令和4(行ケ)10059審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
|
裁判年月日 |
令和5年6月15日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
原告英橋貿易有限公司 被告HOYA株式会社
|
対象物 |
ガラス、プレス成形用ガラス素材、光学素子ブランク、および光学素子 |
法令 |
特許権
特許法36条6項1号3回
|
キーワード |
審決11回 実施11回 無効5回 無効審判2回 優先権1回
|
主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を3
0日と定める。20 |
事件の概要 |
本件は、特許無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。 |
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判決文
令和5年6月15日判決言渡
令和4年(行ケ)第10059号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和5年5月11日
判 決
原 告 英 橋 貿 易 有 限 公 司
同訴訟代理人弁護士 古 城 春 実
10 同 平 井 佑 希
被 告 H O Y A 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 北 原 潤 一
15 同 黒 田 薫
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を3
20 0日と定める。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が無効2020-800117号事件について令和4年2月8日に
した審決を取り消す。
25 第2 事案の概要
本件は、特許無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。
1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがない。)
⑴ 被告は、平成28年1月13日、その名称を「ガラス、プレス成形用ガラ
ス素材、光学素子ブランク、および光学素子」とする発明について特許出願
(特願2016-569368号。優先権主張・平成27年1月13日日本
5 国。以下「本件出願」という。)をし、平成30年2月16日、その設定登録
(特許第6291598号、請求項の数14)を受けた(以下、この登録に
係る特許を「本件特許」という。 。
)
平成30年4月13日、本件特許について特許異議(異議2018-70
0308号)が申し立てられたところ、令和2年4月24日、特許請求の範
10 囲の訂正と請求項の一部を削除する訂正請求がされ、同年8月11日付けで
「特許第6291598号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂
正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~14〕について訂正する
ことを認める。特許第6291598号の請求項1~3、6、7、9、10、
12~14に係る特許を維持する。特許第6291598号の請求項4、5、
15 8、11に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 との異議の決
」
定がされ、この決定は、同年8月24日に確定した(以下、この訂正を「本
件訂正」という。 。
)
⑵ 原告は、令和2年12月1日付けで本件訂正後の本件特許の請求項1ない
し3、6、7、9、10、12ないし14に係る発明について特許無効審判
20 請求(無効2020-800117号)をした。
特許庁は、令和4年2月8日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との
審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同月18日、原告に
送達された(附加期間90日)。
⑶ 原告は、令和4年6月17日、本件審決の取消しを求めて本件訴えを提起
25 した。
2 特許請求の範囲の記載
本件訂正後の本件特許の請求項1ないし3、6、7、9、10、12ないし
14の発明(以下、請求項の番号に応じて「本件発明1」のようにいい、これ
らを併せて「本件発明」という。)に係る特許請求の範囲の記載は、それぞれ次
のとおりである。なお、以下、本件出願の願書に添付した明細書及び図面を本
5 件訂正の前後を通じて、単に「本件明細書」という。また、本件発明1につい
ては、本件訴訟において当事者が付した項番号を参酌して本判決で定めた項番
号を掲記し、以下、各項を「構成要件A①」又は、単に「A①」のようにいう。
⑴ 本件発明1
質量%表示にて、
10 A① B2 O3 とSiO2 との合計含有量が21~32質量%、
A② La2 O3 、Y2 O3 、Gd2 O 3およびYb2 O3の合計含有量が50
~63質量%、但し、Yb 2 O3 含有量が1.0質量%以下であり、
A③ ZrO2 含有量が4~10質量%、
A④ Ta2 O5 含有量が2質量%以下、
15 A⑤ Li2 O、Na2 OおよびK2 Oの合計含有量が0~2.0質量%、
A⑥ Nb 2 O 5 、TiO 2 、Ta 2 O 5およびWO 3 の合計含有量が4~1
1質量%、
A⑦ B 2 O 3 とSiO 2 との合計含有量に対するB 2 O 3 含有量の質量比
(B2 O3 /(B2O 3+SiO2 ))が0.6~0.828、
20 A⑧ La2 O3 、Y2 O3 、Gd2 O 3およびYb2 O3の合計含有量に対す
るB2 O3 およびSiO2 の合計含有量の質量比 (B 2 O3 +SiO2)
(
/(La 2 O3 +Y2 O3 +Gd 2 O 3 +Yb2 O 3 ))が0.42~0.
53、
A⑨ La2 O3 、Y2 O3 、Gd2 O 3およびYb2 O3の合計含有量に対す
25 るY2 O3 含有量の質量比(Y2 O3 /(La2 O3+Y2 O3 +Gd2
O3 +Yb2 O3))が0.10~0.30、
A⑩ La2 O3 、Y2 O3 、Gd2 O 3およびYb2 O3の合計含有量に対す
るGd2 O3 含有量の質量比(Gd2 O3 /(La2 O3 +Y2 O 3 +G
d2 O3+Yb2 O3))が0~0.05、
A⑪ Nb 2 O 5 、TiO 2 、Ta 2 O 5およびWO 3 の合計含有量に対する
5 Nb2 O5 含有量の質量比(Nb2 O5 /(Nb2O5 +TiO2 +Ta
2 O5 +WO3 ))が0.95~1、
A⑫ Nb 2 O 5 、TiO 2 、Ta 2 O 5およびWO 3 の合計含有量に対する
ZnO含有量の質量比(ZnO/(Nb 2 O5 +TiO2 +Ta2O5
+WO3 ))が0.20~0.500、であり、
10 B 液相温度が1140℃以下であり、
C ガラス転移温度が672℃以上であり、
D 屈折率ndが1.825~1.850の範囲であり、
E かつアッベ数νdが41.5~44である酸化物ガラスであるガラス
(但し、B 2 O 3 含有量が22.380質量%であり、La 2 O3 含有
15 量が45.680質量%であり、Y 2 O 3 含有量が8.780質量%で
あり、ZnO含有量が4.250質量%であり、SiO 2 含有量が4.
680質量%であり、Nb 2 O5 含有量が7.880質量%であり、か
つZrO2 含有量が6.350質量%であるガラスを除く)。
⑵ 本件発明2
20 B2 O3 含有量が17質量%以上である請求項1に記載のガラス。
⑶ 本件発明3
B2 O 3 含有量が23質量%以下である請求項1または2に記載のガラス。
⑷ 本件発明6
Pbを含まない請求項1~3のいずれか1項に記載のガラス。
25 ⑸ 本件発明7
屈折率ndが1.830~1.850の範囲である請求項1~3および6の
いずれか1項に記載のガラス。
⑹ 本件発明9
着色度λ5が335nm以下である請求項1~3、6および7のいずれか
1項に記載のガラス。
5 ⑺ 本件発明10
比重dと屈折率ndとが、下記(A)式:
d/(nd-1)≦5.70 …(A)
を満たす請求項1~3、6、7および9のいずれか1項に記載のガラス。
⑻ 本件発明12
10 請求項1~3、6、7、9および10のいずれか1項に記載のガラスから
なるプレス成形用ガラス素材。
⑼ 本件発明13
請求項1~3、6、7、9および10のいずれか1項に記載のガラスから
なる光学素子ブランク。
15 ⑽ 本件発明14
請求項1~3、6、7、9および10のいずれか1項に記載のガラスから
なる光学素子。
3 本件審決の理由の要旨(取消事由に関連する部分に限る。)
本件審決は、本件発明がサポート要件(特許法36条6項1号)を充足しな
20 いとの無効理由について、次のとおり判断した。
⑴ 本件発明の課題
本件発明の課題は、
「屈折率ndが1.800~1.850の範囲であり、か
つアッベ数νdが41.5~44の範囲であるガラスは、色収差の補正、光学
系の高機能化、コンパクト化のために有用な光学素子用の材料であるため、
25 かかる物性を有する高屈折率低分散ガラスについて、Gd、Taの含有量を
減らすことで安定供給可能であり、ガラス組成においてYbが占める割合が
低く、熱的安定性に優れているものを、ガラスの組成を調整することで実現
すること」【0004】【0006】ないし【0008】【0015】
( 、 、 )であ
って、
「屈折率ndが1.800~1.850の範囲であり、かつアッベ数ν
dが41.5~44の範囲であって、ガラス組成においてGd、Taおよび
5 Ybの占める割合が低減されているとともに、熱的安定性に優れるガラスを
提供する」【0009】
( )ことである。ガラス転移温度の制御については、請
求人(原告)自身、審判請求書における本件発明の課題の中に記載していな
いし、本件特許請求の範囲に記載されたガラス転移温度の数値範囲は、機械
加工性を定量的に表現したものと解され、課題に係る物性に関係する物性要
10 件と解すべきではないから、副次的な課題と捉えるのが合理的であり、判断
基準への当てはめに際しては、考慮すべき物性要件の対象とする必要はない。
⑵ 本件組成要件及び本件物性要件
本件発明1はガラスに関するものであって、その構成要件A①ないしA⑫
と同Eのうち「アッベ数νdが41.5~44である」を除く部分はガラスの
15 組成に関する事項(以下「本件組成要件」という。)であり、その構成要件B
(液相温度)及びD(屈折率)と同Eのうち「アッベ数νdが41.5~44
である」との部分(アッベ数)は、ガラスの特性に関する事項(以下「本件
物性要件(小)」という。)である。
⑶ サポート要件の充足について
20 ア 本件組成要件
本件明細書【0013】には、質量%表示にて、次のガラス組成を有
する酸化物ガラスである「ガラス1」
(以下、単に「ガラス1」という。)
が記載されている。
A①に係るB2 O3 とSiO2 との合計含有量が15~35質量%、
25 A②に係るLa2 O3、Y2 O3 、Gd2 O3及びYb2 O3の合計含有量
が45~65質量%、但し、Yb2O3 含有量が3質量%以下、
A③に係るZrO2 含有量が3~11質量%、
A④に係るTa2 O5 含有量が5質量%以下、
A⑦に係るB2 O3 とSiO2 との合計含有量に対するB 2 O3 含有量の
質量比(B2 O3 /(B2 O3 +SiO2))が0.4~0.900、
5 A⑧に係るLa2 O3、Y2 O3 、Gd2 O3及びYb2 O3の合計含有量
に対するB2 O3 及びSiO2 の合計含有量の質量比 (B 2 O3 +Si
(
O2 )/(La2 O3 +Y2 O3 +Gd2 O 3+Yb2 O3))が0.42
~0.53、
A⑨に係るLa2 O3、Y2 O3 、Gd2 O3及びYb2 O3の合計含有量
10 に対するY2 O3 含有量の質量比(Y2 O3 /(La2 O3 +Y2 O3 +
Gd2 O3 +Yb2O 3))が0.05~0.45、
A⑩に係るLa2 O3、Y2 O3 、Gd2 O3及びYb2 O3の合計含有量
に対するGd2O3 含有量の質量比(Gd2 O3 /(La2 O3 +Y2 O
3 +Gd 2 O3 +Yb 2 O3 ))が0~0.05、
15 A⑪に係るNb 2O 5、TiO 2 、Ta 2 O 5及びWO 3 の合計含有量に
対するNb 2 O5 含有量の質量比(Nb 2 O 5 /(Nb 2 O 5 +TiO
2 +Ta 2 O5 +WO 3 ))が0.5~1
さらに、本件明細書には、ガラス1のガラス組成は次の範囲を好まし
い範囲とすることが記載されている。
20 A①に係るB 2 O 3 とSiO 2 との合計含有量が21ないし32質量%
(【0024】 【表1】
、 )
A②に係るLa2 O3、Y2 O3 、Gd2 O3及びYb2 O3の合計含有量
が50ないし63質量%(【0031】 【表5】
、 )
A②に係るYb2 O3 含有有量が1.0質量%以下 【0039】 表9】
( 、
【 )
25 A③に係るZrO2 含有量が4ないし10質量% 【0033】
( 、
【表6】)
A④に係るTa2 O5 含有量が2質量%以下(【0035】 【表7】
、 )
A⑤に係るLi 2 O、Na 2 O及びK 2 Oの合計含有量が0ないし2.0
質量%(【0076】 【表31】
、 )
A⑥に係るNb 2O 5、TiO 2 、Ta 2 O 5及びWO 3 の合計含有量が
4ないし11質量%(【0051】 【表16】
、 )
5 A⑦に係るB2 O3 とSiO2 との合計含有量に対するB 2 O3 含有量の
質量比(B2 O3 /(B 2O3+SiO2 ) が0.60ないし0.85 【0
) (
026】 【表2】
、 )
A⑧に係るLa2 O3、Y2 O3 、Gd2 O3及びYb2 O3の合計含有量
に対するB2 O3 及びSiO2 の合計含有量の質量比 (B 2 O3 +Si
(
10 O2 )/(La2 O3 +Y2 O3+Gd2 O 3 +Yb2O3 ))が0.42
ないし0.53(【0036】)
A⑨に係るLa2 O3、Y2 O3 、Gd2 O3及びYb2 O3の合計含有量
に対するY2 O3 含有量の質量比(Y2 O3 /(La2O3 +Y2 O3 +
Gd2 O 3 +Yb 2O 3 ))が0.10ないし0.30(【0041】 【表
、
15 10】)
A⑩に係るLa2 O3、Y2 O3 、Gd2 O3及びYb2 O3の合計含有量
に対するGd2O3 含有量の質量比(Gd2 O3 /(La2 O3 +Y2 O
3 +Gd 2 O3 +Yb 2 O3 ))が0ないし0.05(【0042】)
A⑪に係るNb 2O 5、TiO 2 、Ta 2 O 5及びWO 3 の合計含有量に
20 対するNb 2 O5 含有量の質量比(Nb 2 O 5 /(Nb 2 O 5 +TiO
2 +Ta 2 O 5 +WO 3 ))が0.95ないし1.00(【0059】 【表
、
20】)
A⑫に係るNb 2O 5、TiO 2 、Ta 2 O 5及びWO 3 の合計含有量に
対するZnO含有量の質量比(ZnO/(Nb 2O5 +TiO2 +Ta
25 2 O5 +WO3 ))が0.20ないし0.6(【0063】 【表22】
、 )
加えて、本件明細書には、ガラス1の具体例として、次のガラス組成
を有する実施例1のガラスが記載されている。
A⑦に係るB2 O3 とSiO2 との合計含有量に対するB 2 O3 含有量の
質量比(B2 O3 /(B2 O3 +SiO2))が0.792ないし0.82
8(【0230】 【表100-6】
、 )
5 A⑫に係るNb 2O 5、TiO 2 、Ta 2 O 5及びWO 3 の合計含有量に
対するZnO含有量の質量比(ZnO/(Nb 2O5 +TiO2 +Ta
2 O5 +WO3 ))が0.247ないし0.500(【0229】【表10
、
0-5】)
以上から、本件明細書の発明の詳細な説明には、ガラス1の1つの態
10 様として、本件組成要件で特定されるガラスが記載されているといえる。
イ 本件物性要件(小)
ガラス1は次のガラス特性を有する(【0013】 。
)
Dに係る屈折率ndが1.800~1.850
Eに係るアッベ数νdが41.5~44
15 また、ガラス1のガラス特性は、次の範囲を好ましい範囲とすること
が記載されている。
Bに係る液相温度が1150℃以下(【0206】)
Cに係るガラス転移温度が665℃以上(【0199】 【表96】
、 )
Dに係る屈折率ndが1.825~1.850 【0191】 0193】
( 、
【 、
20 【表93】)
Eに係るアッベ数νdが41.5~44(【0194】)
加えて、本件明細書には、ガラス1の具体例として、次にガラス特性
を有するガラスが記載されている。
Bに係る液相温度が1130~1140℃(【0231】 【表100-
、
25 7】)
Cに係るガラス転移温度が672~679℃ 【0231】
( 、
【表100-
7】)
以上から、本件明細書の発明の詳細な説明には、ガラス1の1つの態
様として、本件物性要件(小)及びガラス転移温度に関する事項を満た
すガラスが記載されている。
5 ウ 課題解決
発明の詳細な説明には、本件発明の課題解決手段について、本件組成
要件を満たすべき理由として、
「ガラス1は、上記範囲の屈折率ndおよ
びアッベ数νdを有するガラスであって、
・・・このようにGd、Taお
よびYbが占める割合を低減した組成の中で、上述の含有量、合計含有
10 量および質量比を満たす組成調整が行われていることにより、高い熱的
安定性(失透しにくい性質)を実現することができる」【0015】
( )と
記載され、特に、屈折率、アッベ数及び熱的安定性に対する組成調整に
関して、B2 O3成分及びSiO2 成分は、熱的安定性の向上に寄与する
ものの、多すぎると屈折率を低下させる成分であるため、合計含有量(B
15 2 O 3 +SiO2 )を21~35%(【0023】 【0024】 【表1】
、 、 )
とし、La2 O3 成分、Y2O3 成分、Gd 2O3成分及びYb2 O3 成分
は、アッベ数の低下を抑えつつ屈折率を高め、ガラス転移温度を高める
ものの、多すぎると熱的安定性を低下させる成分であるため、その合計
含有量(La2 O3 +Y2 O3+Gd2 O3 +Yb2 O3 )を50ないし6
20 3%(【0030】 【0031】 【表5】
、 、 )とし、熱的安定性の改善、所
望の光学特性の実現及び高ガラス転移温度化の観点から、質量比((B2
O3 +SiO2 )/(La2O3 +Y2 O3 +Gd2 O3 +Yb2 O3 ))を
0.42~0.53とすること(【0036】 、ZrO 2 成分は、屈折率
)
を高め、ガラス転移温度を高める成分であって、適量で含有することで
25 熱的安定性を改善させるため、その含有量を4~10%とすることが好
ましいこと(【0032】【0033】【表6】 、Nb2 O5成分、Ti
、 、 )
O2 成分、Ta2 O5 成分及びWO3成分は、屈折率を高める成分であり、
適量で含有することで熱的安定性を改善できるため、その合計含有量(N
b2 O5 +TiO2+Ta2 O5 +WO3 )を4~11%とし 【0050】
( 、
【0051】 【表16】 、ZnO成分は、屈折率やアッベ数を調整し、
、 )
5 熱的安定性を改善し、ガラス転移温度を低下させる成分(【0052】、
【0054】)であり、熱的安定性を改善させ、高ガラス転移温度化とす
るために、質量比(ZnO/(Nb2 O5 +TiO2 +Ta2 O 5 +WO
3))を0.20~0.6とすること(【0062】 【0063】 【表2
、 、
2】)が記載されている。そうすると、本件組成要件において、これら成
10 分含有量、合計含有量及び質量比の特定が、本件発明の課題の解決にと
って重要な構成となっていることが理解できる。
そして、発明の詳細な説明には、本件組成要件を満たしつつ、本件物
性要件(小)を満足するガラスとして、
【表100-1】ないし【表10
0-7】のNo.1、5、7、16、21~24、27、28、30~
15 32(以下、併せて「参考例」といい、個々のガラスは番号に従い「参
考例1」のようにいう。 が具体的に記載されており、
) 参考例のガラスは、
当業者において本件発明の課題を解決できると認識できるものである。
参考例は、本件組成要件の成分含有量及び質量比の各数値範囲を網羅
するものでない。
20 しかしながら、まず、光学ガラスの分野における技術常識からすれば、
当業者は、具体例として示されたものの組成物を基本にして、当該特定
の成分の増減による物性の変化を調整して、もとの組成物と類似のガラ
ス特性を満たす光学ガラスを得ることも可能であるから、前記 の条件
を維持しながら、参考例を基本にして通常行われる試行錯誤の範囲内で
25 成分調整を行うことにより、高い蓋然性をもって本件物性要件を満たす
