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令和5(行ケ)10132特許取消決定取消請求事件

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裁判所 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和6年10月30日
事件種別 民事
当事者 原告強化土エンジニヤリング株式会社
被告特許庁長官
対象物 地盤固結材および地盤改良工法
法令 特許権
キーワード 進歩性19回
実施6回
特許権3回
刊行物1回
主文 1 特許庁が異議2022-700328号事件について令和5年10
4から7までに係る特許を取り消すとした部分を取り消す。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。20
事件の概要 1 本件は、原告が特許権者である特許についての特許異議申立てに対する決定25 について、原告が、同決定のうち特許を取り消すとした部分の取消しを求める 事案である。争点は、特許発明の進歩性が認められるか否かである。

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判決文

令和6年10月30日判決言渡
令和5年(行ケ)第10132号 特許取消決定取消請求事件
口頭弁論終結日 令和6年8月21日
判 決
原 告 強化土エンジニヤリング株式会社
同訴訟代理人弁理士 久 門 享
同 久 門 保 子
被 告 特許庁長官
同指定代理人 関 根 裕
同 門 前 浩 一
同 瀬 下 浩 一
15 同 海 老 原 え い 子
主 文
1 特許庁が異議2022-700328号事件について令和5年10
月3日にした決定のうち、特許6961270号の請求項1、2及び
4から7までに係る特許を取り消すとした部分を取り消す。
20 2 訴訟費用は、被告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
25 1 本件は、原告が特許権者である特許についての特許異議申立てに対する決定
について、原告が、同決定のうち特許を取り消すとした部分の取消しを求める
事案である。争点は、特許発明の進歩性が認められるか否かである。
2 特許庁における手続の経緯等
⑴ 原告は、発明の名称を「地盤固結材および地盤改良工法」とする発明につ
いて令和2年10月19日に特許出願をし、令和3年10月15日に特許設
5 定登録(特許第6961270号、請求項数12。 「本件特許」
以下 という。)
を受け、同年11月5日に特許掲載公報(甲10)が発行された。
⑵ 本件特許(請求項1から7までに係るもの)については、令和4年4月2
0日付けで特許異議の申立てがされ、特許庁は、異議2022-70032
8号事件として審理した。
10 ⑶ 原告は、令和4年11月2日付けで取消理由通知書(決定の予告。甲14)
を受けたため、令和5年1月26日付けで訂正請求書等(甲16の1から3
まで)を提出し、本件特許の特許請求の範囲の記載等の訂正(以下「本件訂
正」という。なお、請求項3は削除された。)を求めた。
⑷ 特許庁は、令和5年10月3日、本件訂正を認め、本件特許の請求項1、
15 2、4~7に係る特許を取り消すなどとする異議の決定(以下「本件決定」
という。)をし、その謄本は同月13日原告に送達された。
⑸ 原告は、令和5年11月9日、本件決定のうち特許を取り消すとした部分
の取消しを求めて本件訴訟を提起した。
3 特許請求の範囲の記載等
20 本件訂正後の本件特許の特許請求の範囲請求項1、2、4~7の記載は別紙
「本件訂正発明」記載のとおりである(各請求項に係る発明を、請求項の番号
を付して「本件訂正発明1」などといい、すべてを併せて「本件各訂正発明」
という。 。

4 本件決定の理由の要旨
25 本件決定の判断のうち、本件訴訟における取消事由として主張されているの
は、本件各訂正発明の進歩性に関する判断部分であり、その理由の要旨は、次
のとおりである。
⑴ 本件特許の特許出願前に頒布された刊行物である甲1文献(主引用例。特
開平7-166163号公報)には、別紙「引用発明」記載の発明(以下「引
用発明」という。)が記載されていると認められる。
5 ⑵ 本件訂正発明1の進歩性の有無
ア 本件訂正発明1と引用発明の一致点及び相違点
(一致点)
「モル比が 1.68~2.31 の範囲にある水ガラスとブレーン値が 4000 ㎠/g
~20000 ㎠/g の微粒子スラグを有効成分とする地盤固結材を地盤に注入し
10 て地盤を固結する地盤改良工法であって、
該地盤固結材は以下の組成、
1.水ガラス
1)水ガラスのモル比:1.68~2.31
2)水ガラスの配合液中の SiO₂含有量:2.9~11.7w/v%
15 3)水ガラス配合量(40L~160L)/400L
2.微粒子スラグと地盤固結材としての懸濁液 400L当りの配合量
1)微粒子スラグ:ブレーン値 4000~20000 ㎠/g、平均粒径 2 ㎛~10 ㎛
2)配合量(50kg~150kg)/400L
からなり、
20 該地盤固結材の流動性は、⑴ 浸透性を保持する過程と、⑵ その後急
激に浸透性が低下して疑塑性状態になる過程と、⑶ その後疑塑性状態を
保持する過程と、⑷ 疑塑性が失われて固結状態になる過程とからなり、
該地盤固結材は、浸透性を経て、疑塑性を呈し、疑塑性を経て、静止し
て後、固化するものであり、注入完了後固化する地盤改良工法」
25 (相違点1)
「本件訂正発明1は、「1次ゲル化」及び「2次ゲル化」について、『該
地盤固結材は、浸透性を経て、疑塑性を呈する1次ゲル化と、疑塑性を経
て、静止して後、固化する2次ゲル化を呈するものであり、1)疑塑性と
は、土粒子間浸透する浸透性を有する状態から、急激に流動性が低下する
1次ゲル化の後、土粒子間浸透はしないが、攪拌すれば流動性を有する状
5 態を保持するが最終的に攪拌しても流動性が回復しなくなる2次ゲル化ま
での流動性をいう。2)1次ゲル化とは、土粒子間浸透する浸透性を有す
る状態から、急激に流動性が低下し、Pロート法でPロートにゲルが付着
しはじめる状態となることをいう。1次ゲル化に到るまでの時間を1次ゲ
ルタイム(GT1)という。3)2次ゲル化とは、1次ゲル化後疑塑性を呈
10 して、粘性は低下するか、低下しないままか、やや増加するか、低下して
も、その粘性はPロート法で1次ゲル化までの粘性以上、並びに粘度計で
1次ゲル化までの粘度以上であって、攪拌を停止した後は流動性が回復し
ない固化した状態となることをいう。1次ゲル化後、2次ゲル化を呈する
までの時間を2次ゲルタイム(GT2)という。 と定義されているのに対し、

15 引用発明は、地盤注入用薬液が固結するまでの過程で、
「疑塑性」に相当す
る状態を経由するものであるが、
「1次ゲル化」及び「2次ゲル化」を呈す
るとの特定がされていない点」
(相違点2)
「本件訂正発明1は『該地盤固結材の地盤への注入は、先行する浸透性
20 を保持する地盤固結材が疑塑性に到った領域を後続する浸透性を保持す
る地盤固結材が乗り越えるか破ることを繰り返して注入領域を拡大して、
注入完了後固化する過程を経るものとし、1次ゲル化に到る時間以上の時
間をかけて所定量地盤に注入』するのに対し、引用発明は、前記したよう
な注入を行うことは特定されていない点」
25 イ 相違点の容易想到性
(ア) 相違点1については、本件訂正発明1における「1次ゲル化」 「2
及び
次ゲル化」の定義は、引用発明でも生じている現象に特許権者が特定の
名称を付したものであり、そのことで特段の技術的意義が生じるもので
はないから、相違点1は、実質的な相違点でないか、当業者が適宜なし
得たことである。
5 (イ) 相違点2については、文献(甲5文献〔米倉亮三・島田俊介「薬液注
入の長期耐久性と恒久グラウト本設注入工法の設計施工―環境保全型液
状化対策工と品質管理―」平成28年10月31日発行〕、甲6文献〔財
団法人沿岸技術センター 沿岸技術ライブラリーNo.33「浸透固化処理工
法技術マニュアル」(改訂版)平成20年10月発行〕、甲9文献〔特開
10 2018-193550号公報、平成30年12月6日公開〕)には「マ
グマアクション法」や「注入時間よりも土中ゲル化時間を短く」するな
どの記載があり、引用発明においても、注入対象以外の領域や用水への
流入を抑えるために、マグマアクション法のような注入方法を採用する
ことは、当業者が試みようとすることであるから、引用発明において、
15 マグマアクション法を実現するために、地盤固結材の地盤への注入につ
いて、
「ゲルタイム」ないしは「土中ゲル化時間(GTso)」以上の時間を
かけて地盤に注入するようにすることは、当業者が容易になし得たこと
である。
そして、甲6文献記載の「ゲルタイム」、甲9文献記載の「土中ゲル化
20 時間(GTso)」は、本件訂正発明1の定義する「1次ゲル化に到る時間」
と同等又はより硬化が進んだ状態に対応する時間と考えられるから、引
用発明において、地盤固結材の地盤への注入につき、土中ゲル化時間
(GTso)以上の時間をかけて地盤に注入するようにした場合は、本件訂
正発明1の「1次ゲル化に到る時間以上の時間をかけて所定量地盤に注
25 入」するとの構成に至る。
また、引用発明の「地盤注入用薬液」が「比較的長時間のゲル化時間
の調整が容易であり、しかもゲル化に至るまで低粘性を保つため浸透性
に優れ、このため、特に砂質土等の透水地盤への注入に適した」という
性質を有し、甲5文献の「活性複合シリカ」の「浸透ゲル化特性」や甲
9文献の「シリカグラウト」の「浸透固結する」という性質と共通する
5 ことを考慮すれば、本件訂正発明1の「注入範囲外への逸脱を低減しな
がら大径の固結径を有する地盤改良工法を可能とした」という効果は、
引用発明並びに甲5文献及び甲9文献に記載された事項から予測可能な
範囲である。
ウ よって、本件訂正発明1は、引用発明並びに甲5文献、甲6文献及び甲
10 9文献に記載された技術事項に基づき、当業者が容易に発明することがで
きたものである。
⑶ 本件訂正発明2の進歩性の有無
ア 本件訂正発明2と引用発明の一致点及び相違点
(一致点、相違点1、相違点2)
15 前記⑵アの一致点、相違点1、相違点2と同じ。
(相違点3)
「本件訂正発明2は、
「地盤固結材は、以下の1次ゲルタイムと2次ゲル
タイムとからなる流動特性と固化特性を呈する」
「流動特性:1)1次ゲル
タイム(GT1)
:10 分以上(20℃) ただし、
。 1次ゲルタイムとは、配合後、
20 Pロート法でPロートにゲルが付着し始めた時点である前記1次ゲル化
に至るまでの時間(流動性低下開始時間)をいう。また、1次ゲルタイム
までの時間を浸透性保持時間(T1)とし、その粘度はPロート法で10秒
以下、または、ならびに粘度計で 10mPa・s 以下を呈するものとする。2)
2次ゲルタイム(GT2)
:10 分以上(20℃) ただし、
。 2次ゲルタイムとは、
25 1次ゲルタイム後、疑塑性状態を呈して、その粘性はPロート法で1次ゲ
ルタイム以上並びに、または粘度計で1次ゲルタイムまでの粘性以上を呈
し、最終的に攪拌しても流動性を回復せず固化に至る、すなわち前記1次
ゲル化後、前記2次ゲル化に至るまでの時間をいう。 と特定されているの

