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令和6(ネ)10059業務委託料、同反訴請求控訴事件

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裁判所 控訴棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和6年12月19日
事件種別 民事
当事者 被控訴人X
法令 その他
民法709条1回
キーワード 侵害58回
特許権47回
損害賠償22回
抵触9回
差止1回
実施1回
ライセンス1回
主文 1 本件控訴を棄却する。15
2 控訴人が当審で追加した請求を棄却する。
3 当審における訴訟費用は、控訴人の負担とする。
事件の概要 のは、「原判決別紙」と読み替える。)

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判決文

令和6年12月19日判決言渡
令和6年(ネ)第10059号 業務委託料、同反訴請求控訴事件(原審 東京地
方裁判所令和4年(ワ)第19780号、同5年(ワ)第1308号)
口頭弁論終結の日 令和6年11月7日
5 判 決
控訴人(原審本訴被告・反訴原告) 株式会社シンギー
同訴訟代理人弁護士 村 松 洋 之
被控訴人(原審本訴原告・反訴被告) X
同 市 川 賴 明
主 文
15 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴人が当審で追加した請求を棄却する。
3 当審における訴訟費用は、控訴人の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 控訴の趣旨
20 1 原判決を次のとおり変更する。
2 被控訴人の本訴請求を棄却する。
3 被控訴人は、控訴人に対し、1086万3964円及びこれに対する令和5
年1月25日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は第1、2審及び本訴・反訴を通じて被控訴人の負担とする。
25 5 仮執行宣言
第2 事案の概要等(略語は原判決の表記に従う。なお、原判決に「別紙」とある
のは、「原判決別紙」と読み替える。)
1 原審本訴は、被控訴人が、控訴人に対し、控訴人被控訴人間の営業代行に関
する契約に基づき、委託された業務を遂行したとして、令和4年1月分から同
年5月分に係る各月の報酬及びこれに対する各弁済期の翌日から支払済みまで
5 約定の年14.6パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案であ
る。
原審反訴は、控訴人が、被控訴人に対し、上記営業代行に関する契約に基づ
き被控訴人が顧客等との間で契約を締結、履行するに際し、顧客に対する不法
行為に及び、その結果控訴人が被控訴人の使用者として887万6331円の
10 損害賠償義務を負うことになったとして、民法715条3項の求償権に基づき
887万6331円及び弁護士費用(88万7633円)を請求するとともに、
被控訴人の顧客との対応が、被控訴人の控訴人に対する不法行為を構成すると
して、不法行為に基づき損害100万円及び弁護士費用(10万円)を請求し、
さらに上記の請求額合計1086万3964円に対する不法行為の日の後で
15 あり反訴状送達の日である令和5年1月25日から支払済みまで民法所定の
年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
控訴人は、原審において、被控訴人に対する令和4年1月分及び同年2月分
各91万5750円、合計183万1500円の業務委託報酬支払債務が存す
ることを認め、令和6年3月27日に行われた原審第3回口頭弁論期日におい
20 て陳述した原審における被告第5準備書面(令和6年3月19日付け)により、
反訴請求に係る損害賠償請求権を自働債権とし、上記業務委託報酬及びこれに
ついての遅延損害金の支払債務を受働債権として、これを対当額で相殺する旨
の意思表示をした。
原審が本訴請求のうち183万1500円及びこれに対する遅延損害金(う
25 ち91万5750円に対する令和4年4月1日から、うち91万5750円に
対する同年5月1日から、各支払済みまで年14.6パーセントの割合による
金員)の支払の限度で認容し、その余の本訴請求及び反訴請求をいずれも棄却
したところ、これに不服の控訴人が本件控訴を提起した。
控訴人は、当審において、債務不履行に基づく予備的請求原因事実の主張を
追加した。
5 2 前提事実、争点及びこれに関する当事者の主張は、次のとおり補正し、後記
3のとおり当審における控訴人の主な補充主張並びに後記4のとおり当審にお
ける控訴人の予備的な追加主張及びこれに対する被控訴人の反論を付加するほ
かは、原判決「事実及び理由」中、第2の2及び3(原判決2頁26行目から
12頁10行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
10 ⑴ 原判決3頁10行目の「甲2、 の次に
」 「原審における被控訴人本人尋問、」
を、同頁12行目の「クロージング」の次に「(商品の納品を含む)」を、
「新
規口座獲得」の次に「(受注)」をそれぞれ加える。
⑵ 原判決4頁9行目の末尾に「(甲3、乙10、11)」を加え、同頁10行
目冒頭から同頁14行目末尾までを次のとおり改める。
15 「 令和2年6月頃、新規の顧客である株式会社dr365(以下「dr3
65」という。)から控訴人に対し問い合わせが入り、控訴人は、被控訴人
に対応を依頼した。控訴人とdr365は同年8月28日、取引基本契約
を締結した(以下「基本契約」という。乙10)、その後、令和3年9月頃
から、控訴人は、基本契約に基づくOEM商品売買(基本契約14条)に
20 より、dr365に対し商品を納入するようになった。
基本契約14条(OEM商品売買)の内容は、次のとおりである。
1.乙(判決注:控訴人)は甲(判決注:dr365)の注文に応じ、
甲乙協議の上、OEM商品(以下「本商品」という。)を製造し、こ
れを甲に売渡し、甲はこれを買い受ける。
25 2.前条の定めに拘わらず、甲が支給した原材料または甲の指定によ
り用いた原材料が原因で本商品に食品として瑕疵が生じ、または規
格に合致しなくなったときは、甲は本商品の瑕疵または規格不合致
を理由として本商品を乙に返品し、または個別契約を解除しまたは
損害賠償請求をすることはできない。
3.甲乙間で取引のある商品(原料、資材、加工を含む)について、
5 乙が製造の全部または一部を第三者に委託する場合において、甲は
乙の委託先に、乙の承諾なしに連絡、または製造依頼をしてはなら
ない。
本項に違反し、甲が前項の乙の委託先との間で取引を行った場合、
甲は乙が当該取引で得られるはずの利益額を乙に支払うものとす
