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令和2(ワ)25892特許権侵害差止等請求事件

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裁判所 請求棄却 東京地方裁判所東京地方裁判所
裁判年月日 令和5年11月29日
事件種別 民事
当事者 被告双日株式会社
対象物 喫煙物品、および吸引材をもたらすために喫煙物品を用いること
法令 特許権
特許法101条2号6回
特許法101条1号4回
特許法36条6項1号1回
特許法102条2項1回
民法709条1回
民事訴訟法61条1回
キーワード 実施164回
分割42回
特許権18回
侵害15回
間接侵害11回
差止8回
許諾5回
進歩性3回
無効2回
審決2回
損害賠償2回
主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。
1 被告らは、別紙被告製品目録記載2の各製品を販売し、輸入し、又は販売の
2 被告らは、原告アール・エイ・アイに対し、連帯して、1億円及びこれに対
3 被告らは、原告ニコベンチャーズに対し、連帯して、1億円及びこれに対す
102条2項に基づき、独占的通常実施権の許諾を受けた令和元年8月29日
10月31日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支
1 前提事実(当事者間に争いのない事実及び証拠上容易に認められる事実等。20
28年7月29日より後に各被告らにより輸入、販売及び販売の申出がさ
2月26日時点において、別紙被告製品目録記載1の加熱式タバコスティ
1の各商品名の加熱式タバコスティックの輸入及び販売を行っていた。た
0度まで加熱するように、ヒータブレードが前記タバコロッドに突き刺さ
2 争点
3 争点に対する当事者の主張5
025】、【0063】、【図4】等)、紙から形成されてよいこと
305は、制御ハウジング200の受容チャンバー210と嵌合する嵌5
2】には、「吸引可能な物質媒体350は、加熱されると、香味含有物
351に挿入され、これにより、吸引可能な物質媒体は、その内部から
6】)であって、この「吸引可能な物質媒体壁352」は、「内面と外
083】において、「カートリッジ本体」との間に「デッドスペース」
063】においては、「カートリッジ本体」又は「オーバーラップ部」20
26日に公開された乙19公報に記載された乙19発明に基づいて当業者20
2日に公開された乙20公報に記載された乙20発明に基づいて当業者が
2の端部に接し、
0発明の固体サポートとラッパーとの間には空間がある。よって、仮
2の端部に接し、
2-2」という。)。
2による加熱態様は、加熱式タバコスティック中のスレッドの有無によ5
1 本件発明及びその意義について
1つ以上の開口部も含むことができる。あるいは、チャンバーは、制御ハ
0分の1の長さを含むのが好ましい(それにより、約6~約10個の区域、
6】
28】
029】20
350は、加熱されると、香味含有物質のような吸引可能な物質を放出す
4の実施形態では、吸引可能な物質媒体350は、吸引可能な物質を含む
0質量%未満、5質量%未満、または2質量%未満であるなど)であり得
6は、すでに上述したように、紙材料または好適なポリマー材料を含んで
0と直接接していてよい。したがって、第2の内層は実質的に開口構造を
5%、少なくとも約90%、または少なくとも約95%)に沿って、吸引
1の端部353と、カートリッジ本体305の嵌合端部310に近接する
5と受容端部のいずれか一方が、制御ハウジングの全長の約55%、約6
0%、約65%、または約70%を含んでもよい。【0061】
25)を受容するのに充分な大きさおよび形を有する開口部を含むものと
400に供給する電気ソケットとして特徴づけることができる。いくつか
22(図9で見られるような導電体)が突出部に存在し、電気加熱部材
0が電気エネルギー源から電気エネルギーを受け取るという点で、突出部
225は、電気エネルギー源の伸張部として機能できる。【0071】
4】
319を通じて引き込まれるのが望ましい周囲空気との所望の体積に依存
50、電気加熱部材400、および電気エネルギー源220が整列する。
302は、フランジの外縁が、カートリッジオーバーラップ部の外周全体
0の分割およびフレア型の第2の端部354を通じて引き込まれ、吸引可
25の上に、所定の長さの部分のみに沿って存在することになる。図4お25
00が図7に関して始動し、消費者による吸入のために、吸引可能な物質
05の吸い口端のさらに近くに、かつ、吸引可能な物質媒体のすでに加熱
210内での割り送りを促すのに有用なさらなる構成要素を含んでよい。
219も含んでもよい。このようなインジケーター219は、本発明の物
211を含むものとして説明できる。このような受容端部は、受容チャン
0を制御ハウジング200の受容チャンバー210の中に挿入できる(ま
0の分割加熱をもたらす物品10を含む。特に、加熱部材400は、再利
200の受容チャンバー210の中に挿入されるまでは、吸引可能な物質
00は、使い捨て式であることも、カートリッジ300の構成要素として10
107】
50の上または中に均一に分散させてもよい。あるいは、吸引可能な物質
0の区域のうち、加熱部材400によって加熱される最後の区域のような25
1つの区域は、吸引可能な物質媒体350の残りの部分と異なる香味また
15】
0の構成要素におけるように、)その突出部と組み合わされた電気加熱部
2 争点1-5(構成要件Dの充足性)について25
0と嵌合する嵌合端部310と、吸引可能な物質を消費者に運べるようにす
040】)、「特有の実施形態では、制御ユニットは概して、別個に提供さ
00の受容チャンバー210内に、嵌合端部310を有するカートリッジ3
00を挿入してその奥に送り込む形態が示されている。
2】、【0018】、【0027】、【0059】、【0061】、【0
102】等にも記載があるが、カートリッジの嵌合端部の端面に接触又は
3 以上によれば、被告製品は、少なくとも、構成要件Dを充足しないから、他15
事件の概要 本件は、発明の名称を「喫煙物品、および吸引材をもたらすために喫煙物品 を用いること」とする特許権を譲り受けた原告アール・エイ・アイ及び原告ア25 ール・エイ・アイから独占的通常実施権の許諾を受け、さらに専用実施権の設 定を受けた原告ニコベンチャーズが、被告製品目録記載1の各製品のうちの1 の製品及び同記載2の各製品のうちの1の製品からなる製品が原告アール・エ イ・アイの有する特許権に係る発明の技術的範囲に属し、被告らの同記載1の 各製品の輸入、販売又は販売の申出が特許法101条1号及び2号にあたり、 同記載2の各製品の輸入、販売又は販売の申出が同条2号にあたり、原告アー5 ル・エイ・アイの有する特許権並びに原告ニコベンチャーズの有する独占的通 常実施権及び専用実施権を侵害すると主張して、被告らに対し、特許法100 条1項に基づき、それぞれ、同記載2の各製品の販売等の差止めを求めるとと もに、原告アール・エイ・アイは、民法709条及び特許法102条3項に基 づき、本件特許が登録された平成28年7月29日から原告ニコベンチャーズ10 に対して独占的通常実施権の許諾をした日の前日である令和元年8月28日ま でに生じた損害金1億円(ただし、原告アール・エイ・アイが前特許権者から

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判決文

令和5年11月29日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
令和2年(ワ)第25892号 特許権侵害に基づく差止等請求事件
口頭弁論終結日 令和5年9月6日
判 決
原 告
アール・エイ・アイ・ストラテジック・ホールディングス
・インコーポレイテッド
(以下「原告アール・エイ・アイ」という。)
原 告
ニコベンチャーズ トレーディング リミテッド
(以下「原告ニコベンチャ-ズ」という。)
原告ら訴訟代理人弁護士 設 樂 隆 一
同 大 野 聖 二
同 小 林 英 了
同 高 橋 美 智 留
20 原告ら訴訟復代理人弁護士 井 深 大
原告ら訴訟代理人弁理士 松 野 知 紘
被 告
フィリップ・モリス・ジャパン合同会社
25 (以下「被告フィリップモリス」という。)
被 告 双 日 株 式 会 社
(以下「被告双日」という。)
被告ら訴訟代理人弁護士 田 中 昌 利
同 小 原 淳 見
同 中 島 慧
同 中 所 昌 司
10 被告ら訴訟復代理人弁護士 生 田 敦 志
主 文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。
15 事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告らは、別紙被告製品目録記載2の各製品を販売し、輸入し、又は販売の
申出をしてはならない。
2 被告らは、原告アール・エイ・アイに対し、連帯して、1億円及びこれに対
20 する令和2年10月31日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
3 被告らは、原告ニコベンチャーズに対し、連帯して、1億円及びこれに対す
る令和2年10月31日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は、発明の名称を「喫煙物品、および吸引材をもたらすために喫煙物品
25 を用いること」とする特許権を譲り受けた原告アール・エイ・アイ及び原告ア
ール・エイ・アイから独占的通常実施権の許諾を受け、さらに専用実施権の設
定を受けた原告ニコベンチャーズが、被告製品目録記載1の各製品のうちの1
の製品及び同記載2の各製品のうちの1の製品からなる製品が原告アール・エ
イ・アイの有する特許権に係る発明の技術的範囲に属し、被告らの同記載1の
各製品の輸入、販売又は販売の申出が特許法101条1号及び2号にあたり、
5 同記載2の各製品の輸入、販売又は販売の申出が同条2号にあたり、原告アー
ル・エイ・アイの有する特許権並びに原告ニコベンチャーズの有する独占的通
常実施権及び専用実施権を侵害すると主張して、被告らに対し、特許法100
条1項に基づき、それぞれ、同記載2の各製品の販売等の差止めを求めるとと
もに、原告アール・エイ・アイは、民法709条及び特許法102条3項に基
10 づき、本件特許が登録された平成28年7月29日から原告ニコベンチャーズ
に対して独占的通常実施権の許諾をした日の前日である令和元年8月28日ま
でに生じた損害金1億円(ただし、原告アール・エイ・アイが前特許権者から
譲り受けた不法行為に基づく損害賠償請求権の損害金を含む。)及び不法行為
の後である令和2年10月31日から支払済みまで民法所定の年3分の割合に
15 よる遅延損害金の支払を、原告ニコベンチャーズは、民法709条及び特許法
102条2項に基づき、独占的通常実施権の許諾を受けた令和元年8月29日
以降の損害金1億円及び不法行為の日(訴状送達の日の翌日)である令和2年
10月31日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支
払を、求めた事案である。
20 1 前提事実(当事者間に争いのない事実及び証拠上容易に認められる事実等。
証拠等は括弧で付記した。なお、書証は特記しない限り枝番を全て含み、英文
と翻訳文とを区別しない。また、西暦で表記されている場合も含めすべて和暦
で記載する。以下同じ。)
⑴ 当事者
25 原告アール・エイ・アイは、たばこ製品に関する知的財産権の保有及びラ
イセンスを業とする米国法人であり、原告ニコベンチャーズは、加熱式たば
こ製品及びニコチン等関連製品の開発及び商業化を業とする英国法人である
(弁論の全趣旨)。
被告フィリップモリスは、たばこ及びたばこ関連製品のマーケティング、
販売、輸入及びプロモーションを業とする合同会社であり、被告双日は、た
5 ばこ及びたばこ関連製品の販売及び輸入を業とする株式会社である(争いが
ない事実)。
⑵ 原告アール・エイ・アイが保有する特許権について
ア 訴外アール・ジエイ・レイノルズ・タバコ・カンパニー(以下「訴外レ
イノルズ社」という。)は、平成28年7月29日、下記の内容の特許権
10 (以下「本件特許権」という。)の設定登録を受けた(甲1)。
登録番号 特許第5978303号
出願番号 2014-525108
発明の名称 喫煙物品、および吸引材をもたらすためにその喫
煙物品を用いること
15 出願年月日 平成24年8月8日
優 先 日 平成23年8月9日
イ 原告アール・エイ・アイは、令和元年6月26日、訴外レイノルズ社か
ら、本件特許権の譲渡を受けた(甲1)。
ウ 原告ニコベンチャ-ズは、令和2年2月21日、原告アール・エイ・ア
20 イから、本件特許権について、以下の内容の専用実施権の設定を受けた
(甲1)。
地 域 日本国全域
期 間 本特許権の存続期間
専用実施権の内容 全部
25 エ 令和2年8月21日、本件特許権について、特許請求の範囲を訂正する
審決がされ、同年9月2日、確定した(甲1)。また、令和4年7月13
日、本件特許権について、特許請求の範囲を訂正する審決がされ、その後、
確定した。(甲14、弁論の全趣旨)
⑶ 特許請求の範囲について
本件特許権の請求項1の特許請求の範囲(ただし、訂正後のもの。)は、
5 以下のとおりである(以下、同請求項に記載された発明を「本件発明」とい
う。)。
「カートリッジと、電気加熱部材と、制御ハウジングと、を含む電気喫煙
物品であって、前記カートリッジは、実質的に筒状のカートリッジ本体と、
吸引可能な物質をともに含む実質的に筒状の吸引可能な物質媒体であって、
10 前記吸引可能な物質媒体と前記カートリッジ本体との間にポリマー材料を含
む環状空間を定めるように、前記カートリッジ本体内に配置されている、前
記カートリッジ本体の一端部と近接する第1端部及び前記カートリッジ本体
の他端部と近接する第2端部を有し、前記カートリッジ本体とほぼ同じ長さ
の吸引可能な物質媒体と、前記カートリッジ本体より長く、前記カートリッ
15 ジ本体を取り囲むオーバーラップ部であって、前記オーバーラップ部におけ
る前記カートリッジ本体から突出した部分が、前記カートリッジの吸い口端
と、前記吸引可能な物質媒体の吸い口側の端部と、の間に設けられたフィル
ター材料を囲う、オーバーラップ部と、を有し、前記電気加熱部材は、前記
カートリッジのオーバーラップ部内に配置され、前記制御ハウジングは、前
20 記カートリッジに機能可能に連結されている嵌合端部を有するとともに、前
記電気加熱部材に電力を供給する電気エネルギー源を含み、前記吸引可能な
物質を含む蒸気を前記環状空間内に形成させるのに充分に、前記吸引可能な
物質媒体の少なくとも一部を加熱するように、前記吸引可能な物質媒体が前
記電気加熱部材と機能可能に配置され、前記カートリッジの前記オーバーラ
25 ップ部は、前記制御ハウジングへの必要な挿入深さを示す1つ以上のマーキ
ングを外面に有する、電気喫煙物品。」
⑷ 本件発明の分説について
本件発明を分説すると、以下のとおりとなる(以下、各構成を分説後の符
号に従い、「構成要件A」などという。なお、訴訟係属中に訂正が確定した
ことと本件訴訟の経過の関係から、符号はアルファベット順に付されていな
5 い。)。
I カートリッジと、電気加熱部材と、制御ハウジングと、を含む電気喫煙
物品であって、前記カートリッジは、
A 実質的に筒状のカートリッジ本体と、
B 吸引可能な物質をともに含む実質的に筒状の吸引可能な物質媒体であっ
10 て、前記吸引可能な物質媒体と前記カートリッジ本体との間にポリマー材
料を含む環状空間を定めるように、前記カートリッジ本体内に配置されて
いる、前記カートリッジ本体の一端部と近接する第1端部及び前記カート
リッジ本体の他端部と近接する第2端部を有し、前記カートリッジ本体と
ほぼ同じ長さの吸引可能な物質媒体と、
15 J 前記カートリッジ本体より長く、前記カートリッジ本体を取り囲むオー
バーラップ部であって、前記オーバーラップ部における前記カートリッジ
本体から突出した部分が、前記カートリッジの吸い口端と、前記吸引可能
な物質媒体の吸い口側の端部と、の間に設けられたフィルター材料を囲
う、オーバーラップ部と、を有し、
20 C 前記電気加熱部材は、前記カートリッジのオーバーラップ部内に配置さ
れ、
D 前記制御ハウジングは、前記カートリッジに機能可能に連結されている
嵌合端部を有するとともに、前記電気加熱部材に電力を供給する電気エネ
ルギー源を含み、
F 前記吸引可能な物質を含む蒸気を前記環状空間内に形成させるのに充分
に、前記吸引可能な物質媒体の少なくとも一部を加熱するように、前記吸
引可能な物質媒体が前記電気加熱部材と機能可能に配置され、
G 前記カートリッジの前記オーバーラップ部は、前記制御ハウジングへの
5 必要な挿入深さを示す1つ以上のマーキングを外面に有する、
H 電気喫煙物品。
⑸ 被告らの製品について(争いがない事実)
ア 被告フィッリプモリスは、平成28年7月29日から少なくとも令和3
年2月26日まで、別紙被告製品目録記載1の各商品名の加熱式タバコス
10 ティックの輸入、販売及び販売の申出を行っており、被告双日は、同期
間、同目録記載1の各商品名の加熱式タバコスティックの輸入及び販売を
行っていた。ただし、同目録記載1の各商品名の加熱式タバコスティック
のうち、同目録記載1⑺及び⑻の各加熱式タバコスティックについては令
和2年5月15日から期間限定品として販売されたものであり、その他の
15 同目録記載1の各商品名の加熱式タバコスティックのうちの一部は、平成
28年7月29日より後に各被告らにより輸入、販売及び販売の申出がさ
れたものである。
イ 別紙被告製品目録記載1の各商品名の加熱式タバコスティックは、以下
の略図1のとおり、概要、包装紙に包まれ、フィルタ部、PLAポリマー
20 部、スペーサー及びタバコロットからなる製品であり、PLAポリマー部
にメンソールを含有するスレッドが挿入されていた。もっとも、令和3年
2月26日時点において、別紙被告製品目録記載1の加熱式タバコスティ
ックのうちの一部については既にスレッドが挿入されておらず、かつ、そ
の後全ての製品についてスレッドが挿入されなくなる予定であった(以
25 下、別紙被告製品目録記載1の各商品名の加熱式タバコスティックのう
ち、上記スレッドが挿入されているものを総称して「被告製品1」とい
う。)。また、被告製品1を包装している6枚の紙は、略図2のとおりで
あり、吸い口端側外装紙、タバコ端側外装紙、フィルタ部用内装紙、PL
Aポリマー部用内装紙、スペーサー用内装紙及びタバコロッド用内装紙
(以下、これらの6枚の紙について「本件各包装紙」という。)である。
5 【略図1】
【略図2】
ウ 被告フィッリプモリスは、平成28年7月29日より後から少なくとも
令和3年2月26日当時まで、別紙被告製品目録記載2の各加熱式喫煙具
10 (以下、これらの加熱式喫煙具を総称して「被告製品2」という。)の輸
入、販売及び販売の申出を行っており、被告双日は、同期間、同目録記載
1の各商品名の加熱式タバコスティックの輸入及び販売を行っていた。た
だし、被告製品2のうち、同目録記載2⑵の各加熱式喫煙具については、
被告らは、現在輸入、販売及び販売の申出をしていない。
エ 被告製品2は、以下の写真のように、概要、メインボディとメインボデ
5 ィから取り外し可能なエンドキャップから構成され、メインボディにはヒ
ータブレードとバッテリーが設けられ、エンドキャップにはその底面にヒ
ータブレードが差し込まれるスリッドが空けられており、加熱式タバコス
ティックを受け入れるように構成されている。
【被告製品2⑵の写真】
エンドキャッ メインボディ
【被告製品2⑵のエンドキャップを、加熱式タバコスティックを差し込む方
向から撮った写真】
⑹ 被告製品1及び被告製品2を組み合わせた製品(以下「被告製品」とい
う。)
被告製品は、以下の構成を有する(以下、被告製品の各構成を符号に従い
「構成a」などという。なお、原被告間において、被告製品の各構成のうち
20 の一部について、それをどのような文言で表現するかについての争いはある
が、被告製品の構成それ自体には争いはない。括弧で付したのは構成の表現
について争いがある部分についての被告による表現であり、下線で記載した
表現が原告による表現である。)。以下の構成のうち、被告製品の構成iが
構成要件Iを、構成hが構成要件Hを、それぞれ充足することは当事者間に
5 争いがない。
i 加熱式タバコスティックと、ヒータブレードと、エンドキャップ及びメ
インボディと、を備える電気加熱式タバコであって、前記加熱式タバコス
ティックは、
a PLAポリマーシートをちょうど覆う長さのPLAポリマー部用内装紙
10 と、
b 多数の細い糸を円柱状に撚って形成された、メンソールを含むスレッド
であり、細い糸同士の間には隙間があり(実質的に隙間がなく)、PLA
ポリマーシートをまとめて形成された円柱状のPLAポリマー部内に配置
され、PLAポリマーシートと共にPLAポリマー部用内装紙により巻か
15 れているスレッドであって、スレッドの外面と円筒状のPLAポリマー部
用内装紙は互いに接することなく離間しており、軸方向の長さがスレッド
の長さと同一であるPLAポリマーシートの間には、軸方向に伸びる空間
(隙間)が存在しており、スレッドの一端はPLAポリマー部用内装紙の
一端の近傍にあり、スレッドの他端はPLAポリマー部用内装紙の他端の
20 近傍にあり、かつ、スレッドはPLAポリマー部用内装紙と同じ長さであ
る、スレッドと、
j 一端が吸い口端に位置し、他端がPLAポリマー部用内装紙の一部を覆
う吸い口端側外装紙であって、吸い口端側外装紙におけるPLAポリマー
部用内装紙を覆っていない部分が、加熱式タバコスティックの吸い口端と
25 スレッドとの間に配置された吸い口端フィルタを覆う吸い口端側外装紙と、
一端がPLAポリマー部用内装紙の吸い口側端部に位置し、他端がPLA
ポリマー部用内装紙のタバコロッド側端部を超えてタバコロッドの端部ま
で伸びるタバコ端側外装紙と、を有し、吸い口端側外装紙の一端からタバ
コ端側外装紙の他端までの長さは、PLAポリマー部用内装紙より長く、
c ヒータブレードはタバコロッド用内装紙及びタバコ端側外装紙内にある
5 タバコロッドに突き刺さるものであり、ベース部と、ベース部上に形成さ
れた導電トラックと、を有し、
d (加熱式デバイスは、)加熱式タバコスティックを受け入れるエンドキ
ャップと、エンドキャップの底面に形成されたスリットを貫通してエンド
キャップ内まで延びるヒータブレードのベース部上に形成された導電トラ
10 ックに電力を供給するバッテリーを含むメインボディと、を有する加熱式
喫煙デバイスであって、使用者はエンドキャップの底面に達するまで加熱
式タバコスティックを挿入可能であり、該挿入によってヒータブレードの
ベース部が加熱式タバコスティックに挿入され、加熱式喫煙デバイスのス
イッチが入れられると、タバコロッドを加熱するために、ヒータブレード
15 の導電トラックがバッテリーと通電し、
f タバコ及びメンソールの成分を含む蒸気及びエアロゾルをタバコロッド
内に形成させるのに充分に、前記タバコロッド内のタバコシートを約30
0度まで加熱するように、ヒータブレードが前記タバコロッドに突き刺さ
るが、前記ヒータブレードの長さは、前記ヒータブレードが前記タバコロ
20 ッドを突き抜けない長さにとどまり、前記タバコロッド以外の加熱式タバ
コスティックの部材は前記ヒータブレードに接触せず、メンソールを含有
するスレッドを含むPLAポリマー部は、ヒータブレードの影響を減らす
ようヒータブレードが挿入されるタバコロッドからスペーサーを挟んで離
れて配置されるが、ヒータブレードからの熱の一部はスレッド及びPLA
25 ポリマーシートにも伝わり、それによってスレッドのタバコロッドに近い
位置での最高温度は100度以上となり、かつ、タバコロッドからの蒸気
及びエアロゾルの少なくとも一部がPLAポリマーシートの軸方向に伸び
る空間(隙間)を通過し、また、スレッドから蒸発したメンソールは、ス
レッドの外面とPLAシートの内面との間の空間に充満し、
g 吸い口端側外装紙の外面には、銀色の線(又は「DIMENSIONS」の文字)
5 が印刷されており、加熱式タバコスティックは、この印刷された線(又は
「DIMENSIONS」の文字)まで加熱式喫煙デバイスに挿入される、
h 電気加熱式タバコ。
2 争点
⑴ 被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか(争点1)
10 ア 構成要件Aの充足性(争点1-1)
イ 構成要件Bの充足性(争点1-2)
ウ 構成要件Jの充足性(争点1-3)
エ 構成要件Cの充足性(争点1-4)
オ 構成要件Dの充足性(争点1-5)
15 カ 構成要件Fの充足性(争点1-6)
キ 構成要件Gの充足性(争点1-7)
⑵ 無効理由の有無(争点2)
ア 本件発明が、WO2011/060961A1国際特許公開公報(以下
「乙19公報」という。)に記載された発明(以下「乙19発明」とい
20 う。)を主引例として容易に発明できたか(争点2-1)
イ 本件発明が、WO2007/085830A2国際特許公開公報(以下
「乙20公報」という。)に記載された発明(以下「乙20発明」とい
う。)を主引例として容易に発明できたか(争点2-2)
ウ 本件発明が、WO2011/050964A1国際特許公開公報(以下
25 「乙31公報」という。)に記載された発明(以下「乙31発明」とい
う。)を主引例として容易に発明できたか(争点2-3)
エ サポート要件違反又は明確性要件違反の有無(争点2-4)
⑶ 間接侵害の成否(争点3)
⑷ 被告製品2の無限定の差止請求の可否(争点4)
⑸ 原告らの損害額等(争点5)
5 3 争点に対する当事者の主張
⑴ 被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか(争点1)
ア 争点1-1(構成要件Aの充足性)について
(原告らの主張)
被告製品1は、PLAポリマーシートをちょうど覆う長さの「PLAポ
10 リマー部用内装紙」を有し、この「PLAポリマー部用内装紙」をさらに
「外装紙」が覆っている。構成aにおけるこの「PLAポリマー部用内装
紙」が構成要件Aの「カートリッジ本体」に該当する。構成要件Aには、
「カートリッジ本体」が第1の外層と第2の内層からなるという特定はな
い。
15 本件発明における「カートリッジ本体」は、「カートリッジ」
全体に対して、その一部分の部材を指すものとして「本体」と称されて
いるにすぎず、「本体」が「主要な部分」あるいは「主体」という意味
を持つものではない。本件発明に係る明細書及び図面(以下、同明細書
と図面を併せて「本件明細書」という。)においても、カートリッジ本
20 体はオーバーラップ部より相当程度小さいものであってよいこと(【0
025】、【0063】、【図4】等)、紙から形成されてよいこと
(【0041】)が開示されており、「小さな内装紙」であるとしても
「カートリッジ本体」に該当する。
構成要件Dで「前記制御ハウジングは、前記カートリッジに機能可能に
25 連結されている嵌合端部を有する」と特定されているとおり、「制御ハ
ウジング」の「嵌合端部」は、「カートリッジ」に連結されればよく、
