知財判決速報/裁判例集知的財産に関する判決速報,判決データベース

ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 令和6(ワ)70635 商標権侵害差止請求事件

この記事をはてなブックマークに追加

令和6(ワ)70635商標権侵害差止請求事件

判決文PDF

▶ 最新の判決一覧に戻る

裁判所 請求棄却 東京地方裁判所東京地方裁判所
裁判年月日 令和7年7月9日
事件種別 民事
当事者 原告ヴェンガーエスアー
被告ゴイチマル株式会社
法令 商標権
商標法36条1項1回
キーワード 商標権10回
差止3回
侵害2回
優先権1回
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。15
3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。
事件の概要 1 事案の概要 本件は、原告が被告に対し、被告が別紙被告標章目録記載の各標章(以下、 「被告標章1」、「被告標章2」といい、これらを総称して「被告各標章」とい う。)を付した別紙被告商品目録記載の各商品(以下、「被告商品1」、「被告商5 品2」といい、これらを総称して「被告各商品」という。)を販売することに より、原告の保有する別紙商標権目録記載の商標(以下「原告商標」という。) に係る商標権(以下「原告商標権」という。)が侵害されていると主張して、 商標法36条1項及び2項に基づき、①被告各商品を譲渡し、引き渡し、又は 譲渡若しくは引渡しのために展示することの差止め、②被告各商品の広告宣伝10 物に被告各標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情 報に被告各標章を付して電磁的方法により提供することの差止め並びに③被告 各商品及びその広告宣伝物の廃棄を求める事案である。

▶ 前の判決 ▶ 次の判決 ▶ 商標権に関する裁判例

本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。

判決文

令和7年7月9日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和6年(ワ)第70635号 商標権侵害差止請求事件
口頭弁論終結日 令和7年5月9日
判 決
原 告 ヴェンガー エス アー
同訴訟代理人弁護士 松 永 章 吾
同 寺 前 翔 平
同 丸 山 悠
被 告 ゴ イ チ マ ル 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 中 野 博 之
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
15 2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は、別紙被告商品目録記載の各商品を譲渡し、引き渡し、又は譲渡若し
20 くは引渡しのため展示してはならない。
2 被告は、別紙被告商品目録記載の各商品に関する宣伝用のパンフレットほか
の広告宣伝物に別紙被告標章目録記載の各標章を付して展示し、若しくは頒布
し、又はこれらを内容とする情報に同標章を付して電磁的方法により提供して
はならない。
25 3 被告は、第1項の各商品及び前項の各標章を付した前項の広告宣伝物を廃棄
せよ。
第2 事案の概要等
1 事案の概要
本件は、原告が被告に対し、被告が別紙被告標章目録記載の各標章(以下、
「被告標章1」 「被告標章2」といい、これらを総称して「被告各標章」とい

