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令和2(ワ)23616等商標権侵害損害賠償請求事件(第1事件)、商標権侵害行為差止請求事件(第2事件)

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裁判所 請求棄却 東京地方裁判所東京地方裁判所
裁判年月日 令和4年12月8日
事件種別 民事
法令 商標権
商標法38条2項12回
商標法38条3項6回
不正競争防止法2条1項1号2回
民事訴訟法248条1回
商標法38条1項1回
商標法38条1回
商標法36条1項1回
不正競争防止法3条1項1回
キーワード 商標権32回
ライセンス28回
侵害21回
差止13回
損害賠償12回
許諾2回
実施2回
無効1回
主文 1 被告は、原告に対し、322万1388円及びこれに対する令和2年1
0月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は、別紙被告標章目録記載1ないし3の各標章を、別紙被告商品目
3 被告は、別紙被告商品目録記載の商品又はそれらの包装に別紙被告標章20
4 被告は、別紙被告標章目録記載1ないし3の各標章を付した洋服、コー
5 被告は、商品に関する広告、価格を内容とする情報に、別紙被告標章目
6 被告は、別紙被告商品目録記載の商品又はそれらの包装に別紙被告標章
7 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
8 訴訟費用及び調停費用は、これを11分し、その7を原告の負担とし、
9 この判決は、第1項ないし第5項に限り、仮に執行することができる。
10 原告のために、この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定め10
事件の概要 1 第1事件は、「ボーイロンドン」のブランド名で衣料品等の製造販売を業と する原告が、被告において、別紙被告商品目録記載の商品(以下「被告商品」 という。)を販売するに当たり別紙被告標章目録記載1ないし3の各標章(以 下「被告標章1」ないし「被告標章3」といい、併せて「被告標章」という。) を使用することが、原告の有する商標権を侵害し、また、被告が、被告のホー25 ムページにおいて原告の商号である「ANGLOFRANCHISE」(以下 「被告表示」という。)を使用することが、不正競争防止法2条1項1号又は 2号の不正競争行為に該当するとして、民法709条並びに商標法38条2項 又は3項及び不正競争防止法5条2項に基づき、2200万円(損害賠償金2 000万円及び弁護士費用200万円の合計額)及びこれに対する不法行為の 日の後である令和2年10月15日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで5 平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損 害金の支払を求めた事案である。

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判決文

令和4年12月8日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
令和2年(ワ)第23616号 商標権侵害損害賠償請求事件(第1事件)
同第23627号 商標権侵害行為差止請求事件(第2事件)
口頭弁論終結日 令和4年10月7日
5 判 決
原 告 アングロフランチャイズリミテッド
同訴訟代理人弁護士 堀 籠 佳 典
同 服 部 謙 太 朗
同補佐人弁理士 豊 崎 玲 子
10 被 告 PAGE-ONER株式会社
同訴訟代理人弁護士 小 林 幸 夫
同 木 村 剛 大
同 神 田 秀 斗
同 平 田 慎 二
15 主 文
1 被告は、原告に対し、322万1388円及びこれに対する令和2年1
0月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は、別紙被告標章目録記載1ないし3の各標章を、別紙被告商品目
録記載の商品又はその包装に付してはならない。
20 3 被告は、別紙被告商品目録記載の商品又はそれらの包装に別紙被告標章
目録記載1ないし3の各標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若し
くは引渡しのために展示し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供して
はならない。
4 被告は、別紙被告標章目録記載1ないし3の各標章を付した洋服、コー
25 ト、セータ一類、ワイシャツ類、下着、スカーフ、ネクタイの宣伝用ウェ
ブサイトに、 別紙被告標章目録記載1ないし3の各標章を付した製品を、
販売のために展示してはならない。
5 被告は、商品に関する広告、価格を内容とする情報に、別紙被告標章目
録記載1ないし3の各標章を付して電磁的方法により提供してはならない。
6 被告は、別紙被告商品目録記載の商品又はそれらの包装に別紙被告標章
5 目録記載1ないし3の各標章を付した商品を廃棄せよ。
7 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
8 訴訟費用及び調停費用は、これを11分し、その7を原告の負担とし、
その余は被告の負担とする。 
9 この判決は、第1項ないし第5項に限り、仮に執行することができる。
10 10 原告のために、この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定め
る。
事 実 及 び 理 由
第1 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、2200万円及びこれに対する令和2年10月15日
15 から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 主文第2項ないし第6項と同旨
3 被告は、「ANGLOFRANCHISE」の商号を使用し、同商号を使用
した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸入し、
若しくは電気通信回線を利用して提供してはならない。
20 第2 事案の概要
1 第1事件は、「ボーイロンドン」のブランド名で衣料品等の製造販売を業と
