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令和2(ワ)19221特許権侵害差止等請求事件

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裁判所 一部認容 東京地方裁判所東京地方裁判所
裁判年月日 令和5年2月28日
事件種別 民事
当事者 原告株式会社宮本製作所
被告株式会社HappyAdwords
対象物 洗濯用洗浄補助用品及びこれを用いた洗濯方法
法令 特許権
特許法101条2号10回
キーワード 侵害32回
特許権23回
実施20回
間接侵害18回
差止9回
主文 1 被告は、別紙物件目録記載の被告製品を販売し、又は販売の申出をしてはな
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は被告の負担とする。15
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
事件の概要 本件は、発明の名称を「洗濯用洗浄補助用品及びこれを用いた洗濯方法」と する特許第5312663号の特許(以下「本件特許」という。)に係る特許 権(以下「本件特許権」という。)を有する原告が、被告に対し、被告が別紙 物件目録記載の被告製品(以下「被告製品」という。)を製造、販売及び販売25 の申出をする行為が本件特許権の間接侵害(特許法101条2号)に当たると して、特許法100条1項に基づき、被告製品の製造、販売及び販売の申出の 差止めを求める事案である。

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判決文

令和5年2月28日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和2年(ワ)第19221号 特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 令和4年11月18日
判 決
原 告 株 式 会社 宮 本 製 作 所
同訴訟代理人弁護士 鮫 島 正 洋
杉 尾 雄 一
被 告 株式会社HappyAdwords
10 同訴訟代理人弁護士 羽 鳥 正 靖
主 文
1 被告は、別紙物件目録記載の被告製品を販売し、又は販売の申出をしてはな
らない。
2 原告のその余の請求を棄却する。
15 3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
被告は、別紙物件目録記載の被告製品を製造し、販売し、又は販売の申出を
20 してはならない。
第2 事案の概要
本件は、発明の名称を「洗濯用洗浄補助用品及びこれを用いた洗濯方法」と
する特許第5312663号の特許(以下「本件特許」という。)に係る特許
権(以下「本件特許権」という。)を有する原告が、被告に対し、被告が別紙
25 物件目録記載の被告製品(以下「被告製品」という。)を製造、販売及び販売
の申出をする行為が本件特許権の間接侵害(特許法101条2号)に当たると
して、特許法100条1項に基づき、被告製品の製造、販売及び販売の申出の
差止めを求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠(以下、書証番号は特
記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 当事者等
ア 原告は、マグネシウム製品の開発、製造、販売等を業とする株式会社で
5 あり、本件特許権を有している。
イ 被告は、マグネシウム粒の販売等を業とする株式会社である。
(2) 本件特許
ア 原告は、平成24年11月5日、本件特許に係る特許出願(特願201
2-243302号)をし、平成25年7月12日、本件特許権の設定の
10 登録(請求項の数7)を受けた。
イ 本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし3の記載は、以下のとおり
である(以下、各請求項に係る発明を、順次、「本件発明1」 「本件発明

2」「本件発明3」といい、これらを併せて「本件各発明」という。。
、 )
(ア) 請求項1
15 複数個の、金属マグネシウム(Mg)単体を50重量%以上含有する
粒子を、水を透過する網体で封入してなることを特徴とする洗濯用洗浄
補助用品。
(イ) 請求項2
粒子が金属マグネシウム(Mg)単体を実質的に100重量%含有す
20 るものであることを特徴とする請求項1に記載の洗濯用洗浄補助用品。
(ウ) 請求項3
粒子の平均粒径が1.0~9.0mmであることを特徴とする請求項
1又は2に記載の洗濯用洗浄補助用品。
(3) 本件各発明の構成要件の分説
25 本件各発明の構成要件を分説した結果は、以下のとおりである(以下、分
説した構成要件を、頭書の符号に対応させて、「構成要件1A」などとい
う。。

ア 本件発明1
1A 複数個の、金属マグネシウム(Mg)単体を50重量%以上含有
する粒子を、水を透過する網体で封入してなる
1B ことを特徴とする洗濯用洗浄補助用品。
イ 本件発明2
5 2A 粒子が金属マグネシウム(Mg)単体を実質的に100重量%含
有するものである
2B ことを特徴とする請求項1に記載の洗濯用洗浄補助用品。
ウ 本件発明3
3A 粒子の平均粒径が1.0~9.0mmである
10 3B ことを特徴とする請求項1又は2に記載の洗濯用洗浄補助用品。
(4) 原告による「洗たくマグちゃん」の販売(甲9ないし18、23ないし6
0、68ないし70、74、75、78及び81並びに弁論の全趣旨)
原告は、平成25年9月から、「洗たくマグちゃん」という名称で、本件
各発明の実施品である洗濯用洗浄補助用品(以下「原告製品」という。)の
15 販売を開始した。
原告製品は、平成30年9月にテレビ番組で紹介されたことを契機に、多
数のテレビ番組、雑誌、新聞、ウェブサイト、著名人や芸能人のブログ等で
取り上げられるようになり、令和2年1月頃までには、全国的に周知された
洗濯用洗浄補助用品となった。
20 また、原告製品は、全国規模の実店舗や、インターネットのショッピング
サイトで販売され、令和2年5月までに、少なくとも500万個が販売され
た。
(5) 被告の行為(甲93、94及び140並びに弁論の全趣旨)
ア 被告による被告製品の販売
25 被告は、遅くとも令和元年7月29日から、金属マグネシウムの粒子の
販売及び販売の申出を開始し、令和2年1月ないし3月頃から、業として、
被告製品の販売(無償譲渡を含む。以下同じ。)及び販売の申出を開始し
たが、遅くとも口頭弁論終結時までには販売及び販売の申出が停止された。
イ 被告製品の商品説明の表示
(ア) 被告製品の商品パッケージの記載
被告製品の商品パッケージには、「BATH」 「WASH」及び「C

