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令和5(行ケ)10056承継参加申立事件

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裁判所 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和6年3月25日
事件種別 民事
対象物 ワクチンアジュバントの製造の間の親水性濾過
法令 特許権
特許法36条6項1号1回
特許法29条1項1回
キーワード 審決42回
無効40回
実施31回
進歩性20回
無効審判6回
特許権2回
刊行物1回
優先権1回
主文 1 特許庁が無効2021-800005号事件について令和5年2月2
0日にした審決中、特許第5754860号のうち特許請求の範囲の
2 訴訟費用は承継参加人の負担とする。
3 承継参加人のため、この判決に対する上告及び上告受理申立てのため
事件の概要 本件は、特許無効審判請求に係る不成立審決の取消訴訟である。争点は、進歩性 の有無及びサポート要件(特許法36条6項1号)違反の成否である。

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判決文

令和6年3月25日判決言渡
令和5年(行ケ)第10056号 承継参加申立事件
口頭弁論終結日 令和6年1月25日
判 決
5 当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
主 文
1 特許庁が無効2021-800005号事件について令和5年2月2
0日にした審決中、特許第5754860号のうち特許請求の範囲の
請求項1から36まで及び38から54までに係る特許についての特
10 許無効審判請求は成り立たないとした部分を取り消す。
2 訴訟費用は承継参加人の負担とする。
3 承継参加人のため、この判決に対する上告及び上告受理申立てのため
の付加期間を30日と定める。
事 実 及 び 理 由
15 第1 請求
主文第1項と同旨
第2 事案の概要
本件は、特許無効審判請求に係る不成立審決の取消訴訟である。争点は、進歩性
の有無及びサポート要件(特許法36条6項1号)違反の成否である。
20 1 特許庁における手続の経緯等
脱退被告は、名称を「ワクチンアジュバントの製造の間の親水性濾過」とする発
明についての特許(特許第5754860号。以下「本件特許」という。)の特許
権者であった(甲1)。
本件特許については、2010年(平成22年)12月3日を国際出願日とする
25 特許出願(特願2012-541594号(以下「本件出願」という。)。パリ条
約による優先権主張(米国)2009年(平成21年)12月3日(以下「本件優
先日」という。))がされ、平成27年6月5日に設定登録がされた(以下、本件
特許に係る設定登録時の明細書及び図面(甲1)を「本件明細書」という。)(甲
1)。
原告は、令和3年1月26日、脱退被告を被請求人として、本件特許(請求項1
5 から46まで)につき特許無効審判の請求をし(甲52)、特許庁は、無効202
1-800005号事件として審理した(弁論の全趣旨)。
脱退被告は、令和3年8月2日付けで、訂正請求書(甲54)を提出し、同年1
1月1日付けで、同訂正請求書に係る手続補正書(方式)(甲55)を提出し、令
和4年3月14日付けで、同訂正請求書に係る手続補正書(甲59)を提出した
10 (以下、令和3年8月2日付け訂正請求書による訂正請求(同年11月1日付け手
続補正書(方式)及び令和4年3月14日付け手続補正書による各手続補正後のも
の)を「本件訂正」という。なお、本件訂正による本件明細書の記載の変更はな
い。)をした(本件訂正後の本件特許の特許請求の範囲は、請求項1から36まで
及び38から54までとなる。)。
15 特許庁は、令和5年2月20日、「特許第5754860号の特許請求の範囲を、
訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔21~3
0、32〕、〔37~54〕について訂正することを認める。請求項1~36、3
8~54に係る特許についての本件審判の請求は、成り立たない。請求項37につ
いての本件審判の請求を却下する。」との審決(以下「本件審決」という。)をし
20 (弁論の全趣旨)、その謄本は、同年3月3日、原告に送達された(弁論の全趣
旨)。
原告は、令和5年3月31日、脱退被告を被告として、本件審決のうち本件特許
の請求項1から36まで及び38から54までに係る特許についての特許無効審判
請求を不成立とした部分の取消しを求める訴えを提起した(当庁令和5年(行ケ)
25 第10033号。当裁判所に顕著な事実)。
脱退被告は、承継参加人(以下「参加人」という。)に対し、遅くとも令和5年
4月27日までに、本件特許に係る特許権を譲渡し(丙1)、同年5月17日、そ
の旨の移転登録がされた(丙2)。
参加人は、令和5年5月19日、本件承継参加の申出をした(当裁判所に顕著な
事実)。脱退被告は、同年6月16日、原告の承諾を得て本件訴訟から脱退し、こ
5 れにより、当庁令和5年(行ケ)第10033号事件は終了した(当裁判所に顕著
な事実)。
2 本件特許に係る発明の要旨(甲55)
本件特許に係る本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1から36まで及び38か
ら54までの記載は、別紙特許請求の範囲のとおりである(以下、各請求項に係る
10 特許発明を請求項の番号に対応させて「本件発明1」などといい、本件発明1から
36まで及び38から54までを併せて「本件各発明」という。)。
本件発明1は、スクアレン含有水中油型エマルジョンの製造方法について、0.
3μm以上の孔サイズを有する層と0.3μm未満の孔サイズを有する層を含む親
水性二重層ポリエーテルスルホン膜を使用するものであり、そのような親水性二重
15 層ポリエーテルスルホン膜を使用することは、本件発明2から36まで及び38か
ら54まで(以下「本件発明2等」という。)に共通する発明特定事項となってい
る。
3 本件審決の理由の要旨(原告において審決取消事由があると主張する無効理
由3(サポート要件違反)及び無効理由4(1)から(4)まで(進歩性欠如)に係る部
20 分に限る。なお、後記のとおり、当裁判所は、無効理由4(1)(甲11記載の発明
を主引用発明とする進歩性欠如。本件訴訟における取消事由1)について、容易想
到性を認め、これと異なる判断をした審決を取り消す旨判断したので、原告の主張
する無効理由3及び無効理由4(2)から(4)までに係る各審決取消事由は、この判決
では判断していない。)
25 (1) 無効理由3(本件各発明に係る特許請求の範囲の記載のサポート要件違反)
について
本件各発明には、
① 「第1の層」と「第2の層」とを含む「二重層」の「ポリエーテルスルホン」
膜であること、
② 前記「第1の層」が「0.3μm以上」の孔サイズを有し、かつ、前記「第
5 2の層」が「0.3μmより小さい」孔サイズを有すること、
③ 「親水性」であること
を併せ満たす親水性二重層ポリエーテルスルホン(PES)膜(以下「本件各発明
に係る親水性二重層PES膜」ともいい、前記①から③までの本件各発明に係る構
成上の要件を併せて「本件各要件」という。)を用いた濾過工程を含む水中油型エ
10 マルジョンを製造する方法が規定されている。
そして、本件明細書の記載によると、発明の詳細な説明には、50L規模のエマ
ルジョン濾過後の良好なエマルジョン回収率に係る現実の試験結果(本件各発明に
係る親水性二重層PES膜の例であると一応理解し得る複数種のフィルタ1及び8
から10までを用いたもの)と共に、本件各発明に係るいずれの方法についても当
15 業者が使用することができるといえる程度の明確かつ十分な記載がされているとい
うことができる。
そうすると、このような本件明細書の発明の詳細な説明の記載をみた当業者であ
れば、本件各発明に係る親水性二重層PESである任意の膜(フィルタ)を用いた
スクアレン含有水中油型エマルジョンの製造方法が提供されており、かつ、当該製
20 造方法を使用することにより、「微小流動化した水中油型エマルジョン(例えば、
MF59)の生成のためのさらなるかつ改善された方法、特に、商業スケールでの
使用に適しておりかつ濾過を使用する方法を提供する」との課題が解決できると認
識し得るものである。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件各発明の課
25 題を解決できると認識できる範囲のものであるということができるから、本件特許
に係る本件訂正後の請求項1から36まで及び38から54までの記載は、いずれ
も明細書のサポート要件に適合するものである。
(2) 無効理由4(1)(甲11(Humana Press, Inc.発行の「Methods in
Molecular Medicine」42巻(2000年)の211~228頁に掲載された
「The Adjuvant MF59: A 10-Year Perspective」(Gary Ott ら著))に記載された
5 発明を主引用発明とする進歩性欠如)について
ア 甲11記載の発明の認定
甲11には、次の各発明(以下、順に「甲11発明1」及び「甲11発明2」と
いう。)が記載されている。
(甲11発明1)
10 次の工程(Ⅰ)~(Ⅲ):
(Ⅰ) ポリソルベート80をWFIに溶解させて水性クエン酸ナトリウム-
クエン酸緩衝液と組合せ、それとは別に、ソルビタントリオレエートをスクアレン
に溶解させ、これら二つの溶液を組み合わせた後、インラインホモジナイザーで処
理して、粗エマルジョンを得る工程:
15 (Ⅱ) 当該エマルジョンを、所望の粒径になるまでマイクロフルイダイザー
の相互作用チャンバーに繰り返し通らせて、平均粒径が約150nmで1.2μm
以上の粒子数の仕様上の上限が3.3×107/mlである、MF59C.1アジ
ュバントエマルジョンの50L規模のバルクを取得する工程:
及び
20 (Ⅲ) 得られたバルクを0.22μm膜に通して滅菌濾過する工程;
を含む、MF59C.1サブミクロンエマルジョンを製造する方法
(甲11発明2)
甲11発明1の方法により得られたバルクエマルジョンを、インフルエンザヘマ
グルチニン(HA)又はそれ以外の様々な抗原と共に、単一容器内で若しくは別々
25 のバイアル内で製剤化する、ワクチンの製造方法
イ 本件発明1と甲11発明1との対比
本件発明1と甲11発明1は、次の一致点において一致し、相違点1において相
違する。
(一致点)
スクアレン含有水中油型エマルジョンを製造するための方法であって、該方法は、
5 ・第1の平均油滴サイズを有する第1のエマルジョンを提供する工程;
・該第1のエマルジョンを微小流動化して、該第1の平均油滴サイズより小さな
第2の平均油滴サイズを有する第2のエマルジョンを形成する工程;
および
・該第2のエマルジョンを、膜を使用して、濾過し、それによって、スクアレン
10 含有水中油型エマルジョンを提供する工程、
を包含する、方法
(相違点1)
濾過で使用される「膜」が、本件発明1では、「0.3μm以上の孔サイズを有
する第1の層と0.3μmより小さい孔サイズを有する第2の層とを含む親水性二
15 重層ポリエーテルスルホン膜」であるのに対し、甲11発明1では、「0.22μ
m」の膜であって、上記の構成の膜であることの規定がない点
ウ 判断
(ア) 相違点1に係る本件発明1の構成の容易想到性について
相違点1に係る膜は、整理すると、本件各要件を併せ満たす親水性二重層PES
20 膜(フィルタ)である。
そして、甲11には、甲11発明1に係る方法において、0.22μmの滅菌濾
過膜を用いた濾過に代え、又は当該濾過に加え、本件各要件を併せ満たす親水性二
重層PES膜(フィルタ)を使用することについては、何ら具体的な記載又は示唆
がされていない。
25 また、原告が提出した本件優先日前に頒布されたものと認められる他の甲号証の
いずれも、甲11発明1に係る方法において、0.22μmの滅菌濾過膜を用いた
濾過に代え、又は当該濾過に加え、本件各要件を併せ満たす親水性二重層PES濾
過膜(フィルタ)を使用することについて、何ら具体的な記載又は示唆をするもの
ではない。
この点に関し、本件各要件を併せ満たす親水性二重層PES濾過膜の例として、
5 「Sartopore ○ 2」(以下「本件製品」という。)は、丙4(甲15)

