社会通念上同一といい得るものが表
示されているものの,当該商品が商標権者に係る商品であるとする表示はなく,商
標権者により製造されたものであるかも不明であり,出品者(取引者)と商標権者
の関係も不明である。また,ウェブサイトへの掲載日が不明であって,本件要証期
間内の出品とはいえない。したがって,この証拠からは,商標権者が,本件要証期
間内に本件商標と社会通念上同一の商標を使用していたとはいえない。
(4) 以上のとおり,原告が提出した証拠によっては,本件要証期間内に,商標
権者が,本件指定商品について本件商標の使用をしたことを認めることはできない
から,原告は,本件要証期間内に,日本国において,商標権者,専用使用権者又は
通常使用権者(以下,専用使用権者又は通常使用権者を併せて「使用権者」といい,
商標権者と使用権者を併せて「商標権者等」という。)のいずれかが本件審判の請求
に係る本件指定商品のいずれかについて本件商標の使用をしていた事実を証明した
ものとは認められない。
また,原告は,本件審判の請求に係る本件指定商品について,本件商標の使用を
していないことについて,正当な理由があることも明らかにしていない。
したがって,本件商標登録は,商標法50条の規定により,その指定商品中,本
件指定商品についての登録を取り消すべきものである。
第3 原告主張の審決取消理由
1 本件商標は,以下のとおり,流通業者による使用を通じて,原告によって,
本件要証期間中に,その指定商品中,第9類「電気通信機械器具」について使用さ
れた事実があるから,本件審決の判断には誤りがある。
(1) CHIKAZOによる使用
ア 商標法50条により商標登録が取り消されるのは,当該商標を「使用」
していないときであり,この「使用」の事実の判断に当たって,
「商標権者に係る商
品であるとの表示」といった要件は課されていない。本件審決は,同表示がないこ
とをもって本件商標の使用の事実を否定しており,誤りがある。
イ アマゾン合同会社の運営に係るECサイト(以下,Amazonサイト」
「
という。)におけるショップ「CHIKAZO」(甲7)が出品する本件液晶パネル
の販売ページ(本件ウェブページ。甲8)には,
「Packard Bell Easy Note tk37 シリー
ズ 15.6」との表示があり,当該表示の下のブランド名欄(甲22)には「PACK
ARD BELL」との表示がある。
原告傘下のPBブランドには,「Easy Note」とのノートブック型パソコンシリー
ズがあり,同シリーズには「TK37」というモデルが存在しており,米国の大手スー
パーマーケットである「Walmart(ウォルマート)」のECサイトにおいても
販売されている(甲23,24)。
本件液晶パネルは,このPBブランドの「Easy Note」のうち「TK37」というモデ
ルの交換用液晶パネルとして製造販売された,原告が有するPBブランドに係る商
品である。
したがって,本件液晶パネルを販売する本件ウェブページ(甲8)に「Pack
ard Bell」との文字を表示させる行為は,
「商品・・・に関する広告,価格
表もしくは取引書類に標章を付して展示」
(商標法2条3項8号)することによる本
件商標の使用である。
ウ 被告は,原告が複数の国で「Packard Bell」に係る事業を
放棄しており,米国では被告が当該ブランドの所有者となっていること,CHIK
AZOが米国からの輸入品を扱うショップであること,原告が台湾に本拠を有する
ことから,本件液晶パネルは,商標権者等が,業として商品を生産し,証明し,又
は譲渡(以下,「生産等」という。)した商品ではない旨主張する。
しかし,
「EasyNote」は,被告が製造販売する商品ではなく,原告のPB
ブランドの商品である(甲23) また,
。 原告は,多国籍企業であり,2008年(平
成20年)に買収した「Packard Bell B.V.(以下,
」 「パッカード
ベル社」という。)もオランダの会社であって(甲27),同社が原告傘下となって以
降も,PBブランドの商品は,多数の国で販売されている(甲28)。そして,その
商品の性質上,中間流通業者等によって国境をまたいで転々流通している。したが
って,被告が主張する上記事情は,本件液晶パネルが商標権者等の生産等に係る商
品であることを否定するものではない。
エ 本件審決は,本件商標の「使用」に当たらない理由として,CHIKA
ZOと原告の関係が不明であることも挙げている。
しかし,Amazonサイトにおけるショップ「CHIKAZO」
(甲7)の「ス
トアフロント」欄の説明文言や,CHIKAZOの過去12か月間における56件
の評価(98%が肯定的)や顧客から投稿されたフィードバック等に鑑みると,C
HIKAZOが,業としてAmazonサイト上で,商品を販売等しており,本件
ウェブページでの「Packard Be11」との表示も名目上の使用や偽りの
表示などではないことは明らかである。CHIKAZOは,日本に所在する「輸入
