令和4(ネ)10067等損害賠償請求控訴事件,同附帯控訴事件
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裁判所 |
控訴棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
令和4年11月30日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
商標権
民法709条1回
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キーワード |
商標権109回 損害賠償9回 無効4回 審決3回 無効審判1回
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主文 |
1 控訴人の控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
2 被控訴人の附帯控訴を棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審を通じてこれを10分し、その3を控訴人の
4 この判決は、第1項(1)に限り、仮に執行することができる。 |
事件の概要 |
1 被控訴人は、原判決別紙商標目録記載の各商標に係る商標権(以下「本件各
商標権」という。)を有していた株式会社櫻山(以下「櫻山」という。)の権利義
務を承継した会社であり、控訴人は、櫻山の代表取締役を務めていた者であり、A
(以下「A」という。)は、控訴人の元夫である。 |
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判決文
令和4年11月30日判決言渡
令和4年(ネ)第10067号 損害賠償請求控訴事件
令和4年(ネ)第10074号 同附帯控訴事件
(原審・東京地方裁判所令和2年(ワ)第14627号)
口頭弁論終結日 令和4年11月9日
判 決
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
主 文
1 控訴人の控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
(1) 控訴人は、被控訴人に対し、588万0766円及びうち586
万0300円に対する令和4年3月28日から支払済みまで年5分
の割合による金員を支払え。
(2) 被控訴人のその余の請求を棄却する。
2 被控訴人の附帯控訴を棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審を通じてこれを10分し、その3を控訴人の
負担とし、その余を被控訴人の負担とする。
4 この判決は、第1項(1)に限り、仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴の趣旨
(1) 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。
(2) 上記の部分につき、被控訴人の請求を棄却する。
(3) 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。
2 附帯控訴の趣旨
(1) 原判決を次のとおり変更する。
控訴人は、被控訴人に対し、2128万0344円及びこれに対する平成29年
1月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 訴訟費用は第1、2審とも控訴人の負担とする。
(3) 第(1)項についての仮執行宣言
第2 事案の概要
1 被控訴人は、原判決別紙商標目録記載の各商標に係る商標権(以下「本件各
商標権」という。)を有していた株式会社櫻山(以下「櫻山」という。)の権利義
務を承継した会社であり、控訴人は、櫻山の代表取締役を務めていた者であり、A
(以下「A」という。)は、控訴人の元夫である。
本件は、被控訴人が、控訴人及びAは共謀して櫻山からAに対する本件各商標権
に係る商標権移転登録申請をしたところ、これは櫻山に対する共同不法行為を構成
すると主張し、控訴人及びAに対して、民法709条及び同法719条1項に基づ
き、損害賠償金2128万0344円及びこれに対する最終の不法行為の日である
平成29年1月18日から支払済みまで同年法律第44号による改正前の民法所定
の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めた事案である(なお、被控訴人
のAに対する訴訟は、原審における裁判上の和解により終局した。)。
原審は、被控訴人の控訴人に対する請求を963万6770円及びこれに対する
前同旨の遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余を棄却したところ、控訴
人及び被控訴人は、いずれも自己の敗訴部分を不服として、それぞれ控訴及び附帯
控訴を提起した。
2 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張
次のとおり改め、後記3のとおり当審で追加された争点及びこれに関する当事者
の主張を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の第2の2及び3並びに第
3に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決2頁16行目の「以下B」を「B」と改める。
(2) 原判決2頁22行目の「A」から24行目末尾までを「(甲3、乙イ2)」
と改める。
(3) 原判決2頁26行目から3頁1行目にかけての「平成19年2月1日」を
「平成19年12月1日」と改める。
(4) 原判決3頁5行目の「甲7、8」を「甲6、7」と改める。
(5) 原判決3頁6行目の「平成27年12月15日」を「平成27年12月2
5日」と改める。
(6) 原判決3頁7行目の「櫻山が同社の子会社となるが」を「控訴人は株式会
社ホクショーに対して櫻山の全株式を譲渡するが」と改める。
(7) 原判決3頁10行目の「(共同)」を削る。
(8) 原判決3頁11行目の「外1名」を削る。
(9) 原判決3頁12行目から14行目までを以下のとおり改める。
「オ 控訴人は、Cに対し、平成28年10月20日、櫻山の代表者印、銀行印
及び印鑑カードを引き渡した。(甲13)」
(10) 原判決3頁17行目から18行目にかけての「本件商標2を自らの名義に
移転する申請」を「本件商標2に係る商標権を櫻山からAに移転する旨の商標権移
転登録申請」と改める。
(11) 原判決3頁21行目の「拒絶理由通知」を「却下理由通知」と改める。
(12) 原判決3頁25行目の「、株式会社ホクショー」を削る。
(13) 原判決4頁1行目の「乙38」を「乙イ38」と改める。
(14) 原判決4頁3行目の「本件商標2」から4行目の「受けた」までを「本件
商標2に係る商標権を櫻山からAに移転する旨の商標権移転登録申請をし、その後、
その旨の商標権移転登録がされた」と改める。
(15) 原判決4頁7行目の「本件商標1」から8行目の「受けた」までを「本件
商標1に係る商標権を櫻山からAに移転する旨の商標権移転登録申請をし、その後、
その旨の商標権移転登録がされた」と改める。
(16) 原判決4頁10行目の「図案」から11行目の「拒絶査定がされた」まで
を「図案からなる商標(以下「A商標1」という。)に係る商標登録出願をしたが、
平成30年1月16日付けで拒絶査定がされた」と改める。
(17) 原判決4頁13行目の「標準文字」から14行目の「受けた」までを「標
準文字からなる商標(以下「A商標2」という。)に係る商標登録出願をし、同年
10月13日、A商標2について商標登録がされた」と改める。
(18) 原判決4頁16行目の「標準文字」から17行目の「受けた」までを「標
準文字からなる商標(以下「A商標3」という。)に係る商標登録出願をし、同年
10月13日、A商標3について商標登録がされた」と改める。
(19) 原判決4頁22行目から25行目までを以下のとおり改める。
「ア 櫻山の権利義務を承継していた被控訴人は、平成30年10月9日、控訴
人及びAは共謀の上、本件商標1に係る商標権を櫻山からAに移転する旨の商標権
移転登録申請をしたところ、これは有印私文書偽造、同行使及び偽造私印使用に該
当するなどと主張して、控訴人及びAを告発するなどしたが、秋田地方検察庁は、
その後、両名について公訴を提起しない旨の処分をした。(甲26、27、乙イ4、
5)」
(20) 原判決4頁26行目の「平成31年3月30日」を「平成31年3月20
日」と改める。
(21) 原判決5頁1行目から2行目にかけての「櫻山の承継人である原告が」を
「櫻山の権利義務を承継していた被控訴人は、その後」と改める。
