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令和5(ワ)12280損害賠償請求事件

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裁判所 請求棄却 大阪地方裁判所大阪地方裁判所
裁判年月日 令和7年1月30日
事件種別 民事
当事者 原告景観技術株式会社
被告東京製綱株式会社
対象物 防潮壁および防潮壁用部品組
法令 特許権
特許法102条1項1回
民法709条1回
キーワード 侵害23回
特許権7回
実施6回
無効5回
新規性3回
損害賠償2回
主文 1 原告の請求を棄却する。20
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 本件は、発明の名称を「防潮壁および防潮壁用部品組」とする特許(以下 「本件特許」という。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。)を有する原 告が、被告が本件特許の特許請求の範囲請求項1記載の発明(以下「本件発明」と いう。)の技術的範囲に属する別紙「被告製品目録」記載の製品(以下「被告製品」 という。)を製造し、販売等することは本件特許権の侵害に当たると主張して、被5 告に対し、不法行為(民法709条)に基づき、損害賠償金9573万5200円 及びこれに対する令和5年3月24日(不法行為日)から支払済みまで民法所定の 年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

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判決文

令和7年1月30日判決言渡 同日原本受領 裁判所書記官
令和5年(ワ)第12280号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結の日 令和6年12月2日
判 決
原 告 景 観 技 術 株 式 会 社
同代表者代表取締役
同訴訟代理人弁護士 松 岡 直 樹
10 被 告 東 京 製 綱 株 式 会 社
同代表者代表取締役
同訴訟代理人弁護士 小 林 幸 夫
同 弓 削 田 博
同 藤 沼 光 太
15 同 平 塚 健 士 朗
同訴訟代理人弁理士 牛 久 健 司
同 井 上 正
同 高 城 貞 晶
主 文
20 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
被告は、原告に対し、9573万5200円及びこれに対する令和5年3月24
25 日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は、発明の名称を「防潮壁および防潮壁用部品組 」とする特許(以下
「本件特許」という。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。)を有する原
告が、被告が本件特許の特許請求の範囲請求項1記載の発明(以下「本件発明」と
いう。)の技術的範囲に属する別紙「被告製品目録」記載の製品(以下「被告製品」
5 という。)を製造し、販売等することは本件特許権の侵害に当たると主張して、被
告に対し、不法行為(民法709条)に基づき、損害賠償金9573万5200円
及びこれに対する令和5年3月24日(不法行為日)から支払済みまで民法所定の
年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実(争いのない事実、掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定
10 できる事実)
(1) 当事者(甲1、2)
原告は、土木建築工事業及び資機材の販売等を目的とする株式会社である。
被告は、道路関連施設、棟梁等の鋼構造物、海洋関連施設の設計・製造等を目的
とする株式会社である。
15 (2) 本件特許権(甲3)
原告は、次の本件特許権を有している。本件特許権の特許請求の範囲、明細書及
び図面(以下、明細書及び図面を「本件明細書」という。)の記載は、別紙「特許
公報」のとおりである。
ア 登録番号 特許第5254944号
20 イ 優先日 平成21年4月13日(以下「本件優先日」という。)
ウ 出願日 平成21年12月18日
エ 登録日 平成25年4月26日