(Sartorius社が2007年に発行した製品カタログ)の記載にみられる
ように、本件優先日前から市販されており、当業者にとって周知であったとはいえ
るものの、丙4において、甲11発明1に係るMF59C.1のようなスクアレン
含有水中油型エマルジョンを滅菌濾過対象とすることの記載又は示唆がみられるわ
10 けでもない。
そうすると、丙4の記載から把握できる周知の事項を踏まえたとしても、甲11
発明1に係る方法において、0.22μmの滅菌濾過膜を用いた濾過に代え、又は
当該濾過に加え、本件各要件を併せ満たす親水性二重層PES濾過膜を用いた濾過
を行うことが当業者にとって容易に想到し得たということはできない。
15 (イ) 本件発明1の効果について
本件発明1に係る方法が奏す有利な効果について、本件明細書の実施例4の試験
結果がまとめられた【表3】を含む段落【0197】並びに当該試験において用い
られたフィルタの仕様等に関する甲36、37等の各表の記載によれば、相違点1
に係る本件各要件を併せ満たす膜(すなわち、本件各発明に係る親水性二重層PE
20 S膜(例えば、フィルタ1、9、10))を濾過膜として使用することで、本件各
要件の全ては満たさない比較対照フィルタ(具体的には、例えば、第2の層又は第
1の層及び第2の層の両方の材料がPVDFである(PESではない)親水性二重
層フィルタ(フィルタ2、3)、単層である孔サイズ0.2μmの親水性フィルタ
(フィルタ4、5)、第1の層の孔サイズが0.2μmである(「0.3μm以上」
25 ではない。)フィルタ(フィルタ7))を使用した場合と比較して、例えば、「5
0L規模の商業スケール」との条件の下でのスクアレン含有水中油型エマルジョン
の回収率において、予期し得ない優れた効果がもたらされるものと理解することが
できる。
エ 本件発明1についての小括
前記アからウまでにおいて検討したとおりであるから、本件発明1は、甲11記
5 載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでは
ない。
オ 本件発明2等について
本件発明1及び本件発明2等においては、いずれも各請求項に規定される水中油
型エマルジョンの製造に用いる濾過膜(フィルタ)として、本件各要件を併せ満た
10 す親水性二重層ポリエーテルスルホン(PES)膜が共通の発明特定事項として規
定されているものと認められる。
したがって、本件発明2等は、甲11発明1又は2と対比すると、本件発明1の
場合と同様、少なくとも相違点1と同様の相違点を有するものである。
そうすると、本件発明2等のいずれについても、本件発明1につき前記アからエ
15 までにおいて述べたのと同様の理由により、甲11記載の発明及び周知技術に基づ
いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
カ 無効理由4(1)についての小括
前記アからオまでにおいて述べたとおりであるから、無効理由4(1)は、理由が
ない。
20 (3) 無効理由4(2)(甲12の1(国際公開第2008/009309号。以下、
単に「甲12」という。)に記載された発明を主引用発明とする進歩性欠如)につ
いて
ア 甲12記載の発明の認定
甲12には、次の各発明(以下、順に「甲12発明1」及び「甲12発明2」と
25 いう。)が記載されている。
(甲12発明1)
次の工程(Ⅰ)~(Ⅲ);
(Ⅰ) 疎水性成分(α-トコフェロールおよびスクアレン)からなる油相と、
水溶性成分(モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン及びPBS(変性)、
pH6.8)を含有する水相とを強く撹拌しながら混合する工程;
5 (Ⅱ) 得られる混合物を、ミクロフルイダイザーにかけることにより、サブ
ミクロンの液滴(100~200nmの分布)のエマルジョンを生成させる工程;
(Ⅲ) 次いで、得られたエマルジョンを、0.22μm膜に通す濾過によっ
て滅菌し、油滴の粒径サイズが150~155nmの滅菌バルクエマルジョンを得
て、滅菌不活性ガス充填下で冷蔵保存する工程;
10 を含む、以下の組成の水中油型エマルジョンアジュバントSB62の製造方法
Tween80:1.8%(v/v) 19.4mg/ml; スクアレン:5
%(v/v) 42.8mg/ml; α-トコフェロール:5%(v/v) 4
7.5mg/ml; PBS-mod:NaCl 121mM、KCl 2.38
mM、Na2HPO 4 7.14mM、KH 2PO 4 1.3mM; pH6.8±
15 0.1
(甲12発明2)
甲12発明1の方法により得られたアジュバントSB62をPBS-modと混
合して0.22μm膜を通す濾過により滅菌し、得られた滅菌AS03アジュバン
トをシリンジ中に充填し;
20 これを、バイアル中に充填されていたアジュバント無添加スプリットウイルス最
終バルク(不活化スプリットビリオン(H5N1)抗原含有)に射出して加えて再
構成する;
不活化スプリットビリオン(H5N1)の1用量あたりの量が15/7.5/3.
8μgHAのスプリットウイルスワクチンの製造方法
25 イ 本件発明1と甲12発明1との対比
本件発明1と甲12発明1は、次の一致点において一致し、相違点2において相
違する。
(一致点)
スクアレン含有水中油型エマルジョンを製造するための方法であって、該方法は、
・第1の平均油滴サイズを有する第1のエマルジョンを提供する工程;
5 ・該第1のエマルジョンを微小流動化して、該第1の平均油滴サイズより小さな
第2の平均油滴サイズを有する第2のエマルジョンを形成する工程;
および
・該第2のエマルジョンを、膜を使用して、濾過し、それによって、スクアレン
含有水中油型エマルジョンを提供する工程、
10 を包含する、方法
(相違点2)
濾過で使用される「膜」が、本件発明1では、「0.3μm以上の孔サイズを有
する第1の層と0.3μmより小さい孔サイズを有する第2の層とを含む親水性二
重層ポリエーテルスルホン膜」であるのに対し、甲12発明1では、「0.22μ
15 m」の膜であって、上記の構成の膜であることの規定がない点
ウ 判断
相違点2は、相違点1と同じである。
そして、甲12には、甲12発明1に係る方法において、0.22μmの滅菌濾
過膜を用いた濾過に代え、又は当該濾過に加え、本件各要件を併せ満たす親水性二
20 重層PES濾過膜(フィルタ)を使用することについては、何ら具体的な記載又は
示唆がされていない。
また、本件優先日前に頒布されたものと認められる他の甲号証のいずれも、甲1
2発明1に係る方法において、0.22μmの滅菌濾過膜を用いた濾過に代え、又
は当該濾過に加え、本件各要件を併せ満たす親水性二重層PES濾過膜(フィルタ)
25 を使用することについて、何ら具体的な記載又は示唆をするものではない。
さらに、前記(2)ウ(イ)において述べたとおり、本件発明1は、本件明細書の実施
例4において例示されているような、先行技術から予期し得ない優れた効果を奏す
るものである。
したがって、甲11記載の発明を主引用発明とした場合(前記(2)ウ)について
述べたのと同様の理由により、本件発明1は、甲12記載の発明及び周知技術に基
5 づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明2等について
前記(2)オ及び前記アからウまでの検討結果を併せ踏まえると、本件発明2等も、
本件発明1につき前記アからウまでにおいて述べたのと同様の理由により、甲12
記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと
10 はいえない。
オ 無効理由4(2)についての小括
前記アからエまでにおいて述べたとおりであるから、無効理由4(2)は、理由が
ない。
(4) 無効理由4(3)(甲13(特表2002-513773号公報)に記載され
15 た発明を主引用発明とする進歩性欠如)について
ア 甲13記載の発明の認定
甲13には、次の各発明(以下、順に「甲13発明1」及び「甲13発明2」と
いう。)が記載されている。
(甲13発明1)
20 次の工程(Ⅰ)~(Ⅲ):
(Ⅰ) αトコフェロール及びスクアレンを合わせ加温・溶解させた油相スト
ック溶液に、
PLURONIC F-68 NFブロック共重合体、グリセロール、注射用
水及びリン酸アンモニウムを加温・溶解させた水相ストック溶液を添加しながら、
25 さらにMLA/卵PC混合物を合わせて乳化して水中油型乳濁液(SE乳濁液)
を得る工程;
(Ⅱ) 得られた乳濁液をホモジナイザーを用いて粒子サイズが0.2μm以
下になるまで均質化する工程;
(Ⅲ) 得られた最終的なアジュバント生成物を、0.2μm親水性メンブレ
ン・フィルターを用いて濾過する工程;
5 を含む、水中油型乳濁液であるアジュバント組成物の製造方法
(甲13発明2)
甲13発明1の方法により得られたアジュバント組成物、及び抗原を含む、ワク
チン組成物の製造方法
イ 本件発明1と甲13発明1との対比
10 本件発明1と甲13発明1は、次の一致点において一致し、相違点3において相
違する。
(一致点)
スクアレン含有水中油型エマルジョンを製造するための方法であって、該方法は、
・第1の平均油滴サイズを有する第1のエマルジョンを提供する工程;
15 ・該第1のエマルジョンを微小流動化して、該第1の平均油滴サイズより小さな
第2の平均油滴サイズを有する第2のエマルジョンを形成する工程;
および
・該第2のエマルジョンを、膜を使用して、濾過し、それによって、スクアレン
含有水中油型エマルジョンを提供する工程、
20 を包含する、方法
(相違点3)
濾過で使用される「膜」が、本件発明1では、「0.3μm以上の孔サイズを有
する第1の層と0.3μmより小さい孔サイズを有する第2の層とを含む親水性二
重層ポリエーテルスルホン膜」であるのに対し、甲13発明1では、「0.2μm」
25 で「親水性」の膜であって、上記の構成の膜であることの規定がない点
ウ 判断
相違点3は、相違点1と実質的に同じであると認められる。
そして、甲13には、甲13発明1に係る方法において、0.2μmの親水性濾
過膜を用いた濾過に代え、又は当該濾過に加え、本件各要件を併せ満たす親水性二
重層PES濾過膜(フィルタ)を使用することについては、何ら具体的な記載又は
5 示唆がされていない。
また、本件優先日前に頒布されたものと認められる他の甲号証のいずれも、甲1
3発明1に係る方法において、0.2μmの親水性濾過膜を用いた濾過に代え、又
は当該濾過に加え、本件各要件を併せ満たす親水性二重層PES濾過膜(フィルタ)
を使用することについて、何ら具体的に記載又は示唆をするものではない。
10 さらに、前記(2)ウ(イ)において述べたとおり、本件発明1は、本件明細書の実施
例4において例示されているような、先行技術から予期し得ない優れた効果を奏す
るものである。
したがって、甲11記載の発明を主引用発明とした場合(前記(2)ウ)について
述べたのと同様の理由により、本件発明1は、甲13記載の発明及び周知技術に基
15 づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明2等について
前記(2)オ及び前記アからウまでの検討結果を併せ踏まえると、本件発明2等も、
本件発明1につき前記アからウまでにおいて述べたのと同様の理由により、甲13
記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと
20 はいえない。
オ 無効理由4(3)についての小括
前記アからエまでにおいて述べたとおりであるから、無効理由4(3)は、理由が
ない。
(5) 無効理由4(4)(甲14(特表2001-515870号公報)に記載され
25 た発明を主引用発明とする進歩性欠如)について
ア 甲14記載の発明の認定
甲14には、次の各発明(以下、順に「甲14発明1」及び「甲14発明2」と
いう。)が記載されている。
(甲14発明1)
次の工程(Ⅰ)~(Ⅲ);
5 (Ⅰ) DLα-トコフェロール及びスクアレンの混合物にPBS/TWEE
N80溶液を添加し、よく混合する工程;
(Ⅱ) 次いで、生ずるエマルジョンを注射器の針に通過させ、M110Sマ
イクロフラッディスク(Microfluidisc)装置を使用して微小流動化
して、ほぼ145~180nmの大きさを有するエマルジョンとする工程;
10 (Ⅲ) さらに0.2μmのフィルターを通して滅菌濾過する工程;
を含む、水中油型エマルジョンアジュバントSB62の製造方法
(甲14発明2)
甲14発明1の方法により得られたアジュバントSB62にさらに抗原を添加・
混合する、ワクチン組成物の製造方法
15 イ 本件発明1と甲14発明1との対比
本件発明1と甲14発明1は、次の一致点において一致し、相違点4において相
違する。
(一致点)
スクアレン含有水中油型エマルジョンを製造するための方法であって、該方法は、
20 ・第1の平均油滴サイズを有する第1のエマルジョンを提供する工程;
・該第1のエマルジョンを微小流動化して、該第1の平均油滴サイズより小さな
第2の平均油滴サイズを有する第2のエマルジョンを形成する工程;
および
・該第2のエマルジョンを、膜を使用して、濾過し、それによって、スクアレン
25 含有水中油型エマルジョンを提供する工程、
を包含する、方法
(相違点4)
濾過で使用される「膜」が、本件発明1では、「0.3μm以上の孔サイズを有
する第1の層と0.3μmより小さい孔サイズを有する第2の層とを含む親水性二
重層ポリエーテルスルホン膜」であるのに対し、甲14発明1では、「0.2μm」
5 の膜であって、上記の構成の膜であることの規定がない点
ウ 判断
相違点4は、相違点1と同じである。
そして、甲14には、甲14発明1に係る方法において、0.2μmの滅菌濾過
膜を用いた濾過に代え、又は当該濾過に加え、本件各要件を併せ満たす親水性二重
10 層PES濾過膜(フィルタ)を使用することについては、何ら具体的な記載又は示
唆がされていない。
また、本件優先日前に頒布されたものと認められる他の甲号証のいずれも、甲1
4発明1に係る方法において、0.2μmの滅菌濾過膜を用いた濾過に代え、又は
当該濾過に加え、本件各要件を併せ満たす親水性二重層PES濾過膜(フィルタ)
15 を使用することについて、何ら具体的に記載又は示唆をするものではない。
さらに、前記(2)ウ(イ)において述べたとおり、本件発明1は、本件明細書の実施
例4において例示されているような、先行技術から予期し得ない優れた効果を奏す
るものである。
したがって、甲11記載の発明を主引用発明とした場合(前記(2)ウ)について
20 述べたのと同様の理由により、本件発明1は、甲14記載の発明及び周知技術に基
づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明2等について
前記(2)オ及び前記アからウまでの検討結果を併せ踏まえると、本件発明2等も、
本件発明1につき前記アからウまでにおいて述べたのと同様の理由により、甲14
25 記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと
はいえない。
オ 無効理由4(4)についての小括
前記アからエまでにおいて述べたとおりであるから、無効理由4(4)は、理由が
ない。
第3 原告主張の審決取消事由
5 1 取消事由1(甲11記載の発明を主引用発明とする進歩性についての判断の
誤り(無効理由4(1)関係))について
(1) 甲11記載の発明の認定について
甲11の記載によると、本件発明1と対比すべき甲11記載の発明は、次のとお
りに認定するのが相当である(本件審決が認定した甲11発明1との実質的な相違
10 は、次の工程(Ⅲ-1)(大きな粒子を取り除く工程)の有無である。以下、原告
が主張する甲11記載の発明を「甲11発明(原告)」という。)。
(甲11発明(原告))
(Ⅰ)ポリソルベート80をWFIに溶解させて水性クエン酸ナトリウム-クエ
ン酸の緩衝液と組合せ、それとは別に、ソルビタントリオレエートをスクアレンに
15 溶解させ、これら二つの溶液を組み合わせた後、インラインホモジナイザーで処理
して、粗エマルジョンを得、
(Ⅱ)当該粗エマルジョンを、所望の粒径になるまでマイクロフルイダイザーの
相互作用室に繰り返して通らせて平均粒径が約150nm、1.2μm以上の粒子
がml当たり3.3×107個程度のサブミクロンエマルジョンを取得し、
20 (Ⅲ-1)バルクエマルジョンを窒素下で0.22μmフィルタに通して濾過し、
大きな粒子を取り除いて、平均粒径が約150nm、1.2μm以上の粒子がml
当たり0.2×106個程度であるMF59C.1アジュバントエマルジョンの5
0L規模のバルクを手に入れ、
(Ⅲ-2)得られたバルクを0.22μm膜に通して滅菌濾過する工程
25 を含むMF59C.1アジュバントエマルジョンの製造方法
(2) 本件発明1と甲11発明(原告)との相違点の認定について
本件発明1と甲11発明(原告)との間には、次の相違点1’が存在する。
(相違点1’)
本件発明1では、「0.3μm以上の孔サイズを有する第1の層と0.3μmよ
り小さい孔サイズを有する第2の層とを含む親水性二重層ポリエーテルスルホン膜
5 を使用して、濾過」するのに対し、甲11発明(原告)では、「(Ⅲ-1)バルク
エマルジョンを窒素下で0.22μmフィルタに通して濾過し、大きな粒子を取り
除いて、平均粒径が約150nm、1.2μm以上の粒子がml当たり0.2×1
06個程度であるMF59C.1アジュバントエマルジョンの50L規模のバルク
を手に入れ、(Ⅲ-2)得られたバルクを0.22μm膜に通して滅菌濾過」する
10 点
(3) 相違点1’に係る本件発明1の構成の容易想到性について
ア 周知の親水性異質二重層ポリエーテルスルホン膜の存在
本件製品は、本件優先日前に市販され、当業者に周知であった。
本件製品は、広範囲の医薬製品に係る濾過が可能となるように設計された親水性
15 異質二重層ポリエーテルスルホン膜を有し、当該膜は、孔サイズを0.45μmと
するポリエーテルスルホン予備濾過膜と孔サイズを0.2μmとするポリエーテル
スルホン最終濾過膜とからなるから、本件製品の膜は、相違点1’に係る本件発明
1の膜(親水性二重層ポリエーテルスルホン膜)に相当する。
イ 技術分野
20 甲11発明(原告)において用いられる膜と本件製品の膜は、いずれも「医薬品
等に係る濾過膜であって、50L程度での商業スケールで使用し得るもの」の技術
分野に属するから、その属する技術分野を共通にする。
ウ 甲11発明(原告)に係る解決課題
甲11発明(原告)の膜フィルタは、バイオ医薬品等に用いられるものであると
25 ころ、甲65(「Filtration+Separation」2008年10月号の18~21頁に
掲載された「Membranes and filtration: Membrane filtration in the biopharm
industry」(Mandar Dixit 著))によると、そのような膜フィルタにおいては、
①濾過の過程において細菌を効果的に保持することができること、②総処理量が大
きいこと、③流速が許容可能な範囲内のものであること、④標的となるたんぱく質
の吸着が少ないことなどが重要であり、本件優先日当時、これらは、周知の課題で
5 あったといえる。
エ 課題の解決手段
本件製品の膜は、広範囲の化学的適合性を有し、総処理量や流速が大きいなどの
特性を備え、また、信頼性の高い細菌保持を提供するものである。したがって、本
件製品の膜は、前記ウの課題を解決し得るものである。
10 オ 甲65における示唆
甲65には、本件製品の膜が「プレフィルタの必要性を排除する」旨の記載があ
り、これは、プレフィルタを含む2つの工程(工程(Ⅲ-1)及び(Ⅲ-2))を
有する甲11発明(原告)において本件製品の膜を採用する可能性を示唆している。
カ 甲11発明(原告)に本件製品の膜を適用する動機付け
15 以上によると、50L規模のMF59C.1アジュバントエマルジョンの製造方
法に係る甲11発明(原告)において、処理量や処理速度の点でより優れた濾過を
行うため、工程(Ⅲ-1)及び(Ⅲ-2)に代えて、周知の親水性異質二重層ポリ
エーテルスルホン膜(本件製品の膜のような膜)を使用することには、強い動機付
けがあるというべきである。
20 キ 阻害要因の不存在
(ア) 甲65によると、膜の孔径より大きな粒子や微生物は、当該膜により効果
的に除去されるのであるから、本件優先日当時の当業者は、当然、孔サイズを0.
45μmとする本件製品の予備濾過膜により、径1.2μmを超える大きな粒子が
効果的に除去され、安定性を有するMF59C.1アジュバントエマルジョンが得
25 られると理解する。したがって、甲11記載の発明の最初の濾過工程(原告主張の
工程(Ⅲ―1)又は後記参加人主張の工程(Ⅱ―2))において使用される膜の孔
サイズが0.22μmであり、本件製品の予備濾過膜の孔サイズが0.45μmで
あるとの点は、甲11記載の発明に対する本件製品の膜の適用を阻害する要因とは
ならない。
(イ) 丙4には、本件製品につき、医薬品適正製造基準の要求事項を遵守するこ
5 とを目的として、広範囲の医薬製品を濾過することができるように設計された0.
2μm級滅菌フィルタカートリッジである旨の記載があり、甲11記載の発明にお
いても、水中油型エマルジョンであるMF59C.1アジュバントエマルジョンの
濾過について、孔サイズ0.22μmの濾過膜が使用されていたのであるから、本
件優先日当時の当業者は、当然に、広範囲の医薬製品を濾過することができるよう
10 に設計された本件製品につき、これをMF59C.1アジュバントエマルジョンの
ような水中油型エマルジョンの濾過に使用することができると理解する。したがっ
て、参加人が指摘する本件製品の用途の観点から、甲11記載の発明に対する本件
製品の膜の適用を阻害する要因があるということはできない。
ク 小括
15 以上のとおりであるから、本件優先日当時の当業者は、甲11発明(原告)に周
知の親水性二重層ポリエーテルスルホン膜を適用し、相違点1’に係る本件発明1
の構成に容易に想到し得たものである。
(4) 本件発明1が奏する効果について
ア 本件発明1は、「商業スケールでのエマルジョンの回収率が優れる」との効
20 果(以下「本件効果」という。)を奏するとのことであるが、本件明細書の記載
(段落【0197】)によると、本件効果は、エマルジョンが目詰まりを起こすこ
となく確実にフィルタを通過したことに起因するものと解され、また、丙4には、
本件製品につき、処理量や流速が大きいとの特性を有することが記載されているの
であるから、甲11発明(原告)の工程(Ⅲ-1)及び(Ⅲ-2)に代えて、本件
25 製品のような親水性二重層ポリエーテルスルホン膜を用いた濾過を行えば、「商業
スケール」との条件の下、エマルジョンの全てが大きい流速で確実に処理され、そ
の結果エマルジョンの回収率に優れるであろうこと(本件効果が得られること)は、
本件優先日当時の当業者において当然に予測することができたものである(なお、
本件明細書の段落【0054】等の記載によると、ここでいう「商業スケール」と
は、処理されるエマルジョンの体積が1Lより大きい程度を意味すると解されると
5 ころ、甲9(Plenum Press 発行の「VACCINE DESIGN: The Subunit and Adjuvant
Approach」(1995年)の277~296頁に掲載された「MF59 Design and
Evaluation of a Safe and Potent Adjuvant for Human Vaccines」(Gary Ott ら
著))によると、処理されるエマルジョンの体積が1Lより大きいという程度では、
従来技術の範囲を超えるものとはいえない。)。
10 したがって、本件効果は、本件発明1の構成から当業者において予測することが
できなかった効果であるとはいえず、また、当業者において予測することができた
効果を超える顕著なものであるということもできない。
イ 本件審決は、本件発明1の親水性二重層ポリエーテルスルホン膜に該当する
フィルタとこれに該当しないフィルタとを対比し、エマルジョンの回収率において
15 前者が後者に優れることのみをもって、本件効果は当業者が予測し得ない優れたも
のであると判断したが、この判断は、前記アの判断枠組みを逸脱するものであって、
誤りである。
念のため検討するに、本件審決は、本件明細書の実施例4に係る試験において低
い回収率を示した比較例(フィルタ3から7まで)がどのような膜を用いているの
20 かについての記載が本件明細書に一切ないにもかかわらず、本件出願後に作成され
た甲36(Aによる宣誓書)等に基づいて、フィルタ3から5まで及び7が本件各
要件の全てを備えるわけではない膜であると認定し、これらのフィルタと比較して
高い回収率を示した本件発明1の親水性二重層ポリエーテルスルホン膜(フィルタ
1、9及び10)が予期し得ない優れた効果をもたらすと判断したものである。し
25 かしながら、そもそも出願当初の明細書において明らかにされていなかった比較例
の構成を出願後に補充された証拠を参酌して認定した上、比較例の当該構成を前提
にして特許発明の効果の顕著性等を主張することは許されない。加えて、甲36は、
その記載内容等に照らして信用することはできず、また、本件明細書の実施例1か
ら3までの記載に照らすと、実施例4が示す効果(高い回収率)は、特定の組成の
エマルジョンであって特定のサイズの油滴を有するものについての効果であり、本
5 件発明1の全体についての効果ではないと解される。したがって、本件審決のよう
に、本件発明1の親水性二重層ポリエーテルスルホン膜に該当する膜とこれに該当
しない膜とを比較しても、エマルジョンの回収率において前者が後者に優れるとい
うことはできない。
ウ 小括
10 以上のとおりであるから、本件発明1につき、当業者が予測することのできない
顕著な効果を奏するということはできない。
(5) 取消事由1についての結論
以上によると、本件発明1につき、甲11記載の発明及び周知技術に基づいて当
業者が容易に発明をすることができたものではないとの本件審決の判断は誤りであ
15 る。また、本件発明2等についても、本件発明1についての理由と同様の理由で、
本件審決の判断は誤りである。
(6) 本件訴訟において取消事由1を提出することが許されないとする参加人の
主張について
ア 原告が本件訴訟において主張する甲11記載の発明(甲11発明(原告))
20 及び本件各発明と甲11発明(原告)の相違点は、原告が本件特許に係る特許無効
審判請求の手続(以下「本件審判手続」という。)において主張した甲11記載の
発明及び本件各発明と甲11記載の発明の相違点に一部の構成を付加するものにす
ぎず、これらの認定をより正確にするものであって、これにより、相違点に係る本
件各発明の構成の容易想到性の有無がより明白になるのであるから、前者の主張と
25 後者の主張とが矛盾することはない。
そもそも、特許無効審判請求の手続においては、職権探知主義が採用されている
から、原告が本件訴訟において本件審判手続におけるのと比較して若干異なる主張
をしたとしても、参加人や第三者の利益が不当に害されることはないはずであり、
審決取消訴訟において、裁判所が正しい引用発明及び相違点を認定し、当該相違点
の構成に係る容易想到性の判断を行うことは、一般的な裁判実務であり、審決取消
5 訴訟の審理範囲を超えるものではない。
イ したがって、甲11記載の発明の内容及び本件各発明と甲11記載の発明の
相違点に関する原告の本件訴訟における主張(取消事由1)は、審決取消訴訟の審
理範囲内の主張であるから、当該主張の制限がされる理由はない。
2 取消事由2から4まで(甲12、甲13又は甲14記載の各発明を、それぞ
10 れ主引用発明とする進歩性についての判断の誤り(無効理由4(2)から(4)まで関
係))について
(1) 相違点2から相違点4までの各相違点に係る本件発明1の構成の容易想到
性等について
前記1(3)において主張したところに照らすと、本件審決が認定した甲12発明
15 1、甲13発明1及び甲14発明1の各発明についても、甲11発明(原告)に係
る原告の主張が当てはまるから、本件優先日当時の当業者は、各発明に、それぞれ
周知の親水性二重層ポリエーテルスルホン膜を適用し、本件審決が認定した相違点
2から相違点4までの各相違点に係る本件発明1の構成に容易に想到し得たもので
ある。本件発明1が奏する効果についても前記1(4)と同様である。
20 (2) 取消事由2から4までについての結論
以上によると、本件発明1につき、甲12、甲13又は甲14記載の各発明及び
周知技術に基づく各容易想到性を否定した本件審決の判断はいずれも誤りである。
また、本件発明2等についても、本件発明1についての理由と同様の理由で本件審
決の判断は誤りである。
25 3 取消事由5(サポート要件についての判断の誤り(無効理由3関係))につ
いて
(1) 本件発明1の課題
本件明細書の段落【0006】における「さらなるかつ改善された方法」との記
載が漠然とした抽象的なものであること、「商業スケールでの使用に適しておりか
つ濾過を使用する方法を提供すること」との記載の前に「特に」との文言が使用さ
5 れていることに加え、本件明細書における実施例4の内容にも照らすと、本件発明
1の課題は、「MF59を始めとする微小流動化した水中油型エマルジョンの生成
のための方法であって、商業スケールでの使用に適し、かつ、濾過を使用するもの
を提供すること」であると解するのが相当である。
(2) 本件発明1が包含する発明の範囲
10 本件発明1にいう「スクアレン含有水中油型エマルジョン」の成分について、水
とスクアレン以外の特定はないから、本件発明1は、広範な範囲のエマルジョンの
製造方法を包含するものである。
(3) 本件明細書の発明の詳細な説明の記載内容
本件明細書の記載(段落【0195】、【0196】)のとおり、実施例4にお
15 いて50Lの濾過(商業スケールでの濾過)が行われたのは、「スクアレン、ポリ
ソルベート 80、ソルビタントリオレエートおよびクエン酸ナトリウム緩衝液を
含む微小流動化エマルジョン」の場合のみである。また、本件明細書の実施例1か
ら3までの記載によると、実施例4において濾過された微小流動化エマルジョンは、
「165nm以下の平均油滴サイズを有し、かつ1.2μmよりも大きいサイズを
20 有する油滴の数が5×108/ml以下」のものであると解される。
ここで、甲69(「色材」77巻10号(平成16年)の462~469頁に掲
載された「分散基礎講座(第Ⅴ講)乳化の基礎」(鈴木敏幸著))の記載によると、
本件出願当時、エマルジョンの状態や安定性はその調製方法や僅かな組成の違いで
大きく異なるとの技術常識が存在したと認められる。なお、本件明細書にも、エマ
25 ルジョンの安定性においてその組成が重要である旨の記載(段落【0120】、
【0121】)がある。
以上によると、本件明細書の発明の詳細な説明の記載に接した本件出願当時の当
業者は、実施例4の記載から、濾過されるエマルジョンが「スクアレン、ポリソル
ベート 80、ソルビタントリオレエートおよびクエン酸ナトリウム緩衝液を含む
微小流動化エマルジョン」であって、かつ、「165nm以下の平均油滴サイズを
5 有し、かつ1.2μmよりも大きいサイズを有する油滴の数が5×108/ml以
下」との特定のサイズの油滴を含むものである場合には、本件発明1が前記(1)の
課題を解決することができると一応認識することができるものの、実施例4におい
て使用されたエマルジョンとは異なる組成のエマルジョンや実施例4において使用
されたエマルジョンに含まれるものとは異なるサイズの油滴を含むエマルジョンの
10 場合については、本件発明1が前記(1)の課題を解決することができると認識する
ことはできないというべきである。
(4) 取消事由5についての結論
以上のとおりであるから、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載により当業者
が発明の課題を解決することができると認識することのできる範囲を超える部分を
15 包含する発明であり、本件発明1に係る特許請求の範囲の記載は、サポート要件に
適合しない。また、本件発明2等に係る特許請求の範囲の記載も、同様にサポート
要件に適合しない。したがって、本件各発明に係る特許請求の範囲の記載がいずれ
もサポート要件に適合する旨の本件審決の判断は誤りである。
第4 参加人の主張
20 1 取消事由1(甲11記載の発明を主引用発明とする進歩性についての判断の
誤り(無効理由4(1)関係))について
(主位的主張)
(1) 原告が主張する取消事由1が本件訴訟の審理の対象でないことについて
原告は、本件審判手続において、本件各発明と甲11記載の発明の一致点及び相
25 違点につき、本件審決において認定されたのと同旨の主張をしており、本件審判手
続においては、専ら、甲11記載の発明の「膜」(参加人が後記予備的主張におい
て主張する工程(Ⅳ)に係るもの)を本件製品の膜に置き換えることが容易想到で
あるか否かが争点とされた。しかしながら、原告が本件訴訟において主張する取消
事由1は、参加人が後記予備的主張において主張する工程(Ⅱ-2)の「膜」及び
工程(Ⅳ)の「膜」を本件製品の膜に置き換えることの容易想到性を問題とするも
5 のである。
このように、原告が本件訴訟において主張する取消事由1は、本件審判手続にお
いて攻撃防御が一切尽くされていない主張であり、加えて、本件審決も、原告が本
件訴訟において主張する置換の容易想到性に係る第一次的判断をしていないのであ
るから、原告が本件訴訟において主張する取消事由1は、本件審判手続において現
10 実に争われ、かつ、審理判断がされた無効原因ではなく、したがって、そのような
取消事由1を本件訴訟の審理の対象とすることは許されない(最高裁昭和51年3
月10日大法廷判決(昭和42年(行ツ)第28号)民集30巻2号79頁参照)。
(2) 原告が本件訴訟において取消事由1を提出することが信義則に反し許され
ないことについて
15 前記(1)のとおりの事実経過に照らすと、本件審決は、原告の主張に基づいて本
件各発明と甲11記載の発明の一致点及び相違点を認定したにもかかわらず、原告
は、本件訴訟において、本件審決がしたこれらの認定を否定し、本件審判手続の段
階における自己の主張と矛盾する主張をしているのであるから、原告が本件訴訟に
おいて取消事由1を提出することは、信義則に反し許されない。
20 (3) 参加人は、主位的には、本件各発明と甲11記載の発明の相違点は、本件
審決が認定したとおりであると主張する。そして、当該相違点に係る本件各発明の
構成の容易想到性についての主張立証はない。本件審決がした当該容易想到性の判
断に誤りはない。
(予備的主張)
25 原告が本件訴訟において主張する取消事由1について、予備的に以下のとおり主
張する。
(1) 甲11記載の発明の認定について
甲11記載の発明は、次のとおりに認定するのが相当である(甲11発明(原告)
は、次の工程(Ⅲ)を看過し、別々の工程である工程(Ⅱ-2)と工程(Ⅳ)を連
続した一連の工程であるとしている点で誤りである。以下、参加人が予備的に主張
5 する甲11記載の発明を「甲11発明(参加人)」という。)。
(甲11発明(参加人))
(Ⅰ)ポリソルベート80をWFIに溶解させて水性クエン酸ナトリウム-クエ
ン酸の緩衝液と組み合わせ、それとは別に、ソルビタントリオレエートをスクアレ
ンに溶解させ、これら二つの溶液を組み合わせた後、インラインホモジナイザーで
10 処理して、粗エマルジョンを得る工程、
安定なMF59C.1アジュバントエマルジョンのバルクを手に入れるため、
(Ⅱ-1)重要な品質パラメータである平均粒径を制御するために、当該粗エマ
ルジョンを、マイクロフルイタイザーの相互作用室に繰り返して通らせて平均粒径
が約150nmのサブミクロンエマルジョンを得る工程、及び
15 (Ⅱ-2)重要な品質パラメータである、ml当たりの径が1.2μm以上の粒
子の数を0.2×106個程度に制御するために、当該サブミクロンエマルジョン
を窒素下で0.22μmフィルタに通して濾過する工程、
を経て、安定なMF59C.1アジュバントエマルジョンのバルクを手に入れ、
(Ⅲ)当該MF59C.1アジュバントエマルジョンのバルクを大きな瓶に充填
20 する工程、
(Ⅳ)大きな瓶に充填されたMF59C.1アジュバントエマルジョンのバルク
を、0.22μm膜に通して滅菌濾過し、最終単回投与用のバイアルに個別に充填
する工程
を含むMF59C.1アジュバントエマルジョンの製造方法
25 (2) 本件発明1と甲11発明(参加人)との相違点の認定について
本件発明1と甲11発明(参加人)との間には、次の相違点1”が存在する。
(相違点1”)
本件発明1では、第2のエマルジョンを、0.3μm以上の孔サイズを有する第
1の層と0.3μmより小さい孔サイズを有する第2の層とを含む親水性二重層ポ
リエーテルスルホン膜を使用して濾過するという1つの工程を経て、スクアレン含
5 有水中油型エマルジョンを得る製造方法であるのに対し、甲11発明(参加人)で
は、(Ⅱ-2)サブミクロンエマルジョンを窒素下で0.22μmフィルタに通し
て濾過し、1.2μm以上の粒子がml当たり0.2×106個程度である安定な
MF59C.1アジュバントエマルジョンのバルクを手に入れる工程、(Ⅲ)当該
MF59C.1アジュバントエマルジョンのバルクを大きな瓶に充填する工程、
10 (Ⅳ)大きな瓶に充填されたMF59C.1アジュバントエマルジョンのバルクを、
0.22μm膜に通して滅菌濾過し、最終単回投与用のバイアルに個別に充填する
工程、という3つの工程を経て、スクアレン含有水中油型エマルジョンを得る製造
方法である点
(3) 相違点1”に係る本件発明1の構成の想到困難性について
15 ア 甲11発明(参加人)に本件製品の膜を適用する動機付けがないことについ