ショップ」であり,原告が有するPBブランドに係る本件液晶パネルの日本におけ
る流通業者である。
知財高裁判平成24年(行ケ)第10310号平成25年3月25日判決(以下,
「Fashion Walker事件判決」という。甲11)は,
「商標権者等が登
録商標の使用をしている場合とは,特段の事情のある場合はさておき,商標権者等
が,その製造に係る商品の販売等の行為をするに当たり,登録商標を使用する場合
のみを指すのではなく,商標権者等によって市場に置かれた商品が流通する過程に
おいて,流通業者等が,商標権者等の製造に係る当該商品を販売等するに当たり,
当該登録商標を使用する場合を含むものと解するのが相当であ」 「このように解
り,
すべき理由は,今日の商品の流通に関する取引の実情に照らすならば,商品を製造
した者が,自ら直接消費者に対して販売する態様が一般的であるとはいえず,むし
ろ,中間流通業者が介在した上で,消費者に販売することが常態であるといえると
ころ,このような中間流通業者が,当該商品を流通させる過程で,当該登録商標を
使用している場合に,これを商標権者等の使用に該当しないと解して,商標法50
条の不使用の対象とすることは,同条の趣旨に反することになるからである。 と判
」
断している。
CHIKAZOのような中間流通業者が,原告のPBブランドに係る本件液晶パ
ネルを販売するAmazonサイト上の本件ウェブページにおいて「Packar
d Bell」との文字を表示させることは,
「商品・・・に関する広告,価格表若
しくは取引書に標章を付して展示」(商標法2条3項8号)する行為にほかならず,
このような行為は,商標権者である原告による「使用」に当たる。
Fashion Walker事件判決は,商標権者等による使用が3年以上前
に終了していたとしても,その後要証期間内に中間流通業者による使用が判明した
場合には,当該使用を証拠とすることによって商標登録の取消しを免れるものとし
たが,これは,一見使用されていない商標登録について,その使用を欲する商標権
者以外の者と当該商標権者とのバランスとして,過去に一定の商標の使用を行って
きた商標権者がその商標登録の使用継続を欲して証拠の提出を行うのであれば,当
該商標権者に,その商標を継続して使用させるべきであるという価値判断を行った
ものである。
本件においても,原告において,本件要証期間内に,自ら直接使用した証拠を提
出することはできないとしても,本件要証期間内における中間流通業者による使用
の事実を明らかにした以上は,原告に本件商標の使用の継続が認められるべきであ
る。
オ 被告は,Fashion Walker事件判決は,商標権者等が日本
国内で販売していた事案であって,本件と異なる旨を主張する。
しかし,Fashion Walker事件判決が,中間流通業者による使用を
商標権者等の使用と解すべきとした理由は,「今日の商品の流通に関する取引の実
情に照らすならば,商品を製造した者が,自ら直接消費者に対して販売する態様が
一般的であるとはいえず,むしろ,中間流通業者が介在した上で,消費者に販売す
ることが常態であるといえる」ことにある。今日,海外大手パソコンメーカー(例
えば,原告以外にも,Lenovo,DELL,hp,Apple,Micros
oft,ASUS,LG,HUAWEI等)のパソコンの交換パーツが中間流通業
者を媒介して日本国内でECサイト等を通じて流通することは常態化しているため,
本件液晶パネルが商標権者等によって最初に市場に置かれたのが日本国外であった
ことをもって,本件がFashion Walker事件判決の判断の射程外であ
ると解することはできない。今日の商品の流通に関する取引の実情に鑑みると,本
件液晶パネルがECサイト等を通じて日本国内で流通することは,商標権者等にと
って当然に想定されたルートによる流通である。
したがって,PBブランドに係る本件液晶パネルが日本国内において中間流通業
者であるCHIKAZOによってAmazonサイトに出品され,その広告におい
て本件商標が使用されることは,原告の意思に反するものではなく,商標権者等に
よる使用である。
カ また,被告は,Fashion Walker事件判決が本件に当ては
まるとしても,CHIKAZOが本件液晶パネルを販売していたことが証明されて
いないと主張する。
しかし,本件ウェブページ(甲8)によると,CHIKAZOが本件液晶パネル
を販売するために出品していることは自明であり,被告が指摘するような,CHI
KAZOのストアフロント欄の説明文言,顧客からの評価やフィードバック等(甲
7)が自作自演であると解すべき合理的理由は見当たらない。
(2) 社会通念上同一の商標であること
ア 本件商標のうち「PACKARD BELL」の欧文字部分こそが自他
商品識別機能を果たす部分であり,帯状図形部分は,同文字部分を単に装飾するも