5 う。)を付した別紙被告商品目録記載の各商品(以下、「被告商品1」「被告商

品2」といい、これらを総称して「被告各商品」という。)を販売することに
より、原告の保有する別紙商標権目録記載の商標(以下「原告商標」という。)
に係る商標権(以下「原告商標権」という。)が侵害されていると主張して、
商標法36条1項及び2項に基づき、①被告各商品を譲渡し、引き渡し、又は
10 譲渡若しくは引渡しのために展示することの差止め、②被告各商品の広告宣伝
物に被告各標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情
報に被告各標章を付して電磁的方法により提供することの差止め並びに③被告
各商品及びその広告宣伝物の廃棄を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがないか、弁論の全趣旨により容易に認められる
15 事実並びに当裁判所に顕著な事実)
⑴ 当事者
ア 原告は、明治26年にスイス連邦で創業し、大正11年に法人化された、
かばん等の製造販売を行う会社である。
イ 被告は、アパレル製品の販売等を行う株式会社である。
20 ⑵ 原告は、原告商標権を有している。
⑶ 被告は、遅くとも令和6年11月11日から、インターネット上のショッ
ピングサイトである楽天市場上の、別紙被告商品目録記載1及び2の販売先
URLのウェブサイト(以下「被告サイト」という。)において、被告標章
1が付された被告商品1及び被告標章2が付された被告商品2の写真を掲載
25 し、被告各商品を販売した。
3 争点
⑴ 原告商標と被告標章1の類否
⑵ 原告商標と被告標章2の類否
⑶ 被告標章1の使用が商標的使用に当たるか
4 争点に関する当事者の主張
5 ⑴ 争点⑴(原告商標と被告標章1の類否)について
(原告の主張)
ア 原告商標と被告標章1は、外側に配置された四角形状の図形(外側の四
角形)、その内側に配置された四角形状の図形(内側の四角形)及びその
内部の中央に位置する幅広の十字の図形から成るという点、色彩について、
10 内側の四角形の十字以外の部分が黒色であるという点において共通する。
取引者及び需要者が被告標章1からより強い印象を受けるのは、一見して
看取することができる全体的構成に関わる上記の共通点の部分である。
一方、原告商標と被告標章1は、①外側の四角形が、やや丸みを帯びた
縁及び角を有する略四角形であるか(原告商標)、直線状の縁と略直角を
15 有する四角形であるか(被告標章1)、②内側の四角形が、やや丸みを帯
びた縁及び角を有するか(原告商標)、直線状の縁と丸められた角を有す
るか(被告標章1)、③外側の四角形と内側の四角形の間の部分(外縁部
分)の四隅には円型凹部が、上下左右の縁には棒状凹部が、それぞれ存
在するか否か、④十字に直線状の溝が存在するか否か、⑤十字の上下左
20 右に外縁部分に向けた直線状の支持棒が存在するか否かという点、色彩
について、⑥外縁部分が、白色であるか(原告商標)、銀色であるか(被
告標章1)、⑦十字が、白色であるか(原告商標)、銀色であるか(被告
標章1)という点において相違する。しかし、上記の相違点は、被告標
章目録記載1のとおりの被告標章1から看取することができないか、仮
25 に看取することができるとしても、全体的構成に関わる上記の共通点と
比べると微差にとどまり、上記の共通点から全体として受ける類似の印
象を凌駕するものとはいえない。
したがって、原告商標と被告標章1の外観は、取引者及び需要者に異な
る印象を与えるものではなく、全体として類似である。
イ 原告商標及び被告標章1からは、「十字」又は「クロス」との観念及び
5 「ジュウジ」又は「クロス」との称呼が生ずるから、両者の観念及び称呼
は同一である。
ウ 被告は、被告サイトの商品の写真に、被告各商品の輸入会社の登録商標
である「SWISSWIN」が付されていたことを理由として、商品の出
所の誤認混同が生じないと主張するが、上記ア及びイで主張する事情に加
10 え、被告各標章が被告各商品の中央部の最も目立つ箇所に付されているこ
と、「SWISSWIN」という商標が著名であるとはいえないことから
すれば、商品の出所の誤認混同が生ずるおそれがある。
エ 以上によれば、被告標章1は原告商標と類似する。
(被告の主張)
15 ア 被告標章1は、金属光沢のある正方形の板を欄間彫刻状に切り抜いた構
造となっているところ、内側の四角形の内部は、小さな丸印が4個程度集
合しているようにも見え、これを判別することは困難である。