オ 発明の名称 防潮壁および防潮壁用部品組
(3) 構成要件の分説
25 本件発明の構成要件は、別紙「本件発明に関する充足論(文言侵害)」の「構成
要件」欄のAないしCのとおり分説される。
(4) 被告製品の構成
ア 被告製品の構造の概要は、別紙図面1のうち「B-B断面図 S=1/2」
及び別紙図面2のとおりであり、別紙図面2のうち「枠体」及び「押縁」は金属製
ないしアルミニウム製である(争いのない事実、弁論の全趣旨)。
5 イ 被告製品の構成には争いがあり、当事者の主張は、別紙「本件発明に関する
充足論(文言侵害)」の「被告製品の構成」欄の「原告の主張」欄及び「被告の主
張」欄各記載のとおりであるが、被告製品が、本件発明の構成要件A及びB①を充
足することは被告は争っておらず、同Cを充足することについても実質的に争いは
ない(被告は、被告製品が本件発明の構成要件B②ないしB④の特徴を有すること
10 を争うものであって、同C固有の充足性を争う趣旨ではないと解される。)。
(5) 被告の行為
被告は、別紙「工事目録」記載の各工事(以下、併せて「本件工事」という。)
につき、同目録記載の各請負業者に対して被告製品を販売・納品した(なお、被告
は、同目録記載の「工期」には変更があった旨主張するが、被告製品の販売・納品
15 の事実は争いがない。)。
3 争点
(1) 本件発明の技術的範囲への属否(争点1)
ア 文言侵害の成否(争点1-1)
イ 均等侵害の成否(予備的主張。争点1-2)
20 (2) 本件発明の無効理由の有無(争点2)
ア 明確性要件違反の有無(争点2-1)
イ 公然実施品である、野川(東京都を流れる一級河川)に架かる吉澤橋に設置
されたアクリル止水パネル(以下「野川止水パネル」という。)に基づく新規性欠
如の有無(争点2-2)
25 ウ 公然実施品である、神戸港に設置されたシーウォール(以下「神戸港シーウ
ォール」という。)に基づく新規性欠如の有無(争点2-3)
(3) 損害の発生及びその額(争点3)
第3 争点についての当事者の主張
1 本件発明の技術的範囲への属否(争点1)
(1) 文言侵害の成否(争点1-1)
5 本件発明に係る構成要件B②ないしB④の充足性(文言侵害)についての当事者
の主張は、別紙「本件発明に関する充足論(文言侵害)」の「構成要件充足性」欄
の「原告の主張」欄及び「被告の主張」欄各記載のとおりである。
(2) 均等侵害の成否(予備的主張。争点1-2)
本件発明に係る構成要件B③の充足性(均等侵害)についての当事者の主張は、
10 別紙「本件発明に関する充足論(均等侵害)」の「均等侵害の成否」欄の「原告の
主張(予備的主張)」欄及び「被告の主張」欄各記載のとおりである。
なお、被告は、原告による均等侵害についての主張は時機に後れた攻撃防御方法
(民訴法157条1項)として却下されるべきであるとしている。
2 本件発明の無効理由の有無(争点2)
15 本件発明の無効理由(明確性要件違反、公然実施品である野川止水パネル又は神
戸港シーウォールに基づく新規性欠如)の有無に関する当事者の主張は、別紙「本
件発明に関する無効論」記載の各無効理由に対応する「原告の主張」欄及び「被告
の主張」欄各記載のとおりである。
3 損害の発生及びその額(争点3)
20 〔原告の主張〕
被告が本件工事について販売した被告製品は、下記の①ないし④のサイズごとに
各記載の枚数(合計145枚)である。各サイズに相当する原告製品(本件発明を
利用した原告製造・販売に係るシーウォール。以下同じ。)の単価及び販売額の小
計は、それぞれ下記のとおりであり、①ないし④の合計販売額は2億1758万円
25 であるところ、原告製品の利益率は40パーセントを下らないから、これを上記合
計販売額に掛けた8703万2000円が、特許法102条1項により算定される
原告の損害額である。これに弁護士費用870万3200円(上記金額の10%)
を加えた額は9573万5200円であり、原告は、被告による本件特許権の侵害
によって、少なくとも同金額の損害を被った。

5 ① H1000×W2500×t:60 26枚 単価 1,810,000 円 小計 47,060,000 円
② H700×W2500×t:50 28枚 単価 1,370,000 円 小計 38,360,000 円
③ H500×W2500×t:40 27枚 単価 960,000 円 小計 25,920,000 円
