ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 令和5(ネ)10071 特許権侵害差止等請求控訴事件
| 裁判所 | 控訴棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 令和6年2月21日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 法令 |
特許権 特許法100条1項2回 民事訴訟法143条1項2回 特許法36条5項1回 民事訴訟法157条1項1回 民事訴訟法143条1回 |
| キーワード | 侵害18回 特許権10回 無効7回 差止4回 損害賠償3回 実施2回 進歩性1回 審決1回 |
| 主文 | 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 |
| 事件の概要 | 1 控訴人の請求 (1) 被控訴人は、原判決別紙「製品目録」記載の製品(被控訴人製品)を生産 し、使用し、譲渡し、貸し渡し、輸入し、譲渡又は貸渡しの申出をしてはな らない。15 (2) 被控訴人は、前項の製品を廃棄せよ。 (3) 被控訴人は、控訴人に対し、1000万円及びこれに対する令和3年12 月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 【請求の法的根拠】 (1)について20 特許法100条1項に基づく差止請求 (2)について 同条2項に基づく廃棄請求 (3)について ・ 主請求:不法行為に基づく損害賠償請求25 ・ 附帯請求:遅延損害金請求(起算日は訴状送達日の翌日、利率は平成29 |
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令和6年2月21日判決言渡
令和5年(ネ)第10071号 特許権侵害差止等請求控訴事件
(原審・大阪地方裁判所令和3年(ワ)第10032号)
口頭弁論終結日 令和6年1月15日
判 決
控訴人(第1審原告) 松 尾 電 機 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 松 村 信 夫
同 塩 田 千 恵 子
同 甲 斐 一 真
同補佐人弁理士 木 村 正 俊
被控訴人(第1審被告) 功得電子工業股份有限公司
同訴訟代理人弁護士 田 上 洋 平
同 北 田 康 輔
同訴訟代理人弁理士 北 村 修 一 郎
同 太 田 隆 司
同補佐人弁理士 飯 田 淳 也
主 文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事 実 及 び 理 由
【略語】略語は、下記のものを除き、原判決の例に従う。本件特許に係る発明全体を「本件発明」と、原判決がいう「本件発明」(本件特許の請求項1に係る発明)は「本件発明1」ということとする。また、原判決中の「本件追加」(控訴人の原審準備書面5による請求原因の追加で、被控訴人製品は本件発明2の技術的範囲に属する旨をいうもの)の用語は「本件請求原因の追加」
5 に改める(原判決を引用する場合には、上記のとおり読み替えるものとする。)。
第1 事案の要旨
本件は、発明の名称を「チップ型ヒューズ」とする本件特許(特許第5737664号)の特許権者である控訴人が、被控訴人による被控訴人製品の譲渡等が特許権の侵害に当たると主張して、被控訴人に対し、その差止め、損害賠償等を求める事案である。
第2 当事者の求めた裁判
1 控訴人の請求
(1) 被控訴人は、原判決別紙「製品目録」記載の製品(被控訴人製品)を生産し、使用し、譲渡し、貸し渡し、輸入し、譲渡又は貸渡しの申出をしてはならない。
(2) 被控訴人は、前項の製品を廃棄せよ。
(3) 被控訴人は、控訴人に対し、1000万円及びこれに対する令和3年12月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。【請求の法的根拠】
(1)について特許法100条1項に基づく差止請求
(2)について同条2項に基づく廃棄請求
(3)について・ 主請求:不法行為に基づく損害賠償請求・ 附帯請求:遅延損害金請求(起算日は訴状送達日の翌日、利率は平成29年法律第44号による改正前の民法所定)2 原審の判断及び控訴の提起原審は、①被控訴人製品は本件発明1の技術的範囲に属さない(文言侵害が成立しないことは争いがなく、均等侵害の成立をいう控訴人の主張も認められ
5 ない。)、②本件発明2に係る特許権侵害をいう本件請求原因の追加は民事訴訟法143条1項ただし書、4項により許されないとして、控訴人の請求をいずれも棄却する判決をしたところ、控訴人がこれを不服として以下のとおり控訴した。【控訴の趣旨】
