令和6(行ケ)10101審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
|
裁判年月日 |
令和7年4月10日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告アレフ
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法令 |
商標権
商標法4条1項10号8回 商標法4条1項15号6回 商標法4条1項1回
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キーワード |
審決9回 無効6回 実施1回 商標権1回 優先権1回
|
主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
1 特許庁における手続の経過等(当事者間に争いがない。)25
23日にフランス国においてした商標登録出願に基づく優先権を主張し、2
019年(令和元年)5月15日に国際商標登録出願、第7類、第9類及び
3年6月11日に登録査定、同年11月12日に設定登録されたものである。5
2 本件審決の理由の要旨
0号該当性を否定するとともに、周知性が認められないから引用商標に係る商
0」、「SCANTEC4000」、「SCANTEC5000」等、「SCA
10号に該当しない。
3 取消事由
1 取消事由1(引用商標の周知性に関する判断の誤り)について
3000」以降、一貫して引用商標である「SCANTEC」の名称を使用し
0」に次いで原告の「SCANTEC」の検索件数が多かったことは、引用
1981 年 12,000 部 株式会社オプトロニクス社
4.0%であったものの、2006年には10%台まで落ち込み、2011
11月23日頃には、引用使用商品の国内市場シェアは相当程度落ち込んだ20
10の新聞記事(平成4年11月26日付け日本工業新聞)は、査定型カメ
2 取消事由2(商標法4条1項10号該当性判断の誤り)について
3 取消事由3(商標法4条1項15号該当性判断の誤り)について
15号の無効理由がある。
1 取消事由1(引用商標の周知性に関する判断の誤り)について
9~60)に掲載された統計データから分かる国内市場シェアは、原告らの
2 取消事由2(商標法4条1項10号該当性判断の誤り)について5
3 取消事由3(商標法4条1項15号該当性判断の誤り)について10
4 結論5 |
事件の概要 |
1 特許庁における手続の経過等(当事者間に争いがない。)25
(1) 被告が商標権を有する国際登録第1496667号商標(以下「本件商
標」という。)は、以下の構成からなり、2018年(平成30年)11月
23日にフランス国においてした商標登録出願に基づく優先権を主張し、2
019年(令和元年)5月15日に国際商標登録出願、第7類、第9類及び
第42類に属する別紙の商品及び役務を指定商品及び指定役務として、令和
3年6月11日に登録査定、同年11月12日に設定登録されたものである。5
(2) 原告は、令和4年10月19日付け審判請求書にて、特許庁に対し、本10
件商標について、商標法4条1項10号及び15号該当を理由に、本件商標
の指定商品及び指定役務中、第9類の全ての指定商品、及び第42類の指定
役 務 中 「 computer system analysis; design and development of
computers and software for measuring; research and development of
new products for third parties in the field of precision measuring;15
computer system design; software development in the context of
software editing; software development, software installation, |
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判決文
令和7年4月10日判決言渡
令和6年(行ケ)第10101号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和7年3月6日
判 決
原 告
ナガセテクノエンジニアリング株式会社
同訴訟代理人弁理士 三 上 真 毅
被 告 ア レ フ
15 同訴訟代理人弁護士 千 且 和 也
同訴訟代理人弁理士 内 田 佐 江 子
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
20 事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が無効2022-680001号事件について令和6年10月23日
にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
25 1 特許庁における手続の経過等(当事者間に争いがない。)