(22) 原判決5頁2行目から3行目にかけての「口頭弁論」を「口頭弁論期日」
と改める。
(23) 原判決5頁4行目の「令和元年5月25日付けで」を「令和2年5月25
日付けで」と改める。
(24) 原判決5頁5行目から6行目にかけての「A商標2及び3の登録が無効で
ある旨の審決」を「A商標2及び3に係る商標登録を無効とする旨の審決」と改め
る。
(25) 原判決5頁7行目末尾に改行して以下のとおり加える。
「(6) Aによる解決金の支払(記録上明らかな事実又は当事者間に争いのない
事実)
ア Aは、原審において、被控訴人が主張する自己の責任原因を争わず、被控訴
人に生じた損害の有無及びその額のみを争った。
イ 被控訴人及びAは、令和4年3月16日、原審において、次の条項を含む裁
判上の和解(以下「本件和解」という。)をした。なお、本件和解に係る和解調書
の「請求の表示」欄には、「請求の趣旨及び原因は、訴状記載のとおり。」との記
載があり、本件の訴状に記載された被控訴人の請求は、控訴人及びAの共同不法行
為(本件各商標権を櫻山からAに移転する旨の商標権移転登録申請)に基づく損害
賠償請求(2128万0344円及びこれに対する平成29年1月18日から支払
済みまで年5分の割合による遅延損害金の連帯支払請求)である。
(ア) Aは、被控訴人に対し、本件解決金として、300万円の支払義務がある
ことを認める。
(イ) Aは、被控訴人に対し、上記(ア)の金員のうち150万円を、令和4年4
月28日限り支払う。
(ウ) Aが令和4年4月28日までに上記(イ)の150万円を支払ったときは、
被控訴人は、Aに対し、上記(ア)の金員から既払金を控除した残金の支払義務を免
除する。
(エ) 被控訴人及びAは、被控訴人とAとの間には、この和解条項に定めるもの
のほかに何らの債権債務がないことを相互に確認する。
ウ Aは、被控訴人に対し、令和4年3月27日、本件和解に従い、150万円
を支払った(以下、この支払を「本件支払」という。)。」
(26) 原判決5頁15行目の「本件商標1及び2の移転手続」を「本件各商標権
に係る商標権移転登録申請」と改める。
(27) 原判決5頁22行目から23行目にかけての「日本初と宣伝していた」を
「櫻山が日本初であると宣伝していた」と改める。
(28) 原判決5頁24行目の「その商品」を「櫻山の商品」と改める。
(29) 原判決6頁2行目の「本件商標2の移転登録手続」を「本件商標2に係る
商標権移転登録申請書」と改める。
(30) 原判決6頁6行目の「本件商標2の移転登録手続」を「本件商標2に係る
商標権移転登録申請」と改める。
(31) 原判決6頁11行目から17行目までを以下のとおり改める。
「 なお、控訴人は、本件商標2に係る商標権移転登録申請がされた当時、櫻山
の代表者印を所持していなかったところ、本件商標2に係る商標権移転登録申請書
に顕出された印影は、同代表者印の真正な印影と異なる部分があるから(甲12)、
本件商標2に係る商標権移転登録申請に用いられた櫻山の代表者印は、Aが偽造し
たものと考えられる。そして、控訴人は、平成28年12月12日、上記のとおり
偽造された櫻山の代表者印を押捺した書面(甲50)を作成しているのであるから、
控訴人も、本件商標2に係る商標権移転登録申請に関与していたものである。」
(32) 原判決6頁20行目の「Aは」から21行目の「登録申請し」までを「A
は、本件各商標権を櫻山からAに移転する旨の商標権移転登録申請をするのみなら
ず、A商標1ないし3に係る商標登録出願をし」と改める。
(33) 原判決6頁22行目から23行目にかけての「本件各商標権の移転登録」
を「本件各商標権に係る商標権移転登録申請」と改める。
(34) 原判決6頁23行目の「被告の原告の業務に対する」を「控訴人による被
控訴人の業務に対する」と改める。
(35) 原判決6頁25行目の「甲26」を「甲28」と改める。
(36) 原判決7頁4行目及び17行目の各「本件各商標権の移転登録」並びに1
2行目の「本件商標1及び2の移転登録」をいずれも「本件各商標権に係る商標権
移転登録申請」と改める。
(37) 原判決7頁7行目から8行目にかけての「被告の退任」を「控訴人が櫻山
の代表取締役を退任したこと」と改める。
(38) 原判決7頁13行目から14行目にかけての「本件商標2の移転登録」を
「本件商標2に係る商標権移転登録申請」と改める。
(39) 原判決7頁15行目の「本件商標1の移転登録」を「本件商標1に係る商
標権移転登録申請」と改める。
(40) 原判決8頁7行目の「本件商標2の移転登録手続に添付された」を「本件
商標2に係る商標権移転登録申請書に添付された」と改める。
(41) 原判決8頁15行目の「印鑑証明書の」を「印鑑証明書を」と改める。
(42) 原判決9頁5行目の「付された印影」を「顕出された櫻山の代表者印の印
影」と改める。
(43) 原判決9頁7行目の「被告の社宅」及び10行目の「被告の東京の社宅」
をいずれも「櫻山の東京の社宅」と改める。
(44) 原判決9頁14行目の「本件各商標権を移転登録するなど」を「本件各商
標権に係る商標権移転登録申請をするなど」と改める。
(45) 原判決10頁2行目の「引継ぎの際に、当時説明していた」を「引継ぎの
際に説明していた」と改める。
(46) 原判決10頁19行目の「本件商標1及び2の移転登録」を「本件各商標
権に係る商標権移転登録申請」と改める。
(47) 原判決10頁23行目から26行目までを以下のとおり改める。
「 特に、控訴人には、櫻山の代表取締役として、会社の重要書類である印鑑証
明書の保管につき過失があったことは明らかである。」
(48) 原判決11頁5行目から6行目にかけての「4年以上」を「約6年」と改
める。
(49) 原判決12頁5行目の「退任前」を「櫻山の代表取締役を退任する前」と
改める。
(50) 原判決12頁6行目の「原告」を「櫻山又は被控訴人」と改める。
(51) 原判決12頁21行目の「商標登録の申請」を「商標登録出願」と改める。
(52) 原判決12頁24行目から26行目までを以下のとおり改める。
「イ 被控訴人は、被控訴人が使用する花柄ロゴ等に係る商標登録出願につき拒
絶理由通知を受けたことから、弁理士事務所に対し、これに対応するための印紙代
及び意見書作成手数料を支払った(甲33の5ないし13)。」
(53) 原判決13頁5行目の「本件各商標権の移転登録」を「控訴人及びAによ
る本件各商標権に係る商標権移転登録申請」と改める。
(54) 原判決13頁17行目の「被告D」を「控訴人」と改める。
(55) 原判決13頁19行目の「乙8」を「乙イ8」と改める。
(56) 原判決14頁25行目の「乙16」を「乙イ15」と改める。
(57) 原判決15頁1行目の「三菱伊勢丹」を「三越伊勢丹」と改める。
(58) 原判決15頁4行目の「郵券や仮処分登録免許税」を「印紙代、郵券代及
び仮処分登録免許税」と改める。
(59) 原判決15頁7行目の「別訴で」の次に「控訴人に対し」を加える。
(60) 原判決15頁9行目の「労働働契約上の」を「労働契約上の」と改める。
(61) 原判決15頁15行目の「余儀なくされた」を「支払を余儀なくされた」
と改める。
(62) 原判決32頁の「別紙商標目録」中の「登録日 平成24年1月30日」
及び「登録日 平成24年2月6日」をいずれも「登録日 平成24年8月3日」
と改める。
3 当審で追加された争点及びこれに関する当事者の主張
(1) 争点4(過失相殺の成否)について
(控訴人の主張)
仮に、控訴人がAとの共同不法行為に基づいて損害賠償義務を負うとしても、以
下のとおり、被控訴人の商品が三越伊勢丹のカタログ等に掲載されなかった原因や
被控訴人の損害が拡大した要因の多くは、被控訴人の側にもあるのであるから、本
件においては、過失相殺がされるべきであり、被控訴人の過失割合は、5割を下ら
ない。
ア 本件商標1及び2並びにA商標1ないし3につき何らかの問題があったとし
ても、これらの商標は櫻山又は被控訴人の営業に使用されず、また、これらの商標
に係る問題は解決していたのであるから、被控訴人とすれば、三越伊勢丹からこれ
らの商標に係る問題を指摘された際、三越伊勢丹に対し適切な説明をするなどして、
その誤解を解くことができ、そうすれば、三越伊勢丹がこれらの商標に係る問題を
理由に被控訴人の商品のカタログ等への掲載を拒否することはなかった。しかしな
がら、被控訴人は、三越伊勢丹に対する説明や働きかけを一切行わなかったのであ
るから、被控訴人の商品が三越伊勢丹のカタログ等に掲載されなかったことについ
ては、被控訴人に過失がある。
イ 争点3(控訴人の主張)(1)のとおりの被控訴人の三越伊勢丹に対する不誠
実な対応は、過失相殺の根拠として斟酌されるべきである。
(被控訴人の主張)
以下のとおり、被控訴人には、控訴人が主張するような過失はないから、本件に
おいて、過失相殺がされるべきではない。
ア 本件商標1及び2並びにA商標1ないし3に係る問題が解決したのは、A商