する原告が、被告において、別紙被告商品目録記載の商品(以下「被告商品」
という。)を販売するに当たり別紙被告標章目録記載1ないし3の各標章(以
下「被告標章1」ないし「被告標章3」といい、併せて「被告標章」という。)
25 を使用することが、原告の有する商標権を侵害し、また、被告が、被告のホー
ムページにおいて原告の商号である「ANGLOFRANCHISE」(以下
「被告表示」という。)を使用することが、不正競争防止法2条1項1号又は
2号の不正競争行為に該当するとして、民法709条並びに商標法38条2項
又は3項及び不正競争防止法5条2項に基づき、2200万円(損害賠償金2
000万円及び弁護士費用200万円の合計額)及びこれに対する不法行為の
5 日の後である令和2年10月15日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで
平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損
害金の支払を求めた事案である。
第2事件は、原告が、被告に対し、商標法36条1項及び2項に基づき、被
告標章の使用の差止め及び被告標章を付した被告商品(以下「被告製品」とい
10 う。)の廃棄等を求めるとともに、不正競争防止法3条1項及び2項に基づき、
被告表示の使用の差止め等を求めた事案である。
なお、当裁判所は、差止請求及び廃棄請求と損害賠償請求が別々に提起され
ている本件訴訟及び和解の経緯に照らし、可能な限り早期解決を図る観点から、
原告の商標に関する差止請求及び廃棄請求に関する部分を認容し、損害賠償請
15 求に関する部分を350万円の限度で認容する旨の決定(民事調停法17条)
をしたところ、被告は異議の申立てをしなかったものの、原告が異議の申立て
をしたことから、上記決定は、その効力を失った。
2 前提事実(証拠等の記載のないものは当事者間に争いがない。なお、本判決
を通じ、証拠を摘示する場合には、特に断らない限り、証拠番号は第1事件の
20 証拠番号であり、枝番を含むものとする。)
⑴ 当事者
ア 原告は、英国のロンドンに本社を置く民間有限会社であり、「ボーイロ
ンドン」のブランド名による衣料品等の製造販売を主な業としている。
(甲1、弁論の全趣旨)
25 イ 被告は、インターネット等による通信販売及び日用雑貨品等の販売等を
業とする日本の株式会社である。
⑵ 原告の商標権及び商号
ア 原告は、別紙商標権目録記載1ないし3の各商標権(以下「原告商標1」
ないし「原告商標3」といい、併せて「原告商標」という。)を有してい
る。
5 イ 原告の商号は、「ANGLOFRANCHISE」である。(甲1、弁
論の全趣旨)
⑶ 被告標章の使用
被告は、遅くとも平成31年2月頃から、「BOY LONDON 日本
公式通販サイト」との名称でインターネット上にウェブサイトを開設し、同
10 ウェブサイト等を通じて、被告製品を販売した。
⑷ 被告表示の使用
被告は、「ANGLOFRANCHISE」という名称(被告表示)を被
告のホームページに掲載し、公式にライセンス契約をしている旨をプレスリ
リースで宣伝した。
15 ⑸ 被告標章と原告商標との対比
被告標章1ないし3は、それぞれ原告商標1ないし3と同一又は類似であ
る。
⑹ 原告商標の指定商品と被告商品との対比
被告商品は、原告商標の指定商品に含まれる。
20 ⑺ 仮処分決定
原告は、平成31年4月3日、本件訴訟提起に先立ち、被告に対し、被告
標章を被告商品又はその包装に付してはならないこと、当該商品等を譲渡等
してはならないこと、被告標章を付した製品を宣伝用ウェブサイトに販売の
ために展示してはならないこと、広告等に被告標章を付して電磁的方法によ
25 り提供してはならないこと、「ANGLOFRANCHISE」の商号を使
用し、同商号を使用した商品を譲渡等してはならないこと、以上を求める仮
処分命令の申立てをしたところ(当庁平成31年(ヨ)第22040号)、
当庁は、令和元年12月5日、当該申立てを認容する決定(以下「本件仮処
分決定」という。)をした。(甲16、当裁判所に顕著な事実)
⑻ 調停に代わる決定
5 当裁判所は、令和4年7月22日、本件を民事調停に付した上で(当庁令
和4年(メ)第10015号)、同調停事件について、同年8月3日、民事
調停法17条により調停に代わる決定(以下「本件調停に代わる決定」とい
う。)をしたところ、被告は異議を申し立てなかったものの、原告が異議を
申し立て、同決定はその効力を失った。(当裁判所に顕著な事実)
10 3 争点
⑴ 不正競争行為の成否(争点1)
⑵ サブライセンスの成否(争点2)
⑶ 並行輸入の成否(争点3)
⑷ 商標法38条2項の適用の可否(争点4)
15 ⑸ 損害額(争点5)
⑹ 差止めの必要性(争点6)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(不正競争行為の成否)について
(原告の主張)
20 別紙原告商品等表示目録記載の「ANGLOFRANCHISE」(以下
「原告表示」という。)は、原告が1989年から使用している商号である。
そして、ボーイロンドンは、「世界的に有名となったブランド」(乙5の2)
であるが、原告表示(ANGLOFRANCHISE)をインターネット上で
検索すると、「BOY LONDON」と紐付いた情報が検索結果として表示
25 されることから、原告表示は、「BOY LONDON」と強く結び付けられ
る商号として、周知又は著名な商品等表示に該当する。
また、被告は、原告表示を自らのウェブサイトで使用し、正式にライセンス
を受けている旨プレスリリースしている。このような被告による原告表示の使
用は、需要者をして、原告と被告が同一の営業主体であるか、又は、原告の商
品と被告商品とが同一の出所を示すものと誤信させるものであるから、原告の
5 商品又は営業と混同を生じさせるものであり、不正競争防止法2条1項1号又
は2号の不正競争行為に当たる。
(被告の主張)
原告表示が、周知又は著名であることは争う。原告表示の検索結果において、
「BOY LONDON」に関連するウェブサイトが列挙されるとしても、原
10 告表示がボーイロンドンと何らかの関係がある可能性を示すにすぎない。
被告が、自らのウェブサイト上に原告表示を記載したのは、被告が「ANG
LOFRANCHISE」からライセンスを受けていることを示すためである。
また、原告と被告は全く別の会社であるから、両社間において、営業又は商
品の主体に混同が生じることはない。
15 2 争点2(サブライセンスの成否)について
