令和5(行ケ)10113審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
令和6年2月19日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
原告トムズアンドコレクティブ株式会社 被告エルメス・アンテルナショナル
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法令 |
意匠権
意匠法5条2号9回 意匠法3条2項1回 意匠法3条1項3号1回
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キーワード |
無効17回 審決12回 無効審判4回 意匠権1回 実施1回 商標権1回
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主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
1 特許庁における手続の経緯等(争いのない事実)5
(1) 原告は、平成29年8月23日、本件登録意匠につき、意匠に係る物品を
「かばん」とする意匠登録出願(意願2017-18064)をし、平成3
0年5月18日に設定登録を受けた。
(2) 被告は、令和5年1月13日、本件登録意匠について、被告の周知・著名
な商標であるH商標2と同一又は類似する標章を本体正面に付された本件南10
京錠に表するものであって、意匠法5条2号に該当するなど、後記の無効理
由1~6を主張して、本件無効審判を請求した(無効2023-88000
3号)。
(3) 特許庁は、令和5年9月4日、「意匠登録第1606558号の登録を無
効とする。」との審決(本件審決)をし、その謄本は同月15日原告に送達15
された。
(4) 原告は、同年10月11日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起し
た。
2 本件登録意匠及びH商標2 |
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判決文
令和6年2月19日判決言渡
令和5年(行ケ)第10113号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和6年1月17日
判 決
原告(無効審判被請求人) トムズアンドコレクティブ株式会社
同訴訟代理人弁理士 大 谷 元
10 被告(同請求人) エルメス・アンテルナショナル
同訴訟代理人弁護士 高 松 薫
同 石 田 晃 士
同 椿 原 直
15 主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
【略語】
20 本判決では以下の略語を用いる。
(略語) (意味)
・本件登録意匠:意匠に係る物品を「かばん」とする意匠登録第1606558号
の意匠(意匠権者は原告)。被告が請求した本件無効審判の対象。
・本件南京錠:本件登録意匠の正面中央上部に付されている南京錠
25 ・H商標2:商標登録第5864813号の商標(商標権者:被告、指定商品:第
18類・かばん用の金属製留具ほか)
第1 請求
特許庁が無効2023-880003号事件について令和5年9月4日にし
た審決を取り消す。
第2 事案の概要
5 1 特許庁における手続の経緯等(争いのない事実)
(1) 原告は、平成29年8月23日、本件登録意匠につき、意匠に係る物品を
「かばん」とする意匠登録出願(意願2017-18064)をし、平成3
0年5月18日に設定登録を受けた。
(2) 被告は、令和5年1月13日、本件登録意匠について、被告の周知・著名
10 な商標であるH商標2と同一又は類似する標章を本体正面に付された本件南
京錠に表するものであって、意匠法5条2号に該当するなど、後記の無効理
由1~6を主張して、本件無効審判を請求した(無効2023-88000
3号)。
(3) 特許庁は、令和5年9月4日、「意匠登録第1606558号の登録を無
15 効とする。」との審決(本件審決)をし、その謄本は同月15日原告に送達
された。
(4) 原告は、同年10月11日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起し
た。
2 本件登録意匠及びH商標2
20 (1) 本件登録意匠に係る図面は、別紙意匠公報のとおりである。
(2) また、別紙「本件南京錠及びH商標2」に、同公報【正面図】の本件南京
錠部分を拡大した画像とH商標2をそれぞれ掲げる。
3 本件審決の理由の要旨
(1) 無効理由1(被告の商品である「バーキン」の立体的形状〔商標登録第5
25 438059号〕との関係における意匠法5条2号該当性)について
本件登録意匠の形態は、上記立体商標の特徴をそのまま備えているとはい
えず、大きく異なるというべきであるから、上記立体商標との関係において、
本件登録意匠が被告の業務に係る物品と混同を生ずるおそれがあるとはいえ
ない。
(2) 無効理由2(欧文字「H」をデザイン化した被告の商標登録第46729
5 65号の商標〔H商標1〕との関係における意匠法5条2号該当性)につい
て
上記商標は、被告の出所を表示する標章として著名とはいい難いから、上
