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令和6(ネ)10014投稿削除及び損害賠償の請求控訴事件

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裁判所 控訴棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和6年8月8日
事件種別 民事
当事者 被控訴人
法令 不正競争
民法709条2回
キーワード 損害賠償4回
主文 1 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。15
2 上記の部分につき、被控訴人の請求をいずれも棄却
3 訴訟費用は第一、二審を通じて被控訴人の負担とす
1 事案の要旨(略語は原則として原審のものによった。)
2 前提事実、争点及び当事者の主張
4頁21行目)に各記載のとおりであるから、これらを引用する。20
1 争点1(不競法2条1項21号の不正競争の成否)について
1(34~43頁))
5の2(51~54頁))
2 争点2(不競法2条1項20号の不正競争の成否)について
3 争点4(不法行為の成否)について
9)、結局は別業者に依頼して案件を完成させたこと(乙10の1・2)等、証拠上
4 結論15
事件の概要 1 事案の要旨(略語は原則として原審のものによった。) (1) 本件は、被控訴人が、控訴人に対し、控訴人によるインターネット上の投稿で25 ある原判決別紙投稿目録記載の投稿(本件投稿)が、①主位的に、不正競争防止法(不 競法)2条1項20号及び21号の各不正競争に当たり、②予備的に、被控訴人に対 する不法行為(民法709条、710条)に当たると主張して、次の請求をする事案 である。

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判決文

令和6年8月8日判決言渡
令和6年(ネ)第10014号 投稿削除及び損害賠償の請求控訴事件
(原審・東京地方裁判所令和4年(ワ)第13396号)
口頭弁論終結日 令和6年6月4日
5 判 決
控 訴 人 株式会社くじらITサポート
サービス
10 同訴訟代理人弁護士 篠 原 一 廣
森 龍 之 介
被 控 訴 人 X
主 文
15 1 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。
2 上記の部分につき、被控訴人の請求をいずれも棄却
する。
3 訴訟費用は第一、二審を通じて被控訴人の負担とす
る。
20 事実及び理由
第1 控訴の趣旨
主文同旨
第2 事案の概要等
1 事案の要旨(略語は原則として原審のものによった。)
25 (1) 本件は、被控訴人が、控訴人に対し、控訴人によるインターネット上の投稿で
ある原判決別紙投稿目録記載の投稿(本件投稿) ①主位的に、
が、 不正競争防止法(不
競法)2条1項20号及び21号の各不正競争に当たり、②予備的に、被控訴人に対
する不法行為(民法709条、710条)に当たると主張して、次の請求をする事案
である。
ア 主位的請求
5 不競法4条に基づき、損害賠償金100万円及びこれに対する不正競争後の日で
ある令和4年5月30日(本訴提起の日の前日。以下同じ。)から支払済みまで民法
所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、不競法3条に基づ
き、本件投稿の削除を求める。
イ 予備的請求
10 民法709条及び710条に基づき、損害賠償金100万円及びこれに対する不
法行為後の日である令和4年5月30日から支払済みまで民法所定の年3%の割合
による遅延損害金の支払を求める。
(2) 原審は、本件投稿の一部が不競法2条1項21号の不正競争に該当すること
を理由として、被控訴人の主位的請求のうち損害賠償金50万円及び遅延損害金の
15 支払並びに本件投稿の削除請求の限度でこれらを認容した。
控訴人は、これを不服として控訴を提起し、主文と同旨の判決を求めた。
2 前提事実、争点及び当事者の主張
(1) 前提事実、争点及び当事者の主張は、以下に当審における当事者の補充主張
を加えるほかは、原判決の事実及び理由の第2の2~4(原判決2頁12行目~1
20 4頁21行目)に各記載のとおりであるから、これらを引用する。
(2) 当審における当事者の補充主張
(控訴人の主張)
原判決は、本件投稿をするに至るまでの控訴人担当者と被控訴人とのやり取りに
つき、被控訴人は受注していない業務である仕様の評価については回答することが
25 できないとの趣旨を明確に回答していたと認められるから、被控訴人が理由を一切
