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令和7(ネ)10004特許権侵害損害賠償請求控訴事件

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裁判所 控訴棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和7年6月30日
事件種別 民事
当事者 被控訴人林テレンプ株式会社
法令 特許権
特許法70条2項1回
特許法70条1項1回
民法709条1回
キーワード 無効7回
審決6回
特許権5回
進歩性4回
無効審判4回
実施4回
損害賠償2回
侵害2回
優先権1回
主文 1 本件控訴を棄却する。20
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間
事件の概要 告」とあるのを「控訴人」と、「被告」とあるのを「被控訴人」と、「別紙」 とあるのを「原判決別紙」とそれぞれ読み替える。)

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判決文

令和7年6月30日判決言渡

令和7年(ネ)第10004号 特許権侵害損害賠償請求控訴事件(原審・東京地

方裁判所令和5年(ワ)第70346号)

口頭弁論終結日 令和7年4月21日

判 決

控 訴 人 智佳電子股份有限公司

同訴訟代理人弁護士 櫻 林 正 己

同訴訟代理人弁理士 中 嶋 恭 久

被 控 訴 人 林テレンプ株式会社

同訴訟代理人弁護士 越 元 瑞 樹

同 友 村 明 弘

同 岡 本 敬 史

同訴訟代理人弁理士 高 村 和 宗

同補佐人弁理士 田 中 誠 二

主 文

1 本件控訴を棄却する。

2 控訴費用は控訴人の負担とする。

3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間

を30日と定める。

事 実 及 び 理 由

第1 控訴の趣旨

1 原判決を取り消す。2 被控訴人は、控訴人に対し、6000万円並びにうち2400万円に対する令和2年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員及びうち3600万円に対する令和5年6月12日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。4 仮執行宣言

第2 事案の概要(略語は、特に断らない限り、原判決のそれに従う。なお、「原

告」とあるのを「控訴人」と、「被告」とあるのを「被控訴人」と、「別紙」とあるのを「原判決別紙」とそれぞれ読み替える。)1 本件は、原判決別紙特許権目録記載の特許(特許第6279803号。以下「本件特許」といい、本件特許に係る特許権を「本件特許権」という。特許公報は甲2。その明細書及び図面を併せて「本件明細書等」という。なお、本件特許の願書に最初に添付した明細書については「当初明細書」という。)を有する控訴人が、原判決別紙被控訴人製品目録記載1ないし4の各製品(以下「被控訴人各製品」といい、目録記載の番号に従って「被控訴人製品1」などという。 を販売している被控訴人に対し、) 当該販売行為が本件特許権の侵害を構成するとして、民法709条に基づき、損害賠償金6000万円並びにうち2400万円に対する不法行為の後の日である令和2年4月1日(被控訴人製品1及び2の販売開始日の翌日)から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金及びうち3600万円に対する不法行為の後の日である令和5年6月12日(訴え提起の日)から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の各支払を求める事案である。原審が、被控訴人各製品は本件特許の特許請求の範囲の請求項1記載の発明(本件発明)の構成要件Fの「調整可能」との文言を充足せず、その技術的範囲に属しないとして控訴人の請求を棄却したところ、控訴人がその取消しを求めて本件控訴を提起した。2 前提事実、争点及び争点に対する当事者の主張は、次のとおり補正し、後記3のとおり当審における控訴人の主な補充主張を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中、第2の1及び2並びに第3(原判決2頁15行目ないし36頁1行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

⑴ 原判決2頁23行目を次のとおり改める。「ア 控訴人は、本件特許権を有している。イ 本件特許は、平成26年11月6日(優先権主張同年2月14日(台湾)、同年4月30日(米国))を出願日とする実用新案登録出願(実願2014-5888号)の実用新案登録である実用新案登録第3195493号に基づき、これを平成29年10月20日に特許出願(特願2017-203553号)としたものである(請求項の数13、甲2)。ウ 控訴人は、上記特許出願と同日の平成29年10月20日受付で早期審査に関する事情説明書(乙7。 「本件説明書」以下 という。 を提出し、)同日付けで手続補正書(乙6)を提出して、特許請求の範囲につき補正を行った(以下「本件補正」という。。)本件補正は、請求項1については、出願当初の請求項1の「前記回路板上に設置されると共に、前記バックライトモジュール、前記近接センサーモジュールと電気的に接続し、前記感応信号に従って前記バックライトモジュールを開閉する制御モジュールと、」という部分を、「前記回路板上に設置されると共に、前記バックライトモジュール及び前記近接センサーモジュールと電気的に接続し、前記感応信号に従って前記バックライトモジュールをそのオンとオフ状態の時間間隔を調整可能に開閉する制御モジュールと、(下線部は補正箇所。補正後の請求項1は後記」

