ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 令和2(ワ)32931 不正競争行為差止等請求事件
| 裁判所 | 請求棄却 東京地方裁判所東京地方裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 令和4年10月25日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 当事者 | 原告SMC株式会社 被告Airtac株式会社 |
| 法令 |
不正競争 |
| キーワード | 侵害8回 実施7回 差止5回 損害賠償4回 |
| 主文 | 1 被告は、原告に対し、15 万円及びこれに対する令和 3 年 1 月 22 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は、これを 200 分し、その 3 を被告の負担とし、その20 4 この判決は、第 1 項に限り、仮に執行することができる。 |
| 事件の概要 |
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令和 4 年 10 月 25 日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和 2 年(ワ)第 32931 号 不正競争行為差止等請求事件
口頭弁論終結日 令和 4 年 8 月 9 日
判 決
原 告 S M C 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 松 本 慶
同 長 橋 宏 明
同訴訟復代理人弁護士 髙 橋 彩
被 告 A i r t a c 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 奥 原 力 也
同訴訟復代理人弁護士 山 梨 浩 史
主 文
1 被告は、原告に対し、15 万円及びこれに対する令和 3 年 1 月 22
日から支払済みまで年 3%の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、これを 200 分し、その 3 を被告の負担とし、その
余を原告の負担とする。
4 この判決は、第 1 項に限り、仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は、別紙製品目録記載の製品の販売活動又は広告・宣伝活動に関し、別紙表示目録記載の内容を陳述し、又はこれを記載した製品パンフレットその他の文書を配布、郵送、電子メールによる送信、ウェブサイト上の掲載その他の方法により流布してはならない。
2 被告は、別紙製品目録記載の製品に関し、別紙表示目録記載の内容を記載した製品パンフレットその他の文書を廃棄せよ。
5 3 被告は、原告に対し、1000 万円及びこれに対する令和 3 年 1 月 22 日から支払済みまで年 3%の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は、原告が、被告が自社製品のカタログに掲載した別紙製品目録記載の製品(以下「被告製品」という。)に係る別紙表示目録記載の表示(以下「本件表示」という。)は製品の品質について誤認させるような表示(以下「品質誤認表示」ということがある。)であり、その表示行為は不正競争(不正競争防止法(以下「法」という。 条 1 項 20 号)に当たると主張して、被告に対し、法 3 条に基づき、本件表)2示を記載した製品パンフレット等の配布等の差止め(同条 1 項)及び本件表示を記載した製品パンフレット等の文書の廃棄(同条 2 項)を求めると共に、同法 4 条に基づき、弁護士費用相当額 1000 万円の損害賠償及びこれに対する令和 3 年 1 月 22日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年 3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いがないか、掲記した証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 当事者原告は、自動制御機器製品の製造加工、販売等を主たる事業内容とする株式会社である。被告は、空気圧機器の製造販売を主たる事業内容とする AirTAC International Group(以下「AirTAC グループ」という。)に属する株式会社であり、同グループの日本における拠点である。
(2) 本件カタログの配布等被告は、平成 29 年頃、被告製品を含む取扱製品のカタログ(甲 1。以下「本件カタログ」という。)を配布すると共に、これを自己のウェブサイト(以下「被告サイト」という。)に掲載した。本件カタログには、被告製品それぞれにつき、有効断面積及び Cv 値として別紙正誤表の「訂正前」欄記載の各数値(以下「訂正前数値」と