のにすぎず,また,極めて単純,かつ,ありふれた図形であって,格別特徴的なも
のでもないから,取引者,需要者に特に顕著な印象を与えるものとは認められない。
そして,本件商標の「PACKARD BELL」の欧文字部分と本件使用商標
である「Packard Bell」との文字とを対比すると,頭文字以外の文字
に大文字・小文字の違いはあるが,構成する文字は同一であり,その字体の違いも
特に目立ったものではなく,両者の称呼は同一である。
したがって,本件商標と使用商標とは,商標法50条の「商標の使用」に関して,
社会通念上同一の商標と認められる。
イ 本件と同様に,文字と図形の組み合わせからなる商標と,その文字部分
のみからなる商標が「社会通念上同一」か否かが争われる事案において,図形部分
が自他識別標識として果たす役割は小さく,翻って文字部分が自他商品識別標識と
しての機能を発揮しているとして,登録商標と使用商標が「社会通念上同一」であ
ると判断されたものが多数存在する(甲12,25,東京高等裁判所平成15年(行
ケ)第124号同年10月30日判決,知的財産高等裁判所平成30(行ケ)第1
0101号同年12月19日判決)。
また,2008年(平成20年)に原告に買収されたパッカードベル社は,20
06年(平成18年)10月まで,日本の法人である日本電気株式会社(以下,
「N
EC」という。)のグループ会社であり,日本市場においてもPBブランドのパソコ
ン等が広く流通していた(甲26,27)から,
「Packard Bell」の商
標は,日本の需要者の間において認知されている。
このような事情に照らすと,本件商標のうち「PACKARD BELL」との
文字部分が自他識別機能を果たす部分であることは明らかである。
2 被告の本件審判請求が信義則に反し権利濫用に当たること
(1) パッカードベル社は,1926年に創業し,ラジオ,テレビジョン,パー
ソナルコンピュータ等の家庭用電機製品を販売してきた。同社は,本件商標をはじ
め,
「PACKARD BELL」商標を同社の業務に係る商品に使用されるハウス
マークとし,当該商標を使用して,1986年より,一般家庭ユーザー向けパーソ
ナルコンピュータを販売し,さらに,DVDプレーヤー,PVR,MP3プレーヤ
ー,GPS,ストレージ製品を販売してきた(甲29)。
原告は,2008年(平成20年)に,パッカードベル社を買収し,現在世界第
3位のノートブック型コンピュータメーカーとなり(甲15,29),パッカードベ
ル社は,現在,原告の傘下で事業を行っている。パッカードベル社は,
「PACKA
RD BELL」商標を使用した家庭用電機製品を,フランス,ハンガリー,オラ
ンダ,トルコ共和国,ウクライナ,英国,南アフリカ共和国をはじめとした世界3
1の国や地域で取り扱っている(甲28) このため,
。 「PACKARD BELL」
商標には,パッカードベル社や原告の信用や顧客吸引力が化体している。
(2) 他方,米国の「JMM Lee Properties, LLC」 以下,
(
「JLP社」という。)は,2011年(平成23年)7月,2016年(平成28
年)10月及び同年12月に,米国において,
「PACKARD BELL」の欧文
字を標準文字で横一連で表した複数の商標の商標登録(以下,
「被告米国商標」と総
称する。)を出願し(甲3,30~32,乙19),その後,被告米国商標は,20
17年
(平成29年)12月6日付けで同社から被告に譲渡された(甲30~32)。
JLP社は,第三者の信用や顧客吸引力の化体する多数の商標について商標登録
を有しており,そのウェブサイトにおいてこれらの商標を用いたブランドの歴史,
同商標が使用できる商品の種類及び同商標の使用開始日等の情報を提供の上,ライ
センシーを募っている(甲33,34)ところ,2018年(平成30年)頃,米
国の会社である「Southern Telecom Inc」(以下,「ST社」
という。)が,「PACKARD BELL」商標を使用してノートブック型コンピ
ュータ等の家庭用電機製品の販売を開始しており(甲35) これは被告によるライ
,
センスに基づくものであると考えられる。
被告がST社を通じて展開する「PACKARD BELL」ブランドは,その
ブランドロゴや色彩等の点を含め,あたかも原告傘下のPBブランドと関連がある
かのように広告宣伝されており(甲35,39),被告は,米国において,明らかに
原告傘下のPBブランドに擦り寄るような態様で,その信用にフリーライドしなが
ら,ST社を通じて「PACKARD BELL」商標の使用を展開している。
JLP社やST社は,原告とは何ら関係がない会社である。
(3) 被告は,平成30年3月6日に,我が国において,米国登録商標と同じ「P
ACKARD BELL」の欧文字を標準文字で横一連にて表した商標(以下,
「被
告出願商標」という。)を商標登録出願した(甲40)。そして,その出願とほぼ同
