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令和5(行ケ)10051審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和5年10月25日
事件種別 民事
当事者 原告
被告特許庁長官
法令 商標権
商標法3条1項3号10回
商標法4条1項16号1回
キーワード 審決24回
拒絶査定不服審判1回
実施1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。15
事件の概要 1 特許庁における手続の経緯等 ⑴ 原告は、令和3年8月12日、「睡眠改善メソッド」の文字を普通に用いら れる方法で横書きしてなる商標(以下「本願商標」という。)について、商標 登録出願を行った(商願2021-100242号。以下「本願」という。)。 本願商標に係る指定役務(以下「本願指定役務」という。)は、第41類「技25 芸・スポーツ又は知識の教授、セミナーの企画・運営又は開催、電子出版物 の提供、教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広 告用のものを除く。)、興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音 楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に 関するものを除く。)」である。(甲1) ⑵ 本願について、令和4年1月12日付けで拒絶理由が通知され、同年3月5 2日に意見書が提出されたが、同月22日付けで拒絶査定(以下「本件拒絶 査定」という。)がされた。(甲2~4) ⑶ これに対し、原告は、令和4年7月1日、拒絶査定不服審判を請求した(不 服2022-10289号)。(甲5)

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判決文

令和5年10月25日判決言渡
令和5年(行ケ)第10051号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和5年9月4日
判 決
原 告 X
同訴訟代理人弁理士 小 川 清
被 告 特 許 庁 長 官
10 同 指 定 代 理 人 綾 郁 奈 子
同 高 野 和 行
同 清 川 恵 子
主 文
1 原告の請求を棄却する。
15 2 訴訟費用は、原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が不服2022-10289号事件について令和5年3月22日に
した審決を取り消す。
20 第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等
⑴ 原告は、令和3年8月12日、
「睡眠改善メソッド」の文字を普通に用いら
れる方法で横書きしてなる商標(以下「本願商標」という。)について、商標
登録出願を行った(商願2021-100242号。以下「本願」という。 。

25 本願商標に係る指定役務(以下「本願指定役務」という。 は、
) 第41類「技
芸・スポーツ又は知識の教授、セミナーの企画・運営又は開催、電子出版物
の提供、教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広
告用のものを除く。)、興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音
楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に
関するものを除く。)」である。(甲1)
5 ⑵ 本願について、令和4年1月12日付けで拒絶理由が通知され、同年3月
2日に意見書が提出されたが、同月22日付けで拒絶査定(以下「本件拒絶
査定」という。)がされた。(甲2~4)
⑶ これに対し、原告は、令和4年7月1日、拒絶査定不服審判を請求した(不
服2022-10289号) (甲5)

10 特許庁は、令和5年3月22日、「本件審判の請求は、成り立たない。」と
する審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同年4月5日に原
告に送達された。本件審決については、同年5月25日に更正決定がされた。
(乙1)
⑷ 原告は、令和5年5月8日、本件審決の取消しを求めて、本件訴えを提起
15 した。
2 本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は、別紙審決書及び別紙更正決定(各写し)のとおりであり、
その理由の要旨は次のとおりである。
本願商標である「睡眠改善メソッド」の文字の構成のうち、
「睡眠」の文字は
20 「ねむること。ねむり。」の意味を、「改善」の文字は「悪いところを改めてよ
くすること。」の意味を、
「メソッド」の文字は「方法。方式。」を意味する英単
語「method」の片仮名表記であり、いずれも容易に意味が理解できる親
しまれた語であるから、本願商標は、その構成全体から、睡眠を改善する方法」

程の意味合いが理解される。
25 また、本件拒絶査定に係る審理における職権調査によれば、睡眠の質を改善
すること(睡眠を改善すること)を目的とした役務が提供されている実情があ
り、そのような役務に「睡眠改善メソッド」の文字が使用されている実情があ
る。
そうすると、
「睡眠改善メソッド」の文字からなる本願商標をその指定役務に
使用した場合、これに接する取引者、需要者は、
「睡眠を改善する方法を内容と
5 する知識の教授、睡眠を改善する方法を内容とするセミナーの企画・運営又は
開催、睡眠を改善する方法を内容とする電子出版物の提供、睡眠を改善する方
法を内容とする教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・
広告用のものを除く。)、睡眠を改善する方法を内容とする興行の企画・運営
又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・
10 競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。)」であること、すなわち
役務の質(内容)を認識するにとどまる。
よって、本願商標は、その指定役務との関係において、役務の質(内容)を
普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標というのが相当である
から、商標法3条1項3号に該当し、前記に相当する役務以外の役務に使用す
15 るときは、役務の質(内容)の誤認を生じるおそれがあるから、同法4条1項
16号に該当する。
3 取消事由
商標法3条1項3号該当性に関する判断の誤り
第3 当事者の主張
20 取消事由(商標法3条1項3号該当性に関する判断の誤り)について
〔原告の主張〕
1 商標法3条1項3号は、商標が役務の質を普通に用いられる方法で表示する
標章か否かを問題としているのであり、取引者、需要者がどのように認識する
かを問題としていない。このことは、同項6号や同条2項の規定が、需要者の
25 認識を問題とすることを明示していることとの対比からも明らかである。本件
拒絶査定及び本件審決は、取引者、需要者が、単に役務の質を普通に用いられ
る方法で表示したものと認識するから本願商標が同条1項3号に該当すると
述べているが、それは誤りであって、取り消されるべきである。
2 商標法3条1条3号に規定されている「その役務の質を普通に用いられる方
法で表示する標章」の意味であるが、
「その役務」とは願書に記載された指定役
5 務のことであり、「役務」とは特許庁の「特許用語集」によれば、「独立して取
引の対象となり得る、他人のために行う労役又は便益」であり、
「労役」とは、
「労働作業」 「体を動かして労務に服する」ことである。

したがって、「商標が役務の質を表示しているか否か」は、「願書に記載した
商標が、願書に記載した指定役務の意味する「労働作業」 「体を動かして行う

10 労務」の「質」を普通に表示するものか否か」によって判断すべきである。
本願指定役務の内容に照らせば、本願商標の登録の可否は、
「睡眠改善メソッ
ド」の語が、技芸・スポーツ又は知識の教授、セミナーの企画・運営又は開催、
電子出版物の提供、教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送
番組・広告用のものを除く。)、興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演
15 劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興
行に関するものを除く。)」といった「労働作業」の「質」を表示するものか
否かで判断すべきである。この点、本件審決は、本願商標の指定役務について、
「睡眠を改善する方法を内容とする知識の教授、睡眠を改善する方法を内容と
するセミナーの企画・運営又は開催・・」などと記載しているが、本願ではそ
20 のような役務は指定していない。
そして、「睡眠改善メソッド」は、「睡眠を改善する方法」という「方法」
を意味しているにすぎず、上記内容の「労働作業」を意味していないから、「役
務の質」を表現しているものではない。
3⑴ 本件拒絶査定及び本件審決は、「役務の質(内容)」と書いており、役務
25 の「質」は「内容」のことであると言っているが、これは誤りである。
本件審決は、広辞苑の「質」の項に「内容」との定義が書かれていること
を挙げるが、「質」の語釈として「内容」を挙げているのは広辞苑だけであ
り、広辞苑は古い時代の意味(語釈)を優先としており、現代用語辞典とは
いえない。
⑵ 「質」の現代における意味(語釈)について、各種文献等には、次のとお
5 りの記載がある。
ア ISO 9000における「品質」の定義、及びJIS Q 9000
における「品質」の定義
「対象に本来備わっている特性の集まりが、要求事項を満たす程度」
イ 品質工学における「品質」の定義
10 「品物が出荷後、社会に与える損失である。ただし、機能そのものによる
損失は除く」
ウ ウィキペディアの「品質」の項
「ISOやJISの定義する狭義の品質という意味であれば、提供者が定
めた仕様から逸脱していないという事である。広義の品質(quality)は非
15 常に広範な概念を含む語であり、一概に定義づけることは難しいが、おお
よそ、提供される製品やサービスについて、買い手側である顧客(消費者)
が求める特性との合致度と考えられる(合致度が高ければ品質が高いとい
われる)。また、上質、すばらしい、高級と消費者が感じれば品質が高い
と考えられる。」
20 エ アメリカの品質協会の「品質」の定義
「本来備わっている特性がまとまって、要求事項を満たす度合い」
(Customer Satisfaction)
オ 保田勝通著「ソフトウェア品質保証の考え方と実際」(日科技連出版)
における「品質」の定義
25 「品質とは、ユーザーの満足度である。」
カ 網野誠著「商標 第4版」における「役務の質」を表示する言葉の例と
して挙げる記載
「書類の複製について『スピーディ』
編み物の請負サービスについて『手編み』
預金の受入れについて『定期』、『普通』、『高利回り』
5 医療サービスについて『すぐ治る』、『無痛』」
キ 国語辞典「大辞林」(三省堂)の「質」の項
「もちまえ。内容の良否。価値。『質より量』、『どのような』という問
いに対する事物の在り方。判断が肯定判断か否定判断かということ。判断
の質。」
10 ク 国語辞典「大辞泉」(小学館)の「質」の項
「そのものの良否・粗密・傾向などを決めることになる性質。実際の内容。
生まれながらに持っている性格や才能。素質。資質。論理学で判断が肯定
判断か否定判断かということ。物の本体。本質。」
⑶ 上記各文献等の記載のとおり、商品の「品質」、役務の「質」とは、商品、
15 役務(サービス)が備えている特性が、ユーザーの「要求事項」を「満たす
度合い(満足度、良否、肯定判断か否定判断か)」を表現する言葉である。
この定義に従えば、「睡眠改善メソッド」の語は、本願指定役務について
の「顧客(消費者)が求める特性との合致度」、「特性の集まりが要求事項
を満たす程度」、「役務(サービス)に対するユーザーの満足度」を表現し
20 ている言葉であるとはいえない。「睡眠改善メソッド」は、「睡眠を改善す
る方法」という方法の名前(名称)を表現しているにすぎない。
取引者、需要者は、「役務の質」の「質」の意味が、ISO、JISの定
義文に書いてあるような意味であると知っているから、本願商標が役務の質
を表示するものではないと認識する。したがって、取引者、需要者を判断基
25 準としても、本願商標が役務の質を表示しているとは判断されない。
4 被告は、本願商標をその指定役務に使用した場合には、需要者、取引者は、
「睡眠を改善する方法」に係る役務であることを認識するものであり、本願商
標は役務の質(内容)を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商
標であるから、商標法3条1項3号に該当すると主張する。
しかし、本願商標が「役務の質」を普通に用いられる方法で表示する標章に
5 該当するとの判断を下すのであれば、「役務の質」の定義を示し、本願商標が
「役務の質」の定義に当たる言葉を意味する商標であり、それを普通に用いら
れる方法で表示する標章であることを説明する必要があるにもかかわらず、被
告は、「役務の質」の言葉の意味を一言も説明することなく、前記主張をして
おり、そのような判断手法は許されない。
10 被告の主張を一般化すると、ある商標を使用する役務が「○○○(商標の言
葉)」に係る役務であると取引者、需要者が認識すれば、その商標は「役務の
質(内容)」を普通に用いられる方法で表示する標章に該当する、との内容に
なる。しかし、このような判断手法が採用されていたら、「医業経営コンサル
タント」及び「獣医療コンサルタント」という商標は、いずれも「役務の質(内
15 容)」を普通に用いられる方法で表示する標章に該当するものとして登録され
なかったはずであるが、これらの商標はいずれも登録されており、被告の主張
する判断手法は誤りである。
〔被告の主張〕
1 出願に係る商標が、その指定役務について、役務の質を普通に用いられる方
20 法で表示する標章のみからなる商標であるというためには、本件審決がされた
時点において、当該商標が当該役務との関係で役務の質を表示記述するものと
して取引に際し必要適切な表示であり、当該商標の取引者、需要者によって当
該役務に使用された場合に、将来を含め、役務の質を表示したものと一般に認
識されるものであれば足りる。そして、当該商標の取引者、需要者によって当
25 該役務に使用された場合に役務の質を表示したものと一般に認識されるかど
うかは、当該商標の構成やその指定役務に関する取引の実情を考慮して判断す
べきである。
2 本願商標を構成する文字の語義からすれば、本願商標は、その構成全体の文
字から、「睡眠を改善する方法」の意味を理解させるものである。
また、取引の実情として、睡眠を改善することを目的とした役務が提供され
5 ている事実、睡眠を改善する方法を「睡眠改善メソッド」と称している事実、
及び睡眠を改善することを目的とした商品や役務において「睡眠改善メソッド」
の文字が使用されている事実が存在する。
本願商標を構成する文字の語義から理解される意味と、上記取引の実情を考
慮すると、本願商標をその指定役務に使用した場合には、需要者、取引者は、
10 当該役務が「睡眠を改善する方法」に係るもの、すなわち、「睡眠を改善する
方法を内容とする知識の教授、睡眠を改善する方法を内容とするセミナーの企
画・運営又は開催、睡眠を改善する方法を内容とする電子出版物の提供、睡眠
を改善する方法を内容とするビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを
除く。)、睡眠を改善する方法を内容とする興行の企画・運営又は開催(映画・
15 演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車
競走の興行に関するものを除く。)」であることを理解するにとどまるもので
あり、本願指定役務との関係においては、役務の質(内容)を表したものと一
般に認識される。
以上によれば、本願商標は、役務の質(内容)を普通に用いられる方法で表
20 示する標章のみからなる商標であるから、商標法3条1項3号に該当する。
3 原告の主張に対する反論
⑴ 商標法3条1項3号は、その規定上は需要者の認識について述べていない
が、出願に係る商標が、その指定役務について、役務の質を普通に用いられ
る方法で表示する標章のみからなる商標であるというためには、当該商標の
25 取引者、需要者によって、その指定役務に使用された場合に、役務の質を表
示したものと一般に認識されるものであれば足りると解されるのであって、
この解釈に従って、本願商標が同号所定の「役務の質を普通に用いられる方
法で表示する標章のみからなる商標」であると判断した本件審決に誤りはな
い。
⑵ 本願商標を、その指定役務中、例えば「技芸・スポーツ又は知識の教授」
5 に使用した場合、当該役務の労働作業は「教える労働作業」であるところ、
その「教える」内容が睡眠を改善する方法であって、労働作業の質(内容)
を表すものである。そうすると、「睡眠を改善する方法」の意味を認識させ
る本願商標をその指定役務に使用した場合には、前記2のとおりの役務の質
(内容)を表示するものと一般に認識されるものであるから、原告が主張す
10 るような「労働作業(役務)」等の質(内容)を表しているといえる。した
がって、本願商標から認識される意味が「睡眠を改善する方法」という「方
法」であるからといって、本願商標が役務の質(内容)を表示しないことに
はならない。
⑶ 本願商標が本願指定役務に用いられることによって、当該役務が睡眠を改
15 善する方法に係る役務であることを表し、ひいては当該役務の取引者、需要
者が求める特性(睡眠を改善する方法に関する役務)を満たすことを表示す
るものといえるから、仮に役務の「質」の解釈が「満たす度合い」であると
の原告の主張を前提としても、本願商標は役務の「質」を普通に用いられる
方法で表示する標章に当たるというべきであり、本件審決の判断は誤りでな
20 い。
第4 当裁判所の判断
1 判断基準
商標法3条1項3号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くと規定されている
のは、このような商標は、指定役務との関係で、その役務の提供の場所、質、
25 提供の用に供する物、効能、用途その他の特性を表示記述する標章であって、
取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから、特
定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないとともに、一般的に使
用される標章であって、多くの場合自他役務の識別力を欠くものであることに
よるものと解される(最判昭和54年4月10日同53年(行ツ)第129号・
集民126号507頁参照)。
5 そうすると、出願に係る商標が、その指定役務について役務の質を普通に用
いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるというためには、審決が
された時点において、当該商標が当該役務との関係で役務の質を表示記述する
ものとして取引に際し必要適切な表示であり、当該商標の取引者、需要者によ
って当該役務に使用された場合に、将来を含め、役務の質を表示したものと一
10 般に認識されるものであれば足りると解される。そして、当該商標の取引者、
需要者によって当該役務に使用された場合に役務の質を表示したものと一般に
認識されるかどうかは、当該商標の構成やその指定役務に関する取引の実情を
考慮して判断すべきである。
2 本願商標の構成
15 本願商標は「睡眠改善メソッド」の文字を普通に用いられる方法で横書きし
てなる商標である。
「睡眠改善メソッド」は「睡眠」の文字、
「改善」の文字及び「メソッド」の
文字を組み合わせたものであって、「睡眠」は「ねむること。ねむり。」を意味
する語であり、「改善」は「悪いところを改めてよくすること。」を意味する語
20 であり、「メソッド」は「方法。方式。」を意味する語である。(乙2~4)
3 本願商標及び本願指定役務に関する取引の実情
⑴ インターネット上の商品販売サイトである「アマゾン」のウェブサイトに
は、「歯科医師が教える!睡眠改善メソッド いびきの治療で心と体をリフ
レッシュ!」という名称の電子書籍を販売している旨の記載があり、その紹
25 介文として、「歯科医師が教える、『いびき』の改善方法と『良い睡眠』を取
るためのノウハウ!」 「生活習慣の改善指導はもとより、独自の検査法から