5 いう。)が掲載されていた(本件表示)。
(3) 有効断面積及び Cv 値有効断面積とは、空気タンクに取り付けた機器からチョーク流れ(上流圧力が下流圧力に対して高く、機器のある部分で速度が音速に達している流れ)の状態で 空気を放出したとき、空気タンク内の圧力変化から計算で導いた摩擦や縮流のない理想的な絞りの断面積の値をいう。Cv 値とは、バルブ等の容量係数の 1 つであり、圧力差が 1psi である弁に華氏 60度の水を流したときの流量を「ガロン/分」で表した値をいう。有効断面積及び Cv 値は、いずれも気体を使用する空気圧機器の流体の通過能力(流量特性)を表す特性定数であり、弁のような回路内の絞りに相当する機器の流量特性の比較が要求される場合や、このような機器の圧力と流量の関係を計算するときに用いられる。(以上につき、甲 12、18、弁論の全趣旨)
(4) 本件訴訟の提起原告は、令和 2 年 12 月 25 日、本件訴訟を提起した。その際、原告は、品質誤認表示の対象製品として、製品名「ソレノイドバルブ」のうち製品番号 7V0510 及び7V0520 の製品を特定していた。被告は、令和 3 年 1 月 21 日、本件訴訟の訴状副本等の送達を受けた。
(5) 本件カタログの訂正被告は、同年 2 月 3 日、被告サイトに掲載された本件カタログの被告製品に係る訂正前数値の各記載を別紙正誤表「訂正後」欄記載の各数値(以下「訂正後数値」という。)に訂正すると共に、「2020 年日本語版カタログ正誤表」として訂正前数値と訂正後数値を併記した正誤表を掲載した。(乙 1、3、10)
(6) 訴えの変更原告は、同年 11 月 1 日及び同年 12 月 9 日、本件における品質誤認表示の対象製品に製品番号 7V0510 及び 7V0520 以外の被告製品を追加する旨の訴えの変更申立
5 書をそれぞれ提出した。なお、被告は、上記各訴えの追加的変更に異議を申し立てた。しかし、被告製品はいずれも本件カタログに掲載されていた製品であること(前記(2))などから、上記各訴えの追加的変更は、いずれも民訴法 143 条 1 項本文所定の要件を満たすものと認められること、これにより著しく訴訟手続を遅滞させるものとまでは認められないことから、いずれも不当なものとは認められない。
2 争点
(1) 品質誤認表示該当性の有無
(2) 営業上の利益侵害のおそれの有無
(3) 故意・過失の有無
(4) 損害の有無及び損害額
3 争点に係る当事者の主張
(1) 品質誤認表示該当性の有無【原告の主張】次のとおり、有効断面積は電磁弁の品質である流量を表す重要な値であるため、本件表示は被告製品の品質について誤認させるような表示に当たる。ア 空気圧システムを設計する際には、電磁弁等の空気圧制御機器の流量特性を適切に把握しておくことが重要である。電磁弁の流量特性についての選定を誤ると、所定の出力が得られないだけでなく、空気圧制御が不安定にもなりかねない。その意味で、電磁弁の流量は電磁弁の品質そのものであり、流量を表す有効断面積は電磁弁の品質を表す重要な値である。このことは、被告自身、本件カタログに「優れたバルブの内部構造により、有効断面積を増大させ、流量をアップさせることができます」と記載して、有効断面積の増大やそれによる流量の増加を訴求していることからも裏付けられる。イ エアシリンダの機種選定手順を示した原告の資料では有効断面積について言及がないが、同資料は様々なタイプのエアシリンダの中で最適なタイプを絞り込む
5 ためのプロセスを記載したものにすぎない。各機種の基本性能については、有効断面積が記載された製品カタログ等によって把握されることが想定されている。そのため、同資料の記載は、有効断面積が空気圧制御機器の品質を表す重要な値であることと矛盾しない。【被告の主張】次のとおり、有効断面積は被告製品の品質に結び付いて商品選定に影響する値ではなく、本件表示は被告製品の品質について誤認させるような表示には当たらない。ア 専門的・科学的見地から見た場合、有効断面積は電磁弁の品質に関係する重要な要素といえる。しかし、品質誤認表示に当たるか否かは、専門的・科学的見地を基準とするのではなく、平均的な取引者の認識を基準として考えるべきである。電磁弁の平均的な取引者・需要者は工場経営者等であるところ、工場経営者等は、購入する電磁弁の決定に当たってはシリンダとの適合性や価格等を重視しており、必ずしも有効断面積に着目しているわけではない。原告は、原告の製品であるエアシリンダの機種選定手順を示した資料を作成しているところ、同資料には有効断面積についての言及がない。これは、顧客の製品選択において有効断面積が重視されていないことを端的に表すものである。イ 被告が有効断面積の増大や流量の増加について明示的に記載したのは、本件カタログにおいてのみである。しかも、同記載は、電磁弁の内部構造を変更すると有効断面積が増大するという一般論を述べたものにすぎない。被告が強く訴求しているのは他社製品との互換性、価格、サイズ等であって、有効断面積ではない。
