令和5(ネ)10024不当利得返還請求控訴事件
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裁判所 |
控訴棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
|
裁判年月日 |
令和5年10月11日 |
事件種別 |
民事 |
対象物 |
ページング方法および装置 |
法令 |
その他
特許法134条の21回
|
キーワード |
実施4回 特許権3回 侵害3回 無効2回 分割1回
|
主文 |
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は、各補助参加に係る費用を含め、控訴人の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を310
0日と定める。 |
事件の概要 |
1 本件は、発明の名称を「ページング方法および装置」とする発明に係る特許20
権(特許第3287413号。以下「本件特許権」といい、本件特許権に係る
特許を「本件特許」という。)を有していたと主張する控訴人が、被控訴人に
対し、被控訴人が「4G LTE」との名称で提供する無線通信ネットワーク
サービス(以下「被控訴人サービス」という。)に係るLTE(Long Term
Evolution)通信方式の上りリンクのデータ送信に関する方法(以下「被控訴25
人方法」という。)が、本件特許に係る発明の技術的範囲に属するものであり、
これにより被控訴人が実施料相当額を不当に利得していると主張して、不当利
得返還請求権に基づき、1141億1364万1051円の一部である1億円
及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和元年11月9日から支払済
みまで民法(平成29年法律第44号による改正前)所定の年5分の割合によ
る遅延損害金の支払を求める事案である。5
原審が、被控訴人方法は本件各発明の技術的範囲に属しないとして控訴人の
請求を棄却したところ、控訴人がその取り消しを求めて本件控訴を提起した。 |
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判決文
令和5年10月11日判決言渡
令和5年(ネ)第10024号 不当利得返還請求控訴事件(原審・東京地方裁判
所令和元年(ワ)第28127号)
口頭弁論終結日 令和5年8月7日
5 判 決
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
主 文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は、各補助参加に係る費用を含め、控訴人の負担とする。
10 3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を3
0日と定める。
事 実 及 び 理 由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
15 2 被控訴人は、控訴人に対し、1億円及びこれに対する令和元年11月9日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
4 仮執行宣言
第2 事案の概要
20 1 本件は、発明の名称を「ページング方法および装置」とする発明に係る特許
権(特許第3287413号。以下「本件特許権」といい、本件特許権に係る
特許を「本件特許」という。)を有していたと主張する控訴人が、被控訴人に
対し、被控訴人が「4G LTE」との名称で提供する無線通信ネットワーク
サービス(以下「被控訴人サービス」という。)に係るLTE(Long Term
25 Evolution)通信方式の上りリンクのデータ送信に関する方法(以下「被控訴
人方法」という。 が、
) 本件特許に係る発明の技術的範囲に属するものであり、
これにより被控訴人が実施料相当額を不当に利得していると主張して、不当利
得返還請求権に基づき、1141億1364万1051円の一部である1億円
及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和元年11月9日から支払済
みまで民法(平成29年法律第44号による改正前)所定の年5分の割合によ
5 る遅延損害金の支払を求める事案である。
原審が、被控訴人方法は本件各発明の技術的範囲に属しないとして控訴人の
請求を棄却したところ、控訴人がその取り消しを求めて本件控訴を提起した。
2 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり補正し、後記
3のとおり当審における控訴人の主な補充主張を付加するほかは、原判決の
10 「事実及び理由」中、第2の1及び2(原判決1頁24行目から34頁16行
目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決10頁1行目から同11頁26行目までと、同12頁1行目の「イ」
をそれぞれ削り、同行目の「原告は、」の次に「令和3年12月29日付け
で、本件特許について、特許請求の範囲の記載の訂正を請求した後、」を、
15 同頁2行目の「という。」の次に「同請求がされたことで、令和3年12月
29日付けの訂正請求については、特許法134条の2第6項の規定により
取り下げられたものとみなされた。」をそれぞれ加える。
(2) 同16頁19行目から同頁25行目までを削り、同頁26行目の「⑪」を
「⑥」と、同17頁1行目の「⑫」を「⑦」と、同頁2行目の「⑬」を「⑧」
20 と、同頁3行目の「⑭」を「⑨」と、同頁5行目の「⑮」を「⑩」とそれぞ
れ改める。
(3) 同23頁8行目、同25頁7行目及び同頁10行目(2か所)の各「4つ」
をいずれも「四つ」と、同26頁18行目の「1つ」を「一つ」と、同29
頁8行目、同頁20行目及び同30頁4行目の各「4つ」をいずれも「四つ」
25 とそれぞれ改める。
(4) 同31頁3行目の「本件訂正後」を「本件各発明」と、同頁4行目、同頁