「カートリッジ本体」に連結されることは必須の要件ではない。
(被告らの主張)
構成要件Aの「カートリッジ本体」は、第1の外層と開口構造化され
た第2の内層からなるものであり、カートリッジの「付属物をのぞいた
5 主要な部分」又は「主体」を意味し、「カートリッジ本体」が制御ハウ
ジングにはめ込まれること(カートリッジ本体が制御ハウジングの受容
端部に嵌合すること)を前提とすると解すべきである。被告製品1の
「PLAポリマー部用内装紙」はこれらの構成を有さないから、被告製
品1は構成要件Aを充足する部分を有しない。
10 すなわち、原告アール・エイ・アイは、訂正に係る審判において、当該
訂正が本件明細書の図4bに係るものであると主張して、訂正がされた。
図4bに関する本件明細書の【0053】及び【0054】には、「カ
ートリッジ本体」が、第1の外層306と、開口構造化された第2の内
層307からなるものであることが明確に記載されていて、構成要件A
15 のカートリッジ本体は、第1の外層と開口構造化された第2の内層から
なるものを指す。
また、「本体」とは、「物の、付属物をのぞいた主要な部分。主体。」
をいうから、構成要件Aの「カートリッジ本体」とは、文字どおり、カ
ートリッジの「付属物をのぞいた主要な部分」又は「主体」を意味する。
20 被告製品のPLAポリマー部用内装紙は、被告製品の一部である被告製
品1のごく一部を構成する小さな内装紙にすぎないため、カートリッジ
の「付属物をのぞいた主要な部分」又は「主体」とはいえない。
さらに、「カートリッジ」とは「はめこみ式の交換部品」という意味で
あり、「カートリッジ本体」とは「はめこみ式の交換部品」の「本体」
25 であるから、本件発明においては、「カートリッジ本体」が制御ハウジ
ングにはめ込まれること(カートリッジ本体が制御ハウジングの受容端
部に嵌合すること)が当然の前提とされている。このことは、本件明細
書において、「制御ハウジングとカートリッジ本体は、機能可能に連結
されるものとして特徴づけることができる。」(【0008】)、「カ
ートリッジ本体の嵌合端部」(【0025】等)、「カートリッジ本体
5 305は、制御ハウジング200の受容チャンバー210と嵌合する嵌
合端部310・・・を有する。」(【0040】)などと記載されてい
ることからも明らかである。これに対し、被告製品のPLAポリマー部
用内装紙は、被告製品の一部である被告製品1のごく一部を構成する内
装紙にすぎず、制御ハウジングにはめ込まれる(制御ハウジングの受容
10 端部に嵌合する)ものではない。
イ 争点1-2(構成要件Bの充足性)について
(原告らの主張)
構成bの「メンソール」、「多数の細い糸を円柱状に撚って形成された
…スレッド」、「PLAポリマーシート」、「PLAポリマー部用内装
15 紙」は、それぞれ、構成要件Bの「吸引可能な物質」、「実質的に筒状
の吸引可能な物質媒体」、「ポリマー材料」、「カートリッジ本体」に
それぞれ該当する。したがって、被告製品は構成要件Bを充足する。
すなわち、「吸引可能な物質」について、特許請求の範囲に、加熱によ
って初めて放出される「タバコ構成要素またはタバコ由来の材料」をい
20 うとする限定はなく、「吸引可能な物質」には「香味含有物質」が含ま
れる。このような「香味含有物質」は、タバコ構成要素又はタバコの材
料のみに限定されて「香味」がタバコの香味のみに限定されるものでは
ない。本件明細書には、「タバコ材料または吸引可能な物質媒体は概し
て、糖、グリセリン、バニラ、ココア、甘草、およびメントールなどの
25 その他の香味材料のようなその他の構成要素をさらに含むことができ
る。」(【0046】)、「加熱部材のうちの1つを特定の香味剤(例
えばメントール)と関連付けてよい。」(【0048】)との記載があ
り、加熱の対象となる香味含有物質を含む「吸引可能な物質」としてメ
ンソールも想定されているのは明らかである。
また、構成要件Bには、「前記吸引可能な物質媒体と前記カートリッジ
5 本体との間にポリマー材料を含む環状空間を定める」という「吸引可能
な物質媒体」の外面を特定する記載があるにすぎず、「吸引可能な物質
媒体」の内部の形状を限定する記載はない。「多数の細い糸を円柱状に
撚って形成された…スレッド」は、「実質的に筒状の吸引可能な物質媒
体」に当たる。構成要件は「実質的に筒状」と特定しており、国際出願
10 における原文も「substantially tubular shaped(訳:実質的に筒状)」
とされている。図4bを含む本件特許の明細書の記載は例示にすぎず、
それに限定されるものではない。そして、仮に、被告らの主張を前提と
しても、構成bの「スレッド」の内部には細い糸同士の間に隙間(空洞)
があるから、スレッドは「実質的に筒状の吸引可能な物質媒体」に該当
15 する。
さらに、特許請求の範囲には、本件発明の「環状空間」の内側が内面及
び外面を有する吸引可能な物質媒体壁の外面である必要があるとの限定
はなく、被告製品のスレッドの外面と外側の包装紙との間の空間が、構
成要件Bの「環状空間」に該当する。また、「環状空間」について仮に
20 被告ら主張のように解釈するとしても、スレッドの外面が「物質媒体壁
の外面」に該当し、被告製品は「環状空間」を有する。
(被告らの主張)
構成要件Bの「吸引可能な物質」とは、加熱によって初めて放出される、
「タバコ構成要素またはタバコ由来の材料」を、「実質的に筒状の吸引可
25 能な物質媒体」は、内部が空洞のものを、「環状空間」の内側は、内面及
び外面を有する吸引可能な物質媒体壁の外面であることを必要とする。
そして、被告製品のメンソールは、ヒータブレードが被告製品1のタバ
コロッドを加熱する前から被告製品1の内部に広く拡散しており、「吸
引可能な物質」に該当しない。また、被告製品のスレッドは、単なる糸
の束にすぎず、内部が空洞になっていないほか、被告製品の加熱部材で
5 あるヒータブレードがスレッドの内側に挿入されることもなく、吸引可
能な物質媒体の内部が空洞であることから得られる発明の効果を得られ
ず、「実質的に筒状」ではないため、「実質的に筒状の吸引可能な物質
媒体」に該当しない。そして、スレッドは、内部が空洞になっておらず
筒状ではないことから、内面及び外面を有する吸引可能な物質媒体壁を
10 有しない。そのため、被告製品においては、内面及び外面を有する吸引
可能な物質媒体壁の外面が存在しない。よって、被告製品は構成要件B
を充足しない。
すなわち、「吸引可能な物質」の意義に関して、本件明細書の【004
2】には、「吸引可能な物質媒体350は、加熱されると、香味含有物
15 質のような吸引可能な物質を放出するいずれかの材料であることができ
る。・・・吸引可能な物質は具体的には、タバコ構成要素またはタバコ
由来の材料(すなわち、タバコ中に元々あるか、タバコから直接単離で
きるか、または合成によって調製される材料)であってよい。」と記載
されている。したがって、「吸引可能な物質」とは、加熱によって初め
20 て放出される、「タバコ構成要素またはタバコ由来の材料」をいうもの
と解される。
また、広辞苑第七版の「筒」の項目には、「① 円く細長くて中空にな
っているもの。管 かん 。『紙を丸めて―にする』」と記載されている。本
件発明1の「実質的に筒状の吸引可能な物質媒体」は、国際出願日にお
25 ける国際出願の請求の範囲の請求項1の「a substantial
ly tubular shaped inhalable subs
tance medium」の日本語訳であり、そのうち「筒状の」は、
「tubular」の日本語訳である。他方で、国際出願日における国
際出願の明細書には、吸引可能な物質媒体の形状について「tubul
ar」と記載している箇所が複数あるところ、本件明細書においては、
5 これを「筒状の」と訳している箇所と「管状の」と訳している箇所があ
るが、リーダーズ英和辞典(第3版)の「tubular」の項目には、
「1 管の;管状の;管からなる[作られた]、・・・」と記載されている。
したがって、構成要件Bの「筒状の」は、①上記のリーダーズ英和辞典
第3版の「tubular」の項目にも記載され、また、②本件明細書
10 においても「tubular」の訳語として用いられている、「管状の」
と同じ意味と解すべきである。広辞苑第七版の「管(かん)」の項目に
は、「① くだ。気体・液体などの輸送に用いる長い中空のもの。」と
記載されており、「管(くだ)」の項目には、「① 円く細長く、中の
うつろなもの。」と記載されている。したがって、構成要件Bの「筒状
15 の」は、「管状の」、すなわち、「長い中空のもの」又は「円く細長く、
中のうつろなもの」の意味であると解するべきである。
さらに、本件明細書では、図4、7及び8等の説明において、吸引可
能な物質媒体350は「管状」であるとされ、その内部には「中央空洞
部351」が存在する。そして、電気加熱部材であるコイルが取り付け
20 られた突出部225が、吸引可能な物質媒体350の内部の中央空洞部
351に挿入され、これにより、吸引可能な物質媒体は、その内部から
加熱されるとされ、いずれの図においても、吸引可能な物質媒体の内部
は空洞である。本件明細書には、吸引可能な物質媒体の内部が空洞にな
っている発明しか開示されていない。そして、本件明細書に記載された
25 本件発明の実施形態では、電気加熱部材であるコイルが取り付けられた
突出部が、吸引可能な物質媒体の内部の意図的に設計された空洞部分に
挿入され、これにより、吸引可能な物質媒体が内部から加熱されること
で、吸引可能な物質を含むエアロゾル又は蒸気が、カートリッジ本体壁
の内面と吸引可能な物質媒体壁の外面との間の所定の容積の環状空間内
に放出される構成が開示されている。「管状の吸引可能な物質媒体の内
5 側空間内に加熱部材400が存在する」ことにより、「吸引中に物品内
を流れる空気流から加熱部材を分離する」ことができ、その結果、加熱
部材の熱は、空気流に奪われることなく、効率的に吸引可能な物質媒体
に伝達されることになる。これにより、熱の伝達の最大化、エネルギー
消費量の軽減、バッテリー寿命の延長などの様々な効果を得ることがで
10 き(【0087】)ることが記載されている。このような効果は、吸引
可能な物質媒体の内部に加熱部材を配置し、①吸引可能な物質媒体の外
側の環状空間を空気流の通路とし、空気流と加熱部材との接触を回避す
ること、②吸引可能な物質媒体から発生する蒸気と加熱部材との接触を
回避することにより、得られるものである。したがって、吸引可能な物
15 質媒体の内部が空洞になっている構成は、構成要件Bや構成要件Fに記
載された環状空間とも関連するものであり、本件発明において、重要な
技術的意義を有する。これらの理由から、「実質的に筒状の吸引可能な
物質媒体」に該当するためには、内部が空洞になっている必要がある。
さらに、「環状空間」につき、構成要件Bの文言上は、「前記吸引可能
20 な物質媒体と前記カートリッジ本体との間にポリマー材料を含む環状空
間を定める」とされているが、本件明細書上は、「内面と外面を有する
壁352を有する実質的に筒状の吸引可能な物質媒体350を含んで、
吸引可能な物質媒体壁352の外面とカートリッジ本体305の壁の内
面との間に所定の容積の環状空間を定める」(【0116】)などと記
25 載されている。すなわち、環状空間の内側は、単なる「吸引可能な物質
媒体」ではなく、「吸引可能な物質媒体壁352の外面」(【011
6】)であって、この「吸引可能な物質媒体壁352」は、「内面と外
面を有する壁352」(【0116】)である。したがって、本件発明
の「環状空間」の内側は、内面及び外面を有する吸引可能な物質媒体壁
の外面である必要がある。
5 ウ 争点1-3(構成要件Jの充足性)について
(原告らの主張)
構成jにおける「吸い口端側外装紙」と「タバコ端側外装紙」をまとめ
たものが構成要件Jの「オーバーラップ部」に該当する。具体的には、構
成jにおける「吸い口端側外装紙の一端からタバコ端側外装紙の他端まで
10 の長さは、PLAポリマー部用内装紙より長」いことが構成要件Jの「前
記カートリッジ本体より長く」に該当し、構成jにおける「タバコ端側外
装紙」の「一端がPLAポリマー部用内装紙の吸い口側端部に位置し、他
端がPLAポリマー部用内装紙のタバコロッド側端部を超えてタバコロッ
ドの端部まで伸びる」ことが構成要件Jの「前記カートリッジ本体を取り
15 囲」みに該当し、構成jにおける「吸い口端側外装紙におけるPLAポリ
マー部用内装紙を覆っていない部分が、加熱式タバコスティックの吸い口
端とスレッドとの間に配置された吸い口端フィルタを覆う」ことが構成要
件Jの「前記オーバーラップ部における前記カートリッジ本体から突出し
た部分が、前記カートリッジの吸い口端と、前記吸引可能な物質媒体の吸
20 い口側の端部と、の間に設けられたフィルター材料を囲う」に該当する。
すなわち、「オーバーラップ部」について、構成要件Jには「オーバー
ラップ部」と「カートリッジ本体」との間にデッドスペースを有すると
は規定されていない。また、本件明細書の【0063】に「オーバーラ
ップ部は、下のバルク層と、紙巻きタバコにおける典型的なラップ紙の
25 ような上層のような複数の層で形成されていてもよい。」と記載されて
いるように、「オーバーラップ部」が単一の部材でなければならないと
限定される理由はない。したがって、被告製品の「吸い口端側外装紙」
と「タバコ端側外装紙」という複数の層をまとめたものは、「オーバー
ラップ部」に該当する。そして、仮に、構成要件Jが「カートリッジ本
体」の全体を取り囲むことを要すると解されるとしても、「吸い口端側
5 外装紙」と「タバコ端側外装紙」をまとめたものは「PLAポリマー部
用内装紙」の全体を取り囲んでおり、被告製品は、構成要件Jを充足す
る。
(被告らの主張)
「オーバーラップ部」は、「カートリッジ本体」との間に「デッドスペ
10 ース」を有するものと解され、また、「前記カートリッジ本体より長く、
前記カートリッジ本体を取り囲むオーバーラップ部」は、「カートリッジ
本体」を全長にわたって取り囲むものと解される。被告製品の「吸い口端
側外装紙」は、「PLAポリマー部用内装紙」との間に「デッドスペース」
を有しない。また、被告製品の「吸い口端側外装紙」は、「PLAポリマ
15 ー部用内装紙」の一部を取り囲むものであるにすぎず、被告製品に構成要
件Jを充足する部分はない。
すなわち、「オーバーラップ部」は、本件明細書の【0040】、【0
083】において、「カートリッジ本体」との間に「デッドスペース」
を有するものであるとされ、さらに、本件明細書の【0053】、【0
20 063】においては、「カートリッジ本体」又は「オーバーラップ部」
が(間にデッドスペースを有しない)複数の層からなるときには、各層
が別々の部材(「カートリッジ本体」及び「オーバーラップ部」)とな
るのではなく、全層が合わさって「カートリッジ本体」又は「オーバー
ラップ部」を構成するものである旨記載されている。
25 また、「吸い口端側外装紙」と「タバコ端側外装紙」とは、軸方向に
一部が重なっているにすぎないのであるから、「複数の層」(本件明細
書の【0063】)であるとはいえない。仮に「吸い口端側外装紙」と
「タバコ端側外装紙」とが、軸方向に一部が重なっていることからこれ
らを「まとめたもの」をもって、1つの部材とみなすのであれば、本件
各包装紙を全て「まとめたもの」をもって、1つの部材とみなすべきで
5 あるが、その場合、被告製品には、「カートリッジ本体」(構成要件A)
に該当する部材がなくなることになる(「PLAポリマー部用内装紙」
が「オーバーラップ部」(構成要件J)及び「カートリッジ本体」(構
成要件A)の両方に該当すると主張することは許されない)ため、被告
製品は構成要件Aを充足しないことになる。
10 さらに、構成要件J及び本件明細書においては、「オーバーラップ部」
は、「カートリッジ本体より長く」構成されることにより、「カートリ
ッジ本体」を全長にわたって「取り囲む」ものである。
エ 争点1-4(構成要件Cの充足性)について
(原告らの主張)
15 上記ウのとおり、被告製品の「吸い口端側外装紙」と「タバコ端側外装
紙」をまとめたものが本件発明の「オーバーラップ部」に該当するから、
構成cにおいて「ヒータブレード」が「タバコ端側外装紙内にあるタバコ
ロッドに突き刺さる」ことが、構成要件Cの「前記電気加熱部材は、前記
カートリッジのオーバーラップ部内に配置され」に該当する。
20 (被告らの主張)
原告らの主張は、上記ウのとおり、本件各包装紙のうち恣意的に2枚の
紙を「まとめたもの」をもって「オーバーラップ部」に当たるとするもの
であり、許されない。そして、「タバコ端側外装紙」のみが「オーバーラ
ップ部」に当たると主張する場合、「タバコ端側外装紙」は、被告製品の
25 フィルタ部を囲っていないため、被告製品の構成は、「前記オーバーラッ
プ部における前記カートリッジ本体から突出した部分が、前記カートリッ
ジの吸い口端と、前記吸引可能な物質媒体の吸い口側の端部と、の間に設
けられたフィルター材料を囲う」に該当しないことになる。したがって、
被告製品は構成要件Cを充足する部分を有しない。
オ 争点1-5(構成要件Dの充足性)について
5 (原告らの主張)
「エンドキャップ」と「メインボディ」とを組み合わせた「加熱式喫煙
デバイス」が構成要件Dの「制御ハウジング」に該当し、エンドキャップ
の底面に達するまで加熱式タバコスティックが挿入されるから、エンドキ
ャップの底面が構成要件Dの「篏合端部」に該当する。また、エンドキャ
10 ップの底面に達するまで加熱式タバコスティックが挿入され、該挿入によ
ってヒータブレードのベース部が加熱式タバコスティックに挿入されるか
ら、このベース部も構成要件Dの「篏合端部」に該当する。
本件明細書の【0008】には「本発明の物品は、カートリッジの嵌合
端部と嵌合する受容端部を有する制御ハウジングも含むことができる。」
15 との記載があり、この(制御ハウジングが有する)「嵌合する受容端部」
を構成要件Dにおいて「嵌合端部」と表現している。
そして、「嵌合」とは、文字どおり「嵌め合わせる」ことを意味してお
り、「形状が合った物」という追加的な限定を含むものではない。また、
「エンドキャップの底面」に関し、エンドキャップに加熱式タバコステ
20 ィックがぴったりとはまるのであるから、エンドキャップの底面と、加
熱式タバコスティックの先端面は、ほぼ同径の円形であり、正に「形状
が合った物」である。そして、「エンドキャップの底面に達するまで加
熱式タバコスティックを挿入可能であ」ることは「嵌め合わせる」こと
である。さらに、「ヒータブレードのベース部」に関し、「ヒータブレ
25 ードのベース部が加熱式タバコスティックに挿入され」ると、加熱式タ
バコスティックにおけるタバコロッドがヒータブレードのベース部に押
圧されて凹部が形成され、当該凹部にヒータブレードのベース部(凸部)
がはまった状態となる。
(被告らの主張)
被告製品の「エンドキャップの底面」及び「ヒータブレードのベース部」
5 は、加熱式タバコスティックと「嵌合」するものではなく、原告らのいう
被告製品の「エンドキャップの底面」及び「ヒータブレードのベース部」
は、「カートリッジに機能可能に連結されている嵌合端部」に該当しない。
したがって、被告製品は構成要件Dを充足する部分を有しない。
「カートリッジに機能可能に連結されている嵌合端部」(制御ハウジン
10 グが有するものとして規定されている「嵌合端部」)は、本件明細書に
記載されていない部材であり、その意義自体が不明確である。
また、「嵌合」とは、「形状が合った物を嵌め合わせること。(例)受
け孔と突起が嵌合する。凹部に凸起が嵌合して部材が位置決めされる。」
という意味を有する技術用語であり、2つの部材が「嵌合」するために
15 は、それぞれの部材において互いにはまり合う形状(受け孔と突起や、
凹部と凸起など)が存在することが前提となる。この点に関し、本件明
細書の【0008】においては、カートリッジの「嵌合端部」と制御ハ
ウジングの「受容端部」とが嵌合するものとされている。
被告製品においては、単に、ヒータブレードが加熱式タバコスティッ
20 クのタバコロッドに挿入されるにすぎず、「エンドキャップの底面」及
び「ヒータブレードのベース部」とはまり合う構造は加熱式タバコステ
ィックに設けられていない(被告製品のタバコロッドには、ヒータブレ
ードが挿入されるための空洞はない。)。
カ 争点1-6(構成要件Fの充足性)について
25 (原告らの主張)
被告製品の構成fは「ヒータブレードからの熱の一部はスレッド及びP
LAポリマーシートにも伝わり、それによってスレッドのタバコロッドに
近い位置での最高温度は100度以上となり、かつ、タバコロッドからの
蒸気及びエアロゾルの少なくとも一部がPLAポリマーシートの軸方向に
伸びる空間を通過し、また、スレッドから蒸発したメンソールは、スレッ
5 ドの外面とPLAシートの内面との間の空間に充満し、」であるから、構
成要件Fの「前記吸引可能な物質を含む蒸気を前記環状空間内に形成させ
るのに充分に、前記吸引可能な物質媒体の少なくとも一部を加熱」を充足
する。また、特許請求の範囲の文言上、「吸引可能な物質媒体」の「機能」
とは、当該「物質媒体」に含まれる「吸引可能な物質」(構成要件B)が
10 「加熱」されることによって「蒸気」を「形成」することである。そのよ
うな「機能」が「可能」となるように「電気加熱部材」が「配置される」
ことを、構成要件Fにおいて「前記吸引可能な物質媒体が前記電気加熱部
材と機能可能に配置され」と特定している。被告製品は、ヒータブレード
がタバコロッド全体を突き抜けないとしても、スレッド(「吸引可能な物
15 質媒体」)に含まれるメンソール(「吸引可能な物質」)が、ヒータブレ
ードからの熱や、ヒータブレードによる加熱によってタバコロッドから発
生した高温の蒸気及びエアロゾルの熱により「加熱」されることによって
蒸発し、メンソールの「蒸気」を周囲の空間に「形成」するものであるか
ら、構成要件Fの「前記吸引可能な物質媒体が前記電気加熱部材と機能可
20 能に配置され」を充足する。
ヒータブレードからの熱や、ヒータブレードによる加熱によってタバコ
ロッドから発生した高温の蒸気及びエアロゾルの熱により、スレッド又
はPLAポリマーシートからメンソールが蒸発してPLAポリマー部内
の空間に分布する以上、「前記吸引可能な物質を含む蒸気を前記環状空
25 間内に形成させるのに充分に、前記吸引可能な物質媒体の少なくとも一
部を加熱」する。また、スレッドの少なくともタバコロッドに近い位置
での最高温度は100度以上となり、少なくとも当該100度以上とな
った部分からメンソールが蒸発するのは明らかである。また、スレッド
はPLAポリマー部内に配置されており、PLAポリマー部はPLAポ
リマーシートをまとめて形成されたものであって、PLAポリマー部内
5 には隙間があるので、熱によりスレッド内のメンソール量は減る。した
がって、スレッドからのメンソール蒸気がPLAポリマー部内(スレッ
ドの外面と外側の包装紙との間)の隙間に移動する。また、本件明細書
を参酌しても、吸引可能な物質を含む蒸気を環状空間内の「全体」に形
成しなければならないと限定的に解すべき理由はない。PLAポリマー
10 シートの内面とスレッドの外面との間の隙間にメンソール蒸気が充満す
ることが構成要件Fの「前記吸引可能な物質を含む蒸気を前記環状空間
内に形成させるのに充分」に該当する。
さらに、特許請求の範囲に、「機能可能に配置され」に該当するために
は、カートリッジの軸に垂直な同一断面内に、吸引可能な物質媒体と電
15 気加熱部材が存在することを要するという限定はない。本件明細書の
【0080】には、「吸引可能な物質媒体350、電気加熱部材400、
および電気エネルギー源220が整列する。このような整列は、これら
の3つの構成要素の断面が直接整列することに起因し得る」と記載され
ており、特許請求の範囲に記載された「配置」とは異なる用語である
20 「整列」が用いられているから、特許請求の範囲に記載された「配置」
を本件明細書の記載で限定して解釈すべき理由はない。
(被告らの主張)
被告製品は、「環状空間」に該当する部分を有しないのであるから、
「前記吸引可能な物質を含む蒸気を前記環状空間内に形成させる」こと
25 もあり得ないほか、「前記吸引可能な物質を含む蒸気を前記環状空間内
に形成させるのに充分に、」に当たるというためには、吸引可能な物質
を含む蒸気が環状空間のごく一部に形成されるだけでは足りない。加え
て、「機能可能に配置され」に該当するためには、カートリッジの軸に
垂直な同一断面内に、吸引可能な物質媒体と電気加熱部材が存在するこ
とを要する。被告製品1の加熱式タバコスティックを被告製品2に所定
5 の深さまで挿入した場合であっても、加熱式タバコスティックの軸に垂
直な同一断面内に、スレッドとヒータブレードが存在することはない。
したがって、被告製品は構成要件Jを充足する部分を有しない。
被告製品のヒータブレードは、タバコロッドを加熱してタバコを含む蒸
気を発生させるための部材であって、スレッドを加熱するための部材で
10 はない。現に、ヒータブレードは、加熱式タバコスティックのタバコロ
ッドに挿入されるにすぎず、スペーサーやPLAポリマー部には到達し
ないように意図的に設計されているから、スレッドと隣接して配置され
るものではない。また、スペーサーは、PLAポリマー部が熱で溶ける
ことがないように、加熱されたタバコロッドで発生した蒸気の温度を、
15 PLAポリマー部に到達する前に下げるため、一定の長さを有する部材
である。そして、試験報告書(甲9)からは、タバコロッドからの蒸気
及びエアロゾルが、メンソールを蒸発させるのに十分な温度であるか否
かは、明らかではない。また、PLAポリマーシートの軸方向の長さは、
スレッドの長さと同一である。そのため、スレッドの外面と外側の包装
20 紙との間の部分において、気体は、軸方向には移動することができるが、
軸と垂直な面内においては、PLAポリマーシートにさえぎられて、自
由に移動することができない。したがって、仮に、喫煙時にスレッドか
らメンソールの蒸気が発生するとしても、当該メンソールの蒸気が、ス
レッドから、PLAポリマーシートの部分(スレッドの外面と外側の包
25 装紙との間の部分)に自由に移動するとはいえない。
ヒータブレードによる加熱によってタバコロッド内に発生したタバコ
の成分を含む蒸気の一部は、PLAポリマー部のポリマーシート材の間
を通過することにより、冷却されエアロゾルを生成するのであり、空気
は、タバコロッドから吸い口端に向けて流れる。したがって、仮に喫煙
時にスレッドからメンソールの蒸気が発生するとしても、当該メンソー
5 ルの蒸気が、PLAポリマーシートの部分(スレッドの外面と外側の包
装紙との間の部分)に形成されるとはいえない。
よって、被告製品のヒータブレードは、メンソールを含む蒸気をPL
Aポリマーシートの部分(スレッドの外面と外側の包装紙との間の部分)
に形成させるのに充分にスレッドを加熱するものではなく、「前記吸引
10 可能な物質を含む蒸気を前記環状空間内に形成させるのに充分に、前記
吸引可能な物質媒体の少なくとも一部を加熱する」を充足しない。
また、本件明細書の【0011】、【0088】には、吸引可能な物質
が放出される「環状空間の容積」について記載されている。仮に、吸引