④ H1000×W2000×t:60 64枚 単価 1,660,000 円 小計 106,240,000 円
〔被告の主張〕
10 争う。
第4 当裁判所の判断
1 本件発明の技術的範囲への属否(争点1)について
被告製品が、本件発明の構成要件A、B①及びCに係る構成を有することは(実
質的に)争いがない。
15 そこで、争いのある構成要件B②の充足性(「その透明樹脂板の縁部を挿入でき
る溝付きの枠体」を備えるか)、同B③の充足性(「透明樹脂板・枠体間の水密用
のパッキン」を備えるか)及び同B④の充足性(「枠体の溝の内側に透明樹脂板の
縁部を解除可能に拘束する拘束手段」を備えるか)が問題となる。
(1) 文言侵害の成否(争点1-1)について
20 事案に鑑み、構成要件B③の充足性から検討する。
ア 構成要件B③の充足性(「透明樹脂板・枠体間の水密用のパッキン」を備え
るか)について
(ア) 構成要件B③の解釈について
a 本件明細書には、以下の内容が示されている(各段落の具体的記載及び図面
25 は、別紙「特許公報」参照。ただし、同公報の【図2】(a)及び(b)は、別紙図面3
の【本件明細書図2(a)及び(b)】と同じである。)。
(a) 背景技術・本件発明が解決しようとする課題
防潮壁は、一般的にはコンクリート等で形成されるところ、防潮壁に透明樹脂板
を設けると、陸側から海や河川や湖沼等を眺めることができるため、景観にすぐれ
るほか、高潮や洪水等によって水位が上昇したときも防潮壁を通して海や河川等の
5 様子を知ることができるため、警戒のレベルを把握したり避難準備をしたりするこ
とが容易であるなど、安全面でも有利である(【0002】【0004】)。先行技術文献
である特許文献1(特開2008-208681号公報)及び同2(特許第413
4242号公報)では、アクリル等の透明樹脂板を一部に使用する防潮壁が提案さ
れているが、透明樹脂板は、硬度が低く熱に弱いという短所を有しているため、傷
10 が付いたり、タバコの火を押し付けられて一部が変形したりすることによって表面
がクリアでなくなり、透明度が次第に低下することが避けられず、何年かの後には、
透明樹脂板を通して海や河川等を明瞭に眺めることが難しくなり、景観や安全に関
する利点が失われてしまう可能性がある(【0003】【0005】【0006】)。本件発明
は、表面の傷等によって透明樹脂板の透明度が低下したとき、その樹脂板を容易に
15 取り替えできるようにした防潮壁、及びそのように防潮壁を構成するための防潮壁
用部品組を提供するものである(透明樹脂板の代わりにガラス板が使用されている
場合も同様)(【0007】)。
(b) 前記課題を解決するための手段
本件発明による防潮壁用部品組は、コンクリート製の防潮壁(防水壁を含む。)
20 に透明樹脂板(半透明のものを含む。)を組み付けるための防潮壁用部品組であっ
て、当該透明樹脂板と、その透明樹脂板の縁部(全周縁とは限らない。)を挿入で
きる溝付きの枠体と、透明樹脂板・枠体間の水密用のパッキンと、枠体の溝の内側
に透明樹脂板の縁部を解除可能に拘束する拘束手段とを含むことを特徴とする。透
明樹脂板としては、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂等から選ばれる熱可塑性樹脂
25 等を使用できる。上記の枠体としては鉄鋼等の金属(ステンレス鋼、アルミニウム
鋼等)を使用し、上記パッキンとしては、板ゴム等を使用するとよい。(【0008】)
上のような部品組は、例えば以下の 1)ないし 3)のように使用することにより、
コンクリート製の防潮壁に対して透明樹脂板を取替え可能に組み付けることを可能
にする。
1) 防潮壁のコンクリートに、海や河川の側と陸の側とに通じる開口又は切り欠
5 き等を設け、そこに上記の枠体を取り付ける。枠体は、コンクリートの開口や切り
欠きの内側にボルト等で固定する(その場合は枠体とコンクリートとの間にも水密
部材を使用する。)ようにしてもよく、開口や切り欠きの内側においてコンクリー
トに埋め込む(ただし、溝の内側にはコンクリートを入れない。)ようにしてもよ
い。
10 2) 透明樹脂板を、その縁部を上記枠体の溝に挿入することによって、上記コン
クリートの開口又は切り欠き等に取り付ける。
3) そうした透明樹脂板と枠体の溝との間に水密用のパッキンを取り付けるとと
もに、上記拘束手段によってその枠体の溝の内側に当該樹脂板の縁部を拘束し、固