LEAN」の記載がある。
5 (イ) インターネットショッピングサイトAmazonにおける被告製品販
売ページの記載
インターネットショッピングサイトAmazonにおける被告製品販
売ページ(以下「本件ウェブページ」という。)には、「DIY」及び
「【洗濯に】 高純度のマグネシウムペレットを水の中に入れると水道水
10 が弱アルカリイオン水に変化します。この弱アルカリイオン水には臭い
成分の分解や洗浄力があります。 、
」 「部屋干しの生乾きの嫌な臭いに・
雨の日の洗濯物の嫌な臭いに・タオルの生乾きの嫌な臭いに」などの記
載がある。
(6) 本件訴訟提起前の交渉経緯(甲124及び134)
15 原告は、被告に対し、令和元年10月11日、被告製品を販売する行為が
本件特許権を侵害する旨を記載した通知書(以下「本件通知書」という。)
を送付し、被告製品の販売中止等を求め、被告は同月15日、これを受領し
た。
被告は、原告に対し、同年12月24日付け「ご連絡」と題する書面を送
20 付し、被告製品の販売が本件特許権を侵害することを争い、原告の要求に応
じることができない旨を明らかにした。
2 争点
(1) 被告製品の製造、販売及び販売の申出による間接侵害の成否(争点1)
(2) 差止めの必要性の有無(争点2)
25 第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(被告製品の製造、販売及び販売の申出による間接侵害の成否)につ
いて
(原告の主張)
被告は、自ら金属マグネシウムの粒子を洗濯ネットに封入した洗濯用洗浄補
助用品を製造、販売等すると、本件特許権を侵害することから、これを回避す
る目的で、被告製品に係る金属マグネシウムの粒子を製造、販売等し、購入者
に、金属マグネシウムの粒子を洗濯ネットに封入させて本件各発明に係る洗濯
5 用洗浄補助用品を生産させているのであり、次の各要件を満たすことから、本
件特許権の間接侵害(特許法101条2号)が成立する。
(1) 金属マグネシウムの粒子を洗濯ネットに封入して製造された洗濯用洗浄補
助用品が本件各発明の技術的範囲に属すること
被告製品は、下記aないしcの構成(以下、順次「構成a」「構成b」な

10 どという。)を有しており、これを前提とすると、被告製品に係る金属マグ
ネシウムの粒子を洗濯ネットに封入して製造された洗濯用洗浄補助用品は、
本件各発明の技術的範囲に属するといえる。

a 純度が約99.95%であって、平均粒径が5mmの金属マグネシ
15 ウムの粒子からなり、
b 洗濯用洗浄補助用品の手作りの用途に用いることが商品説明に記載
された、
c 複数の金属マグネシウムの粒子。
(2) 被告製品が本件各発明に係る「物の生産に用いる物」であり、本件各発明
20 による「課題の解決に不可欠なもの」であることについて
本件各発明に係る洗濯用洗浄補助用品は、被告製品に係る金属マグネシ
ウムの粒子を洗濯ネットに封入することにより生産できることから、被告
製品は、本件各発明に係る洗濯用洗浄補助用品の生産に用いられるものと
いえる。
25 また、本件特許に係る特許出願の願書に添付された明細書(以下「本件
明細書」という。また、明細書の発明の詳細な説明中の段落番号を【00
01】などと記載する。)の記載によれば、本件発明1の課題は、従来技術
とは異なり、洗濯後の繊維製品に残存する汚れ自体を、金属マグネシウム
(Mg)単体の作用により減少させることによって、生乾き臭の発生を防
止しようとするものであるところ(【0006】 、本件発明1は、かかる課

題を解決するために、金属マグネシウム(Mg)単体と水との反応により
発生する水素が、界面活性剤の汚れを落とす作用を促進させることを見出
5 して(【0007】 、構成要件1Aの「金属マグネシウム(Mg)単体を5