(1) 原判決を取り消す。
(2) 上記1(1)~(3)と同旨
第3 前提事実等
1 前提事実
前提事実は、原判決「事実及び理由」第2の1(2頁~)に記載のとおりであるから、これを引用する。
2 本件発明の概要
(1) 本件発明1(請求項1)の構成要件の分説(被控訴人製品が構成Cを除く
構成を充足すること、構成Cは充足しないこと〔文言侵害不成立〕につき争いがない。)A-1 基板への取り付け用端子の2つの平板状部を間隔をあけて同一水平面上に有し、A-2 当該水平面とは異なる高さにある水平面における前記2つの平板状部間に位置するヒューズが、A-3 前記2つの平板状部と一体に形成されている端子一体型ヒューズと、B-1 一方の面が閉じられ、前記一方の面と異なる水平面に位置する他方の面が開口され、B-2 前記開口の周縁から前記一方の面に向かう周壁部を有し、B-3 前記ヒューズが前記開口から前記一方の面側に向かう中途の位置に位置し、B-4 前記2つの平板状部が前記周壁部にそれぞれ接触しているケースと、
5 C 前記ケース内において前記ヒューズに設けられた消弧材部とを、具備す
るD チップ型ヒューズ。
(2) 本件発明2(請求項3)の構成要件の分説(以下、下記の構成E-1から
F-2までを「本件付加構成」という。)A-1~C 本件発明1に同じE-1 前記ヒューズは、前記2つの平板状部における前記開口側にある縁部と一体に結合され、E-2 前記2つの平板状部における周壁部の外面側にある縁部から前記一方の面側に前記周壁部に接触して立ち上がり部が立ち上がっており、F-1 前記2つの平板状部における前記開口側にある縁部は前記開口の縁に接してあり、F-2 前記開口側にある縁部から前記ケースの中央側に向かって傾斜した傾斜部の先端側に前記ヒューズが一体に形成されているD チップ型ヒューズ。
(3) 本件発明の技術的特徴
本件明細書の記載は原判決別紙「特許公報」のとおりであり、これによれば、本件発明につき、次のような開示があることが認められる。ア 本発明は、チップ型ヒューズに関し、特に、ヒューズと端子とが一体に形成されたものに関する(【0001】)。イ 従来、ヒューズと端子とが一体に形成されたチップ型ヒューズとしては、例えば日本特許第4316729号公報に開示された技術によれば、ヒュージブルリンクとパッドとが一体に形成されたチップ型ヒューズを得ることができるが、基板を銅メッキした上で、エッチングによってヒュージブルリンク及びパッドを形成し、これらの上に付加層をホトエッチングによって形成し、更に保護層を形成しなければならず、その製造が
5 面倒であった(【0002】~【0004】)。
ウ 本発明は、製造が容易であるヒューズと端子とが一体に形成されたチップ型ヒューズを提供することを目的とする(【0005】)。エ 上記課題を解決するための手段として、本件発明のチップ型ヒューズは、端子一体型ヒューズを有している。この端子一体型ヒューズは、基板への取り付け用端子の2つの平板状部を間隔をあけて同一水平面上に有している。当該水平面とは異なる高さにある水平面における前記2つの平板状部間にヒューズが位置している。このヒューズは、前記2つの平板状部と一体に形成されている。この端子一体型ヒューズは、例えば導電性金属をプレスすることによって製造することができる。本発明の一態様のチップ型ヒューズは、ケースも有している。このケースは、一方の面が閉じられ、前記一方の面と異なる水平面に位置する他方の面が開口され、この開口の周縁から前記一方の面に向かう周壁部を有している。ケースとしては、例えば一面を開口させた中空状の立体、例えば直方体を使用することができる。このケースでは、前記ヒューズが前記開口から前記一方の面側に向かう中途の位置に位置し、前記2つの平板状部が前記周壁部にそれぞれ接触している。前記ケース内において、消弧材部が前記ヒューズに設けられている(【0006】)。このように構成すると、ケースの周壁部上に端子の2つの平板状部を接触させた状態で、ヒューズがケース内に位置するので、チップ型ヒューズを容易に製造することができる(【0007】)。オ それだけでなく、板状の比較的厚い例えばCu層をヒューズ母材として使用できるので、例えば50A程度の大電流に対応することができる。また、ヒューズ本体4と実装用の端部電極である平板状部10等が一体形成されているので、ヒューズ本体4と平板状部10とを接続するための不要な抵抗成分が発生せず、信頼性の高いヒューズが得られる。また、
5 ヒューズ部と端部電極とが一体であることにより、両者を接続するため
のスペースが不要で、比較的小型のヒューズが得られる(【0028】)。
第4 争点及び当事者の主張
1 争点