可能な物質が、環状空間のごく一部のみに放出されればよいのであれば、
15 「環状空間の容積」について記載する意味はないし、本件明細書に、吸
引可能な物質が環状空間のごく一部に放出されればよい旨の記載もない。
したがって、吸引可能な物質を含む蒸気が環状空間のごく一部に形成さ
れるだけでは、構成要件Fの「前記吸引可能な物質を含む蒸気を前記環
状空間内に形成させるのに充分に、」を充足するとはいえない。よって、
20 仮に、被告製品において、ヒータブレードの加熱によって、原告らが
「隙間」であると主張する部分にメンソールの蒸気が形成されるとして
も、当該「隙間」は、原告らが「環状空間」に該当すると主張する部分
のごく一部にすぎないのであるから、「前記吸引可能な物質を含む蒸気
を前記環状空間内に形成させるのに充分に、」に該当しない。
25 さらに、本件発明の「機能可能に配置され」は、少なくとも、「前記吸
引可能な物質媒体が前記電気加熱部材と機能可能に配置され」との文言
上、吸引可能な物質媒体と電気加熱部材との位置関係に関する要件であ
る。本件明細書の【0080】において、「機能可能な整列」とは、
「吸引可能な物質媒体350の少なくとも一部分を加熱できる」ように、
カートリッジの軸に垂直な同一断面内に、少なくとも吸引可能な物質媒
5 体350と電気加熱部材400の両部材が存在することを意味するもの
と定義されている。よって、「機能可能に配置され」に該当するために
は、カートリッジの軸に垂直な同一断面内に、吸引可能な物質媒体と電
気加熱部材が存在することを要する。本件明細書において、「整列」と
「配置」が同様の意味で用いられていることは明らかである。メンソー
10 ルは、使用前から、被告製品1の全体に拡散しているのであるから、仮
に、原告らが主張するような広い解釈を前提とすると、被告製品1の任
意の部分は、「機能可能に配置され」ていることになり得てしまい、不
合理である。
キ 争点1-7(構成要件Gの充足性)について
15 (原告らの主張)
被告製品の構成gは「吸い口端側外装紙の外面には、銀色の線(又は
「DIMENSIONS」の文字)(以下、単に「銀色の線」という。)が印刷され
ており、加熱式タバコスティックは、この印刷された線(又は
「DIMENSIONS」の文字)まで加熱式喫煙デバイスに挿入される、」である
20 から、構成gは構成要件Gを充足する。構成要件Gは、カートリッジ(す
なわち電気喫煙物品)が分割加熱であるか一括加熱であるかを特定してい
ない。
(被告らの主張)
被告製品の外側の包装紙が「カートリッジ本体」に該当しないほか、
25 「前記制御ハウジングへの必要な挿入深さを示す1つ以上のマーキング」
(構成要件G)の意義は不明確であり、仮に本件明細書の「マーク」の趣
旨であるとしても、「分割加熱」を前提としたものに限られる。被告製品
は、分割加熱を前提とするものではないので、被告製品の銀色の線(又は
「DIMENSIONS」の文字)は、「前記制御ハウジングへの必要な
挿入深さを示す1つ以上のマーキング」に該当しない。よって、被告製品
5 は構成要件Gを充足しない。
すなわち、構成要件Gの文言上、「前記カートリッジの前記オーバーラ
ップ部は、前記制御ハウジングへの必要な挿入深さを示す1つ以上のマ
ーキングを外面に有する」とされているが、本件明細書においては、
「マーキング」の用語が使われている箇所はなく、「マーク」に関する
10 記載(【0090】及び【0091】)は、カートリッジ300を、制
御ハウジング200の受容チャンバー210内に、喫煙しながら少しず
つより深く差し込んでいく(「割り送り」)、「分割加熱」を前提とし
ている。そして、本件明細書の【0113】において、分割加熱と対比
される一括加熱については、「マーク」に関する記載はない。
15 ⑵ 争点2(無効理由の有無)について
ア 争点2-1(本件発明が、乙19発明を主引例として容易に発明できた
か)について
(被告らの主張)
本件発明は、以下のとおり、本件特許の優先日より前の平成23年5月
20 26日に公開された乙19公報に記載された乙19発明に基づいて当業者
が容易に発明をすることができた。
乙19発明の内容は以下のとおりである。
「タバコロッドと、ロッドエンドフィルタセグメントと、マウスエン
ドフィルタセグメントと、電気加熱要素と、を含む加熱式喫煙物品であ
25 って、
前記タバコロッドは、包装紙に包まれ、
前記タバコロッドは、前記ロッドエンドフィルタセグメントの第1の端
部に接し、
前記マウスエンドフィルタセグメントは、セルロースアセテートトウか
らなり、
5 前記マウスエンドフィルタセグメントは、前記ロッドエンドフィルタセ
グメントの第2の端部に接し、
前記ロッドエンドフィルタセグメントは、前記ロッドエンドフィルタセ
グメントと同じ長さの筒状のフィルタプラグラップに包まれ、
前記ロッドエンドフィルタセグメントは、前記ロッドエンドフィルタセ
10 グメントの中心長手方向軸線に沿って前記ロッドエンドフィルタセグメ
ントの第1の端部から第2の端部まで延在し、メンソールが充填された
中心香味担持スレッドであって、前記筒状のフィルタプラグラップとの
間にセルロースアセテートトウを含むように配置されている前記中心香
味担持スレッドを有し、
15 前記包装紙に包まれた前記タバコロッドと、前記筒状のフィルタプラグ
ラップに包まれた
前記ロッドエンドフィルタセグメントと、前記セルロースアセテートト
ウからなる前記マウスエンドフィルタセグメントとは、チッピング紙に
包まれており、
20 前記中心香味担持スレッドの少なくとも一部が加熱されることにより、
前記メンソールが前記中心香味担持スレッドと前記筒状のフィルタプラ
グラップとの間に放出される、
加熱式喫煙物品。」
本件発明と乙19の発明と対比させると、以下の点が相違点である。
25 a 本件発明は、「前記カートリッジに機能可能に連結されている嵌合
端部を有するとともに、前記電気加熱部材に電力を供給する電気エネ
ルギー源を含」む「制御ハウジング」を含む(構成要件D)のに対
し、乙19公報には、タバコ材料又は別のエアロゾル生成材料が電気
加熱要素によって加熱されてエアロゾルを生じることは記載されてい
るものの、それ以外には制御ハウジングの構成について具体的な記載
5 はない点(以下「相違点1‐1」という。)。
b 本件発明において、「オーバーラップ部」内に「電気加熱部材」が
「配置され」(構成要件C)、「オーバーラップ部」が「前記制御ハ
ウジングヘの必要な挿入深さを示す1つ以上のマーキングを外面に有」
する(構成要件G)のに対し、乙19公報には、タバコ材料又は別の
10 エアロゾル生成材料が電気加熱要素によって加熱されてエアロゾルを
生じることは記載されているものの、電気加熱要素がチッピング紙と
包装紙をまとめたものの内部に配置されること、及び、チッピング紙
と包装紙をまとめたものが外面にマーキングを有することの明記はな
い点(以下「被告相違点1-2」という。)。
15 なお、原告らは、被告相違点1-2について、本件発明の「カート
リッジ本体」(構成要件A)に該当する構成を有しないことを前提に、
乙19公報には構成要件Jに相当する開示がない旨主張する。しかし
ながら、仮に、被告製品の「PLAポリマー部用内装紙」が「カート
リッジ本体」(構成要件A)に該当する旨の原告らの主張を前提とす
20 ると、乙19発明の「フィルタプラグラップ」は、本件発明の「カー
トリッジ本体」(構成要件A)に該当することになる。また、仮に、
被告製品の「吸い口端側外装紙」と「タバコ端側外装紙」を「まとめ
たもの」が「前記カートリッジ本体より長く、前記カートリッジ本体
を取り囲むオーバーラップ部であって、前記オーバーラップ部におけ
25 る前記カートリッジ本体から突出した部分が、前記カートリッジの吸
い口端と、前記吸引可能な物質媒体の吸い口側の端部と、の間に設け
られたフィルター材料を囲う、オーバーラップ部」(構成要件J)に
該当する旨の原告らの主張を前提とすると、乙19発明の「チッピン
グ紙」と「包装紙」をまとめたものは、「前記カートリッジ本体より
長く、前記カートリッジ本体を取り囲むオーバーラップ部であって、
5 前記オーバーラップ部における前記カートリッジ本体から突出した部
分が、前記カートリッジの吸い口端と、前記吸引可能な物質媒体の吸
い口側の端部と、の間に設けられたフィルター材料を囲う、オーバー
ラップ部」(構成要件J)に該当することになる。
c 原告らは、「本件発明は、前記吸引可能な物質媒体と前記カートリ
10 ッジ本体との間にポリマー材料を含む環状空間を定め、前記吸引可能
な物質を含む蒸気を前記環状空間内に形成させるのに充分に加熱する
のに対し、乙19発明は本件発明の「カートリッジ本体」に該当する
構成を有しないから、本件発明における「前記吸引可能な物質媒体と
前記カートリッジ本体との間」の「環状空間」を観念できないし、仮
15 に空間が存在するとしても複数の環状穿孔がチッピング紙を通って設
けられるため、環状空間が定まらず、複数の環状穿孔は周囲空気でフ
ィルタを通って吸い込まれる主流煙を通気するため、吸引可能な物質
を含む蒸気を前記環状空間内に形成させるのに十分に加熱するか不明
である点。」が相違点である旨主張する(以下、原告らが主張するこ
20 の点を「原告相違点1-3」という。)。しかし、被告製品の「PL
Aポリマー部用内装紙」が「カートリッジ本体」(構成要件A)に該
当する旨の原告らの主張を前提とすると、乙19発明の「フィルタプ
ラグラップ」は、本件発明の「カートリッジ本体」(構成要件A)に
該当することになる。したがって、仮に充足論における原告らのクレ
25 ーム解釈を前提とした場合には、乙19発明の「中心香味担持スレッ
ド」の外面と「フィルタプラグラップ」との間の空間は、「環状空
間」に該当する。よって、原告相違点1-3は、本件発明と乙19発
明の相違点ではない。
d また、原告らは、「本件発明は「カートリッジ本体」を有し(構成
要件A)、の「吸引可能な物質媒体」は、「前記カートリッジ本体の
5 一端部と近接する第1端部及び前記カートリッジ本体の他端部と近接
する第2端部を有し、前記カートリッジ本体とほぼ同じ長さ」(構成
要件B)であるのに対し、乙19発明は本件発明の「カートリッジ本
体」に該当する構成を有しない点。」が相違点である旨主張する(以
下、原告らが主張するこの点を「原告相違点1-4」という。)。し
10 かしながら、乙19公報には、「ロッドエンドフィルタセグメント」
が「筒状のフィルタプラグラップ」に包まれていることが開示されて
いる。したがって、仮に、被告製品の「PLAポリマー部用内装紙」
が「カートリッジ本体」(構成要件A)に該当する旨の原告らの主張
を前提とすると、乙19発明の「フィルタプラグラップ」は、本件発
15 明の「カートリッジ本体」(構成要件A)に該当することになる。よ
って、原告相違点1-4は、本件発明と乙19発明の相違点ではな
い。
a 乙19公報には、「本発明のフィルタセグメントは、材料が燃焼
ではなく加熱されてエアロゾルを生じる喫煙物品にも使用できる。加
20 熱式喫煙物品の1つの形式において、タバコ材料又は別のエアロゾル
生成材料は、1つ又はそれ以上の電気加熱要素によって加熱されてエ
アロゾルを生じるようになっている。」と記載されている。よって、
乙19発明は、電気加熱要素によってタバコ材料等を加熱してエアロ
ゾルを生じさせる加熱式喫煙物品、すなわち、「電気喫煙物品」(構
25 成要件E及びH)である。
まず、このような電気喫煙物品が電気加熱要素によってタバコ材料
等を加熱するために、電気エネルギー源が必要不可欠であることは、
自明である。
また、仮に充足論における原告らの主張を前提とすると、相違点1
-1に係る構成(構成要件Dの構成)は、多数の先行文献及び多数の
5 公然実施品により開示されていた。
よって、電気喫煙物品において、相違点1-1に係る構成(構成要
件Dの構成)は、当業者にとって、周知・慣用技術であったといえる。
乙19公報には、乙19発明が電気喫煙物品であることの記載はあ
るのであるから、当業者が、乙19発明に、上記の周知・慣用技術を
10 適用して、相違点1-1に係る構成(構成要件Dの構成)に想到する
ことは、極めて容易であった。
b 構成要件Cに相当する構成に関しては、乙19公報には、「本発明
のフィルタセグメントは、材料が燃焼ではなく加熱されてエアロゾル
を生じる喫煙物品にも使用できる。加熱式喫煙物品の1つの形式にお
15 いて、タバコ材料又は別のエアロゾル生成材料は、1つ又はそれ以上
の電気加熱要素によって加熱されてエアロゾルを生じるようになって
いる。」との記載はあるものの、電気加熱要素がチッピング紙の内部
に配置されることの明記はない。
しかしながら、加熱式喫煙物品において、電気加熱要素がタバコロ
20 ッドに挿入されることは、周知技術であった。そのため、当業者は、
乙19発明の電気加熱要素を、タバコロッドに挿入する構成とするこ
とについて、極めて容易に想到することができた。また、乙19発明
のタバコロッドは、「包装されたタバコロッド12とフィルタ14を
接合するチッピング紙」によって包まれている。
25 したがって、当業者は、乙19発明の電気加熱要素がチッピング紙
の内部に配置されることについて、極めて容易に想到することができ
た。よって、当業者は、構成要件C(「前記電気加熱部材は、前記カ
ートリッジのオーバーラップ部内に配置され、」)に相当する構成に
極めて容易に想到することができた。
また、仮に、被告製品1の銀色の線が本件発明の構成要件Gを充足
5 する旨の原告らの主張を前提とすると、構成要件Gに相当する構成は、
多数の公然実施品並びにこれらのマニュアルに開示されている周知・
慣用技術であった。
前記のとおり、乙19公報には、乙19発明が電気喫煙物品である
ことの記載はあるのであるから、当業者が、乙19発明に、上記の周
10 知・慣用技術を適用して、被告相違点1-2に係る構成(構成要件G
の構成)に想到することは、極めて容易であった。
c なお、仮に原告相違点1-3及び原告相違点1-4が、仮に本件発
明と乙19発明の相違点であるとしても、これらの構成に係る本件発
明の構成は先行文献に記載されており、当業者が、原告相違点1-3
15 及び原告相違点1-4に係る構想に相当することは極めて容易であっ
た。
(原告らの主張)
本件発明と乙19発明との相違点に係る本件発明の構成は当業者が容易
に想到できたものではないから、本件発明は進歩性を有する。
20 乙19公報には「フィルタプラグラップ」に関する構成が開示され
ておらず、また、「マウスエンドフィルタセグメント」を備えていない
から、被告らが認定した乙19発明は適切ではない。乙19発明は以下
のとおり認定すべきである。
「タバコロッドと、ロッドエンドフィルタセグメントと、セルロース
25 アセテートトウのと、電気加熱要素と、を含む加熱式喫煙物品であって、
前記タバコロッドは、包装紙に包まれ、
前記タバコロッドは、前記ロッドエンドフィルタセグメントの第1の端
部に接し、
前記マウスエンドフィルタセグメントは、セルロースアセテートトウか
らなり、
5 前記セルロースアセテートトウのプラグは、前記ロッドエンドフィルタ
セグメントの第2の端部に接し、
前記ロッドエンドフィルタセグメントは、前記ロッドエンドフィルタセ
グメントの中心長手方向軸線に沿って前記ロッドエンドフィルタセグメ
ントの第1の端部から第2の端部まで延在し、メンソールが充填された
10 中心香味担持スレッドであって、ロッドエンドフィルタセグメントにあ
るセルロースアセテートトウの中心を通って軸方向に延びる前記中心香
味担持スレッドを有し、
前期包装紙に包まれた前記タバコロッドと、前記筒状の前記ロッドエン
ドフィルタセグメントと隣接する部分と、前記ロッドエンドフィルタセ
15 グメントの全体とは、チッピング紙に包まれており、
前記中心香味担持スレッドの少なくとも一部が加熱されることにより、
前記メンソールが前記中心香味担持スレッドから主流煙の中に放出され
る、
加熱式喫煙物品。」
20 a 被告相違点1-2は、以下のように訂正されるべきである。
本件発明は、「前記カートリッジ本体より長く、前記カートリッジ
本体を取り囲むオーバーラップ部であって、前記オーバーラップ部に
おける前記カートリッジ本体から突出した部分が、前記カートリッジ
の吸い口端と、前記吸引可能な物質媒体の吸い口側の端部と、の間に
25 設けられたフィルター材料を囲う、オーバーラップ部」を有し(構成
要件J)、「オーバーラップ部」内に「電気加熱部材」が「配置され」
(構成要件C)、「オーバーラップ部」が「前記制御ハウジングへの
必要な挿入深さを示す1つ以上のマーキングを外面に有」する(構成
要件G)のに対し、乙19発明には、そのような「オーバーラップ部」
に相当するものを有しない点。(以下「原告相違点1-2」という。)
5 b また、本件発明と乙19発明には、被告らが指摘する相違点のほか
に、以下の相違点も存在する。
「本件発明は、前記吸引可能な物質媒体と前記カートリッジ本体と
の間にポリマー材料を含む環状空間を定め、前記吸引可能な物質を含
む蒸気を前記環状空間内に形成させるのに充分に加熱するのに対し、
10 乙19発明は本件発明の「カートリッジ本体」に該当する構成を有し
ないから、本件発明における「前記吸引可能な物質媒体と前記カート
リッジ本体との間」の「環状空間」を観念できないし、仮に空間が存
在するとしても複数の環状穿孔がチッピング紙を通って設けられるた
め、環状空間が定まらず、複数の環状穿孔は周囲空気でフィルタを通
15 って吸い込まれる主流煙を通気するため、吸引可能な物質を含む蒸気
を前記環状空間内に形成させるのに十分に加熱するか不明である点。」
(原告相違点1-3)
「本件発明は「カートリッジ本体」を有し(構成要件A)、「吸引
可能な物質媒体」は「前記カートリッジ本体の一端部と近接する第1
20 端部及び前記カートリッジ本体の他端部と近接する第2端部を有し、
前記カートリッジ本体とほぼ同じ長さ」(構成要件B)であるのに対
し、乙19発明は本件発明の「カートリッジ本体」に該当する構成を
有しない点。」(原告相違点1-4)
a 原告相違点1-3及び原告相違点1-4について、乙19公報に
25 は、被告らが本件発明の「カートリッジ本体」に該当すると主張する
ところの「(ロッドエンドフィルタセグメントを包む)フィルタプラ
グラップ」の開示はないし、乙19公報には「商業的に入手可能なフ
ィルタプラグラップの全てが、本発明での使用に適切であるとは限ら
ない」と明記されている。したがって、乙19発明に対し、他の先行
文献に開示された技術に基づく「商業的に入手可能なフィルタプラグ
5 ラップ」を適用する動機付けはない。
原告相違点1-3及び原告相違点1-4に係る本件発明の構成は、
当業者が容易に想到できたものではない。
b 被告相違点1-2又は原告相違点1-2について、乙19公報に
「フィルタの全長及び包装されたタバコロッド12の隣接す・・・る
10 部分・・・を囲むチッピング紙」と記載されるように、「チッピング
紙」はタバコロッド12の全体を包んでいるのではなく、タバコロッ
ド12のフィルタ(ロッドエンドフィルタセグメント14)側の「隣
接する部分」を包んでいる。そのため、仮にタバコロッド12に電気
加熱要素を挿入したとしても、電気加熱要素がチッピング紙の内部に
15 配置されることにはなるとは限らない。よって、仮に電気加熱要素が
タバコロッドに挿入され得ることが周知であるとしても、構成要件C
の構成(「オーバーラップ部」内に「電気加熱部材」が「配置され」
ること)を容易に想到できたことにはならない。
また、乙19公報は、タバコスティックを吸うために使用されるヒ
20 ーターの型や形状を開示していない。加えて、タバコスティックは、
ユーザがタバコスティックの端に火をつけて消費する可燃性タイプで
あってよいことが開示されている。したがって、乙19発明の外部に
本件発明における「マーキング」を適用する動機付けはない。
さらに、乙19公報には「複数の環状穿孔(図示せず)は、フィル
25 タ14に沿った場所にあるチッピング紙を通って設けられ、周囲空気
でフィルタ14を通って吸い込まれる主流煙を通気する。」との記載
があるように、乙19発明のチッピング紙(被告らによれば本件発明
の「カートリッジ本体」に相当)には、複数の環状穿孔が設けられて
いる。そのようなチッピング紙に乙24-1に開示されるブランド名
を付したとすると、複数の環状穿孔によってブランド名の一部が欠落
5 してしまい、ブランドを棄損することになりかねない。また、そのよ
うなチッピング紙に乙25及び乙26に開示されるラインを付しても、
複数の環状穿孔によってラインが途切れてしまって使用者がラインで
あると認識できなくなってしまう。このように、複数の環状穿孔が設
けられたチッピング紙にマーキングを付すには阻害要因がある。
10 したがって、構成要件Gに相当する構成は当業者が容易に想到でき
たものではない。
イ 争点2-2(本件発明が、乙20発明を主引例として容易に発明できた
か)について
(被告らの主張)
15 本件発明は、以下のとおり、本件特許の優先日より前の平成19年8月
2日に公開された乙20公報に記載された乙20発明に基づいて当業者が
容易に発明できた。
乙20発明の内容は以下のとおりである。
「タバコロッドと、第1フィルターエレメントと、第2フィルターエ
20 レメントと、電気的な加熱手段と、を含む電気喫煙物品であって、
前記タバコロッドは、ラッパーに包まれ、前記第1フィルターエレメン
トの第1の端部に接し、
前記第2フィルターエレメントは、前記第1フィルターエレメントの第
2の端部に接し、
25 前記第1フィルターエレメントは、前記第1フィルターエレメントと同
じ長さの筒状のプラグラップに包まれ、
前記第1フィルターエレメントは、前記第1フィルターエレメントの中
心長手方向軸線に沿って前記第1フィルターエレメントの第1の端部か
ら第2の端部まで延在し、メンソールがコーティング及び/又は含浸さ
れた円柱形の固体サポートであって、前記筒状のプラグラップとの間に
5 ポリマーを含むように配置されている前記固体サポートを有し、
前記ラッパーに包まれた前記タバコロッドと、前記筒状のプラグラップ
に包まれた前記第1フィルターエレメントと、前記第2フィルターエレ
メントとは、チッピングラッパーに包まれており、
前記固体サポートの少なくとも一部が加熱されることにより、前記メン
10 ソールが前記固体サポートと前記筒状のプラグラップとの間に放出され、
味覚特性又は香り特性を付与する、
電気喫煙物品。」
本件発明と乙20発明と対比すると、以下の相違点がある。
a 本件発明は、「前記カートリッジに機能可能に連結されている嵌合
15 端部を有するとともに、前記電気加熱部材に電力を供給する電気エネ
ルギー源を含」む「制御ハウジング」を含む(構成要件D)のに対
し、乙20公報には、電気的な加熱手段により、熱分解生成物への分
解が燃焼なしに起こる温度まで喫煙材料が加熱されることは記載され
ているものの、それ以外には制御ハウジングの構成について具体的な
20 記載はない点(以下「相違点2-1」という。)。
b 本件発明においては、「オーバーラップ部」内に「電気加熱部材」
が「配置され」(構成要件C)、「オーバーラップ部」が「前記制御
ハウジングヘの必要な挿入深さを示す1つ以上のマーキングを外面に
有」する(構成要件G)のに対し、乙20公報には、電気的な加熱手
25 段により、熱分解生成物への分解が燃焼なしに起こる温度まで喫煙材
料が加熱されることは記載されているものの、電気的な加熱手段がチ
ッピングラッパーとラッパーをまとめたものの内部に配置されること、
及び、チッピングラッパーとラッパーをまとめたものが外面にマーキ
ングを有することの明記はない点(以下「被告相違点2-2」とい
う。)。
5 なお、原告らは、被告相違点2-2について、乙20発明では、チ
ッピングラッパーはプラグラップより長いか否か及びチッピングラッ
パーがプラグラップを取り囲むか否かが不明であるし、チッピングラ
ッパーがプラグラップから突出した部分があるのか否か不明であり、
仮にあるとしてもそのような部分が第2フィルターエレメントを囲う
10 のか否か不明であるとして、乙20公報には構成要件Jに相当する開
示がない旨主張する。しかしながら、乙20発明のチッピングラッパ
ーは、タバコロッド、第1フィルターエレメント及び第2フィルター
エレメントを包んでいる。したがって、仮に、被告製品の「吸い口端
側外装紙」と「タバコ端側外装紙」を「まとめたもの」が「前記カー
15 トリッジ本体より長く、前記カートリッジ本体を取り囲むオーバーラ
ップ部であって、前記オーバーラップ部における前記カートリッジ本
体から突出した部分が、前記カートリッジの吸い口端と、前記吸引可
能な物質媒体の吸い口側の端部と、の間に設けられたフィルター材料
を囲う、オーバーラップ部」(構成要件J)に該当する旨の原告らの
20 主張を前提とすると、乙20発明の「チッピングラッパー」と「ラッ
パー」をまとめたものは、「前記カートリッジ本体より長く、前記カ
ートリッジ本体を取り囲むオーバーラップ部であって、前記オーバー
ラップ部における前記カートリッジ本体から突出した部分が、前記カ
ートリッジの吸い口端と、前記吸引可能な物質媒体の吸い口側の端部
25 と、の間に設けられたフィルター材料を囲う、オーバーラップ部」
(構成要件J)に該当することになる。
c 原告らは、本件発明と乙20発明の相違点として、「本件発明は、
前記吸引可能な物質媒体と前記カートリッジ本体との間にポリマー材
料を含む環状空間を定め、前記吸引可能な物質を含む蒸気を前記環状
空間内に形成させるのに十分に加熱するのに対し、乙20発明は、プ
5 ラグラップと固体サポートとの間に環状空間が存在しないし、仮に空
間が存在するとしてもチッピングラッパーに換気孔があるため、環状
空間が定まらず、換気孔によって換気されるため、吸引可能な物質を
含む蒸気を前記環状空間内に形成させるのに十分に加熱するか不明で
ある点。」がある旨主張する(以下、原告らが主張するこの点を「原
10 告相違点2-3」という。)。しかし、乙20公報には、乙20発明
の固体サポートとラッパーとの間のフィルターが、繊維性のセルロー
スアセテートトウからなることが記載され、「フィルター」には、当
然、空気が通過することができる空間が存在する。したがって、乙2
0発明の固体サポートとラッパーとの間には空間がある。よって、仮
15 に充足論における原告らの解釈を前提とした場合には、乙20発明の
固体サポートの外面とラッパーとの間の空間は、「環状空間」に該当
する。よって、原告相違点2-3は、本件発明と乙20発明の相違点
とはならない。
d 原告らは、本件発明と乙20発明の相違点として、「本件発明の
20 「吸引可能な物質媒体」は、「前記カートリッジ本体の一端部と近接
する第1端部及び前記カートリッジ本体の他端部と近接する第2端部
を有し、前記カートリッジ本体とほぼ同じ長さ」(構成要件B)と特
定されるのに対し、乙20発明の「固体サポート」は、「プラグラッ
プチッピングラッパー」の一端部及び他端部とそれぞれ近接する第1
25 端部及び第2端部を有するか不明であるし、「固体サポート」は「プ
ラグラップチッピングラッパー」とほぼ同じ長さであるか不明である
点。」がある旨主張する(以下、原告らが主張するこの点を「原告相
違点2-4」という。)。しかしながら、乙20発明の「固体サポー