13行目及び同頁16行目の各「本件各訂正発明」をいずれも「本件各発明」
と、同頁24行目の「各訂正発明」を「各発明」とそれぞれ改め、同頁25
行目の「本件訂正後の」を削り、同32頁3行目及び同頁5行目の各「4つ」
をいずれも「四つ」と、同頁18行目の「各訂正発明」を「各発明」とそれ
5 ぞれ改め、同頁19行目の「本件訂正後の」を削る。
(5) 同33頁12行目の「⑭」 「⑨」
を と改め(該当部分の原判決別紙を含む。 、
)
同頁13行目から同頁24行目までを削り(該当部分の原判決別紙を含む。 、
)
同頁25行目の「(11)」を「(6)」と、同行目の「⑪」を「⑥」と、同頁26行
目の「⑭」を「⑨」と、同行目の「7」を「2」と(いずれも該当部分の原
10 判決別紙の訂正を含む。)、同34頁1行目の「(12)」を「(7)」と、同行目の
「⑫」を「⑦」と、同頁2行目の「⑭」を「⑨」と、同行目の「8」を「3」
と(いずれも該当部分の原判決別紙の訂正を含む。)、同頁3行目の「(13)」
を「(8)」と、同行目の「⑬」を「⑧」と、同頁5行目の「⑭」を「⑨」と、
同行目の「9」を「4」と(いずれも該当部分の原判決別紙の訂正を含む。)、
15 同頁6行目の「(14)」を「(9)」と、同行目の「⑭」を「⑨」と、同頁8行目の
「⑭」を「⑨」と、同行目の「10」を「5」と(いずれも該当部分の原判
決別紙の訂正を含む)、同頁9行目の「(15)」を「(10)」と、同行目の「⑮」
を「⑩」とそれぞれ改める。
(6) 同94頁(被控訴人の主張)14行目、同107頁(無効理由9中の参加
20 人FCNTの主張)19行目及び同109頁(無効理由10中の参加人FC
NTの主張)9行目の各「4つ」をいずれも「四つ」と、同119頁の「1
0 争点⑭」の(控訴人の主張)、(被控訴人の主張)及び(参加人エリク
ソンの主張)の各「同じ」をいずれも「本件各発明を本件各2次訂正発明と
置き換えてそれぞれ同じ」とそれぞれ改める。
25 3 当審における控訴人の主な補充主張
(1) 争点③(被控訴人方法が本件各発明の技術的範囲に属するか。 のうち
) 「双
方向ページングシステム」(構成要件A)について
ア(ア) 原判決は、本件優先日当時の「ページングシステム」と、ポケベルサ
ービス開始当初のページングシステムを混同している。
ポケベルサービス開始当初のポケベルは、一般の電話からポケベルへ
5 片方向に呼び出し信号を受信するだけであり、受信者は、それを見て近
くの公衆電話から送信者へ電話をかけるという利用方法であった。この
ような当初のポケベルのシステムが、原判決が判示する「無線呼出シス
テム」である。
しかし、本件優先日当時のページャは、一般電話(プッシュホン)か
10 ら10文字程度の数字列、カナ、漢字を送信し、ページャに表示できるよ
うになっており、電子メッセージ、音声メッセージなど大容量のデータ
の受信が可能なものとなっていた。これに加えて、乙5及び甲55によ
ると、本件優先日当時のページャは、英数字データ、自由文による新規メ
ッセージを他のページャに送信できるものとなっていた。
15 したがって、本件各発明の特許請求の範囲において「ページャ」及び
「ページングシステム」という用語が使われているとしても、本件優先
日当時の当業者は「双方向ページングシステム」を、当然に無線呼出シス
テムを前提としたもので、短文などの呼出メッセージを受信した後に、
アックバック(受信通知)等の簡単な返信機能を付与した受動的なシス
20 テムと解釈することはない。
(イ) さらに、本件優先日前の文献である甲59(特開昭61-2287
35号公報)に記載の双方向ページングシステムの端末は、携帯無線機
と呼ばれており、双方向ページングシステムの端末は単なる簡易な呼出
受信機に限定されていないことがわかる。加えて、甲59の双方向ペー
25 ジングシステムにおいて、端末である携帯無線機は、呼出信号を受信し
呼び出されたか否かにかかわらず、能動的に、他の携帯無線機にメッセ
ージの送信が可能なものであり、携帯無線機相互間で直接メッセージの
交換ができるシステムである。そして、携帯無線機が送信するメッセー
ジはキーボード入力するものであるから、そのメッセージの内容はアッ
クバック(受信通知)や定型文のような簡単な返信内容ではなく、実質的
5 な情報を含むものである。
その他にも、丙A1(国際公開番号 WO93/01666号の公開公
報)の背景技術には、「典型的には、発呼ポータブルトランシーバシステ
ム、例えば、ページングシステム内の発呼アックノレッジバックページ
ャは、複数の発呼アックノレッジバックページャと、少なくとも1つの
10 基地サイトとを含む。」(和訳の2頁13~16行)と記載されており、
この記載から明らかな通り、「ページャ」は、トランシーバシステムの一
態様でもあった。トランシーバとは、トランスミッタ(transmitter:送信
機)とレシーバ(receiver:受信機)とを組み合わせた造語であり、送受
信が可能なシステムである。したがって、丙A1からも、本件優先日当時
15 の「ページャ」は、情報の送受信が可能なシステムの端末として存在する
ものがあり、特許請求の範囲の記載に「ページャ」「ページングシステ
ム」との用語が使用されているからといって、本件優先日当時の当業者
は「双方向ページングシステム」を、当然に無線呼出システムを前提とし
たもので、短文などの呼出メッセージを受信した後に、アックバック(受
20 信通知)等の簡単な返信機能を付与した受動的なシステムと解釈するこ
とはない。
上記のほかにも、本件優先日前の文献である甲60(特開昭55-1
28939号公報)は、ページャを始めとする端末を有する加入者相互
間でメッセージを相互に開示する通信方式を開示している。
25 同じく甲61(特開平1-265730号公報)は、ページング端末
から他のページング端末に数字や文字を送信する双方向ページングシス
テムを開示している。
甲62(特開平3-187649号公報)及び甲63(特開平4-2
69021号公報)も、ページング受信機から他のページャにデータを
送信する双方向ページング・システムを開示している。
5 このように、甲60ないし63の双方向ページングシステムは、短文