本件の争点は原判決「事実及び理由」第2の2(4頁)に記載のとおりであり、このうち当審における中心的な争点は、次のとおりである。
(1) 本件発明1に係る均等侵害の成否(原審の争点1)
(2) 本件請求原因の追加の許否(原審の争点2)
2 争点に関する当事者の主張
上記争点に関する控訴人の当事者の主張は、後記3のとおり当審における当事者の補充的主張を加えるほか、原判決「事実及び理由」第3の1(4頁~)、原判決別紙「均等侵害の成否等」(41頁~)及び第3の2(5頁~)に記載のとおりであるから、これを引用する。
3 当審における当事者の補充的主張
(1) 本件発明1に係る均等侵害の成否
ア 第2要件(置換可能性)について【控訴人の主張】被控訴人製品の構成cは本件発明1の構成Cと同様の作用効果を有しており、均等論の第2要件を充足する。(ア) 均等論の第2要件(置換可能性)にいう特許発明の作用効果とは、特許発明の課題解決原理から生じる作用効果をいい、明細書に記載された副次的な作用効果等、課題解決原理と直接に関係のない付随的な作用効果は含まれない。本件発明は、従来の同種チップ型ヒューズに比べて製造が容易である(本件明細書【0004】~【0007】)等の作用効果を奏するもの
5 であるが、「消弧材部が存在し、消弧作用を有している」ことは、本件
発明1に特有の課題解決手段によってもたらされる作用効果ではなく、本願出願時の周知技術(甲33~37)による作用効果である。したがって、「消弧材部が存在し、消弧作用を有している」ことは均等侵害の第2要件における「作用効果の同一性」に関係するものではないから、この点について被控訴人製品が本件発明1と同様の作用効果を有すると認められなくとも、第2要件を満たすことは否定されない。(イ) 仮に構成要件Cの消弧作用が問題となるとしても、原審で提出した実験結果(甲14)に加え、甲38の実験1によれば、被控訴人製品は、消弧材部を設けたヒューズと同様の消弧作用を有することが裏付けられる。また、甲38の実験2によれば、コイル成分が多く含まれた遮断実験回路ではアーク放電の持続時間が長くなり、消弧作用を正確に計測することができなくなることが裏付けられている。この実験と同様の結果を示す被控訴人提出の試験報告書(乙16)は、被控訴人に有利な結果となるよう、コイル成分が多く含まれた回路を用いたことが十分推認でき、信用性が認められない。さらに、被控訴人製品のような密閉構造において、ヒューズの可溶に伴う気化や接着剤の気化によって容器内の圧力が高まることにより消弧作用が生じていることは、「電磁コンタクタのアーク継続時間に対する封入気体と圧力の影響」と題する論文(甲40添付資料参照)により裏付けられる。よって、被被控訴人製品は、その密閉構造による圧力の上昇により、本件発明1の「消弧材部」と同様の消弧作用があるといえるから、均等論の第2要件を満たしている。(ウ) なお、被控訴人は、以前に本件発明1の侵害製品を製造、販売してい
5 たところ、被控訴人製品が第2要件を満たさないとすれば、消弧材部を
設けないことにより消弧作用が著しく低い製品を製造、販売しているということになり、被控訴人製品は、本件特許権の侵害を回避することのみを意図した改悪発明といわざるを得ない。このような場合にまで均等論の第2要件を欠くとすると、不完全利用においても均等論を認めた趣旨が没却されることになり、極めて不当である。【被控訴人の主張】(ア) 特許請求の範囲(クレーム)には「特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない」(特許法36条5項前段)のであり、出願人の意思に基づく発明を特定するために必要な事項が記載されている以上、特許請求の範囲から導かれる作用効果も出願人(特許権者)の目的とする作用効果にほかならない。したがって、均等の第2要件の判断に当たって、特許請求の範囲の記載に基づく作用効果が重要となることは当然である。また、本件発明1の目的とする作用効果については、本件発明1は消弧材部を有するヒューズを前提としており、本件明細書で消弧材部や消弧作用等について記載され(【0006】、【0010】、【0012】等)、さらに本件特許の請求項4、5、7には「消弧材部」が「ヒューズをその内部に含んでいる」、「ケース内全域に満たされている」、「ヒューズの両端付近にのみ設けられている」ことが特定されているとおり、消弧材部を有する発明(構成要件C)を前提としてさらなる消弧材部による消弧機能の向上のための発明が規定されていることからみても、消弧材部による消弧機能の向上は本件発明1の目的とする作用効果にほかならない。控訴人が主張する「本件特許発明特有の課題解決手段によって奏せら
5 れる作用効果」という議論は、第1要件にいう本質的部分の解釈には当
