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令和5(行ケ)10039審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和6年2月14日
事件種別 民事
当事者 原告株式会社東京精密
被告浜松ホトニクス株式会社
対象物 レーザ加工装置
法令 特許権
特許法44条1項1回
キーワード 審決42回
実施13回
進歩性13回
優先権8回
無効7回
特許権4回
無効審判2回
新規性2回
侵害2回
訂正審判1回
刊行物1回
分割1回
主文 1 原告の請求を棄却する。25
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがない。) (1) 被告は、平成14年3月12日に出願された特願2002-67348号10 に基づく優先権を主張して(この優先権の主張の効力が及ぶ範囲については 争いがある。)、平成15年3月11日に国際出願された原出願(特願20 03-574373号)の一部を、特許法44条1項の規定により、平成1 8年3月14日に発明の名称を「レーザ加工装置」とする新たな特許出願と し、平成19年7月27日に特許第3990711号(本件特許)の設定登15 録を受けた(請求項の数2)。 (2) 被告は、平成30年4月24日、本件特許について訂正審判請求をし(訂 正2018-390075号)、同年7月3日に訂正を認める審決がなされ、 同審決は確定した。

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判決文

令和6年2月14日判決言渡
令和5年(行ケ)第10039号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和5年12月21日
判 決
原 告 株 式 会 社 東 京 精 密
同訴訟代理人弁護士 服 部 誠
同 中 村 閑
10 同 柿 本 祐 依
同訴訟代理人弁理士 相 田 義 明
同 山 下 崇
被 告 浜松ホトニクス株式会社
同訴訟代理人弁護士 設 樂 隆 一
同 尾 関 孝 彰
同 河 合 哲 志
同 松 本 直 樹
20 同 大 澤 恒 夫
同訴訟代理人弁理士 長 谷 川 芳 樹
同 柴 田 昌 聰
同 小 曳 満 昭
主 文
25 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
【略語】
本判決で用いる略語は、別紙1「略語一覧」のとおりである。なお、本件審決中で
使用されている略語は、本判決でもそのまま踏襲している。
5 第1 請求
特許庁が無効2021-800045号事件について令和5年3月10日に
した審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがない。)
10 (1) 被告は、平成14年3月12日に出願された特願2002-67348号
に基づく優先権を主張して(この優先権の主張の効力が及ぶ範囲については
争いがある。)、平成15年3月11日に国際出願された原出願(特願20
03-574373号)の一部を、特許法44条1項の規定により、平成1
8年3月14日に発明の名称を「レーザ加工装置」とする新たな特許出願と
15 し、平成19年7月27日に特許第3990711号(本件特許)の設定登
録を受けた(請求項の数2)。
(2) 被告は、平成30年4月24日、本件特許について訂正審判請求をし(訂
正2018-390075号) 同年7月3日に訂正を認める審決がなされ、

同審決は確定した。
20 (3) 原告は、令和3年5月25日、本件特許(請求項1、2に係るもの)につ
いて特許無効審判を請求し、特許庁は、同請求を無効2021-80004
5号事件として審理を行った。
特許庁は、令和5年3月10日、「本件審判の請求は、成り立たない。」
との本件審決をし、その謄本は同月22日原告に送達された。
25 なお、本件特許権は、同月11日、存続期間満了により消滅している。
(4) 原告は、令和5年4月20日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起
した。
2 本件発明の内容
(1) 本件特許の特許請求の範囲の請求項1、2を分説すると、以下のとおりで
ある。
5 【請求項1】(本件発明1)
A:半導体基板の内部に、切断の起点となる改質領域を形成するレーザ加工
装置であって、
B:前記半導体基板が載置される載置台と、
C:レーザ光を出射するレーザ光源と、
10 D:前記載置台に載置された前記半導体基板の内部に、前記レーザ光源から
出射されたレーザ光を集光し、そのレーザ光の集光点の位置で前記改質領域
を形成させる集光用レンズと、
E:前記改質領域を前記半導体基板の内部に形成するために、レーザ光の集
光点を前記半導体基板の内部に位置させた状態で、前記半導体基板の切断予
15 定ラインに沿ってレーザ光の集光点を移動させる制御部と、
F:前記載置台に載置された前記半導体基板を赤外線で照明する赤外透過照
明と、
G:前記赤外透過照明により赤外線で照明された前記半導体基板における前
記改質領域を撮像可能な撮像素子と、
20 を備え、
H:前記切断予定ラインは、前記半導体基板の内側部分と外縁部との境界付
近に始点及び終点が位置する、
I:ことを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項2】(本件発明2)
25 J:半導体基板の内部に、切断の起点となる改質領域を形成するレーザ加工
装置であって、
K:前記半導体基板が載置される載置台と、
L:レーザ光を出射するレーザ光源と、
M:前記載置台に載置された前記半導体基板の内部に、前記レーザ光源から
出射されたレーザ光を集光し、そのレーザ光の集光点の位置で前記改質領域
5 を形成させる集光用レンズと、
N:前記改質領域を前記半導体基板の内部に形成するために、レーザ光の集
光点を前記半導体基板の内部に位置させた状態で、前記半導体基板の切断予
定ラインに沿ってレーザ光の集光点を移動させる制御部と、
O:前記載置台に載置された前記半導体基板を赤外線で照明する赤外透過照
10 明と、
P:前記赤外透過照明により赤外線で照明された前記半導体基板における前
記改質領域を撮像可能な撮像素子と、
を備え、
Q:前記半導体基板はシリコン基板であり、
15 R:前記制御部は、前記載置台及び前記集光用レンズの少なくとも1つの移
動を制御する
S:ことを特徴とするレーザ加工装置。
(2) 本件明細書の記載事項及び願書添付図面の抜粋を別紙2に掲げる(なお、
図9は、便宜上90度回転させたものである。)。
20 これによれば、本件明細書には、本件発明について次のような開示がある
ことが認められる。
ア 本件発明は、半導体基板を切断予定ラインに沿って切断するためのレー
ザ加工装置及びレーザ加工方法に関する(【0001】)。
イ 従来半導体基板を切断するのに用いられた切削加工や加熱溶融加工は、
25 半導体基板上に機能素子を形成した後に行われるため、切断時に発生する
熱を原因として機能素子が破壊される等のおそれがあった(【0002】
~【0004】)。
ウ 本件発明は、半導体基板上に複数の機能素子が形成されていても、機能
素子が破壊されることなく半導体基板を切断予定ラインに沿って精度良
く切断するレーザ加工装置を提供することを目的とし、上記(1)の構成を
5 採用した。本件発明では、レーザ光の照射により改質領域が半導体基板の
内部に形成され、半導体基板の表面ではレーザ光がほとんど吸収されない
ため、半導体基板の表面が溶融することはないし、改質領域を起点として
比較的小さな力で半導体基板に割れが発生するため、切断予定ラインに沿
って高い精度で半導体基板を割って切断することができる(【0005】
10 ~【0007】)。
エ 本件発明に係るレーザ加工装置は、半導体基板上に複数の機能素子が形
成されていても、機能素子が破壊されるのを防止して、半導体基板を切断
予定ラインに沿って精度良く切断することを可能にする 【0008】 。
( )
オ 半導体基板を赤外透過照明による赤外線で照明すると共に、撮像データ
15 処理部により結像レンズ及び撮像素子の観察面を半導体基板の内部に合
わせれば、半導体基板の内部を撮像して半導体基板の内部の撮像データを