10 る。
⑷ 控訴人は、被控訴人に対し、原判決別紙1のとおり、令和3年11月納
品分、同年12月納品分に係る報酬として、合計145万8534円(消
費税込み)を支払った。」
⑶ 原判決4頁15行目の冒頭に「⑸」を加え、同頁20行目の「⑷」を「⑹」
15 と改め、同頁21行目の「27日の」の次に「原審における」を加える。
⑷ 原判決8頁4行目の末尾の後に、次のとおり加える。
「なお、控訴人が被控訴人に対して民法715条3項に基づいて有する合計
887万6331円の求償権の内訳は、次のとおりである(乙8、9)。
代品と送料 1万8045円
20 新処方切替タイミングで入れるフライヤー 30万円
新しいフライヤー同梱手数料 25万円
アットコスメプロモーションキャンセル料 320万円
WEBサイト文言改修費用 10万円
余剰在庫買取分 264万9500円
25 化粧箱 廃棄分 2万4847円
化粧箱 改版代 3万円
各種試験費用(敏感肌パッチ・アレルギー・スティンギング・ノンコメ
ド・4週間運用試験) 149万7000円
消費税 80万6939円
合計 887万6331円」
5 3 当審における控訴人の主な補充主張
⑴ 本件商品(控訴人が基本契約に基づいてOEM商品としてdr365に販
売し納入した美容液「V.C.プレエッセンス」)が、資生堂が保有する本件
特許(特許番号第5241058号)を侵害するものであったかどうか自体
明らかでないとの原判決の認定について
10 ア 本件特許の特許請求の範囲は、
「グリシルグリシン、β-アラニン、フェ
ナセツル酸から選ばれる1種以上からなる毛穴縮小剤」
(乙5)との端的な
記載となっており、明示されている中の1種である「グリシルグリシン」
を使用した「毛穴縮小剤」であれば、本件特許の範囲と抵触する。
そして、原判決は、
「本件商品は、毛穴収縮効果のための成分として本件
15 成分を含む設計となっていた」と前提事実を認定しており、本件商品が本
件成分(グリシルグリシン)を使用した毛穴縮小剤であることを認定して
いる。
上記の証拠関係や事実認定からすれば、本件商品が、本件特許を侵害す
るとの評価は明らかである。これに対して、特段、かかる評価を減殺する
20 具体的な理由に言及することなく、
「本件商品が、本件特許を侵害するもの
であったかどうか自体明らかでない」と認定する原判決の判断は、証拠及
び経験則に反する。
イ また、本件は、国内有数の企業である資生堂の技術知財部部長が、文書
によって、本件商品に対する警告を個別具体的に行っている事案である(乙
25 6)。かかる前提として、当然に、資生堂においても特許権侵害に関する事
前調査を行い、その上で、警告に至っているものと思われ、このような事
情からしても、本件特許を侵害するものであったかどうか自体明らかでな
い、という認定に至った原判決の判断は妥当でない。
⑵ dr365が商業的な理由から本件成分の配合をやめたことも窺われる
とし、本件特許の侵害の恐れがあることを原因としてdr365に損害が発
5 生した事実を認めるに足りる証拠はないとした原判決の認定について
ア 特許権にかかる法規制上、特許権侵害の事実が認められれば、現に販売
している製品の差止めのみならず、過去に行った製品の販売に関して、特
許権侵害者は、民法709条及び特許法102条に基づく損害額の推定規
定に基づき、損害賠償義務を負うことになる。
10 そのため、特許権の侵害に関する警告を受けた場合に、警告を受けた者
が、正面から、特許権侵害を認める旨の書面回答を行えば、過去の販売分
に関する多額の損害賠償請求を求められる事態に発展しかねないため、初
期的には、特許権侵害に関する事実関係にはできるだけ回答を避けつつ、
仕様変更等による穏便な解決提案を行い、特許権者の出方を伺うという対
15 応は、実務上、何ら珍しいものではないといえる。
むしろ、正面から特許権侵害を自認し、仕様変更等の提案を行うことは、
仕様変更等を行った場合には過去の販売分に対する損害賠償請求を行わ
ない旨の明確な提案が特許権者側からなされているような場合を除き、法
的リスクが極めて高い対応であり、基本的に選択されることはないといえ
20 る。
イ 本件商品は、令和3年11月頃から既に販売が開始されており、資生堂
から警告を受けた令和4年6月頃には、相応の販売数量となっていた。ま
た、その頃には、控訴人において、被控訴人が本件成分を使用することに
ついて「特に問題はない」と回答していた経緯を把握していた。
25 そのため、dr365及び控訴人としては、相応の追加費用が発生する
仕様変更等を行いつつ、さらに、仕様変更までの販売分に対しても損害賠
償を負担することになれば、両者で多大な負担を余儀なくされることから、
資生堂の出方を伺いながら、対応を行う方針を取ることとし、回答内容を
慎重に検討しつつ、対応を進めた事案である。
令和4年6月の警告書受領後、同年7月4日付け回答(乙7)で、誠実
5 な対応を印象付け、穏便な解決を目指すことを意図して、専門家も交えて
真摯に検討を行っていること、暫定的にウェブサイト上からグリシルグリ
シンの使用に関する文言を削除するとの対応を行う意向を電子メールに
おいて資生堂に説明することとしている。しかしながら、本件特許の特許
請求の範囲の記載や、本件商品では毛穴収縮効果を狙ってグリシルグリシ
10 ンを使用しているという事実、さらに当時行われていた広告等の記載につ
いては資生堂も既に把握している可能性が高いと思われること等から、特
許権侵害の事実を正面から否定する議論を行うことは困難と判断し、仕様
変更の可能性を早期に示唆する言及も付加して行うことで、資生堂の反応
を伺うこととし、上記回答を行った。
15 これに対して、資生堂からは、損害賠償請求も示唆する強い反応が見ら
れなかったことや、dr365において仕様変更の具体的な目途が立った
こと等から、令和4年8月8日付けで、
「商業上の理由から11月末までに
はグリシルグリシンを配合した製品は、販売を停止する予定」との一歩踏
み込んだ回答を行うこととしたものである。
20 乙7のとおり、当時、資生堂からは、仕様変更を行うのであれば損害賠
償請求を行う意向はないとの明確な提案がなされているわけではなかっ
た。そのため、
「調査の結果、特許権侵害の事実を認識したため」などと特
許権抵触の認識を自認して仕様変更を行うといった回答を行うことは、損
害賠償請求リスクを高めることになり、他方で、仕様変更を行う理由に何
25 ら言及しないのも不自然であることから、便宜上、仕様変更を行う理由と
して、「商業上の理由」との理由を使用したに過ぎない。
その結果、資生堂からは、仕様変更を行うのであれば問題ないとの回答
があり、資生堂が穏便に済ませる選択をしてくれたことで、損害賠償を回
避する形で解決にたどり着くことができたという事案である。
ウ 仮に原判決のとおり、dr365が商業上の理由から仕様変更を行った
