令和5(ワ)70611民事訴訟 著作権
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裁判所 |
一部認容 東京地方裁判所東京地方裁判所
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裁判年月日 |
令和6年11月14日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
原告株式会社TRYALL 被告A
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法令 |
著作権
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キーワード |
侵害9回 損害賠償8回 許諾3回
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主文 |
1 被告は、原告に対し、36 万 8000 円及びこれに対する令和 4 年 9 月 1 日から支
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを 4 分し、その 1 を被告の負担とし、その余を原告の負担とす20
4 この判決は、第 1 項に限り、仮に執行することができる。 |
事件の概要 |
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判決文
令和 6 年 11 月 14 日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和 5 年(ワ)第 70611 号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 令和 6 年 9 月 3 日
判 決
原 告 株 式 会 社 TRYALL
同訴訟代理人弁護士 田 中 圭 祐
同 吉 永 雅 洋
10 同 蓮 池 純
同 鈴 木 勇 輝
被 告 A
同訴訟代理人弁護士 片 山 眞 洋
15 同 小 林 大 輝
主 文
1 被告は、原告に対し、36 万 8000 円及びこれに対する令和 4 年 9 月 1 日から支
払済みまで年 3%の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
20 3 訴訟費用はこれを 4 分し、その 1 を被告の負担とし、その余を原告の負担とす
る。
4 この判決は、第 1 項に限り、仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
25 被告は、原告に対し、151 万 2500 円及びこれに対する令和 4 年 9 月 1 日から
支払済みまで年 3%の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は、原告の販売する釣り具を撮影した別紙著作物目録記載の写真 9 点(以
下、併せて「本件各写真」という。)について著作権を有するとする原告が、被告
がインターネットオークションサイトに釣り具を出品した際、本件各写真を複製
5 した画像 9 点を同サイト上に掲載したことにより本件各写真に係る原告の著作
権(複製権及び公衆送信権)が侵害されたと主張して、被告に対し、不法行為に
基づき、151 万 2500 円の損害賠償及びこれに対する不法行為の後である令和 4
年 9 月 1 日から支払済みまで民法所定の年 3%の割合による遅延損害金の支払を
求める事案である。
10 1 前提事実(証拠等を掲記しない事実は、当事者間に争いがないか、弁論の全趣
旨により容易に認められる。なお、枝番号のある書証については、特に明記しな
い限り、枝番号を含む。以下同じ。)
(1) 原告は、釣り具、アウトドア用品等に関するブランドを展開し、これらの商
品の販売を行う株式会社である。原告は、原告の運営するウェブサイト(以下
15 「原告ウェブサイト」という。)上に、原告の取り扱う釣り具(商品名:
BC420SSSCh-T3 DK BLACK。以下「本件商品」という。)の広告用写真とし
て、本件各写真を掲載していた。(甲 1、弁論の全趣旨)
(2) 被告は、令和 4 年 8 月 31 日、インターネットオークションサイト「ヤフオ
ク!」
(以下「本件オークションサイト」という。)に本件商品の新品未使用品
20 を出品するに当たり、別紙投稿記事目録記載のアカウント名を用いて、同目録
の「内容」欄記載の文章及び「使用画像」欄記載の画像 9 点(以下「被告使用
画像」という。)を掲載する投稿(以下「本件投稿」という。)をした。被告使
用画像は、本件各写真と同一のものである。
(争いのない事実。本件投稿の日付
につき、乙 2 の 1)
25 (3) 原告は、本件訴えの提起に先立ち、本件投稿をした出品者を特定するため、
本件オークションサイトを運営するヤフー株式会社(以下「ヤフー」という。)
を相手方とする発信者情報開示命令の申立てをし(東京地方裁判所令和 5 年
(発チ)第 10043 号発信者情報開示命令申立事件。以下、同事件に係る裁判手
続を「本件開示手続」という。、東京地方裁判所は、令和 5 年 6 月 23 日、ヤ
)
フーに対し、本件投稿をした者の氏名又は名称、住所等を原告に開示すること
5 を命ずる決定をした。これを受け、ヤフーは、原告に対し、本件投稿をしたア
カウントに係る発信者情報として、被告の氏名、住所等を開示した。 3、