取得することもでき(【0033】)、半導体基板の内部に形成された切
断起点領域を撮像して撮像データを取得し、モニタに表示させることもで
きる(【0048】)。
20 3 甲1発明について
(1) 本件無効審判において、請求人である原告は、無効理由として本件発明の
進歩性の欠如を主張し、原出願について優先権の効果が及ばず、新規性・進
歩性は原出願日を基準に判断されるべきであることを前提に、原出願日前に
頒布された刊行物である甲1(特開2002-192370号公報)を主引
25 用文献として提出した。
(2) 甲1には、別紙3「甲1の記載事項(抜粋)」のとおりの記載があり、本
件審決は、そこには、下記の甲1発明が記載されていると認定した。
【甲1発明】
1a: 加工対象物1の内部に、切断の起点となる改質領域を形成する
レーザ加工装置であって、
5 1b: 前記加工対象物1が載置される載置台107と、
1c: レーザ光Lを出射するレーザ光源101と、
1d: 前記載置台107に載置された前記加工対象物1の内部に、前
記レーザ光源101から出射されたレーザ光Lを集光し、そのレーザ光L
の集光点の位置で前記改質領域を形成させる集光用レンズ105と、
10 1e: 前記改質領域を前記加工対象物1の内部に形成するために、レ
ーザ光Lの集光点を前記加工対象物1の内部に位置させた状態で、前記加
工対象物1の切断予定ライン5に沿ってレーザ光Lの集光点を移動させ
るステージ制御部115と、
1g: 前記加工対象物1の表面を撮像する赤外線用の撮像素子121
15 と、を備える、
1i: レーザ加工装置100。
4 本件審決の理由の要旨
(1) 無効理由1(甲1に基づく本件発明1の進歩性の欠如)について
本件発明1は、本件特許の原出願日前(なお、本件発明1について、国内
20 優先権の主張の効果が及ばず、新規性・進歩性の判断基準日が原出願日とな
ることは争いがない。)に頒布された甲1に記載された甲1発明及び周知・
公知技術(甲4~10、甲21、22等)に基づいて当業者が容易に発明を
することができたものではない(詳細は別紙4「本件審決の理由①」を参照。 。

(2) 無効理由2(甲1に基づく本件発明2の進歩性の欠如)について
25 本件発明2は、甲1発明及び周知・公知技術(甲4~10、甲21、22)
に基づいて(なお、原告は、本件発明2について国内優先権の主張の効果が
及ばない旨主張するのに対し、被告は、少なくとも本件発明2の一部に部分
優先の効果が認められる旨主張している。)当業者が容易に発明をすること
ができたものではない(詳細は別紙5「本件審決の理由②」を参照)。
5 取消事由
5 (1) 甲1発明に基づく本件発明1の進歩性の判断の誤り(取消事由1)
(2) 甲1発明に基づく本件発明2の進歩性の判断の誤り(取消事由2)
第3 当事者の主張
1 取消事由1(甲1発明に基づく本件発明1の進歩性の判断の誤り)
(1) 原告の主張
10 ア 甲1発明及び相違点1の認定の誤り
(ア) 本件審決は、甲1発明は赤外線と撮像素子による改質領域を撮像する
構成F、Gを備えていない(本件発明との相違点1)と認定したが、以
下のとおり誤りである。
(イ) 甲1発明は、「加工対象物の表面に不必要な割れを発生させることな
15 くかつその表面が溶融しないレーザ加工方法を提供すること」を課題と
し(【0006】)、かかる課題を、加工対象物の内部に改質領域を形
成することにより解決する発明である(請求項1、【0008】)。
原出願日において、加工対象物の内部に改質領域を形成して加工対象
物を割断する技術で、改質領域の形状や位置を確認することは、当業者
20 の技術常識であった(甲21、22、47等)。
また、加工対象物がシリコンウェハである場合、可視光では内部の状
態を視認できないが、赤外線であれば内部の状態を視認することが可能
であることも、原出願日における技術常識であり(甲4~6等) 特に、

甲4、5には、赤外線用の撮像素子が、シリコンウェハの内部に形成さ
25 れたクラック(改質領域)を撮像可能であることも記載されている。
そして、甲1には、赤外光の波長を調整することで、赤外光の内部透
過率が上昇すること(図13)、赤外線用の撮像素子(【0091】)
が記載されているから、上記周知技術ないし公知技術を知る当業者は、
甲1発明に接したとき、赤外線と撮像素子を用いて、加工対象物である
シリコン基板内部に形成される改質領域の形成状況を観察することに
5 想到するということができ、「赤外線と撮像素子により改質領域を撮像
する」構成である構成F及びGは、甲1に実質的に開示されている。
そうすると、本件審決認定の相違点1は存在しないことになる。
(ウ) なお、相違点2は存在しないか、仮に存在したとしても容易に相到す
ることができるから、上記引用発明及び相違点1の認定の誤りは、審決
10 の結論に影響を及ぼす。
イ 相違点1についての判断の誤り
本件審決は、相違点1に係る構成は当業者が容易に想到し得るものでは
ないと判断したが、以下のとおり誤りである。
(ア) 甲1発明のシリコンウェハの内部に形成された改質領域は、外からは
15 目視できないので、当業者であれば、割らずに内部の様子を確認したい
と考える。一方、シリコンウェハの内部の状態を観察するために、その表
面から赤外線を当てて、映像を撮像素子に映す技術は、甲1に関連する
技術分野の技術手段であるとともに、前記のとおり周知・公知の技術で
あるから、通常の創作能力を有する当業者であれば、改質領域の様子を
20 観察するために、上記周知・公知技術を甲1発明に適用することを直ち
に思い付く。
甲1の【0045】、【0053】、【0072】等には、レーザ光の
集光点の位置に応じてレーザ光を調整することが記載されているから、
レーザ光の集光点の位置すなわち改質領域の配置を確認しつつ、レーザ
25 光や光学系を調整する必要があることが開示ないし示唆されている。
そして、甲21、22では、加工対象物の内部に改質領域を生成させる
技術において、加工対象物の内部にどのような形状の改質領域を形成す
ることが効率的であるかが写真をもって明らかにされ、甲47では、シ
リコンウェハ等の加工対象物の内部にレーザによって改質領域を形成し、
加工対象物を割断する技術(請求項1等)において、改質領域のZ軸方向
5 の位置が割断精度に影響を与えることが、明記されている。すなわち、半
導体ウェハの内部に切断の起点となる改質領域を形成するとき、その内
部の状態を観察する必要があることは、原出願日において、技術常識で
あった。
甲1に接した当業者は、このような技術常識を知る者であるから、甲
10 1発明に、技術分野を共通にする甲4~6等に開示された周知・公知技
術を適用して、外部から視認し得ない改質領域を、シリコンウェハを透
過する赤外線により観察して、改質領域の形状や高さを確認しようとす
ることに自然と動機付けられる。
したがって、甲1発明において、レーザ加工時の加工状態を観察する
15 ために、上記周知・公知技術を適用して、シリコンウェハを赤外線で照明
する赤外透過照明を設け、シリコンウェハを透過した赤外線が赤外線用
の撮像素子121に入射するよう構成することは当業者にとって容易で
ある。そして、内部に改質領域が形成されたシリコンウェハを透過した
赤外線は、シリコンウェハ内部の改質領域の情報を含むから、赤外線用
20 の撮像素子121はシリコンウェハ内部の改質領域を撮像可能である。
よって、当業者が、甲1発明において相違点1に係る構成に想到するこ
とは容易である。
(イ) 本件審決は、甲1には、相違点1に係る構成を採用する動機が示され
てない旨判断する。
25 これは、本件審決が、本件発明1の構成F、Gに係る技術的意義を、半
導体基板を赤外透過照明による赤外線で照明するとともに、改質領域を撮
像素子で撮像することで、基板の厚さ方向における改質領域の位置や大き
さを確認することができ、溶融処理領域の位置や大きさ等を調節すること
が可能となり、その調節により、基板の表面及び裏面に割れが到達しない
ように制御したり、切断直前に基板の表面及び裏面に割れが到達するよう
5 に制御を行うことにあるとすることによる。
しかし、本件明細書には、このような技術的意義は記載されていないし、
進歩性の有無は、公知技術から本件発明の構成に至るかどうかの問題であ
り、公知技術から本件発明の技術的意義に至るかどうかの問題ではない。
