令和5(行ケ)10148審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
|
裁判年月日 |
令和6年9月12日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
原告株式会社はくぶん 被告川井商会株式会社
|
対象物 |
販売システム、販売プログラム及び販売方法 |
法令 |
特許権
特許法29条2項1回
|
キーワード |
審決43回 実施21回 進歩性17回 無効9回 無効審判6回 特許権2回
|
主文 |
1 原告の請求を棄却する。15
2 訴訟費用は、原告の負担とする。 |
事件の概要 |
1 特許庁における手続の経緯等
⑴ 設定登録
被告は、平成31年3月19日、発明の名称を「販売システム、販売プロ
グラム及び販売方法」とする特許出願(特願2019-50857号)をし、25
令和2年1月24日、特許権の設定の登録を受けた(特許第6651089
号、請求項の数は10、甲11。以下「本件特許」といい、その特許権を「本
件特許権」と、その明細書を「本件明細書」という。その請求項1ないし請
求項10に記載の各発明をそれぞれ「本件発明1」ないし「本件発明10」
といい、これらを併せて「本件各発明」という。)。
⑵ 原告による無効審判請求5
原告は、令和5年1月30日、本件特許の請求項1ないし10の発明に係
る特許につき特許庁に無効審判(無効2023-800008号、甲18。
以下「本件無効審判」という。)を請求した。 |
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判決文
令和6年9月12日判決言渡
令和5年(行ケ)第10148号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和6年7月4日
判 決
原 告 株 式 会 社 は く ぶ ん
同訴訟代理人弁理士 植 田 吉 伸
10 被 告 川 井 商 会 株 式 会 社
同訴訟代理人弁理士 辻 田 朋 子
同 長 谷 川 隆 治
主 文
15 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が無効2023-800008号事件について令和5年11月27日
20 にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等
⑴ 設定登録
被告は、平成31年3月19日、発明の名称を「販売システム、販売プロ
25 グラム及び販売方法」とする特許出願(特願2019-50857号)をし、
令和2年1月24日、特許権の設定の登録を受けた(特許第6651089
号、請求項の数は10、甲11。以下「本件特許」といい、その特許権を「本
件特許権」と、その明細書を「本件明細書」という。その請求項1ないし請
求項10に記載の各発明をそれぞれ「本件発明1」ないし「本件発明10」
といい、これらを併せて「本件各発明」という。。
)
5 ⑵ 原告による無効審判請求
原告は、令和5年1月30日、本件特許の請求項1ないし10の発明に係
る特許につき特許庁に無効審判(無効2023-800008号、甲18。
以下「本件無効審判」という。)を請求した。
特許庁は、令和5年11月27日、結論を「本件審判の請求は、成り立た
10 ない。」とする審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同年1
2月8日、原告に送達された。
⑶ 本件訴訟の提起
原告は、令和5年12月28日、本件審決の取消しを求めて、本件訴訟を
提起した。
15 2 本件無効審判における無効理由の主張及び本件審決の理由の各要旨等
⑴ 本件無効審判における請求人である原告の主張の要旨は、本件各発明は、
甲1ないし甲7に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が
容易に発明をすることができたものであるから、本件各発明は、特許法29
条2項の規定により特許を受けることができないものであって、本件特許は
20 同法123条1項2号に該当し、無効とすべきである、というものである。
なお、進歩性欠如に係る具体的な証拠の組み合わせは、以下のとおりである。
ア 本件発明1について
甲1(特開2003-208525号公報)に記載された発明と、甲2
(特開2002-297981号公報) 甲3
、 (特開2017-27555
25 号公報)及び甲4(「スナップスナップ 管理画面利用マニュアル」[令和
5 年 1 月 1 6 日 出 力 ] < https://support.labonetwork.co.jp/wp-
content/uploads/2018/09/31888fa858e9b32286af4446338190fd.pdf>)に
記載された事項
イ 本件発明2及び3について
甲1に記載された発明と、甲2及び甲4に記載された事項
5 ウ 本件発明4について
甲1に記載された発明と、甲5(特開2004-118388号公報)
に記載された事項
エ 本件発明5について
甲1に記載された発明と、甲2に記載された事項
10 オ 本件発明6及び7について
甲1に記載された発明と、甲6(特開2015-18427号公報)に
記載された事項
カ 本件発明8について
甲1に記載された発明と、甲7(「顔認識で我が子の写真を素早く発見、
15 学 校 行 事 フ ォ ト サ ー ビ ス 」[ 令 和 5 年 1 月 2 7 日 出 力 ] <
https://resemom.jp/article/2015/08/27/26562.html>)に記載された事項
キ 本件発明9及び10について
甲1に記載された発明と、甲2ないし甲4に記載された事項
⑵ 本件審決の理由の要旨は、次のとおりである。
20 ア 本件発明1の特許請求の範囲の記載は、以下のとおり、分説される(こ
の分説について当事者間に争いはなく、以下、本判決においても、この分
説を用いる。。
)
「(A) 注文者から個別に注文を受け付け、前記注文者の団体ごとに注文
を管理する、コンピュータにより構成される販売システムであって、
25 (B) 商品の販売対象となる前記注文者の団体に関する団体情報を記
憶する記憶手段と、
(C) 各注文者から、少なくとも前記注文者の団体の前記団体情報を特
定する情報及び注文商品を特定する情報を含む注文情報の入力を
受け付けて、各々の前記注文情報を登録する注文受付手段と、
(D) 前記注文情報における、前記団体情報を特定する情報に基づいて
5 前記注文者の団体を特定して、複数の前記注文情報の中から前記注
文者の団体が同一の前記注文情報を抽出し、抽出された前記注文情
報に基づいて、同じ団体の注文からなる注文リストを、当該団体の
担当者が閲覧できる形式で出力する注文リスト出力手段と、を備え、
(E) 前記注文リスト出力手段は、前記注文リストとして、各注文につ
10 いて前記注文商品及び注文者を表示するリストを出力する販売シ
ステム。」
イ 甲1に記載された発明(以下「甲1発明」という。)の内容、本件発
明1と甲1発明との一致点及び相違点は、以下のとおりそれぞれ認定さ
れる。
15 [甲1発明の内容]
「インターネット上で商品の受注、発注、物流及び入金管理とを一括処
理して業務を簡単に行わせることができる業務管理システム1におい
て、
業務管理システム1には、受注手段2と発注手段3と通信処理手段4
20 と物流管理手段5とが設けられ、通信処理手段4で他の各手段が結ばれ
ており、
受注手段2は、顧客が注文する学用品等の注文、問い合わせ、クレー
ム等の情報を、通信処理手段4を介して受け取り、受注データとして集
計し、
25 発注手段3は、受注手段2が集計した受注データを受け取り、これを
顧客が注文した学用品等の商品の情報を通信処理手段4を介して販売
店(学用品販売業者)に発信し、商品の発注を行ない、
通信処理手段4は、学生、児童、その保護者、学校等顧客の顧客側端
末機11と、学用品メーカーのメーカー側端末機12と、学用品販売店
の販売店側端末機13と、物流会社の物流会社側端末機14と、特定商
5 品の決済を行なう金融機関の金融機関側端末機15との間で、インター
ネット等の電子回線で情報を送受信可能であり、
物流管理手段5は、通信処理手段4を介してメーカー側端末機12か
ら商品納品の情報を受け取ると、物流会社に通信処理手段4を介して商
品の入庫、検品、ピッキング、梱包、配達等の作業を指示するものであ
10 って、
顧客が学校のとき、学生服を学年単位でインターネット上で注文する
場合、顧客(学校)が、顧客側端末機11で商品を注文する旨の情報を
通信処理手段4を介して受注手段2に発信すると、顧客側端末機11の
ウインドウの画面には、メーカー側端末機12や販売店側端末機18か
15 ら発信された取扱商品のリストや内容が表示され、
注文のための各手順、すなわち、先ず、注文書が表示され、学校名、