(1) 被告が商標権を有する国際登録第1496667号商標(以下「本件商
標」という。)は、以下の構成からなり、2018年(平成30年)11月
23日にフランス国においてした商標登録出願に基づく優先権を主張し、2
019年(令和元年)5月15日に国際商標登録出願、第7類、第9類及び
第42類に属する別紙の商品及び役務を指定商品及び指定役務として、令和
5 3年6月11日に登録査定、同年11月12日に設定登録されたものである。
10 (2) 原告は、令和4年10月19日付け審判請求書にて、特許庁に対し、本
件商標について、商標法4条1項10号及び15号該当を理由に、本件商標
の指定商品及び指定役務中、第9類の全ての指定商品、及び第42類の指定
役 務 中 「 computer system analysis; design and development of
computers and software for measuring; research and development of
15 new products for third parties in the field of precision measuring;
computer system design; software development in the context of
software editing; software development, software installation,
maintenance of computer software; calibration; electronic data
storage; monitoring of computer systems for fault detection;
20 monitoring of computer systems by remote access; design and
development of computer hardware and software for measuring
technology; research and development of new products for third
parties in the field of precision measuring; massive data analysis
computer services.」(以下「請求商品及び請求役務」という。)について
25 の商標登録を無効とする審判を請求した。
特許庁は、上記の申立てを無効2022-680001号事件として審理
を行い、令和6年10月23日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との
審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は同月29日原告に送達
された。
(3) 原告は、令和6年11月28日、本件審決の取消しを求める本件訴えを
5 提起した。
2 本件審決の理由の要旨
本件審決は、以下のとおり、引用商標の周知性を否定し、商標法4条1項1
0号該当性を否定するとともに、周知性が認められないから引用商標に係る商
品又は役務と混同を生ずるおそれもないとして、同項15号該当性も否定した。
10 (1) 引用商標
原告が、本件商標の登録の無効の理由として引用する商標(以下「引用
商標」という。)は、以下のとおり「SCANTEC」の文字を横書きして
なるものであり、原告が「表面欠陥検査装置」(以下「引用商品」という。)
について使用し、需要者間で広く知られていると主張するものである。
(2) 引用商標の周知性について
20 原告が引用商標の周知性の根拠として主張する「SCANTEC300
0」 「SCANTEC4000」 「SCANTEC5000」等、
、 、 「SCA
NTEC(Scantec) (引用商標)の文字を使用した表面欠陥検査装
」
置(以下、これらをまとめて「引用使用商品」という。)に関する分野にお
ける国内市場シェア、展示会出展の事実、引用使用商品が紹介された新聞及
25 び専門誌の存在、引用使用商品を記載した特許公報の存在については、引用
使用商品単独での国内市場シェアが分からないなど、周知性を測る事実とし
て不十分なものである。
よって、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、引用使用商品
に使用されている引用商標が、原告又は原告の親会社で引用使用商品に係る
事業を原告に承継させた長瀬産業株式会社(以下「長瀬産業」といい、原告
5 と併せて「原告ら」という。)の業務に係る商品を表示するものとして、我
が国の取引者及び需要者の間において、広く知られていると認めることはで
きない。
(3) 商標法4条1項10号該当性について
本件商標は、「SCANTECH」の文字部分が自他商品及び役務の識別
10 標識として強く支配的な印象を与える部分といえるから、これを要部として
分離、抽出し、他人の商標と比較して商標の類否を判断することも許される。
そして、当該「SCANTECH」の文字は、辞書類に掲載された語ではな
く、特定の意味合いをもって親しまれた語でもないから、一種の造語として