に対し、引用発明は、そのような特定がされていない点」
イ 相違点の容易想到性
5 相違点1及び相違点2については、前記⑵イのとおり、当業者が容易に
なし得たことである。相違点3については、本件訂正発明2における「1
次ゲルタイム」及び「2次ゲルタイム」の特定は、引用発明でも生じてい
る現象に特許権者が特定の名称を付したものであり、名称を付したことで
特段の技術的意義が生じるものではないから、相違点3は、実質的な相違
10 点でないか、当業者が適宜なし得たことである。
ウ よって、本件訂正発明2は、引用発明並びに甲5文献、甲6文献及び甲
9文献に記載された技術事項に基づき、当業者が容易に発明することがで
きたものである。
⑷ 本件訂正発明4の進歩性の有無
15 ア 本件訂正発明4と引用発明の一致点及び相違点
(一致点、相違点1、相違点2)
前記⑵アの一致点、相違点1、相違点2と同じ。
(相違点4)
「本件訂正発明4は、
「該地盤固結材の注入は所定の注入領域において1
20 ステージ当たりの注入量の注入時間よりも短い1次ゲルタイムの地盤固
結材を注入することにより、先行する地盤固結材が疑塑性に至ったゲル化
領域を乗り越えて後続する地盤固結材がその領域外に流出して浸透範囲
を拡大することを繰り返すことによって所定領域外への逸脱を低減しな
がら固結領域を拡大する」
「地盤改良工法。「ここで、1ステージとは、地

25 盤中に設置した注入管から注入されるものとし、該注入管の1つの注入口
が受け持つ注入深度における注入対象長をいう。」と特定されているのに
対し、引用発明は、前記したような注入を行うことは特定されていない点」
イ 相違点の容易想到性
相違点1及び相違点2については、前記⑵イのとおり、当業者が容易に
なし得たことである。相違点4については、本件訂正発明4は、マグマア
5 クション法における「地盤固結材の地盤への注入」を「1ステージ」に限
定し定義したものと解され、前記⑵イのとおり、引用発明において、マグ
マアクション法で注入するにあたり、1ステージ当たりの注入量の注入時
間よりも短い土中ゲル化時間(GTso)の「地盤注入用薬液」を注入するよ
うにすることは、当業者が容易になし得たことであり、これにより相違点
10 4の構成に至ることになる。
ウ よって、本件訂正発明4は、引用発明並びに甲5文献、甲6文献及び甲
9文献に記載された技術事項に基づき、当業者が容易に発明することがで
きたものである。
⑸ 本件訂正発明5の進歩性の有無
15 ア 本件訂正発明5と引用発明の一致点及び相違点
(一致点、相違点1、相違点2)
前記⑵アの一致点、相違点1、相違点2と同じ。
(相違点5)
「本件訂正発明5は「1ステージ当たりの注入量をV、Vを注入するに
20 要する注入時間T、該地盤固結材の1次ゲルタイムをGT1とすると、該
地盤固結材の注入はTよりも短い1次ゲルタイムで連続注入して1ステ
ージ当たりの注入量Vを注入するものとし、該地盤固結材の注入は、先行
する地盤固結材による疑塑性領域を後続の地盤固結材が乗越えてその外
側に浸透することを連続的に繰り返して、1ステージ当たり注入量を注入
25 して完了する」と特定されているのに対し、引用発明は、前記したような
注入を行うことは特定されていない点」
イ 相違点の容易想到性
相違点1及び相違点2については、前記⑵イのとおり、当業者が容易に
なし得たことである。相違点5については、本件訂正発明5は、マグマア
クション法における「地盤固結材の地盤への注入」を、
「1ステージ当たり
5 の注入量を V」とし「V を注入するに要する時間 T」とすることを限定し
たものと解され、前記⑵イのとおり、引用発明において、マグマアクショ
ン法で注入するにあたり、1ステージ当たりの注入量 V を、その注入時間
よりも短い土中ゲル化時間(GTso)の「地盤注入用薬液」で行うことは、
当業者が容易になし得たことであり、これにより相違点5の構成に至るこ
10 とになる。
ウ よって、本件訂正発明5は、引用発明並びに甲5文献、甲6文献及び甲
9文献に記載された技術事項に基づき、当業者が容易に発明することがで
きたものである。
⑹ 本件訂正発明6の進歩性の有無
15 ア 本件訂正発明6と引用発明の一致点及び相違点
(一致点、相違点1、相違点2)
前記⑵アの一致点、相違点1、相違点2と同じ。
(相違点6)
「本件訂正発明6は、
「地盤固結材は⑴ 水ガラス量、⑵ 水ガラスのモ
20 ル比、⑶ スラグ配合量、⑷ スラグの比表面積によって、ゲルタイム、
浸透性、強度、ブリージングのいずれか或いは複数を調整する」のに対し、
引用発明は、そのような特定がされていない点」
イ 相違点の容易想到性
相違点1及び相違点2については、前記⑵イのとおり、当業者が容易に
25 なし得たことである。相違点6については、甲1文献の記載(段落【00
56】の表5等)には、水ガラスの量、水ガラスのモル比、スラグ配合量、
スラグの比表面積を変えることにより、ゲル化時間や強度が変化すること
が記載されているから、これらの結果に基づいてゲル化時間や強度を調整
することは、当業者が容易になし得たことである。
ウ よって、本件訂正発明6は、引用発明並びに甲1文献、甲5文献、甲6
5 文献及び甲9文献に記載された技術事項に基づき、当業者が容易に発明す
ることができたものである。
⑺ 本件訂正発明7の進歩性の有無
ア 本件訂正発明7と引用発明の一致点及び相違点
(一致点、相違点1、相違点2)
10 前記⑵アの一致点、相違点1、相違点2と同じ。
(相違点7)
「本件訂正発明7は、
「前記地盤固結材はセメント、石膏、消石灰、ポゾ
ラン、粘土、酸、アルカリ、塩、のいずれかまたは複数種を加えることに
よってゲル化や強度の調整を行う」と特定されているのに対し、引用発明
15 は、そのような特定がされていない点」
イ 相違点の容易想到性
相違点1及び相違点2については、前記⑵イのとおり、当業者が容易に
なし得たことである。相違点7については、甲1文献の記載(段落【00
81】)には、「水ガラス―スラグからなる上記の系をベースとして、これ
20 にセメント、石灰類」
「またはカルシウム溶出量調整剤を添加混合すること
により、注入対象地盤に最も適合するようにゲル化時間、浸透性、固結強
度の調整をはかることができる」ことが記載されているから、当業者が容
易になし得たことである。
ウ よって、本件訂正発明7は、引用発明並びに甲1文献、甲5文献、甲6
25 文献及び甲9文献に記載された技術事項に基づき、当業者が容易に発明す
ることができたものである。
第3 取消事由についての当事者の主張
1 取消事由1(引用発明に基づく本件訂正発明1の進歩性の判断の誤り)
(原告の主張)
⑴ 相違点1に関する判断の誤り
5 相違点1は、相違点2に記載された注入条件と切り離して判断し得る事項
ではない。
⑵ 相違点2に関する甲5文献、甲6文献及び甲9文献に記載された技術事項
の認定の誤り
ア 本件訂正発明1と、甲5文献、甲6文献及び甲9文献の技術事項とは、
10 全く異なる原理によるものであり、前者の「1次ゲルタイム」と後者の「ゲ
ルタイム」とは異なる。
イ 本件訂正発明1は、懸濁型グラウトそのものの反応、すなわち、低モル
比の水ガラス中のアルカリによるスラグの水硬性の発現による反応が進
行することによる。
「1次ゲルタイム」は、注入材そのもののゲルタイムで
15 あり、注入地盤の pH と関係なく設定することができる。先行グラウトが
1次ゲルタイムに至った後も、疑塑性領域において土粒子間浸透はしない
が攪拌すれば流動性を有する状態を保持する特性にあり、後続するグラウ
トが、先行するグラウトを乗り越えて浸透領域を拡大し、2次ゲルタイム
経過後も、1次ゲルタイムの浸透領域と同様の十分な強度が保たれる。本
20 件訂正発明1では、特定の配合の懸濁型グラウトについて、1次ゲル化後
の疑塑性状態を狙って注入を繰り返すものである。
他方、甲5文献、甲6文献及び甲9文献の技術事項は、溶液型シリカグ
ラウトの反応、すなわち、酸性シリカ溶液の土との接触部の pH が中性側
に移行してゲル化が進行する反応によるものであり、注入液はこれを乗り
25 越えながら固結領域が拡大する(マグマアクション法) 注入液そのものの