説明することなく回答を拒否したとの意味に理解できる本件投稿部分1中の「なん
で答える必要あるの?」との表現は、実際のやり取りを要約したものではなく、客観
的事実に反すると認定判断した。
しかし、本件アナライザー案件においては、インターネットやLANなどのコン
ピュータの通信回路において、一定時間内にネットワーク上で転送されるデータ
5 量(トラフィック)を正確に計測できることがシステムの必要不可欠な条件であり、
これを計測できないのであればシステムとしての価値も全くなく、開発自体が無意
味となってしまうものであった。そのため、控訴人担当者は、被控訴人からの「資料
にあるyoutubeなどは「https通信」のため検知ができず、上記課題管理表#9でご連絡
いただいた本プロジェクトのゴールにも掛かると思われ」るとの指摘に対し、被控
10 訴人による指摘の趣旨や理由を確認し続けたにすぎず、仕様の評価を求めたもので
はなかった。それにもかかわらず、被控訴人は、控訴人担当者からの質問が仕様の評
価に関するものに当たるとして回答を拒否し続けた。そこで、控訴人は、被控訴人が
回答を拒絶する合理的な理由を何ら述べることなく一方的に回答を拒否したものと
考え、本件投稿部分1中の「なんで答える必要あるの?」と表現したものであって、
15 これは、実際のやり取りを要約したものであり、客観的事実に反するものではない。
(被控訴人の主張)
被控訴人は、控訴人及び控訴人担当者に対し、「なんで答える必要あるの?」とい
った常識のない、言葉遣いの悪い返答はしていない。本件投稿部分1の同表現は、閲
覧者に対し、被控訴人は常識がない、敬意を持たない粗暴な受注者との印象を抱か
20 せる虚偽のものである。
被控訴人は、被控訴人のできる範囲で、控訴人及び控訴人担当者からの問合せに
対応しており、回答を拒否した事実はない。
第3 当裁判所の判断
当裁判所は、原審と異なり、被控訴人の請求にはいずれも理由がないものと判断
25 する。その理由は、次のとおりである。
1 争点1(不競法2条1項21号の不正競争の成否)について
(1) 本件投稿部分が摘示する事実が虚偽のものであるかについて
ア 本件投稿部分1について
(ア) 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によると、本件投稿部分1に関連し、次の事実
が認められる。
5 a 被控訴人は、令和3年10月頃、本件サイト(ランサーズ)を介して、控訴人
から、「クラウドネットワークアナライザーのシステム開発」業務(本件アナライザ
ー案件)を受注した。本件アナライザー案件においては、控訴人が仕様を確定すべき
旨が合意されていた。
b 被控訴人は、令和3年11月8日頃、本件アナライザー案件について、工程表
10 及び課題管理表を作成して、控訴人の関係者とSlackで共有した。
被控訴人は、同月29日、課題管理表の項番13において、「ご提供いただいてい
る資料「クラウドネットワークアナライザー要件定義.xlsxなど」と対象機rtx830で
仕様の衝突が発生した場合、どちらを優先させますか?」、「「http通信」であれば、
rtx830単体にはurlフィルタ機能があり検知ができます。しかしながら資料にある
15 youtubeなどは「https通信」のため検知ができず、上記課題管理表#9でご連絡いただ
いた本プロジェクトのゴールにも掛かると思われますためご確認いただきたく存じ
ます」と指摘した。(甲10、乙5の1(16頁))
c 上記の指摘について、控訴人の関係者であるA(以下「A」という。)は、被
控訴人との間で、次のようなやり取りをした。(乙5の1(18~33頁))
20 A「トラフィックの中身がとれないのはもちろん理解できるのですが、接続先の
サイトがyoutubeのアドレスであることすら検知できないと仰っていますでしょう
か?要件定義の該当ページも「youtube」「facebook」といったレベルでトラフィッ
ク量を拾っているだけで、これはさすがにルータの標準機能で満たせるのではない
か?というのがBさん(判決注:控訴人代表者を指す。)の見解でした。」
25 被控訴人「a)ご質問は、IPヘッダ部分は暗号化していないのでは?という内容か
と存じますが、ペイロードのみならず、ヘッダを含むパケットの解析には復号化が
必要になります。b)ペイロードが取れないということはトラフィック量が取れない
可能性があり、課題管理表#9でご連絡の目的の実現ができかねるかと存じます。」
A「httpsサイトの場合「トラフィック量はとれない(と思われる)が、通信の回
数やパケットサイズならルータの標準機能で取得可能」でしょうか?(そうしたい
5 というわけではなく、こちらが理解不足なのでご指摘の内容を正しく確認したい意
図です)。」