(2) 営業上の利益侵害のおそれの有無【原告の主張】次のとおり、被告が自社の営業利益を増加させるために再び本件表示を掲載する高度の蓋然性があるから、原告の営業上の利益が侵害されるおそれがある。すなわち、被告は、実際に試験を行うことなく、勘で、場合によっては競業他社の類似製品の数値を参酌するなどして本件表示を掲載した上、数値の誤りが判明す
5 ると辻褄を合わせるべく計算間違いが原因であったと主張するなどしている。そのような態度から、被告の規範意識の低さがうかがわれる。また、被告が本件表示を訂正する際に従業員に送った電子メール等では、誤表示が掲載された原因等について説明されておらず、代理店への配布等を一旦取りやめるよう伝えたに過ぎない。このような状況では、カタログ等に本件表示が再度掲載されるおそれは払しょくされていない。実際、被告が本件表示を訂正する旨の表示を削除して再度本件表示を掲載すれば、訂正の経緯を十分認識していない顧客が本件表示を真実と誤認するおそれがある。また、特に、被告製品のうち 6V シリーズ及び 7V シリーズ以外の製品については、カタログの配布停止や廃棄処理の措置が未了である上、誤表示の訂正に係る指示等が不徹底であるため、誤表示によって原告の営業上の利益が侵害されるおそれが現在も存在している。【被告の主張】次のとおり、被告が本件表示を再び掲載する蓋然性や合理性はないから、原告の営業上の利益が侵害されるおそれはない。すなわち、被告は、本件の訴状を受け取ってから直ちに、カタログ、パンフレット、ウェブサイト、その他の宣伝広告媒体に記載された本件表示を全て削除・訂正し、本件表示が掲載された文書を廃棄処分した。被告が廃棄したカタログは、2017年版から 2020 年版の総合カタログであり、当該カタログには、被告製品が 6V シリーズ及び 7V シリーズに限らず全て掲載されていた。また、本件表示の誤りは、単なる計算間違いによって発生したものにすぎない。AirTAC グループの中国における拠点の一つである寧波亞徳客自動化工業有限公司(以下「寧波エアタック」という。)が運営する研究開発センター(以下「研究開発センター」という。 において、) 被告製品のチョーク域と亜音速域の実測値を測定し、亜音速域の公式を用いて実測値を代入して有効断面積を算出する際に、誤った数値を代入してしまったことが誤記載の原因であり、被告が意図的に誤った数値を掲載
5 したものではない。
(3) 故意・過失の有無【原告の主張】ア 本件表示が被告にとって容易に確認可能な自社製品の品質に関するものであること、有効断面積が技術的に重要な値であること、本件表示を掲載するに当たって被告製品の有効断面積を算出する試験が実施されなかった可能性が極めて高いこと等を踏まえると、被告には故意があったといえる。イ 被告は、被告製品を製造している AirTAC グループの日本法人である。また、被告は、本件カタログにおいて、本件カタログの作成者又は掲載製品の販売元であるかのような表示をしている。そのため、需要者は、被告が発する情報を一般の代理店が発するものより確実性の高いものとして受け取ることになる。このような被告の立場に鑑みると、被告には、誤った情報で市場を混乱させることを防ぐための高度の注意義務が課されているというべきである。しかも、被告は、同グループの日本法人であるから、容易に本件表示の正確性を確認することができた。加えて、本件表示には有効断面積として不自然に整数が並んでおり、その正確性に疑問を抱くべき状況にあった。しかるに、被告は、本件表示の正確性について製造元に問い合わせるなどの最低限の確認すらせず、研究開発センターから送られてきた数値を漫然と本件カタログに掲載した。これらの事情に鑑みれば、少なくとも、被告には、本件表示の正確性を製造元に問い合わせるなどして確認すべき義務を怠った過失がある。【被告の主張】次のとおり、本件表示行為につき、被告には故意も過失もなかった。ア 本件表示は被告が意図的に掲載したものではない。このことは、本件訴訟提起後の被告の迅速かつ誠実な対応からも明らかである。イ 被告は、AirTAC グループで製造された製品を日本で販売する拠点ではある