⑶のとおり。上記の部分は、後記の構成要件Fに対応する。)とするものであり、本件特許の請求項2以下は、請求項1を引用するか、請求項1を引用する請求項を更に引用するものであったから、本件補正によってすべての請求項が補正されることとなった。エ 控訴人は、本件補正に関し、本件説明書において、次のとおり述べた。『補正の趣旨を説明すると、補正前の請求項1に記載の『前記感応信号マ マに従って前記バックライトモジュール開閉する制御モジュール』 『そを、のオンとオフ状態の時間間隔を調整可能に』限定した。この内容は、出願当初の明細書の段落0012(判決注:当初明細書の段落であり、本件明細書等では段落【0014】)中の『制御モジュール6は、感応信号に従ってオンとオフ状態の時間間隔を知的に調整することができる』という記載により実質的に支持される。よって、上記補正内容は、出願当時の明細書の記載の範囲内であり、新規事項に該当しないと思量する。本願発明のワイヤレススカッフプレートによれば、薄型、『 防水、節電、インストールしやすい、及びバッテリー交換が便利である』という長所が得られる(本願明細書段落【0006】。特に本願発明の『バックラ)イトモジュールをオンとオフ状態の時間間隔を調整可能に開閉する制御モジュール』によって、『光線を開閉する、又は発光持続時間を制御することができる』という効果が得られる(本願明細書【0017】(判決注:当初明細書の段落であり、本件明細書等では段落【0019】)』)。ママ『そして、本願発明で必須の『制御部モジュール』は、先行技術1に開ママ示も示唆されていない。まして、制御部モジュールの『感応信号に従って前記バックライトモジュールをオンとオフ状態の時間間隔を調整可能に開閉する』という機能は、先行技術1から全く予測できない。』オ 平成29年12月6日付けで先行技術文献情報不開示の通知がされ、それに対応して、控訴人は、同月21日の手続補正書で、明細書の全文を補正した(この補正後の明細書が「本件明細書」であり、図面と併せて「本件明細書等」に当たる。)。カ 平成30年1月26日、本件特許の設定登録がされた(請求項の数13)。」

⑵ 原判決2頁25行目から3頁17行目までを次のとおり改める。「本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである(下線部は本件補正による補正箇所である。以下、請求項1に記載された発明を『本件発明』という。。)ワイヤレススカッフプレートであって、上表面と下表面を有し、前記上表面は、少なくとも一つの凹槽を有し、且つ、前記凹槽の少なくとも一側は、電源収容孔を有し、及び、定位部が、少なくとも一側上に定義される底板と、前記凹槽に収容され、且つ、少なくとも一つの回路板を有するバックライトモジュールと、少なくとも一つのバッテリーと少なくとも一つの導電ストリップを有し、前記バッテリーが、前記電源収容孔に設置され、前記導電ストリップが、前記バッテリーと前記回路板を電気的に接続する電源モジュールと、前記回路板上に設置されると共に、感応信号を感知する近接センサーモジュールと、前記回路板上に設置されると共に、前記バックライトモジュール及び前記近接センサーモジュールと電気的に接続し、前記感応信号に従って前記バックライトモジュールをそのオンとオフ状態の時間間隔を調整可能に開閉する制御モジュールと、取り外し可能な方式で、前記底板の前記下表面から、前記電源収容孔を覆う少なくとも一つの底カバーと、前記底板の前記上表面に設置されると共に、少なくとも前記バックライトモジュールと前記電源モジュールを被覆し、前記バックライトモジュール上に、少なくとも一つの光透過領域を有する上カバーと、を含むことを特徴とする、前記ワイヤレススカッフプレート。」