標1について被控訴人のために商標登録がされた令和2年10月のことである。し
たがって、同月までは、控訴人及びAの共同不法行為により、被控訴人の商品が三
越伊勢丹のカタログ等に掲載されないという現実的な可能性があった。
また、仮に、これらの商標に係る問題につき三越伊勢丹が誤解をしており、被控
訴人が適切な説明等をすれば、三越伊勢丹がこれらの商標に係る問題を理由に被控
訴人の商品のカタログ等への掲載を拒否することはなかったとしても、被控訴人の
あずかり知らないところで行われた控訴人及びAの共同不法行為の結果についてま
で、被控訴人が三越伊勢丹の誤解を解くべき義務を負うことはなく、被控訴人がそ
のような説明等をしなかったことが被控訴人の過失を根拠付けることはない。
イ 被控訴人が三越伊勢丹に対し、控訴人が主張するような不誠実な対応をした
ことはない。
(2) 争点5(Aによる弁済の成否)について
(控訴人の主張)
Aは、被控訴人に対し、本件和解に従って本件支払(150万円)をしたところ、
これは、連帯債務者であるAの被控訴人に対する弁済に相当するから、控訴人がA
との共同不法行為に基づいて損害賠償義務を負うとしても、その賠償額から150
万円が控除されるべきである。
(被控訴人の主張)
本件和解において、Aが支払うべき金員は解決金とされ、また、包括的な清算条
項が設けられていることからすると、本件支払は、Aがした電話回線の無断解約、
被控訴人の従業員に対する威嚇等を含め、被控訴人とAとの間に存在していた全て
の紛争を解決するためにされたものであるといえる。したがって、本件支払は、控
訴人及びAの共同不法行為(本件各商標権に係る商標権移転登録申請)に基づく損
害賠償債務の弁済に当たらない。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は、被控訴人の請求は588万0766円及びうち586万030
0円に対する令和4年3月28日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金
の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がないものと判断する。その理由
は、次のとおりである。
2 認定事実
次のとおり改めるほかは、原判決の「事実及び理由」欄の第4の1の記載のとお
りであるから、これを引用する。
(1) 原判決15頁18行目の「証人E」から19行目の「結果」までを「原審
証人B、原審A本人、原審控訴人本人、原審被控訴人代表者」と改める。
(2) 原判決16頁3行目の「乙イ1頁及び2頁、乙ロ・1頁及び2頁」を「甲
3、乙イ44・1頁、乙ロ12・1頁及び2頁」と改める。
(3) 原判決16頁5行目の「平成23年から平成24年頃まで、」を「平成2
3年頃から平成24年頃にかけて」と改める。
(4) 原判決16頁7行目の「乙イ1頁及び2頁、乙ロ・2頁、A・6頁」を
「乙イ44・1頁、乙ロ12・2頁、原審A本人・6頁」と改める。
(5) 原判決16頁8行目の「本件商標1及び2を登録したが」を「本件商標1
及び2に係る商標登録を受けたが」と改める。
(6) 原判決16頁11行目の「甲7」を「甲6、7」と改める。
(7) 原判決16頁13行目から14行目にかけての「平成27年12月15日」
から15行目末尾までを「平成27年12月25日、櫻山の全株式を株式会社ホク
ショーに譲渡することとした(なお、株式の譲渡日は、平成28年3月7日とされ
た。)。(甲4、乙イ19、21、39ないし41、44・2頁及び3頁)」と改
める。
(8) 原判決16頁17行目の「被告の社宅」を「控訴人が使用する社宅」と改
める。
(9) 原判決16頁19行目の「F」を「F’」と改める。
(10) 原判決16頁21行目の「青山の社宅賃料」を「青山の社宅の賃料の負担」
と改める。
(11) 原判決16頁23行目の「被告を代表取締役から解任することをも視野に
入れる」を「控訴人の役員報酬を月額200万円から月額100万円に減額し、青
山の社宅の賃貸借契約を解約するか、その賃料の全部を控訴人に負担させることな
ども視野に入れる」と改める。
(12) 原判決16頁25行目の「最後の打合せの機会」を「最終で最後のチャン
ス」と改める。
(13) 原判決17頁1行目の「社宅」から「至らず」までを「青山の社宅の賃料
の負担及び東京の事務所の存廃について合意に至らず」と改める。
(14) 原判決17頁3行目の「本件商標2」から4行目の「申請をしたが」まで
を「本件商標2に係る商標権について、その名義を櫻山からAに移転する旨の商標
権移転登録申請をしたが」と改める。
(15) 原判決17頁5行目の「代表者印」を「櫻山の代表者印」と改める。
(16) 原判決17頁8行目の「被告」から9行目から10行目にかけての「指摘
した上」までを「控訴人は、平成28年11月7日頃、株式会社ホクショーに対し、
櫻山が青山の社宅の賃料の負担をやめること及び東京の事務所を閉鎖することは当
初の合意に反することを指摘した上」と改める。
(17) 原判決17頁11行目の「最後通知」を「通知」と改める。
(18) 原判決17頁21行目の「事実なく」を「事実がなく」と改める。
(19) 原判決18頁5行目の「、56」を削る。
(20) 原判決18頁8行目の「前記オ」から10行目の「受けた」までを「前記
オ及びカの経過で控訴人が入手した印鑑証明書を使用し、本件商標2に係る商標権
について、その名義を櫻山からAに移転する旨の商標権移転登録申請をしたほか、
平成29年1月18日、上記申請において提出した印鑑証明書を援用した上、本件
商標1に係る商標権について、その名義を櫻山からAに移転する旨の商標権移転登
録申請をし、それぞれその旨の商標権移転登録がされた」と改める。
(21) 原判決18頁12行目の「移転以後」を「移転登録後」と改める。
(22) 原判決18頁13行目の「本件商標2を登録した」を「本件商標2に係る
商標登録出願をした」と改める。
(23) 原判決18頁14行目から15行目にかけての「A商標1ないし3の登録
申請をした」を「A商標1ないし3に係る商標登録出願をした」と改める。
(24) 原判決18頁18行目の「44」から「A・17頁ないし21頁」までを
「45、46、乙ロ4、原審A本人・17頁ないし21頁」と改める。
(25) 原判決18頁19行目の「原告代表者」から20行目の「聞き」までを
「被控訴人代表者は、平成29年6月頃、櫻山の従業員となったところ、同年7月
頃、Aが本件各商標権につき櫻山に無断で商標権移転登録申請をした旨のうわさを
聞き」と改める。
(26) 原判決18頁21行目の「同事務所」から23行目の「告げた上」までを
「同事務所の弁理士は、被控訴人代表者に対し、本件各商標権に係る櫻山からAに
対する商標権移転登録がされたこと及び同事務所がA商標1ないし3に係る商標登
録出願を受任したことを告げた上」と改める。
(27) 原判決18頁24行目の「甲44」を「甲42、43、68」と改める。
(28) 原判決18頁26行目の「無権限」を「無権原」と改める。
(29) 原判決19頁3行目から4行目にかけての「甲51ないし53、A・28
頁及び29頁」を「甲51、52、原審A本人・28頁及び29頁」と改める。
(30) 原判決19頁6行目の「建物収去明渡等請求事件」を「建物収去土地明渡
等請求事件」と改める。
(31) 原判決19頁15行目から16行目にかけての「甲62、63、70、A
・21頁及び22頁」を「甲62ないし64、70、原審A本人・21頁及び22
頁」と改める。
(32) 原判決19頁18行目の「原告」を「Bや被控訴人の担当者」と改める。
(33) 原判決19頁19行目の「三越伊勢丹とのミーティングにおいて、三越伊
勢丹から」を「三越伊勢丹の担当者とのミーティングにおいて、同担当者から」と
改める。
(34) 原判決19頁23行目の「B・6頁」を「原審証人B・1頁ないし6頁」
と改める。
3 争点1(控訴人の共謀の有無)について
次のとおり改めるほかは、原判決の「事実及び理由」欄の第4の2に記載のとお
りであるから、これを引用する。
(1) 原判決20頁5行目の「示唆された」の次に「櫻山の」を加える。
(2) 原判決20頁7行目の「誤信させ」の次に「、Cをして同印鑑証明書を同
役場の協力者に宛てて送付させ」を加える。
(3) 原判決20頁9行目の「本件商標2を自らの名義に移転させたこと、その
後」を「本件商標2に係る商標権につき、櫻山からAに対する商標権移転登録申請
をし、その旨の商標権移転登録がされたこと」と改める。
(4) 原判決20頁11行目から12行目にかけての「A商標1ないし3の登録
申請」を「A商標1ないし3に係る商標登録出願」と改める。
(5) 原判決20頁17行目の「本件商標2の移転登録」を「本件商標2に係る
商標権移転登録申請」と改める。