ガラスが得られると理解する。
前記 のとおり、B2 O3 成分及びSiO2 成分は、熱的安定性の向上
に寄与し、多すぎると屈折率を低下させる成分であり、Nb2 O5成分は、
屈折率を高め、適量含有することで熱的安定性を改善できる成分であり、
ZnO成分は、屈折率やアッベ数を調整し、熱的安定性を改善し、ガラ
5 ス転移温度を低下させる成分であることを踏まえて、参考例5、16又
は24のガラスを基本にして、このガラス組成を、本件組成要件の範囲
内において、ZnO成分の含有量を減らして、Nb 2O5 成分、B2 O3
成分又はSiO 2 成分の含有量を増すことで、熱的安定性の指標である
液相温度、屈折率及びアッベ数を本件物性要件(小)の範囲内としつつ、
10 ガラス転移温度をも含めた、本件発明1の物性要件の範囲内まで高める
ことが可能であることを当業者であれば理解できる。このことは、甲第
11号証(審判事件乙第5号証)実験成績証明書(以下「甲11実験成
績証明書」という。)によっても裏付けられている。
以上から、本件組成要件に規定された数値範囲の全体にわたって、本
15 件物性要件(小)を満たすガラスを得ることを当業者が認識できる。
4 取消事由
サポート要件の充足に関する判断の誤り
第3 当事者の主張
1 原告
20 ⑴ 構成要件C(ガラス転移温度)について
構成要件Cのガラス転移温度に係る物性要件は、本件明細書【0012】
に「機械加工に適したガラスとするためには、ガラス転移温度を精密プレス
成形用のガラスより高くすることが望ましい。 として、
」 本件発明が解決すべ
き課題として明記されている上、本件訂正により加えられた事項であって、
25 異議の決定において、引用文献とされた「特開2002-284542号公
報」記載の発明との相違点(相違点1ないし4)の中で、唯一、容易に想到
できたものではない相違点(相違点4)と判断されているものであるから(甲
13)、ガラス転移温度は、従来技術が解決し得なかった課題であり、本件発
明の要ともいうべき物性要件にほかならない。
本件発明の構成からガラス転移温度に係る物性要件を除外して、本件発明
5 1のサポート要件の充足の有無を判断した本件審決には重大な誤りがある
(以下、構成要件Cのガラス転移温度に係る物性要件と本件物性要件(小)
を合わせて「本件物性要件」という。 。
)
⑵ 本件発明の課題について
被告が後記2⑵で主張する本件発明の課題は争わない。
10 ⑶ サポート要件の充足について
ア 前記第2の3⑶ウ の参考例の中に本件組成要件及び本件物性要件を全
て充たすもの、すなわち実施例は一例も存在しないから、これら参考例を
基本にして、通常行われる試行錯誤の範囲内で組成を調整することで本件
組成要件及び本件物性要件の全てを満たすガラスが得られることを当業
15 者が理解するとはいえない。
すなわち、本件のように、本件組成要件と本件物性要件を同時に充たす
実施例が明細書中に1つも記載されていない場合、各成分の組合せについ
て具体的にどのような構成とすれば本件発明の規定する物性を満たすガ
ラスを得られるかがそもそも示されていないため、当業者としては、試行
20 錯誤の出発点を絞り込むことすらできないまま、本件組成要件や本件物性
要件の一つ又は複数を満たしていない参考例にどのような構成変更を行
えば、本件組成要件と本件物性要件の全てを満たすのかを想定する必要が
ある。
このような作業は、本件発明1の構成要件を充足しない従来技術から、
25 本件発明1の構成要件を充足する新たな発明をするということに等しく、
本件明細書から理解できる事項の範囲内であるとはいえない。
イ 出発点とする参考例について敷衍すれば、本件明細書には、ガラス転移
温度に係る物性要件だけを満たしていない参考例以外にも、液相温度に係
る物性要件だけを満たしていない参考例や、本件物性要件は満たすが特定
の組成要件だけを満たしていない参考例もあり、組成変更の可能性を考え
5 るというのであれば、これらを出発点とすることも当業者における選択肢
の中に含まれる。当業者としては、そもそもどの構成要件に着目して、ど
の参考例を出発点とするかという点からして、試行錯誤を行わなければな
らず、これは、当業者の通常の試行錯誤の範囲を超えるものである。
ウ 参考例の組成調整について敷衍すれば、本件明細書のガラス転移温度に
10 関する記載からは、どのように組成を調整することでガラス転移温度を望
む数値範囲に調整できるかが不明であるから、本件物性要件を満たす光学
ガラスを得ることができることを当業者は理解できない。
本件明細書【0015】には、(ガラス1は、
「 )このようにGd、Ta
およびYbが占める割合を低減した組成の中で、上述の含有量、合計含
15 有量および質量比を満たす組成調整が行われていることにより、高い熱
的安定性(失透しにくい性質)を実現することができる。更には、短波
長側の光吸収端の長波長化の抑制、高ガラス転移温度(Tg)化(ガラ
ス転移温度の高温化)も可能となる。」と記載されているところ、「上述
の含有量、合計含有量および質量比を満たす組成調整」では、どの組成
20 を、どのように調整することで、ガラス転移温度がどのように変化する
のか何ら具体的な説明となっていない。
本件明細書【0030】には、
「La2 O3 、Y2 O 3、Gd2 O3 およ
びYb 2 O 3 は、アッベ数の低下を抑えつつ屈折率を高める働きを有す
る成分である。また、これらの成分は、ガラスの化学的耐久性、耐候性
25 を改善し、ガラス転移温度を高める働きも有する。 と記載されていると
」
ころ、参考例29においては、La 2O3 、Y2 O3 、Gd2 O3 及びYb
2 O3 の合計含有量(構成要件A②)が55.4%で、ガラス転移温度に
係る物性要件を満たす(673℃)のに対し、参考例1ないし6、10、
16、18ないし24、26ないし28、30ないし33は、参考例2
9よりもLa2 O3 、 2 O3 、
Y Gd2O3 及びYb2 O3 の合計含有量(構
5 成要件A②)がより多いにもかかわらず、ガラス転移温度に係る物性要
件を満たしていない。そうすると、La2 O3 、Y2 O3 、Gd2 O 3 及び
Yb 2 O 3 の合計含有量をただ増やせばガラス転移温度が上がるという
ものではないことが開示又は示唆されている。
本件明細書 【0032】には、
「ZrO2 は、ガラス転移温度を高め、
10 機械的な加工時にガラスが破損しにくくする働きも有する。 と記載され
」
ているところ、参考例29では、ZrO2 の含有量(組成要件A③)は、
6.5%で、ガラス転移温度に係る物性要件を満たす(673℃)が、
その他の参考例(参考例25を除く。)では、参考例29と同等の又はよ
り多くのZrO 2 を含んでいるにもかかわらず、そのほとんどが、ガラ
15 ス転移温度に係る物性要件を満たしていない。そうすると、ZrO 2 の
含有量をただ増量すればガラス転移温度が上がるというものではないこ
とが開示又は示唆されている。
本件明細書【0036】には、
「質量比((B 2 O3 +SiO2 )/(L
a2 O 3 +Y 2 O3 +Gd 2 O3 +Yb 2 O 3))が0.53以下であるこ
20 とは、ガラスの化学的耐久性の改善、高ガラス転移温度(Tg)化の観
点からも好ましい。」と記載されているところ、参考例15では、質量比
((B2 O3 +SiO2 ) (La2O3 +Y2 O3 +Gd2 O3 +Yb2 O
/
3 )(構成要件A⑧)は、0.463で、ガラス転移温度に係る物性要件
)
を満たす(673℃)が、参考例1ないし6、9、10、16、18な
25 いし28、30ないし33は、質量比((B2 O 3 +SiO 2 )/(La
2 O 3 +Y2 O 3 +Gd2 O 3 +Yb 2 O3 ))が参考例15以下であるに
もかかわらず、ガラス転移温度に係る物性要件を満たしていない。そう
すると、質量比((B 2 O3 +SiO2 )/(La2 O3 +Y2 O3 +Gd
2 O 3 +Yb 2 O 3 ))をただ下げればガラス転移温度が上がるというも
のではないことが開示又は示唆されている。
5 本件明細書【0052】には、「ZnOは、ガラスを熔融するときに、
ガラスの原料の熔けを促進する働き、すなわち、熔融性を改善する働き
を有する。また、屈折率やアッベ数を調整したり、ガラス転移温度を低
下させる働きも有する。 、
」「質量比(ZnO/(B2 O3 +SiO2))が
0.4以下であることは、ガラスの熱的安定性の改善および高ガラス転
10 移温度(Tg)化の上でも好ましい。」と記載されており、ガラス転移温
度を低下させるZnOを減らすことでガラス転移温度を上昇させようと
すれば、構成要件A⑫の質量比(ZnO/(Nb2O5 +TiO2 +Ta
2 O 5 +WO3 ))は下降すると考えられるところ、参考例29では、質
量比(ZnO/(Nb 2O5 +TiO2 +Ta2 O5 +WO3))は0.4
15 38で、ガラス転移温度に係る物性要件を満たす(673℃)が、参考
例2、5、6、18、21ないし23、25、26、28、30ないし
33は、質量比(ZnO/(Nb2 O5 +TiO2+Ta2 O5+WO3 ))
が参考例29と同等か又はより低いにもかかわらず、ガラス転移温度に
係る物性要件を満たしていない。そうすると、ZnOの含有量をただ少
20 なくすればガラス転移温度が上がるというものではないことが開示又は
示唆されている。
本件明細書 【0062】には、「ガラスの熱的安定性の更なる改善、
ガラス転移温度の低下抑制(これによる機械加工性の改善) 化学的耐久
、
性の改善の観点からは、質量比(ZnO/(Nb 2 O5 +TiO2+Ta
25 2 O5 +WO3 ) を3以下とすることが好ましい。 と記載されているが、
) 」
構成要件A⑫の質量比(ZnO/(Nb2 O5 +TiO2 +Ta 2 O5 +
WO3 ) をただ低くすればガラス転移温度が上がるというものではない
)
ことが開示又は示唆されていることは、前記 のとおりである。
本件明細書【0068】には、
「Li2 O含有量は、ガラスの熱的安定
性の更なる改善、ガラス転移温度の低下抑制(これによる機械加工性の
5 改善) 化学的耐久性や耐候性の改善の観点からは、
、 1%以下とすること
が好ましい。」と記載されているところ、Li2 O、Na2 O及びK 2O
の合計含有量(構成要件A⑤)は、参考例33例のうち31例が下限値
である0であるにもかかわらず、ガラス転移温度に係る物性要件を満た
している具体例はわずかに6例である。そうすると、Li 2 Oを少なく
10 してもガラス転移温度に係る物性要件を満たすことができないことが開
示又は示唆されている。
エ また、参考例において本件組成要件又は本件物性要件の充足の有無をみ
てみると、そこに一貫性を見いだすことは困難であり、本件組成要件を全
て満たしながら、本件物性要件を満たしていないものがあるなど、本件組
15 成要件を満たすことと本件物性要件を満たすこととの間に相関関係を見
いだすことは不可能であって、当業者において、本件組成要件を満たすこ
とによって本件物性要件を満たすことができると認識することはできな
い。
オ さらに、参考例で示されたガラスにおける組成は、特許請求の範囲に規
20 定された成分含有量(質量比)の各数値範囲を網羅しておらず、一定の範
囲に偏っている。そうである以上、ガラス分野の当業者の技術常識をもっ
てしても、本件発明の組成要件の全数値範囲にわたって、本件組成要件を
満たすガラスが本件物性要件を満たすと認識することはできない。
⑷ 実験成績証明書について
25 ア 被告は、参考例に示された既知のガラスを基本にして、その成分の一部
を置換することにより、組成要件と物性要件を全て満たすガラスを容易に
見いだすことができたとして、甲11実験成績証明書及び乙第1号証実験
成績証明書(以下「乙1実験成績証明書」という。)を提出するが、これら
の実験証明書による結果を参酌することには、以下のとおりの問題があり、
不当である。
5 イ 本件明細書には、ガラス転移温度について、
「示差走査熱量分析装置(D
SC)を用いて、昇温速度を10℃/分にして測定した。 (
」 【0224】)
としか説明されておらず、それ以上に測定に用いるガラス試料の量や、P
tパンの大きさ、最高温度、標準試料等は特定されていない。
また、液相温度についても、
「ガラスを所定温度に加熱された炉内に入れ
10 て2時間保持し、冷却後、ガラス内部を100倍の光学顕微鏡で観察し、
結晶の有無から液相温度を決定した。 (
」 【0224】)と説明されているの
みであり、測定に用いるガラス試料の量や、どのような条件で冷却するの
かなどは特定されていない。液相温度は、用いるガラス試料の量が少なけ
れば少ないほどガラスが冷却される速度が早くなり、結晶が生じにくくな
15 る(液相温度が低くなる)ことから、ガラス試料の量や、冷却の条件の開
示が必要である。このように、本件明細書でいうところの試験結果と甲1
1実験成績証明書又は乙1実験成績証明書における試験結果とが同じよ
うに測定されたものであるか否かは不明である。そうすると、本件明細書
における測定と甲11実験成績証明書又は乙1実験成績証明書における
20 測定の結果とを単純に比較することはできない。
ウ 液相温度について更に敷衍すると、本件明細書における試験では、液相
温度が10℃刻みになっているため、10℃刻みで所定の温度を設定し、
所定の温度に達した後に冷却した際に、結晶が観察されるか否かによって
液相温度を決定していることまでしか理解できない。そうすると、例えば、
25 設定温度が1150℃で結晶が観察されず、設定温度が1140℃で結晶
が観察された場合、液相温度を、結晶が確認されなかった最低温度である
1150℃と評価するのか、結晶が確認された最高温度である1140℃
と評価するのかは明らかではないし、また、例えば、設定温度が1130℃
で結晶が観察されたとしても、1130℃で結晶が析出した場合と、11
30℃では結晶は析出していなかったものの、冷却過程で結晶が析出した
5 場合があり得るところ、このときに液相温度が1140℃と決定されるの
か、1130℃と決定されるのかも明らかではない。
エ 甲11実験成績証明書及び乙1実験成績証明書の結果を参酌し、本件明
細書の測定結果と比較することが許されたとしても、そこから理解できる
のは、事後的に様々な試行錯誤を行った結果、本件組成要件を満たしつつ、
10 ガラス転移温度も含めた本件物性要件を満たす光学ガラスを、ようやく数
例程度製造することができたということであって、本件出願時における当
業者が、本件明細書の記載から、本件組成要件で特定されるガラスが、高
い蓋然性をもってガラス転移温度を含む本件物性要件を満たしていると
認識できるかとの点が明らかになるものではない。
15 オ 本件明細書に開示された光学ガラスの参考例の組成は、本件組成要件の
数値範囲と比較して、極めて狭い範囲に集中して分布している。このこと
は、甲11実験成績証明書及び乙1実験成績証明書によって示されている
各改変例も同様であって、これによって、本件発明で規定された本件組成
要件の数値範囲全般にわたって本件物性要件を満たす光学ガラスが得ら
20 れることを、当業者が認識し得るとはいえない。
⑸ 被告の主張について
ア 被告は、後記2⑶イにおいて、当業者であれば、過度の試行錯誤を要す
ることなく、ZnOの含有量を調整することにより本件物性要件を全て満
たす光学ガラスを見いだすことができる旨主張するが、本件明細書におい
25 ては、ガラス転移温度に関係し得る組成や組成比として、ZnOが関する
もの以外にも複数の組成や組成比が挙げられているのであるから、ガラス
転移温度の調整を行う際に、ZnO以外の成分を調整することも当然に想
定し得る。このような複数の選択肢の中からZnOが選択されるべき理由
が明らかではない。
本件明細書においては、構成要件A⑤は液相温度(ガラスの熱的安定性)
5 及びガラス転移温度(機械加工特性)に(【0070】~【0076】 、構
)
成要件A⑦、A⑨及びA⑪は液相温度に(【0025】【0040】【00
、 、
58】 それぞれ影響する旨説明されているとおり、
) 本件訂正発明の各組成
要件は、本件訂正発明の物性要件の1つ又は複数と複雑に関係しているの
であるから、本件明細書に接した当業者が、本件物性要件を満たすための
10 組成として、被告が摘示する組成のみが特に重要な要素であるなどと理解
することはできない。
イ ZnOからNb2 O5 への置換についてみると、置換元であるZnOは、
本件物性要件のうち、ガラス転移温度のみならず、屈折率やアッベ数にも
影響し得る成分である上(【0052】 、置換先であるNb 2 O5 は、本件
)
15 物性要件のうち、屈折率及び液相温度に影響し得る成分である(【005
8】 。そうすると、ZnOをNb 2 O5に置換するというのは、ガラス転移
)
温度のみならず、物性要件である屈折率、アッベ数及び液相温度にも影響
を与え得る置換である。
そして、本件明細書には、
「Nb 2 O5 、TiO2 、Ta2 O5およびWO
20 3 は、屈折率を高める働きのある成分であり、適量を含有させることによ
り、ガラスの熱的安定性を改善する働きも有する。 (
」 【0050】)と記載
されている一方で、
「熱的安定性の改善の上でも、質量比((B 2 O3 +Si
O2 )/(Nb2 O5 +TiO2 +Ta2 O 5+WO3 ))を2.65以上と
することは好ましい。(
」【0056】)とも記載されており、Nb 2O5 を増
25 やした場合、上記【0050】の記載からするとガラスの熱的安定性は改
善される(液相温度が低くなる)ように理解できるが、上記【0056】
の記載からすると、熱的安定性が悪くなる(液相温度が高くなる)とも理
解できる。
ウ ZnOからB2 O3 +SiO2 への置換についてみると、置換元であるZ
nOは、本件物性要件のうち、ガラス転移温度のみならず、屈折率やアッ
5 ベ数にも影響し得る成分であり(【0052】 、置換先のB 2 O 3+SiO
)
2 は、液相温度及び屈折率に影響し得る成分である(【0023】 。また、
)
質量比(B2 O3 /(B2 O3 +SiO2 ))は液相温度及びガラス転移温度
に影響し得る数値と説明されている(【0025】)ところからすれば、B
2 O 3 とSiO 2 とはこれら物性要件との関係で異なる性質を持つ成分と
10 規定されているとみられる。
そして、本件明細書には、
「質量比((B 2O3 +SiO2 )/(La2O
3 +Y2 O3 +Gd2 O3 +Yb2 O3 ))が0.53以下であることは、ガ
ラスの化学的耐久性の改善、高ガラス転移温度(Tg)化の観点からも好
ましい。(
」【0036】)と記載されている一方で、
「質量比(ZnO/(B
15 2 O 3 +SiO2 ))が0.4以下であることは、ガラスの熱的安定性の改
善および高ガラス転移温度(Tg)化の上でも好ましい。 (
」 【0052】)
とも記載されており、 2 O3 又はSiO2 を増した場合、 【0036】
B 上記
の記載からするとガラス転移温度が低下するようにも読めるし、上記【0
052】の記載からするとガラス転移温度が上昇するとも理解できる。
20 エ 本件発明は、屈折率とアッベ数だけではなく、液相温度とガラス転移温
度も物性要件として特定しているのであるから、仮に被告が主張するよう
に屈折率とアッベ数については組成から物性が一定程度推測できるとし
ても、液相温度を維持しつつガラス転移温度に係る物性要件を満たすよう
にすることが、当業者において認識できるとはいえない。
25 2 被告
⑴ 構成要件C(ガラス転移温度)について
構成要件Cのガラス転移温度に係る物性要件を含めて、本件物性要件を本
件発明の物性要件と捉えることを争わないこととする。しかしながら、この
場合であっても、本件審決は結論において正当である。
以下、被告の主張は、構成要件Cを物性要件に含めることを前提として行
5 う。
⑵ 本件発明の課題について
前記⑴のとおり、ガラス転移温度に関する本件明細書【0012】の記載
も本件発明の課題に係るものとなるから、本件発明の課題は、「屈折率nd
が1.800~1.850の範囲であり、かつアッベ数νdが41.5~4
10 4の範囲であって、ガラス組成においてGd、TaおよびYbの占める割合
が低減されているとともに、熱的安定性に優れ、機械加工に適するガラス」
を提供することとなる(【0009】 【0010】 【0012】 。
、 、 )
⑶ サポート要件の充足について
ア 次のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発
15 明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか、又は、その記載
や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし本件発明の課題を
解決できると認識できる範囲のものである。
本件発明の課題は、前記⑵のとおり、①屈折率ndが1.800~1.