ト」は第1フィルターエレメントの第1の端部から第2の端部まで延
在する。したがって、仮に、被告製品の「PLAポリマー部用内装紙」
5 が「カートリッジ本体」(構成要件A)に該当し、被告製品のスレッ
ドが「前記カートリッジ本体の一端部と近接する第1端部及び前記カ
ートリッジ本体の他端部と近接する第2端部を有し、前記カートリッ
ジ本体とほぼ同じ長さの吸引可能な物質媒体」(構成要件B)に該当
する旨の原告らの主張を前提とすると、乙20発明は、「前記カート
10 リッジ本体の一端部と近接する第1端部及び前記カートリッジ本体の
他端部と近接する第2端部を有し、前記カートリッジ本体とほぼ同じ
長さの吸引可能な物質媒体」(構成要件B)に相当する構成を有する
ことになる。よって、原告相違点2-4は、本件発明と乙20発明の
相違点とはならない。
15 a 乙20公報には、「喫煙可能な材料は、タバコ材料であることが
可能であり」、「喫煙物品は、熱分解生成物への分解が燃焼なしに起
こる温度まで喫煙材料が加熱されるものであることが可能である。そ
のような物品は、よく知られており、電気的な・・・加熱手段・・・
を組み込んでいる。」と記載されている。よって、乙20発明は、電
20 気的な加熱手段によってタバコ材料等を加熱する喫煙物品、すなわち、
「電気喫煙物品」(構成要件E及びH)である。このような電気喫煙
物品が電気加熱要素によってタバコ材料等を加熱するために、電気エ
ネルギー源が必要不可欠であることは、自明である。また、仮に充足
論における原告らの主張を前提とすると、電気喫煙物品において、構
25 成要件Dの構成は、当業者にとって、周知・慣用技術であったといえ
る。よって、当業者が、乙20発明に、上記の周知・慣用技術を適用
して、構成要件Dの構成に想到することは、極めて容易であった。
b 前記 bのとおり、構成要件Jに相当する構成に関しては、乙20
公報に開示されており、仮に被告相違点2-2について原告主張のと
おり認定されるとしても、当業者は当該相違点について、極めて容易
5 に想到できた。
また、乙20発明の「タバコロッド」は、「ラッパー」に包まれて
いる。そのため、仮に、被告製品の「吸い口端側外装紙」と「タバコ
端側外装紙」を「まとめたもの」が「オーバーラップ部」(構成要件
J)に該当する旨の原告らの主張を前提とすると、乙20発明の「チ
10 ッピングラッパー」と「ラッパー」をまとめたものは、「オーバーラ
ップ部」(構成要件J)に該当し、タバコロッドに挿入される電気的
な加熱手段は、「オーバーラップ部」内に配置されることになる。ま
た、加熱式喫煙物品において、電気的な加熱手段(電気加熱要素)が
タバコロッドに挿入されることは、周知技術であった。したがって、
15 当業者は、乙20発明の電気的な加熱手段が「チッピングラッパー」
と「ラッパー」をまとめたものの内部に配置されることについて、極
めて容易に想到することができた。よって、当業者は、構成要件Cに
相当する構成について、極めて容易に想到することができた。
さらに、原告らの主張を前提とすると、タバコスティック上に何ら
20 かのブランド名等の文字、線、模様等が印刷されていれば、当該印刷
が単に装飾やブランド表示の目的のものであったとしても、構成要件
Gに該当することになる。加熱式タバコスティックの公然実施品にお
いて、被告製品1と同様の線又はブランド名の印刷があり、従来から
の燃焼式タバコスティックにおいても、外面に、ブランド名等の文字、
25 線、模様等を印刷することは、周知・慣用技術であった。そのため、
乙20発明において、従来からの燃焼式タバコスティックの周知・慣
用技術と同様に、ブランド名等の文字、線、模様等を印刷することは、
当業者が極めて容易に想到し得ることであるところ、仮に原告らの主
張を前提とすると、このような構成は、構成要件Gに相当することに
なる。そして、構成要件Gに相当する構成は、多数の公然実施品並び
5 にこれらのマニュアルに開示されている周知・慣用技術である。
したがって、当業者は、構成要件Gに相当する構成について、極め
て容易に想到することができた。
(原告らの主張)
本件発明と乙20発明との相違点に係る本件発明の構成は当業者が容易
10 に想到できたものではないから、本件発明は進歩性を有する。
被告らが認定した乙20発明は、乙20公報には、「プラグラップ」
が「第1フィルターエレメントと同じ長さ」であることの開示がなく、
「第1フィルターエレメントの第1の端部から第2の端部まで延在」す
る「固定サポート」の開示もなく、「第2フィルターエレメント」が
15 「チッピングラッパー」に「包まれ」ることの開示もないことから、適
切ではない。乙20発明については、以下のとおり認定すべきである。
「タバコロッドと、第1フィルターエレメントと、第2フィルターエ
レメントと、電気的な加熱手段と、を含む電気喫煙物品であって、
前記タバコロッドは、前記第1フィルターエレメントの第1の端部に接
20 し、
前記第2フィルターエレメントは、前記第1フィルターエレメントの第
2の端部に接し、
前記第1フィルターエレメント及び前記第2フィルターエレメントは、
筒状のプラグラップに包まれ、メンソールがコーティング及び/又は含
25 浸された円柱形の固体サポートを有し、
前記タバコロッドと、前記第1フィルターエレメントとは、チッピング
ラッパーに包まれており、
前記固体サポートの少なくとも一部が加熱されることにより、前記メン
ソールが前記固体サポートと前記筒状のプラグラップとの間に放出され、
味覚特性又は香り特性を付与する、
5 電気喫煙物品。」
被告らが指摘する被告相違点2-2は、以下のように訂正されるべ
きである。
a 本件発明は、「前記カートリッジ本体より長く、前記カートリッジ
本体を取り囲むオーバーラップ部であって、前記オーバーラップ部に
10 おける前記カートリッジ本体から突出した部分が、前記カートリッジ
の吸い口端と、前記吸引可能な物質媒体の吸い口側の端部と、の間に
設けられたフィルター材料を囲う、オーバーラップ部」を有し(構成
要件J)、「オーバーラップ部」内に「電気加熱部材」が「配置され」
(構成要件C)、「オーバーラップ部」が「前記制御ハウジングへの
15 必要な挿入深さを示す1つ以上のマーキングを外面に有」する(構成
要件G)のに対し、乙20発明の「チッピングラッパー」は「プラグ
ラップ」より長いか否か不明であり、「プラグラップ」を取り囲むか
否か不明であり、「チッピングラッパー」が「プラグラップ」から突
出した部分があるのか否か不明であり、仮にあるとしてもそのような
20 部分が第2フィルターエレメントを囲うのか否か不明であるから、
「オーバーラップ部」に相当するとはいえない点(以下「原告相違点
2-2」という。)。
b また、本件発明と乙20の発明と対比させると、被告らが指摘する
相違点のほかに、以下の相違点が存在する。
25 「本件発明は、前記吸引可能な物質媒体と前記カートリッジ本体と
の間にポリマー材料を含む環状空間を定め、前記吸引可能な物質を含
む蒸気を前記環状空間内に形成させるのに十分に加熱するのに対し、
乙20発明は、プラグラップと固体サポートとの間に環状空間が存在
しないし、仮に空間が存在するとしてもチッピングラッパーに換気孔
があるため、環状空間が定まらず、換気孔によって換気されるため、
5 吸引可能な物質を含む蒸気を前記環状空間内に形成させるのに十分に
加熱するか不明である点。」(原告相違点2-3)
「本件発明の「吸引可能な物質媒体」は、「前記カートリッジ本体
の一端部と近接する第1端部及び前記カートリッジ本体の他端部と近
接する第2端部を有し、前記カートリッジ本体とほぼ同じ長さ」(構
10 成要件B)と特定されるのに対し、乙20発明の「固体サポート」は、
「プラグラップチッピングラッパー」の一端部及び他端部とそれぞれ
近接する第1端部及び第2端部を有するか不明であるし、「固体サポ
ート」は「プラグラップチッピングラッパー」とほぼ同じ長さである
か不明である点。」(原告相違点2-4)
15 a 被告相違点2-2について、乙20公報は、タバコスティックを
吸うために使用されるヒーターの型や形状を開示していない。また、
タバコスティックは、ユーザがタバコスティックの端に火をつけて消
費する可燃性タイプであってよいことが開示されている。したがって、
乙20発明の外部に本件発明における「マーキング」を適用する動機
20 付けはない。
さらに、乙20公報には「チッピングラッパーがその中の換気孔に
よって換気されることが非常に好ましい。」との記載があるように、
乙20発明のラッパー(被告らによれば本件発明の「カートリッジ本
体」に相当。)には、換気孔が設けられている。そのようなラッパー
25 に乙24-1に開示されるブランド名を付したとすると、換気孔によ
ってブランド名の一部が欠落してしまい、ブランドを毀損することに
なりかねない。また、そのようなラッパーに乙25及び乙26に開示
されるラインを付しても、換気孔によってラインが途切れてしまって
使用者がラインであると認識できなくなってしまう。このように、換
気孔が設けられたラッパーにマーキングを付すには阻害要因がある。
5 したがって、被告相違点2-2に係る構成は当業者が容易に想到で
きたものではなく、当然に、原告相違点2-2に係る構成も当業者が
容易に想到できたものではない。
b 原告相違点2-3について、乙20公報には、環状空間を定めるこ
と及び前記吸引可能な物質を含む蒸気を前記環状空間内に形成させる
10 のに充分に加熱することについて、記載も示唆もない。乙20発明に
おいて、原告相違点2-3に係る本件発明の構成を採用することは動
機付けがないというべきであり、相違点2-3に係る本件発明の構成
を得ることは、当業者が容易になし得ることではない。
c 原告相違点2-4に係る本件発明の構成が容易に想到できたもので
15 はない。
ウ 争点2-3(本件発明が、乙31発明を主引例として容易に発明できた
か)について
(被告らの主張)
本件発明は、以下のとおり、本件特許の優先日より前の同年5月5日に
20 公開された乙31公報に記載された乙31発明に基づいて当業者が容易に
発明をすることができた。
乙31発明の内容は以下のとおりである。
「実質的に筒状のカートリッジと、
タバコ揮発性香味化合物又は非タバコ揮発性香味化合物を含む筒状の固
25 体エアロゾル形成基体であって、前記固体エアロゾル形成基体と前記カ
ートリッジとの間に、不織炭素繊維マット、熱安定性ポリマーマトリッ
クス又は天然セルロース繊維からなる筒状担体を含む環状の空間を定め
るように、前記カートリッジ内に配置されている固体エアロゾル形成基
体と、
電気加熱式の筒状の内部ヒーターであって、内部ヒーターの外径が前記
5 固体エアロゾル形成基体の内径と同じである内部ヒーターと、
前記筒状の固体エアロゾル形成基体を受け取るハウジングであって、前
記内部ヒーターに電力を供給する電源と前記電力の供給を制御する電子
回路とを含むハウジングと、
を含む電気加熱式喫煙システムであって、
10 前記内部ヒーターが前記固体エアロゾル形成基体を内面から加熱するこ
とにより、前記タバコ揮発性香味化合物又は非タバコ揮発性香味化合物
が、前記固体エアロゾル形成基体から、前記環状の空間に放出される、
電気加熱式喫煙システム。」
本件発明と乙31発明を対比すると、以下の相違点がある。
15 a 本件発明は、「前記カートリッジ本体より長く、前記カートリッジ
本体を取り囲むオーバーラップ部であって、前記オーバーラップ部に
おける前記カートリッジ本体から突出した部分が、前記カートリッジ
の吸い口端と、前記吸引可能な物質媒体の吸い口側の端部と、の間に
設けられたフィルター材料を囲う、オーバーラップ部」を有し(構成
20 要件J)、「オーバーラップ部」が「前記制御ハウジングヘの必要な
挿入深さを示す1つ以上のマーキングを外面に有」する(構成要件
G)のに対し、乙31公報には、「カートリッジ本体」、「フィルタ
ー材料」及び「マーキング」に関する明記がない点(以下「相違点3
-1」という。)。
25 b 本件発明のカートリッジ本体は実質的に筒状であり、前記吸引可能
な物質媒体と前記カートリッジ本体との間にポリマー材料を含む環状
空間を定め、前記吸引可能な物質を含む蒸気を前記環状空間内に形成
させるのに充分に加熱するのに対し、乙31公報には「カートリッジ
本体」に関する明記がない点。(以下「相違点3-2」という。)
c 本件発明の「吸引可能な物質媒体」は、「前記カートリッジ本体の
5 一端部と近接する第1端部及び前記カートリッジ本体の他端部と近接
する第2端部を有し、前記カートリッジ本体とほぼ同じ長さ」(構成
要件B)と特定されるのに対し、乙31公報には「カートリッジ本
体」に関する明記がない点。(以下「相違点3-3」という。)
a 喫煙物品において、タバコロッドやタバコウェブ等を当該タバコ
10 ロッドやタバコウェブ等と同じ長さの紙等で包むことは、周知・慣用
技術であった。そのため、当業者にとって、乙31発明に上記周知・
慣用技術を適用して、筒状担体及び筒状の固体エアロゾル形成基体を、
これらと同じ長さの紙等で包むことは、容易に想到することができた。
筒状担体及び筒状の固体エアロゾル形成基体を紙等で包む場合、当
15 該紙等は実質的に筒状である。また、熱により固体エアロゾル形成基
体から放出される「タバコ揮発性香味化合物又は非タバコ揮発性香味
化合物」は、固体エアロゾル形成基体の外側の、不織炭素繊維マット、
熱安定性ポリマーマトリックス又は天然セルロース繊維からなる筒状
担体を含む環状の空間に、放出されることになる。
20 したがって、相違点3-2及び相違点3-3に係る本件発明の構成
は、当業者が容易に想到することができた。
b 前記のとおり、喫煙物品において、タバコロッドやタバコウェブ等
を当該タバコロッドやタバコウェブ等と同じ長さの紙等で包み、さら
に外側のチッピングペーパー等によって当該タバコロッドやタバコウ
25 ェブ等とマウス側のフィルタとを接続することは、周知・慣用技術で
あった。被告製品の「吸い口端側外装紙」と「タバコ端側外装紙」を
「まとめたもの」が「前記カートリッジ本体より長く、前記カートリ
ッジ本体を取り囲むオーバーラップ部であって、前記オーバーラップ
部における前記カートリッジ本体から突出した部分が、前記カートリ
ッジの吸い口端と、前記吸引可能な物質媒体の吸い口側の端部と、の
5 間に設けられたフィルター材料を囲う、オーバーラップ部」(構成要
件J)に該当する旨の原告らの主張を前提とすると、当業者は、構成
要件Jに相当する構成に、容易に想到することができた。
また、原告らの主張を前提とすると、タバコスティック上に何らか
のブランド名等の文字、線、模様等が印刷されていれば、当該印刷が
10 単に装飾やブランド表示の目的のものであったとしても、構成要件G
に該当することになる。そのため、乙31発明に対して、従来からの
燃焼式タバコスティックの周知・慣用技術と同様に、ブランド名等の
文字、線、模様等を印刷すれば、構成要件Gの構成に該当することに
なる。また、構成要件G(「前記カートリッジの前記オーバーラップ
15 部は、前記制御ハウジングヘの必要な挿入深さを示す1つ以上のマー
キングを外面に有する、」)の構成も、当業者にとって、周知・慣用
技術であった。よって、当業者が、乙31発明から構成要件Gの構成
に想到することも、極めて容易であった。
なお、構成要件Cに相当する構成が相違点であるとしても、当業者
20 は、構成要件Cに相当する構成について、極めて容易に想到すること
ができた。
したがって、相違点3-1に係る構成は、当業者が容易に想到する
ことができた。
(原告らの主張)
25 本件発明と乙31発明との相違点に係る本件発明の構成は当業者が容易
に想到できたものではないから、本件発明は進歩性を有する。
乙31公報において「容器又はカートリッジ」の形状や大きさは不
明であり、内部ヒーターが「容器又はカートリッジ」内にあるとは理解
できない。
原告が指摘する相違点3-1は、以下のように訂正されるべきであ
5 る。
本件発明は、「前記カートリッジ本体より長く、前記カートリッジ本
体を取り囲むオーバーラップ部であって、前記オーバーラップ部におけ
る前記カートリッジ本体から突出した部分が、前記カートリッジの吸い
口端と、前記吸引可能な物質媒体の吸い口側の端部と、の間に設けられ
10 たフィルター材料を囲う、オーバーラップ部」を有し(構成要件J)、
「オーバーラップ部」内に「電気加熱部材」が「配置され」(構成要件
C)、「オーバーラップ部」が「前記制御ハウジングヘの必要な挿入深
さを示す1つ以上のマーキングを外面に有」する(構成要件G)のに対
し、乙31公報には、「カートリッジ本体」、「オーバーラップ部」、
15 「フィルター材料」及び「マーキング」に関する明記がない点。
被告らは「タバコロッドやタバコウェブ等を当該タバコロッドやタ
バコウェブ等と同じ長さの紙等で包むこと」を周知・慣用技術であると
主張するが、そのような認定はできない。
また、被告らの主張を前提とすると、乙31発明は「固体エアロゾル
20 形成基体は、熱安定性担体上に…提供する」ものであり、「担体は、そ
の内面…に堆積させた固体基体の薄い層を有する筒状担体」である。こ
のように、「筒状担体」の内表面に「固体エアロゾル形成基体」が一体
的に設けられた構成の乙31発明において、前記の周知技術を適用し、
「固体エアロゾル形成基体」を「固体エアロゾル形成基体」と接するよ
25 うに紙等で包むようにする(「固体エアロゾル形成基体」と「筒状担体」
との間に紙等を設ける)必要性はなく、そのようにする動機付けはない。
仮に、乙31発明に対して、タバコロッド等と接するように紙等でタ
バコロッド等を包むという周知技術を適用したとすると、「固体エアロ
ゾル形成基体」と「紙等」とが接することになる。この場合、被告らが
本件発明の「吸引可能な物質媒体」及び「カートリッジ本体」に該当す
5 ると主張するところの「固体エアロゾル形成基体」及び「紙等」は完全
に接することになるから、両者の間には、本件発明の構成要件Bの「環
状空間」に該当するものが定まらない。それゆえ、「環状空間」に「ポ
リマー材料」を含むこともできないし(構成要件B)、「吸引可能な物
質を含む蒸気」を環状空間に形成させることもできない(構成要件F)。
10 被告らの主張を前提とすると、乙31公報において、固体エアロゾル
形成基体及び筒状担体は容器又はカートリッジに入れて提供される。仮
に、「タバコロッドやタバコウェブ等を(当該タバコロッドやタバコウ
ェブ等と接するか否かに関わらず)紙等で包むこと」が周知・慣用技術
であるとしても、既に「容器又はカートリッジ」に入れられている固体
15 エアロゾル形成基体及び筒状担体を、さらに「紙等」で包むようにする
のは無駄でしかないから、そのようにする動機付けはない。
よって、仮に被告らが主張する周知技術を適用しても本件発明の構
成には至らない。
エ 争点2-4(サポート要件違反又は明確性違反の有無)について
20 (被告らの主張)
構成要件Dの「カートリッジに機能可能に連結されている嵌合端部」
(制御ハウジングが有するものとして規定されている「嵌合端部」)は、
本件明細書に記載されていない部材であり、その意義が不明確である。
よって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発
25 明が本件明細書に記載されておらず、特許法36条6項1号に規定するサ
ポート要件に違反する。また、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許
を受けようとする発明が明確ではなく、同項2号に規定する明確性要件に
違反する。
(原告らの主張)
本件明細書には、例えば【0008】に「本発明の物品は、カートリッ
5 ジの嵌合端部と嵌合する受容端部を有する制御ハウジングも含むことがで
きる。」との記載がある。制御ハウジングの受容端部は、カートリッジの
嵌合端部と嵌合するのであるから、当該受容端部は嵌合する部材である。
この(制御ハウジングが有する)「嵌合する受容端部」を構成要件Dにお
いて「嵌合端部」と表現しているのであり、本件明細書に記載されていな
10 い部材であるとの被告らの主張は失当である。
⑶ 争点3(間接侵害の成否)について
(原告らの主張)
ア 特許法101条1号所定の間接侵害の成否について
上記⑴の原告らの主張のとおり、被告製品は本件発明の技術的範囲
15 に属する。
そして、被告製品1及び被告製品2は、被告フィリップモリスのウェ
ブサイトにおいて「専用たばこスティック」との表記と共に被告製品1
のパッケージが示されているから、被告製品1は被告製品2と組み合わ
せて被告製品を生産すること以外に経済的、商業的又は実用的な用途が
20 ない「のみ品」であり、被告製品1は、被告製品2の専用品であって被
告製品の製造にのみ用いられるものであるから、被告製品1を販売等す
る行為は、特許法101条1号所定の間接侵害を構成する。
被告らは、被告製品1を加熱して喫煙するための「アイコス」と呼
ばれる被告製品2の「互換機」と称される加熱式喫煙具が多数販売され、
25 そのうち製品名を「EFOS E1」という製品(以下「本件互換機1」
という。)については、加熱式タバコスティックを外側から加熱してお
り、被告製品1と本件互換機1とを組み合わせたものは構成要件Cを充
足しない旨主張する。
しかし、使用後のタバコスティックにおけるタバコ部分には、本件互
換機1の「加熱部分」とされた円形状の部分と対応する形状のくぼみが
5 形成されており、タバコスティックが挿入された場合に、加熱部分とさ
れる円形状の部分は、加熱式タバコスティックの「タバコ端側外装紙」
(構成要件Cの「オーバーラップ部」)の内側に位置する。よって、本
件互換機1と被告製品1とを組み合わせたものは、構成要件Cの「オー
バーラップ部内に配置され」を充足する。
10 被告らは、互換機のうち、被告製品1を奥まで挿入した場合、被告
製品1の銀色の線が互換機の挿入口から相当程度離れている互換機(以
下、このような互換機を「本件互換機2」という。)が存在する旨主張
する。
しかし、構成要件Gにおいて、「マーキング」は「前記制御ハウジン
15 グへの必要な挿入深さを示す」ものと特定されているから、マーキング
がそのような指標を提供するかどうかが問題であり、マーキングが挿入
口に正確な位置に合わせられるかどうかは問題ではない。そして、被告
製品1の銀色の線の目的は本件互換機2に使用することでその目的が変
わることはないが、被告製品1の銀色の線と本件互換機2の挿入口との
20 距離は約1cmであり、この距離と、銀色の線から喫煙者はなお必要な
挿入深さを把握できるのであるから、被告製品1は本件互換機2ととも
に用いる場合も銀色の線は構成要件Gに該当する。
イ 特許法101条2号所定の間接侵害について
本件発明の課題及びその解決手段
25 本件明細書の【0005】に「タバコを電気加熱して、喫煙時の香味
と感覚を発生させる物品には、香味またはその他の吸引可能な物質が無
節操に放出される難点がある。」との記載があるように、本件発明は、
従来、適切な量の香味や吸引可能な物質を発生させられなかったことを
課題としている。
本件発明は、この課題を解決するため「前記吸引可能な物質媒体と前
5 記カートリッジ本体との間にポリマー材料を含む環状空間を定め」、
「前記吸引可能な物質を含む蒸気を前記環状空間内に形成させるのに充
分に、前記吸引可能な物質媒体の少なくとも一部を加熱するよう」にし
たものである。つまり、環状空間を定めて、その環状空間内に充分な、
吸引可能な物質を含む蒸気を加熱により形成させることで、適切な量の
10 香味や吸引可能な物質を発生させて上記課題を解決するというものであ
り、これは、従来技術にない特徴的な技術的手段である。
被告製品1が「課題の解決に不可欠なもの」に該当すること
被告製品1は、PLAポリマー部に、メンソールを含むスレッドの外
面と外側の包装紙との間の空間を有する(構成b)。このような被告製
15 品1によって初めて上記本件発明の特徴的な技術的手段が実現され、課
題が解決される。よって、被告製品1は「課題の解決に不可欠なもの」
に該当する。
被告製品2が「課題の解決に不可欠なもの」に該当すること
被告製品2は、ヒータブレードをバッテリーと通電して加熱式タバコ
20 スティックを加熱するものであり(構成d)、この加熱によって、スレ
ッド及びPLAポリマーシートに含有されたメンソールが、前記(2)
で述べた空間を含む加熱式タバコスティック内に十分に蒸発する(構成
f)。このような被告製品2によって初めて上記本件発明の特徴的な技
術的手段が実現され、課題が解決される。なお、このような被告製品2
25 は、本件特許の優先日において、文献公知の加熱式喫煙具でもないし、
公然実施されてきた加熱式喫煙具と同様でもない。よって、被告製品2
は「課題の解決に不可欠なもの」に該当する。
小括
被告製品1及び被告製品2は本件発明の技術的範囲に属する被告製品
の生産に用いられる。そして、被告製品1及び被告製品2は、いずれも
5 本件発明の課題の解決に不可欠であり、被告らは少なくとも本訴状の送
達により、本件発明が特許発明であること並びに被告製品1及び被告製
品2が本件発明の実施に用いられることを認識したものである。よって、
被告製品1及び被告製品2を販売等する行為は、特許法101条2号所
定の間接侵害を構成する。
10 (被告らの主張)
ア 特許法101条1号所定の間接侵害の成否について
被告製品が本件発明の技術的範囲に属するとしても、本件互換機1、
本件互換機2と被告製品1とを組み合わせたものは、以下のように、構
成要件C又はGを満たさないから、被告製品1は、本件発明に係る物の
15 「生産にのみ用いる物」(特許法101条1号)に当たらないため、同
号の間接侵害は成立しない。
本件互換機1については、加熱スティックを挿入するための凹部の
底面が平面であり、ヒータブレードを有さず、加熱式タバコスティクを
外側から加熱するものであるから、被告製品1と本件互換機1とを組み
20 合わせたものは、構成要件Cの「前記電気加熱部材は、前記カートリッ
ジのオーバーラップ部内に配置され、」に該当しない。
本件互換機2は、寸法上、被告製品1を完全に挿入した際に、被告
製品1の銀色の線が、本件互換機の挿入口から約1cmも離れた位置に
なる。構成要件Gは、「前記カートリッジは、前記制御ハウジングへの
25 必要な挿入深さを示す1つ以上のマーキングを外面に有する、」という
ものであり、被告製品1と互換機等の加熱式喫煙具とを組み合わせたも
のが、本件発明の技術的範囲に属するか否かの判断においては、当該加
熱式喫煙具との関係で、被告製品1の銀色の線が、当該加熱式喫煙具へ
の「必要な挿入深さを示す・・・マーキング」(構成要件G)に該当す
るものであるか否かが問題となるところ、喫煙者は、被告製品1の銀色
5 の線を見ても、本件互換機2への「必要な挿入深さ」(構成要件G)を
把握できない。このような本件互換機2との関係では、被告製品1の銀
色の線は、「前記制御ハウジングへの必要な挿入深さを示す・・・マー
キング」(構成要件G)に該当しない。
イ 特許法101条2号所定の間接侵害について
10 本件発明の課題及びその解決手段
本件明細書には、なぜ、「環状空間を定めて、その環状空間内に充分
な、吸引可能な物質を含む蒸気を加熱により形成させること」によって、
「適切な量の香味や吸引可能な物質を発生させて上記課題を解決する」
ことになるのかについて、何ら記載されておらず、原告らはこの点につ