(6) 原判決20頁21行目の「本件商標1及び2に係る移転登録」を「本件各
商標権に係る商標権移転登録申請」と改める。
(7) 原判決20頁24行目の「本件商標2が第三者である櫻山の保有になった
こと」を「自らデザインした本件商標2に係る商標権が株式会社ホクショーの子会
社(櫻山)の保有するものとなったこと」と改める。
(8) 原判決20頁26行目の「A・2頁及び6頁」を「原審A本人・2頁及び
6頁」と改める。
(9) 原判決21頁6行目から7行目にかけての「乙イロ12・3頁ないし5頁、
A・3頁、4頁及び7頁」を「乙ロ12・3頁ないし5頁、原審A本人・3頁、4
頁及び7頁」と改める。
(10) 原判決21頁12行目の「被告・48頁」を「原審控訴人本人・48頁」
と改める。
(11) 原判決21頁17行目の「上記推認」を「前記(1)の推認」と改める。
(12) 原判決21頁21行目の「補助金事務局に」を「補助金事務局の」と改め
る。
(13) 原判決21頁23行目の「被告本人・6頁ないし8頁」を「原審控訴人本
人・7頁及び8頁」と改める。
(14) 原判決22頁9行目から10行目にかけての「印鑑証明書の取得が遅滞す
る」を「印鑑証明書を取得してもらえない」と改める。
(15) 原判決22頁13行目の「被告」から14行目の「以上」までを「控訴人
は、平成28年10月20日、Cに対し、既に櫻山の代表者印等を引き渡してしま
った以上」と改める。
(16) 原判決22頁16行目の「同月9日」を「同年11月9日」と改める。
(17) 原判決23頁2行目の「申請書」を「本件商標2に係る商標権移転登録申
請書」と改める。
(18) 原判決23頁4行目及び10行目の各「申請書」をいずれも「同申請書」
と改める。
(19) 原判決23頁6行目の「本店所在地」の次に「(甲4)」を加える。
(20) 原判決23頁9行目から10行目にかけての「前記認定事実(2)カ」を
「前記1(2)ク」と改める。
(21) 原判決23頁15行目の「しかし」の次に「、前記前提事実(1)イ、(1)ウ
及び(2)イ並びに前記1(1)イ及びエのとおり」を加える。
(22) 原判決23頁22行目の「当時」を「本件各商標権に係る商標権移転登録
申請がされた当時」と改める。
(23) 原判決23頁25行目の「本件各商標権を移転登録するなど」を「本件各
商標権に係る商標権移転登録申請をするなど」と改める。
(24) 原判決24頁6行目から7行目にかけての「本件各商標権を自らの名義に
移転したこと」を「本件各商標権を自らの名義に移転する旨の商標権移転登録申請
をしたこと」と改める。
(25) 原判決24頁10行目の「協力し」から11行目の「同意することは」ま
でを「協力することは」と改める。
(26) 原判決24頁19行目の「原告又は」を削る。
(27) 原判決24頁22行目の「協力する」を「協力して行う」と改める。
(28) 原判決24頁22行目の「そうすると」から25行目末尾までを「そして、
Aは一連の行為として本件各商標権の移転登録申請を行ったものと認められる。控
訴人は、Aが本件各商標権を取り返したいと考えていることを知った上で、櫻山の
印鑑証明書を取得するなどして、Aによる本件商標2に係る商標権の移転登録申請
に協力していたものであるが、本件商標1に係る商標権の移転登録申請においても
同じく櫻山の印鑑証明書が必要(本件商標2に係る商標権の移転登録申請で使用し
た印鑑証明書の援用でも可能)であるところ、控訴人において、本件商標2に係る
商標権の移転登録申請には協力するが、本件商標1に係る商標権移転登録申請には
協力しないと考えていたとする事情はうかがわれず、同申請についても、Aと協力
する関係にあったと推認するのが相当であり、これを覆すに足りる証拠はない。」
と改める。
(29) 原判決25頁1行目から11行目までを以下のとおり改める。
「(4) 以上のとおりであるから、控訴人は、Aと共謀の上、本件各商標権に係
る商標権移転登録申請をしたものと認めるのが相当である。
そして、前記前提事実(1)イ及び(4)アのとおり、控訴人は、Aと共同して本件商
標1に係る商標権移転登録申請をした際、櫻山の代表取締役を退任していたのであ
るから、控訴人がAと共同して同申請をした行為は、櫻山に対する共同不法行為を
構成する。
他方、前記前提事実(1)イ及び(3)オのとおり、控訴人は、Aと共同して本件商標
2に係る商標権移転登録申請をした際、櫻山の代表取締役であったが、上記におい
て説示したところに照らすと、同申請は、櫻山に対する加害行為であり、かつ、控
訴人及びAの利益のためにされた行為であったと認められ、これは、控訴人が有し
ていた櫻山の代表権を濫用するものであることが明らかであるから、控訴人がAと
共同して同申請をした行為も、櫻山に対する共同不法行為を構成するというべきで
ある。」
4 争点3(被控訴人に生じた損害)について
次のとおり改めるほかは、原判決の「事実及び理由」欄の第4の3に記載のとお
りであるから、これを引用する。
(1) 原判決25頁14行目の「前記認定事実1(3)オ」を「前記1(3)オ」と改
める。(2) 原判決25頁19行目から22行目までを以下のとおり改める。
「 そうすると、控訴人及びAの共同不法行為(本件各商標権に係る商標権移転
登録申請(以下「本件申請」という。))による違法状態が除去され、被控訴人の
商品がカタログ等に掲載され得る状態になるまで、三越伊勢丹が被控訴人の商品を
カタログ等に掲載しなかったことによる被控訴人の逸失利益は、控訴人及びAによ
る本件申請に係る共同不法行為と相当因果関係のある損害であると認められる。そ
して、被控訴人は、平成29年8月頃、本件各商標権について櫻山からAに対する
商標権移転登録がされていることを知ったこと(前記1(3)イ、甲42、43)、
Bや被控訴人の担当者は、同年12月15日、三越伊勢丹の担当者から、櫻山の商
標登録に問題があり平成30年の御中元につき被控訴人の商品をカタログ等に掲載
することはできない旨告げられたこと(前記1(3)オ)、被控訴人は、平成30年
9月28日付けで、Aを被告とし、本件各商標権についての商標権移転登録抹消登
録手続請求訴訟を提起したこと(甲24)、東京地方裁判所は、平成31年3月2
0日、同訴訟における被控訴人の請求を認容する旨の判決を言い渡し(前記前提事
実(5)イ)、同判決は、Aが控訴することなく確定したこと(甲24、弁論の全趣
旨)などの事情に照らすと、被控訴人は、平成31年4月中には、本件各商標権に
ついて商標権移転登録抹消登録申請をすることができたものと認めるのが相当であ
る。以上に加え、カタログ等への掲載を求めてから実際に掲載がされるまでに要す
る期間(前記1(3)オのとおり、三越伊勢丹が、被控訴人に対し、平成29年12
月15日に既に翌年の御中元に係る被控訴人の商品をカタログ等に掲載できないと
告げたことや、一般に御中元用の商品に係る宣伝が開始される時期等に照らすと、
この期間は、4か月程度であると認めるのが相当である。)も併せ考慮すると、上
記逸失利益の計算上の終期は、令和元年8月31日とすべきである。」
(3) 原判決25頁24行目の「ことからすれば、」の次に「被控訴人の商品が
カタログ等に掲載されなかったことの原因として」を加える。
(4) 原判決25頁25行目の「原告が、原告の商品を当該カタログ等に掲載し
得なかったのは」を「三越伊勢丹が被控訴人の商品をカタログ等に掲載しなかった
のは」と改める。
(5) 原判決26頁1行目から2行目にかけての「原告は、以後も」を「櫻山及
び被控訴人は、控訴人が櫻山の代表取締役を退任した後も、」と改める。
(6) 原判決26頁5行目から6行目にかけての「原告代表者・14頁」を「原
審被控訴人代表者・24頁」と改める。
(7) 原判決26頁6行目の「他の店舗」を「他社」と改める。
(8) 原判決26頁10行目から11行目にかけての「本件各商標権の移転」を
「本件申請」と改める。
(9) 原判決26頁12行目末尾に改行して以下のとおり加える。
「 他方、被控訴人は、上記逸失利益の計算上の終期(最終月)はA商標2及び
3に係る商標登録を無効とする審決がされた令和2年5月であると主張する。しか
しながら、A商標2及び3に係る商標登録出願をしたのはAであり(前記前提事実
(4)ウ及びエ)、控訴人が本件申請のみならずこれらの手続にも関与していたもの
と認めるに足りる証拠はないから、仮に、A商標2及び3に係るA名義の商標登録
がされていることを三越伊勢丹が問題にし、そのことも三越伊勢丹が被控訴人の商
品をカタログ等に掲載しなかったことの原因であるとしても、そのような商標登録
がされていることにより被控訴人に生じた営業上の損害(逸失利益)は、控訴人及
びAがした共同不法行為(本件申請)と相当因果関係のあるものと認めることはで
きない。したがって、被控訴人の上記主張を採用することはできない。」
(10) 原判決26頁13行目の「原告(櫻山)」から17行目末尾までを「櫻山
