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令和5(ワ)70142民事訴訟 商標権

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裁判所 一部認容 東京地方裁判所東京地方裁判所
裁判年月日 令和6年4月26日
事件種別 民事
当事者 原告株式会社PROCEED
被告株式会社Aulii Ai
法令 商標権
商標法38条2項7回
商標法38条3項4回
民法719条1回
民法709条1回
商標法36条1項1回
キーワード 商標権17回
侵害12回
差止8回
損害賠償3回
ライセンス2回
主文 1 被告Aiは、原告に対し、140万8000円及びこれに対する令和5年3
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、これを10分し、その7を原告の負担とし、その余を被告Ai
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
1 被告会社は、別紙被告標章目録記載の各標章を、別紙原告商標権目録記載の
2 被告会社は、別紙被告ウェブサイト目録記載の各ウェブサイトから、別紙被
3 被告らは、原告に対し、連帯して、140万8000円及びこれに対する令5
1 事案の要旨
140万8000円(ただし、184万5569円の一部請求)及びこれに対
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠(以下、書証番号は特
3 争点
1 争点1(被告らが株式会社トリニティとの共同不法行為責任又は任務懈怠責
2 争点2(原告の損害発生の有無及び損害額)について
67万7790円となる。
3万6520円だったとして、被告会社又は株式会社トリニティは原告の店
20%を下らないというべきである。10
00万円を下らないから、予備的に、商標法38条3項に基づき、136万15
7304円の損害額を主張する。
7日までに被告Aiが管理していた上記カレンダーアプリケーションの表
3 争点3(差止め及び廃棄の必要性)について
1 争点1(被告らが株式会社トリニティとの共同不法行為責任又は任務懈怠責
9条)を負うとは認められないし、被告Aiも、この点につき取締役の任
2 争点2(原告の損害発生の有無及び損害額)について10
183万6520円である。
30円を経費として差し引くべきである旨主張し、株式会社ビューテ
520円と推定されるが、原告は同項に係る損害額を167万7790円
27日まで継続して、被告ウェブサイト2上の本件エステサロンの役務に関
5年3月27日から年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める
3 被告会社に対する差止め及び削除請求について
4 結論
1 被告標章1
2 被告標章2
3 被告標章3
4 被告標章4
5 被告標章5
1 被告ウェブサイト1
2 被告ウェブサイト2
3 被告ウェブサイト3
事件の概要 1 事案の要旨 本件は、原告が、被告らが、株式会社トリニティと共同して、株式会社トリ ニティの役務に関する広告を内容とするウェブサイト(以下「被告各ウェブサ10 イト」という。)に、別紙被告標章目録記載の各標章(以下「被告各標章」と いう。)を付して電磁的方法により提供したことが、原告が有する別紙原告商 標権目録記載の商標権(以下、「原告商標権」といい、同商標権に係る商標を 「原告商標」という。)を侵害しているとして、被告会社に対し、商標法36 条1項に基づく被告各標章をインターネット上の広告に付すことの差止め及び15 同条2項に基づく被告各ウェブサイトからの被告各標章の削除並びに、被告A iとの共同不法行為責任(民法709条、719条1項)に基づく損害金合計

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判決文

令和6年4月26日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和5年(ワ)第70142号 商標権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 令和6年2月19日
判 決
原 告 株式会社PROCEED
同訴訟代理人弁護士 河 部 康 弘
同補佐人弁理士 五 味 和 泰
10 淡 路 里 美
被 告 株 式 会 社 A u l i i