などの呼出メッセージを受信した後に、アックバック(受信通知)等の簡
単な返信機能を付与した受動的なシステムではなく、呼出信号を受信し
呼び出されたか否かにかかわらず、能動的に、あるページャから他のペ
ージャにメッセージの送信が可能なものであり、ページャ相互間で直接
10 メッセージの交換ができるシステムであることがわかる。
加えて、乙3(NTT技術ジャーナル)によると、本件優先日には、上
記のような「双方向ページングシステム」の実用化の最終段階であった
ことがわかる。実際、甲64によると、本件優先日のわずか2年後には上
記のような「双方向ページングシステム」に係るページャが販売されて
15 いる。
したがって、本件各発明の特許請求の範囲において「ページャ」及び
「ページングシステム」という用語が使われているとしても、原判決が
判示するように、本件優先日当時の当業者は、「双方向ページングシステ
ム」を、当然に無線呼出システムを前提とするシステムと解釈すること
20 はなく、むしろ、本件明細書の記載に接した当業者は、甲59のように、
本件各発明の「双方向ページングシステム」は、呼出信号を受信し呼び出
されたか否かにかかわらず、能動的に、あるページャから他のページャ
にメッセージの送信が可能なものであり、ページャ相互間で直接メッセ
ージの交換ができるシステムであると理解する。
25 (ウ) 本件明細書21欄39行目から41行目には「このように、本発明
は、ユーザ間の無線データ通信のための、電話システムから独立して動
作する双方向ページングシステムを提供する。」との記載がある。
上記記載によると、本件各発明の「双方向ページングシステム」は、
「ユーザ間の無線データ通信」を行うものであり、実質的な情報を相互
に交換するシステムであることがわかる。
5 実際に、本件明細書には以下の記載がある。
「すなわち、ユーザはメッセージを送信するために必要とされ得るパ
ケットの数を考慮することなくメッセージを入力する。 (9欄6行~8
」
行)
「ループ202において、ユーザの英数文字(キーボード93を介し
10 て入力された)は、メッセージの終了を示す区切り文字が検出される(ス
テップ206)まで、繰り返しフェッチされる(ステップ204)。入力
されたステップ204でフェッチされた文字は、LCDディスプレー9
6上に表示される。」(11欄7行~12行)
「本件明細書中のキーボードは、いくつかの実施形態においては、例
15 えば英語、中国語、または日本語のタイピングを許可する多言語キーボ
ードまたはライティングパッドであり得る。ライティングパッドは、英
語のようなアルファベットがもちいられない日本、タイ、中近東の国々、
または中国において特に有用である。ライティングパッドはまた、図形
をスケッチし且つ送信するためにも用いられ得る。さらにデータ伝送と
20 関連してデータ圧縮/伸張技術を用いることができる。 (22欄25行
」
~33行)
上記記載のとおり、本件各発明の「双方向ページングシステム」で送
信されるメッセージは、ユーザがパケットの数を考慮することなく作成
するものである。加えて、当該メッセージはキーボードを介して入力さ
25 れるもので、当該キーボードは英語、中国語、または日本語のタイピング
を許可する多言語キーボードまたはライティングパッドであり、入力さ
れるメッセージは英数字や図形などであることがわかる。
そうすると、本件各発明の「双方向ページングシステム」において、
ページャから送信されるメッセージは、単なる受信通知やページャに登
録された定型の短文などではなく、ユーザがキーボードを介してフリー
5 に入力する自由文であり、実質的な情報である。
加えて、本件明細書の第6図は送信側ページャユニットP1が宛先で
あるページャユニットP2にメッセージを送信するタイミング図である
ところ、そこでは、ページャユニットP1がページャユニットP2にメ
ッセージを送信している。第6図によると、ページャユニットP1がペ
10 ージャユニットP2へメッセージを送信する前に、ページャユニットP
1が呼出信号を受信し呼出されていない。
そうすると、ページャユニットP1は、第6図によると、呼出信号を
受信し呼び出されたか否かにかかわらず、能動的に、キーボードに入力
された実質的な情報であるメッセージをページャユニットP2に送信し
15 ている。
そして、本件明細書に接した当業者は、ページャユニットP1と同様、
ページャユニットP2も、キーボードに入力された実質的な情報である
メッセージをページャユニットP1に送信可能であると理解する。
したがって、本件明細書の記載に接した当業者は、甲59のように、
20 本件各発明の「双方向ページングシステム」は、呼出信号を受信し呼び出
されたか否かにかかわらず、ページャ相互間で実質的な情報を含むメッ
セージを相互に交換するシステムであると理解する。
加えて、前記のとおり、本件明細書の21欄39行目から41行目に
は「このように、本発明は、ユーザ間の無線データ通信のための、電話シ
25 ステムから独立して動作する双方向ページングシステムを提供する。」
との記載があり、本件各発明の「双方向ページングシステム」は電話シス
テムから独立して動作するシステムであることがわかる。
そして、データ通信と電話通信は互いに対になる通信であり、本件明細
書の記載からも、本件明細書の「電話システムから独立して動作する」と
の記載は、本件各発明の「双方向ページングシステム」が、端末間で文字
5 や画像などのデータを通信する無線データ通信システムであり、人間同士
のリアルタイムの通話による通信システムとは異なることを説明するも
のである。
(エ) 上記のとおり、本件各発明の「双方向ページングシステム」はページ
ャ同士でメッセージの交換が可能なシステムである。
10 つまり、原判決が判示するように、本件優先日当時の当業者は、特許請
求の範囲に「ページャ」との用語が使用されているからといって、本件各
発明の「双方向ページングシステム」を、無線呼出システムを前提とした、
短文などの呼出メッセージを受信した後に、アックバック(受信通知)等
の簡単な返信機能を付与した受動的なシステムと解釈しない。