(甲 4)
2 争点及びこれに関する当事者の主張
(1) 本件各写真の著作物性
(原告の主張)
10 本件各写真は、いずれも商品の写真として原告代表者により撮影されたもの
であるところ、原告代表者は、複数の機材の中から撮影に適した 3 つのレンズ
を選択した上、背景には反射率が低い背景を使用し、自ら光源の具合を調整し
た上で撮影を行った。本件各写真の表現は、このように原告代表者が撮影技法
を駆使した成果であって、被写体の配置、背景、構図、カメラアングル等に撮
15 影者の個性が発揮されている。したがって、本件各写真には創作性があり、著
作物(著作権法 2 条 1 項 1 号)に該当する。
(被告の主張)
本件各写真には特殊な撮影技法が駆使されているとは思われず、通常の撮影
方法により撮影されたものであって、被写体の配置、構図、カメラアングル等
20 について特段個性が発揮されているとはいえない。本件各写真を通覧しても、
色彩の配合や背景が異なるものではなく、複数の被写体の組合せもない。この
ため、本件各写真には創作性がなく、著作物に当たらない。
(2) 本件各写真の著作権の帰属主体
(原告の主張)
25 本件各写真は、原告が自己の名義で販売する商品を紹介するために、原告代
表者によって撮影されたものである。すなわち、本件各写真は原告の商品販売
及び広告宣伝事業の一環として創作されたものであるから、本件各写真の創作
は原告の発意に基づき、原告代表者は職務上これを作成したものである。また、
本件各写真は、原告が自己の著作の名義の下に公表するものである。
したがって、本件各写真は職務上作成する著作物であり、原告にその著作権
5 が帰属する(著作権法 15 条 1 項)。
(被告の主張)
否認ないし争う。本件各写真は、法人である原告の発意に基づくものではな
く、単に写真撮影者の発意に基づくものと思われる。
(3) 原告の損害
10 (原告の主張)
ア 著作権侵害による損害
原告は、原告ウェブサイト上に、画像無断転載の際の使用料について規定
を置いており、画像無断使用は 1 点につき 11 万円を請求することとしてい
る。したがって、被告の著作権侵害の不法行為に起因する損害は、写真 9 点
15 の合計で 99 万円となる。
イ 発信者情報開示手続費用
本件投稿は匿名でなされており、原告は、本件開示手続により被告が投稿
者であることを突き止めた。原告は、本件開示手続のため必要な弁護士報酬
として、同手続代理人に対し、38 万 5000 円を支払った。
20 発信者情報開示手続費用は、インターネット上の投稿等による不法行為に
起因して被害者に当然に生じる損害であって、その手続費用は、不法行為と
相当因果関係のある損害に当たる。また、発信者情報開示手続を行うには弁
護士に依頼して裁判を行うほかないから、その弁護士費用は、加害者に対し
民事上の損害賠償請求をするために必要不可欠の費用である。加えて、本件
25 開示手続の弁護士報酬が不相当に高額であるといった事情はない。したがっ
て、原告が支払った弁護士報酬 38 万 5000 円は、その全額が被告の不法行
為と相当因果関係のある損害と認められるべきである。
ウ その他の弁護士費用
本件訴えにより原告が被告に対し損害賠償を求めるために必要であった
弁護士費用は、上記各損害額合計の 10%である 13 万 7500 円を下らない。
5 (被告の主張)
争う。
ア 本件各写真に創作性があったとしても、その程度は極めて低いものであり、
侵害の程度も極めて軽微なものというべきである。また、被告は原告から本
件投稿に関して指摘を受けた後、即座に投稿を削除しており、原告に実質的
10 な損害は発生していない。原告ウェブサイト上に記載された画像無断転載の
際の請求額は法外な金額であるし、被告は原告ウェブサイトとは別のウェブ
サイトから画像を転載したため、原告ウェブサイト上の画像無断転載に係る
規定の存在を知らなかった。
イ 発信者情報開示手続費用は調査費用であり、その手続自体は損害賠償を請
15 求する訴訟でないから、これに要した弁護士費用は賠償の対象とはならない。
仮に調査費用を損害と解する余地があるとしても、実質的には本件訴えの弁
護士費用と同様の性格を有する費用に過ぎないから、仮に本件訴えにおいて
弁護士費用が認容されたとして、それと同額を調査費用分の損害と認定する
のが相当である。
20 第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件各写真の著作物性)について
証拠(甲 1、10)及び弁論の全趣旨によれば、本件各写真は、原告代表者が原
告ウェブサイト等で本件商品を広告販売するために撮影したものであること、本
件各写真の撮影は、本件商品を様々な角度から接写しつつ美しい画像とするため
25 に、被写体の配置、背景、光源、カメラアングル等を調整して行われたものであ
ることが認められる。
そうすると、本件各写真は、いずれも、撮影者の個性が表れたものといえ、
「思
想又は感情を創作的に表現したもの」と認められる。すなわち、本件各写真は、
「著作物」(著作権法 2 条 1 項 1 号)に該当する。これに反する被告の主張は採
用できない。
5 2 争点(2)(本件各写真の著作権の帰属主体)について
前記認定のとおり、本件各写真は、原告代表者が原告ウェブサイト等で本件商
品を広告販売するために撮影したものであることに加え、証拠(甲 1、10)及び
弁論の全趣旨によれば、本件各写真は、現に原告ウェブサイトに本件商品の説明
