令和5(行ケ)10012審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
|
裁判年月日 |
令和5年10月12日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
原告X 被告株式会社アミークス
|
対象物 |
凹凸状シボパターン補修用マスキングシート、及び、凹凸状シボパターン補修方法 |
法令 |
特許権
特許法29条1項3号1回
|
キーワード |
審決22回 実施18回 無効7回 進歩性2回 新規性2回 特許権1回 無効審判1回 刊行物1回
|
主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
1 特許庁における手続の経過等(当事者間に争いがない)25
1日、特許出願をし、平成29年7月14日、特許権の設定登録を受けた
2 本件発明の概要
5に区画する多数の線状構造4は、凹凸状シボパターン6における凹部
8の形成パターンに対応するようにパターン形成されている(【001
7】)。透孔5は、多数の線状構造4で開口部3を区画して形成される
3 甲1記載の発明について
4 本件審決の理由の要旨
5 取消事由
1 取消事由1(引用発明1の認定誤り、本件発明1との相違点の看過)につ
2 取消事由2(本件発明1と引用発明1の一応の相違点についての認定・判
3 取消事由3(本件発明2と引用発明2との対比・判断の誤り)について
1 取消事由1(引用発明1の認定誤り、本件発明1との相違点の看過)につ10
014】には、凹凸状シボパターンが施された車のシートやテレビのキャビ20
6】、【0020】)、引用発明1がそのようなものに限られると認めることも
1との相違点の看過)を採用することはできない。
2 取消事由2(本件発明1と引用発明1の一応の相違点についての認定・判
3 取消事由3(本件発明2と引用発明2との対比・判断の誤り)について
4 結論
11にテープなどで一時的に固定されてもよい。こうすることでマスキングシート
1が補修作業中に、所定位置から位置ずれしてしまう虞を抑制できる。20
11の減殺エリア12上に付着して凸状構造部70を形成し、線状構造4に向かう
6aが形成され、補修対象11における凹凸状シボパターン地10に形成された凹20
4の部分に付着塗料29が存在する。付着塗料29を有するマスキングシート1は、
1 マスキングシート
2 シート材10
3 開口部
4 線状構造
5 透孔
6 凹凸状シボパターン
6a 補修シボパターン15
7、7a 凸部
8、8a 凹部
9 開口部の輪郭
10 凹凸状シボパターン地
11 補修対象20
12 減殺エリア
20 レジスト積層体
21 電鋳用基材
22 レジスト層
23 レジスト積層体の凹部25
24 はくり皮膜
25 電鋳用の型パターン形成体
26 析出金属体
27 電鋳型
28 メッキ層
29 付着塗料5
30 塗料
31 吹き付け手段
70 凸状構造部
5が生じ、一部の凸部4が欠損した状態を示す。
9」を例示することができる。ただし、ここに例示したものに限られるものではな
0mm以下、深さが200μ以下である。
2%、前記塗料8%、シンナー10%~45%、リターダ45~80%の配合比の10
1(a)に示すように、転写プレートの素材となる0.1mm程度の厚みの約10
1 インストルメントパネル(樹脂成形品)
2 表面
3 凹部
4 凸部
4a 凸部の表面10
4’ 新たな凸部
4a’ 新たな凸部の表面
5 傷
6 補修凹部
7 接着剤15
7a 接着剤の表面
9 塗料
10 転写プレート
11 開口 |
事件の概要 |
1 特許庁における手続の経過等(当事者間に争いがない)25
(1) 原告は、発明の名称を「凹凸状シボパターン補修用マスキングシート、
及び、凹凸状シボパターン補修方法」とする発明について、平成25年7月 |
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判決文
令和5年10月12日判決言渡
令和5年(行ケ)第10012号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和5年9月5日
判 決
原 告 X
同訴訟代理人弁護士 栗 山 貴 行
同 安 藤 豪
10 被 告 株 式 会 社 ア ミ ー ク ス
同訴訟代理人弁護士 山 上 芳 和
同 藤 井 圭 子
同 笹 岡 優 隆
15 同訴訟代理人弁理士 齋 藤 晴 男
同 齋 藤 貴 広
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
20 事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が無効2021-800101号事件について令和5年1月4日にし
た審決を取り消す。
第2 事案の概要
25 1 特許庁における手続の経過等(当事者間に争いがない)
(1) 原告は、発明の名称を「凹凸状シボパターン補修用マスキングシート、
及び、凹凸状シボパターン補修方法」とする発明について、平成25年7月
1日、特許出願をし、平成29年7月14日、特許権の設定登録を受けた
(特許第6172509号。請求項の数2。以下「本件特許」という。 。
)
(2) 被告は、令和3年12月16日、特許庁に対し、本件特許(全請求項)
5 を無効にすることを求めて審判の請求をした。
特許庁は、上記請求を無効2021-800101号として審理をした上、
令和5年1月4日、「特許第6172509号の請求項1~2に係る発明に
ついての特許を無効とする。」との審決をし(以下「本件審決」という。 、
)
その謄本は同年1月16日に原告に送達された。
10 (3) 原告は、令和5年2月13日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提
起した。
2 本件発明の概要
(1) 特許請求の範囲
