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令和5(行ケ)10013審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和5年12月26日
事件種別 民事
法令 特許権
特許法29条2項1回
キーワード 審決15回
進歩性3回
刊行物1回
優先権1回
主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
3 原告らのため、この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付
事件の概要 本件は、特許出願の拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取消訴 訟である。争点は、進歩性の有無である。

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判決文

令和5年12月26日判決言渡
令和5年(行ケ)第10013号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和5年10月31日
判 決
5 当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
主 文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
3 原告らのため、この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付
10 加期間を30日と定める。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が不服2021-10198号事件について令和4年10月3日にした審
決を取り消す。
15 第2 事案の概要
本件は、特許出願の拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取消訴
訟である。争点は、進歩性の有無である。
1 特許庁における手続の経緯等(争いがない事実以外の事実については、後掲
証拠及び弁論の全趣旨で認定した。)
20 原告らは、2017年(平成29年)4月20日を国際出願日とし、発明の名称
を「磁極ハウジングの製作方法、電動機用磁極ハウジング、および、電動機」(令
和2年2月25日に提出された手続補正書による補正後のもの)とする特許出願
(特願2019-510750号(以下「本件出願」という。)。パリ条約による
優先権主張(ドイツ連邦共和国)2016年(平成28年)5月4日(以下「本件
25 優先日」という。))をし(甲1、11、弁論の全趣旨)、平成30年12月26
日及び令和2年2月25日、それぞれ手続補正書(甲10、11)を提出したが
(以下、本件出願に係る明細書及び図面(令和2年2月25日に提出された手続補
正書による補正後のもの(甲1、10、11)。なお、その後にされた手続補正に
よる明細書又は図面の補正はない。)を「本願明細書」という。)、令和3年3月
24日付けで拒絶査定を受けた。そこで、原告らは、同年7月30日、同拒絶査定
5 に対する不服審判の請求(不服2021-10198号)をした上、令和4年5月
31日、手続補正書(甲3)を提出した。
特許庁は、令和4年10月3日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審
決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同月18日、原告らに送達さ
れた(出訴のための附加期間は90日)(弁論の全趣旨)。
10 原告らは、令和5年2月13日、本件審決の取消しを求めて本件訴えを提起した
(当裁判所に顕著な事実)。
2 本件出願に係る発明の要旨(甲3)
本件出願に係る特許請求の範囲(請求項の数は5)のうち請求項1の記載(令和
4年5月31日に提出された手続補正書による補正後のもの)は、次のとおりであ
15 る(以下、同請求項に係る発明を「本願発明」という。同請求項中の番号及び記号
については、別紙(本願図1・図2)参照)。本願発明は、電動機用磁極ハウジン
グを製作するための方法に関するものである。
【請求項1】
予め亜鉛メッキされた金属薄板材料からなる管外周壁(4)が用意され、
20 管縦方向(L)に延在する前記管外周壁(4)の直線状の外周壁縦方向エッジ
(6)が互いに向き合うように、金属薄板材料からなる前記管外周壁(4)が円筒
状磁極管(2)に変形され、
前記管外周壁(4)が溶接装置(28)に供給され、前記管外周壁(4)の前記
外周壁縦方向エッジ(6)がレーザー溶接継目(10)によって互いに材料結合式
25 に連結され、周方向に閉じた前記円筒状磁極管(2)を形成し、前記外周壁縦方向
エッジ(6)間の流体封止的な突き合わせエッジ連結が実現され、
前記円筒状磁極管(2)の一方の端面を閉鎖するカバー(14)が設けられてい
る、電動機用磁極ハウジング(16)を製作するための方法において、
前記円筒状磁極管(2)がプレス装置(34)に供給され、前記円筒状磁極管
(2)の前記一方の端面側の管端部(12a)の内壁側に、前記カバー(14)を
5 支持するための半径方向の載置面(36)と軸方向の環状壁区間(38)を有する
段付き部(32)が全周にわたって形成され、
前記カバー(14)が前記載置面に配置され、
前記カバー(14)を越えて突出する軸方向の前記環状壁区間(38)の領域が
前記カバー(14)を保持しつつ全周にわたって前記一方の端面側の管端部(12
10 a)の塑性変形によって半径方向内側に変形され、それにより前記カバー(14)
が端板として、前記カバー(14)と前記円筒状磁極管(2)の間に流体封止的連
結を形成するように前記円筒状磁極管(2)の前記一方の端面側の前記管端部(1
2a)にかみ合い結合式に固定されることを特徴とする方法。
3 本件審決の理由の要旨
15 (1) 国際公開第2012/113432号(甲5)に記載された発明の認定
甲5には、次の発明(以下「引用発明」という。引用発明中の番号及び記号につ
いては、別紙(甲5図1・図4)参照)が記載されている。