の平成26年10月1日から平成29年9月30日までの3年間における営業利益
(カタログ等に掲載された商品に係るもの。以下同じ。)の平均は、月額28万円
と認めるのが相当であり、これに基づき、被控訴人の逸失利益の額を算定するのが
相当である。」と改める。
(11) 原判決26頁19行目の「主張するが」の次に「、証拠(甲65)による
と」を加える。
(12) 原判決26頁26行目の「説明している」から27頁3行目末尾までを
「説明しているのであるから(原審原告準備書面(5))、控訴人の主張を採用する
ことはできない。」と改める。
(13) 原判決27頁4行目から12行目までを以下のとおり改める。
「ウ もっとも、前記1(3)オ並びに証拠(甲69、原審証人B・5頁及び6頁)
及び弁論の全趣旨を総合すると、櫻山及び被控訴人は、平成29年1月15日に代
表取締役を退任した控訴人からの引継ぎが十分でなかったことなど、「商標登録の
問題」とは別の理由で、同年の御歳暮に係る商品を始め平成30年の御中元の前の
時期までの商品につき、これらをカタログ等に掲載してもらうことができず、「商
標登録の問題」を理由としてカタログ等への掲載が拒否された商品は、同年の御中
元以降のものであると認められる。そうすると、三越伊勢丹が被控訴人の商品をカ
タログ等に掲載しなかったことによる被控訴人の逸失利益の計算上の始期は、同年
5月1日とするのが相当である。
被控訴人は、上記逸失利益の計算上の始期は平成30年1月1日であると主張す
るが、上記のとおりであるから、これを採用することはできない。
エ 以上のとおりであるから、控訴人及びAが共同して本件申請をした結果とし
て三越伊勢丹が被控訴人の商品をカタログ等に掲載しなかったことにより被控訴人
に生じた損害(逸失利益)の額は、合計448万円(平成30年5月1日から令和
元年8月31日まで月額28万円)であると認められる。」
(14) 原判決27頁15行目の「被告及びAによって、」を「控訴人及びAが共
同して行った本件申請に基づいて」と改める。
(15) 原判決27頁16行目の「当該移転登録を抹消する訴訟」を「当該移転登
録の抹消登録手続を求める訴訟」と改める。
(16) 原判決27頁20行目の「上記の」を削る。
(17) 原判決28頁1行目の「令和2年4月7日判決」を「令和2年4月7日第
三小法廷判決」と改める。
(18) 原判決28頁10行目から13行目までを以下のとおり改める。
「 そうすると、被控訴人が本件各商標権に係る商標権移転登録抹消登録手続請
求訴訟を提起した際に支払ったものと認められる訴え提起手数料(印紙代)18万
5000円(甲24)、被控訴人が同訴訟を提起した際に予納した郵券のうち実際
に訴状副本の送達等に用いられたと認められる少なくとも2000円(弁論の全趣
旨)及び被控訴人が本件各商標権に係る処分禁止の仮処分命令の執行に関して納付
したものと認められる仮処分登録免許税16万3300円(甲32)の合計35万
0300円については、控訴人及びAがした共同不法行為(本件申請)と相当因果
関係のある損害であると認めるのが相当である。」
(19) 原判決28頁15行目の「前記認定」から17行目の「弁護士費用は」ま
でを「控訴人及びAがした共同不法行為(本件申請)と相当因果関係のある弁護士
費用(別件訴訟に係るもの)は」と改める。
(20) 原判決28頁18行目から30頁5行目までを以下のとおり改める。
「(3) 特許庁での手続に係る費用
被控訴人は、①A商標1ないし3に係る商標登録を阻止するための費用、②被控
訴人が使用する花柄ロゴ等の商標についての商標登録出願に対してされた拒絶理由
通知(A商標2及び3に係る商標登録がされていたことを理由とするもの)に対応
するための費用、③A商標2及び3に係る商標登録無効審判請求に係る費用は控訴
人及びAの共同不法行為と相当因果関係のある損害であると主張する。
しかしながら、A商標1ないし3に係る商標登録出願をしたのはAであり(前記
前提事実(4)イないしエ)、控訴人が本件申請のみならずこれらの手続にも関与し
ていたものと認めるに足りる証拠はないから、上記①ないし③の各費用は、いずれ
も控訴人及びAの共同不法行為(本件申請)と相当因果関係のある損害であるとは
認められない。したがって、被控訴人の上記主張を採用することはできない。
(4) 小計
前記(1)ないし(3)によると、控訴人及びAの共同不法行為(本件申請)により被
控訴人が被った損害(後記(6)の弁護士費用を除く。)の額は、533万0300
円(448万円+35万0300円+50万円)となる。
(5) 過失相殺
後記5のとおり、本件において過失相殺をするのは相当でない。
(6) 弁護士費用
本件訴訟の内容、審理の経過、難易、認容額その他本件に現れた一切の事情を考
慮すると、控訴人及びAの共同不法行為(本件申請)と相当因果関係のある弁護士
費用の額は、53万円であると認めるのが相当である。
(7) 損害額合計
以上のとおりであるから、控訴人及びAの共同不法行為(本件申請)により被控
訴人が被った損害の額は、合計586万0300円(533万0300円+53万
円)となる。」
5 争点4(過失相殺の成否)について
(1) 控訴人は、本件商標1及び2等につき何らかの問題があったとしても、こ
れらの商標は櫻山又は被控訴人の営業には使用されておらず、また、これらの商標
に係る問題は解決していたのであるから、被控訴人において三越伊勢丹に対し適切
な説明をするなどすれば、その誤解を解くことができ、三越伊勢丹が被控訴人の商
品のカタログ等への掲載を拒否することはなかったところ、被控訴人は三越伊勢丹
に対してそのような説明等を行わなかったのであるから、被控訴人の商品がカタロ
グ等に掲載されなかったことについては、被控訴人に過失があると主張する。
しかしながら、補正して引用する原判決第2の2(3)オ及び(4)ア並びに第4の1
(3)オのとおり、三越伊勢丹が被控訴人に対し「商標登録の問題」を指摘して平成
30年の御中元に係る被控訴人の商品をカタログ等に掲載しないことを告知したの
は、平成29年12月15日であるところ、同日当時、現に本件各商標権に係る櫻
山からAへの商標権移転登録がされていたのであり、また、証拠(甲48、49)
及び弁論の全趣旨によると、同移転登録は、被控訴人の逸失利益の計算上の終期
(補正して引用する原判決第4の3(1)ア)の4か月前である平成31年4月30
日の時点においても、抹消登録がされずに存在していたと認められ、さらに、補正
して引用する原判決第4の2(3)ウにおいて説示したとおり、本件商標1及び2は、
控訴人が櫻山の代表取締役であった時期に、控訴人が推し進めたラスク等の製造及
び販売の事業に係るものとして商標登録がされたものであって、本件各商標権は、
上記事業を支える重要な知的財産権であったのであるから、平成29年12月15
日から平成31年4月30日までの間、被控訴人が「商標登録の問題」につき三越
伊勢丹に説明をするなどしても、被控訴人の商品をカタログ等に掲載しないとの三
越伊勢丹の方針を撤回させることはできなかったものと認めるのが相当である。そ
うすると、仮に、被控訴人が三越伊勢丹に対し「商標登録の問題」について適切な
説明をするなどしなかったとしても、そのことが被控訴人の損害(逸失利益)を拡
大させたものと認めることはできないから、被控訴人が当該説明をするなどしなか
った行為を被控訴人の過失として斟酌することはできない。
(2) 控訴人は、被控訴人は三越伊勢丹に対して不誠実な対応をしたところ、こ
れは過失相殺の根拠として斟酌されるべきであると主張する。
しかしながら、補正して引用する原判決第4の3(1)アのとおり、被控訴人が三
越伊勢丹の信頼を失ったから、三越伊勢丹が被控訴人の商品をカタログ等に掲載す
ることを拒否したと認めることはできず、その他、被控訴人が三越伊勢丹に対して
不誠実な対応をし、そのことが原因で三越伊勢丹が被控訴人の商品のカタログ等へ
の掲載を拒否したものと認めるに足りる証拠はない。
(3) その他、本件において、控訴人のために斟酌すべき被控訴人の過失を基礎
付ける事実を認めるに足りる証拠はないから、過失相殺をするのは相当でない。
6 遅延損害金の起算日について
不法行為に基づく損害賠償債務は、損害の発生と同時に遅滞に陥るものと解され
るところ(最高裁昭和34年(オ)第117号同37年9月4日第三小法廷判決・
民集16巻9号1834頁)、控訴人及びAの共同不法行為(本件申請)の内容に
照らすと、本件においては、本件申請がされた時に被控訴人に損害が発生したもの
と認めるのが相当であるから、被控訴人が主張するとおり、本件商標2に係る本件
申請が行われた後であり、本件商標1に係る本件申請が行われた日である平成29
年1月18日(補正して引用する原判決第2の2(3)オ及び(4)ア)をもって遅延損
害金の起算日とするのが相当である。
これに対し、控訴人は、三越伊勢丹が被控訴人の商品のカタログ等への掲載を拒