(ア) 別個の2つの工程を1つの工程に置き換えることについて
甲11発明(参加人)における工程(Ⅱ)(工程(Ⅱ―1)及び(Ⅱ-2))は、
安定性を有するエマルジョンのバルクの製造工程であり、工程(Ⅱ-2)も、その
20 一部であるのに対し、工程(Ⅳ)は、エマルジョンのバルクを最終単回投与用のバ
イアルに個別に充填する工程であるから、工程(Ⅱ-2)と工程(Ⅳ)は、段階を
異にする別個の工程である。また、工程(Ⅱ-2)は、大きな粒子を十分に除去す
ることを目的とし、高温高圧下で行うことにより高い処理能力を得ることができる
工程であり、細菌保持力が高い膜を用いる必要のない工程であり、工程(Ⅲ)の前
25 に行う必要がある工程であるのに対し、工程(Ⅳ)は、滅菌濾過を目的とし、高温
高圧下で行う必要のない工程であり、細菌保持力が高い膜を用いる必要がある工程
であり、工程(Ⅲ)の後に行う必要がある工程であるから、工程(Ⅱ-2)と工程
(Ⅳ)は、濾過の条件、用いる濾過膜の性質及び濾過のタイミングを異にするもの
である。
以上によると、甲11の記載に接した当業者において、安定性を有するエマルジ
5 ョンのバルクの製造工程に含まれる工程(Ⅱ-2)とエマルジョンのバルクを最終
単回投与用のバイアルに個別に充填する工程である工程(Ⅳ)を1つの工程に置き
換えることはあり得ない。甲11発明(参加人)の工程(Ⅱ-2)と工程(Ⅳ)を
本件製品の膜を用いた工程(1つの濾過工程)に置き換えることが容易であるとの
原告の主張は、甲11の記載を無視するものである。
10 (イ) 甲11記載の発明の課題について
原告は、バイオ医薬品に関する甲65に依拠して甲11記載の発明の課題につき
主張するが、「バイオ医薬品」とは、遺伝子組換え技術や細胞培養技術を用いて製
造したたんぱく質を有効成分とする医薬品をいい、甲11記載の発明のエマルジョ
ンは、「バイオ医薬品」ではない。したがって、甲65を根拠に、甲11記載の発
15 明が原告主張の課題を有していると認めることはできない。
(ウ) 本件製品の膜が甲11記載の発明の課題を解決するものではないことにつ
いて
丙4には、本件製品が広範囲の化学的適合性を有し、高い耐熱性を有し、総処理
量や流速が大きいとの特性を全て備えている旨の記載があるが、この記載は、本件
20 製品の特性に関する一般論を述べるものにすぎない(本件製品の総処理量が大きい
旨の丙4の記載によっても、本件製品の膜にどのような試料を使用したのかが不明
である。)。他方、丙4には、本件製品につき、これが本件発明1のスクアレン含
有水中油型エマルジョンの滅菌フィルタに使用し得るものである旨の明記はないし、
一般の水中油型エマルジョンの滅菌濾過を用途とし得るものである旨の明記もない
25 (そもそも、本件製品を始めとする丙4掲載の製品は、エマルジョンの濾過を想定
していないとすら解される。)。そうすると、上記の一般論がエマルジョンの濾過
についても当てはまるということはできない。
以上によると、丙4の記載に接した当業者は、本件発明1のスクアレン含有水中
油型エマルジョンを本件製品の膜で滅菌濾過したとしても、大きい流速で確実に濾
過がされ、エマルジョンの回収率が優れることになるとは予測し得ないから、当業
5 者にとって、本件製品の膜は、原告主張に係る甲11記載の発明の課題を解決する
手段ではない。
(エ) 甲65において示唆がないことについて
原告が主張する甲65の記載(本件製品の膜が「プレフィルタの必要性を排除す
る」旨の記載)は、本件製品の最終濾過膜における目詰まりを防止するためのプレ
10 フィルトレーションの必要性の排除について言及するものにすぎず、甲11発明
(参加人)の工程(Ⅱ-2)における濾過の必要性の排除を示唆するものではない。
したがって、原告が主張する甲65の上記記載は、甲11記載の発明に本件製品の
膜を採用する可能性について示唆するものではない。
イ 甲11発明(参加人)に本件製品の膜を適用することに阻害要因があること
15 について
(ア) 甲11の記載によると、甲11発明(参加人)においては、径が1.2μ
mを超える大きな粒子の数(ml当たり)は、エマルジョンの品質の重要なパラメ
ータとされており、そのため、工程(Ⅱ-2)においては、径が1.2μmを超え
る大きな粒子を十分に除去するために、孔サイズが0.22μmの膜を用いること
20 とされている。
これに対し、丙4によると、本件製品の予備濾過膜の孔サイズは、0.45μm
とされており、甲11発明(参加人)の工程(Ⅱ-2)において用いられる孔サイ
ズの2倍以上となっている。そもそも、本件製品の予備濾過膜は、最終濾過膜の目
詰まりを回避することを目的とするものであって、安定性を有するエマルジョンの
25 バルクを得るために、径が1.2μmを超える大きな粒子を十分に取り除くことを
目的とするものではない。
そうすると、甲11発明(参加人)の工程(Ⅱ-2)における濾過膜(孔サイズ
を0.22μmとするもの)に代えて本件製品の予備濾過膜(孔サイズを0.45
μmとするもの)を使用することについては、安定性を有するエマルジョンのバル
クが得られなくなるとの観点から、阻害要因があるというべきである。
5 (イ) 丙4には、本件製品を始めとする丙4に掲載された製品のフィルタにつき、
これらを本件発明1のスクアレン含有水中油型エマルジョンの滅菌フィルタに使用
し得る旨の明記はないし、一般の水中油型エマルジョンの滅菌濾過を用途とし得る
旨の明記もない。したがって、この点からも、甲11発明(参加人)の工程(Ⅱ-
2)における濾過膜(孔サイズを0.22μmとするもの)に代えて本件製品の予
10 備濾過膜(孔サイズを0.45μmとするもの)を使用することについては、阻害
要因がある。
(ウ) なお、本件製品は、製品歩留まりの点で、丙4に掲載された他の製品(本
件発明1の親水性二重層ポリエーテルスルホン膜に該当しない膜を使用するもの)
に劣るから、この点でも、甲11記載の発明に本件製品の膜を適用することについ
15 ては、阻害要因があるというべきである。
ウ 小括
以上のとおりであるから、当業者において、甲11記載の発明の濾過を本件製品
の膜を用いた濾過に置換することは容易ではない。
(4) 本件発明1が奏する顕著な効果について
20 ア 本件発明1は、スクアレン含有水中油型エマルジョンを製造する方法に関す
る発明であり、本件各要件を全て満たす親水性二重層ポリエーテルスルホン膜を使
用する点にその技術的特徴を有する。
本件明細書の記載(段落【0196】、【0197】)及び甲36のとおり、本
件発明1は、本件各要件を全て満たす親水性二重層ポリエーテルスルホン膜を採用
25 することにより、当該膜を使用しない場合と比較して、著しく高いエマルジョンの
回収率を達成するものである(本件効果)。なお、本件明細書の実施例4に係る試
験において使用されたフィルタ3から7までについては、これらのフィルタを使用
した場合のエマルジョンの回収率及びこれらのフィルタと比較した場合の本件発明
1の膜(親水性二重層ポリエーテルスルホン膜)の予期し得ない優れた効果が本件
明細書に開示されているのであるから、本件明細書の記載を補足するに当たり、甲
5 36等を参酌することは許される。また、甲36の記載内容は、十分信用に値する
ものである。
本件優先日当時、水中油型エマルジョンアジュバントには、多種多様なものが存
在し、その製造に用いる濾過膜にも、多種多様なもの(本件各要件を全て満たす膜、
これらの一部は満たすが全部は満たさない膜及びこれらを全く満たさない膜)が存
10 在していた(本件明細書の段落【0027】、【0100】、甲36、丙4、丙5
(Millipore社が2004年に発行した製品カタログ))。本件発明1は、
このように多数存在していた膜の中から、本件各要件を全て満たす親水性二重層ポ
リエーテルスルホン膜が特にスクアレン含有水中油型エマルジョンの製造に適して
いることを見いだして創作されたものである。
15 以上によると、本件効果は、本件優先日当時の当業者が予測することのできない
顕著なものであったというべきである。
イ 原告の主張について
本件明細書の段落【0197】の「低回収%は、例えば、詰まりが原因で、上記
フィルタが上記エマルジョンを保持することを示す」との記載は、フィルタの目詰
20 まりがエマルジョンの回収率が低いことの原因の一例であることを示すものにすぎ
ず、当該記載をもって、本件効果につき、単にエマルジョンが目詰まりを起こさな
いことに起因すると解することはできない。
また、本件製品に係る総処理量や流速が大きいなどの丙4の記載は、水中油型エ
マルジョンを濾過した場合についていうものではなく、本件製品の一般的特性を述
25 べるものにすぎない。
さらに、甲9が5Lのスケールにおける回収率を示すにすぎないのに対し、本件
明細書の実施例4は、50Lのスケールにおける優れた回収率を示すものである。
以上によると、本件効果につき、これが当業者において予測することのできる範
囲内のものであるということはできない。
なお、「本件明細書の実施例4が示す本件効果は、本件発明1の全体についての
5 効果ではない」旨の原告の主張は、取消事由5(サポート要件についての判断の誤
り)に係る原告の主張と同旨であるところ、これに対する参加人の反論は、後記3
(2)のとおりである。
(5) 取消事由1についての結論
以上のとおりであるから、本件発明1に係る取消事由1は理由がない。同様の理
10 由により、本件発明2等に係る取消事由1も理由がない。
2 取消事由2から4まで(甲12、甲13又は甲14記載の各発明を、それぞ
れ主引用発明とする進歩性についての判断の誤り(無効理由4(2)から(4)まで関
係))について
(1) 相違点2から相違点4までの各相違点に係る本件発明1の構成の想到困難
15 性について
前記1(予備的主張)(3)において主張したところに加え、甲12発明1、甲1
3発明1又は甲14発明1の各発明の各濾過膜を用いた濾過に代えて本件各要件を
全て満たす親水性二重層ポリエーテルスルホン膜を用いた濾過を採用することにつ
き、甲12、甲13又は甲14を始めとする刊行物に何らの具体的な記載も示唆も
20 ないことを併せ考慮すると、本件優先日当時の当業者において、各発明に、それぞ
れ周知の親水性二重層ポリエーテルスルホン膜を適用し、相違点2から相違点4ま
での各相違点に係る本件発明1の構成に容易に想到し得たということはできない。
本件発明1が奏する効果についても前記1(予備的主張)(4)と同様である。
(2) 取消事由2から4までについての結論
25 以上のとおりであるから、本件発明1に係る取消事由2から4まではいずれも理
由がない。同様の理由により、本件発明2等に係る取消事由2から4までもいずれ
も理由がない。
3 取消事由5(サポート要件についての判断の誤り(無効理由3関係))につ
いて
(1) 取消事由5に係る原告の主張は、本件審判手続において主張され審理され
5 たものではないから、本件訴訟において審理判断することが許されないものである。
(2) 念のため、本件発明1に係る特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合
しているか否かにつき、以下、知財高裁平成17年11月11日特別部判決(同年
(行ケ)第10042号)判時1911号48頁の判断内容に従って検討する。
ア 本件発明1の課題は、「微小流動化したMF59を始めとする水中油型エマ
10 ルジョンの生成のための更なる、かつ、改善された方法、特に、商業スケールでの
使用に適しており、かつ、濾過を使用する方法を提供すること」である。
イ 本件発明1は、濾過において使用する膜につき、本件各要件を全て満たした
ものとすることを発明特定事項とするものである。
ウ 本件明細書には、本件発明1に係る親水性二重層ポリエーテルスルホン膜を
15 「50L規模の商業スケール」との条件の下でのスクアレン含有水中油型エマルジ
ョンの濾過に用いた場合、他の濾過膜の場合と比較して、エマルジョンの回収率の
点から特に優れた効果(本件効果)を奏することが具体的に開示されている。
エ 以上によると、本件明細書の発明の詳細な説明の記載に接した本件出願当時
の当業者は、前記アの課題に照らし、本件発明1の親水性二重層ポリエーテルスル
20 ホン膜とスクアレン含有水中油型エマルジョンとの関係を理解するといえるから、
本件発明1は、当該当業者において、前記アの課題を解決し得ると認識することが
できる範囲内のものである。したがって、本件発明1に係る特許請求の範囲の記載
は、サポート要件に適合する。
(3) 取消事由5についての結論
25 以上のとおりであるから、本件発明1に係る取消事由5は理由がない。同様の理
由により、本件発明2等に係る取消事由5も理由がない。
第5 当裁判所の判断
当裁判所は、本件各発明は甲11記載の発明に基づいて本件優先日当時の当業者
が容易に発明をすることができたものであり、したがって、原告の請求は理由があ
ると判断する。その理由は、次のとおりである。
5 1 本件各発明の概要
(1) 本件明細書の記載(甲1)
本件明細書には、次の記載がある。
【技術分野】
【0002】
10 (技術分野)
本発明は、例えば、微小流動化(microfluidization)による、
ワクチンのための水中油型エマルジョンアジュバントを製造する分野にある。
【背景技術】
【0003】
15 (背景技術)
「MF59」として公知のワクチンアジュバント[1(特許文献1)、2~3
(非特許文献1~2)]は、スクアレン、ポリソルベート 80(Tween 8
0としても公知)、およびソルビタントリオレエート(Span 85としても公
知)のサブミクロン水中油型エマルジョンである。これはまた、クエン酸イオン
20 (例えば、10mM クエン酸ナトリウム緩衝液)を含み得る。体積による上記エ
マルジョンの組成は、約5% スクアレン、約0.5% Tween 80および
約0.5% Span 85であり得る。上記アジュバントおよびその生成は、参
考文献4の第10章、参考文献5の第12章および参考文献6の第19章により詳
細に記載される。
25 【0004】
参考文献7に記載されるように、MF59は、上記スクアレン相の中にSpa
n 85を、および水相の中にTween 80を分散させ、続いて、高速で混合
して、粗いエマルジョンを形成することによって、商業スケールで製造される。次
いで、この粗いエマルジョンは、反復して、マイクロフルイダイザーを通過させら
れて、均一な油滴サイズを有するエマルジョンを生成する。参考文献6に記載され
5 るように、次いで、上記微小流動化エマルジョンは、任意の大きい油滴を除去する
ために、0.22μm膜を通して濾過され、得られたエマルジョンの平均液滴サイ
ズは、少なくとも3年間にわたって4℃において変化しないままである。…
【0005】
種々の文書(例えば、参考文献9~12)は、MF59が微小流動化、続いて、
10 0.22μmポリスルホンフィルタを通す濾過滅菌によって製造され得ることを開
示する。ポリスルホンは、主なポリマー骨格中にスルホン基(SO2)を含むポリ
マーであり、ポリスルホンフィルタは、周知の疎水性フィルタである。
【0006】
微小流動化した水中油型エマルジョン(例えば、MF59)の生成のためのさら
15 なるかつ改善された方法、特に、商業スケールでの使用に適しておりかつ濾過を使
用する方法を提供することが、本発明の目的である。
【発明を実施するための形態】
【0185】
(実施例1)
20 スクアレン、ポリソルベート 80、ソルビタントリオレエートおよびクエン酸
ナトリウム緩衝液を含む微小流動化エマルジョンを、本発明に従って調製した。上
記エマルジョンを、165nm以下の平均油滴サイズを有し、かつ1.2μmより
も大きいサイズを有する油滴の数が5×108/ml以下になるまで微小流動化し
た。
25 【0186】
上記エマルジョンを、孔サイズ0.45μmを有する親水性の非対称性多孔性ポ
リエーテルスルホンの予備フィルタ膜および孔サイズ0.2μmを有する親水性の
非対称性多孔性ポリエーテルスルホンの最終フィルタ膜を有する、滅菌グレードの
フィルタカートリッジ(フィルタA)を通して濾過した。濾過の間に、上記エマル
ジョンを、40±5℃の温度で維持した。
5 【0187】
上記プロセスは、4回の別個の試行で実施し、上記濾過したエマルジョンの特性
を測定し、表1に示す。
【0188】
【表1】
表1に示されるように、フィルタAは、上記エマルジョンにおける上記油滴の平
均サイズを一貫して低下させた。さらに、フィルタAは、上記エマルジョン中の1.
2μmよりも大きいサイズを有する油滴の数を、約1/103に一貫して低下させ
た。
15 【0189】
(実施例2)
実施例1について使用されたものと同じ微小流動化エマルジョンを、異なる滅菌
グレードのフィルタカートリッジ(フィルタB)を通して濾過した。フィルタBは、
親水性の非対称性多孔性ポリエーテルスルホンの予備フィルタ膜および孔サイズ0.
20 2μmを有する親水性の非対称性多孔性ポリエーテルスルホンの最終フィルタ膜を
有した。濾過の間に、上記エマルジョンを、40±5℃の温度で維持した。このプ
ロセスは、4回の別個の試行にわたって行い、上記濾過したエマルジョンの特性を
測定し、表2に示した。
【0190】
【表2】
5 表2に示されるように、フィルタBは、上記エマルジョンにおける上記油滴の平
均サイズを一貫して低下させた。さらに、フィルタBは、上記エマルジョン中の1.
2μmよりも大きいサイズを有する油滴の数を約1/103に一貫して低下させた。
【0191】
実施例1および実施例2から、フィルタBが、油滴サイズがわずかに小さくなる
10 が、1.2μmより大きいサイズを有する油滴の数がわずかに多くなることが認め
られ得る。しかし、フィルタAおよびフィルタBはともに、優れた結果を示した。
【0192】
(実施例3)
実施例1について使用したものと同じ微小流動化エマルジョンを、別の異なる滅
15 菌グレードフィルタカートリッジ(フィルタC)を通して濾過した。フィルタCは、
孔サイズ0.45μmを有する親水性の非対称性多孔性ポリエーテルスルホンの予
備フィルタ膜および孔サイズ0.2μmを有する親水性の非対称性多孔性ポリエー
テルスルホンの最終フィルタ膜を有した。濾過の間に、上記エマルジョンを、40
±5℃の温度に維持した。
20 【0193】
さらに、実施例1について使用したものと同じ微小流動化エマルジョンを、別の
異なる滅菌グレードのフィルタカートリッジ(フィルタD)を通して濾過した。フ
ィルタDは、親水性の非対称性多孔性ポリエーテルスルホンの予備フィルタ膜およ
び親水性の多孔性PVDFの最終フィルタ膜を有した。濾過の間に、上記エマルジ
ョンを、40±5℃の温度に維持した。
【0194】
5 フィルタCは、平均油滴サイズ155±20nmを有し、かつ1.2μmよりも
大きいサイズを有する油滴の数が5×106/ml以下である濾過されたエマルジ
ョンを提供する、優れた濾過結果を示した。フィルタDはまた、上記の基準を満た
す濾過されたエマルジョンを提供したが、より早く詰まり、従って、上記フィルタ
D膜の交換を必要とすることが見いだされた。従って、すべてのポリエーテルスル
10 ホンフィルタは、このPVDFフィルタより優れていた。
【0195】
(実施例4)
種々の製造業者の、10枚の異なる親水性膜を、スクアレン、ポリソルベー
ト 80、ソルビタントリオレエートおよびクエン酸ナトリウム緩衝液を含む微小
15 流動化エマルジョンを濾過するために試験した。上記フィルタを、表3に示される
ように、1から10まで番号付けした(注:フィルタ1は、上記実施例3における
フィルタCと同じである;フィルタ2は、フィルタDである;フィルタ9は、フィ
ルタAである;フィルタ10は、フィルタBである)。
【0196】
20 50リットルのエマルジョンを濾過した後のエマルジョンの収率を測定して、上
記フィルタが工業スケールでの使用に適しているか否かを決定した。濾過後に回収
された入力エマルジョンの%は、以下のとおりであった:
【0197】
【表3】
低回収%は、例えば、詰まりが原因で、上記フィルタが上記エマルジョンを保持
することを示す。フィルタ1、フィルタ8、フィルタ9およびフィルタ10(すな
5 わち、上記のフィルタA、フィルタBおよびフィルタCと、フィルタAに類似であ
るが、上記第1の層においてより大きな孔サイズを有する1枚のさらなるフィルタ)
のみが、50%以上の収率を与え、工業スケールで使用するのに最も実用的な収率
は、フィルタ8~10であったことは、明らかである。フィルタ1、フィルタ8、
フィルタ9およびフィルタ10は、すべて、3者の異なる製造業者によって調製さ
10 れた二重層親水性PES膜である。これら4枚の膜における上記第1の層は、0.
45μmもしくは0.6μmのいずれかであり、上記第2の層は、0.2μmであ
る。最良の結果は、上記2つの層のうちの少なくとも一方が非対称性膜であった場
合に認められた。
(2) 本件各発明の概要
15 前記第2の2の本件特許に係る本件訂正後の特許請求の範囲の記載及び前記(1)
の本件明細書の記載によると、本件各発明の概要は、次のとおりであると認められ
る。すなわち、本件各発明は、ワクチンのための水中油型エマルジョンアジュバン
トを製造する方法に関するものである。従来から、MF59のような微小流動化さ
れた水中油型エマルジョンの生成のための方法として、混合等により粗いエマルジ
20 ョンを形成した後、これをマイクロフルイダイザーを通過させることにより、均一
な油滴サイズを有するエマルジョンを生成し、次いで、大きい油滴を除去するため、
これを孔サイズ0.22μmの膜を通して濾過する方法が知られていた。本件各発
明は、MF59のような微小流動化された水中油型エマルジョンの生成のための更
なる、かつ、改善された方法(特に、商業スケールにおける使用に適しており、か
つ、濾過を使用するもの)を提供することを目的として、前記第2の2のとおりの
構成(本件各要件を満たす膜を用いた濾過工程を含むもの)を採用することとした
ものである。これにより、本件各発明は、商業スケールにおいて使用するのに適し
た回収率(エマルジョンが膜を通過して回収される割合)を実現することができる
5 との効果を奏するとされている。
2 取消事由1(甲11記載の発明を主引用発明とする進歩性欠如についての判
断の誤り(無効理由4(1)関係))について
(1) 本件訴訟における取消事由1の提出が許されないとの参加人の主張につい