被控訴人「詳細については上記で回答している通りで、同時にご報告している通
り、本件で当方は仕様書を評価する立場ではありませんため、詳細な仕様書類の評
価報告はしかねる状況でございます。」
10 A「意図が伝わっていないようで恐れ入ります。仕様書の評価をご依頼したので
はなく、Xさんのご指摘に対して、以下の私の解釈があっているかをお聞きしまし
た。「httpsサイトの場合「トラフィック量はとれない(と思われる)が、通信の回
数やパケットサイズならルータの標準機能で取得可能」でしょうか?」」
被控訴人「論点がすり替わっていると感じられる文脈となり申し訳ありませんが、
15 本件のテーマは課題管理表#13に記載の通り、実機と仕様書類で衝突が発生した場合
に、どちらを優先させますか?になります。同時に今回当方が受けた仕事は、管理画
面の開発になり、そのため、上記「ご指摘」とされる、ご発注者様でご用意された資
料に関する可能性について評価に繋がる恐れがある説明を申し上げるのは、当方へ
の依頼範囲を逸脱し、ご発注者様に混乱を招く可能性があるため、回答がしかねる
20 状況でございます。もし「ご指摘」に関する補足及び正確なご回答(仕様書類に関す
る当方の見解など)をご希望の場合には、お手数おかけしますが、別途当方へフィジ
ビリティスタディなどのご依頼をご検討いただきたく存じます。」
A「具体事例の1つとして挙げてくださったhttpsサイトのトラフィックを取得し
たいという要件の実現性ですね。…ここが回答できないというのが納得しかねます。
25 Xさんが「xxはできません。なぜならyyだからです」とご説明されたので、「zzなら
できると考えるのですが、Xさんの見解と一致しますか?」とお聞きしているのに、
その回答を拒否されているのでは結論が出せないのです。…「可能性について評価
に繋がる恐れがある説明を申し上げるのは、当方への依頼範囲を逸脱し、ご発注者
様に混乱を招く可能性があるため」とのことなのですが、このご回答をいただくほ
うが私としては(発注者であるBさんも)混乱せずに済むのですが、どうしてもご回
5 答をいただけないのでしょうか。」
被控訴人「ご説明が至らず申し訳ありませんが、何度かご報告させていただいて
おります通り、当方へのご依頼は管理画面の開発で、ご発注者さまがご用意される
書類等の評価は含まれておりません。そのため予見されるリスクについては既にご
説明させていただいている通りで、以降の評価につながる回答はできかねます。」
10 d 被控訴人とAは、その他の課題についても、被控訴人からの発言に対してA
が趣旨を確認すると、被控訴人が、自分が受注したのは管理画面の開発のみである
から回答しかねる旨を述べ、同趣旨のやり取りが何度も続くことがあった。(乙5の
1(34~43頁))
e 被控訴人は、本件アナライザー案件の初期段階でAがSlackで発言した
15 際に、「申し訳ありませんが、@Aさんが本プロジェクトでどのような役割なのかが
不明なため、回答に不適切な内容を含む可能性がありますが」と記載した。また、被
控訴人は、本件サイネージ案件が開始してから数か月後に、従前から案件に関して
Slack内で連絡を取り合っていたC(以下「C」という。)が被控訴人に質問し
たところ、「当方とC様との間に契約関係はなく、当方はC様の仕事を監修する立場
20 でもございませんので、ご指摘などはできかねます。 と回答し、
」 控訴人代表者が「C
さんには、弊社が全権限を委任しています。ですのでCさんからの質問は弊社の社
員からの質問であることと同義として解釈して下さい。当然何かあった場合には、
弊社の責任である事は認識しています。」と述べたのに対し、「当方はあくまでB
様(くじらITサービス様名義)からの、ご発注で仕事を完成させる義務を負ってお
25 り、ご連絡のように明らかに「他社」とご連絡あり、ご連絡の緊急画面に関しては見
積もり外というお話が既にある以上、なおさら他社様と契約に関するやりとりをす
ることが出来かねます」として、これに応じなかった。(乙5の1(53~54頁)、
5の2(51~54頁))
(イ) 前記(ア)の事実関係に基づき、本件投稿部分1(「こちらの質問には明確に答
えず、何回もラリーが続く。弊社の別の担当者からの質問には、「どんな権限の方」
5 と言われ「システム担当者」と返答すると「なんで答える必要あるの?」と。結局、
回答はもらえず。」)が「虚偽の事実」(不競法2条1項21号)を摘示するもので
あるか検討する。
a 被控訴人が、控訴人やその関係者に対し「どんな権限の方」、「なんで答える
必要あるの?」との文言をそのまま記載し又は発話した事実は認められない。しか
10 し、本件サイト(ランサーズ)を閲覧する者(システム開発業者や技術者等)の普通