5 が、有効断面積等を測定できる専門的・技術的な設備等を持っていない。このため、研究開発センターの測定結果を自社で検証するのは不可能であり、測定結果の正確性に疑念を抱かせるような特段の事情がない限り、研究開発センターの測定結果を信頼するしかない。また、製造元の子会社又はグループ会社であるからといって、一般の販売代理店より予見可能性が高くなるものでもない。そもそも、販売代理店が製造元に対して製品カタログに記載された数値についての試験結果や計算式の提供を求めるのが通常であるといった業界実務は存在しない。加えて、本件カタログの記載のみから、不自然に整数が並んでいるので製造元に確認すべきであるといった結論に達することは、常識的にみてほぼ不可能である。
(4) 損害の有無及び損害額【原告の主張】次のとおり、原告は、被告の不正競争によって本件訴訟提起を余儀なくされ、弁護士費用相当額 1000 万円の損害を被った。ア 原告は、被告の不正競争を排除するために本件訴訟を提起して対応せざるを得なかった。本件について原告が支払った弁護士費用は 1000 万円を超えている。イ 原告は、被告に対して事前に通知等は行っていないが、原告と被告との間に取引関係等がなく事前通知では放置される可能性が高いこと、被告の親会社が台湾に存在しており事前交渉に時間を要することなどを踏まえ、一回的かつ確定的な解決を期待して訴訟提起という手段を選択したのである。このような場合も訴訟提起を余儀なくされたと評価されるべきであり、被告の不正競争と原告の損害発生との間に相当因果関係がある。また、被告が直ちに本件表示の再検証等を行ったのは、原告が本件訴訟を提起したことによるものである。仮に原告が事前の通知や交渉をしたとしても、その場合に被告が同様の対応を取っていたとはいえない。加えて、訴えの変更により追加した製品についてカタログ等の廃棄処分が完了しているかは証拠上明らかでない。このため、少なくともこの点については、原告代
5 理人の訴訟活動と被告の不正競争との間に相当因果関係がある。【被告の主張】次のとおり、原告が被告の行為によって本件訴訟の提起を余儀なくされたとはいえないから、被告の行為と原告の弁護士費用支出との間に相当因果関係はない。すなわち、被告は、訴状の送達を受けて直ちに内部調査等を行い、速やかに本件表示を訂正するなどした。このような被告の誠実な対応に鑑みれば、原告が被告に対して事前通知等をしていれば被告が同様の対応をしていた高度の蓋然性がある。そうすると、原告が訴訟提起を余儀なくされたとはいえない。また、本件表示は既に訂正されており、差止めの対象物は存在していない。にもかかわらず、原告は、本件訴訟において、本件表示の原因等について執拗に説明を求め続ける不合理な行為に及び、本件表示の訂正後約 1 年半にもわたって訴訟を長引かせた。このため、原告に多額の弁護士費用の支払が発生したとしても、原告自らの意思によるものであって、被告の行為との相当因果関係はない。特に、原告が訴えの変更により追加した被告製品については、訴えの変更時点では既に誤った表示が存在していなかったのであるから、被告の行為と訴えの変更以後の分の原告による弁護士費用支出との間に相当因果関係はない。
第3 当裁判所の判断
1 品質誤認表示該当性の有無について
(1) 前提事実(前記第 2 の 1(5))、争いのない事実、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。ア 被告は、被告サイトに掲載された被告製品に係るカタログの記載を訂正前数値から訂正後数値に訂正するなどしたところ、訂正前数値が誤りであり、訂正後数値が正確な数値であった。(争いのない事実)イ 被告製品は空気圧制御機器の一種であり、その主な用途は、生産工場等の空気圧システムを用いたオートメーション設備で使用されるエアシリンダに組み合わせてエアシリンダの空気の流れを制御することにある。このため、被告製品の一般
5 的な需要者としては、上記オートメーション設備の製造者や同設備を導入する工場経営者等(以下「工場経営者等」という。)が想定される。(争いのない事実)ウ 空気圧制御機器は、それ自体が空気圧システムの回路を通過する空気の流れに対する抵抗となり、空気の流れに影響を与える。もっとも、空気の圧力条件が同じであっても、空気圧制御機器によって、機器を通過できる空気の流量は異なる。このような圧力条件と流量の関係は、空気圧制御機器の性質という観点から、空気圧制御機器の流量特性として把握される。空気圧システムに用いる空気圧制御機器を選定するにあたり、当該空気圧制御機器の流量特性を適切に把握することは必要かつ重要である。流量特性が適合しない空気圧制御機器を誤って選定すると、所定の出力が得られず、さらに、空気圧制御系が不安定になることも起こり得る。(以上につき、甲 12、13、18)