10 ア 認定事実
前記第2の3(本件審決の理由の要旨)並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨によ
ると、次の事実が認められる。
(ア) 原告は、本件審判手続において、甲11記載の発明並びに本件発明1と甲
11記載の発明の一致点及び相違点につき、次のとおりの主張をした(甲52)。
15 a 甲11記載の発明
ポリソルベート80をWFI(判決注:注射用水のことである。)に溶解させて
水性クエン酸ナトリウム-クエン酸の緩衝液と組み合わせ、それとは別に、ソルビ
タントリオレエートをスクアレンに溶解させ、二つの溶液を組み合わせた後、イン
ラインホモジナイザーで処理して、粗エマルジョンを得、
20 当該粗エマルジョンを、所望の粒径になるまでマイクロフルイダイザーの相互作
用室に繰り返して通らせて平均粒径が約150nm、1.2μm以上の粒子がml
当たり3.3×107個程度のサブミクロンエマルジョンを取得し、
バルクエマルジョンを窒素下で0.22μmフィルタに通して濾過し、大きな粒
子を取り除いて、平均粒子径が約150nm、1.2μm以上の粒子がml当たり
25 0.2×106個程度であるMF59C.1アジュバントエマルジョンの50L程
度のバルクを手に入れ、
当該バルクを0.22μm膜に通して滅菌濾過し、最終単回投与用バイアルに充
填し、
インフルエンザヘマグルチニン(HA)を別個のバイアルとするデュアルバイア
ルワクチンとし、これを投与前に混合する方法
5 b 一致点
スクアレン含有水中油型エマルジョンを製造するための方法であって、該方法は、
(ⅰ)第1の平均油滴サイズを有する第1のエマルジョンを提供する工程;
(ⅱ)該第1のエマルジョンを微小流動化して、該第1の平均油滴サイズより小
さな第2の平均油滴サイズを有する第2のエマルジョンを形成する工程;および
10 (ⅲ)該第2のエマルジョンを、膜を使用して、濾過し、それによって、スクア
レン含有水中油型エマルジョンを提供する工程、
を包含する、方法
c 相違点
本件発明1の濾過に使用される膜が「0.3μm以上の孔サイズを有する第1の
15 層と0.3μmより小さい孔サイズを有する第2の層とを含む親水性二重層ポリエ
ーテルスルホン膜」であるのに対し、甲11記載の発明のそれが「0.22μm」
フィルタである点
(イ) 本件審決は、甲11記載の発明を主引用発明として本件各発明の進歩性欠
如をいう無効理由4(1)について審理し、甲11記載の発明並びに本件発明1と甲
20 11記載の発明の一致点及び相違点について、前記第2の3(2)ア及びイのとおり
認定した上、当該相違点に係る本件発明1の構成の容易想到性について、前記第2
の3(2)ウ(ア)のとおり判断した(原告は、本件審判手続において、本件発明1と甲
11記載の発明の一致点及び相違点につき、本件審決が認定したのと同趣旨の主張
をしていたことが認められる。)。
25 (ウ) 原告は、本件訴訟における取消事由1として、前記第3の1のとおり主張
した。甲11発明(原告)は、本件審判手続において原告の主張した甲11発明の
内容と同趣旨であると認められる(甲11発明(原告)には、「最終単回投与用バ
イアルに充填」することなどについての言及はないが、甲11発明(原告)は、
「(Ⅲ-2)得られたバルクを0.22μm膜に通して滅菌濾過する工程」を「含
む」MF59C.1アジュバントエマルジョンの製造方法としているので、バイア
5 ルに充填することなどは除外されていない。)。しかし、本件発明1と甲11記載
の発明の相違点に関する原告の主張は、本件審判手続におけるのと比較して、次の
とおり異なっている。原告は、相違点に係る本件発明1の構成は変更せず、相違点
に係る甲11記載の発明の発明特定事項を付加し、相違点に係る甲11記載の発明
の構成を更に限定する趣旨の主張をしていることになる(本件発明2等と甲11記
10 載の発明との相違点についても同様である。)。
本件審判手続における相違点1 本件訴訟における相違点1’
本件発明1の濾過に使用される膜が「0.3 本件発明1では、「0.3μm以上の孔サ
μm以上の孔サイズを有する第1の層と0. イズを有する第1の層と0.3μmより小さ
3μmより小さい孔サイズを有する第2の層 い孔サイズを有する第2の層とを含む親水性
とを含む親水性二重層ポリエーテルスルホン 二重層ポリエーテルスルホン膜を使用して、
膜」であるのに対し、甲11記載の発明のそ 濾過」するのに対し、甲11発明(原告)で
れが「0.22μm」フィルタである点 は、「(Ⅲ-1)バルクエマルジョンを窒素
下で0.22μmフィルタに通して濾過し、
大きな粒子を取り除いて、平均粒径が約15
0nm、1.2μm以上の粒子がml当たり
0.2×106 個程度であるMF59C.1
アジュバントエマルジョンの50L規模のバ
ルクを手に入れ、(Ⅲ-2)得られたバルク
を0.22μm膜に通して滅菌濾過」する点
イ 特許法に規定する審決の取消訴訟においては、特許無効審判請求の手続にお
いて審理判断がされなかった公知事実との対比における無効原因は、審決を違法と
し、又はこれを適法とする理由として主張することができないものと解される(前
掲最高裁昭和51年3月10日大法廷判決参照)。
これを本件についてみるに、前記認定のとおり、本件審判手続においては、甲1
1記載の発明を主引用発明とする本件各発明の進歩性欠如が無効理由4(1)として
5 審理され、本件審決は、甲11記載の発明並びに本件発明1と甲11記載の発明の
一致点及び相違点を認定した上、当該相違点に係る本件発明1の構成の容易想到性
について判断したものである。原告が本件訴訟において、取消事由1の前提として
主張する内容は、本件審決が審理判断したのと同様、甲11記載の発明を主引用発
明とした上、当業者は本件発明1と甲11記載の発明との相違点に係る本件発明1
10 の構成に容易に想到し得たとするものにすぎない。
そうすると、甲11記載の発明は、本件審判手続において審理判断の対象となっ
た無効原因に係る公知事実であり、現にその内容について認定判断がされたものに
該当するというべきであるから、原告の本件訴訟における取消事由1に係る主張
(甲11記載の発明を主引用発明として本件各発明の進歩性欠如をいう主張)は、
15 本件審判手続において審理判断がされなかった公知事実との対比における無効原因
をいうものと解することはできず、当該主張に係る取消事由1が本件訴訟の審理の
対象でないと解することもできない。
また、本件各発明と甲11記載の発明の相違点に係る原告の主張につき、本件審
判手続と本件訴訟との間に相違するところがあるとしても、その主張に係る本件発
20 明1の構成に変更はなく、甲11記載の発明についてのみ、相違点に係る具体的な
構成を付加し、更に限定したにすぎないことに照らせば、原告による取消事由1の
提出が信義則に反して許されないと評価することはできない。その他、原告による
取消事由1の提出が信義則に反して許されないと評価することができる事実を認め
るに足りる証拠はない。
25 ウ 以上のとおりであるから、本件訴訟における取消事由1の提出が許されない
との参加人の主張を採用することはできない。
(2) 本件発明1の進歩性について
ア 甲11の記載
甲11には、次の記載がある。
(ア) 「2.材料
5 安定性を高めた第2世代MF59エマルジョンは、MF59C.1と命名され、
以下の成分からなる。
1.スクアレン(2,6,10,15,19,23-ヘキサメチル-2,6,1
0,14,18-22-テトラコサヘキサエン)
2.ポリソルベート80
10 3.ソルビタントリオレエート
4.クエン酸3ナトリウム塩2水和物
5.クエン酸1水和物
6.注射用水(WFI)」(213頁25~33行目)
(イ) 「3.方法
15 3.1.MF59の50L規模製造プロセス
上述したMF59を実験室規模に生産する方法では、マイクロフルイダイザー1
10Sを用いて最小10mlのエマルジョンを調製する。ここでは、発売仕様が確
立され、長期間保存が可能な無菌臨床等級のMF59C.1の製造プロセスを取り
上げるものとする。図1にMF59C.1の50L規模製造プロセスを図示してい
20 る。まず、ポリソルベート80をWFIに溶解させ、水性クエン酸ナトリウム-ク
エン酸の緩衝液と組み合わせる。それとは別途に、ソルビタントリオレエートをス
クアレンに溶解させた。2つの溶液を組み合わせた後、インラインホモジナイザー
で処理し、粗エマルジョンを得る。当該粗エマルジョンをマイクロフルイダイザー
に入れて更に処理を施し、安定性を有するサブミクロンエマルジョンを取得する。
25 粗エマルジョンを、所望の粒径になるまでマイクロフルイダイザーの相互作用室に
繰り返して通らせる。バルクエマルジョンを窒素下で0.22μmフィルタに通し
て濾過し、大きな粒子を取り除き、ガラス瓶に詰め込んだMF59C.1アジュバ
ントエマルジョンのバルクを手に入れた。棚保管において、MF59の存在下で安
定的な長期保存性を示すワクチン抗原を得るためには、抗原とMF59を組み合わ
せて0.22μm膜を用いて滅菌濾過を行う。この組み合わせた「単一のバイアル」
5 ワクチンを単回投与容器に充填する。長期保存性を示さないワクチン抗原に対して
は、アジュバントを別個のバイアルとして提供する。この場合、MF59バルクを
滅菌濾過し、最終単回投与用バイアルに充填して包装する。」(213頁34行目
~214頁19行目)
(ウ) 「3.2.MF59C.1のプロセス評価
10 製造プロセスでは、MF59C.1製品が再現性のある一貫した方法で得られる。
図2は、プロセス中のマイクロフルイダイザーの各パスの間のMF59C.1の平
均粒径の効率的かつ反復可能な減少を実証する、代表的な7ロットを合わせた粒径
データを提示する。平均粒径に加えて、アジュバントエマルジョン1ml当たりの
大きな粒子、すなわち径が>1.2μmの粒子、の数をモニターする。エマルジョ
15 ンは熱力学的に不安定な系であり、貯蔵中に凝集(油粒子の可逆的凝集)及び合体
(大きな粒子を形成する油粒子の不可逆的凝集と、最終的な油及び水相の不可逆的
分離)を受ける。安定なエマルジョンの製造のための重要な目標は、大きな粒子の
数を最小限に抑えることである。なぜなら、大きな粒子は、貯蔵中に潜在的に相分
離をもたらす更なる凝集の核形成部位として作用するからである。図3は、製造プ
20 ロセス中の粗大粒子数の低減に関する、MF59C.1の代表的な7ロットのデー
タを示す。マイクロ流動化工程の後、0.22μmの膜を通してエマルジョンを濾
過すると、径が>1.2μmの粒子の99.5%が除去される。バルクエマルジョ
ンは、>1.2μmである全粒子が0.1%未満である。」(214頁20~38
行目)
(エ) 「図1.MF59製造プロセス