850の範囲であり、かつアッベ数νdが41.5~44の範囲であって、
20 ②ガラス組成においてGd、Ta及びYbの占める割合が低減されている
とともに、③熱的安定性に優れるガラスの提供、及び、④機械加工に適す
るガラスの提供である。
そうであるところ、本件発明は、上記②の課題について、Gdの質量比
(構成要件A⑩)、Taの含有量(構成要件A④)、Ybの含有量(構成要
25 件A②)について所定の数値範囲との発明特定事項を備えた構成により、
当該課題の解決を図るものであり、上記①、③及び④の課題について、屈
折率ndが1.825~1.850の範囲(構成要件D)、アッベ数νdが
41.5ないし44(構成要件E)、液相温度が1140℃以下(構成要件
B)、ガラス転移温度が672℃以上(構成要件C)との発明特定事項を備
えた構成により、当該課題の解決を図るものである。
5 なお、液相温度が1140℃以下(構成要件B)との発明特定事項によ
り熱的安定性についての課題が解決されることは、本件明細書【0206】
に、
「ガラスの熱的安定性の指標の一つに液相温度がある。ガラス製造時の
結晶化、失透を抑制する上から、液相温度LTが1300℃以下であるこ
とが好ましく、1250℃以下であることがより好ましく、1200℃以
10 下であることが一層好ましく、1150℃以下であることがより一層好ま
しい。」と記載されていることから明らかである。また、ガラス転移温度が
672℃以上(構成要件C)との発明特定事項により、機械加工性につい
ての課題が解決されることは、本件明細書【0198】 「上記ガラスは、
に、
機械加工性改善の観点から、ガラス転移温度が640℃以上であることが
15 好ましい。ガラス転移温度を640℃以上にすることにより、切断、切削、
研削、研磨などガラスを機械的に加工する時に、ガラスを破損しにくくす
ることができる。」と記載されていることから明らかである。
イ 本件特許の優先日(平成27年1月13日)当時の光学ガラスの技術分
野における技術常識として、ターゲットとされる物性を有する光学ガラス
20 を製造するに当たり、当該物性を有する光学ガラスの配合組成を明らかに
するためには、既知の光学ガラスの配合組成を基本にして、その成分の一
部を当該物性に寄与することが知られている成分に置き換える作業を行
い、ターゲットではない他の物性に支障が出ないよう複数の成分の混合比
を変更するなどの試行錯誤を繰り返すことで、当該配合組成を見いだすと
25 いうことが行われていた。
次のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び技術常識から、
現に、当業者は過度の試行錯誤を要することなく、ガラス1の一つの態様
として、本件組成要件と本件物性要件を満たす光学ガラスを見いだすこと
ができるから、本件明細書には、本件組成要件及び本件物性要件を備えた
光学ガラスが記載されているに等しいといえ、本件発明1は、発明の詳細
5 な説明に記載されているといえる。
参考例5のガラス組成を基本とする場合
参考例5は、本件組成要件を全て満たし、本件物性要件もガラス転移
温度を除いて全て満たすガラスである。ガラス転移温度は669℃であ
り、構成要件Cが規定する672℃以上を3℃下回る。
10 そこで、ガラス転移温度を上げるために、本件明細書の記載を参酌す
ると、本件明細書【0052】には、ZnOがガラス転移温度を低下さ
せる働きを有するとの記載がある。この観点から本件明細書【0226】、
【表100-2】をみると、ガラス転移温度が672℃以上の参考例の
ZnO含有量は、概ね2.0ないし3.0の範囲内にあること、これに
15 対し、参考例5のZnO含有量は3.5質量%であって、やや高めであ
ることが直ちに理解できる。
そして、ZnOに関しては、本件組成要件のうち、構成要件A⑫が関
連するところ、本件明細書【0062】には、ガラスの熱的安定性の更
なる改善、ガラス転移温度の低下抑制(これによる機械加工性の改善)
20 等の観点からは、質量比(ZnO/(Nb 2 O5 +TiO2 +Ta2 O5
+WO3 ))は低いほうが好ましい趣旨の記載がある。
そこで、ZnOの含有量を減らし、構成要件A⑫の質量比を減らすこ
とが考えられる。
次に、ZnOを減少させた分、他の成分を増量させる必要があるため、
25 置換先の成分を検討するに、まずは、単純に同じ構成要件A⑫の分母の
成分に置換させて、この質量比を減らすことが考えられる。この点、構
成要件A⑫の分母のうち、Nb 2 O5 は、Ta2 O5 、TiO2 、WO3 と
異なり、ガラスの比重、着色、製造コストを増大させるといった問題が
生じにくく、屈折率を高め、ガラスの熱的安定性を改善する働きがある
ことから(【0058】、ZnOをNb2 O 5に適宜置換することで、上
)
5 記質量比を減らし、ガラス転移温度を改善させればよいことは、当業者
であれば当然に理解することである。
他にも、ZnOの置換先として、ガラスのネットワーク形成成分であ
るB2 O3 +SiO2 は、その合計含有量が多いとガラスの熱的安定性が
向上するとされていることから、 【0023】 、減少させたZnOの含
( )
10 有量をB2 O3 +SiO2 に適宜置換することで、質量比(ZnO/(N
b2 O5 +TiO2+Ta2 O5 +WO3 ))を減らし、ガラス転移温度を
改善させればよいことは、当業者であれば当然に理解することである。
甲11実験成績証明書で示されるように、本件組成要件の範囲内で、
参考例5のZnO(3.5質量%)の1質量%分を、Nb2 O5 に置換す
15 る改変例(5改α)又はB2 O3 とSiO2 に0.5質量%ずつ置換する
改変例(5改β)において物性を測定したところ、いずれも本件物性要
件を全て満たすことが確認されている。
参考例16のガラス組成を基本とする場合
参考例16は、本件組成要件を全て満たし、本件物性要件もガラス転
20 移温度を除いて全て満たすガラスである。ガラス転移温度は668℃で
あり、構成要件Cが規定する672℃以上を4℃下回る。
参考例16のZnO含有量をみると、3.8質量%であって、やや高
めであることが直ちに理解できる。
そこで、ZnOの含有量を減らし、その替わりに、ガラスの熱的安定
25 性を改善する働きがあるNb 2 O5 やB2 O3 +SiO2 に適宜置換する
ことで、質量比(ZnO/(Nb2 O5 +TiO2+Ta2 O5+WO3 ))
を減らし、ガラス転移温度を改善させればよいことは、当業者であれば
当然に理解することである。
甲11実験成績証明書で示されるように、本件組成要件の範囲内で、
参考例16のZnO(3.8質量%)の1質量%分を、Nb2 O5 に置換
5 する改変例(16改α)又はB2 O3とSiO2 に0.5質量%ずつ置換
する改変例(16改β)において物性を測定したところ、いずれも、本
件物性要件を全て満たすことが確認されている。
参考例24のガラス組成を基本とする場合
参考例24は、本件組成要件を全て満たし、本件物性要件もガラス転
10 移温度を除いて全て満たすガラスである。ガラス転移温度は669℃で
あり、構成要件Cが規定する672℃以上を3℃下回る。
参考例24のZnO含有量をみると、3.6質量%であって、やや高
めであることが直ちに理解できる。
そこで、ZnOの含有量を減らし、その替わりに、ガラスの熱的安定
15 性を改善する働きがあるNb 2 O5 やB2 O3 +SiO2 に適宜置換する
ことで、質量比(ZnO/(Nb 2 O5 +TiO2+Ta2 O5+WO3 ))
を減らし、ガラス転移温度を改善させればよいことは、当業者であれば
当然に理解することである。
甲11実験成績証明書で示されるように、本件組成要件の範囲内で、
20 参考例24のZnO(3.6質量%)の1質量%分を、Nb2 O5 に置換
する改変例(24改α)又はB2 O3とSiO2 に0.5質量%ずつ置換
する改変例(24改β)において物性を測定したところ、いずれも、本
件物性要件を全て満たすことが確認されている。
参考例22のガラス組成を基本とする場合
25 参考例22は、本件組成要件を全て満たし、本件物性要件もガラス転
移温度を除いて全て満たすガラスである。ガラス転移温度は670℃で
あり、構成要件Cが規定する672℃以上を2℃下回る。
参考例22のZnO含有量をみると、3.5質量%であって、やや高
めであることが直ちに理解できる。
そこで、ZnOの含有量を減らし、その替わりに、ガラスの熱的安定
5 性を改善する働きがあるNb 2 O5 やB2 O3 +SiO2 に適宜置換する
ことで、質量比(ZnO/(Nb 2 O5 +TiO2+Ta2 O5+WO3 ))
を減らし、ガラス転移温度を改善させればよいことは、当業者であれば
当然に理解することである。
乙1実験成績証明書で示されるように、本件組成要件の範囲内で、参
10 考例22のZnO(3.5質量%)の1質量%分を、Nb2 O5 に置換す
る改変例(22改α)又はB 2 O3 とSiO 2に0.5質量%ずつ置換す
る改変例(22改β)において物性を測定したところ、いずれも、本件
物性要件を全て満たすことが確認されている。
参考例30のガラス組成を基本とする場合
15 参考例30は、本件組成要件を全て満たし、本件物性要件もガラス転
移温度を除いて全て満たすガラスである。ガラス転移温度は669℃で
あり、構成要件Cが規定する672℃以上を3℃下回る。
参考例30のZnO含有量をみると、3.5質量%であって、やや高
めであることが直ちに理解できる。
20 そこで、ZnOの含有量を減らし、その替わりに、ガラスの熱的安定
性を改善する働きがあるNb 2 O5 やB2 O3 +SiO2 に適宜置換する
ことで、質量比(ZnO/(Nb 2 O5 +TiO2+Ta2 O5+WO3 ))
を減らし、ガラス転移温度を改善させればよいことは、当業者であれば
当然に理解することである。
25 乙1実験成績証明書で示されるように、本件組成要件の範囲内で、参
考例30のZnO(3.5質量%)の1質量%分を、Nb 2 O5 に置換す
る改変例(30改α)又はB2 O3 とSiO 2に0.5質量%ずつ置換す
る改変例(30改β)において物性を測定したところ、いずれも、本件
物性要件を全て満たすことが確認されている。
参考例31のガラス組成を基本とする場合
5 参考例31は、本件組成要件を全て満たし、本件物性要件もガラス転
移温度を除いて全て満たすガラスである。ガラス転移温度は670℃で
あり、構成要件Cが規定する672℃以上を2℃下回る。
参考例31のZnO含有量をみると、3.5質量%であって、やや高
めであることが直ちに理解できる。
10 そこで、ZnOの含有量を減らし、その替わりに、ガラスの熱的安定
性を改善する働きがあるNb 2 O5 やB2 O3 +SiO2 に適宜置換する
ことで、質量比(ZnO/(Nb 2 O5 +TiO2+Ta2 O5+WO3 ))
を減らし、ガラス転移温度を改善させればよいことは、当業者であれば
当然に理解することである。
15 乙1実験成績証明書で示されるように、本件組成要件の範囲内で、参
考例31のZnO(3.5質量%)の1質量%分を、Nb 2 O5 に置換す
る改変例(31改α)又はB 2 O3 とSiO 2に0.5質量%ずつ置換す
る改変例(30改β)において物性を測定したところ、いずれも、本件
物性要件を全て満たすことが確認されている。
20 参考例32のガラス組成を基本とする場合
参考例32は、本件組成要件を全て満たし、本件物性要件もガラス転
移温度を除いて全て満たすガラスである。ガラス転移温度は670℃で
あり、構成要件Cが規定する672℃以上を2℃下回る。
参考例31のZnO含有量をみると、3.5質量%であって、やや高
25 めであることが直ちに理解できる。
そこで、ZnOの含有量を減らし、その替わりに、ガラスの熱的安定
性を改善する働きがあるNb 2 O5 やB2 O3 +SiO2 に適宜置換する
ことで、質量比(ZnO/(Nb 2 O5 +TiO2+Ta2 O5+WO3 ))
を減らし、ガラス転移温度を改善させればよいことは、当業者であれば
当然に理解することである。
5 そして、乙1実験成績証明書で示されるように、本件組成要件の範囲
内で、参考例32のZnO(3.5質量%)の1質量%分を、Nb 2 O5
に置換する改変例(32改α)又はB2 O3 とSiO2 に0.5質量%ず
つ置換する改変例(32改β)において物性を測定したところ、いずれ
も、本件物性要件を全て満たすことが確認されている。
10 参考例12のガラス組成を基本とする場合
参考例12は、本件物性要件を全て満たし、本件組成要件は構成要件
A⑦を除いて全て満たすガラスである。「B2 O 3 /(B 2 O 3 +SiO
2)」は0.841であり、構成要件A⑦が規定する0.6ないし0.8
28の上限を0.013上回る。
15 ここで、同構成要件の質量比B2 O3 /(B2 O 3+SiO2 )は、そ
の分子及び分母のいずれもをB 2 O3の値で除した1/(1+SiO2/