の注意と読み方を基準とすると、本件投稿部分1は、被控訴人が字句どおりの記載
又は発話をしたという事実を摘示するというよりは、要旨、①「被控訴人は、何度や
り取りしても、控訴人担当者からの質問に明確に回答しない」、②「被控訴人は、や
り取りに際して、相手方の権限を確認した」、③「被控訴人は、合理的な理由を示す
15 ことなく、質問への回答を拒否した」との各事実を摘示するものと認めるのが相当
である。
b そこで、これら①~③の事実が「虚偽の事実」と認められるかを検討する。
まず、前記認定事実((ア)e)によると、被控訴人は、本件アナライザー案件の初
期段階でのAの発言に対し、「申し訳ありませんが、@Aさんが本プロジェクトでど
20 のような役割なのかが不明なため、回答に不適切な内容を含む可能性がありますが」
と回答し、また、本件サイネージ案件では、従前から案件に関して連絡を取り合って
いたCからの質問に対し、「当方とC様との間に契約関係はなく、当方はC様の仕事
を監修する立場でもございませんので、ご指摘などはできかねます。」と回答した。
これらの回答は、やり取りに際して、相手方の権限を確認していることにほかなら
25 ないから、②の事実が、客観的事実に反するもの、すなわち虚偽の事実であると認め
ることはできない。
次に、前記認定事実((ア)a~d)によると、被控訴人は、本件アナライザー案件
について課題管理表を作成し、その中で、対象機では「https通信」を検知できない
可能性があるという指摘を自らしておきながら、その指摘の具体的趣旨を尋ねられ
ると、一定の回答はしたものの、指摘の趣旨をより正確に理解したいとしてAがし
5 た質問に対しては、自らは仕様書を評価する立場ではないから回答しかねると返答
した。Aが、被控訴人の返答を踏まえて、仕様書の評価を求めるのではなく、単に被
控訴人の指摘についての自らの解釈が間違っていないかを確認したいとして更に質
問をしても、同様に回答しかねると返答した。さらに、Aが、被控訴人の立場に一定
の譲歩を示しながらも、被控訴人の指摘についてのAの考えを述べ、これが被控訴
10 人の考えと一致するかを確認したが、やはり被控訴人は同様に回答しかねると返答
した。このようなやり取りは、「https通信」の課題に限らず、他の場面でも生じて
いた。確かに、控訴人と被控訴人との間では、本件アナライザー案件に関し、仕様を
確定するのは控訴人の責任で行われるべき旨が合意されており、被控訴人は仕様を
評価する立場にはなかったものである。しかし、被控訴人は、上記のとおり、自ら指
15 摘した懸念点について、Aからの質問に十分に答えることなく、自らは仕様を評価
する立場にはないとの一点張りで、Aが、被控訴人の立場に理解を示して幾度とな
く質問を変えて被控訴人の指摘の趣旨を正しく理解しているかを確認しても、被控
訴人は頑として回答しなかったものである。そうすると、Aひいては控訴人の立場
からすると、「何度やり取りしても、質問に明確に回答しない」状態が発生していた
20 というべきであるし、仕様を評価する立場にはないという被控訴人の立ち位置を十
分に踏まえてされた質問に対しても回答を拒否したことについては、「合理的な理
由を示すことなく、質問への回答を拒否した」状態が発生していたというべきであ
る。したがって、①及び③の事実が、客観的事実に反するもの、すなわち虚偽の事実
であると認めることはできない。
25 (ウ) 以上によると、本件投稿部分1が虚偽の事実を摘示するものと認めることは
できない。
イ 本件投稿部分2及び3について
本件投稿部分2及び3が虚偽の事実を摘示するものと認めることができないこと
は、原判決の事実及び理由の第3の1(1)イ(原判決18頁4行目~19頁14行目)
に記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、同イ(ア)部分の末2行(原判
5 決18頁19~20行目)及び同イ(イ)部分の末2行(原判決19頁8~9行目)を
除く。)。
ウ 小括
したがって、本件投稿が摘示する事実が、虚偽の事実であるとは認められない。
(2) まとめ
10 以上によると、その余の要件につき検討するまでもなく、控訴人が本件投稿をし
たことは、不競法2条1項21号の不正競争に当たらない。
2 争点2(不競法2条1項20号の不正競争の成否)について
本件投稿の内容によって、需要者の需要が不当に喚起され、控訴人が競争上優位
に立つことになることは考え難く、控訴人の役務の質を誤認させるような表示に当
15 たると認めることはできず、控訴人が本件投稿をしたことが、不競法2条1項20
号の不正競争に当たらないことは、原判決の事実及び理由の第3の2(原判決20