否した平成29年12月15日に被控訴人の損害が発生したとして、同日をもって
遅延損害金の起算日とすべきであると主張するが、上記説示したところに照らすと、
これを採用することはできない。
7 争点5(Aによる弁済の成否)について
補正して引用する原判決第2の2(6)のとおり、本件の訴状に記載された被控訴
人の請求は、控訴人及びAの共同不法行為(本件申請)に基づく損害賠償請求(2
128万0344円及びこれに対する平成29年1月18日から支払済みまで年5
分の割合による遅延損害金の連帯支払請求)であるところ、Aは、原審において、
被控訴人が主張する自己の責任原因を争わず、被控訴人に生じた損害の有無及びそ
の額のみを争った上、Aが被控訴人に対して実質150万円を支払うことなどを内
容とする本件和解に応じたこと、その和解調書において、請求の表示として本件の
訴状の記載が引用され、Aが被控訴人に対して支払義務を負う金員の性質が「本件
解決金」とされたことからすると、同和解調書に「被控訴人及びAは、被控訴人と
Aとの間には、この和解条項に定めるもののほかに何らの債権債務がないことを相
互に確認する。」との包括的な清算条項の記載があることを考慮しても、本件支払
は、控訴人及びAの共同不法行為(本件申請)に基づく損害賠償債務の弁済として
されたものと認めるのが相当である。
8 小括
以上のとおりであるから、控訴人は、被控訴人に対し、588万0766円及び
うち586万0300円に対する令和4年3月28日から支払済みまで年5分の割
合による遅延損害金の支払義務を負うことになる。
(計算式)
586万0300円に対する平成29年1月18日から令和4年3月27日まで
年5分の割合による遅延損害金 152万0466円(円未満切捨て)
確定遅延損害金残額 2万0466円
9 控訴人の当審における補充主張について
(1) 控訴人は、控訴人が平成28年11月頃にCから入手した櫻山の印鑑証明
書(以下「本件印鑑証明書」という。)につき、これは控訴人がAに使用させるこ
とを目的として入手したものではないし、また、Cを欺罔して入手したものでもな
いと主張する。
しかしながら、補正して引用する原判決第4の1(2)オ及びカのとおり、控訴人
は、補助金事務局から櫻山の印鑑証明書を提出するよう求められていなかったにも
かかわらず、Cに対し、当該提出が必要である旨の虚偽の事実を述べた上、控訴人
において本件印鑑証明書を自ら入手する意図を秘し、その提出先が羽後町役場の担
当者であるかのように装って、Cをしてこれらの事実があるように誤信させ、もっ
て、本件印鑑証明書を入手したのであるから、控訴人がCを欺罔して本件印鑑証明
書を入手したことは明らかである。
そして、補正して引用する原判決第4の1(2)ウ、オ、カ及びクのとおり、Aは、
本件商標2に係る最初の商標権移転登録申請について、平成28年11月4日発送
の却下理由通知(櫻山の印鑑証明書の提出により却下理由が解消される旨示唆する
もの)を受け、控訴人は、同月9日、上記のとおりCを欺罔した上、その頃、本件
印鑑証明書を入手し、Aは、同月15日、上記の商標権移転登録申請を取り下げた
上、同月21日、本件印鑑証明書を使用して本件商標2に係る本件申請をしたとい
うのであり、このような事実経過に照らすと、控訴人がAに使用させる目的で本件
印鑑証明書を入手したことは明らかである。
この点に関し、控訴人は、甲66に基づいて補助金事務局が控訴人とやり取りを
したことがないとの事実及び補助金事務局が控訴人に対し櫻山の印鑑証明書の提出
を求めたことがないとの事実を認めるのは誤りであると主張する。しかしながら、
甲66は、弁護士法23条の2に基づく照会を受け、公的な団体である補助金事務
局(秋田県中小企業団体中央会ものづくり補助金秋田県地域事務局)が東京弁護士
会に宛てて提出した回答書であって、その照会及び回答の内容に照らしても、補助
金事務局が東京弁護士会に対して虚偽の回答をしたとは考え難い。控訴人は、甲6
6に記載された「やり取りはございません。」との回答が甲13の添付資料4の記
載と矛盾するとも主張するが、同添付資料(Cと控訴人との間で送受信されたメー
ル)によっても、平成28年11月9日に開催予定のものづくり補助金の説明会に
控訴人が出席することになっており、控訴人が補助金事務局に対してその旨の連絡
をしたとの事実がうかがわれるだけで、控訴人が補助金事務局に連絡した上で説明
会に出席したという程度の事実が仮にあったとしても、そのことは、櫻山と補助金
事務局との間でやり取りがなかったとの上記回答と直ちに矛盾するものではないし、
まして、補助金事務局が平成28年11月9日以前に櫻山に対し印鑑証明書の提出
を求めたことがなく、そもそも平成24年度から令和3年6月3日に至るまで、も
のづくり補助金に関して印鑑証明書が必要書類に含まれたことはなく、担当者の個
別の判断として印鑑証明書の提出を求めることもないなどとする補助金事務局の回
答の信用性を左右するものではない。
また、控訴人は、遅くとも平成28年9月頃には、控訴人はBから様々な嫌がら
せを受けており、櫻山に対し印鑑証明書を控訴人に送付するよう依頼しても、Bに
おいて印鑑証明書を送付しないことが予想されたため、控訴人はそのような事態を
避けるため、本件印鑑証明書の送付先を羽後町役場のGとしたにすぎないと主張す
る。しかしながら、仮に、控訴人が上記のとおり危惧する事態を避ける必要があっ
たとしても、そうであればなおさら、本件印鑑証明書の送付先を補助金事務局とす
るのが自然であって(なお、Cに対して本件印鑑証明書を補助金事務局に送付する
よう依頼し、Cによりそのような手続が執られたとしても、それは、櫻山自身が本
件印鑑証明書を補助金事務局に送付することを意味するから、何ら不自然なもので
はない。)、控訴人が本件印鑑証明書を一旦自ら入手することに何の意味もない。
しかるに、控訴人は、自ら本件印鑑証明書を入手しようとして、わざわざCを欺罔
してまで、同人をして、事前に依頼していたG宛てに本件印鑑証明書を送付させ、
現に自ら本件印鑑証明書を入手しているのであって、そのことは、控訴人が不正な
目的で本件印鑑証明書を入手しようとしたことを強くうかがわせるというべきであ
る。
以上のとおりであるから、控訴人の上記主張を採用することはできない。そうす
ると、補正して引用する原判決第4の2において説示したとおり、控訴人が本件商
標2に係る本件申請につきAと共謀したとの事実は、優にこれを認めることができ
るというべきである。
(2) 控訴人は、①控訴人がAと行動を共にしたのは、平成29年秋(同年10
月下旬頃から同年11月頃にかけて)以降のことであり、控訴人が本件商標1に係
る本件申請がされた時期にAと行動を共にした事実はない、②Aは、本件商標2に
係る本件申請をした日から約2か月が経過し、かつ、控訴人が櫻山の代表取締役を
退任した日の3日後である平成29年1月18日に本件商標1に係る本件申請をし
たところ、控訴人が本件商標1に係る本件申請につきAと共謀していたのであれば、
このようなことは考え難い、③本件申請は、一連の行為ではない、④控訴人は、本
件商標1に係る本件申請がされた当時、本件商標1に係る商標登録の存在を認識し
ていなかったなどとして、控訴人が本件商標1に係る本件申請につきAと共謀し、
又はこれに主体的に関与した事実はないと主張する。
しかしながら、上記①については、前記(1)並びに補正して引用する原判決第4
の2(1)、(3)ア及び(3)イにおいて説示したとおり、控訴人は、平成28年11月
当時、本件商標2に係る最初の商標権移転登録申請につき却下理由通知(櫻山の印
鑑証明書の提出により却下理由が解消される旨示唆するもの)を受けたAをして櫻
山の印鑑証明書を使用させる目的で、すなわち、Aがした本件商標2に係る櫻山か
らAに対する商標権移転登録申請(櫻山に対する加害行為)に加担する目的で、C
を欺罔してまで本件印鑑証明書を入手し、Aをして本件印鑑証明書を本件商標2に
係る本件申請に使用させたのであり、控訴人のこの行為は、Aの櫻山に対する加害
行為を実現させる上で極めて重要な行為であるといえるから、控訴人及びAは、同
月頃、櫻山に対する加害行為を共同して行うほどに極めて密接な関係にあり、また、
櫻山に対する加害行為を行うために一体として行動していたということができる。
そして、そのような控訴人とAの関係がその後急激に変容し、消滅したなどの事情
を認めるに足りる証拠はないところ、補正して引用する原判決第4の1(3)ウ及び
エのとおり、控訴人及びAの協力関係は、平成29年11月頃にも存在していたと
いうのであるから、平成28年11月当時に存在した控訴人とAの上記の関係は、
Aが本件商標1に係る本件申請をした平成29年1月当時においても維持されてい
たものと推認するのが相当である。
上記②については、補正して引用する原判決第4の2(4)において説示したとお
り、本件申請は、控訴人が櫻山の代表取締役の地位にあるか否かにかかわりなく、