ゲルタイムは数時間~十数時間であるが、地盤固結での薬液の「ゲルタイ
ム」は、地盤中に注入された状態の土中ゲルタイムが測定される。ゲル化
が始まると粘性が急激に上昇し、疑塑性に相当する状態はないため、ゲル
化した後に攪拌すると、固化が進んだものを無理に攪拌することになり、
十分な強度が出ない。
5 ⑶ 本件訂正発明1の容易想到性の判断の誤り
本件訂正発明1は、浸透可能なゲル化時間を1次ゲルタイムと定義し、そ
れよりも長い時間をかけて注入することを繰り返し、固結時間を拡大する。
他方、主引用例(甲1)には、本件訂正発明1の地盤固結材の配合と重複
する配合の記載はあるものの、本件訂正発明1における1次ゲル化時間の記
10 載はなく、1次ゲル化時間の概念やその機能、効果等の記載もない。
甲5文献、甲6文献及び甲9文献にも、本件訂正発明1の1次ゲル化、2
次ゲル化に関する記載やこれを示唆する記載はない。甲5文献及び甲9文献
にはマグマアクションの記載があるが、これは、地盤固結材の注入において、
そのような現象が生じ得ることを述べるにとどまり、特定の配合条件におい
15 て必ず生じるという再現性又は反復実施可能性のある注入条件を示すもので
はない。甲5文献、甲6文献及び甲9文献の技術事項は、溶液型シリカグラ
ウトに関するものであり、本件訂正発明1とは原理が異なる。
したがって、引用発明に甲5文献、甲6文献及び甲9文献の技術事項を組
み合わせて、本件訂正発明1の構成が得られるものではなく、その効果が予
20 測可能というものでもないから、当業者が容易に想到し得る発明ではない。
⑷ 被告が指摘する甲9文献の記載(段落【0210】)及び請求項26、27
は「注入管理方法」に関するものであり、溶液型グラウトについて説明し、
付加的に同様の管理手法が懸濁型グラウトにも適用できる旨を記載している
だけである。具体的に懸濁グラウトの配合や注入の手順を述べた記載はなく、
25 マグマアクション法との関連や本件訂正発明1の構成を示唆する記載はない。
(被告の主張)
⑴ 相違点1について
本件決定の相違点1の判断は、相違点2で判断される「1次ゲル化に到る
時間以上の時間」の中の「1次ゲル化」で定義される状態が引用発明でも生
じている現象であることを説明したもので、相違点2及び注入条件と無関係
5 に判断したものではなく、しかも、相違点2で「1次ゲル化に到る時間以上
の時間」についても判断しているから、相違点の判断に遺漏はない。
⑵ 相違点2について
ア 本件決定は、本件訂正発明1の「1次ゲルタイム」と甲5文献、甲6文
献及び甲9文献の技術事項の「ゲルタイム」が同じとは判断しておらず、
10 後者は、前者の「1次ゲル化に到る時間」と同等か、それよりもより硬化
が進んだ状態に対応する時間と考えられることを根拠に、引用発明におけ
る地盤固結材の地盤への注入を、土中ゲル化時間(GTso)以上の時間をか
けて地盤に注入するようにした場合は、本件訂正発明1の「1次ゲル化に
到る時間以上の時間をかけて所定量地盤に注入」するとの特定事項に至る
15 ものと判断したものである。
イ 本件訂正発明1の地盤固結材が「懸濁型グラウト」であり、甲5文献、
甲6文献及び甲9文献の技術事項が「溶液型グラウト」であるとしても、
後者のマグマアクション法は、
「ゲル化しかかった状態」の時に後続の地盤
固結材が突き破るか乗り越えるかするのであり、「ゲル化しかかった状態」
20 を経てゲル化、固化した後は、最終的には十分な強度となるから、本件訂
正発明1につき十分な強度が保たれることは、前記マグマアクション法か
ら予測し得る効果にすぎない。
本件訂正発明1と甲5文献、甲6文献及び甲9文献の技術事項における
固化に至る原理は、スラグの水硬性か、地盤の pH か、で異なるだけで、
25 「ゲル化しかかった状態」の時に後続の地盤固結材がそれを乗り越えなが
ら注入領域を拡大し固結するという原理、メカニズムは同じである。仮に
原理的に異なる点があるとしても、甲9文献(特許請求の範囲請求項26、
27、明細書段落【0210】図17)には、マグマアクション法を含む
地盤注入工法において、「シリカ注入液」(溶液型グラウト)と「シリカを
含有する懸濁型注入液」
(懸濁型グラウト)とは同様に用い得ることが記載
5 されているから、マグマアクション法のメカニズムを理解した当業者であ
れば、甲5文献、甲6文献及び甲9文献の技術事項を、懸濁型グラウトで
ある引用発明に適用することに格別の困難性はない。
ウ 甲9文献の技術では、グラウトの注入時間を、土中ゲル化時間よりも長
い時間とすることで、グラウトが「ゲル化しかかった状態」を突き破るか
10 乗り越えて浸透領域を拡大し固結するというマグマアクションを生じさ
せる。また、本件訂正発明1においても、1次ゲル化に到る時間以上の時
間という幅のある時間注入を続けることで注入領域の拡大が生じる。よっ
て、疑塑性を呈するまでのゲルタイムである「1次ゲルタイム」に技術的
意義はない。
15 そして、引用発明の地盤注入用薬液の配合が、本件訂正発明1の地盤固
結材の配合と重複し、甲5文献、甲6文献及び甲9文献から、当業者は、
前記のマグマアクションのメカニズムを理解することができる上、甲9文
献には、溶液型グラウトと懸濁型グラウトとは、同様に用い得るものとさ
れているから、懸濁型グラウトに係る発明である引用発明においても、ゲ
20 ル化時間以上の注入を続けることでマグマアクションを生じさせること
は、当業者が容易になし得たことである。また、本件訂正発明1の注入範
囲外への逸脱を低減しながら大径の固結径を有する地盤改良工法を可能
としたとの効果も、引用発明並びに甲5文献及び甲9文献の技術事項から
予測可能な範囲のものである。
25 2 取消事由2(引用発明に基づく本件訂正発明2の進歩性の判断の誤り)
(原告の主張)
⑴ 相違点1及び相違点2に関する判断の誤りは、前記1(原告の主張)のと
おりである。
⑵ 相違点3に関する判断の誤り
引用発明には、本件訂正発明2におけるように「1次ゲル化」
「疑塑性」
「2
5 次ゲル化」の状態に合わせて繰り返し行われる注入のタイミングを調整する
という考え方は存在しないから、本件訂正発明2に特段の技術的意義が生じ
るものとはいえないとする本件決定の判断は誤りである。
また、甲5文献及び甲9文献には、マグマアクション法が記載されている
が、特定の配合条件においてこれが必ず生じるという再現性又は反復実施可
10 能性のある注入条件を示すものではない。
したがって、引用発明に甲5文献、甲6文献及び甲9文献の技術事項を組
み合わせて、本件訂正発明2の構成が得られるものではなく、その効果が予
測可能というものでもないから、当業者が容易に想到し得る発明ではない。
(被告の主張)
15 ⑴ 相違点1及び相違点2に関する反論は、前記1(被告の主張)のとおりで
ある。
⑵ 相違点3について
引用発明の地盤注入用薬液において、固結するまでの過程で1次ゲル化及
び2次ゲル化の状態を経由することに争いはない。また、本件訂正発明2に
20 は、繰り返し行われる注入のタイミングを調整するとの特定はされていない
から、原告の同主張は本件訂正発明2の特定事項と無関係である。
甲9文献の技術事項であるマグマアクションのメカニズムは理解すること
ができるものであり、特定の配合条件である場合に限ってマグマアクション
が生じることが記載されているものではないから、引用発明において甲5文
25 献、甲6文献及び甲9文献の技術事項であるマグマアクションを生じさせる
ことは当業者が容易になし得たことである。
3 取消事由3(引用発明に基づく本件訂正発明4の進歩性の判断の誤り)
(原告の主張)
⑴ 相違点1及び相違点2に関する判断の誤りは、前記1(原告の主張)のと
おりである。
5 ⑵ 相違点4に関する判断の誤り
本件訂正発明4では、1ステージ当たりの注入量は、注入孔間隔、1本当
たり受持面積、1ステージ長、1ステージ受持工量、注入速度等によって異
なっており、この1ステージ当たりの注入量に対して、容量100~200
L のミキサー中に配合される注入液の1次ゲルタイムの注入時間の注入量を
10 何回も連続的に配合して注入することにより、所定量を注入し所定量の固結
体を形成することにしている。これは、引用発明において1ステージ当たり
の注入量の注入時間よりも短い土中ゲル化時間(GTso) 「地盤注入用薬液」

を注入するようにすることとは全く異なる技術事項である。また、甲5文献
及び甲6文献のゲルタイムは、土中ゲルタイムであり、本件訂正発明4の1
15 次ゲルタイムとも異なる。
したがって、引用発明に甲5文献、甲6文献及び甲9文献の技術事項を組
み合わせて、本件訂正発明4の構成が得られるものではなく、その効果が予
測可能というものでもないから、当業者が容易に想到し得る発明ではない。
(被告の主張)
20 ⑴ 相違点1及び相違点2に関する反論は、前記1(被告の主張)のとおりで
ある。
⑵ 相違点4について
甲5文献、甲6文献及び甲9文献の技術事項であるマグマアクション法の
メカニズムを理解すれば、引用発明においても、注入管の一つの注入口が受
25 け持つ注入深度における注入時間よりも、土中ゲル化時間(GTso)を短くす
ることで、マグマアクションが生じることを類推することができるので、引
用発明並びに甲5文献、甲6文献及び甲9文献の技術事項に基づいて本件訂
正発明4の構成を想到することは、当業者が容易になし得たことである。
4 取消事由4(引用発明に基づく本件訂正発明5の進歩性の判断の誤り)
(原告の主張)
5 ⑴ 相違点1及び相違点2に関する判断の誤りは、前記1(原告の主張)のと
おりである。
⑵ 相違点5に関する判断の誤り
前記3(原告の主張)と同様、本件訂正発明5において、1ステージ当た
りの注入量を V、V の注入に要する注入時間を T、該地盤固結材の1次ゲル
10 タイムを GT1とすると、該地盤固結材の注入は T よりも短い1次ゲルタイ
ムで連続注入して1ステージ当たりの注入量 V を注入することは、引用発明
において、1ステージ当たりの注入量 V を、その注入時間よりも短い土中ゲ
ル化時間(GTso)の地盤注入用薬液で行うこととは、異なる技術事項である。
したがって、引用発明に甲5文献、甲6文献及び甲9文献の技術事項を組
15 み合わせて、本件訂正発明5の構成が得られるものではなく、その効果が予
測可能というものでもないから、当業者が容易に想到し得る発明ではない。
(被告の主張)
⑴ 相違点1及び相違点2に関する反論は、前記1(被告の主張)のとおりで
ある。
20 ⑵ 相違点5について
甲5文献、甲6文献及び甲9文献の技術事項であるマグマアクション法の
メカニズムを理解すれば、引用発明においても、注入量がVである1ステー
ジの注入を行う場合に、1ステージ当たりの注入量の注入時間よりも短い土
中ゲル化時間の地盤固結材を注入することにより、マグマアクションが生じ
25 ることを類推できるので、引用発明並びに甲5文献、甲6文献及び甲9文献
の技術事項に基づいて本件訂正発明5の構成を想到することは、当業者が容
易になし得たことである。
5 取消事由5(引用発明に基づく本件訂正発明6及び7の進歩性の判断の誤り)
(原告の主張)
本件訂正発明6及び7は、本件訂正発明1の全ての構成要件を備えた発明で
5 あり、前記1(原告の主張)のとおり、本件訂正発明1に係る本件決定の判断
に誤りがあるから、本件訂正発明6及び7に係る本件決定の判断にも誤りがあ
る。
(被告の主張)
前記1(被告の主張)のとおり、本件訂正発明1に係る本件決定の判断に誤
10 りはない。したがって、本件訂正発明6及び7も、当業者が容易に発明をする
ことができたものである。
第4 当裁判所の判断
1 当裁判所は、本件各訂正発明について進歩性を否定した本件決定の判断には
誤りがあり、本件訂正発明1は、引用発明並びに甲5文献、甲6文献及び甲9
15 文献により容易に発明することができたものと認めることはできず、本件訂正
発明1の発明特定事項を引用しているその余の本件各訂正発明についても同様
であり、原告の主張する取消事由には理由があるから、本件決定を取り消すの
が相当と判断する。
その理由は、以下のとおりである。
20 2 本件各訂正発明について
本件特許に係る明細書(本件訂正後のもの)の発明の詳細な説明等(特許第
6961270号、甲10)の記載によれば、本件各訂正発明の概要等は、次
のとおりである。
⑴ 本件各訂正発明は、水ガラスと微粒子スラグを有効成分とする懸濁液を地
25 盤に注入して、大径の高強度固結体を形成することを目的とする地盤固結材
および地盤改良工法に関するものである(【0001】。以下、特に断らない
限り、【 】内の番号は、本件特許に係る明細書の段落番号を表す。 。

