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令和6(行ケ)10076審決取消請求事件

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裁判所 一部認容 知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和7年10月16日
事件種別 民事
当事者 原告マウェタルエルエルシー
被告特許庁長官
対象物 燃料及びその配合組み合わせ
法令 特許権
特許法36条6項2号3回
特許法70条1項1回
特許法49条1回
特許法17条の21回
キーワード 審決27回
実施9回
分割4回
拒絶査定不服審判2回
抵触1回
主文 1 本件訴えのうち、不服2022-7786号事件について特許庁
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は原告の負担とする。
4 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を
30日と定める。
事件の概要 1 本件は、特許出願の拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取 消し等を求める訴訟である。主な争点は、同審決における明確性要件について の判断の誤りの有無である。

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判決文

令和7年10月16日判決言渡

令和6年(行ケ)第10076号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 令和7年7月29日

判 決

原 告 マウェタル エルエルシー

同訴訟代理人弁護士 遠 藤 一 義

被 告 特許庁長官

同指定代理人 関 根 裕

同 村 守 宏 文

同 弘 實 由 美 子

同 天 野 貴 子

同 阿 曾 裕 樹

主 文

1 本件訴えのうち、不服2022-7786号事件について特許庁

に対する義務付けを求める部分(後記請求の趣旨5項に係る訴え)

を却下する。

2 原告のその余の請求を棄却する。

3 訴訟費用は原告の負担とする。

4 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を

30日と定める。

事 実 及 び 理 由

第1 請求及び答弁

第1-1 請求の趣旨

1 不服2022-7786号事件において審判部が令和6年5月2日に下した審決を破棄し、特許庁に差し戻す。2 審判部審決には技術的な誤りがあり、それが 1 件以上の明らかに根拠のない拒絶の原因となった。

5 3 審判部の根拠のない拒絶は、特許庁への差し戻しを必要とします。4 原告の審判部の不当な拒絶の主張の対象は、原告の訴状および準備書面によって詳細に証明されている。不当な拒絶は以下のように要約される:

⑴ 審判部は、日本市場における従来のディーゼル燃料の供給を削減するための請求項 1 の発明を拒絶した。

(a) 発明の日本市場への影響が拒絶の法的根拠ではない場合、および

(b) 審判部の拒絶とは逆に、請求項 1 の新規燃料は、従来のディーゼル燃料に代わる新しい燃料供給を増やすものであり、および

(c) 請求項 1 の燃料は、通常のディーゼル燃料の炭素範囲外の炭素範囲の化学物質で作られているが、供給の代替として「ディーゼル燃料のエネルギー密度」の範囲内で新しい燃料を提供するものであり、

⑵ 審判部は不完全な蒸留精製技術業界を完全なものとして扱い、

(a) 時間は容積曲線とは無関係であるにもかかわらず、出願人の容積蒸留曲線に「時間」を適用し、

(b) 出願人が適用した技術の蒸留セグメントカットポイントを無視し、

(c) 不完全な蒸留の中間容積セグメントの化学的重なりを適用することを拒否し、

(d) 中間セグメントの沸点に精製技術の経験的 90%プラス調整を適用することを拒否し、

⑶ 審判部は出願人の請求項 1「(L)+(M)+(H)」方程式の計算を誤って適用した。5 本裁判所は、審判部審判官および特許庁審査官に対し、(i)根拠のない拒絶を繰り返さないこと、または(ii)本出願および関連する分割出願に関して新たに追加された明らかに根拠のない拒絶を主張しないことを指示する。

第1-2 請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

5 第2 事案の概要1 本件は、特許出願の拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取消し等を求める訴訟である。主な争点は、同審決における明確性要件についての判断の誤りの有無である。2 特許庁における手続の経緯等

⑴ 原告は、令和3年6月16日、発明の名称を「燃料及びその配合組み合わせ」とする発明につき特許出願(特願2021-100333。以下「本願」といい、本願の特許請求の範囲に記載された発明を「本願発明」と、本願願書に添付した明細書〔甲1〕及び図面〔甲2〕を併せて「本願明細書」という。)をした。なお、本願は、原々出願(特願2019-519955・国際出願日平成28年10月18日)、原出願(特願2020-90195・出願日令和2年5月25日)と順次分割して出願したものである。