(引用発明)
予め亜鉛メッキを施された薄鋼板から形成されるチューブ・シース2が供給され、
20 チューブ縦方向Lに延びる前記チューブ・シース2の縦方向のエッジ3が互いに
向き合うように、薄鋼板から形成される前記チューブ・シース2がシリンダー状の
ポールチューブ1に形成され、
前記チューブ・シース2が溶接装置15に供給され、前記チューブ・シース2の
前記縦方向のエッジ3がレーザーによる溶接の継ぎ目5を用いて接続され、溶接さ
25 れた前記ポールチューブ1を形成し、液体及びガスを透過させない継ぎ目エッジが
保証され、
前記ポールチューブ1のチューブ末端6aにベアリング保護板7が固定されてい
る、電気モーターのためのポールケーシング製造方法において、
溶接装置17を用いたレーザー溶接又は圧着によって、前記ベアリング保護板7
が、前記ポールチューブ1の前記チューブ末端6aに固定される電気モーターのた
5 めのポールケーシング製造方法。
(2) 本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明は、次の一致点で一致し、相違点で相違する。
(一致点)
予め亜鉛メッキされた金属薄板材料からなる管外周壁が用意され、
10 管縦方向に延在する前記管外周壁の直線状の外周壁縦方向エッジが互いに向き合
うように、金属薄板材料からなる前記管外周壁が円筒状磁極管に変形され、
前記管外周壁が溶接装置に供給され、前記管外周壁の前記外周壁縦方向エッジが
レーザー溶接継目によって互いに材料結合式に連結され、周方向に閉じた前記円筒
状磁極管を形成し、前記外周壁縦方向エッジ間の流体封止的な突き合わせエッジ連
15 結が実現され、
前記円筒状磁極管の一方の端面を閉鎖するカバーが設けられている、電動機用磁
極ハウジングを製作するための方法において、
前記カバーが端板として、前記円筒状磁極管の前記一方の端面側の前記管端部に
固定される方法。
20 (相違点)
カバーの管端部への固定について、本願発明は、「前記円筒状磁極管(2)がプ
レス装置(34)に供給され、前記円筒状磁極管(2)の前記一方の端面側の管端
部(12a)の内壁側に、前記カバー(14)を支持するための半径方向の載置面
(36)と軸方向の環状壁区間(38)を有する段付き部(32)が全周にわたっ
25 て形成され、前記カバー(14)が前記載置面に配置され、前記カバー(14)を
越えて突出する軸方向の前記環状壁区間(38)の領域が前記カバー(14)を保
持しつつ全周にわたって前記一方の端面側の管端部(12a)の塑性変形によって
半径方向内側に変形され、それにより」、「前記カバー(14)と前記円筒状磁極
管(2)の間に流体封止的連結を形成するように」、「かみ合い結合式に」固定さ
れるのに対し、引用発明は、圧着により固定されることを選択肢の一つとするもの
5 であるが、圧着の具体的な方法が明確でなく、チューブ末端6aが「半径方向内側
に変形され」、「かみ合い結合式」に固定されているといえるかや、ベアリング保
護板7とポールチューブ1の間に「流体封止的連結」を形成しているといえるかが
明確でなく、そのため、プレス装置に供給され、段付き部が形成されているかも明
確でない点。
10 (3) 相違点についての判断
ア 引用発明は、「前記チューブ・シース2の前記縦方向のエッジ3がレーザー
による溶接の継ぎ目5を用いて接続され、溶接された前記ポールチューブ1を形成
し、液体及びガスを透過させない継ぎ目エッジが保証され」るものであり、甲5に
よると、「流入する液体に対する十分な保護を提供」することを課題とするもので
15 ある。そして、この甲5に記載された課題を解決するためには、引用発明において、
縦方向のエッジ3における溶接箇所だけでなく、「溶接装置17を用いたレーザー
溶接又は圧着によって」固定される、ベアリング保護板7とポールチューブ1のチ
ューブ末端6aとの固定箇所においても、液体及びガスを透過させないように構成
しなければならないことは明らかである。そうすると、甲5の記載から、引用発明
20 のベアリング保護板7とポールチューブ1のチューブ末端6aとの固定箇所におい
ても、液体及びガスを透過させないように、つまり「流体封止的連結」を形成する
ように、レーザー溶接又は圧着を行うことが把握できる。
イ そして、電動機のハウジングに端板としてカバーを取り付ける際、ハウジン
グの内壁に、カバーを支持するための載置面と軸方向に延びる環状薄肉部を全周に
25 わたって形成し、カバーを当該載置面に配置し、当該環状薄肉部をハウジングの全
周にわたって半径方向内側に変形させ、カバーを圧着して固定することは、例えば、
実願平3-103132号(実開平5-50962号)のCD-ROM(甲6)、
実願昭60-47771号(実開昭61-165058号)のマイクロフィルム
(甲7)、実願昭50-163806号(実開昭52-75009号)のマイクロ
フィルム(甲8)等に記載されているように、本件優先日前から周知の事項(以下
5 「周知の事項1」という。)であって、周知の事項1により、環状薄肉部をハウジ
ングの全周にわたって半径方向内側に変形させてカバーを圧着しても、甲6の段落
【0005】に記載されているように「流体封止的連結」を形成することは可能と
いえる。
ウ また、管状部材の管端部に段付き部を形成する際、プレス装置を用いること
10 も、例えば、特開平4-112640号公報(甲9)等に記載されているように、
本件優先日前から周知の事項(以下「周知の事項2」という。)であって、この甲
9の記載を踏まえると、周知の事項2は、電動機のハウジングに端板としてカバー
を取り付けるための段付き部を形成する際にも用いられているといえる。
エ そして、引用発明において、ベアリング保護板7をポールチューブ1のチュ
15 ーブ末端6aに固定する方法として圧着を選択する際、甲5にはその具体的な方法
が明示されていないが、周知の事項1及び2を踏まえると、引用発明における圧着
の具体的な方法として、周知の事項1に基づいて、ポールチューブ1のチューブ末
端6aの内壁側に、ベアリング保護板7を支持するための半径方向の載置面と軸方
向の環状薄肉部を有する段付き部を全周にわたって形成し、ベアリング保護板7を
20 当該載置面に配置し、ベアリング保護板7を越えて突出する当該環状薄肉部の領域