定する。(【0009】)
15 上記のようにして、透明樹脂板は、枠体を介してコンクリート製の防潮壁に組み
付けることができる。拘束手段により縁部を拘束するので同樹脂板をしっかりと固
定することができ、また上記のようにパッキンを取り付けるので同樹脂板の周囲の
防水性を確保できる。コンクリート製の防潮壁に透明樹脂板が設けられるため、前
記のとおり景観の面でも安全の面でも好ましい。コンクリート製の防潮壁に直接に
20 同樹脂板を取り付けるのではないことから、取り付けの際又はその後に、同樹脂板
に無理な力が作用したり、そのために同樹脂板が変形したり割れたりするおそれが
ない。例えば、枠体と同樹脂板との間に多少の隙間(変位しろ)をとることが容易
なので、夏季等に同樹脂板が熱膨張する場合等にも同樹脂板が変形・破損等を起こ
しにくくなる。発明の部品組を使用する場合、枠体を適切に構成すると、拘束手段
25 による拘束を解除することにより、組み付けた透明樹脂板を再度枠体から取り出す
ことができる。また、別の透明樹脂板を、同じ枠体内に上記 1)ないし 3)と同様に
挿入し固定することも可能になる。そのため、発明の部品組によると透明樹脂板の
取替えが可能になり、表面の傷等によって樹脂板の透明度が低下した場合にも、透
明度を回復させて景観や安全上の利点を維持することができる。(【0010】)
(c) 本件発明の効果
5 本件発明の防潮壁用部品組によれば、透明樹脂板又はガラス板を含むゆえに景観
と安全性にすぐれた防潮壁を容易に構成することができ、取り付けの際又はその後
に透明樹脂板やガラス板を変形・破損等し難くすることもできる。一旦組み付けた
透明樹脂板やガラス板を枠体から取り出して取り替えることが可能になるので、表
面の傷等によって樹脂板やガラス板の透明度が低下した場合にも、透明度を回復さ
10 せて、防潮壁における景観や安全上の利点を維持することができる。(【0020】)。
本件発明の防潮壁は、透明樹脂板又はガラス板を含むため景観面・安全面におい
て好ましいほか、上記の防潮壁用部品組を使用することから、上記の利点をそのま
まもたらすものといえる。組み付けた透明樹脂板やガラス板を取り替えることがで
きるので、景観や安全に関する利点が永続的に発揮される。(【0021】)
15 (d) 発明を実施するための形態
本件明細書の【図1】(防潮壁1の正面図)は、本件発明の第一の実施形態を示
すものであり、【図2】(a)は、図1で示したⅡ-Ⅱラインの断面図(防潮壁1の
横断面図)、【図2】(b)は、同(a)におけるb部の詳細図である(【0022】)。
【図2】(b)の枠体12におけるコの字状の溝の中には、透明樹脂板11の縁部を
20 挿入するほか、樹脂板11と枠体12との間をシール(水密)するとともに樹脂板
11に局部的な力がかからないようにするためのゴム板製(水密性等を有するなら
他の材料のものでもよい。)のパッキン19A・19Bを、透明樹脂板11の表裏
各面に当てて同図で示されているように挿入する(【0025】)。
b 検討
25 (a) 構成要件B③における「水密」の字義は「機械・装置などで、隙間などか
ら水が漏れないようになっている状態」(乙20、広辞苑第六版。第七版も同じ。)
であるところ、「透明樹脂板・枠体間の」との語に続けて「水密用」との用途の記
載があることからすれば、「パッキン」は「透明樹脂板・枠体間の水密用」、すな
わち透明樹脂板と枠体の間から水が漏れないようにすることのために用いられるも
のとの解釈が合理的であり、当業者もそのように理解すると考えられる。
5 (b) また、本件明細書においても、本件発明は、防潮壁の透明樹脂板が傷等に
より透明度が低下した場合に容易に取り替えることができるようにした防潮壁及び
防潮壁用部品組を提供することを課題とし(前記 a(a))、課題を解決するための
手段につき、枠体は金属を使用し、パッキンは板ゴム等を使用するとよい旨の記載
や、「1)」の「枠体は、コンクリートの開口や切り欠きの内側にボルト等で固定す
10 る(その場合は枠体とコンクリートとの間にも水密部材を使用する。)ようにして
もよく」との記載、「3)」の「そうした透明樹脂板と枠体の溝との間に水密用のパ
ッキンを取り付ける」との記載があり、「上記のようにパッキンを取り付けるので
同樹脂板の周囲の防水性を確保できる。」とされる(前記a(b))。これらの記載
からすると、本件発明において透明樹脂板と枠体間の水密は課題解決のための前提