0重量%以上含有する粒子」を洗濯用洗浄補助用品として用いる構成を採
用したものであるといえる。
したがって、本件発明1は、「金属マグネシウム(Mg)単体を50重
量%以上含有する粒子」を備える点に、従来技術に見られない特徴的技術
10 手段が存在する。
そして、被告製品は、「純度が約99.95%であって、平均粒径が5m
mの金属マグネシウムの粒子」の構成を有し、請求項1に係る本件発明1
の構成要件1Aを備えるものであるから、特許法101条2号の「その発
明による課題の解決に不可欠なもの」に該当する。請求項1に従属する請
15 求項2及び3に係る本件発明2及び3についても同様である。
(3) 「日本国内において広く一般に流通しているもの」に該当しないことにつ
いて
被疑侵害品が「日本国内において広く一般に流通しているもの」に該当
するか否かを判断した裁判例は、被疑侵害品の用途、構成、需要者等の限
20 定があるかどうかを考慮する一方で、被疑侵害品の市場の流通量を考慮し
ていない。
被告製品は、「純度が約99.95%であって、平均粒径が5mmの金属
マグネシウムの粒子」(構成a)であり、日本国内の市場で広く取引されて
いるアルミ合金添加用途、ダイカスト用途及び鉄鋼脱硫剤用途の金属マグ
25 ネシウムとは、純度、形状及び用途が全く異なり、用途、構成及び需要者
が限定される特注品である。
また、被告製品は、「洗濯用洗浄補助用品の手作りの用途に用いることが
商品説明に記載され」(構成b)ており、その記載内容が被告製品を洗濯ネ
ットの網体に封入して用いる旨の説明であることは明らかであるから、本
件各発明の実施のために設計された製品であるといえる。
この点、被告は、被告製品と同様の構成を備える金属マグネシウムの粒
子は、市場において多数販売されており、容易に入手可能であるなどと主
5 張する。しかし、特許法101条2号が間接侵害の要件として「日本国内
において広く一般に流通しているものを除く。」と規定した趣旨は、取引の
安全性を確保するために、汎用品を間接侵害の対象外とした点にあるとこ
ろ、被告が市場において入手可能であると主張する金属マグネシウムの粒
子は、被告製品と同様、本件各発明の実施のために設計された間接侵害品
10 であり、そもそも間接侵害品について取引の安全性を確保する必要はない
から、上記の趣旨は妥当しない。
また、原告は、被告製品と同様の金属マグネシウムの粒子を発見した後、
速やかに販売の停止を求め、実際にこれを停止させてきたものであり、遅
くとも口頭弁論終結時において、被告製品は、市場において広く取引され、
15 たやすく入手できるものであったとはいえない。
したがって、被告製品は「日本国内において広く一般に流通しているも
の」に該当しない。
(4) 主観的要件について
ア 本件各発明が特許発明であることの認識について
20 原告製品は、被告が金属マグネシウムの粒子の製造、販売等を開始し
た令和元年7月以前の時点で、既に日本国内において周知であり、高い
関心が集まっていたこと、原告製品以外に、金属マグネシウムの粒子を
用いた洗濯用洗浄補助用品は存在しないこと、被告は、日用品の販売等
を行う事業者にすぎず、金属マグネシウムを原料とした製品を開発する
25 事業者ではなく、自ら被告製品を開発したとは考え難く、第三者の製品
を模倣した可能性が高いことからすると、被告が原告製品の存在を知っ
て被告製品の製造、販売等を開始したことは明らかである。
そして、原告製品のホームページ及び商品パッケージには、本件特許
権の特許番号が明確に表示されている。
したがって、被告は、被告製品の販売開始時点から、本件各発明が
「特許発明であること」及び被告製品が「その発明の実施に用いられる
こと」を知っていたことは明らかである。
5 イ 被告製品が本件各発明の実施に用いられることの認識について
被告の従業員であるAは、令和元年6月26日、原告の仕入担当者宛
てに、「洗濯マグネシウムを御社のブランドで販売しませんか?御社のブ
ランドラベルを貼って納品いたします。卸価格は下記となります。60
0g(洗濯マグちゃん12個分のマグネシウム)1,480円(税抜)
10 …」などと記載されたメールを送信し、被告製品を用いて原告製品の名
称とほぼ同一の「洗濯マグちゃん」を生産できることを説明しているの
であるから、被告は、被告製品の販売開始前から原告製品の存在を知っ
ていたといえること、被告製品の広告に「DIY」の文言を記載してい
ることなどからすると、被告は、被告製品が原告製品と同様に、洗濯ネ
15 ットに封入して使用されることを認識していたことは明らかである。
これに対し、被告は、被告製品の購入者が、被告製品を「網目の細か
いネット」 「無数の微細な穴を空けたビニール袋」 「水を通す布地の巾
、 、
着袋」又は「マグボール」に入れて使用することもあり、本件各発明を
実施する態様で被告製品を使用するとは限らないから、被告に被告製品
20 が本件各発明の実施に用いられることの認識はなかったなどと主張する。
しかし、本件発明1の構成要件1Aの「網体」は、「水を透過する網体」
と記載されていることからも明らかなとおり、水を透過することができ
れば「網体」に該当するといえ、網目の細かさや粗さは特に問題となら
ない。このことは、本件明細書に「この網体自体の織り方としては、水
25 を透過するものであれば各種の織り方が採用できる。 (
」 【0025】)と
記載されていることからも明らかである。
したがって、被告の主張する、「網目の細かいネット」 「水を通す布地

の巾着袋」及び「マグボール」は、いずれも構成要件1Aの「網体」に
該当する。
よって、被告の主張するとおり、被告製品の購入者が被告製品を「網
目の細かいネット」 「水を通す布地の巾着袋」又は「マグボール」に入