を、ベアリング保護板7を保持しつつ全周にわたってチューブ末端6aの塑性変形
によって半径方向内側に変形させる方法を採用するとともに、周知の事項2に基づ
いて、前記段付き部を、ポールチューブ1をプレス装置に供給することにより形成
することは、当業者が容易に想到し得たものである。
25 オ その場合、この環状薄肉部のベアリング保護板7を越えて突出する領域を全
周にわたって半径方向内側に変形させることによるベアリング保護板7の固定は、
「かみ合い結合式」に固定されているということができる。また、このような固定
の方法を採用しても、前記イに記載したように、「流体封止的連結」を形成するこ
とは可能であり、前記アに記載したように、甲5の記載から、ベアリング保護板7
とポールチューブ1のチューブ末端6aとの固定箇所においても「流体封止的連結」
5 を形成することが把握できることを踏まえると、引用発明における圧着の具体的な
方法として、前記エに記載した固定の方法を採用し、それによりベアリング保護板
7を端板として、ベアリング保護板7とポールチューブ1の間に「流体封止的連結」
を形成するようにポールチューブ1のチューブ末端6aに「かみ合い結合式」に固
定することにも格別の困難性はない。
10 カ そうすると、引用発明並びに周知の事項1及び2に基づいて、本願発明の前
記相違点に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。
(4) 本願発明の作用効果について
本願発明の作用効果は、引用発明並びに周知の事項1及び2から当業者が予測す
ることができる範囲のものである。
15 (5) まとめ
したがって、本願発明は、引用発明並びに周知の事項1及び2に基づいて、当業
者が容易に発明をすることができたものである。
(6) むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を
20 受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は、
拒絶すべきものである。
第3 原告ら主張の審決取消事由(相違点についての判断の誤り)
1 周知の事項1について
25 甲6から8までに記載された電動機用磁極ハウジング(以下、単に「ハウジング」
というときは、電動機用磁極ハウジングを指す。)は、深絞り加工(金属板にプレ
ス加工を施して管状の部材を製作する加工方法)により製作されたものであるから、
甲6から8までに接した当業者は、ハウジングの製作方法として、従来の深絞り加
工を認識するにとどまる(なお、本願発明は、ハウジングの製作における深絞り加
工の課題に着目したものである。)。このように、甲6から8までに記載された周
5 知の事項1は、電動機を製作する工程において採用される技術(既に製品として出
来上がっているハウジングの端面にカバーを取り付ける技術)であるところ、ポー
ルチューブ1のチューブ末端6aにベアリング保護板7を固定するとの引用発明の
工程は、ハウジング自体を製作する工程であって、周知の事項1が採用される電動
機を製作する工程とは関連性を有しないから、周知の事項1を引用発明に適用する
10 動機付けはないというべきである。
2 周知の事項2について
(1) 周知の事項2の認定
本件審決は、引用発明に周知の事項1を適用した結果なお残る相違点に係る本願
発明の構成を埋めるため、甲9に記載された技術的事項を都合良く切り取って周知
15 の事項2を認定したものであるが、このような認定は、後知恵又は事後分析的なも
のであって誤りである。
また、甲9に記載されたプレス加工によって段付き部が形成されるのは、エンド
キャップ2bの全周の一部(相対向する側2か所)に対応する筒状体2aの箇所で
あるにもかかわらず、この点を捨象して一般化した周知の事項2を認定することは
20 できない。
(2) 周知の事項2の引用発明への適用の動機付け
周知の事項2の引用発明への適用は、周知の事項1の引用発明への適用を前提と
するところ、前記1のとおり、引用発明に周知の事項1を適用する動機付けはない
から、引用発明に周知の事項2を適用する動機付けもない。
25 (3) 周知の事項2の引用発明への適用についての阻害要因
甲9に記載された周知の事項2は、エンドキャップ2bの全周ではなくその一部
のみを加締めることを前提とする技術であり、筒状体2aとエンドキャップ2bと
の流体封止的連結を実現することができない技術であるところ、これを引用発明に
適用すると、引用発明が前提とするポールチューブ1とベアリング保護板7との流
体封止的連結を達成することができなくなるから、引用発明に周知の事項2を適用
5 することには阻害要因がある。
3 結論
以上のとおりであるから、本件優先日当時の当業者において、引用発明に周知の
事項1及び2を適用し、相違点に係る本願発明の構成に容易に想到し得たというこ
とはできない。
10 第4 被告の主張
1 周知の事項1について
引用発明は、ハウジング(ポールケーシング)を製作するための方法である。そ
して、そのような引用発明において、ベアリング保護板7をポールチューブ1のチ
ューブ末端6aに圧着して固定する際、そのための具体的な方法として周知の圧着
15 方法の採用を試みることは、当業者が当然行う事柄である。
原告らは、甲6から8までに記載されたハウジングが深絞り加工により形成され、
筒状のハウジングの軸方向両側の端部のうち一方の端部が既にハウジングと一体に
形成されていることを指摘するが、仮に甲6から8までに記載されたハウジングが
深絞り加工により形成されるなどの事情があるとしても、筒状のハウジングの端部
20 に端板を取り付ける方法を検討するに当たり、当該端部の反対側の端部が既に形成
されているかいまだ加工されていないかは、技術的に直接の関係のない事情である
(かえって、引用発明と周知の事項1は、最終製品である電動機における一方の端
部と他方の端部を閉塞する技術であるという点で互いに密接に関連しており、電動
機の製造やハウジングの製作に関わる当業者であれば、これらの技術(引用発明及
25 び周知の事項1)を熟知しているといえる。)。したがって、甲6から8までに接
した当業者は、筒状のハウジングの軸方向の端部に端板を取り付ける技術である周