15 このことは現在の当業者も同様である。甲68(特表2022-502
973号の公表公報。公表日は令和4年1月11日)は、3GPP、LT
Eプロトコルをはじめとする無線アクセスネットワークの無線リンクモ
ニタリングの拡張に関する発明を開示する(段落【0081】)。そして、
同無線アクセスネットワークに使用されるユーザ機器の一例として「ペー
20 ジャ」があげられている(段落【0079】)。
また、甲69(特許第6824178号の特許公報。発行日は令和3年
2月3日)は、3GPP LTEネットワークを含むセルラーネットワー
クの負荷分散に関する発明を開示する(段落【0002】)。そして、同
セルラーネットワークに使用されるモバイル端末の一例として「ページ
25 ャ」があげられている(段落【0028】)。
そして、甲68記載のLTEプロトコルをはじめとする無線アクセスネ
ットワーク及び甲69記載の3GPP LTEネットワークを含むセル
ラーネットワークは、無線呼出システムを前提とした、短文などの呼出メ
ッセージを受信した後に、アックバック(受信通知)等の簡単な返信機能
を付与した受動的なシステムではないことは明らかである。
5 そうすると、現在の当業者も特許請求の範囲において「ページャ」とい
う用語が使用されているからといって、本件各発明の「双方向ページング
システム」を、無線呼出システムを前提とした、短文などの呼出メッセー
ジを受信した後に、アックバック(受信通知)等の簡単な返信機能を付与
した受動的なシステムと解釈しない。
10 (オ) 上記のとおり、本件各発明の「双方向ページングシステム」は、原判決
が判示するような、短文などの呼出メッセージを受信した後に、アックバ
ック(受信通知)等の簡単な返信機能を付与した受動的なシステムではな
い。
本件明細書の記載に接した当業者は、本件各発明の「双方向ページング
15 システム」のページャは、呼出信号を受信し呼び出されたか否かにかかわ
らず、能動的に、入力された実質的な情報であるメッセージをその他のペ
ージャに送信可能なものであり、ページャ相互間で実質的な情報を含むメ
ッセージを交換するシステムであると理解する。
しかるところ、被控訴人のLTE通信方式の「双方向無線データ通信シ
20 ステム」においては、端末であるUEは、呼出信号を受信し呼び出された
か否かにかかわらず、能動的に、入力された実質的な情報であるデータ(パ
ケットデータ)をその他のUEに送信可能なものであり、UE相互間で実
質的な情報を含むデータ(パケットデータ)を交換するシステムであるか
ら、本件各発明の「双方向ページングシステム」に相当する。また、この
25 ような被控訴人のLTE通信方式に用いられるUEは本件各発明の「ペー
ジャ」に相当する。
イ 本件各発明の「双方向ページングシステム」は音声通話の伝送を行う電話
システムから発展した通信システムを排除していない。
(ア) 原判決は、本件優先日当時、当業者は、「双方向ページングシステム」
及び「ページャ」は、音声通話の伝送を行う電話システムやそれから発展し
5 た通信システムとは異なるものと理解していたと判示する(原判決78頁
21行目から79頁1行目まで)。
しかし、前記アのとおり、特許請求の範囲に「ページャ」及び「ページン
グシステム」という用語を使用しているからといって、本件各発明の「双方
向ページングシステム」を、短文などの呼出メッセージを受信した後に、ア
10 ックバック(受信通知)等の簡単な返信機能を付与したシステムと解釈する
ことはない。
むしろ、本件明細書の記載に接した当業者は、本件各発明の「双方向ペー
ジングシステム」のページャは、呼出信号を受信し呼び出されたか否かにか
かわらず、能動的に、入力された実質的な情報であるメッセージをその他の
15 ページャに送信可能なものであり、ページャ相互間で実質的な情報を含む
メッセージを交換するシステムと考える。
したがって、特許請求の範囲の記載において「双方向ページングシステ
ム」という用語が使用されているからといって、本件明細書に接した当業者
は、本件各発明の「双方向ページングシステム」が、第2世代(2G)の携
20 帯電話システムのように電話システムから発展した通信システムと異なる
ものと当然に理解することはない。
ところで、本件明細書の「電話システムから独立して動作する双方向ペ
ージングシステム」との記載は、人間同士のリアルタイムによる通話による
通信システムに接続する従来技術と異なり、本件各発明の「双方向ページン
25 グシステム」が端末間で文字や画像などのデータを通信する無線データ通
信システムであることを説明するものである。
そして、原判決も判示するとおり、本件優先日当時、人間同士のリアルタ
イムによる通話を行う電話システムは、一般的には回線交換方式が採用さ
れていた(原判決78頁11行目から12行目まで)。
そうすると、本件明細書の「電話システムから独立して動作する」とは、
5 本件各発明の「双方向ページングシステム」が、本件優先日当時、電話シス
テムにおいて一般的に使用されていた回線交換方式から独立して動作する
システムであることを説明するものである。
したがって、本件明細書に接した当業者は、本件優先日当時の第2世代
(2G)のパケット交換方式によるデータ通信システムも、本件明細書記載
10 の「電話システム」(回線交換方式)から独立して動作するシステムである
限り、同システムは本件各発明の「双方向ページングシステム」に相当する
と理解する。
以上のとおり、電話システムから発展した移動システムが、本件各発明
の「双方向ページングシステム」から当然に排除されることはない。
15 (イ) 音声通話の伝送を行う電話システムの一種である携帯電話システム
は、第1世代の回線交換方式による音声通話サービスから第4世代(4G)
LTEの携帯電話システムへと発展してきている。
つまり、被控訴人のLTE通信方式は電話システムから発展した移動シ
ステムである。しかし、上記のとおり、LTE通信方式が電話システムから
20 発展した移動システムであるからといって、直ちに本件各発明の「双方向ペ
ージングシステム」に相当しないと判断されることはない。
そうすると、次に問題となるのは、被控訴人のLTE通信方式が「電話シ