⑶ 3頁19行目の「次のとおりである」の次に「(下線部は本件補正による補正箇所である。)」を加える。

⑷ 原判決4頁5行目から8行目までを次のとおり改める。「F 前記回路板上に設置されると共に、前記バックライトモジュール及び前記近接センサーモジュールと電気的に接続し、前記感応信号に従って前記バックライトモジュールをそのオンとオフ状態の時間間隔を調整可能に開閉する制御モジュールと、」

⑸ 原判決6頁2行目から11行目までを次のように改める。「ア 日産自動車株式会社(以下「日産自動車」という。)は、令和3年11月25日、本件特許(請求項1ないし13に係る発明についての特許)について、無効審判(無効2021-800098号事件)を請求した。控訴人は、上記無効審判において、請求項12を訂正し、同項の記載を引用する請求項13も同様に訂正するとの訂正請求をした。特許庁は、上記無効審判について、令和5年1月10日、訂正を認めた上で、上記無効審判の請求は成り立たないとする審決(以下『別件審決』という。)をした。イ 日産自動車は、令和5年2月17日、別件審決の取消しを求める訴えを提起した(当庁令和5年(行ケ)第10016号)。これに対し、知的財産高等裁判所は、令和5年12月21日、日産自動車の主張する本件特許の無効理由(乙8公報に基づく進歩性欠如、乙10文献に基づく進歩性欠如、明確性要件違反、実施可能要件違反及びサポート要件違反)はいずれも認められず、同人の主張する別件審決の取消事由(訂正を認めた判断の誤り及び上記各無効理由が存しないとした判断の誤り)はいずれも理由がないとして、日産自動車の請求を棄却する旨の判決(以下『別件判決』という。)をした。その後、別件判決が確定したことから、別件審決は確定した。」3 当審における控訴人の主な補充主張