治療法まで、
『良い睡眠』を得るための著者独自のノウハウを一挙公開!」と
の記載がある。(乙10)
⑵ 一般社団法人睡眠栄養指導士協会のウェブサイトには、「書籍が発売され
ました!」の見出しの下、
「2019年5月23日、Aの睡眠改善メソッドが
5 ついに書籍となり、マネジメント社様より全国書店で発売されました!」と
の記載があり、「3時間の睡眠で8時間分のリフレッシュができるハイパフ
ォーマンス睡眠」という名称の書籍が発売されたとの記載がある。(乙11)
⑶ 「ライフハッカー・ジャパン」のウェブサイトには、
「朝から脳がフル回転。
1日が充実する4つの実践的な『睡眠改善メソッド』」との見出しの下、「早
10 起きを当たり前にするための睡眠改善方法をご紹介。」との記載がある。(乙
12)
⑷ 「GetNaviweb」のウェブサイトには、 『寝具選びが人生を変え

る!?良質な睡眠の秘訣』モノを活用して解決!最新の睡眠不足対処法」と
の見出しの下、
「モノを活用した睡眠改善メソッド 最近、睡眠不足に悩む人
15 が増えています。忙しい現代社会で、仕事や家事、育児などに追われる日々
の中で、十分な睡眠をとることができない人が多いためです。そこで、今回
は最新の睡眠不足対処法について、モノを活用する方法を紹介します。ぜひ
参考にしてください。」との記載がある。(乙13)
⑸ ナステント株式会社のウェブサイトには、 『睡眠への戦略的アプローチ』

20 によって最高のパフォーマンスを引き出す特集コンテンツを公開」の見出し
の下、「最初はアスリートを支えるパーソナルトレーナーとボディメイク界
の新星が登場」の項において、
「睡眠にしかできない役割と呼吸によるアプロ
ーチを紐解きながら、私たちもすぐに実践できる睡眠改善メソッドを学びま
す。 「ナステントは、睡眠時無呼吸症候群やいびきに対する新しい選択肢を

25 提供するだけでなく、最高のパフォーマンスを発揮したい人たちを睡眠の質
の改善を通じ、その活動を応援してまいります。 との記載がある。
」 (乙14)
⑹ LIFREE株式会社による「アスリートの睡眠改善メソッド」と題する
ウェブサイトには、「オンライン専用に独自開発したスリープコントロール
メソッド」との見出しの下、
「たった1ヶ月で『睡眠数値・ストレス値・コン
ディション数値』が改善!!」との記載がある。(乙15)
5 ⑺ 一般財団法人さっぽろ産業振興財団のウェブサイトには、 【無料オンライ

ン】今日からできる!睡眠改善メソッド」の見出しの下、
「薬に頼らず、グッ
スリ眠りたい方は必見!この講座を受けると、睡眠の質を良くする方法が分
かり、いい眠りへと進んでいけます。 【質の良い睡眠をとるためにはどうし


たらいいか?!】を重点的にお伝えします。」との記載がある。(乙16)
10 ⑻ 「快眠の専門家 B師匠」と称する自営業の女性のインターネット上のブ
ログには、 【睡眠改善メソッド】@MRIのように体をスキャンする!自宅