理解される。
15 そうすると、本件商標と引用商標は、観念において比較できないとして
も、外観において近似した印象を与え、称呼「スキャンテック」を共通にす
るから、両者は類似の商標である。しかし、引用商標は、原告らの業務に係
る商品を表示するものとして、我が国の取引者及び需要者の間で広く認識さ
れていたものではないから、本件商標の指定商品及び指定役務と引用商標の
20 使用商品の類否について検討するまでもなく、本件商標は、商標法4条1項
10号に該当しない。
(4) 商標法4条1項15号該当性について
本件商標と引用商標とは類似性の程度が高く、本件商標の請求商品及び
請求役務と引用商標の使用商品が一定程度の関連性を有し、引用商標が一定
25 程度の独創性を有するといい得る。しかし、引用商標は、本件商標の登録出
願時及び登録査定時において、原告らの業務に係る商品を表示するものとし
て、我が国の取引者及び需要者の間に広く知られているものではないから、
本件商標が請求商品及び請求役務に使用された場合、需要者をして引用商標
を連想又は想起させることは考えにくく、請求商品及び請求役務が他人(原
告ら)あるいは同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に
5 係る商品又は役務であると誤認させ、商品又は役務の出所について混同を生
じさせるおそれはない。
したがって、本件商標は、商標法4条1項15号に該当しない。
3 取消事由
(1) 引用商標の周知性に関する判断の誤り
10 (2) 商標法4条1項10号該当性判断の誤り
(3) 商標法4条1項15号該当性判断の誤り
第3 取消事由に関する当事者の主張
1 取消事由1(引用商標の周知性に関する判断の誤り)について
【原告の主張】
15 原告及びその親会社である長瀬産業(原告は、平成28年に長瀬産業から引
用使用商品に係る事業を承継した。)は、1990年発売の「SCANTEC
3000」以降、一貫して引用商標である「SCANTEC」の名称を使用し
てきている。本件の引用商品は、事業者の生産設備や製造工程・ラインに組み
込まれて利用される産業用のものであるから、店頭に陳列して販売に供される
20 ものではない。しかも、需要者の製造ラインに用いられる商品の性質上、納入
先や数量・スペック等は内部情報に関わり、実際の需要者の公表を控えざるを
得ない。さらに、引用商品は、メンテナンスなどのために長期的・継続的なサ
ポートが必要であり、一旦納入されれば、エンドユーザーやその社内関係者は、
連日、原告らの引用商標及び引用使用商品を目にする。こうした事情を前提に、
25 以下の点に鑑みれば、引用使用商品については、長年の使用期間、十分な納入
実績、売上げ、国内市場シェアが認められ、引用商標には周知性があるという
べきである。
(1) 株式会社富士経済発行の「画像処理システム市場の現状と将来展望」
(甲49~60)に掲載された統計データを基に、引用使用商品を含む「S
CANTEC」シリーズの販売数量、金額及び市場シェアを見てみると、数
5 量ベース及び金額ベースとも、過去20年間継続して、「Web外観検査装
置」市場の国内シェア10%前後で推移している。また、メーカー名を時系
列でみると、2002年(平成14年)以降、常に上位に掲載されたメー
カーは原告らしかなく、しかも、近年は、原告を含む11社で国内市場シェ
ア(金額ベース)の95%近くを占めるに至っている。この国内市場シェア
10 は、引用使用商品の他に廉価版の商品を加えたものであるが、当該廉価版で
ある「WebSENSOR」及び「WEBSENSORⅡ」は「SCANT
EC」シリーズのオプションとして位置付けられており、これら廉価版のモ
ニターには「SCANTECELEMENTS」又は「SCANTECEL
EMENTS2」の文字が表示されるから、これら廉価版の商品はいずれも
15 引用使用商品に他ならない。よって、上記国内市場シェアは、全て引用使用
商品についてのものである。
また、インターネット検索エンジンGoogleを用いて、「検査装置」
の後に、競合他社のWeb外観検査装置(機種名)の主力機種名を入力して
キーワード検索したところ、下記の結果が確認された(甲135)。近年、
20 国内市場シェア上位を占めるメーカーの主力機種の中で、「LSC-600
0」に次いで原告の「SCANTEC」の検索件数が多かったことは、引用
商標の周知性を推し量るものといえる。
メーカー名 機種名 Google 検索件数
ナガセテクノエンジニアリ SCANTEC 約 2,930 件
ング(原告)
ヒューテック MaxEye (甲 53) 約 523 件
オムロン NASP (甲 53) 約 1,970 件
タカノ Hawk eyes (甲 58) 約 1,640 件
メック LSC-6000 (甲 56) 約 4,690 件
ニレコ Mujiken (甲 57) 約 838 件
(2) 原告らは、業界団体が主催する展示会において、頻繁に「SCANTE
C」シリーズのカタログやパネル展示をし、実機を使った表面欠陥検査のデ
モを行うなどして、事業者向けの販促活動に注力してきた(甲41~47)。