櫻山に対する不法行為を構成するのであるから、Aにおいて、控訴人が櫻山の代表
取締役を退任した平成29年1月15日の後に本件商標1に係る本件申請をしたか
らといって、そのことが控訴人とAとの間の共謀の事実と矛盾するとまでいうこと
はできない。また、本件商標1に係る本件申請が本件商標2に係る本件申請の日の
約2か月後にされたことは、控訴人とAとの間の共謀の事実を否定するものではな
く、むしろ、当該共謀の存在を裏付ける事情である。
上記③については、本件商標1に係る本件申請は、本件商標2に係る本件申請と
同様、櫻山が保有する商標権に深刻な打撃を与える行為であり、櫻山に対する加害
行為として共通すること、補正して引用する原判決第2の2(3)オ及び(4)アのとお
り、本件商標1に係る本件申請は、本件商標2に係る本件申請がされてからわずか
2か月足らずのうちにされ、また、本件商標2に係る本件申請において使用された
本件印鑑証明書を援用する方法によりされたこと、上記のとおり、本件商標1に係
る本件申請は、本件商標2に係る本件申請と同様、控訴人及びAが密接な協力関係
を有する時期にされたものであることなどの事情に照らすと、本件商標2に係る本
件申請及び本件商標1に係る本件申請は、一連一体のものとしてされたと認めるの
が相当である。
上記④については、本件商標1は、「オウザンのクロワッサン・ラスク」との標
準文字からなる商標であり、指定商品を第30類「クロワッサン、ラスク」とする
ものであるところ、補正して引用する原判決第4の2(3)ウにおいて説示したとお
り、本件商標1は、控訴人が櫻山の代表取締役であった時期(平成24年)にその
商標登録出願及び商標登録がされたものであり、また、上記のとおりの本件商標1
の内容に照らしても、本件商標1に係る商標権は、控訴人が推し進めていたラスク
菓子の製造及び販売の事業を支える重要な知的財産権であったといえるから、控訴
人が平成29年1月の時点に至っても、いまだ本件商標1に係る商標登録の存在を
認識していなかったとは、およそ考え難い。なお、控訴人は、原審本人尋問におい
て、櫻山の代表取締役を退任する前の時期にAから本件各商標権を「戻してほしい」
との話をされた旨の供述をしているところである。
以上のとおりであるから、控訴人の上記主張を採用することはできない。そうす
ると、補正して引用する原判決第4の2において説示したとおり、控訴人が本件商
標1に係る本件申請につきAと共謀したとの事実は、優にこれを認めることができ
るというべきである。
(3) 控訴人は、仮に、三越伊勢丹が被控訴人に対し櫻山の「商標登録の問題」
を指摘したとしても、櫻山はA商標1ないし3に係る問題も抱えていたのであるか
ら、本件各商標権に係る本件申請と被控訴人に生じた営業上の損害との間の因果関
係は不明であると主張する。
しかしながら、補正して引用する原判決第4の1(3)オのとおり、Bや被控訴人
の担当者は、平成29年12月15日、三越伊勢丹の担当者から、櫻山の商標登録
に問題があり、これに問題があるとカタログを全部作り直さなければならないため、
平成30年の御中元のカタログ等に被控訴人の商品を掲載することはできないと告
げられたところ、平成29年12月15日当時、櫻山が保有する本件各商標権につ
いて現に櫻山からAに対する商標権移転登録がされていたのであるから、三越伊勢
丹が被控訴人に対して指摘した「商標登録の問題」に、当該移転登録がされており、
被控訴人において本件商標1若しくは2又はこれらに類似する商標を使用した場合、
Aから異議が申し立てられるなどするおそれがあったことが含まれることは明らか
である。そうすると、仮に、三越伊勢丹が被控訴人に対して指摘した「商標登録の
問題」に、A商標1について商標登録出願がされていたこと並びにA商標2及び3
についてAのために商標登録がされていたことが含まれるとしても、本件各商標権
について上記移転登録がされていることと平成30年の御中元に係る被控訴人の商
品が三越伊勢丹のカタログ等に掲載されなかったこととの間には、相当因果関係を
認めることができるというべきである。そして、本件各商標権について上記移転登
録がされたのは、控訴人及びAによる本件申請がされたからであり、また、本件各
商標権に係る上記移転登録は、令和元年5月まで抹消登録がされずに存在していた
のであるから(甲48、49)、控訴人及びAがした本件申請と平成30年の御中
元に係る被控訴人の商品及びそれ以降(ただし、補正して引用する原判決第4の3
(1)アのとおり令和元年8月31日まで)の被控訴人の商品が三越伊勢丹のカタロ
グ等に掲載されなかったこととの間にも、相当因果関係があるものと認めるのが相
当である。
(4) 控訴人は、①三越伊勢丹が「商標登録の問題」を理由に被控訴人の商品の
カタログ等への掲載を拒否したとは考え難い、②被控訴人は、その商品がカタログ
等に掲載されるための努力をしなかった、③被控訴人の商品がカタログ等に掲載さ
れなかったのは、被控訴人が三越伊勢丹に対し不誠実な対応をしたためであるとし
て、「商標登録の問題」は被控訴人の商品がカタログ等に掲載されなかったことの
原因ではないと主張する。
しかしながら、上記①については、補正して引用する原判決第4の1(3)オのと
おり、証拠(甲28、原審証人B、原審控訴人本人)及び弁論の全趣旨によると、
三越伊勢丹の担当者は、Bや被控訴人の担当者に対し、平成29年12月15日、
櫻山の商標登録に問題があり、これに問題があるとカタログ等を全部作り直さなけ
ればならないため、平成30年の御中元に係る被控訴人の商品をカタログ等に掲載
することはできないと告げたものと認められるところである。この点に関し、控訴
人は、仮に、三越伊勢丹が被控訴人に対してそのようなことを告げたのであれば、
それは三越伊勢丹の被控訴人に対する不合理な対応であって、そのような三越伊勢
丹の不合理な対応によって被控訴人に生じた損害は控訴人及びAの共同不法行為か
ら通常生ずべき損害ではないと主張するが、前記(3)において説示したとおり、現
に、平成29年12月15日当時、櫻山が保有する本件各商標権について櫻山から
Aに対する商標権移転登録がされていたのであり、被控訴人が本件商標1若しくは
2又はこれらに類似する商標を使用した場合、Aから異議が申し立てられるなどす
るおそれがあったのであるから、三越伊勢丹において、本件各商標権について上記
の移転登録がされていることを問題にし、そのことを理由に被控訴人の商品のカタ
ログ等への掲載を拒否するのは、十分合理性のある措置であったといえる。
上記②については、上記のとおり、本件各商標権に係る櫻山からAに対する商標
権移転登録がされている限り、三越伊勢丹において、そのことを理由に被控訴人の
商品のカタログ等への掲載を拒否することは、十分合理性のある措置であったとい
えるから、上記の移転登録の抹消登録がされない限り、被控訴人において、その商
品がカタログ等に掲載されるよう努力をしても、三越伊勢丹がそれを許可する可能
性はなかったものと認められる。そうすると、上記の移転登録の抹消登録がされる
までの間は、仮に、被控訴人において、その商品がカタログ等に掲載されるよう努
力をしなかったとしても、そのことにより、控訴人及びAがした本件申請と被控訴
人に生じた営業上の損害との間の相当因果関係が否定されることにはならない。
上記③については、補正して引用する原判決第4の3(1)アにおいて説示したと
おり、三越伊勢丹が被控訴人の商品をカタログ等に掲載しなかった原因が、被控訴
人が三越伊勢丹の信頼を失ったことにあると認めることはできず、その他、被控訴
人が三越伊勢丹に対して不誠実な対応をしたため、三越伊勢丹が被控訴人の商品を
カタログ等に掲載しなくなったものと認めるに足りる証拠はない。
以上のとおりであるから、控訴人の上記主張を採用することはできない。
(5) 控訴人は、①甲65の原資料である甲67には、カタログ等に掲載された
商品に係る売上げ以外の売上げも含まれている、②甲67に記載された売上額及び
櫻山の営業利益の算定方法についての被控訴人の説明によると、櫻山の営業利益率
は、櫻山の決算報告書(乙イ33)に記載された売上げ及び営業利益により計算し
た営業利益率を上回ることになるなどとして、甲67を原資料とする甲65に基づ
いて櫻山の営業利益の額を算定するのは相当でないと主張する。
そこで検討するに、証拠(甲37、65、67)及び弁論の全趣旨によると、甲
65には、櫻山の営業利益として、三越伊勢丹から櫻山に送付される明細書(甲6
7)に記載された櫻山の売上額(櫻山が三越伊勢丹に対して支払う20%の販売手
数料を控除したもの。以下、三越伊勢丹に係る櫻山の売上げについて同じ。)の合
計から同明細書の[9999]欄に記載された売上額を控除した上、ここから費用
として70%を控除した額が記載されているものと認められる。また、被控訴人代
表者は、原審本人尋問において、甲67の[9999]欄には櫻山の実店舗におけ