仮に本件明細書の記載から上記技術的事項を当業者が読み取ることがで
10 きるというのであれば、前記の周知・公知技術を知る当業者は、甲1の記
載からも、同様の技術的事項を読み取ることができる。
(ウ) 本件審決は、甲4~10には改質領域を撮像することについて明示的に
は全く記載されていないとするが、甲4、5には改質領域に相当するクラ
ック等の欠陥を観察することが記載されている。
15 (エ) 本件審決は、甲21及び甲22には、写真によって、基板の厚さ方向に
おける改質領域の位置や大きさを確認することまでは示されていないか
ら、当業者が、これらに記載された技術的事項について、基板の厚さ方向
における改質領域の位置や大きさを確認するための手段として認識する
とはいえないと判断するが、本件発明1は、「基板の厚さ方向における改
20 質領域の位置や大きさを確認するための手段として赤外透過照明及び撮
像素子を発明特定事項として」規定しているわけではない。
また、本件審決は、甲21及び甲22に接した当業者は、これらに記載
された技術的事項について、レーザ加工装置に常設して、定常的に撮影を
行う手段として認識するとはいえないとするが、「レーザ加工装置に常設
25 して、定常的に撮影を行う手段」が甲21、22に開示されていないとし
ても、甲1、4~6に開示されているのであり、本件審決の指摘する点は、
本件発明1の進歩性を肯定する理由とはならない。
(2) 被告の主張
ア 甲1発明の認定に誤りがあるとの点について
(ア) 甲1発明が、原告がいう構成F、Gを備えておらず、本件発明1と甲
5 1発明との間に本件審決が認定した相違点1に相当する相違点が存在す
ることは、審判請求書で、原告自身が主張していたことであり、相違点1
が存在しないとする原告の主張は禁反言の法理に反する。
また、本件発明1と甲1発明の間に相違点1に相当する相違点が存在す
ることは、本件特許権及び他の特許権に基づく特許権侵害訴訟の控訴審
10 (知的財産高等裁判所令和3年(ネ)第10101号)の判決(甲33)
で認定されていた。そして、同侵害訴訟の判決は、令和5年6月7日付け
の上告棄却決定及び上告不受理決定により確定した(乙2)。それにもか
かわらず、原告が相違点1が存在しないと主張することは、訴訟上の信義
則に反する。
15 さらに、原告は、原出願日において、「加工対象物の内部に改質領域を
形成して加工対象物を割断する技術において、改質領域の形状や位置を確
認すること」及び「加工対象物がシリコンウェハである場合、可視光では
内部の状態を視認できないが、赤外線であれば内部の状態を視認すること
が可能であること」が原出願日における技術常識であった旨主張するが、
20 そのような技術常識があったとしても、そのことは、相違点1に係る本件
発明1の構成に相当する構成(構成F、G)が開示されていたことを意味
せず、相違点1が存在しないことの理由にはならないし、原告が主張する
ような技術常識の存在も認められない。
(イ) したがって、相違点1は存在しない旨の原告の主張は失当である。
25 イ 相違点1についての判断に誤りがあるとの点について
(ア) 原告は、甲1発明のシリコンウェハの内部に形成された改質領域は、外
からは目視できないので、当業者であれば、割らずに内部の様子を確認し
たいと考える旨主張するが、シリコンウェハ内部に形成された改質領域の
状態を観察することの意義もそれを観察するための手法も何も知られて
いなかった本件出願時に、当業者が原告主張のように考えたはずであると
5 いえる根拠は存在しない。
また、原告が、半導体ウェハの内部に切断の起点となる改質領域を形成
するとき、その内部の状態を観察する必要があることが、原出願日におい
て、技術常識だったとの主張の根拠とする甲21、22の図14、15に
示される改質領域の写真は、直線偏光のレーザ光により切断予定ラインに
10 沿った方向の改質領域の寸法を大きくできることを明らかにするための
写真にすぎない。
原告の主張する技術常識が存在しない以上、当業者が、甲1発明に、甲
4~6等に開示された周知・公知技術を適用しようと動機づけられること
もない。
15 (イ) 原告は、甲4、5に「クラック等の欠陥」を観察することが記載されて
いることを根拠に、甲4~10に改質領域を撮像することについて明示的
には全く記載されていないとの認定が誤りである旨主張する。
しかし、甲4、5で観察対象とされている「クラック等の欠陥」は、半導
体ウェハの内部に不可避的に生じるクラック等の欠陥であるのに対し、甲
20 1発明で形成される「改質領域」は、切断の起点となるようにレーザ照射に
より人為的に形成されるものであり、加工対象物が半導体ウェハの場合に
は、「溶融処理領域」となるものである(甲1【0037】)から、両者は
相互に全く異なるものである。
2 取消事由2(甲1発明に基づく本件発明2の進歩性の判断の誤り)
25 (1) 原告の主張
本件発明1の場合と同様の理由により、本件審決による相違点1の認定の
誤りは、審決の結論に影響する。
また、本件発明1と同様の理由により、本件審決による相違点1について
の判断の誤りは、審決の結論に影響する。
(2) 被告の主張
5 本件審決による相違点1の認定、その容易想到性に係る判断に誤りはない
から、原告の主張には理由がない。
第4 当裁判所の判断
1 取消事由1(甲1発明に基づく本件発明1の進歩性の判断の誤り)について
(1) 原告は、甲1発明は赤外線と撮像素子による改質領域を撮像する構成F、
10 Gを備えていない(相違点1)とした本件審決の認定の誤りを主張するので、
まずこの点について検討する。
ア 別紙3「甲1の記載事項(抜粋)」によれば、甲1には以下の開示があ
り、本件審決が認定するとおりの甲1発明を認めることができる。本件発
明1と甲1発明との相違点も本件審決が認定するとおりであると認める。
15 (ア) 甲1発明は、半導体材料基板、圧電材料基板やガラス基板等の加工
対象物の切断に使用されるレーザ加工方法に関する(【0002】)。
(イ) レーザを切断に用いる場合、加工対象物の表面のうち切断する箇所
となる領域周辺も溶融されるため、加工対象物が半導体ウェハの場合、
表面に形成された半導体素子のうち、上記領域付近に位置する半導体
20 素子が溶融するおそれがある。これに対応するため、加工対象物の切断
する箇所をレーザ光により加熱し、加工対象物を冷却することにより、
切断する箇所に熱衝撃を生じさせて切断する方法もあったが、加工対
象物に生じる熱衝撃が大きいと、加工対象物の表面に、切断予定ライン
から外れた割れ等の不必要な割れが発生し、加工対象物が半導体ウェ
25 ハである場合は、半導体チップが損傷する等の問題があった 【000

3】~【0005】)。
(ウ) 甲1発明は、半導体基板上に複数の機能素子が形成されていても、
機能素子が破壊されることなく半導体基板を切断予定ラインに沿って
精度良く切断するレーザ加工装置を提供することを目的とし、加工対
象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し、加工対象物の切断
5 予定ラインに沿って加工対象物の内部に多光子吸収による改質領域を
形成する工程を備えることを特徴とする構成を採用した。甲1発明で
は、レーザ光の照射により加工対象物の内部に形成された改質領域を
起点として比較的小さな力で加工対象物を切断することができるので、
切断予定ラインから離れた不必要な割れが発生することはなく、加工
10 対象物の表面ではレーザ光がほとんど吸収されないため、加工対象物
の表面が溶融することはない(【0006】~【0009】)。
(エ) 甲1発明では、加工対象物の表面に溶融や切断予定ラインから外れた
割れが生じることなく加工対象物を切断することができるので、加工
対象物を切断することにより作製される製品の歩留まりや生産性を向
15 上させることができる(【0118】)。
イ 原告は、前記第3の1(1)ア(イ)のとおり、原出願日において、加工対象
物の内部に改質領域を形成して加工対象物を割断する技術で、改質領域の
形状や位置を確認すること、加工対象物がシリコンウェハである場合、可
視光では内部の状態を視認できないが、赤外線であれば内部の状態を視認
20 することが可能であることが技術常識であり、甲1には、赤外光の波長を