時に,被告出願商標にとって先願となる本件商標について本件審判請求がされた。
(4) 以上の経緯に照らすと,本件審判請求は,被告出願商標を登録させる目的
でされたものであり,当該商標の登録及び使用は,原告の商標に化体・蓄積した信
用や顧客吸引力等にただ乗りすることを意図してされたものである。
仮に,被告出願商標が登録されたとしても,その権利取得に不正の意図があるこ
とや,被告出願商標に化体した信用が原告やパッカードベル社に帰属するものであ
ることからすると,被告による被告出願商標に基づく原告に対する権利行使は,権
利の濫用(民法1条3項,民訴法2条)として許されるものではない。
(5) また,本件審判請求は,被告による不正の意図に基づきされたものであっ
て,商標法の目的及び信義則(民法1条2項)に反するものというべきであり,し
かも,被告にとっても何の実益ももたらさない無意味な請求であって,新たな紛争
を招くものでしかなく,訴訟経済に反するものである。
仮に,本件審決が維持され,それに伴い被告出願商標が登録に至れば,原告は,
これに対する無効審判等の請求のために無用な手続的負担や費用を強いられるもの
であり,さらに,その間,原告が日本において自らのPBブランドを展開できない
ことにより甚大な損失を被ることになる。
(6) 以上のとおり,本件審判請求は,信義則に反し権利濫用に当たるので,認
められるべきではない。
第4 被告の主張
1 商標権者等による使用について
(1) 商標法50条の「商品についての商標の使用」とは,業として商品を生産
し,証明し,又は譲渡(生産等)する者が行う,その商品についての同法2条3項
1号,2号,8号,9号,又は10号に掲げる行為をいう(同法2条1項1号及び
同条3項)から,商標権者等が指定商品について登録商標の使用をしているという
ためには,その商品が,商標権者等が生産等した商品であることを証明しなければ
ならない。
(2)ア 本件ウェブページにおける「Packard Bell Easy Note tk37 シリーズ 15.6」
との表示や,当該表示の下のブランド名欄(甲22)の「PACKARD BEL
L」との表示は,本件商標の文字部分に相当する「Packard Bell」及
び「PACKARD BELL」の文字を単に示すにすぎず,本件液晶パネルが商
標権者等が生産等した商品であることを何ら証明するものではない。
イ 原告は,本件液晶パネルが,ノートブック型パソコンシリーズの一つで
ある「Easy Note」のうち「TK37」というモデルの交換用液晶パネルであり,原告が
有するPBブランドに係る商品である旨主張し,本件液晶パネルに対応するものと
して,Packard Bellのウェブページ(甲23)及び米国大手スーパー
マーケットのECサイトのウェブページ(甲24)を提出する。
しかし,原告は,CHIKAZOが本件ウェブページにおいて実際に取引してい
た商品に関する直接的な証拠は一切提出していない。また,原告も認めるように,
CHIKAZOは原告とは何らの関係のない流通業者であるため,本件ウェブペー
ジは,原告の商品を公式に広告宣伝するものではない。したがって,本件ウェブペ
ージにおける表示と,甲23,24における表示が部分的に一致するからといって,
本件液晶パネルが原告又は使用権者が生産等したものであるとは認定できない。
ウ また,原告は,米国を含む複数の国において,本件商標に係るブランド
「Packard Bell」に係る事業を2011年(平成23年)頃に放棄し
ており,現在では,被告が当該ブランドの所有者となっている(甲3,乙19)。甲
24には,「Acer」等の原告を示す表示は一切含まれていない。
したがって,甲24に係る液晶パネルが原告又は使用権者が生産等したものであ
ると認めることはできない。
仮に,甲24に係る液晶パネルは原告又は使用権者が生産等したものであるとし
ても,CHIKAZOは,米国からの輸入品を扱うショップであり(甲7),甲24
に係る液晶パネルを,CHIKAZOが本件ウェブページにおいて取り扱っていた
ことは立証されていない。
エ これらによると,本件液晶パネルが,台湾に本拠を有する商標権者等が
生産等した商品であるかどうかは明らかでない。
(3) 原告は,CHIKAZOと原告の関係が不明であるとした本件審決の判断
に誤りがあると主張する。
ア 商標法50条によると,被請求人は,商標権者等による使用を証明する
必要があるところ,原告は,CHIKAZOが流通業者であると主張するにすぎず,
専用使用権者又は通常使用権者とは主張していない。そのため,CHIKAZOと
原告の関係が不明であること,すなわち,CHIKAZOが専用使用権者又は通常
使用権者であるかが証明されていないことを理由として本件商標の使用を認めなか
った本件審決は誤った判断をしたものではない。
イ Fashion Walker事件判決は,対象商標の通常使用権者で
あるグンゼが商標の使用対象となったパンティストッキングを日本国内で販売し,
その販売の中止後も要証期間中に流通業者によって販売が継続されていたものであ
る。
一方,本件では,本件ウェブページにおいて広告宣伝されている本件液晶パネル
が原告又は使用権者が製造したものであるかは証明されておらず,原告が,本件液
晶パネルを本件要証期間前に自ら日本国内で販売していた事実は明らかになってい
ない。
このように,商標権者又は使用権者が当初より日本において商品を販売しており,
日本の市場で当該商品を流通させることを意図していたFashion Walk
er事件判決と,商標権者又は使用権者が日本において本件液晶パネルを販売して
おらず,日本において当該商品を流通させることを意図していなかった本件とでは
事案が異なる。
ウ 仮に,Fashion Walker事件判決が本件に当てはまるとし
ても,同事件では,商品を製造した通常使用権者であるグンゼが製造したパンティ
ストッキングを,流通業者であるアイ・ティ・エム・ユーが仕入れ,アイ・ティ・
エム・ユーが介在した上で,当該パンティストッキングが消費者に販売されたとい
う事実関係が明らかになっており,この事実関係は,Fashion Walke
r事件判決のいう「今日の商品の流通に関する取引の実情に照らすならば,商品を
製造した者が,自ら直接消費者に対して販売する態様が一般的ではあるといえず,
むしろ,中間流通業者が介在した上で,消費者に販売することが常態である」とし
ている点に合致する。
しかし,本件において,原告又は使用権者が液晶パネルを製造していたとしても,
CHIKAZOが当該液晶パネルの真正品を仕入れていたことは証明されていない
から,本件液晶パネルが商標権者等が生産等した商品であるかが証明されておらず,
かつ,CHIKAZOが本件液晶パネルを実際に販売していたことも立証されてい
ない。
このように,本件では,Fashion Walker事件判決のいう取引の常
態に該当する事実が認められないため,同事件判決の射程外である。
エ さらに,本件液晶パネルが原告又はその使用権者によって製造されたも
のをCHIKAZOが仕入れたものであったとしても,どのような状態で販売され
ていたのかは不明であるから,液晶パネルの品質が損なわれていなかったと判断す
ることはできない。液晶パネルの品質が損なわれていた場合,CHIKAZOの使
用は,本件商標の品質保証機能を害するものと一般的には解されるが,このような
行為を,本件商標の使用とみなし,本件商標の商標登録を維持することは,許され
るものではない。この観点からも,CHIKAZOによる本件ウェブページにおけ
る使用を,商標権者等による使用と認めることはできない。
オ 原告は,Amazonサイトにおけるショップ「CHIKAZO」甲7)
(
の「ストアフロント」欄の説明文言や,CHIKAZOの過去12か月間における
56件の評価や顧客から投稿されたフィードバック等に鑑みると,CHIKAZO
が,業としてAmazonサイト上で,商品を販売等しており,本件ウェブページ
での「Packard Be11」との表示も名目上の使用や偽りの表示などでは
ない旨主張する。
しかし,本件ウェブページには,液晶パネルを購入した者によるレビューはない。
説明文言,評価,フィードバック等は,CHIKAZOが実際に本件液晶パネルを
販売していることを証明するものではない上,原告が指摘する評価やフィードバッ
クが真の顧客によるものか又は自作自演によるものかも明らかではない。
また,甲4に示すように,CHIKAZOのような個人や小規模事業体での出店
の場合,在庫ありと表示されていても実際に在庫がない場合や,入金確認後は商品
発送を含め全く対応しない等,詐欺目的の出品も存在する。
したがって,CHIKAZOが本件液晶パネルを実際に販売していたことは,依
然として立証されていない。
2 社会通念上同一の商標であるかどうかについて
(1) 本件商標は,
「PACKARD BELL」の欧文字が赤色の帯状図形に上
下から挟まれている構成を有している。欧文字及び帯状図形は,共に,右方向に傾
斜しており,横方向の長さにおいて揃っている。欧文字と帯状図形の大きさを比較
しても,いずれかが極端に大きいか又は小さいといったことはなく,概ね同じ大き
さを有している。このように欧文字と帯状図形とは共通の外観的特徴を有し,お互
いに調和するようにデザインされているため,本件商標は,全体的に統一のとれた
一体不可分の商標として把握するべきである。
一方,本件ウェブページの「Packard Bell」の文字(本件使用商標)
は,文字のみであり,本件商標が有する赤色の帯状図形を伴っていない。
したがって,本件使用商標は,本件商標と社会通念上同一の商標ではない。
(2) 原告は,図形部分が自他識別標識として果たす役割は小さく,翻って文字
部分が自他商品識別標識としての機能を発揮しているとし,登録商標と使用商標が
「社会通念上同一」であると判断された裁判例や審決が多数存在する旨主張する。