(以下「被告会社」という。)
被 告 Ai
(以下「被告Ai」という。)
主 文
1 被告Aiは、原告に対し、140万8000円及びこれに対する令和5年3
20 月27日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、これを10分し、その7を原告の負担とし、その余を被告Ai
の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
25 事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告会社は、別紙被告標章目録記載の各標章を、別紙原告商標権目録記載の
役務についてのインターネット上の広告に付してはならない。
2 被告会社は、別紙被告ウェブサイト目録記載の各ウェブサイトから、別紙被
告標章目録記載の各標章を削除せよ。
5 3 被告らは、原告に対し、連帯して、140万8000円及びこれに対する令
和4年3月27日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
1 事案の要旨
本件は、原告が、被告らが、株式会社トリニティと共同して、株式会社トリ
10 ニティの役務に関する広告を内容とするウェブサイト(以下「被告各ウェブサ
イト」という。)に、別紙被告標章目録記載の各標章(以下「被告各標章」と
いう。)を付して電磁的方法により提供したことが、原告が有する別紙原告商
標権目録記載の商標権(以下、「原告商標権」といい、同商標権に係る商標を
「原告商標」という。)を侵害しているとして、被告会社に対し、商標法36
15 条1項に基づく被告各標章をインターネット上の広告に付すことの差止め及び
同条2項に基づく被告各ウェブサイトからの被告各標章の削除並びに、被告A
iとの共同不法行為責任(民法709条、719条1項)に基づく損害金合計
140万8000円(ただし、184万5569円の一部請求)及びこれに対
する不法行為の日である令和4年3月27日から支払済みまで民法所定の年3
20 パーセントの割合による遅延損害金の被告Aiとの連帯支払を求め、被告Ai
に対し、代表取締役の重大な過失による任務懈怠責任(会社法429条1項)
又は被告会社との共同不法行為責任(民法709条、719条1項)に基づい
て、前記損害金及び遅延損害金の被告会社との連帯支払を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠(以下、書証番号は特
25 記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
⑴ 当事者等(乙11、弁論の全趣旨)
ア 原告は、エステティックサロンの経営、コンサルタント業務等を業とす
る株式会社である。
イ 被告会社は、ハワイアンリラクゼーションサロンの運営等を業とする株
式会社であり、平成30年3月19日まで、「ハワイアン ヒーリングサ
5 ロンAulii Spa」との名称のリラクゼーションサロン(以下「A
ulii Spa」という。)を営んでいた。
ウ 被告Aiは、被告会社の代表取締役である。
⑵ 原告の商標権
原告は、原告商標権を有している。
10 ⑶ 本件エステサロンの経営及び被告各標章の使用
ア 株式会社トリニティは、「トリニティ」又は「TRINITY」の名称
で、ハワイアンエステサロン(以下「本件エステサロン」という。)を経
営しているところ、被告Aiに対し、本件エステサロンの運営を委託し、
その報酬として、本件エステサロンの売上金の一部を被告Aiに対して支
15 払っていた(乙2、弁論の全趣旨)。
イ 被告Aiは、Aulii Spaのウェブサイトとして使用していた別
紙被告ウェブサイト目録記載1のウェブサイト(以下、「被告ウェブサイ
ト1」といい、同目録記載2のウェブサイト及び同目録記載3のウェブサ
イトを、順に「被告ウェブサイト2」 「被告ウェブサイト3」などとい

20 う。)を、本件エステサロンのウェブサイトとして利用しようと考え、遅
くとも令和4年2月22日頃までに、被告ウェブサイト1上の本件エステ
サロンの役務に関する広告に別紙被告標章目録記載1、4及び5の標章
(以下、同目録記載の標章を、項番に従って「被告標章1」「被告標章2」

などという。)を付した(以下「本件行為1」という。甲3ないし5、弁
25 論の全趣旨)。
ウ 株式会社トリニティの代表取締役であるBi(以下「Bi」という。)
は、被告Aiに対し、被告ウェブサイト2及び3に、本件エステサロンの