ステムから独立して動作するシステム」といえるかである。
被控訴人のLTE通信方式において、被控訴人方法の「UE」のパケット
25 データ送信機能は回線交換方式を使用しないでも動作できるものであり、
被控訴人サービスの被控訴人のLTE通信方式は、回線交換方式を用いな
いで動作するシステムである。
したがって、被控訴人のLTE通信システムのデータ通信及びVoLT
E導入後の音声通話は、回線交換方式を用いないで、端末間でデータを通信
する無線データ通信システムであるから、本件各発明の「双方向ページング
5 システム」に相当する。そして、被控訴人方法のUEは、無線データ通信シ
ステムである被控訴人のLTE通信システムに用いられる端末であるか
ら、本件各発明の「ページャ」に相当する。
(ウ) 仮に本件明細書の「電話システム」を回線交換、パケット交換といった
方式を問わない通話システムと解釈したとしても、少なくとも、VoLTE
10 導入前の被控訴人のLTE通信方式のデータ通信は、電話システムから独
立して動作する無線データ通信システムであり、
「双方向ページングシステ
ム」に該当する。
仮に本件明細書の「電話システム」を回線交換、パケット交換といった方
式を問わない通話システムと解釈したとしても、少なくとも、VoLTE導
15 入前のLTE通信システムは、電話システムから独立して動作するシステ
ムで、端末間で文字や画像などのデータを通信する無線データ通信システ
ムであるから、「双方向ページングシステム」に相当する。そして、VoL
TE導入前のLTE通信システムに用いられるUEは、本件各発明の「ペー
ジャ」に相当する。
20 (2) 争点④(被控訴人方法が特許請求の範囲に記載された構成と均等なものと
して本件各発明の技術的範囲に属するか)について
ア 均等の第2要件の充足
原判決は、本件各発明の「双方向ページングシステム」及び「ページャ」
を、LTE通信方式及びUEに置き換えた場合には、いずれのセルにおいて
25 も、時分割共有技術及び同期化技術により少ないローカル周波数と少ない
共通(切替)周波数を用いるという前記の本件各発明の目的を達することが
できず、中央局から許可される使用可能な周波数の使用を最小限に抑える
という作用効果を奏しないと判示する。
確かに、本件明細書記載の第1の実施形態のとおり、本件各発明の各信
号と、それらを送信する四つの周波数を1対1で各信号に結び付けること
5 で、本件各発明は、少ないローカル周波数を用いるという作用効果を奏する
ことが可能となろう。
しかし、本件各発明は、各信号を送信する周波数の数を特に限定してい
ないし、ましてや当該周波数を各信号と1対1の関係で結びつけることを
発明特定事項としていない。
10 したがって、本件各発明の従来技術と比較した技術的特徴を、少ないロ
ーカル周波数を用いる点にあるという原判決は誤りである。原判決の判示
は、本件各発明の特許請求の範囲を無視して、本件各発明の技術的範囲を実
施例に限定解釈するものであり、その判断は失当である。
本件各発明は、単に少ないローカル周波数と少ない共通(切替)周波数を
15 用いるという作用効果だけではなく、ページングメッセージを送信する周
波数を多数のページャで共通化するという作用効果を奏するものである。
本件明細書は、リクエスト信号および許可信号の送受信という2段階の
ステップを通じて、各ページャにおいて周波数が共通化されることで、特定
のリソースが特定のページャに寡占される状態を避け、有限なリソースを
20 有効活用する方法を開示している。
したがって、本件各発明における「双方向ページングシステム」及び「ペ
ージャ」を、被控訴人のサービスにおいて利用されているLTE通信方式及
びUEに置き換えた場合にも、リクエスト信号及び許可信号の送受信とい
う2段階のステップを経た周波数の共通化という作用効果を奏しているの
25 で、被控訴人のLTE通信方式及びページャは、均等の第2要件を充足す
る。
イ 均等の第1要件の充足
上記のとおり、本件各発明の従来技術に見られない特有の技術的思想を
構成する特徴的部分は、ページャがページングメッセージを有する場合に、
リクエスト信号および許可信号の送受信という2段階のステップを経て、
5 ページングメッセージを送信する周波数の使用を許可される構成を採用す
ることで、各ページャにおいて周波数を共通化している点である。
しかるところ、被控訴人のLTE通信方式も、UEがパケットデータを
有する場合に、スケジューリングリクエスト信号およびDCI信号の送受
信という2段階のステップを経て、パケットデータを送信する周波数を含
10 むRBを割り当てるという構成を採用することで、各UEにおいて周波数
を含むRBを共通化している。
そうすると、被控訴人のLTE通信方式は本件各発明の従来技術に見ら
れない特有の技術的思想を構成する特徴的部分を備えているから、被控訴
人のLTE通信方式及びUEと本件各発明の「双方向ページングシステム」
15 及び「ページャ」の相違は本質的部分ではなく、均等の第1要件を充足する。
ウ 均等の第3ないし第5要件の充足
被控訴人のLTE通信方式は、均等の第3ないし第5要件も充足する。
したがって、被控訴人のLTE通信方式は、本件各発明の特許請求の範
囲に記載された構成と均等なものとして、本件各発明の技術的に範囲に属
20 する。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、控訴人の請求は棄却すべきものと判断する。その理由は、当審
における控訴人の主な補充主張も踏まえ、次のとおり補正し、後記2のとおり
当審における控訴人の主な補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決の
25 「事実及び理由」中、第3(原判決34頁18行目から83頁22行目まで)
のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決35頁8行目の「、」を「、
、 」と改め、同63頁18行目の「コロナ
社)」の次に「、乙2」を、同65頁9行目の「以下」の次に「、商号変更の
前後を通じ」をそれぞれ加え、同72頁20行目の「3つ」を「三つ」と、