本件特許の特許請求の範囲の記載は、以下のとおりである(以下、本件
15 特許の各請求項に係る発明を請求項番号に対応して「本件発明1」などとい
い、総称して「本件発明」という。 。
)
【請求項1】
開口部を形成したシート材からなるマスキングシートであって、
開口部は、該開口部に張られた多数の線状構造で多数の透孔に区画され
20 ており、
多数の線状構造は、多数の独立した凸部と個々の凸部の周囲に形成され
る凹部とを所定のパターンで備えて構成されたシボのパターンである凹凸状
シボパターンにおける凹部の形成パターンに対応するようにパターン形成さ
れ、
25 多数の透孔は、前記凹凸状シボパターンの凸部の形成パターンに対応す
るようにパターン形成されている、ことを特徴とする凹凸状シボパターン補
修用マスキングシート。
【請求項2】
補修対象における凹凸状シボパターン地に形成されたシボのパターンで
ある凹凸状シボパターンの減殺エリアを補修する補修方法であって、
5 請求項1に記載のマスキングシートを介して前記減殺エリアに塗料を吹
き付けて固化して前記減殺エリアに凹凸状シボパターンを形成する、ことを
特徴とする凹凸状シボパターン補修方法。
(2) 本件明細書の記載事項
本件特許に係る明細書(以下「本件明細書」という。)及び図面の抜粋を、
10 別紙「本件明細書等の記載事項(抜粋)」に掲げる(甲3)。これによれば、
本件発明について以下のとおりの事項が開示されているものと認められる。
ア 従来の凹凸状シボパターン補修方法では、補修具を押し当てた際に、塗
工層が凹凸状シボパターン地の表面に沿って陥没部のやや外側に広がっ
てしまい、塗工層の外端縁付近で凹凸状シボパターンが良好に形成され
15 ず、塗工層の外端縁付近と塗工層の外側とで凹凸状シボパターンに目視
上認識可能なほどの大きな相違を生じてしまい、減殺エリアの補修後に
あっても補修箇所が目立ってしまうという問題があった(【0006】 。
)
本件発明によれば、減殺エリアの外端縁でも凹凸状シボパターンを良
好に形成して補修箇所をより目立たせないようにすることを可能とする
20 凹凸状シボパターン補修用マスキングシート及び凹凸状シボパターン補
修方法を提供することができるようになる(【0010】 。
)
イ 本件発明のマスキングシート1は、本件明細書の図1A、図1Bに示す
ように、開口部3を形成したシート材2からなる(【0013】 。シート
)
材2は特に限定されず、紙製シート、樹脂製シート、金属製シートなど
25 であってよいし、これらを適宜積層したものであってもよい。ただし、
繰り 返し湾曲させることが容易である点 及び耐久性の点では、金属製
シートが好ましい。また、補修対象11とは、マスキングシート1を用
いて補修しようとする対象を示し、その対象には、自動車や家具などと
いった物や、家や車庫などの場所などが含まれる(【0014】 。
)
ウ 本件発明のマスキングシートの線状構造4は開口部3にはりめぐらされ
5 て多数の透孔5を区画形成している。このとき、開口部3を多数の透孔
5に区画する多数の線状構造4は、凹凸状シボパターン6における凹部
8の形成パターンに対応するようにパターン形成されている (【001
7】 。透孔5は、多数の線状構造4で開口部3を区画して形成される
)
個々の区画部分にてなり、多数形成される。開口部3を構成する多数の
10 透孔5は、凹凸状シボパターン6の凸部7の形成パターンにおおよそ対
応するようにパターン形成されている。本発明のマスキングシートによ
れば、開口部3を構成する多数の透孔5が、このようにパターン形成さ
れていることで、凹凸状シボパターン補修方法を実施して補修対象11
の減殺エリア12の補修を行った際に、減殺エリア12に補修された凹
15 凸状シボパターンがその周囲の凹凸状シボパターン6になじんで、補修
箇所(補修方法実施直前まで減殺エリアであった箇所)をより目立たせ
ないようにすることが可能となる(【0018】 。
)
3 甲1記載の発明について
(1) 明細書の記載
20 被告が本件無効審判請求(前記1(2))において新規性・進歩性の欠如を
いう無効理由の主引用例文献としたのは、本件特許の出願日前に頒布された
刊行物である特開2010-155434号公報(甲1)であり、そこには
別紙「甲1の記載事項(抜粋)」のとおりの記載がある。
(2) 本件審決が認定した甲1記載の発明
25 本件審決は、甲1には、以下の物の発明及び方法の発明が記載されてい
ると認定した(以下、それぞれ「引用発明1」及び「引用発明2」といい、
総称して「引用発明」という。 。
)
ア 引用発明1
厚さ0.1mm程度の銅板からなり、開口が設けられている転写プ
レートであって、
5 転写プレートの開口部分は、多数の開口間部分で多数の開口に区画さ
れており、
多数の開口間部分は、所謂シボの加工の凹凸模様の凹部と同じ形状に
形成され、
多数の開口は、所謂シボの加工の凹凸模様の凸部と同じ形状に形成さ
10 れた転写プレート。
イ 引用発明2
引用発明1の転写プレートを用いて、表面に所謂シボの加工の凹凸模
様が形成された樹脂成形品の表面の傷を補修する方法であって、
傷およびその周縁の凸部の表面を研磨してなだらかな補修凹部を形成
15 し、
補修凹部に接着剤を充填し、該接着剤の表面を無傷の部位における凹
凸模様の凸部の表面とほぼ同じ高さとし、該接着剤を硬化させ、
硬化した接着剤およびその周縁を無傷の部位における凹凸模様の凸部
の表面とほぼ面一に研磨し、
20 ほぼ面一に研磨された部分に、引用発明1の転写プレートを載置し、
引用発明1の転写プレートの上方から引用発明1の転写プレートの開
口を介してほぼ面一に研磨された部分に樹脂成形品と同色の塗料を塗布
し、
引用発明1の転写プレートを樹脂成形品から取り外し、塗料によって
25 形成された新たな凸部の表面をその周囲の凹凸模様と馴染むように研磨
することにより、傷のあった部位の上に新たな凹凸模様を形成する補修
方法。