れて使用することが考えられたとしても、これらはいずれも本件各発明
5 を実施する態様での使用方法であるから、被告の主張は理由がない。
また、被告の主張する「無数の微細な穴を空けたビニール袋」につい
て、このようなビニール袋を用いると、洗濯中にビニール袋が破れて金
属マグネシウムの粒子が流出するといえるから、このような使用方法は
現実的ではなく、この点の被告の主張も理由がない。
10 さらに、被告は、被告製品の購入者が、被告製品をそのまま洗濯桶に
投入してつけ置き洗いに使用することも考えられるなどと主張するが、
被告製品は、構成bを備えるものであることからすると、被告製品に、
これをそのまま洗濯桶に投入してつけ置き洗いに使用するという使用方
法が想定されているとはいえず、この点に関する被告の主張も理由がな
15 い。
ウ 仮に、被告が被告製品の販売を開始した時点において前記ア及びイの事
実を知らなかったとしても、原告は、被告に対し、本件通知書において、
被告製品を販売する行為が本件特許権を侵害する旨の警告を行っており、
被告は、遅くとも令和元年10月15日には本件通知書を受領しているこ
20 とから、同日には、本件各発明が「特許発明であること」及び被告製品が
「その発明の実施に用いられること」を知るに至っている。
エ 小括
以上のとおり、被告製品の製造、販売及び販売の申出による本件特許権
の間接侵害(特許法101条2号)が成立する。
25 (被告の主張)
①被告製品に係る金属マグネシウムの粒子が、構成a及びcを備えている
ことは争わないが、構成bを備えているとはいえず、②被告製品に係る金属
マグネシウムの粒子は「日本国内において広く一般に流通しているもの」に
該当し、③被告が「その発明が特許発明であること及びその物がその発明に
用いられることを知りながら」金属マグネシウムの粒子を販売したとはいえ
ないため、特許法101条2号の要件を満たさず、被告製品を販売等する行
為について間接侵害は成立しない。なお、原告は、被告が被告製品を製造し
5 ていると主張して、被告に対して、被告製品の製造の差止めを求めているが、
被告は被告製品の製造をしていないから、原告のこの点に係る請求は理由が
ない。
(1) 被告製品が本件各発明に係る「物の生産に用いる物」であり、本件各発明
による「課題の解決に不可欠なもの」に該当するかについて
10 被告製品が本件各発明に係る「物の生産に用いる物」に該当することは
争うが、「その発明による課題の解決に不可欠なもの」に該当するとの原告
の主張は積極的には争わない。
(2) 「日本国内において広く一般に流通しているもの」に該当するかについて
「日本国内において広く一般に流通しているもの」には、ねじ、釘などの
15 ように国内に広く一般に流通しているもののほか、特注するまでもなく市場
で一般に入手可能な規格品・普及品も含まれると解される。
被告製品は、純度が約99.95%であって、平均粒径が5mmの複数の
金属マグネシウムの粒子である。そして、被告製品と規格が同一又は類似の
金属マグネシウムの粒子は、インターネット上のショッピングサイトである
20 楽天市場、Amazon、Yahoo!ショッピング等で、多数の業者によ
る販売がされている。また、インターネット上の価格比較サイトである「価
格.com」においては、販売されている金属マグネシウムの粒子の価格比較の
ページも作られている。したがって、少なくとも被告製品に係る金属マグネ
シウムの粒子は、既に日本国内における一般的な流通品として市場形成がさ
25 れており、国内において広く一般に流通しているもの又は市場で一般に入手
可能な規格品であるといえる。
また、被告は、令和元年5月頃に、金属マグネシウムの粒子の効能に着目
し、日本国内向けに中国産の高純度金属マグネシウムの粒子を輸入販売して
いるB社から高純度金属マグネシウムの粒子を購入し、日本市場向けに販売
するようになったのであり、B社は、遅くとも同月頃には、日本市場向けに
高純度金属マグネシウムの粒子を輸入販売していたといえる。
さらに、被告が被告製品の販売を開始した前後には、日本市場において複
5 数の業者が高純度金属マグネシウムの粒子を販売していた。そのため、遅く
とも同月頃には、日本市場において高純度金属マグネシウムの粒子が一般的
に流通していたといえる。
加えて、同年6月頃以降も、多数の業者が日本市場向けに高純度金属マグ
ネシウムの粒子の販売を開始するようになったもので、遅くとも口頭弁論終
10 結時までには、高純度金属マグネシウムの粒子は「日本国内において広く一
般に流通しているもの」となったといえる。
(3) 主観的要件について
ア 本件各発明が特許発明であることの認識について
被告は、被告製品の販売を開始した当時、原告製品の存在を知らなかっ
15 たから、原告からの特許権侵害の責任追及を免れる目的で被告製品を販
売したものではなく、被告において本件各発明が特許発明であることを
知っていたとの主張は否認する。
もっとも、被告は、原告代理人が送付した本件通知書によって、本件各
発明が特許発明であることを認識した。
20 そのため、被告は、平成30年10月11日以降の時点で本件各発明に
ついて「その発明が特許発明であること」を知っていたことは認める。
イ 被告製品が本件各発明の実施に用いられることの認識について
被告製品は、布地の巾着袋等に入れて洗濯機に投入して洗濯を行う使用
方法や、洗濯桶にそのまま投入し、つけ置き洗いを行う使用方法も想定
25 されていたのであり、被告は、被告製品が本件各発明の実施に用いられ
ることの認識を有していなかった。
すなわち、構成要件1Aの、「水を透過する網体で封入してなる」の
「網」の通常の意味は、「糸・ひも・針金などを格子状に粗く編んだもの」
(旺文社国語辞典第十一版) 「
、 (鳥・魚などをとるために)糸などを粗く
編んで作った道具。また広く、針金・ひもなどを編んで作ったもの」(岩
波国語辞典第八版)などであるとされている。そうすると、構成要件1
Aの、「水を透過する網体で封入してなる」の「網体」とは、「糸等を目
5 が粗い格子状に編んだ物体」と解釈するべきである。上記解釈は、本件
明細書において、「糸等を目が粗い格子状に編んだ物体」と考えられる図
が記載されていることからも、妥当な解釈であるといえる。上記解釈に
よれば、網目が粗いネットであれば「網体」に該当する一方、網目の細
かいネット、無数の微細な穴を空けたビニール袋、水を通す布地の巾着
10 袋等は「網体」に該当しないといえる。
また、「網体」に該当しない物品として、マグネシウム粒を封入するボ
ール状の物体(いわゆるマグボール)も存在しているから、購入者によ
っては、マグボールを使用して洗濯を行うことも十分あり得る。
以上のことから、被告が被告製品を販売等していたとしても、直ちに
15 「その物がその発明について用いられること」を知っていたことにはな
らない。
ウ 小括
以上のとおり、被告製品の製造、販売及び販売の申出による本件特許権
の間接侵害(特許法101条2号)が成立するとは認められない。
20 2 争点2(差止めの必要性の有無)について
(原告の主張)
前記1(原告の主張)のとおり、被告製品の製造、販売及び販売の申出をす
る行為は、原告の本件特許権を侵害するものとみなされる。
原告は、本件訴訟提起前、被告に対し、事前に警告を行ったが、被告は、自
25 らの行為が特許権侵害に該当することを一切認めず、現在も被告製品の製造、
販売及び販売の申出を続けている。
したがって、被告に対し、被告製品の製造、販売及び販売の申出を差し止め
る必要性が認められる。
(被告の主張)
争う。
第4 当裁判所の判断
1 本件明細書の記載事項等
5 (1) 本件明細書の発明の詳細な説明には、以下のとおりの記載がある(下記記
載中に引用する図1及び2については別紙図面目録を参照)。
ア 【技術分野】
【0001】
本発明は、衣類などの繊維製品を洗濯した後に部屋干しした場合にも、
10 乾燥後の繊維製品にいわゆる生乾き臭といわれる異臭(以下、「生乾き臭」
という。)が発生するのを抑制するために、洗濯の際に洗濯用洗剤ととも
に使用する洗濯用洗浄補助用品及びこれを用いた洗濯方法に関するもので
ある。
【背景技術】
15 【0002】
衣類などの繊維製品を洗濯後に部屋干しした場合には、しばしば、乾燥
後の繊維製品に生乾き臭が発生する。このような生乾き臭は、洗濯により
除去しきれなかった皮脂や蛋白などの汚れ(以下、単に「汚れ」という。)
に菌が作用して引き起こされるものと考えられている。
20 【0003】
生乾き臭の発生を抑制するために、特許文献1には洗剤に抗菌剤を配合
して用いる技術、特許文献2、3には柔軟剤に抗菌剤を配合して用いる技
術が開示されている。また、発生した生乾き臭を消臭するために、特許文
献4には抗菌剤を含有する消臭剤を用いる技術が開示されている。
25 【0004】
一方、マグネシウムを含有する粒子を利用する技術として、特許文献5
には、家庭用電気洗濯機を用いる洗濯において、マグネシウム10~40
重量%、鉄5~20重量%、カルシウム8~30重量%、珪素25~40
重量%をそれぞれ含有する洗濯石を用いることにより、洗剤量を低減する
か、全く使用することなく、汚れを除去することができる技術が開示され
ている。また、特許文献6、7には、マグネシウム粒子を水に投入して、
活性水素を含む水素水を製造する技術が開示されている。
5 イ 【発明が解決しようとする課題】
【0006】
生乾き臭の発生を防止するために、特許文献1~3記載の発明では抗菌
剤により菌の繁殖を抑制しており、また、特許文献4記載の発明では消臭
剤により空間に漂う生乾き臭を消臭しているが、本発明の狙いは、これら
10 とは異なり、生乾き臭が発生する根本原因である、洗濯後の繊維製品に残
存する汚れ自体を、金属マグネシウム(Mg)単体の作用により減少させ
ることによって、生乾き臭の発生を防止しようとするものである。
ウ 【課題を解決するための手段】
【0007】
15 衣類等の繊維製品の洗濯においては、洗濯用洗剤に含まれる、親水基及
び親油基を有する界面活性剤の親油基が汚れに付き、親水基がこの汚れを
水の中に引き離すことによって汚れが落とされるものであるが、本願発明
者らは、金属マグネシウム(Mg)単体と水との反応により発生する水素
が、界面活性剤の汚れを落とす作用を促進させることを見出してこの発明
20 をなしたものである。
エ 【発明の効果】
【0008】
本発明においては、複数個の、金属マグネシウム(Mg)単体を50
重量%以上含有する粒子を、水を透過する網体で封入してなる洗濯用洗
25 浄補助用品を洗濯時に用いることにより、洗濯用洗剤に含まれる、界面
活性剤の汚れを落とす作用を促進させて汚れ自体を減少することができ
るので、繊維製品を室内で自然乾燥させても、乾燥後の繊維製品に生乾
き臭が発生することを防止できる。さらに、洗濯用洗剤に抗菌剤といっ
た余分な成分を配合する必要がないため、経済的であり、また、過敏症
の人の健康に影響を与えることも少なくなる。
オ 【発明を実施するための形態】
【0010】
5 本発明は、汚れ自体を減少させ、繊維製品を室内で自然乾燥させても、
乾燥後の繊維製品に生乾き臭が発生することが防止できる洗濯用洗浄補
助用品及びこれを用いた洗濯方法であって、具体的には、複数個の、金
属マグネシウム(Mg)単体を50重量%以上含有する粒子(以下、「マ
グネシウム粒子」という。)を、水を透過する網体に封入してなる洗濯用
10 洗浄補助用品及びこれを用いた洗濯方法に関するものである。
【0019】
本発明の洗濯用洗浄補助用品に用いられるマグネシウム粒子の組成とし
ては、上記のように、金属マグネシウム(Mg)単体は室温の水と比較
的ゆっくりと反応して水素を発生することから、水素の発生量を多くす
15 るため、金属マグネシウム(Mg)単体を比較的高い割合で含有するも
のが好ましい。
【0020】
本発明の「金属マグネシウム(Mg)単体を50重量%以上含有する粒
子」とは、金属マグネシウム(Mg)単体を比較的高い割合で含有する
20 粒子を意味しており、具体的には、金属マグネシウム(Mg)単体を5
0重量%以上含有するものであり、80重量%以上含有するものが好ま
しく、実質的に100重量%含有するものがより好ましい。…
【0022】
本発明の洗濯用洗浄補助用品に用いられるマグネシウム粒子の平均粒径
25 は、単位体積当たりの表面積を大きくして水素の発生量多くする観点か
らは小さいほど好ましいが、小さくするにしたがい粒子の強度が低下し、
取り扱いも難しくなるため、製造及び使用上の観点から、平均粒径は1.
0~9.0mmであることが好ましく、3.0~7.0mmであること
がより好ましく、4.0~6.0mmであることが最も好ましい。
【0023】
本発明の洗濯用洗浄補助用品は、複数個の、マグネシウム粒子を、水を
透過する網体で封入したものであるので、使用時には洗濯槽に入れやす
5 く、使用後には洗濯槽から取り出しやすいものとなっている。
【0024】
この網体の素材は、耐水性があるものであれば、各種天然繊維、合成
繊維を用いることができるが、強度が高く、使用後の乾燥が容易で、洗
濯時に着色傾向の小さいポリエステル繊維を用いることが好ましい。
10 【0025】
この網体自体の織り方としては、水を透過するものであれば各種の織り
方が採用できる。また、網体によるマグネシウム粒子の封入手段としては、
マグネシウム粒子が漏れ出さないものであれば各種の封入手段が採用でき
るが、洗濯に繰り返し使用しても、網体に穴が開いたり、縫製部が解けな
15 いよう、網体を複数層にする、縫製部に補強布を縫い付けることが好まし
い。また、網体に取手を取り付けておけば、使用後に洗濯槽から取り出し
たり、乾燥したりする場合に便利である。
カ 【実施例】
【0029】
20 図1に示す洗濯機用洗浄補助用品の第一の実施例は、網袋2内に複数
個のマグネシウム粒子1を封入するとともに、網袋2の隅部に取手9を
取り付けたものである。
【0031】
次に、図2に示す洗濯機用洗浄補助用品の第二の実施例は、網袋を2
25 層(内部網体3及び外部網体4)にして補強するとともに、縁部に補強
布5を縫い付けて縫製部を補強することにより、封入したマグネシウム
粒子1が漏れ出しにくくしたものである。この補助用品では、補強布5
の一端を縁部から外方向に延長することで、取手9を形成している。
(2) 前記(1)の記載事項によれば、本件明細書には、本件発明に関し、以下の
とおりの開示があると認められる。
ア 衣類などの繊維製品の生乾き臭は、洗濯により除去しきれなかった皮脂
や蛋白などの汚れに菌が作用して引き起こされるものと考えられていると
5 ころ、従来、生乾き臭の発生を抑制するために、洗剤や柔軟剤に抗菌剤を
配合して用いる技術が存在し、また、発生した生乾き臭を消臭するために、
抗菌剤を含有する消臭剤を用いる技術が存在しており、一方、マグネシウ
ムを含有する粒子を利用する技術として、家庭用電気洗濯機を用いる洗濯
において、マグネシウム等を含有する洗濯石を用いることにより、洗剤量
10 を低減するか、全く使用することなく、汚れを除去することができる技術
や、マグネシウム粒子を水に投入して、活性水素を含む水素水を製造する
技術が存在した(【0002】ないし【0004】。