同74頁7行目の「株式会社NTTドコモ」を「ドコモ」と、同77頁23
5 行目、同78頁5行目、同頁7行目、同頁11行目、同頁14行目、同頁2
1行目、同79頁3行目及び同頁10行目の各「本件出願日」をいずれも「本
件優先日」と、同頁24行目及び同80頁1行目の各「4つ」をいずれも「四
つ」と、同頁7行目の「1つ」を「一つ」と、同頁8行目、同頁14行目、
同81頁4行目、同頁15行目及び同頁22行目ないし23行目の各「本件
10 出願日」をいずれも「本件優先日」とそれぞれ改める。
(2) 同82頁6行目から同83頁22行目までを以下のとおり改める。
「特許請求の範囲に記載された構成中に相手方が製造等をする製品又は用
いる方法(以下「対象製品等」という。)と異なる部分が存する場合であっ
ても、①同部分が特許発明の本質的部分ではなく、②同部分を対象製品等に
15 おけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作
用効果を奏するものであって、③上記のように置き換えることに、当該発明
の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が、対象製品
等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、④対
象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者が
20 これから同出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、⑤対象製品等が
特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外された
ものに当たるなどの特段の事情もないときは、同対象製品等は、特許請求の
範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属す
るものと解するのが相当である(最高裁平成6年(オ)第1083号同10
25 年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁、最高裁平成28年
(受)第1242号同29年3月24日第二小法廷判決・民集71巻3号3
59頁参照)。
そして、上記①の要件(以下「第1要件」という。)における特許発明にお
ける本質的部分とは、当該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技
術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解すべきで
5 あり、特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて、特許発明の課題及び解
決手段とその効果を把握した上で、特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、
従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるか
を確定することによって認定されるべきである。
本件各発明は双方向ページングシステムの動作方法に関する発明であると
10 ころ、本件各発明の意義は、既に検討したとおり、従来は片方向であったペ
ージングシステムに双方向通信能力を提供するものであって、多数の周波数
を用いることなく、少ない周波数によって電話システムから独立して動作す
る双方向ページングシステムを提供することにあるから、本件各発明の本質
的部分、すなわち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴
15 的部分とは、従来は片方向であったページングシステムを前提とし、これを
多数の周波数を用いることなく、電話システムから独立して双方向化する点
にあるものと認められる。
これに対し、被控訴人方法は、LTE通信方式における上りリンクのデー
タ送信に関する方法であるから、本件各発明と被控訴人方法とは、ページン
20 グシステムであるか電話システムであるかという点において相違するもので
ある。
そして、電話システムは、双方向のリアルタイム通話を前提としたシステ
ムであって、片方向通信を双方向化するという課題がそもそも生じ得ないも
のであるから、被控訴人方法は、本件各発明の意義を本質的に有するもので
25 はない。加えて、補正の上で引用した原判決第3の5(1)イ(原判決77頁4
行目から79頁1行目まで)のとおり、本件各発明は前記電話システムから
独立して動作するものであることからしても、本件各発明と電話システムで
ある被控訴人方法とは、その本質的部分において異なるというべきである。
そうすると、本件各発明はページングシステムであるのに対して、被控訴
人方法は電話システムであるとの相違部分について、本件各発明の本質的部
5 分ではないとすることはできない。
よって、被控訴人方法は、均等侵害の第1要件を充足しないから、その余
の要件について判断するまでもなく、均等侵害は成立しない。
したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。」
2 当審における控訴人の主な補充主張に対する判断
10 (1) 争点③(被控訴人方法が本件各発明の技術的範囲に属するか。 のうち
) 「双
方向ページングシステム」(構成要件A)について
ア 前記第2の3(1)アの補充主張につき
(ア) 控訴人は、原判決は、本件優先日当時の「ページングシステム」と、
ポケベルサービス開始当初のページングシステムを混同しており、本件
15 各発明の特許請求の範囲において「ページャ」及び「ページングシステ
ム」という用語が使われているとしても、本件優先日当時の当業者は「双
方向ページングシステム」を、当然に無線呼出システムを前提としたも
ので、短文などの呼出メッセージを受信した後に、アックバック(受信
通知)等の簡単な返信機能を付与した受動的なシステムと解釈すること
20 はない旨を主張し、乙5及び甲55の記載を挙げる。