(215頁)
(オ) 「図2.微小流動化中におけるMF59の平均粒径
」(216頁)
(カ) 「3.3.MF59C.1の仕様評価
MF59C.1は、あらかじめ定められた仕様書に従って製造された明確に定義
5 されたエマルジョンである。エマルジョンバルク及び最終単回用量アジュバントは、
カイロンの標準操作手順に従って一連のアッセイを用いて分析される。主要なアッ
セイには、外観、pH、平均粒径、品質に関する1ml当たりの大きな粒子数、高
速液体クロマトグラフィー(HPLC)法による内容物のスクアレン、ポリソルベ
ート80及びソルビタントリオレエートの濃度並びに安全性に関するエンドトキシ
10 ン及び汚染微生物の含有量が含まれる。視覚的には、MF59C.1は、乳白色の
均質な液体であり、外来粒子を含まない。高温での長時間ばく露や凍結のようなス
トレス条件下では、大きな油球が形成される。したがって、このような条件下での
MF59C.1の保管は避けなければならない。MF59C.1は、クエン酸ナト
リウム-クエン酸緩衝液でpH6.5に緩衝されている。プロセス中のように、M
15 F59C.1の平均粒径及びml当たりの大きな粒子数は、バルク及び最終アジュ
バントエマルジョンのための重要な品質パラメータである。MF59C.1の平均
粒径は、約150nmであり、1.2μm以上の粒子が1×10 7個の上限仕様で
あることが認められる。スクアレン、ポリソルベート80及びソルビタントリオレ
エートの量は、それぞれ39、4.7及び4.7mg/mlの表示濃度付近の許容
範囲内でなければならない。」(216頁本文1行目~217頁本文2行目)
(キ) 「図3.MF59バルクにおける粒径1.2μm以上の粒子数
」(217頁)
(ク) 「3.5.最終ワクチン製剤
5 3.5.1.ワクチンの構成
HSV-2 gB/gD、HBV、HIV gp120及び/又はp24、CM
V gB、インフルエンザヘマグルチニン(HA)を含む様々な抗原を、アジュバ
ントエマルジョンMF59C.1と共に、単一容器又は別個のバイアル(投与前に
混合するため、デュアルバイアルワクチンともいう。)のうちの一方の方式で、製
10 剤化する。」(217頁本文14行目~218頁本文3行目)
(ケ) なお、甲11の211頁本文6~9行目の記載等によると、甲11にいう
「MF59」及び「MF59C.1」は、いずれも「水中油型エマルジョンアジュ
バント」であると認められる。
イ 甲11記載の発明の認定
15 (ア) 前記アのとおりの甲11の記載及び弁論の全趣旨によると、甲11には、
次の発明(以下「甲11発明(認定)」という。)が記載されているものと認める
のが相当である。
(甲11発明(認定))
(Ⅰ)ポリソルベート80をWFIに溶解させて水性クエン酸ナトリウム-クエ
ン酸の緩衝液と組み合わせ、それとは別に、ソルビタントリオレエートをスクアレ
ンに溶解させ、これら2つの溶液を組み合わせた後、インラインホモジナイザーで
5 処理して、粗エマルジョンを得る工程、
(Ⅱ)当該粗エマルジョンを、所望の粒径になるまでマイクロフルイダイザーの
相互作用室に繰り返し通らせて平均粒径が約150nm、1.2μm以上の粒子が
ml当たり3.3×107個程度のサブミクロンエマルジョンを取得する工程、
(Ⅲ-1)バルクエマルジョンを窒素下で0.22μm膜に通して濾過し、大き
10 な粒子を取り除いて、平均粒径が約150nm、1.2μm以上の粒子がml当た
り0.2×106個程度であるMF59C.1アジュバントエマルジョンの50L
規模のバルクを手に入れる工程、
(Ⅲ-2)得られたアジュバントエマルジョンのバルクを0.22μm膜に通し
て滅菌濾過する工程、
15 を含むMF59C.1アジュバントエマルジョンの製造方法
(イ) 参加人の予備的主張について
参加人は、予備的に、甲11には甲11発明(参加人)が記載されていると主張
する。
そこで検討するに、甲11発明(認定)と甲11発明(参加人)との有意かつ実
20 質的な相違は、後者の工程(Ⅲ)(MF59C.1アジュバントエマルジョンのバ
ルクを大きな瓶に充填する工程)の有無である(両者のその余の相違は、本件発明
1と甲11記載の発明との相違点に係る本件発明1の構成の容易想到性の判断に影
響を及ぼすものではない。)。
ところで、引用発明(特許法29条1項各号に掲げる発明)も発明である以上、
25 その認定は、引用例に記載されるなどしたまとまりのある技術的事項に基づいてさ
れなければならないものと解される。また、引用発明の認定は、これを進歩性の有
無が問題とされる発明(以下「対象発明」という。)と対比させて、対象発明と引
用発明との相違点に係る技術的構成を確定させることを目的としてされるものであ
るから、対象発明との対比に必要な技術的構成について過不足なくされなければな
らないが、当該過不足のない認定がされていれば足り、特段の事情がない限り、対
5 象発明の発明特定事項との対応関係を離れ、引用発明を必要以上に限定して認定す
る必要はないものと解するのが相当である。
これを本件についてみるに、前記アの甲11の記載によると、微小流動化後のア
ジュバントエマルジョンを第1の膜で濾過した後のアジュバントエマルジョンにつ
いては、これを抗原溶液と組み合わせる場合と組み合わせない場合(甲11による
10 と、後者は、アジュバントエマルジョンを別個のバイアルとして提供する場合であ
り、MF59のバルクを滅菌濾過し、最終単回投与用バイアルに充填して包装する
ことになる。)とがあることが認められ、少なくとも後者の場合において、参加人
が主張する工程(Ⅲ)(バルクを大きな瓶に充填する工程)を経ることが技術的に
必須であるものと認めるに足りる証拠はない。そうすると、参加人が主張する工程
15 (Ⅲ)は、前者の場合のために便宜上設けられた工程であると考える余地があるか
ら、甲11記載の発明の認定に当たり、参加人が主張する工程(Ⅲ)が必須のもの
ではないとして、これが含まれないものと認定したとしても、そのような認定がま
とまりのある技術的事項に基づいてされたものではないということはできない。
また、前記第2の2のとおり、本件発明1は、(ⅰ)第1のエマルジョンを提供
20 する工程、(ⅰⅰ)第1のエマルジョンを微小流動化して第2のエマルジョンを形
成する工程及び(ⅰⅰⅰ)第2のエマルジョンを第1の層と第2の層とを含む親水
性二重層ポリエーテルスルホン膜を使用して濾過する工程を包含するというもので
あり、参加人が主張する工程(Ⅲ)又はこれに相当する工程を具体的な発明特定事
項とするものではないから、甲11記載の発明の認定に当たり、参加人が主張する
25 工程(Ⅲ)の認定が必要でないとして、これを含まないものと認定したとしても、
そのような認定は、本件発明1との対比に必要な技術的構成について過不足なくさ
れたものであるといえる。
したがって、甲11記載の発明につき、参加人が主張するように認定するべきで
あるということはできない。
以上のとおりであるから、参加人の上記予備的主張を採用することはできない。
5 ウ 本件発明1と甲11発明(認定)との相違点の認定
(ア) 本件発明1と甲11発明(認定)とを対比すると、両者の間には、次の相
違点Aが存在するものと認めるのが相当である。
(相違点A)
濾過工程について、本件発明1においては、「0.3μm以上の孔サイズを有す
10 る第1の層と0.3μmより小さい孔サイズを有する第2の層とを含む親水性二重
層ポリエーテルスルホン膜を使用して、濾過」する工程と特定されているのに対し、
甲11発明(認定)においては、「(Ⅲ-1)バルクエマルジョンを窒素下で0.
22μm膜に通して濾過し、大きな粒子を取り除いて、平均粒径が約150nm、
1.2μm以上の粒子がml当たり0.2×106個程度であるMF59C.1ア
15 ジュバントエマルジョンの50L規模のバルクを手に入れる工程、(Ⅲ-2)得ら
れたアジュバントエマルジョンのバルクを0.22μm膜に通して滅菌濾過する工
程」と特定されている点
(イ) 甲11記載の発明につき、これを甲11発明(認定)のとおりに認定すべ
きことは、前記イのとおりであるから、本件発明1と甲11記載の発明との間に本
20 件審決が認定した相違点1が存在するとの参加人の主位的主張及び両者の間に相違
点1”が存在するとの参加人の予備的主張は、いずれも採用することができない。
エ 相違点Aに係る本件発明1の構成の容易想到性
(ア) 丙4(その訳文は、丙4に添付されたもの、甲15に添付されたもの及び
甲70(本件審判手続において脱退被告が提出したもの)である。)の記載
25 丙4には、次の記載がある。
a 1頁(表紙)
「バイオプロセスカタログ
バイオ医薬産業のための製品とソリューション」(表題)
b 114~115頁
(a) 「Sartopore○2