イ 原告商標からは、「十字」又は「クロス」との観念及び「ジュウジ」又
は「クロス」との称呼が生ずるのに対し、被告標章1からは、「四角」又
20 は「正方形」の観念及び「シカク」との称呼が生ずる。したがって、両者
の観念及び称呼は異なる。
ウ 被告サイトに掲載されている最初の商品の写真には、被告各商品の輸入
会社の著名な登録商標である「SWISSWIN」が付されていたから、
仮に原告商標と被告標章1の外観、観念又は称呼が類似するとしても、被
25 告標章1の使用によって、商品の出所の誤認混同は生じない。
エ 以上によれば、被告標章1は原告商標と類似しない。
⑵ 争点⑵(原告商標と被告標章2の類否)について
(原告の主張)
ア 原告商標と被告標章2は、外側の四角形、その内側の四角形及びその内
部の中央に位置する幅広の十字から成るという点において共通する。取引
5 者及び需要者が被告標章2からより強い印象を受けるのは、一見して看取
することができる全体的構成に関わる上記の共通点の部分である。
一方、原告商標と被告標章2は、①外側の四角形が、やや丸みを帯びた
縁及び角を有する略四角形であるか(原告商標)、直線状の縁と略直角を
有する四角形であるか(被告標章2)、②内側の四角形が、やや丸みを帯
10 びた縁及び角を有するか(原告商標)、直線状の縁と丸められた角を有す
るか(被告標章2)、③外縁部分の四隅には円型凹部が、上下左右の縁に
は棒状凹部が、それぞれ存在するか否か、④十字に直線状の溝が存在す
るか否か、⑤十字の上下左右に外縁部分に向けた直線状の支持棒が存在
するか否かという点、⑥外縁部分が、白色であるか(原告商標)、銀色で
15 あるか(被告標章2)、⑦十字が、白色であるか(原告商標)、銀色であ
るか(被告標章2)、⑧内側の四角形の十字以外の部分が、黒色であるか
(原告商標)、赤色であるか(被告標章2)という点において相違する。
しかし、上記①~⑧の相違点は、上記の共通点から全体として受ける類
似の印象を凌駕しないから、原告商標と被告標章2の外観は、全体とし
20 て類似である。
イ 原告商標及び被告標章2からは、「十字」又は「クロス」との観念及び
「ジュウジ」又は「クロス」との称呼が生ずるから、両者の観念及び称呼
は同一である。
ウ 被告商品2は被告サイトで販売されているため、取引者及び需要者が、
25 購入前に被告商品2を手に取って観察する機会はない。そして、被告サイ
ト上の被告商品2の写真には、被告標章2が小さく写され、画像も不鮮明
であるから、取引者及び需要者は、上記ア①~⑦の相違点を看取すること
ができないか、看取することができたとしても、共通点と比べると微差に
とどまる。
被告は、被告サイトにおいて、被告標章1が付された被告商品1の写真
5 を掲載しながら、被告サイトにおける注文に対し、被告標章2が付され
た被告商品2を販売(配送)した。このように、被告は、特定の色彩を
意識して被告各標章を使用しているわけではないし、商標権者が登録商
標と色違いのロゴを用いた商品を展開することはよく用いられる営業戦
略であるから、取引者及び需要者は、被告標章2が被告標章1の色違い
10 であると認識するはずであり、上記ア⑧の相違点に係る色彩は、強い識
別力を有しない。
なお、被告サイトの商品の写真に、「SWISSWIN」の商標が付さ
れていたからといって、商品の出所の誤認混同が生じないということに
ならないのは、前記⑴(原告の主張)ウのとおりである。
15 エ 以上によれば、被告標章2は原告商標と類似する。
(被告の主張)
ア 原告商標と被告標章2には、原告が主張する共通点が存在する。
しかし、原告が主張する①~③及び⑤の相違点に加えて、被告標章2に
ついては原告商標より外縁部分の幅が広い点を考慮すると、原告商標は
20 シンプルな印象を与えるのに対し、被告標章2は重厚で複雑な印象を与
える。
また、原告が主張する⑥~⑧の色彩の相違点により、原告商標と被告標
章2は全体として明らかに異なる上、被告標章2では、外側の四角形、
内側の四角形及び十字部分の色と、内側の四角形の十字以外の色とがコ
25 ントラストを成し、上記の形状の相違を強調している。
このように、原告商標と被告標章2は、多くの相違点を有しており、し
かも、原告商標が四角形に囲まれた十字から成る比較的単純な構成の商
標であり、取引者及び需要者が上記の相違点を看取しやすいことも踏ま
えると、原告商標と被告標章2の外観は、取引者及び需要者に異なる印
象を与えるものといえ、類似するとはいえない。
5 イ 原告商標と被告標章2からは、「十字」 「クロス」等の観念及び「ジュ