5 のであれば、そもそも、控訴人において、dr365から仕様変更にかか
る費用負担の要求に応じるはずがない。控訴人は、dr365が、グリシ
ルグリシンを配合した製品の販売継続を希望していたが、資生堂から警告
を受けてしまった以上、やむなく仕様変更に転じたという経緯を認識して
いるからこそ、dr365からの費用負担の請求を応諾しているものであ
10 る。
エ 以上のような特許権侵害に関する対応実務を踏まえず、dr365が行
った回答内容を表面的に捉え、dr365が商業的な理由から本件成分の

配合をやめたことも窺われる」と認定した原判決の判断は、実務的な対応
にそぐわない経験則違反の事実認定である。
15 また、本件特許の内容(乙5)や本件商品の実態、さらには資生堂から
警告文書(乙6)が届いているという事実関係からして、本件商品が本件
特許に係る特許権を侵害しているおそれ自体を、当時否定することは困難
な状況である。それにもかかわらず、
「本件特許の侵害の恐れがあることを
原因としてdr365に損害が発生した事実も認めるに足りる証拠はな
20 い」と認定した原判決の判断は、証拠や経験則に基づかない不合理な認定
である。
⑶ 本件契約(令和元年10月1日、被控訴人と控訴人との間で締結された、
被控訴人が控訴人の営業に関する業務を代行するとの契約)において被控訴
人が行うべき業務に、特許等の知的財産権の調査は含まれておらず、特許権
25 侵害の点について専門家に助言を得るなどして調査を行う義務があったとも
解し難いとした原判決の認定について
ア 被控訴人は、自身が対応すべきであった業務の内容について、自ら、
「化
粧品のトータルプロデュース(化粧品の成分及び配合率の確定、容器やラ
ベル、化粧品箱等のデザインや材質の選定)」と説明している(原審訴状2
頁目)。また、尋問においても、「ゼロからお客さんのニーズに応えて、一
5 から商品を作って、最終的にお客様に届け(る)」業務であり、製造工場や
原材料の仕入れ先等も全て決定する業務であったと説明している(原審に
おける被控訴人尋問調書22頁目)。
「お客さんのニーズに応えて」商品をプロデュースする業務である以上、
顧客が継続的な商品販売を想定している案件では、おのずと、そのような
10 継続的な販売が可能となる原材料や仕入先、製造工場を選定し、商品化を
行うことが役割として求められているといえ、この事実は、当事者間で争
いがない事実といえる。
このような中、顧客から、現在の配合が、他社の特許権を侵害して継続
的な販売に耐えられるのかといった趣旨の問い合わせを受けた場合には、
15 「トータルプロデュース」業務の一環として、適切に対応する必要がある
ことは明らかである。全般的な特許権抵触の可能性に関する調査義務の有
無と、顧客から具体的に特許権侵害のリスクに関する問い合わせを受けた
場合の対応は、同等に扱われるべきでもない。
にもかかわらず、原判決が、顧客から特許権に関する個別具体的な問い
20 合わせがあったという点を重視せず、
「本件契約において原告(被控訴人)
が行うべき業務とされていたのは、顧客に対する商談、クロージング、新
規口座獲得といった営業業務であって、特許等の知的財産権の調査は含ま
れていなかった」と表面的に認定をしたことは、当事者の主張や証拠関係
に基づかない判断である。
25 イ さらに、原判決は、本件契約の文言から、dr365に対する不法行為
の成否を直接的に判断していることが窺われるが、契約関係に照らして、
誤りである。被控訴人と控訴人との間で締結された本件契約は、被控訴人
と控訴人との間のいわば内部的な再委託にかかる契約であり、dr365
との契約関係や義務内容を直接的に規定した書面ではない。
本件の契約関係は、法的には、控訴人とdr365との間において、本
5 件商品が商品化された場合には控訴人において製造が行われることを前
提とした、本件商品の商品化までを支援するトータルプロデュースに関す
る業務委託関係が存在するものである。そして、控訴人は、かかる業務を、
被控訴人に再委託していたものであり、かかる再委託に関する契約関係が
本件契約である。実際に、被控訴人も、控訴人の社員である旨の名刺を持
10 ち、dr365に対しては「シンギーの営業部長」であると説明して業務
を行っていた(原審における被控訴人調書22頁目)と説明しており、被
控訴人が、独立した立場で顧客に対応していなかったことは、当事者間に
争いがない事実である。
ウ そして、控訴人は、顧客のニーズに応じて商品をプロデュースする業務
15 の委託を顧客から受けており、顧客から、他社の特許権を侵害して継続的
な販売に耐えられるのかといった趣旨の問い合わせを受けた場合には、ト

ータルプロデュース」業務の一環として、適切に対応し、商品化を助言す
る義務を負っていたと考えていることから、dr365に対する費用負担
を応諾しているものである。
20 エ 控訴人としては、上記被控訴人が説明する「トータルプロデュース」業
務内容を踏まえると、本件契約に基づき、被控訴人の業務内容となってい
た「トータルプロデュース」業務と、控訴人がdr365から委託されて
いた「トータルプロデュース」業務の内容に、差異はないと考えているも
のの、仮に、これらの内容に差異があるとの判断となったとしても、本件
25 契約の記載から、dr365に対する不法行為の成否を直接判断すること
はできないはずであり、この点において、原判決の判断は誤りである。
⑷ 原判決が、専ら被控訴人の調査義務の有無に基づき、不法行為の成否を判
断しており、回答内容や回答に至る過程について判断していない点について
ア 本件のように、顧客から、成分名や特許権者名を具体的に挙げて、対象
となる特許を特定する形で、特許権の侵害リスクに関して具体的な問い合
5 わせを受けた場合には、顧客がリスクに応じた適切な判断を行うことがで
きるように対応することが、顧客に対する「化粧品のトータルプロデュー
ス」業務やこれに付随する義務として含まれていたことは明らかである。
調査を行う義務がないのであれば、適当な内容を回答してよい、というこ
とにはならない。
10 そして、本件のような顧客からの個別具体的な問い合わせに対しては、
以下のような適切な対応を行うべきであり、故意又は過失により不適切な
対応を行った場合には、顧客に対する不法行為責任を負うものといわざる
を得ない。
具体的には、①問い合わせを受けた被控訴人において判断が困難であれ
15 ば、控訴人の役職員や控訴人の顧問弁護士に顧客からの相談内容を報告し、
必要な調査を行った上で顧客に対する回答を行うか、②被控訴人が行った
限定的な調査内容を正確に説明した上で、顧客自身において必要な調査を
行うように促す回答を行うか、③特許等の調査が業務内容に含まれていな
いと考えるのであれば、業務内容に含まれていないため対応いたしかねる
20 旨を顧客に対して回答を行うか、いずれかの対応及び回答を行うことが、