知の事項1を認識することができる。
以上のとおりであるから、引用発明に周知の事項1を適用する動機付けがあると
いうべきである。なお、筒状のハウジングの反対側の端部が既に形成されていると
の事情は、周知の事項1の引用発明への適用を妨げるものではない。
5 2 周知の事項2について
(1) 周知の事項2の認定
当業者は、甲9の記載により、プレス装置により段付き部を形成するとの技術を
把握することができるところ、当該段付き部の形成方法は、エンドキャップ2bと
筒状体2aとの間に流体封止的連結が形成されるか否かと技術的に直接の関係がな
10 いものであり、当業者は、流体封止的連結を形成しなければならない場合であって
も、当該方法を用いることができると理解する。
なお、周知の事項2は、甲9のほか、実願昭52-56686号(実開昭53-
151511号)のマイクロフィルム(乙1)及び特開昭63-73844号公報
(乙2)によっても認めることができる。
15 以上のとおりであるから、甲9に記載されたエンドキャップ加締め片2a6が全
周にわたってエンドキャップ2bと完全に重なることがなく、流体封止的連結を形
成していないとしても、段付き部を形成する一つの技術としての周知の事項2を認
めることができるというべきであり、当該認定が原告ら主張のような後知恵又は事
後分析的なものであるということはできない。
20 (2) 周知の事項2の引用発明への適用
前記1のとおり、引用発明は、ポールチューブ1のチューブ末端6aにベアリン
グ保護板7を固定する方法として圧着を明示的に挙げるところ、圧着の方法として
周知の事項1を採用する際には、必然的に段付き部を形成することが必要になる。
そして、技術の具体化を図るに当たり、技術水準として知られている種々の周知の
25 事項等を総合的に勘案することは、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎないから、
当該段付き部の形成手段として慣用されている周知の事項2を考慮し、これを具体
化することは、当業者が自ずと思い至る事柄である。
したがって、周知の事項2を引用発明に適用する動機付けがあるというべきとこ
ろ、前記(1)のとおり、周知の事項2は、流体封止的連結を可能にするか否かと切
り離せる技術であるから、周知の事項2を引用発明に適用するに当たり、原告らが
5 主張するような阻害要因はない。
3 結論
以上のとおりであるから、本件優先日当時の当業者は、引用発明に周知の事項1
及び2を適用し、相違点に係る本願発明の構成に容易に想到し得たものである。
第5 当裁判所の判断
10 当裁判所は、本件優先日当時の当業者は引用発明に周知の事項1及び2を適用し
て相違点に係る本願発明の構成に容易に想到し得たものと認められ、したがって、
原告らの請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は、次のとおりであ
る。
1 本願発明の概要
15 (1) 本願明細書(甲1、10、11)の記載
本願明細書には、次の記載がある。
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機用磁極ハウジングを製作するための方法に関する。…
20 【背景技術】
【0002】
電動機、特に小型電動機はしばしば、いわゆる磁極ハウジングを備えている。…
【0003】
磁極ハウジングはしばしば、いわゆる深絞り法で製作される。磁極ハウジングは
25 古典的な管製作法でも製作可能である。この管製作法の場合、管は例えば応力除去
焼鈍と複数回の管絞り引き抜きによって、後の磁極管形状に成形される。その後で、
管は例えば特殊機械で短い長さに切断される。続いて、管の端面が研磨される。最
後に、管は腐食防止のために、ばら物として亜鉛メッキされる。この場合特に、多
数の個々の製作ステップ数、後に行われる亜鉛メッキおよび管の形をしたコストの
かかる半製品が不利である。
5 【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の根底をなす課題は、磁極ハウジングを製作するのに非常に適している方
法を提供することである。この方法は特に、磁極ハウジングを簡単に、短時間でお
10 よび低コストで製作できるようにすべきである。…
【課題を解決するための手段】
【0011】
…上記課題は請求項1の特徴によって解決され…る。…
【0028】
15 上述の方法に従って製作された磁極ハウジングは製作コストが非常に安い。これ
は特に自動車産業における用途に有利に適用される。なぜなら、それによって必要
な多くの個数を簡単かつ低コストで製作することができるからである。この背景か
ら、従来の方法と異なり、予め亜鉛メッキされた金属薄板材料が使用される。この
金属薄板材料は自動打抜き-曲げ装置で加工される。そのために、先ず最初に、管
20 外周面(シートバー)が金属薄板コイルから巻き戻され、打ち抜かれ、そして変形
ステーションで円形断面の管に曲げられる(打ち曲げされる)。管外径と管内径の
矯正に続いて、レーザー溶接によって、外周壁縦方向エッジの液体封止的な固定連
結が行われる。その後で、端板としてのカバーが段付き部のかしめまたは圧着によ
ってかみ合い結合式にまたは摩擦結合式に磁極管に流体封止的に固定される。この
25 ような磁極ハウジングの場合、実質的に後加工は不要であるか少なくとも後加工工
程の数が大幅に低減される。
(2) 本願発明の概要
前記第2の2の本件出願に係る特許請求の範囲の記載及び前記(1)の本願明細書
の記載によると、本願発明の概要は、次のとおりであると認められる。すなわち、
本願発明は、ハウジングを製作するための方法に関するものである。従来、ハウジ
5 ングの製作方法としては、古典的な管製作法等が用いられていたが、例えば、管製
作法においては、後加工のための工程を含めた多数の工程を要し、コストが掛かる
などの問題を有していた。本願発明は、ハウジングを簡単に、短時間で、かつ、低
コストで製作することができるようにし、ハウジングを製作するのに非常に適した
方法を提供することを課題とするものであり、これらの課題を解決するため、前記
10 第2の2のとおりの構成を採用することとしたものである。これにより、本願発明