⑵ 原告は、令和3年8月4日付けで拒絶理由通知を受けたことから、令和4年1月11日、意見書及び手続補正書を提出して特許請求の範囲の補正をしたが、同月18日付けで拒絶査定を受けた。

⑶ 原告は、令和4年5月24日、拒絶査定不服審判請求(以下「本件審判請求」という。)をするとともに、手続補正書を提出して特許請求の範囲の補正(以下「本件補正」という。請求項の数10)をした。

⑷ 特許庁は、本件審判請求を不服2022-7786として審理し、令和6年5月2日、本件審判請求は成り立たないとの審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同月14日に原告に送達された。

⑸ 原告は、令和6年7月31日、本件審決の取消し等を求めて本件訴訟を提起した。3 特許請求の範囲の記載本願の特許請求の範囲の記載は、別紙「特許請求の範囲の記載」のとおりで

5 あり、同別紙記載1が本件補正前のもの、同別紙記載2が本件補正後のものである。このうち、本件補正後の請求項1は、次のとおりである。【請求項1】燃料として有用な配合組み合わせであって、前記燃料を、(L)+(M)+(H)からなる一連の炭化水素の構成要素を組み合わせて得られた組み合わせを、合計100体積% に基づいて、(a) (L)%+(M)%+(H)%=100%、(b) (L)%=(H)%=(100%-(M)%)/2及び(c) (M)%がゼロ(零)または100%未満であるならば、前記「100%-(M )%」の引き算の余りは、(L)%/(H)%で、0.4/1~0.6/1の比となり、 または(M)%が30~70%であるならば、前記余りは、(L)%/(H)%で、0. 9/1~1/0.9の比もしくは0.4/1~0.6/1の比となるように決定して形成し、(d) 前記組み合わせは、最終的な(1)15℃で820~880Kg/M3以内の組み合わせ密度、(2)0.5重量%以下の硫黄含有量、及び(3)40重量ppm以下の 金属含有量を有し、但し、(M)%がゼロ(零)または100%未満でありかつ前記余りが(L)%/(H)%で、0.4/1~0.6/1の比となる場合には、前記組み合わせは、最終的な(1)15℃で820~880Kg/M3以内の組み合わせ密度、(2)0 .25重量%以下の硫黄含有量、及び(3)40重量ppm以下の金属含有量を有し、(e) (L)は、ナフサ及び灯油範囲物質の成分を含み、(i)精製されもしくは部分精製され、または(ii)未精製でもしくは抽出されて、軽質ガスまたは水の任意の分離を除き、分留、水素化処理またはその他の処理工程を行うことなく使用され、前記(L)は38℃(華氏100

5 度)以下の初留点、190℃(華氏374度)~約205℃(華氏 401度)の90%留出温度の終点を有し、(L)範囲成分は、(L)の個々の構成要素が前記最終的な組み合わせ密度範囲外であっても、(L)範囲嵩密度及び前記最終的な組み合わせ密度を与え、(f) (M)は、約190℃(華氏374度)~約205℃(華氏401度)の初留点 、約385℃(華氏725度)~410℃(華氏770度)の90%留出温度の終点を有する精製または部分精製された石油留分を有し、(M)範囲成分は、(M)の個々の構成要素が前記最終的な組み合わせ密度範囲外であっても、(M)範囲嵩密度及び前記最終的な組み合わせ密度を与え、(g) (H)は、約385℃(華氏725度)~約410℃(華氏770度)の初留点、約815℃(華氏1499度)以下の終点を有する精製または部分精製された石油留分を有し、(H)の終点は、溶剤分離により処理してアスファルテン及び金属の存在を低減した後、回収し、続いて水素化変換または水素化処理により処理して組み合わせ燃料の最終硫黄含有量を満たすように(L)、(M)及び(H)の前記組み合わせに添加できるレベルにされた流れの成分の最高沸点であり、(H)範囲成分は、(H)の個々の構成要素が前記最終的な組み合わせ密度範囲外であっても、(H)範囲嵩密度及び前記最終的な組み合わせ密度を与えるものであることを特徴とする配合組み合わせ4 本件審決の理由の要旨本件審決は、概要、次のとおり、本件補正による補正を適法としたうえで、特許法36条6項2号に規定する明確性要件に違反すると判断した。

⑴ 本件補正は、「明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」(特許法17条の2第5項4号)