ウジ」又は「クロス」等の称呼が生じ得るが、「十字(ジュウジ)」及び
「クロス」は、スイス国旗や赤十字旗等にも使用される著名な観念及び称
呼である。
また、被告各商品は被告サイトで販売されているところ、取引者及び
10 需要者は、主に商品名やブランド名等を利用して商品を検索し、購入す
るといえ、「十字(ジュウジ)」及び「クロス」という観念及び称呼に基
づいて商品の検索等を行うことは想定し難い。
したがって、原告商標及び被告標章2の観念及び称呼が取引者及び需
要者に与える印象、記憶及び連想等はそれほど大きくない。
15 ウ 前記⑴(被告の主張)ウのとおり、被告サイトに掲載されている最初の
商品の写真に「SWISSWIN」の商標が付されていたことからすれば、
商品の出所の誤認混同は生じない。
エ 以上によれば、被告標章2は原告商標と類似しない。
⑶ 争点⑶(被告標章1の使用が商標的使用に当たるか)について
20 (被告の主張)
被告標章1は、内側の四角形の内部の外観が不明で、自他商品識別機能を
果たす態様で使用されているとはいえないから、被告標章1の使用は商標的
使用に当たらず、原告商標権の効力はこれに及ばない。
(原告の主張)
25 被告標章1は、被告商品1の中央部の最も目立つ箇所に設けられており、
自他識別機能を果たす態様で使用されているから、被告標章1の使用は商標
的使用に当たる。
第3 当裁判所の判断
1 商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に、
商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであ
5 るが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念及び称呼
等によって取引者、需要者に与える印象、記憶及び連想等を総合して全体的に
考察すべきであり、かつ、その商品の取引の実情を明らかにし得る限り、その
具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和39年(行
ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁、
10 最高裁平成6年(オ)第1102号同9年3月11日第三小法廷判決・民集5
1巻3号1055頁参照)。
2 争点⑴(原告商標と被告標章1の類否)について
⑴ 原告商標について
ア 外観は、別紙商標権目録記載のとおりであり、①外側に配置された、外
15 側に張り出す形で湾曲した縁(辺)及び丸みを帯びた角を有する略正方形
の図形、②その内側に配置された①と略相似形の略正方形の図形並びに③
その内部の中央に配置された幅広の十字の図形から成る。外側の略正方形
と内側の略正方形との間の部分(外縁部分)の幅は十字の幅の3分の1程
度であり、外縁部分及び十字が白色で、その余の部分が黒色である。
20 イ 観念については、内側の四角形の内部の中央に位置する十字から、「十
字」又は「クロス」の観念が生ずる。
ウ 称呼については、内側の四角形の内部の中央に位置する十字から、「ジ
ュウジ」又は「クロス」との称呼が生じ得る。
⑵ 被告標章1について
25 ア 外観は、別紙被告標章目録記載1のとおりであり、①外側に配置された、
直線状の縁(辺)及び略直角の角を有する四角形の図形、②その内側に配
置された①と略相似形の四角形の図形並びに③その内部の略中央に上下に
2つ左右に2つ接着して配置された4つの不整形な円の集合体状の図形か
ら成る。外側の四角形と内側の四角形との間の部分(外縁部分)の幅は不
整形の円の直径と同程度であり、外縁部分及び不整形の円の集合体状の図
5 形の部分が銀色ないし白色で、その余の部分が黒色である。
イ 観念について、外縁部分から、「四角」の観念が生ずる。
ウ 称呼について、外縁部分から「シカク」との称呼が生じ得る。
⑶ 前記⑴及び⑵を踏まえ、原告商標と被告標章1の類否について検討する。
ア 原告商標と被告標章1の外観は、外側及び内側に四角形が配置されてい
10 る点、外縁部分及び内側の図形が淡色で、その余の部分が黒色であるとい
う点において共通する。これらの共通点は、取引者及び需要者が着目する
図形の全体的構成に関わるものであるから、取引者及び需要者に対し、一
定程度、類似との印象を与え得るものといえる。