顧客から問い合わせを受けた被控訴人の立場として求められる対応であ
ったといえる。
イ しかし、被控訴人は、少なくとも、インターネット等により他社製品の
存在を確認したことや、わずか2社の製造工場に確認を行ったことは伺わ
25 れるものの、特に留保を付けずに、
「特に問題はない」旨の回答をdr36
5に対して行っており、かかる被控訴人による回答内容の事実自体は、原
判決においても認定をされている。他方で、どのような方法で、どのよう
な調査を行ったのかについて、dr365にどの程度、具体的に説明した
のかは、重要な事実といえるが、原判決では特段の認定が行われていない。
それまで本件商品のトータルプロデュースを進めてもらい、本件商品の
5 商品化に向けて様々なやり取りを行ってきた被控訴人から「特に問題はな
い」旨の回答を受ければ、dr365としては、本件商品に、本件特許の
侵害のリスクはないと判断することもやむを得ず、その後に、dr365
において、独自にリスク検討を行わずに商品化に移行することもやむを得
ない回答を行ってしまったといえる。
10 このように原判決は、被控訴人の調査義務の有無に言及するが、特許権
の侵害リスクに関して具体的な問い合わせを受けた場合の対応として、適
切かという観点から、慎重な判断がなされなければならなかったといえる。
そして、被控訴人がdr365に対して、十分な調査を行っていないに
もかかわらず、
「特に問題はない」と回答を行ってしまったことは、控訴人
15 がdr365から委託を受けていた「トータルプロデュース」業務やこれ
に付随する義務に違反する、dr365の財産権を侵害する行為といわざ
るを得ない。
ウ したがって、本件における被控訴人の対応は、dr365との関係では
不法行為を構成し、損害賠償責任を負うものといわざるを得ない。
20 ⑸ 控訴人による追加証拠の提出
被控訴人による対応の不適切さ、及び過失の重大さ等に関わる事実として、
被控訴人が、控訴人の顧問弁護士に容易にアクセス可能でありながら、本件
特許に関するdr365からの問い合わせに関しては、報告や相談すらしな
かった事実を裏付ける証拠として、令和2年5月ないし12月のメールを提
25 出する(乙12の1ないし12の6)。被控訴人は、かなりの高頻度で、顧問
弁護士への問い合わせを行っており、控訴人の法務資源を使用することが認
められていた。
内容としても、乙12の4の問い合わせは、契約書の署名欄のフォーマッ
トが崩れているが問題ないかといった、控訴人の社内でも判断が可能なよう
な些末な質問まで、控訴人の顧問弁護士に問い合わせる内容となっており、
5 顧問弁護士への問い合わせに制限がなかったことが裏付けられる内容となっ
ている。
そして、被控訴人が、控訴人の顧問弁護士に対して、自由に、制限なくア
クセスすることができたことをこれ以上なく強く裏付けるメールが、令和4
年4月4日付けのメールであり、控訴人の顧問弁護士の立場として利益相反
10 となってしまうこのような問い合わせを顧問弁護士に対して行うべきではな
いことは明らかである。メールの内容からしても、法的な相談よりも、顧問
弁護士まで話を広げれば解決できると考えたことも窺われる。いずれにして
も、事案の内容やメールの記載等から、被控訴人が、控訴人に対して特に相
談などすることなく、独自の判断で顧問弁護士に問い合わせを行ったことは
15 明らかである。
上記経緯は、まさに、被控訴人が、自由に、制限なく、控訴人の顧問弁護
士に問い合わせを行うことができたという事情を強く裏付ける事実といえる。
被控訴人は、このようないつでも弁護士に問い合わせを行うことができる
という事実を認識しつつ、dr365からの問い合わせに対しては、控訴人
20 の役職員や、控訴人の顧問弁護士に報告や相談をせずに、回答を行っている。
そして、尋問において、被控訴人が「詳しく調べたら、この商品自体が出
来上がってなかったんじゃないかというふうに思います。」と回答したこと
が、本件の実態を何よりも示しているものといえる。被控訴人は、特許権の
侵害リスクに関して、被控訴人の顧問弁護士に相談するなどして具体的な調
25 査を行った場合には、特許権の侵害リスクが顕在化し、本件商品の商品化が
実現せず、自身に対する成功報酬の支払も行われないことを懸念し、意図的
に調査を尽くさなかった側面がある。このような被控訴人の対応は、極めて
不適切であり、重大な過失による行為といわざるを得ない。
⑹ 損害の発生について
原判決は、端的に控訴人がdr365に対する増加費用の負担分を支払っ
5 ていないため、「求償権の主張はこの点からも理由がない」と判断を示すが、
民法715条3項は、使用者が損害賠償金を実際に支払わなければ求償権が
発生しないとは規定していない。
被控訴人は、dr365から金額を明示して、損害賠償請求を実質的な内
容とする請求書(乙9)を受領し、請求された金額を支払う旨をdr365
10 に対して約束をしている。ただ、被控訴人との紛争が進行中であるため、3
者での全体的な解決に向けて、被控訴人との紛争が決着するまで支払を待っ
てほしいと伝え、事実上、支払の猶予を受けているに過ぎない。
法人間の合意により、支払合意が成立している以上、
「損害」の発生が法的
に認められない理由はなく、この点のみを理由に、被控訴人の主張を排斥す
15 ることは不当である。
⑺ 1回の使用量設定不備について
原判決は、
「結局のところ、本件商品を流通に置いた後に使用者から寄せら
れたクレームによって明らかとなった不具合について、dr365の代表者
から苦情を申し入れられ、これに対応するものとして行われたものというべ
20 きであ」る、として、不法行為の成立を否定する。
しかし、
「トータルプロデュース」業務としては、顧客のニーズに従って商
品化を行うことが求められているところ、1か月もたない仕様で、本件商品
を商品化してしまったことは、不適切といわざるを得ない。
そして、かかる商品化に際して、被控訴人が行ったことは、スポイトとい
25 う吸い方によって使用量がまちまちとなる設計の製品において、特に1回の
使用量の目安となる印などを商品上に置くという助言を行わなかったこと、
喫茶店における「水」を使った1回のみの検証によって55回から56回し
か吸えなかったにもかかわらず、「約1ヶ月使える」と安易な回答を行って、
商品化まで行ってしまったことに尽きる。
クレームが、本件商品を流通に置いた後に発生したものだとしても、その
5 原因が、商品化段階の、被控訴人のトータルプロデュース業務の不備による
ものであれば、不法行為の成立が否定されることにはならない。
以上のとおり、被控訴人の対応や回答内容の不備について、踏み込んだ評
価・判断を行わず、本件商品を流通に置いた後に発生したクレームであるこ
と等を理由に、不法行為の成立を否定する原審の判断は、証拠及び経験則に
10 違反する。
4 当審における控訴人の予備的な追加主張及びこれに対する被控訴人の反論
〔控訴人の予備的な追加主張〕