調整することで、赤外光の内部透過率が上昇すること(図13)、赤外線
用の撮像素子(【0091】)が記載されているから、本件発明1の構成
F、Gに係る構成は甲1に記載されているに等しく、相違点1は存在しな
い旨主張する。
25 しかし、甲1の図13は、溶融処理領域13が多光子吸収により形成さ
れたことを説明する文脈でレーザ光の波長とシリコン基板の内部の透過
率との関係を開示するにすぎず(【0040】)、また、甲1の【009
1】は、撮像素子として赤外線用のものを用いることにより、赤外線(レ
ーザ光)Lが加工対象物の表面で反射することを利用してフォーカス調整
を行い、加工対象物の表面を撮像することを示唆するにすぎない。仮に原
5 告が上記に主張するような技術常識が存在したとしても、甲1に上記のと
おり開示ないし示唆されているところを超えて、本件発明1の構成F、G
に係る構成が記載されているに等しいとはいえず、本件審決の甲1発明の
認定や相違点1の認定に誤りはない。
(2) 次に、相違点1に係る容易想到性の判断について検討する。
10 ア 甲1には、改質領域の加工領域の主面からの位置や大きさを確認する必
要があることについて記載されていない。甲1の【0091】が、撮像素
子として赤外線用のものを用いることにより、赤外線(レーザ光)の反射
光を利用してフォーカス調整を行い、加工対象物の表面を撮像することを
示唆するにすぎないことは前記(1)イのとおりである。上記のような必要
15 性があることが周知又は技術常識であるとも認められない。したがって、
甲1発明において、相違点1に係る本件発明の構成すなわち構成F、Gを
採用する動機付けが認められない。
よって、甲1の記載に接した当業者において、相違点1に係る構成を容
易に想到することができたものとは認められない。
20 なお、本件審決は、上記動機付けを否定する理由として、相違点1に係
る本件発明1の構成F及びGの技術的意義が、「基板の厚さ方向における
改質領域の位置や大きさを確認し、溶融処理領域の位置や大きさ等を調節
することが可能となり、その調節により、基板の表面及び裏面に割れが到
達しないように制御したり、切断直前に基板の表面及び裏面に割れが到達
25 するように制御を行うこと」を挙げるが、そのような技術的意義を示唆す
る記載は本件明細書にはなく、その点において本件審決の判断は相当でな
い。しかし、甲1には、改質領域の加工領域の主面からの位置や大きさを
確認する必要があること自体について記載されていないことは上記のと
おりであるから、本件審決の上記技術的意義の認定の誤りは、本件審決の
結論に影響を及ぼすものではない。
5 イ 原告は、前記第3の1(1)イ(ア)のとおり、甲1の【0045】、【00
53】、【0072】等の記載から、レーザ光の集光点の位置すなわち改
質領域の配置を確認しつつ、レーザ光や光学系を調整する必要があること
が開示ないし示唆されている旨主張するが、甲1に、レーザ光の集光点の
位置に応じてレーザ光を調整することが記載されているからといって、レ
10 ーザ光の集光点の位置を確認する必要性まで記載ないし示唆されている
とはいえない。
また、原告は、甲21、22では、加工対象物の内部に改質領域を生成
させる技術において、加工対象物の内部にどのような形状の改質領域を形
成することが効率的であるかが写真をもって明らかにされている旨主張
15 するが、甲21、22の各【図14】は直線偏光のパルスレーザ光を照射
することにより内部に「クラック領域が」形成された「サンプル」の写真
を表した図であり、同じく【図15】は、円偏光のパルスレーザ光を照射
することにより内部に「クラック領域が」形成された「サンプル」の写真
を表したものであって(甲21の【0054】、甲22の【0031】)、
20 実験的な作業において、クラック領域について確認するものにすぎず、加
工対象物の内部に改質領域を生成させる過程において、改質領域の加工対
象物の主面からの位置(加工対象の深さ)を確認することを示すものでは
ない。
また、甲47は、「表面3に近すぎる箇所にクラック領域9を形成する
25 とクラック領域9が表面3に形成される。」と記載するだけで、このよう
な記載が、半導体ウェハの内部に改質領域を形成する際、内部の状態を観
察する必要があることに直ちに結びつくものではない。
したがって、当業者が甲1発明に甲4~6等に開示された周知・公知技
術を適用して、外部から視認し得ない改質領域を、シリコンウェハを透過
する赤外線により観察して、改質領域の形状や高さを確認しようとする動
5 機付けがあるとの原告の主張は採用できない。
そもそも甲4は半導体ウエハの結晶欠陥を観察する試料観察装置、甲5
は半導体ウエハ等の欠陥を検査する装置、甲6は半導体ウェーハの内部に
検出すべき回路面が形成されている場合に切削すべき領域を検出する方
法、甲9はプロービング装置に関するものであり、レーザ加工装置に常設
10 したものではない(これに反する原告の主張〔前記第3の1(1)イ(エ)〕は
採用することができない。)。甲7、8は、ウェハの裏面からスクライブ
するに際し、表面に形成された回路パターン(甲7【0004】)や半導
体素子(甲8【0007】)の認識に赤外線を用いるものにすぎない。そ
して、甲10は、基板に半導体素子を搭載する際の位置合わせのために
15 (【0001】)赤外線を用いるものである。したがって、これらの技術
を適用しても、甲1におけるレーザ光Lの反射光を利用してフォーカス調
整を行う赤外線撮像装置を、赤外線で照明された半導体基板における改質
領域を撮像可能な撮像素子とすることはできないというべきである。
ウ 原告は、前記第3の1(1)イ(ウ)のとおり、甲4、5に「クラック等の欠
20 陥」を観察することが記載されていることを根拠に、改質領域を撮像する
ことについての明示的な記載がある旨主張する。
しかし、甲4、5においては結晶欠陥の観察(甲4、1欄14行)や、
微小なクラックなどの欠陥の有無の検査(甲5、【0005】)が想定さ
れているものである。甲1において、クラックは改質領域に含まれるが
25 (【0010】等)、改質領域は切断の起点となるものであって(【00
08】等)、甲1発明を構成するものであるから、甲4、5における欠陥
としてのクラックとは位置づけが全く異なるものであることが明らかで
ある。
エ 小括
以上のとおりであって、当業者が、原出願日において、相違点1に係る
5 本件発明1の構成を容易に想到することができたとはいえない。
(3) そうすると、本件発明1は甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をする
ことができたものとはいえないとした本件審決の判断に誤りはなく、取消事
由1は理由がない。
2 取消事由2(甲1発明に基づく本件発明2の進歩性の判断の誤り)について
10 (1) 原告は、本件審決における相違点1の認定判断に誤りがある旨主張するが、
相違点1の認定に誤りはなく、また、当業者が、原出願日において、相違点
1に係る本件発明1の構成を容易に想到することができたとはいえないこ
とは、上記1(1)~(3)のとおりである。
(2) したがって、本件発明2の全部又は一部について優先権主張の効果が及ば
15 ないとしても、本件発明2は甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をする
ことができたものとはいえないとした本件審決の判断に誤りはなく、取消事
由2は理由がない。
3 結論
以上によれば、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、本件審決につい
20 て取り消されるべき違法は認められない。よって、原告の請求を棄却すること
として、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
25 宮 坂 昌 利
裁判官
本 吉 弘 行
5 裁判官
岩 井 直 幸
別紙1 略語一覧
(略語) (意味)
・原出願日:原出願(特願2003-574373号)の実際の出願日である平成
5 15年3月11日
・本件特許:被告を特許権者とする特許第3990711号
・本件発明:本件特許の請求項1、2に係る発明の総称
個別には、請求項の番号に対応して、「本件発明1」「本件発明2」という。