⑴ 争点1-2 「オンとオフ状態の時間間隔を調整可能に開閉」( 〔構成要件F〕の充足性)についてア 原判決は、本件明細書の記載に係る「知的」及び「制御」の意味内容に鑑みて、「時間間隔を調整するための構成(制御回路等)」とは、「発光持続時間」を正確に調整することができるものであると解した上で、「前記感応信号に従って前記バックライトモジュールをそのオンとオフ状態の時間間隔を調整可能に開閉する制御モジュール」との記載が「単に感応信号のみに従ってオンとオフ状態を制御するモジュールに、時間間隔を調整するための構成(制御回路等)が付加されたもの」と解釈し、コンデンサCC及び抵抗R3を含む充放電回路(㉕)と、スイッチング素子Q2(㉓)とによって構成されている被控訴人各製品の制御回路が「時間間隔を調整するための構成(制御回路等)」に該当するか否かを判断した。イ しかし、特許請求の範囲及び本件明細書等には、発光持続時間を正確に調整することを示す記載はどこにも存在せず、発光持続時間について正確性が求められることを示唆するような記載もない。また、特許請求の範囲の記載において、「前記感応信号に従って前記バックライトモジュールをそのオンとオフ状態の時間間隔を調整可能に開閉する」とは、「感応信号に起因しながらドアの開閉の時間間隔とは異なるオンとオフの時間間隔を調整する」ものであればよく、その時間間隔を「正確に」調整することまでは求められていない。そもそも「知的」という用語は、特許請求の範囲に記載されている用語ではない。しかも仮に「知的」の意味内容を鑑みるとしても、「知的」の意味は、「①知識・知性に関するさま」、「②知識・知性の豊かなさま。理知的。」であり(広辞苑・第6版、甲13)、発光持続時間の正確性が求められることと結びつくようなものでない。また「制御モジュール」の「制御」は、バックライトモジュールや近接センサーモジュールと区別するために用いられているに過ぎない上、「制御」という言葉の意味は、「機械や設備が目的通り作動するように操作すること」であり(広辞苑・第6版、甲14)、「制御」という用語から、直ちに正確性が求められるわけではないことは明らかである。そうすると、殊更に、上記用語に基づいて、発光持続時間の調整を正確に行う必要があると限定解釈する理由はない。上記用語の意味内容、本件明細書等における段落【0014】の「バックライトモジュール3は、常にオンでも常にオフ状態でもない。制御モジュール6は、感応信号に従ってオンとオフ状態の時間間隔を知的に調整することができる。」との記載、段落【0019】の「制御モジュールが、光線を開閉する、又は発光持続時間を制御することができる」との記載に鑑みれば、「前記感応信号に従って前記バックライトモジュールをそのオンとオフ状態の時間間隔を調整可能に開閉する」をより詳しく解釈したとしても、制御モジュールが、発光持続時間を、ドアの開閉の時間間隔とは異なる時間間隔(例えばドアが開いてから約30秒)に調整するようにバックライトモジュールを操作(制御)することによって、感応信号に従ってバックライトモジュールを開閉する構成(例えばドアが開いている間、常にオン状態となっている構成)よりも、節電という目的を達成するようにバックライトモジュールが操作されるため、発光持続時間を理知的に調整することができる、と理解できる程度である。そして発光持続時間が正確でなくても、節電という目的は達成されることは明らかである。したがって、本件明細書等の記載に係る「知的」及び「制御」の意味内容に鑑みても、原判決が認定するように「発光持続時間」を正確に調整できるものに限定して解釈する理由はない。ウ さらに、自動車の車内照明(ルームランプであり、照明付きスカッフプレートと近接した技術である)において、甲15(特開昭54-3245号公報、特に218頁及び第3図)及び甲16(特開平3-104746号公報、特に356頁)に示すように、「感応信号に起因しながらドアの開閉の時間間隔とは異なるオンとオフの時間間隔を調整する具体的な手段」、すなわち「時間間隔を調整するための構成(制御回路等)」として、コンデンサを用いて発光持続時間を調整する制御回路は技術常識である。つまり、甲15及び甲16には、コンデンサを用いて、ドアが開いてから所定期間が経過した後に消灯する制御回路が記載されている。特に甲16の356頁には、ドアが開放してから所定期間が経過した後に消灯する制御回路としては、コンデンサを用いる構成でも、デジタル素子を用いる構成でもよい点が記載されている。となると、コンデンサを用いるものであっても、デジタル素子を用いるものであっても、ドアが開放してから所定期間が経過した後に消灯する制御回路、すなわち発光持続時間を調整する制御回路は、技術常識から直ちに想起されるものと認められる。したがって、自動車の車内照明において、コンデンサを用いて発光持続時間を調整する制御回路も、デジタル素子を用いて発光持続時間を調整する制御回路も、発光持続時間を調整する制御プログラムも、「時間間隔を調整するための構成(制御回路等)」に該当することは明らかである。そもそも、LEDを有するワイヤレススカッフプレートにおいて、LEDがオンになってから、ある程度の時間後にLEDを自動的にオフにする構成は、例えば甲17(ドイツ実用新案公報 DE 20 2006 018 249 U1、特に[0009])に示されるように技術常識である。そして、当該時限素子にコンデンサを用いることは、本来例示するまでもない程度の技術常識である。加えて、自動車スカッフプレートにおいてドアが開放されてから消灯するまでの発光持続時間を調整する制御回路が技術常識である点は被控訴人自身も認めている。すなわち被控訴人は、原審の被告準備書面(1)42頁において、「乙12には、車両用残光式ルームランプにおいて、ドアが開閉されたときにその後タイマによって設定された一定時間ルームランプを点灯させることが開示されている(明細書第3頁8行乃至下から5行 )。また乙13には、車両用の残光式ルームランプ制御装置が、ドア開放で点灯開始し、ドアの閉止から所定時間の遅延後に消灯するように構成されていることが開示されている(明細書1頁下から4行乃至2頁3行)。このように、車両のルームランプにおいて、ルームランプのオンとオフ状態の時間間隔を調整可能に制御することは、周知の技術である。」と主張するとともに、原判決23頁に示すとおり「自動車スカッフプレート」の発光も車内を点灯するものであって、ルームランプの一種であると主張している。