5 を目的とするものである。

⑵ 本件補正後の請求項1において、(ア) 条件(b)と条件(c)とが同時に満たされることはないため、及び、(イ) 条件(c)の(M)%の数値範囲の場合分けにおける重複部分について優先関係が設定されていないため、これらの条件で特定された請求項1の記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である。すなわち、(ア)について、(b)の事項と(c)の事項は同時に満たすことができないものであるにもかかわらず、請求項1には、(b)の事項と(c)の事項のいずれが優先するかを定める記載はなく、本願明細書の記載(【0070】【0072】【0088】【0094】~【0096】を含む。)を考慮し、当業者の本願出願当時における技術常識を基礎としても、「100%-(M)%」の引き算の余りを決定して形成するに際し、(b)の事項と(c)の事項のいずれが優先するか、明らかではない。また、(イ)について、(c)の事項において、(M)%が「(M)%がゼロ(零)または100%未満であるならば」の場合と「(M)%が30~70%であるならば」の場合の両方に該当する際に、いずれの場合の「(L)%/(H)%」の範囲を採用して「100%-(M)%」の引き算の余りを決定して形成するかを定める記載はなく、本願明細書の記載を考慮し、当業者の本願出願当時における技術常識を基礎としても、いずれの範囲を採用して「100%-(M)%」の引き算の余りを決定して形成するか明らかでない。よって、請求項1に記載された本願発明の範囲は明確ではなく、請求項1の記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である。

⑶ 本件補正後の請求項1の「90%留出温度の終点」との発明特定事項は、実質的に異なる温度を意味する「90%留出温度」と「終点」との用語を合成した記載であり、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である。

5 すなわち、発明特定事項(e)(f)において、(L)及び(M)は、それぞれの有する「90%留出温度の終点」の温度範囲によって特定されている。ここで、「90%留出温度の終点」の用語は、周知慣用の技術用語ではなく、本願明細書の記載を検討しても、「90%留出温度の終点」の定義等を示す記載はない。また、「90%留出温度」とは留出量が90%である時点での温度と解され、「終点」とは試料が全て気化したときの温度を示す用語であるから、これらは異なる意味を有する用語である。そうすると、本願明細書の記載を考慮し、当業者の本願出願当時における技術常識を基礎としても、異なる意味を有する用語を組み合わせた「90%留出温度の終点」の示すものを当業者は理解することができない。したがって、上記発明特定事項により特定される請求項1に記載された本願発明の範囲は明確でなく、請求項1の記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である。

第3 争点及び争点に関する当事者の主張

第3-1 争点

1 各請求について

2 取消事由(明確性要件違反がないこと)

⑴ 請求項1(a)~(c)の明確性

⑵ 請求項1(c)固有の明確性

⑶ 請求項1(e)(f)「90%留出温度の終点」の明確性

第3-2 争点に関する当事者の主張

1 各請求について

(原告の主張)

本件審決は、技術的な誤りにより根拠のない不当な拒絶をした(請求の趣旨2項)。すなわち、本件審決は、従来のディーゼル燃料に代わる新規燃料を提供する発明を拒絶し、不完全な蒸留の中間容積セグメントの化学的重なりを前

5 提として中間セグメントの沸点に精製技術の経験的90%プラス調整を適用す

ることを拒否し、また、請求項1「(L)+(M)+(H)」方程式の計算を誤って適用するなどした(同4項)。本件審決による拒絶は、根拠のない不当なものであるから、本件審決を取り消して特許庁へ差し戻す必要がある(同1項、3項)、さらに、特許庁に対し (i)根拠のない拒絶を繰り返さないこと、又は

(ii)本願及び関連する分割出願に関し、新たに追加された根拠のない拒絶を主

張しないことを指示すべきである(同5項)。

(被告の主張)

⑴ 請求の趣旨1の請求は、本件審決の取消しを求めるもの、同2~4の各請

求は、取消事由をいうものと解されるところ、いずれも理由がないから棄却を求める。

⑵ 請求の趣旨5の請求は、特許庁に対する義務付けを求めるものと解される

が、不適法な訴えである。仮に、本件審決が取り消されるべき場合において、審決取消判決が確定したときは、審判官はさらに審理を行い、その際、審決取消判決の拘束力(行政事件訴訟法33条1項)を超える義務付けの法的根拠は存しない。

2 請求項1(a)~(c)の明確性について

(原告の主張)