(被告の主張)
被告は、以下に述べるとおり、真の商標権者であるボーイロンドンインター
ナショナルエルエルシー(以下「ボーイロンドンインターナショナル社」とい
う。)からサブライセンスを受けていた。
20 ⑴ 原告は、1992年12月29日、米国において、商標「BOY LON
DON」(以下「本件米国商標」という。)の登録を受けた。
本件米国商標の商標権は、1994年5月6日、原告から、BLUS C
orporation(以下「BLUS社」という。)に譲渡され、最終的
に、1998年12月7日、アングロフランチャイズ社(米国)に譲渡され
25 た。
そして、原告が、「BOY LONDON」の商標権を譲渡するに当たり、
商標権とは分離して商品販売権のみを保持し続ける合意がされることは考え
られないから、本件米国商標の商標権を譲渡したことで、米国における「B
OY LONDON」の商品販売権も譲渡したことは明らかである。加えて、
1999年4月に、アングロフランチャイズ社(米国)が、全世界的な「ボ
5 ーイロンドン」商標・事業権を買収したとの報道がされたことも考慮すれば、
「BOY LONDON」に関する全世界の商品販売権(商標権その他の知
的財産権を含む。以下同じ。)は、アングロフランチャイズ社(米国)に譲
渡されているものと認められ、当該商品販売権には、原告商標1も含まれる
から、原告商標1は、アングロフランチャイズ社(米国)に帰属したという
10 ことができる。
ボーイロンドンインターナショナル社の所有者兼代表取締役であるAは、
1990年代後半、アングロフランチャイズ社(米国)を買収し、「BOY
LONDON」に関する全世界の商品販売権を有することとなった(以下
「本件商品販売権の集約」という。)。すなわち、この時点で、「BOY
15 LONDON」に関する全世界の商品販売権は、実質的にA及びその所有会
社であるボーイロンドンインターナショナル社等が所有することとなった。
他方、本件米国商標は、2003年10月4日に登録を抹消されていたた
め、2004年2月10日、ボーイロンドンインターナショナル社の所有者
であるAが、米国において「BOY LONDON」に関する商標を出願し
20 て登録を受け、その後、当該商標権をボーイロンドンインターナショナル社
に譲渡した。
更にその後、ボーイロンドンインターナショナル社は、モンゴル及びベト
ナムにおいて「BOY LONDON」についての商標登録を受けた。なお、
日本では「BOY LONDON」の商品について事業展開の優先度が低か
25 ったため、登録商標の移転手続が後回しになり、形式的な名義人は原告のま
まとなっている。
原告は、1993年に休眠会社となって以降、2015年度まで資産状態
に一切変動がなく、事業実態が存在せず、2020年に至っても、従業員が
1名しかいない形骸化した会社である。しかるに、原告は、実質的な代表者
の交代を契機に、日本における原告商標1が原告の名義のままとなっていた
5 ことを奇貨として、原告商標2及び3の出願・登録を行い、被告に対して権
利行使を行ったものである。
⑵ ボーイロンドンインターナショナル社(A)は、2018年6月11日、
ジャアングループ株式会社(以下「ジャアングループ」という。)との間で、
「BOY LONDON」に関する商品化ライセンス契約を締結した。同ラ
10 イセンス契約は、ライセンスの対象地域を日本、米国、ベトナム及びモンゴ
ルとするものであり、日本における「BOY LONDON」に関する一切
の商標もライセンスの対象となる。
そして、ジャアングループは、上記商品化ライセンス契約に基づき、被告
に対し、日本における「BOY LONDON」商品の販売及び商標の使用
15 についてサブライセンスをした。
⑶ 以上のとおり、原告は、「BOY LONDON」に関する商品販売権を
アングロフランチャイズ社(米国)に譲渡したことにより、原告商標1に係
る権利を喪失している。
また、原告商標2及び3については、本件商品販売権の集約後に出願され
20 ているところ、原告自身が譲渡した事業に係る商標と同一・類似の商標を出
願することは、公序良俗に反するものであり、原告商標2及び3は無効理由
を有する登録商標である。さらに、上記のとおり正当なサブライセンスを受
けた被告に対し、原告商標2及び3に基づき権利行使をすることは、権利の
濫用に当たり認められない。
25 (原告の主張)
原告は、以下に述べるとおり、アングロフランチャイズ社(米国)及びボー
イロンドンインターナショナル社に対して原告商標の譲渡を行っておらず、全
世界に関する商品販売権の譲渡も行っていないから、被告が「BOY LON
DON」のサブライセンスを受けているという被告の主張は、前提を欠くもの
であり、失当である。
5 ⑴ 被告は、原告が「BOY LONDON」に関する商品販売権をアングロ
フランチャイズ社(米国)に売却したと主張するものの、このような取引は、
取締役会の決定を要するほど重要なものであるにもかかわらず、被告は、取
締役会議事録などの資料はもとより、売買契約書さえ提出していないから、
売却の事実は認められない。
10 ⑵ 原告商標の譲渡について、被告は、本件米国商標の譲渡を根拠として挙げ
るものの、本件で問題となっているのは、日本における商標であり、仮に米
国における商標である本件米国商標について、ジャアングループに対する使
用許諾があったとしても、それによって日本での使用が認められるものでは
ない。
15 また、原告からBLUS社への本件米国商標の譲渡については、確かに1
994年5月6日付けで記録されているものの、当該手続は、同年1月27
日付けの書面に基づいて行われたものであるところ、BLUS社の設立は同
年3月5日であり、書面作成時にはBLUS社は存在していないなど、本件
米国商標の譲渡に関する被告の主張には、事実に反する点が多々含まれる。
20 3 争点3(並行輸入の成否)について
(被告の主張)
被告が販売していた商品のうち、米国で製造されたものは、①ボーイロンド
ンインターナショナル社が、米国において保有する商標を付したものであるが、
②同社は、原告商標の真の権利者であるから、その商標は、原告商標と同一の
25 出所を表示するものであるといえ、③同社は、当該商品の品質管理を直接的に
行い得る立場にあり、その商標が保証する品質と原告商標が保証する品質には
実質的に差異がないといえるから、被告が、それらの商品を輸入販売する行為
は、真正商品の並行輸入として、商標権侵害の実質的違法性を欠くものである。