イ 「本発明」は、前記アの従来技術とは異なり、生乾き臭が発生する根本
原因である、洗濯後の繊維製品に残存する汚れ自体を、金属マグネシウム
15 (Mg)単体の作用により減少させることによって、生乾き臭の発生を防
止することを目的とし、金属マグネシウム(Mg)単体と水との反応によ
り発生する水素が、界面活性剤の汚れを落とす作用を促進させることを見
出したものであり、複数個の、金属マグネシウム(Mg)単体を50重
量%以上含有する粒子を、水を透過する網体で封入してなる洗濯用洗浄補
20 助用品を洗濯時に用いることにより、洗濯用洗剤に含まれる、界面活性剤
の汚れを落とす作用を促進させて汚れ自体を減少することができるので、
繊維製品を室内で自然乾燥させても、乾燥後の繊維製品に生乾き臭が発生
することを防止でき、さらに、洗濯用洗剤に抗菌剤といった余分な成分を
配合する必要がないため、経済的であり、また、過敏症の人の健康に影響
25 を与えることも少なくなるとの効果を奏する(【0006】ないし【00
08】。

2 争点1(被告製品の製造、販売及び販売の申出による間接侵害の成否)につ
いて
(1) 被告製品が本件各発明に係る物の生産に用いる物といえるかについて
ア 被告製品の構成について
前記前提事実(5)イのとおり、被告製品の商品パッケージには、洗濯を
意味する「WASH」の記載があること、被告製品の販売ページである
5 本件ウェブページには、「DIY」 「
、 【洗濯に】 高純度のマグネシウムペ
レットを水の中に入れると水道水が弱アルカリイオン水に変化します。
この弱アルカリイオン水には臭い成分の分解や洗浄力があります」 「部

屋干しの生乾きの嫌な臭いに・雨の日の洗濯物の嫌な臭いに・タオルの
生乾きの嫌な臭いに」との記載があることが認められる。
10 そして、「DIY」とは、「Do It Yourself」の頭字語であり、「手作り
をする」という意味も有していると認められること(弁論の全趣旨)、被
告製品の商品パッケージ及び本件ウェブページの上記記載が、洗濯物の汚
れを減少させ、生乾きの臭いを防止するという被告製品の効能を得るため
には、金属マグネシウムの粒子を水道水と反応させつつ洗濯をする必要が
15 あることを示唆していること、金属マグネシウムの粒子をそのまま洗濯機
又は洗濯桶に投入すると、洗濯終了後に金属マグネシウムの粒子の回収の
手間がかかることはたやすく予想できることに照らせば、上記被告製品の
商品パッケージ及び本件ウェブページの記載に接した被告製品の購入者は、
購入した被告製品を洗濯ネット等の水を透過する入れ物に封入し、これを
20 洗濯機等に入れて洗濯を行うという使用方法が説明されていると理解する
といえる。
したがって、上記被告製品の商品パッケージの記載及び本件ウェブペー
ジの記載は、被告製品を用いて洗濯用洗浄補助用品を手作りし、洗濯を
するとの被告製品の用途の説明をした記載であることは明らかであり、
25 被告製品は構成bを有していると認められる。
そして、本件において、被告製品が構成a及びcを備えていることは当
事者間において争いがない。
以上のことから、被告製品は、構成aないしcの全ての構成を有してい
ると認められる。
イ 洗濯に用いるために洗濯ネットに被告製品を封入して製造された物品が
本件各発明の技術的範囲に属するかについて
(ア) 本件発明1について
5 被告製品は、「純度が約99.95%…の金属マグネシウムの粒子」
である(構成a)ところ、これは、「金属マグネシウム(Mg)単体を
50重量%以上含有する粒子」(構成要件1A)に該当する。
また、被告製品は、「複数の金属マグネシウムの粒子」(構成c)であ
るから、金属マグネシウムの粒子は「複数個」(構成要件1A)あると
10 いえる。
さらに、被告製品が封入される「洗濯ネット」は、「水を透過する網
体」(構成要件1A)に該当し、洗濯に用いるために洗濯ネットに被告
製品を封入して製造された物品は、「水を透過する網体に封入してなる」
(構成要件1A)「ことを特徴とする洗濯用洗浄補助用品」(構成要件1
15 B)に該当するといえる。
以上によれば、洗濯ネットに被告製品を封入して製造された物品は、
構成要件1A及び1Bを充足する。
(イ) 本件発明2について
被告製品の金属マグネシウムの粒子は、「純度が約99.95%」で
20 あるところ(構成a)、これは、金属マグネシウムの含有量が実質的に
100重量%であることに相当するから、「純度が約99.95%…の
金属マグネシウムの粒子」(構成a)は、「粒子が金属マグネシウム(M
g)単体を実質的に100重量%含有するものである」(構成要件2A)
に該当する。
25 そして、前記(ア)の認定を前提とすると、洗濯に用いるために洗濯ネ
ットに被告製品を封入して製造された物品は、「ことを特徴とする請求
項1に記載の洗濯用洗浄補助用品。(構成要件2B)に該当する。