これらの主張に鑑みれば、被控訴人も、「自動車スカッフプレート」において、発光持続時間を調整することは技術常識であることを認めているのである。さらに、本件明細書等における段落【0002】の記載などから、本件発明におけるワイヤレススカッフプレートの発光は、視覚効果を生成させて装飾性を高めるためのものと認められ、信号の伝達などを行う場合のように発光持続時間の厳密な正確性が求められるものではない。また、発光持続時間が多少変動したとしても節電を実現できることは明らかである。となると、本件発明の性質上、発光持続時間を正確に調整しなければならないものとも認められない。また、争点2-1、2-2についての議論からも明らかなとおり、「前記感応信号に従って前記バックライトモジュールをそのオンとオフ状態の時間間隔を調整可能に開閉する」との要件は本件特許の進歩性の根拠ではないことは、別件審決、別件判決の判断内容に照らしても明らかである。だとすれば、上記構成要件を殊更に限定解釈すべきではない。したがって、構成要件Fについて「『発光持続時間』を正確に調整できることを意味するものと解するのが相当である」とした原判決の認定判断には誤りがあり、構成要件Fは「単に感応信号のみに従ってオンとオフ状態を制御するモジュールに、時間間隔を調整するための構成(制御回路等)が付加されたもの」を意味し、当該「時間間隔を調整するための構成(制御回路等)」には、コンデンサを用いて発光持続時間を調整する制御回路も含まれるものである。エ 原判決は、「被告各製品においては、コンデンサCC及び抵抗R3を含む充放電回路(㉕)と、スイッチング素子Q2(㉓)とによって制御回路が構成されており、消灯までの発光持続時間が正確に制御されるものではなく、発光持続時間は、充電又は放電するコンデンサCCの性能や劣化に左右されるものと認めるのが相当であるから、『発光持続時間』を正確に調整できる構成を備えるものと認めることはできない」と判示した(原判決44頁6行目ないし11行目)。しかしながら、静電容量が異なるコンデンサが多数存在することは、例を挙げるまでもなく技術常識である。例えば、発光持続時間が1secに満たないような静電容量を有するコンデンサもある。そのような状況において、被控訴人各製品は、数あるコンデンサの中から発光持続時間が約30秒となるような静電容量を有するコンデンサを選択して採用している。この点において、既に被控訴人各製品は、発光持続時間を調整するための構成を備えている。また被控訴人各製品は、取扱説明書にて「約30秒後に消灯する」と記載されている一方、被控訴人は、実際にはエイジングしていない場合には発光持続時間は47秒、60分のエイジングが行われると発光持続時間は36秒となると主張している(乙9の1(被控訴人従業員の陳述書))。取扱説明書に記載の発光持続時間と実際の発光持続時間とで17秒も差がある。となると、この種の製品においては、10秒単位の誤差が認められていると考えられる。このような誤差が認められるワイヤレススカッフプレートにおいて、発光持続時間を正確に調整できないことを根拠として、被控訴人各製品が構成要件Fを充足しないとするのは不合理といわざるを得ない。ちなみに、被控訴人は、「60分のエイジングで発光持続時間が10秒以上も変化する」と主張しているが、そもそも「60分のエイジング」とは、通常の使用態様で累積60分間発光したことによるコンデンサの劣化を意味するところ、この検証では単にドアを開いた状態が60分継続した状態を示しており、このような検証は不適切である。60分間ドアを開いたままという状態も現実の使用態様と大きく異なっており、そのような状態の結果が参酌されるべきではない。また被控訴人は、「本検証では当社製品が設置された自動車のドアを60分間開けておいた状態としているが、当社製品を通常の用法で繰り返し使用することによっても当社製品のコンデンサはエイジング60分の状態と同様に経時劣化することになる。」と主張しているが、累積の発光時間が60分程度で発光持続時間が10秒以上も変化することになるとは通常考えられない。この点について詳述すると、仮に1回のドアの開閉での発光持続時間が10秒だとして、1日6回ドアの開閉が行われたとすると、1日で1分エイジングが行われる。そうすると、60日で60分のエイジングが行われて、発光持続時間が10秒短縮することになる。となると、単純に計算すれば、5倍の300日が経過すると、発光持続時間が50秒短くなり、ほぼ発光しないことになってしまう。すなわち、被控訴人の主張のとおりだとすれば、被控訴人各製品は、1年も絶たず発光しないことになるし、電池よりも先にコンデンサを交換する必要が生じる可能性が高いが、そのようなことは、要求される製品仕様として通常あり得ないことは明らかである。結局のところ、乙9の1は、単にコンデンサの充電状態または放電状態が不充分な状態での評価に過ぎず、コンデンサの劣化、すなわちどれくらい使用した結果、発光持続時間がどれくらい変化したのかを示すものではない。また、この実験を行ったのも被控訴人の従業員であって第三者機関による検証ではない(乙9の1)。したがって、この実験結果は証拠として採用されるべきではない。乙9の1は、控訴人製品を用いて、自身に有利な結果に誘導しようとする恣意的なものであり、この点からも証拠として認められるべきものではない。また、充足論に関係ない控訴人製品を持ち出したり、当業者であれば当然理解できる控訴人製品の通常の用法と異なる議論を展開したり、あるいは、エイジングという用語を普通の用法とは異なる意味で用いたりして、恣意的に誤認させようとしているものであり、証拠としての信用性は皆無である。さらに、仮に発光持続時間がコンデンサCCの劣化によって左右されるため「発光持続時間」を正確に調整できるものではないというのであれば、コンデンサCCが劣化していなければ、「発光持続時間」を正確に調整できるということになる。この点、少なくとも被控訴人各製品の出荷時又は納品時においては、被控訴人各製品は未使用であるため、選択された一定の静電容量を有するコンデンサCCは劣化していない。となると、被控訴人が販売している被控訴人各製品は、販売時点で「発光持続時間」を正確に調整できる構成を備えている。以上から、発光持続時間がコンデンサCCの性能や劣化によって左右されることを根拠として、被控訴人各製品が構成要件Fを充足しないとした原判決は誤りであり、被控訴人各製品は構成要件Fを充足する。