B2 O3 )と同値であるから、B2 O3 /(B2 O3 +SiO2 )を構成要
件A⑦の範囲内とするようにSiO 2 /B 2 O 3 の比率を増やす組成変
更をするためには、B 2O3 の含有量を減らし、その分、分子のSiO2
20 の含有量を増やす方法が直ちに考えられる。
この点、本件明細書【0025】には、SiO2 はB 2 O3 と同じガラ
スのネットワーク形成成分とされており、B2 O3 /(B2 O3 +SiO
2 )が低いとガラスの熱的安定性を改善し、機械加工性の低下を抑制す
ることができる趣旨が記載されていることから、 2 O3 を減らし、
B その
25 分SiO2 を増やすことで、物性要件を維持しつつ、質量比B2 O 3 /(B
2 O3 +SiO2 )を減らしたガラスを得ることができることは、当業者
であれば当然に理解することである。
そして、乙1実験成績証明書で示されるように、本件組成要件の範囲
内で、参考例12のB 2O3(21.7質量%)の0.5質量%分を、S
iO2 に置換する改変例(12改γ)において物性を測定したところ、
5 本件物性要件を満たすことが確認されている。
ウ 屈折率は、ガラスの構成成分による加成性が成り立つ物性として知られ
ている。このため、ガラスの組成が決まれば、各構成成分の含有率に、当
該各成分の寄与率(加成性因子)を掛け合わせたものを足し込むことによ
って、屈折率を算出することが可能である(乙4)。
10 また、アッベ数ν dは、本件明細書【0004】にもあるように、d線
(ヘリウム原子が発する波長587.56nmの光)、F線(水素原子が発
する波長486.13nmの光)、C線(水素原子が発する波長656.2
7nmの光)における屈折率をそれぞれn d 、nF 、nC としたときに、
νd=(n d -1)/(nF -n C)
15 と定義される。
さらに、ガラス組成と屈折率n d とアッベ数ν d が既知であるガラスが
存在する場合において、その既知のガラスとは組成が異なる新たなガラス
の屈折率nd とアッベ数νdを、既知のガラスの屈折率n d とアッベ数νd
を起点とし、各構成成分の変化量に基づいて、計算により、改変後の屈折
20 率n d 及びアッベ数ν d を一義的に決めることが可能である(乙5、6)。
このように、屈折率とアッベ数については、ガラスの組成が決まれば、
一義的にその数値も決まる物性であり、また、ガラスの組成変化量から屈
折率及びアッベ数の変化量が一義的に決まることは、本件特許の優先日当
時の技術常識であるから、このような技術常識を有する当業者は、本件明
25 細書における、特定の組成と特定の屈折率及びアッベ数のデータが示され
た特定の光学ガラスの記載に基づき、仮に、当該光学ガラスの組成の一部
を改変した光学ガラスを作製した場合に、当該改変に応じて屈折率やアッ
ベ数がどのような値になるかにつき、過度な試行錯誤を要することなく、
合理的に予測することができる。
エ 特許法36条6項1号は、特許請求の範囲に記載された「特許を受けよ
5 うとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」を求めるも
のであり、本件に即していえば、構成要件A①ないし⑫によって特定され
る本件組成要件と、構成要件BないしEによって特定される本件物性要件
の双方を満たす光学ガラスが、発明の詳細な説明に記載したものといえる
かどうかが問題となる。
10 原告が主張するように、構成要件A①ないし⑫によって特定される本件
組成要件の数値範囲全般にわたって、構成要件BないしEによって特定さ
れる本件物性要件を満たすといった光学ガラスが発明の詳細な説明に記
載されたものである必要はない。
⑷ 実験成績証明書について
15 ア 甲11実験成績証明書及び乙1実験成績証明書は、いずれも被告担当者
が作成したものであり、ZnOの含有量を調整することにより、過度の試
行錯誤を要することなく、本件物性要件を全て満たす光学ガラスを見いだ
すことができることを明らかにしたものである。原告は、前記1 のとお
り、本件明細書における試験結果と上記両証明書における試験結果が同じ
20 ように測定されたか否か不明であるなどとして、両結果を単純に比較する
ことはできない旨主張するが、このような主張は、以下のとおり理由がな
い。
イ 本件明細書における液相温度も、甲11実験成績証明書又は乙1実験成
績証明書における液相温度も、「ガラスを所定温度に加熱された炉内に入
25 れて2時間保持し、冷却後、ガラス内部を100倍の光学顕微鏡で観察し、
結晶の有無から液相温度を決定した」
(【0224】 という同じ測定方法に
)
従い、結晶が観察されなかった温度のうち、最も低い温度で評価している
のである。ガラス転移温度測定においては、昇温速度と測定装置が最も重
要であるところ、本件明細書にはこの点が明記され、被告は、この本件明
細書に記載された示差走査熱量分析装置(DSC)と昇温速度を10℃/
5 分に従って、差走査熱量分析装置(DSC)であるネッチ・ジャパン株式
会社製「DSC3300SA」を用い、昇温速度を10℃/分にし、その
他の測定条件については、
「DSC3300SA」の取扱説明書(乙2)に
記載された範囲内の条件において測定して、甲11実験成績証明書及び乙
1実験成績証明書のガラス転移温度Tgの測定を追試した。
10 ウ 液相温度とは、結晶が観察されない最も低い温度をいうところ、ガラス
を10℃刻みの所定温度において2時間保持したときの結晶の有無を把
握するに当たっては、実際上、高温のガラス中に結晶があるか否かを観察
するのは困難であることから、高温のガラス中に析出した結晶がその後冷
却しても消失しないことを利用し(乙3) 上記の所定温度のまま2時間保
、
15 持したガラスを冷却することによってこの状態を保存し、冷却後にガラス
内部を100倍の光学顕微鏡で観察して、結晶がなければ当該温度におい
て結晶が存在してないと判定する方法が採られる(結晶が存在していた場
合には、当該温度で結晶が析出したのか、冷却過程で結晶が析出したのか
不明であるため、保守的にみて、当該温度で既に結晶が存在していたもの
20 と取り扱う。 。
)
したがって、観察すべき結晶は、冷却過程で発生し得る結晶ではないか
ら、冷却速度が早くなり、冷却過程で結晶が生じにくくなることは、液相
温度が低くなる理由にはならない。
第4 当裁判所の判断
25 1 本件発明について
本件明細書(甲12)には、別紙1「本件明細書の記載事項(抜粋)」のとお
りの記載があり、この記載によると、本件発明について、次のような開示があ
ると認められる。
⑴ 発明の概要
ア 屈折率ndが1.800ないし1.850の範囲であり、かつアッベ数 ν
5 dが41.5ないし44の範囲であるガラスは、色収差の補正、光学系の高
機能化、コンパクト化のために有用な光学素子用の材料である(【000
4】 。
)
上記範囲の屈折率およびアッベ数を有する高屈折率低分散ガラスにつ
いては、その有用性を更に高めるためには、以下の点を満たすことが望ま
10 れる(【0005】 。
)
安定供給可能であること、そのためには、希少価値が高い元素であって、
近年、市場における需要に対して供給が不足している元素であるGdやT
aがガラス組成に占める割合を低減することが望ましい(【0006】 。
)
ガラス組成においてYbが占める割合が低いこと、これは、①Ybは近
15 赤外域に吸収を有するため、Ybを多く含むガラスは、例えば、監視カメ
ラ、暗視カメラ、車載カメラのレンズ等の可視域から近赤外域にわたって
高い透過率が必要とされる用途の光学素子用の材料には適していないこと、
②Ybは重希土類元素に属し、ガラスの成分としては原子量が大きく、ガ
ラスの比重を増大させてレンズを重くし、その結果、そのようなレンズを
20 組み込むと、消費電力が大きくなり、電池の消耗が激しくなってしまうこ
とによる(【0007】 。
)
熱的安定性に優れること、これは、熱的安定性の低いガラスは、ガラス
を製造する過程でガラスが失透傾向を示してしまうためである(【000
8】 。
)
25 以上の点に鑑み、本件発明の一態様は、屈折率ndが1.800~1.8
50の範囲であり、かつアッベ数 νdが41.5~44の範囲であって、
ガラス組成においてGd、Ta及びYbの占める割合が低減されていると
ともに、熱的安定性に優れるガラスを提供するものである(【0009】。
)
イ また、ガラスは機械加工に適することを満たすことが望ましいところ、
ガラス転移温度の低いガラスは機械加工において破損しやすい傾向がある
5 から、機械加工に適したガラスとするためには、ガラス転移温度を精密プ
レス成形用のガラスより高くすることが望ましい(【0010】 【001
、
2】 。
)
ウ ガラス1は、屈折率ndが1.800~1.850の範囲であり、かつ
アッベ数νdが41.5~44である酸化物ガラスであるガラスであって、
10 ガラス組成においてGdが占める割合が低減されており、更にガラス組成
においてTa及びYbが占める割合も低減されていて、Gd、Ta及びY
bが占める割合を低減した組成の中で、高い熱的安定性(失透しにくい性
質)を実現することができ、更には、短波長側の光吸収端の長波長化の抑
制、高ガラス転移温度(Tg)化(ガラス転移温度の高温化)も可能とな
15 る(【0015】 。
)
⑵ 発明を実施するための形態(下線部は、各構成要件において定められた数
値範囲に対応し又は同数値範囲を含む部分として適示するものである。 。
)
ア 構成要件D及びEに関して
本発明の一態様にかかるガラス1は、屈折率ndが1.800~1.85
20 0の範囲であり、かつアッベ数 νdが41.5~44である酸化物ガラス
である(【0021】 。
)
屈折率が1.800以上であるガラスは、屈折力の大きなレンズなどの
光学素子の材料として好適であるが、屈折率が1.850よりも高くなる
と、アッベ数が減少したり、ガラスの熱的安定性が低下する傾向があり、
25 また着色が増大する傾向がある 【0192】 。
( ) 屈折率の好ましい下限は1.
805ないし1.830であり、好ましい上限は1.835ないし1.8
45である(【0193】 【表93】
、 )
アッベ数が41.5以上のガラスは、光学素子の材料として色収差の補
正に有効であるが、アッベ数が44より大きくなると、屈折率が減少した
り、ガラスの熱的安定性が低下する傾向がある(【0194】 。アッベ数の
)
5 好ましい下限は41.7ないし42.5であり、好ましい上限は42.9
ないし43.8である(【0195】 【表94】 。
、 )
イ 構成要件A①に関して
B2 O3 、SiO2 は、ガラスのネットワーク形成成分である。B 2 O3
とSiO 2 との合計含有量(B 2 O 3 +SiO2 )が15%以上であると、
10 ガラスの熱的安定性が向上し、製造中のガラスの結晶化を抑制することが
でき、B2 O3 とSiO2 との合計含有量が35%以下であると、屈折率n
dの低下を抑制することができるため、ガラス1におけるB 2 O3 とSi
O2 との合計含有量は、15ないし35%の範囲とする(【0023】 。
)
B2 O 3 とSiO2 との合計含有量の好ましい下限は19ないし25%、
15 好ましい上限は27ないし33%である(【0024】 【表1】 。
、 )
ウ 構成要件A②に関して
La2 O3 、Y2 O3 、Gd2 O3 及びYb2 O3 は、アッベ数の低下を抑
えつつ屈折率を高める働きを有する成分であるとともに、ガラスの化学的
耐久性、耐候性を改善し、ガラス転移温度を高める働きも有する(【003
20 0】 。
)
La2 O3 、Y2 O3 、Gd2 O3 及びYb2O3 の合計含有量(La2 O
3 +Y2 O3 +Gd2 O3 +Yb2 O3 )が45%以上であると、屈折率の低
下を抑制することができ、更に、ガラスの化学的耐久性や耐候性の低下を
抑制することもでき、ガラス転移温度の低下を抑制することができるため、
25 機械加工性を高めることもでき、一方、La2 O3、Y2 O3 、Gd2 O3及
びYb 2 O 3 の合計含有量が65%以下であれば、ガラスの熱的安定性を
高めることができるため、ガラスを製造するときの結晶化の抑制や、ガラ
スを熔融するときの原料の熔け残りを低減することもできることから、ガ
ラス1において、La 2 O3、Y2 O3 、Gd 2O3及びYb2 O3 の合計含
有量は、45~65%の範囲とする(【0030】 。
)
5 La2 O3 、Y2 O3 、Gd2O3 及びYb2 O3 の合計含有量の好ましい
下限は47ないし55%であり、好ましい上限は57ないし63%である
(【0031】 【表5】 。
、 )
Yb 2 O 3 は、ガラス組成において占める割合を低減することが望まし
い成分であるから、ガラス1では、Yb2 O 3含有量を3%以下とする 【0
(
10 038】 。
)
Yb 2 O 3 含有量の好ましい下限は0%、好ましい上限は0ないし2.
0%である(【0039】 【表9】 。
、 )
エ 構成要件A③に関して
ZrO2 は、屈折率を高める働きのある成分であり、適量を含有させる
15 ことにより、ガラスの熱的安定性を改善する働きも有するとともに、ガラ
ス転移温度を高め、機械的な加工時にガラスが破損しにくくする働きも有
することから、これらの効果を良好に得るために、ガラス1では、ZrO
2 の含有量を3%以上とする(【0032】 。
)
ZrO 2 の含有量が11%以下であれば、ガラスの熱的安定性を改善す
20 ることができるため、ガラス製造時の結晶化やガラス熔融時の熔け残りの
発生を抑制することができることから、ガラス1におけるZrO 2 の含有
量は、3ないし11%の範囲とする(【0032】 。
)
ZrO2 含有量の好ましい下限は4ないし6%、好ましい上限は7ない
し10%である(【0033】 【表6】 。
、 )
25 オ 構成要件A④に関して
Ta2 O5 は、ガラスの安定供給の観点からは、ガラス組成に占める割合
を低減することが望ましい成分であり、また、屈折率を高める働きを有す
る成分であるものの、ガラスの比重を増大させ、熔融性を低下させる成分
でもあることから、ガラス1におけるTa 2 O5 含有量は、5%以下とする
(【0034】 。
)
5 Ta 2 O 5 の含有量の好ましい下限は0%、好ましい上限は0ないし
4%である(【0035】 【表7】 。
、 )
カ 構成要件A⑤に関して
Li2 O含有量は、ガラスの熱的安定性の更なる改善、ガラス転移温度
の低下抑制(これによる機械加工性の改善) 化学的耐久性や耐候性の改善
、
10 の観点からは、1%以下とすることが好ましい(【0068】 。
)
Na2 O、K2 O、Rb2 O、Cs2 Oは、いずれも、ガラスの熔融性を
改善する働きを有するが、これらの含有量が多くなると、ガラスの熱的安
定性、化学的耐久性、耐候性、機械加工性が低下傾向を示す 【0070】 。
( )
Rb2 O、Cs2Oは高価な成分であり、Li 2 O、Na2 O、K2 Oと
15 比較して、汎用的なガラスには適していない成分であるから、ガラスの熱
的安定性、化学的耐久性、耐候性、機械加工性を維持しつつ、ガラスの熔
融性を改善する上から、Li 2 O、Na2 O及びK2 Oの合計含有量の下限
は0%、上限は0ないし5%とすることが好ましい(【0075】【007
、
6】 【表31】 。
、 )
20 キ 構成要件A⑥に関して
Nb2 O 5 、TiO 2 、Ta 2 O 5 及びWO 3 は、屈折率を高める働きの
ある成分であり、適量を含有させることにより、ガラスの熱的安定性を改
善する働きも有するところ、その合計含有量が3ないし15%の範囲であ
ることが、前記の光学特性を実現しつつ、ガラスの熱的安定性を更に改善
25 する上で好ましい(【0050】 。
)
Nb2 O 5 、TiO 2 、Ta 2O 5 及びWO 3 の合計含有量のより好まし
い下限は4ないし7%であり、より好ましい上限は9ないし14%である
(【0051】 【表16】
、 )
ク 構成要件A⑦に関して
ガラスのネットワーク形成成分であるB 2 O 3 とSiO 2 の各成分の含
5 有量の比率は、ガラスの熱的安定性、熔融性、成形性、化学的耐久性、耐
候性、機械加工性等に影響を与えるところ、B2 O3は、SiO2 よりも熔
融性を改善する働きが優れているものの熔融時に揮発しやすく、一方、S
iO2は、ガラスの化学的耐久性、耐候性、機械加工性を改善したり、熔融
時のガラスの粘性を高める働きを有する(【0025】 。
)
10 熔融時のガラスの粘性が低いと熱的安定性が低下する(結晶化しやすく
なる)ので、熔融時の粘性が高くなるようにB 2 O3 とSiO2 の各成分の
含有量の比率を調整することにより、ガラスの結晶化を更に抑制しガラス
の熱的安定性を改善することができ、また、成形性の優れたガラスとは、
熔融状態のガラスを鋳型に流し込む時の粘度が比較的高いガラスに相当
15 するところ、B2 O3 とSiO2 との合計含有量に対するB 2 O3 含有量の
質量比が0.900以下であれば、熔融時の粘性低下を抑制することがで
き、これによりガラスの熱的安定性、ガラスの化学的耐久性、耐候性、機
械加工性の低下を抑制することもできる(【0025】 。
)
一方、質量比(B2 O3 /(B2O 3 +SiO2) が0.4以上であれば、
)
20 熔融時のガラス原料の熔け残りを防ぐことができるため、熔融性を向上す
ることができることから、ガラス1において、質量比(B 2 O3 /(B2 O
3 +SiO 2 ))を0.4ないし0.900の範囲とする(【0025】 。
)
ガラス1における質量比(B 2 O3 /(B2 O3 +SiO2))の好ましい
下限は0.5ないし0.75、好ましい上限は0.85ないし0.89で
25 ある(【0026】 【表2】 。
、 )
ケ 構成要件A⑧に関して
ガラスの熱的安定性を改善し、比重の増大を抑えつつ前記光学特性を実
現するために、ガラス1において、La 2 O 3、Y2 O3 、Gd2 O3及びY
b2 O3 の合計含有量に対するB2 O3 及びSiO2 の合計含有量の質量比
を0.42ないし0.53の範囲とする(【0036】)
5 質量比 (B2 O3 +SiO2)/
( (La2 O3 +Y2 O3 +Gd2O 3 +Y
b2 O3 ) が0.42以上であれば、
) ガラスの熱的安定性を改善することが
できるため、ガラスの失透を抑制することができるほか、また、ガラスの
比重の増大を抑制することもでき、ガラスの化学的耐久性の改善、高ガラ
ス転移温度(Tg)化の観点からも好ましく、一方、同質量比が0.53以
10 下であれば、前記光学特性を実現することができる(【0036】 。
)
質量比 (B2 O3 +SiO2)/
( (La2 O3 +Y2 O3 +Gd2O 3 +Y
b2 O3 ))の好ましい下限は0.43ないし0.45であり、好ましい上
限は0.47ないし0.52である(【0037】 【表8】 。
、 )
コ 構成要件A⑨に関して
15 Y2O3 は、近赤外域の光線透過率を大幅に低下させることなく、ガラス
の熱的安定性を改善する働きをする成分であり、原子量が小さいことから、
ガラスの比重の増大を抑える上で好ましい成分であるものの、Y 2 O 3 の
含有量が多くなり過ぎるとガラスの熱的安定性は著しく低下し、結晶化し
やくなり、熔融性も低下する(【0040】 。
)
20 熱的安定性を改善しつつ、近赤外域の光線透過率を大幅に低下させるこ
となく比重の増大を抑え、前記の光学特性を有するガラスを作る上から、
ガラス1では、La2 O3 、Y2 O3 、Gd2 O3 及びYb2 O3の合計含有
量に対するY 2 O 3 含有量の質量比を0.05ないし0.45の範囲とする
(【0040】)
25 質量比(Y2 O3 /(La2O3 +Y2 O3 +Gd2 O3 +Yb2 O3 ))の
好ましい下限は0.06ないし0.18であり、好ましい上限は0.24
ないし0.41である(【0041】 【表10】 。
、 )
サ 構成要件A⑩に関して
Gd 2 O 3 は、ガラス組成において占める割合を低減することが望まし
い成分であるほか、Ybと同様に重希土類元素に属し、ガラスの成分とし
5 ては原子量が大きく、ガラスの比重を増大させることから、ガラス組成に
おいてGdが占める割合を低減することが望ましい(【0042】 。
)
ガラス1では、前記した光学特性を有する高屈折率低分散ガラスを安定
供給することや、高屈折率低分散ガラスとしては比重が小さいガラスを作
る上から、La2O3 、Y2 O3 、Gd2 O3 及びYb2 O3 の合計含有量に
10 対するGd 2 O 3 含有量の質量比を0ないし0.05の範囲とする(【00
42】 。
)
質量比(Gd2 O3 /(La2 O 3 +Y2 O3 +Gd2 O3 +Yb2 O3))
の好ましい下限は0であり、好ましい上限は0ないし0.04である。
(【0
043】 【表11】 。
、 )
15 シ 構成要件A⑪に関して
Nb2 O 5 、TiO 2 、Ta 2O 5 及びWO 3 は、適量を含有させること
により、ガラスの熱的安定性を改善する働きをする(【0058】 。
)
TiO 2 の含有量が多くなると、ガラスの可視域の透過率が低下して、
ガラスの着色が増大する傾向があり、WO 3 の含有量が増加すると、ガラ
20 スの可視域の透過率が低下してガラスの着色が増大する傾向があり、また
比重が増大する傾向があるが、Nb2 O5 は、ガラスの比重、着色、製造コ
ストを増大させにくく、屈折率を高め、ガラスの熱的安定性を改善する働
きがあることから、ガラス1では、Nb2 O5 の優れた作用、効果を活かす
ために、Nb 2 O 5 、TiO 2 、Ta 2 O5 及びWO 3 の合計含有量に対す
25 るNb 2 O 5 の含有量の質量比を0.5ないし1の範囲とする(【005
8】 。
)
質量比(Nb 2 O 5 /(Nb2 O5 +TiO 2 +Ta2 O 5 +WO3))の
より好ましい下限は0.5ないし1であり、好ましい上限は1である(【0
059】 【表20】 。
、 )
ス 構成要件A⑫に関して
5 ZnOは、ガラスを熔融するときに、ガラスの原料の熔けを促進する働
き、すなわち、熔融性を改善する働きを有するとともに、屈折率やアッベ
数を調整したり、ガラス転移温度を低下させる働きを有する 【0052】。
( )
熔融性の低いガラスについて、ガラス原料の熔け残りがないようにする
ためにガラスの熔融温度を高めたり、熔融時間を長くすると、ガラスの着
10 色が増大する傾向がある一方で、他のガラス成分の含有量を調整すること
より熔融性を改善しようとすると、熱的安定性が低下したり、前記の光学
特性を有する均質なガラスを得ることが難しくなる場合があることから、
ガラスの熔融性を向上するために、質量比(ZnO/(Nb 2O 5+TiO
2 +Ta2 O5 +WO 3 ))を0.1以上とすることは、ガラスの着色抑制の
15 上でも好ましい(【0062】 。
)
また、ガラスの熱的安定性の更なる改善、ガラス転移温度の低下抑制(こ
れによる機械加工性の改善)、化学的耐久性の改善の観点からは、質量比
(ZnO/(Nb2 O 5 +TiO2 +Ta2 O5 +WO3))を3以下とする
ことが好ましい(【0062】 。
)
20 質量比(ZnO/(Nb 2 O5 +TiO2+Ta2 O5 +WO3 ))のより
好ましい下限は0.1ないし0.4,より好ましい上限は0.6ないし3.
0である(【0063】 【表22】 。
、 )
セ 構成要件B
ガラス製造時の結晶化、失透を抑制する上から、ガラスの熱的安定性の
25 指標の一つに液相温度があり、液相温度LTが1300℃以下であること
が好ましく、1250℃以下であることがより好ましく、1200℃以下
であることが一層好ましく、1150℃以下であることがより一層好まし
い(【0206】 。液相温度LTの下限は、一例として1100℃以上であ
)
るが、低いことが好ましく特に限定されるものではない(【0206】 。
)
ソ 構成要件C
5 ガラス1は、機械加工性改善の観点から、ガラス転移温度が640℃以
上であることが好ましく、ガラス転移温度を640℃以上にすることによ
り、切断、切削、研削、研磨などガラスを機械的に加工する時に、ガラス
を破損しにくくすることができる(【0198】 。
)
一方、ガラス転移温度を高くしすぎると、ガラスを高温でアニールしな
10 ければならなくなり、アニール炉が著しく消耗し、また、ガラスを成形す
るときに、高い温度で成形を行わなければならず、成形に使用する型の消
耗が著しくなる(【0198】 。
)
機械加工性の改善、アニール炉や成形型への負担軽減から、ガラス転移
温度のより好ましい下限は645ないし665℃、好ましい上限は680
15 ないし750℃である(【0199】 【表96】 。
、 )
⑶ 参考例
ガラス1の特性の測定結果は、参考例1ないし33のとおりである 【02
(
22】ないし【0231】 【表100-1】ないし【表100-7】 。
、 )
各参考例の組成要件及び物性要件の数値をまとめると別紙2のとおりで
20 ある(ただし、本判決において、本件物性要件及び本件組成要件の充足の可
否に従って色分けをした。 。なお、いずれの参考例も、Yb 2 O 3 の含有量は
)
1.0質量%未満である(構成要件A②参照)。
2 甲11実験成績証明書及び乙 1 実験成績証明書について
甲11実験成績証明書は、令和3年3月18日付けで被告担当者名義の下に
25 作成されたものであり、参考例5,16及び24について、それぞれ1質量%
のZnOを、1質量%のNb 2 O5 に置換する改変例(改α)又は0.5質量%
のB2 O3 と0.5質量%のSiO2に置換する改変例(改β)の実験結果を記
載したものである。
乙1実験成績証明書は、令和4年10月12日付けで同じ被告担当者名義の
下に作成されたものであり、参考例22,30、31及び32について、それ
5 ぞれ甲11実験成績証明書と同様の改変例(改α又は改β)の実験結果及び参
考例12について、0.5質量%のB 2 O3 を0.5質量%のSiO 2 に置換す
る改変例(改γ)を記載したものである。
3 本件発明1について
以下、まず、本件発明1について取消事由(サポート要件の充足に関する判
10 断の誤り)の存否を検討する。
⑴ サポート要件の判断基準について
特許法36条6項1号は、特許請求の範囲の記載に際し、発明の詳細な説
明に記載した発明の範囲を超えて記載してはならない旨を規定したものであ
り、その趣旨は、発明の詳細な説明に記載していない発明について特許請求
15 の範囲に記載することになれば、公開されていない発明について独占的、排
他的な権利を請求することになって妥当でないため、これを防止することに
あるものと解される。
そうすると、特許請求の範囲の記載が同号所定の要件(サポート要件)に
適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対
20 比し、①特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載され
た発明であり、また、②発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の
課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、あるいは、その記
載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解
決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきもので
25 あると解するのが相当である。
以下、上記①及び②の観点から本件発明1がサポート要件を充足するか否
かを検討する。
⑵ 前記 ①について
前記1⑵に下線を付したように、本件発明1の各構成要件の数値範囲は、
いずれも発明の詳細な説明に記載されたものである。ただし、構成要件A⑦
5 の上限値である「0.828」は、本件明細書【0026】の【表2】に記
載された最も好ましい上限である「0.85」を下回るものであるから、や
はり好ましい上限値といえ(【0020】参照)、構成要件A⑫の上限値であ
る「0.50」は、本件明細書【0063】の【表22】に記載された最も
好ましい上限である「0.6」を下回るものであるから、やはり好ましい上
10 限値といえる(【0020】参照)。
なお、本件発明は本件明細書に記載の数値範囲から望ましい数値範囲を請
求項に記載したにすぎないと認められるから、数値範囲の上限及び下限が本
件明細書に記載の上限及び下限と一致しなければサポート要件に適合しない
とはいい得ず、上限値及び下限値として、本件明細書に記載の数値範囲に含
15 まれる数値が記載されていれば足りると解される。
⑶ 前記 ②について
ア 本件発明の課題について
前記1⑴の本件明細書の記載によれば、本件発明の課題は、次のとおり
のものと理解できる。
20 色収差の補正、光学系の高機能化、コンパクト化のために有用な光学素
子用の材料となる、屈折率ndが1.800ないし1.850の範囲であり、
かつアッベ数 νdが41.5ないし44の範囲にあり(【0004】【00
、
05】 、安定供給可能とするため、希少価値の高いGd、Taのガラス組
)
成に占める割合が低減されており 【0006】 、
( ) 近赤外域に吸収を有し、
25 ガラスの比重を増大させる成分であるYbのガラス組成において占める
割合が低減されており 【0007】 、
( ) 熱的安定性に優れていてガラスを製
造する過程での失透が抑制され 【0008】 、
( ) 機械加工に適するガラスを
提供すること(【0012】 。
)
イ 本件発明1の課題解決手段について
本件明細書には、Gd、Taがガラス組成に占める割合を低減させるた
5 め、Ta2 O5 の含有量を5%以下とすること 【0034】 、La2 O3 、
( )
Y2 O3 、Gd2 O3 及びYb2 O3 の合計含有量に対するGd 2 O3 含有量
の質量比を0ないし0.05の範囲とすること(【0042】)を定め、Yb
のガラス組成において占める割合を低減させるため、上記の、Yb2 O3 含
有量を3%以下とすること 【0038】 、
( ) 熱的安定性に優れたガラスを提
10 供するため、液相温度が1150℃以下であることがより一層好ましいと
すること(【0206】 、機械加工に適するガラスを提供するため、ガラス
)
転移温度が640℃以上であることが好ましいこと(【0198】)が記載
されており、これら本件明細書に記載からみて、本件組成要件及び本件物
性要件を満たすガラスは本件発明の課題を解決し得るものと認められる。
15 ところで、本件明細書には、本件組成要件及び本件物性要件の全部を満
たす実施例がそもそも記載されていない。さらに、本件発明の光学ガラス
は多数の成分で構成されており、その相互作用の結果として特定の物性が
実現されるものであるから、個々の成分の含有量と物性との間に直接の因
果関係を措定するのが困難であることは顕著な事実である。そうすると、
20 前記⑵の好ましい数値範囲等の開示事項から直ちに、本件組成要件と本件
物性要件とを満たすガラスが製造可能であると当業者が認識できるもの
ではなく、具体例により示される試験結果による裏付けを要するものとい
うべきである。
そこで、そのような裏付けがされているといえるのかとの観点から、具
25 体例として掲記されている参考例1ないし33について検討を加える。
ウ 参考例について
本件明細書に記載された参考例1ないし33のうち、参考例1、5、1
6、21ないし24、27、28、30ないし32の12例は、本件組成
要件の全てと、本件物性要件のうち、構成要件C(ガラス転移温度)以外
の3つの構成要件を満たす具体例である。
5 ここで、本件出願当時、光学ガラス分野においては、ターゲットとなる
物性を有する光学ガラスを製造する通常の手順として、既知の光学ガラス
の配合組成を基本にして、その成分の一部を当該物性に寄与することが知
られている成分に置き換える作業を行い、ターゲットではない他の物性に
支障が出ないよう複数の成分の混合比を変更するなどして試行錯誤を繰
10 り返すことで、求める配合組成を見出すという手順を行うことは技術常識
であったと認められ(乙3ないし6)、また、この手順を行うに当たって、
当業者が、なるべく変更の少ないものから選択を開始することは、技術分
野を問わず該当する効率性の観点からみて自明な事項である。そして、前
記1⑵のとおり、本件明細書には、本件発明1の各組成要件に係る成分の
15 物性要件に対する作用について記載されており、当業者であれば、本件明
細書には本件発明1の物性要件を満たすような成分調整の方法が説明さ
れていると理解できる。そうすると、当業者において、本件明細書で説明
された成分調整の方法に基づいて、参考例を起点として光学ガラス分野の
当業者が通常行う試行錯誤を加えることにより本件発明1の各構成要件
20 を満たす具体的組成に到達可能であると理解できるときには、本件発明1
は、発明の詳細な説明の記載若しくは示唆又は出願時の技術常識に照らし
課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。
そこで、次に、参考例の成分調整について具体的にみてみる。
エ 参考例の成分調整について
25 前記ウのとおり、参考例1、5、16、21ないし24、27、28、
30ないし32は、構成要件C(ガラス転移温度)以外の全ての構成要件
を充足する参考例であるから、当業者がこれら参考例を成分調整の対象と
するものとして選択し、転移温度に着目してこれに関する成分の調整を図
ろうとすることは自然なところである。
本件明細書には、ガラス転移温度(機械加工性)に関しては、(ⅰ)SiO
5 2 を配合することで、機械加工性が改善すること(【0025】 、(ⅱ)La
)
2 O3 、Y2 O3 、Gd 2 O3 及びYb2 O3 を配合することでガラス転移温
度が高まること(【0030】 、(ⅲ)ZrO 2を配合することで、ガラス転
)
移温度が上昇すること(【0032】 、(ⅳ)Li2 O、Na2 O、K2 O、R
)
b2 O、Cs2 Oの含有量が多くなると、ガラス転移温度が低下傾向となる
10 こと(【0068】【0070】 、(ⅴ)ZnOの含有量を減らすことでガラ
、 )
ス転移温度が上昇すること(【0052】)が記載されている。
上記(ⅰ)ないし(ⅴ)が関連するのは、SiO 2 につき構成要件A①、A⑦
及びA⑧、La2O3 、Y2 O3 、Gd2 O3 及びYb2 O3 につき構成要件
A②、A⑧ないしA⑩、ZrO2 につき構成要件A③、Li2 O、Na2 O、
15 K 2 Oにつき構成要件A⑤、ZnOにつき構成要件A⑫であるが、このう
ち構成要件A⑧については、いずれもガラス転移温度を上げる傾向にある
SiO2 とLa2 O3 、Y2O3 、Gd2 O 3及びYb2 O3 との比率である
ため、これらの組成比をどのように調整すればガラス転移温度の上昇につ
ながるかは自明ではなく、その点に関する記載も本件明細書にはないから、
20 当業者は、構成要件A⑧と同構成要件が対象とするLa2 O 3 、Y 2 O 3 、
Gd 2O 3 及びYb 2 O 3が関係する構成要件A②、A⑨及びA⑩をガラス
転移温度に着目して行う成分調整の対象として選択しないものと理解さ
れる。また、構成要件A⑤のLi2 O、Na 2O及びK2 Oは含有量が0で
あってもいいものであるから、更にこれらを減らすことでガラス転移温度
25 を上昇することを試みようとはしないといえる。一方、構成要件A①及び
A⑦はB2 O3 とSiO2 の含有量及びその質量比であり、構成要件A⑫は
ZnOの質量比のみであるから、当業者であれば、これらの構成要件につ
いて組成比を調整してガラス転移温度の調整を試みることが自然かつ合
理的であり、その試みをしようとすることに困難もないといえる。
そうすると、本件明細書には、各成分と作用についての説明を基に、A
5 ①及びA⑦のSiO 2 を増量し、又はA⑫のZnOを減量する成分調整す
ることにより、上記各参考例のガラス転移温度を本件物性要件を充足する
範囲内に調整できることが説明されているといえ、光学ガラス分野の当業
者であれば、上記いずれかの方法に沿って技術常識である通常の試行錯誤
手順を行うことで本件組成要件及び本件物性要件を満たすガラスが得ら
10 れ、それにより本件発明の課題を解決できると認識できるものといえる。
なお、実際に、甲11実験成績証明書には、(ⅰ)参考例5のガラスについ
て、ZnO(3.5質量%)の1質量%分を、Nb 2 O5 に置換する改変例
(5改α)又はB2 O 3 とSiO2 に0.5質量%ずつ置換する改変例(5
改β)、(ⅱ)参考例16のZnO(3.8質量%)の1質量%分を、Nb2
15 O5 に置換する改変例(16改α)又はB 2 O3 とSiO2 に0.5質量%
ずつ置換する改変例(16改β) (ⅲ)、
、 参考例24のZnO(3.6質量%)
の1質量%分を、Nb 2O5 に置換する改変例(24改α)又はB 2 O3と
SiO2 に0.5質量%ずつ置換する改変例(24改β)が、乙1実験成績
証明書には、(ⅳ)参考例22のZnO(3.5質量%)の1質量%分を、N
20 b2 O5 に置換する改変例(22改α)又はB2 O3 とSiO2 に0.5質
量%ずつ置換する改変例(22改β)、(ⅴ)参考例30のZnO(3.5質
量%)の1質量%分を、Nb 2 O5 に置換する改変例(30改α)又はB 2
O3 とSiO2 に0.5質量%ずつ置換する改変例(30改β)、(ⅵ)参考例
31のZnO(3.5質量%)の1質量%分を、Nb 2 O5 に置換する改変
25 例(31改α)又はB 2O3 とSiO2 に0.5質量%ずつ置換する改変例
(30改β)、(ⅶ)参考例32のZnO(3.5質量%)の1質量%分を、
Nb2O5 に置換する改変例(32改α)又はB 2 O3 とSiO 2に0.5
質量%ずつ置換する改変例(32改β)のように、いずれもZnOを減量
してSiO 2 を増量する改変において、本件組成要件と本件物性要件を全
て満たすガラスが得られたことが示されている。
5 ⑷ 原告の主張について
ア 原告は、前記第3の1⑶ア及びイのとおり、本件組成要件と本件物性要
件を同時に充たす実施例が明細書中に1つも記載されていないため、当業
者は試行錯誤の出発点も成分調整をすべき対象も絞り込むことができず、
本件組成要件及び本件物性要件を満たすガラスに至ることは本件発明の
10 構成要件を充足する新たな発明をするということに等しく、過度の試行錯
誤を要するものである旨主張する。
しかしながら、前記⑶ウ及びエのとおり、当業者は、自然な選択として
転移温度の点に着目し、本件明細書における各成分の作用の説明に従い、
より改変の少ない参考例を出発点として、より簡易な改変を加えることに
15 よって本件組成要件及び本件物性要件を満たすガラスが得られると認識
できるものであって、この作業が過度の試行錯誤を要するものとはいえな
い。上記選択肢以外に他の選択肢があり得るとしても、そのことが、上記
の認識を妨げることはない。
したがって、原告の上記主張を採用することはできない。
20 イ 原告は、前記第3の1⑶ウのとおり、本件明細書のガラス転移温度に関
する記載では、参考例からどのように組成を調整することでガラス転移温
度を望む数値範囲に調整できるかが不明である旨、るる主張する。
しかしながら、上記主張中、構成要件①、⑦及び⑫以外に係る主張は前
記⑶エの認定判断を左右するものではない。原告は、構成要件A⑫の質量
25 比(ZnO/(Nb2 O5 +TiO2 +Ta 2O5 +WO3 ))をただ低くす
ればガラス転移温度が上がるというものではない旨主張するが、その指摘
のように、構成要件A⑫につき、ガラス転移温度の物性要件を満たす特定
のガラスについて、当該ガラスよりもZnOの質量比が少ないにもかかわ
らず、転移温度に係る物性要件を満たさないガラスはあるが、本件明細書
の参考例をみれば、別紙2のとおり、ガラス転移温度の物性要件を満たす
5 ガラス(参考例7、8、12、15、17)については、いずれも、原告
の指摘する当該特定のガラスよりもZnO の質量比が少ない傾向をうかが
うことができるのであるから(本件明細書【0225】 【表100-1】
、
によれば、これら参考例はZnOの含有量も少ない傾向にある。 、原告の
)
指摘に係る参考例があることが、ZnO を減らすことでガラス転移温度の
10 上昇につながるとの当業者の理解を困難とするものではない。
したがって、原告の上記主張を採用することはできない。
ウ 原告は、前記第3の1⑶エ及びオのとおり、本件組成要件を満たしなが
ら本件物性要件を満たさないものがあって、本件組成要件を満たすことと
本件物性要件を満たすこととの間に相関関係を見いだすことは不可能で
15 あるとか、参考例として示されたガラスにおける組成は、特許請求の範囲
に規定された成分含有量(質量比)の各数値範囲を網羅しておらず、一定
の範囲に偏っているから、本件発明の組成要件の全数値範囲にわたって、
本件組成要件を満たすガラスが本件物性要件を満たすと認識することは
できないなどと主張する。
20 しかしながら、本件発明の課題は、前記⑶アのとおり、高屈折率低分散
ガラスの有用性を更に高めるために、Gd、Ta及びYbのガラス組成に
おいて占める割合を低減すること、熱的安定性に優れたガラスを提供する
こと及び機械加工に適するガラスを提供することであって、そのために、
本件組成要件及び本件物性要件を満たす構成をとることとして、その課題
25 の解決を図ったものである。
したがって、本件組成要件と本件物性要件とが課題と解決手段の関係に
あるということはできないから、本件組成要件で特定されるガラスが高い
蓋然性をもってガラス転移温度を含む全ての物性要件を満たすという関
係を有することが認識されるまでの必要はない。また、本件発明は、本件
組成要件と本件物性要件の双方を満たすものを特許請求の範囲としてい
5 るものであって、本件組成要件の全数値範囲にわたって、本件組成要件を
満たすガラスは本件物性要件を満たすとしているものでもない。本件組成
要件を満たすが本件物性要件を満たさないガラスがあるとして、それは端
的に本件発明の特許請求の範囲に含まれないガラスにすぎない。なお、本
件明細書において好ましい範囲として記載された数値の範囲とその選択
10 の根拠に鑑みると、本件組成要件の数値範囲が過度に広いとは認め難い。
原告の上記主張は当を得たものとはいえず、採用することができない(な
お、原告は、知的財産高等裁判所がした別件判決(甲7)で示された「組
成要件で特定される光学ガラスが高い蓋然性をもって当該物性要件を満
たし得るものであることを、発明の詳細な説明の記載や示唆又はその出願
15 時の技術常識から当業者が認識できること」を本件におけるサポート要件
充足の判断基準とすべき旨を指摘するが、サポート要件の充足の有無は、
発明の課題との関係において認定されるべきものであるところ、同判決で
は発明の課題を「所定の光学定数を有し、高屈折率高分散であって、かつ、
部分分散比が小さい光学ガラスを提供すること」としているのであり、こ
20 のような、異なる発明における異なる課題において事例判断として示され
た別件の理由中の判断を、そのまま本件に適用することは相当ではない。 。
)
エ 原告は、前記第3の1⑷イ及びウのとおり、本件明細書には、ガラス転
移温度や液相温度の測定条件等が十分には開示されておらず、本件明細書
における試験の結果と甲11実験成績証明書又は乙1実験成績証明書に
25 おける試験の結果とを単純に比較することはできない旨主張する。
確かに、本件明細書には、ガラス転移温度の測定については、
「示差走査
熱量分析装置(DSC)を用いて、昇温速度を10℃/分にして測定した。」
(【0224】)と、液相温度については、
「ガラスを所定温度に加熱された
炉内に入れて2時間保持し、冷却後、ガラス内部を100倍の光学顕微鏡
で観察し、結晶の有無から液相温度を決定した。 (
」 【0224】)と記載さ
5 れており、その余の測定条件、判定条件等についての記載をうかがうこと
はできない。
しかしながら、本件明細書において、測定条件、判定条件等に特に記載
がなければ、それは技術常識に従い標準的な測定方法によってされたもの
と理解されるべきものであるといえる。他方、甲11実験成績証明書及び
10 乙1実験成績証明書におけるガラス転移温度の測定は、ネッチ・ジャパン
株式会社製の示差走査熱量計「DSC3300SA」を用い、昇温速度を
10℃/分にし、その他の測定条件については同熱量計の取扱説明書に記
載された条件において測定し、液相温度については、光学ガラスを5cc
ずつ白金製坩堝に入れ、1140℃に加熱された炉内に入れて2時間保持
15 し、冷却後、ガラス内部を100倍の光学顕微鏡で観察し、結晶の有無を
確認して測定したものと認められる(甲11、乙1、2)から、標準的な
機器を用いて標準的な手法を用いたものということができる。そうすると、
本件明細書における試験と甲11実験成績証明書及び乙1実験成績証明
書における試験とは当業者が自然において選択する同一の測定条件・判定
20 条件の下に行われたと推認することができるのであり、これと異なる認定
をすべき事情もうかがわれない。したがって、本件明細書に試験条件、判
定条件の詳細の記載がないからといって甲11実験成績証明書又は乙1
実験成績証明書と対比ができないものではないし、本件明細書の記載から
課題が解決できる範囲と認められる当業者の認識を左右するものでもな
25 い。よって、原告の上記主張を採用することはできない(なお、1140℃
で結晶が析出したにせよ、その後の冷却過程で結晶が析出したにせよ、い
ずれにせよ、少なくとも1140℃を超える温度では結晶が析出したとは
判定できない以上、液相温度を1140℃以下と判定することの支障にな
るとはいい難い。 。
)
そして、原告が前記第3の1⑷エ及びオにおいてする主張を採用するこ
5 とができないことは、前記ウにおいて判示したところから明らかである。
オ 原告は、前記第3の1⑸ウのとおり、ZnOからB 2 O3 +SiO2 への
置換につき、①置換元であるZnOは屈折率やアッベ数にも影響しうる成
分であること、②置換先のB2 O3 +SiO 2 は、液相温度及び屈折率に影
響しうる成分であり、 2 O3 とSiO2 とは物性要件との関係で異なる性
B
10 質を持つこと、③B2 O3 又はSiO2を増した場合にはガラス転移温度が
上下するかは分からない旨主張する。
しかしながら、(ⅰ)屈折率やアッベ数はガラス組成が決まれば計算によ
り算出することが可能な物性であって成分量からその結果がかなりの確
度で見込めるものであり、また、(ⅱ)B2 O3 とSiO2 とが物性要件との
15 関係で異なる性質を有し、そのB 2 O3 の含有量の比率が液相温度に影響
し得るとしても、 2 O3 とSiO2 の合計含有量は21ないし32質量%
B
と比較的大きく(構成要件A①) B2 O3 の含有量のB2 O3 とSiO2と
、
の合計含有量に対する比率も0.6~0.828と幅が広い(構成要件A⑦)
から、 2 O3とSiO2 における少量の成分変更が物性に大きく影響する
B
20 と当業者が理解するとはいえないし、(ⅲ)(B2 O3 +SiO2 )/(La
2 O3 +Y2 O3 +Gd2 O3 +Yb2 O3 )を下げると転移温度が上昇する
ことと、(ZnO/(B 2 O 3 +SiO2 )を下げると転移温度が上昇させ
ることから、 2 O3 又はSiO2 を増した場合にはガラス転移温度が上下
B
するかは分からないと当業者が結論付けるとも認め難いから、ZnOから
25 B2 O3 +SiO2への置換について、その物性に与える影響が当業者にと
って予測可能性の低いものとはいえない。
原告の上記主張は前記⑶ウ及びエにおける認定判断を左右するものでは
ない。
カ 原告がその外にるる主張するところも、前記説示したところから採用で
きないことが明らかであるか、または前記認定判断を左右するに足るもの
5 ではない。
⑸ 小括
以上のとおり、本件明細書で説明された成分調整の方法をもとに、光学ガ
ラス分野の当業者が通常行う試行錯誤により参考例を起点として本件発明1
の各構成要件を満たす具体的組成に到達可能であると理解できるといえるか
10 ら、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載若しくは示唆又は出願時の技術
常識に照らし課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。
4 本件発明2、3、6、7、9、10、12ないし14について
上記各発明は、本件発明 1 の従属項に係る発明であるところ、原告は、これ
ら発明について、引用に係る本件発明1についてサポート要件違反がある旨主
15 張し、これら各発明が本件発明 1 を限定した固有の部分に対する別個のサポー
ト要件違反の主張はしていないから、本件発明 1 にサポート要件違反がないの
であれば、これら発明についてもサポート要件違反は認められない。
5 結論
以上のとおり、本件発明がサポート要件に違反するものではないとした本件
20 審決の判断は結論において誤りがなく、取消事由は理由がないから、原告の請
求を棄却することとして、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
25 裁判官
本 吉 弘 行
裁判官
中 村 恭
裁判長裁判官菅野雅之は、転補のため、署名押印することができない。
裁判官
10 本 吉 弘 行
(別紙1)
本件明細書の記載事項(抜粋)
【発明の概要】
5 【0004】
屈折率ndが1.800~1.850の範囲であり、かつアッベ数νdが41.5
~44の範囲であるガラスは、色収差の補正、光学系の高機能化、コンパクト化の
ために有用な光学素子用の材料である。なお以下において、屈折率は、特記しない
限り、d線(ヘリウムの波長587.56nm)における屈折率ndをいうものとす
10 る。また、アッベ数は、特記しない限り、νdをいうものとする。周知のように、
νdは、F線(水素の波長486.13nm)、C線(水素656.27nm)におけ
る屈折率をそれぞれnF、nCとしたとき、νd=(nd-1)/(nF-nC)
と定義される。
【0005】
15 上記範囲の屈折率およびアッベ数を有する高屈折率低分散ガラスについては、そ
の有用性を更に高めるためには、以下の点を満たすことが望まれる。
【0006】
安定供給可能であること。そのためには、希少価値が高い元素であって、近年、
市場における需要に対して供給が不足している元素であるGdやTaがガラス組成
20 に占める割合を低減することが望ましい。これに対し、特許文献7に記載されてい
るガラスは、Taを多量に含んでいる。また、特許文献8~14に記載のガラスお
よび特許文献17に記載の上記範囲の屈折率およびアッベ数を有するガラスは、G
dを多く含んでいる。
【0007】
25 ガラス組成においてYbが占める割合が低いこと。これは、以下の理由による。
Ybは近赤外域に吸収を有する。そのため、Ybを多く含むガラス(例えば特許
文献16に記載のガラス)は、可視域から近赤外域にわたって高い透過率が必要と
される用途、例えば、監視カメラ、暗視カメラ、車載カメラのレンズ等の光学素子
用の材料には適していない。また、Ybは重希土類元素に属し、ガラスの成分とし
ては原子量が大きく、ガラスの比重を増大させる。ガラスの比重が増大すると、レ
5 ンズが重くなる。その結果、そのようなレンズをオートフォーカス式のカメラレン
ズに組み込むと、消費電力が大きくなり、電池の消耗が激しくなってしまう。以上
の点から、ガラス組成においてYbが占める割合を低減することが望ましい。
【0008】
熱的安定性に優れること。熱的安定性の低いガラスは、ガラスを製造する過程で
10 ガラスが失透傾向を示してしまうためである。しかるに、本発明者の検討によれば、
例えば特許文献6に記載のガラスは、熱的安定性に劣るものであった。
【0009】
以上の点に鑑み、本発明の一態様は、屈折率ndが1.800~1.850の範囲
であり、かつアッベ数νdが41.5~44の範囲であって、ガラス組成においてG
15 d、TaおよびYbの占める割合が低減されているとともに、熱的安定性に優れる
ガラスを提供する。
【0010】
また一態様では、上記ガラスは、以下の点の1つ以上を更に満たすことも望まし
い。
20 【0012】
機械加工に適すること。詳しくは、次の通りである。ガラスから光学素子を得る
方法としては、精密プレス成形法(例えば特許文献1~4参照)のほかに、ガラス
から光学素子ブランクを成形し、この光学素子ブランクに研削加工や研磨加工など
の機械加工を行い光学素子に仕上げる方法もある。このような機械加工においてガ
25 ラスが破損しやすいと、製造歩留りを低下させてしまう。一般に、精密プレス成形
用のガラスはガラス転移温度が低いが、ガラス転移温度の低いガラスは機械加工に
おいて破損しやすい傾向がある。したがって、機械加工に適したガラスとするため
には、ガラス転移温度を精密プレス成形用のガラスより高くすることが望ましい。
【0013】
本発明の一態様は、質量%表示にて、
5 B2 O3 とSiO2 との合計含有量が15~35質量%、
La 2 O 3 、Y 2 O 3 、Gd 2 O 3 およびYb 2 O 3 の合計含有量が45~65質
量%、但し、Yb2 O3 含有量が3質量%以下であり、
ZrO2 含有量が3~11質量%、
Ta2 O5 含有量が5質量%以下、
10 B2 O3 とSiO 2 との合計含有量に対するB 2 O 3 含有量の質量比(B 2 O 3 /
(B2 O3 +SiO2 ))が0.4~0.900、
La2 O3 、Y2 O 3、Gd2O 3 およびYb2 O3の合計含有量に対するB2 O3
およびSiO2の合計含有量の質量比((B 2O3 +SiO2 )/(La2 O3 +Y2
O3 +Gd2 O3 +Yb2 O3))が0.42~0.53、
15 La2 O3 、Y2 O 3、Gd2O 3 およびYb2 O3の合計含有量に対するY2 O3
含有量の質量比(Y2 O3 /(La2 O3 +Y2 O3 +Gd2 O3 +Yb2 O3) が0.