学生服のデザイン(商品名、商品番号等)、注文個数、各学生の氏名、
サイズ等を入力する手順、続いて、割引明細や決済方法(振込、着払、
カード、電子決済等)が表示され、これに従って、顧客(学校)が顧客
20 側端末機11を順次に操作する手順、の各手順の指示がウインドウの画
面に表示され、顧客(学校)はこの手順に従って顧客側端末機11を操
作し、
受注データは、通信処理手段4を通じて、受注手段2に送られ、顧客
データベースにおいて、その顧客(学校)のデータがあるかどうか調べ
25 られ、データがなければ顧客データ及び受注データが新規登録され、デ
ータがある場合は、今回の受注データがリストに記録され、
受注手段2は、その学生服を取り扱う販売店を特定し、通信処理手段
4を通じてその販売店の販売店側端末に注文があった旨を連絡し、販売
店が作業依頼を通信処理手段4を通じて受注手段2に送信すると、受注
データは受注手段2から発注手段3の情報処理部21に送られ、情報処
5 理部21は、受注のあった学生服について、サイズの合った在庫がある
か否か、物流管理手段5に問い合わせ、在庫があった場合は、それを配
達するよう手配するが、在庫がない場合は、その制服を取り扱う学用品
メーカーを照合し発注データを作成する、
業務管理システム1。」
10 [本件発明1と甲1発明との一致点]
(A) 注文者から個別に注文を受け付け、前記注文者の団体ごとに注
文を管理する、コンピュータにより構成される販売システムであっ
て、
(B) 商品の販売対象となる前記注文者の団体に関する団体情報を記
15 憶する記憶手段と、
(C) 各注文者から、少なくとも前記注文者の団体の前記団体情報を
特定する情報及び注文商品を特定する情報を含む注文情報の入力
を受け付けて、各々の前記注文情報を登録する注文受付手段と、
を備える販売システム。
20 [相違点]
本件発明1は、「前記注文情報における、前記団体情報を特定する情
報に基づいて前記注文者の団体を特定して、複数の前記注文情報の中か
ら前記注文者の団体が同一の前記注文情報を抽出し、抽出された前記注
文情報に基づいて、同じ団体の注文からなる注文リストを、当該団体の
25 担当者が閲覧できる形式で出力する注文リスト出力手段」構成要件
( (D))
を備え、「前記注文リスト出力手段は、前記注文リストとして、各注文
について前記注文商品及び注文者を表示するリストを出力する」(構成
要件(E))のに対し、甲1発明は、上述の「注文リスト出力手段」を
備えておらず、当該「注文リスト出力手段」 「前記注文リストとして、
が
各注文について前記注文商品及び注文者を表示するリストを出力する」
5 ものでもない点。
ウ 甲2ないし甲4に記載された事項は、本件発明1と甲1発明の相違点に
係る本件発明1の構成要件(D)及び(E)とは異なる構成であり、本件
発明1は、甲1発明、甲2ないし甲4に記載された事項に基づいて当業者
が容易に発明をすることができたものであるとはいえないし、甲5ないし
10 甲7及び周知技術を示すとする甲8(「園・学校向けインターネット写真
販売なら富士フイルムスクールフォト」(https://adv.ffsp.jp/)、令和
5年9月5日出力)に記載された事項を含めて検討しても、当業者が容易
に発明をすることができたものであるとはいえない。本件発明2ないし8、
9及び10についても、それぞれ当業者が容易に発明をすることができた
15 ものであるとはいえない。
3 原告の主張する本件審決の取消事由
原告は、
「取消事由1」として、甲1記載事項に係る認定の誤りに基づく本件
発明1の進歩性の判断の誤りを、
「取消事由2」として、甲2、甲3及び甲4記
載事項に係る認定の誤りに基づく本件発明1の進歩性の判断の誤りを、「取消
20 事由3」として、本件発明1の進歩性について動機付けの判断の誤りを主張す
るところ、これらはそれぞれが独立して本件審決の結論を直ちに誤りとするも
のではなく、甲1発明を主引用例として、甲2ないし甲4等に記載の事項を当
てはめた本件各発明の進歩性についての判断の誤りが、本件審決の結論に影響
するとするものであるから、これを基に判断する。
25 第3 当事者の主張
取消事由(本件各発明の進歩性についての判断の誤り)についての両当事者
の主張は以下のとおりである。
〔原告の主張〕
1 甲 1 記載事項に係る認定の誤り
⑴ 原告は、本件審決の本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点の認定に
5 ついて争わない。
本件審決は、甲1に記載された発明について、
「甲1に記載された3つの実
施例において、『顧客(学校)』以外の場合の具体的な動作を認定することは
できない(仮に…顧客が『学生、児童、その保護者』である場合のように『顧
客(学校)』以外の場合の発明を認定することができるとしても、その場合の
10 具体的な動作は何ら開示されていないから、甲1発明としては、
『業務管理シ
ステム1』において、『顧客(学校)』以外が『顧客側端末機11』を操作で
きることが認定できるだけである。 」
) (本件審決14頁19行目ないし31
行目)とした。
しかし、甲1の段落【0002】には、学用品の業務においては、学生又
15 はその保護者が注文する際に学校を経由して商品を注文したり及び納品した
りすることが多いといった背景技術について述べられている。
学校が学生からの注文書を集計して販売店にファクシミリなどで注文する
ことがあったことから、実施例では、顧客(学生又はその保護者)の代わり
に学校が一括して注文する例を述べているが、そもそも商品の所有者となる
20 顧客は学生又はその保護者であるため、学生又はその保護者が顧客に含まれ
ることは明らかである。
段落【0001】の記載にあるように、甲1は、特にインターネット(電
子情報)上で商品の発注などを行うシステムであり、段落【0016】の記
載にも鑑みるとインターネットを用いて顧客側端末で商品の注文を行う顧客
25 は学生又はその保護者も想定している。例えば、段落【0018】の記載に
あるように、商品が学生服(学用品含む)の場合は学生服のサイズや刺繍加
工の要不要等を入力する顧客は、学生であると明示されている。
段落【0005】及び段落【0006】には、甲1発明が解決しようする
課題が記載されているところ、学用品(学生服等)の購入者は学生又はその
保護者であり、段落【0005】の「顧客にあっては、様々な販売店の各種
5 商品を比較検討したい場合」の記載に鑑みると、顧客が学生又はその保護者
であることは明らかである。
段落【0006】の「販売店が商品の受注、発注、物流及び入金管理とを
一括処理して業務の負担を軽減し、しかも、顧客に十分なサービスを行うこ
とができる業務管理システム」との記載に鑑みると、当該業務管理システム
10 は、顧客に十分なサービスを行いつつ、販売店が商品の受注管理を行うため
の業務管理システムである。
そして、業務管理システムは、顧客が学校又は学生のいずれであるのかと
いう点が技術的特徴ではないため、顧客が学生である場合の記載が学校の場
合に比べ少ないとしても、顧客から学生を排除する合理的な理由にはならな
15 い。
⑵ 「顧客」が学校以外であったとしても、具体的動作が「顧客(学校)」の場
合と変わる理由がない。本件審決は、仮に「顧客」が学校以外と認定できる
場合であっても、甲1には具体的動作が示されていない旨判断しているが、
上記のとおり「顧客」が学校以外であっても、顧客側端末機11を操作する
20 ことは開示されているとともに、その他の具体的動作も「顧客」が学校でな
ければ、明細書記載の動作がなされないという事由もない。
そうすると、甲1には、「顧客」が学校以外であったとしても、「顧客」が
学校である場合の具体的動作と同様の動作が行われる旨の開示があるといえ
る。
25 以上のとおり、甲1の顧客は学校だけでなく学生又はその保護者も含まれ
る構成が記載されていることから、甲1発明の認定に係る本件審決の判断に
は誤りがあることになるが、前記のとおり、原告は、本件審決の本件発明1
と甲1発明との一致点及び相違点の認定について争わないところ、この甲1
の顧客に学生又は保護者も含まれるとする点は、甲2ないし甲4記載事項と
の組み合わせに係る進歩性の判断に影響するものである。
5 2 甲2、甲3及び甲4記載事項に係る認定の誤り
⑴ 本件審決は、前記のとおり、甲1発明は、本件発明1の構成要件(D)及
び(E)に相当する構成を備えていない(相違点)とした上で、甲2、甲3
及び甲4に記載された事項について、いずれも、構成要件(D)及び(E)
とは異なる構成であるとした。しかし、以下に述べるとおり、甲2、甲3及
10 び甲4には、構成要件(D)及び(E)に相当する構成が示されている。
⑵ 甲2の記載事項
ア 甲2には、本件発明1の構成要件(D)に相当する構成が記載されてい
る。
図7には、学校別弁当発注リスト(注文情報)において、