4 本件審決の理由の要旨
本件審決の理由の要旨は、以下のとおりである。
(1) 引用発明1と本件発明1の一致点及び相違点は次のとおりである。
5 【一致点】
開口部を形成したシート材からなるマスキングシートであって、開口
部は、多数の区画部材で多数の透孔に区画されており、
多数の区画部材は、多数の独立した凸部と個々の凸部の周囲に形成さ
れる凹部とを所定のパターンで備えて構成されたシボのパターンである
10 凹凸状シボパターンにおける凹部の形成パターンに対応するようにパ
ターン形成され、
多数の透孔は、前記凹凸状シボパターンの凸部の形成パターンに対応
するようにパターン形成されている、凹凸状シボパターン補修用マスキ
ングシート。
15 【一応の相違点】
区画部材が、本件発明1は「開口部に張られた」「線状構造」であるの
に対し、引用発明1は「開口間部分」である点。
(2) 引用発明2と本件発明2の一致点及び相違点は次のとおりである。
【一致点】
20 補修対象における凹凸状シボパターン地に形成されたシボのパターン
である凹凸状シボパターンの減殺エリアを補修する補修方法であって、
請求項1に記載のマスキングシートを介して前記減殺エリアに塗料を
吹き付けて固化して前記減殺エリアに凹凸状シボパターンを形成する、
ことを特徴とする凹凸状シボパターン補修方法。
25 【一応の相違点】
上記(1)の「一応の相違点」と同じ。
(3) 引用発明1の「開口間部分」は、シボ加工の凹凸模様の凹部の形状に対
応して、開口部分に設けられた多数の線状の形状を含むものであるから、引
用発明1の「開口間部分」は、本件発明1の「開口部に張られた」「線状構
造」と実質的に相違するものでない。
5 仮に、本件発明1の「線状構造」の幅や形状が、引用発明1の「開口間部
分」の幅や形状と異なるとしても、引用発明1の「開口間部分」が「所謂シ
ボの加工の凹凸模様の凹部と同じ形状に形成され」るものであることを考慮
すれば、シボ加工の凹凸模様の凹部の形状に対応して、「開口部分」に張ら
れた多数の線状の構造とすることは、当業者が容易になし得たことである。
10 そして、引用発明1の「転写プレート」は、型押しで凹凸模様を形成する
ものではなく、本件発明1と同様に「補修用マスキングシート」として用い
られるものであるから、本件発明の「減殺エリアの外端縁でも凹凸状シボパ
ターンを良好に形成して補修箇所をより目立たせないようにすることを可能
とする凹凸状シボパターン補修用マスキングシート・・・を提供することが
15 できるようになる。」との効果は、引用発明1の構成から当業者が予測し得
る事項である。
(4) そうすると、本件発明1(マスキングシート)及び本件発明2(補修方
法)は、甲1に記載された発明(引用発明)であり、仮に、そうでないとし
ても、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到できたものであ
20 るから、本件発明1及び2についての特許は、特許法29条1項3号又は2
項の規定により特許を受けることができないものに対してされたものであり、
同法123条1項2号に該当し無効とすべきである。
5 取消事由
(1) 取消事由1(引用発明1の認定誤り、本件発明1との相違点の看過)
25 (2) 取消事由2(本件発明1と引用発明1の一応の相違点についての認定・
判断の誤り)
(3) 取消事由3(本件発明2と引用発明2との対比・判断の誤り)
第3 当事者の主張
1 取消事由1(引用発明1の認定誤り、本件発明1との相違点の看過)につ
いて
5 (1) 原告の主張
本件審決は、以下のア~ウのとおり、引用発明1の認定を誤り、本件発
明1との相違点を看過するものであるところ、この相違点の看過は本件発明
と引用発明の同一性及び容易想到性の判断の結論を左右するものであること
は明らかである。
10 ア 引用発明1は樹脂成形品の補修のみに用いることができる転写プレート
であり、本件発明1とは異なる。樹脂成形品と、例えば家具に使用され
る素材である皮革製品とは、化学品から組成される素材か天然素材かと
いう違いがあり、樹脂成形品に適用できるものが当然に他の素材にも用
いることができると解する余地はない。甲1には請求項1にも「樹脂成
15 形品」の補修であることが明示され、樹脂成形品以外の補修に用いるこ
とができるとの記載は一切ない。
イ 引用発明1のプレートは、厚さ0.1mm程度かつ約10cm四方の方
形の銅板に限定されている(甲1【0015】 【0020】 。甲1には
、 )
銅板以外の素材についての示唆は一切ない。 本件発明1でも「金属製
20 シートが好ましい」とはされているものの(本件明細書【0014】 、
)
本件発明1のシートは繰り返し使用を前提とし、湾曲も可能であるから
であり(同【0014】 【0057】)、引用発明1の転写プレートは繰り
、
返し使うことは前提とされておらず、曲げ耐性等も問題とされていない。
ウ 引用発明1で補修できる傷の大きさには限度がある(巾が3mm以下、
25 長さが40mm以下、深さが200μ以下。甲1【0016】 。
)
(2) 被告の主張
原告が主張する点は、いずれも本件発明1と引用発明1の相違点と考え
ることはできず、本件審決の認定判断に誤りがあるということはできない。
すなわち、本件発明1の新規性、進歩性の有無の判断に際して必要なの
は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された発明特定事項の把握であり、
5 特許請求の範囲の記載が明確な場合には、発明の詳細な説明に記載された事
項を加えて発明の要旨を認定することは許されず、特許請求の範囲の記載文
言自体から直ちにその技術的意味を確定するのに十分といえないときにはじ
めて、発明の詳細な説明中の記載を参酌できるにすぎないと考えるべきであ
る。
10 原告が本件発明1と引用発明1の相違点として掲げる前記(1)ア~イの点
は、特許請求の範囲に記載された事項ではないから、原告の主張はそもそも