⑴ 債務不履行に基づく損害賠償請求(予備的主張)の追加
原判決において不法行為責任を否定する判断がなされているため、不法行
15 為に基づく損害賠償請求が認められなかった場合の予備的な主張として、債
務不履行に基づく損害賠償請求との構成を追加する。
本件は、本件商品が商品化された場合には控訴人において製造が行われる
ことを前提に、控訴人とdr365との間において、本件商品を商品化まで
行うトータルプロデュースに関する業務委託関係が存在し、控訴人は、かか
20 る業務を、本件契約に基づき被控訴人に再委託していたと評価されるべき事
案である。控訴人とdr365との間のトータルプロデュースに関する業務
委託契約は、書面としては存在しないが、被控訴人が、控訴人の営業部長と
して対応を行っていたという経緯から、控訴人とdr365との間の法的な
業務委託契約関係が存在したことは、当事者間に争いがない事実である。
25 かかる業務委託契約において、控訴人は、顧客のニーズに応じて商品をプ
ロデュースする業務の委託を受けており、
(ⅰ)顧客が継続的な商品販売を想
定している案件では、継続的な販売が可能となる原材料や仕入先、製造工場
を選定し、商品化を助言する義務、
(ⅱ)控訴人では判断ができず顧客におい
て選択や判断が必要な事項については、その旨を説明する等して、商品化を
支援する義務を負っていたといえる。そして、控訴人は、基本的には、同内
5 容のトータルプロデュース業務を、本件契約に基づき、被控訴人に再委託を
したものである。
控訴人と被控訴人との間で締結された本件契約では、
「乙(判決注:被控訴
人)は、甲(判決注:控訴人)にとって最大の利益となるよう、誠実かつ積
極的に本件業務を行うものとする。また、乙は、甲の信用を傷つける行為、
10 その他甲の利益を害する行為を行わないことを誓約する。 2条1項、

」 甲2)
との内容が規定されており、被控訴人は、控訴人に対して、控訴人の信用を
毀損するほか、利益を害する行為を行わない義務を負うものとされていた。
このような契約内容からすれば、被控訴人は、商品化する商品に使用する
成分のすべてについて全般的な特許権等の調査義務(確認等を求められてい
15 ないにもかかわらず調査確認を行う義務)までは負わないと評価されるとし
ても、少なくとも、被控訴人が、顧客から法的な問い合わせを受けた場合に
は、①問い合わせを受けた被控訴人において判断が困難であれば、委託者で
ある控訴人の役職員や控訴人の顧問弁護士に顧客からの相談内容を報告し、
必要な調査を行った上で顧客に対する回答を行うか、②被控訴人が行った限
20 定的な調査内容を正確に説明した上で、顧客自身において必要な調査を行う
ように促す回答を行うか、③特許等の調査が業務内容に含まれていないと考
えるのであれば、業務内容に含まれていないため対応いたしかねる旨を顧客
に対して回答を行うか、いずれかの対応及び回答を行うことが、顧客から問
い合わせを受けた被控訴人の立場として求められる対応であったといえる。
25 ⑵ 債務不履行の事実
しかし、本件では、被控訴人は、控訴人の役職員や控訴人の顧問弁護士に
対して、一切、報告や相談を行わなかった。
仮に、委託者である控訴人への報告や相談を行わずとも、自身において十
分な調査を行うか、顧客に対して自身での検討を促すような留保付きの回答
を行っていれば、まだ、顧客においてリスク判断を適切に行うことができた
5 可能性があるが、本件では、インターネット上での検索や、製造工場2社へ
の聞き取りといった、わずか数日の簡易な調査のみを行い、その上で、
「特に
問題はない」とdr365に対して回答をしてしまっている。なお、控訴人
としては、被控訴人がどこまで調査を行ったのかは客観的に立証されておら
ず、疑義があると考えており、実施した調査内容に関する主張を認める趣旨
10 ではない。
原審においても主張したとおり、他社製品の存在は、ライセンスに基づく
使用等も十分に考えられるところ、調査としては何ら意味がないものである。
また、製造工場2社への聞き取りも、結果的に、本件のとおり資生堂から警
告を早期に受けるに至っていることから調査方法として不適切であったこと
15 が裏付けられている。
特に、被控訴人は、特許については「難しすぎて、とてもじゃないけど分
からない」と自ら述べているとおり(原審における被控訴人尋問調書29頁)、
特許権は、専門的な事項であり、自身において十分な判断ができないことを
十分認識していた。それにもかかわらず、不十分な調査のみを行い、控訴人
20 には報告や相談をせず、自由なアクセスが可能であった控訴人の顧問弁護士
にも問い合わせを行っていない。
繰り返しとなるが、被控訴人が、全般的な特許権等の調査義務を負わない
と評価されるとしても、顧客から個別具体的な問い合わせを受けた以上は、
これに対して、前記のような適切な対応を行う義務があったことは明らかで
25 あり、本件における被控訴人の対応は、債務不履行との評価を免れない。少
なくとも、控訴人に報告をするか、控訴人の顧問弁護士に相談をすべきであ
ったことは明らかである。
⑶ 帰責性及び損害賠償の上限
債務不履行構成の場合、本件契約上の制限が適用されることについて、控
訴人としても争わないが、被控訴人は「詳しく調べたら、この商品自体が出
5 来上がってなかったんじゃないかというふうに思います。」と回答している
ことから、被控訴人は、当時、成功報酬の獲得を優先するために、故意に適
切な対応を講じずに、商品化を優先させたと評価されるといわざるを得ない。
また、被控訴人は、控訴人の役職員はもちろん、控訴人の顧問弁護士に対
して、自由に制限なく、問い合わせを行うことができる状況であった。それ
10 にもかかわらず、控訴人や顧問弁護士に一切の報告や相談を行わずに、
「特に
問題はない」との回答をdr365に対して行ったことは、被控訴人が商品
化を優先させたことが窺われる経緯も踏まえると、少なくとも、重大な過失
の存在を基礎づける事情といわざるを得ない。
そうすると、被控訴人は、本件契約において認められる範囲の損害賠償義
15 務を負うことになる。具体的には、受領する委託代金相当額が上限となると
ころ、既に受領している145万8534円(税込)及び原審において認定
された183万1500円(税込)並びに果実として発生する遅延損害金を
上限として、被控訴人は、控訴人に対する損害賠償義務を負うものといえる。
その結果、控訴人が被った損害のうち、183万1500円及び遅延損害
20 金の部分に関しては、相殺により債権が消滅し、被控訴人は、受領済みの1
45万8534円及びこれに対する遅延損害金を控訴人に対して支払う義務
を負うものといえる。
⑷ 被控訴人の時機後れの主張に対して
被控訴人の時機後れとの主張については、原審において主張していた不法
25 行為に基づく損害賠償請求と基本的な事実は共通しており、追加の証拠等を
提出しておらず、新たな証拠調べも要しないため、訴訟の完結を遅延させる
ものとはいえず、理由がない。
〔被控訴人の反論〕
⑴ 控訴人は、当審において、予備的主張として、債務不履行に基づく損害賠
償請求の追加をするが、これは、原審による審理を受けた後に、原判決では
5 判断が示されていない事項について、新たに予備的な追加の主張をするもの
であり、原審の審理を省略する不適法なものであって、時機に後れた攻撃防
御方法であるから、却下すべきである。
⑵ 控訴人の主張は否認ないし争う。控訴人が、dr365との間で本件商品
に関する契約を締結する以前に、被控訴人は控訴人との間で本件契約を締結
10 しており、再委託されたものではない。
控訴人は、資生堂からの「貴社製品は本件特許との関係が問題となるもの
と考えております」との文書(乙6)に対し、約1か月の検討期間を経て、
自らが、
「専門家に相談の上、貴社の上記特許内容の確認、精査等を行いまし
たが、確定的な判断がつきませんでした。」と回答しており(乙7)、資生堂
15 も「当社としては問題ございません。」と了承し、結果として、特許権侵害の
事実は確認されていないのであるから、結局のところ、被控訴人の対応を問
題にする余地はない。
控訴人は、被控訴人が特許権侵害の可能性について適切な対応を講じなか
ったことが債務不履行となる旨主張するが、本件特許についての特許権侵害
20 の可能性に関しては、結局、被控訴人の対応が原因で、控訴人又はdr36
5に何らかの損害が発生したことを認めるに足りる的確な証拠はない。
控訴人は、被控訴人の上記不適切対応という債務不履行によって、どのよ
うな損害が生じたのか、損害の発生や因果関係について明確に主張しない。
第3 当裁判所の判断
25 1 当裁判所も、被控訴人の本訴請求は、原判決主文第1項掲記の限度で認容し、
その余は棄却すべきであり、控訴人の反訴請求は棄却すべきであり、控訴人が
当審で追加した請求は棄却すべきものと判断する。その理由は、当審における
控訴人の主張も踏まえ、次のとおり補正し、後記2のとおり当審における控訴
人の補充主張に対する判断を付加し、後記3のとおり当審における控訴人の追
加主張に対する判断を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中、第3の
5 1ないし3(原判決12頁12行目ないし21頁13行目まで)に記載のとお
りであるから、これを引用する。
⑴ 原判決13頁11行目の「行うようになった」を「行うようになり、約1
50件の営業案件の依頼を受けた」と改める。
⑵ 原判決14頁15行目の「外れるように指示し、」の次に「被控訴人はdr
10 365の担当から外れ、控訴人代表者は、」を加える。
⑶ 原判決14頁25行目冒頭から15頁14行目末尾までを、次のとおり改
める。
「(8) 本件商品は、毛穴収縮効果のための成分として本件成分を含む設計と
なっていたところ、同年1月頃、dr365の取引先からdr365に
15 対し、本件成分を毛穴収縮剤として用いることは資生堂の保有する本件
特許を侵害しているのではないかとの懸念が示され、その頃、dr36
5からその旨が控訴人に伝えられた。前記のとおり、この頃、既に被控
訴人はdr365の担当を外れていた。控訴人はdr365から特許権
侵害の懸念について連絡を受け、顧問弁護士を交えて調査を開始し、顧
20 問弁護士から紹介を受けた弁理士資格を持つ弁護士に相談をするなどし、
本件商品が本件特許に抵触する可能性があるという話も聞いたが、その
まま特段の行動を取ることなく、dr365に対する本件商品の納品を
続け、dr365も本件商品のホームページにおける宣伝を続けていた。
そうしたところ、同年6月3日頃、資生堂からdr365に対し、本件
25 商品について本件特許との関係が問題となるものと考えられる旨の同年
5月20日付けの通知文書が送付され、dr365のホームページにお
ける本件商品の記載によれば、本件特許との抵触が問題となるとの指摘
がされた。dr365及び控訴人において対応を検討した結果、同年7
月4日頃、dr365のウェブサイトから本件成分に関する記載を削除
し、資生堂に対しては、本件特許の内容の確認・精査を継続している旨
5 を伝えるとともに、原材料の供給元との兼ね合いなどの問題から本件商
品の成分変更を模索している最中である旨を伝えた。その上で、同年8
月8日、dr365は、資生堂に対し、上記通知に対する回答として、
本件特許の侵害の点については確定的な判断がつかなかったとしつつも、
商業上の理由から同年11月末までには本件成分を配合した製品の販売
10 を停止する予定である旨を連絡したところ、資生堂から、ホームページ
の記載が変更され、同月末には販売を停止するということであれば問題
はない、との返答を得た。」
⑷ 原判決16頁3行目の「回答し、」の次に「同月5日には『特許侵害の件に
ついて X さんが解決に努めましたか?』などと送信して、」を加え、同頁1
15 3行目の末尾の次を改行し、次のとおり加える。
「(11) 控訴人代表者は、その陳述書において、控訴人の意思として、
『被控訴
人から、本件訴訟において、資生堂の本件特許に関する問い合わせに対
して適切な対応を行ったとの主張が出てくるようであれば、dr365
に対し、その旨反論を行うことを考えていたが、被控訴人から説明のあ
20 った内容からすると、被控訴人の対応には落ち度があり、控訴人はdr
365に対し法的責任を免れないと考えている』旨述べた。(乙11)」
⑸ 原判決17頁8行目の「ら、」の次に「その相当性はともかくとして、」を
加える。
⑹ 原判決18頁8行目の「ア」を「⑴」と改め、同頁23行目の「示され、」
25 の次に「その頃、」を加え、同頁24行目の「開始されたこと」を「開始され
たが、その頃には既に被控訴人はdr365の担当を外れていたこと」と改
める。
⑺ 原判決19頁21行目末尾の後に次のとおり加える。
「控訴人は、被控訴人がdr365の担当を外れた後、令和4年1月頃、d
r365から特許権侵害の懸念について連絡を受け、顧問弁護士を交えて調
5 査を開始し、顧問弁護士から紹介を受けた弁理士資格を持つ弁護士に相談を
するなどし、本件商品が本件特許に抵触する可能性があるという話も聞いた
にもかかわらず、令和4年6月に資生堂からdr365に通知文書が送付さ
れるまでは、特段の行動を取ることなく、dr365に対する本件商品の納
品を続け、dr365も本件商品のホームページにおける宣伝を続けていた
10 ものであり、また、資生堂から通知文書が送付された後、dr365と控訴
人において対応を検討し、その結果、令和4年7月頃、dr365のホーム
ページから本件成分に関する記載を削除し、特許権侵害について確定的な判
断がつかなかったとしつつ商業上の理由により本件成分を配合した製品の販
売を同年11月に停止することにより、対応しようとしたものである。この