⑴ 請求項1は、(b)の事項と(c)の事項を「および」の文言で結びつけ

る点で正しい。(a)の事項に関連する(b)と(c)は明確である。

⑵ 本願の請求項1が派生したPCT国際特許出願の他の国内審査では、本願

の請求項1に対応する特許が付与されている(ロシア、韓国、米国、中国、香港、インド、エジプト、サウジアラビア、パナマ、メキシコ、ARIPO〔リベリア、モザンビーク〕)。本願発明は、通常のディーゼル燃料の炭素範囲外の炭素範囲の化学物質を含み、供給の代替として「ディーゼル燃料のエネルギー密度」の範囲内で新しい燃料を提供するという技術的特徴がある

5 ところ、日本の本件審決はこれを正解していない。

⑶ 請求項1の(a)(b)(c)の事項の演算順序は、当業者であれば適用

する数学的論理的演算順序に関する周知の統一的先行技術規則(PEMDAS、BODMAS)を適用すべきである。すなわち、A+B+Cにおいて、まず、AとBを加算し、その結果である(A+B)にCを加えるが、もし、Cが(A+B)の条件を上書きする条件である場合は、A及びBの組み合わせ条件は結果の評価において無視され、Cの条件のみによって結果が決定される。請求項1の場合、(M)=100%の場合は、(a)=(L)+(M)+(H)=100%において、(L)及び(H)は0でなければならず、(b)=(L)%=(H)%=(100%-(M)%)/2においても、(L)及び(H)は0でなければならない。しかし、(M)が0又は100%未満の場合は、(c)が統制的条件であり、統一的な演算順序の規則に従い(c)が優先されるため、(L)%/(H)%=0.9/1~1/0.9又は0.4/1~0.6/1の比率となる(なお、請求項1が(a)(b)を含むのは、従属項である請求項2~10を実現するためであり、これらの請求項も審査する必要がある。)。すなわち、(M)=100%のときは、(c)は適用されない一方、(c)は(M)が100%でないすべての場合に優先的に適用される。

(被告の主張)

⑴ 請求項1は、(a)(b)及び(c)の条件を同時に全て満たすことを特

定するが、(b)と(c)は両立しないため、請求項1の記載により特定される(L)と(H)の割合を理解することができない。

⑵ 請求項1の記載において、(a)(b)及び(c)は、同時に全てみたさ

れるべきものである。(b)が(M)%=100%の場合にのみ適用されると解釈することは合理的でないから、(b)は(M)%=0~100%の範囲において適用されるものと解すべきである。

5 また、(L)%/(H)%は、(b)の場合は、50.0/50.0の比

である一方、(c)で(M)%がゼロ又は100%未満の場合は、28.6/71.4~37.5/62.5の比であるから、(b)を満たすように(L)と(H)を等量に構成した場合と、(c)で(L)と(H)より少なくなるように構成した場合とでは齟齬があり(b)と(c)は両立しない。本願明細書の記載(【0088】【図4】【図5】【0094】【表1】)を参照しても、(b)(c)がいかなる範囲を意図しているのか明らかでない。請求項1において、(c)が(M)が100%でない場合の全ての場合に優先するが、(M)=100%の場合には、(a)及び(b)が適用されるとの明示的な特定はなく、本願明細書の記載からも、このような解釈の根拠は見当たらない。

⑶ したがって、請求項1の記載により特定される(L)と(H)の割合を理

解することはできず、その結果、請求項1の「燃料の有用な配合組合せ」も理解できない。なお、各国にされた特許出願は、各国の国内法令に従って独立に審査等がされるから、他国の審査結果が、日本で特許を受けられるか否かとは関係しない。

3 請求項1(c)固有の明確性について

(原告の主張)

⑴ 請求項1の(c)には、(M)が30%~70%存在する場合の「実質的

に等しい部分」(L)/(H)の実施形態比率という技術的代替案(すなわち、簡略化された実施形態では、(M)は体積比で30%~70%の範囲であり、残りは実質的に等しい部分の(L)と(H)で、(L)/(H)の比率は0.9/1~1/0.9である。)が含まれている。すなわち、請求項1の(c)における技術的代替案は、(L)/(H)の比率0.4/1~0.6/1及び0.9/1~1/0.9であって、本願明細書の表1により裏付けられる。

5 ⑵ よって、請求項1の(c)は、代替実施形態をカバーするものとして誤解

を招くものではなく、米国特許10883056の付与された請求項1及び4と同等の範囲である。

(被告の主張)