てはまるが、第2要件にいう「特許発明の目的」や「作用効果」もこのような特許発明に特有の技術的思想によりもたらされたものである必要があるとすると、第1要件を充足すればすべからく第2要件を充足することとなり、第2要件が存在する趣旨を没却する。(イ) 被控訴人製品の消弧作用については、コイル成分が含まれていないことが明らかな回路を用いた実験(乙17~20)によっても、被控訴人製品と控訴人の製品「JHC 50A」との間で、アークの持続時間に有意な違いが生じている。甲38の実験1は、控訴人の製品「JHC 50A」を被控訴人製品と同等としているが、同製品と被控訴人製品ではヒューズ素子の形状が大きく異なるから(乙21)、証明力はない。また、甲40の論文は、ヒューズとは構造及び電流遮断の原理が異なる電磁コンタクタに関するものであり、被被控訴人製品において圧力の上昇により消弧作用が生じていることを推認させるものではない。さらに、密閉構造による圧力の上昇により消弧作用があるとの控訴人の主張は、ケース内の圧力を逃がすことにより消弧性が向上する旨の本件明細書の記載(【0030】)と相反しており、禁反言の原理から許されない。イ 第4要件(公知技術等の非該当)について【控訴人の主張】原審は、乙1発明と乙3発明の組合せにより被控訴人製品は容易推考であると判断したが、以下に述べるとおり、乙1発明と乙3発明は課題及び技術思想が異なり、これらを組み合わせても被控訴人製品の構成に至るのが容易とはいえず、均等論の第4要件を充足する。(ア) 原判決は、乙1発明及び乙3発明について、「いずれも生産性の向
5 上という同一の課題に対し、予めヒューズと電極とを組み合わせた後
に本体に固定するという技術思想に基づく課題解決手段を提供する発明である」と判示する。しかし、そもそも乙1発明、乙3発明共に、その特許公報において「生産性の向上」を課題に掲げておらず、同一の課題を有しているとはいえない。(イ) 仮に、乙1公報及び乙3公報の内容から「生産性の向上」という課題を見出せるとしても、乙1発明は「ケース内に電極を配置した後に、電極と可溶線とを接続するという工程」に代えて「電極と可溶線とを先に接続した上で、これをケース内に配置する工程」を採用するものであり、電極と可溶線とを接続するという工程があることを前提に、製造工程の順序を理由とする「製造し難」さを課題として、製造工程の順序を「変更」することで当該課題(製造が容易な構造とする)を解決するものである。これに対し、乙3発明は「ヒューズエレメントと電極とを一体の金属で構成することで、両者を接続するという工程を省略する」ものであり、製造工程数の減少を課題として、電極とヒューズエレメント部(可溶線)とを接続するという製造工程の一部を「省略」することで当該課題を解決するものであるから、乙1発明と乙3発明は「同一の課題」に対し、同一の「技術思想に基づく課題解決手段」を提供するものではない。(ウ) また、原判決は、「乙1発明の溶断時間のばらつきを抑えるという課題と乙3発明の溶断特性を調整するという課題は、所望の溶断特性を実現するという点で関連している」と判示する。しかし、乙1発明における「溶断時間のばらつきを抑えるという課題」は、従来技術において「可溶部あるいは可溶線…が合成樹脂や低融点ガラス等の絶縁物に直接接触した構造となり、その結果可溶部が熱的中立
5 を保て」ないこと(【0002】)、及び、可溶線を電極に半田付けす
る方式において、「半田が固まる際に生じる盛り上がりの差により電極間の長さ即ち可溶線の長さにバラツキが生じる」ことを原因とする(【0005】)という外部的要因により、実際の溶断時間と当初想定していた溶断時間との間にずれが生じることを問題とするものであり、乙1発明はかかる問題を減少させ、その「精度」を高めることを課題とし、可溶線の長さを加工することで所望の溶断時間を一定程度実現できることが前提とされているものである。これに対し、乙3発明における「溶断特性を調整するという課題」は、従来技術において「ヒューズエレメント部3として同じ線径のものや同じ材料のものを使用しているため、線径や材料によって決まる溶断電流等の溶断特性を調整することができない」こと(【0004】)を問題とするものであり、乙3発明は、同じ線形又は同じ材料をヒューズエレメントに用いる場合であっても、その線形又は材料の性質にかかわらず、所望の溶断電流等を実現することを課題とするものである。したがって、乙1発明と乙3発明とは、全く異なった課題を有するものであるから、乙1発明と乙3発明の課題を「所望の溶断特性を実現する」といった極めて抽象的な内容に上位概念化し、また、「関連している」といった両者の具体的関係性が不明瞭な評価をもって、結論において両者の課題が共通であると評価する原判決の事実評価には誤りがある。(エ) 以上のとおり、乙1発明と乙3発明は、技術分野が共通するにすぎず、発明の技術的思想、すなわち課題及び解決手段を異にするものであり、乙1発明には乙3発明を適用することについての示唆も認められないから、乙1発明に乙3発明を適用する動機付けは存在しない。したがって、被控訴人製品は、乙1発明及び乙3発明から容易に推考できたとはいえず、均等論の第4要件を充足する。
5 【被控訴人の主張】
(ア) 乙1公報には、解決課題及び作用効果として「製造が容易」、「量産性に優れている」、「容易に製造することができる」と記載されており(【0007】、【0020】、【0027】)、これらは「生産性の向上」に他ならないし、乙3公報には明示的に「生産性を向上させることができる」と記載されており(【0009】、【0036】)、乙1発明と乙3発明の解決課題は強い共通性を有している。(イ) 乙3公報には、ヒューズエレメント部と外部電極が別の場合(請求項1及び図2)と比較して、ヒューズエレメント部と外部電極とを一体の金属で構成すれば生産性が向上することが明記されている(請求項3、段落【0009】及び図5)のであるから、乙1発明と乙3発明に接した当業者が、乙1発明より更なる生産性の向上を志向して、乙3発明に記載されているヒューズエレメント部と外部電極が一体の構成(請求項3)を採用することは、同一の課題に対する同一の技術的思想に基づく課題解決手段を提供するものにほかならない。すなわち、乙3にはヒューズエレメント部と外部電極が別体の発明と一体の発明双方が記載されているのであり、ヒューズエレメント部と外部電極が別体の発明である乙1発明に、乙3発明に接した当業者がヒューズエレメント部と外部電極を一体とする構成とすることを容易に想到することは明らかである。
(2) 本件請求原因の追加の許否
【控訴人の主張】ア 訴え変更が「著しく訴訟手続を遅滞させることとなる」(民事訴訟法143条1項)とは、従前の訴訟手続を完結するに要する見積時間と訴え変更後の訴訟完結に要する見積り時間を対比して、後者が著しく長日時を要し、別訴を提起させるものとあまりかわりがない場合をいうと解
5 釈されている(紺野長良・民事訴訟法要義Ⅱ245 頁、岩松三郎=兼子一
「訴の変更」実務講座Ⅱ224 頁、大阪地判昭和36・9・11労働民判例集 12 巻 5 号 824 頁)。しかし、原判決は、従前の訴訟手続を完結するに要する見積時間と訴え変更後の訴訟完結に要する見積り時間を対比して後者が別訴を提起させるものとあまり変わりがないほど、「著しく」訴訟手続に長い日時を要するのかについては検討していないから、法的解釈を誤っている。イ 本件発明2(請求項3)は、本件発明1(請求項1)の従属項であって、本件付加構成を除き本件発明1の構成要件と一致しており、被控訴人製品がこれを充足すること(構成要件Cを除く。)に争いがないから、被控訴人製品の構造が本件発明2の構成要件C以外の構成要件を充足することも明白であり、新たな争点は生じ難い。また、仮に被控訴人から新たな無効原因の主張がなされるとしても、本件発明2が本件発明1の従属項であることに鑑みれば、その無効理由に関しても、既に検討を尽くした先行発明(技術)の検討資料を活用できることが予想され、更なる訴訟の審理の長期化は起こり得ない。ウ 他方、別訴提起による場合、一から審理することになるため長期間の審理となり、訴訟経済上不得策であり、紛争の一回的解決という訴訟の目的にも反することになる。【被控訴人の主張】原審が本件訴えの変更を著しく訴訟手続を遅滞させるものとして不許としたことは正当であり、その理由についても原判決に正しく記載されているとおりである。控訴人は、被控訴人製品が構成要件Cを除く本件発明2の構成要件を充足することは明白であると主張するが、本件付加構成の解釈及び被控訴人製品の特定を巡って充足論の審理をやり直さなければならなくなることは明ら
5 かであり、控訴人の主張は理解不能といわざるを得ない。
第5 当裁判所の判断
1 本件発明1に係る均等侵害の成否について
当裁判所も、被控訴人製品は本件発明1と均等なものとしてその技術的範囲に属するということはできないと判断する。その理由は、下記のとおり当審における当事者の補充的主張に対する判断を付加するほか、原判決「事実及び理由」第4の1(2)ウ(10頁~)のとおりであるから、これを引用する。【当審における当事者の補充的主張に対する判断】均等論の第4要件(公知技術等の非該当)についての控訴人の補充的主張につき判断する。
(1) 控訴人は、乙1発明と乙3発明は技術分野が共通するにすぎず、発明の技
術的思想すなわち課題及び解決手段を異にするものであり、乙1発明に乙3発明を適用することについての示唆も認められないから、乙1発明に乙3発明を適用する動機付けは存在しないとして、被控訴人製品は乙1発明及び乙3発明から容易推考とはいえず、均等の第4要件を充足する旨主張する。
(2) しかし、被控訴人製品及び乙1発明の構成は、原判決別紙「裁判所の認定」
のとおりであり、被控訴人製品の「平板状部」は乙1発明の「金属電極2」に、被控訴人製品の「ヒューズ」は乙1発明の「可溶線5」にそれぞれ相当する。したがって、両者を比較すると、被控訴人製品は、「平板状部と一体形成されている端子一体型ヒューズ」の構成(構成a-3)を有するのに対し、乙1発明では、可溶線5と金属電極2は異なる部材で構成され、当該可溶線5は可溶線挟持部22において挟持されることによって金属電極2に接続された構成(構成α-3')である。したがって、乙1発明は被控訴人製品の構成a-3を有していない点が相違すると認められる一方、これ以外の構成
5 は被控訴人製品の構成と同一である。
(3) そこで、上記相違点について検討するに、乙3公報には、「面実装可能な
小型ヒューズ」において「溶断部を配設したヒューズエレメント部と外部電極を一体の金属で形成する」という乙3発明が開示されている。ここでいう「溶断部を配設したヒューズエレメント部」は、乙1発明の「可溶線5」に相当するから、乙3公報は、上記相違点に係る被控訴人製品の構成(構成a-3)を開示するものといえる。そして、乙1発明と乙3発明は、いずれも表面実装型ヒューズに関する発明であって技術分野は同一であることに加え、乙1公報には、「第1の好適実施形態の表面実装超小型電流ヒューズの制作組立の一例」として、「フレーム状に連続プレス成型加工」した「1対の金属電極2」に「可溶線5」を挟持させた上で、「本体1」に固定するという工程(【0020】)、すなわち予めヒューズと電極とを組み合わせた後に本体に固定する工程が記載されており、この点において、ヒューズエレメント部と外部電極を一体の金属で形成する乙3発明の工程との共通点も認められる。そして、乙3公報によれば、「ヒューズエレメント部と外部電極を一体の金属で構成」(【特許請求の範囲】【請求項3】)することは、「この構成によれば、ヒューズエレメント部と外部電極を接続する必要がなくなるため、生産性を向上させることができるという作用効果が得られる」(【0009】、【0036】も同旨)ものである。このように製品構造を簡素化して製造工程を容易にすることによる「生産性の向上」という課題は、工業製品である表面実装超小型電流ヒューズに関する発明である乙1発明にも当然内在しているものと認められ、乙1公報の「本発明は、上記問題点を解決し、製造が容易な構造を有し、また溶断時間のバラツキを最小限に抑え、かつ高い信頼性を有する表面実装超小型電流ヒューズを提供することにある(【発明が解決しようとする課題】【000
5 7】)、「以上の全工程は連続工程で容易に行うことができ、量産性に優れ
ている。」(【0020】)、「本発明の表面実装超小型電流ヒューズは、以上説明したように構成されているので、製作組立が連続工程でなすことができ、その結果容易に製造することができる。従って、大幅なコスト削減が可能となる。」(【0027】)との記載によっても裏付けられる。したがって、当業者にとって、乙1発明に乙3発明の「ヒューズエレメント部と外部電極を一体の金属で形成する」構成を適用する動機付けは十分にあると認められる。
(4) この点につき、控訴人は、乙1発明と乙3発明の課題を抽象的な内容に上
位概念化し、両者の具体的関連性について不明なまま課題が共通すると判断することは適切ではない旨の主張をするが、乙1公報には乙3発明との課題の共通性を示唆する具体的な記載があることは上記(3)で述べたとおりであり、控訴人の批判は当たらない。
(5) したがって、控訴人の主張は採用できず、乙1発明の可溶線と金属電極を
異なる部材で構成する構成に代えて、乙3発明のヒューズエレメント部と外部電極部を一体の金属で形成する構成を採用して被控訴人製品の構成とすることは、当業者が本件特許の出願時に容易に推考し得たものと認められる。すなわち、被控訴人製品は均等論の第4要件を満たさない。そうすると、その余の点を判断するまでもなく、被控訴人製品は本件発明1と均等なものとしてその技術的範囲に属するということはできないことになる。
2 本件請求原因の追加の許否について
当裁判所は、本件請求原因の追加は攻撃方法の提出であって、民事訴訟法143条ではなく同法157条の規律に服するものではあるが、結論的には時機に後れたものとして却下を免れないと判断する。その理由は、以下のとおりである。
5 (1) 控訴人の本件請求は、特許法100条1項、3項に基づく差止請求、廃
棄請求及び不法行為に基づく損害賠償請求である。そのいずれも、被控訴人による被控訴人製品の譲渡等が控訴人の有する「本件特許権」を侵害するとの請求原因に基づくものである。そして、特許法は、一つの特許出願に対し一つの行政処分としての特許査定又は特許審決がされ、これに基づいて一つの特許が付与され、一つの特許権が発生するという基本構造を前提としており、請求項ごとに個別に特許が付与されるものではない。そうすると、ある特許権の侵害を理由とする請求を法的に構成するに当たり、いずれの請求項を選択して請求原因とするかということは、特定の請求(訴訟物)に係る攻撃方法の選択の問題と理解するのが相当である。請求項ごとに別の請求(訴訟物)を観念した場合、請求項ごとに次々と別訴を提起される応訴負担を相手方に負わせることになりかねず不合理である。当裁判所の上記解釈は、特許権の侵害を巡る紛争の一回的解決に資するものであり、このように解しても、特許権者としては、最初から全ての請求項を攻撃方法とする選択肢を与えられているのだから、その権利行使が不当に制約されることにはならない。
(2) 以上によれば、控訴人による本件請求原因の追加は、訴えの追加的変更に
当たるものではなく、新たな攻撃方法としての請求原因を追加するものにとどまるから、本件請求原因の追加が民事訴訟法143条1項ただし書により許されないとした原審の判断は誤りというべきである。
(3) もっとも、被控訴人は、本件請求原因の追加が攻撃方法に該当する場合に
は民事訴訟法157条1項に基づく却下を求める旨の申立てをしている(引用に係る原判決の第3の2「
(被告の主張)
」欄(2))から、以下この点について判断する。ア まず、本件請求原因の追加に至るまでの原審における手続等の経緯として、別紙「本件請求原因の追加に至る経緯」記載の事実が認められる
5 (本件記録から明らかである。)。
すなわち、被控訴人は、答弁書(令和4年2月28日付け)の段階で、乙1公報及び乙3公報等の公知文献を具体的に示して、均等論の第4要件の充足を争う詳細な主張を提出した。その後、控訴人と被控訴人は、同年11月までに、当該争点に関する議論を含む主張書面を2往復させ主張立証を尽くしてきた。この間の書面準備手続調書には、被控訴人の「均等論の第4要件を中心に反論書面を提出する」との進行意見が記載されるなど、均等論の第4要件の充足性は、少なくとも本件の中心的な争点の一つと認識されていた。そうして、侵害論に関する主張立証が一応の区切りとなった同月28日のウェブ会議による協議(書面による弁論準備手続に係るもの。以下同じ。)において、裁判所から双方当事者に被控訴人製品は本件発明1の技術的範囲に属さないとの心証開示があり、双方は和解を検討することとなった。その後間もなく和解交渉は不調に終わったところ、令和5年1月27日の協議において、控訴人は、消弧作用についての再反論(注・均等論の第2要件関係)及びこれまでの主張の補充等を記載した準備書面を提出すると述べた。ところが、控訴人は、同年2月27日付け準備書面をもって、本件請求原因の追加の主張をするに至った。これに対し、被控訴人は、同年4月13日付け準備書面をもって、時機に後れた攻撃方法としての却下又は著しく訴訟手続を遅延させる訴えの変更としての不許決定を求める申立てをした。イ 以上に基づいて、まず、本件請求原因の追加が「時機に後れた」ものといえるかどうかを検討するに、本件において、控訴人が本件請求原因の追加を求めた理由は、請求項1に係る本件発明1の技術的範囲の属否を問題とする限り、被控訴人が提出した公知文献(特に乙1公報及び乙3公報)との関係で均等論の第4要件(公知技術等の非該当)は満たさないと判断される可能性が高いことを踏まえ、本件付加構成を備える請求
5 項3に係る本件発明2を議論の俎上に載せることで、均等論の第4要件
をクリアしようとしたものと理解される。しかし、上記アのとおり、均等論の第4要件を争う被控訴人の主張は、既に答弁書の段階で詳細かつ具体的に提出されており、これに対する対抗手段として、本件請求原因の追加を検討することは可能であったものである。その後、約9か月にわたり双方が主張書面を2往復させてこの点の主張立証を尽くしていたところ、その後に裁判所からの心証開示を受けた後に、しかも、控訴人自ら、補充的な書面提出のみを予定する旨の進行意見を述べていたにもかかわらず、突然、本件請求原因の追加を行ったものであって、これが時機に後れた攻撃方法の提出に当たることは明らかである。ウ 次に、故意又は重過失の要件についてみるに、本件請求原因の追加は、当初から本件特許の内容となっていた請求項3を攻撃方法に加えるという内容であるから、その提出を適時にできなかった事情があるとは考え難い。外国文献等をサーチする必要があったケースとか、権利範囲の減縮を甘受せざるを得なくなる訂正の再抗弁を提出する場合などとは異なる。控訴人からも、やむをえない事情等につき具体的な主張(弁解)はされていない。そうすると、時機に後れた攻撃方法の提出に至ったことにつき、控訴人には少なくとも重過失が認められるというべきである。エ そして、本件請求原因の追加により、訴訟の完結を遅延させることとなるとの要件も優に認められる。すなわち、本件発明2の本件付加構成を充足するか否かについては、従前全く審理されていないから、本件請求原因の追加を許した場合、この点について改めて審理を行う必要が生ずることは当然である。そして、被控訴人は、仮に本件請求原因の追加が許された場合の予備的主張として、本件発明2の本件付加構成のクレーム解釈及び被控訴人製品の特定に関す る詳細な求釈明の申立てをする