乙5(「月間テレコミュニケーション」平成9年(1997年)6月号
(同年5月25日発行))には補正の上で引用した原判決第3の4(2)イ
(原判決63頁22行目から64頁21行目まで)の内容の記載がある
ところ、具体的記載は以下のとおりである。
25 「サービス開始当初に使用されたページャは、モトローラ製の『タンゴ』
である。(68頁右欄)
」
「『タンゴ』の後継機種・・・
『スカイライター』
(写真②)を導入した。
タンゴとの相違点は以下のとおりだ。
① 自由文の送信が可能(1文字ずつボタン操作で選択して入力)
② ページャーからの新規メッセージ発信が可能(タンゴでは、受信メ
5 ッセージに応答する形でのみメッセージ発信が可能)(69頁左欄)
」
「97年2月にスカイテルが発表した事業計画によると、97年末まで
にReFLEX利用のユーザ数として20万を予定している。その内訳
としては、
・・・双方向のパーソナル通信ができる機種を5~6万、シス
テム搭載型のアプリケーションを1万5000~2万、スカイワード・
10 プラスを15万としている。(同頁右欄)
」
また、甲55(平4-73813号特許公報(平成4年(1992年)
11月24日公告) には、
) 補正の上で引用した原判決第3の4(2)エ(イ)
(原判決66頁26行目から68頁24行目まで)のとおり、「携帯用
セル型(Cellular)無線電話は、優れた二方向通信サービスを
15 提供するが、ページャ使用者の要求を超えており、サービスに相応して
高価格である。現時点での活動を乱されずに通報を受け取ることのみを
望む使用者にとつては、実時間での声(またはデータ)通報は必ずしも
望ましいとは言えない。」
(6欄34行目から40行目)との記載がある。
乙5は、本件優先日の約3年後に発行された技術雑誌であるところ、
20 同文献には、本件優先日当時において、ページャが自由文による新規メ
ッセージを送信できたことを裏付ける記載はない。また、甲55は特許
出願に係る文献であって、双方向ページングシステムに関する技術につ
いては記載があるものの、これにより直ちに本件優先日当時のページャ
において自由文の送信が可能であったことを裏付けるものとはいえな
25 い。
また、ページャについての文献等(電子情報通信用語辞典、情報・通
信用語辞典)には、本件優先日の後においても、補正の上で引用した原
判決第3の4(2)ア(原判決62頁25行目から63頁21行目)のとお
り「相手に信号や非常に短いメッセージ、データを一方通行で送るシス
テム」との(乙2)、同第3の4(2)エ(カ)(原判決70頁21行目から7
5 1頁6行目まで)のとおり「無線を使ってトーン信号や簡単なデータを
送ることで、相手から自分あてにメッセージが入ったことを知らせてく
れる移動通信システム」との(乙75)記載がそれぞれされているとこ
ろであり、ページングシステム(ページャ)については、信号や簡単な
メッセ―ジを送信するシステムであるとしている。
10 そうすると、原判決が、本件優先日当時の当業者は「双方向ページン
グシステム」を、当然に無線呼出システムを前提としたもので、短文な
どの呼出メッセージを受信した後に、アックバック(受信通知)等の簡
単な返信機能を付与した受動的なシステムと解釈するとしたことは、
「ページャ」及び「ページングシステム」の用語について、辞典に記載
15 された一般的な解説に基づくものであって、誤りはないというべきであ
る。
したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
(イ) 控訴人は、乙5の前記「①自由文の送信が可能(1文字ずつボタン
操作で選択して入力)、
」「②ページャーからの新規メッセージ発信が可
20 能(タンゴでは、受信メッセージに応答する形でのみメッセージ発信が
可能)、
」「97年2月にスカイテルが発表した事業計画によると、97
年末までにReFLEX利用のユーザ数として20万を予定している。
その内訳としては、・・・双方向のパーソナル通信ができる機種を5~
6万、システム搭載型のアプリケーションを1万5000~2万、スカ
25 イワード・プラスを15万としている。」との記載を根拠として、本件
優先日当時のページャは、自由文による新規メッセージを送受信でき
るものであったと主張する。
しかし、控訴人の指摘する乙5の記載部分は、前記のとおり、モトロ
ーラ製のページャである「タンゴ」との相違点について記載したもので
あり、その記載により本件優先日当時のページャにおいて、自由文の送
5 信が可能であったものとは認められない。
また、乙5の「97年2月にスカイテルが発表した事業計画によると、
97年末までにReFLEX利用のユーザ数として20万を予定して
いる。その内訳としては、・・・双方向のパーソナル通信ができる機種
を5~6万、システム搭載型のアプリケーションを1万5000~2
10 万、スカイワード・プラスを15万としている。 との記載についても、
」
1997年2月にスカイテルが発表した事業計画に基づくものにすぎ
ず、これは本件優先日よりも約2年8か月も後のことであり、本件優先
日において、双方向パーソナル通信ができる機種が利用されていたこ
とを示すものではない。
15 このように、乙5は、前記のとおり、そもそも本件優先日の約3年後
に発行された技術雑誌である上に、乙5には本件優先日当時において、
ページャが自由文による新規メッセージを送受信できたことを裏付け
る記載はないというべきである。
控訴人が当審において提出する甲59ないし63及び丙A1等も、
20 いずれも特許出願に係る文献であって、双方向ページングシステムに
関する技術については記載があるものの、これにより直ちに本件優先
日当時のページャが自由文の送信が可能であったことを裏付けるもの
とはいえない。
むしろ、前記(ア)のとおり、甲55には、
「携帯用セル型(Cellu
25 lar)無線電話は、優れた二方向通信サービスを提供するが、ページ
ャ使用者の要求を超えており、サービスに相応して高価格である。現時
点での活動を乱されずに通報を受け取ることのみを望む使用者にとつ
ては、実時間での声(またはデータ)通報は必ずしも望ましいとは言え