⑴ (c)は、100%-(M)%の引き算の余りについて「(M)がゼロ又

は100%未満」である場合と「(M)が30~70%である場合」とを「または」で接続して択一的に特定している。したがって、(c)で「(M)が30~70%」の場合、(L)/(H)が「0.4/1~0.6/1の比」のみであるのか、又は「0.9/1~1/0.9の比若しくは0.4/1~0.6/1の比」なのか明確ではない。そして、前者と後者では、許容される(L)と(H)の比の範囲が異なるので、(c)が意味する数値範囲を理解することはできない。

⑵ 本願明細書の記載(段落【0094】)の【表1】の留分欄では、(M)

が16.6%の場合が記載されているものの、(M)%が30~70%の場合の例の記載はない。また、(c)によれば、(M)%が16.6%の場合、「100%-(M )%」の余りは、(L)%/(H)%で0.4/1~0.6/1に該当するが、【表1】では(L)%/(H)%は0.408/0.426=0.96/1であるから両者は相容れないのであり、少なくとも(M)%が30%未満の場合、及び(M)%が70%を超え100%未満の場合には、(c)は【表1】によって裏付けられているとはいえない。よって、【表1】の記載に基づいて請求項1の出願書類の数値範囲を理解することはできない。

4 請求項1(e)(f)「90%留出温度の終点」の明確性について

(原告の主張)

商業的な精製における蒸留操作の慣行では、対象範囲の初期沸騰と前の範囲の終点が重複するという沸点範囲に重なりが生じるという経験的知識を前提に、

5 (L)範囲と(M)範囲の各成分について絶対的な終点まで留分を蒸留した場

合の完全な終点の手前である約90%において効率的なカットポイントを設定するのが一般的である(90%は「%体積蒸留量」を指す。)。そして、明確性の観点から、請求項1では、各中間セグメントに対する上限範囲を「90%プラスから最終沸点まで」の範囲としているのであり、「90%留出温度」は、蒸留量が90%に達した時点での温度を、「終点」は、サンプルが完全に蒸発する時点での温度を、それぞれ意味するものと解釈される。このように請求項1は、カットポイントを実務として行う商業操作者に対して、各セグメントの範囲について構成・適切な通知を提供しており、当業者にとって明確である。

(被告の主張)

⑴ 「90%留出温度」は蒸留量が90%になる温度であり、「終点」はサン

プルが完全に蒸発する温度であり、意味が異なる2つの用語が「の」で結ばれた「90%留出温度の終点」の用語は不明確である。

⑵ 【図4】【図5】のとおり、本願発明の実施形態では(L)(M)(H)

と「TBP」の関係が示されているが、本願明細書には「TBP」と「90%留出温度の終点」の関係についての説明はない。【図5】では(L)の範囲の終点と(M)の範囲の始点の「TBP」が約220℃であることは読み取れるが、請求項1(e)の(L)の「90%留出温度の終点」として記載される「190℃(華氏374度)~約205℃(華氏401度)」とは異なるから、【図5】に基づき「TBP」と「90%留出温度の終点」の関係を読み取ることはできない。別の実施態様である【図4】も同様である。本願明細書の記載(【0070】【0072】)における「90%プラス終点」の温度範囲は、請求項1(e)(f)の「90%留出温度の終点」としての温度範囲と一致するが、上記段落で定義されている(L)又は(M)がいかなるものかを当業者が理解することはできない。5

(原告の主張)