以上によれば、被告製品を洗濯ネットに封入して製造された物品は、
構成要件2A及び2Bを充足する。
(ウ) 本件発明3について
被告製品は、「平均粒径が5mmの金属マグネシウムの粒子からなる」
(構成a)ところ、その粒子の平均粒径は1.0から9.0mmの範囲
5 内にあるから、「粒子の平均粒径が1.0~9.0mmである」(構成要
件3A)に該当する。
そして、前記(ア)及び(イ)の認定を前提とすると、洗濯に用いるために
被告製品を洗濯ネットに入れて製造された物品は、「ことを特徴とする
請求項1又は2に記載の洗濯用洗浄補助用品。(構成要件3B)に該当

10 する。
以上によれば、被告製品を洗濯ネットに封入して製造された物品は、
構成要件3A及び3Bを充足する。
(エ) 小括
以上によれば、洗濯に用いるために洗濯ネットに被告製品を封入して
15 製造された物品は、本件各発明の技術的範囲に属する。
ウ 「その物の生産に用いる物」について
前記イのとおり、洗濯に用いるために洗濯ネットに被告製品に係る金属
マグネシウムの粒子を封入して製造された物品は、本件各発明の技術的
範囲に属するから、被告製品は、本件各発明に係る物の生産に用いる物
20 であるといえる。
(2) 「課題の解決に不可欠なもの」について
本件明細書の記載によれば、本件各発明の課題は、洗濯後の繊維製品に残
存する汚れ自体を、金属マグネシウム(Mg)単体の作用により減少させる
ことによって、生乾き臭の発生を防止しようとするものであり(【000
25 6】、かかる課題を解決するために、金属マグネシウム(Mg)単体と水と

の反応により発生する水素が、界面活性剤による汚れを落とす作用を促進さ
せることを見出し(【0007】 、構成要件1Aの「金属マグネシウム(M

g)単体を50重量%以上含有する粒子」を洗濯用洗浄補助用品として用い
る構成を採用したものであると認められる。
そして、被告製品は、前記(1)イ(ア)のとおり、構成要件1Aを充足するも
のであり、本件ウェブページには、被告製品を洗濯に用いることで、金属マ
グネシウム(Mg)単体の作用により洗濯後の繊維製品に残存する汚れ自体
5 を減少させ、生乾き臭の発生を防止することができることが示唆されている
から、本件ウェブページの記載を前提とすると、被告製品は、本件各発明の
課題の解決に不可欠なものに該当するというべきである。
(3) 「日本国内において広く一般に流通しているもの」について
ア 特許法101条2号所定の「日本国内において広く一般に流通している
10 もの」とは、典型的には、ねじ、釘、電球、トランジスター等の、日本
国内において広く普及している一般的な製品、すなわち、特注品ではな
く、他の用途にも用いることができ、市場において一般に入手可能な状
態にある規格品、普及品を意味するものと解するのが相当である。
本件においては、前記(1)アのとおり、被告製品には、購入後に洗濯ネ
15 ットに入れて洗濯用洗浄補助用品を手作りし、洗濯物と一緒に洗濯をす
る旨の使用方法が付されている。そして、本件明細書には、洗濯用洗浄
補助用品として用いられる金属マグネシウムの粒子の組成は、金属マグ
ネシウム(Mg)単体を実質的に100重量%含有するものがより好ま
しく(【0020】 、洗濯洗浄補助用品として用いられる金属マグネシウ