⑵ 従来から、セメント系注入液の高圧噴射によって地盤に高強度固結体を形
成する高圧噴射工法が用いられ、この工法は、その結果多量の排土を生じる
欠点があったため、現存する土はそのままで大きな土粒子の間隙に固化材を
5 注入し固結体を形成することができる技術が望まれた(【0002】【000
3】 。また、従来、微粒子化したセメント又はスラグ系セメントを地盤に注

入して高強度を得る地盤改良工法もあったが、一体化した大きな固結体の形
成は困難であり 【0004】 、
( ) 水ガラスとセメントを混合した懸濁液グラウ
トや、水ガラスに消石灰とスラグを混合したグラウトなどの技術でも、低粘
10 度で長いゲル化時間が可能で強度が大きいという条件を同時に満たすことは
できなかった(【0005】~【0009】 。

従来の懸濁型グラウトを土砂地盤に注入して大きな固結径の固結体を形
成することが困難なのは、① 長いゲルタイムで低粘度の大きな強度を同時
に得ることが困難である、② ブリーディングが大きく地盤中で配合液と懸
15 濁物が分離するため懸濁物の固結分同士が連ならず一体化した固結体が得ら
れにくい、③ 懸濁物を微細微粒子化しても電気的に再集合して目詰まりを
起こし広範囲を固結しない、④ 注入孔間隔を大きくし大きな1ステージ当
たりの注入量を低圧で注入して大径の固結体を形成できるだけの浸透固結性
を得ることが困難である、などの特性によるものであった(【0019】 。

20 ⑶ 本件各訂正発明は、以上の課題の解決を図ったものであり、水ガラスと微
粒子スラグを有効成分とする懸濁液を地盤に注入して、大径の高強度固結体
を形成することができる地盤固結材および地盤改良工法を提供することを目
的とする(【0020】 。

当該地盤固結材は、モル比が 1.5~2.8 の範囲にある水ガラスと比表面積が
25 4000 ㎠/g~20000 ㎠/gの微粒子スラグを有効成分とする懸濁液を地盤に注
入して地盤を固結する地盤固結材であり、当該懸濁液の流動性は、① 浸透
性を保持する過程と、② その後急激に浸透性が低下して疑塑性状態になる
過程と、③ その後疑塑性状態を保持する過程と、④ 疑塑性が失われて固
結状態になる過程とからなることを特徴とする 【0021】 。
( ) 地盤に注入さ
れた懸濁液は、先行する浸透性を保持する懸濁液がゲル化に到って流動性が
5 低減して疑塑性ゾーンを形成しながら、後続する浸透性を保持する懸濁液が
該疑塑性ゾーンを乗り換えて浸透範囲を拡大してのち、疑塑性ゾーンを形成
することを繰り返して固結領域を拡大することができる【0027】 。
( ) また、
当該地盤改良工法は、上記地盤固結材としての懸濁液を地盤に注入して地盤
を固結することを特徴とするものであり、当該懸濁液の流動性は、浸透性を
10 経て疑塑性を呈する1次ゲル化と、1次ゲル化と疑塑性を経て固化する2次
ゲル化を呈するものとし、該懸濁液の地盤への注入は該1次ゲル化に到る時
間以上の時間をかけて地盤に注入することができる 【0031】 0033】 。
( 【 )
本件各訂正発明により、低モル比水ガラスと微粒子スラグを用いた1次ゲ
ルタイムと2次ゲルタイムを有する懸濁型グラウトを発明し、その特性を地
15 盤注入に用いることで、注入範囲外への逸脱を低減しながら大径の固結径を
有する地盤改良工法が可能となり、また、ブリーディングが少なく、かつそ
の上澄み液はシリカ溶液分がゲル化するため、微粒子スラグの固結分同士が
連結し、固結体が一体化した地盤改良が可能となった(【0042】【004
3】 。本件各訂正発明に係る懸濁液の強度は、スラグの含有量によって一義

20 的に定まる(【0044】 。

⑷ 本件各訂正発明の懸濁型グラウトでは、低モル比シリカ溶液中のアルカリ
分が微粒子スラグの潜在水硬性を刺激して固化するとともに、低モル比シリ
カ溶液のシリカ分が微粒子スラグのカルシウム分と反応してゲル化するため、
土砂中においてスラグによる固結部分の間をシリカのゲルが連結することに
25 より一体化した固結体が形成される。また、本懸濁液は、スラグの粒径のみ
に頼ることなくシリカ溶液も地盤の固結にあずかるため、セメントやスラグ
を電気的に再凝集するほど微粒子化する必要がない。さらに、長いゲル化時
間を示すゲル化機能とシリカ溶液による土粒子間への潤滑性により、スラグ
がシリカ溶液とともに浸透するため、微粒子セメント系等より浸透性に優れ
る(【0048】~【0050】 。

5 本件各訂正発明では、上記懸濁グラウトが十分長い時間ほぼ一定の粘度の
浸透性を保持してのち、急激に粘度が上がって浸透性が低下する疑塑性を呈
し、この1次ゲルタイムとそのあと疑塑性を保持する流動特性を経て、攪拌
しても再流動しない固化状態に至るまでの2次ゲルタイムを発現することが
見出された。この疑塑性を発現したあとの十分長い時間では、力を加えれば
10 (攪拌すれば)流動するという特性があるところから、本懸濁液を地盤に注
入した場合、先行する懸濁液による疑塑性保持時間における疑塑性ゾーンを、
後続する浸透性懸濁液が乗り越えて、その外側に浸透する過程を繰り返すこ
とによって、大径の固結体を形成することが見出され、本件各訂正発明が完
成した(【0057】【0058】 。
) (表5)
15 ⑸ 本件各訂正発明
の実施形態である
JIS
実験では、 規格
の水ガラスを基
に、水ガラスA(モ
20 ル比 2.08)、水ガラスB(モル比 2.02)、水ガラスC(モル比 2.47)及び水ガ
ラスD(モル比 3.20)(表5)と、NaOH を添加してモル比を調整したもの
を用い、スラグ(水砕スラグ、成分組成 SiO₂:33.02%、CaO:41.94%、Al₂
O₃:12.83%、MgO:8.61%、Fe₂O₃:0.37%を粉砕したもの)の量を変化さ
せた配合を用いた(表9) (
。 【0081】~【0085】 【0094】
、 【00
25 95】 。

(表9)

配合液のゲルタイムの試験では、Pロート法によるゲルタイムを、配合液
25 の粘性が急激に変化し始めた時であるPロートの容器壁口にゲルが付き始め
た時点とし、配合後この時点までの時間を1次ゲルタイムとした。そして、
懸濁液をポリジョッキ内でゆっくり攪拌し、懸濁液が流動状態にあるよう操
作してPロート内に注ぎ込み流下時間の測定を繰り返した(【0090】【0
096】 。

試験の結果、配合後、時間経過に伴う流下時間はほぼ一定値を示している
5 が、ある時点でスラグが凝集しはじめ、流下時間も急に長くなり、その時か
ら懸濁液が漏斗壁面に付着するようになった(1次ゲルタイム) ピークに達

して後、流下時間は短くなり、時間をかけ少しずつ長くなるか、ほぼ一定の
値を示すなどした。ピークに達して後、流下時間が短くなっても、ピークに
なり始める前より短くなることはなかった(図4)(段落【0097】【00
10 98】 。

(図4)
上記試験から、当懸濁 (表10)
液はある時点で粘性が
急激に上昇し疑塑性に
至り、その後固化に至
5 る性状であることがわ
かった。1次ゲル化後
継続して撹拌し、粘性
を計測したが、徐々に
粘性が低下し、1次ゲ
10 ル化後1時間以降はほ
ぼ同じ流下時間とな
り、配合 No.29 では攪
拌継続最長 7 時間経過
しても再ゲル化(再ピ
15 ーク時を生ずる現象)
がみられなかったが、
静置したらその後固化
して攪拌は不能になっ
た(2次ゲルタイム)。他の配合でも 300 分程度経過しても粘性が一定値を
20 示したため、攪拌を止めてその後固化することを確認した。スラグ配合量と
モル比が変動しても1次ゲルタイムはほぼ変わらなかった。しかし、配合
No.32~34 のように水ガラス量を減らすと1次ゲルタイムが急激に長くなり、
ブリーディングの量も増加した。(表10) 【0099】~【0102】 。
( )
本件各訂正発明の懸濁液の特異な流動性の特性は、攪拌法により浸透流動
25 性(Pロート流下時間が短い)が続いてから急激に低流動性(Pロート流下
時間が長い)になりはじめ、疑塑性を呈するその時点を1次ゲルタイムとし、
ピーク後流動性が低下して疑塑性流動を持続する。その後、攪拌を停止する
と力を加えても(攪拌しても)流動性がなくなる時点(2次ゲルタイム)に
至る。1次ゲルタイムの間で注入すれば充分な浸透性が得られ、注入後のブ
リーディングも少なく、所定の強度が得られる。また、先行注入液が1次ゲ
5 ルタイムに至った後も後続の浸透性のある注入液は1次ゲルタイムに至った
疑塑性領域を乗り越えて浸透して疑塑性状態に至ることを繰り返す。所定注
入量注入した後、時間と共に全体が固化する。疑塑性領域においても1次ゲ
ルタイムの浸透領域と同様の十分な強度を保たれる(図10) 【0118】

~【0120】 。

10 (図10)
3 取消事由1(引用発明に基づく本件訂正発明1の進歩性の判断の誤り)につ
いて
⑴ 本件訂正発明1
本件訂正発明1は、前記第2の3のとおり、本件特許の特許請求の範囲請
求項1に記載された発明である。
⑵ 甲1文献の記載事項
5 ア 甲1文献は、平成7年6月27日公開された発明の名称を「地盤注入用
薬液」とする特許出願の公開公報(特開平7-166163号公報)であ
るところ、甲1文献には、次の記載がある。
イ 本発明は高強度の固結体を得るとともに、広範囲にわたるゲル化時間、
特に比較的長時間のゲル化時間の調整が容易であり、しかもゲル化に到る
10 まで低粘性を保つため浸透性に優れ、このため、特に砂質土等の透水地盤
への注入に適した地盤注入用薬液に関する(甲1文献の段落【0001】。
以下、甲1文献の段落は「甲1【 】」と表記する。 。

発明の実施例において、使用された材料は、水ガラスは、表1に示すモ
ル比を異にした5種類の水ガラスであり、表1によれば、水ガラス No.3 は、
15 SiO2 が 27.36%、Na2O が 14.05%、モル比が 2.01 である。また、スラグ
は、SiO2:33.02%、CaO:41.94%、 2 O3:12.83%、
Al MgO:8.61%、 2O3:
Fe
0.37%の成分組成からなる水砕スラグを粉砕し、表2に示す比表面積およ
び平均粒子径を異にした4種類の水砕スラグであり、表2によれば、スラ
グ No.4 は、比表面積 10200 ㎠/g で、平均粒子径が 6.0 ㎛である(甲1【0
20 045】~【0049】 。