(原告の主張)
真正商品の並行輸入に該当するためには、輸入元の外国における商標権者と
5 日本の商標権者が同一又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得る関係に
あることが必須の前提条件である。本件においては、日本における原告商標の
商標権者は原告であり、原告とボーイロンドンインターナショナル社とは異な
る法人であるし、経済的に同一人と同視し得るような関係にもないから、上記
前提条件は満たされない。また、原告は、米国で製造される商品の品質管理を
10 行うことはできないから、上記被告の主張の③も、失当である。
したがって、並行輸入の抗弁は成り立たない。
4 争点4(商標法38条2項の適用の可否)について
(原告の主張)
⑴ 商標法38条2項が設けられた趣旨目的は、特許法102条2項と同様に、
15 侵害行為がなかったならば権利者が得られたであろう利益という仮定の事実
に基づく推論という事柄の性質上、侵害行為との因果関係の存在、損害額算
定の基礎となる各種の数額等を証明することに困難を生じる場合が多いこと
から、侵害行為により侵害行為者が得た利益の額を被害者の逸失利益額と推
定することによって権利者の損害証明の方法の選択肢を増やして被害の救済
20 を図るとともに、侵害行為者に推定覆滅のための証明をする余地を残して、
権利者に客観的に妥当な逸失利益の回復を得させる点にあるものと解される。
この点において、独占的通常使用権者は、登録商標の使用による市場利益
を独占し得る地位にあることにおいて商標権者や専用使用権者と異ならない
から、独占的通常使用権の侵害による損害の賠償請求の場合においても、商
25 標法38条2項を類推適用し得ると解するのが相当である。
⑵ 原告は、ボーイロンドン(HK)が大多数の株式を保有する、ボーイロン
ドン(HK)の子会社であり、原告とボーイロンドン(HK)は、Bが直
接・間接に支配するグループ会社でもある。
原告は、2013年にボーイロンドン(HK)が設立されて以来、同社に
原告商標の使用を許諾しており、日本への「BOY LONDON」関連商
5 品の販売は、専らボーイロンドン(HK)が担ってきた。
そうすると、ボーイロンドン(HK)が日本における「BOY LOND
ON」関連商品の独占的な販売権者であり、原告商標の独占的通常使用権者
であったことは明らかであるから、ボーイロンドン(HK)については、日
本における原告商標の独占的通常使用権者として商標法38条2項の類推適
10 用がある。
⑶ そして、ボーイロンドン(HK)は、2022年3月8日、同社が日本に
おける本件商標権侵害に関し独占的通常使用権者として被告に対して有する
損害賠償請求権一切を原告に譲渡した。したがって、原告は、被告に対して、
本件商標権侵害に関し独占的通常使用権者としての損害賠償請求権を有する。
15 ⑷ また、上記ボーイロンドン(HK)の損害賠償請求権と選択的に、原告固
有の商標法38条2項に基づく損害賠償も請求する。
(被告の主張)
⑴ 独占的通常使用権者は、債権的請求権を有するにすぎないところ、商標法
38条1項ないし3項の規定は、商標権者等が登録商標の使用権を物権的権
20 利として専有し、何人に対してもこれに基づく権利を自ら行使することがで
きることを前提として、商標権者等の権利行使を容易にするために設けられ
た規定であるから、独占的通常使用権者の損害についてこれらの規定を類推
適用することはできない。
そうすると、仮にボーイロンドン(HK)が独占的通常使用権者であると
25 しても、ボーイロンドン(HK)の損害賠償請求権について商標法38条2
項は類推適用されない。
⑵ また、そもそも以下のとおり、ボーイロンドン(HK)は原告商標の独占
的通常使用権者ではない。
すなわち、日本国内において原告商標を付した原告の商品の販売を行って
いた会社につき、原告は従前、原告、アイゴールド、永和インターナショナ
5 ル及びAMC International Ltd.である旨主張してい
たにもかかわらず、突如として、日本における「BOY LONDON」関
連商品の販売は、専らボーイロンドン(HK)が担ってきたなどと主張を変
遷させており、当該主張の信用性は皆無である。
また、原告とボーイロンドン(HK)との間にライセンス契約書はなく、
10 原告がボーイロンドン(HK)からライセンス料を一切受け取っていないこ
とも、ボーイロンドン(HK)が原告商標の独占的通常使用権者ではないこ
とを示している。
⑶ 原告は、1993年に休眠会社となって以降、2015年度まで資産状態
に一切変動がなく、2020年に至っても、従業員が1名しかいない形骸化
15 した会社である。実際に、原告は、被告が被告製品を販売していた期間、日
本において洋服等の販売をしていないから、侵害行為がなかったならば利益
が得られたであろうという事情等、損害の発生の基礎となる事情は存在しな
い。したがって、原告固有の商標法38条2項に基づく損害賠償請求も認め
られない。
20 5 争点5(損害額)について
(原告の主張)
⑴ 商標法38条2項に基づく損害額
ア 2019年12月3日までの心斎橋店、ECモール及びラフォーレ原宿
における被告製品の粗利は、●(省略)●である。
25 イ 被告は、同月4日以降は、心斎橋店において被告製品の販売を中止した
と主張するが、被告が同月28日時点においても、被告製品を大量に販売
していたことは、証拠(甲22、54)から明らかである。それにもかか
わらず、被告が同月4日以降の売上情報を開示していないこと、年末に向
けての商戦で同月後半の売上げはそれ以前と比べて飛躍的に増えていると
考えられることなどに照らせば、同月4日以降の心斎橋店の推計利益(粗
5 利)は、●(省略)●と推計すべきである。
ウ 被告は、心斎橋店において、1か月当たり●(省略)●万円を売り上
げてきた実績があるから、被告の日本公式ストアにおける2019年2
月15日から同年5月末日の間の売上額も、1か月当たり●(省略)●
を下回らないというべきである。そうすると、同期間の日本公式ストア
10 における売上額の合計は、●(省略)●×3.5か月)を下らない。
そして、同期間の粗利は、被告製品の平均粗利率である49.5%を
乗じた●(省略)●を下回らない。
エ 以上によれば、被告が被告製品の販売により得た利益は、2019年
12月3日までの心斎橋店、ECモール及びラフォーレ原宿の粗利が●
15 (省略)●、同月4日以降の心斎橋店の粗利が●(省略)●、同年2月
