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令和6(ワ)7193職務発明対価請求事件

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裁判所 請求棄却 大阪地方裁判所
裁判年月日 令和7年9月18日
事件種別 民事
当事者 原告A
被告株式会社ダイフク
法令 特許権
特許法35条5項3回
特許法35条4項2回
特許法35条1回
キーワード 実施12回
特許権9回
職務発明6回
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
事件の概要 1 本判決における呼称 (1) 本件各出願:後記4件の各特許出願の総称。個別には「本件出願1」等とい う。 (2) 本件各発明:本件各出願に係る発明の総称。個別の発明は、 「本件発明1」 等という。 (3) 本件規定:原告が被告に雇用された当時の被告の 「発明考案に関する規定」 (平成28年8月1日施行。乙8)。本件規定は、令和5年(同年9月1日施 行。乙1)、令和6年(同年12月1日施行。乙10)にそれぞれ改定されて おり、改定の前後を区別するときは、順に「本件規定1」、「本件規定2」、 「本件規定3」という。 (4) 本件細則:本件規定9条2項に基づき定められた「実績報奨制度に関する 実施細則」(乙11) 原告が被告に雇用された当時の本件細則

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判決文

令和7年9月18日判決言渡 同日原本受領 裁判所書記官

令和6年(ワ)第7193号 職務発明対価請求事件

口頭弁論終結日 令和7年7月14日

判 決

原 告 A

訴訟代理人弁護士 川口直也

同 田村樹子

被 告 株式会社ダイフク

代表者代表取締役

訴訟代理人弁護士 岡田春夫

同 瓜生嘉子

主 文

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

被告は、原告に対し、5775万円及びこれに対する令和6年8月1日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

1 本判決における呼称

(1) 本件各出願:後記4件の各特許出願の総称。個別には「本件出願1」等という。

(2) 本件各発明:本件各出願に係る発明の総称。個別の発明は、「本件発明1」等という。

(3) 本件規定:原告が被告に雇用された当時の被告の「発明考案に関する規定」(平成28年8月1日施行。乙8)。本件規定は、令和5年(同年9月1日施行。乙1)、令和6年(同年12月1日施行。乙10)にそれぞれ改定されており、改定の前後を区別するときは、順に「本件規定1」、「本件規定2」、

5 「本件規定3」という。

(4) 本件細則:本件規定9条2項に基づき定められた「実績報奨制度に関する実施細則」(乙11)原告が被告に雇用された当時の本件細則(平成28年3月1日施行。乙11。以下「本件細則1」という。)は、平成29年(同年4月1日施行。乙12)、令和4年(同年6月1日施行。乙13)、令和5年(同年9月1日施行。乙14)にそれぞれ改定されており、改定の前後を区別するときは、順に「本件細則2」、「本件細則3」、「本件細則4」という。

(5) 本件指針:特許法第35条第6項の規定に基づく発明を奨励するための相当の金銭その他の経済上の利益について定める場合に考慮すべき使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況等に関する指針(経済産業省告示第131号)(甲23)2 原告の請求原告の被告に対する、本件各発明に関する特許法35条4項に基づく相当の利益として5775万円の支払請求(ただし、令和6年3月31日までに発生したものに限った一部請求)及びこれに対する訴状送達の日の翌日(同年8月1日)から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の附帯請求3 前提となる事実

(1) 当事者ア 原告は、平成30年4月1日被告に雇用された者であり、同年9月1日から、物品搬送設備のシステム開発業務に従事し、雇用期間中に、本件各発明を他者と共同して発明した。原告は、令和5年4月30日、被告を退職した。イ 被告は、各種システム、ソフトウェア、無形商材、物品等の制作、製造、販売、その他サービスの提供等を目的とする株式会社である。

5 (2) 本件各出願被告は、本件各発明について、本件規定に基づき本件各出願の日までに特許を受ける権利を取得し、次のとおり特許出願をした。ア 本件出願1出願日:令和4年7月19日出願番号:特願2022-114788号発明の名称:物品搬送設備発明者:原告ほか4名イ 本件出願2出願日:令和5年3月6日出願番号:特願2023-33695号発明の名称:物品搬送設備発明者:原告ほか4名ウ 本件出願3出願日:令和4年6月17日出願番号:特願2022-98275号発明の名称:物品搬送設備発明者:原告ほか4名エ 本件出願4出願日:令和4年10月26日出願番号:特願2022-171551号発明の名称:物品搬送設備発明者:原告ほか2名