)
05~0.45、
La2 O3 、Y2 O 3 、Gd2 O3 およびYb2 O3 の合計含有量に対するGd 2O
3 含有量の質量比(Gd 2 O 3 /(La 2 O 3 +Y 2 O 3 +Gd 2 O 3 +Yb 2 O 3 ))
20 が0~0.05、
Nb2 O5 、TiO2 、Ta2 O5およびWO3 の合計含有量に対するNb 2 O5 含有
量の質量比(Nb2 O5 /(Nb2 O5 +TiO2+Ta2 O5+WO3))が0.5~
1、
であり、屈折率ndが1.800~1.850の範囲であり、かつアッベ数νdが
25 41.5~44である酸化物ガラスであるガラス(以下、「ガラス1」という。 、
)
に関する。
【0015】
ガラス1は、上記範囲の屈折率ndおよびアッベ数νdを有するガラスであって、
Gd2 O3 を含む各種成分(すなわちLa 2 O3 、 2 O3 、
Y Gd2 O3 、Yb2 O3 )
の合計含有量が上記範囲の中で、Gd 2 O 3 含有量を分子に、上記各種成分の合計含
5 有量を分母とする上記質量比を満たす。したがって、ガラス組成においてGdが占
める割合が低減されている。更に、Ta 2 O5 含有量およびYb 2 O3含有量がそれ
ぞれ上記の通りであって、ガラス組成においてTaおよびYbが占める割合も低減
されている。上記ガラスは、このようにGd、TaおよびYbが占める割合を低減
した組成の中で、上述の含有量、合計含有量および質量比を満たす組成調整が行わ
10 れていることにより、高い熱的安定性(失透しにくい性質)を実現することができ
る。更には、短波長側の光吸収端の長波長化の抑制、高ガラス転移温度(Tg)化
(ガラス転移温度の高温化)も可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
15 本発明におけるガラス組成は、例えばICP-AES(Inductively Coupled P
lasma -Atomic Emission Spectrometry)などの方法により定量することがで
きる。ICP-AESにより求められる分析値は、例えば、分析値の±5%程度の
測定誤差を含んでいることがある。また、本明細書および本発明において、構成成
分の含有量が0%または含まないもしくは導入しないとは、この構成成分を実質的
20 に含まないことを意味し、この構成成分の含有量が不純物レベル程度以下であるこ
とを指す。
【0020】
以下では、数値範囲に関して、
(より)好ましい下限および(より)好ましい上限
を、表に示して記載することがある。表中、下方に記載されている数値ほど好まし
25 く、最も下方に記載されている数値が最も好ましい。また、特記しない限り、
(より)
好ましい下限とは、記載されている値以上であることが(より)好ましいことをい
い、
(より)好ましい上限とは、記載されている値以下であることが(より)好まし
いことをいう。表中の(より)好ましい下限の列に記載されている数値と(より)
好ましい上限の列に記載されている数値とを、任意に組み合わせて数値範囲を規定
することができる。
5 【0021】
[ガラス]
本発明の一態様にかかるガラス1およびガラス2は、上記ガラス組成を有し、屈
折率ndが1.800~1.850の範囲であり、かつアッベ数νdが41.5~4
4である酸化物ガラスである。以下、ガラス1およびガラス2の詳細について説明
10 する。
【0022】
<ガラス1のガラス組成>
本発明では、ガラス1のガラス組成を、酸化物基準で表示する。ここで「酸化物
基準のガラス組成」とは、ガラス原料が熔融時にすべて分解されてガラス中で酸化
15 物として存在するものとして換算することにより得られるガラス組成をいうものと
する。また、特記しない限り、ガラス1のガラス組成は、質量基準(質量%、質量
比)で表示するものとする。
【0023】
B2 O3 、SiO2 は、ガラスのネットワーク形成成分である。B 2 O3 とSiO
20 2 との合計含有量(B 2 O3 +SiO2 )が15%以上であると、ガラスの熱的安定
性が向上し、製造中のガラスの結晶化を抑制することができる。一方、B 2 O3 とS
iO2 との合計含有量が35%以下であると、屈折率ndの低下を抑制することが
できるため、上記した光学特性を有するガラス、すなわち、屈折率ndが1.800
~1.850の範囲にあるとともに、アッベ数νdが41.5~44の範囲にあるガ
25 ラスの作製が可能となる。したがって、ガラス1におけるB 2 O 3 とSiO2 との合
計含有量は、15~35%の範囲とする。B 2O3 とSiO2 との合計含有量の好ま
しい下限および好ましい上限は、下記表に示す通りである。
【0024】
【表1】
5 【0025】
ガラスのネットワーク形成成分であるB 2 O 3 とSiO 2 の各成分の含有量の比
率は、ガラスの熱的安定性、熔融性、成形性、化学的耐久性、耐候性、機械加工性
等に影響を与える。B 2O3は、SiO2よりも熔融性を改善する働きが優れている
が、熔融時に揮発しやすい。これに対し、SiO 2は、ガラスの化学的耐久性、耐候
10 性、機械加工性を改善したり、熔融時のガラスの粘性を高める働きを有する。
一般に、B 2 O3 とLa 2 O3 等の希土類元素を含む高屈折率低分散ガラスでは、
熔融時のガラスの粘性が低い。しかし、熔融時のガラスの粘性が低いと熱的安定性
が低下する(結晶化しやすくなる) ガラス製造時の結晶化は、
。 アモルファス状態(非
晶質状態)よりも結晶化したほうが安定であり、ガラスを構成するイオンがガラス
15 中を移動して結晶構造をもつように配列することにより生じる。したがって、熔融
時の粘性が高くなるようにB 2 O 3 とSiO 2 の各成分の含有量の比率を調整する
ことにより、上記イオンを結晶構造をもつように配列しにくくして、ガラスの結晶
化を更に抑制しガラスの熱的安定性を改善することができる。
鋳型に熔融ガラスを流し込んで成形する時、熔融ガラスの粘度が低いと、鋳型内
20 に流し込んだガラスの固化した表面部が依然として熔融状態にあるガラスの内部に
巻き込まれて脈理となり、ガラスの光学的な均質性が低下してしまう。成形性の優
れたガラスとは、希土類元素を含む高屈折率低分散ガラスの中でも、熔融状態のガ
ラスを鋳型に流し込む時の粘度が比較的高いガラスに相当する。
B2 O3 とSiO 2 との合計含有量に対するB 2 O 3 含有量の質量比(B 2 O 3 /
5 (B2 O3 +SiO2 ))が0.900以下であれば、熔融時の粘性低下を抑制するこ
とができ、これによりガラスの熱的安定性を改善したり、熔融時の揮発を抑制する
ことができる。熔融時の揮発は、ガラス組成の変動、特性の変動を大きくする原因
となる。そしてその結果、光学的に均質なガラスを成形することを難しくする。し
たがって、質量比(B 2 O3/(B2 O3 +SiO2 ))を0.900以下として熔融
10 時の揮発を抑制できることは、組成や特性のばらつきの少ないガラスを量産する観
点から好ましい。更に、質量比(B 2 O3 /(B2 O3 +SiO2 ))が0.900以
下であれば、ガラスの化学的耐久性、耐候性、機械加工性の低下を抑制することも
できる。これに対し、前述の特許文献15(特開昭57-056344号公報)に
記載されているガラス組成では、B 2 O3 含有量は28~30質量%、SiO 2 の含
15 有量は1~3質量%である(特許文献15の特許請求の範囲参照) これら成分の含
。
有量から算出される質量比(B 2 O3 /(B2 O3+SiO2))は、0.903~0.
968と大きい値になる。
一方、質量比(B2 O3 /(B2 O3 +SiO2 ))が0.4以上であれば、熔融時
のガラス原料の熔け残りを防ぐことができるため、熔融性を向上することができる。
20 以上の点から、ガラス1において、質量比(B 2O3 /(B2O 3 +SiO2))を
0.4~0.900の範囲とする。ガラス1における質量比(B 2 O3 /(B2 O3 +
SiO2 ))の好ましい下限および好ましい上限は、下記表に示す通りである。
【0026】
【表2】
【0027】
B2 O 3 の含有量、SiO2 の含有量のそれぞれについて、ガラスの熱的安定性、
熔融性、成形性、化学的耐久性、耐候性、機械加工等を改善する上から好ましい下
5 限および好ましい上限を、下記表に示す。
【0028】
【表3】
【0029】
10 【表4】
【0030】
La2 O3 、Y2 O 3 、Gd2 O3 およびYb2 O3 は、アッベ数の低下を抑えつつ
屈折率を高める働きを有する成分である。また、これらの成分は、ガラスの化学的
耐久性、耐候性を改善し、ガラス転移温度を高める働きも有する。
5 La2 O3 、Y2 O 3、Gd2O 3 およびYb2 O3の合計含有量(La2 O3 +Y
2 O 3 +Gd 2 O 3 +Yb 2 O 3 )が45%以上であると、屈折率の低下を抑制する
ことができるため、上記した光学特性を有するガラスの作製が可能となる。更に、
ガラスの化学的耐久性や耐候性の低下を抑制することもできる。なお、ガラス転移
温度が低下すると、ガラスを機械的に加工(切断、切削、研削、研磨など)すると
10 きにガラスが破損しやすくなる(機械加工性の低下)が、La 2O3 、Y2 O3 、G
d2 O3およびYb2 O3 の合計含有量が45%以上であると、ガラス転移温度の低
下を抑制することができるため、機械加工性を高めることもできる。一方、La 2
O3 、Y2 O3 、Gd2 O3 およびYb2O3 の合計含有量が65%以下であれば、ガ
ラスの熱的安定性を高めることができるため、ガラスを製造するときの結晶化の抑
15 制や、ガラスを熔融するときの原料の熔け残りを低減することもできる。したがっ
て、ガラス1において、La 2 O3 、Y2 O 3、Gd2 O3 およびYb2 O3 の合計含
有量は、45~65%の範囲とする。La 2 O3 、Y2 O3 、Gd2 O3 およびYb2
O3 の合計含有量の好ましい下限および好ましい上限を、下記表に示す。
【0031】
20 【表5】
【0032】
ZrO 2 は、屈折率を高める働きのある成分であり、適量を含有させることによ
り、ガラスの熱的安定性を改善する働きも有する。また、ZrO 2 は、ガラス転移
5 温度を高め、機械的な加工時にガラスが破損しにくくする働きも有する。これらの
効果を良好に得るために、ガラス1では、ZrO 2の含有量を3%以上とする。一
方、ZrO 2 の含有量が11%以下であれば、ガラスの熱的安定性を改善すること
ができるため、ガラス製造時の結晶化やガラス熔融時の熔け残りの発生を抑制する
ことができる。したがって、ガラス1におけるZrO 2 の含有量は、3~11%の
10 範囲とする。ZrO2 含有量の好ましい下限および好ましい上限を、下記表に示す。
【0033】
【表6】
【0034】
15 Ta2 O5 は、先に記載したように、ガラスの安定供給の観点からは、ガラス組成
に占める割合を低減することが望ましい成分である。また、Ta 2 O5は、屈折率を
高める働きを有する成分であるが、ガラスの比重を増大させ、熔融性を低下させる
成分でもある。したがって、ガラス1におけるTa 2 O5 含有量は、5%以下とする。
Ta2 O5 の含有量の好ましい下限および好ましい上限を、下記表に示す。
【0035】
5 【表7】
【0036】
ガラスの熱的安定性を改善し、比重の増大を抑えつつ、上記の光学特性を実現す
るために、ガラス1において、La 2 O3 、Y2 O3 、Gd2 O3 およびYb2 O3の
10 合計含有量に対するB 2 O 3 およびSiO 2 の合計含有量の質量比((B 2 O 3 +S
iO2 ) (La2 O3 +Y2 O3 +Gd2O 3+Yb2 O3)
/ )を0.42~0.53の
範囲とする。質量比((B 2 O3 +SiO2 )/(La2 O3 +Y2 O3 +Gd2 O3 +
Yb2 O3 ) が0.42以上であれば、
) ガラスの熱的安定性を改善することができる
ため、ガラスの失透を抑制することができる。また、ガラスの比重の増大を抑制す
15 ることもできる。ガラスの比重が増大すると、このガラスを用いて作製される光学
素子が重くなる。その結果、この光学素子を組み込んだ光学系が重くなる。例えば、
オートフォーカス式のカメラに重い光学素子を組み込むとオートフォーカスを駆動
する際の消費電力が増加し、早く電池が消耗してしまう。ガラスの比重の増大を抑
制できることは、このガラスを用いて作製される光学素子およびこの光学素子を組
み込んだ光学系の軽量化の低減の観点から好ましい。一方、質量比((B 2 O3 +S
iO2 )/(La2 O3 +Y2 O3 +Gd2 O3 +Yb2 O3))が0.53以下であれ
ば、上記の光学特性を実現することができる。また、質量比 (B 2O3 +SiO2 )
(
/(La2 O3 +Y 2 O3 +Gd2 O3 +Yb2 O 3))が0.53以下であることは、
5 ガラスの化学的耐久性の改善、高ガラス転移温度(Tg)化の観点からも好ましい。
質量比 (B2 O3 +SiO2) (La2 O3 +Y2O3 +Gd2O 3 +Yb2 O3 )
( / )
の好ましい下限および好ましい上限を、下記表に示す。
【0037】
【表8】
【0038】
La2 O3 、Y2 O 3、Gd2O 3 およびYb2 O3の中で、Yb2 O3 は、先に記
載した理由から、ガラス組成において占める割合を低減することが望ましい成分で
ある。そこでガラス1では、Yb 2 O3 含有量を3%以下とする。Yb 2 O3 含有量
15 の好ましい下限および好ましい上限を、下記表に示す。
【0039】
【表9】
【0040】
Y2 O3 は、近赤外域の光線透過率を大幅に低下させることなく、ガラスの熱的安
定性を改善する働きをする成分である。また、原子量が小さいことから、ガラスの
5 比重の増大を抑える上で好ましい成分である。ただし、 2 O 3の含有量が多くなり
Y
過ぎるとガラスの熱的安定性は著しく低下し、結晶化しやくなる。また、熔融性が
低下する。熱的安定性を改善しつつ、近赤外域の光線透過率を大幅に低下させるこ
となく、比重の増大を抑え、上記の光学特性を有するガラスを作る上から、ガラス
1では、La2 O3 、Y2 O3 、Gd2 O3 およびYb2 O3 の合計含有量に対するY
10 2 O3 含有量の質量比(Y2 O3 /(La2 O 3+Y2O3 +Gd2 O3 +Yb2 O3))
を0.05~0.45の範囲とする。質量比(Y 2O 3 /(La 2 O 3 +Y2 O 3 +G
d2 O3+Yb2 O3))の好ましい下限および好ましい上限を、下記表に示す。
【0041】
【表10】
【0042】
Gd2 O3 は、先に記載した理由から、ガラス組成において占める割合を低減する
ことが望ましい成分である。また、GdはYbと同様に重希土類元素に属し、ガラ
スの成分としては原子量が大きく、ガラスの比重を増大させる。この点からも、ガ
5 ラス組成においてGdが占める割合を低減することが望ましい。
ガラス1において、Gd 2 O3 の含有量は、La2O3 、Y2 O3 、Gd2O3 およ
びYb2 O3 の合計含有量と、この合計含有量に対するGd 2O3 含有量により定ま
る。ガラス1では、上記した光学特性を有する高屈折率低分散ガラスを安定供給す
る上から、更には高屈折率低分散ガラスとしては比重が小さいガラスを作る上から、
10 La2 O3 、Y2 O3 、Gd2 O3 およびYb2 O3 の合計含有量に対するGd 2 O3
含有量の質量比(Gd 2O3/(La2O3 +Y2 O3 +Gd2 O3 +Yb2 O3 ))を
0~0.05の範囲とする。質量比(Gd 2 O3 /(La2 O3 +Y2 O3 +Gd2 O
3 +Yb2 O3 ))の好ましい下限および好ましい上限を、下記表に示す。
【0043】
15 【表11】
【0044】
La2 O3 は、近赤外域の光線透過率を大幅に低下させることがなく、熱的安定性
を改善しつつ、比重の増大を抑制し、高屈折率低分散ガラスを提供するうえで有用
20 な成分である。そこでガラス1では、La 2 O3 、Y2 O3 、Gd2 O3 およびYb2
O3 の合計含有量に対するLa 2 O3 含有量の質量比(La2 O3 /(La2 O3 +Y
2 O3 +Gd2 O3 +Yb2 O3 ) を0.55~0.95の範囲とすることが好ましい。
)
質量比(La2O3 /(La2 O3 +Y2 O 3 +Gd2 O3 +Yb 2 O3))のより好ま
しい下限およびより好ましい上限を、下記表に示す。
【0045】
5 【表12】
【0050】
Nb 2 O 5、TiO 2、Ta 2 O 5 およびWO 3 は、屈折率を高める働きのある成
分であり、適量を含有させることにより、ガラスの熱的安定性を改善する働きも有
10 する。Nb2 O5 、TiO2 、Ta2 O5 およびWO3 の合計含有量(Nb2 O5 +T
iO2 +Ta2 O5 +WO3 )が3~15%の範囲であることが、上記の光学特性を
実現しつつ、ガラスの熱的安定性を更に改善する上で好ましい。Nb 2 O5 、TiO
2 、Ta2 O5 およびWO3 の合計含有量のより好ましい下限およびより好ましい上
限を、下記表に示す。
15 【0051】
【表16】
【0052】
ZnOは、ガラスを熔融するときに、ガラスの原料の熔けを促進する働き、すな
わち、熔融性を改善する働きを有する。また、屈折率やアッベ数を調整したり、ガ
5 ラス転移温度を低下させる働きも有する。ZnO含有量をB 2 O 3 とSiO2 との合
計含有量で割った値、すなわち、質量比(ZnO/(B 2 O3+SiO2 ))が0.0
4以上であることが、熔融性を改善する上で好ましい。一方、質量比(ZnO/(B
2 O3 +SiO2 ))が0.4以下であることが、アッベ数の低下(高分散化)を抑制
し上記の光学特性を実現する上で好ましい。また、質量比(ZnO/(B 2O3 +S
10 iO2 ))が0.4以下であることは、ガラスの熱的安定性の改善および高ガラス転