(表1) (表2)
水ガラス-スラグ系では、表1の水ガラスと表2のスラグからなる系に
ついてその配合とゲル化時間、粘性、一軸圧縮強度を検討すると、全量 1000
gのうち、表1の水ガラス No.3 が 292g、表2のスラグ No.4 が 125g、
水が 583gであり、水ガラスからの SiO2 が 8%であるように配合された表
5 5の実施 No.12 に示す注入液については、20℃のゲル時間が22分であ
り、2分後の粘度が 6.3CPS、20分後の粘度が 35CPS であり、その後固
結し、一軸圧縮強度が7日後には 15.5kgf/㎠、49日後には 30.0kgf/㎠で
ある。そして、表5に示された試験結果から使用水ガラスはモル比が約 1.5
~2.8、使用スラグは平均粒子径が 10 ㎛以下で、比表面積が 5000 ㎠/g以
10 上、特に 8000 ㎠/g以上のものが極めて顕著な効果を発揮していることが
わかる(甲1【0055】~【0059】。

さらに、注入装置を用いて引用発明にかかる薬液の浸透試験を行った結
果によれば、表1の水ガラス No.3(モル比 2.01)と表2のスラグ No.4
を配合した注入液の浸透性及び固結強度が最も優れていることがわかる。
15 また、この検討試験結果からは、モル比 2.8 以上の水ガラスを用いた場合、
スラグが分離するため浸透が不充分である。また、モル比が 1.5 以下の水
ガラスを用いた場合は粘性が高く、固結体上部における固結が不充分であ
る。しかし、甲1文献に記載された発明の範囲内では何れも優れた浸透結
果が得られた(甲1【0070】~【0078】 。

20 したがって、甲1文献の記載から把握可能な技術事項によれば、1.水
ガラスとスラグとからなる地盤注入用薬液において、モル比が約 1.5~2.8
の範囲内にある水ガラスと平均粒子径が約 10μm以下で比表面積が約
5000 ㎠/g以上、好ましくは約 8000 ㎠/g以上の微粒子スラグを使用する
ことにより、低粘性を保ちながら比較的長いゲル化時間を要して確実に固
25 結し、長期にわたって高強度の固結体が得られ(甲1【0084】 、2.

上記1の水ガラス-スラグの系をベースとして、これにセメント、石灰類、
中でも平均粒子径が約 10 ㎛以下で比表面積が約 5000 ㎠/g以上、さらに
好ましくは約 8000 ㎠/g以上のセメント、石灰類を混合して若干粘性は増
加するが、ゲル化時間を早めるように調整することができ、強度の増強を
はかることができ(甲1【0085】 、3.上記1の水ガラス-スラグの

5 系をベースとして、これにカルシウム溶出量調整剤を添加することにより、
強度は若干低下するが、粘性が低下してゲル化時間が遅延するよう調整す
ることができ、浸透性の向上をはかることができる(甲1【0086】)と
の効果があることが認められる。
ウ 引用発明
10 以上のほか、甲1文献に記載された実施例の内容を踏まえると、甲1文
献には、前記第2の4⑴のとおり、別紙「引用発明」記載の引用発明が記
載されているものと認められる。
⑶ 本件訂正発明1と引用発明の対比
ア 本件訂正発明1と引用発明を対比すると、一致点及び相違点は次のとお
15 りである。
(一致点)前記第2の4⑵のとおりである。すなわち、
モル比が 1.68~2.31 の範囲にある水ガラスとブレーン値が 4000 ㎠/g
~20000 ㎠/gの微粒子スラグを有効成分とする地盤固結材を地盤に注入
して地盤を固結する地盤改良工法であって、該地盤固結材は以下の組成、
20 1.水ガラス、
1)水ガラスのモル比:1.68~2.31、2)水ガラスの配合液中の SiO₂含
有量:2.9~11.7w/v%、3)水ガラス配合量(40L~160L)/400L、
2.微粒子スラグと地盤固結材としての懸濁液 400L当りの配合量、
1)微粒子スラグ:ブレーン値 4000~20000 ㎠/g、平均粒径2㎛~10
25 ㎛、2)配合量(50kg~150kg)/400L、からなり、
該地盤固結材の流動性は、⑴浸透性を保持する過程と、⑵その後急激に
浸透性が低下して疑塑性状態になる過程と、⑶その後疑塑性状態を保持す
る過程と、⑷疑塑性が失われて固結状態になる過程とからなり、該地盤固
結材は、浸透性を経て、疑塑性を呈し、疑塑性を経て、静止して後、固化
するものであり、注入完了後固化する地盤改良工法。
5 (相違点 下線は当審が付したものである。)
本件訂正発明1は、
「該地盤固結材は、浸透性を経て、疑塑性を呈する1
次ゲル化と、疑塑性を経て、静止して後、固化する2次ゲル化を呈するも
のであり、 「該地盤固結材の地盤への注入は、先行する浸透性を保持する

地盤固結材が疑塑性に到った領域を後続する浸透性を保持する地盤固結
10 材が乗り越えるか破ることを繰り返して注入領域を拡大して、注入完了後
固化する過程を経るものとし、1次ゲル化に到る時間以上の時間をかけて
所定量地盤に注入し、注入完了後固化する」地盤改良工法であり、
「ただし、
上記において1)疑塑性とは、土粒子間浸透する浸透性を有する状態から、
急激に流動性が低下する1次ゲル化の後、土粒子間浸透はしないが、攪拌
15 すれば流動性を有する状態を保持するが最終的に攪拌しても流動性が回
復しなくなる2次ゲル化までの流動性をいう。2)1次ゲル化とは、土粒
子間浸透する浸透性を有する状態から、急激に流動性が低下し、Pロート
法でPロートにゲルが付着しはじめる状態となることをいう。1次ゲル化
に到るまでの時間を1次ゲルタイム(GT1)という。3)2次ゲル化とは、
20 1次ゲル化後疑塑性を呈して、粘性は低下するか、低下しないままか、や
や増加するか、低下しても、その粘性はPロート法で1次ゲル化までの粘
性以上、並びに粘度計で1次ゲル化までの粘度以上であって、攪拌を停止
した後は流動性が回復しない固化した状態となることをいう。1次ゲル化
後、2次ゲル化を呈するまでの時間を2次ゲルタイム(GT2)という。」と
25 して特定されるものであるのに対し、引用発明では、地盤改良工法として、
注入液が、浸透性を経て、疑塑性を呈した後、静止し、固化する場合にお
ける前記下線を付したような注入条件の特定がされていない点
イ なお、被告は、前記第3の1(被告の主張)のとおり、本件決定と同様
に、本件訂正発明1と引用発明の相違点として相違点1及び相違点2を主
張するが、相違点1及び相違点2は、いずれも原告の地盤改良工法とこれ
5 に関連する注入条件として一体として理解されるものであるから、相違点
は前記アのとおり認めるのが相当である。よって、被告の主張を採用する
ことはできない。
⑷ 相違点についての判断
ア 各文献の記載事項
10 (ア) 甲5文献(米倉亮三・島田俊介「薬液注入の長期耐久性と恒久グラウ
ト本設注入工法の設計施工―環境保全型液状化対策工と品質管理―」平
成28年10月31日発行)には、 また土中に土粒子間浸透するにつれ、

土との接触部の pH が中性方向に移行するとともにゲル化が進行し(略)、
注入液はそれを乗り越えながら固結領域が拡大していく(マグマアクシ
15 ョン法)(図 6.1.5、写真 6.1.1…)。このため地下水はほぼ中性領域を保
つ(略)。このような浸透ゲル化特性により、注入対象以外の領域や用水
への流入を抑える施工法を用いている。活性シリカコロイドをベースに
して小さなシリカを複合した活性複合シリカコロイドは、シリカの配合
濃度を調整することにより早い強度発現で低強度から高強度までの地盤
20 強化が可能になり、今後の巨大地震対策や大深度地盤強化に適用可能で
ある(略)」
。 (106頁、107頁)との記載等があり、「活性シリカコ
ロイドをベースにして小さなシリカを複合した活性複合シリカコロイド」
「土粒子間に浸透するにつれ、土との接触部の pH が中性方
の注入材は、
向に移行するとともにゲル化が進行し」注入表面に中性の薄膜(擬ゲル
25 膜)ができ(図 6.1.5)「注入液はそれを乗り越えながら固結領域が拡大

していく」という「マグマアクション法」の記載がされている。
(図 6.1.5) (写真 6.1.1)
マグマアクション法の概念図 マグマアクション法による乗越え浸透注入状況
(イ) 甲6文献(財団法人沿岸技術センター「沿岸技術ライブラリーNo.33
浸透固化処理工法技術マニュアル」(改訂版)平成20年10月発行」に
10 は、
「1)ゲルタイム」「溶液型活性シリカグラウトのゲルタイムはホモ

ゲルの状態と地盤中に注入された状態とで異なる。注入された酸性の薬
液は土中のアルカリ分と反応して、ほぼ中性になると固結が始まる。こ
のため、薬液のゲルタイムは地盤中に注入された状態のものを測定す
る。 、この土中ゲルタイムは球状改良体1個の注入時間より短く調整す
」「
15 ることにより、地盤を均質に改良することができる」
(57頁)ことなど
が記載されている。
(ウ) 甲9文献は、平成30年12月6日公開された発明の名称を「耐久シ
リカグラウト並びに耐久シリカグラウトを用いた地盤改良工法」とする
特許出願の公開公報(特開2018-193550号公報)である。
20 甲9文献に記載された発明は、耐久地盤改良が、耐久性を要求される
期間における所定の改良効果の持続性であることに着目して、「注入材、
施工法、管理方法等を統合して耐久性に関する定量的評価が可能なよう
にして注入設計時において注入目的に対応した信頼性のある非アルカリ
性シリカ溶液を用いた耐久性地盤改良工法」を提供するものである(甲
25 9文献の段落【0019】。以下、甲9文献の段落は、「甲9【 】と表
示する。 。