⑵ その余の争点に関し、争点1-1の「電源収容孔」(構成要件B、D及びG)について、被控訴人各製品がこれを充足すること、争点2-1の無効理由(乙8を主引例とする進歩性欠如)について、これが認められないとしたことは、原判決の説示するとおりである。その余の争点についての被控訴人の主張はいずれも理由がない。

第3 当裁判所の判断

1 当裁判所も、控訴人の請求は棄却すべきものと判断する。その理由は、以下

のとおりである。

⑴ 本件明細書等の記載については、原判決36頁4行目ないし40頁1行目

のとおりであるから、これを引用する。ただし、以下のとおり補正する。ア 原判決37頁17行目の末尾の次を改行し、次のとおり加える。「図1と図2を参照する。図1は、本発明の一実施態様によるワイヤレススカッフプレートの構造を示す図であり、図2は、ワイヤレススカッフプレートのシステムを示す図である。図1に示されるように、本発明のワイヤレススカッフプレート1は、底板2、バックライトモジュール3、電源モジュール4、近接センサーモジュール5(図2に示される)、制御モジュール6(図2に示される)、少なくとも一つの底カバー7、及び上カバー8を有する。構造の詳細は、以下で説明する。【0013】」( )イ 原判決38頁1行目の「当裁判所が記入」を「判決において付記」と改め、同頁6行目ないし7行目の「バックライトモジュール4」の次に「(判決注:バックライトモジュール3の誤記と認められる。」を加える。)ウ 原判決40頁1行目の末尾の次を改行し、『総合すると、本発明は、薄「型、防水、節電、装着しやすい、バッテリー交換の便利性などの長所を有し、ミスアラインメントの問題を解決する新規のワイヤレススカッフプレートを提供することができる。(』【0020】」を加える。)

⑵ 上記⑴で補正の上引用した本件明細書等の記載によれば、本件発明は、薄

型、防水、節電、装着しやすい、バッテリー交換の便利性などの長所を有するワイヤレススカッフプレートを提供しようとするものである(段落【0006】【0020】、 。なお、ミスアラインメントの問題の解決は、構成要件Bの定位部ないしは他の請求項に係る効果と認められる。。)