15日から同年5月末日までの日本公式ストアの粗利が●(省略)●で
あるから、合計●(省略)●を下回らない。
そして、原告は、被告の侵害行為によって、本件訴訟を提起すること
を余儀なくされたところ、これに要する弁護士費用は200万円を下ら
20 ない。
オ 被告は、損害の推定覆滅事情を挙げるが、以下に述べるとおり、いずれ
も失当である。すなわち、全世界的なブランドであるBOY LONDO
Nについて、販売店舗の地理的な商圏は無関係であるし、被告による被告
製品の広告宣伝は、通常行われる広告宣伝の域を出ていない。また、原告
25 はボーイロンドン(HK)から損害賠償請求権を譲り受けているから、原
告が同社からライセンス料を受け取っているか否かは、推定の覆滅に影響
しない。
⑵ 商標法38条3項に基づく損害額
ア 原告が他社と締結したライセンス契約(甲52)及び被告製品の売上げ
に係る資料に基づいてロイヤルティ額を計算すると、被告製品については、
5 売上高の約31%に相当する金額がロイヤルティ額となる。したがって、
商標法38条3項の使用料率は、販売額の20%を下回らないというべき
であり、本件仮処分決定後の販売については、販売額の100%をもって
使用料相当額とすべきである。
そして、本件仮処分決定前の被告製品の売上額が約●(省略)●と推定
10 され、同決定後の売上額が約●(省略)●と推定されることからすれば、
商標法38条3項により算定される原告の損害額は、少なくとも1600
万円となる。
(計算式)
●(省略)●=1600万円
15 イ 原告は、被告の侵害行為によって、本件訴訟を提起することを余儀な
くされたところ、これに要する弁護士費用は160万円を下らない。
(被告の主張)
⑴ 商標法38条2項に基づく損害額
ア 被告代表者は、2019年12月3日までに、心斎橋店の従業員に対し
20 て、「BOY LONDON」の商品の販売をやめるように指示している
から、同日に同商品の販売は停止している。実際に、日報(心斎橋店の売
上げに係る資料)には、同日までの販売実績しか載っていない。
仮に、心斎橋店の従業員が、被告代表者の指示に反して「BOY LO
NDON」の商品を販売していたとしても、2019年12月における心
25 斎橋店の全ての商品の売上高は、●(省略)●であるから(乙38の3)、
同月における心斎橋店の被告製品の売上高は、最大でも●(省略)●であ
る。
イ 被告製品の限界利益は、粗利●(省略)●から直接経費●(省略)●を
差し引いた、●(省略)●である。
ウ ①原告の商品と被告製品との販売態様等の相違、②被告による被告製品
5 の広告宣伝、③原告はライセンス料を受け取っていないことからすれば、
被告製品の販売によって原告の利益が減少したという関係になく、損害の
推定は、少なくとも99%は覆滅されるべきである。
すなわち、①原告の商品は、ウェブサイト上で販売されていなかったの
に対し、被告製品はウェブサイト上で販売されていた上、販売店舗の地理
10 的な商圏も全く異なっていた。また、②被告は、被告製品の街頭広告を設
置するなど、被告製品について広く広告宣伝を行っていた。さらに、③原
告は、ボーイロンドン(HK)からライセンス料を受け取っていないから、
原告の商品がいくら売れても、原告に利益は一切発生しない。
したがって、損害の推定は少なくとも99%は覆滅されるべきである。
15 ⑵ 商標法38条3項に基づく損害額
被服の分野における商標のロイヤルティ料率は、平均4.9%であり、最
小値は0.5%であるから(乙33)、原告商標の使用料率は、多くとも0.
5%である。
また、原告がライセンス料の実績として提出するライセンス契約書(甲5
20 2)は、ライセンシーも不明で信用性がないものであるから、使用料相当額
を根拠付けるものとはいえない。
6 争点6(差止めの必要性)について
(原告の主張)
被告は、本件仮処分決定後も、店舗又はウェブサイトにおいて被告製品の販
25 売を継続していたから、今後も販売を再開するおそれが高く、仮に一時的に被
告標章の使用を中止していたとしても、被告製品の販売を再開することは容易
である。
したがって、差止めの必要性が認められる。
(被告の主張)
被告は、既に被告標章の使用及び被告製品の販売をやめている。また、被告
5 製品を販売していた店舗に係る契約は解約されているから、当該店舗において
販売を再開することは不可能である。さらに、商標権侵害の問題が発生してか
ら、ジャアングループとの関係が悪化したので、そもそも被告製品を仕入れる
ことが不可能である。
これに対し、原告は、被告が、本件仮処分決定後も、被告製品の販売を継続
10 していたと主張するものの、被告代表者は、遅くとも、本件仮処分決定の前で
ある令和元年12月3日には、被告の従業員に対し、「BOY LONDON」
に係る商品の販売停止を指示しており、実際にも、同日までの売上げしか報告
されていない。
そして、被告は、被告標章の使用及び被告製品の譲渡等の差止めを認める内
15 容の本件調停に代わる決定に対し、異議を申し立てなかったのであるから、被
告において、被告標章の使用や被告製品の販売等を再開する意思がないことは
明らかである。
したがって、販売停止から約2年9か月経過した現時点において、被告が被
告標章の使用や被告製品の販売等を再開するおそれは皆無であり、差止めの必
20 要性は認められない。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(不正競争行為の成否)について
原告は、原告表示(ANGLOFRANCHISE)をインターネット上で
検索すると、「BOY LONDON」と紐付いた検索結果が表示され、被告
25 もウェブサイト上に原告表示を記載していることなどからすれば、原告表示は
「BOY LONDON」と強く結び付けられるものとして、周知又は著名な
商品等表示に該当すると主張する。
そこで検討するに、証拠(甲15、20、21)及び弁論の全趣旨によれば、
グーグル検索において「ANGLOFRANCHISE」を入力すると、「A
NGLOFRANCHISE」に関する検索結果のほかに、「BOY LON
5 DON」に関する検索結果が表示されること、また、画像検索部分において、
一部「BOY LONDON」の標章の画像が表示されること、被告のウェブ
サイトにおいて、被告は、「BOY LONDONの商標権&ライセンスを所
有している企業『Anglofranchise Ltd.』より、正式に日
本国内での販売許可を得ている唯一の企業」と表示していること、以上の事実