記商標との関係において、本件登録意匠が被告の業務に係る物品と混同を生
ずるおそれがあるとはいえない。
10 (3) 無効理由3(H商標2との関係における意匠法5条2号該当性)について
別紙「本件審決の判断(抜粋)」のとおりであり、その要旨は以下のとお
りである。
ア 本件南京錠については、H商標2との相違点(①中央の横溝の本数、②
H商標2の中央ほか4か所の面取り模様、③左・中央・右各部分の幅の比
15 率)はいずれも大きな相違ではなく、H商標2の態様の特徴を備えている
といえる。
イ H商標2は、被告の出所を表示する標章として著名であり、この点は原
告も認めている。
ウ 被告は、「カデナ」と呼ばれる留め具をハンドバッグ等に付して販売し
20 ており、H商標2はこのカデナに表示されている標章である。
エ 本件意匠に係る物品は「かばん」であり、被告の業務に係る物品分野と
の関連性が非常に高い。
オ したがって、本件南京錠を有する本件登録意匠は、被告の業務に係る物
品と混同を生ずるおそれがある。
25 (4) 無効理由4(上記(1)の商標に係る意匠と類似することを理由とする意匠
法3条1項3号該当性)について
本件登録意匠は、上記(1)の商標に係る意匠に類似しない。
(5) 無効理由5(楽天市場「abientot」販売ページ記載の意匠と類似すること
を理由とする意匠法3条1項3号該当性)について
本件登録意匠は、上記意匠に類似しない。
5 (6) 無効理由6(上記(5)の意匠等に基づく意匠法3条2項該当性)について
本件登録意匠は、上記(5)の意匠等の形態に基づいて当業者が容易に創作
することができたものではない。
4 本件審決の取消事由
本件登録意匠がH商標2との関係において意匠法5条2号に該当するとした
10 判断の誤り
第3 当事者の主張
1 原告の主張
(1) 本件登録意匠の意匠に係る物品は「かばん」であるから、意匠の要旨はか
ばんの全体的な外観であり、付属品にすぎない本件南京錠はかばんの意匠に
15 影響を与えるものではない。
そのため、本件登録意匠から本件南京錠を削除しても、本件登録意匠の要
旨を変更するもの、すなわち願書に添付した図面等から直接導き出される具
体的な意匠の内容を変更するものとはならない。
仮に本件南京錠の有無がかばんの意匠に影響を与えるとしても、「南京錠
20 正面の態様」を削除することは認められるべきである。
したがって、本件南京錠は本件登録意匠の要部を構成しない。
(2) 原告は、本件登録意匠の審査段階では意匠法5条2号の拒絶理由を指摘さ
れておらず、そのため、手続補正及び意見書提出の機会を与えられていない。
仮に本件南京錠あるいは「南京錠正面の態様」を削除する補正が要旨変更に
25 当たるとしても、原告には、補正後の意匠についての新出願(同法17条の
3)とされる機会があった。このような機会が与えられなかったことは不当
である。
(3) 原告は、正面が無地の南京錠を付した本件登録意匠の実施品を販売してお
り、H商標2と混同を生じるような行為をしていないから、他人の業務に係
る物品と混同を生じるおそれはない。本件審決は、このような取引の実情を
5 考慮していない。
2 被告の主張
原告の主張は、いずれも否認ないし争う。
本件登録意匠がH商標2との関係で意匠法5条2号に該当するとした本件審
決の判断に誤りはない。
10 仮に、本件審決の無効理由3の判断について取消事由があるとしても、無効
理由3以外の無効理由を排斥した本件審決の判断は誤りであるから、本件審決
の結論部分は維持されることになる。
第4 当裁判所の判断
1 原告は、本件南京錠は本件登録意匠の要旨ではなく、意匠の要部を構成しな
15 い旨主張する。
しかし、本件登録意匠は、別紙意匠公報のとおり、本件南京錠を付したもの
として登録されているのであるから、他人の業務に係る物品と混同を生ずるお
それ(意匠法5条2号)があるか否かについて、登録された意匠の形状等のう
ち、特に他人の周知・著名な商標に類似する部分が問題となることは当然であ
20 り、この点は、意匠同士の類否(同法3条1項3号)等の判断に当たって考慮
される意匠の「要部」であるか否かとは別問題であるから、原告の主張は失当
である。
なお、本件において、添付図面等の南京錠又は南京錠の正面の態様を削除す
る補正をすることは、添付図面等の要旨を変更するものに当たると解される。
25 2 原告は、審査段階で意匠法5条2号の拒絶理由を指摘されていない旨主張す
るが、そのような事情は、本件登録意匠が同号に当たるか否かの実体判断を左
右するものでないことはもとより、無効審判手続の違法を根拠づけるものでも
ない。
3 原告は、正面が無地の南京錠を付したかばんを販売しているとして、本件南
京錠を付したかばんを販売していない旨主張するが、仮にそのような事実が認
5 められるとしても、本件登録意匠が被告の業務に係る物品であるハンドバッグ
等と混同を生ずる意匠であるかの判断において考慮すべき取引の実情に当たる
ものではない。
4 結論
よって、原告の主張する取消事由には理由がないから、原告の請求を棄却す
10 ることとし、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
宮 坂 昌 利
裁判官
本 吉 弘 行
裁判官
20 頼 晋 一
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