失当である。
2 取消事由2(本件発明1と引用発明1の一応の相違点についての認定・判
断の誤り)について
15 (1) 原告の主張
本件審決が認定した一応の相違点を前提とするとしても、引用発明1は、
インストルメントパネルの射出成形に用いられる金型のCADデータを使用
するもので、補修対象に合わせて転写シートを作成して対応しなければなら
ないのに対し、本件発明1は、「1つのマスキングシートについては同じ太
20 さの線を描いてデザインするもので、必ずしも補修対象のシボ模様を再現す
ることなく、補修対象の凹部と同等の幅の線を用いたシートを使用すること
により、汎用的に補修ができる他、凹部の幅が一定であることにより地球上
に存在しないシボ模様を実現できる」という効果を奏する。甲1には上記本
件発明1の特徴を示唆する記載はないから、甲1のみに基づいて容易想到と
25 はいえない。
(2) 被告の主張
後記第4の2と同趣旨であるから、詳細は割愛する。
3 取消事由3(本件発明2と引用発明2との対比・判断の誤り)について
(1) 原告の主張
本件発明1が引用発明1と同一でなく、容易想到でないことは前記1及
5 び2のとおりであり、本件発明2と引用発明2の対比においても、前記取消
事由1、2がそのまま当てはまるから、本件審決の判断は誤っている。
(2) 被告の主張
後記第4の3と同趣旨であるから、詳細は割愛する。
第4 当裁判所の判断
10 1 取消事由1(引用発明1の認定誤り、本件発明1との相違点の看過)につ
いて
(1) 原告は、引用発明1のプレートは樹脂成形品の補修のみに用いることが
できる転写プレートであり、本件発明1とは異なるとして、本件審決には、
引用発明1の認定を誤り、本件発明1との相違点を看過した違法がある旨主
15 張する。
しかし、本件発明1の特許請求の範囲の記載(前記第2の2(1))におい
て、補修対象から樹脂成形品を除外する限定がないことはもとより、本件明
細書(甲3)においても、樹脂成形品を本件発明1の補修対象から除外する
趣旨の記載は見当たらない。かえって、本件明細書の【0002】及び【0
20 014】には、凹凸状シボパターンが施された車のシートやテレビのキャビ
ネット、その他の物(自動車、家具等)及び場所(家、車庫等)が補修対象
として示されているところ、その中には樹脂成形品が含まれることは、本件
特許の出願当時の当業者の技術常識といえる。
そうすると、引用発明1の内容として原告の主張するところ(補修対象
25 を樹脂成形品のみに限定)を前提としても、「樹脂成形品を補修対象とする
補修用マスキングシート(プレート)」の発明という点で本件発明1と異な
るところはなく、本件発明1との相違点が導かれることにはならない。なお、
仮に、本件発明が、樹脂成形品のみを補修対象としていた従来技術から進ん
で、樹脂成形品以外も補修可能なプレートを実現したという技術的意義を有
する発明であればともかく、特許請求の範囲及び本件明細書の記載に照らし
5 て、本件発明がそのような技術的意義を有するものでないことは明らかであ
るし、そうした趣旨の主張もない。
よって、本件発明 1 の補修対象から樹脂成形品を除外する旨の特許請求の
範囲の減縮を目的とする訂正をすることもなく、単に、引用発明1のプレー
トが樹脂成形品のみを補修対象としていることを指摘するにすぎない原告の
10 主張は、審決取消事由として、主張自体失当というべきである。
(2) 原告は、引用発明1のプレートは、厚さ0.1mm程度かつ約10cm
四方の方形の銅板に限定され、補修できる傷の大きさには限度があるなどと
指摘して、この点に関する引用発明1の認定誤り、本件発明1との相違点の
看過を主張する。
15 しかし、本件発明1の特許請求の範囲(前記第2の2(1))において、転
写プレートに相当するマスキングシートの大きさ及び素材、補修できる傷の
大きさにつき何ら限定を加えていないことはもとより、本件明細書(甲3)
にもそうした限定はない(シートの素材に関しては、特に限定されないこと
が明記されている。【0014】 。したがって、原告が主張するように、引
)
20 用発明1のプレートが、①厚さ0.1mm程度かつ約10cm四方の方形の
銅板のものであり、②巾が3mm以下、長さが40mm以下、深さが200
μ以下の傷を補修するためのものだとしても、本件発明1は、これを除外す
るものではない。
そうすると、補修対象に関して上記(1)で述べたところと同様、原告の主
25 張を前提としても、引用発明1と本件発明 1 の相違点が導かれることにはな
らず、その主張は、審決取消事由として、主張自体失当というほかない。
なお、念のために付け加えると、原告が指摘する引用発明1のプレートの
大きさ及び素材、補修できる傷の大きさの点は、実施例についての説明とし
て示されているものにすぎず(甲1の【0011】 【0015】 【001
、 、
6】 【0020】 、引用発明1がそのようなものに限られると認めることも
、 )
5 できない。
(3) よって、原告が主張する取消事由1(引用発明1の認定誤り、本件発明
1との相違点の看過)を採用することはできない。
2 取消事由2(本件発明1と引用発明1の一応の相違点についての認定・判
断の誤り)について
10 原告は、本件審決が認定した一応の相違点を前提として、引用発明1の転写
シートと本件発明1のマスキングシートの製造方法やそこから生じるシボ模様
の違いに関する効果を指摘し、容易想到性に関する本件審決の判断の誤りを主
張する。
しかし、本件明細書に原告指摘の効果に関する記載はなく、原告自身も本件
15 審決に係る審判段階でそのような主張をしていない。引用発明1における「開
口間部分」が、本件発明1の「開口部に張られた」「線状構造」を当然に含み
得るものであって、かつ、「線状」とされる構造に格別の意義をみいだせない
ことは本件審決の認定のとおりである。
そうすると、本件審決が認定した一応の相違点について本件発明1と引用発