する「「経験的相関として予測された真の沸点の「90%」」との事項により記述される事項も明らかではない。

第4 当裁判所の判断

当裁判所は、請求項1(a)~(c)の明確性要件違反について本件審決に

判断の誤りはないから、その余の点について判断するまでもなく、本願には拒

絶理由があり、原告の請求は理由がないものと判断する。その理由は、次のと

おりである。

本願発明

⑴ 本願明細書には、別紙「本願明細書の記載(抜粋)」の記載がある(甲1、

)。

⑵ 本願発明の概要

ア 本願発明は、燃料を製造する新規方法及び原油から製造される広範囲

(C3またはC5~C20以上)の炭化水素を有する燃料を想定した組成

物を調製する新規方法を提供する。本願発明の方法における好ましい供給

原料は、例えば、精製所中間残渣、高硫黄燃料油、低硫黄燃料油またはラ

イトタイトオイル、凝縮物、超重質油、タールサンド及びアスファルトな

どの、従来の精製所においては原料油としてこれまで好ましくないとされ

ていた炭化水素源である。本願発明により提供される上記燃料は、硫黄及

び窒素が非常に少なく、多くの技術により測定される金属量が非常に低い

超清浄燃料であり、金属はほとんど検出されず、実質的に金属を含まず、

大型海上輸送船上での使用だけでなく、大型陸上燃焼ガスタービン、ボイ

ラー及び輸送車両及び列車用として陸上においても特に費用効果が高い燃

料である。(段落【0001】)

イ 本願発明は、少なくとも3つの問題、(1)低価値炭化水素を高価値燃

料へ変換すること、(2)費用効果良く硫黄及び窒素を削減し、該燃料か

ら金属を実質的に除去すること、及び(3)該燃料を海上または陸上用エ

ンジン、燃焼ガスタービン、またはボイラーなどの燃焼式ヒーターで使用

できるように適合させること、を対象としている。(段落【0002】)

特定の炭化水素供給源は、精製所供給原料として望ましくなく、精製所

により低評価されることがある。従来の精製所は、シェール及び砂岩や炭

酸塩のような他の低浸透性形成物から製造されるものとして現在広く入手

可能な「ライトタイトオイル」や、0.50%m/m(0.5重量%)を

超える硫黄含有量を有する「高硫黄燃料油」の処理の問題に直面し、ライ

トタイトオイル及び高硫黄燃料油の実質的に不十分な利用という結果をも

たらしている。(段落【0003】【0005】【0008】【0009】

【0017】)

ウ 本願発明は、ライトタイトオイル及び高硫黄燃料油を使用して、非常に

低い硫黄及び窒素を有し、実質的に金属を含まない燃料を大量に、効果的

かつ低コストで製造することを可能にし、技術的溝を埋めるものである。

該燃料は、発電用の燃焼ガスタービンなどの大規模な陸上用途はもちろん、

海洋用途にも特に有用である。(段落【0020】)

エ 本願発明は、従来の精製所においては原料油としてこれまで好ましくな

いとされていた炭化水素供給源である高硫黄燃料油やライトタイトオイル

を低コストで組み合わせ、ライトタイトオイルの最低沸点のものから高硫

黄燃料油由来の水素化変換された液体の最大沸点のものまで、多くの軽質

(L)、中間(M)及び重質(H)構成要素から選択された構成成分を組

み合わせて、広範囲(C3またはC5~C20以上)の炭化水素を有し、

硫黄及び窒素が非常に少なく、実質的に金属を含まない超清浄燃料を商業

的規模で作り出す、新規方法を提供する。燃料組み合わせの15℃での密

度が820Kg/M3~880Kg/M3である本願発明の燃料は、高硫

黄バンカー燃料や他の重質残渣に取って代わる、船上の大型海上輸送船で

の使用だけでなく、大型陸上燃焼ガスタービン、ボイラー及び輸送車両及

び列車用として陸上においても特に費用効果が高い燃料である。(段落

【0021】~【0024】【0030】【0032】【0077】)

オ (L)は、初留点38℃(華氏100度)以下、90%プラス終点19

℃(華氏374度)~約205℃(華氏401度)を有する全範囲のナ

フサを意味する(段落【0070】)。

(M)は、約190℃(華氏374度)~約205℃(華氏401度)

の初留点、約385℃(華氏725度)~410℃(華氏770度)の9

%プラス終点を有する精製または部分精製された石油留分を意味する

(段落【0072】)。

(H)は、約385℃(華氏725度)~約410℃(華氏770度)

の初留点、約815℃(華氏1499度)以下の終点を有する精製または

部分精製された石油留分を意味する(段落【0076】)。

カ 一実施形態では、(L)、(M)及び(H)からなる1つまたは複数の

構成要素の組み合わせを有する新規配合燃料を提供する。ここで、組み合

わされる全量100体積%に対するそれぞれの量は、以下のように決定さ

れる。(a)(L)%+(M)%+(H)%=100%、(b)(L)%

=(H)%=(100%-(M)%)/2)、及び(c)(M)%がゼロ

または100%未満である場合、残り部分の(L)%/(H)%比が0.