ない。」
(6欄34行目から40行目)と記載されており、かかる記載は、
ページャは二方向通信サービスを提供する電話システムとは異なり、
5 通報を受け取るのみの受信機として利用されていたことを示すものと
いうことができる。
そして、本件明細書には、従来技術として、従来のページャは片方向
通信であったこと、双方向通信とする試みとしては、ページャを電話シ
ステムに接続することや、アックバックシステムによるものについて
10 しか開示されていない(3欄45行目から4欄25行目)ところであり、
本件優先日当時のページャについて、自由文による新規メッセージを
送受信することが可能な双方向ページャであったと理解することは、
本件明細書の開示内容に反するものというほかない。
以上によれば、本件優先日当時の「ページャ」について、自由文によ
15 る新規メッセージを送受信できるものであると認定することはできず、
原判決が、ページャを前記のとおり解釈したことに関し、誤りはないと
いうべきである。
したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
イ 前記第2の3(1)イの補充主張につき
20 控訴人は、本件明細書の「電話システムから独立して動作する」
(21欄
40行目)旨の記載は、本件優先日当時の電話システムが回線交換方式で
あったことに鑑みれば、回線交換方式の電話システムから独立して動作す
ることを意味するものであると主張する。
しかし、本件優先日当時において、パケット交換方式の電話システムは
25 周知の技術に属するものであり(乙45~53の2) 電話システムが回線
、
交換方式に限られるものでないことについては技術常識であったと認め
られるところ、本件明細書の「電話」及び「電話システム」について、こ
れが回線交換方式に限られ、パケット交換方式の電話システムは除外され
る旨の記載は認められない。
そうすると、本件明細書に記載の「電話システム」について、回線交換
5 方式の電話システムを意味するとの控訴人の主張は、本件明細書の記載及
び本件優先日当時の技術常識に整合するものということはできない。
したがって、被控訴人サービスに係るLTE通信方式におけるデータ通
信はパケット交換方式であって、回線交換方式の電話システムから独立し
て動作するものであるから、「電話システムから独立して動作する双方向
10 ページングシステム」に該当する旨の控訴人の主張は、採用することがで
きない。
以上のとおり、被控訴人方法が本件各発明の「ページャ」及び「双方向
ページングシステム」を充足するとする控訴人の主張は理由がない。
(2) 争点④(被控訴人方法が特許請求の範囲に記載された構成と均等なものと
15 して本件各発明の技術的範囲に属するか)について
控訴人は、仮に被控訴人方法が、文言上は本件各発明の技術的範囲に属し
ないものとしても、これと均等なものとして、特許権侵害に当たる旨を主張
する。
しかし、補正の上で引用した原判決第3の6(原判決82頁6行目から8
20 3頁22行目まで)のとおり、本件明細書の記載に鑑みれば、本件各発明の
「双方向ページングシステム」の技術的意義は、アックバック機能を備える
ことによって双方向化した従来の「双方向ページングシステム」と比較して、
使用する周波数を最小限に抑えて双方向化を実現したことにあると認められ
る。
25 そうすると、
「電話システム」である被控訴人のLTE通信方式は、双方向
リアルタイム通話を前提としたシステムであって、片方向通信を双方向化す
るという課題がそもそも生じ得ないものである。加えて、前記(1)イで検討し
たとおり、本件各発明は電話システムから独立して動作するものであること
からしても、電話システムである被控訴人方法と本件各発明とは、その本質
的部分において異なるというべきである。
5 この点について控訴人は、本件各発明の本質的部分は、リクエスト信号お
よび許可信号の送受信という2段階のステップを経ることにより、ページン
グメッセージを送信する周波数を多数のページャで共通化することであり、
「双方向ページングシステム」及び「ページャ」であることは本質的部分で
はない旨主張する。
10 しかし、補正の上で引用した原判決第3の3(2)(原判決58頁26行目か
ら60頁9行目まで)のとおりの本件各発明の技術的意義に照らせば、
「双方
向ページングシステム」及び「ページャ」であることは本件各発明の本質的
部分でないということはできない。
したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
15 3 結論
よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとし
て、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
東 海 林 保
裁判官
今 井 弘 晃
裁判官
水 野 正 則
別紙
当 事 者 目 録
5 控 訴 人 ジーピーエヌイー コーポレイション
同訴訟代理人弁護士 宮 原 正 志
山 本 健 策
上 米 良 大 輔
10 福 永 聡
本 田 輝 人
同訴訟代理人弁理士 長 谷 部 真 久
同補佐人弁理士 飯 田 貴 敏
15 被 控 訴 人 ソフトバンク株式会社
同訴訟代理人弁護士 北 原 潤 一
米 山 朋 宏
黒 田 薫
20 同訴訟代理人弁理士 中 村 佳 正
被控訴人補助参加人 エリクソン・ジャパン株式会社
同訴訟代理人弁護士 三 好 豊
25 飯 塚 卓 也
渡 邉 峻
同訴訟代理人弁理士 大 塚 康 徳
高 柳 司 郎
同補佐人弁理士 江 嶋 清 仁
坂 本 隆 志
被控訴人補助参加人 F C N T 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 田 中 成 志
板 井 典 子
10 山 田 徹
澤 井 彬 子
沖 達 也
被控訴人補助参加人 セイコーソリューションズ株式会社
同訴訟代理人弁護士 水 谷 直 樹
曽 我 部 高 志
以上
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