は、ハウジングを簡単に、かつ、低コストで製作することができるなどの効果を奏
する。
2 周知の事項1の引用発明への適用について
(1) 甲5の記載
15 甲5には、別紙(甲5図1・図4)のほか、次の記載がある(なお、甲5は、外
国語で作成された文書であるため、その記載の認定に当たっては、原告らが提出し
た訳文によることとするが、表記、明らかな誤記等を改めた部分があるほか、各部
材の名称等について、誤解を避けるため、本件審決が用いた用語に書き換えた部分
がある。引用した行数は、訳文の右欄中の一番上から数えた行数をいい、罫線が引
20 かれた行、「日本語訳文」と記載された行及び空白行を含まないものである。)。
ア 「本発明は、電動機用磁極ハウジングを製作するための方法に関する。」
(1葉2~3行目)
イ 「電動機、特に小型電動機は、しばしば、いわゆる磁極ハウジングを備えて
いる。」(1葉4~5行目)
25 ウ 「このような機械的な接合連結は、一般的に、方法に起因する幾何学的で構
造的な凹凸を生じる。変形又は縁曲げの際、互いに係合する要素は、塑性変形によ
って互いに連結されるので、まくれが生じる。このまくれは、付加的な後加工を必
要とする。このような連結は、一般的に、液体の浸入を十分に防ぐことができな
い。」(2葉5~11行目)
エ 「本発明の根底をなす課題は、磁極ハウジングを製作するのに非常に適して
5 いる方法を提供することである。この方法は、特に、磁極ハウジングを簡単に、短
時間で、及び低コストで製作できるようにすべきである。」(2葉12~16行目)
オ 「次の方法ステップにおいて、チューブ・シースの外周壁縦方向のエッジが
周方向で閉じたポールチューブを形成するために互いに連結される。そのために、
回転対称に(例えば入口斜面付き又は入口斜面なしの円筒形に)曲げられたチュー
10 ブ・シースが溶接装置に適切に供給される。この溶接装置は、亜鉛メッキされたチ
ューブ・シースの外周壁縦方向のエッジをレーザー溶接の継ぎ目によって材料結合
式に互いに連結する。レーザー溶接の継ぎ目によるこのような連結は、経験に従っ
て、確実で特に流体封止的な突き合わせエッジ連結を保証する。それによって、外
周壁縦方向のエッジのオーバーラップが回避されることに基づいて、材料が節約さ
15 れるので有利である。」(3葉5~17行目)
カ 「連結は、圧着の場合のように点ではなく、ポールチューブの外周壁縦方向
のエッジに沿ってむらなく行われる。したがって、レーザー溶接の継ぎ目によって、
幾何学的及び構造的な凹凸が回避され、極めて液体及び気体封止的なポールチュー
ブの製作が保証される。」(4葉3~7行目)
20 キ 「好ましくは、更なる工程で、リッドがチューブの端面、すなわち、反対側
のチューブ末端の固定接合板に取り付けられ、溶接による接合が好都合である。電
動機用の磁極ハウジングのベアリング保護板として機能するリッドは、好ましくは、
完成品として提供される。これにより、多種多様なベアリングリッドを提供するこ
とが可能となるが、深絞り加工の磁極ハウジングでは、このような柔軟性は得られ
25 ない。」(4葉14~21行目)
ク 「管外径と管内径の矯正に続いて、レーザー溶接によって、外周壁縦方向の
エッジの液体封止的な固定連結が行われる。」(5葉18~20行目)
ケ 「軸方向に延在するレーザー溶接の継ぎ目5によって、チューブのスリット
4、ひいては互いに向き合った外周壁縦方向のエッジ3が、材料結合式に、並びに
液体封止式に及び/又は気体封止式に互いに連結される。」(6葉17~21行目)
5 コ 図3
サ 図5
(2) 甲6の記載
甲6には、次の記載がある。
【0001】
【産業上の利用分野】
15 本考案は、湿気が多い箇所で使用するのに好適な電動機に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
湿気の多い箇所で使用される電動機では、電動機本体が収容される円筒状のモー
タカバーの軸線方向の両端にそれぞれ窓部を有しない円板状のエンドカバーが配置
5 されて、モータカバー及び両エンドカバーにより電動機本体が密閉または密閉に近
い状態にされているものが多い。この種の電動機において、軸線方向の前軸側に配
置されるエンドカバーは多くの場合モータカバーと一体に形成されているが、軸線
方向の後軸側に配置されるエンドカバーは、モータカバーと別体に形成される。こ
のエンドカバーはモータカバーの端部に嵌合配置されて、該モータカバーの端部が
10 エンドカバーの外周側にかしめられるか、またはシーミング加工されて、エンドカ
バーがモータカバーに固定される。
【0005】
【考案が解決しようとする課題】
上記従来の電動機の内、モータカバーの端部をエンドカバーの外周部の複数箇所
15 でかしめて該エンドカバーをモータカバーに固定するようにしたものでは、かしめ
られていない他の大部分の箇所でエンドカバーとモータカバーとの嵌合部の僅かな
隙間を通して水分などが電動機の内部に浸入することがあった。また、エンドカバ
ーの外周部の全周にわたってモータカバーの端部をシーミング加工して該エンドカ
バーをモータカバーに固定するようにしたものでは、電動機本体はモータカバーと
20 エンドカバーとにより完全に密閉されるので、外部から水分などが電動機の内部に
浸入する恐れはない…。
(3) 甲7の記載
甲7には、次の記載がある。
ア 「〔産業上の利用分野〕
本考案は、直流機等におけるブラシ保持装置に関し、特に、そのブラシホルダス
10 テーの支持構造の改良に係り、例えば、直流モータに利用して有効なものに関す
る。」(1頁20行目~2頁4行目)
イ 「ヨーク5はプレス加工により略円筒形状(一部のみが図示されている。)
に形成されている。ヨーク5にはその一端開口に巻かしめ部6が内径が若干大きく
なるように環帯状に切設されており、これにより、段付部7が形成されている。…
15 ブラケット9は薄鉄板等を用いてプレス加工により略円形の皿形状に形成されて
おり、ヨーク5にその開口端面を閉塞するように組み付けられる。ブラケット9の
外周辺部には被挟持代部10が環状に形成されて…いる。(4頁11行目~5頁5
行目)
ウ 「ブラケット9が嵌入された巻かしめ部6は適当な手段により内側に巻かし
められ、これにより、ブラケット9およびベース46の被挟持代部10、47は巻