「配達先 A中
15 学校」と記載され、注文者リストとして、
「日替りA、日替りB、カレー等
の商品名の欄に、生徒番号9999999等の注文者名」が表示されてい
る。図4には、注文マスターファイルとして、学校コード("0001"
~"9999")及び生徒番号("0000001"~"9999999
")とが関連付けられたマスターファイルのデータ構造が表示されている。
20 さらに、図2には、生徒マスターファイルとして、学校コード("000
1~"9999")、生徒番号("0000001"~"9999999
")、生徒名(半角カタカナ)が関連づけられたマスターファイルのデータ
構造が表示されている。
図3には、弁当マスターファイルとして、業者コード("0001~"9
25 999")、品版("0001"~"9999")、品名が関連づけられた
マスターファイルのデータ構造が表示されている。
そして、段落【0017】には、
「図2(b)は、データの設定例であっ
て、学校コード"0001"の生徒番号"0000001"は生徒名が"
ミツビシタロウ"、パスワードが"123456abcd"、引き落とし
情報は、"三菱銀行 99999999"となっている。 との記載がある。
」
5 さらに、段落【0033】には、
「図7は、この発明の実施の形態1に係
る弁当予約販売システムの学校別弁当発注リストの例を示す図である。こ
の学校別弁当発注リストは、予約受付サーバ30が各マスターファイルに
基づいて編集して作成し、仕出し業者PC40又はFAX端末41へ送信
するものである。」との記載がある。
10 上記のように、学校コードは複数存在しており、図1に示されるように、
複数の学校の生徒が個々に注文した注文情報が予約受付サーバ30に送
信されている。したがって、学校別に発注リストを作成する必要性があり、
段落【0033】の記載からも各マスターファイルに基づいて学校別弁当
発注リストを作成していることが明らかである。
15 上記のとおりの記載が甲2にはあるところ、注文情報(お弁当の注文情
報)における、当該団体情報を特定する情報(学校コード)に基づいて前
記注文者(生徒)の団体を特定して、複数(学校)の前記注文情報の中か
ら前記注文者(生徒)の団体が同一の前記注文情報を抽出し、抽出された
前記注文情報に基づいて、同じ団体の注文からなる注文リスト(学校別弁
20 当発注リスト)を、注文商品(弁当名)及び注文者(生徒番号)を表示す
るリストとして出力する構成が開示されている。
甲2には、同じ団体(会社・学校)の注文からなる注文リストを、当該
団体の担当者(仕出し業者のうち当該学校を担当する担当者)が閲覧でき
る形式で出力する構成が開示されている。
25 以上より、甲2には、本件発明1の構成要件(D)に相当する構成が記
載されている。
イ 上記のとおりの記載が甲2にはあるところ、注文リスト出力手段は、注
文リスト(学校別弁当発注リスト)として、各注文について注文商品(弁当
名)及び注文者(生徒番号)を表示するリストを出力するのであるから、甲
2には、本件発明1の構成要件(E)に相当する構成が記載されている。
5 ⑶ 甲3の記載事項
ア 甲3には、以下のとおり、本件発明1の構成要件(D)に相当する構成
が記載されている。
図18には、保育園や幼稚園や小学校等の先生が操作する端末の画面に
おいて保育実践に利用される材料・用具の注文リスト(注文情報)におい
10 て、商品名「××××先丸はさみ」及び注文名「半角カナ英数10字以内」
に関する情報が表示されている。
段落【0064】には、「ユーザデータベース122は、ユーザIDと、
ユーザの名前と、組織IDとの対応関係を格納する。これによって、プロ
セッサ110は、組織に属するユーザを認識したり、ユーザがどの組織に
15 所属しているのかを認識したりすることができる。」との記載がある。
また、段落【0083】には、
「また、本実施の形態においては、通信販
売サーバ100Bのメモリ120は、図31に示すように、注文データベ
ース126 を格納する。注文データベース126は、注文IDと、組織I
Dと、商品ID と、個数と、注文日時と、コンテンツIDとの対応関係を
20 格納する。なお、注文データベース126が情報提供サーバ100Aに格
納されてもよい。」との記載がある。さらに、段落【0112】には、注文
データベースの代わりに、図38に示すような注文データベース1262
を用いてもよい、と述べられている。
この注文データベース1262には、購入ID、ユーザID、商品ID、
25 商品ID及びコンテンツIDが格納されている。そして、ユーザーデータ
ベース122には、複数の組織ID(団体)が登録されていることから注
文データには複数の組織からの注文を受けており、ユーザIDと商品ID
とを抽出することができることが明らかである。
また、段落【0085】には、「図32を参照して、端末200A 、2
00Bは、保育所や幼稚園や学校の先生や保護者や生徒などのユーザが利
5 用するパーソナルコンピュータ、タブレット、スマートホンなどによって
実現される。」との記載がある。したがって、ユーザとして学校の先生だけ
でなく保護者や生徒も含まれている。
上記のとおりの記載が甲3にはあるところ、注文情報(ハサミなどの学
用品についての注文情報)における、当該団体情報を特定する情報(組織
10 ID)に基づいて前記注文者(先生、生徒又は保護者)の団体を特定して、
複数(保育園・幼稚園・小学校等)の前記注文情報の中から前記注文者(先
生、生徒又は保護者)の団体が同一の前記注文情報を抽出し、抽出された
前記注文情報に基づいて、同じ団体の注文からなる注文リスト(注文リス
ト)を、注文商品(学用品)及び注文者(生徒)を表示するリストとして
15 出力する構成が開示されている。
甲3には、同じ団体(保育園・幼稚園・小学校等)の注文からなる注文
リストを、当該団体の担当者(先生)が閲覧できる形式で出力する構成が
開示されている。
以上より、甲3には、本件発明1の構成要件(D)に相当する構成が記
20 載されている。
イ 上記のとおりの記載が甲3にはあるところ、注文リスト出力手段は、注
文リスト(注文リスト)として、各注文について注文商品(学用品)及び注
文者(生徒)を表示するリストを出力する。
したがって、甲3には、本件発明1の構成要件(E)に相当する構成も
25 記載されている。
⑷ 甲4の記載事項
ア 甲4には、以下のとおり、本件発明1の構成要件(D)に相当する構成
が記載されている。
従来、入学式・運動会・遠足・修学旅行などの学校のイベントで撮影さ
れた写真を一覧で表示し、生徒又はその保護者が選択した写真のみを購入
5 することがなされており、甲4は学校のイベントで撮影された写真の購入
管理を行うシステムである。
そして、甲4の19頁の注文状況管理画面の画像において、生徒又はそ
の保護者がパソコンや携帯-スマホでそれぞれ注文した写真について、イ
ベント名、学校などで検索し、商品名(プリントサイズ、データダウンロ
10 ード)、注文者名を含む情報が表示された注文状況を出力するシステムが
開示されている。
上記のとおりの記載が甲4にはあるところ、注文情報(写真についての
注文情報)における、当該団体情報を特定する情報(学校名)に基づいて
前記注文者(生徒又はその保護者)の団体を特定して、複数の前記注文情
15 報の中から前記注文者(生徒又はその保護者)の団体が同一の前記注文情
報を抽出し、抽出された前記注文情報に基づいて、同じ団体の注文からな
る注文リスト(注文状況)を、注文商品(写真)及び注文者(生徒又はそ
の保護者)を表示するリストとして出力する構成が開示されている。
甲4には、同じ団体(学校)の注文からなる注文リストを、当該団体の
20 担当者が閲覧できる形式で出力する構成が開示されている。
以上より、甲4には、本件発明1の構成要件(D)に相当する構成が記
載されている。
イ 上記のとおりの記載が甲4にはあるところ、注文リスト出力手段は、注
文リスト(注文状況)として、各注文について注文商品(写真)及び注文者
25 (生徒又はその保護者)を表示するリストを出力する。
したがって、甲4には、本件発明1の構成要件(E)に相当する構成が
記載されている。
⑸ 以上のとおり、甲2、甲3及び甲4には、構成要件(D)及び(E)に相
当する構成が記載されていることから、甲2、甲3及び甲4の記載事項に係
る本件審決の判断には誤りがある。
5 3 本件発明1の進歩性の判断の誤り
⑴ 甲1発明における「顧客」の意義と本件発明1の進歩性
ア 本件審決は、甲1発明における「顧客」は学校であるとした上、甲1発
明を本件発明1に変更する動機付けについて、甲1発明は、各顧客(学校)
ごとに注文情報が登録・管理されているのであるから、構成要件(D)の
10 ように、前記注文情報における、前記団体情報を特定する情報に基づいて
前記注文者の団体を特定して、複数の前記注文情報の中から前記注文者の
団体が同一の前記注文情報を抽出する必要はなく、甲1において、そのよ
うに変更する動機付けはないとする。また、本件審決は、甲1は顧客が「複
数の学校(団体)からの注文情報を混在させて登録するように構成する合
15 理的な理由はない」とする(本件審決24頁5行目ないし6行目)。
しかし、甲1発明を使用する「顧客」は学生個人も想定される。既に述
べたとおり、インターネットを用いて顧客側端末で商品の注文を行う顧客
は学生又はその保護者も想定しており、甲1発明について、
「顧客」を学校
に限定して認定したことを前提とした本件審決の動機付けの判断には誤
20 りがある。
本件特許の出願日は平成31年3月19日であり、この時には、広く世
の中において、スマートフォンやタブレット端末が普及しており、学校の
生徒(少なくとも保護者)は、これらの端末を所有している。そして、本
件特許の出願日時点において、スマートフォンやタブレット端末を用いて
25 インターネットを利用した商品の購入は日常的になされており、甲8には
学校などの専任カメラマンが撮影した学校の各種行事などの写真画像を
保護者がスマートフォンなどを用いて個別に購入するシステムが公知と
なっている。さらに、学用品の所有者となり得る顧客は学生又は保護者で
あり、販売店は学生又は保護者からの注文を受けて、学生又は保護者に商
品を届けるサービスを提供している。
5 学校は単なる中継地点に過ぎず、当該業務管理システムにより十分なサ
ービスの提供を受けるのは学生又は保護者であり、当該システムが学生又
は保護者と販売店を繋ぐためのシステムも想定されていることは明らか
である。また、上記スマートフォンなどを用いてインターネットを利用し
て日常的に商品の注文がなされていたことに鑑み、このことが甲1の技術
10 的特徴事項ではないことから、生徒又は保護者が個別に商品を注文するこ
とは特段詳細に説明する必要もなくとも周知技術である。
したがって、甲1発明の「顧客」が学校であることを前提とする本件審
決の動機付けの判断は誤りである。
イ 仮に「顧客」を学校と想定した場合であっても甲1発明に甲2ないし甲
15 4記載の技術を組み合わせる動機付けがある。
本件審決は、前記のとおり、
「複数の学校(団体)からの注文情報を混在
させて登録するように構成する合理的な理由はない」と述べている。
しかし、一般的に学用品販売店は一つの学校の生徒だけが販売先ではな
く、複数の学校にまたがって販売している。そして、上記のように学生又
20 は保護者からの個別での注文を受け付けると、学用品の販売店は、複数の
学校からの注文情報を混在させて登録する合理性がある。また、甲1の段
落【0002】に記載があるように、従来技術では学用品販売等の業務に
おいて、学校が学生に注文書を配布して、学校は学生からの注文書を集計
して学用品販売店に電話やファクシミリで連絡していた。ここで、本件発
25 明1の「当該団体の担当者」について、文言上限定がないことから、
「当該
団体の担当者」には、当該団体(学校)へ学用品を販売する学用品販売店
の担当者も含まれる。このように解した場合、
「当該団体の担当者」は学校
ごとに注文情報を把握するために、複数の学校からの注文情報の中から、
注文者の学校が同一の注文情報を抽出する必要がある。このような必要性
がある以上、これを解決する手段として、商品名と注文者とが対応づけら
5 れたリストを出力する甲2ないし甲4を組み合わせる動機付けがある。
⑵ その他動機付けを基礎付ける事実
甲1は、インターネットを利用し、学生服などの学校に着用していく商品
の受注・管理を行うためのシステムであるのに対し、甲2は、インターネッ
トを利用し、弁当などの学校で食べる商品の販売・管理を行うためのシステ
10 ムであり、甲3は、インターネットを用いて、ハサミなど保育園などの学校
で使用する商品を購入可能とするシステムであり、甲4は、インターネット
を用いて、学校のイベントで撮影された写真の販売管理を行うシステムであ
る。このように、甲1と甲2ないし甲4は、学校に関連する商品を購入する
学校関係者(保護者・生徒・先生)の販売管理のためのシステムに関する技
15 術という点において共通する。
甲1は、業務管理システムにおいて、インターネットを利用し、商品の受
注・管理を一括処理し、業務の煩雑さを回避させることが課題であるのに対
し、甲2は、ネットワークを使って学生が注文した食事履歴を管理すること
で、栄養面で親の心配をなくす弁当予約販売システムを提供することが課題
20 であり、甲3は、従来よりも学校等の先生がより容易に教育に使用する用具
などを購入できるネットワークシステムを提供することが課題であり、甲4
は、学校に関連する商品を購入する学校関係者(保護者・生徒・先生)の販
売管理が課題である。このように、甲1と甲2ないし甲4は、販売された商
品の管理を簡便に行うという課題を解決するという点において共通する。
25 作用、機能について、甲1は、購入された学生服の注文管理を簡便に行う
ことができるのに対し、甲2は、予約注文された弁当の注文管理を簡便に行
うことができ、甲3は、購入された教育に関する用具の注文管理を簡便に行
うことができ、甲4は、購入された写真の注文状況の管理を簡便に行うこと
ができる。このように、甲1と甲2ないし甲4は、学校に関連する商品の注
文状況を簡便に管理することができるという点において、作用、機能が共通
5 する。
さらに、甲1には、学校以外の「顧客」を示唆する記載がある。すなわち、
甲1の段落【0001】には、
「この発明は、業務管理システムに関し、特に
インターネット(電子情報)上で商品の受注、発注、物流及び入金管理とを
一括処理して業務を簡単に行わせることのできる業務管理システムに関す
10 る。」との記載があり、段落【0002】には、「学用品販売等の業務におい
ては、学生、児童、その保護者、学校等が学用品等の商品を注文する際には、
先ず、学用品販売店が学校に連絡し、学校が学生に注文書を配布して、学校
は学生からの注文書を集計し学用品販売店に電話やファクシミリで連絡す
る。」との記載があり、段落【0016】には、
「通信処理手段4は、例えば、
15 学生、児童、その保護者、学校等顧客の顧客側端末機11」との記載があり、
これらにおいては、従来、顧客である学生(保護者)が紙などで注文してい
たが、顧客側端末機11を使ってインターネットを用いて学用品を個別に注
文するという示唆がある。このように、甲1発明は学校以外の「顧客」も想
定していることからすると、
「顧客」が個人である甲2ないし甲4の技術を組
20 み合わせることの示唆があるといえる。
以上によれば、甲1発明と甲2ないし甲4には、技術分野の共通性、課題
の共通性、作用・機能の共通性があり、甲1記載内容中に示唆があることを
考慮すると、甲1発明に、甲2ないし甲4記載の技術を組み合わせることの
動機付けがあるといえるから、これと異なる本件審決の判断には誤りがある。
25 4 本件審決の判断の誤り
以上のとおりであるから、本件審決には、甲1記載事項、甲2、甲3及び甲
4記載事項の認定に誤りがあり、甲1発明を本件発明1のように変更する動機
付けもあるため、本件発明1に進歩性があるとした本件審決の判断にも誤りが
ある。したがって、本件審決には取り消すべき違法がある。
〔被告の主張〕
5 1 甲1記載事項に係る主張に対し
⑴ 甲1には「顧客が学校の場合に、学生の学生服を学年単位でインターネッ
ト上で注文する場合」
(実施例1、段落【0026】、段落【0028】、
)「顧
客が学校の場合に、新しい学生服のデザインをインターネット上で注文する
場合」
(実施例2、段落【0026】、段落【0036】、
)「顧客(学校)が小
10 売店を通じて商品を注文する場合」(実施例3、段落【0026】、段落【0
037】)の三つの実施例が記載されているところ、段落【0018】には三
つの実施例の前提となる「顧客側端末11」の説明が記載されている。
甲1が開示する三つの実施例は、いずれも「顧客(学校)」の場合の実施例
であって、それぞれの実施例について、個別の動作を開示するものであり、
15 「顧客(学校)」以外の場合における動作を開示するものではない。
甲1には、三つの実施例の前提となる「顧客側端末11」の説明が記載さ
れているが、あくまでも業務管理システムにおいて顧客側端末11を利用す
る注文主は学校であり、さらに、注文主が学校であれば「前記注文情報にお
ける、前記団体情報を特定する情報に基づいて前記注文者の団体を特定して、
20 複数の前記注文情報の中から前記注文者の団体が同一の前記注文情報を抽出」
(構成要件(D) する必要はなく、
) 甲1発明からは、
「業務管理システム1」
において、「顧客(学校)」以外が「顧客側端末機11」を操作可能であるこ
と(注文主の概念を排除して、単に学生がタブレットなどの端末を使用でき
ること)が認定できるだけであるから、原告が主張する甲1記載事項は、技