に居ながら体調がよくなるデトックス遠隔 @睡眠アプリを活用し、『眠り
の見える化』で睡眠改善とパフォーマンスアップのアドバイスを行っており
ます。」との記載がある。(乙17)
15 ⑼ 「ダイヤモンド・オンライン」のウェブサイトには、
「仕事ができない人は
『睡眠下手』かも・・・全ての働く人へ贈る快眠スキルとは」の見出しの下、
「認知行動療法や心理学をベースとした独自の睡眠改善メソッドによるサポ
ートを行っており、1回のセミナー参加で不眠症レベルの受講者の約70%
が『正常範囲』まで改善。」との記載がある。(乙18)
20 ⑽ 株式会社ブレインスリープのウェブサイトには、
「発売から2年、累計6万
人超が実施した健康経営サービス『睡眠偏差値 for Biz』健康経営の取組段
階を踏まえた3つの新プランとして登場!NTTDXパートナーと公認代理
店契約締結」の見出しの下、「新プランの概要・特徴」の項に「『スタンフォ
ード式最高の睡眠』の著者であり、ブレインスリープ最高研究顧問のCをは
25 じめとした睡眠医学の専門家の『睡眠知識動画』 運動/呼吸/メディテーシ

ョン(瞑想)など、各界のプロフェッショナルが睡眠改善メソッドをお伝え
する『睡眠サポート動画』のセットや医師が監修した『睡眠アドバイス』の
記事の提供など、各従業員が自身の睡眠を改善するヒントを多方面より提案
します。」との記載がある。(乙19)
⑾ 「日刊SPA!」のウェブサイトには、 『起きる時間がバラバラ』は10

5 0%快眠を得られない。1日単位で管理する睡眠改善法」の見出しの下、
「で
は、D氏の睡眠改善メソッドとはどのようなものか。それが『R90テクニ
ック』というものです。しかも、D氏のメソッドは“睡眠だけ”を90分刻
みで考えるのではありません。睡眠時間以外も含めて『1日24時間すべて
を90分刻みで考える』というリズムマネジメント法なのです。」との記載が
10 ある。(乙20)
⑿ 「note」のウェブサイトに掲載された「【学科・製図】学習効率が高ま
った睡眠デザイン~勝つための睡眠メソッド実践編~」と題する記事には、
「【当日のメニュー(案) 」の項に「2-1:自分にあった睡眠改善メソッド

のタイプを探そう!」との記載がある。(乙21)
15 ⒀ 鍼灸整体院である「鍼灸サロンMiN」のウェブサイトには、
「About
me-院長紹介-」の見出しの下、
「眠れなくて苦しんでいる患者様を見てい
るとまるで昔の自分を見ているようです。 「そんな昔の自分と同じような人

をどうにかしてあげたい!そんな想いで辿り着いたのが薬を使わない睡眠改
善メソッドです。」との記載がある。(乙22)
20 ⒁ 「ねむりの応援団」のウェブサイトには、
「健康経営企業さま向け睡眠改善
トータルサポート」との見出しの下、
「従業員の健康と生産性を全面的にサポ
ートする睡眠改善トータルサポートサービス『ねむりの応援団』NTTPA
RAVITAの睡眠改善メソッドで企業様の健康経営をまるごとサポート」
との記載がある。(乙23)
25 ⒂ 「CNET Japan」のウェブサイトに掲載された「睡眠が行動を変
える。行動が睡眠を変える。
【睡眠アプリの決定版!世界初の睡眠メソッド搭
載】」との記事には、「世界初のサーカディアンスリープメソッド(最新の睡
眠学と時間医学の融合による睡眠改善メソッド)搭載アプリ。2016年3
月24日ローンチ予定。」との記載がある。(乙24)
⒃ 「Good Sleep Factory【大塚家具】」のウェブサイトには、『睡眠と脳』眠