0.2μm」(114頁表題)
5 (b) 「Sartopore ○ 2

0.2μmは、医薬品適正製造基準の要求事
項を順守することを目的として、広範囲の医薬製品を濾過できるように設計された
0.2μm級滅菌フィルタカートリッジである。Sartopore○2カートリ

ッジは、独特な親水性異質二重層ポリエーテルスルホン膜からなり、現存する滅菌
フィルタカートリッジのいずれに比べても優れた特性を持ち、広範囲の化学的適合
10 性、高耐熱性、高処理量、高流速の特性を全て備えている。

主用途は、以下の滅菌フィルターを含む:
-治療用
-生体液
15 -眼科剤
-SVPs(少量注射剤)、LVPs(大容量注射剤)
-抗生物質
-WFI(注射用水)
-化学物質
20 -洗浄剤、殺菌剤
-バルク医薬品」(114頁左欄2~24行)
(c) 「Sartopore ○ 2カートリッジは、0.45μm膜を用いた「組

み込み予備濾過」による分画濾過のため、非常に高い総処理能力を持ち合わせてい
る。ポリエーテルスルホン膜の非対称的孔構造は、低い圧力下で、高い流速を提供
25 する。」(114頁右欄2~8行目)
(d) 「Sartopore ○ 2フィルタカートリッジは、HIMA及びAST

M F-838-83ガイドラインに従う滅菌グレードのフィルタエレメントとし
て十分検証されている。」(114頁右欄14~17行目)
(e) 「総処理量比較
総処理量[95%閉塞時kg]
10インチカートリッジフォーマット」(114頁右欄のグラフ)
(f) 「孔サイズ
0.45μm+0.2μm」(115頁左欄1~2行目)
(g) 「
10 」
(115頁右欄最上部の表)
(イ) 甲65の記載
甲65には、次の記載がある。
a 「導入」(18頁左欄1行目)
15 (a) 「合成ポリマーの微小多孔性膜を使用する通常のフローフィルタ又はデッ
ドエンドフィルタは、多種多様なバイオ医薬液体の濾過用途に広く使用される。」
(18頁左欄2~6行目)
(b) 「媒体濾過には、典型的には、プレフィルタとして0.45μm、最終フ
ィルタとして0.2μm及び0.1μmの範囲の保持定格を持つ膜が含まれる。膜
フィルタは、セルロースDE清澄化フィルタ後の細胞回収清澄化においても使用さ
れる。これらのフィルタの主な目的は、濾液中のバイオバーデンを減らし、それに
5 よって製品中の細菌汚染の可能性を減らすことである。下流工程では、バイオバー
デンを低減させ、プールされた下流精製中間体の無菌性を維持するために、滅菌グ
レードの0.2μm定格の膜フィルタが一般的に使用される。滅菌グレードの0.
2/0.22μm定格フィルタは、最終的に精製されたバルク原薬をバイアルに滅
菌するためにも使用される。」(18頁中欄6行目~右欄2行目)
10 (c) 「膜濾過は、血液分画、血清の処理、大容量非経口剤(LVP)等の従来
の製薬用途でも日常的に使用されている。ここでの目標は、バイオ医薬品プロセス
と同じであり、製品の細菌汚染の可能性を低減させ、低温滅菌の方法を提供するこ
とである。プレフィルタと最終フィルタの組合せを正しく選択することで、流速、
濾過時間及び全体的な濾過コストの最適なバランスが得られる。」(19頁左欄4
15 ~14行目)
b 「重要な膜フィルタの特性」(19頁左欄15~16行目)
「膜濾過の主な目標は、濾液中の細菌汚染を減らし、0.2μm定格のフィルタ
で「滅菌」濾液を提供することであるため、それらは、以下の基準に基づいて評価
される:
20 ・細菌汚染のリスクを大幅に低減させるための細菌の効果的な保持
・高い総処理量性能による低い濾過面積と削減された濾過コスト
・バッチ全体が妥当な時間枠で濾過することを保証する許容可能な流速範囲
・特に下流に移動し、標的たんぱく質の濃度が増加する場合の標的たんぱく質の低
い吸収/吸着度」(19頁左欄17行目~右欄2行目)
25 c 「膜フィルタの種類」(20頁右欄5行目)
(a) 「膜の実際の孔径よりも大きい粒子や微生物は、効果的に除去される。」
(20頁右欄18~20行目)
(b) 「市販の膜フィルタデバイスの多くは、一般に、2つの不均一な膜の層か
らひだ加工されている。上流の膜層は、より大きな粒子除去のためにより粗いが、
下流の膜は、コロイド含有量とバイオバーデンを減らすためにより細かくなる。」
5 (20頁右欄30~36行目)
(c) 「ザルトリウス・ステディム・バイオテックのSartopore ○ 2