15 いて明らかにしていない。したがって、本件発明の上記構成と原告らが
主張する上記課題の解決との関係(なぜ、環状空間に係る上記構成によ
って、香味や吸引可能な物質の発生量を適切にすることができるのか)
は、一切不明である。
被告製品1と「課題の解決に不可欠なもの」
20 原告らは、被告製品1が、具体的にどのような作用及び効果を奏する
ことによって上記の原告らが主張する課題を解決するものであるかにつ
いて、明らかにせず、明確に主張していない。よって、被告製品1が、
「課題の解決に不可欠なもの」に該当するとはいえない。
被告製品2と「課題の解決に不可欠なもの」
25 特許法101条2号の「課題の解決に不可欠なもの」の要件について
は、それを用いることにより初めて「発明の解決しようとする課題」が
解決されるような部品、道具、原料等が「発明による課題の解決に不可
欠なもの」に該当する。
被告製品2は、本件特許の優先日前から文献公知の加熱式喫煙具又は
公然実施されてきた加熱式喫煙具と同様のものである。なお、被告製品
5 2による加熱態様は、加熱式タバコスティック中のスレッドの有無によ
って変わらない(被告製品2は、スレッドのない加熱式タバコスティッ
クを加熱吸引するためにも用いられる。)。したがって、被告製品2に
よって初めて本件発明の課題が解決されるわけではない。
よって、被告製品2は、「課題の解決に不可欠なもの」に該当しない。
10 小括
以上のとおり、被告製品1及び被告製品2は、いずれも本件発明の
「課題の解決に不可欠なもの」とはいえない。よって、被告製品1及び
被告製品2を販売等する行為は、特許法101条2号所定の間接侵害を
構成しない。
15 ⑷ 争点4(被告製品2の無限定の差止請求の可否)について
(被告らの主張)
被告製品2は、そもそもメンソールを含有しない加熱式タバコスティック
やスレッドを有しない加熱式タバコスティック(以下、これらの加熱式タバ
コスティックを「非含有加熱式タバコスティック等」という。)を加熱する
20 用途にも用いられるものであり、実際に、上記1⑸イのとおり、被告製品1
をスレッドのないものに変更している最中であって、被告製品2の消費者の
中には、非含有加熱式タバコスティック等のみに被告製品2を使用する者も
相当な割合で存在する。そして、仮に直接侵害に関する原告らの主張を前提
としても、非含有加熱式タバコスティック等を挿入した被告製品2は本件発
25 明の実施品に該当しないから、そもそも非含有加熱式タバコスティック等の
みに被告製品2を使用する行為は直接侵害を構成するものではなく、このよ
うな利用を行う顧客の利益は正当なものとして保護されるべきである。その
ような行為をも対象として包含する原告らの差止請求は、顧客の正当な利益
を害するものであり、過剰である。
したがって、仮に特許法101条2号の間接侵害が成立するとしても、被
5 告製品2について、何らの限定をも付さずに差止めをすることは、過剰な範
囲について差止めを求めるものであり、認められない。
(原告らの主張)
非含有加熱式タバコスティック等のみに被告製品2を使用する者が実際に
存在するのか、存在するとしてもどの程度存在しているのかについては、立
10 証がされていない。また、被告製品1が市場から完全に除かれたかどうかに
ついても何ら立証がなく、依然として被告製品1が市場に存在する。そして、
被告らは、スレッドを含む被告製品1とスレッドを有しない加熱式タバコス
ティックとを区別して販売しているとも認められず、顧客はスレッドを有し
ない加熱式タバコスティックのみを意図して購入することはできず、必然的
15 にスレッドを含む被告製品1をも購入して使用することになる。
したがって、スレッドのない加熱式タバコのみに被告製品2を使用する顧
客など存在しない蓋然性が高く、過剰な範囲の差止めを求めるものではない。
⑸ 争点5(原告らの損害額等)について
(原告らの主張)
20 ア 被告らは、本件特許が登録された平成28年7月29日から現在に至る
まで、業として被告製品の販売等を行っている。
イ 原告アール・エイ・アイは、訴外レイノルズ社から、本件特許権の譲渡
を受ける際、併せて本件特許権の移転登録前の損害賠償請求権も譲渡を受
けたところ、被告らの行為により、平成28年7月29日から独占的実施
25 権の許諾を行った令和元年8月29日の前日である同月28日までの間に、
訴外レイノルズ社及び原告アール・エイ・アイが被る損害額は、少なくと
も1億円を下ることはない。
ウ 原告ニコベンチャーズは、原告アール・エイ・アイより本件特許権につ
いて、令和元年8月29日から独占的通常実施権の許諾を受け、さらに令
和2年2月21日専用実施権の設定を受けて日本でたばこ製品の販売を行
5 っている。独占的通常実施権者は、本件特許権を独占的に実施できるとい
う地位にある点で専用実施権者と変わるところはないから、独占的通常実
施権の期間は特許法102条2項の類推適用があり、専用実施権設定以降
は、同項の適用がある。そして、令和元年8月29日以降における被告ら
による被告製品の販売等により、被告らが受けた利益は少なくとも1億円
10 を下ることはない。
(被告らの主張)
否認ないし争う。
第3 当裁判所の判断
1 本件発明及びその意義について
15 ⑴ 本件明細書には、以下の記載等がある(便宜上、発明の詳細な説明におけ
る当該図面の説明部分に図面を示す。)。
ア 技術分野
本発明は、エアロゾル送出物品、およびタバコ構成要素または吸引可能
な形状のその他の材料をもたらすためにその物品を用いることに関する。
20 この物品は、タバコから作られているか、もしくは由来していてよく、ま
たはさもなければ、ヒトが摂取するためのタバコを組み込んでいてもよい。
さらに詳細には、本発明は、タバコ、タバコ由来材料、またはその他の材
料を、好ましくはあまり燃焼させずに加熱して、吸引可能な物質をもたら
す物品を提供し、その吸引可能な物質は、各種実施形態では、蒸気または
25 エアロゾル形状である。【0001】
イ 背景技術
長年にわたり、タバコの燃焼に基づく喫煙製品の改良品または代替品と
して、多くの喫煙物品が提案されてきた。例示的な代替品は、固体もしく
は液体燃料を燃焼させて、熱をタバコに伝達するか、または、化学反応を
5 用いて、このような熱源をもたらす用具を含んでいた。【0002】
喫煙物品の改良品または代替品のポイントは典型的には、不完全燃焼お
よび熱分解生成物をあまり送出することなく、紙巻きタバコ、葉巻、また
はパイプの喫煙を連想させる感覚をもたらすことであった。このために、
電気エネルギーを用いて揮発性材料を蒸発させるか、もしくは加熱するか、
10 または、タバコを燃焼させずに、紙巻きタバコ、葉巻、またはパイプの喫
煙の感覚をもたらそうと試みる多くの喫煙製品、香味発生体、および薬剤
吸入具が提案されてきた。【0003】
タバコを電気加熱して、喫煙時の香味と感覚を発生させる物品には、香
味またはその他の吸引可能な物質が無節操に放出される難点がある。さら
15 に、電気加熱する喫煙用具は多くの場合、不便かつ喫感を損なう外部の加
熱装置の必要性に限定される。したがって、タバコを燃焼させることなく、
燃焼熱源の必要性なく、燃焼生成物を発生させずに、紙巻きタバコ、葉巻、
またはパイプの喫煙の感覚を与えることができる喫煙物品の提供が望まし
いことがある。【0005】
20 ウ 発明の概要
本発明は概して、1つ以上の吸引可能な物質(ニコチンを含む)を肺に
送出するのに用いることができる物品を提供する。特定の実施形態では、
本発明は、電気加熱要素と電力源を用いて、蒸気またはエアロゾル形状の
吸引可能な物質をもたらすとともに、好ましくは、タバコまたはその他の
25 物質を実質的に燃焼させないか、またはまったく燃焼させずに、一酸化炭
素を含む燃焼または熱分解生成物をほとんどまたはまったく発生させずに、
副流煙または副流臭をほとんどまたはまったく発生させずに、喫煙を連想
させるその他の感覚ももたらす喫煙物品に関する。電気加熱部材は、喫煙
物品から吸煙するとほぼすぐに加熱し、その吸煙を通じて、かつ、喫煙物
品を約6~約10回(典型的な紙巻きタバコで得られる吸煙回数と同様の
5 回数)吸煙する際にわたって、エアロゾルの送出を行うことができる。
【0007】
したがって、特定の実施形態では、本発明は、吸引可能な物質の形成の
ための物品を提供する。この物品は、嵌合端部と、吸引可能な物質を消費
者の方に運ぶように構成された反対側の吸い口端と、外面および内面を有
10 する壁とを有する実質的に筒状のカートリッジ本体を含むことができる。
カートリッジ本体壁の内面は、内面および外面を有する壁を有する実質的
に筒状の吸引可能な物質媒体を含む内側のカートリッジ空間を定めて、吸
引可能な物質媒体壁の外面とカートリッジ壁の内面との間に所定の容積の
環状空間を定めるようにできる。吸引可能な物質媒体は特に、カートリッ
15 ジの吸い口端に近接する第1の端部と、カートリッジの嵌合端部に近接す
る第2の端部も有することができる。本発明の物品はさらに、吸引可能な
物質を含む蒸気を環状空間内に形成させるほど充分に、吸引可能な物質媒
体壁の少なくとも一部分を加熱する電気加熱部材を含むことができる。本
発明の物品は、カートリッジの嵌合端部と嵌合する受容端部を有する制御
20 ハウジングも含むことができる。したがって、制御ハウジングとカートリ
ッジ本体は、機能可能に連結されるものとして特徴づけることができる。
このような受容端部は特に、カートリッジの嵌合端部を受容する開口端部
を有するチャンバーを含んでよい。制御ハウジングは、電気加熱部材に電
力を供給する電気エネルギー源(その少なくとも一部は、受容端部に、お
25 よび/または受容チャンバー内に配置することができる)をさらに含むこ
とができる。特有の実施形態では、カートリッジの嵌合端部を制御ハウジ
ングの受容端部と嵌合させると(カートリッジの嵌合端部を制御ハウジン
グのチャンバーの中まで所定の距離だけスライドさせるなどすると)、吸
引可能な物質媒体と電気加熱部材が整列して、吸引可能な物質媒体の少な
くとも一部分を加熱できるようになる。電気エネルギー源(またはその構
5 成要素もしくは伸張部)は、吸引可能な物質媒体および電気加熱部材とも
整列してよい。したがって、電気加熱部材(および任意により電気エネル
ギー源)は、吸引可能な物質媒体とともに機能可能に配置されるものとし
て特徴づけることができる。【0008】
本発明の物品は、多くの形および大きさを取ることができる。例えば、
10 カートリッジは、実質的に円筒状の形であることができる。さらに、カー
トリッジは、円形、楕円形、および正方形からなる群から選択した形によ
って定められた断面を有することができる。カートリッジの嵌合端部は、
電気エネルギー源の少なくとも1つの構成要素を受容するのに充分な大き
さおよび形を有する開口部も含むことができる。カートリッジは、さまざ
15 まな特性を本発明の物品に付与するのに有用であり得るオーバーラップ部
も含むことができる。例えば、オーバーラップ部は、カートリッジの吸い
口端に近接して配置されたフィルター材料を含んでよい。したがって、カ
ートリッジの吸い口端は、部分的にふさがっているものとして特徴づけて
よく、この特徴は、カートリッジの吸い口端にあるカートリッジフレーム
20 のような、カートリッジのさらなる構成要素にも関連することができる。
【0009】
吸引可能な物質媒体は、1つ以上の吸引可能な物質の消費者への送出を
促すのに有用な各種の材料を含むことができる。特定的な実施形態では、
吸引可能な物質媒体は、タバコおよび/またはタバコ由来の材料を含むこ
25 とができる。吸引可能な物質媒体はエアロゾル形成材料も含んでよく、そ
のエアロゾル形成材料自体が、タバコ由来の材料を含んでもよい。特有の
実施形態では、エアロゾル形成材料は、多価アルコール(例えばグリセリ
ン)であることができる。別の実施形態では、吸引可能な物質媒体は、固
体基材を含むことができる。吸引可能な物質がこのような基材に適するよ
うに、基材自体がタバコを含んでよい(例えば再生タバコから形成された
5 タバコ紙)。あるいは、基材は単に、吸引可能な物質がコーティング、吸
収、または吸着されている紙材料またはその他の材料であってもよい。あ
る1つの特定的な実施形態では、吸引可能な物質媒体は、タバコと、固体
基材にコーティング、吸収、または吸着されているエアロゾル形成材料と
のスラリーを含むことができる。吸引可能な物質媒体はさらに、壁の内面
10 または外面の一方にある蒸気バリアのようなその他の構成要素を含んでよ
い。特に、蒸気バリアは、吸引可能な物質媒体を加熱するときに電気加熱
部材に隣接する吸引可能な物質媒体壁の表面上に配置できる。【0010】
吸引可能な物質媒体は、カートリッジ本体に、吸引可能な物質媒体の端
部のみで取り付けられていてよい。この様式では、吸引可能な物質媒体は、
15 カートリッジ内にゆるみなく張られているものとして特徴づけることがで
きる。吸引可能な物質媒体壁の外面とカートリッジ本体壁の内面との間の
環状空間の容積は、約5ml~約100mlであることができるとともに、
エアロゾルと空気との混合物の経路であって、吸引可能な物質(すなわち
エアロゾル形状)を望ましい量送出するために所望される平均吸煙容量に
20 実質的に対応する経路をもたらす動的ヘッドスペースをもたらすことがで
きる。ユーザーによる吸入のために、エアロゾルと吸引可能な物質が本発
明の物品の吸い口端を通るよう導くように、吸引可能な物質媒体のカート
リッジ本体の嵌合端部への取り付けは、空気の環状空間への移動を促すよ
うに構成させることができる。【0011】
25 制御ハウジングの受容チャンバーは、内面と外面を有する壁によって定
めることができ、この壁は、カートリッジの断面と実質的に同様の形をし
た断面を有する。チャンバー壁は、周囲空気をチャンバー内に侵入させ、
それにより、上記のように、環状空間からの吸引可能な物質の移動を促す
1つ以上の開口部も含むことができる。あるいは、チャンバーは、制御ハ
ウジングの受容端部になくてもよく、あるいは、制御ハウジングと適切に
5 整列するようにカートリッジを誘導する1つ以上のガイド構成要素(例え
ば制御ハウジングのケーシングの伸張部)に置き換えられていてもよい。
いくつかの実施形態では、チャンバーを定める壁は、ガイド構成要素の例
として特徴づけてもよい。したがって、ガイド構成要素は、寸法において、
チャンバー壁と実質的に同様であることができる。【0012】
10 電気エネルギー源は本質的に、電源から加熱部材に電流を流すようにす
るソケットであることができる。特有の実施形態では、電気エネルギー源
は、制御ハウジングから(例えば受容チャンバーを通じて、かつ好ましく
は、ほぼチャンバーの開口端部まで)延びる突出部を含むことができる。
電気加熱部材が、制御ハウジングの構成要素部分であるときには、電気加
15 熱部材は具体的には、電気エネルギー源のこの突出部に取り付けられてい
てもよい。このような実施形態では、加熱部材から延びて、電気エネルギ
ー源のソケットの中まで入っている電気接点を加熱部材は含むことができ
る。これは、接点をソケット中に、永久的で取り外し不能な形で接続した
ものであることができる。【0013】
20 加熱部材は具体的には、電流が流れると熱を発生させる抵抗線であるこ
とができる。特有の実施形態では、加熱部材は、吸入物質媒体と一体的で
あってもよい。【0014】
特有の実施形態では、加熱部材は複数の構成要素を含むことができる。
例えば、加熱部材は、実質的に小さい寸法の抵抗線を含んでよく、より広
25 い区域にわたって、発生した熱を放出させるように、放熱部材が加熱部材
と関連付けられていてもよい。【0015】
電気加熱部材(または放熱部材)は特に、突出部上に、所定の長さの部
分のみに沿って存在してよく、このような部分は特に、チャンバーの開口
端部にある突出部の端部に近接していてよい。所定の長さの部分は、突出
部の長さの約5%~約50%を含んでよい。この様式では、加熱部材は、
5 吸引可能な物質媒体の区域のうち、吸引可能な物質媒体の全長よりも短い
区域のみを含むことになるという点で、分割加熱をもたらすことができる。
加熱部材(または放熱部材)は、吸引可能な物質媒体の約6分の1~約1
0分の1の長さを含むのが好ましい(それにより、約6~約10個の区域、
または約6~約10回の吸煙で、吸引可能な物質媒体を使い切ることがで
10 きる)。これを実現させるために、カートリッジは具体的には、電気加熱
部材をその上に有する突出部部分を通って、ある距離だけ割り送りしてよ
い。このような割り送りは、押しボタンを用いてカートリッジを受容チャ
ンバー内で前進させるか、または、単にカートリッジを軽くたたくなどし
て、消費者が手動で制御することができる。特有の実施形態では、本発明
15 の物品は、突出部部分を越えてカートリッジを自動的に割り送る吸煙始動
式スイッチを含むことができる。これにより、割り送り中にカートリッジ
が進む距離は、吸煙の持続時間に直接関連させることができる。【001
6】
別の実施形態では、電気加熱部材は、制御ハウジング内に配置されてい
20 てもよいが、本発明の物品は、吸引可能な物質媒体の分割加熱ではなく、
一括加熱をもたらしてもよい。例えば、電気加熱部材(または放熱部材)
は、突出部上に、吸引可能な物質媒体の長さの約75%~約125%であ
る部分に沿って存在してもよい。この様式では、カートリッジは、使用持
続時間にわたり、受容チャンバーの中まで実質的に完全に挿入され、その
25 物品を吸引するたびに、吸引可能な物質媒体の全長(またはほぼ全長)が
加熱される。加熱部材の上に存在する電気接点は、電流を加熱部材に送出
できるように、ソケット(すなわち電気エネルギー源)と永久的に嵌合し
ている。チャンバー壁がない場合には、カートリッジは、突出部が、その
特有の構造により可能となる最大限まで、吸引可能な物質の中まで実質的
に挿入されるように制御ハウジングと組み合わさるものとして特徴づける
5 ことができる。【0017】
別の実施形態では、加熱部材は、制御ハウジングではなく、カートリッ
ジの構成要素部分であることができる。このような構成により、吸引可能
な物質媒体の一括加熱を可能にできる。具体的には、加熱部材は、吸引可
能な基材媒体の実質的に全長に沿って存在することができるとともに、電
10 気エネルギー源内のソケットと嵌合する電気接点を含むことができる。加
熱を始動させると、電気加熱部材の全長に沿って、加熱が行われる。具体
的には、電気加熱部材(または放熱構成要素)は、カートリッジ内に、吸
引可能な物質媒体の長さの約75%~約100%である部分に沿って存在
してよい。【0018】
15 加熱部材がカートリッジ内に存在するときには、分割加熱をもたらすこ
ともできる。このような分割加熱を実現させるために、電気エネルギー源
の突出部は、チャンバーの開口端部にある突出部の端部に近接する導電体
を含むことができる。加熱を行うときに、突出部と電気的に接続している
電気加熱部材部分に近接する吸引可能な物質媒体部分のみが加熱されるよ
20 うに、この導電体は、電気加熱部材の別個の部分と電気的接続を形成する。
突出部の導電体と電気的に接続している電気加熱部材部分は、吸引可能な
物質媒体の長さの約5%~約50%を含むことができる。本発明の物品に
関連する本発明の上記態様は概して、吸煙始動式割り送りの利用など、い
ずれの実施形態にも適用してよい。【0019】
25 分割加熱は、その他の加熱手段によってももたらしてよい。例えば、所
定の加熱部材によって、吸引可能な物質媒体の特定部分のみが加熱される
ように、吸引可能な物質媒体に対して、複数の加熱部材が配置されていて
もよい。この複数の加熱部材は、制御ハウジングまたはカートリッジの構
成要素であってよく、この複数の加熱部材は具体的には、吸引可能な物質
でコーティングされていてもよい。さらに、バルクヒーター構造体を設け
5 てもよいが、所定の時間に、バルクヒーターの特定部分のみに動力を供給
して、吸引可能な物質媒体の特定部分のみを加熱するように、この構造体
を電子制御に適合させることができる。【0020】
制御ハウジングは、本発明の物品の機能に必要なさらなる構成要素を含
んでよい。制御ハウジングは、適切な刺激が加わると、電気エネルギー源
10 から加熱部材への電流流動を始動させる開閉構成要素を含むことができる。
このような始動は、手動(例えば押しボタンの使用)であることも、自動
(例えば吸煙始動式加熱)であることもできる。特有の実施形態では、始
動作用により、連続的な電流流動が開始されて、加熱部材が素早く加熱さ
れる。【0021】
15 本発明の物品は、電流流動を制御するさらなる構成要素を含むのが好ま
しい。この制御は、電流流動の停止まで所定の期間、電流を流すようにす
る時間ベースの制御を含んでよい。このような時間ベースの調節は、電流
流動を迅速に開始および停止させて、ヒーターを所定の温度に保つサイク
ルの期間を含むことができる。別の実施形態では、所定の温度が実現され
20 たら、新たな吸煙によって再び始動されるまで電流調節器が電流流動を停
止させてもよい。開閉構成要素によって行われるこの開始および停止動作
によって、約120℃~約300℃の加熱部材動作温度をもたらすのが好
ましい。【0022】
制御ハウジングはさらに、電力を電気エネルギー源に供給するための電
25 力源を含む。このような電源は、1つ以上のバッテリーおよび/または少
なくとも1つのコンデンサー(または蓄電源をもたらすその他の手段)を
含んでよい。【0023】
別の実施形態では、本発明の物品の一般的構成要素は別々に存在してい
てもよい。例えば、本発明は、再利用可能な喫煙物品とともに用いる使い
捨てユニットを提供する。このような使い捨てユニットは、カートリッジ
5 に関して本明細書に記載されている対象のいずれも含むことができる。
【0024】
特有の実施形態では、再利用可能な喫煙物品とともに用いる使い捨てユ
ニットは、再利用可能な喫煙物品と嵌合するように構成された嵌合端部と、
吸引可能な物質を消費者の方に運ぶように構成された反対側の吸い口端と、
10 外面および内面(吸引可能な物質媒体壁の外面とカートリッジ本体壁の内
面との間の所定の容積の環状空間を定めるように、内面と外面を有する壁
を有する実質的に筒状の吸引可能な物質媒体を含む内側のカートリッジ空
間を定める)とを有する壁とを有する実質的に筒状のカートリッジ本体を
含むことができ、上記の吸引可能な物質媒体は、カートリッジの吸い口端
15 に近接する第1の端部を有するとともに、カートリッジの嵌合端部に近接
する第2の端部を有する。この使い捨てユニットは、吸引可能な物質を含
む蒸気を環状空間内に形成させるほど充分に、吸引可能な物質媒体の少な
くとも一部を加熱する電気加熱部材をさらに含むことができる。上記の電
気加熱部材は、再利用可能な喫煙物品内の電気エネルギー源と電気的に接
20 続する接点をさらに含むことができる。さらに、電気加熱部材は、筒状の
吸引可能な物質媒体内に配置されていることができ、好ましくは、吸引可
能な物質媒体と直接接している。特定の実施形態では、蒸気バリアは、電
気加熱部材としても機能ようにする構成要素を含んでよい。上記の使い捨
てユニットは、カートリッジ本体を取り囲むオーバーラップ部をさらに含
25 むことができ、このオーバーラップ部は、カートリッジ本体の嵌合端部を
越えて(例えば、カートリッジ本体の長さの約10%~約90%である距
離だけ越えて)延びることができる。オーバーラップ部は、カートリッジ
本体の吸い口端に近接して配置されたフィルター材料も含むことができる。
【0025】
同様に、本発明は、使い捨て喫煙物品とともに用いることができる再利
5 用可能な制御ユニットを提供する。このような再利用可能な制御ユニット
は概して、制御ハウジングに関して本明細書に記載されている対象のいず
れも含んでよい。【0026】
特有の実施形態では、使い捨て喫煙物品とともに用いる再利用可能な制
御ユニットは、使い捨て喫煙物品の嵌合端部を受容する受容端部を含むと
10 ともに、電気加熱部材に電力を送出する電気エネルギー源(この電気エネ
ルギー源は、制御ハウジングの受容端部から外側に延びる突出部を含むと
ともに、電気加熱部材上の電気接点と電気的接続を形成する構成要素を含
む)を含む制御ハウジングと、電源を収容する制御ユニット部分と、電気
エネルギー源から加熱部材への電流流動を始動させる開閉構成要素と、電
15 気エネルギー源から電気加熱部材への、すでに開始済みの電流流動を調節
する流動調節構成要素とを含むことができる。受容端部は特に、突出部を
取り囲む壁によって定められた受容チャンバーを含むことができる。例示
的な電源としては、バッテリーおよび/または少なくとも1つのコンデン
サーを挙げることができる。開閉構成要素は、吸煙始動式スイッチを含む
20 ことができ、あるいは、押しボタンを含んでもよい。電流調節構成要素は
特に、時間ベースの構成要素であることができる。したがって、所定の温
度が実現されたら、電流調節構成要素は、電気加熱部材への電流を停止さ
せてよい。さらに、所定の温度が実現されたら、所定の温度が所定の期間
保持されるように、電流調節構成要素は、電気加熱部材への電流を間欠的
25 に循環させてよい。電気接点との電気的接続を形成させる構成要素は、電
気エネルギー源に収容されるソケットであってよい。あるいは、電気接点
との電気的接続を形成させる構成要素は、突出部の上に位置してもよい。
【0027】
別の態様では、本発明は、本発明の物品のさまざまな構成要素、および
本発明の物品のための付属品をさまざまな組み合わせで提供できるキット
5 にも関する。具体的には、個々のキットは、1つ以上のカートリッジ、1
つ以上の制御ユニット、1つ以上の加熱部材、1つ以上のバッテリー、お
よび1つ以上の充電構成要素のいずれかの組み合わせを含んでよい。この
キットは、キットの1つ以上の構成要素を保管できるパッケージ(例えば
ケースまたは類似の物)を含んでよい。特に、このケースは、消費者のポ
10 ケットに入る大きさ(例えば、典型的なシャツのポケット、ズボンのポケ
ット、またはジャケットのポケットに適合する大きさ)であってよい。ケ
ースは、キットの構成要素に応じて硬くても柔らかくてもよい。ケースは、
本発明の物品の充電器として機能できる保管機構であってもよい。【00
28】
15 エ 図面の簡単な説明
本発明の実施形態の理解を助けるために、以下では、添付の図面を参照
していく。これらの図面では、同様の参照番号は同様の要素を指し、添付
の図面は必ずしも縮尺どおりに描かれているわけではない。図面は例示的
なものに過ぎず、本発明を限定するものとして解釈すべきではない。【0
20 029】
【図1】本発明の実施形態による物品であって、制御ハウジングと嵌合し
ているカートリッジを含み、そのカートリッジが制御ハウジングの中に最
短距離のみで挿入されている物品の斜視図である。
【図2】図1に示されている物品であって、カートリッジが、制御ハウジ
ング中のさらに奥まで割り送られている物品の斜視図である。
5 【図3】図1に示されている物品であって、カートリッジが、制御ハウジン
グ中に完全に割り送られている物品の斜視図である。
【図4】本発明の実施形態による物品の一部の斜視図であり、制御ハウジ
ングの受容チャンバーから外したカートリッジを示しており(一部のみが
10 示されている)、制御ハウジングは、カートリッジ内の吸引可能な物質媒