広告を掲載するよう指示し、被告Aiは、遅くとも令和4年2月22日頃
までに、被告ウェブサイト2上の本件エステサロンの役務に関する広告に
被告標章1ないし3を付し(以下「本件行為2」という。 、被告ウェブサ

5 イト3上の本件エステサロンの役務に関する広告に被告標章3を付した
(以下「本件行為3」という。甲6、7、弁論の全趣旨)。
エ 被告Aiは、令和5年8月頃、本件エステサロンを閉店し、その後、遅
くとも本件訴訟の第1審口頭弁論終結時までに、被告ウェブサイト1から
被告標章1、4及び5を削除し、被告ウェブサイト2から被告標章1ない
10 し3を削除した(弁論の全趣旨)。
⑷ 商標及び役務の同一性又は類似性
被告各標章は原告商標と同一又は類似である。
被告各標章が付されている広告に係る被告会社の役務は、エステサロン又
は美容に関する教育の場の提供であり、エステサロンは原告商標の指定役務
15 である第44類の「美容、理容、エステティック美容、美容痩身」に該当し、
美容に関する教育の場の提供は、「美容・痩身・健康増進に関する情報の提
供、美容・痩身・健康増進に関する相談・助言又は指導」に該当する。
⑸ 本件エステサロンの売上高
令和4年2月22日から令和5年3月27日までの間の本件エステサロン
20 の売上高は、合計183万6520円である。
3 争点
⑴ 被告らが株式会社トリニティとの共同不法行為責任又は任務懈怠責任(被
告Aiについて)を負うか(争点1)
⑵ 原告の損害発生の有無及び損害額(争点2)
25 ⑶ 差止め及び削除の必要性(争点3)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(被告らが株式会社トリニティとの共同不法行為責任又は任務懈怠責
任(被告Aiについて)を負うか)について
(原告の主張)
⑴ 本件行為1について
5 ア 被告会社の責任
被告Aiは、被告会社の営むAulii Spaのホームページとして
使用されていた被告ウェブサイト1を本件エステサロンの運営のために流
用しようと、本件エステサロンを経営する株式会社トリニティの手足とし
て、本件行為1を行ったものである。
10 そして、被告ウェブサイト1を自由に修正できる権限を有しているのは
被告会社であるから、被告Aiは被告会社の業務として本件行為1を行っ
たといえる。
したがって、被告会社は、本件行為1による原告商標権の侵害につき、
株式会社トリニティと共同不法行為責任を負う。
15 イ 被告Aiの責任
被告Aiは、法令に違反した業務をしないようにする任務に重大な過失
により違反して本件行為1に及んだといえるから、会社法429条1項に
基づき取締役の任務懈怠責任を負う。
⑵ 本件行為2及び3について
20 被告Aiは、株式会社トリニティの手足として、本件行為2及び3を行っ
たものであり、本件行為2及び3につき、株式会社トリニティと共同不法行
為責任を負う。
(被告らの主張)
⑴ 本件行為1について
25 被告会社は、平成30年4月頃から営業をしていない。その頃以降、被告
Aiは、個人事業主として本件エステサロンの運営に関与していたにすぎず、
被告会社の業務として本件行為1をしたものではない。
したがって、原告商標権の侵害につき、被告会社は何ら法的責任を負わな
いし、被告Aiも代表取締役の任務懈怠責任を負うことはない。
⑵ 本件行為2及び3について
5 本件エステサロンは、Biが代表取締役を務める株式会社トリニティが経
営するものである。
したがって、被告Aiは、株式会社トリニティと共同不法行為責任を負う
ものではない。
2 争点2(原告の損害発生の有無及び損害額)について
10 (原告の主張)
⑴ 商標法38条2項に基づく主張
令和4年2月22日から令和5年3月27日までの間の本件エステサロン
の売上高は、合計183万6520円である。
そして、エステサロンにおいては、その必要経費のほとんどが固定費であ
15 る。
この点について、被告Aiは、①保証金、②礼金、③保険料、④家賃、⑤
ホットペッパービューティー掲載料、⑥電気代金、⑦水道料金、⑧スタンド
ミラー、⑨カーテン等、⑩テーブル等、⑪マッサージオイル等の化粧品等の
費用を経費として挙げているが、①ないし⑩の費用についてはいずれもその
20 役務に直接関連して追加的に必要になった経費とはいえない。
また、⑪マッサージオイル等の化粧品等の費用については、本件エステに
おいて必要なものなのかの判別ができず、被告Aiの個人的な化粧品の費用