20 明1は実質的に相違するものではなく、仮に相違点といえるとしても当業者が
容易に想到できたと認めるのが相当である。
よって、取消事由2に関する原告の主張も採用することができない。
3 取消事由3(本件発明2と引用発明2との対比・判断の誤り)について
上記1、2のとおり、原告が主張する取消事由1、2はいずれも採用するこ
25 とができず、これを前提とする取消事由3の主張も採用することができない。
4 結論
以上のとおり、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、本件審決にこれ
を取り消すべき違法は認められない。よって、原告の請求を棄却することとし、
主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
宮 坂 昌 利
裁判官
10 岩 井 直 幸
裁判官
頼 晋 一
(別紙)
本件明細書等の記載事項(抜粋)
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
5 【0002】
車のシートやテレビのキャビネットなどといった様々な物や場所に凹凸状シボパ
ターンが施されて、凹凸状シボパターン地が形成されている。凹凸状シボパターン
を有する物や場所における割れや傷や欠けなどによって凹凸状シボパターン地に損
傷が生じて、その損傷箇所を補修しようとする場合、一般的に、その損傷部位にパ
10 テ等の補修剤を埋め込むことや、サンディング等により損傷箇所を部分的に取り除
いてしまうことなどといった方法が適用される。このような場合、凹凸状シボパ
ターン地における損傷箇所には、シボパターンの減殺されたエリア(減殺エリア)
が形成される。また、凹凸状シボパターン地においては、摩擦などの影響で徐々に
凹凸状シボパターンが削られ磨り減っていき、部分的に凹凸状シボパターンの磨り
15 減った減殺エリアが徐々に形成されてくることがある。
【0003】
こうして減殺エリアが形成されてしまった場合、減殺エリアに対して凹凸状シボ
パターン補修方法を施すことが有効とされている。
【発明の概要】
20 【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記したような凹凸状シボパターン補修方法では、補修具を押し
当てた際に、塗工層が凹凸状シボパターン地の表面に沿って陥没部のやや外側に広
がってしまい、塗工層の外端縁付近で凹凸状シボパターンが良好に形成されず、塗
25 工層の外端縁付近と塗工層の外側とで凹凸状シボパターンに目視上認識可能なほど
の大きな相違を生じてしまい、減殺エリアの補修後にあっても補修箇所が目立って
しまうという問題がある。
【0007】
本発明は、減殺エリアの外端縁でも凹凸状シボパターンを良好に形成して補修箇
5 所をより目立たせないようにすることを可能とする凹凸状シボパターン補修用マス
キングシート及び凹凸状シボパターン補修方法を提供する、ことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、(1)開口部を形成したシート材からなるマスキングシートであって、
10 開口部は、該開口部に張られた多数の線状構造で多数の透孔に区画されており、
多数の線状構造は、多数の独立した凸部と個々の凸部の周囲に形成される凹部と
を所定のパターンで備えて構成されたシボのパターンである凹凸状シボパターンに
おける凹部の形成パターンに対応するようにパターン形成され、
多数の透孔は、前記凹凸状シボパターンの凸部の形成パターンに対応するように
15 パターン形成されている、ことを特徴とする凹凸状シボパターン補修用マスキング
シート、
(2)補修対象における凹凸状シボパターン地に形成されたシボのパターンである
凹凸状シボパターンの減殺エリアを補修する補修方法であって、
上記(1)に記載のマスキングシートを介して前記減殺エリアに塗料を吹き付け
20 て固化して前記減殺エリアに凹凸状シボパターンを形成する、ことを特徴とする凹
凸状シボパターン補修方法、を要旨とする。
【0010】
本発明によれば、減殺エリアの外端縁でも凹凸状シボパターンを良好に形成して
補修箇所をより目立たせないようにすることを可能とする凹凸状シボパターン補修
25 用マスキングシート及び凹凸状シボパターン補修方法を提供することができるよう
になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1Aは、本発明の凹凸状シボパターン補修用マスキングシートの一実施
例を模式的に示す概略平面模式図である。図1Bは、図1Aの破線囲み領域Xの部
5 分を拡大した状態を模式的に示す概略部分拡大模式図である。
【図2】図2A、図2B、図2C、図2D、図2E、図2Fは、いずれも凹凸状シ
ボパターン補修用マスキングシートの製造工程の一例を示す概略工程断面図である。
図2Gは、凹凸状シボパターン補修用マスキングシートが、析出金属体で形成され
る場合の一例における、マスキングシートの断面の状態を模式的に示す概略断面模
10 式図である。図2Hは、凹凸状シボパターン補修用マスキングシートが、表面に
メッキ層を形成されたものである場合の一例における、マスキングシートの断面の
状態を模式的に示す概略断面模式図である。
【図3】図3A、図3B、図3Cは、いずれも本発明の凹凸状シボパターン補修方
法の一実施例を模式的に示す概略工程断面図である。
15 【発明を実施するための形態】
【0013】
[マスキングシート1]
本発明のマスキングシート1は、図1A、図1Bに示すように、開口部3を形成
したシート材2からなる。
20 【0014】
(シート材2)
シート材2は特に限定されず、紙製シート、樹脂製シート、金属製シートなどで
あってよいし、これらを適宜積層したものであってもよい。ただし、後述する補修
対象11の凹凸状シボパターン地10が湾曲面をなしているような場合にも、その