一方、原告商標と被告標章1の外観は、①外側及び内側の四角形の四辺
15 に当たる縁(辺)が、外側に向けて湾曲しているか(原告商標)、直線で
あるか(被告標章1)の点、②外側及び内側の四角形の四隅が丸みを帯
びているか(原告商標)、角であるか(被告標章1)の点、③外縁部分の
幅が、原告商標の方が被告標章1より狭い点、④中央部分に配置された
図形が異なる点において相違する。
20 上記④の相違点は、取引者及び需要者が着目する中央部分に位置する図
形に関わるもので、識別力が高い部分に係る相違点である。また、上記
①及び②の相違点についても、外縁部分から受ける印象が丸みを帯びた
ソフトなものであるのか、シャープなものであるのかにおいて明らかに
異なるから、上記④の相違点とあいまって、上記の共通点から全体とし
25 て受ける類似との印象を凌駕することは明らかである。
そうすると、原告商標と被告標章1の外観は、取引者及び需要者に異な
る印象を与えるものといえ、類似するとはいえない。
イ また、前記⑴及び⑵のとおり、原告商標と被告標章1は、観念及び称呼
の点においても異なる。
ウ 取引の実情に関し、被告は、被告サイトで被告各商品を販売していたこ
5 と、被告各商品の輸入会社であるTRAVELPLUS INTERNA
TIONAL株式会社は、「SWISSWIN(標準文字)」という登録商
標に係る商標権(商標登録第6026579号)を保有していること、被
告は、被告各商品を販売する被告サイトにおいて、冒頭に表示される被告
商品1の写真の上に、「SWISSWIN」の文字から成る標章を同商品
10 に付された被告標章1より大きく付し、被告各商品についての商品名欄に
「【送料無料】SWISSWIN バックパック リュック リュックサ
ック・・・」と、商品詳細欄に商品名として「SWISSWIN リュッ
ク」と、商品仕様欄にブランド名として「SWISSWIN」と記載して
いたことの各事実が認められるところ(甲4、乙3及び弁論の全趣旨)、
15 取引者及び需要者において、被告商品1の出所について誤認混同が生じて
いることをうかがわせる証拠は見当たらない。
エ 以上によれば、原告商標と被告標章1が同一の商品であるかばん(原告
商標の指定商品及び被告商品1)に使用された場合に、その外観、観念及
び称呼によって取引者及び需要者に与える印象、記憶及び連想等を総合し
20 て、その商品に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察したとしても、
原告商標と被告標章1が、商品の出所について誤認混同を生ずるおそれが
あるとはいえない。
よって、被告標章1が原告商標と類似するとはいえない。
⑷ これに対し、原告は、被告標章1の外観について、外縁部分の内側に十字
25 の図形を看取することができることを前提に、原告商標と被告標章1が類似
すると主張する。しかし、原告が特定した被告標章1は、小さくて不鮮明な
ものであり、外縁部分の内側に、上下に2つ左右に2つ接着して配置された
4つの不整形な円の集合体状の図形を看取することができるにとどまること
は前記⑵アに認定したとおりであり、原告の主張は前提を欠く。原告のその
余の主張も、以上の判断を左右するには足りない。
5 3 争点⑵(原告商標と被告標章2の類否)について
⑴ 被告標章2について
ア 外観は、別紙被告標章目録記載2のとおりであり、①外側に配置された
直線状の縁(辺)及び略直角の角を有する略正方形の図形、②その内側に
配置された直線状の縁(辺)及び丸められた角を有する略正方形の図形、
10 ③その内部の中央に位置する幅広の十字及び十字の上下左右から内側の略
正方形に向けて延びる直線状の支持棒の図形から成り、外側の略正方形と
内側の略正方形との間の部分(外縁部分)の幅は、十字の幅の3分の2程
度である。外縁部分並びに十字及び支持棒は、その余の部分より盛り上が
り、外縁部分の四隅にはリベット頭部状部分及びそれを囲む円型凹部が、
15 外縁部分の上下左右には棒状凹部(棒状凹部の両端と四隅部分との間は湾
曲した凹部で区切られている。)が、十字部分には斜線状の溝が4本存在
するという立体的形状を有する。外縁部分、十字及び支持棒が銀色、その
余の部分が赤色である。
イ 観念については、中央に位置する十字から、「十字」又は「クロス」の
20 観念が生ずる。
ウ 称呼については、中央に位置する十字から、「ジュウジ」又は「クロス」