「耐久シリカグラウト」
(請求項1)は、
「シリカゲ
ルの劣化要因であるアルカ
リを除去したシリカ溶液を
5 用い、さらに所定の注入領
域から逸脱することなく広 (図17)
範囲浸透固結性がある浸透
ゲル化特性を有し、かつ固
結地盤が所定の期間必要な
10 耐久性を持続する組成(甲
9【0029】 」
) として注入
目的に応じた耐久性が得ら
れるようにしたものであ
る。
15 また、「耐久シリカグラウト」(請求項8)は、請求項1の組成を備え
ることを前提とし、「図 17 のように土中ゲル化時間(GTso)よりも注
入時間が長くてもゲル化しかかった先端表面部を乗り越えて、或いはゲ
ル化しかかった注入液を外周方向に押しやりながら浸透固結していく」
(甲9【0114】)として、「図17」の「マグマアクション法」によ
20 り「所定の注入領域外へ逸脱することなく浸透固結する」
(甲9【007
9】)ことを想定している。
そして、マグマアクション法に関しては、
「酸性シリカ液を用いて不均
質でかつ多様な地盤に対して、注入時間(H)よりも土中ゲル化時間
(GTso)を短くしておくことにより、瞬結≦GTo≦10000 分(GTo≧H
25 ≧GTso)とすると地下水による希釈や地盤の不均質性に関わらず半ゲル
状になりながら脈状になることなく土粒子間浸透しながら固結領域が拡
大していくことが判った」
(甲9【0076】、図 17)「これは酸性領域

のシリカグラウトを土中ゲル化時間(GTso)よりも長い注入時間(H)
で注入すると pH が増大してゲル化時間が短縮して注入液がゲル化しか
かった状態で注入領域内に保持されたままで注入範囲が拡大して所定領
5 域を確実に固結できることが判った(図 17)」 甲9
。( 【0077】 、
) (c)

地盤条件が比較的均質な地盤では注入液の pH より中性側にあれば酸性
シリカ注入材は所定量の注入が完了した時間でゲル化に到らなくても所
定領域に保持されたままゲル化することが判った(GTo>GTso>H)
(表
11、表 12、図 17(e)、図 84(a))。この場合、球状浸透でも柱状浸透でも
10 図 11~14 の浸透理論にほぼ基いて浸透固結する。このような浸透固結
性は非アルカリ性のシリカグラウトを用い、かつ土との相互反応によっ
て生ずる、非アルカリ性シリカグラウトの流動特性とゲル化特性と施工
法、注入孔ピッチ、点注入、柱状注入、多点注入に対応したステージ長、
ステージ数、注入速度、注入時間と土中ゲル化時間と配合処方を効果的
15 に組み合わせることにより、地盤中で先行している半ゲル状態のシリカ
グラウトを後続してくるシリカグラウトが外周部に押しやりながら或い
はそれを乗り越えながら固結する現象を用いて所定領域で浸透、ゲル化
させることができることが判った。(表 12(b)、※2、※3) 、
」 「※2、※3
で GTso は H より小さいが、 17(b)のように乗り越えながら固化する。
図 」
20 (甲9【0078】 、
)「これはあたかも地上に噴出したマグマの温度が冷
えるに従って流動性を失いながら次から次へ続くマグマがそれを乗り越
えて広範囲に広がって固化する現象に似ている(図 17…)」
。 (甲9【0
079】)などとされる。
なお、請求項26、27は、
「請求項1~16のシリカ系グラウト並び
25 に(略)の何れか一項に用いる注入管理方法」におけるシリカ系グラウ
ト又は薬液注入とは「シリカ注入液、或いはシリカを含有する懸濁型の
注入液の注入をいう」などとして、
「シリカ溶液の注入のみならずセメン
トやスラグを主成分とするシリカを含有してゲル化を伴う懸濁型グラウ
ト」
(甲9【0210】)を使用することも想定する。これは、
「不均質な
地盤条件下で或いは地下水の流動性の影響下」(甲9【0084】)又は
5 「逸脱しやすい地盤や空隙の大きい地盤」(甲9【0085】)において
も、懸濁型の注入液の使用により「所定の注入領域外へ逸脱することな
く浸透固結する」
(甲9【0079】 ことが可能であるためと解される。

イ 以上を踏まえ、相違点について検討する。
前記⑵ウ、⑶アのとおり、甲1文献には、本件訂正発明1の地盤固結材
10 と同じ組成による固結体を得るための地盤注入用薬液が記載されている
ものの、地盤改良工法における1次ゲル化時間の定義やその機能効果等の
説明、注入の手順・条件等は一切記載されていない。そこで、当該地盤固
結材を使用した地盤改良工法における本件訂正発明1の構成に係る当該
地盤固結材の注入の条件について、各文献の記載事項等から、本件特許の
15 出願当時、当業者が容易に想到し得たか否かが問題となる。
前記第4の2のとおり、本件訂正発明1及び引用発明の地盤改良工法で
使用される地盤固結材は、水ガラスと微粒子スラグを有効成分とする懸濁
液(懸濁型グラウト)であり、固結の原理は、
「低モル比シリカ溶液中のア
ルカリ分が微粒子スラグの潜在水硬性を刺激して固化するとともに、低モ
20 ル比シリカ溶液のシリカ分が微粒子スラグのカルシウム分と反応してゲ
ル化するため、土砂中においてスラグによる固結部分の間をシリカのゲル
が連結することにより一体化した固結体が形成される」というスラグの水
硬性によるものである。他方、甲5文献、甲6文献及び甲9文献に記載さ
れている地盤固結材は、「活性複合シリカコロイド」(甲5) 「溶液型活性