その出展回数や頻度、展示会の会場や規模(出展者は約100~500社)、
5 業界内での注目度(来場者数は約5千~4万人)、引用商品が特定の事業者
向け商品であるという取引の実情を考慮すると、原告らの展示ブースへの来
訪者が不明であることだけをもって引用商標の周知性を否定することは、原
告らの営業努力を軽視しすぎており、妥当とは言い難い。
(3) 「SCANTEC」シリーズに関する記事は、下記の業界新聞等におい
10 て度々掲載されただけでなく(甲6~17。発行部数等については甲136
~141)、各種専門誌(甲61~75、90~115)においても何度と
なく掲載されている。引用商品である「表面欠陥検査装置」(Web外観検
査装置)は大量消費型商品ではなく、事業者の生産設備や製造工程・ライン
に組み込まれて利用される産業用であり、各社とも、メディアを用いた宣伝
15 広告活動を大々的に行っているわけではないから、こうした掲載によって引
用商標の周知性は十分認められるというべきである。
新聞・雑誌名 創刊 発行部数 出版社
化学工業日報 1947 年 13万部余 株式会社化学工業日報社
日刊工業新聞 1915 年 338,086 部 株式会社日刊工業新聞社
月刊 1981 年 12,000 部 株式会社オプトロニクス社
OPTRONICS
画像ラボ 1990 年 15,000 部 日本工業出版株式会社
プラスチックス 1950 年 25,000 部 日本工業出版株式会社
(2011 年~)
映像情報 Medical 1968 年 10,000 部 産業開発機構株式会社
(4) 引用商品の主たる需要者である大手事業者(甲89)が、その作成する
特許明細書(甲76~88)において、原告らの引用商品である「表面欠陥
検査装置」について言及している。これは、引用商品の主たる需要者におけ
る引用商標の認知度を推し量る有用な認定要素として、十分評価されて然る
5 べきであり、当該事業者が属する業界において、引用商標は認知度が高いと
いえる。
【被告の主張】
以下のとおり、原告の主張は失当であり、引用商標に周知性は認められない。
(1) 原告が主張する統計データは、原告らの商品全体の国内市場シェアを示
10 すだけで、引用使用商品自体の国内市場シェアを示すものではない。引用使
用商品は、単に原告らの主要商品として紹介されているにすぎず、その国内
市場シェアには、引用使用商品でない廉価版「WebSENSOR」及び
「WEBSENSORⅡ」が相当な割合で含まれていることが明らかである。
そして、原告が主張する廉価版の商品は、引用商標と異なる名称のものであ
15 り、引用商標を使用しているとはいえない。
さらに、原告の主張する国内市場シェアの数値も、2002年頃には4
4.0%であったものの、2006年には10%台まで落ち込み、2011
年からは、引用商標を使用していない廉価版「WEBSENSORⅡ」の実
績が向上しているから、本件商標の優先日である2018年(平成30年)
20 11月23日頃には、引用使用商品の国内市場シェアは相当程度落ち込んだ
ことが予想される。
また、原告は、インターネット検索エンジンの検索結果を用いて引用商
標の周知性を主張しているが、検索エンジンの検索結果は様々なアルゴリズ
ムに基づいて生成されるものであって、ヒット数が多いことと、それが広く
5 認識されていることは必ずしも結びつくものではない。そもそもこの検索結
果(甲135)は、本件商標の優先日以降の令和7年1月8日に検索された
結果であって、上記優先日における引用商標の周知性の証拠になり得ない。
(2) 原告は、展示会への出展の多さを周知性の根拠として主張するが、その
出展回数や頻度は1年間に1回程度であって、決して多いとはいえない。展
10 示会の規模や来場者数も必ずしも多くなく、例え多くの来場者がいたとして
も、引用使用商品が展示されたブースに足を運んだ者の数が多くなければ、
引用商標が多く認識されることはない。本件において、引用使用商品が展示
されたブースへの訪問者数について何ら主張立証がなされていない。
(3) 原告は、業界紙に原告らの製品が紹介されたことを引用商標の周知性を
15 基礎付ける事実として主張するが、僅かな回数の新聞掲載にすぎず、しかも
これら新聞の発行部数も明らかではない。また、原告が主張する新聞記事
(甲6~17)の中には、本件商標の優先日よりも20年以上前に発行され
た新聞(甲8~10、13など)が複数含まれており、しかもそのうちの甲
10の新聞記事(平成4年11月26日付け日本工業新聞)は、査定型カメ
20 ラに関する記事であって、引用使用商品の記事ですらない。
(4) 原告は、原告らの製品について特許明細書に記載した大手事業者が引用
商品の主たる需要者であるとするが、中小企業など、甲第89号証に記載さ
れていない事業者であっても、引用商品を利用することはあるから、需要者
を大手事業者に限定する理由はない。そもそも、原告は、これらの大手事業
25 者の間に引用商標が広く認識されていることについてすら主張立証していな
い。
また、特許明細書に原告らの製品を記載するのは、いわゆる実施可能要
件などを満たすためであり、その記載者は、装置の現物やその他資料などを