・本件明細書:本件特許に係る明細書
10 ・甲1発明:甲1(特開2002-192370号公報)記載の発明
別紙2 本件明細書の記載事項及び願書添付図面(抜粋)
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板を切断予定ラインに沿って切断するためのレーザ加工装置
5 及びレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造工程においては、シリコンウェハ等の半導体基板上に複数
の機能素子を形成した後に、ダイヤモンドブレードにより半導体基板を機能素子毎
10 に切断し(切削加工)、半導体チップを得るのが一般的である(例えば、特許文献1
参照)。
【0003】
また、上記ダイヤモンドブレードによる切断に代えて、半導体基板に対して吸収
性を有するレーザ光を半導体基板に照射し、加熱溶融により半導体基板を切断する
15 こともある(加熱溶融加工)(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】 特開2001-7054号公報
【特許文献2】 特開平10-163780号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
20 【0004】
しかしながら、上述した切削加工や加熱溶融加工による半導体基板の切断は、半
導体基板上に機能素子を形成した後に行われるため、例えば切断時に発生する熱を
原因として機能素子が破壊されるおそれがある。
【0005】
25 そこで、本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、例えば半導体基
板上に複数の機能素子が形成されていたとしても、機能素子が破壊されるのを防止
して、半導体基板を切断予定ラインに沿って精度良く切断することを可能にするレ
ーザ加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
5 上記目的を達成するために、本発明に係るレーザ加工装置は、半導体基板の内部
に、切断の起点となる改質領域を形成するレーザ加工装置であって、半導体基板が
載置される載置台と、レーザ光を出射するレーザ光源と、載置台に載置された半導
体基板の内部に、レーザ光源から出射されたレーザ光を集光し、そのレーザ光の集
光点の位置で改質領域を形成させる集光用レンズと、改質領域を半導体基板の内部
10 に形成するために、レーザ光の集光点を半導体基板の内部に位置させた状態で、半
導体基板の切断予定ラインに沿ってレーザ光の集光点を移動させる制御部と、載置
台に載置された半導体基板を赤外線で照明する赤外透過照明と、赤外透過照明によ
り赤外線で照明された半導体基板における前記改質領域を撮像可能な撮像素子と、
を備えることを特徴とする。
15 【0007】
これらのレーザ加工装置によれば、レーザ光の照射により改質領域が半導体基板
の内部に形成されるが、このようなレーザ光の照射においては、半導体基板の表面
ではレーザ光がほとんど吸収されないため、半導体基板の表面が溶融することはな
い。したがって、例えば半導体基板上に複数の機能素子が形成されていたとしても、
20 機能素子が破壊されるのを防止することが可能となる。さらに、これらのレーザ加
工装置及びレーザ加工方法よれば、改質領域が半導体基板の内部に形成される。半
導体基板の内部に改質領域が形成されると、改質領域を起点として比較的小さな力
で半導体基板に割れが発生するため、切断予定ラインに沿って高い精度で半導体基
板を割って切断することができる。したがって、半導体基板を切断予定ラインに沿
25 って精度良く切断することが可能となる。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るレーザ加工装置は、例えば半導体基板上に複数の機能素子が形成さ
れていたとしても、機能素子が破壊されるのを防止して、半導体基板を切断予定ラ
インに沿って精度良く切断することを可能にする。
5 【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1及び図2に示すように、半導体基板1の表面3には、半導体基板1を切断す
べき所望の切断予定ライン5がある。切断予定ライン5は直線状に延びた仮想線で
ある(半導体基板1に実際に線を引いて切断予定ライン5としてもよい) 本実施形

10 態に係るレーザ加工は、多光子吸収が生じる条件で半導体基板1の内部に集光点P
を合わせてレーザ光Lを半導体基板1に照射して改質領域7を形成する。なお、集
光点とはレーザ光Lが集光した箇所のことである。
【0013】
レーザ光Lを切断予定ライン5に沿って(すなわち矢印A方向に沿って)相対的
15 に移動させることにより、集光点Pを切断予定ライン5に沿って移動させる。これ
により、図3~図5に示すように改質領域7が切断予定ライン5に沿って半導体基
板1の内部にのみ形成され、この改質領域7でもって切断起点領域(切断予定部)9
が形成される。本実施形態に係るレーザ加工方法は、半導体基板1がレーザ光Lを
吸収することにより半導体基板1を発熱させて改質領域7を形成するのではない。
20 半導体基板1にレーザ光Lを透過させ半導体基板1の内部に多光子吸収を発生させ
て改質領域7を形成している。よって、半導体基板1の表面3ではレーザ光Lがほ
とんど吸収されないので、半導体基板1の表面3が溶融することはない。
【0014】
半導体基板1の切断において、切断する箇所に起点があると半導体基板1はその
25 起点から割れるので、図6に示すように比較的小さな力で半導体基板1を切断する
ことができる。よって、半導体基板1の表面3に不必要な割れを発生させることな
く半導体基板1の切断が可能となる。
【0027】
上述したレーザ加工方法に使用されるレーザ加工装置について、図9を参照して
説明する。図9はレーザ加工装置100の概略構成図である。
5 【0028】
レーザ加工装置100は、レーザ光Lを発生するレーザ光源101と、レーザ光
Lの出力やパルス幅等を調節するためにレーザ光源101を制御するレーザ光源制
御部102と、レーザ光Lの反射機能を有しかつレーザ光Lの光軸の向きを90°
変えるように配置されたダイクロイックミラー103と、ダイクロイックミラー1
10 03で反射されたレーザ光Lを集光する集光用レンズ105と、集光用レンズ10
5で集光されたレーザ光Lが照射される半導体基板1が載置される載置台107と、
載置台107を回転させるためのθステージ108と、載置台107をX軸方向に
移動させるためのX軸ステージ109と、載置台107をX軸方向に直交するY軸
方向に移動させるためのY軸ステージ111と、載置台107をX軸及びY軸方向
15 に直交するZ軸方向に移動させるためのZ軸ステージ113と、これら4つのステ
ージ108、109、111、113の移動を制御するステージ制御部115とを備
える。
【0029】
載置台107は、半導体基板1を赤外線で照明するために赤外線を発生する赤外
20 透過照明116と、半導体基板1が赤外透過照明116による赤外線で照明される
よう、半導体基板1を赤外透過照明116上に支持する支持部107aとを有して
いる。
【0033】
レーザ加工装置100はさらに、ビームスプリッタ119、ダイクロイックミラ
25 ー103及び集光用レンズ105と同じ光軸上に配置された撮像素子121及び結
像レンズ123を備える。撮像素子121としては例えばCCDカメラがある。切
断予定ライン5等を含む表面3を照明した可視光線の反射光は、集光用レンズ10
5、ダイクロイックミラー103、ビームスプリッタ119を透過し、結像レンズ1
23で結像されて撮像素子121で撮像され、撮像データとなる。なお、半導体基板
1を赤外透過照明116による赤外線で照明すると共に、後述する撮像データ処理
5 部125により結像レンズ123及び撮像素子121の観察面を半導体基板1の内
部に合わせれば、半導体基板1の内部を撮像して半導体基板1の内部の撮像データ
を取得することもできる。
【0037】
[半導体基板の実施例1]
10 ・・・
【0047】
続いて、レーザ光源101からレーザ光Lを発生させて、レーザ光Lを半導体基
板1に照射する。レーザ光Lの集光点Pは半導体基板1の内部に位置しているので、