かしめ部6と段付部7との間で共締めされて強力に挟持固定される。」(14頁5
~9行目)
(4) 甲8の記載
甲8には、次の記載がある。
ア 「2 実用新案登録請求の範囲
10 断面U字状の金属製モータケース1の開口端1aに段部1bを設け、この段部1
bに金属製エンドブラケットをはめこみ、前記開口端1aの全周を内方にかしめて
なるLWノイズを遮蔽するマイクロモータ。」(1頁4~9行目)
イ 「3 考案の詳細な説明
この考案は、テープレコーダなどの音響機器に使用されるマイクロモータ、特に
15 LWノイズを遮蔽するマイクロモータに関する。」(1頁10~13行目)
(5) 引用発明の内容
甲5に本件審決が認定した引用発明(前記第2の3(1))が記載されていること
5 は、当事者間に争いがない。
(6) 周知の事項1の内容
甲6から8までに本件審決が認定した周知の事項1が記載されていること自体は、
原告らもこれを積極的に争うものではなく、前記(2)から(4)までの甲6から8まで
の記載及び弁論の全趣旨により、十分認めることができる。
10 (7) 周知の事項1の引用発明への適用
ア 技術分野
引用発明の内容(前記第2の3(1))及び甲5の記載内容(前記(1))によると、
引用発明は、電動機用の磁極ハウジングの技術分野に属する発明である。他方、甲
6から8までの記載内容(前記(2)から(4)まで)によると、周知の事項1も、電動
機に用いられる円筒状のカバー等又は円筒状のカバー等を用いた電動機の技術分野
に属する技術であると認められる。したがって、引用発明と周知の事項1とは、そ
の属する技術分野を共通にするということができる。
イ 引用発明の課題
5 前記第2の3(1)のとおり、引用発明は、「前記チューブ・シース2の前記縦方
向のエッジ3がレーザーによる溶接の継ぎ目5を用いて接続され、溶接された前記
ポールチューブ1を形成し、液体及びガスを透過させない継ぎ目エッジが保証さ
れ、」との構成を有し、また、前記(1)及び別紙(甲5図1・図4)のとおり、甲
5には、引用発明のチューブ・シース2の縦方向の2つのエッジ3が溶接により流
10 体封止的に連結される旨の記載がある。このように、引用発明は、シリンダー状の
ポールチューブ1を形成するに当たり、チューブ・シース2の両端(縦方向)であ
る2つのエッジ3を流体封止的に固定することを前提とするものであるが、2つの
エッジ3の流体封止的な固定が実現されても、ポールチューブ1のチューブ末端6
aとベアリング保護板7とが流体封止的に固定されなければ、電気モーターのため
15 のポールケーシングの全体としては流体封止的な密閉が実現されないことになり、
2つのエッジ3の流体封止的な固定の趣旨が没却されることになる。以上によると、
引用発明には、ポールチューブ1のチューブ末端6aとベアリング保護板7とを流
体封止的に固定するとの課題が内在しているものと認めるのが相当である。
ウ 引用発明の課題の解決手段
20 前記(6)のとおり、周知の事項1は、甲6から8までに記載されている技術であ
るところ、前記(2)のとおりの甲6の記載及び弁論の全趣旨によると、周知の事項
1(要するに、ハウジングの全周にわたってハウジングの端部に段付き部を形成し、
ハウジングのカバーを当該段付き部に配置し、ハウジングの全周にわたって当該端
部の環状薄肉部を変形させて加締め加工を施す旨の技術)を用いてハウジングのカ
25 バーを当該ハウジングに取り付けた場合、ハウジングの内部に外部から水分等が浸
入しないようにすること、すなわち、ハウジングとカバーとの流体封止的な固定を
実現することができるものと認められる(なお、流体封止的な固定までがされてい
るかは不明であるものの、甲7にも、ブラケット9の被挟持代部10及びベース4
6の被挟持代部47が巻かしめ部6と段付部7との間で共締めされて強力に挟持固
定される旨の記載(前記(3)ウ)がある。)。
5 そうすると、周知の事項1は、引用発明に内在する前記イの課題を解決すること
ができる手段(技術)であるといえる。
エ 周知の事項1を引用発明に適用する動機付け等
以上によると、引用発明に周知の事項1を適用する動機付けがあったものと認め
るのが相当である。なお、甲5から8までの記載によっても、当該適用に阻害要因
10 があるものと認めることはできず、その他、当該適用に阻害要因があるものと認め
るに足りる証拠はない。
オ 原告らの主張について
原告らは、甲6から8までに記載された技術は深絞り加工により製作されたハウ
ジングに関するものであり、既にハウジングの一方の端部がハウジングと一体に形
15 成されている場合の他方の端部にカバーを取り付ける際に用いられる技術(電動機
を製作する工程において採用される技術)であって、引用発明のポールチューブ1
(薄鋼板を丸めて形成されるもの)のチューブ末端6aにベアリング保護板7を取
り付ける際に用いられる技術(ハウジングの製作において採用される技術)との関
連性はないから、周知の事項1を引用発明に適用する動機付けはないと主張する。
20 しかしながら、円筒状のハウジングの端部にカバーを取り付けようとする際、当
該ハウジング自体がどのような方法で形成されたのか(深絞り加工により金属板を
押し抜く方法により形成されたのか、又は引用発明のように金属板を丸める方法に
より形成されたのか)、ハウジングを備える電動機の製造においてどのような段階
でカバーの取付けが行われるのか(ハウジング自体の製造の段階か、最終的な電動
25 機の製造の段階か)、カバーを固定しようとする端部の反対側にある端部に既にカ
バーに相当する部分が形成されているか否か(深絞り加工により当該反対側にある
端部が既にハウジングと一体に形成されているのか、又は引用発明のように当該反
対側にある端部にカバーに相当する部分が形成されているか否かが不明であるのか)
などの事情(相違)は、当該カバーの取付けのためにどのような技術を採用するか
の考慮において、技術的に意味のある事情(相違)ではなく、周知の事項1の内容
5 をみても、これが引用発明のような金属板を丸めて形成したハウジングの端部にカ
バーを取り付ける場合には適用することができないとの技術的な制約を有している
とみるべき事情は全くうかがわれない。なお、甲5に「これにより、多種多様なベ