25 湾曲面に追従するようにシート材2自体を適宜繰り返し湾曲させることが容易であ
る点では、シート材2は、紙製シート、樹脂製シート、金属製シートまたはそれら
の積層シートが好ましく、耐久性の点では、金属製シートが好ましい。また、後述
する凹凸状シボパターン補修方法の実施後にマスキングシート1を構成するシート
材2に付着した塗料(付着塗料29)をより容易に洗浄できることで再使用可能な
マスキングシート1を提供する点でも、シート材2は、金属製シートであることが
5 より好ましい。金属製シートで形成されたマスキングシート1は、例えば、後述す
るような電鋳法にて具体的に調製できる。また、マスキングシート1が金属製シー
トで構成されている場合は、角張った部分の形成を抑制する点で、金属製シートは
表面にメッキ層を形成されているものであることが好ましい。なお、補修対象11
とは、マスキングシート1を用いて補修しようとする対象を示し、その対象には、
10 自動車や家具などといった物や、家や車庫などの場所などが含まれる。また、補修
対象11は、凹凸状シボパターン6を形成されて凹凸状シボパターン地10を形成
している。
【0017】
(線状構造4)
15 線状構造4は開口部3にはりめぐらされて多数の透孔5を区画形成している。こ
のとき、開口部3を多数の透孔5に区画する多数の線状構造4は、凹凸状シボパ
ターン6における凹部8の形成パターンに対応するようにパターン形成されている。
ここに、凹凸状シボパターン6は、図3を参照しつつ後述する凹凸状シボパターン
補修方法における補修対象11に応じて適宜規定され、多数の独立した凸部7と
20 個々の凸部7の周囲に形成される凹部8とを所定のパターンで備えて構成されるパ
ターンである。凹部8は、平面視上個々の凸部7の周囲を取り囲むように溝状に形
成される。
【0018】
(透孔5)
25 透孔5は、多数の線状構造4で開口部3を区画して形成される個々の区画部分に
てなり、多数形成される。開口部3を構成する多数の透孔5は、凹凸状シボパター
ン6の凸部7の形成パターンにおおよそ対応するようにパターン形成されている。
本発明のマスキングシートによれば、開口部3を構成する多数の透孔5が、このよ
うにパターン形成されていることで、凹凸状シボパターン補修方法を実施して補修
対象11の減殺エリア12の補修を行った際に、減殺エリア12に補修された凹凸
5 状シボパターンがその周囲の凹凸状シボパターン6になじんで、補修箇所(補修方
法実施直前まで減殺エリアであった箇所)をより目立たせないようにすることが可
能となる。以下、減殺エリア12に補修された凹凸状シボパターンを補修シボパ
ターン6aと呼ぶことがある。
【0051】
10 本発明のマスキングシート1は、例えば、次のように凹凸状シボパターン補修方
法に具体的に使用されることができる。
【0052】
[凹凸状シボパターン補修方法]
(マスキングシート1の配置位置決め)
15 本発明のマスキングシート1を、補修対象11の所定位置に配置する。このとき、
マスキングシート1の開口部3の少なくとも一部が、補修対象11の凹凸状シボパ
ターン地10に形成された凹凸状シボパターン6の減殺エリア12上に重なるよう
に位置決めされて配置される。また、このとき、マスキングシート1は、補修対象
11にテープなどで一時的に固定されてもよい。こうすることでマスキングシート
20 1が補修作業中に、所定位置から位置ずれしてしまう虞を抑制できる。
【0053】
(塗料30の吹き付け)
補修対象11に対して所定の位置にマスキングシート1が配置された後、その状
態を維持しつつ、マスキングシート1を介して減殺エリア12に向けて塗料30が
25 吹き付けられる。このとき、透孔5に向かう塗料30は、透孔5を通って補修対象
11の減殺エリア12上に付着して凸状構造部70を形成し、線状構造4に向かう
塗料30は、線状構造4上に付着して付着塗料29をなす。なお、塗料30の拭き
付けの実施方法は特に限定されず、スプレーガンなどの吹き付け手段31を用いて
吹き付ける方法等を適宜採用されてよい。また、補修対象11に対して所定の位置
にマスキングシート1が配置された後、マスキングシート1は補修対象11に適宜
5 押し当てられてもよい。この場合、補修対象11の減殺エリア12が湾曲面を形成
しているような場合、その湾曲面に追従するようにマスキングシート1を湾曲させ
ることができ、補修箇所をより目立たせないように補修シボパターン6aを形成す
ることができる。
【0054】
10 (塗料30の固化)
減殺エリア12に向けて塗料30が吹き付けられた後、マスキングシート1を補
修対象11の所定位置に配置した状態を解除して、塗料30で構成される凸状構造
部70を固化する。このとき減殺エリア12上に付着した凸状構造部70の固化構
造が、補修シボパターン6aの凸部7aをなす。そして、個々の凸部7aの周囲に
15 は凹部8aが形成される。こうして減殺エリア12に凹凸状シボパターンとして補
修シボパターン6aが形成される。なお、塗料30の固化は、塗料30の吹き付け
を実施した後、例えば、所定時間放置すること等により実現可能である。
【0055】
こうして凹凸状シボパターン補修方法にて、減殺エリア12に補修シボパターン
20 6aが形成され、補修対象11における凹凸状シボパターン地10に形成された凹
凸状シボパターン6の減殺エリア12が補修されることとなる。このとき、マスキ
ングシート1を用いた凹凸状シボパターン補修方法にて形成された補修シボパター
ン6aは、凹凸状シボパターン6になじむように形成されうるものであり、補修箇
所をより目立たせないように補修シボパターン6aが形成されるのである。
25 【0057】
[マスキングシート1の洗浄]
凹凸状シボパターン補修方法が実施されると、マスキングシート1の線状構造
4の部分に付着塗料29が存在する。付着塗料29を有するマスキングシート1は、
そのまま使い捨てにしてもよいが、マスキングシート1が金属製シートから構成さ