溶融処理領域は半導体基板1の内部にのみ形成される。そして、X軸ステージ10
15 9やY軸ステージ111により半導体基板1を移動させて、半導体基板1の内部に、
OF15に平行な方向に延びる切断起点領域9a及びOF15に垂直な方向に延び
る切断起点領域9bのそれぞれを、基準原点から所定の間隔毎に複数形成し(S1
19)、実施例1に係る半導体基板1が製造される。
【0048】
20 なお、半導体基板1を赤外透過照明116による赤外線で照明すると共に、撮像
データ処理部125により結像レンズ123及び撮像素子121の観察面を半導体
基板1の内部に合わせれば、半導体基板1の内部に形成された切断起点領域9a及
び切断起点領域9bを撮像して撮像データを取得し、モニタ129に表示させるこ
ともできる。
25 【0053】
[半導体基板の実施例2]
【0057】
次に、実施例2に係る半導体基板1の製造方法について説明する。図17に示す
ように、半導体基板1の内側部分32と同等の形状を有する開口部35が形成され
たマスク36を用意する。そして、内側部分32が開口部35から露出するように
5 半導体基板1にマスク36を重ねる。これにより、半導体基板1の外縁部31がマ
スク36で覆われることになる。
【0058】
この状態で、例えば上述のレーザ加工装置100を用いて、半導体基板1の内部
に集光点を合わせてレーザ光を照射し、半導体基板1の内部に多光子吸収による溶
10 融処理領域を形成することで、半導体基板1のレーザ光入射面(すなわち、マスク3
6の開口部35から露出する半導体基板1の表面)から所定距離内側に切断起点領
域9a、9bを形成する。
【0059】
このとき、レーザ光の走査ラインとなる切断予定ライン5を、OF15を基準と
15 して格子状に設定するが、各切断予定ライン5の始点5a及び終点5bをマスク3
6上に位置させれば、半導体基板1の内側部分32に対して確実に且つ同等の条件
でレーザ光が照射されることになる。これにより、内側部分32の内部に形成され
る溶融処理領域をいずれの場所でもほぼ同等の形成状態とすることができ、精密な
切断起点領域9a、9bを形成することが可能になる。
20 【0060】
なお、マスク36を用いずに、半導体基板1の内側部分32と外縁部31との境
界付近に各切断予定ライン5の始点5a及び終点5bを位置させて、各切断予定ラ
イン5に沿ってレーザ光の照射を行うことにより、内側部分32の内部に切断起点
領域9a、9bを形成することも可能である。
25 【0061】
以上説明したように、実施例2に係る半導体基板1によれば、実施例1に係る半
導体基板1と同様の理由により、半導体デバイスの製造工程において、半導体基板
1の表面に機能素子を形成することができ、且つ機能素子形成後における半導体基
板1の切断による機能素子の破壊を防止することができる。
【0062】
5 しかも、半導体基板1の内側部分32の内部に切断起点領域9a、9bが形成さ
れ、外縁部31には切断起点領域9a、9bが形成されていないことから、半導体基
板1全体としての機械的強度が向上することになる。したがって、半導体基板1の
搬送工程や機能素子形成のための加熱工程等において、半導体基板1が不測の下に
切断されてしまうという事態を防止することができる。
【図1】 【図2】
【図3】 【図4】
【図5】 【図6】
【図9】
【図17】
別紙3 甲1の記載事項(抜粋)
【発明の属する技術分野】
【0002】本発明は、半導体材料基板、圧電材料基板やガラス基板等の加工対象物
の切断に使用されるレーザ加工方法に関する。
5 【0003】
【従来の技術】レーザ応用の一つに切断があり、レーザによる一般的な切断は次の
通りである。例えば半導体ウェハやガラス基板のような加工対象物の切断する箇所
に、加工対象物が吸収する波長のレーザ光を照射し、レーザ光の吸収により切断す
る箇所において加工対象物の表面から裏面に向けて加熱溶融を進行させて加工対象
10 物を切断する。しかし、この方法では加工対象物の表面のうち切断する箇所となる
領域周辺も溶融される。よって、加工対象物が半導体ウェハの場合、半導体ウェハの
表面に形成された半導体素子のうち、上記領域付近に位置する半導体素子が溶融す
る恐れがある。
【0004】
15 【発明が解決しようとする課題】加工対象物の表面の溶融を防止する方法として、
例えば、特開2000-219528号公報や特開2000-15467号公報に
開示されたレーザによる切断方法がある。これらの公報の切断方法では、加工対象
物の切断する箇所をレーザ光により加熱し、そして加工対象物を冷却することによ
り、加工対象物の切断する箇所に熱衝撃を生じさせて加工対象物を切断する。
20 【0005】しかし、これらの公報の切断方法では、加工対象物に生じる熱衝撃が大
きいと、加工対象物の表面に、切断予定ラインから外れた割れやレーザ照射してい
ない先の箇所までの割れ等の不必要な割れが発生することがある。よって、これら
の切断方法では精密切断をすることができない。特に、加工対象物が半導体ウェハ、
液晶表示装置が形成されたガラス基板や電極パターンが形成されたガラス基板の場
25 合、この不必要な割れにより半導体チップ、液晶表示装置や電極パターンが損傷す
ることがある。また、これらの切断方法では平均入力エネルギーが大きいので、半導
体チップ等に与える熱的ダメージも大きい。
【0006】本発明の目的は、加工対象物の表面に不必要な割れを発生させること
なくかつその表面が溶融しないレーザ加工方法を提供することである。
【0007】
5 【課題を解決するための手段】本発明に係るレーザ加工方法は、加工対象物の内部
に集光点を合わせてレーザ光を照射し、加工対象物の切断予定ラインに沿って加工
対象物の内部に多光子吸収による改質領域を形成する工程を備えることを特徴とす
る。
【0008】本発明に係るレーザ加工方法によれば、加工対象物の内部に集光点を
10 合わせてレーザ光を照射しかつ多光子吸収という現象を利用することにより、加工
対象物の内部に改質領域を形成している。加工対象物の切断する箇所に何らかの起
点があると、加工対象物を比較的小さな力で割って切断することができる。本発明
に係るレーザ加工方法によれば、改質領域を起点として切断予定ラインに沿って加
工対象物が割れることにより、加工対象物を切断することができる。よって、比較的
15 小さな力で加工対象物を切断することができるので、加工対象物の表面に切断予定
ラインから外れた不必要な割れを発生させることなく加工対象物の切断が可能とな
る。
【0009】また、本発明に係るレーザ加工方法によれば、加工対象物の内部に局所
的に多光子吸収を発生させて改質領域を形成している。よって、加工対象物の表面
20 ではレーザ光がほとんど吸収されないので、加工対象物の表面が溶融することはな
い。なお、集光点とはレーザ光が集光した箇所のことである。切断予定ラインは加工
対象物の表面や内部に実際に引かれた線でもよいし、仮想の線でもよい。
【0010】本発明に係るレーザ加工方法は、加工対象物の内部に集光点を合わせ
て、集光点におけるピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅
25 が1μs以下の条件でレーザ光を照射し、加工対象物の切断予定ラインに沿って加
工対象物の内部にクラック領域を含む改質領域を形成する工程を備えることを特徴
とする。
【0033】さて、本実施形態において多光子吸収により形成される改質領域とし
て、次の(1)~(3)がある。
(1)改質領域が一つ又は複数のクラックを含むクラック領域の場合・・・
5 【0037】(2)改質領域が溶融処理領域の場合・・・
【0040】溶融処理領域13が多光子吸収により形成されたことを説明する。図
13は、レーザ光の波長とシリコン基板の内部の透過率との関係を示すグラフであ
る。ただし、シリコン基板の表面側と裏面側それぞれの反射成分を除去し、内部のみ
の透過率を示している。シリコン基板の厚みtが50μm、100μm、200μ
10 m、500μm、1000μmの各々について上記関係を示した。
【0043】(3)改質領域が屈折率変化領域の場合・・・
【0044】次に、本実施形態の具体例を説明する。
[第1例]本実施形態の第1例に係るレーザ加工方法について説明する。図14は