5 っているときに脳内で起こっていることとは?」との見出しの下、
「そんな悩
みに対し、生体リズムを整え、睡眠をよりよく改善することで現代に合う生
き方を目指す『睡眠改善メソッド』を提供する、作業療法士・E先生に紐解
いていただきました。」との記載がある。(乙25)
⒄ 「はり灸整体治療院すずらん」のウェブサイトには、 睡眠改善
「 (不眠改善)」
10 の見出しの下、「実は、今回ご紹介するのは、『世界最先端の脳科学に基づい
た睡眠改善メソッド』です。 、 『睡眠を整える』ために根本的に必要なこと
」「
は、脳科学に基づいた睡眠改善メソッドで『脳の生理的な寝る力』を本来あ
るべき状態に戻すことです。」との記載がある。(乙26)
⒅ 株式会社エムールのウェブサイトには、
「BUSINESS 事業内容」の見出しの
15 下、
「SLEEP 事業」の項において、
「2019年、新会社を設立し、企業の睡眠
の可視化と睡眠改善メソッドの開発提供を行って参ります。」との記載があ
る。(乙27)
⒆ 「bibien.tv」のウェブサイトに掲載された「【不眠の人へ】よく眠れる人
が実践する睡眠改善メソッド!運動から食べ物まで」との記事には、
「この記
20 事では食べ物や運動など、不眠の原因を知った上で今日からできるよく眠れ
る方法を詳しくご紹介します!」との記載がある。(乙28)
⒇ 株式会社 Shin のウェブサイトには、
「会社設立経緯」の項に、
「自身が睡眠
改善に悩んだ経験があり、独学で睡眠改善メソッドを学びました。このメソ
ッドをより広く社会に届けたいと考えた時に、会社を創業して、アプリや他
25 のカウンセラーにメソッドを忠勇することで、早く広がるのではないかと考
えるに至りました。」との記載がある。(乙29)
4 上記2の認定事実によれば、「睡眠改善メソッド」が、「睡眠(眠り)の状態
を改善する方法」の意味を容易に認識させることは、その構成から明らかであ
る。
そして、上記3の認定事実によれば、睡眠の状態を改善する方法を紹介する
5 書籍の題名に「睡眠改善メソッド」の文字が用いられた例(上記3⑴)、睡眠の
状態を改善する方法に関する書籍の発売を紹介するウェブサイトにおいて「睡
眠改善メソッド」の文字が用いられた例(上記3⑵)、睡眠の状態を改善する方
法を紹介するウェブサイトにおいて「睡眠改善メソッド」の文字が用いられた
例(上記3⑶、⑷、⑾、⒃、⒆)、睡眠の状態を改善する方法を提供する企業や
10 事業者等のウェブサイトにおいて「睡眠改善メソッド」の文字が用いられた例
(上記3⑸~⑽、⑿~⒂、⒄、⒅、⒇)があると認められる。
以上によれば、本願商標は、本願指定役務である「技芸・スポーツ又は知識
の教授、セミナーの企画・運営又は開催、電子出版物の提供、教育・文化・娯
楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。)、興
15 行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・
競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。)」との関係
で、本件審決がされた令和5年3月22日の時点において、「睡眠を改善する
方法を提供する、睡眠に関する役務である」という役務の質を表示記述するも
のとして取引に際し必要適切な表示であり、本願商標の取引者、需要者におい
20 て本願商標が本願指定役務に使用された場合に、役務の質を表示したものと一
般に認識されるものであるから、本願商標は、本願指定役務について役務の質
を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であると認めるのが
相当である。
したがって、本願商標は、商標法3条1項3号に該当する。
25 5 原告の主張に対する判断
⑴ 前記第3〔原告の主張〕1について
原告は、本件審決において、取引者、需要者が単に役務の質を普通に用い
られる方法で表示したものと認識することを理由として、本願商標が同条1
項3号に該当する判断したことは誤りである旨主張する。
しかし、前記1のとおり、商標法3条1項3号に掲げる商標が商標登録の
5 要件を欠くと規定されているのは、このような商標は、指定役務との関係で、
その役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途その他の特性
を表示記述する標章であって、取引に際し必要適切な表示として何人もその
使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのは公益
上適当でないとともに、一般的に使用される標章であって、多くの場合自他
10 役務の識別力を欠くものであることによるものと解される。このような同号
の趣旨からすれば、出願に係る商標が、その指定役務との関係で、その役務
の質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるといえ
るか否かの判断に当たっては、当該商標の取引者、需要者の認識を基準とす
ることが相当であり、この解釈は、同号の規定に「取引者」
「需要者」の語が
15 用いられていないことによって左右されない。
⑵ 前記第3〔原告の主張〕2について
原告は、特許庁の「特許用語集」を前提として、「睡眠改善メソッド」は、
「睡眠を改善する方法」という「方法」を意味しているにすぎず、上記内容
の「労働作業」を意味していないから、「役務の質」を表現しているもので
20 はないと主張する。
そもそも特許庁の特許用語集は法規範性を有するものではないが、この点
を措き、原告の主張を前提としても、
「役務」は「独立して取引の対象となり
得る、他人のために行う労役又は便益」であって、
「労役」の他に「便益」も
含まれるのであって、役務を「体を動かして行う労務」に限定して解釈する
25 ことは相当でない。そして、前記2及び3に認定した事情によれば、本願商
標は、睡眠を改善する方法の教授、睡眠を改善する方法に関するセミナーの
開催、睡眠を改善する方法を提供する電子出版物の提供など、提供する役務
(便益)の質(内容)を表したものと認識させるものであると認められる。
⑶ 前記第3〔原告の主張〕3について
原告は、「睡眠改善メソッド」の語は、「睡眠を改善する方法」という方
5 法の名前(名称)を表現しているにすぎないから、役務の「質」を表示する
ものではなく、取引者、需要者も本願商標が役務の質を表示するものではな
いと認識すると主張する。
しかし、広辞苑第7版の「質」の項には、「②内容。中味。価値。」との記
載があるのであって(弁論の全趣旨) 「質」は「内容」の意味を有すると認