(2) 前提事実及び前記各認定事実によれば、被告製品は、空気圧システムを用いたオートメーション設備で使用されるエアシリンダの空気の流れを制御すること を主な用途とする空気圧制御機器であるところ、空気圧制御機器にとって、流量特性とは、それを適切に把握しなければ空気圧システムにおいて所定の出力が得られなくなるなどの不具合を生じかねない重要な意味を持つ要素である。そうすると、空気圧制御機器において、その流量特性は、機器の品質に関係する要素の 1 つといえる。したがって、被告製品の流量特性を表す有効断面積及び Cv 値についての不正確な表示は、被告製品の品質を誤認させるような表示に当たる。本件では、被告は、被告製品の流量特性を表す有効断面積及び Cv 値について不正確な数値を記載した本件カタログを配布すると共に、これを被告サイト上に掲載したのであるから、被告製品の品質について誤認させるような表示をしたと認め られる。
(3) これに対し、被告は、工場経営者等が電磁弁を購入する際に重視するのはシ
5 リンダとの適合性や価格等であって、有効断面積や Cv 値ではないなどとして、本件表示は品質誤認表示に当たらない旨を主張する。しかし、前記のとおり、空気圧制御機器の流量特性は、それを適切に把握しなければ空気圧システムにおいて所定の出力が得られなくなるなどの不具合を生じさせかねない重要な要素であり、シリンダとの適合性もこれに基づいて定まるものといえる。そうである以上、空気圧制御機器の一般的な需要者である工場経営者等は、当該機器の選定にあたり、流量特性を空気圧制御機器の品質に関係する要素と認識し、評価要素の 1 つとしていることが強く推認される。このことは、本件カタログで、少なくとも一部の被告製品について「優れたバルブの内部構造により、有効断面積を増大させ、流量をアップさせることができます」と記載し、被告自身が有効断面積の増大をアピールしていること(甲 1)からもうかがわれる(なお、被告のカタログでは、有効断面積等の数値訂正後も同じ記載が維持されている。乙 3)。また、流量特性を評価要素の 1 つとすることは、工場経営者等が機器の価格等を重視することと矛盾するものではなく、これと両立し得る。被告製品の通販サイト上のレビューで有効断面積について言及したものがないとしても、被告指摘に係るレビューはわずか 4 件に過ぎず、これらが言及した要素をもって被告製品の品質を網羅したものとはいえないし、これらのレビューが有効断面積を空気圧制御機器の品質に関係する数値と考えていないことをうかがわせるものともいえない。エアシリンダの機種選定手順に関する原告の資料(乙 15)が有効断面積に言及していない点も、電磁弁はエアシリンダに組み合わせて用いる機器であってエアシリンダそのものではないこと、原告の自社製品カタログ(甲 3)には電磁弁の Cv 値及び有効断面積に換算可能な C 値が掲載されていることなどに鑑みると、上記判断を左右する事情とはいえない。その他被告が縷々指摘する事情を考慮しても、この点に関する被告の主張は採用できない。
2 営業上の利益侵害のおそれの有無について
5 (1) 前提事実(前記第 2 の 1(5))、弁論の全趣旨及び後掲各証拠によれば、次の事実が認められる。ア 被告は、令和 3 年 1 月 27 日、営業担当の被告従業員らに対し、「現状お客様に配布しているチラシに関しまして、内容に修正が必要な個所が見つかりましたため、一旦配布を取りやめて下さい。…既に代理店等に配布しているチラシに関しましても、回収または破棄をお願いいたします。」などと指示した。(乙 2)イ 研究開発センターは、同月 27 日から同年 2 月 1 日にかけて、被告製品のうち 6V 及び 7V シリーズの性能試験を実施し、訂正前数値の正確性を検証した。その結果、それらが不正確な数値であって、訂正後数値が正しい数値であることを確認した。(乙 13、14)ウ 被告は、同年 2 月 3 日、被告サイトに掲載された本件カタログの被告製品に係る訂正前数値の各記載を訂正後数値に訂正すると共に、被告サイトに正誤表を掲載した。その上で、被告は、同月 18 日、営業担当の被告従業員らに対し、「現在配布していますカタログの 7V シリーズ及び 6V シリーズの数値等の技術的な内容に変更が必要な事項が見つかりました。その為、今後総合カタログの配布を一旦取りやめ下さい。また、既に代理店に配布しているものに関しましては、代理店に配布をしないよう連絡下さい。…既に電子版の修正は完了しております。下記リンクより、ダウンロードの程、お願い申し上げます。」などと指示すると共にリンク先のURL を示した「【重要】カタログの記載内容変更に伴う配布停止に関しまして」と題するメール(乙 3 の 1)を送った。その後、被告は、同日、営業担当の被告従業員らに対し、「下記メールの例文と添付資料を利用して、カタログ送付先へ連絡してください。」と指示し、例文として、「件名「2017 年〜2020 年カタログについて」 、 先日送付させていただきました 2017」「年〜2020 年の総合カタログですが、一部記載されているデータの変更が必要となり(添付 PDF)新規顧客への配布を一旦停止するとともに、配布済みのユーザました。ーから該当製品についてお問い合わせ等がありましたら、私に連絡くださいますよ