この方法に使用できるレーザ加工装置100の概略構成図である。レーザ加工装置
15 100は、レーザ光Lを発生するレーザ光源101と、レーザ光Lの出力やパルス
幅等を調節するためにレーザ光源101を制御するレーザ光源制御部102と、レ
ーザ光Lの反射機能を有しかつレーザ光Lの光軸の向きを90°変えるように配置
されたダイクロイックミラー103と、ダイクロイックミラー103で反射された
レーザ光Lを集光する集光用レンズ105と、集光用レンズ105で集光されたレ
20 ーザ光Lが照射される加工対象物1が載置される載置台107と、載置台107を
X軸方向に移動させるためのX軸ステージ109と、載置台107をX軸方向に直
交するY軸方向に移動させるためのY軸ステージ111と、載置台107をX軸及
びY軸方向に直交するZ軸方向に移動させるためのZ軸ステージ113と、これら
三つのステージ109、111、113の移動を制御するステージ制御部115と、
25 を備える。
【0045】Z軸方向は加工対象物1の表面3と直交する方向なので、加工対象物
1に入射するレーザ光Lの焦点深度の方向となる。よって、Z軸ステージ113を
Z軸方向に移動させることにより、加工対象物1の内部にレーザ光Lの集光点Pを
合わせることができる。また、この集光点PのX(Y)軸方向の移動は、加工対象物
1をX(Y)軸ステージ109(111)によりX(Y)軸方向に移動させることに
5 より行う。X(Y)軸ステージ109(111)が移動手段の一例となる。
【0048】レーザ加工装置100はさらに、載置台107に載置された加工対象
物1を可視光線により照明するために可視光線を発生する観察用光源117と、ダ
イクロイックミラー103及び集光用レンズ105と同じ光軸上に配置された可視
光用のビームスプリッタ119と、を備える。・・・観察用光源117から発生した
10 可視光線はビームスプリッタ119で約半分が反射され、この反射された可視光線
がダイクロイックミラー103及び集光用レンズ105を透過し、加工対象物1の
切断予定ライン5等を含む表面3を照明する。
【0049】レーザ加工装置100はさらに、ビームスプリッタ119、ダイクロイ
ックミラー103及び集光用レンズ105と同じ光軸上に配置された撮像素子12
15 1及び結像レンズ123を備える。撮像素子121としては例えばCCD(cha
rge-coupled device)カメラがある。切断予定ライン5等を含む
表面3を照明した可視光線の反射光は、集光用レンズ105、ダイクロイックミラ
ー103、ビームスプリッタ119を透過し、結像レンズ123で結像されて撮像
素子121で撮像され、撮像データとなる。
20 【0050】レーザ加工装置100はさらに、撮像素子121から出力された撮像
データが入力される撮像データ処理部125と、レーザ加工装置100全体を制御
する全体制御部127と、モニタ129と、を備える。撮像データ処理部125は、
撮像データを基にして観察用光源117で発生した可視光の焦点が表面3上に合わ
せるための焦点データを演算する。この焦点データを基にしてステージ制御部11
25 5がZ軸ステージ113を移動制御することにより、可視光の焦点が表面3に合う
ようにする。よって、撮像データ処理部125はオートフォーカスユニットとして
機能する。・・・
【0051】全体制御部127には、ステージ制御部115からのデータ、撮像デー
タ処理部125からの画像データ等が入力し、これらのデータも基にしてレーザ光
源制御部102、観察用光源117及びステージ制御部115を制御することによ
5 り、レーザ加工装置100全体を制御する。よって、全体制御部127はコンピュー
タユニットとして機能する。
【0052】次に、図14及び図15を用いて、本実施形態の第1例に係るレーザ加
工方法を説明する。図15は、このレーザ加工方法を説明するためのフローチャー
トである。加工対象物1はシリコンウェハである。
10 【0053】まず、加工対象物1の光吸収特性を図示しない分光光度計等により測
定する。この測定結果に基づいて、加工対象物1に対して透明な波長又は吸収の少
ない波長のレーザ光Lを発生するレーザ光源101を選定する(S101) 次に、

加工対象物1の厚さを測定する。厚さの測定結果及び加工対象物1の屈折率を基に
して、加工対象物1のZ軸方向の移動量を決定する(S103)。これは、レーザ光
15 Lの集光点Pが加工対象物1の内部に位置させるために、加工対象物1の表面3に
位置するレーザ光Lの集光点を基準とした加工対象物1のZ軸方向の移動量である。
この移動量を全体制御部127に入力される。
【0054】加工対象物1をレーザ加工装置100の載置台107に載置する。そ
して、観察用光源117から可視光を発生させて加工対象物1を照明する(S10
20 5)。照明された切断予定ライン5を含む加工対象物1の表面3を撮像素子121
により撮像する。この撮像データは撮像データ処理部125に送られる。この撮像
データに基づいて撮像データ処理部125は観察用光源117の可視光の焦点が表
面3に位置するような焦点データを演算する(S107)。
【0055】この焦点データはステージ制御部115に送られる。ステージ制御部
25 115は、この焦点データを基にしてZ軸ステージ113をZ軸方向の移動させる
(S109) これにより、
。 観察用光源117の可視光の焦点が表面3に位置する。
なお、撮像データ処理部125は撮像データに基づいて、切断予定ライン5を含む
加工対象物1の表面3の拡大画像データを演算する。この拡大画像データは全体制
御部127を介してモニタ129に送られ、これによりモニタ129に切断予定ラ
イン5付近の拡大画像が表示される。
5 【0056】全体制御部127には予めステップS103で決定された移動量デー
タが入力されており、この移動量データがステージ制御部115に送られる。ステ
ージ制御部115はこの移動量データに基づいて、レーザ光Lの集光点Pが加工対
象物1の内部となる位置に、Z軸ステージ113により加工対象物1をZ軸方向に
移動させる(S111)。
10 【0057】次に、レーザ光源101からレーザ光Lを発生させて、レーザ光Lを加
工対象物1の表面3の切断予定ライン5に照射する。レーザ光Lの集光点Pは加工
対象物1の内部に位置しているので、溶融処理領域は加工対象物1の内部にのみ形
成される。そして、切断予定ライン5に沿うようにX軸ステージ109やY軸ステ
ージ111を移動させて、溶融処理領域を切断予定ライン5に沿うように加工対象
15 物1の内部に形成する(S113)。そして、加工対象物1を切断予定ライン5に沿
って曲げることにより、加工対象物1を切断する(S115)。これにより、加工対
象物1をシリコンチップに分割する。
【0058】第1例の効果を説明する。これによれば、多光子吸収を起こさせる条件
でかつ加工対象物1の内部に集光点Pを合わせて、パルスレーザ光Lを切断予定ラ
20 イン5に照射している。そして、X軸ステージ109やY軸ステージ111を移動
させることにより、集光点Pを切断予定ライン5に沿って移動させている。これに
より、改質領域(例えばクラック領域、溶融処理領域、屈折率変化領域)を切断予定
ライン5に沿うように加工対象物1の内部に形成している。加工対象物の切断する
箇所に何らかの起点があると、加工対象物を比較的小さな力で割って切断すること
25 ができる。よって、改質領域を起点として切断予定ライン5に沿って加工対象物1
を割ることにより、比較的小さな力で加工対象物1を切断することができる。これ
により、加工対象物1の表面3に切断予定ライン5から外れた不必要な割れを発生
させることなく加工対象物1を切断することができる。
【0066】第2例に係る切断装置は、図14に示すレーザ加工装置100及び図
19、図20に示す装置から構成される。図19及び図20に示す装置について説
5 明する。圧電素子ウェハ31は、保持手段としてのウェハシート(フィルム)33に
保持されている。このウェハシート33は、圧電素子ウェハ31を保持する側の面
が粘着性を有する樹脂製テープ等からなり、弾性を有している。ウェハシート33
は、サンプルホルダ35に挟持されて、載置台107上にセットされる。なお、圧電
素子ウェハ31は、図19に示されるように、後に切断分離される多数個の圧電デ