10 められるから、商標法3条1項3号の「役務の質」の「質」の語を原告が主
張する意味に限定して解釈する必要はなく、
「役務の質」を「役務の内容」と
解することが相当性を欠くとは認められない。原告が挙げる文献等を考慮し
ても、広辞苑による「質」の定義を採用することができないとは解されない。
また、前記3の「睡眠改善メソッド」の語に係る取引の実情によれば、本
15 願商標が本願指定役務に用いられることによって、睡眠を改善する方法の教
授、睡眠を改善する方法のセミナーの開催、睡眠を改善する方法に関する電
子出版物の提供などが行われることを意味し、ひいては当該役務の取引者、
需要者が求める特性に合致し満足を与えることを含意するものともいえるか
ら、仮に役務の「質」の解釈に関する原告の主張を前提としても、本願商標
20 は役務の「質」を普通に用いられる方法で表示する標章に当たると解するこ
とができる。
⑷ 前記第3〔原告の主張〕4について
原告は、本願商標が「役務の質」を普通に用いられる方法で表示する標章
に該当するとの判断をするのであれば、「役務の質」の定義を示す必要があ
25 るにもかかわらず、本件審決及び本件の被告が、
「役務の質」の定義を示さな
いまま上記内容の判断をしたことが不当であると主張する。
しかし、本件審決は、役務の「質」について「質(内容)」と記載し、
「質」
の語を「内容」と言い換えることによってその意味を説明したものと解され
るから、本件審決が「役務の質」の定義を示さずに本願商標が「役務の質」
を普通に用いられる方法で表示する標章に該当すると判断したものとはいえ
5 ない。
また、原告は、
「役務の質」の判断手法に関する被告の主張を採用すれば、
「医業経営コンサルタント」及び「獣医療コンサルタント」という商標は、
いずれも「役務の質(内容)」を普通に用いられる方法で表示する標章に該
当するものとして登録されなかったはずであるが、これらの商標はいずれも
10 登録されており、被告の主張する判断手法は誤りであると主張する。
しかし、商標登録の可否は、商標の構成、指定役務、取引の実情等を踏ま
えて、具体的な実情に基づき商標ごとに個別に判断すべきものであって、原
告が指摘する商標が登録されていたとしても、本願商標が当然に登録される
べきものと解することはできず、本願商標が本願指定役務について役務の質
15 を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であることを否定
する理由とはならない。
⑸ 以上のとおり、原告の主張はいずれも採用することができない。
6 結論
以上検討したところによれば、本願商標は、その指定役務について役務の質
20 を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるといえるから、
商標法3条1項3号に該当するものと認められる。
また、本願商標は、その指定役務のうち「睡眠を改善する方法を提供する、
睡眠に関する役務」以外の指定役務に対して使用された場合には、役務の質の
誤認を生ずるおそれがあるといえ、役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標
25 であるといえるから、商標法4条1項16号に該当するものと認められる。
したがって、本件審決の判断に誤りはなく、原告が主張する取消事由は理由
がない。
よって、原告の請求は、理由がないからこれを棄却することとして、主文の
とおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
10 裁判長裁判官
東 海 林 保
裁判官
今 井 弘 晃
裁判官
25 水 野 正 則
(別紙 審決書写し、更正決定の写し省略)

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