との称呼が生じ得る。
⑵ 前記2⑴及び前記⑴を踏まえ、原告商標と被告標章2の類否について検討
する。
25 ア 原告商標と被告標章2の外観は、外側及び内側に略正方形が配置され、
その内部の中央に幅広の十字が配置されているという点において共通する。
これらの共通点は、取引者及び需要者が着目する図形の全体的構成に関わ
るものであるから、取引者及び需要者に対し、類似との印象を与えるもの
といえる。
一方、原告商標と被告標章2の外観は、①外側及び内側の略正方形の四
5 辺に当たる縁(辺)が、外側に向けて湾曲しているか(原告商標)、直線
であるか(被告標章2)の点、②被告標章2の十字が支持棒を有するが、
原告商標は有しない点、③外縁部分の幅が、原告商標の方が被告標章2
より狭い点、④被告標章2は、外縁部分並びに十字及び支持棒が、その
余の部分より盛り上がっているが、原告商標は平板である点、⑤被告標
10 章2は、外縁部分の四隅にはリベット頭部状部分及びそれを囲む円型凹
部が、外縁部分の上下左右には棒状凹部(棒状凹部の両端と四隅部分と
の間は湾曲した凹部で区切られている。)が、十字部分には斜線状の溝が
4本存在するが、原告商標は平板である点、⑥外縁部分及び十字が白色
(原告商標)であるか銀色であるか(被告標章2。支持棒を含む。)の点、
15 ⑦⑥以外の部分が黒色(原告商標)であるか赤色であるか(被告標章2)
の点において相違する。
原告商標と被告標章2は、いずれも略正方形に囲まれた十字から成る比
較的単純な構成であるため、取引者及び需要者が上記相違点を看取する
ことは容易であるといえる。そして、上記①~⑤の相違点によって、原
20 告商標が平板でシンプルな印象を与えるのに対し、被告標章2は、より
重厚かつ複雑な印象を与えるものである。また、上記⑥及び⑦の相違点
について、被告標章2の色彩は、モノトーンではないという点で、全体
として原告商標の色彩と異なる印象を与えるものである。
これらの相違点は、上記の共通点から受ける類似との印象を凌駕し、原
25 告商標と被告標章2の外観は、顕著な差異があるといえる。
したがって、原告商標と被告標章2の外観は、取引者及び需要者に異な
る印象を与えるものといえ、類似するとはいえない。
イ 原告商標と被告標章2からは、「十字」又は「クロス」の観念及び「ジ
ュウジ」又は「クロス」の称呼が生じ得るから、両者の称呼及び観念は同
一である。
5 ウ 取引の実情に関し、前記2⑶ウに認定した事実が認められるところ、取
引者及び需要者において、被告商品2の出所について誤認混同が生じてい
ることをうかがわせる証拠は見当たらない。そして、原告商標は文字を含
まず図形のみからなる商標であるが、インターネット上のショッピングサ
イトにおいて、取引者及び需要者は、主に商品名やブランド名等を利用し
10 て商品を検索し、購入するといえ、図形から生じる「十字(ジュウジ)」
及び「クロス」という観念及び称呼に基づいて商品の検索等を行うことは
想定し難い。
そうすると、原告商標と被告標章2の観念及び称呼が同一であることに
よって取引者及び需要者に与える印象、記憶及び連想等が大きいとはいえ
15 ず、前記の外観の差異は、観念及び称呼の共通性を凌駕するものといえる。
エ 以上によれば、原告商標と被告標章2が同一の商品であるかばん(原告
商標の指定商品及び被告商品2)に使用された場合に、その外観、観念及
び称呼によって取引者及び需要者に与える印象、記憶及び連想等を総合し
て、その商品に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察したとしても、
20 原告商標と被告標章2が、商品の出所について誤認混同を生ずるおそれが
あるとはいえない。
よって、被告標章2が原告商標と類似するとはいえない。
⑶ これに対し、原告は、被告商品2は被告サイトで販売されているところ、
同サイト上の被告商品2の写真には、被告標章2が小さく写され、画像も不
25 鮮明であるから、取引者及び需要者は、前記⑵ア①~⑥の相違点を看取する
ことができないか、看取することができたとしても、共通点と比べると微差
にすぎないと主張する。しかし、被告サイトには複数の被告商品2の写真が
掲載されており(甲4)、被告標章2について、前記⑵ア①、③、④(ただ
し、支持棒の点を除く。、⑥及び⑦の相違点を看取することができるといえ、