10 バイスチップ37を含んでいる。各圧電デバイスチップ37は回路部39を有して
いる。この回路部39は、圧電素子ウェハ31の表面に各圧電デバイスチップ37
毎に形成されており、隣接する回路部39の間には所定の間隙α(80μm程度)が
形成されている。なお、図20は、圧電素子ウェハ31の内部のみに改質部としての
微小なクラック領域9が形成された状態を示している。
15 【0072】ここで、切断対象材料に照射されるレーザ光Lは、集光用レンズ105
により、図22に示されるように、圧電素子ウェハ31の表面(レーザ光Lが入射す
る面)に形成された回路部39にレーザ光Lが照射されない角度で集光される。こ
のように、回路部39にレーザ光Lが照射されない角度でレーザ光Lを集光するこ
とにより、レーザ光Lが回路部39に入射するのを防ぐことができ、回路部39を
20 レーザ光Lから保護することができる。
【0091】また、撮像素子121として赤外線用のものを用いることにより、レー
ザ光Lの反射光を利用してフォーカス調整を行うことができる。
この場合には、ダイクロイックミラー103を用いる代わりにハーフミラーを用い、
このハーフミラーとレーザ光源101との間にレーザ光源101への戻り光を抑制
25 するような光学素子を配設する必要がある。なお、このとき、フォーカス調整を行う
ためのレーザ光Lにより切断対象材料にダメージが生じないように、フォーカス調
整時にレーザ光源101から照射されるレーザ光Lの出力は、クラック形成のため
の出力よりも低いエネルギー値に設定ことが好ましい。
【発明の効果】
【0118】本発明に係るレーザ加工方法によれば、加工対象物の表面に溶融や切
5 断予定ラインから外れた割れが生じることなく、加工対象物を切断することができ
る。よって、加工対象物を切断することにより作製される製品(例えば、半導体チッ
プ、圧電デバイスチップ、液晶等の表示装置)の歩留まりや生産性を向上させること
ができる。
10 【図13】
【図14】
5 【図15】
【図19】
【図20】
5 【図22】
別紙4 本件審決の理由①
1 本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点
(1) 一致点
半導体基板の内部に、切断の起点となる改質領域を形成するレーザ加工装
5 置であって、
前記半導体基板が載置される載置台と、
レーザ光を出射するレーザ光源と、
前記載置台に載置された前記半導体基板の内部に、前記レーザ光源から出
射されたレーザ光を集光し、そのレーザ光の集光点の位置で前記改質領域を
10 形成させる集光用レンズと、
前記改質領域を前記半導体基板の内部に形成するために、レーザ光の集光
点を前記半導体基板の内部に位置させた状態で、前記半導体基板の切断予定
ラインに沿ってレーザ光の集光点を移動させる制御部と、
前記半導体基板の赤外線を撮像可能な撮像素子と、
15 を備えた、
レーザ加工装置。
(2) 相違点
<相違点1>
本件発明1は、「前記載置台に載置された前記半導体基板を赤外線で照明
20 する赤外透過照明と、前記赤外透過照明により赤外線で照明された前記半導
体基板における前記改質領域を撮像可能な撮像素子」(構成F及びG)を備
えているのに対して、甲1発明は、「前記加工対象物1の表面を撮像する赤
外線用の撮像素子121」(構成1g)を備えているものの本件発明1の構
成F及びGを備えていない点。
25 <相違点2>
本件発明1は、「前記切断予定ラインは、前記半導体基板の内側部分と外
縁部との境界付近に始点及び終点が位置する」(構成H)のに対して、甲1
発明は、切断予定ライン5の始点や終点がどの位置なのか不明な点。
2 相違点の容易想到性についての判断理由の要旨
(1) 相違点1に係る本件発明1の構成F及びGの技術的意義は、当該構成に
5 より、基板の厚さ方向における改質領域の位置や大きさを確認し、溶融処
理領域の位置や大きさ等を調節することが可能となり、その調節により、
基板の表面及び裏面に割れが到達しないように制御したり、切断直前に基
板の表面及び裏面に割れが到達するように制御を行うことにある。
一方、甲1には、基板の厚さ方向における改質領域の位置や大きさを確認
10 する必要性について、明示的には全く記載されておらず、相違点1に係る構
成F及びGを採用する動機があるとはいえない。
(2) 甲4~10には、改質領域を撮像することや、基板の厚さ方向における改
質領域の位置や大きさを確認することについて、明示的には全く記載されて
おらず、当該確認に基づき基板の厚さ方向における改質領域の位置や大きさ
15 を調節することにより、基板の表面及び裏面に割れが到達しないように制御
したり、切断直前に基板の表面及び裏面に割れが到達するように制御を行う
ことについては記載も示唆もないから、甲4~10に接した当業者が、これ
らに記載された技術的事項について、基板の厚さ方向における改質領域の位
置や大きさを確認するための手段として認識するとはいえない。
20 したがって、仮に、甲1に基板の厚さ方向における改質領域の位置や大き
さを確認する動機があったとしても、当業者が、そのための手段として、甲
4~10に記載された技術的事項を採用することを想到するとはいえない。
(3) 甲21及び22には、改質領域を写真で撮影することが示されているが、
これらの写真は、切断予定ラインに沿った平面的な方向の改質領域の長さ
25 を確認するためのものであって、当該写真によって、基板の厚さ方向にお
ける改質領域の位置や大きさを確認することまでは示されていないから、
甲21、22に接した当業者が、これらに記載された技術的事項について、
基板の厚さ方向における改質領域の位置や大きさを確認するための手段と
して認識するとはいえない。
また、甲21及び22の写真は、直線偏光のレーザ光による加工と、その
5 加工により生じる切断予定ラインに沿った方向の改質領域の寸法の関係を
「実験的」に明らかにすることを目的として撮影されたものであるから、
直線偏光のレーザ光により切断予定ラインに沿った方向の改質領域の寸法
を大きくできることが明らかになれば、繰り返して写真を撮影する必要は
なく、甲21及び22に接した当業者は、これらに記載された技術的事項
10 について、レーザ加工装置に常設して、定常的に撮影を行う手段として認
識するとはいえない。
(4) 以上から、相違点1は、甲1発明、甲4~10、甲21及び22並びにそ
の他の甲号証に基づいて当業者が容易に想到できたものとはいえないから、
本件発明1は、甲1発明及び上記各甲号証に基づき当業者(本件特許に係
15 る出願の原出願日当時の当業者。本件発明1に優先権の効果が及ばないこ
とは争いがない。)が容易に発明することができたとはいえない。
別紙5 本件審決の理由②
1 本件発明2と甲1発明の一致点及び相違点
(1) 一致点
半導体基板の内部に、切断の起点となる改質領域を形成するレーザ加工装
5 置であって、
前記半導体基板が載置される載置台と、
レーザ光を出射するレーザ光源と、
前記載置台に載置された前記半導体基板の内部に、前記レーザ光源から出
射されたレーザ光を集光し、そのレーザ光の集光点の位置で前記改質領域を
10 形成させる集光用レンズと、
前記改質領域を前記半導体基板の内部に形成するために、レーザ光の集光
点を前記半導体基板の内部に位置させた状態で、前記半導体基板の切断予定
ラインに沿ってレーザ光の集光点を移動させる制御部と、
前記半導体基板の赤外線を撮像可能な撮像素子と、
15 を備え、
前記半導体基板はシリコン基板であり、
前記制御部は、前記載置台及び前記集光用レンズの少なくとも1つの移動
を制御する
レーザ加工装置。
20 (2) 相違点
<相違点3>
本件発明1と甲1発明の相違点1に同じ。
2 相違点の容易想到性についての判断理由の要旨
相違点3は、相違点1に関する本件審決の理由①2のとおり、甲1発明、甲4
25 ~10、甲21及び22並びにその他の甲号証に基づいて当業者が容易に想到
できたものとはいえない。
本件発明2は、仮に、本件発明2の全部又は一部について優先権の効果が及
ばないとしても、甲1発明及び上記各甲号証に基づいて本件特許に係る出願の
原出願日当時の当業者が容易に発明できたものとはいえない。

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