15 とされており、「パッキン」はかかる水密のために用いられるものと解されるので
あり、構成要件B③の文言は、透明樹脂板と枠体との間から水が漏れて枠体の内側
部分に水が入り込まないように、透明樹脂板と枠体との間を全て「パッキン」で塞
ぐという趣旨と解釈するのが当業者にとって合理的である。そして、前記a(d)の
とおり、本件発明の第一の実施形態である本件明細書の【図2】(a)及び(b)(別紙
20 図面3の【本件明細書図2(a)及び(b)】)においても、水密性を有するパッキン
(19A・19B)を、透明樹脂板(11)の表裏各面に当てて同図で示されてい
るように挿入し、同樹脂板と枠体(12)との間をシール(水密)するものとされ
ており、上記の解釈に沿っている。
(c) 前記(a)及び(b)で述べたことに照らせば、構成要件B③が規定する「透明
25 樹脂板・枠体間の水密用のパッキン」については、当業者にとって、透明樹脂板と
枠体との間にパッキンが一部でも存在すれば足りると解されるものではなく、透明
樹脂板と枠体との間の全体につき水密化する(水が漏れないようにする)ためのパ
ッキンが存在することを要するものと解するのが、同構成要件の自然な文言解釈で
あり、かつ、本件明細書の記載にも合致するというべきである。
(d) 原告は、本件発明の課題からすれば、透明樹脂板が容易に取り替えできる
5 ように固定された枠内に、透明樹脂板、水密用パッキン、拘束手段が存在すれば足
り、「水密用パッキン」の配置等の施工態様については、当業者の適宜の選択に委
ねられるから、特許請求の範囲等において枠体と透明樹脂板との間の全部を必ずパ
ッキンで覆うよう限定する理由はなく、構成要件B③の文言どおり、アクリル板と
枠体との間に水密用のパッキンが存在すれば足りる旨主張する。
10 しかし、原告の主張を前提とすると、構成要件B③の文言において、「透明樹脂
板・枠体間のパッキン」ではなく、「透明樹脂板・枠体間の水密用のパッキン」と
規定されていることと整合しない。また、「透明樹脂板・枠体間の水密用」との文
言からすると、パッキンが水密化する対象は透明樹脂板と枠体の間であると解する
のが自然である。そうすると、構成要件B③の文言は、むしろ「透明樹脂板・枠体
15 間について水が漏れないようにするためのパッキン」と解釈すべきである。したが
って、原告の主張は採用できない。
(イ) 被告製品について
被告製品についてみると、前提事実(4)ア及び別紙図面2のとおり、透明樹脂板
であるアクリル板の海側の面と「枠体」(金属製)との間には、「ゴムガスケット」
20 と「押縁」(アルミニウム製)があるところ、原告が主張するように「ゴムガスケ
ット」が「水密用のパッキン」に当たるとしても、アクリル板と枠体の間の全体が
パッキンにより水密化されているとは認められない。
これに対し、原告は、被告製品(別紙図面2)においては拘束手段に相当する
「押縁」がメタルパッキンとしての役割を兼ね、ゴムガスケットと同様にアクリル
25 板と枠体の間の水密を保つ作用を果たしている旨主張する。しかしながら、アルミ
ニウム製である「押縁」が、金属製である「枠体」との接触面において、「水密」、
すなわち(必ずしも完全ではないとしても)水が漏れて入り込まない状況を保つ作
用を果たしていることを明らかにする証拠がなく、これを認めるに足りないから、
原告の主張は採用できない。
したがって、被告製品の構成b③(別紙「本件発明に関する充足論(文言侵害)」
5 の「被告製品の構成」欄のb③)は被告主張のとおりと認められ、「ゴムガスケッ
ト」が「水密用のパッキン」に当たるか否かにかかわらず、透明樹脂板と枠体との
間の全体につき水密化するためのパッキンが存在するとはいえないから、被告製品
は構成要件B③を充足しない。
イ 以上のとおり、被告製品は構成要件B③を充足しないから、その余の構成要
10 件について検討するまでもなく、被告製品に関する文言侵害は認められない。
(2) 均等侵害の成否(予備的主張。争点1-2)について
前記(1)のとおり、被告製品は、構成要件B③の「透明樹脂板・枠体間の水密用
のパッキン」との構成を備えておらず、少なくともこの点において本件発明と相違
するため、原告が予備的に主張する均等侵害の成否につき検討する。
15 ア 特許請求の範囲に記載された構成中に相手方が製造等をする製品又は用いる
方法(以下「対象製品等」という。)と異なる部分が存する場合であっても、①同