確認しながら記載するのが通常であって、装置の名称を記憶しているとは限
らない。よって、特許明細書に記載されたからといって、引用商標の周知性
5 が基礎付けられることにはならない。
2 取消事由2(商標法4条1項10号該当性判断の誤り)について
【原告の主張】
上記のとおり、引用商標は、引用商品及びこれに関連する役務に係る需要者
又は取引者の間に広く認識されている。また、本件商標と引用商標は、仮に、
10 観念において比較できないとしても、外観において近似した印象を与え、称呼
を共通にするから、両者は類似の商標である。
さ ら に 、 本 件 商 標 の 指 定 商 品 第 9 類 中 の 「 weighing apparatus and
instruments; measuring sensors, infrared sensors, beta radiation
sensors, laser triangulation sensors; distance recording apparatus;
15 quantity indicators; densimeters, densitometers, detectors, infrared
detectors, gages, electric measuring apparatus, precision measuring
apparatus; measures, measuring apparatus and instruments; measuring
apparatus; optical sensors, x-ray sensors; microwave detectors,
interferometers, optical detectors; measuring instruments」は、「表面
20 欠陥検査装置」と同一の類似群コードが付される類似商品である。
したがって、本件商標は、上記の指定商品について、商標法4条1項10号
の無効理由がある。
【被告の主張】
上記のとおり、引用商標に周知性は認められない。商標法4条1項10号は、
25 例外的に未登録の商標を保護する制度であるので、仮に引用商標程度の認知度
しかなく、しかも未登録で保護されるとすると、それは、商標制度を崩壊する
ことになる。
3 取消事由3(商標法4条1項15号該当性判断の誤り)について
【原告の主張】
上記のとおり、引用商標は、原告らの引用商品を表示するものとして、需要
5 者又は取引者の間で広く認識されていた。よって、文字部分において引用商標
と外観において酷似し、同一の称呼「スキャンテック」を生じ、スキャン技術
という観念上も類似していると認められる本件商標が、請求商品及び請求役務
に付して使用された場合には、これに接する取引者又は需要者は、「SCAN
TEC」の文字部分に着目し、周知な引用商標を連想、想起して、当該商品又
10 は役務が原告ら又はこれと緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事
業を営むグループに属する関係にある者の業務に係る商品又は役務であると誤
信するおそれがあるものというべきである。
したがって、本件商標は、請求商品及び請求役務において、商標法4条1項
15号の無効理由がある。
15 【被告の主張】
本件商標は、「スキャンテック」の称呼を有する点において引用商標と共通
するが、「SCANTECH」の欧文字全体を黒い枠で囲むとともに、欧文字
を白抜きで表示し、「SCANTECH」の欧文字及びこれを構成する「A」
の上下に三角の図形を向かい合うような形で配しており、両商標は、外観を著
20 しく異にする。そして、原告が主張するところの、引用商標の商品又は役務の
取引者・需要者の特殊性を考慮すれば、引用商品を取り扱う市場において、取
引者・需要者が専ら商標の称呼のみによって商標を識別し、商品又は役務の出
所が判別される実情はない。すなわち、引用商品の取引者・需要者たる専門家
が取引に際して商標に払うであろう注意力は一般の取引者・需要者より高く、
25 その外観の差異によって容易に商標を識別するであろうことは必定である。そ
して、引用商標が、引用商品の業界の需要者に広く認識されていないことは、
上記のとおりである。
したがって、本件商標が引用商標と混同が生じることはない。
第4 当裁判所の判断
1 取消事由1(引用商標の周知性に関する判断の誤り)について
5 (1) 原告は、引用商標が引用商品の需要者の間に広く認識されていること
(周知性)の根拠として、引用使用商品の国内市場シェアが高いことを主張
するが、原告が主張する「画像処理システム市場の現状と将来展望」(甲4
9~60)に掲載された統計データから分かる国内市場シェアは、原告らの
扱う商品全体についてのものであり、引用使用商品だけに限ったものではな
10 い。その国内市場シェアに関する数値には、引用使用商品を含む「SCAN
TEC」シリーズの廉価版「WebSENSOR」及び「WEBSENSO
RⅡ」が含まれており、そのような廉価版商品の需要が相当程度あることは
十分推測できる。原告は、これら廉価版のモニターに「SCANTECEL