しかし,社会通念上同一であるか否かは個別具体的に判断されるべきものであり,
実際に,図形と文字からなる登録商標は文字のみからなる使用商標とは社会通念上
同一ではないと判断された例も存在する(乙20,21)。原告が挙げた審決や判決
は,いずれも,本件とは,商標における文字と図形の構成が異なっている。
(3) また,原告は,
「Packard Bell」との商標は,日本の需要者の
間において認知されている商標であるといえるから,本件商標のうち「PACKA
RD BELL」との文字部分が自他識別機能を果たす部分であることは明らかで
ある旨主張する。
まず,
「Packard Bell」との商標が日本の需要者の間において単に認
知されていることをもって,本件商標のうち図形部分が捨象され,欧文字部分が自
他識別機能を果たすという原告の主張は,商標法上の又は判決若しくは審決によっ
て確立された規範に基づくものではないため,失当である。
仮に,
「認知」という語が「周知」を意味するとしても,原告は,日本における原
告による生産数や販売数を示す資料等の周知性を証明する資料を一切提出していな
い。
したがって,本件商標のうち「PACKARD BELL」の欧文字部分が,原
告の出所表示として日本の需要者の間で周知であるとはいえず,ひいては本件商標
のうち図形部分が捨象され,欧文字部分が自他識別機能を果たすということはでき
ない。
3 被告の本件審判請求が信義則に反し権利の濫用に当たるとの主張について
(1) 原告は,
「Packard Bell」商標には,パッカードベル社又は原
告の信用及び顧客吸引力が化体していると主張している。
しかし,原告は,その理由として,歴史及び国数を簡潔に述べているにとどまり,
商標の使用数量や広告宣伝の規模等の信用及び顧客吸引力の化体を証明する客観的
な証拠を提出していない。本件審判請求に対しても,甲8のような,原告とは何ら
の関係のない者による資料しか使用証拠として提出できず,「Packard B
ell」ブランドの商品を日本における公式のウェブサイトにおいて扱ってすらい
ない(甲6)。
他方,被告は,
「Packard Bell」商標を,米国だけでなく,韓国やメ
キシコ等の複数の世界各国で登録している(乙22,23)。
このように,
「Packard Bell」商標は原告又はその関連会社のみに結
びついているものではない。このような状況で,
「Packard Bell」商標
の使用を通じて当該商標に原告又はその関連会社の信用及び顧客吸引力が化体して
いるとは認められない。
(2) 原告は,ST社が,米国において,原告傘下のPBブランドの信用にフリ
ーライドしながら,
「PACKARD BELL」商標の使用を展開していると主張
する。
しかし,被告は,
「PACKARD BELL」商標について米国で商標権を有し
ており(甲3,乙19),ST社は,被告の関連会社であるから,被告及びST社の
使用は,所有している権利に基づくものである。また,
「Acer」等の原告を想起
させる表示は,ST社のウェブサイトである甲35,39には含まれていない。さ
らに,原告は米国で商標権を放棄しており,米国において,
「PACKARD BE
LL」ブランドに原告又はその関連会社の信用が化体しているとは認められない。
したがって,被告及びST社の使用が,信用のフリーライドに該当しないことは
明らかである。
(3) 原告は,本件審判請求は,被告による不正の意図に基づきなされたもので
あり,商標法の目的及び信義則に反する等述べ,本件審判請求は認められるべきで
はないと主張する。
しかし,被告は,
「PACKARD BELL」商標を使用して米国で展開してい
る事業を日本においても展開するために,被告出願商標の出願を行った(甲40)。
調査したところ,本件商標が存在したため,被告出願商標の登録のために本件審判
を請求した。このように,被告出願商標の出願及び本件審判請求は,日本における
事業展開のために行ったものであり,不正の意図に基づいているものではない。
また,上記(1)のとおり,
「PACKARD BELL」商標に原告又はその関連会
社の信用及び顧客吸引力が化体しているとは認められず,この点に鑑みても,被告
に不正の意図があると解する合理的理由はない。
(4) 以上より,本件審判請求は,信義則に反しないし,権利の濫用には該当し
ない。
第5 当裁判所の判断
1 事実関係
後掲の証拠及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。
(1) パッカードベル社は,1926年に米国で創業した会社であり,昭和61
年に,日本において,本件商標の商標登録を出願し,その頃から,本件商標を使用
して,一般家庭ユーザー向けのパーソナルコンピュータを販売していた(甲1,1
5,29)。
パッカードベル社は,1996年(平成8年)に,NECの海外部門と合併して,
パッカードベルNECジャパンとなり,同社は,日本国内においてパーソナルコン
ピュータを販売したが,平成11年11月頃に,日本国内の工場を閉鎖し,
「パッカ
ードベル」のブランド名は,日本で使用されなくなった(甲15,26)。
パッカードベル社は,2008年(平成20年)に,台湾に本拠を置く原告に買
収され,原告が本件商標の商標権者となった(甲2,15,29)。
パッカードベル社は,現在,原告の傘下で事業を行っており,「PACKARD
BELL」を含む商標を使用した家庭用電機製品を,フランス,ハンガリー,オ
ランダ,トルコ共和国,ウクライナ,英国,南アフリカ共和国などの世界31の国
や地域で取り扱っている(甲28,29)。
(2) 被告は,2017年(平成29年)12月6日付けで,米国のJLP社か
ら,同社が有する被告米国商標を譲り受け,被告米国商標の商標権者となった(甲
3,30~32,乙19)。
JLP社は,多数の商標について商標登録を有しており,そのウェブサイトにお
いて,これらの商標のライセンシーを募っている(甲33,34)。
米国では,2018年(平成30年) ST社が,
頃, 「PACKARD BELL」
の欧文字を横一連に記載した商標等を使用してノートブック型コンピュータ等の家
庭用電機製品の販売を開始し,同社は,自社のウェブサイトに,「Packard
Bell」ブランドを買収したと記載している(甲35,38,39)。
(3) 被告は,米国,韓国,メキシコなどにおいて, PACKARD
「 BELL」
の商標登録をしている(乙22,23)。
また,被告は,平成30年3月6日に,日本において,
「PACKARD BEL
L」の欧文字を標準文字で横一連にて表した被告出願商標を,指定商品を第9類と
して商標登録出願し(甲40)同月16日,
, 本件商標について本件審判請求をした。
被告出願商標については,特許庁は,本件商標を引用し,平成30年10月31
日付けで拒絶理由通知をした(甲41)
。
(4) インターネット上にショッピングサイトを開設するアマゾン合同会社の
Amazonサイトには,平成30年7月23日時点で,輸入品を取り扱うCHI
KAZOという事業者が,パソコン交換用液晶パネルとして,Packard Bell Easy Note
「
tk37 シリーズ 15.6 " LCD LED 表示画面 WXGA HD Screen Size: 15.6" LED-1366-768-
G-40-15.6-14140」を10万5065円で販売していることを示す本件ウェブペー
ジがあり,本件ウェブページには,上記商品内容の記載の下に,「PACKARD
BELL」の記載があるほか,「Amazon.co.jpでの取り扱い開始日」
が「2017/8/8」(平成29年8月8日)と記載されている(甲7,8)。
原告のPBブランドのノートブック型パソコンシリーズには,「Easy Note」とい
う商品シリーズがあり,同シリーズには,「TK37」という商品名の商品が存在する
(甲23)。
CHIKAZOは,Amazonサイトにおいて,
「オールラウンドで米国から直
輸入。信頼の輸入ショップブランド,CHIKAZOです。,
」「海外からの輸入のた
め,ご購入商品がお手元に届くまで,最大で2-3週間の日数が必要となります。」
と記載しており,その評価は,30日間では,「肯定的80% 否定的20%」,9
0日間では,
「肯定的89% 否定的11%」,12か月及び全期間では,
「肯定的9
8% 否定的2%」であり,文章による評価でも,肯定的なものと否定的なものが
あった(甲7)。
Amazonサイトでは,出品者による出品商品に欺罔行為がないよう,購入者
による出品者の評価システムを構築したり,出品者がブランド名を使用するときの
使用方法を定めるなどの対応を採っている(甲4,16,20,22)。
(5) 米国のウォルマート(Walmart) 同社のウェブサイトにおいて,
は,
「Packard Bell EASYNOTE TK85-JU SERIRES 15.6” LCD LED Display Screen
WXGA HD」と表示した商品を販売している。(甲24)
2 商標法は,商標を保護することにより,商標の使用をする者の業務上の信用
の維持を図り,もって産業の発達に寄与し,あわせて需要者の利益を保護すること
を目的とする(商標法1条)ものであるところ,一定期間使用されていない商標に
ついては,そのような商標権者等の業務上の信用の維持を図る必要はない上,かえ
って国民一般の利益を害することになるため,商標法50条は,
「継続して3年以上
日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが各指定商
品又は指定役務についての登録商標の使用をしていない」ことを要件として,商標
登録の取消しを認めている。
そこで,本件において,本件商標の「商標権者,専用使用権者又は通常使用権者」