文と共に掲載されたことが認められる。これらの事情によれば、本件各写真は、
10 釣り具等の販売を業とする原告の発意に基づき原告の業務に従事する者である
原告代表者がその職務上作成した著作物であり、また、原告が自己の著作の名義
の下に公表するものといえる。また、証拠(甲 10)及び弁論の全趣旨によれば、
本件各写真の作成時における契約、勤務規則その他に本件各写真の著作権に関す
る別段の定めはなかったとみられる。
15 したがって、本件各写真の著作者は原告であり(著作権法 15 条 1 項)、原告が
その著作権を有すると認められる(同法 17 条 1 項)。これに反する被告の主張は
採用できない。
3 争点(3)(原告の損害)について
(1) 著作権侵害による損害額
20 ア 証拠(乙 2)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、令和 4 年 8 月 31 日午
後 10 時 11 分頃に本件投稿をした後、翌日である同年 9 月 1 日午前 0 時 19
分頃に上記の出品を取り消したことが認められる。すなわち、被告は、本件
オークションサイトに本件商品の新品未使用品を出品するに当たり、本件各
写真をそのまま複製して利用した。これは、本件各写真に係る原告の著作権
25 (複製権、公衆送信権)を侵害するものといえる。
イ 被告が本件各写真を利用した期間は、上記のとおり 2 時間強にとどまるが、
これは、原告が、本件投稿の約 1 時間後に、本件オークションサイトの出品
者への質問を投稿する機能を利用して、出品者に対し、テキスト及び画像の
無断転載を確認したため原告の規定に従った利用料金を請求する旨の予告
をしたという事情を受けて行われたものである。
5 また、本件各写真は、原告の取り扱う本件商品の広告販売を目的として撮
影されたものであるところ、証拠(甲 1)によれば、原告は、原告の取扱商
品を卸している販売店等の正規の取引先に対して商品写真の利用を許諾す
ることはあるものの、原告の取扱商品を高額で転売するような正規の取引先
でない販売者に対して商品写真の利用を許諾した実例はないことが認めら
10 れる。すなわち、原告においては、被告のような正規の取引先でない販売者
との間で本件各写真の利用許諾契約を締結することは想定されていないと
みられる。
ウ これらの事情に加え、「著作権…の行使につき受けるべき金銭の額に相当
する額」(著作権法 114 条 3 項)は著作権侵害をした者との関係で事後的に
15 定められるものであることその他本件に顕れた一切の事情を総合的に考慮
すると、本件において原告が受けるべき金銭の額に相当する額は、本件各写
真 1 点当たり 1 万 5000 円、合計 13 万 5000 円とするのが相当である。これ
に反する原告及び被告の主張はいずれも採用できない。
(2) 発信者情報開示手続費用
20 ウェブサイトに匿名で投稿された記事等が不法行為を構成し、その被害者が
損害賠償請求等の手段を取ろうとする場合、被害者は、侵害者である投稿者を
特定する必要がある。その手段として、被害者は、特定電気通信役務提供者の
損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律により、発信者情報の
開示を請求する権利を有する。もっとも、これを行使するためには、多くの場
25 合、同法所定の裁判手続その他の法的手続を利用することが必要となる。その
手続遂行のためには一定の手続費用を要し、さらに、事案によっては弁護士費
用を要することも当然あり得る。そうすると、これらの発信者情報開示手続に
要した費用は、当該不法行為との間で相当因果関係のある損害となり得るとい
ってよい。
本件では、証拠(甲 3、6)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件開示手
5 続を原告代理人らに委任し、その弁護士費用として着手金 38 万 5000 円及び
報酬金 11 万円(いずれも消費税込)を支出したことが認められる。発信者情
報開示手続の性質、内容等を考慮すると、このうち 20 万円をもって、被告の
不法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。これに反する原
告及び被告の主張はいずれも採用できない。
10 (3) 弁護士費用
本件事案の内容、本件訴えに至る経過、認容額等に照らすと、本件訴えに係
る弁護士費用については、被告の不法行為と相当因果関係のある損害として 3
万 3000 円と認めるのが相当である。これに反する原告及び被告の主張はいず
れも採用できない。
15 (4) まとめ
以上より、原告は、被告に対し、著作権(複製権及び公衆送信権)侵害の不
法行為に基づき、 万 8000 円の損害賠償請求権及びこれに対する不法行為の
後である令和 4 年 9 月 1 日から支払済みまで民法所定の年 3%の割合による遅
延損害金請求権を有する。
20 第4 結論
よって、原告の請求は、主文第 1 項の限度で理由があるからその限度でこれを
認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第 47 部
裁判長裁判官
杉 浦 正 樹
裁判官
細 井 直 彰
裁判官
志 摩 祐 介
(別紙著作物目録省略)
(別紙投稿記事目録省略)
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