5 (控訴答弁書19頁~)などしていることを踏まえると、この点の審理
には相当な期間を要し、訴訟の完結を遅延させることとなることは明らかである。
3 結論
以上によれば、控訴人の請求を全部棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。知的財産高等裁判所第4部裁判長裁判官宮 坂 昌 利裁判官本 吉 弘 行裁判官頼 晋 一別紙 本件請求原因の追加に至る経緯【令和3年10月29日】 本件訴訟提起〔訴状の内容〕
5 請求原因は、被控訴人製品は本件発明1の構成要件Cを充足しないがその
余の構成要件をすべて充足し、均等論の第1要件から第5要件までをすべて満たすから、本件発明1の技術的範囲に属するとするもの。【令和4年2月28日】 被控訴人、答弁書を提出〔答弁書の内容〕均等侵害の請求原因事実について否認し、第4要件については、乙1公報及び乙3公報等の公知文献を具体的に示し、被控訴人製品は公知技術と同一又は公知技術から容易に推考できたと主張するもの。【同年3月8日 書面による準備手続協議(1回目)】〔調書の記載〕控訴人 「実施行為の有無と均等論についてを中心に、答弁書に反論する準備書面及び書証を提出する。」【同年5月13日】 控訴人、準備書面1を提出【同月20日 書面による準備手続協議(2回目)】〔調書の記載〕控訴人 「被告製品の国内販売について立証の追加を検討する。」被控訴人「均等論の第4要件を中心に反論書面を提出する。」【同年7月20日】 控訴人、準備書面2を提出【同日】 被控訴人、準備書面(1)を提出〔準備書面の内容〕均等論の反論、進歩性欠如の無効の抗弁【同月26日 書面による準備手続協議(3回目)】〔調書の記載〕控訴人 「被告の準備書面(1)記載の無効論に対する反論を記載した準備書面を提出する。」被控訴人「原告の準備書面2に対する反論を記載した準備書面を提出する。」【同年9月16日】 控訴人、準備書面3を提出
5 〔準備書面の内容〕均等論の主張の補充、無効の抗弁に対する認否反論
【同日】 被控訴人、準備書面(2)を提出【同月29日 書面による準備手続協議(4回目)】〔調書の記載〕控訴人 「被告が主張する被告製品の構成cについて、争う予定はない。」「準備書面3の43ページに記載の主張(注:無効論)を補充する準備書面を提出する。」被控訴人「原告の準備書面3に対する反論を記載した準備書面を提出する。」【同年10月20日】 控訴人、準備書面4を提出〔準備書面の内容〕 無効論の主張の補充【同年11月21日】 被控訴人、準備書面(3)を提出〔準備書面の内容〕均等論(第2要件〔消弧作用についての実験結果〕、第4要件)【同月28日 書面による準備手続協議(5回目)】〔原判決〕原審裁判所は、当事者双方に対し、被控訴人製品は本件発明1の技術的範囲に属さないとの心証を開示した。〔調書の記載〕当事者双方「和解について検討する。」【同年12月23日 書面による準備手続協議(6回目)】〔調書の記載〕当事者双方「和解について検討する。」【令和5年1月27日 書面による準備手続協議(7回目)】〔調書の記載〕控訴人 「消弧作用についての再反論を記載した準備書面を提出する。」「これまでの主張の補充等を記載した準備書面を提出する。」
5 被控訴人「提出予定の原告書面への反論を提出する予定の有無について、次
回協議の日までに検討する。」【同年2月27日】 控訴人、準備書面5を提出〔準備書面の内容〕本件請求原因の追加【同年3月14日 書面による準備手続協議(8回目)】〔調書の記載〕被控訴人「原告の準備書面5に関し、進行についての意見を記載した準備書面を提出する」【同日】 書面による準備手続終結、口頭弁論期日指定【同年4月13日】 被控訴人、準備書面(4)〔準備書面の内容〕本件請求原因の追加について、時機に後れた攻撃方法としての却下又は著しく訴訟手続を遅延させる訴えの変更としての不許決定を求めるもの【同月20日 第1回口頭弁論期日】〔調書の記載〕当事者双方「他に主張立証はない」弁論終結以 上
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