10 が認められる。
上記認定事実によれば、仮に「BOY LONDON」という標章に周知又
は著名な出所識別機能があるとしても、検索サイトにおいて「ANGLOFR
ANCHISE」と「BOY LONDON」が併せて表示される事実は、
「ANGLOFRANCHISE」と「BOY LONDON」が何らかの関
15 係がある可能性を示唆するにとどまり、これを超えて、「ANGLOFRAN
CHISE」についても同様に、「BOY LONDON」と同程度の周知又
は著名な出所識別機能があることまでを認めることはできない。そして、被告
のウェブサイトの記載によっても、上記認定事実によれば、被告のウェブサイ
トにおける原告表示の記載は、単に「ANGLOFRANCHISE」からラ
20 イセンスを受けている旨の事実を示すものにすぎず、需要者にとって「ANG
LOFRANCHISE」の標章自体が周知又は著名であることを直接裏付け
る事情とはいえない。その他に、本件全証拠を改めて検討しても、原告表示が
周知又は著名な商品等表示であることを認めるに足りる的確な証拠はない。
したがって、原告の主張は、採用することができない。
25 2 争点2(サブライセンスの成否)について
⑴ 認定事実
後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 原告は、1992年12月29日、米国において、商標「BOY LO
NDON」(本件米国商標)の登録を受け、1994年5月6日に、同商
標をBLUS社に譲渡した。その後、再び原告が本件米国商標を取得した
5 が、1998年に、同商標をアングロフランチャイズ社(米国)に譲渡し、
その旨登録された。その後は、同社が同商標を所有し続けたが、同商標の
登録は、2003年10月4日に抹消された。(乙6ないし8、弁論の全
趣旨)
イ 原告は、1993年度は、年間を通して休眠状態であり、その後も、2
10 013年度や2014年度などに、会計処理上「休眠会社」に振り分けら
れることがあった。(乙3、13、14、弁論の全趣旨)
ウ 韓国経済新聞は、1999年4月5日、Aが経営するアングロフランチ
ャイズ社(米国)が、全世界の「ボーイロンドン」の商標権及び事業権を
買収したと報道した。(乙5)
15 エ アングロフランチャイズ社(米国)の所有者であるAは、本件米国商標
が2003年10月4日に登録抹消されたのを受け、2004年2月10
日、アメリカにおいて「BOY LONDON」に関する商標を出願して
登録を受け、その後、ボーイロンドンインターナショナル社に同商標を譲
渡した。(乙4、5、10、弁論の全趣旨)
20 ボーイロンドンインターナショナル社は、2008年にモンゴルにおい
て、2010年にベトナムにおいて、それぞれ「BOY LONDON」
の商標を登録した。(乙11、12、弁論の全趣旨)
⑵ 被告は、ボーイロンドンインターナショナル社の所有者兼代表取締役であ
るAが、アングロフランチャイズ社(米国)を買収し、「BOY LOND
25 ON」に関する全世界の商品販売権を有することとなったところ(本件商品
販売権の集約)、被告は、ボーイロンドンインターナショナル社から「BO
Y LONDON」のライセンスを受けたジャアングループとの間で、日本
における「BOY LONDON」商品の販売及び商標の使用についてサブ
ライセンス契約を締結しているから、日本における「BOY LONDON」
の流通及び販売について合法的な権限を有している旨主張する。
5 そこで検討するに、被告の上記主張は、アングロフランチャイズ社(米国)
が、全世界における「BOY LONDON」に関する商品販売権を原告か
ら取得したことを前提事実とするものであるため、この点につき検討する。
上記認定事実によれば、原告は、自身が所有していた本件米国商標を、1
994年5月6日にBLUS社に譲渡したことが認められるものの、当該譲
10 渡は、飽くまで米国における商標「BOY LONDON」の譲渡にとどま
るものであり、その他に、全世界における「BOY LONDON」に関す
る商品販売権を原告が譲渡したとの被告の主張を裏付ける契約書等の客観的
証拠はなく、被告主張に係る上記前提事実を認めるに足りない。
もっとも、上記認定事実によれば、韓国経済新聞は、Aが経営するアング
15 ロフランチャイズ社(米国)が、全世界の「ボーイロンドン」の商標権及び
事業権を買収したと報道した事実が認められるものの、その報道を客観的に
裏付ける譲渡契約書、譲渡代金の振込記録その他の客観的証拠が提出されて
いない。のみならず、証拠(乙4〔11頁~12頁〕)及び弁論の全趣旨に
よれば、Aが全世界の商品販売権を取得した時期につき、当のAは、199
20 1年であると陳述しているのに対し、被告は、1990年代後半頃であると
主張しているのであるから、Aの陳述と被告の主張は、それ自体整合するも
のではない。しかも、上記認定事実及び弁論の全趣旨によれば、全世界の商
品販売権を購入した当時のアングロフランチャイズ社(米国)の所有者又は
経営者につき、韓国経済新聞は、Aであると報道するのに対し、被告は、C
25 であると主張しているのであるから、韓国経済新聞の報道と被告の主張も、
それ自体整合するものではない。
これらの事情の下においては、上記の報道の一事によって、アングロフラ
ンチャイズ社(米国)が、「BOY LONDON」につき日本を含む全世
界的な商標権を取得したことを推認するに足りず、その他の本件証拠を精査
しても、上記事実を認めるに足りない。
5 そして、上記において説示したところを踏まえると、原告において199
8年における本件米国商標の譲渡等をめぐる真相又は実情(上記 ア)を具
体的に明らかにしようとしない事情をも十分考慮しても、少なくとも本件証
拠上は、被告主張に係る前提事実を認めるに足りず、被告の主張は、その前
提を欠く。また、被告は、原告商標2及び3について、原告が権利行使をす
10 ることは、公序良俗に反する上、権利の濫用に当たると主張するものの、い
ずれも上記前提事実を前提とする主張であるから、その理由がないことは、
上記と同様である。
したがって、被告の主張は、いずれも採用することができない。
3 争点3(並行輸入の成否)について
15 被告は、被告が販売していた商品のうち米国で製造されたものについては、
真正商品の並行輸入に当たり、商標権侵害としての実質的違法性を欠くと主張
する。
しかしながら、上記にいう並行輸入に該当するためには、少なくとも、外国
における商標権者と日本の商標権者とが同一人であるか又は法律的若しくは経