/1~0.6/1であり、該組み合わせは、(1)15℃で820~8

Kg/M3の密度、(2)0.25重量%以下の硫黄含有量、(3)

重量ppm以下の全金属含有量、を有する燃料である。他の変形例で

は、30%~70%の(M)が存在し、残り部分の(L)/(H)比が0.

/1~0.6/1である。簡素化した実施形態では、(M)が30体積

%~70体積%の範囲であり、残り部分が0.9/1~1/0.9の(L)

/(H)比を有する実質的に等しい(L)及び(H)部分からなる。(段

落【0096】)

3 請求項1(a)~(c)の明確性について

-1 判断基準

特許法36条6項2号は、特許請求の範囲の記載は「特許を受けようとする

発明が明確であること」という要件に適合するものでなければならないと定め

る。これは、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許が

付与された発明の技術的範囲が不明確となり、第三者に不測の不利益を及ぼす

ことがあり得ることから、特許を受けようとする発明が明確であることを求め

るものである。そして、これが明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だ

けではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の

出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に

不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断するのが

相当である。

-2 検討

⑴ 原告は、請求項1(a)~(c)の演算順序等の関係は明確であるから、

これを否定した本件審決の判断には誤りがあるなどと主張する。

そこで検討すると、請求項1における「(a)…(b)…及び(c)…」

との記載は(a)(b)の各事項と(c)の事項を接続詞「及び」で接続し

ており、日本語における接続詞「及び」の通常の用法に照らすと、(a)

(b)(c)の各条件を同時に満たすことを意味するものと解される。

また、本願明細書の記載においても、上記「及び」が別異の意味であるも

のと理解し得るような記載はない(段落【0068】等)。加えて、請求項

の実施例(段落【0064】【0066】)として(L)(M)(H)の

配合割合が示されている記載(段落【0093】【0094】【表1】)を

検討しても、(M)%=0.28/1.69≒0.165≒17%、(L)

%/(H)%=0.69/(0.03+0.69)=0.958=96%と

なるから、(c)の条件を満たしていない((M)%が17%であるならば、

(c)の条件中「(M)%が30~70%」の場合には該当せず、「(M)

%がゼロ又は100%未満」の場合にのみ該当するから、「100%-(M)

%」の引き算の余りは、(L)%/(H)%で、0.4/1~0.6/1と

なるよう決定して組成することになるはずである。)。当該実施例は、請求

項1に記載された本願発明に対応する例となっておらず、請求項1における

(a)(b)(c)の各条件の関係性を説明し、又は示唆するものとはいい

難い。

そもそも、請求項1において、❶(b)の「(L)%=(H)%=(10

%-(M)%)/2」は、「(L)%/(H)%=1」となることを意味

する「(L)%=(H)%」との条件を特定していることになる。これに対

し、❷(c)の「(M)%がゼロ(零)または100%未満である」場合又

は「(M)%が30~70%である」場合に、「(L)%/(H)%」が

「0.4/1~0.6/1」の範囲となる旨の記載は、これらの場合に

「(L)%/(H)%=1」とならないような比率で(L)と(H)を組成

することを示すものである。結局、❶と❷を同時に満たす(L)%と(H)