25 シリカグラウト」
(甲6)又は「耐久シリカグラウト」
(甲9)
(溶液型グラ
ウト)であり、その固結の原理は、注入液が「土粒子間浸透するにつれ、
土との接触部の pH が中性方向に移行するとともにゲル化が進行」(甲5)
する、
「注入された酸性の薬液は土中のアルカリ分と反応して、ほぼ中性に
(甲6)という地盤の pH によるものであり、本件訂
なると固結が始まる」
正発明1及び引用発明の地盤固結材とは固結の原理を異にする。
5 また、地盤改良工法の注入の条件について、甲5文献、甲6文献及び甲
9文献は、注入材(溶液型グラウト)について、注入された酸性の薬液は
土中のアルカリ分と反応して、ほぼ中性になると固結が始まるため、薬液
のゲル化時間は地盤中に注入された状態のものを測定し、この土中ゲル化
時間(GTso)よりも薬液の注入時間を長く設定することで、後続の注入液
10 が、先行する注入液のゲル化しかかった先端表面部を乗り越えて、又はゲ
ル化しかかった注入液を外周方向に押しやりながら浸透し固結していく
というマグマアクション法を説明している。しかし、当該マグマアクショ
ン法は、あくまでも酸性の薬液が土中のアルカリ分と反応して固結する場
合の注入の条件について述べたものであって、薬液中のスラグの水硬性に
15 より固結する本件訂正発明1及び引用発明の地盤固結材の注入の条件と
して当然に妥当するものということはできない。固結の原理が異なる以上、
同じ地盤改良の技術分野であるからといって、同じ注入条件で大径の高強
度固結体を形成するという課題を実現することができるとは直ちにいう
ことはできないからである。甲5文献、甲6文献及び甲9文献中にも、マ
20 グマアクション法を、固結の原理を異にする懸濁型グラウトに適用し得る
ことを示唆するような記載等は見られないから、当業者において、引用発
明及びこれらの文献から、本件訂正発明1及び引用発明の懸濁型グラウト
の特性(1次ゲル化、疑塑性、2次ゲル化)に応じた注入条件を容易に想
到することはできないというべきである。
25 なお、前記のとおり、甲9文献の請求項26、27「注入管理方法」は、
「シリカを含有してゲル化を伴う懸濁型グラウト」(甲9【0210】)を
使用することも想定しており、マグマアクション法(甲9【0079】)に
より浸透固結する、請求項8の「耐久シリカグラウト」をも含む構成とな
っている。しかしながら、甲9文献は、
「懸濁型グラウト」を使用し得る条
件として「不均質な地盤条件下で或いは地下水の流動性の影響下」(甲9
5 【0084】)又は「逸脱しやすい地盤や空隙の大きい地盤」(甲9【00
85】)などと言及するにとどまり、上記「シリカを含有してゲル化を伴う
懸濁型グラウト」が、どのような原理で固化するのか、「1次ゲル化」「疑
塑性」
「2次ゲル化」の経過により固化するのかの記載は見当たらない。請
求項8の構成を含む請求項26、27の「懸濁型グラウト」においても、
10 マグマアクション法との関係性は明らかとはいえず、上記記載をもって、
甲9文献の注入条件等を懸濁型グラウトに適用し得ることを示唆するも
のと解することはできない。
ウ 被告は、本件決定は、甲5文献、甲6文献及び甲9文献の技術事項の「ゲ
ルタイム」は、本件訂正発明1の「1次ゲル化に到る時間」と同等か、そ
15 れよりもより硬化が進んだ状態に対応する時間と考えられることを根拠
に、引用発明の地盤固結材の地盤への注入を、土中ゲル化時間(GTso)以
上の時間をかけて行えば、本件訂正発明1の特定事項に至ると判断したな
どと主張する。しかしながら、前記のとおり、地盤固結材として使用され
る本件訂正発明1の懸濁型グラウトと甲5文献、甲6文献及び甲9文献の
20 溶液型グラウトは、固結の原理を異にしており、薬液のゲル化時間も、溶
液型グラウトの場合には土中のアルカリ分により左右されるのに対し、懸
濁型グラウトの場合には、専ら薬液自体の成分により決まることになるは
ずであるから、
「ゲルタイム」と「1次ゲル化に到る時間」とが同等である
とか、引用発明の地盤固結材の地盤への注入を土中ゲル化時間以上の時間
25 をかけて行えば、本件訂正発明1の特定事項に至るなどということはでき
ないというべきである。よって、被告の上記主張を採用することはできな
い。
被告は、本件訂正発明1と甲5文献、甲6文献及び甲9文献の技術事項
における固化に至る原理は「ゲル化しかかった状態」の時に後続の地盤固
結材がそれを乗り越えながら注入領域を拡大し固結するという原理、メカ
5 ニズムは同じであるなどと主張する。しかしながら、溶液型グラウトが注
入先の地盤の pH により固結するのに対し、懸濁型グラウトはグラウト自
体のスラグの水硬化により固結するのであり、本件各訂正発明は、これを
前提にして、従来技術では懸濁型注入材で大径の固結体を形成することが
困難であったという課題を解決するものである。結果的に大径の高強度固
10 結体を形成するプロセスの現象面及びこれを実現するための薬液の注入
条件が類似することになったとしても、それぞれの薬液の特性に応じたゲ
ル化や注入領域の拡大、固化のメカニズムの内容は同じではないというべ
きであるから、被告の主張を採用することはできない。
被告は、甲5文献、甲6文献及び甲9文献から、当業者は、前記のマグ
15 マアクションのメカニズムを理解することができる上、甲9文献には、溶
液型グラウトと懸濁型グラウトとは、同様に用い得るものとされているか
ら、懸濁型グラウトに係る発明である引用発明においても、ゲル化時間以
上の注入を続けることでマグマアクションを生じさせることは、当業者が
容易になし得たことであるなどと主張する。しかしながら、前記のとおり、
20 甲9文献において、溶液型グラウトに関する注入条件等の技術事項を、懸
濁型グラウトに適用することができることを示唆する記載があるものと
解することはできず、被告の主張は前提を欠くといわざるを得ない。
⑸ 小括
以上によれば、本件訂正発明1は、引用発明並びに甲5文献、甲6文献及
25 び甲9文献により容易に発明することができたものと認めることはできない
から、本件訂正発明1の進歩性に係る本件決定の判断には誤りがあり、原告
の取消事由1が認められる。
4 取消事由2から5まで(引用発明に基づく本件訂正発明2、4~7の進歩性
の判断の誤り)について
本件訂正発明1以外の本件各訂正発明(本件訂正発明2、4~7)は、本件
5 訂正発明1の発明特定事項を引用しているところ、前記のとおり、本件訂正発
明1は、本件特許の出願時に当業者において容易に発明することができなかっ
たものであるから、本件訂正発明1以外の本件各訂正発明についても、本件特
許の出願時に当業者において容易に発明することができなかったものという
べきである。
10 したがって、本件訂正発明1以外の本件各訂正発明の進歩性に係る本件決定
の判断にも誤りがあり、原告の取消事由2から5までが認められる。
第5 結論
以上によれば、本件決定には本件各訂正発明の進歩性に係る判断に誤りがあ
り、原告の請求は、理由があるから、これを認容することとして、主文のとお
15 り判決する。
知的財産高等裁判所第2部
20 裁判長裁判官
清 水 響
25 裁判官
菊 池 絵 理
裁判官
5 頼 晋 一
(別紙)
本件訂正発明
【請求項1】
モル比が 1.68~2.31 の範囲にある水ガラスとブレーン値が 4000 ㎠/g~20000
5 ㎠/g の微粒子スラグを有効成分とする地盤固結材を地盤に注入して地盤を固結
する地盤改良工法であって、
該地盤固結材は以下の組成、
1.水ガラス
1)水ガラスのモル比:1.68~2.31
10 2)水ガラスの配合液中の SiO₂含有量:2.9~11.7w/v%
3)水ガラス配合量 (40L~160L)/400L
2.微粒子スラグと地盤固結材としての懸濁液 400L当りの配合量
1)微粒子スラグ:ブレーン値 4000~20000 ㎠/g、平均粒径2㎛~10㎛
2)配合量(50 ㎏~150 ㎏)/400L
15 からなり、
該地盤固結材の流動性は、⑴ 浸透性を保持する過程と、⑵ その後急激に浸
透性が低下して疑塑性状態になる過程と、⑶ その後疑塑性状態を保持する過
程と、⑷ 疑塑性が失われて固結状態になる過程とからなり、
該地盤固結材は、浸透性を経て、疑塑性を呈する1次ゲル化と、疑塑性を経て、
20 静止して後、固化する2次ゲル化を呈するものであり、該地盤固結材の地盤へ
の注入は、先行する浸透性を保持する地盤固結材が疑塑性に到った領域を後続
する浸透性を保持する地盤固結材が乗り越えるか破ることを繰り返して注入領
域を拡大して、注入完了後固化する過程を経るものとし、1次ゲル化に到る時
間以上の時間をかけて所定量地盤に注入し、注入完了後固化することを特徴と
25 する地盤改良工法。
ただし、上記において、
1)疑塑性とは、土粒子間浸透する浸透性を有する状態から、急激に流動性が
低下する1次ゲル化の後、土粒子間浸透はしないが、攪拌すれば流動性を有す
る状態を保持するが最終的に攪拌しても流動性が回復しなくなる2次ゲル化ま
での流動性をいう。
5 2)1次ゲル化とは、土粒子間浸透する浸透性を有する状態から、急激に流動
性が低下し、Pロート法でPロートにゲルが付着しはじめる状態となることを
いう。1次ゲル化に到るまでの時間を1次ゲルタイム(GT1)という。
3)2次ゲル化とは、1次ゲル化後疑塑性を呈して、粘性は低下するか、低下
しないままか、やや増加するか、低下しても、その粘性はPロート法で1次ゲ
10 ル化までの粘性以上、並びに粘度計で1次ゲル化までの粘度以上であって、攪
拌を停止した後は流動性が回復しない固化した状態となることをいう。1次ゲ
ル化後、2次ゲル化を呈するまでの時間を2次ゲルタイム(GT2)という。
【請求項2】
モル比が 1.68~2.31 の範囲にある水ガラスとブレーン値が 4000 ㎠/g~20000
15 ㎠/g の微粒子スラグを有効成分とする地盤固結材を地盤に注入して地盤を固結
する地盤改良工法であって、
該地盤固結材は以下の組成、
1.水ガラス
1)水ガラスのモル比:1.68~2.31
20 2)水ガラスの配合液中の SiO₂含有量:2.9~11.7w/v%
3)水ガラス配合量 (40L~160L)/400L
2.微粒子スラグと地盤固結材としての懸濁液 400L当りの配合量
1)微粒子スラグ:ブレーン値 4000~20000 ㎠/g、平均粒径2㎛~10㎛
2)配合量(50kg~150kg)/400L
25 からなり、
該地盤固結材の流動性は、⑴ 浸透性を保持する過程と、⑵ その後急激に浸
透性が低下して疑塑性状態になる過程と、⑶ その後疑塑性状態を保持する過
程と、⑷ 疑塑性が失われて固結状態になる過程とからなり、
該地盤固結材は、浸透性を経て、疑塑性を呈する1次ゲル化と、疑塑性を経て、
静止して後、固化する2次ゲル化を呈するものであり、該地盤固結材の地盤へ
5 の注入は、先行する浸透性を保持する地盤固結材が疑塑性に到った領域を後続
する浸透性を保持する地盤固結材が乗り越えるか破ることを繰り返して注入領
域を拡大して、注入完了後固化する過程を経るものとし、1次ゲル化に到る時
間以上の時間をかけて所定量地盤に注入し、注入完了後固化することを特徴と
する地盤改良工法、
10 ただし、上記において、
1)疑塑性とは、土粒子間浸透する浸透性を有する状態から、急激に流動性が
低下する1次ゲル化の後、土粒子間浸透はしないが、攪拌すれば流動性を有す
る状態を保持するが最終的に攪拌しても流動性が回復しなくなる2次ゲル化ま
での流動性をいう。
15 2)1次ゲル化とは、土粒子間浸透する浸透性を有する状態から、急激に流動
性が低下し、Pロート法でPロートにゲルが付着しはじめる状態となることを
いう。1次ゲル化に到るまでの時間を1次ゲルタイム(GT1)という。
3)2次ゲル化とは、1次ゲル化後疑塑性を呈して、粘性は低下するか、低下
しないままか、やや増加するか、低下しても、その粘性はPロート法で1次ゲ
20 ル化までの粘性以上、並びに粘度計で1次ゲル化までの粘度以上であって、攪
拌を停止した後は流動性が回復しない固化した状態となることをいう。1次ゲ
ル化後、2次ゲル化を呈するまでの時間を2次ゲルタイム(GT2)という。
であって、前記地盤固結材は、以下の1次ゲルタイムと2次ゲルタイムとから
なる流動特性と固化特性を呈することを特徴とする地盤改良工法。
25 流動特性:
1)1次ゲルタイム(GT1):10分以上(20℃)
ただし、1次ゲルタイムとは、配合後、Pロート法でPロートにゲルが付着し
始めた時点である前記1次ゲル化に至るまでの時間(流動性低下開始時間)を
いう。また、1次ゲルタイムまでの時間を浸透性保持時間(T1)とし、その
粘度はPロート法で10秒以下、または、ならびに粘度計で10mPa・s 以下
5 を呈するものとする。
2)2次ゲルタイム(GT2):10分以上(20℃)
ただし、2次ゲルタイムとは、1次ゲルタイム後、疑塑性状態を呈して、その
粘性はPロート法で1次ゲルタイム以上並びに、または粘度計で1次ゲルタイ