5 うお願いします。なおホームページ内のカタログは修正済みとなっております。」などと記載したメール(乙 4 の 1)を送った。同メールには、被告営業部作成名義の取引先宛て同日付け「「製品総合カタログ 2017~2020」一部技術データ変更について」と題する文書のファイル(乙 4 の 2)が添付されている。同文書には、被告製品のうち 6V 及び 7V シリーズにつき、「先日、弊社より送付いたしました「製品総合カタログ」2017 年~2020 年のうち、一部技術データに変更の必要があることが判明しました。…お客様へ配布済みのものに関しては、都度ご説明させていただきます。また新規のお客様へのカタログ配布は一旦停止していただきますようお願い申し上げます。」などと記載されている。エ 被告は、同月 22 日、訂正前数値が掲載された本件カタログ 1530kg 分を廃棄し、同年 3 月 4 日、さらに 440kg 分を廃棄した。(乙 5〜9)。なお、これらの廃棄処分後も本件カタログその他本件表示のある宣伝広告物が被告の下に残されていることをうかがわせるに足りる具体的な事情は見当たらない。
(2) 前記各認定事実によれば、被告は、令和 3 年 1 月 21 日に本件の訴状副本の送達を受けた後、被告と同じく AirTAC グループに属する研究開発センターが同月
27 日から実施した訂正前数値の正確性に関する検証結果に基づき、本件カタログ記載の訂正前数値が不正確であったことを認め、被告サイトに、これを訂正後数値に訂正したカタログと共に正誤表を掲載した。また、被告は、上記対応と並行して、営業担当の従業員らに本件カタログの配布停止等の顧客対応を指示すると共に、上記検証実施から約 1 か月の間に本件カタログ合計約 1970kg 分を廃棄したというのである。このような被告の対応に鑑みると、被告が今後改めて訂正前数値を掲載したカタログ等を作成するなどといった事態は考え難いといってよい。また、本件カタログが被告の下に残されていることを認めるに足りる証拠はないが、仮に本件カタログその他本件表示の存在する宣伝広告物が残されていたとしても、被告が今後その配布を再開するとも考え難い。
5 そうすると、被告が今後本件表示のあるカタログの配布等を行うことによって原告がその営業上の利益を害されるおそれがあるとはいえない。したがって、原告は、被告に対し、法 3 条に基づき、本件表示のある本件カタログ等の配布等の差止請求権(同条 1 項)及び本件表示のある文書の廃棄請求権(同条 2 項)を有しない。
(3) これに対し、原告は、被告の規範意識の低さなどを指摘して、被告の不正競争によって原告が営業上の利益を侵害されるおそれがあると主張する。しかし、訂正前数値を計算ミスに起因するものと判断し、訂正後数値へと訂正するに至る被告の説明は必ずしも不合理とはいえず、その他被告が性能試験を実施せずに任意の数値を訂正前数値として掲載したことを認めるに足りる証拠はない。この点に関する原告の主張は牽強付会というほかない。また、証拠(甲 1)によれば、本件カタログは、6V 及び 7V シリーズに限らず被告製品全てを掲載したものと認められる。そうである以上、6V 及び 7V シリーズ以外の被告製品に係るカタログの廃棄等が未了であることを認めるに足りる証拠はない。さらに、被告は、従業員らに対し本件カタログの配布停止等を指示するメール等において、「一旦」という表現を採用するなどしているものの、訂正後数値を記載したカタログのデータの URL をも知らせていたこと、取引先宛て文書案にも技術データの一部の記載内容が誤りであることを伝える趣旨に理解される表現が盛り込まれていること(いずれも前記(1)ウ)に鑑みると、訂正前数値が掲載された本件カタログの流通を止めるという目的に照らし、取引先に対し直接の対応に当たる被告従業員(及びこれを通じた取引先)に対する情報共有ないし指示に不合理な部分があったとはいえない。そもそも、被告は被告サイトに訂正後数値を記載したカタログのデータを掲載するにとどまらず、訂正前数値と訂正後数値を並べて記載した正誤表を掲載した。今後これを削除するなどし、カタログの記載を本件表示に戻すといったことは、その
5 ような経過が発覚した場合に生じ得る被告の信用低下の危険性を考えれば、現実的にあり得る事態とは考え難い。その他原告が縷々指摘する事情を考慮しても、この点に関する原告の主張は採用できない。
3 故意・過失の有無について