25 術事項の範囲を不当に抽象化、拡大化するものである。
したがって、甲1に係る業務管理システムは、
「注文者の団体を特定し、注
文情報の中から注文者の団体が同一の注文情報を抽出」していないため、本
件発明の構成要件(D)及び(E)に相当する構成はなく、原告の甲1記載
事項に係る主張は誤りである。
⑵ なお、原告は、甲1発明に係る業務管理システムは顧客が学校又は学生の
5 いずれであるのかという点が技術的特徴ではないと主張しているが、この点
については、業務管理システムにおける技術的特徴は、顧客側端末11を利
用する注文主が学生等であるがゆえに必要となる処理(構成要件(D)及び
(E)
)であり、また、顧客(注文主)が学生であるか学校であるかという違
いにより、本業務管理システムの処理内容が大きく異なることは当然である
10 ところ、原告がこれらを混在させて「顧客が学校又は学生のいずれであるの
かという点が技術的特徴ではない」という解釈をしていることからも、原告
の甲1記載事項の認定は不十分である。
2 甲2、甲3及び甲4記載事項に係る主張に対し
⑴ 以下のとおり、甲2、甲3及び甲4に記載された事項は、いずれも構成要
15 件(D)及び(E)と異なる構成であり、その旨の本件審決の判断に誤りは
ない。
⑵ 甲2の記載事項
甲2には、学校別弁当発注リストは開示されているものの、段落【003
9】の「・・・予約情報は、学校及び生徒を識別するIDを付加して、朝と
20 夕方の定時に一括して、予約・精算端末機10に接続されたPHSからイン
ターネット20を通じて、予約情報収集センタの予約受付サーバ(Webサ
ーバ)30に転送する・・・」の記載や、
【要約】の「・・・学校、会社に設
置され、プリペイドカードが挿入されて弁当予約が行われると、前記弁当予
約に基づいて予約情報を前記プリペイドカードに印刷するとともに、所定の
25 時間に前記予約情報をインターネット20へ送信する予約・精算端末機1
0・・・」の記載からも明らかなように、そもそも予約受付サーバ30は、
予約・精算端末機10から学校(団体)ごとにまとまった弁当予約を一括で
受け付けている。
そのため、甲2では、本件発明1における「注文者(生徒)の団体(学校)
を特定し、注文情報の中から注文者の団体が同一の注文情報を抽出」する必
5 要はなく、開示も示唆もされていない。加えて、本弁当予約販売システムの
処理において、学校(団体)ごとに受け取った予約情報を、あえて、生徒ご
とにバラバラに混在させる合理的な理由もない。
したがって、甲2に係る弁当予約販売システムは、注文者の団体を特定し、
「
注文情報の中から注文者の団体が同一の注文情報を抽出」していないため、
10 構成要件(D)及び(E)に相当する構成はなく、原告の甲2記載事項に係
る主張は誤りである。
⑶ 甲3の記載事項
甲3に係るネットワークシステムは、端末200Aに保育活動(教育)に
関する情報を提供し、その教育に関する情報を閲覧した保育園等の先生が、
15 当該教育に使用する教材などをそのまま購入等することができるものであり、
当該教材などは保育園ごとに一括して注文が行われ、園児やその保護者がそ
れぞれ注文を行うことはない。
なお、甲3の段落【0085】には「・・・端末200A、200Bは、
保育所や幼稚園や学校の先生や保護者や生徒などのユーザが利用するパーソ
20 ナルコンピュータ、タブレット、スマートホンなど・・・」と記載されてい
るが、これは生徒などが端末を操作可能であることが認定できるだけであり、
甲3には、生徒などが端末を利用したネットワークシステムの動作に関する
開示はない。
また、
【要約】には「・・・保育園や幼稚園や小学校等の先生が、より容易
25 に保育または教育の活動に関する情報を得られる、またはより容易に保育ま
たは教育に使用する材料および/または用具を購入できる・・・」と記載さ
れ、段落【0039】には「・・・端末200Bは、無料のユーザに対して
は、保育実践の通常ページとして、『活動のねらい』と、『材料・用具』と、
『事前準備』 『活動の流れ
と、 (概略) とを表示する。 と記載され、段落
』 」 【0
048】には「サーバ100Bは、ユーザまたはその組織が、チェックを入
5 れた商品をカートにいれたものとみなして、当該商品がカートに入った状態
の通販サイトのページを端末200Bに送信する・ ・」
・ と記載されている。
これらの記載からも明らかなように、本ネットワークシステムは保護者な
どが個別に注文を行うものではなく、例えば端末200Aで注文を行うと、
端末200Bにおいても何が注文されたか確認できるものであり(あくまで
10 も端末200A、端末200Bを使用するのは先生) サーバ100Bは各注
、
文者(保護者など)からの注文を受け付けていないため(幼稚園や保育園ご
とにまとめて商品が注文されているため) 本件発明1における
、 「注文者の団
体を特定し、注文情報の中から注文者の団体が同一の注文情報を抽出」する
必要はない。本ネットワークシステムの処理において、幼稚園(団体)ごと
15 に受け取った注文情報を、あえて、保護者や生徒ごとにバラバラに混在させ
る合理的な理由もない。
したがって、甲3に係るネットワークシステムは、注文者の団体を特定し、
「
注文情報の中から注文者の団体が同一の注文情報を抽出」していないため、
構成要件(D)及び(E)に相当する構成はなく、原告の甲3記載事項に係
20 る主張は誤りである。
⑷ 甲4の記載事項
乙2(株式会社フォトクリエイト(株式会社ラボネットワークと業務提携)
のサービス「スナップスナップ」のウェブサイト(https://snapsnap.jp/))
によれば、スナップスナップの特徴01には「園・学校(スクール)内のイ
25 ベント写真が、スクール内掲示板での写真張り出しと同じように、スマート
フォンやパソコンからお楽しみいただけます。」との記載がある。
すなわち、スナップスナップは、注文者の団体専用(学校専用、又はクラ
ス専用)のウェブページから写真を発注できるシステムであり(他の学校の
写真を閲覧することはできない) 本件発明1における
、 「注文者の団体を特定
し、注文情報の中から注文者の団体が同一の注文情報を抽出」する必要はな
5 く、また、このような機能は開示も示唆もされていない。本サービスの処理
において、学校専用のウェブページから受注した(すなわち、学校ごとにま
とまった)注文情報を、あえて、生徒ごとにバラバラに混在させる合理的な
理由もない。
したがって、甲4に係るサービス「スナップスナップ」は、
「注文者の団体
10 を特定し、注文情報の中から注文者の団体が同一の注文情報を抽出」してい
ないため、構成要件(D)及び(E)に相当する構成はなく、原告の甲4記
載事項に係る主張は誤りである。
⑸ 以上のとおり、甲2、甲3及び甲4には、構成要件(D)及び(E)に相
当する構成は記載されておらず、甲2、甲3及び甲4の記載事項に係る本件
15 審決の判断に誤りはない。
3 本件発明1の進歩性の判断の誤りに対し
⑴ 甲1発明における「顧客」の意義と本件発明1の進歩性に対し
ア 甲1発明における「顧客」は、団体である学校である。前記「1 甲1
記載事項に係る主張に対し」で述べたとおり、原告の甲1記載事項の認定
20 は、技術事項の範囲を不当に抽象化、拡大化するものであるから失当であ
り、甲1に記載された三つの実施例において、「顧客(学校)」以外の場合
の具体的な動作を認定することはできない。
さらに、三つの実施例の前提となる「顧客側端末11」の説明(段落【0
018】)において顧客(学生)が記載されているところ、顧客側端末11
25 を利用する注文主は学校(団体)であり、甲1では、
「業務管理システム1」
において、注文主は学校であることを前提として、単に「顧客(学校)」以
外が「顧客側端末機11」を操作可能であるということが認定できるだけ
である。
したがって、甲1発明を使用する顧客は団体(学校)であることは明ら
かである。
5 イ 甲1発明に係る相違点を本件発明1における構成要件(D)及び構成要
件(E)に変更する動機付けはない。
甲1発明では、各顧客(学校)ごとに商品の注文を行っており、受注手
段2の顧客データベースに登録された注文情報は、各顧客(学校)ごとに
登録・管理されている。
10 そうすると、甲1発明においては、既に各顧客(学校)ごとに注文情報
が登録・管理されているのであるから、構成要件(D)のように「前記注
文情報における、前記団体情報を特定する情報に基づいて前記注文者の団
体を特定して、複数の前記注文情報の中から前記注文者の団体が同一の前
記注文情報を抽出」する必要はなく、甲1発明において、そのように変更
15 する動機付けはない。
すなわち、複数の前記注文情報の中から前記注文者の団体が同一の前記
「
注文情報を抽出」するように変更することが想定されない以上、甲1発明
において、構成要件(D)の「複数の前記注文情報の中から前記注文者の
団体が同一の前記注文情報を抽出して、抽出された前記注文情報に基づい
20 て、同じ団体の注文からなる注文リストを、当該団体の担当者が閲覧でき
る形式で出力する」ことや、構成要件(E)の「前記注文リスト出力手段
は、前記注文リストとして、各注文について前記注文商品及び注文者を表
示するリストを出力する」ことのように、甲1発明に係る相違点を変更す
る動機付けもない。
25 したがって、甲1発明に係る相違点を本件発明1における構成要件(D)
及び(E)に変更する動機付けがないことは明らかである。
なお、原告は、
「当該団体の担当者」には、当該団体(学校)へ学用品を
販売する学用品販売店の担当者も含まれることを主張しているが、このよ
うな主張は無効審判において審理判断されていないところ、本件明細書の、
例えば注文リスト出力手段12に関する記載が開示された段落【0032】
5 等から、担当者が学校内部の教員等であることは明らかであるため、この
点においても本件発明1の担当者には学用品販売店の担当者は含まれず、
甲1発明に係る相違点を本件発明1における構成要件(D)及び(E)に
変更する動機付けはない。
⑵ その他動機付けを基礎付ける事実に対し
10 原告の主張は争う。
4 本件各発明の進歩性についての判断
⑴ 本件発明1、9及び10について
上記のとおり、原告の甲1ないし甲4の認定に係る主張には誤りがあり、
甲2ないし甲4に記載された事項は、本件発明1と甲1発明の相違点に係る
15 本件発明1の構成(構成要件(D)及び(E))と異なることから、甲1発明
に、甲2ないし甲4に記載された事項を適用しても、本件発明1にはならな
い。
そうすると、本件発明1は、甲1発明、甲2ないし甲4に記載された事項
に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、
20 甲5ないし甲8に記載された事項を含めて検討しても、当業者が容易に発明
をすることができたものであるとはいえない。
また、本件発明1と同じ特徴を有する本件発明9(販売方法)及び本件発
明10(プログラム)も同様に、甲1発明、甲2ないし甲4に記載された事
項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえな
25 いし、甲5ないし甲8に記載された事項を含めて検討しても、当業者が容易
に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、本件審決の上記と同旨の判断に誤りはない。
⑵ 本件発明2ないし8について
上記のとおり、甲1ないし甲4には本件発明の構成要件(D)及び構成要
件(E)は開示も示唆もされていないため、本件発明1の従属項である本件
5 発明2ないし8は、甲1発明及び甲2ないし甲8に記載された事項に基づい
て当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、本件審決の上記と同旨の判断に誤りはない。
5 本件審決について
以上のとおりであるから、本件各発明に進歩性があるとした本件審決の判断
10 に誤りはなく、本件審決には取り消すべき違法はない。
第4 当裁判所の判断
1 本件発明1の概要
⑴ 本件明細書の記載によれば、本件発明1の概要について、以下のとおり認
められる。
15 本件発明1は、個別に注文を受け付け、注文者の学校ごとに注文を管理す
る為の、販売システム、販売プログラム及び販売方法に関する(段落【00
01】。
)
従来のシステムでは、団体の担当者等が、団体に所属する各個人の注文を
取りまとめて入力を行うことが必要であり、団体が複数の注文の管理を行う
20 手間が生じていた(段落【0005】。また、注文者が注文内容を代表者に
)
伝え、更に代表者が注文を取りまとめて発注する、という手順が必要になる
ため、重複作業が生じる上に、注文内容の伝達ミスが生じるリスクも高まる
という課題があった(段落【0006】。
)
本件発明1は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、注文者か
25 ら個別に注文を受け付け、団体ごとに注文を管理できるシステムを提供する
ことを課題とする(段落【0007】。
)
本件発明1は、前記第2の2⑵アのとおり特定される、構成要件(B)の
「記憶手段」、同(C)の「注文受付手段」、構成要件(D)及び(E)に記
載された「注文リスト出力手段」を備える販売システムとする構成により、
上記課題を解決するものである。
5 上記構成とすることで、注文者によって入力された、団体を特定する情報
に基づいて、個別の注文を団体ごとにまとめた注文リストを出力することが
できる。これにより、注文者各自から個別に注文を受け付けながら、同じ団
体の注文を見分けて一括管理することができる。また、注文リストが出力さ
れることで、団体が自ら注文内容を管理せずとも、誰がどの商品を注文した
10 かを把握することができ、利便性が向上する。これらが本件発明1の各効果
である(段落【0009】。
)
⑵ なお、本件発明1の各構成要件は前記第2の2⑵アのとおりであるところ、
構成要件(D)には「前記注文情報」等の記載があり、構成要件Cの事項を
引用していることから、これを踏まえ、構成要件(D)の内容について検討
15 する。
構成要件(D)は、
「前記注文情報における、前記団体情報を特定する情報
に基づいて前記注文者の団体を特定して、複数の前記注文情報の中から前記
注文者の団体が同一の前記注文情報を抽出し、抽出された前記注文情報に基
づいて、同じ団体の注文からなる注文リストを、当該団体の担当者が閲覧で
20 きる形式で出力する注文リスト出力手段と」するものであり、構成要件Cに
は、
「各注文者から、少なくとも前記注文者の団体の前記団体情報を特定する
情報及び注文商品を特定する情報を含む注文情報の入力を受け付けて、各々
の前記注文情報を登録する注文受付手段と」と記載されていることから、構
成要件(D)における「前記注文情報における、前記団体情報を特定する情
25 報」とは、構成要件Cで特定された情報、すなわち、
「各注文者」により「入
力」された、
「前記注文者の団体の前記団体情報を特定する情報」であると理
解すべきである。
また、構成要件(D)における「注文リストを、当該団体の担当者が閲覧
できる形式で出力する」との事項は、少なくとも「注文リスト」を「当該団
体の担当者」がアクセス可能な出力先に送信するシステム構成であることを
5 特定する事項と理解すべきである。
2 甲1発明の概要
⑴ 甲1の記載によれば、甲1発明の概要について、以下のとおり認められる。
甲1発明は、業務管理システムに関し、特にインターネット(電子情報)
上で商品の受注、発注、物流及び入金管理とを一括処理して業務を簡単に行
10 わせることのできる業務管理システムに関する(段落【0001】。
)
従来、販売店では、コンピュータを利用し、例えば、インターネット(電
子情報)上で自社のホームページに商品を陳列したり、コンピュータによっ
て商品の受注管理から伝票整理までの各種管理を行っている(段落【000
4】。
)
15 しかし、各販売店にあっては、各自でホームページを開設しなければなら
ず、アップデートの更新やメール管理等の煩雑な操作が要求されていた。し
かも、商品の受注管理から伝票整理までの各種管理も行わなければならず、
負担がますます大きくなっていた。また、顧客にあっては、様々な販売店の
各種商品を比較検討したい場合に、各販売店毎のホームページを見るために
20 いちいち異なったアドレスを入力する必要があり、顧客へのサービスが十分
ではないという問題点があった(段落【0005】。
)
甲1発明は、上記問題点を解決し、販売店が商品の受注、発注、物流及び
入金管理とを一括処理して業務の負担を軽減し、しかも、顧客に十分なサー
ビスを行うことができる業務管理システムを提供することを目的とする(段
25 落【0006】。
)
甲1発明は、受注手段2と発注手段3と通信処理手段4と物流管理手段5
とが設けられており、通信処理手段4で他の各手段が結ばれている業務管理
システムの発明であって(段落【0013】、具体的には、前記第2の2⑵
)
イ[甲1発明の内容]記載の構成を備えることにより、上記目的を達成する
ものである。
5 特に、甲1発明では、顧客が学校のとき、学生服を学年単位でインターネ
ット上で注文する場合(段落【0027】、顧客(学校)は、図3に示すよ
)
うに、注文のための各手順に従って顧客側端末機11を操作して、学校名、
学生服のデザイン(商品名、商品番号等)、注文個数、各学生の氏名、サイズ
等を入力し(段落【0028】、この受注手段2については、顧客が注文す
)
10 る学用品等の注文の情報を、通信処理手段4を介して受け取り、受注データ
として集計するもの(段落【0014】、とされている。
)
図3は以下のとおりである。
⑵ 甲1の実施例の記載