頁11行目~21頁1行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。
3 争点4(不法行為の成否)について
(1) 被控訴人の主張
20 被控訴人は、控訴人による本件投稿が被控訴人に対する不法行為に当たる理由と
して、不競法2条1項20号及び21号に該当する旨を主張する。これらのうち、前
者は本件投稿により控訴人の提供する役務の品質を誤認させて被控訴人の信用が毀
損された旨を、後者は本件投稿により被控訴人の信用が毀損された旨を、それぞれ
主張するものと解される。しかし、前者すなわち品質誤認を理由とする点について
25 は、本件投稿は、控訴人の役務の質を誤認させるような表示に当たるとは認められ
ないから、これを不法行為に当たるということはできない。
(2) 信用毀損による不法行為について
本件投稿は、「被控訴人は、何度やり取りしても、控訴人担当者からの質問に明確
に回答しない」 「被控訴人は、
、 やり取りに際して、相手方の権限を確認した」 「被

控訴人は、「なんで答える必要あるの?」と、合理的な理由を示すことなく、質問へ
5 の回答を拒否した」、「XDでモックを作成したのに、違うものが出来上がり、XD
に合わせるには別料金が必要で、それが明らかに金額が高い」、「被控訴人が納品し
た成果物は、仕様を満たさず、使用に耐えないものであった」等の事実を摘示し、ま
た、控訴人の意見又は論評として、「引くに引けない状況で、この高額見積もりは、
守銭奴ビジネスとしては正解なのかも知れないが、人としてはどうなのかと思いま
10 した。」、「いい勉強になりました。」と述べているものと認められる。
本件投稿のうち、事実を摘示する部分については、本件サイト(ランサーズ)を閲
覧する者の普通の注意と読み方とを基準とすると、被控訴人の社会的評価を低下さ
せるものといえる。しかし、本件サイトは、社会において有用性のあるサービスとし
て運営されている、インターネット上での個人間又は個人と法人との間での請負契
15 約に係るマッチングサイトであって、そこでされる投稿は、本件サイトを通じて契
約の申込みや締結等を行う者にとって、その相手方がどのような仕事をするか等の
参考に供されるものであるから、そのような参考に供されるべき投稿の内容は公共
の利害に関するものであるとともに、目的の公益性が認められるというべきところ、
本件投稿につき特段これに反する事情はうかがわれない。そして、上記1で認定説
20 示したところに加え、控訴人は、本件サイネージ案件に関し、被控訴人に対して38
万円を支払ったのに十分な成果物を得られず(甲15、乙7、8、12)、被控訴人
からは改修に要するとして合計40万9223円の見積りを提示され(甲21、乙
9)、結局は別業者に依頼して案件を完成させたこと(乙10の1・2)等、証拠上
認められる事実関係に照らすと、本件投稿により摘示された事実は、重要な部分に
25 ついて真実であると認められる。
なお、被控訴人が、本件投稿部分1中の「なんで答える必要あるの?」との文言を
そのまま記載し、又は発話した事実はないところ、同文言は、閲覧者において、やや
投げ遣りな感じを抱かせる言葉遣いであるといえる。しかし、前記1(1)ア(イ)のと
おり、被控訴人は、控訴人担当者等からの複数回にわたる確認に対して、合理的な理
由を示すことなく、質問への回答を拒否し続けた状態であったことから、控訴人に
5 おいて、このような被控訴人の対応を要約して同文言を使用したものであったこと
に照らすと、本件投稿における同文言の記載をもって、いまだ不法行為が成立する
ものと認めることはできない。
また、本件投稿のうち、意見又は論評にわたる部分については、「守銭奴ビジネ
ス」との記載にやや穏当を欠く点があることは否定できないものの、既に認定説示
10 した事実経過等に照らし、いまだ意見又は論評としての域を逸脱したものとまでは
認められない。
(3) まとめ
以上によると、控訴人が本件投稿をしたことが、被控訴人に対する不法行為に当
たるということはできない。
15 4 結論
以上の次第であるから、その余の争点につき検討するまでもなく、被控訴人の各
請求にはいずれも理由がないからこれらを棄却すべきところ、これらを一部認容し
た原判決は一部失当であり、本件控訴は理由があるから、原判決中控訴人の敗訴部
分を取り消した上、当該部分に係る被控訴人の請求をいずれも棄却することとして、
20 主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部
25 裁判長裁判官
本 多 知 成
裁判官
5 遠 山 敦 士
裁判官
10 天 野 研 司

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