体の分割加熱をもたらすように、突出部の上に位置する加熱部材を含んで
おり、カートリッジと受容チャンバーは、物品の下層構成要素を見えるよ
うにするために、部分的に切断されている。
【図4a】本発明の実施形態によるカートリッジの断面であり、この断面
は、図4において点線で示されている平面で切断したものであり、この断
面は、カートリッジの特定の構成要素の空間的関係と構成を示している。
【図4b】本発明によるカートリッジの代替的な実施形態の断面であり、
この断面は、図4において点線で示されている平面で切断したものであり、
この断面は、カートリッジの特定の構成要素の空間的関係と構成を示して
いる。
【図4c】本発明によるカートリッジのさらなる代替的な実施形態の断面
であり、この断面は、図4において点線で示されている平面で切断したも
のであり、この断面は、カートリッジの特定の構成要素の空間的関係と構
成を示している。
【図5】図4のカートリッジの吸い口端から見たカートリッジフレーム部材
5 の正面平面図であり、このフレーム部材は、その構成要素を詳細に示す目
的で、カートリッジから分離した状態で示されている。
【図6】本発明の実施形態による物品の斜視図であり、制御ハウジングと
嵌合しているカートリッジを示しており、下層構成要素が見えるように、
10 制御ハウジングの外側の一部が除去されている。
【図7】図4の物品の斜視図であり、カートリッジが制御ハウジングの受
容チャンバーの中に最短距離で挿入されており、突出部上の加熱部材が、
管状の吸引可能な物質媒体の中央空洞部内に、かつ吸引可能な物質媒体の
少なくとも一部を加熱するほど充分に吸引可能な物質媒体と接触して配置
されるような距離に、前記最短距離がなっている。
【図8】図7の物品の斜視図であり、突出部上の加熱部材が、カートリッ
5 ジの嵌合端部からある距離だけ、かつ、カートリッジの吸い口端の方に同
じ距離だけ移動した状態になるように、管状の吸引可能な物質媒体の中央
空洞部のさらに奥に配置されるように、カートリッジが、制御ハウジング
の受容チャンバーの中に割り送られている。
10 【図8a】本発明の実施形態による物品の一部の斜視図であり、制御ハウ
ジングの受容端部と嵌合しているカートリッジを示しており(一部のみが
示されている)、制御ハウジングは、カートリッジ内の吸引可能な物質媒
体の分割加熱をもたらすように、その上に加熱部材を有する突出部を含ん
でおり、カートリッジは、物品の下層構成要素を見えるようにするために、
部分的に切断されている。
【図8b】本発明の実施形態による物品の一部の斜視図であり、制御ハウ
5 ジングの受容端部から外したカートリッジを示しており(一部のみが示さ
れており、チャンバーを定める壁を含まない)、制御ハウジングは、カー
トリッジ内の吸引可能な物質媒体の分割加熱をもたらすように、突出部上
にあるとともに放熱部材に囲まれている加熱部材を含み、カートリッジは、
物品の下層構成要素を見えるようにするために、部分的に切断されている。
【図9】本発明の実施形態による物品の一部の斜視図であり、その中に加
熱部材を有するカートリッジであって、制御ハウジングの受容チャンバー
と部分的に嵌合しているカートリッジを示しており(一部のみが示されて
いる)、制御ハウジングは、カートリッジ内の吸引可能な物質媒体の分割
加熱をもたらすように、カートリッジ内の加熱部材と相互作用する導電体
をその上に有する突出部を含み、カートリッジと受容チャンバーは、物品
の下層構成要素を見えるようにするために、部分的に切断されている。
【図10】本発明の実施形態による物品の一部の斜視図であり、制御ハウ
ジングの受容チャンバーから外したカートリッジを示しており(一部のみ
が示されている)、制御ハウジングは、カートリッジ内の吸引可能な物質
媒体の一括加熱をもたらすように、突出部上にある加熱部材を含んでおり、
10 カートリッジと受容チャンバーは、物品の下層構成要素を見えるようにす
るために、部分的に切断されている。
【図11】図10の物品の斜視図であり、加熱部材をその上に有する突出
部が、管状の吸引可能な物質媒体の中央空洞部の中に完全に挿入されて、
それにより吸引可能な物質媒体の一括加熱をもたらすように配置されるよ
うに、カートリッジは、制御ハウジングの受容チャンバーの中に完全に挿
入されている。
【図12】本発明の実施形態による物品の一部の斜視図であり、加熱部材
をその中に有するカートリッジであって、制御ハウジングの受容チャンバ
ーのソケットから外したカートリッジを示しており(一部のみが示されて
いる)、制御ハウジングは、カートリッジ内の吸引可能な物質媒体の一括
10 加熱をもたらすように、加熱部材上の電気接点を受容するためのソケット
を有する電気エネルギー源を含んでおり、カートリッジと受容チャンバー
は、物品の下層構成要素を見えるようにするために、部分的に切断されて
いる。
【0030】
オ 発明を実施するための形態
本発明は、電気エネルギーを用いて、(好ましくは材料をあまり燃焼さ
5 せることなく)材料を加熱して、吸引可能な物質を形成させる物品であっ
て、「携帯型」用具とみなされるほど充分に小型である物品を提供する。
特定の実施形態では、本発明の物品は特に、喫煙物品として特徴づけるこ
とができる。本明細書で使用する場合、喫煙物品とは、その物品のいずれ
の構成要素も実際には燃焼させずに、紙巻きタバコ、葉巻、またはパイプ
10 を喫煙している香味および/または感覚(例えば手触りまたは口触り)を
提供する物品を意味するよう意図されている。喫煙物品という用語は必ず
しも、動作時に、その物品が、燃焼または熱分解の副生成物という意味に
おける煙を発生させることを示すわけではない。むしろ、喫煙は、物品の
使用時における、個人の身体的行為、例えば、物品を手に持つ、物品の一
15 方の端部を吸う、物品から吸い込むという行為に関する。さらなる実施形
態では、本発明の物品は、蒸気生成物品、エアロゾル化物品、または医薬
送達物品であるものとして特徴づけることができる。したがって、本発明
の物品は、1つ以上の物質を吸引可能な状態で供給するように整えること
ができる。別の実施形態では、吸引可能な物質は、実質的に蒸気(すなわ
ち、その臨界点よりも低い温度において気相である物質)の形状であるこ
とができる。別の実施形態では、吸引可能な物質は、エアロゾル(すなわ
ち、微細固体粒子または液滴の気体中懸濁物質)の形状であることができ
る。吸引可能な物質の物理的形状は必ずしも、本発明の物品の性質によっ
5 て限定されるわけではなく、蒸気状態またはエアロゾル状態で存在するか
に関する、媒体および吸引可能な物質自体の性質に依存してよい。いくつ
かの実施形態では、これらの用語は置き換え可能であってよい。すなわち、
簡潔化のために、本発明を説明するために用いられるこれらの用語は、別
段の記載のない限り、置き換え可能であるものと理解する。【0032】
10 ある1つの態様では、本発明による物品は概して、電気エネルギー源と、
電気エネルギー源から電力を供給される加熱部材と、電気エネルギー源か
ら加熱部材への電気エネルギーの送出に関連する制御構成要素または制御
ハウジングと、加熱部材に近接して、もしくは直接接して配置可能な吸引
可能な物質媒体を含むことができる。加熱部材が吸引可能な物質媒体を加
15 熱すると、消費者が吸入するのに適する物理的形状で、吸引可能な物質が
吸引可能な物質媒体から形成、放出、または生成される。(中略)具体的
には、吸引可能な物質は、蒸気もしくはエアロゾル、またはこれらの混合
物の形状で放出される。【0033】
図を参照すると、本発明による物品10は、制御ハウジング200とカ
20 ートリッジ300を含むことができる。(略)【0034】
下に詳述されているように、本発明による物品は各種実施形態を取って
よいが、消費者による本発明の物品の使用は、その範囲において類似する
ことになる。具体的には、本発明の物品は、使用の際に消費者が組み立て
を行い、その後、消費者が分解を行う複数の構成要素として提供できる。
25 具体的には、消費者は、実質的に円筒状の形をしている再利用可能な制御
ハウジングであって、開口端部(または、チャンバー壁がないときには、
突出部端部)と反対側の閉鎖端部とを有する制御ハウジングを持ってよい。
制御ハウジングの閉鎖端部は、本発明の物品の使用進行状態に関するイン
ジケーターを1つ以上含んでよい。消費者はさらに、制御ハウジングの開
口端部と嵌合する1つ以上のカートリッジを持つことができる。本発明の
5 物品を使用するには、本発明の物品が、下に論じられているように作動で
きるように、消費者は、カートリッジを制御ハウジングの開口端部の中に
挿入するか、さもなければ、カートリッジを制御ハウジングと組み合わせ
ることができる。いくつかの実施形態では、カートリッジは、構成要素の
全体構造によって可能となる限り奥まで、制御ハウジングの中に挿入でき
10 る。典型的には、カートリッジの部分のうち、吸煙の際に消費者の口内に
挿入するのに少なくとも充分な大きさを有する部分が、制御ハウジングの
外部に留まることができる。この部分は、カートリッジの吸い口端と称し
てよい。【0035】
使用中、消費者は、吸引可能な物質媒体(またはその特定の層)に隣接
15 する加熱部材の加熱を開始させ、媒体の加熱により、カートリッジ内側の
空間内に吸引可能な物質を放出させて、吸引可能な物質をもたらすように
する。消費者がカートリッジの吸い口端を吸うと、制御ハウジングおよび
/またはカートリッジ自体の開口部を通じて、カートリッジの中に空気が
入り込む。吸い込まれた物質が、カートリッジの吸い口端を出て消費者の
20 口に入るので、入り込んだ空気と放出された吸引可能な物質との混合物を
消費者が吸い込む。(中略)充分な量の吸引可能な物質(例えば、典型的
な喫煙体験と同等とみなすのに充分な量)が放出されたほど、消費者が充
分な回数の吸煙を行ったら、カートリッジを制御ハウジングから外し、破
棄することができる。【0036】
25 別の実施形態では、カートリッジは最初、制御ハウジングの中に短い距
離で挿入するだけでもよい。使用中、カートリッジを制御ハウジングの中
に漸増的に押し込んでいくことができる。(中略)【0037】
特有の実施形態を参照すると、図1~図3の実施形態に見られるように、
本発明による物品10は、実質的に棒状、実質的に筒状、または実質的に
円筒状の形であると定めてよい全体的形状を有することができる。図1~
5 図3の実施形態では、物品10は、実質的に円形断面を有するが、他の断
面形状(例えば楕円形、正方形、三角形など)も本開示に含まれる。本発
明の物品の物理的形状について説明するこのような言葉は、制御ハウジン
グ200およびカートリッジ300を含め、物品10の個々の構成要素に
も適用してよい。【0038】
10 制御ハウジング200とカートリッジ300は具体的には、スライドす
る形、またはその他の割り送り可能な形で、嵌合し合うように構成されて
いる。図1で見られるように、作動中、カートリッジ300と制御ハウジ
ング200が同軸関係になるように、カートリッジ300を制御ハウジン
グ200の開口端部の中にスライドさせる。このような実施形態では、制
15 御ハウジング200は、制御部205と、カートリッジ300が挿入され
る受容チャンバー210とを含むことができる。下でさらに論じられてい
るように、図2および図3は、いくつかの実施形態で、使用中に物品10
が徐々に短くなることができる性質を示している。具体的には、特定の実
施形態では、物品10がその最短の長さに達したら、カートリッジ300
20 を使用し終わったと分かるように、カートリッジ300は、連続的または
分割的に制御ハウジング200の中に割り送ることができる。割り出しも
用いてよい。カートリッジ300は、受容チャンバー210内の所定の位
置で所定の停止を行うことなく、連続的に移動してもよい。別の実施形態
では、カートリッジ300の割り送りにより、所定の長さのみの移動が行
25 われるように、受容チャンバー210内で、カートリッジ300が、所定
の停止または所定の長さの移動を行うようにできる。本明細書でさらに論
じられているように、さまざまな割り送り手段が本発明に含まれる。いく
つかの実施形態では、カートリッジ300は、消費者による使用の開始時
に、制御ハウジング200の中に部分的または完全に挿入することができ
る。徐々に短くなるカートリッジに関して、割り送りを説明しているが、
5 本発明は、使用時に、カートリッジを制御ハウジングの中に完全に挿入し、
カートリッジをハウジングから外側に割り出す実施形態も含む。
【0039】
本発明による物品10についてはさらに、カートリッジ300と制御ハ
ウジング200の受容チャンバー210の内部構成要素が見えるように、
10 物品10の一部が切断されている図4に示されている特定の実施形態に関
して説明できる。カートリッジ300は、外面と内面を有する壁であって、
カートリッジ本体305に実質的に管状の形をもたらす壁で形成されたカ
ートリッジ本体305を含む。カートリッジ本体305は、制御ハウジン
グ200の受容チャンバー210と嵌合する嵌合端部310と、吸引可能
15 な物質を消費者に運べるようにするように構成された吸い口端315とを
定める対向末端部を有する。必須ではないが、カートリッジ本体305の
壁は、末端部の一方または両方が、図4に示されているフランジ302な
どで補強されているのが有益であり得る。オーバーラップ部380が存在
すると、フランジの存在により、(図4aに示されているように)カート
20 リッジとオーバーラップ部との間にデッドスペース389をもたらすこと
ができる。【0040】
カートリッジ本体305は、管状の形のような適切な形態を形成および
保持するのに適するとともに、吸引可能な物質媒体350をその中に保持
するのに適するいずれかの材料で形成させることができる。カートリッジ
25 本体305は、図4aに示されているように、単一の壁で形成させること
ができる。いくつかの実施形態では、カートリッジ本体305は、本明細
書でさらに論じられているように、少なくとも電気加熱部材によってもた
らされる加熱温度である温度で、その構造的完全性保持するように、例え
ば劣化しないように、耐熱性である材料(天然または合成)で形成されて
いる。いくつかの実施形態では、耐熱性ポリマーを用いてよい。別の実施
5 形態では、カートリッジ本体305は、実質的にストローの形をした紙の
ような紙から形成されていてよい。本明細書でさらに論じられているよう
に、紙チューブのようなカートリッジ本体305は、それに付随する1つ
以上の層であって、蒸気がカートリッジ本体305の中を移動するのを実
質的に防ぐように機能する層を有してよい。(以後略)【0041】 カ
10 ートリッジ本体305の壁の内面は、内側のカートリッジ空間を定め、吸
引可能な物質媒体350が前記空間に含まれている。吸引可能な物質媒体
350は、加熱されると、香味含有物質のような吸引可能な物質を放出す
るいずれかの材料であることができる。図
4の実施形態では、吸引可能な物質媒体350は、吸引可能な物質を含む
15 固体基材である。吸引可能な物質は具体的には、タバコ構成要素またはタ
バコ由来の材料(すなわち、タバコ中に元々あるか、タバコから直接単離
できるか、または合成によって調製される材料)であってよい。例えば、
吸引可能な物質媒体は、不活性な基材と組み合わせたタバコ抽出物または
その一部を含むことができる。吸引可能な物質媒体はさらに、その燃焼温
20 度未満の温度に加熱されると、吸引可能な物質を放出する未燃タバコ、ま
たは未燃タバコを含む組成物を含んでよい。あまり好ましくないが、吸引
可能な物質媒体は、タバコ凝縮物またはその一部(すなわち、タバコの燃
焼によって生成させた煙の凝縮構成要素で、香味と、できればニコチンを
残した凝縮構成要素)を含んでもよい。【0042】
25 さらに、吸引可能な物質媒体350は、吸引可能な物質またはその前駆
体がその中に組み入れられているか、またはさもなければその上に付着し
ている不活性な基材を含んでよい。例えば、吸引可能な物質を含む液体を
不活性な基材にコーティング、吸収、または吸着させて、熱を加えたら、
吸引可能な物質が、陽圧または陰圧の印加によって本発明の物品を取り出
せる形状で放出されるようにしてよい。【0044】
5 吸引可能な物質(例えば、広くは香味、ニコチン、または医薬)に加え
て、吸引可能な物質媒体は、多価アルコール(例えばグリセリン、プロピ
レングリコール、もしくはこれらの混合物)および/または水のような1
つ以上のエアロゾル形成材料または蒸気形成材料を含むことができる。
(中略)吸引可能な物質自体が、加熱されると蒸気、エアロゾル、または
10 これらの組み合わせとして放出される形状であってもよいことも分かる。
別の実施形態では、吸引可能な物質は必ずしも、蒸気またはエアロゾルの
形状で放出しなくてもよいが、吸引可能な物質と組み合わせてもよい蒸気
形成材料またはエアロゾル形成材料が、加熱されると蒸気またはエアロゾ
ルを形成させて、本質的に吸引可能な物質自体の担体として機能すること
15 ができる。したがって、吸引可能な物質は、基材にコーティングされてい
るか、基材に吸収されているか、基材に吸着されているか、または基材の
天然構成要素(すなわち、タバコもしくはタバコ由来の材料のような、基
材を形成する材料)であるものとして特徴づけることができる。(中略)。
基材構成要素は、加熱部材が吸引可能な物質の放出を促せるようになる本
20 明細書に記載の温度において、燃焼したり、またはさもなければ劣化した
りしないいずれかの材料であってよい。例えば、タバコ紙(例えば、タバ
コ繊維および/または再生タバコを含む紙様材料)を含む紙材料を用いて
よい。したがって、各種の実施形態では、吸引可能な物質媒体は、吸引可
能な物質を含むものとして、あるいは、吸引可能な物質と別個のエアロゾ
25 ル形成材または蒸気形成材とを含むものとして、あるいは、吸引可能な物
質と基材を含むものとして、あるいは、吸引可能な物質媒体と別個のエア
ロゾル形成材または蒸気形成材と基材とを含むものとして特徴づけること
ができる。したがって、基材は、吸引可能な物質とエアロゾル形成材また
は蒸気形成材の一方または両方を含んでもよい。【0045】
所望される場合、タバコ材料または吸引可能な物質媒体は概して、糖、
5 グリセリン、バニラ、ココア、甘草、およびメントールなどのその他の香
味材料のようなその他の構成要素をさらに含むことができる。(中略)こ
のようなさらなる構成要素の選択は、本発明の物品に所望される官能特性
のような要因に基づき、さまざまであることができ、本発明は、このよう
ないずれのさらなる構成要素も含むよう意図されており、このようなさら
10 なる構成要素は、タバコ、タバコ関連製品、またはタバコ由来製品の分野
の通常の知識を有するものであれば容易にわかるであろう。(以後略)
【0046】
吸引可能な物質および/または別個の蒸気形成材料は、各種の構成で基
材上に搭載してよい。例えば、基材の長さ沿いの各材料の濃度が実質的に
15 一定になるように(例えば、基材を複数の長手方向区域に分割したときに、
個別の区域のそれぞれにおける材料の総濃度が、実質的に同程度(差が1
0質量%未満、5質量%未満、または2質量%未満であるなど)であり得
るように、いずれの材料も、基材と結合させてよい。別の実施形態では、
これらの材料の一方または両方が所定のパターンで存在してよい。例えば、
20 このパターンは、基材の長さに沿って濃度が連続的に上昇または低下する
勾配であってよい。この様式では、物品を1回目に吸煙したときに、最後
の吸煙時における吸引可能な物質の量よりも有意に多いかまたは少ない量
の吸引可能な物質を供給できる。さらに、パターンは、基材の長さ沿いの
ある点(例えば物品を最初に吸煙したとき、最後に吸煙したとき、または
25 何回目かの吸煙時に対応する点)で、ある用量の吸引可能な物質を供給す
るようなものであってもよい。このようなパターンのいずれの異種形態も、
本開示を踏まえて想定してよく、そのような変形形態は、同様に本発明に
含まれる。このようなパターン化は同様に、本明細書に記載されているよ
うなさらなる構成要素(例えば香味剤)に適用してもよい。例えば、物品
を最後に吸煙するとき、または最後から2回または3回目に吸煙するとき
5 に実質的に対応する位置に、ある用量の香味剤を基材上にもたらしてよい。
このような香味の放出は、その用具の最後の吸煙が近づいているか、また
は最後の吸煙が行われたという合図を消費者に伝えるものであってよい。
【0047】
さらに、吸引可能な物質(および、香味剤のようないずれかのさらなる
10 構成要素)の放出は、特定の加熱部材の始動と関連付けてもよい。例えば、
複数の加熱部材を設けてよく、少なくとも2つの異なる吸引可能な物質を
個別に、2つの異なる加熱部材と関連付けてよい。ある1つの非限定的な
例では、10個の加熱部材を設けてよく、加熱部材のうちの9個を第1の
吸引可能な物質(例えばタバコ構成要素)と関連付けてよく、加熱部材の
15 うちの1つを特定の香味剤(例えばメントール)と関連付けてよい。(以
後略)【0048】
特有の実施形態では、吸引可能な物質媒体が固体基材を含むとともに、
吸引可能な物質媒体の、体積に対する表面積比が高いのが特に好ましいこ
とがある。これは、基材として高熱伝導性材料を必要とせずに、同時に、
20 基材から空気流の中に放出できる蒸気またはエアロゾルの体積を増加させ
るとともに、所望の放出体積をもたらすのに必要な温度を低下させるのに
特に有益であり得る。さらに、表面積の増大によって、基材と加熱部材と
の接触面積を大きくすることができ、その結果、加熱温度を低下させるこ
とができる。さらに詳細には、表面積の増大により、さらに低い蒸気圧で
25 のエアロゾルの形成を促すことができ、それにより、さらに低い温度で望
ましい量のエアロゾルを形成可能になり、これは、エネルギー必要量の低
下と、無用の熱分解副生成物が形成される可能性の低下と関連づけること
ができる。特定的な実施形態では、表面積の増大は、気孔率が高く、およ
び/または渦巻き状の表面形状を有する基材を用いることによってもたら
すことができる。【0049】
5 基材は特に、厚みに関して特徴づけてもよい。加熱部材から、揮発され
る吸引可能な物質への迅速な熱伝達を促すように、基材は比較的薄いのが
好ましい。(以後略)【0050】
図4の実施形態では、吸引可能な物質媒体350は実質的に筒状の形を
しているとともに、内面と外面を有する壁352で形成されている。上記
10 のように、基材壁352は実質的に、その中に元々吸引可能な物質を含む
ことができる材料(例えばタバコ紙)で形成されていても、吸引可能な物
質および/または蒸気形成材もしくはエアロゾル形成材をその中に混入さ
せることができるいずれかのさらなる材料(例えば紙)で形成されていて
もよい。吸引可能な物質および/または蒸気形成物質もしくはエアロゾル
15 形成物質に加えて、基材壁は、追加の構成要素を含んでよい。例えば、蒸
気またはエアロゾルが吸引可能な物質媒体の内側の容積内に放出されるの
を防いで、吸引可能な物質媒体壁352の外面とカートリッジ本体305
の壁の内面によって定められる環状空間319への蒸気またはエアロゾル
の放出を促すために、(図4aに示されているように)吸引可能な物質媒
20 体の壁の内面上に蒸気バリア375を含めてよい。上記のような環状空間
は、内側のカートリッジ空間の一部を含むことができる。金属箔のような
いずれかの蒸気バリア材料を用いてよい。あるいは、加熱部材が、吸引可
能な物質媒体壁352の内面の反対側にある外面と接する実施形態では、
蒸気バリアは、吸引可能な物質媒体壁352の外面上にあってもよい。蒸
25 気バリアは、吸引可能な物質媒体350を加熱するときに加熱部材に隣接
する(または接する)壁面上に配置されているのが好ましい。(以後略)
【0051】
さらなる実施形態では、吸引可能な物質媒体は、本発明の物品の動作温
度周辺で軟化するか、または相を(特に固体から溶融相に)変化させる材
料で形成されていてよい。(中略)同様に、吸引可能な物質媒体は、吸引
5 可能な物質および/またはエアロゾル形成材料でコーティングされた蒸気
バリア層を含んでよい。(以後略)【0052】
代替的な実施形態(図4bに示されているものなど)では、カートリッ
ジ本体305は、複数の層で形成されていてよい。例えば、図4bは、カ
ートリッジ本体が、第1の材料で形成された第1の外層306と、同じま
10 たは異なる材料で形成された第2の内層307で形成されている代替的な
実施形態を示している。さらなる層も想定される。第1の外層306は、
閉鎖構造を有する材料で形成されているのが好ましい。閉鎖構造とは、エ
アロゾルまたは蒸気が、カートリッジ本体305の長さに沿って、その吸
い口端315に伝わるように、エアロゾルまたは蒸気がその層の内側に入
15 るのをその材料が実質的に防ぐことを意味する。例えば、第1の外層30
6は、すでに上述したように、紙材料または好適なポリマー材料を含んで
よい。(以後略)【0053】
第2の内層307の厚みは、第1の外層306よりも厚いのが好ましく、
約0.8mm~約4mm、約1mm~約3.5mm、または約1.2mm
20 ~約3.0mmであることができる。第2の内層は、タバコ基材材料35
0と直接接していてよい。したがって、第2の内層は実質的に開口構造を
有するのが好ましい。直接接することにより、第2の内層は、吸引可能な
物質媒体350をさらに支えることができる。したがって、カートリッジ
本体、および特にその第2の内層307は、吸引可能な物質媒体350の
25 実質的に全長(例えば、その長さの少なくとも約75%、少なくとも約8
5%、少なくとも約90%、または少なくとも約95%)に沿って、吸引
可能な物質媒体350を連続的に支えるものとして特徴づけてよい。開口
構造を有することにより、第2の内層は、形成されたエアロゾルまたは蒸
気を吸引可能な物質媒体から移動させることができるようになり、その開
口構造は、カートリッジ本体の長さに沿って、カートリッジ本体の吸い口
5 端315まで延びているのが好ましい。この様式では、本発明において別
段に記載されているように、カートリッジ本体の内面と、吸引可能な物質
媒体の外面によって定められる環状空間319は、カートリッジ本体の、
開口構造化された第2の内層に取って代わられているとともに、同じ機能
を提供する。したがって、カートリッジの第2の内層内の空隙は、本明細
10 書に別段に記載されているような、環状空間の特徴(例えば体積など)と
実質的に同じ特徴を呈してよい。特有の実施形態では、第2の内層の開口
構造は、体積ベースで、その層の少なくとも約50%、少なくとも約60
%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、または少なくとも約85
%が開口空隙空間であるようになっている。特有の実施形態では、第2の
15 内層の開口空間は、第2の内層の約50体積%~約90体積%、約60体
積%~約85体積%、または約65体積%~約80体積%であってよい。
この比較的厚い多孔質層は、エアロゾル収集/生成区域をもたらすものと
してとして特徴づけることができ、ある1つの例では、紙またはポリマー
材料のアコーディオン層であってよい。あるいは、第2の内層は、セルロ