EMENTS」又は「SCANTECELEMENTS2」の文字が表示さ
15 れるなどと主張するが、これらは引用商標そのものではなく、引用商標の周
知性を基礎付けることにはならない。
また、原告は、インターネット検索エンジンによる「SCANTEC」
の検索結果の多さ(甲135)を主張するが、当該検索結果は様々なアルゴ
リズムに基づいて検索されるものであって、検索結果数が多いことから直ち
20 に周知性が基礎付けられるものではない。しかも、同検索結果(約2930
件)についても、周知性の観点からこの数値を評価する適当な基準も見当た
らず、当該結果をもって直ちに引用商標の周知性を認めるわけにもいかない。
(2) また、原告は、業界団体が主催する展示会への出展数の多さを周知性の
根拠として主張し、証拠(甲41)を提出するが、同証拠によっても、その
25 出展回数や頻度は1年間に1、2回程度というのであり、決して多いとはい
えない。そして、同証拠によれば、展示会への出展者数については、100
社から500社程度であり、参加者数が5000人から4万人以上であった
ということからすると、これらの展示会にはある程度の来場者があったとは
いえるものの、原告の出展ブースに来場した者の数の分かる証拠もない以上、
こうした出展の事実をもって引用商標の周知性を認めることもできない。
5 (3) さらに、原告は、業界新聞や各種専門誌に原告らの製品が紹介されたこ
とを主張するが、業界新聞への掲載回数は、30年近くの間に12回程度で
あり(甲6~17)、専門誌への記事や広告の掲載回数も27年間で40回
程度であり(甲61~75、90~115)、それらの掲載は散発的である
といわざるを得ず、その回数も必ずしも多いともいえない。しかも、これら
10 の記事が掲載された業界新聞や専門誌の発行部数の詳細も本件証拠上不明で
ある。そうであるとすると、上記の事実をもって、引用商標の周知性を認め
ることはできない。
(4) 原告は、特許明細書(甲76~88)に原告らの製品について言及があ
ることを指摘し、これらの特許明細書を作成した大手事業者が引用商品の主
15 たる需要者に該当すると主張するが、中小企業などであっても引用商品を利
用することは容易に想定し得るところであるし、そもそも、特許明細書に原
告らの製品について言及があることと引用商標の周知性が直接結び付くもの
ではない。したがって、上記言及の事実をもって引用商標の周知性を認める
ことはできない。
20 (5) 原告は、以上のほかに、引用商品が店頭に陳列して販売に供されるもの
ではなく、需要者の製造ラインに用いられる商品の性質上、納入先や数量・
スペック等は内部情報に関わるものであり、実際の需要者の公表を控えざる
を得ないこととか、引用商品について長期的・継続的なサポートが必要であ
るから、一旦納入されれば、エンドユーザーやその社内関係者は、連日、原
25 告らの引用商標及び引用使用商品を目にするようになるなどとも主張する。
しかし、仮にそのような事情が認められるとしても、引用商標の周知性の立
証が著しく困難になるものでもないから、周知性立証が不十分であるとの上
記判断は左右されない。
(6) 以上により、引用商標に周知性があることを理由にした取消事由1に関
する原告の主張は、採用することができない。
5 2 取消事由2(商標法4条1項10号該当性判断の誤り)について
上記のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時におい
て、引用商品又は本件商標の請求商品及び請求役務の需要者の間に広く認識
されているとは認められないから、本件商標につき商標法4条1項10号該
当性は認められない。
10 3 取消事由3(商標法4条1項15号該当性判断の誤り)について
(1) 商標法4条1項15号の「混同を生ずるおそれ」の有無は、当該商標と
他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、
当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目
的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取
15 引の実情などに照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において
普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきである。
(2) そこで検討するに、本件商標と引用商標とは、本件審決が認定するよう
に、その外観、称呼の点において類似性の程度が高く(観念は生じないので
比較できない。)、請求商品及び請求役務と引用商品が一定程度の関連性を
20 有し、さらに引用商標は造語であるから一定程度の独創性を有するといい得
るものの、上記のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定
時において、我が国の取引者及び需要者の間に広く知られているものとは認
められないから、本件商標が請求商品及び請求役務に使用された場合、取引