XLG 0.8/0.2やSartopore R 2

XLI 0.35/0.2
PESフィルタのような膜濾過には、新しい革新的なアプリケーション固有のアプ
ローチもある。これらのフィルタは、どちらも、バイオテクノロジーや医薬品産業
10 で一般的に遭遇する流体における特定の粒度分布特性に合わせて設計された異なる
プレフィルタ膜保持評価を備えている。XLG及びXLIのプレフィルタ層は、様
々な用途で効果的であり、最適化されたひだ付きパック構造と組み合わせた非常に
高い処理量を実現し、10インチエレメント当たりの有効濾過面積を30%向上さ
せる。0.2μmの最終フィルタ層は、現在のSartopore2 0.45/
15 0.2の組合せと同じで、信頼性の高い細菌保持を提供する。この新しい開発は、
現在市販されている二重層膜フィルタと比較して、膜濾過の飛躍的な進歩を約束す
る。これらのフィルタは、プレフィルタの必要性を排除しながら、幾つかの大規模
なアプリケーションで膜フィルタの総表面積を半分以上削減した。」(21頁左欄
18行目~中欄11行目)
20 (ウ) 周知技術の認定
前記(ア)のとおりの丙4の記載によると、本件製品は、孔サイズが0.45μm
である予備濾過膜及び孔サイズが0.2μmである最終濾過膜からなる親水性異質
二重層ポリエーテルスルホン膜を備えるものであると認められる。また、証拠(甲
46(ノバルティス・ヴァクシーンズ作成の2009年7月22日付け文書)、甲
25 65、丙4)及び弁論の全趣旨によると、本件製品は、本件優先日当時に市販され
ており、本件製品が備える上記の膜は、本件優先日当時の当業者に広く知られてい
たものと認められる(なお、参加人も、この点を特段争うものではない。)。した
がって、本件製品の上記の膜を用いて濾過を行うことは、本件優先日当時の周知技
術(以下「本件周知技術」という。)であったものと認めるのが相当である。
そして、相違点Aに係る本件発明1の構成と本件周知技術とを比較すると、本件
5 周知技術は、相違点Aに係る本件発明1の構成に相当するものであるから、以下、
本件優先日当時の当業者において、甲11発明(認定)に本件周知技術を適用し
(以下、この適用を「本件適用」ということがある。)、相違点Aに係る本件発明
1の構成に容易に想到し得たか否かについて検討する。
(エ) 本件適用に係る動機付けの有無
10 a 技術分野
(a) 前記アの甲11の記載によると、甲11発明(認定)は、ワクチンアジュ
バントのエマルジョンを製造する技術の分野に属する発明であると認められる。
他方、前記(イ)のとおり、甲65には、「導入」として、「合成ポリマーの微小
多孔性膜を使用する通常のフローフィルタ等は、多種多様なバイオ医薬液体の濾過
15 用途に広く使用され、これらのフィルタの主な目的は、製品中の細菌汚染の可能性
を減らすことである」旨の記載、「濾過膜は、血液分画、血清の処理、大容量非経
口剤(LVP)等の従来の製薬用途でも日常的に使用され、ここでの目標は、バイ
オ医薬品プロセスと同じであり、製品の細菌汚染の可能性を低減させることである」
旨の記載等があり、甲65は、これらの膜を備えた具体的な製品として、本件製品
20 に言及している。また、前記(ア)のとおり、丙4には、本件製品が「広範囲の医薬
製品を濾過できるように設計されたものであり、広範囲の化学的適合性を備えるも
のである」旨の記載がある。これらによると、本件製品は、少なくとも上記の「従
来の製薬」に該当すると解されるワクチンアジュバントのエマルジョンの製造にも
当然に適用し得るものであると認められるから(なお、前記(ア)のとおり、丙4に
25 は、本件製品の用途の例として「バルク医薬品」が挙げられている。)、本件周知
技術は、甲11発明(認定)が属する技術分野を包む技術分野に属する技術である
と認めるのが相当である。
以上のとおりであるから、甲11発明(認定)と本件周知技術とは、その属する
技術分野を共通にするといえる。
(b) 参加人は、甲65は「バイオ医薬品」(遺伝子組換え技術等を用いて製造
5 したたんぱく質を有効成分とする医薬品)について言及するものであるところ、ワ
クチンアジュバントのエマルジョンは「バイオ医薬品」に当たらない、丙4には本
件製品がスクアレン含有水中油型エマルジョンの滅菌フィルタに使用し得る旨の記
載がないとして、甲11発明(認定)が属する技術分野と本件周知技術が属する技
術分野とが異なる旨主張するものと解される。
10 しかしながら、前記(a)のとおり、本件製品は、少なくとも甲65にいう「従来
の製薬」に該当すると解されるワクチンアジュバントのエマルジョンの製造にも当
然に適用し得るものであるから、甲11発明(認定)が属する技術分野と本件周知
技術が属する技術分野とが異なるとはいえない。参加人の主張は失当である。
b 甲11発明(認定)が有する課題
15 (a) 甲11には、前記アにおいて認定した箇所を含め、本件適用を動機付ける
ような課題の記載はみられない。
しかしながら、甲20(日本ワクチン学会編「ワクチンの事典」(平成16年))
の「無菌性の保証 ワクチンは通常、…無菌製造、無菌充填が行われる。」との記
載、前記(イ)のとおりの甲65の記載(「プレフィルタと最終フィルタの組合せを
20 正しく選択することで、流速、濾過時間及び全体的な濾過コストの最適なバランス
が得られる」旨の記載、「膜濾過の主な目標である滅菌濾液の提供を評価する基準
として、①細菌の効果的な保持がされること、②高い総処理量を有することによる
濾過コストの削減がされること、③許容可能な範囲の流速による妥当な時間枠にお
けるバッチ全体の濾過がされることなどが挙げられる」旨の記載、「本件製品の製
25 造業者が製造する本件製品と同種の製品のプレフィルタ層は、非常に高い処理量を
実現し、10インチエレメント当たりの有効濾過面積を30%以上向上させ、0.
2μmの最終フィルタ層は、本件製品の組合せと同じで、信頼性の高い細菌保持を
提供する」旨の記載等)に加え、甲11発明(認定)と本件周知技術とがその属す
る技術分野を共通にすること(前記a)に照らすと、ワクチンアジュバントのエマ
ルジョンの製造に用いられる濾過膜については、その品質を向上させるため、①細
5 菌を効果的に保持すること、②総処理量が大きいこと及び③流速が妥当なものであ
ることが求められているものと認められる。それのみならず、そもそもワクチンア
ジュバントのエマルジョンの製造に用いられる濾過膜において、上記①から③まで
の要請が達成されることにより当該濾過膜の品質の向上につながることは、これら
の要請の内容に照らし、本件優先日の当業者にとって自明であったというべきであ
10 る。したがって、甲11発明(認定)には、これらの要請を達成するとの課題(以
下「本件課題」という。)が内在しており、甲11発明(認定)に接した本件優先
日当時の当業者は、甲11発明(認定)が本件課題を有していると認識したものと
認めるのが相当である。
(b) 参加人は、ここでも甲65は「バイオ医薬品」(遺伝子組換え技術等を用
15 いて製造したたんぱく質を有効成分とする医薬品)について言及するものであり、
ワクチンアジュバントのエマルジョンは「バイオ医薬品」に当たらないから、甲6
5の記載をもって甲11記載の発明の課題を認定することはできないと主張する。
しかしながら、甲11発明(認定)は、ワクチンアジュバントのエマルジョンを
製造する技術の分野に属する発明であり、甲65は、従来の製薬用途でも日常的に
20 使用され、製品の細菌汚染の可能性を低減させることを目的とする濾過膜について
述べた文献であるから、甲65記載の事項(本件課題)は、少なくとも甲65にい
う「従来の製薬」に該当すると解されるワクチンアジュバントのエマルジョンの製
造にも当然に当てはまるものというべきである。それのみならず、そもそもワクチ
ンアジュバントのエマルジョンの製造に用いられる膜において、本件課題が本件優
25 先日当時の当業者にとっての自明の課題であったことは、前記(a)のとおりである。
参加人の主張を採用することはできない。
c 本件課題の解決手段
(a) 前記(ア)のとおりの丙4の記載(「本件製品のフィルタカートリッジは、現
存する滅菌フィルタカートリッジのいずれと比較しても優れた特性を持ち、広範囲
の化学的適合性、高耐熱性、高処理量、高流速の特性を全て備えている」旨の記載、
5 「本件製品のカートリッジは、0.45μm膜を用いた「組み込み予備濾過」によ
る分画濾過のため、非常に高い総処理能力を持ち合わせている。ポリエーテルスル
ホン膜の非対称的孔構造は、低い圧力下で、高い流速を提供する」旨の記載、「本
件製品のフィルタカートリッジは、HIMAやASTM F-838-83ガイド
ラインに従う滅菌グレードのフィルタエレメントとして十分検証されている」旨の
10 記載、95%閉塞時における総処理量において本件製品が最も優れている旨のグラ
フ等)、前記(イ)のとおりの甲65の記載(「本件製品の製造業者が製造する本件
製品と同種の製品の0.2μmの最終フィルタ層は、本件製品の0.45μm/0.
2μmの組合せと同じで、信頼性の高い細菌保持を提供する」旨の記載等)及び弁
論の全趣旨によると、本件製品が備える親水性異質二重層ポリエーテルスルホン膜
15 をワクチンアジュバントのエマルジョンの製造(濾過)に用いることにより、本件
課題をいずれも解決することができるものと認めるのが相当である。
(b) 参加人は、丙4の記載は本件製品の特性に関する一般論を述べるものにす
ぎず、丙4には本件製品がスクアレン含有水中油型エマルジョンを含む水中油型エ
マルジョンの滅菌濾過を用途とし得るものである旨の明記がないとして、丙4記載
20 の本件製品の特性をもって甲11記載の発明が有する課題を解決することができる
ものであると認めることはできないと主張する。
しかしながら、本件製品は、広範囲の医薬製品を濾過することができるように設
計され、広範囲の化学的適合性を備えるものであり(前記(ア))、また、ワクチン
アジュバントのエマルジョンの製造にも当然に適用し得るものである(前記a)と
25 ころ、甲65及び丙4には、本件製品をワクチンアジュバントのエマルジョンの製
造に用いた場合に、本件製品が持つ本来の性能が十分に発揮されないものとうかが
わせる記載は一切なく、その他、そのような事実を認めるに足りる証拠はないから、
甲65及び丙4に記載された本件製品の性能は、本件製品をワクチンアジュバント
のエマルジョンの製造に用いた場合にも発揮されるものと認めるのが相当である。
参加人の主張を採用することはできない。
5 d 本件適用に係る動機付けの有無についての参加人のその余の主張に対する判