れ て い る場合、マスキングシ ート1に付着した塗料30は、塗料剥離剤 ( ・ ・ ・
5 略・・・)で適宜洗浄されることができることから、マスキングシート1は、繰り返
し利用可能なものとなる。
【符号の説明】
【0064】
1 マスキングシート
10 2 シート材
3 開口部
4 線状構造
5 透孔
6 凹凸状シボパターン
15 6a 補修シボパターン
7、7a 凸部
8、8a 凹部
9 開口部の輪郭
10 凹凸状シボパターン地
20 11 補修対象
12 減殺エリア
20 レジスト積層体
21 電鋳用基材
22 レジスト層
25 23 レジスト積層体の凹部
24 はくり皮膜
25 電鋳用の型パターン形成体
26 析出金属体
27 電鋳型
28 メッキ層
5 29 付着塗料
30 塗料
31 吹き付け手段
70 凸状構造部
【図1】
【図3】
(別紙)
甲1の記載事項(抜粋)
【発明の名称】
樹脂成形品の補修方法
5 【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹凸模様が形成された樹脂成形品の前記表面の傷を補修する方法であって、
傷およびその周縁の凸部の表面を研磨してなだらかな補修凹部を形成する工程と、
前記補修凹部に接着剤を充填し、該接着剤の表面を無傷の部位における前記凹凸
10 模様の凸部の表面とほぼ同じ高さとし、該接着剤を硬化させる工程と、
前記硬化した接着剤およびその周縁を無傷の部位における前記凹凸模様の凸部の
表面とほぼ面一に研磨する工程と、
ほぼ面一に研磨された部分に、前記凹凸模様の凸部に対応する部分に開口を設け
たことにより前記凹凸模様と同様の模様が形成された転写プレートを載置する工程
15 と、
前記転写プレートの上方から前記開口を介して前記ほぼ面一に研磨された部分に
前記樹脂成形品と同色の塗料を塗布する工程と、
前記転写プレートを樹脂成形品から取り外し、前記塗料によって形成された新た
な凸部の表面をその周囲の凹凸模様と馴染むように研磨する工程と、
20 を備えることを特徴とする樹脂成形品の補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【背景技術】
【0002】
25 インストルメントパネル等の樹脂成形品の表面には美感を向上させるために、表
面の一部または全面に細かな凹凸状の模様である所謂「シボ」の加工が施されたも
のがある。この樹脂成形品のシボは、金型のキャビティを形成する面の一部または
全面に細かな凹凸状のシボを形成しておき、この金型を用いて射出成形することに
より、金型の凹凸状のシボ模様が樹脂成形品の表面に転写されて形成される。
このように形成されたインストルメントパネルなどの樹脂成形品に対し、部品組
5 み付けラインにおいて速度計などの計器類、エアダクト、ハーネス類の組み付けが
行われる。そして、計器類などが組み付けられたインストルメントパネルは、車体
組立ラインにおいて車体に組み付けられ、完成車として出荷されユーザーの手に渡
る。
【0003】
10 ところで、成形後のこのような過程において、組み付け時にインストルメントパ
ネルのシボ加工面に組み付け部品との接触、打痕による傷が発生することがある。
また、ユーザーの手に渡った後、荷物の積み下ろし等でインストルメントパネルの
シボ面に傷が発生することがある。
【0004】
15 このような場合の補修方法として、例えば特許文献1に開示された方法がある。
この補修方法では、微細凹凸部の不良箇所を削ってなだらかな曲線状の穴に整形し、
輪郭の面取りを行い、なだらかになった面をペーパーにより更に研磨して平滑にす
る。次いで補修コンパウンドを前記穴部に充填する。さらに、その上から表面に前
記微細凹凸と同じ微細凹凸模様が形成されたスタンプを押圧し、押圧した状態で補
20 修コンパウンドを加熱硬化させ、スタンプの微細凹凸模様を補修コンパウンドの表
面に転写する。硬化が完了すると、スタンプを外し、溶剤を染み込ませたウエスあ
るいはガラスパウダーなどにより補修面を優しく擦ることにより補修面の段差をな
だらかにする。
【発明の概要】
25 【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この補修方法では、補修コンパウンドが硬化する間、作業者が補
修面に対して垂直に一定圧でスタンプを押し続ける必要があり、押圧力が不足する
とスタンプがずれてしまい、正確に微細凹凸模様を成形することができなくなる。
また、錘を使用して押圧力を一定に保ったとしても、スタンプが振動などによりに
5 ずれると、正確に微細凹凸模様を成形することができなくなる。このようになると、
再補修を行わなければならなくなったり、あるいは、廃品になるという不具合があ
る。
また、補修コンパウンドを加熱硬化させるために熱源が必要となるという課題が
ある。
10 【0007】
そこで、この発明は、樹脂成形品表面の凹凸模様の傷を容易に補修することがで
きる樹脂成形品の補修方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【発明の効果】
15 【0009】
請求項1に係る発明によれば、樹脂成形品表面の凹凸模様の傷を容易に且つ確実
に補修することができる。その結果、再補修や廃品となる不具合がなくなる。また、
新たに形成された凹凸模様を無傷の部位の凹凸模様に馴染ませるので、補修された
部位を目立たなくすることができる。
20 【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】凹凸模様の表面が無傷の樹脂成形品の断面図である。
【図2】凹凸模様の表面に傷を有する前記樹脂成形品の断面図である。
【図3】本発明に係る樹脂成形品の補修方法の手順(その1)を示す図である。
25 【図4】前記補修方法の手順(その2)を示す図である。
【図5】前記補修方法の手順(その3)を示す図である。
【図6】前記補修方法の手順(その4)を示す図である。
【図7】前記補修方法の手順(その5)を示す図である。
【図8】前記補修方法の手順(その6)を示す図である。
【図9】前記補修方法の手順(その7)を示す図である。
5 【図10】前記補修方法において使用される転写プレートの平面図である。
【図11】前記転写プレートの製造方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、この発明に係る樹脂成形品の補修方法の実施例を図1から図11の図面を
10 参照して説明する。なお、この実施例では、樹脂成形品としての車両のインストル
メントパネルの表面に生じた傷を補修する場合の態様で説明する。
【0012】
図1は、樹脂成形品としてのインストルメントパネル1の断面図であり、その表
面2にシボ加工が施され、凹部3と凸部4からなる模様が形成されている。図1は
15 表面2が無傷の状態のインストルメントパネル1を示している。
図2は、このインストルメントパネル1の表面2に例えば直径3mmの円形の傷
5が生じ、一部の凸部4が欠損した状態を示す。
【0013】
このような傷5を有するインストルメントパネル1の補修方法を図3から図11
20 の図面を参照して説明する。
まず、傷5およびその周縁の凸部4の表面をサンドペーパーにより研磨し、図3
に示すようになだらかな曲面からなる補修凹部6を形成する(研磨工程)。
【0014】
次に、図4に示すように、補修凹部6にα-シアノアクリレート樹脂を主成分と
25 する接着剤7を充填して、接着剤7の表面7aがその周囲の無傷の部位の凸部4の
表面4aとほぼ同じ高さ、あるいは凸部4の表面4aよりも若干膨出する程度とな
るようにし、次いで、図5に示すように、その上に希釈溶剤パーフロロカーボンを
主成分とする硬化促進剤8をスプレーにて塗布する。この硬化促進剤8の塗布によ
り、数秒で接着剤7が硬化する(接着剤充填・硬化工程)。
接着剤7としては、例えばヘンケルコーポレーション社製の商品名「ULTRA
5 TAKPAK(登録商標)382」を例示することができ、硬化促進剤8としては、
例えばヘンケルコーポレーション社製の商品名「TAKPAK(登録商標)710
9」を例示することができる。ただし、ここに例示したものに限られるものではな
い。
【0015】
10 接着剤7が硬化した後、接着剤の表面7aおよびその周縁をサンドペーパーによ
り研磨し平滑にして、図6に示すように無傷の部位の凸部4の表面4aとほぼ面一
する(硬化後研磨工程)。
次に、図7に示すように、転写プレート10を、研磨された接着剤7の表面7a
および無傷の部位の凸部4の上に載置する(転写プレート載置工程)。転写プレー
15 ト10は厚さ0.1mm程度の銅板からなり、図10に示すように、インストルメ
ントパネル1の表面2に成形された凹凸模様の凸部4と同じ形状の開口11が設け
られている。
【0016】
次に、転写プレート10の上から開口11を介して、前記研磨により平滑にした
20 部分およびその周囲の無傷の部分のインストルメントパネル1の表面2に、インス
トルメントパネル1と同色の塗料9をスプレーガン20により50μ~100μ程
度の膜厚となるように、接着剤7の表面7aの中心から半径15mm程度の範囲に
塗布する。ここで、塗料9の塗布範囲の半径は補修凹部6の直径の倍以上とするの
が好ましい。
25 なお、本発明の補修方法が適用できる傷の大きさは、巾が3mm以下、長さが4
0mm以下、深さが200μ以下である。
【0017】
次に、転写プレート10を取り去り、塗料9を乾燥することにより、図8に示す
ように、接着剤7の表面7aおよびその周囲の無傷の部位の凸部4の上に新たな凹
部3’および凸部4’が形成される。
5 【0018】
次に、新たに形成された凸部4’の表面4a’を目の細かいサンドペーパーで研
磨して、図9に示すように周囲の無傷の部位の凸部4との段差を低減して目立たな
いようにし、さらにその後、研磨した箇所にぼかし剤を塗布して周囲の無傷の部位
の凹凸模様との調和を図り、馴染ませる。なお、ぼかし液としては、例えば硬化剤
10 2%、前記塗料8%、シンナー10%~45%、リターダ45~80%の配合比の
ものを用いる。リターダを塗料に混入させることにより塗膜の乾燥を遅延させる。
これにより、インストルメントパネル1の表面2の傷5の補修は完了する。
【0020】
次に、転写プレート10の製造方法を図11に従って説明する。
15 転写プレート10は薄膜フォトエッチングの手法により製作される。まず、図1
1(a)に示すように、転写プレートの素材となる0.1mm程度の厚みの約10
cm四方の方形の銅板12の表面12aを酸で溶かして平滑にし、表面の面粗皮を
上げる。
次に、図11(b)に示すように銅板12の表面12aに感光性の樹脂を塗布し
20 て乾燥させ、フォトレジスト13を形成する。
次に、図11(c)に示すように、銅板12の裏面12bに耐酸化剤の溶液を塗
布して乾燥させ、耐酸化剤皮膜14を形成する。
【0023】
〔他の実施例〕
25 なお、この発明は前述した実施例に限られるものではない。
例えば、前述した実施例では、インストルメントパネルの表面の傷を補修する態
様で説明したが、この発明が適用可能な樹脂成形品はインストルメントパネルに限
るものではなく、コンソールボックスなど種々のものが適用対象である。
【符号の説明】
5 【0024】
1 インストルメントパネル(樹脂成形品)
2 表面
3 凹部
4 凸部
10 4a 凸部の表面
4’ 新たな凸部
4a’ 新たな凸部の表面
5 傷
6 補修凹部
15 7 接着剤
7a 接着剤の表面
9 塗料
10 転写プレート
11 開口
【図1】
【図2】
【図3】
5 【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
5 【図8】
【図9】
【図10】
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