15 ような態度からすると、控訴人が特許権の侵害を厳に避けようとしていたと
は認められず、むしろ、特許権侵害の可能性があっても、問題が大きくなら
なければ商品の販売等を続けるとの方針であったものとうかがわれ、特許権
侵害の問題に対するこのような控訴人の対応からすると、控訴人の業務を代
行するに当たって、被控訴人に、特許権の侵害の有無を厳格に調査すべき義
20 務が課されていたと認めることはできない。」
⑻ 原判決19頁24行目の「715条3項」 「民法715条3項」
を と改め、
同頁26行目の「支払っておらず、」の次に、「仮に控訴人に民法715条1
項に基づく損害賠償義務が生ずるとしても、控訴人の賠償によって被控訴人
がその責任を免れたということはできず、」を加える。
25 ⑼ 原判決20頁2行目の「イ」を「⑵」と改める。
⑽ 原判決21頁10行目末尾の後に次のとおり加える。
「なお、本件不支給合意は、被控訴人において、本件契約3条3項により受
領できるはずの令和4年3月以降の報酬請求権を一方的に放棄する内容であ
るところ、控訴人代表者は、令和3年12月中旬に、dr365からのクレ
ームと担当者変更の要請を理由として、被控訴人に強く迫り、そのような内
5 容の本件不支給合意を成立させたものであった。しかし、同月当時は、未だ
dr365が取引先から本件特許の侵害の懸念を示されておらず、本件特許
の侵害の問題は顕在化していなかったから、本件不支給合意の成立をもって、
被控訴人が特許に関する対応について不法行為の成立を認めていたとはいえ
ず、また、本件不支給合意は、被控訴人がdr365の担当を外れて本件商
10 品に関する業務を行うことを要しなくなった後の本件商品に関する報酬額を
不支給とするものと解されるから、本件不支給合意の成立をもって、直ちに、
被控訴人が1回当たりの使用量をめぐるdr365への対応について不法行
為の成立を認めていたともいえない。」
⑾ 原判決21頁11行目の「ウ」を「⑶」と改める。
15 2 当審における控訴人の補充主張に対する判断
⑴ 控訴人は、前記第2の3⑴及び⑵のとおり、本件商品が本件特許を侵害す
るものであったかは明らかでないとし、商業的な理由から本件成分の配合を
やめたことも窺われるとする原判決の認定は誤りである旨を主張する。
本件商品が本件特許を侵害するか否かについては、控訴人は、dr365
20 から本件商品が本件特許を侵害するのではないかとの懸念を伝えられた令和
4年1月頃以降、弁護士らを交えて詳細に検討したとするのであるから、控
訴人において、容易に立証可能であるところ、控訴人はこの点について、本
件商品の成分を明らかにして特許請求の範囲と比較するなどの具体的な立証
を行っていない。本件商品が本件特許を侵害することを自認するのであれば
25 それはそれとして、控訴人代表者は、その陳述書において、dr365の代
表者から、
「本件商品の成分や配合比率を検討する段階において、被控訴人に
対し、本件成分を使用することは資生堂の特許との関係で問題がないのか、
という形で、成分名や資生堂という名前を具体的に挙げて問い合わせを行っ
たところ、被控訴人から特に問題ないという回答があったため、安心して商
品化を進めた」と聞いた旨述べる(乙11)。そうであるとすれば、dr36
5 5において、本件商品の商品化前の段階で、本件成分を含有することで本件
商品が資生堂の本件特許に抵触する可能性を十分に認識していたのであるか
ら、それにもかかわらず専門的な資格を有する者でもない被控訴人の返答に
安易に依拠して商品化を進め販売を行ったことの帰責は、dr365自身に
あることになる。
10 この点を措くとしても、控訴人は、本件商品には販売開始時から本件成分
が高濃度で配合されることとなった(原審における被告反訴状7頁)と主張
しているのであるから、本件商品をdr365に対しOEM販売している控
訴人としては、遅くとも令和4年1月頃にdr365から本件特許との抵触
を相談された際には、本件商品が本件特許の技術的範囲に属するか否かにつ
15 いて速やかに判断した上で、相応の対応を行うことができたはずである。し
かし、控訴人は、dr365が同年6月に資生堂から警告を受けるまでの約
5か月間、特段の措置を講ずることなく本件商品のOEM販売を続けている
(原判決別紙2ないし4) また、
。 資生堂は警告の際にdr365の本件商品
に関するホームページの記載を指摘しているところ、このホームページの記
20 載についても、dr365は資生堂の警告を受けるまでそのまま掲載を続け
ていた。顧問弁護士等に相談した上で取られたこれらの行動からは、控訴人
及びdr365が特許権侵害を危惧し、それを避けようとしていたとは認め
られない。
むしろ、控訴人において、
「控訴人は、dr365が、グリシルグリシンを
25 配合した製品の販売継続を希望していたが、資生堂から警告を受けてしまっ
た以上、やむなく仕様変更に転じたという経緯を認識しているからこそ、d
r365からの費用負担の請求を応諾しているものである。(前記第2の3

⑵ウ)と主張しているとおり、控訴人及びdr365は、遅くとも同年1月
頃以降は、本件商品は本件特許を侵害する可能性が高いと考え、弁護士及び
弁理士を交えて検討した(原審における控訴人代表者の尋問調書11頁)上
5 で、本件成分が毛穴収縮効果をもたらすことから、本件商品のホームページ
上の宣伝及びその販売を継続し、控訴人はdr365に対して本件商品を、
同年2月に合計1万5000個(原判決別紙3。当事者間に争いがない。、

同年3月に合計2万9000個以上販売し、さらに、控訴人代表者が被控訴
人に対して特許権侵害の問題に言及して本件契約に基づく報酬の支払を拒ん
10 だ(補正の上で引用した原判決第3の1⑼)同年4月5日以降の分だけでも、
同年5月13日に至るまで、dr365に対し、合計2万個以上、納入価格
にして1000万円を超える本件商品のOEM販売を続けていた(原判決別
紙4。当事者間に争いがない。。ところが、同年6月に資生堂からの警告を

受けるに至り、やむなくdr365のホームページの掲載及び本件商品の販
15 売を止めたというものである。これらの事実に照らせば、控訴人もdr36
5も、本件商品が本件特許を侵害するとの指摘が事実か否かが重要なのでは
なく、資生堂からの警告を受けるか否かが重要であり、それまでは、本件商
品の宣伝及び販売を継続するとの姿勢であったことが明らかである。
このように、控訴人及びdr365は、資生堂から警告を受ける前におい
20 て、弁護士らとも相談の上で、上記のようなホームページへの掲載及び販売
の継続を行っていたものであるから、このような経緯は、資生堂に対して、
商業上の理由から本件商品に本件成分を使わないこととしたとのdr365
の説明(補正の上で引用した原判決第3の1⑻)と整合するものであり、前
記の同年4月5日の控訴人代表者の被控訴人に対する特許権侵害に関する言
25 及も、結局のところ、支払義務の存する同年1月分及び2月分の報酬の支払
を拒む口実にとどまると考えるのが上記経過に沿うものといえる。
したがって、原判決の認定に誤りはなく、控訴人の上記主張は採用するこ
とができない。
⑵ 控訴人は、前記第2の3⑶ないし⑸のとおり、被控訴人において本件特許
との抵触について調査をする義務があり、またこれにつき控訴人の顧問弁護
5 士らに相談することも容易であるから、被控訴人の不法行為の成立を否定し
た原判決は誤りであるとして、それに沿う証拠として、被控訴人が容易に相
談できたとするメールを提出する(乙12各枝番、13)。
しかし、補正の上で引用した原判決第3の3⑴のとおり、本件業務に含ま
れていない特許権侵害の点について、被控訴人において専門家に相談するな
10 どして調査を行う義務があったものとは解されず、当審で提出された証拠は
その認定を左右するものではないから、被控訴人に不法行為は成立しない。
したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
⑶ 控訴人は、前記第2の3⑹のとおり、求償権の主張に理由がないと判断し
た原判決は誤りであると主張する。
15 既に検討したとおり、被控訴人のdr365に対する対応において、dr
365に対し損害を与えたものとは認められないから、求償権の行使に関す
る控訴人の主張には理由がない。
なお、控訴人は、かかる求償権の内訳として、
「アットコスメプロモーショ
ンキャンセル料」とする320万円、
「余剰在庫買取分」とする264万95
20 00円などもdr365の求めに応じ控訴人が負担すべきものとするが、こ
れらは、控訴人とdr365とが本件特許の侵害の有無について検討して侵
害の可能性について認識した後においても本件商品の宣伝・販売等を続けて
きたことによるものとみられ、被控訴人の行為に起因するものとは言い難く、
そもそも被控訴人にその負担を求め得るものとはみられない。また、
「各種検
25 査費用」として求償するという149万7000円について、その内容は「敏
感肌パッチ・アレルギー・スティンギング・ノンコメド・4週間運用試験」
であるとするところ、被控訴人の対応不備によりdr365に発生した損害
を示すものとしてdr365が作成した一覧表には、上記と同一内容、同一
金額が「グリシルグリシン」に起因するものと「処方変更関連」に起因する
ものとで二重に計上されており(乙8)、その上、控訴人代表者は、dr36
5 5の求めに応じ控訴人において負担すべき費用であり被控訴人に求償すべき
ものであるとしながら、試験の具体的な中身は分からず試験費用の請求書等
について確認もしていないとし(控訴人代表者尋問調書24頁) これらの内

訳や内容、それらの負担が必要となった理由は不明である。結局のところ、
求償権として控訴人が主張する内容は、前記のとおりのdr365の本件特
10 許に関する認識や対応に照らし、控訴人とdr365との基本契約14条等
に基づき、控訴人とdr365との間での適切な分担額が定められるべきも
のというほかない。
したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
⑷ 控訴人は、前記第2の3⑺のとおり、本件商品の1回の使用量の不備につ
15 き被控訴人の不法行為が成立する旨を主張する。
しかし、補正の上で引用した原判決第3の3⑵のとおり、控訴人の主張す
る本件商品が流通に置かれた後の不具合は、被控訴人のdr365に対する
不十分な対応に起因するものとは認められないから、被控訴人の不法行為は
成立しない。
20 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
3 当審における控訴人の追加主張に対する判断
⑴ 被控訴人は、前記第2の4〔被控訴人の反論〕⑴のとおり、当審における
追加主張に係る債務不履行に基づく請求原因事実について、時機に後れた攻
撃防御方法であるとして却下の申立てをする。
25 控訴人は、原審において主張した不法行為と同一の事実関係に基づき法的
評価に関する主張を行うものとするところであり、被控訴人の当審における
答弁書の提出を受け、控訴人が上記請求原因を追加した後の令和6年11月
7日の当審第1回口頭弁論期日において、口頭弁論が終結されるに至ってい
るから、控訴人が上記主張を提出したことによって本件訴訟の終結が遅延し
たということはできない。
5 したがって、上記被控訴人の主張には理由がないから、被控訴人の上記申
立ては却下する。
⑵ 控訴人は、前記第2の4〔控訴人の予備的な追加主張〕⑴ないし⑶のとお
り、被控訴人の債務不履行により控訴人に損害が生じた旨を主張する。
しかし、補正の上で引用した原判決第2の2⑶、第3の1及び3⑴のとお
10 り、被控訴人はdr365のほか150件もの営業案件を担当しており、そ
の業務は顧客に対する商談、新規口座の獲得等の営業業務であり、被控訴人
において、その業務に含まれない特許権に関する調査等を行う義務があった
ものとは解されず、被控訴人に債務不履行の事実は認められない。本件特許
の侵害に関する問題に対する控訴人の態度からすると、控訴人が特許権の侵
15 害を厳に避けようとしていたとは認められず、特許権侵害の可能性があって
も、問題が大きくならなければ商品の販売等を続けるとの方針であったもの
とうかがわれることからすれば、業務を行うに当たって、被控訴人に、特許
権の侵害の有無を厳格に調査すべき債務が課されていたと認めることはでき
ない。むしろ、控訴人は、被控訴人との間では本件契約に基づき営業に関す
20 る契約しか締結されていないことを前提として、dr365ら顧客に対し基
本契約14条に基づきOEM商品供給をすることを踏まえ、その商品に使用
される原材料等に関し必要な調査を行う体制を整えるべきものであったとい
える。
したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
25 4 結論
以上で述べたほか、控訴人が種々主張するところは、いずれも理由がなく、
採用することはできない。
そうすると、その余の点について判断するまでもなく、被控訴人の本訴請求
は、原判決主文第1項掲記の限度で理由があるから認容し、その余の本訴請求
は理由がないから棄却すべきであり、控訴人の反訴請求はいずれも理由がない
5 から棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由が
ないから棄却すべきであり、さらに、控訴人が当審で追加した請求は理由がな
いから棄却すべきである。
よって、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
中 平 健
裁判官
今 井 弘 晃
裁判官
水 野 正 則

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