参加人は、①甲11記載の発明における第1の濾過工程と第2の濾過工程は段階
を異にする別個の工程である、②前者の工程と後者の工程は濾過の条件(高温高圧
条件下での実施の要否)、用いる濾過膜の性質(細菌保持力の強弱)及び濾過のタ
10 イミング(バルクの充填工程の前後)を異にするものであるとして、甲11記載の
発明に接した当業者において、前者の工程と後者の工程を1つの濾過工程(本件製
品の膜を用いた工程)に置き換えることが容易であったとはいえないと主張する。
しかしながら、前記イ(イ)において説示したとおり、参加人が主張する工程(Ⅲ)
(アジュバントエマルジョンのバルクを大きな瓶に充填する工程)は、アジュバン
15 トエマルジョンを抗原溶液と組み合わせる場合とこれらを組み合わせない場合とが
あることから便宜上設けられた工程とみる余地があり、少なくとも後者の場合にお
いては、当該工程を経ることが技術的に必須であるとまでいえないと考えられるの
であるから、甲11記載の発明において第1の濾過工程と第2の濾過工程を連続し
て行うことは、同発明の技術的思想と何ら背馳するものではない(この評価は、甲
20 11(前記ア)に、第1の濾過工程(大きな粒子を除去する工程)につき「安定性
を有するエマルジョンの製造のために重要である」旨の記載が、第2の濾過工程に
つき「滅菌濾過を行った上、アジュバントを単回投与用のバイアルに充填する」旨
の記載がそれぞれあることによっても妨げられるものではない。)。そうすると、
甲11記載の発明の第1の濾過工程と第2の濾過工程が連続して行うことができな
25 い別個の工程であるということはできないから、上記の①の点を根拠とする参加人
の主張を採用することはできない。
また、前記アにおいて認定した箇所を含め、甲11には、第1の濾過工程におけ
る濾過と第2の濾過工程における濾過がどのような温度や圧力の下で行われなけれ
ばならないかについての記載はなく、その他、濾過が行われるべき温度又は圧力を
第1の濾過工程と第2の濾過工程とで別異にすべきであることを認めるに足りる証
5 拠はないから、甲11記載の発明に接した本件優先日当時の当業者において、第1
の濾過工程における濾過は高温高圧下で行う必要があるが、第2の濾過工程におけ
る濾過は高温高圧下で行う必要がないなどと認識するものとは認められない。細菌
保持力の点についてみても、前記アにおいて認定した箇所を含め、甲11には、第
1及び第2の濾過工程において使用される各膜につき、これらの細菌保持力の強弱
10 についての記載はなく、その他、細菌保持力を第1の濾過工程において使用される
膜と第2の濾過工程において用いられる膜とで別異にすべきであることを認めるに
足りる証拠はないから、甲11記載の発明に接した本件優先日当時の当業者におい
て、第2の濾過工程において使用される膜の細菌保持力は強くする必要があるが、
第1の濾過工程において使用される膜の細菌保持力は強くする必要がないなどと認
15 識するものとは認められない。濾過のタイミングの点についてみても、参加人が主
張する工程(Ⅲ)(アジュバントエマルジョンのバルクを大きな瓶に充填する工程)
を経ることが技術的に必須であることを認めるに足りる証拠がないことは、前記イ
(イ)において説示したとおりであるから、甲11記載の発明に接した本件優先日当
時の当業者において、第1の濾過工程はアジュバントエマルジョンのバルクの大き
20 な瓶への充填の前に行う必要があり、第2の濾過工程は当該充填の後に行う必要が
あるなどと認識するものとも認められない。したがって、上記の②の点を根拠とす
る参加人の主張も採用することはできない。
e 本件適用に係る動機付けの有無についての小括
以上のとおりであるから、本件優先日当時の当業者において、甲11発明(認定)
25 に本件周知技術を適用する動機付けがあったものと認めるのが相当である。
(オ) 本件適用に係る阻害要因の有無
a 参加人は、甲11記載の発明の第1の濾過工程において用いられる膜の孔サ
イズが0.22μmであるのに対し、本件周知技術の予備濾過膜の孔サイズは0.
45μmであるところ、甲11記載の発明における第1の濾過工程の目的(安定性
を有するエマルジョンのバルクを得るために径が1.2μmを超える大きな粒子を
5 十分に除去すること)に照らすと、甲11記載の発明の第1の濾過工程において用
いられる膜に代えて、孔サイズが2倍以上になる本件周知技術の予備濾過膜を適用
することには阻害要因があると主張する。
しかしながら、前記(イ)c(a)のとおり、甲65には、「膜の実際の孔径よりも大
きい粒子や微生物は、効果的に除去される。」との記載があり、孔サイズが0.4
10 5μmである本件周知技術の予備濾過膜を採用した場合であっても、径が1.2μ
mを超える大きな粒子を十分に除去し、もって、安定性を有するエマルジョンのバ
ルクを得ることができるものと認められる。また、前記(エ)bのとおり、甲11発
明(認定)は、①細菌を効果的に保持するとの課題のほか、②総処理量を大きくす
るとの課題及び③流速を妥当なものにするとの課題を内在しているところ、当該②
15 及び③の課題の解決のためには、目詰まりの防止等の観点から、適当な範囲で膜の
孔サイズを大きくすることも十分に考え得ることであるから、甲11発明(認定)
に接した本件優先日当時の当業者は、本件課題を解決するため、甲11発明(認定)
において用いられる各膜の孔サイズを適当な範囲で大きくすることも小さくするこ
とも検討するものと認められる。
20 以上のとおりであるから、本件周知技術における予備濾過膜の孔サイズが0.4
5μmであることは、本件適用に係る阻害要因ではない。
b 参加人は、本件製品の膜につき、丙4にはこれをスクアレン含有水中油型エ
マルジョンを含む水中油型エマルジョンの滅菌濾過に用い得る旨の記載がないとし
て、甲11記載の発明の第1の濾過工程において用いられる膜に代えて、本件周知
25 技術の予備濾過膜を適用することには阻害要因があるとも主張する。
しかしながら、甲11発明(認定)と本件周知技術とが技術分野を共通にしてお
り、甲11発明(認定)が本件課題を有しており、かつ、本件製品が備える膜を用
いることにより本件課題を解決することができることは、前記(エ)aからcまでに
おいて説示したとおりであるから、丙4に参加人が主張する記載がないことは、本
件適用に係る阻害要因があることを根拠付けるものではない。
5 c なお、参加人は、本件製品が製品歩留まりの点で他の製品に劣るとして、本
件優先日当時の当業者による本件適用に阻害要因がある旨の主張をするが、丙4の
102頁及び110頁の各「Highest product yield」の記載は、高価なたんぱく
質溶液や吸着(adsorption)に敏感な医薬品を高い回収率(product recovery
rates)で濾過するのに適した膜に係る記載であると解されるから、これらの記載
10 が、たんぱく質を含有しないMF59C.1の製造方法に係る甲11発明(認定)
に本件周知技術を適用することを否定したり、その阻害要因になったりするなどと
認めることはできない。
d その他、本件適用に係る阻害要因があるものと認めるに足りる証拠はない。
(カ) 相違点Aに係る本件発明1の構成の容易想到性についての小括
15 以上のとおりであるから、本件優先日当時の当業者は、甲11発明(認定)に本
件周知技術を適用することにより、相違点Aに係る本件発明1の構成に容易に想到
し得たものと認めるのが相当である。
オ 本件発明1が奏する効果
本件発明1の奏する効果が予測することのできない顕著なものであるか否かの判
20 断に当たっては、本件優先日当時において、本件発明1の構成が奏するものとして
本件優先日当時の当業者が予測することのできないものであったか否か、当該構成
から当該当業者が予測することのできた範囲の効果を超える顕著なものであったか
否かという観点から検討するのが相当である(最高裁令和元年8月27日第三小法
廷判決(平成30年(行ヒ)第69号)裁判集民事262号51頁参照)。
25 この点に関し、参加人は、本件発明1は本件各要件を全て満たす親水性二重層ポ
リエーテルスルホン膜を採用することにより、当該膜を使用しない場合と比較して、
著しく高いエマルジョンの回収率を達成するところ、当該効果(本件効果)は本件
優先日当時の当業者が予測することのできない顕著なものであったと主張する。
確かに、前記1(1)のとおり、本件明細書には、50Lのエマルジョンの濾過に
おいて、10種類の異なる膜のうち本件各要件を備える親水性二重層ポリエーテル
5 スルホン膜を用いた場合には、いずれも50%以上の回収率を示したが、その余の
膜を用いた場合には、16%以下の回収率を示した旨の記載(実施例4(段落【0
195】~【0197】、【表3】))がある。
しかしながら、本件明細書の実施例4の【表3】中の回収率の低いものとして比
較対象となる膜の材質や孔サイズは本件明細書中では十分に開示されておらず、仮
10 に事後的に甲36において示された材質や孔サイズを前提としたとしても、例えば、
フィルタ2とフィルタ7を比較すると、同じ孔サイズの場合、最終フィルタの材質
がPESであるものよりもPVDFであるものの方が回収率が高くなっているなど、
これらのデータだけでは、参加人の主張する顕著な回収率が本件発明1に係る親水
性二重層ポリエーテルスルホン膜の効果によるものであるとの証明がされていると
15 はいえない。それのみならず、前記エ(ア)のとおりの丙4の記載(「本件製品のカ
ートリッジは、現存する滅菌フィルタカートリッジのいずれと比較しても優れた特
性を持ち、広範囲の化学的適合性、高耐熱性、高処理量、高流速の特性を備えてい
る」旨の記載、「本件製品のカートリッジは、0.45μm膜を用いた「組み込み
予備濾過」による分画濾過のため、非常に高い総処理能力を持ち合わせている」旨
20 の記載、本件製品の膜が95%閉塞するまでにおける総処理量が約90kgである
旨のグラフ等)によると、本件製品を用いて50L程度のエマルジョンを濾過した
場合、膜の詰まりの程度が低く抑えられ、本件明細書に記載された程度の高い回収
率を実現し得ることは、本件優先日当時の当業者にとって容易に理解し得たものと
認めるのが相当である(なお、本件明細書の段落【0197】も、実施例4におけ
25 る低回収率の原因は膜の詰まりであるとしている。)。
以上によると、本件各要件を全て満たす親水性二重層ポリエーテルスルホン膜を
使用した場合と当該膜を使用しない場合とを比較し、前者の場合に得られる本件効
果が当業者において予測することができない顕著なものであったとする参加人の主
張の妥当性には疑問がある上、参加人が主張する本件効果は、甲11発明(認定)
に本件周知技術を組み合わせた構成(本件発明1の構成)が奏するものとして本件
5 優先日当時の当業者が予測することのできないものであったと認めることはできず、
また、当該構成から当該当業者が予測することのできた範囲の効果を超える顕著な
ものであったと認めることもできないというべきである。その他、本件効果が、本
件発明1の構成が奏するものとして本件優先日当時の当業者が予測することのでき
ないもの又は当該構成から当該当業者が予測することのできた範囲の効果を超える
10 顕著なものであったと認めるに足りる証拠はない。
なお、参加人は、「本件発明1は、多種多様な濾過膜が存在していた中で、本件
各要件を全て満たす親水性二重層ポリエーテルスルホン膜が特にスクアレン含有水
中油型エマルジョンの製造に適していることを見いだして創作されたものである」
旨主張するが、本件優先日当時の当業者において、甲11発明(認定)に本件周知
15 技術を適用することが容易になし得たものであることは、前記エのとおりであるか
ら、参加人の主張は、本件効果が本件優先日当時の当業者において予測することの
できない顕著なものであったとの評価を根拠付けるものではない。
カ 本件発明1の進歩性についての小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、本件優先日当時の当業者において甲1
20 1発明(認定)に基づき容易に発明をすることができたものであり、進歩性を欠く
ものである。これと異なる本件審決の判断は誤りである。
キ 本件発明2等の進歩性に係る本件審決の判断について
前記第2の3(2)オのとおり、本件審決は、本件発明2等と甲11記載の発明と
がそれぞれ少なくとも本件発明1と甲11記載の発明との相違点と同様の相違点を
25 有することを理由として、本件発明2等についても容易想到性を否定したものであ
るが、本件発明1につき、これが当該当業者において甲11発明(認定)に基づき
容易に発明をすることができたものであることは、前記カのとおりであるから、本
件審決の上記判断は、その前提を欠くものとして誤りである。
3 結論
以上の次第であるから、その余の取消事由について判断するまでもなく、原告の
5 請求は理由がある。
知的財産高等裁判所第2部
10 裁判長裁判官
清 水 響
15 裁判官
浅 井 憲
20 裁判官
勝 又 来 未 子
(別紙)
当 事 者 目 録
原 告 KMバイオロジクス株式会社
同訴訟代理人弁護士 設 樂 隆 一
河 合 哲 志
10 同訴訟代理人弁理士 今 村 玲 英 子
吉 住 和 之
坂 西 俊 明
承 継 参 加 人 セキラス ユーケー リミテ
15 ッド
同訴訟代理人弁護士 山 本 健 策
福 永 聡
本 田 輝 人
20 桝 田 甲 佑
橋 本 賢 大
同訴訟代理人弁理士 山 本 秀 策
石 川 大 輔
髙 橋 隼 人
25 同訴訟復代理人弁護士 池 田 有 沙
脱 退 被 告 ノバルティス アーゲー
5 以 上
別紙 特許請求の範囲
【請求項1】
スクアレン含有水中油型エマルジョンを製造するための方法であって、該方法は、
5 (i)第1の平均油滴サイズを有する第1のエマルジョンを提供する工程;
(ii)該第1のエマルジョンを微小流動化して、該第1の平均油滴サイズより小さな第2
の平均油滴サイズを有する第2のエマルジョンを形成する工程;および
(iii)該第2のエマルジョンを、0.3μm以上の孔サイズを有する第1の層と0.3
μmより小さい孔サイズを有する第2の層とを含む親水性二重層ポリエーテルスルホン膜を使
10 用して、濾過し、それによって、スクアレン含有水中油型エマルジョンを提供する工程、
を包含する、方法。
【請求項2】
スクアレン含有水中油型エマルジョンワクチンアジュバントを含むワクチン組成物を製造す
るための方法であって、該方法は、
15 (i)5000nm以下の平均油滴サイズを有する第1のエマルジョンを提供する工程;
(ii)該第1のエマルジョンを微小流動化して、500nm以下である平均油滴サイズを
有する第2のエマルジョンを形成する工程;
(iii)該第2のエマルジョンを、0.3μm以上の孔サイズを有する第1の親水性ポリ
エーテルスルホン膜層と0.3μmより小さい孔サイズを有する第2の親水性ポリエーテルス
20 ルホン膜層とを使用して濾過し、それによって、スクアレン含有水中油型エマルジョンを提供
する工程、および
(iv)該エマルジョンアジュバントと抗原とを合わせる工程
を包含する、方法。
【請求項3】
25 前記第1の平均油滴サイズは、5000nm以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1のエマルジョンにおいて1.2μmよりも大きいサイズを有する油滴の数は、5×1
011/ml以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記第2の平均油滴サイズは、500nm以下である、請求項1、3、および請求項1に従属
5 する場合の請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記第2のエマルジョンにおいて1.2μmよりも大きいサイズを有する油滴の数は、5×1
010/ml以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
10 スクアレン含有水中油型エマルジョンを製造するための方法であって、該方法は、
(i)500nm以下の平均油滴サイズを有するスクアレン含有エマルジョンを形成する工
程;
(ii)該スクアレン含有エマルジョンを、0.3μm以上の孔サイズを有する第1の層と
0.3μmより小さい孔サイズを有する第2の層とを含む親水性二重層ポリエーテルスルホン
15 膜を使用して、濾過し、それによって、スクアレン含有水中油型エマルジョンを提供する工程、
を包含する、方法。
【請求項8】
濾過後の前記平均油滴サイズは、220nm未満である、請求項1~7のいずれか1項に記載
の方法。
20 【請求項9】
濾過後の1.2μmよりも大きいサイズを有する油滴の数は、5×108/ml以下である、
請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記第2のエマルジョンは、前記親水性二重層ポリエーテルスルホン膜の前記第2の層による
25 濾過の前に、前記親水性二重層ポリエーテルスルホン膜の前記第1の層を通って濾過される、
請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記膜の前記第1の層は、非対称および/もしくは多孔性である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記膜の前記第2の層は、非対称および/もしくは多孔性である、請求項1~11のいずれか
5 1項に記載の方法。
【請求項13】
前記膜の前記第2の層、および必要に応じて前記膜の前記第1の層は、ポリマー支持材料を含
む、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
10 前記エマルジョンの体積が、20Lよりも大きい、請求項1~13のいずれか1項に記載の方
法。
【請求項15】
ワクチン組成物を調製するための方法であって、該方法は、請求項1または3~14のいずれ
か1項に記載のスクアレン含有水中油型エマルジョンの製造方法に従うエマルジョンアジュバ
15 ントを調製する工程および該エマルジョンアジュバントと抗原とを合わせる工程を包含する、
方法。
【請求項16】
ワクチンキットを調製するための方法であって、該方法は、請求項1または3~14のいずれ
か1項に記載のスクアレン含有水中油型エマルジョンの製造方法に従うエマルジョンアジュバ
20 ントを調製する工程および該エマルジョンアジュバントを、キット成分として、抗原成分と一
緒にキットにパッケージする工程を包含する、方法。
【請求項17】
前記キット成分は、別個のバイアル中にある、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
25 前記バイアルは、ホウケイ酸ガラスから作製される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記エマルジョンアジュバントは、バルクアジュバントであり、前記方法は、キット成分とし
てパッケージするために、該バルクアジュバントから単位用量を抽出する工程を包含する、請
求項16~18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
5 前記抗原は、インフルエンザウイルス抗原である、請求項15~19のいずれか1項に記載の
方法。
【請求項21】
前記抗原は、インフルエンザウイルス抗原であり、前記エマルジョンおよび前記抗原の組み合
わせがワクチン組成物を形成し、該ワクチン組成物は、インフルエンザウイルス株あたり0.
10 1μg~50μgの間のヘマグルチニンを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項22】
前記抗原は、インフルエンザウイルス抗原であり、前記エマルジョンおよび前記抗原の組み合
わせは、ワクチン組成物を形成し、該ワクチン組成物は、インフルエンザウイルス株あたり約
15μgのヘマグルチニンを含む、請求項15に記載の方法。
15 【請求項23】
前記抗原は、インフルエンザウイルス抗原であり、前記エマルジョンおよび前記抗原の組み合
わせがワクチン組成物を形成し、該ワクチン組成物は、インフルエンザウイルス株あたり約1
0μgのヘマグルチニンを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項24】
20 前記抗原は、インフルエンザウイルス抗原であり、前記エマルジョンおよび前記抗原の組み合
わせがワクチン組成物を形成し、該ワクチン組成物は、インフルエンザウイルス株あたり約7.
5μgのヘマグルチニンを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項25】
前記抗原は、インフルエンザウイルス抗原であり、前記エマルジョンおよび前記抗原の組み合
25 わせがワクチン組成物を形成し、該ワクチン組成物は、インフルエンザウイルス株あたり約5
μgのヘマグルチニンを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項26】
前記抗原は、インフルエンザウイルス抗原であり、前記エマルジョンおよび前記抗原の組み合
わせがワクチン組成物を形成し、該ワクチン組成物は、インフルエンザウイルス株あたり約3.
8μgのヘマグルチニンを含む、請求項15に記載の方法。
5 【請求項27】
前記抗原は、インフルエンザウイルス抗原であり、前記エマルジョンおよび前記抗原の組み合
わせがワクチン組成物を形成し、該ワクチン組成物は、インフルエンザウイルス株あたり約3.
75μgのヘマグルチニンを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項28】
10 前記抗原は、インフルエンザウイルス抗原であり、前記エマルジョンおよび前記抗原の組み合
わせがワクチン組成物を形成し、該ワクチン組成物は、インフルエンザウイルス株あたり約1.
9μgのヘマグルチニンを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項29】
前記抗原は、インフルエンザウイルス抗原であり、前記エマルジョンおよび前記抗原の組み合
15 わせがワクチン組成物を形成し、該ワクチン組成物は、インフルエンザウイルス株あたり約1.
5μgのヘマグルチニンを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項30】
前記エマルジョンおよび前記抗原の組み合わせは、ワクチン組成物を形成し、該ワクチン組成
物は、チメロサール保存剤もしくは2-フェノキシエタノール保存剤を含む、請求項21~2
20 9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
水性成分、スクアレンおよび界面活性剤を含有する水中油型エマルジョンを調製するための、
0.3μm以上の孔サイズを有する第1の膜の層と0.3μmより小さい孔サイズを有する第
2の膜の層とを含む親水性二重層ポリエーテルスルホンフィルタの使用であって、該水中油型
25 エマルジョンが、2体積%~20体積%の間の油を含む、使用。
【請求項32】
前記水中油型エマルジョンが、約5体積%のスクアレン、約0.5体積%のポリソルベート8
0および約0.5体積%のソルビタントリオレエートを含む、請求項1~31のいずれか1項
に記載の方法または使用。
【請求項33】
5 均質な水中油型エマルジョンを製造するための方法であって、該方法は、
水中油型エマルジョンを、0.3μm以上の孔サイズを有する第1の親水性ポリエーテルス
ルホン膜層と0.3μmより小さい孔サイズを有する第2の親水性ポリエーテルスルホン層膜
とを使用して濾過し、それによって、濾過された水中油型エマルジョンを形成する工程、
を包含し、該水中油型エマルジョンは、2体積%~20体積%の間の油を含み、該水中油型エ
10 マルジョンは、スクアレンを含む、方法。
【請求項34】
前記水中油型エマルジョンが、平均油滴サイズが500nm以下であり、1.2μmよりも大
きいサイズを有する油滴の数が5×1010/ml以下であることを特徴とし;かつ
前記濾過された水中油型エマルジョンが、平均油滴サイズが220nm以下であり、1.2μ
15 mよりも大きいサイズを有する油滴の数が5×108/ml以下であることを特徴とする、請
求項33に記載の方法。
【請求項35】
(a)前記第1の親水性ポリエーテルスルホン膜層が非対称の膜を含むか、
(b)前記第2の親水性ポリエーテルスルホン膜層が、非対称の膜を含むか、
20 または、その組み合わせである、請求項33または34に記載の方法。
【請求項36】
前記第1の親水性ポリエーテルスルホン膜層および前記第2の親水性ポリエーテルスルホン膜
層が二重層フィルタとして提供される、請求項33~35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
25 前記均質な水中油型エマルジョンが135nm~175nmの間の平均油滴サイズを有する、
請求項33~36のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記水中油型エマルジョンが、2~10体積%の油含量を有する、請求項33~36および3
8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
5 前記水中油型エマルジョンが界面活性剤を含む、請求項33~36、38および39のいずれ
か1項に記載の方法。
【請求項41】
前記水中油型エマルジョンが、スクアレン、ポリソルベート80およびソルビタントリオレエ
ートを含む、請求項33~36および38~40のいずれか1項に記載の方法。
10 【請求項42】
前記水中油型エマルジョンが、約5体積%のスクアレン、約0.5体積%のポリソルベート8
0および約0.5体積%のソルビタントリオレエートを含む、請求項33~36および38~
41のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
15 均質な水中油型エマルジョンを含有する薬学的組成物を製造するための方法であって、該方法
は、
水中油型エマルジョンを、0.3μm以上の孔サイズを有する第1の親水性ポリエーテルス
ルホン膜層と0.3μmより小さい孔サイズを有する第2の親水性ポリエーテルスルホン層膜
とを使用して濾過し、それによって、濾過された水中油型エマルジョンを形成する工程であっ
20 て、該水中油型エマルジョンは、2体積%~20体積%の間の油を含み、該水中油型エマルジ
ョンは、スクアレンを含む、工程、ならびに
該均質な水中油型エマルジョンに、1つ以上の成分を添加して、該水中油型エマルジョンを
含有する薬学的組成物を形成する工程
を包含する、方法。
25 【請求項44】
前記薬学的組成物が無菌である、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記薬学的組成物が抗原を含む、請求項43または44に記載の方法。
【請求項46】
前記薬学的組成物がワクチンである、請求項43~45のいずれか1項に記載の方法。
5 【請求項47】
前記水中油型エマルジョンが、平均油滴サイズが500nm以下であり、1.2μmよりも大
きいサイズを有する油滴の数が5×1010/ml以下であることを特徴とし;かつ
前記濾過された水中油型エマルジョンが、平均油滴サイズが220nm以下であり、1.2μ
mよりも大きいサイズを有する油滴の数が5×108/ml以下であることを特徴とする、請
10 求項43~46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
(a)前記第1の親水性ポリエーテルスルホン膜層が非対称の膜を含むか、
(b)前記第2の親水性ポリエーテルスルホン膜層が、非対称の膜を含むか、
または、その組み合わせ
15 である、請求項43~47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
前記第1の親水性ポリエーテルスルホン膜層および前記第2の親水性ポリエーテルスルホン膜
層が二重層フィルタとして提供される、請求項43~48のいずれか1項に記載の方法。
【請求項50】
20 前記均質な水中油型エマルジョンが135nm~175nmの間の平均油滴サイズを有する、
請求項43~49のいずれか1項に記載の方法。
【請求項51】
前記水中油型エマルジョンが、2~10体積%の油含量を有する、請求項43~50のいずれ
か1項に記載の方法。
25 【請求項52】
前記水中油型エマルジョンが界面活性剤を含む、請求項43~51のいずれか1項に記載の方
法。
【請求項53】
前記水中油型エマルジョンが、スクアレン、ポリソルベート80およびソルビタントリオレエ
ートを含む、請求項43~52のいずれか1項に記載の方法。
5 【請求項54】
前記水中油型エマルジョンが、約5体積%のスクアレン、約0.5体積%のポリソルベート8
0および約0.5体積%のソルビタントリオレエートを含む、請求項43~53のいずれか1
項に記載の方法。
10 以 上

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