⑶ 本件発明は上記⑵のような意義を有するところ、本件発明の構成要件F

の制御モジュールは、構成要件Eの感応信号を感知する近接センサーモジュール及びバックライトモジュールと電気的に接続しており、「前記感応信号に従って前記バックライトモジュールをそのオンとオフ状態の時間間隔を調整可能に開閉する」ものであるとされている(構成要件F)。そうすると、構成要件Fにいう「制御モジュール」は、近接センサーモジュール及びバックライトモジュールと電気的に接続された「制御」に係る「モジュール」であって、「前記感応信号に従って前記バックライトモジュールをそのオンとオフ状態の時間間隔を調整可能に開閉する」ものであるとするが、感応信号に従うとすることと時間間隔を調整可能に開閉するなどの「制御」は、何をどのように調整し制御することを意味するのかなどについて、特許請求の範囲の記載からは必ずしも明らかではない。特許発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載に基づき定められるところ(特許法70条1項) 特許請求の範、囲の技術的範囲を解釈するに当たり、特許請求の範囲の用語、文章を理解し、正しく技術的意義を把握するためには、明細書の発明の詳細な説明の記載等を検討する必要がある。これは、当該特許発明が有効なものとして成立している以上、発明の詳細な説明は実施可能要件を満たしており、特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明の記載との関係で特許法36条のいわゆるサポート要件を満たしているとされているのであるから、明細書の記載及び図面を考慮して、上記特許請求の範囲の用語の意義を解釈すべきとするものであり、特許法70条2項も、その旨を規定するものと解される。そして、明細書の用語は、その有する普通の意味で使用し、かつ明細書及び特許請求の範囲全体を通じて統一して使用することが求められるものであるから(特許法施行規則24条、様式第29備考8)、以下、この観点から、本件明細書における用語の意味を検討する。「制御モジュール」につき、本件明細書の段落【0007】では「制御モジュールが回路板上に設置され、バックライトモジュール、近接センサーモジュールと電気的に接続し、感応信号に従ってバックライトモジュールを開閉する。」と、同【0013】では「図2は、ワイヤレススカッフプレートのシステムを示す図である。、」「制御モジュール6(図2に示される)」と記載されている。なお、図2は、前記⑴の引用に係るとおり、バックライトモジュール3、近接センサーモジュール5及び制御モジュール6をそれぞれ正方形で表し、これら3者を実線で結び、併せてこれらが回路板31上に置かれていることを表しているが、制御モジュールを介さずに、バックライトモジュールと近接センサーモジュールとを直接結ぶことについては本件明細書等には何ら記載がないから、図2のこれら三つのモジュールを結ぶ実線は、電気的接続を意味するものとは解されず、その他、図2に示されるところから、制御モジュールについての何らかの機能や構成、制御のありさまなどに係る記載を読み取ることはできない(なお、構成要件D、E及びFの「前記回路板」は、構成要件Cの「回路板」を指すものと解されるから、図2に示された回路板31は、バックライトモジュールが有する回路板をいうものと解される)。そして、段落【0014】には「制御モジュール6が、回路板31上に設置されて、バックライトモジュール4と近接センサーモジュール5を電気的に接続する。、」「制御モジュール6は、近接センサーモジュール5により感知される感応信号に従ってバックライトモジュール3を開閉する。 、」 「一実施態様において、バックライトモジュール3は、常にオンでも常にオフ状態でもない。制御モジュール6は、感応信号に従ってオンとオフ状態の時間間隔を知的に調整することができる。」とそれぞれ記載されている。また、段落【0019】では、「制御モジュールが、光線を開閉する、又は発光持続時間を制御することができる。」として、制御モジュールが「光線を開閉する」ことと、「発光持続時間を制御することができること」を「又は」で繋いでいる。ここで、「知的」は、「①知識・知性に関するさま」「②知識・知性の豊か、なさま。理知的。」との(広辞苑・第6版、甲13)「制御」は、、 「機械や設備が目的通り作動するように操作すること」(広辞苑・第6版、甲14)を、「モジュール」は「機械・システム・ソフトウェアなどを構成する、機能的にまとまった部分」(広辞苑・第7版)を、それぞれ意味するものである。これらを踏まえ、構成要件Fの記載、及び、本件補正の根拠となった上記段落【0014】の記載と段落【0019】の記載を矛盾なく読もうとすれば、構成要件Fの「前記感応信号に従って前記バックライトモジュールをそのオンとオフ状態の時間間隔を調整可能に開閉する制御モジュール」にいう制御モジュールは、感応信号に従って光線を開閉すると共に、これとは別に、「オンとオフ状態の時間間隔」である発光持続時間、すなわち感応信号に従ってオン状態になった後、再度の感応信号がなく一定時間が経過した後、オフ状態にするまでの時間の間隔を、知的に調整する、つまり感応信号と関係しない発光持続時間を、知性的な営みにより調整し制御すること、これを言い換えれば、その発光持続時間を可変とすることをいうものと解される。そして、上記解釈は、補正の上で引用した原判決第2の1⑵エ(前記第2の2⑴中の引用部分の「エ」)のとおり、上記段落【0014】の記載を根拠として制御モジュールを限定するものであるとの本件補正の趣旨からも支持されるものである。そうすると、構成要件Fの「前記感応信号に従って前記バックライトモジュールをそのオンとオフ状態の時間間隔を調整可能に開閉する制御モジュール」は、感応信号に従ってバックライトモジュールをオンとオフの状態にすることができるとともに、感応信号に従ってオン状態にした後、再度の感応信号がなくても一定時間後にオフ状態にするまでの間隔、すなわち発光持続時間、を可変とすることができる制御モジュールを意味するものと解される。