部分が特許発明の本質的部分ではなく(第1要件)、②同部分を対象製品等におけ
るものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏
するものであって(第2要件)、③上記のように置き換えることに、当該発明の属
20 する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が、対象製品等の製造等
の時点において容易に想到することができたものであり(第3要件)、④対象製品
等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから同出願
時に容易に推考できたものではなく(第4要件)、かつ、⑤対象製品等が特許発明
の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなど
25 の特段の事情もないとき(第5要件)は、同対象製品等は、特許請求の範囲に記載
された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが
相当である(最高裁平成6年(オ)第1083号同10年2月24日第三小法廷判
決・民集52巻1号113頁参照)。
事案に鑑み、まず第2要件について検討する。
イ 第2要件について
5 原告は、均等侵害の第2要件につき、被告製品の「ゴムガスケット」が低い性能
や形状のCRゴム製品であっても本件発明の目的を達成することができ、同一の作
用効果を奏する旨主張する。
しかし、前記(1)のとおり、被告製品については、「ゴムガスケット」が「水密
用のパッキン」に当たるか否かにかかわらず、別紙図面2の「押縁」と「枠体」の
10 接触面における水密が認められず、透明樹脂板と枠体との間の全体につき水密化す
るためのパッキンが存在するとはいえないという点で本件発明の構成要件B③を充
足しないのであるから、被告製品の「ゴムガスケット」の性能等がいかなるもので
あれ、本件発明の構成要件B③を被告製品の構成に置換しても本件発明と同一の作
用効果が得られるとはいえない。
15 原告は、本件発明の目的は、コンクリート製の防潮壁に設置された枠体の溝の内
側に透明樹脂板を解除可能に固定する拘束手段で固定するというものであり、水密
性能はともかく被告製品において本件発明の目的を達成できる旨を主張するが、透
明樹脂板・枠体間の水密は本件発明の構成要件B③に明確に規定され、同目的達成
の前提となる構成であるから、透明樹脂板・枠体間の水密化がされていない以上、
20 第2要件は充足されない。
したがって、均等侵害の第2要件を認めることはできない。
ウ 以上のことからすると、被告製品に関して、本件発明に対する均等侵害の成
立を認めることはできない(なお、被告は、原告による均等侵害についての主張は
時機に後れた攻撃防御方法(民訴法157条1項)として却下されるべきであると
25 するが、上記主張は、争点整理中の心証開示前の段階でされたものであって時機に
後れたものとまではいえないし、訴訟の完結を遅延させることとなるとも認められ
ないから、被告の上記申立ては却下する。)。
(3) 小括
以上のとおり、被告製品は、本件発明の技術的範囲に属しない。
2 結論
5 よって、その余の争点につき判断するまでもなく、原告の請求は理由がないから
棄却することとし、主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官
武 宮 英 子
裁判官
阿 波 野 右 起
裁判官
25 西 尾 太 一
(別紙)
被告製品目録
別紙工事目録記載1ないし4の各工事で設置された「枠付アクリル板」と称する
5 取り外しが可能な構造を有するアクリル板及び防潮壁にアクリル板を設置するため
の別紙図面1及び2記載の防潮壁用部品組(図面中のコンクリート部分は除く。)
以 上

※ 別 紙 工事目録(15頁)及び特許公報(19~33頁)については
掲 載 省略
( 別 紙 図面1)
( 別 紙 図面2)
( 別 紙 図面3)
【 本 件 明細書図2(a)及び (b)】
( 符 号 の説明)
5 1 防潮壁
2 コンクリート壁
11 透明樹脂板
1 2 ・13 枠体
1 9 A・19 B パッキン
10 以 上

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