20 ムの粒子の平均粒径は、4.0~6.0mmであることが最も好ましい
(【0022】)と記載されているところ、前記(1)イのとおり、被告製品
は、これらの点をいずれも満たしている。そうすると、被告製品を洗濯
ネットに封入することにより、必ず本件各発明の構成要件を充足する洗
濯用洗浄補助用品が完成するといえるから、被告製品は、本件各発明の
25 実施にのみ用いる場合を含んでいると認められ、上記のような単なる規
格品や普及品であるということはできない。
以上によれば、被告製品は、「日本国内において広く一般に流通してい
るもの」に該当するとは認められない。
イ これに対し、被告は、被告製品に係る金属マグネシウムの粒子と同じ構
成を備える金属マグネシウムの粒子が市場に多数流通しており、遅くと
も口頭弁論終結時までには、日本国内において広く一般に流通している
ものになったといえると主張する。
5 しかし、「日本国内において広く一般に流通しているもの」の要件は、
市場において一般に入手可能な状態にある規格品、普及品の生産、譲渡
等まで間接侵害行為に含めることは取引の安定性の確保の観点から好ま
しくないため、間接侵害規定の対象外としたものであり、このような立
法趣旨に照らすと、被告製品が市場において多数流通していたとしても、
10 これのみをもって、「日本国内において広く一般に流通しているもの」に
該当するということはできない。
したがって、被告の主張は採用することができない。
(4) 主観的要件について
間接侵害の主観的要件を具備すべき時点は、差止請求の関係では、差止請
15 求訴訟の事実審の口頭弁論終結時である。
そして、前記前提事実(4)のとおり、原告製品は、令和2年1月頃までに
は、全国的に周知された商品となっていたこと、本件ウェブページには、被
告製品の購入者によるレビューが記載されているところ、令和2年4月から
同年7月にかけてレビューを記載した購入者45人のうち、20人の購入者
20 が、被告製品をネットに封入して洗濯に使用した旨を記載しており、7人の
購入者が「まぐちゃん」「マグちゃん」「洗濯マグちゃん」「洗濯〇〇ちゃ
、 、 、
ん」などと、洗濯用洗浄補助用品である原告製品の名称に言及したと解され
る記載をしていることを認めるに足る証拠(甲111)が提出されているこ
とからすると、被告は、遅くとも口頭弁論終結時までには、被告製品に係る
25 金属マグネシウムの粒子が、本件各発明が特許発明であること及び被告製品
が本件各発明の実施に用いられることを知ったと認められる(当裁判所に顕
著な事実)。
これに対し、被告は、被告製品については、構成要件1Aの「網体」に
は含まれない、布地の巾着袋等に被告製品を入れて洗濯機に投入して洗濯
を行う使用方法などが想定されていたのであり、被告には被告製品が本件
各発明の実施に用いられることの認識はない旨主張する。
しかし、「網」は、被告が主張する意味のほかにも、「鳥獣や魚などをと
5 るために、糸や針金を編んで造った道具。また、一般に、糸や針金を編ん
で造ったもの。 (広辞苑第7版)の意味もあると認められること、本件明

細書においては、「網体」の意義について、「本発明の洗濯用洗浄補助用品
は、複数個の、マグネシウム粒子を、水を透過する網体で封入したもので
あるので、使用時には洗濯槽に入れやすく、使用後には洗濯槽から取り出
10 しやすいものとなっている。 (
」 【0023】 、
) 「この網体の素材は、耐水性
があるものであれば、各種天然繊維、合成繊維を用いることができるが、
強度が高く、使用後の乾燥が容易で、洗濯時に着色傾向の小さいポリエス
テル繊維を用いることが好ましい。 (
」 【0024】 、
) 「この網体自体の織り
方としては、水を透過するものであれば各種の織り方が採用できる。 (
」 【0
15 025】)と記載されているのみで、網目の細かさについては言及されてい
ないことからすると、被告が主張する使用方法も、本件各発明を実施する
態様による使用方法であることに変わりはないといえる。
したがって、被告が、購入者が構成要件1Aの「網体」には含まれない、
布地の巾着袋等に被告製品を入れて洗濯機に投入して洗濯を行う使用方法
20 が想定されていたとしても、被告において被告製品が本件各発明の実施に
用いられることの認識があったことを否定する事情とはならなない。
(5) 小括
したがって、被告が、業として、被告製品の販売又は販売の申出等をした
行為(前記前提事実(5)ア)について、本件特許権の特許法101条2号の
25 間接侵害が成立する。
他方で、被告が被告製品の製造をしたとの事実を認めるに足りる証拠はな
いから、被告による被告製品の製造行為について、本件特許権の特許法10
1条2号の間接侵害が成立するとの原告の主張は理由がない。
3 争点2(差止めの必要性の有無)について
前記2のとおり、被告が被告製品について販売又は販売の申出をすることは、
本件特許権を侵害するものとみなされる。
そして、前記前提事実(6)のとおり、原告が、被告に対し、令和元年10月
5 11日、被告製品を販売する行為が本件特許権を侵害する旨を記載した本件通
知書を送付したところ、被告は、原告に対し、同年12月24日付け「ご連絡」
と題する書面を送付し、被告製品の販売は本件特許権を侵害していないとして、
原告の要求に応じることができない旨を明らかにしたことが認められる。
本件訴訟係属前における被告の上記回答内容に加え、本件訴訟において、被
10 告が前記第3の被告の主張のとおり主張して本件特許権の間接侵害の成立を争
っていること、証拠(乙9、10)及び弁論の全趣旨によれば、高純度金属マ
グネシウムの粒子を日本国内に輸出する業者が存在することが認められ、これ
を輸入して販売することは比較的容易であると考えられることに照らすと、現
時点において、被告が被告製品を販売していないこと(前記前提事実(5)ア)
15 を踏まえても、被告に対し、被告製品を販売又は販売の申出をする行為を差し
止める必要があると認めるのが相当である。
4 結論
以上によれば、原告の請求は、被告による被告製品の販売又は販売の申出の
差止めを求める限度で理由があるからこれを認容することとし、その余は理由
20 がないからこれを棄却することとして、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法6
1条、64条ただし書を適用して、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
25 裁判長裁判官
國 分 隆 文
裁判官
間 明 宏 充
裁判官
バ ヒ ス バ ラ ン 薫
(別紙)
物件目録
被告製品:下記の商品を含む、品名に「HappyMag」を含むマグネシウ
ム粒子。
5 記
⑴ 品 名 HappyMag
容 量 150g
⑵ 品 名 HappyMag
容 量 300g
10 ⑶ 品 名 HappyMag
容 量 400g
⑷ 品 名 HappyMag
容 量 600g
⑸ 品 名 HappyMag
15 容 量 1200g
⑹ 品 名 HappyMag
容 量 2400g
⑺ 品 名 HappyMag
容 量 3000g
20 ⑻ 品 名 HappyMag
容 量 5000g
⑼ 品 名 HappyMag
容 量 10kg
⑽ 品 名 HappyMag
25 容 量 15kg
⑾ 品 名 HappyMag
容 量 25kg
以上
(別紙)
図面目録
【図1】
【図2】

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