(1) 前提事実(前記第 2 の 1(1)、(2))、弁論の全趣旨及び後掲各証拠によれば、次の事実が認められる。ア 本件カタログは、AirTAC グループの中国における拠点の一つである寧波エアタックが作成したものであり、本件カタログに掲載された各製品の性能等に関する数値は全て、寧波エアタックが運営する研究開発センターにおいて測定・算出されたものである。(乙 13、弁論の全趣旨)イ 被告は、AirTAC グループの唯一の日本における拠点であり、同グループにおいて製造した被告製品を日本国内で自社製品又は自社グループ製品として販売している。(甲 1)ウ 被告は、寧波エアタックから本件カタログの提供を受け、これを顧客に配布すると共に被告サイトに掲載したが、その際、本件カタログに記載された数値の正確性につき、改めて自ら測定し、又は研究開発センターに照会するなどして確認することはしなかった。(弁論の全趣旨)
(2) 前記各認定事実によれば、被告は、その取扱製品である被告製品を掲載したカタログ等の宣伝広告物を配布等するに当たり、被告製品の品質に係る数値として正確な数値をカタログ等に記載すべき義務を負っていたにもかかわらず、これを怠り、本件表示に係る数値の正確性を確認することなく本件カタログを配布等したというのである。したがって、被告には、被告製品の品質を誤認させるような表示をしたことについて少なくとも過失が認められる。
(3) これに対し、被告は、本件カタログに掲載された数値の正確性を検証できる設備を有していないため研究開発センターの測定結果を信頼するしかないなどと指
5 摘して、自己に過失はない旨を主張する。しかし、販売業者が自己の取扱製品の宣伝広告物としてカタログ等を配布等する場合、取引先に対して示すカタログ等の記載内容の正確性を確保すべき義務を販売業者が負うのはむしろ当然とも思われる。まして、被告製品は被告も属する AirTACグループ内で製造され、本件カタログ等に記載されたデータも同グループ内の企業による計測結果に基づくものである。これらの事情を踏まえると、少なくとも本件において、被告は、取引先等に対し本件カタログ等の記載内容の正確性を確保すべき義務を負うというべきである。被告自身は当該数値の正確性を検証できる自社設備を有しておらず、また、訂正前数値に特段不審な点がなかったとしても、それらの事情は、上記義務を免れることを基礎付けるものではなく、また、これを履行したことを示すものでもない。その他被告が縷々指摘する事情を考慮しても、この点に関する被告の主張は採用できない。
4 損害の有無及び損害額について
(1) 本件は、被告の不正競争に係る訴訟であり、専門的・技術的側面を有すること、被告が本件の訴状副本の送達を受けて間もなく訂正前数値の不正確さを認め 、その訂正及び本件カタログの廃棄等を実施したこと(前記第 2 の 1(5)、 3 の 2(1))第 、本件カタログは被告製品全てを掲載したものであること(前記第 2 の 1(2))、原告が弁護士費用相当額以外の損害について一切主張立証していないこと、その他諸般の事情を総合的に考慮すると、被告の不正競争と相当因果関係のある弁護士費用に相当する損害額は、15 万円とするのが相当である。したがって、原告は、被告に対し、法 4 条に基づき、15 万円の損害賠償請求権及びこれに対する令和 3 年 1 月 22 日(訴状送達日に翌日)から支払済みまで民法所定の年 3%の割合による遅延損害金請求権を有する。
(2) これに対し、まず、原告は、実際に原告が原告代理人に支払った弁護士報酬が 1000 万円を超えることなどを指摘して、被告の不正競争と相当因果関係のある
5 弁護士費用相当額は 1000 万円である旨主張する。しかし、上記のとおり、この点に関する原告の主張は採用できない。他方、被告は、原告が被告に対して事前通知等をしていれば被告は本件表示の訂正等の誠実な対応をしていた蓋然性があるため、原告が訴訟提起を余儀なくされたとはいえないなどと指摘して、被告の不正競争と原告による弁護士費用の支出とは相当因果関係を欠くなどと主張する。しかし、訴訟提起前に任意の交渉を経るか否かは権利侵害を主張する者等が自ら選択し得る事項であること、本件において、被告は、訴状副本の送達を受けたことを契機として訂正前数値の正確さを改めて検討し、その誤りを認めて訂正等の対応を実施したのであって、本件訴訟が提起されなかった場合に被告が同様の対応をしていたことを認めるに足りる証拠はないことなどを踏まえると、被告の不正競争と原告による本件訴訟のための弁護士費用支払との間に、上記の限度で相当因果関係を認めるのが相当である。その他被告が縷々指摘する事情を考慮しても、この点に関する被告の主張は採用できない。
5 まとめ以上のとおり、原告は、被告に対し、法 3 条に基づく差止請求権(同条 1 項)及び廃棄請求権(同条 2 項)を有しないものの、法 4 条に基づき、15 万円の損害賠償請求権及び遅延損害金請求権を有する。
第4 結論
よって、原告の請求は、被告に対する 15 万円の損害賠償請求及び遅延損害金請求の限度で理由があるから、その限度でこれを認容し、その余はいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。東京地方裁判所民事第47部