%の組合せは存在しない。

すなわち、請求項1における「(a)…(b)…及び(c)…」との記載

は、(a)(b)(c)の各条件を同時に満たすことを意味するものと解さ

れる一方、(b)の条件(❶)と、(c)の条件(❷)が同時に満たされる

ことはない。

そうすると、本件補正後の特許請求の範囲請求項1に記載された本願発明

の技術的範囲は、これを一義的に理解することはできず、請求項1の記載は、

第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確といわざるを得ない。

⑵ 原告の主張について

ア 原告は、本願の請求項1が派生したPCT国際特許出願の他の国内審査

では、10か国以上で本願の請求項1に対応する特許が付与されているな

どと主張する。しかしながら、本願がPCT国際特許出願から派生し、他

国の国内審査では請求項1に対応する特許が認められているとしても、特

許協力条約(昭和53年条約第13号)はパリ条約(昭和50年条約第2

号)19条の「特別の取極」である。同条によれば、当該特別の取極は、

パリ条約の規定に抵触しない限り行うことが認められている性質のもので

ある。パリ条約4条の2の規定によれば、同盟国において出願された特許

は、他の国において同一の発明について取得された特許から独立したもの

とされているから、原告が主張する点は、本願の特許請求の範囲請求項1

の日本語表現の明確性及び特許要件の充足性について我が国の裁判所が我

が国の特許法の解釈に従って判断することを何ら妨げるものではない。そ

して、後記のとおり、請求項1の記載における接続詞「及び」の通常の用

法に加え、原告のいう「当業者であれば適用する周知の統一的演算順序の

規則」の存在を裏付ける証拠はない。よって、原告の主張を採用すること

はできない。

イ 原告は、「ディーゼル燃料のエネルギー密度」の範囲内で新しい代替燃

料を提供するという本願発明の技術的特徴を、本件審決は正解していない

などと主張する。しかしながら、特許発明の技術的範囲は、本願の願書に

添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めることを要するのであり

(特許法70条1項)、本件において、本願明細書の記載を考慮して特許

請求の範囲の記載を解釈したとしても、本件補正後の特許請求の範囲請求

項1に記載された本願発明の技術的範囲はなお不明確であることは前記の

とおりである。したがって、原告の主張する本願発明の技術的特徴がいか

なるものであれ、それが本願の特許請求の範囲の記載から明確に理解する

ことができない以上、原告の主張を採用することはできない。

ウ 原告は、当業者であれば適用する周知の統一的演算順序の規則に従えば、

請求項1の場合、(M)=100%の場合は、(b)により(L)及び

(H)は0であるが、(M)が100%ではないすべての場合には、(c)

が統制的条件として優先されるなどと主張する。しかしながら、前記のと

おり、本願の特許請求の範囲請求項1の記載における(a)(b)(c)

の各事項を接続する接続詞「及び」の通常の用法と本願明細書の記載等に

鑑みると、請求項1の記載は、(a)(b)(c)の各条件を同時に満た

すことを意味するものと解するほかはなく、文言上、(M)%の範囲如何

により(b)又は(c)のいずれが優先されるかが決まる旨の記載がされ

ているものと解することは困難である。また、原告の主張する演算順序の

規則の存在を裏付ける証拠もない。そうすると、原告の主張は、合理的な

根拠に基づくものではなく、採用することはできない。

⑶ 以上によれば、本件補正後の特許請求の範囲請求項1の記載は、特許法3

条6項2号に規定する要件を満たさない。そして、特許法49条、51条

によれば、同法は、一つの特許出願について、拒絶査定又は特許査定のいず

れかの行政処分をすべきことを規定しており、拒絶査定不服審判においては、

同法123条第1項後段のように請求項ごとに不服審判の請求をすることが

できる旨の規定が設けられていないことに照らすと、本願の特許請求の範囲

請求項1につき拒絶査定事由が認められる以上、その余の点について判断す

るまでもなく、本願は拒絶すべきもの(同法49条4号)であり、本件審判

請求を不成立とした本件審決の結論に誤りはない。

各請求について

原告の各請求のうち、請求の趣旨1項から4項までは、本件審決に取消事由

があるとしてこれを取り消す旨の裁判を求めるものと解されるところ、前記の

とおり、本件審判請求を不成立とした本件審決の結論に誤りはないから、本件

審決の取消しを求める請求は理由がない。

原告の請求のうち、請求の趣旨5項に係る訴えは、裁判所が審判部審判官お

よび特許庁審査官に対し、(i)根拠のない拒絶を繰り返さないこと、または

(ii)本出願および関連する分割出願に関して新たに追加された明らかに根拠の

ない拒絶を主張しないことを指示するよう求めるものである。しかしながら、

対象となる各行為は、いずれも行政事件訴訟法3条2項の「処分」には該当し

ないから、同条6項の「義務付けの訴え」の要件を満たさない。また、仮に、

これを同条6項2号の義務付けの訴えを求めるものだと解した場合でも、前記

のとおり、本件審決は取り消されるべきものとは認められない。したがって、

当該訴えは、いずれにせよ不適法な訴えである。

小括

以上によれば、原告の請求は、請求の趣旨5項に係る訴えは不適法であり、

その余の請求は理由がない。そして、当事者の主張に鑑み、本件記録を検討し

ても、上記認定判断を左右するような事由は認められない。

第5 結論

よって、原告の請求の趣旨5項に係る訴えはこれを却下し、その余の請求に

ついては、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部

裁判長裁判官

清 水 響

裁判官

菊 池 絵 理

裁判官

頼 晋 一

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