であってもおかしくないから、いずれもその役務に直接関連して追加的に必
要になった経費とはいえない。仮に、⑪マッサージオイル等の化粧品等の費
25 用額合計15万8730円を経費として控除したとしても、限界利益額は1
67万7790円となる。
そうすると、被告らが被告各標章を使用したことによる損害額は、少なく
とも167万7790円と推定され(商標法38条2項)、これに弁護士及
び弁理士費用相当額10%を加えた184万5569円が原告の損害となる。
⑵ 商標法38条3項に基づく主張(予備的主張)
5 被告会社又は株式会社トリニティの本件エステサロンに係る売上高が18
3万6520円だったとして、被告会社又は株式会社トリニティは原告の店
舗のすぐ近くで同じ「トリニティ」の名称で営業をしていたことから、原告
の営業との誤認混同のおそれは高く、また、原告が被告会社又は株式会社ト
リニティにライセンスをすることはあり得ないから、そのライセンス料率は、
10 20%を下らないというべきである。
そうすると、商標法38条3項の規定により算定される令和4年2月22
日から本訴訟提起時までにおける損害賠償額は、36万7304円(183
万6520円×20%=36万7304円)となる。
被告らの不法行為と相当因果関係のある弁護士及び弁理士費用相当額は1
15 00万円を下らないから、予備的に、商標法38条3項に基づき、136万
7304円の損害額を主張する。
(被告らの主張)
⑴ 商標法38条2項に基づく主張について
ア 株式会社トリニティは、本件エステサロンの役務に関連して、①保証金、
20 ②礼金、③保険料、④家賃、⑤ホットペッパービューティー掲載料、⑥電
気代金、⑦水道料金、⑧スタンドミラー、⑨カーテン等、⑩テーブル等、
⑪マッサージオイル等の化粧品等の費用を経費として支出した。したがっ
て、これらの費用額については、売上高から差し引かれるべきである。
イ 仮に、被告らが商標権侵害の不法行為による損害賠償義務を負うとして
25 も、被告らの限界利益が原告の損害であるとの推認を覆滅する事由がある。
すなわち、被告Aiは、本件エステサロンの顧客から予約があった場合、
Googleカレンダーアプリケーションで予約のあった日付欄に顧客の
氏、名又はニックネームを書き入れ、予約を管理し、かつサービスを提供
していた。そして、乙第4号証は令和4年2月22日から令和5年3月2
7日までに被告Aiが管理していた上記カレンダーアプリケーションの表
5 示であり、予約をした顧客と予約日がわかるようになっている。
そして、乙第6号証及び乙第9号証は、上記顧客の陳述書であり、同陳
述書によれば、本件エステサロンの顧客は、平成30年3月までは被告会
社が、それ以降は被告Ai個人が営んでいた、Aulii Spaに通っ
ていた顧客ばかりであることがわかる。
10 これらの顧客のうち、被告ウェブサイト2及び3を通じて予約をした者
はほとんどいない。
したがって、本件行為2及び3が本件エステサロンの売上げに寄与した
とはいえない。
⑵ 商標法38条3項に基づく主張(予備的主張)について
15 争う。
3 争点3(差止め及び廃棄の必要性)について
(原告の主張)
被告会社は、前提事実⑶のとおり、本件エステサロンの役務に関し、原告商
標と同一又は類似する被告各標章を使用しているのであるから、同使用の差止
20 め及び被告各ウェブサイトからの被告各標章の削除の必要性がある。
(被告会社の主張)
争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(被告らが株式会社トリニティとの共同不法行為責任又は任務懈怠責
25 任(被告Aiについて)を負うか)について
⑴ 本件行為1について
ア 証拠(甲3ないし5、乙12)及び弁論の全趣旨によれば、被告ウェブ
サイト1は、被告会社がAulii Spaを営んでいた際に開設された
ウェブサイトであり、Aulii Spaの運営のために利用されていた
ところ、被告会社は、平成30年3月19日を最後にAulii Spa
5 の営業を停止し、それ以降何らの営業活動もしておらず、税務申告等も行
っていない状況であったことが認められ、また、前提事実⑶イのとおり、
被告Aiは、本件エステサロンの運営を開始した頃、被告ウェブサイト1
を本件エステサロンのウェブサイトに流用できないかと考えて本件行為1
を行ったものであり、被告会社の営業活動として又はその営業活動に関連
10 して、被告ウェブサイト1を使用したものとは認められない。