20 済的に同一人と同視し得るような関係があることにより、当該商標が日本の登
録商標と同一の出所を表示するものであることが必要であるところ(最高裁平
成14年(受)第1100号同15年2月27日第一小法廷判決・民集57巻
2号125頁参照)、被告は、日本における「BOY LONDON」の商標
権者がボーイロンドンインターナショナル社であることを前提として、上記に
25 いう要件を満たすと主張するものであり、その理由がないことは、前記2と同
様である。
したがって、被告の主張は、採用することができない。
4 争点4(商標法38条2項の適用の可否)について
⑴ ボーイロンドン(HK)について
原告は、日本における原告商標の独占的通常使用権者であるボーイロンド
5 ン(HK)から、同社が被告に対して有する損害賠償請求権を譲り受けた旨
主張して、同社に商標法38条2項の類推適用があることを前提として、同
項に基づく請求をしている。
そこで、ボーイロンドン(HK)に商標法38条2項を類推適用できるか
否かについて検討すると、証拠(甲40ないし42、49)によれば、ボー
10 イロンドン(HK)が原告商標を付した原告の商品を日本向けに販売してい
ることは認められるものの、ボーイロンドン(HK)以外にAMC Int
ernational Ltd.も、日本向けに「BOY LONDON」
商品の販売を行っていることが認められる(甲36)。そのため、ボーイロ
ンドン(HK)は、原告商標の独占的通常使用権者には当たらないというべ
15 きである。
そうすると、ボーイロンドン(HK)が日本における原告商標の独占的通
常使用権者であることを前提に、同社に商標法38条2項が類推適用できる
という原告の主張は、その前提を欠く。したがって、原告の主張は、採用す
ることができない。
20 ⑵ 原告自身について
原告は、原告自身にも商標法38条2項が適用されると主張するが、原告
自身においてボーイロンドン(HK)が日本における原告商標の独占的通常
使用権者である旨主張しているとおり、原告は、原告商標を付した商品を日
本において販売していないのであるから、原告の主張は、商標法38条2項
25 を適用する前提を欠く。したがって、原告の主張は、採用することができな
い。
5 争点5(損害額)について
⑴ 商標法38条3項に基づく損害額
ア 被告製品の売上高
証拠(乙34ないし37)及び弁論の全趣旨によれば、本件仮処分決
5 定前の被告製品の売上高は、心斎橋店において●(省略)●、ECモー
ル及びラフォーレ原宿において●(省略)●であることが認められる。
したがって、被告製品の売上高は、合計●(省略)●と認めるのが相当
である。
また、証拠(甲18、22ないし25、54、乙38の3)及び弁論
10 の全趣旨によれば、被告は、本件仮処分決定後も、被告製品の販売を続
けたところ、2019年12月の心斎橋店の全商品の売上高は、●(省
略)●であることが認められることからすると、同決定後の被告製品の
売上高は、弁論の全趣旨を踏まえ、●(省略)●と認めるのが相当であ
る。
15 これに対して、原告は、日本公式ストアの推定売上高は、●(省略)
●円を下回らないと主張するが、証拠(乙36、37)及び弁論の全趣
旨によれば、日本公式ストアの売上高は●(省略)●であり、当該売上
高は上記ECモールの売上高に含まれるといえる。したがって、原告の
主張は、採用することができない。
20 他方、被告は、心斎橋店の売上高は、証拠(乙34及び35)によれ
ば、●(省略)●であると主張するが、売上高をまとめた乙34の集計
には漏れが認められることを踏まえると(甲56、弁論の全趣旨)、原
告の集計結果である●(省略)●と認めるのが相当である。したがって、
被告の主張は、採用することができない。
25 イ 実施料率
証拠(乙33)及び弁論の全趣旨によれば、一般的な被服のロイヤルテ
ィ料率は、平均が4.9%、最大で7.5%であることが認められ、その
他本件に現れた諸事情を考慮して、弁論の全趣旨を踏まえ、本件における
実施料率を算定すれば、本件仮処分決定前は10%の限度で、同決定後は、
同決定後も被告製品の販売を続けたという侵害態様の悪質性を考慮して2
5 0%の限度で、それぞれ認めるのが相当である。
これに対して、原告は、原告が他社と締結したライセンス契約(甲52)
に基づいてロイヤルティ額を計算すると、被告製品については、売上高の
約31%に相当する金額がロイヤルティ額となるから、使用料率は20%
を下回らないと主張する。しかしながら、証拠(甲52)及び弁論の全趣
10 旨によれば、上記ライセンス契約は、年間の最低ロイヤルティ料5万60
00米ドル、最低使用料超過部分のロイヤルティ料率を7%と定めるもの
であるから、全体のロイヤルティ料率は、売上高によって左右されるもの
となる。そうすると、売上高の規模を異にする上記他社のロイヤルティ額
は、本件に適切ではなく、原告の主張は、上記認定を左右するものとはい
15 えない。したがって、原告の主張は、採用することができない。
ウ まとめ
以上によれば、商標法38条3項による損害額は、本件仮処分決定前の
売上高である●(省略)●に使用料率10%を乗じた●(省略)●(小数
点以下四捨五入)と、決定後の売上高である●(省略)●に使用料率2
20 0%を乗じた●(省略)●との合計額である292万1388円と算定さ
れる。また、本件事案の内容、難易度、審理経過及び認容額等に鑑みると、
これと相当因果関係にあると認められる弁護士費用相当損害額は、30万
円と認めるのが相当である。そうすると、原告の損害額は、合計322万
1388円と認められる。
25 ⑵ 民事訴訟法248条の適用の可否
原告は、被告からの資料の開示が不十分であることなどから、損害の性質
上その額を立証することが極めて困難であるとして、民事訴訟法248条を
適用して損害額を認定するべきであると主張する。しかしながら、上記にお
いて説示したところを踏まえると、被告が原告に開示等した資料によれば、
損害額を立証することが極めて困難であるとはいえない。したがって、原告
5 の主張は、採用することができない。
⑶ 被告の過失の有無
被告は、被告製品を日本国内において販売するに際し、ジャアングループ
より、同社は「日本におけるBoy Londonに関する流通及び販売に
関する合法的な権限を付与されている。」と記載された確認書(乙16)を
10 受け取っているから、商標権侵害について過失がないと主張する。しかしな
がら、同確認書は、本件仮処分決定に係る申立ての後に作成されたものであ