(以下,「本件商標権者等」という。)が本件指定商品について本件商標の使用をし
ているということができるかどうかについて判断する。
(1) 原告は,前記1(4)の本件ウェブページの記載を基に,本件商標が本件要証
期間中に,原告の商品である「Packard Bell Easy Note TK37 シリーズ」の本件液晶パ
ネルを販売するために使用されていると主張する。
また,前記1(4)によると,本件ウェブページには,
「Amazon.co.jpで
の取り扱い開始日」が,本件要証期間中の平成29年8月8日と記載されているこ
と,原告が販売する商品には,「Packard Bell Easy Note TK37 シリーズ」があること
(甲23)が認められる。
(2) しかし,本件証拠上,CHIKAZOが本件商標権について,
「商標権者,
専用使用権者,通用使用権者」
(本件商標権者等)に当たると認めることはできない
のはもとより,本件商標権者等といかなる関係にある者であるかは全く明らかでは
ない。
また,CHIKAZOは,自らを米国からの直輸入品を扱う輸入業者であるとし
ている(前記1(4))ところ,原告は,米国において,製品を販売しているとは認め
られないこと(前記1(1), ,
(2)) 原告からCHIKAZOに原告の商品が流通した経
路が本件において全く明らかになっていないことを考慮すると,本件ウェブページ
には,「Packard Bell Easy Note tk37 シリーズ 15.6」等の表示があるものの,本件ウ
ェブページを用いてCHIKAZOが販売していた「Packard Bell Easy Note TK37 シ
リーズ」が,原告の製品であるかどうかは本件の証拠上,明らかでないというほか
ない。このことは,Amazonサイトにおいては,販売業者に,詐欺行為がない
ようにする制度を構築し,ブランド名を使用する際のポリシーを定めていること(前
記1(4))など前記1認定の事実によっても左右されない。
そうすると,仮に,本件ウェブページにおいて,本件商標が使用されているとし
ても,上記のとおり,本件商標権者等との関係が全く不明であり,しかも,販売し
ている商品も不明である商標の使用をもって,本件商標権者等による本件商標の使
用を認めることはできない。
(3) 以上によると,原告は,本件要証期間内に,日本国内において,商標権者,
専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが,本件指定商品について,本件商標の
使用をしていることを証明したとは認められないから,本件指定商品に係る本件商
標登録は,取り消されるべきである。
なお,原告の主張するFashion Walker事件判決は,流通業者が,
ウェブサイトなどを通じて,商標の通常使用権者の商品を販売していたことが認定
された事案であり,本件とは,事案を異にする。
3 原告は,被告の本件審判請求が信義則に反し権利の濫用であると主張する。
前記2のとおり,商標法50条は,一定期間使用されていない商標については,
商標権者等の業務上の信用の維持を図る必要はない上,かえって国民一般の利益を
害することになるため,第三者による商標登録の取消請求を認めたものであると解
される。
そうすると,一定期間使用していない商標について,第三者が,それと同一又は
類似する商標を商標登録することを目的として,商標法50条により,商標登録の
取消しを求めたとしても,商標権者等の商標登録を維持する必要性が認められない
以上,当該第三者が,商標権者等の登録商標の使用をあえて妨害するなどの特段の
事情がない限り,その商標登録の取消請求が信義則に反するとか権利濫用になると
認めることはできない。
本件において,前記1のような事実関係が認められるとしても,被告が,原告の
登録商標の使用をあえて妨害するなどの特段の事情があるとは認められないから,
被告の本件審判請求が信義則に反するとか権利濫用になると認めることはできない。
4 よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
森 義 之
裁判官
眞 鍋 美 穂 子
裁判官
中 島 朋 宏
(別紙)
商 標 目 録
商標:
指定商品・区分:
第7類
起動器,交流電動機及び直流電動機(陸上の乗物用の交流電動機及び直流電動
機(その部品を除く。)を除く。,交流発電機,直流発電機,家庭用食器洗浄機,家
)
庭用電気式ワックス磨き機,家庭用電気洗濯機,家庭用電気掃除機,電気ミキサー,
電機ブラシ
第9類
配電用又は制御用の機械器具,回転変流機,調相機,電池,電気磁気測定器,
電線及びケーブル,電気アイロン,電気式ヘアカーラー,電気ブザー,電気通信機
械器具,電子応用機械器具及びその部品,磁心,抵抗線,電極
第12類
陸上の乗物用の交流電動機又は直流電動機(その部品を除く。)
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