そして、本件全証拠に照らしても、被告会社と株式会社トリニティとの
関係性や、被告会社が本件エステサロンの経営にどのように関与している
かといった事実関係は、明らかではない。
以上の経緯等を前提に検討すると、被告会社が本件エステサロンの運営
15 に携わっていたと認めることはできず、被告Aiが被告会社の業務として
本件行為1に及んだと認めることもできないというべきである。
イ 原告は、被告ウェブサイト1はあくまで被告会社のウェブサイトであり、
その修正権限を有するのは被告会社のみであるから、被告Aiは被告会社
の業務として被告ウェブサイト1を修正したものであると主張する。
20 しかし、修正権限があるからといって当然に、被告Aiが被告会社の業
務として本件行為1を行ったとはいい難いから、原告の主張は採用できな
い。
ウ 以上によれば、被告会社は、本件行為1につき不法行為責任(民法70
9条)を負うとは認められないし、被告Aiも、この点につき取締役の任
25 務懈怠責任(会社法429条1項)を負うとは認められない。
⑵ 本件行為2及び3について
前提事実⑶ウのとおり、株式会社トリニティの代表取締役であるBiが、
被告Aiに対し、被告ウェブサイト2及び3に本件エステサロンの広告を掲
載するよう指示し、同指示に基づいて、被告Aiは、本件行為2及び3を行
ったことが認められる。
5 上記の経緯等に照らせば、被告Aiは、本件エステサロンの経営者である
株式会社トリニティと共謀して原告商標権の侵害を行ったか又は株式会社ト
リニティによる原告商標権の侵害を幇助したものと評価することができるか
ら、本件行為2及び3による原告商標権の侵害につき共同不法行為責任(民
法719条)を負うものと認められる。
10 2 争点2(原告の損害発生の有無及び損害額)について
⑴ 商標法38条2項による損害額の推定
ア 商標法38条2項所定の「利益」の額
(ア) 商標法38条2項所定の「利益」の意義
商標法38条2項所定の「利益」の額は、商標権を侵害した者の当該
15 侵害に係る役務の提供等による売上高から、その役務の提供等に直接関
連して追加的に必要となった経費を控除した限界利益の額であり、その
額の主張立証責任は商標権者側にあるものと解される。
(イ) 売上高
前提事実⑸のとおり、令和4年2月22日から令和5年3月27日ま
20 での間の株式会社トリニティの本件エステサロンに係る売上高は、合計
183万6520円である。
(ウ) 控除すべき経費
a 被告らは、①保証金、②礼金、③保険料、④家賃、⑤ホットペッパ
ービューティー掲載料、⑥電気代金、⑦水道料金、⑧スタンドミラー、
25 ⑨カーテン等、⑩テーブル等の費用を経費として売上高から差し引く
べきと主張する。
しかし、仮に、株式会社トリニティが上記各支出をしていたとして
も、その費目内容に照らし、いずれも、株式会社トリニティにおいて
その役務を提供することにより、その役務の提供に直接関連して追加
的に必要となった経費であるとはいえない。
5 したがって、被告らの上記主張は採用できない。
b また、被告らは、⑪マッサージオイル等の化粧品の費用15万87
30円を経費として差し引くべきである旨主張し、株式会社ビューテ
ィーガレージが発行した領収書(乙8)を提出する
しかし、上記領収書には、「お品代として」との記載があるのみで、
10 どのような商品に対する支払であるかをうかがわせる記載はない。そ
うすると、上記領収書に基づいて、株式会社トリニティがマッサージ
オイル等の化粧品の費用として合計15万8730円を支出したこと
を認めるには足りないというべきである。
したがって、株式会社トリニティにおいてその役務を提供すること
15 によりその役務の提供に直接関連して追加的に必要となった経費であ
るとはいえず、被告らの上記主張は採用できない。
(エ) まとめ
以上によれば、商標法38条2項所定の「利益」の額は、売上高と同
額の183万6520円であると認められる。
20 イ 覆滅事由の有無について
商標法38条2項における推定の覆滅については、侵害者が主張立証責
任を負うものであり、侵害者が得た利益と商標権者が受けた損害との相当
因果関係を阻害する事情がこれに当たるものと解される。
被告らは、本件エステサロンの顧客は被告会社又は被告Ai個人が営ん
25 でいたAulii Spaに通っていた顧客ばかりであり、被告ウェブサ
イト2及び3に掲載された被告標章1ないし3は何ら売上げに寄与してい
ない旨主張し、その裏付けとして、被告Aiが管理していたカレンダーア