⑷ 被控訴人各製品との対比

これを被控訴人各製品についてみると、被控訴人各製品は、原判決別紙被控訴人製品説明書のとおりの構成を有するところ、これらによれば、被控訴人各製品が、開閉に係る磁気を感知するタイミングとは関係なく、発光持続時間を可変に調整し制御する制御モジュールを備えるものとは認められない。そうすると、被控訴人各製品は、本件発明の構成要件Fにおける「前記バックライトモジュールをオンとオフ状態の時間間隔を調整可能に開閉する制御モジュール」に該当するものを備えないから、本件発明の構成要件Fを充足しないものと認められる。

⑸ 控訴人の主張に対する判断

ア 控訴人は、補正の上で引用した原判決第3の2(控訴人の主張)⑴のとおり、主位的主張として、構成要件Fにおける「オンとオフ状態の時間間隔を調整可能に開閉」するとは、単に感応信号に従ってバックライトモジュールを制御できれば足りるものである旨を主張する。しかし、構成要件Fにおける「オンとオフ状態の時間間隔を調整可能に開閉」することの意義については前記⑶のとおりであるほか、控訴人の解釈は、本件補正の根拠となる本件明細書等の段落【0019】において、「制御モジュールが、光線を開閉する、又は発光持続時間を制御することができる」として、制御モジュールが「光線を開閉する」ことと、「発光持続時間を制御することができること」を「又は」で繋いでいることを殊更に無視したものというほかない。したがって、控訴人の上記主張は、採用することができない。イ 控訴人は、補正の上で引用した原判決第3の2(控訴人の主張)⑵のとおり、予備的主張として、構成要件Fにおける「オンとオフ状態の時間間隔を調整可能に開閉」を、単に感応信号に従ってバックライトモジュールを制御するのみではなく、時間間隔を調整してオンとオフ状態を制御するための構成が付加されたモジュールを特定するものと解したとしても、被控訴人各製品はドアの開閉の時間間隔とは異なるオンとオフの時間間隔に調整するための構成(f2-3の制御回路(㉓㉕)が付加されているから、)構成要件Fを充足する旨を主張する。しかし、構成要件Fにおける「オンとオフ状態の時間間隔を調整可能に開閉」の意義については前記⑶のとおりであり、感応信号に従ってオン状態になった後、再度の感応信号がなく一定時間が経過した後、オフ状態にするまでの時間である発光持続時間自体を可変とすることができることを意味し、被控訴人各製品がその構成を備えないことについても前記⑷で検討したとおりである。したがって、控訴人の上記主張は、採用することができない。ウ 控訴人は、前記第2の3⑴のとおり、構成要件Fにつき、発光持続時間を正確に制御することができるものであるとした原判決は誤りであり、被控訴人各製品は構成要件Fを充足する旨を主張する。しかし、構成要件Fの解釈については前記⑶のとおりであり、被控訴人各製品は構成要件Fを充足しないことについても前記⑷で検討したとおりである。したがって、控訴人の上記主張は、採用することができない。

2 控訴人はその他縷々主張するが、いずれも前記認定及び判断を左右しない。

3 結論

よって、控訴人の請求を棄却した原判決は結論において相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。知的財産高等裁判所第3部裁判長裁判官中 平 健裁判官今 井 弘 晃裁判官水 野 正 則

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