り(前提事実⑺、乙16)、同確認書を受け取ったことによって無過失が推
認されるものでもなく、その他の証拠を精査しても、被告製品を販売してい
た当時、被告が商標権侵害について過失がなかったということはできない。
15 したがって、被告の主張は、採用することができない。
6 争点6(差止めの必要性)について
被告は、被告製品を販売していた店舗に係る契約が解約されたことなどから、
被告製品の販売再開は不可能であるし、被告においてその意思がないことは、
被告が、本件調停に代わる決定に対して異議を申し立てなかったことからも明
20 らかであって、差止めの必要性は認められないと主張する。
しかしながら、店舗での販売をせずとも、ウェブサイトでの販売は可能かつ
容易である上、被告が、本件仮処分決定後も被告製品の販売を続けていた事情
その他に本件に現れた諸事情を踏まえると、被告は上記決定に対し異議を申し
立てずこれを真摯に受け入れる姿勢を示したのであり、上記において説示した
25 侵害態様の悪質性が相当程度低減している事情を十分に斟酌しても、なお差止
めの必要性があるものと認めるのが相当である。したがって、被告の主張は、
採用することができない。
第5 結論
よって、原告の各請求については、主文記載の限度で認容し、その余をいず
れも棄却することとし、仮執行宣言については、廃棄請求に付するのは相当で
5 なくその余の限度で付することとし、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
中 島 基 至
10 裁判官
古 賀 千 尋
裁判官
15 國 井 陽 平
(別紙)
商標権目録

5 登録番号 第4169226号
出願日 平成4年7月22日
登録日 平成10年7月24日
商品及び役務の区分 第25類
10 指定商品 洋服、コート、セーター類、ワイシャツ類、下着、スカ
ーフ、ネクタイ、ベルト、靴類(「靴合わせくぎ・靴く
ぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具」を除く。)

登録番号 第5704331号
出願日 平成26年4月11
登録日 平成26年9月26日
商品及び役務の区分 第14類
指定商品 宝玉及びその原石並びに宝玉の模造品、キーホルダー、
宝石箱、記念カップ、記念たて、身飾品、貴金属製靴飾
り、時計
10 商品及び役務の区分 第18類
指定商品 かばん金具、がま口口金、蹄鉄、皮革製包装用容器、愛
玩動物用被服類、かばん類、袋物、携帯用化粧道具入
れ、傘、ステッキ、つえ、つえ金具、つえの柄
商品及び役務の区分 第25類
15 指定商品 被服、ガーター、靴下止め、ズボンつり、バンド、ベル
ト、履物、仮装用衣服
商品及び役務の区分 第35類
指定役務 織物及び寝具類の小売又は卸売の業務において行われる
顧客に対する便益の提供、被服の小売又は卸売の業務に
20 おいて行われる顧客に対する便益の提供、履物の小売又
は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提
供、かばん類及び袋物の小売又は卸売の業務において行
われる顧客に対する便益の提供、身の回り品の小売又は
卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、
広告業、マーケティング、広告・事業の管理及び運営並
5 びに一般事務処理に関する情報の提供(オンラインによ
るものを含む。)、インターネット上の広告スペースの
貸与、インターネットを通じたオンラインによる商品の
通信販売の取次ぎ、インターネット上におけるオンライ
ンでの商業情報要覧の提供、フランチャイズの運営に関
10 する助言、経営の診断又は経営に関する助言、市場調査
又は分析、商品の販売に関する情報の提供、輸出入に関
する事務の代理又は代行、コンピューターによるオンラ
インでの商品の受注事務の代行、インターネット・携帯
電話を利用した通信販売の注文・受付・配送に関する事
15 務処理代行、広告用具の貸与

登録番号 第5802810号
出願日 平成26年4月11 日
登録日 平成27年10月30日
商品及び役務の区分 第14類
指定商品 宝玉及びその原石並びに宝玉の模造品、キーホルダー、
宝石箱、記念カップ、記念たて、身飾品、貴金属製靴飾
り、時計
10 商品及び役務の区分 第18類
指定商品 かばん金具、がま口口金、蹄鉄、皮革製包装用容器、愛
玩動物用被服類、かばん類、袋物、携帯用化粧道具入
れ、傘、ステッキ、つえ、つえ金具、つえの柄
商品及び役務の区分 第25類
15 指定商品 被服、ガーター、靴下止め、ズボンつり、バンド、ベル
ト、履物、仮装用衣服
商品及び役務の区分 第35類
指定役務 織物及び寝具類の小売又は卸売の業務において行われる
顧客に対する便益の提供、被服の小売又は卸売の業務に
20 おいて行われる顧客に対する便益の提供、履物の小売又
は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提
供、かばん類及び袋物の小売又は卸売の業務において行
われる顧客に対する便益の提供、身の回り品(傘を除
く)の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対す
る便益の提供、広告業、マーケティング、広告・事業の
5 管理及び運営並びに一般事務処理に関する情報の提供
(オンラインによるものを含む。)、インターネット上
の広告スペースの貸与、インターネットを通じたオンラ
インによる商品の通信販売の取次ぎ、インターネット上
におけるオンラインでの商業情報要覧の提供、フランチ
10 ャイズの運営に関する助言、経営の診断又は経営に関す
る助言、市場調査又は分析、商品の販売に関する情報の
提供、輸出入に関する事務の代理又は代行、コンピュー
ターによるオンラインでの商品の受注事務の代行、イン
ターネット・携帯電話を利用した通信販売の注文・受
15 付・配送に関する事務処理代行、広告用具の貸与
(別紙)
被告標章目録


10 3
(別紙)
被告商品目録
フーディー、ティーシャツ、スウェットシャツ、クロップトップ、ジャケット、
5 ブルゾン、パーカー、ジョガー、レギンス、トレーニングパンツ、帽子、洋服、コ
ート、セーター類、ワイシャツ類、下着、スカーフ、ネクタイ
(別紙)
原告商品等表示目録
ANGLOFRANCHISE

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