アリングリッドを提供することが可能となるが、深絞り加工の磁極ハウジングでは、
このような柔軟性は得られない。」との記載(前記(1)キ)があることは、原告ら
10 の主張の根拠となるものではない。
以上に加え、前記ウにおいて説示したところなどを併せ考慮すると、仮に、甲6
から8までの全部又は一部が深絞り加工により形成されるハウジングの端部にカバ
ーを取り付ける場合の技術を開示するものであったとしても、これらの技術は、ハ
ウジングとカバーとの流体封止的な固定を実現するという引用発明の課題を解決す
15 るための手段であることに変わりはないから、原告らの主張を採用することはでき
ないというべきである。
3 周知の事項2の引用発明への適用について
(1) 甲9の記載
甲9には、次の記載がある(なお、明らかな誤記を修正した部分がある。)。
20 ア 「(産業上の利用分野)
この発明は、例えば電動式シート装置においてシートを自動的に作動させるのに
利用される小型モータに関する。」(1頁右欄8~11行目)
イ 「…第6図、第8図(b)に示すように、成形体21の図中の左方側である
開口端部21a側から、この成形体21の前記開口端部21aの開口断面積よりも
25 わずかに大きい断面積を有し且つ近似形状をなす形押し用治具30を成形体21の
長さ方向に沿ってバーリング加工をする。
治具30によりバーリング加工をすることによって、成形体21が長さ方向と同
方向に押圧されるので、…成形体21の開口端部21aの相対向位置で前記凸部2
0aが薄肉状となって第8図(b)中において左方側に突出するエンドキャップ加
締め片2a6と、このエンドキャップ加締め片2a6の第8図(b)中において右
5 側に薄肉状をなす壁部2a4を有するエンドキャップ支持面2a5と、開口端部2
1aの内周側に向って環状形をなして突出していて筒状体側平坦面2a2を有する
エンドキャップ当接突起2a3を設けて筒状体2aとする。
そして、第7図、第8図(c)、第9図に示すように、前記開口端部21aに対
してエンドキャップ2bを挿入して、エンドキャップ2bの取付部2b2に設けた
10 エンドキャップ側平坦面2b1をエンドキャップ当接突起2a3に有する筒状体側
平坦面2a2に当接させる。
このとき、エンドキャップ2bの前記取付部2b2がエンドキャップ支持面2a
5により支持されており、この状態で、エンドキャップ2bに取付けた軸受4の芯
出しを所定の位置に調整するようになっている。
15 前記軸受4の芯出しを調整したところで、エンドキャップ2bの前記取付部2b
2の相対向する側に対してエンドキャップ加締め片2a6を加締めることによって
エンドキャップ2bを筒状体2aに組み付けてヨーク2を得るようになっている。
ここで、エンドキャップ2bが前記エンドキャップ当接突起2a3の環状形をな
す筒状体側平坦面2a2に当接しているので、エンドキャップ加締め片2a6によ
20 り相対向する側からの加締めによってエンドキャップ2bが筒状体2aに対して容
易に且つ確実に組み付けられるようになっている。」(4頁左下欄12行目~5頁
左上欄15行目)
5 (2) 乙1の記載
乙1には、次の記載がある。
ア 「この考案は、ステータケース内に磁石とブラシホルダーケースを位置決め
固定させた小型モータのステータに関する。」(1頁14~16行目)
イ 「…ブラシホルダーケース2はステータケース1に設けた係合段部12上に
10 係合させてネジ止め固定されて…いる。…ステータケースに係合段部を設けること
は、プレス加工…が必要で…ある。」(2頁7~16行目)
(3) 乙2の記載
乙2には、次の記載がある。
10 ア 「産業上の利用分野
本発明はモータの構成部品として用いられるハウジングに関するものである。」
(1頁左欄12~14行目)
イ 「第4図は従来のモータハウジングの入口部分を示すものである。第4図に
おいて18は平坦部と曲面部をもったモータハウジングである。19は曲面部、平
15 坦部の内側全周にわたりフタ(図示せず)を保持する為に設けられた成形段差であ
る。20は全周にわたり段差を形成したことによる板厚の減少部位を示している。
21は減少した板厚をもった端面を示す。
第5図は従来製品のモータハウジングをプレス加工にて形成する際の入口段差を
成形する工程におけるポンチと製品の断面を示している。第5図において23は成
20 形用ポンチを、24は段差をハウジング製品に形成する為のポンチ部段差を示す。
第6図はこのプレス工程においてしごきダイ25が下死点まで下がり段差部側面2
6の板厚はしごかれて所定の寸法まで減少している。」(1頁右欄2~17行目)
(4) 周知の事項2の認定
ア 甲9、乙1及び乙2の記載並びに弁論の全趣旨によると、本件審決が認定し
た「管状部材の管端部に段付き部を形成する際、プレス装置を用いること」(周知
5 の事項2)は、本件優先日当時の周知技術であったものと認めるのが相当である。
イ 原告らは、甲9に記載されたプレス加工によって段付き部が形成されるのが
管状部材の管端部の全周の一部であるにもかかわらず、この点を捨象して一般化し
た周知の事項2を認定することはできないと主張する。
しかしながら、管状部材であるハウジングの端部に段付き部を形成する方法に係
10 る技術の認定に当たり、当該技術を開示する刊行物に記載された当該技術の適用の
具体的な結果における僅かな相違(段付き部が管状部材であるハウジングの全周に
わたって形成されるのか、又はその一部に形成されるにとどまるのか)は、技術的
に意味のある事情ではなく、周知の事項2の内容をみても、これが引用発明に周知
の事項1を適用した場合(管状部材であるハウジングの全周にわたって段付き部を
15 形成する場合)には適用することができないとの技術的な制約を有しているとみる
べき事情は全くうかがわれないから、仮に、甲9に記載されたプレス加工がハウジ
ングの全周にわたって段付き部を形成していないとしても、そのことは、周知技術
として周知の事項2を認定することができるとの前記アの判断を左右するものでは
ない(なお、少なくとも乙2には、周知の事項2を適用した結果、管状部材である
ハウジングの全周にわたって段付き部が形成されることが開示されている。また、
「環状形をなして突出してい…るエンドキャップ当接突起2a3」、「環状形をな