20 ースアセテートトウのような材料、綿繊維、または不織多孔質マットを形
成させるのに有用ないずれかの数の材料(スパンボンドポリプロピレン、
PLA繊維、PHA繊維、ガラス繊維など)の多孔質マットであってもよ
い。これは、連続気泡材料と称してよい。【0054】
さらなる実施形態では、図4cで見られるように、カートリッジ本体は、
25 実質的に閉じた構造である第1の外層306と、上記のような開口構造を
呈する第2の内層307で形成されていてよく、これらの2つの層は、本
明細書において別段に記載されているように、空隙空間308によって隔
てられていてもよい。この様式では、吸引可能な物質媒体350は、実質
的に連続的に支えられており、生成された蒸気またはエアロゾルは、第2
の内層を通って空隙308に移動できるようになっており、蒸気またはエ
5 アロゾルは、実質的に第1の外層を透過することなく、空隙308の長さ
に沿って、カートリッジ本体の吸い口端315まで移動できる。いずれか
のエアロゾルまたは蒸気が、カートリッジ本体の長さに沿って、この空隙
空間内で移動するのを制限せずに、第1の外層を第2の内層と相互連結す
る1つ以上の支柱309を空隙空間は含んでよい。
10 概して、カートリッジ300と同様に、吸引可能な物質媒体350の管
状の壁352は、カートリッジ本体305の吸い口端315に近接する第
1の端部353と、カートリッジ本体305の嵌合端部310に近接する
第2の端部354という対向末端部を有する。吸引可能な物質媒体は特に、
カートリッジ本体に、各構成要素の各末端部で取り付けられていてもよい。
15 このような取り付けは、直接的であっても間接的であってもよい。例えば、
図4では、吸引可能な物質媒体350の第2の端部354は、カートリッ
ジ本体305の嵌合端部310に(具体的にはフランジ302の区域で)
直接取り付けられている。(以後略)【0056】
上述のように、カートリッジ300の嵌合端部310は、制御ハウジン
20 グ200の中に挿入できる大きさおよび形である。制御ハウジング200
の受容チャンバー210は、内面と外面を有する壁212によって定めら
れているものとして特徴づけることができ、その内面が、受容チャンバー
の内側の容積を定めている。したがって、カートリッジ300の最大外径
(または、実施形態の特定の断面形状に応じてその他の寸法)は、制御ハ
25 ウジングの受容チャンバーの開口端部の壁の内面の内径(またはその他の
寸法)よりも小さい大きさであるのが好ましい。カートリッジが受容チャ
ンバーの中にぴったり入るとともに、力を加えずに、摩擦力によってカー
トリッジの移動を防ぐように、各寸法の差は充分に小さいのが理想である。
一方、必要以上の力を要することなく、受容チャンバー内でカートリッジ
をスライドできるように、またはさもなければ、割り送れるように、上記
5 の差は充分でなければならない。代替的な実施形態では、カートリッジ
(またはその一部)が制御ハウジングの受容チャンバーの上および周囲で
スライドするように、物品10を構成させてよい。例えば、カートリッジ
オーバーラップ部380の内径が、受容チャンバーの端部における制御ハ
ウジングの外径よりも大きくなるように、カートリッジを構成させてよい。
10 この様式では、カートリッジオーバーラップ部が、制御ハウジングの上で
スライドするが、それでもなお、カートリッジのさらなる構成要素は、制
御ハウジングの受容チャンバーの中に挿入できるものとみなすこともでき
る。【0058】
好ましい実施形態では、物品10は、紙巻きタバコまたは葉巻形状に匹
15 敵する大きさを取ってよい。(中略)図4で見られるように、カートリッ
ジのオーバーラップ部380は、吸い口端315に、直径が増大した区域
を有するように形成してよい。この直径増大区域は好ましくは、その直径
が少なくとも、制御ハウジングの受容端部の寸法となるようになっている。
したがって、カートリッジが制御ハウジングの受容チャンバーの中に全部
20 入るのを防ぐ止め具として機能するように、吸い口端壁316が形成され
ている。【0059】
吸い口端壁は、その壁からカートリッジの吸い口末端までの距離として、
カートリッジの吸い口端を定めてよい。これは、図4に示されている直径
増大区域であってよい。【0060】
25 制御ハウジング200とカートリッジ300は同様に、全体の長さに関
して特徴づけてもよい。(中略)制御ハウジングの長さは、制御部205
と受容端部(受容チャンバー210によって、または突出部225によっ
て定めてよい)との間で実質的に等分割してよい。あるいは、制御部20
5と受容端部のいずれか一方が、制御ハウジングの全長の約55%、約6
0%、約65%、または約70%を含んでもよい。【0061】
5 突出部は、各種の材料で形成されていてよい。特有の実施形態では、突
出部を断熱材で形成するのが有用であり得る。加熱部材から突出部ではな
く、吸引可能な物質媒体への熱流量を最大化するために、これが望ましい
ことがあり得る。【0062】
カートリッジオーバーラップ部380は、追加の構造および/または大
10 きさをカートリッジ本体305にもたらすのに有用ないずれかの材料で形
成されていてよい。(中略)【0063】
あるいは、オーバーラップ部は存在しなくてもよく、吸引可能な物質媒
体の長さが単に、カートリッジ本体よりも実質的に短くてもよい。同様に、
オーバーラップ部とカートリッジ本体を本質的に一体化して、本明細書に
15 おいて別段に記載されているような、両方の要素の機能をもたらす単一の
要素にしてもよい。(中略)したがって、本発明は、いずれの実施形態に
おいても、周囲空気を環状空間中に直接(例えば、吸引可能な物質媒体の
第2の端部を通る必要なしに)流入させる必要性に応じて、構成要素内の
孔または開口の存在を含む。【0064】
20 オーバーラップ部は、カートリッジの吸い口端に特定の特性をもたらす
機能も果たすことができる。例えば、オーバーラップ部の構造および/ま
たは形および/または寸法は、ユーザーの口内で従来の紙巻きタバコの感
覚をもたらす機能を果たすことができる。(以後略)【0065】
エアロゾルと香味の送出を最大化するために(最大化しなければ、オーバ
25 ーラップ部380を介した放射状の空気(すなわち外気)の侵入により、
エアロゾルと香味が薄くなることがある)、非多孔質のタバコ巻紙層を1
つ以上用いて、カートリッジ(オーバーラップ部の有無は問わない)を包
んでもよい。(中略)オーバーラップ部は、本発明の物品を使用中に形成
される蒸気を実質的に通さない材料であるのが好ましい。所望に応じて、
オーバーラップ部は、弾性板紙材、箔で裏打ちされた板紙、金属、ポリマ
5 ー材料などを含むことができ、この材料をタバコ巻紙ラップで取り囲むこ
とができる。さらに、オーバーラップ部380は、構成要素を取り囲むチ
ップペーパーを含んでよく、任意により、本明細書において別段に記載さ
れているように、チップペーパーを用いて、フィルター材料をカートリッ
ジ300に取り付けてよい。【0068】
10 再び図4を参照すると、カートリッジ300の吸い口端315における
オーバーラップ部部分が実際に、カートリッジ本体305の端部を越えて
延びているとともに、蒸気および/またはエアロゾルが物品10から消費
者の方に自由に移動できるようにする開口部381を含むことを見ること
ができる。いくつかの実施形態では、具体的には、本発明の物品のこの区
15 域(カートリッジ本体305の吸い口端315とオーバーラップ部380
の吸い口末端(図6に示されているようなもの)との間に配置されている
区域など)にフィルター材料を含むのが望ましいことがある。したがって、
カートリッジの吸い口端は、(すなわちフィルター材料の存在によって、
および/または開口部の大きさによって)部分的にふさがっているものと
20 してとして特徴づけてよい。これは、消費者に送出される吸引可能な物質
の濃度を限定したり、または、吸引抵抗を制御したりするのに有益であり
得る。あるいは、フィルターを介して送出されるエアロゾルをあまり制限
しないように、用いるいずれのフィルター材料も、比較的低い除去効率を
有するように設計してよい。【0069】
25 制御ハウジング200は、電気加熱部材400に電力を供給する電気エ
ネルギー源220を含む。このエネルギー源は、そのエネルギー源から延
びている突出部225を含み、その突出部の末端部が、ほぼ受容チャンバ
ー210の端部まで延びるようになっている。絶縁特性を付与できるとと
もに、突出部がカートリッジの吸い口端315を貫通するような距離で、
カートリッジ300が制御ハウジングの中に入り込むのを防ぐ完全止め具
5 として機能することもできる基部230によって、電気エネルギー源は囲
まれている。突出部は、吸引可能な物質媒体350の壁352の内面によ
って定められる内側空間内でスライドする寸法になっている。吸引可能な
物質媒体を加熱して、吸引可能な物質を放出させるように、突出部は、電
気加熱部材を吸引可能な物質媒体に充分に近接させる(好ましくは吸引可
10 能な物質媒体と直接接触させる)寸法にもなっている。したがって、広く
はカートリッジまたはカートリッジ本体305の嵌合端部310は具体的
には、電気エネルギー源の少なくとも1つの構成要素(すなわち突出部2
25)を受容するのに充分な大きさおよび形を有する開口部を含むものと
して特徴づけることができる。【0070】
15 電気エネルギー源220は、電源275(図6に示されている)と電気
的に接続しているとともに、図4に示されているように、スイッチによる
始動によって、接点410を介するなどして、電気エネルギーを加熱部材
400に供給する電気ソケットとして特徴づけることができる。いくつか
の実施形態では、この接点は、ソケットまたは電気エネルギー源220の
20 中に永久的に挿入されていてもよい。別の実施形態では、接点が電気エネ
ルギー源に永久的には挿入されておらず、接点が移動して電気エネルギー
源と電気的に接続するようになるように充分にカートリッジ300が受容
チャンバー210の中に挿入されているときのみに、接点が電気エネルギ
ー源と電気的に接続するという点で、電気エネルギー源は、より文字どお
25 りのソケットとして機能してもよい。さらに別の実施形態では、導電体2
22(図9で見られるような導電体)が突出部に存在し、電気加熱部材
(またはその一部)が導電体と接触しているときのみに電気加熱部材40
0が電気エネルギー源から電気エネルギーを受け取るという点で、突出部
225は、電気エネルギー源の伸張部として機能できる。【0071】
電気加熱部材400は、消費者が吸入するための吸引可能な物質の放出
5 を促すのに充分な熱を供給するのに適するいずれかの装置であることがで
きる。特定の実施形態では、電気加熱部材は抵抗加熱要素である。(中略)
図4で見られるように、電気加熱部材は、突出部225の末端部の近くに
配置されたコイル405として構成され、接点410がそのコイルを電気
エネルギー源に接続させている。このようなコイル(および任意によりリ
10 ード線)は、上記されているようないずれかの好適な材料で形成されてい
てよく、上記のような特性を呈するのが好ましい。【0072】
別の実施形態では、加熱部材400は、他の構成を取ることができる。
例えば、吸引可能な物質媒体350の部分のうち、個々の加熱要素と直接
接する部分のみを加熱するように、個別に制御される個々の加熱要素のア
15 レイを加熱部材は含んでよい。より迅速かつ所要伝導率がより低い伝導加
熱をもたらす能力を考えると、このような直接的な接触の方が好ましいこ
とがある。例えば、突出部225は、カートリッジ300内の吸引可能な
物質媒体の形に対応する形をした上記のようなアレイを含んでよい。(以
後略)【0073】
20 さまざまな考え得るヒーター構成を考えると、本発明は、吸引可能な物
質媒体350を加熱要素(単一または複数)にコーティング、積層、また
はさもなければ直接取り付けてよい実施形態も含む。(以後略)【007
4】
特定的な実施形態では、加熱部材は、吸引可能な物質媒体と一体的であ
25 ることができる(以後略)【0075】
さらなる実施形態では、本明細書に記載されているさまざまな構造によ
る従来の加熱部材は、吸引可能な物質媒体に少なくとも部分的に組み込ま
れるように、吸引可能な物質媒体と組み合わせてもよい。例えば、図12
を参照すると、加熱コイル407の少なくとも一部が完全に、吸引可能な
物質媒体の外壁および内壁内に配置されるように、加熱コイル407は、
5 吸引可能な物質媒体350と一体形成されていてもよい。このような実施
形態では、電気接点410は、吸引可能な物質媒体の外に延びていてよい。
さらなる実施形態では、吸引可能な物質媒体上に存在する蒸気バリアが加
熱部材としても機能してよい。【0076】
制御ハウジング200は、好ましくは制御部205内に存在する追加の
10 構成要素をさらに含むことができる(ただし、そのような追加の構成要素
の1つ以上が、完全または部分的に受容チャンバー210内に配置されて
いたり、または受容チャンバーと通じていたりしてもよい)。(以後略)
【0077】
制御構成要素は特に、吸引可能な物質媒体350に供給される熱の量を
15 綿密に制御するように構成できる。1回の吸煙で望まれる量の吸引可能な
物質をもたらすのに充分な体積でエアロゾル形成物質を揮発させるのに必
要な熱は、用いるそれぞれの特定の物質においてさまざまであることがで
きるが、加熱部材が少なくとも120℃、少なくとも130℃、または少
なくとも140℃の温度まで加熱するのが特に有用であり得る。(中略)
20 本発明は特に、本発明の物品の構成要素を組み合わせたものと、比較的低
温で、吸引可能な物質を望ましい量でもたらす使用法とを提供することが
できる。したがって、「もたらす」とは、本発明の物品内でのエアロゾル
の生成と、本発明の物品から消費者への送出の一方または両方を指すこと
ができる。(中略)加熱の温度と持続時間は、本明細書にさらに説明され
25 ているように、エアロゾルと、カートリッジ本体305の壁の内面と、吸
引可能な物質媒体350の壁352の外面とによって定められた環状空間
319を通じて引き込まれるのが望ましい周囲空気との所望の体積に依存
してもよい。しかしながら、本発明の物品は、所望の温度に到達するまで
のみ加熱部材にエネルギーが付与されるように構成されていてもよいので、
持続時間は、加熱部材の加熱速度によって異なってもよい。あるいは、加
5 熱持続時間は、消費者による物品の吸引持続時間と結び付けてもよい。加
熱の温度と時間は、上記のように、制御ハウジングに含まれる1つ以上の
構成要素によって制御できる。【0078】
本発明の物品10によって放出される吸引可能な物質の量は、その吸引
可能な物質の性質に基づきさまざまであることができる。物品10は、使
10 用時にわたって望ましい量を放出させるように、充分な量の吸引可能な物
質、かつ充分な量のいずれかのエアロゾル形成材で、充分な温度にて充分
な時間機能するように構成されているのが好ましい。この量は、物品10
からの1回の吸入でもたらされてもよく、あるいは、何回もの物品からの
吸煙を通じて、比較的短時間(例えば30分未満、20分未満、15分未
15 満、10分未満、または5分未満)にわたりもたらされるように分割して
もよい。(以後略)【0079】
図4を参照すると、本発明の物品10の特定的な実施形態であって、吸
引可能な物質媒体350の分割加熱をもたらすように、本発明の物品が割
り送り可能である実施形態が示されている。使用時には、この実施形態に
20 よれば、カートリッジ300の嵌合端部310(カートリッジ壁305の
端部を越えて存在および延びているいずれかのオーバーラップ部を含む)
を制御ハウジング200の受容チャンバー210に挿入する。図7にさら
に明確に示されているように、カートリッジの嵌合端部を、最小限の機能
可能な距離で受容チャンバーの中にスライドさせると、吸引可能な物質媒
25 体350の少なくとも一部分を加熱できるように、吸引可能な物質媒体3
50、電気加熱部材400、および電気エネルギー源220が整列する。
このような整列は、これらの3つの構成要素の断面が直接整列することに
起因し得る(例えば、吸引可能な物質媒体350、電気加熱部材400、
および電気エネルギー源220の伸張部として機能する突出部225のす
べての一部分を整列区域の断面が含むことができるように、これら3つの
5 構成要素を整列させる)。あるいは、吸引可能な物質媒体350と電気加
熱部材400のみの断面が直接整列するようにしてもよいが、電気加熱部
材が、電気エネルギー源220と電気的に接続するように、電気エネルギ
ー源220と整列するという点で、電気エネルギー源220は、電気加熱
部材と整列しているとみなしてよい。これは、機能可能な整列と称してよ
10 い。【0080】
図4および図7に示されている実施形態は、吸引可能な基材媒体350
の分割加熱をもたらし、この分割加熱は、吸引可能な基材媒体の第2の端
部354から、吸引可能な基材媒体の第1の端部353に軸方向に進む。
図7で見られるように、突出部225に取り付けられているとともに、電
15 気エネルギー源220と電気的に接続している加熱部材400が、管状の
吸引可能な物質媒体の中央空洞部351の内側に配置されているようにす
るのに必要な最短の距離で、カートリッジ300が制御ハウジング200
の受容チャンバー210の中に挿入されている。この実施形態では、吸引
可能な物質媒体の第2の端部354は分割されており、分割端部は、カー
20 トリッジ本体305の嵌合端部310への取り付け点となっている。吸引
可能な物質媒体の第2の端部の分割されている性質は、環状空間319へ
の空気の侵入を促すように、カートリッジの嵌合端部310に1つ以上の
開口部が設けられるものであることができる。特定的な実施形態では、分
割端部はフレア型であることもでき、これにより、吸引可能な物質媒体の
25 管状の本体が、吸引可能な物質媒体の分割端部の直径よりも小さい直径を
有することができるようになる。このような分割および(任意により)フ
レア型の配置は、吸引可能な物質媒体をカートリッジ本体内にゆるみなく
張ること、管状のカートリッジ本体の直径よりも小さい直径を有する管状
の吸引可能な物質媒体の構成、吸引可能な物質媒体の壁352の外面とカ
ートリッジ本体の壁の内面によって定められる環状空間を通る空気の経路
5 の提供のうちの1つ以上を促す。したがって、カートリッジの嵌合端部か
らカートリッジの吸い口端315までの流体経路を実質的に、カートリッ
ジ本体壁の内面と吸引可能な物質媒体壁の外面との間の環状空間319を
通る経路に限定するような流路を含むものとして、カートリッジを特徴づ
けることができる。【0081】
10 さらなる実施形態では、その他の手段を設けて、環状空間へ空気を流入
させることができる。例えば、吸引可能な物質媒体は、カートリッジ本体
に直接取り付けられているフェルールに取り付けられていてもよい。この
ような実施形態では、フェルールおよび/または吸引可能な物質媒体の部
分のうち、フェルールに近い部分に孔をあけてもよい。あるいは、カート
15 リッジ(および任意により、オーバーラップ部が存在するときにはオーバ
ーラップ部)は、空気を直接環状空間に流入させる開口または孔を含んで
よい。【0082】
カートリッジ本体305とカートリッジオーバーラップ部380の構成
は、カートリッジ本体の周囲と、カートリッジ本体とオーバーラップ部と
20 の間の空気経路をかなり防ぐようなものが好ましい。したがって、図7に
示されているように、カートリッジ本体の嵌合端部310にあるフランジ
302は、フランジの外縁が、カートリッジオーバーラップ部の外周全体
にわたって、カートリッジオーバーラップ部と直接接するような大きさを
有する。【0083】
25 受容チャンバー210の内側に周囲空気が侵入できるように、受容チャ
ンバー壁212は、その中に1つ以上の開口213を含むことができる。
消費者がカートリッジ300の吸い口端を吸うと、空気が受容チャンバー
の中に引き込まれ、カートリッジの中に移動し、吸引可能な物質媒体35
0の分割およびフレア型の第2の端部354を通じて引き込まれ、吸引可
能な物質媒体とカートリッジ本体305との間の環状空間319に入り、
5 消費者による吸入のために、カートリッジフレーム部材360内の開口空
間を通ることができる。オーバーラップ部380が存在する実施形態では、
引き込まれた空気は、任意のフィルター390(図6に示されている)を
介して、オーバーラップ部の吸い口端にある開口部381の外に、吸引可
能な物質を運ぶ。【0084】
10 (吸引可能な物質媒体350の第2の端部354の分割およびフレア型
の性質とともに、)カートリッジ本体305の嵌合端部310にある、カ
ートリッジ本体305の幅広な開口部によって、管状の吸引可能な物質媒
体350の内側の空間中への突出部225(その上に加熱部材400を有
する)の誘導しやすさが促進される。吸引可能な物質媒体の管状部分の先
15 頭区域の内側に配置された加熱部材では、加熱部材を始動させて、吸引可
能な物質媒体を加熱して、吸引可能な物質媒体とカートリッジ本体との間
の環状空間に、吸引可能な物質を放出させることができる。いくつかの実
施形態では、加熱部材の始動により、吸引可能な物質媒体のエアロゾル形
成材料および/または吸引可能な物質を揮発させて、周囲空気が環状空間
20 を通じて引き込まれ、揮発した材料(単一または複数)をエアロゾル化し
て、空気中に混入させて、消費者による吸入のために、環状空間を通じて、
吸い口端まで流すようにしてよい。【0085】
物理的に、制御ハウジング200の構成要素である加熱部材400によ
って分割加熱をもたらす実施形態では、加熱部材は典型的には、突出部2
25 25の上に、所定の長さの部分のみに沿って存在することになる。図4お
よび図7に示されているように、加熱部材が配置されている区域は、受容
チャンバー210の開口端部における突出部の端部に近接していることが
できる。(以後略)【0086】
管状の吸引可能な物質媒体の内側空間内でのエアロゾルまたは蒸気の形
成を低減または防止するとともに、上記の環状空間内でのエアロゾルまた
5 は蒸気の形成を最大化するように、上記のように、(図4aに示されてい
るような)蒸気バリア375が、吸引可能な物質媒体350の壁352の
内面上に存在してよい。さらに、管状の吸引可能な物質媒体の内側空間内
に加熱部材400が存在することにより、蒸気と加熱部材との相互作用に
起因することがある蒸気損失を低減できる。さらに、このような配置は、
10 (上記のように)吸引中に物品内を流れる空気流から加熱部材を分離する
機能を果たすことができる。これは、加熱部材から吸引可能な物質媒体へ
の熱の伝達を最大化するのに、すなわち、所望のエアロゾルの形成と吸引
可能な物質の放出をもたらしつつ、加熱温度の低下および/または加熱持
続時間の短縮化を可能にするのに有益であり得る。【0087】
15 加熱中に放出されるエアロゾルまたは蒸気、および吸引可能な物質の内
容は、各種の要因に基づくことができる。いくつかの実施形態では、吸引
可能な物質媒体350とカートリッジ本体305(または、カートリッジ
とオーバーラップ部が一体化されている実施形態では外装体)との間の環
状空間319が、所定の容積を有するのが有用であり得る。(中略)各種
20 の実施形態では、1回の吸煙で生成されるエアロゾルの総体積は、環状空
間の容積よりも大きくてもよい。形成されるエアロゾルは、環状空間内に
引き込まれる空気であって、エアロゾルと組み合わさって、総吸煙容量と
して消費者に送られる空気とともに連続的に押し流されるからである。
(以後略)【0088】
25 上記から、実ヘッドスペースと動的ヘッドスペースの両方をもたらすこ
とに関連させて、環状空間を定めることができることは明らかである。環
状空間は、吸引可能な物質媒体の長さ、吸引可能な物質媒体およびカート
リッジの相対的直径、ならびに各構成要素の実際の形に基づき定量化可能
な容積を有する点で、環状空間は実ヘッドスペースをもたらす。これに対
し、本発明の物品が、1回の吸煙中に環状空間の実容積を満たすのに充分
5 である体積のみのエアロゾルの生成に限定されない点で、環状空間は動的
ヘッドスペースとして定めることができる。むしろ、1回の吸煙中に、エ
アロゾルを連続的に形成させてよく、形成されたエアロゾルは吸煙中に、
連続的に環状空間から引き出される。したがって、環状空間は、1回の吸
煙中に環状空間を通じて引き出される総吸煙容量の観点で定量化できる動
10 的ヘッドスペースをもたらす。この動的ヘッドスペースは、吸引強度およ
び吸煙の長さに応じて、吸煙間でさまざまであってよい。動的ヘッドスペ
ースの容積は、特定の実施形態では、約2秒の平均吸煙時間において、上
記のとおりであってよい。【0089】
いくつかの実施形態では、突出部225上の加熱部材400が、管状の
15 吸引可能な物質媒体350の最初の加熱可能区域または部分中に正確に配
置されるように、カートリッジ300がいつ受容チャンバー210への最
短挿入距離に達したかを示す何らかの表示を設けるのが有用なことがある。
例えば、カートリッジは、その外側(例えばカートリッジオーバーラップ
部380の外面)に1つ以上のマーク(または目盛り尺)を含んでよい。
20 単一のマークが、(例えば図7に示されているように)使用するためのこ
の最初に位置に達するのに必要な挿入深さを示していてもよい。吸引可能
な物質媒体の区域のうち、吸引可能な物質の放出のためにまだ加熱されて
いない新たな区域上に加熱部材を配置するために、カートリッジを受容チ
ャンバー中に割り送らなければならない距離を、さらなるマークが示して
25 いてもよい。(以後略)【0090】
図8は、本発明の実施形態の分割加熱をさらに示している。加熱部材4
00が図7に関して始動し、消費者による吸入のために、吸引可能な物質
媒体350の加熱区域上の吸引可能な物質が放出されたら、電気加熱部材
がその上に存在する突出部225の区域を通り過ぎてカートリッジ300
が割り送られるように、カートリッジ300を受容チャンバー210の中
5 にさらに割り送る。図8は、前記割り送りを行った後の物品10を示して
いる。加熱部材は、管状の吸引可能な物質媒体内で、カートリッジ本体3
05の吸い口端のさらに近くに、かつ、吸引可能な物質媒体のすでに加熱
済みの区域を越えて配置されている。(中略)ユーザーは、記載したよう
な、カートリッジ上の目盛り付きマークによって、または、カートリッジ
10 が受容チャンバー内の別のノッチを通過したときの触覚によって(いずれ
もすでに上で説明されている)、カートリッジを受容チャンバーの中に押
し入れる必要がある適切な距離を判断してもよい。【0091】
別の実施形態では、物品10は、カートリッジ300の受容チャンバー
210内での割り送りを促すのに有用なさらなる構成要素を含んでよい。
15 (以後略)【0092】
押しボタン15の代わりに(または押しボタン15に加えて)、本発明
の物品10は、消費者が物品を吸うのに応じて、加熱部材400にエネル
ギーを供給する(すなわち吸煙始動式加熱)構成要素を含むことができる。
(以後略)【0093】
20 消費者が物品10の吸い口端を吸うと、電流始動手段によって、抵抗加