る売上額が記載されている、櫻山の売上げに対する製造原価の割合はおおむね50
%であるなどと供述している。以上に加え、一般に、百貨店のカタログを利用した
販売や百貨店のインターネット販売サイトを利用した販売においては、販売費及び
一般管理費が低廉なものに抑えられると考えられることも併せ考慮すると、甲65
に記載された額は、櫻山の営業利益を合理的に見積もったものと認めるのが相当で
ある。
これに対し、控訴人は、上記①のとおり主張するが、甲67の[9999]欄に
は櫻山の実店舗における売上額が記載されているとする被控訴人代表者の原審本人
尋問における上記供述を覆すに足りる証拠はない(甲67をみても、[9999]
欄に記載された売上げ以外の売上げに、カタログ等に掲載された商品に係る売上げ
以外の売上げが含まれていると認めることはできない。)。
また、控訴人は、上記②のとおり主張するが、上記のとおり、一般に、百貨店の
カタログを利用した販売や百貨店のインターネット販売サイトを利用した販売にお
いては、販売費及び一般管理費が低廉なものに抑えられると考えられ、また、証拠
(甲67、乙イ44)及び弁論の全趣旨によると、櫻山の売上げのうちの9割以上
が三越伊勢丹に係る売上げによって占められるところ、三越伊勢丹に係る櫻山の売
上げのうちカタログ等に掲載された商品に係る売上げが占める割合は、わずか数%
であると認められ、これらの事情に照らすと、仮に、カタログ等に掲載された商品
に係る櫻山の営業利益率が決算報告書(乙イ33)から算定される櫻山の全体の営
業利益率を上回るとしても、直ちに不合理であるとはいえない。
以上のとおりであるから、カタログ等に掲載される商品について被控訴人に生じ
た営業上の損害(逸失利益)の額を算定するに当たっては、その基礎収入の額を甲
65に記載された額に基づいて算定するのが相当である。
(6) 控訴人は、前掲最高裁令和2年4月7日第三小法廷判決は本件の控訴人の
ような立場の者にも当てはまるとして、本件訴訟において、被控訴人が別件訴訟に
おける費用(印紙、郵券及び仮処分登録免許税に係る費用。以下「別件費用」とい
う。)を損害として主張することは許されないと主張する。
しかしながら、控訴人は、Aと連帯して、控訴人及びAの共同不法行為(本件申
請)により被控訴人に生じた損害を賠償する責任を負うところ、補正して引用する
原判決第4の3(2)イにおいて説示したとおり、被控訴人は、別件訴訟の当事者で
ない控訴人を相手方として、別件費用を訴訟費用等の確定処分を経て取り立てるこ
とができないのであるから、上記最高裁判決が別件訴訟の当事者でない控訴人にも
当てはまると解するのは相当でない。
控訴人は、控訴人があずかり知らない別件訴訟において発生した別件費用を控訴
人が負担するとなると、控訴人に予測できない負担が発生するとも主張するが、控
訴人は、Aと共同して本件申請をし、これにより、本件各商標権について櫻山から
Aに対する商標権移転登録がされたのであるから、その結果、被控訴人が、本件各
商標権に係る処分禁止の仮処分命令の申立て及び執行や、本件各商標権に係る商標
権移転登録抹消登録手続請求訴訟の提起等を余儀なくされるのは当然のことである。
したがって、別件費用に係る被控訴人の損害は、控訴人及びAの共同不法行為(本
件申請)と相当因果関係のある損害であって、控訴人に別件費用の支払義務を負担
させることは、控訴人に予測できない負担を負わせるものではない。
また、控訴人は、控訴人が本件訴訟において別件費用を負担するとなると、Aも
本件訴訟において別件費用を負担することになり、上記最高裁判決を潜脱すること
になると主張するが、控訴人が本件訴訟において別件費用を負担することは、Aも
本件訴訟において別件費用を負担することを意味しない。
さらに、控訴人は、被控訴人はAにつき別件訴訟に係る訴訟費用等の確定処分を
経て別件費用に係る債務名義を取得することができるのであるから、控訴人につい
てまで別件費用に係る債務名義を取得できるとなると、被控訴人が債務名義を二重
に取得することになって不当であるとも主張するが、共同不法行為に基づいて不真
正連帯債務を負う複数の者について、同一の損害に係る複数の債務名義が存在する
ことは、何ら不当なことではない。
以上のとおりであるから、控訴人の上記主張を採用することはできない。
(7) 控訴人は、別件訴訟に係る弁護士費用を被控訴人の損害と認めることは、
弁護士費用の敗訴者負担が認められていない類型の訴訟である商標権移転登録抹消
登録手続請求訴訟において弁護士費用の敗訴者負担を認めることと同義であるし、
また、本件訴訟に係る弁護士費用を算定するに当たり、その算定の基礎となる損害
額に別件訴訟に係る弁護士費用も算入すると、弁護士費用が二重に計上されること
になるから、別件訴訟に係る弁護士費用を被控訴人の損害と認めるのは相当でない
し、仮に、別件訴訟に係る弁護士費用を被控訴人の損害と認めるのであれば、本件
訴訟に係る弁護士費用を算定するに当たっては、その算定の基礎となる損害額に別
件訴訟に係る弁護士費用を算入すべきではないと主張する。
しかしながら、控訴人及びAは、共同して本件申請をし、その結果、本件各商標
権について櫻山からAに対する商標権移転登録がされたのであるから、同移転登録
の抹消登録のために必要な法的手続である別件訴訟を提起し、追行するために要し
た費用が控訴人及びAの共同不法行為(本件申請)と相当因果関係のある損害であ
ることは明らかであるところ、商標権に係る処分禁止の仮処分命令申立事件及び商
標権移転登録抹消登録手続請求事件の専門性等に照らすと、これらの手続を弁護士
に委任することには十分な合理性が認められるというべきである。したがって、別
件訴訟に係る弁護士費用のうちの相当額(50万円)は、上記共同不法行為と相当
因果関係のある損害であると認めるのが相当である。
また、控訴人及びAの共同不法行為の内容等からすると、まず別件訴訟を提起し、
その結果を踏まえて本件訴訟を提起するとの二段階の訴訟手続を執ることは合理的
なものといえる。そして、補正して引用する原判決第4の3(6)のとおり、上記共
同不法行為と相当因果関係のある本件訴訟に係る弁護士費用の額を算定するに当た
っては、本件訴訟における認容額を一つの事情として考慮するのが相当であるとこ
ろ、別件訴訟に係る相当な額の弁護士費用も、本件訴訟における認容額を構成する
以上、これを本件訴訟における弁護士費用の額(上記共同不法行為と相当因果関係
のあるもの)を算定するに当たって考慮するのは当然であり、そのことは、弁護士
費用の二重計上に当たらない。
以上のとおりであるから、控訴人の上記主張を採用することはできない。
10 被控訴人の当審における補充主張について
被控訴人は、櫻山の営業利益の額の算定について、平成28年の実績を特別視す
るのは相当でないとして、当該営業利益の額の算定に当たっては、同年の実績に基
づいて、これを月額55万円とすべきであると主張する。
しかしながら、補正して引用する原判決第4の3(1)イにおいて説示したとおり、
櫻山は、平成28年において、他の年の数倍の営業利益を上げ、特に、同年11月
においては、前年同期と比較して11倍以上の営業利益を上げているのであるから、
櫻山の同年の営業利益は、櫻山の営業利益に係る実態を十分に反映するものとはい
い難い。したがって、櫻山の営業利益については、これを平成26年10月から平
成29年9月までの3年間の実績に基づいて算定するのが相当である。
この点に関し、被控訴人は、11月は御歳暮商戦の時期であるから、平成28年
11月の櫻山の営業利益が激増したのは当然であると主張するが、甲65によると、
櫻山は、例えば、同年10月には、前年同期と比較して2倍程度の営業利益を上げ、
同年12月にも、前年同期と比較して2倍程度の営業利益を上げたものと認められ
るのに対し、上記のとおり、櫻山は、同年11月には、前年同期と比較して11倍
もの営業利益を上げているのであるから、同月については、やはり例年とは異なる
特別な事情があったものと認めざるを得ない。
以上のとおりであるから、被控訴人の上記主張を採用することはできない。
11 結論
よって、当裁判所の上記判断と異なる原判決は一部不当であるから、控訴人の控
訴に基づき、原判決を主文1項のとおり変更し、被控訴人の附帯控訴は理由がない
からこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
本 多 知 成
裁判官
浅 井 憲
裁判官
中 島 朋 宏
(別紙)
当 事 者 目 録
控訴人兼附帯被控訴人 X
(以下「控訴人」という。)
同訴訟代理人弁護士 竹 内 淳
奥 富 健
被控訴人兼附帯控訴人 株 式 会 社 珠 屋 櫻 山
(以下「被控訴人」という。)
同訴訟代理人弁護士 吉 岡 正 太 郎
大 久 保 博 史
以 上
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