ムまでの粘性以上を呈し、最終的に攪拌しても流動性を回復せず固化に至る、
10 すなわち前記1次ゲル化後、前記2次ゲル化に至るまでの時間をいう。
【請求項3】
削除
【請求項4】
モル比が 1.68~2.31 の範囲にある水ガラスとブレーン値が 4000 ㎠/g~20000
15 ㎠/gの微粒子スラグを有効成分とする地盤固結材を地盤に注入して地盤を固
結する地盤改良工法であって、
該地盤固結材は以下の組成、
1.水ガラス
1)水ガラスのモル比:1.68~2.31
20 2)水ガラスの配合液中の SiO₂含有量:2.9~11.7w/v%
3)水ガラス配合量 (40L~160L)/400L
2.微粒子スラグと地盤固結材としての懸濁液 400L当りの配合量
1)微粒子スラグ:ブレーン値 4000~20000 ㎠/g、平均粒径 2 ㎛~10 ㎛
2)配合量(50kg~150kg)/400L
25 からなり、
該地盤固結材の流動性は、⑴ 浸透性を保持する過程と、⑵ その後急激に浸
透性が低下して疑塑性状態になる過程と、⑶ その後疑塑性状態を保持する過
程と、⑷ 疑塑性が失われて固結状態になる過程とからなり、
該地盤固結材は、浸透性を経て、疑塑性を呈する1次ゲル化と、疑塑性を経て、
静止して後、固化する2次ゲル化を呈するものであり、該地盤固結材の地盤へ
5 の注入は、先行する浸透性を保持する地盤固結材が疑塑性に到った領域を後続
する浸透性を保持する地盤固結材が乗り越えるか破ることを繰り返して注入領
域を拡大して、注入完了後固化する過程を経るものとし、1次ゲル化に到る時
間以上の時間をかけて所定量地盤に注入し、注入完了後固化することを特徴と
する地盤改良工法、
10 ただし、上記において、
1)疑塑性とは、土粒子間浸透する浸透性を有する状態から、急激に流動性が
低下する1次ゲル化の後、土粒子間浸透はしないが、攪拌すれば流動性を有す
る状態を保持するが最終的に攪拌しても流動性が回復しなくなる2次ゲル化ま
での流動性をいう。
15 2)1次ゲル化とは、土粒子間浸透する浸透性を有する状態から、急激に流動
性が低下し、Pロート法でPロートにゲルが付着しはじめる状態となることを
いう。1次ゲル化に到るまでの時間を1次ゲルタイム(GT1)という。
3)2次ゲル化とは、1次ゲル化後疑塑性を呈して、粘性は低下するか、低下
しないままか、やや増加するか、低下しても、その粘性はPロート法で1次ゲ
20 ル化までの粘性以上、並びに粘度計で1次ゲル化までの粘度以上であって、攪
拌を停止した後は流動性が回復しない固化した状態となることをいう。1次ゲ
ル化後、2次ゲル化を呈するまでの時間を2次ゲルタイム(GT2)という。
であって、該地盤固結材の注入は所定の注入領域において1ステージ当たりの
注入量の注入時間よりも短い1次ゲルタイムの地盤固結材を注入することによ
25 り、先行する地盤固結材が疑塑性に至ったゲル化領域を乗り越えて後続する地
盤固結材がその領域外に流出して浸透範囲を拡大することを繰り返すことによ
って所定領域外への逸脱を低減しながら固結領域を拡大することを特徴とする
ことを特徴とする地盤改良工法。
ここで、1ステージとは、地盤中に設置した注入管から注入されるものとし、
該注入管の1つの注入口が受け持つ注入深度における注入対象長をいう。
5 【請求項5】
モル比が 1.68~2.31 の範囲にある水ガラスとブレーン値が 4000 ㎠/g~20000
㎠/gの微粒子スラグを有効成分とする地盤固結材を地盤に注入して地盤を固
結する地盤改良工法であって、
該地盤固結材は以下の組成、
10 1.水ガラス
1)水ガラスのモル比:1.68~2.31
2)水ガラスの配合液中の SiO₂含有量:2.9~11.7w/v%
3)水ガラス配合量 (40L~160L)/400L
2.微粒子スラグと地盤固結材としての懸濁液 400L当りの配合量
15 1)微粒子スラグ:ブレーン値 4000~20000 ㎠/g、平均粒径2㎛~10㎛
2)配合量(50kg~150kg)/400L
からなり、
該地盤固結材の流動性は、⑴ 浸透性を保持する過程と、⑵ その後急激に浸
透性が低下して疑塑性状態になる過程と、⑶ その後疑塑性状態を保持する過
20 程と、⑷ 疑塑性が失われて固結状態になる過程とからなり、
該地盤固結材は、浸透性を経て、疑塑性を呈する1次ゲル化と、疑塑性を経て、
静止して後、固化する2次ゲル化を呈するものであり、該地盤固結材の地盤へ
の注入は、先行する浸透性を保持する地盤固結材が疑塑性に到った領域を後続
する浸透性を保持する地盤固結材が乗り越えるか破ることを繰り返して注入領
25 域を拡大して、注入完了後固化する過程を経るものとし、1次ゲル化に到る時
間以上の時間をかけて所定量地盤に注入し、注入完了後固化することを特徴と
する地盤改良工法、
ただし、上記において、
1)疑塑性とは、土粒子間浸透する浸透性を有する状態から、急激に流動性が
低下する1次ゲル化の後、土粒子間浸透はしないが、攪拌すれば流動性を有す
5 る状態を保持するが最終的に攪拌しても流動性が回復しなくなる2次ゲル化ま
での流動性をいう。
2)1次ゲル化とは、土粒子間浸透する浸透性を有する状態から、急激に流動
性が低下し、Pロート法でPロートにゲルが付着しはじめる状態となることを
いう。1次ゲル化に到るまでの時間を1次ゲルタイム(GT1)という。
10 3)2次ゲル化とは、1次ゲル化後疑塑性を呈して、粘性は低下するか、低下
しないままか、やや増加するか、低下しても、その粘性はPロート法で1次ゲ
ル化までの粘性以上、並びに粘度計で1次ゲル化までの粘度以上であって、攪
拌を停止した後は流動性が回復しない固化した状態となることをいう。1次ゲ
ル化後、2次ゲル化を呈するまでの時間を2次ゲルタイム(GT2)という。
15 であって、1ステージ当たりの注入量をV、Vを注入するに要する注入時間T、
該地盤固結材の1次ゲルタイムを GT1 とすると、該地盤固結材の注入はTよ
りも短い1次ゲルタイムで連続注入して1ステージ当たりの注入量Vを注入す
るものとし、該地盤固結材の注入は、先行する地盤固結材による疑塑性領域を
後続の地盤固結材が乗越えてその外側に浸透することを連続的に繰り返して、
20 1ステージ当たり注入量を注入して完了することを特徴とする地盤改良工法。
【請求項6】
モル比が 1.68~2.31 の範囲にある水ガラスとブレーン値が 4000 ㎠/g~20000
㎠/g の微粒子スラグを有効成分とする地盤固結材を地盤に注入して地盤を固結
する地盤改良工法であって、
25 該地盤固結材は以下の組成、
1.水ガラス
1)水ガラスのモル比:1.68~2.31
2)水ガラスの配合液中の SiO₂含有量:2.9~11.7w/v%
3)水ガラス配合量 (40L~160L)/400L
2.微粒子スラグと地盤固結材としての懸濁液 400L当りの配合量
5 1)微粒子スラグ:ブレーン値 4000~20000 ㎠/g、平均粒径 2 ㎛~10 ㎛
2)配合量(50kg~150kg)/400L
からなり、
該地盤固結材の流動性は、⑴ 浸透性を保持する過程と、⑵ その後急激に浸
透性が低下して疑塑性状態になる過程と、⑶ その後疑塑性状態を保持する過
10 程と、⑷ 疑塑性が失われて固結状態になる過程とからなり、
該地盤固結材は、浸透性を経て、疑塑性を呈する1次ゲル化と、疑塑性を経て、
静止して後、固化する2次ゲル化を呈するものであり、該地盤固結材の地盤へ
の注入は、先行する浸透性を保持する地盤固結材が疑塑性に到った領域を後続
する浸透性を保持する地盤固結材が乗り越えるか破ることを繰り返して注入領
15 域を拡大して、注入完了後固化する過程を経るものとし、1次ゲル化に到る時
間以上の時間をかけて所定量地盤に注入し、注入完了後固化することを特徴と
する地盤改良工法、
ただし、上記において、
1)疑塑性とは、土粒子間浸透する浸透性を有する状態から、急激に流動性が
20 低下する1次ゲル化の後、土粒子間浸透はしないが、攪拌すれば流動性を有す
る状態を保持するが最終的に攪拌しても流動性が回復しなくなる2次ゲル化ま
での流動性をいう。
2)1次ゲル化とは、土粒子間浸透する浸透性を有する状態から、急激に流動
性が低下し、Pロート法でPロートにゲルが付着しはじめる状態となることを
25 いう。1次ゲル化に到るまでの時間を1次ゲルタイム(GT1)という。
3)2次ゲル化とは、1次ゲル化後疑塑性を呈して、粘性は低下するか、低下
しないままか、やや増加するか、低下しても、その粘性はPロート法で1次ゲ
ル化までの粘性以上、並びに粘度計で1次ゲル化までの粘度以上であって、攪
拌を停止した後は流動性が回復しない固化した状態となることをいう。1次ゲ
ル化後、2次ゲル化を呈するまでの時間を2次ゲルタイム(GT2)という。
5 であって、前記地盤固結材は⑴ 水ガラス量、⑵ 水ガラスのモル比、⑶ ス
ラグ配合量、⑷ スラグの比表面積によって、ゲルタイム、浸透性、強度、ブ
リージングのいずれか或いは複数を調整することを特徴とする地盤改良工法。
【請求項7】
モル比が 1.68~2.31 の範囲にある水ガラスとブレーン値が 4000 ㎠/g~20000
10 ㎠/g の微粒子スラグを有効成分とする地盤固結材を地盤に注入して地盤を固結
する地盤改良工法であって、
該地盤固結材は以下の組成、
1.水ガラス
1)水ガラスのモル比:1.68~2.31
15 2)水ガラスの配合液中の SiO₂含有量:2.9~11.7w/v%
3)水ガラス配合量 (40L~160L)/400L
2.微粒子スラグと地盤固結材としての懸濁液 400L当りの配合量
1)微粒子スラグ:ブレーン値 4000~20000 ㎠/g、平均粒径 2 ㎛~10 ㎛
2)配合量(50kg~150kg)/400L
20 からなり、
該地盤固結材の流動性は、⑴ 浸透性を保持する過程と、⑵ その後急激に浸
透性が低下して疑塑性状態になる過程と、⑶ その後疑塑性状態を保持する過
程と、⑷ 疑塑性が失われて固結状態になる過程とからなり、
該地盤固結材は、浸透性を経て、疑塑性を呈する1次ゲル化と、疑塑性を経て、
25 静止して後、固化する2次ゲル化を呈するものであり、該地盤固結材の地盤へ
の注入は、先行する浸透性を保持する地盤固結材が疑塑性に到った領域を後続
する浸透性を保持する地盤固結材が乗り越えるか破ることを繰り返して注入領
域を拡大して、注入完了後固化する過程を経るものとし、1次ゲル化に到る時
間以上の時間をかけて所定量地盤に注入し、注入完了後固化することを特徴と
する地盤改良工法、
5 ただし、上記において、
1)疑塑性とは、土粒子間浸透する浸透性を有する状態から、急激に流動性が
低下する1次ゲル化の後、土粒子間浸透はしないが、攪拌すれば流動性を有す
る状態を保持するが最終的に攪拌しても流動性が回復しなくなる2次ゲル化ま
での流動性をいう。
10 2)1次ゲル化とは、土粒子間浸透する浸透性を有する状態から、急激に流動
性が低下し、Pロート法でPロートにゲルが付着しはじめる状態となることを
いう。1次ゲル化に到るまでの時間を1次ゲルタイム(GT1)という。
3)2次ゲル化とは、1次ゲル化後疑塑性を呈して、粘性は低下するか、低下
しないままか、やや増加するか、低下しても、その粘性はPロート法で1次ゲ
15 ル化までの粘性以上、並びに粘度計で1次ゲル化までの粘度以上であって、攪
拌を停止した後は流動性が回復しない固化した状態となることをいう。1次ゲ
ル化後、2次ゲル化を呈するまでの時間を2次ゲルタイム(GT2)という。
であって、前記地盤固結材はセメント、石膏、消石灰、ポゾラン、粘土、酸、
アルカリ、塩、のいずれかまたは複数種を加えることによってゲル化や強度の
20 調整を行うことを特徴とする地盤改良工法。
(別紙)
引 用 発 明
高強度の固結体を得るとともに、比較的長時間のゲル化時間の調整が容易であり、
しかもゲル化に至るまで低粘性を保つため浸透性に優れ、このため、特に砂質土等
5 の透水地盤への注入に適した地盤注入用薬液を地盤に注入して地盤を固結する地盤
改良工法であって、
地盤注入用薬液は、
モル比が 2.01 であり、SiO₂が 27.36%、Na₂O が 14.05%である水ガラスと、
比表面積が 10,200 ㎠/gであり、SiO₂:33.02%、CaO:41.94%、Al₂O₃:12.83%、
10 MgO:8.61%、Fe₂O₃:0.37%の成分組成からなる水さいスラグを粉砕したスラグ
からなり、
水ガラスの配合液中の SiO₂が 8%であり、
水ガラスの配合量が 292g/1000gであり、
スラグの平均粒子半径が 6.0 ㎛であり、
15 スラグの配合量が 125g/1000gであり、
地盤注入用薬液は、20℃におけるゲル化時間が 22 分であり、2分後の粘度が 6.3CPS
であり、20 分後の粘度が 35CPS であり、その後固結し、一軸圧縮強度が7日後に
は 15.5kgf/㎠となり、49 日後には 30.0kgf/㎠となる、地盤改良工法。

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