プリケーション(乙4)及び被告Aiが本件エステサロンの顧客であると
主張する複数の者の署名及び押印のある陳述書(乙6、9)を提出する。
しかし、そもそも、上記のカレンダーアプリケーションには、各日付欄
5 に氏、名又はニックネームが記載されているのみであり、真実これらの者
が本件エステサロンでサービスを受けた者であると認めるに足りないし、
これらの者と上記の各陳述書に署名押印した者が同一であると認めること
も困難である。
また、上記のカレンダーアプリケーションに氏、名又はニックネームが
10 記載された顧客が被告ウェブサイト2及び3を通じて予約をした者ではな
いことを認めるに足りる証拠もない。
したがって、被告らの主張に係る事情を覆滅事由として考慮することは
できないから、被告らの上記主張は採用できない。
ウ 商標法38条2項により推定される損害額
15 以上によれば、商標法38条2項により、原告の損害の額は183万6
520円と推定されるが、原告は同項に係る損害額を167万7790円
と主張しているから、同額の限度で損害を認める。
⑵ 弁護士及び弁理士費用相当の損害額について
本件に顕れた一切の事情を考慮し、本件行為2及び3と相当因果関係のあ
20 る弁護士及び弁理士費用相当の損害額を16万円と認定する。
⑶ 遅延損害金の起算点について
本件行為2及び3は、被告Aiが、令和4年2月22日から令和5年3月
27日まで継続して、被告ウェブサイト2上の本件エステサロンの役務に関
する広告に被告標章1ないし3を、被告ウェブサイト3上の本件エステサロ
25 ンの役務に関する広告に被告標章3を、それぞれ掲載し続けたというもので
あり、これらは継続的不法行為であると評価できる。そして、前記⑴及び⑵
の損害額も、当該全期間にわたって上記行為がされたことを前提として算定
されたものであるから、遅延損害金の起算日を継続的不法行為の終了時であ
る令和5年3月27日と認めるのが相当である。
⑷ 小括
5 以上によれば、原告の損害額は合計183万7790円と認められるとこ
ろ、そのうち原告の請求額である140万8000円及びこれに対する令和
5年3月27日から年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める
限度で原告の請求が認容されるというべきである。
3 被告会社に対する差止め及び削除請求について
10 原告は、被告会社に対し、被告各標章をインターネット上の広告に付すこと
の差止め及び同標章の削除を求めているところ、本件行為1について被告会社
の責任は認められないし(前記1⑴)、原告は、本件行為2及び3について、
被告会社に責任がある旨の主張をしていない(前記第3の1(原告の主張)。

したがって、原告の被告会社に対する上記差止め及び削除請求は理由がない
15 というべきである。
4 結論
以上の次第で、原告の被告Aiに対する不法行為に基づく損害賠償請求は主
文第1項の限度で理由があるからこれを認容し、その余はいずれも理由がない
からこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。
20 東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官
25 國 分 隆 文
裁判官
間 明 宏 充
裁判官バヒスバラン薫は、退官のため署名押印することができない。
裁判長裁判官
10 國 分 隆 文
(別紙)
被告標章目録
1 被告標章1
2 被告標章2
3 被告標章3
4 被告標章4
5 被告標章5
以上
(別紙)
被告ウェブサイト目録
1 被告ウェブサイト1
(URLは省略)
2 被告ウェブサイト2
(URLは省略)
3 被告ウェブサイト3
(URLは省略)
以上
(別紙)
原告商標権目録
登録番号 第5532807号
登録日 平成24年11月2日
商標(標準文字) トリニティ
商品及び役務の区分 第44類
指定役務 美容、理容、エステティック美容、美容痩身、美容・
痩身・健康増進に関する情報の提供、美容・痩身・健
康増進に関する相談・助言又は指導
以上

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9月25日(水) - 東京 港

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図書館で学ぶ知的財産講座 第1回

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