者及び需要者をして引用商標を連想又は想起させることは考えにくい。そう
25 であるとすると、本件商標が請求商品及び請求役務に使用された場合、これ
らが原告らあるいは原告らと経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の
業務に係る商品又は役務であると誤認させ、商品又は役務の出所について混
同を生じさせるおそれがあるとはいえない。
したがって、本件商標につき、商標法4条1項15号該当性は認められ
ない。
5 4 結論
以上のとおり、本件審決につき、原告主張の取消事由はいずれも採用するこ
とができず、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文の
とおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
増 田 稔
15 裁判官
本 吉 弘 行
裁判官
岩 井 直 幸
(別紙)
本件商標の指定商品及び指定役務
第7類 Fabric making machines; machines for processing plastics;
5 glassware manufacturing machines and apparatus; papermaking machines and
apparatus; rolling mills.
第9類 Optical apparatus and instruments; weighing apparatus and
instruments; measuring sensors, infrared sensors, beta radiation
sensors, laser triangulation sensors; distance recording apparatus;
10 quantity indicators; densimeters, densitometers, detectors, infrared
detectors, gages, electric measuring apparatus, precision measuring
apparatus; measures, measuring apparatus and instruments, apparatus and
instruments for physics; measuring apparatus; signals, luminous or
mechanical; electrical monitoring apparatus; optical sensors, x-ray
15 sensors; x-ray detectors, microwave detectors, interferometers, optical
detectors; measuring instruments; scintillators as a part of x-ray
detectors.
第42類 Scientific research; computer system analysis; design and
development of computers and software for measuring; research and
20 development of new products for third parties in the field of precision
measuring; technical project studies; computer system design;
consultation of technological research; quality control; software
development in the context of software editing; software development,
software installation, maintenance of computer software; calibration;
25 technical, physical, mechanical research, namely technological research;
electronic data storage; monitoring of computer systems for fault
detection; monitoring of computer systems by remote access; design and
development of computer hardware and software for measuring technology;
research and development of new products for third parties in the field
of precision measuring; massive data analysis computer services.
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