移温度(Tg)化の上でも好ましい。したがって、ZnOの含有量を、質量比でB
2 O3 とSiO2 との合計含有量の0.04~0.4倍とすること、すなわち、質量比
(ZnO/(B2 O3 +SiO2 ))を0.04~0.4とすることが好ましい。質量
比(ZnO/(B2 O3 +SiO2))のより好ましい下限およびより好ましい上限
15 を、下記表に示す。
【0053】
【表17】
【0054】
ガラスの熔融性、熱的安定性、成形性、機械加工性等を改善し、上記の光学特性
を実現する上から、ZnO含有量の好ましい下限および好ましい上限は、下記表に
5 示す通りである。
【0055】
【表18】
【0058】
10 Nb2 O5 、TiO 2 、Ta2 O5 およびWO3 は、適量を含有させることにより、
ガラスの熱的安定性を改善する働きをする。
これら成分のうち、TiO 2の含有量が多くなると、ガラスの可視域の透過率が
低下して、ガラスの着色が増大する傾向がある。
Ta2 O5 の作用については、前述の通りである。
15 WO 3 については、その含有量が増加すると、ガラスの可視域の透過率が低下し
てガラスの着色が増大する傾向があり、また比重が増大する傾向がある。
これに対し、Nb2 O5 は、ガラスの比重、着色、製造コストを増大させにくく、
屈折率を高め、ガラスの熱的安定性を改善する働きがある。そこで、ガラス1では、
Nb2 O5 の優れた作用、効果を活かすために、Nb 2 O5 、TiO2 、Ta2 O5 お
5 よびWO3 の合計含有量に対するNb 2 O5 の含有量の質量比(Nb 2O5 /(Nb
2 O 5 +TiO 2 +Ta 2 O 5 +WO 3 ))を0.5~1の範囲とする。着色度λ5を
低下させ、紫外線照射による紫外線硬化型接着剤の硬化を促進させる上からは、質
量比(Nb2 O5 /(Nb2 O 5 +TiO2 +Ta2 O5 +WO3 ))を大きくするこ
とが好ましい。質量比(Nb 2 O5 /(Nb2 O5 +TiO2 +Ta 2 O5+WO3 ))
10 のより好ましい下限およびより好ましい上限を、下記表に示す。
【0059】
【表20】
【0062】
15 Nb 2 O 5、TiO 2、Ta 2 O 5 およびWO 3 の合計含有量に対するZnO含有
量の質量比(ZnO/(Nb 2 O5 +TiO 2 +Ta2 O5 +WO 3 ))は、熔融性の
向上の観点から、0.1以上とすることが好ましい。なお熔融性の低いガラスについ
て、ガラス原料の熔け残りがないようにするためにガラスの熔融温度を高めたり、
熔融時間を長くすると、ガラスの着色が増大する傾向がある。これは、例えば白金
等の貴金属製の熔融坩堝内でガラスを熔融する時に、熔融温度を高くしたり、熔融
時間を長くすると、坩堝を構成する貴金属が熔融ガラスに溶け込んで、貴金属イオ
ンによる光吸収が生じ、ガラスの着色、特にλ5の値が増大するためと推察される。
一方、他のガラス成分の含有量を調整することより熔融性を改善しようとすると、
5 熱的安定性が低下したり、上記の光学特性を有する均質なガラスを得ることが難し
くなる場合がある。したがって、ガラスの熔融性を向上するために、質量比(Zn
O/(Nb2 O5 +TiO2 +Ta 2 O5 +WO3 ))を0.1以上とすることは、ガ
ラスの着色抑制の上でも好ましい。また、ガラスの熱的安定性の更なる改善、ガラ
ス転移温度の低下抑制(これによる機械加工性の改善) 化学的耐久性の改善の観点
、
10 からは、質量比(ZnO/(Nb 2O5 +TiO2+Ta2 O5+WO3 ))を3以下
とすることが好ましい。質量比(ZnO/(Nb 2 O5 +TiO2 +Ta2 O5 +W
O3 ))のより好ましい下限およびより好ましい上限を、下記表に示す。
【0063】
【表22】
【0068】
Li 2 O含有量は、ガラスの熱的安定性の更なる改善、ガラス転移温度の低下抑
制(これによる機械加工性の改善)、化学的耐久性や耐候性の改善の観点からは、
1%以下とすることが好ましい。Li 2 O含有量の好ましい下限およびより好まし
20 い上限を、下記表に示す。
【0069】
【表26】
【0070】
5 Na2 O、K2 O、Rb2O、Cs2 Oは、いずれも、ガラスの熔融性を改善する
働きを有するが、これらの含有量が多くなると、ガラスの熱的安定性、化学的耐久
性、耐候性、機械加工性が低下傾向を示す。したがって、Na 2 O、K2 O、Rb2
O、Cs 2 Oの各含有量の下限および上限は、それぞれ下記表に示す通りとするこ
とが好ましい。
10 【0071】
【表27】
【0072】
【表28】
【0073】
5 【表29】
【0074】
【表30】
10 【0075】
Rb2 O、Cs2 Oは高価な成分であり、Li 2 O、Na2 O、 2 Oと比較して、
K
汎用的なガラスには適していない成分である。したがって、ガラスの熱的安定性、
化学的耐久性、耐候性、機械加工性を維持しつつ、ガラスの熔融性を改善する上か
ら、Li 2 O、Na 2 OおよびK 2 Oの合計含有量(Li 2 O+Na 2 O+K 2 O)
の下限および上限は、それぞれ下記表に示す通りとすることが好ましい。
5 【0076】
【表31】
【0102】
なお上記の各表において(より)好ましい下限または0%が記載されている成分
10 は、含有量が0%であることも好ましい。複数成分の合計含有量についても同様で
ある。
【0190】
<ガラス特性>
次に、ガラス1およびガラス2に共通するガラス特性について説明する。以下に
15 記載するガラスは、ガラス1およびガラス2を指すものとする。
【0191】
(ガラスの光学特性)
上記ガラスは、屈折率ndが1.800~1.850の範囲であり、かつアッベ数
νdが41.5~44である。
20 【0192】
屈折率が1.800以上であるガラスは、屈折力の大きなレンズなどの光学素子
の材料として好適である。他方、屈折率が1.850よりも高くなると、アッベ数が
減少したり、ガラスの熱的安定性が低下する傾向があり、また着色が増大する傾向
がある。屈折率の好ましい下限および好ましい上限を、下記表に示す。
5 【0193】
【表93】
【0194】
アッベ数が41.5以上のガラスは、光学素子の材料として色収差の補正に有効
10 である。他方、アッベ数が44より大きくなると、屈折率が減少したり、ガラスの
熱的安定性が低下する傾向がある。アッベ数の好ましい下限および好ましい上限を、
下記表に示す。
【0195】
【表94】
【0198】
(ガラス転移温度)
上記ガラスは、機械加工性改善の観点から、ガラス転移温度が640℃以上であ
5 ることが好ましい。ガラス転移温度を640℃以上にすることにより、切断、切削、
研削、研磨などガラスを機械的に加工する時に、ガラスを破損しにくくすることが
できる。
一方、ガラス転移温度を高くし過ぎると、ガラスを高温でアニールしなければな
らなくなり、アニール炉が著しく消耗する。また、ガラスを成形するときに、高い
10 温度で成形を行わなければならず、成形に使用する型の消耗が著しくなる。
機械加工性の改善、アニール炉や成形型への負担軽減から、ガラス転移温度のよ
り好ましい下限および好ましい上限は、下記表に示す通りである。
【0199】
【表96】
【0206】
(液相温度)
ガラスの熱的安定性の指標の一つに液相温度がある。ガラス製造時の結晶化、失
透を抑制する上から、液相温度LTが1300℃以下であることが好ましく、12
5 50℃以下であることがより好ましく、1200℃以下であることが一層好ましく、
1150℃以下であることがより一層好ましい。液相温度LTの下限は、一例とし
て1100℃以上であるが、低いことが好ましく特に限定されるものではない。
【0207】
以上説明した本発明の一態様にかかるガラス(ガラス1およびガラス2)は、高
10 屈折率低分散ガラスであって、光学素子用のガラス材料として有用である。更に、
先に記載した組成調整により、ガラスの均質化および着色低減も可能である。加え
て、上記ガラスは、成形しやすく、機械的にも加工しやすい。したがって上記ガラ
スは、光学ガラスとして好適である。
【実施例】
15 【0222】
以下、本発明を実施例に基づき更に説明する。但し本発明は、実施例に示す態様
に限定されるものではない。
【0223】
(実施例1)
20 下記の表に示す組成を有するガラスが得られるように、原料として酸化物、ホウ
酸などの化合物を秤量し、充分、混合してバッチ原料を作製した。
このバッチ原料を白金坩堝中に入れ、1350~1450℃の温度に坩堝ごと加
熱し、2~3時間かけてガラスを熔融、清澄した。熔融ガラスを攪拌して均質化し
た後、予熱した成形型に熔融ガラスを鋳込み、ガラス転移温度付近まで放冷してか
25 ら直ちに、成形型ごとガラスをアニール炉内に入れた。それから、ガラス転移温度
付近で約1時間アニールした。アニールした後、アニール炉内で室温まで放冷した。
このようにして作製したガラスを観察したところ、結晶の析出、泡、脈理、原料
の熔け残りは認められなかった。このようにして、均質性の高いガラスを作ること
ができた。
表100(表100-1~100-7)中のNo.1~33は、ガラス1、表10
5 1(表101-1~101-6)中のNo.1~33は、ガラス2である。
【0224】
得られたガラスのガラス特性を、以下に示す方法で測定した。測定結果を下記の
表に示す。
(1)屈折率nd、nF、nC、ng、アッベ数νd
10 降温速度-30℃/時間で降温して得たガラスについて、日本光学硝子工業会規
格の屈折率測定法により、屈折率nd、nF、nC、ngを測定した。屈折率nd、
nF、nCの各測定値を用いて、アッベ数νdを算出した。
(2)ガラス転移温度Tg
示差走査熱量分析装置(DSC)を用いて、昇温速度を10℃/分にして測定し
15 た。
(3)比重
アルキメデス法により測定した。
(4)着色度λ5、λ70、λ80
互いに対向する2つの光学研磨された平面を有する厚さ10±0.1mmのガラ
20 ス試料を用い、分光光度計により、研磨された面に対して垂直方向から強度Iin
の光を入射し、ガラス試料を透過した光の強度Ioutを測定し、分光透過率Io
ut/Iinを算出し、分光透過率が5%になる波長をλ5、分光透過率が70%
になる波長をλ70、分光透過率が80%になる波長をλ80とした。
(5)部分分散比Pg,F
25 上記(1)で測定したnF、nC、ngの値から算出した。
(6)液相温度
ガラスを所定温度に加熱された炉内に入れて2時間保持し、冷却後、ガラス内部
を100倍の光学顕微鏡で観察し、結晶の有無から液相温度を決定した。
【0225】
【表100-1】
【0226】
【表100-2】
【0227】
【表100-3】
【0228】
【表100-4】
【0229】
【表100-5】
【0230】
【表100-6】
【0231】
【表100-7】
(別紙2) 参考例一覧 令和4年(行ケ)10059
本件組成要件 本件物性要件
参考例No A① A② A③ A④ A⑤ A⑥ A⑦ A⑧ A⑨ A⑩ A⑪ A⑫ B 液相温度 C 転移温度 D 屈折率 E アッべ数
0.6- 0.42- 0.20- 1.825-
21-32 50-63 4-10 2以下 0-2 4-11 0.1-0.3 0-0.05 0.95-1 1140以下 672以上 41.5-44
0.828 0.53 0.500 1.850
1 26.0 56.6 6.6 0.0 0.0 7.2 0.827 0.459 0.198 0.000 0.986 0.500 1140 668 1.83032 43.13
2 25.9 56.9 6.6 0.0 0.0 7.5 0.826 0.455 0.197 0.000 0.920 0.413 1140 670 1.83401 42.64
3 25.4 55.7 6.6 0.0 0.0 7.2 0.850 0.456 0.201 0.000 0.986 0.708 1150 661 1.83341 43.00
4 25.5 55.6 6.6 0.0 0.0 7.2 0.851 0.459 0.189 0.000 0.986 0.708 1150 660 1.83300 42.92
5 25.8 56.1 6.6 0.0 0.0 8.0 0.826 0.460 0.198 0.000 1.000 0.438 1130 669 1.83356 42.68
6 25.6 55.8 6.5 0.0 0.0 8.6 0.828 0.459 0.199 0.000 0.837 0.407 1130 667 1.83300 42.57
7 26.2 57.2 6.7 0.0 0.0 7.3 0.824 0.458 0.199 0.000 0.986 0.356 1150 672 1.83104 43.10
8 25.9 58.1 7.0 0.0 0.0 6.4 0.826 0.446 0.212 0.000 0.828 0.406 1160 674 1.83252 43.07
9 25.0 54.6 6.6 0.0 0.0 7.2 0.820 0.458 0.205 0.000 0.986 0.917 1160 658 1.83425 42.69
10 25.0 55.8 6.5 0.0 0.0 7.2 0.792 0.448 0.199 0.000 0.986 0.764 1160 662 1.83485 42.75
11 25.8 54.7 7.3 0.0 0.0 7.2 0.810 0.472 0.205 0.000 0.986 0.694 1200 665 1.83204 42.84
12 25.8 56.6 6.6 0.0 0.0 8.0 0.841 0.456 0.196 0.000 1.000 0.375 1140 672 1.83495 42.73
13 26.2 55.1 6.6 0.0 0.0 8.1 0.844 0.475 0.102 0.000 1.000 0.494 1150 664 1.83282 42.58
14 26.0 55.3 6.6 0.0 0.0 8.1 0.842 0.470 0.203 0.000 1.000 0.494 1140 668 1.83225 42.64
15 26.0 56.1 7.3 0.0 0.0 8.1 0.842 0.463 0.187 0.000 1.000 0.309 1160 673 1.83493 42.56
16 25.8 55.8 6.6 0.0 0.0 8.0 0.814 0.462 0.199 0.000 1.000 0.475 1130 668 1.83368 42.75
17 25.8 57.5 6.6 0.0 0.0 8.1 0.841 0.449 0.242 0.000 1.000 0.247 1160 679 1.83467 42.83
18 25.9 55.9 7.3 0.0 0.0 8.1 0.842 0.463 0.200 0.000 1.000 0.346 1180 671 1.83488 42.64
19 25.6 56.8 6.5 0.0 0.0 7.1 0.828 0.451 0.146 0.000 0.986 0.563 1170 665 1.83343 43.07
20 25.5 56.4 6.5 0.0 0.0 7.1 0.824 0.452 0.172 0.000 0.986 0.634 1160 663 1.83332 42.89
21 25.8 55.8 6.5 0.0 0.0 8.4 0.826 0.462 0.199 0.000 1.000 0.417 1130 669 1.83559 42.44
22 25.6 56.4 6.5 0.0 0.0 8.0 0.828 0.454 0.197 0.000 1.000 0.438 1130 670 1.83871 42.86
23 25.4 56.5 6.6 0.0 0.0 8.0 0.823 0.450 0.196 0.000 1.000 0.438 1140 670 1.83640 42.52
24 25.9 56.2 6.6 0.0 0.0 7.7 0.826 0.461 0.199 0.000 1.000 0.468 1130 669 1.83216 42.85
25 25.2 54.4 6.4 0.0 1.2 9.4 0.825 0.463 0.199 0.000 1.000 0.362 1160 649 1.83194 41.85
26 25.5 55.5 6.5 0.0 0.0 8.0 0.827 0.459 0.198 0.000 1.000 0.438 1150 671 1.83058 42.86
27 25.4 56.3 6.6 0.0 0.0 8.1 0.823 0.451 0.199 0.000 1.000 0.444 1140 670 1.83667 42.47
28 25.8 55.9 6.6 0.0 0.2 8.0 0.826 0.462 0.199 0.000 1.000 0.438 1140 661 1.83340 42.72
29 25.5 55.4 6.5 0.0 0.0 8.0 0.827 0.460 0.199 0.000 1.000 0.438 1150 673 1.83255 42.74
30 25.8 56.1 6.6 0.0 0.0 8.0 0.826 0.460 0.198 0.000 1.000 0.438 1130 669 1.83337 42.69
31 25.8 56.1 6.6 0.0 0.0 8.0 0.826 0.460 0.198 0.009 1.000 0.438 1130 670 1.83339 42.63
32 25.8 56.1 6.6 0.0 0.0 8.0 0.826 0.460 0.198 0.020 1.000 0.438 1140 670 1.83340 42.72
33 25.8 56.0 6.5 0.5 0.0 8.2 0.826 0.461 0.198 0.000 0.939 0.427 1130 669 1.83331 42.82
組成要件全てと3つの物性要件を満たす具体例
組成要件を満たしていないセル
物性要件を満たしていないセル
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