熱部材400を通る無制限または連続的な電流流動を可能にして、熱を迅
速に発生させることができる。迅速な加熱により、(i)加熱部材を通る
電流流動を調節して、抵抗要素の加熱と、抵抗要素がさらされる温度とを
制御するため、および(ii)吸引可能な物質媒体350の過熱と劣化を
25 防ぐために、電流調節構成要素を含めるのが有用であり得る。【0094】
上記を踏まえると、各種の機構を用いて、加熱部材400への電流の始
動/停止を促すことができることが分かる。(以後略)【0096】
分割加熱をもたらすさらなる実施形態では、吸煙による加熱部材400
の始動は、受容チャンバー210中のカートリッジ300の移動に結び付
けてよい。(以後略)【0097】
5 本発明の物品10のさまざまな電気的構成要素に電力を供給するために
用いる電源275は、さまざまな実施形態を取ることができる。(以後略)
【0098】
物品10は、(図1に示されているように)1つ以上のインジケーター
219も含んでもよい。このようなインジケーター219は、本発明の物
10 品の複数の使用局面を通知できるライト(例えば発光ダイオード)であっ
てもよい。(以後略)【0100】
本発明の用具で用いる各種の材料(ヒーター、バッテリー、コンデンサ
ー、開閉構成要素など)について説明してきたが、本発明は、例示された
実施形態のみに限定されるものとして解釈すべきではない。むしろ、当業
15 者であれば、本開示に基づき、本発明のいずれかの特定の構成要素と入れ
替えることができる、当該分野における類似の構成要素を認識できる。
(以後略)【0101】
特定の実施形態に関して、本発明の物品について論じてきたが、本発明
は、各種のさらなる実施形態も含む。例えば、図8aは、図8の実施形態
20 を示しているが、制御ハウジング200は、受容チャンバーを含まない。
むしろ、(図8bに示されているように、)制御ハウジングは、受容端部
211を含むものとして説明できる。このような受容端部は、受容チャン
バーを含む実施形態に関して別段に記載されている構成要素のすべてを含
むことができる。しかしながら、チャンバー壁はなく、さらなる構成要素
25 (例えば突出部225)が受容端部を定めるとともに、制御ハウジングの
制御部分から延びるようになっている。【0102】
上記の説明では特に、電気加熱部材400が突出部225に取り付けら
れているか、またはさもなければ、制御ハウジング200の構成要素部分
として設けられている分割加熱について説明してきたが、図9には、電気
加熱部材がカートリッジ300の構成要素部分である分割加熱の別の実施
5 形態が示されている。このような実施形態では、加熱部材(この実施形態
では加熱コイル406)は特に、管状の吸引可能な物質媒体350の内側
空間内に存在でき、加熱部材はこの空間内に、摩擦力によって、および/
または、加熱コイルによって吸引可能な物質媒体に加えられる外向きの圧
力(例えば、加熱コイルがばね作用を呈するとともに、挿入前にある程度
10 圧縮される場合)によって、および/または、少なくとも部分的に吸引可
能な物質媒体内に埋め込むことによって保持してよい。【0103】
このような実施形態における物品10の使用法は、上記の使用法と実質
的に同じであることができる。具体的には、消費者は、カートリッジ30
0を制御ハウジング200の受容チャンバー210の中に挿入できる(ま
15 たは、チャンバー壁がない場合には、カートリッジを突出部225上でス
ライドさせることができる)。カートリッジを受容チャンバーの中にスラ
イドさせるときに、カートリッジの構成要素は、突出部225と整列して、
突出部225を受容するように、カートリッジ内に配置できる。吸引可能
な物質媒体350の加熱のために、すべての構成要素を整列させるのに必
20 要な最短距離は、突出部上に存在する導電体222が加熱コイル406と
電気的に接続するのに(または、代替的な電気的接続体を機能可能に嵌合
させるのに)必要な距離であることができる。導電体間の加熱コイル部分
のみで電流が流れることができるという点で、分割加熱をもたらす。吸引
可能な物質媒体350の最初の区域が加熱されたら、導電体が、カートリ
25 ッジの次の区域の加熱コイルと接触できるように、カートリッジの割り送
りを上記のように進めることができる。吸引可能な物質媒体全体が使われ
るまで(すなわち、吸引可能な物質とエアロゾル形成材料が吸引可能な物
質媒体から放出されるまで)、吸煙始動式加熱と、それに続く割り送りが
継続してよい。【0104】
概して、一度に吸引可能な物質媒体の一部のみを加熱する様式では、本
5 発明の分割加熱の実施形態は、加熱要素と吸引可能な物質媒体のいずれの
組み合わせにも起因できる。すなわち、用具を1回吸煙するごとに、加熱
のために、吸引可能な物質媒体の本質的に新たな区域が加熱要素と整列す
る。したがって、本発明は、本明細書に記載されている分割加熱実施形態
であって、いずれかの所定の時点に、吸引可能な物質媒体の一部のみが加
10 熱されるように、吸引可能な物質媒体と加熱部材の一方または両方(カー
トリッジと制御ハウジングまで延びていてもよい)を操作し、その操作に
よって、その後の各吸煙時に、加熱部材を吸引可能な物質媒体の新たな部
分に配置する実施形態のいずれの変形形態も含む。例えば、制御ハウジン
グまたはカートリッジの一方を、(もう一方は動かさないで)ひねること
15 は、ヒーターを吸引可能な物質媒体の新たな区域に配置するのに有効であ
ることがある(任意により、カートリッジを制御ハウジングの受容チャン
バー内で、内側または外側の方に動かしながら行う)。このような実施形
態では、加熱部材は、吸引可能な物質媒体と実質的に同じ長さであってよ
い側面加熱要素(または一連の加熱要素)を含んでよい。【0105】
20 図9で見られるように、導電体222が突出部225上に、受容チャン
バー210の開口端部における突出部225の端部に近接して存在するの
が好ましいことがある。したがって、上記との関連で、加熱が行われると
きに、電気加熱コイル406の区域のうち、突出部225と電気的に接続
している区域に近接する、吸引可能な物質媒体350の部分のみが加熱さ
25 れるように、導電体222は、電気加熱コイル406の個別の区域と電気
的接続を形成する。(中略)【0106】
上記の説明に関して分かるように、本発明は、吸引可能な物質媒体35
0の分割加熱をもたらす物品10を含む。特に、加熱部材400は、再利
用可能であることも、制御ハウジング200の構成要素として設けること
も、突出部225の一部のみに設けることもできる。したがって、毎回、
5 使用中に、吸引可能な物質媒体350の一部のみが加熱部材400と接し
ている。消費者による使用の際に、カートリッジ300がコントローラー
200の受容チャンバー210の中に挿入されるまでは、吸引可能な物質
媒体350のいずれの部分も、加熱部材400と物理的に接触したり、ま
たは加熱部材400に近接したりしない。別の実施形態では、加熱部材4
10 00は、使い捨て式であることも、カートリッジ300の構成要素として
設けることもできる。いずれの実施形態でも、加熱部材400は、電気エ
ネルギー源220に接続するための接点410または導電体222(例え
ば電気エネルギー源220内のソケットに直接挿入するための接点410
または導電体222、または電気エネルギー源220の突出部225に形
15 成された接点410または導電体222)を一組しか必要としない。【0
107】
分割加熱を用いるときには、吸引可能な物質媒体350は、所望に応じ
て、放出、量、および香味のさまざまな面を制御するように修正できる。
例えば、加熱される別個の区域のそれぞれが、実質的に同じ含有量の吸引
20 可能な物質を放出させるように、吸引可能な物質を吸引可能な物質媒体3
50の上または中に均一に分散させてもよい。あるいは、吸引可能な物質
媒体350の最初の区域(すなわち、吸引可能な物質媒体350の第2の
端部にある区域)であって、加熱部材400と接する区域に、吸引可能な
物質が多く搭載されてもよい。(中略)同様に、吸引可能な物質媒体35
25 0の区域のうち、加熱部材400によって加熱される最後の区域のような
1つの区域は、吸引可能な物質媒体350の残りの部分と異なる香味また
はその他の材料を含んでよい。このように香味またはその他の材料が最後
に放出されることは、カートリッジ300が使い終わったことを消費者に
通知する合図として機能してよい。したがって、分割加熱により、各加熱
区域において、一定の量の吸引可能な物質をもたらすことも、進行につい
5 ての明確は通知をもたらすことも、消費者が本発明の用具をさらに高度に
制御できるようにすることもできるのが分かる。【0108】
各種の実施形態では、本発明の物品は、所与の時間に加熱されるかまた
は最大限に加熱される吸引可能な物質媒体の総面積に関して特徴づけるこ
とができる。(以後略)【0109】
10 別の実施形態では、物品10は、吸引可能な物質媒体350の一括加熱
をもたらすことができる。このような実施形態の1つが図10に示されて
おり、この図では、加熱部材(加熱コイル407として示されている)が
制御ハウジング200の構成要素として設けられている。図4に示されて
いる実施形態と同様に、加熱コイルが突出部225を取り囲んでおり、電
15 気接点410が加熱コイルから電気エネルギー源220内のソケットの中
まで延びている。しかしながら、加熱コイルは、突出部の小さい区域上の
みに存在するのではなく、突出部の実質的に全長に沿って存在している
(突出部の広い区域上に存在しているものとして説明してもよい)。(以
後略)【0112】
20 図11は、図10の実施形態であって、カートリッジ300が制御ハウ
ジング200の受容チャンバー210の中に完全に挿入されている実施形
態を示している。分割加熱とは異なり、一括加熱の実施形態では、カート
リッジの完全な挿入は、カートリッジの使用を開始するためにカートリッ
ジを典型的に挿入できる距離に対応できる。当然ながら、完全挿入は必須
25 ではなく、消費者は、加熱中に放出される吸引可能な物質およびいずれか
のエアロゾル形成材の量を減少させるために、カートリッジを部分的にの
み挿入する選択肢を有することができる。1回または2回の加熱サイクル
後、加熱コイル407が、実質的に吸引可能な物質媒体350の全長(例
えば、吸引可能な物質媒体の長さの少なくとも90%、少なくとも95%、
または少なくとも98%)と接するように、カートリッジをさらに受容チ
5 ャンバーの中に割り送りしてよい。最初の吸煙で、大量の吸引可能な物質
をもたらすとともに、2回目以降の各吸煙時に、1回目よりも少なく、よ
り一定的な量をもたらすのが望ましいことがある実施形態で、一括加熱は
有用であり得る。【0113】
図12は、一括加熱のさらなる実施形態であって、加熱コイル407が
10 カートリッジ300の構成要素として設けられており、すなわち、使い捨
て式である実施形態を示している。このような実施形態では、カートリッ
ジが制御ハウジング200の受容チャンバー210の中に完全に挿入され
ているときに、加熱コイルの電気接点410が電気エネルギー源220の
ソケットと電気的に接続するように、電気接点410を構成させることが
15 できる。電気加熱部材(すなわちコイル407)がカートリッジ内におい
て、吸引可能な物質媒体350の長さの約75%~約100%である部分
に沿って存在するのが好ましいことがあり得る。【0114】
カートリッジ300と制御ハウジング200は、広くは完全な喫煙物品
または医薬送達物品として併せて提供することができるが、構成要素を別
20 々に提供してもよい。例えば、本発明は、再利用可能な喫煙物品または再
利用可能な医薬送達物品とともに用いる使い捨てユニットも含む。【01
15】
使い捨てユニットに加えて、本発明はさらに、再利用可能な喫煙物品ま
たは再利用可能な医薬送達物品で用いるための別個の制御ユニット200
25 をもたらすものとして特徴づけてよい。特有の実施形態では、制御ユニッ
トは概して、別個に提供されるカートリッジの嵌合端部を受容するための
受容端部(開口端部を有する受容チャンバー210を含んでよい)を有す
るハウジングであってよい。制御ユニットはさらに、電気加熱部材に電力
を供給する電気エネルギー源220を含んでよく、この電気加熱部材は、
制御ユニットの構成要素であっても、制御ユニットとともに用いるカート
5 リッジに含まれていてもよい。電気エネルギー源は、電気エネルギー源か
ら延びる突出部225を含むことができる。突出部は、(図4および図1
0の構成要素におけるように、)その突出部と組み合わされた電気加熱部
材400を有することができ、その電気加熱部材は、その加熱部材を電気
エネルギー源に接続させる付随の電気接点410を有することができる。
10 別の実施形態では、突出部は、加熱部材を含む代わりに、(図9の構成要
素222におけるように、)使い捨てカートリッジ内に設けられた電気加
熱部材と相互作用できる電気接点を含んでよい。制御ユニットは、電力源
(バッテリーなど)、加熱部材中への電流流動を始動させる構成要素、な
らびに、所望の時間にわたり所望の温度を保つため、および/または、所
15 望の温度に達したとき、もしくは、所望の長さの時間にわたり加熱部材を
加熱したときに、電流流動を循環させるか、もしくは電流流動を停止させ
るように、上記のような電流流動を調節する構成要素を含め、さらなる構
成要素も含むことができる。制御ユニットはさらに、加熱部材中への電流
流動を始動させる構成要素と、そのような電流流動を調節する構成要素の
20 一方または両方と関連付けられている1つ以上の押しボタンを含んでよい。
制御ユニットはさらに、ヒーターが加熱していることを通知し、および/
または、制御ユニットとともに用いているカートリッジの残りの吸煙回数
を通知するライトのようなインジケーターを含んでよい。【0118】
本明細書に記載されているさまざまな図面は、動作関係にある制御ハ
25 ウジング200とカートリッジ300を示しているが、制御ハウジング
とカートリッジは別個の用具として存在してよいことが分かる。したが
って、組み合わされている構成要素に関して、本明細書において別段に
示されているいずれの説明も、個別および別個の構成要素としての制御
ハウジングおよびカートリッジにも適用されるものとしても理解すべき
である。【0119】
5 ⑵ 本件発明の技術的意義
本件明細書によれば、本件発明の技術的意義は、次のとおりであると認め
られる。
ア 本件発明は、電気喫煙物品に関するものである。
イ 従来から、タバコの燃焼に基づく喫煙製品の改良品または代替品として、
10 不完全燃焼および熱分解生成物をあまり送出することなく紙巻きタバコ、
葉巻、またはパイプの喫煙を連想させる電気喫煙物品が提供されてきたが、
タバコを電気加熱して、喫煙時の香味と感覚を発生させる物品には、香味
その他の吸引可能な物質が無節操に放出される難点があった(【0001】
から【0005】)。
15 ウ 本件発明は、本件発明の構成をとることによって、吸引可能な物質媒体
とカートリッジ本体との間に環状空間を定め、吸引可能な物質媒体の充分
な加熱により、吸引可能な物質媒体とカートリッジ本体との間の環状空間
内に、吸引可能な物質を含む蒸気を形成させることで、適切な量の香味や
吸引可能な物質を発生させ、また、より適切な量の香味や吸引可能な物質
20 を発生させるため、吸引可能な物質媒体の組成(各材料の濃度)を基材の
長さに沿って任意のパターン(一定でもよい)に制御し、最初の吸煙から
最後まで、任意の量の香味や吸引可能な物質を発生させるように、吸引可
能な物質媒体の加熱区域を制御することで、課題を解決しようとするもの
である(【0007】から【0028】)。
25 2 争点1-5(構成要件Dの充足性)について
本件事案の内容に鑑み、争点1-5(構成要件Dの充足性)から判断する。
⑴ 篏合端部の意義について
構成要件Dは、「前記制御ハウジングは、前記カートリッジに機能可能に
連結されている嵌合端部を有するとともに、」というものであり、この「篏
合端部」は、制御ハウジングに設けられている。
5 そして、本件明細書には、「本発明の物品は、カートリッジの嵌合端部と
嵌合する受容端部を有する制御ハウジングも含むことができる。したがって、
制御ハウジングとカートリッジ本体は、機能可能に連結されるものとして特
徴づけることができる。・・・特有の実施形態では、カートリッジの嵌合端
部を制御ハウジングの受容端部と嵌合させると・・・」(【0008】)、
10 「カートリッジ本体305は、制御ハウジング200の受容チャンバー21
0と嵌合する嵌合端部310と、吸引可能な物質を消費者に運べるようにす
るように構成された吸い口端315とを定める対向末端部を有する」(【0
040】)、「特有の実施形態では、制御ユニットは概して、別個に提供さ
れるカートリッジの嵌合端部を受容するための受容端部(開口端部を有する
15 受容チャンバー210を含んでよい)を有するハウジングであってよい。」
(【0118】)との記載がある。また、図4については「制御ハウジング
の受容チャンバーから外したカートリッジを示しており(一部のみが示され
ている)、制御ハウジングは、カートリッジ内の吸引可能な物質媒体の分割
加熱をもたらすように、突出部の上に位置する加熱部材を含んでおり、」と
20 説明され、図7については「カートリッジが制御ハウジングの受容チャンバ
ーの中に最短距離で挿入されており、」と説明され、図8については「突出
部上の加熱部材が、カートリッジの嵌合端部からある距離だけ、かつ、カー
トリッジの吸い口端の方に同じ距離だけ移動した状態になるように、管状の
吸引可能な物質媒体の中央空洞部のさらに奥に配置されるように、カートリ
25 ッジが、制御ハウジングの受容チャンバーの中に割り送られている。」と説
明されており(【0030】)、それらの図においては、制御ハウジング2
00の受容チャンバー210内に、嵌合端部310を有するカートリッジ3
00を挿入してその奥に送り込む形態が示されている。
これらによれば、構成要件Dの制御ハウジングの嵌合端部は、カートリッ
ジの嵌合端部と嵌合するものであり、また、本件明細書では、受容チャンバ
5 ーも含んでもよい受容端部として説明されているものであると認められる。
⑵ 「篏合端部」の解釈について
ア 「嵌合」は、特許技術用語集によれば、「to fit into 形状が合った
物を嵌め合わせること。」とされて、例として、「(例)受け孔と突起が
嵌合する。凹部に凸起が嵌合して部材が位置決めされる。」と記載されて
10 いる(乙13)。また、広辞苑(第7版)においては、「嵌合(かんご
う)」の項目には、「かんごう【嵌合】⇒はめあい」と記載され、「嵌合
(はめあい)」の項目には、「(機)軸が穴にかたくはまり合ったり、滑
り動くようにゆるくはまり合ったりする関係をいう語。かんごう。」と記
載されている。また、「嵌める(はめる)」の項目には、「②くぼみに入
15 れて固定する。ある形のものに、ぴったり入れる、または、かぶせる。」
と記載され、「嵌まる(はまる)」の項目には、「⑥しっくりと合う。ぴ
ったりとはいる。」と記載されている。
以上の語句の一般的な意義からすると、「篏合端部」は、一定の形状を
有するもので、二つの嵌合端部は、それぞれが相補形状を有して、その形
20 状によって互いにほとんど隙間なくはまり合うものをいうと解される。
イ 本件明細書には、「本発明の物品は、カートリッジの嵌合端部と嵌合す
る受容端部を有する制御ハウジングも含むことができる。したがって、制
御ハウジングとカートリッジ本体は、機能可能に連結されるものとして特
徴づけることができる。このような受容端部は特に、カートリッジの嵌合
25 端部を受容する開口端部を有するチャンバーを含んでよい。・・・特有の
実施形態では、カートリッジの嵌合端部を制御ハウジングの受容端部と嵌
合させると(カートリッジの嵌合端部を制御ハウジングのチャンバーの中
まで所定の距離だけスライドさせるなどすると)、吸引可能な物質媒体と
電気加熱部材が整列して、吸引可能な物質媒体の少なくとも一部分を加熱
できるようになる。」(【0008】)、「カートリッジ本体305は、
5 制御ハウジング200の受容チャンバー210と嵌合する嵌合端部310
と、」(【0040】)との記載がある。また、図4、図7、図9等には、
吸引可能な物質を消費者の方に運ぶように構成された反対側の吸い口端と、
外面および内面を有する壁とを有する実質的に筒状のカートリッジの嵌合
端部310が示されるとともに、電気加熱部材に電力を供給する電気エネ
10 ルギー源を含む制御ハウジングの端部として、中央部の円筒状の突出部を
取り囲むように、円筒形のカートリッジの外壁の外径よりやや大きい内径
を有する円筒形の受容チャンバー壁があり、カートリッジを受容チャンバ
ーに挿入することで、カートリッジの外壁であり嵌合端部の外側が、受容
チャンバーの外壁の内側に、ほとんど隙間なく接する状態が示されている。
15 すなわち、本件明細書には、カートリッジの嵌合端部と制御ハウジング
の嵌合端部(受容端部)が嵌合すると記載され、その実施形態として、カ
ートリッジが制御ハウジングの受容チャンバーに挿入されることで、相補
形状を有するといえる、円筒形の外壁という形状を有するカートリッジの
嵌合端部と、円筒形の受容チャンバー壁という形状を有する制御ハウジン
20 グの嵌合端部(受容端部)とが、カートリッジの外壁の外側の嵌合端部が
受容チャンバーの外壁の内側に接することで、ほとんど隙間なく配置され
るという状態ではまり合っていることが示されているといえる。これは、
上記の「嵌合」についての一般的な意義に沿ったものである。他方、本件
明細書には、制御ハウジングの「受容端部」あるいは「受容チャンバー」
25 については、【0008】、【0040】以外に、本件明細書の【001
2】、【0018】、【0027】、【0059】、【0061】、【0
102】等にも記載があるが、カートリッジの嵌合端部の端面に接触又は
近接するのみで、それを制御ハウジングの「受容端部」とする記載はない
し、上記アの一般的な意義と異なる意味で「嵌合」が使われていることを
示唆する記載もない。
5 ウ 本件発明は、前記1 のような技術的意義を有するところ、制御ハウジ
ングとカートリッジの関係として、想定し得る様々な構成のうち、構成要
件Dにおいて「前記制御ハウジングは、前記カートリッジに機能可能に連
結されている嵌合端部を有する」として、それぞれの嵌合端部が「嵌合」
するものであることを明確に定めている。そして、そのような構成の下で、
10 制御ハウジングとカートリッジが「機能可能に連結され」、また、「吸引
可能な物質媒体と電気加熱部材が整列して、吸引可能な物質媒体の少なく
とも一部分を加熱できるように」なることがあるとしている。
本件発明においては、制御ハウジングとカートリッジの関係が上記のと
おり定められているところ、「嵌合」の語句の一般的な意義(前記ア)
15 や本件明細書の記載(前記イ)もその一般的な意義を前提としていると
解されることからも、「前記カートリッジに機能可能に連結されている
嵌合端部」とは、その嵌合端部自体が一定の形状を有するとともに、ハ
ウジングの嵌合端部も一定の形状を有し、それら両嵌合端部の形状が、
相補形状であり、それぞれの形状によって、互いにほとんど隙間なくは
20 まり合うものをいうと解される。
⑶ 被告製品の構成dについて
ア 被告製品の構成dは、「加熱式デバイスは、加熱式タバコスティックを
受け入れるエンドキャップと、エンドキャップの底面に形成されたスリッ
トを貫通してエンドキャップ内まで延びるヒータブレードのベース部上に
25 形成された導電トラックに電力を供給するバッテリーを含むメインボディ
と、を有する加熱式喫煙デバイスであって、使用者はエンドキャップの底
面に達するまで加熱式タバコスティックを挿入可能であり、該挿入によっ
てヒータブレードのベース部が加熱式タバコスティックに挿入され、加熱
式喫煙デバイスのスイッチが入れられると、タバコロッドを加熱するため
に、ヒータブレードの導電トラックがバッテリーと通電し、」である。
5 そして、構成要件Dの「カートリッジ」に当たり得るのは加熱式タバコ
スティックであり、当該加熱式タバコスティックの篏合端部に当たり得る
のは、加熱式タバコスティックの吸い口とは反対の先端部である。
イ 原告らは、エンドキャップに加熱式タバコスティックがぴったりとはま
るから、エンドキャップの底面と、加熱式タバコスティックの先端面は、
10 ほぼ同径の円形であり、「形状が合った物」であり、「エンドキャップの
底面に達するまで加熱式タバコスティックを挿入可能であ」ることは「は
め合わせる」ことである旨主張する。
しかしながら、加熱式タバコスティックの先端面の形状とエンドキャッ
プの底面の形状自体はほぼ同径の円形であるとしても、エンドキャップ
15 の底面に達するまで加熱式タバコスティックを挿入した状態は、加熱式
タバコスティックの先端面がエンドキャップの底面に突き当たって接し
た状態になっているのみである。加熱式タバコスティックの先端面とエ
ンドキャップの底面のそれぞれの形状は、相補形状ではなく、それぞれ
の形状によって、互いにほとんど隙間なくはまり合うものであるとはい
20 えない。
なお、制御ハウジングは、構成要件Dの文言上、「前記電技加熱部材に
電力を供給する電気エネルギー源を含(む)」(構成要件D)ものであ
るところ、被告製品における制御ハウジングはメインボディであるから、
エンドキャップそれ単独では、制御ハウジングに当たることはない。
25 ウ 原告らは、ヒータブレードのベース部が「篏合端部」に当たるとも主張
する。
しかしながら、前記のとおり、構成要件Dの「カートリッジ」に当たり
得るのは加熱式タバコスティックであり、当該加熱式タバコスティックの
篏合端部に当たり得るのは、円筒状の形状を有する加熱式タバコスティッ
クの吸い口とは反対の先端部であるが、当該先端部は、原告らが「篏合端
5 部」と主張するヒータブレードのベース部の形状と、相補形状ではなく、
それぞれの形状によって、互いにほとんど隙間なくはまり合うものである
とはいえない、
なお、このことは、ヒータブレードのベース部とエンドキャップ底面と
を合わせた構成を考えても同様である。
10 エ 以上によれば、被告製品の構成dのヒータブレードのベース部とエンド
キャップ底面は、いずれも構成要件Dの「篏合端部」に当たらず、その他、
これに該当する部分はないといえる。
そうすると、被告製品は、構成要件Dを充足する部分を有せず、その余
を判断するまでもなく本件発明の技術的範囲に属さない。
15 3 以上によれば、被告製品は、少なくとも、構成要件Dを充足しないから、他
の構成要件の充足性を判断するまでもなく、本件発明の技術的範囲に属さない。
第4 結論
よって、原告らの各請求はいずれも理由がないから、これらをいずれも棄却
することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用し、主文のとお
20 り判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 柴 田 義 明
裁判官 杉 田 時 基
裁判官 仲 田 憲 史
別紙
被告製品目録
(省略)

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