す筒状体側平坦面2a2」などの甲9の記載及び第6図から第9図までにおける図
示の内容に照らすと、甲9においては、成形体21の開口端部21aにプレス加工
5 (バーリング加工)を施した結果、開口端部21aの全周にわたって段付き部が形
成されることがうかがわれる。)。
さらに、原告らは、本件審決は引用発明に周知の事項1を適用した結果なお残る
相違点に係る本願発明の構成を埋めるため、甲9に記載された技術的事項を都合良
く切り取って周知の事項2を認定したが、このような認定は後知恵又は事後分析的
10 なものであると主張する。
しかしながら、進歩性の判断の対象となる発明と主引用発明との相違点に係る当
該対象発明の構成の容易想到性の判断に当たり、当該相違点に係る当該対象発明の
構成を念頭に置きながら、同様の構成を有する副引用発明、周知技術等の存否につ
いて検討することは、発明の進歩性の判断において通常採用されている手法であり、
15 これが後知恵又は事後分析的な判断として排除されるべきであるということはでき
ない。
以上のとおりであるから、原告らの各主張を採用することはできない。
(5) 周知の事項2の引用発明への適用
ア 動機付けの有無
20 (ア) 技術分野
前記2(7)アのとおり、引用発明は、電動機用の磁極ハウジングの技術分野に属
する発明であり、周知の事項1は、電動機に用いられる円筒状のカバー等又は円筒
状のカバー等を用いた電動機の技術分野に属する技術である。他方、甲9並びに乙
1及び2の記載内容(前記(1)から(3)まで)によると、周知の事項2も、電動機に
25 用いられる管状のハウジング等又は管状のハウジング等を用いた電動機の技術分野
に属する技術であると認められる。したがって、周知の事項1を適用した引用発明
と周知の事項2とは、その属する技術分野を共通にするものといえる。
(イ) 周知の事項1を適用した引用発明の課題
周知の事項1は、電動機のハウジングの端部に段付き部を形成することを前提と
する技術であるから、周知の事項1を適用した引用発明においては、当然のことな
5 がら、当該段付き部の形成をどのような方法により行うかについて検討する必要が
生じるところ、これは、周知の事項1を適用した引用発明が有する課題であるとい
える。
(ウ) 周知の事項1を適用した引用発明の課題の解決手段
周知の事項2は、管状部材の管端部に段付き部を形成するための具体的な方法
10 (プレス装置の使用)を示す技術であるから、周知の事項2は、周知の事項1を適
用した引用発明が当然に有する前記(イ)の課題を解決することのできる手段(技術)
であるといえる。
(エ) 小括
以上によると、周知の事項1を適用した引用発明に周知の事項2を適用する動機
15 付けがあったものと認めるのが相当である。
原告らは、周知の事項1を引用発明に適用する動機付けがない以上、周知の事項
2を引用発明に適用する動機付けもないと主張するが、周知の事項1を引用発明に
適用する動機付けがあったことは、前記2(7)において説示したとおりであるから、
原告らの主張は、前提を欠くものとして採用することができない。
20 イ 阻害要因の有無
(ア) 甲5から9まで並びに乙1及び2の記載によっても、周知の事項1を適用
した引用発明に周知の事項2を適用することについて阻害要因があるものと認める
ことはできず、その他、当該阻害要因があるものと認めるに足りる証拠はない。
(イ) 原告らは、周知の事項2はハウジングとカバーとの流体封止的連結を実現
25 することができない技術であり、これを引用発明に適用すると、引用発明が前提と
するポールチューブ1とベアリング保護板7との流体封止的連結を達成することが
できなくなるとして、引用発明に周知の事項2を適用することには阻害要因がある
と主張する。
しかしながら、前記2(7)ウにおいて説示したとおり、周知の事項1は、ハウジ
ングとカバーとの流体封止的な固定を実現することができる技術であるから、引用
5 発明に周知の事項1を適用し、引用発明のハウジングの端部(ポールチューブ1の
チューブ末端6a)に段付き部を形成する際に、当該段付き部の形成のための具体
的な手段として周知の事項2を適用しても、周知の事項1を適用した引用発明のハ
ウジング(ポールチューブ1)とカバー(ベアリング保護板7)との固定が流体封
止的なものとなることに変わりはないと認められる。したがって、周知の事項1を
10 適用した引用発明に周知の事項2を適用するとハウジングとカバーとの流体封止的
な固定が実現されなくなるということはできないから、周知の事項1を適用した引
用発明に周知の事項2を適用することにつき阻害要因があるということはできない
(なお、前記(4)イにおいて説示したところに照らすと、周知の事項2につき、こ
れがハウジングとカバーとの流体封止的な固定の実現を妨げる技術であると認める
15 のは相当でない。)。
4 取消事由についての結論
前記2及び3において説示したところによると、本件優先日当時の当業者は、引
用発明に周知の事項1及び2を適用し、相違点に係る本願発明の構成に容易に想到
し得たものと認めるのが相当である。したがって、相違点についての本件審決の判
20 断の誤りをいう原告ら主張の取消事由は理由がない。
5 結論
以上の次第であるから、原告らの請求はいずれも理由がない。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
5 清 水 響
裁判官
10 浅 井 憲
裁判官
15 勝 又 来 未 子
(別紙)
当 事 者 目 録
原 告 ブローゼ ファールツォイク
タイレ エスエー ウント
コンパニ コマンディートゲ
ゼルシャフト バンベルク
原 告 シュルホルツ ゲーエムベー
ハー ウント コー カーゲ
ー スタンツテヒニク
20 上記両名訴訟代理人弁理士 横 田 修 孝
土 井 健 二
松 枝 浩 一 郎
榎 保 孝
25 被 告 特 許 庁 長 官
同 指 定 代 理 人 伊 藤 秀 行
西 秀 隆
柿 崎 拓
窪 田 治 彦
小 島 寬 史
5 綾 郁 奈 子
以 上
別紙(本願図 1・図2)
【図1】
【図2】
別紙(甲5図1・図4)
【図1】
【図4】

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