5 裁判長裁判官杉 浦 正 樹裁判官鈴 木 美 智 子裁判官稲 垣 雄 大別紙製品目録製品名:ソレノイドバルブメーカー製品番号:6TV0510、6TV0520、6TV110、6TV120、6TV210、6TV220、6V0510、
5 6V0520、6V0530、6V110、6V120、6V130、6V210、6V220、6HV0510、6HV0520、6HV0530、6HV110、6HV120、6HV130、7V110、7V120、7V130、7V230、7V0510、7V0520、7V0530製品名:エアオペレートバルブメーカー製品番号: 6TA0510、6TA0520、6TA110、6TA120、6TA210、6TA220、6A0510、6A0520、6A0530、6A110、6A120、6A130、6A210、6A220別紙表示目録以下に列挙される各記載・(別紙製品目録記載の製品のうちメーカー製品番号 7V0510、7V0520、6TV0510、
5 6TV0520 、 6V0510 、 6V0520 、 6HV0510 、 6HV0520 、 6TA0510 、 6TA0520 、 6A0510 及 び6A0520 における)有効断面積についての 5.0mm2 との記載、その Cv 値についての0.28 との記載(別紙製品目録記載の製品のうちメーカー製品番号 6TV110、6TV120、6V110、6V120、・6HV110、6HV120、6HV130、6TA110、6TA120、6A110 及び 6A120 における)有効断面積についての 10mm2 との記載、その Cv 値についての 0.58 との記載(別紙製品目録記載の製品のうちメーカー製品番号 6TV210、6TV220、6V210、6V220、・6TA210、6TA220、6A210 及び 6A220 における)有効断面積についての 18mm2 との記載、その Cv 値についての 1.06 との記載(別紙製品目録記載の製品のうちメーカー製品番号 6V0530、6HV0530、7V0530 及び・6A0530 における)有効断面積についての 4.5mm2 との記載、その Cv 値についての0.25 との記載・(別紙製品目録記載の製品のうちメーカー製品番号 6V130 及び 6A130 における)有効断面積についての 8.5mm2 との記載、その Cv 値についての 0.51 との記載・(別紙製品目録記載の製品のうちメーカー製品番号 7V110 及び 7V120 における)有効断面積についての 9.5mm2 との記載、その Cv 値についての 0.55 との記載・(別紙製品目録記載の製品のうちメーカー製品番号 7V130 における)有効断面積についての 8mm2 との記載、その Cv 値についての 0.48 との記載・(別紙製品目録記載の製品のうちメーカー製品番号 7V230 における)有効断面積についての 11mm2 との記載、その Cv 値についての 0.61 との記載別紙正誤表訂正前 訂正後シリーズ名 製品番号 有効断面積 有効断面積Cv 値 Cv 値(mm2 ) (mm2 )6TV0510
5 0.28 3.4 0.26TV05206TV1106TV 10 0.58 8.9 0.526TV1206TV210
18 1.06 15.4 0.916TV2206V0510
5 0.28 3.4 0.26V05206V0530 4.5 0.25 2.2 0.136V1106V 10 0.58 8.9 0.526V1206V130 8.5 0.51 8 0.476V210
18 1.06 15.4 0.916V2206HV0510
5 0.28 3.4 0.26HV05206HV0530 4.5 0.25 2.2 0.136HV6HV110
10 0.58 8.9 0.526HV1206HV130 10 0.58 8 0.477V0510
5 0.28 3.4 0.27V05207V0530 4.5 0.25 2.2 0.13V 7V1109.5 0.55 8 0.477V1207V130 8 0.48 7 0.417V230 11 0.61 10.8 0.646TA0510
5 0.28 3.4 0.26TA05206TA110TA 10 0.58 8.9 0.526TA1206TA210
18 1.06 15.4 0.916TA2206A0510
5 0.28 3.4 0.26A05206A0530 4.5 0.25 2.2 0.136A110A 10 0.58 8.9 0.526A1206A130 8.5 0.51 8 0.476A210
18 1.06 15.4 0.916A220
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