以上によれば、相違点について微差にすぎないとの評価は当たらない。
5 また、原告は、被告は、被告サイトにおいて、被告商品1の写真を掲載し
ながら被告商品2を配送しており、特定の色彩を意識して被告各標章を使用
しているわけではないこと、取引者及び需要者は、被告標章2が被告標章1
の色違いであると認識するはずであり、色彩は強い識別力を有しないことを
主張する。しかし、原告商標と被告標章2の相違点は色彩の点に限られない
10 ことは以上に説示したとおりであって、原告の主張する点は、以上の判断を
左右するものではない。
第4 結論
よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理
由がないからこれらを棄却することとして、主文のとおり判決する。
15 東京地方裁判所民事第46部

裁判長裁判官 髙 橋 彩

裁判官 西 山 芳 樹

裁判官 瀧 澤 惟 子
別紙
被告商品目録
1 商品名 SWISSWIN リュック
5 商品管理番号 SW9972
サイズ 横幅400×高さ500×マチ180mm
素材 1680Dナイロン
カラー ブラック
販売先URL
10 https:// 以下省略
商品画像

2 商品名 SWISSWIN リュック
商品管理番号 SW9972
サイズ 横幅400×高さ500×マチ180mm
素材 1680Dナイロン
5 カラー ブラック
販売先URL
https:// 以下省略
商品画像

別紙
被告標章目録
1 赤枠によって囲まれた部分(ただし、直線状の縁(辺)と略直角の角を有する
5 外側の四角形より外側の部分を除く。)



以上
別紙
商標権目録
登録番号 国際登録第1002196号
5 国際登録日 2009年(平成21年)1月16日
(優先権主張 2008年(平成20年)8月14日米国出願)
国内登録日 2010年(平成22年)11月5日
商品の区分 第8類、9類、14類、18類、25類
指定商品 Class 18 All-purpose dry bags, luggage, backpacks,
10 daypacks, duffel bags, utility bags, shoulder bags, casual
bags, briefcases, non-motorized wheeled packs, cosmetic
cases sold empty and toiletry cases sold empty, travel
bags, small personal leather goods, namely, wallets,
billfolds, credit card cases, neck, necklace wallets, and
15 shaving bags sold empty; umbrellas and name and calling
card cases, cosmetic cases sold empty, toiletry cases sold
empty, luggage tags, waistpacks, bags worn on the body,
business cases, travel bags, all-purpose personal care
bags, small personal leather goods; shoe bags for travel;
20 unfitted bags for handheld electronic devices; waistpacks
for holding electronic devices.等
(参考訳)
第18類 汎用防水バッグ、旅行かばん、バックパック、デイパ
ック(日帰りハイキング用などの小型ナップサック)、ダッフル
25 バッグ、多用途のかばん、肩掛けかばん、カジュアルバッグ、ブ
リーフケース、車輪の付いたバック(原動機付きのものを除
く。)、化粧品用ケース(中身が入っていないもの)、旅行かば
ん、革製の小さな身の回りの物、すなわち財布、札入れ、クレジ
ットカード入れ、首にぶら下げる財布・ネックレス付きの財布、
シェービングバッグ(中味が入っていないもの)、傘及び名刺用
5 ケース、化粧品用ケース(中身なし)、化粧品入れ(空のも
の)、旅行かばん用タグ、ウエストパック、身体に装着させるか
ばん、書類かばん、旅行かばん、汎用の身の回りの物を入れるか
ばん、革製の小さな身の回りの物、旅行用靴袋、手持ち式の電子
式装置に不向きなバッグ、電子式装置保持用のウエストパック等
10 登録商標

以上

最新の判決一覧に戻る

法域

特許裁判例 実用新案裁判例
意匠裁判例 商標裁判例
不正競争裁判例 著作権裁判例

最高裁判例

特許判例 実用新案判例
意匠判例 商標判例
不正競争判例 著作権判例

今週の知財セミナー (7月14日~7月20日)

来週の知財セミナー (7月21日~7月27日)

特許事務所紹介 IP Force 特許事務所紹介

アクトエース国際特許商標事務所

愛知県小牧市小牧4丁目225番地2 澤屋清七ビル3 206 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング 

溝上法律特許事務所

大阪府大阪市西区靱本町1丁目10番4号 本町井出ビル2F 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング 

ひので総合特許事務所

〒330-0846 埼玉県さいたま市大宮区大門町3-205 ABCビル401 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング