令和5(ワ)70372発信者情報開示請求事件
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裁判所 |
認容 東京地方裁判所東京地方裁判所
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裁判年月日 |
令和5年12月7日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
原告株式会社グルーヴ・ラボ 被告株式会社朝日ネット
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法令 |
著作権
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キーワード |
侵害26回 損害賠償2回 実施2回 分割1回
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主文 |
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。15 |
事件の概要 |
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判決文
令和 5 年 12 月 7 日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和 5 年(ワ)第 70372 号 発信者情報開示請求事件
口頭弁論終結日 令和 5 年 10 月 23 日
判 決
原 告 株式会社グルーヴ・ラボ
同訴訟代理人弁護士 杉 山 央
10 被 告 株 式 会 社 朝 日 ネ ッ ト
同訴訟代理人弁護士 福 本 悟
主 文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
15 2 訴訟費用は被告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
略語は略語一覧表のとおり。
第1 請求
主文同旨
20 第2 事案の概要
1 事案の要旨
本件は、原告が、本件発信者らがファイル交換ソフトウェア「BitTorrent」を利用
したネットワークシステムを使用し、本件各動画を送信可能化した上で自動公衆送
信したことによって、本件各動画に係る原告の著作権(自動公衆送信権(主位的主
25 張) 送信可能化権
、 (予備的主張) を侵害したことは明らかであるなどと主張して、
)
被告に対し、法 5 条 1 項に基づき、本件発信者情報の開示を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実、顕著な事実、掲記の各証拠(書証の番
号は特に断らない限り枝番号を含む。以下同じ。 及び弁論の全趣旨により容易に認
)
められる事実)
5 (1) 当事者
ア 原告は、動画の制作等を行う株式会社である。
イ 被告は、インターネット接続サービスの提供を含む電気通信事業を営む株式
会社であり、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信(特
定電気通信)の用に供される電気通信設備(特定電気通信設備)を用いて他人の通
10 信を媒介し、その他特定電気通信設備を他人の通信の用に供する者(特定電気通信
役務提供者。法 2 条 3 号)であって、本件発信者情報を保有している。
(2) 本件各動画の著作権者
原告は、その発意に基づき、原告における職務の履行として、原告の業務に従事
する者に対し、本件各動画の企画、制作等を行わせ、また、本件各動画のパッケー
15 ジに原告の旧商号を表示して、自己の著作の名義の下に本件各動画を公表した。
(甲
2 の 1、2 の 2、18)
したがって、原告は、本件各動画の著作者としてその著作権を有する。
(3) BitTorrent の仕組み等
BitTorrent とは、いわゆる P2P 形式のネットワークであり、その概要や使用の手順
20 は、次のとおりである。(甲 4~6、9)
ア BitTorrent により特定のファイルを配布する場合、まず、当該ファイルを小さ
なデータ(ピース)に細分化し、分割された個々のデータ(ピース)を BitTorrent ネ
ットワーク上のユーザー(ピア)に分散して共有させる。
イ BitTorrent を通じて特定のファイルをダウンロードしようとするユーザーは、
25 まず、その使用端末に BitTorrent に対応したクライアントソフト(以下、対応クラ
イアントソフトを含めて「BitTorrent」ということがある。)をインストールした上
で、
「インデックスサイト」と呼ばれるウェブサイトに接続し、当該ファイルの所在
等の情報が記録されたトレントファイルをダウンロードして、これを BitTorrent に
読み込ませる。これにより、BitTorrent は、当該トレントファイルに記録されたトラ
ッカーサーバに接続し、当該特定のファイルの提供者のリストを要求する。トラッ
5 カーサーバは、ファイルの提供者を管理するサーバであり、ユーザーによる要求に
応じ、自身にアクセスしているファイル提供者の IP アドレスが記載されたリストを
ユーザーに返信する。
ウ リストを受け取ったユーザーは、当該ファイルのピースを持つ他の複数のユ
ーザーに接続し、それぞれから当該ピースのダウンロードを開始する。全てのピー
10 スのダウンロードが終了すると、自動的に元の 1 つの完全なファイルが復元される。
エ 完全な状態のファイルを持つユーザーは「シーダー」と呼ばれる。他方、目
的のファイルにつきダウンロードが完了する前のユーザーは「リーチャー」と呼ば
れるが、ダウンロードが完了して完全な状態のファイルを保有すると、当該ユーザ
ーは自動的にシーダーとなる。シーダーは、リーチャーからの求めに応じて、当該
15 ファイルの一部をアップロードしてリーチャーに提供する。また、リーチャーは、
目的のファイル全体のダウンロードが完了する前であっても、既に所持しているフ
ァイルの一部(ピース)を、他のリーチャーの求めに応じてアップロードする。す
なわち、リーチャーは、目的のファイルを自らダウンロードすると同時に、他のリ
ーチャーに当該ファイルの一部を送信することが可能な状態に置かれる仕組みとな
20 っている。
(4) 本件調査
ア 原告は、本件訴訟提起に先立ち、本件調査会社に対し、BitTorrent を使用した
本件各動画の著作権侵害に係る調査(本件調査)を委託した。
イ 本件調査は、BitTorrent の開発・管理運営を行う会社が管理・運営する本件ク
25 ライアントソフトを使用して行われた。
本件クライアントソフトは、ダウンロードをするトレントファイルを検索し、
BitTorrent を使用しているピアの情報を表示する機能を有しており、本件クライアン
トソフトを利用することにより、ピースのダウンロード及びアップロードを行って
いるピアの IP アドレスを解明することが可能である。
本件調査の概要は、以下のとおりである。
5 すなわち、本件調査会社担当者は、インデックスサイトにおいて本件各動画に係
るファイルを検索して、トレントファイルをダウンロードし、端末にダウンロード
した当該トレントファイルをもとに、本件クライアントソフト上で本件各動画に係
るピースをダウンロードした。本件調査会社は、当該ダウンロード中に当該端末に
当該ピアの IP アドレスとして表示されている IP アドレスを確認し、スクリーンシ
10 ョットして保存した。
本件調査会社担当者は、本件発信者の IP アドレスを確認し、ダウンロードしたフ
ァイルの動画と本件各動画とを見比べてその同一性を確認した。
ウ 本件調査会社は、原告に対し、本件調査の結果、別紙発信者情報目録の「日
時」欄記載の各日時に本件各動画に係るファイルがアップロードされていること、
15 このアップロードの通信に本件 IP アドレスが使用されていることなどを報告した。
(以上につき、甲 1 の 1、1 の 2、5、7 の 1、7 の 2、8 の 1、8 の 2、9、23)
2 本件の主な争点は権利侵害の明白性であり、これに関する当事者の主張は以
下のとおりである。
(原告の主張)
20 (1) 主位的主張
本件調査会社は、本件調査によって、本件発信者から、本件各動画のピースをダ
ウンロードし、これを保有する本件発信者が接続している IP アドレス、接続日時
等を特定した。また、本件調査会社担当者は、ダウンロードしたファイルの動画と
本件各動画とを見比べてその同一性を確認した。
25 したがって、本件発信者は、本件調査会社の求めに応じて自動的に本件各動画の
ピースを送信したといえる。このような行為は、原告の本件各動画に係る自動公衆
送信権侵害に当たる。
(2) 予備的主張
本件発信者らによる自動公衆送信が否定されるのであれば、送信可能化権が侵害
されている状態であるといえる。
5 すなわち、BitTorrent の仕組みによれば、本件発信者らは、BitTorrent を利用す
る他のユーザー(ピア)からその余のファイル(ピース)をダウンロードすること
によって完全なファイルを取得すると共に、本件各動画のピースをアップロード可
能な状態に置き、本件発信者以外のユーザーが本件各動画の完全なファイルをダウ
ンロードすることを可能とさせている。そうすると、本件発信者は、別紙発信者情
10 報目録の「日時」欄記載の各日時に、本件各動画のピースのダウンロードが可能で
あるという情報を発信し続けていたことから、本件各動画を送信可能化した(著作
権法 2 条 1 項 9 号の 5 ロ)といえる。
このような行為は、原告の本件各動画に係る送信可能化権侵害に当たる。
(3) 被告の主張について
15 ア BitTorrent の仕組みによれば、ダウンロードしたファイルをほぼ同時にアッ
プロードすることになるから、保有率が 100%未満のピアからもファイルをダウン
ロードすることが可能である。
イ 本件調査会社は、本件調査において、現に本件発信者らから本件侵害動画を
ダウンロードしており、トラッカーサーバに誤って登録された可能性や本件 IP ア
20 ドレスによるインターネット通信がされていなかった可能性をいう被告の指摘は当
たらない。
ウ 本件発信者らは虚偽の事実を回答した可能性もあり、これをもって著作権侵
害が否定されることにはならない。
エ フラグの表示は、シーダー又はリーチャーである本件発信者らの状況を示す
25 に過ぎず、本件調査会社が本件発信者らからダウンロードしている状況とは関係が
ない。
オ 本件調査会社は、本件調査においてダウンロードしたファイルが再生できる
ことを確認している。
(被告の主張)
不知ないし争う。
5 (1) 本件調査には次の問題点があり、その信用性に疑義がある。
ア BitTorrent の仕組みによれば、対象となるファイルの保有率が 100%未満
であるなど、一定の条件を満たさない場合には、他のユーザーに対して当該ファイ
ルのピースをアップロードできない可能性がある。
イ 本件調査において使用されたトラッカーサーバは、ユーザーがファイルを持
10 っていなくとも、要求した時点で当該ユーザーをピアとして登録するようにも思わ
れる。
ウ IP アドレスが割り当てられているということは、インターネットとモデムを
接続する状態、すなわち、通信し得る状態にあったことを意味するに過ぎず、IP ア
ドレスが存在するからといって、これを割り当てられていた者が実際にインターネ
15 ット通信を行っていたかどうかはわからない。
(2) 被告が本件発信者らに対して意見聴取(法 6 条 1 項)を行ったところ、ビッ
トトレントファイルは保持していない、指摘の時刻には端末を使用していない状態
であったなどとして発信者情報開示に同意しない旨の回答があった。これらの者と
の関係では、本件各動画に係る著作権侵害は認められない。
20 (3) 本件 IP アドレスによる通信は、フラグが「UH」「UX」の状態であり、本
、
件各動画のダウンロードの通信自体ではない可能性がある。
(4) 本件調査における本件各動画のダウンロードはいずれも途中段階であり、本
件発信者らのピースがダウンロードも開始又は完了したのか、本件発信者らからダ
ウンロードした本件各動画に係るピースは再生可能であるのか、本件各動画の本質
25 的部分であり同一のものといえるのかといった点につき疑義がある。
第3 当裁判所の判断
1 争点(権利侵害の明白性)について
(1) BitTorrent 及び本件クライアントソフトの仕組み並びに本件調査の方法ない
し内容(前提事実(3)、(4))を踏まえると、本件発信者らは、その端末に BitTorrent
をインストールし、本件各動画のファイルに係るピースをダウンロードすると共に
5 当該ピースを不特定の者からの求めに応じて BitTorrent のネットワークを介して自
動的に送信し得るようにし、被告から本件 IP アドレスの割当を受けてインターネッ
トに接続された状態の下、別紙発信者情報目録の「日時」欄記載の各日時において、
本件調査会社の求めに応じ、自動的に本件各動画のファイルのピースをアップロー
ドしたものと認められる。
10 そうすると、本件各動画に係るファイル(ピース)は、本件 IP アドレスが割り当
てられた本件発信者らにより、公衆からの求めに応じて自動的に公衆送信されたも
のということができる。すなわち、本件発信者は本件各動画に係るデータを自動公
衆送信したものであり、これにより、本件各動画に係る原告の公衆送信権が侵害さ
れたことが明らかである(法 5 条 1 項 1 号)。
15 (2) 被告は、本件調査の信用性に疑義がある旨や本件侵害動画が本件各動画との
同一性を欠く旨などを主張する。
しかし、別紙発信者情報目録の「日時」欄記載の日時に本件 IP アドレスを割り当
てられた本件発信者らが本件侵害動画をアップロードしていたことは上記認定のと
おりであって、これを覆すに足りる具体的な事情を示す証拠はない。
20 また、被告の意見聴取に対し、回答者の一部が本件各動画に係るファイルを保有