甲1には、①顧客が学校の場合に、学生服を学年単位でインターネットで
注文する場合(段落【0027】ないし【0031】、図2、3)、②顧客が
学校の場合に、新しい学生服のデザインをインターネットで注文する場合(段
5 落【0032】ないし【0036】、図4、5)、③顧客(学校)が販売先を
通じて商品を注文する場合(段落【0037】ないし【0047】、図6ない
し10)とする、いずれも顧客を学校とする三つの実施例が示されている。
3 本件発明1と甲1発明との対比
本件審決は、甲1発明の「業務管理システム1」が本件発明1の「販売シス
10 テム」
(構成要件A)に相当し、
「顧客データベース」が「記憶手段」
(構成要件
B)に、「受注手段2」が「注文受付手段」(構成要件C)にそれぞれ相当する
から、本件発明1と甲1発明は、構成要件AないしCを備える点で一致すると
する一方、本件発明1は構成要件(D)及び(E)を備えるのに対し、甲1発
明はそれらを備えない点で相違すると認定した。本件審決における上記一致点
15 及び相違点の認定について、当事者間に争いはない。
なお、原告は、甲1の「顧客」には「学生又はその保護者」が含まれるから、
本件審決の甲1発明の認定に係る本件審決の判断には誤りがあり、進歩性の判
断に影響する旨も主張するところ、この点に関しては、後記5⑶及び6におい
て検討する。
20 4 甲2ないし甲4の記載内容
⑴ 甲2の記載内容は、以下のとおりである。
甲2は、発明の名称を「弁当予約販売システム及び弁当予約販売方法」と
するものであり、
「注文取り纏めのため、仕出業者または学校で人手が必要と
なる問題点」「仕出業者は、弁当販売時に、売上金、おつりを現金で行う必
、
25 要がある」などの問題点を解決するため(段落【0004】)の、同発明に関
する事項(段落【0001】)が記載されている。
具体的には、生徒は、予約・精算端末機10により弁当予約を行い(段落
【0037】、予約情報は、定時に一括して、予約・精算端末機10から予
)
約受付サーバ30に転送され(段落【0039】、予約受付サーバ30は、
)
各マスターファイルに基づいて学校別弁当発注リスト(下記図7) 弁当注文
、
5 集計表を編集作成し(段落【0039】、予約受付サーバ30は、仕出し業
)
者のパソコン40に、学校別弁当発注リスト及び弁当注文集計表を送信し(段
落【0040】、仕出し業者は、学校別弁当発注リスト及び弁当注文集計表
)
をもとに弁当を調理し、配達・販売員は、各学校に弁当を配達(段落【00
41】)することが記載されている。
10 【図2】は以下のとおりである。
【図7】は以下のとおりである。
一方、甲2の段落【0016】及び上記図2(a)に示される「学校コー
ド」は、データベースである生徒マスターファイルに含まれており(段落【0
015】及び【0079】、これに基づき学校別弁当発注リストが作成され
)
るものであり(段落【0039】、甲2には、注文者である生徒が、
) 「注文者
5 の団体の前記団体情報を特定する情報」を入力することについては、記載さ
れていないものと認められる。
⑵ 甲3の記載内容
甲3は、発明の名称を「ネットワークシステム、サービス提供方法、およ
びサーバ」とするものであり、
「従来よりも保育園や幼稚園や小学校等の先生
10 が、 「より容易に保育または教育に使用する材料および/ または用具を購
」
入できるネットワークシステム」を提供すること(段落【0004】)が記載
されている。
具体的な実施形態は以下のとおりである。保育園や幼稚園や学校の先生な
「
どのユーザが、端末200Aを介して、サーバ100Aから保育または教育
15 の活動に関する情報サイトのホームページをダウンロード」し(段落【00
25】、端末200Aは、当該保育実践に利用される材料・用具のうちの、
)
当該情報サイトと連携する通販サイトにおける販売対象をディスプレイ23
0上に列挙する(段落【0045】。ユーザが端末200Aにより商品を発
)
注すると、発注した注文データはサーバ100Aに蓄積され、図3に示すよ
20 うに、組織毎に過去の注文を見返すことができる(段落【0048】。注文
)
履歴は、ユーザ毎に抽出し表示することもできる(段落【0112】。
)
【図3】は以下のとおりである。
⑶ 甲4の記載内容
甲4は「スナップスナップ管理画面利用マニュアル」とするものであり、
5 学校行事写真のウェブ販売を管理するシステムの操作手順について記載され
ている。具体的には、学校名をキーとする注文状況の検索が可能な画面や、
注文検索結果として、注文者名、商品名、注文枚数、学校名等の記載された
リストを表示する機能(19頁)が記載されている。
19頁の内容は、以下のとおりである。
5 甲2ないし甲4に記載の内容と構成要件(D)及び(E)との対比
⑴ 構成要件(D)及び(E)の検討
前記1⑵のとおり、本件発明1の構成要件(D)における「前記注文情報
5 における、前記団体情報を特定する情報」とは、構成要件Cで特定された情
報、すなわち、「各注文者」により「入力」された、「前記注文者の団体の前
記団体情報を特定する情報」であり、構成要件(D)における「注文リスト
を、当該団体の担当者が閲覧できる形式で出力する」との事項は、少なくと
も、
「注文リスト」を「当該団体の担当者」がアクセス可能な出力先に送信す
るシステム構成であることを特定する事項として理解すべきである。以下、
これを前提として、甲2ないし甲4の記載事項と構成要件(D)及び(E)
5 について比較検討する。
⑵ 甲2ないし甲4記載事項と構成要件(D)及び(E)について
ア 甲2の記載事項と構成要件(D)及び(E)の比較
甲2には、各マスターファイルから、弁当注文情報における生徒の学校
の情報を特定し、複数の弁当注文情報の中から学校が同一の注文情報を抽
10 出して学校別発注リストを編集し、仕出し業者向けに出力することが記載
されている。
そうすると、甲2には、構成要件(D)のうち、「複数の」「注文情報の
中から」
「注文者の団体が同一の前記注文情報を抽出し、抽出された前記注
文情報に基づいて、同じ団体の注文からなる注文リストを、「出力する注
」
15 文リスト出力手段」が記載されているといえる。
また、甲2には、上記「学校別発注リスト」に「注文者リスト」が掲載
されていることから(図7)、構成要件(E)の「前記注文リストとして、
各注文について前記注文商品及び注文者を表示するリストを出力する」を
備えているといえる。
20 しかし、前記4⑴のとおり、甲2には、注文者(生徒)が「注文者の団
体の前記団体情報を特定する情報」を入力することは記載されていないか
ら、構成要件(D)のうち、
「前記注文情報における、前記団体情報を特定
する情報に基づいて前記注文者の団体を特定して、複数の前記注文情報の
中から前記注文者の団体が同一の前記注文情報を抽出」することは、記載
25 されていない。
また、甲2には、前記4⑴のとおり、段落【0040】に「学校別発注
リスト」が仕出し業者に送信されることは記載されているが、学校の担当
者がアクセス可能な出力先に送信することについては記載されていない
から、構成要件(D)のうち、
「同じ団体の注文からなる注文リストを、当
該団体の担当者が閲覧できる形式で出力する」ことは記載されていない。
5 イ 甲3の記載事項と構成要件(D)及び(E)の比較
甲3には、前記4⑵のとおり、保育園や幼稚園や学校の先生などのユー
ザが端末200Aにより商品を発注すると、発注した注文データはサーバ
100Aに蓄積され、組織毎に過去の注文を見返すことができ(段落【0
048】、あるいは、ユーザ毎の注文履歴を抽出し表示することもできる
)
10 (段落【0112】、ネットワークシステムが記載されている。
)
そうすると、甲3には、注文履歴を「当該団体の担当者が閲覧できる形
式で出力する」手段を有するネットワークシステムが記載されているとい
える。
しかし、甲3で抽出し表示されるのは注文の履歴(図3、段落【004
15 8】及び【0112】)であり、構成要件(D)でいうところの、「複数の
前記注文情報の中から注文者の団体が同一の前記注文情報を抽出し、抽出
された前記注文情報に基づいて、同じ団体の注文からなる注文リスト」を
出力するものではない。そのため、甲3には構成要件(E)は記載されて
いない。
20 また、各注文者が「前記注文情報における、前記団体情報を特定する情
報」を入力すること(構成要件(D))についても、記載されていない。
ウ 甲4の記載事項と構成要件(D)及び(E)の比較
甲4には、前記4⑶のとおり、写真注文情報から注文者の学校の情報を
特定し、複数の写真注文情報の中から学校が同一の写真注文情報を抽出し
25 て、注文者名、商品名、注文枚数、学校名等の記載されたリストを表示す
ることが記載されている。
そうすると、甲4には、構成要件(D)のうち、「複数の」「注文情報の
中から前記注文者の団体が同一の前記注文情報を抽出し、抽出された前記
注文情報に基づいて、同じ団体の注文からなる注文リスト」を、
「出力する
注文リスト出力手段」が記載されているといえる。また、甲4には、構成
5 要件(E)の「前記注文リストとして、各注文について前記注文商品及び
注文者を表示するリストを出力する」を備えているといえる。
しかし、甲4において、
「各注文者」が「前記注文者の団体の前記団体情
報を特定する情報」を入力しているか、また、注文リストを「前記団体情
報を特定する情報」
「に基づいて前記注文者の団体を特定して」抽出してい
10 るかは不明であるから、構成要件(D)における「前記注文情報における、
前記団体情報を特定する情報に基づいて前記注文者の団体を特定して、複
数の前記注文情報の中から」抽出することが記載されているとはいえない。
また、甲4のリスト(18頁)は、管理画面の利用者が閲覧可能である
と解されるところ、甲4には、
「イベント新規登録(スナップスナップ販売
15 用)(6頁)「写真販売ナビ」
」 、 (6、9、10、17頁等)「※削除理由は
、
必須になります。「例)学校・保護者からの依頼のため」等の記載がある
」
ことからすると、甲4の「スナップスナップ管理画面」の利用者は、写真
販売業者であると解される。そうすると、甲4には、構成要件(D)のう
ち、
「同じ団体の注文からなる注文リストを、当該団体の担当者が閲覧でき
20 る形式で出力する」ことは記載されていない。
エ 甲2ないし甲4の記載内容と構成要件(D)及び(E)に係る記載
上記アないしウによれば、甲2ないし甲4には、構成要件(D)の「前
記注文情報における、前記団体情報を特定する情報に基づいて前記注文者
の団体を特定して、複数の前記注文情報の中から前記注文者の団体が同一
25 の前記注文情報を抽出」することや、
「抽出された前記注文情報に基づいて、
同じ団体の注文からなる注文リストを、当該団体の担当者が閲覧できる形
式で出力する」ことについて記載されているということはできず、甲3に
は、構成要件(E)の「前記注文リスト出力手段は、前記注文リストとし
て、各注文について前記注文商品及び注文者を表示するリストを出力する」
ことも記載されていない。
5 そうすると、甲1発明に甲2ないし甲4に記載された事項を適用したと
しても(原告の主張は、甲2ないし甲4に記載の事項をそれぞれ副引用例
として甲1発明に組み合わせるとするものなのか、それとも周知技術を記
載したものとするのかについて明確ではないが、いずれにしろ甲2ないし
甲4には構成要件(D)及び(E)に関する記載がなく、これを甲1に組
10 み合わせても本件発明1には至らないから、結論を左右しない。 本件発明
)
1に到達することはできないから、本件発明1は、甲1発明に基づいて当
業者が容易に想到し得たものとはいえない。
⑶ 甲1発明との組み合わせの動機付けについて
甲1には、前記2⑴のとおり、甲1のシステムを介して、販売側(販売店、
15 メーカー、物流会社、金融機関)が顧客から商品の注文を受注し、注文され
た商品を顧客へ配達し、決済するという取引形態の説明がされ、それにより、
発注、受注、物流及び入金管理を一括処理して販売店の業務負担を軽減する
という目的を達成することが記載されている。また、実施例についても、前
記2⑵のとおり、顧客(学校)からの注文の方法に応じた、販売店の業務管
20 理についての記載がある。このような甲1の記載内容によれば、甲1には、
販売側と顧客という二者間の関係についての記載しかなく、学校と学生のよ
うな、顧客が帰属する組織内の属性(階層関係)については想定されておら
ず、そのような属性に合わせた情報処理を行うことについては記載も示唆も
されていない。また、仮に甲2や甲4にみられるような、複数の顧客を共通
25 する属性別にリスト化する処理が周知技術であったとしても、前記第2⑴の
とおり、甲1発明の目的は、販売店の業務負担を軽減するところにあるから、
そのようなリスト化を行い、それを学校の担当者が閲覧できる形式で出力す
るようにするのは、甲1発明の上記目的とは相容れないから、そうした動機
付けはない。
また、甲1に記載された具体的な実施形態に即して検討すると、顧客(学
5 校)は、学校名、住所、商品名、商品番号、注文個数を入力した後、学生の
氏名、身長、胸囲、胴囲等を個別に入力する手順で注文を行うことから(図
3及び段落【0028】、学生の個別注文情報は学校により既に集約されて
)
おり、学校別に抽出された注文情報は既得のものである。そうすると、販売
店の業務負担軽減を目的とする甲1発明において、学校側が個別注文情報を
10 集約して注文することに代えて、販売側が学生から個別に注文を受けて集約
し、学校別に抽出された注文情報を学校の担当者に閲覧可能な形式で出力す
るように変更することは、甲1発明の上記目的に反し、そのような動機付け
はない。
6 原告の主張に対する判断
15 ⑴ 原告は、保護者がスマートフォンなどを用いて学校行事の写真を購入する
システムが甲8に記載されていて公知であり、インターネットを利用して生
徒又は保護者が個別に商品を注文することは周知技術であること(前記第3
〔原告の主張〕3⑴)、顧客が学生や保護者であった場合も、顧客が学校であ
る場合と動作は同じであるから、甲1における顧客には学生や保護者も含ま
20 れる旨を主張する(前記第3〔原告の主張〕1⑵)。
甲8 「園・学校向けインターネット写真販売なら富士フイルムスクールフ
(
ォト」
(https://adv.ffsp.jp/)、令和5年9月5日出力)は、本件特許の出願時
においても共通する周知技術を示すものとして原告が提出する証拠であると
ころ、そこには、幼稚園、保育園、学校の選任カメラマンによって撮影され
25 た各種行事やイベントなどの写真画像を、保護者がパソコンやスマートフォ
ンで画像を確認しながら注文できる、インターネット学校写真販売システム
が記載されている。
しかし、仮に顧客を学校とする実施例しか開示のない甲1において、顧客
を学生や保護者とする場合があり得るとしたとしても、前記5⑶のとおり、
甲1に記載されているのは販売側と顧客という二者間の関係のみであるから、
5 学生や保護者から注文を受け、学生や保護者に配達し、決済をすることは読
み取れるとしても、複数の学生や保護者から注文を受ける場合において、そ
れらの注文を各学生や保護者の帰属に基づいてリスト化することについて、
甲1にはこれを動機付ける記載はない。
また、甲2ないし甲4には本件発明1の構成要件(D)及び(E)に係る
10 記載がないこと、甲1発明との組み合わせの動機付けを欠くことについても、
前記5で検討したとおりである。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
⑵ 原告は、甲1発明と甲2ないし甲4には、技術分野の共通性、課題の共通
性、作用・機能の共通性があり、甲1記載内容中に示唆があることを考慮す
15 ると、甲1発明に、甲2ないし甲4記載の技術を組み合わせることの動機付
けがあるとも主張する(前記第3〔原告の主張〕3⑵)。
しかし、甲2ないし甲4、その他進歩性欠如の立証のために原告が提出し
た証拠には、甲1発明と本件発明1の相違点である本件発明1の構成要件(D)
及び(E)に係る構成を示すものがないから、組み合わせの前提を欠いてお
20 り、原告の上記主張は、採用することができない。
⑶ その他、原告の主張や原告提出の証拠は、これまで述べた認定判断を覆す
に足りるものではない。
7 本件各発明の進歩性について
以上のとおり、本件発明1は甲1発明その他証拠に挙げられた文献の記載に
25 基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。そのため、本
件発明1の構成をすべて含む本件発明2ないし8も、同様に容易に発明をする
ことができたものではない。また、本件発明1は「販売システム」の発明であ
るところ、その発明の内容を実質的に同一として、カテゴリーを「販売方法」、
「販売プログラム」としたにとどまる本件発明9及び10(本件発明9及び1
0と甲1発明との相違点は、本件審決認定のとおり、本件発明1と甲1発明の
5 相違点と同じであると認められる。 も、
) 同様に容易に発明をすることができた
ものではない。これらと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
8 結論
したがって、本件審決に取り消すべき違法はなく、原告が主張する取消事由
は理由がないから、原告の請求は棄却されるべきである。
10 よって、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
中 平 健
裁判官
25 今 井 弘 晃
5 裁判官
水 野 正 則
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