していないなどと回答したからといって、必ずしもその者による権利侵害が否定さ
れるものではない。
さらに、本件クライアントソフトは特定のファイルを保有しアップロード可能な
状態においた発信者の IP アドレスが表示される仕組みとなっていること、本件調
25 査会社担当者は、本件調査に際し、本件発信者らの IP アドレスを確認するのみな
らず、ダウンロードしたファイルの動画(本件侵害動画)と本件各動画とを見比べ
てその同一性を実際に確認していること(前提事実(4)イ)から、上記スクリーンシ
ョットを行った時点のピアの状態に係るフラグとして「UH」及び「UX」「U」
( :現
在アップロード中(インタレストかつチョークされていない)「H」
、 :ピアが DHT
を介して取得された、 :ピアがピアエクスチェンジ(PEX)を通じて取得したピ
「X」
5 アリストに含まれている、または、IPv6 ピアがその IPv4 アドレスを教えてくれた。)
(甲 15)との表示が存するとしても、そのことから直ちに、本件発信者らが本件各
動画に係るファイルをアップロードしていなかったとはいえない。
なお、証拠(甲 7 の 1、7 の 2、8 の 1、8 の 2)によれば、本件侵害動画と本件
各動画とは、ファイルのサイズが異なり、完全に同一内容のものではないことがう
10 かがわれる。もっとも、上記のとおり、本件調査会社担当者は、本件調査に際し、
本件発信者の IP アドレスを確認すると共に、ダウンロードしたファイルの動画と
本件各動画とを見比べてその同一性を確認している。また、上記各証拠によれば、
本件侵害動画と本件各動画には、複数の同一シーンが含まれていることが認められ
る。このため、本件侵害動画は少なくとも本件各動画の一部であり、前者は後者を
15 複製したものであることがうかがわれる。また、ダウンロード中であって保有率が
相当少ない場合にも当該ファイルの動画を再生できること及び本件侵害動画が再生
できることが確認されている(前提事実(4)イ、甲 25)。他方、本件侵害動画と本件
各動画との内容の実質的同一性が失われていることをうかがわせる具体的な事情や、
本件発信者らからダウンロードしたピースが再生できないことを疑わせるに足りる
20 具体的な事情はない。
その他本件クライアントソフトや本件調査の信用性を疑わせるに足りる具体的な
事情を示す的確な証拠は見当たらないことに鑑みると、本件調査は信用するに足り
るものといってよい。
その他被告が縷々指摘する事情を考慮しても、この点に関する被告の主張は採用
25 できない。
2 その他の要件について
上記のとおり、本件発信者らによる本件各動画に係る原告の公衆送信権侵害が認
められるところ、弁論の全趣旨によれば、原告は、本件発信者らに対する不法行為
に基づく損害賠償請求等の権利行使を予定していることが認められるから、本件発
信者に係る本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由(法 5 条 1 項 2 号)が認
5 められる。
以上より、原告は、被告に対し、本件発信者情報の開示請求権を有する。
第4 結論
よって、原告の請求は理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり
判決する。
東京地方裁判所民事第 47 部
15 裁判長裁判官
杉 浦 正 樹
裁判官
久 野 雄 平
裁判官
吉 野 弘 子
(別紙)
発信者情報目録
以下の日時に以下の IP アドレス及びポート番号を割り当てられていた契約者の
5 氏名又は名称、住所、電話番号及び電子メールアドレス
1 日時 (省略)
IP アドレス (省略)
ポート番号 (省略)
2 日時 (省略)
IP アドレス (省略)
ポート番号 (省略)
3 欠番
(別紙侵害著作物目録 省略)
(別紙)
略語一覧表
本件発信者ら 本件侵害動画をアップロードした氏名
不詳者ら
本件各動画 別紙侵害著作物目録記載の各動画の総
称
法 特定電気通信役務提供者の損害賠償責
任の制限及び発信者情報の開示に関す
る法律
本件発信者情報 別紙発信者情報目録記載の発信者情報
本件調査会社 本件調査を実施した調査会社
本件調査 本件調査会社により実施された
BitTorrent を利用した本件各動画の著作
権侵害に係る調査
本件クライアントソフト 「μtorrent」と称するクライアントソフ
ト
本件 IP アドレス 別紙発信者情報目録の「IP アドレス」
欄記載の各 IP アドレス
本件侵害動画 本件調査会社が本件発信者らからダウ
ンロードした本件各動画に係る動画フ
ァイル
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