(3) 本件各出願の審査の状況等本件出願3については、特許査定がされて令和6年11月5日その登録がされた(登録番号:特許第7582261号)。

5 本件出願1、2及び4については、本件口頭弁論終結時点において、審査請求がされているが、特許査定されていない。

(4) 本件規定の概要(乙1、8、10)本件規定は、概要、別紙1「本件規定の概要」に記載の内容を定めている。

(5) 本件細則の概要本件細則は、概要、別紙2「本件細則の概要」に記載の内容を定めている。

(6) 被告からの本件規定に基づく支払被告は、原告に対し、本件規定に基づき、本件各発明の出願報奨金として、以下の金員を支払った。その際、被告は、原告に対し、発明者の人数で等分して支払ったこと、問い合わせがあれば知的財産部の担当者まで連絡されたいことを記載した案内文を送付した。(乙2ないし6の2)ア 令和4年9月1日、本件発明1に関する出願報奨金として(((●()円(出願報奨金((●()円を、原告を含む発明者5名で均等割)イ 令和5年5月15日、本件発明2に関する出願報奨金として((●()(円(出願報奨金((●()円を、原告を含む発明者5名で均等割)ウ 令和4年8月1日、本件発明3に関する出願報奨金として(((●()円(出願報奨金((●()円を、原告を含む発明者5名で均等割)エ 令和4年12月1日、本件発明4に関する出願報奨金として((●()円((出願報奨金((●()円を、原告を含む発明者3名で均等割)

(7) 被告の原告に対する登録報奨金の支払の申出被告は、令和7年1月23日、原告に対し、本件発明3に関する登録報奨金として((●)円(登録報奨金((●)円を、原告を含む発明者5名で均等割)を支払うことを通知し、その内容に関する質問や不服等があれば被告まで連絡をされたい旨、及び振込先口座を通知されたい旨、連絡をした。本件口頭弁論終結時点で、原告はこれに回答をしておらず、支払自体は未了である(乙20)。

5 4 争点

(1) 本件規定により対価を支払うことが不合理なものであるかどうか(争点1)

(2) 本件規定によらない場合の特許法35条7項の「相当の利益」の額(争点2)

第3 争点に関する当事者の主張

1 争点1(本件規定により対価を支払うことが不合理なものであるかどうか)に

ついて【

(原告の主張)

】本件規定は、以下のとおり、原告を含む被告従業者に周知されておらず、かつ、内容も合理性を欠くものであるから、同規定によって対価を支払うことは不合理である。したがって、本件各発明に対する対価は、特許法35条7項により、本件各発明により被告が受けるべき利益の額、これらの発明に関連して被告が行う負担、貢献及び原告の処遇その他の事情を考慮して定められる。

(1) 周知性を欠くこと

原告は、社内システムで本件規定1を閲覧することができた。しかし、被告は、原告が退職後に開示を求めてもこれに応じなかった。また、本件規定1は、実績報奨金の金額がそれ自体では明らかではなく、その具体的な基準である本件細則は何ら開示されていなかった。加えて、本件規定の内容は複雑なものであり、従業者が一見して理解できるようなものではないにもかかわらず、被告は、原告を含む従業者に対し、適切な説明・情報提供を行うことで、その内容を理解させることを怠っていた。このように、本件規定は、いずれも、原告の意見を聴取することなく、また、具体的な審査基準が開示されることもなく定められたものであるから、周知性を欠く。

(2) 内容が不合理であること

5 後記2のとおり、本件規定がなければ、原告は、本件発明の対価として年5

775万円を受け取ることができた。しかし、本件規定は、仮に最も高額な実績報奨金が認定されたとしても((●)万円しか支払われないものであり、本来受け取るべき対価の額とかけ離れている。また、本件規定では、実績報酬等級を定める主体が、被告の知的財産部と事業部門とされ、その評価項目が●以下省略以上省略●等とされている。このように、本件規定は、被告を退職した発明者が点数評価に全く関与し得ない評価基準を定めており、報奨金の決定について原告の意見を聴取する機会が確保されていないものであるから、特許法35条5項に照らし、不合理なものとなっている。実際、被告は、本件発明2が米国において特許登録されたにもかかわらず、その後、原告に対し、何らの意見聴取も行っていない。このように、本件規定の内容は、対価的均衡を著しく欠く結果を招くものであり、かつ、原告が報奨金の決定にあたって意見を述べる機会が与えられない、著しく不合理なものである。

(3) 原告を拘束しないこと

原告が被告に在籍していたときに適用されていた本件規定1は、原告が被告に就職する前に定められたものであり、原告の意見を聴取したうえで定められたものではない。また、本件規定は、原告の就業規則の一部を構成するところ、原告は令和5年4月30日に被告を退職しているので、被告の就業規則及びこれを構成する本件規定の適用を受けない。そして、被告は、原告が退職した後、本件規定を適用するために、同規定の内容を原告に周知していない。このように、本件規定は、少なくとも原告を拘束するものではない。【

(被告の主張)

】

5 (1) 本件規定と本件細則が周知されていたこと

本件規定及び本件細則は、いずれも、被告の社内システムで閲覧が可能であり、従業者に周知されていた。そして本件細則には、実績報酬金の等級基準や考慮要素が具体的に記載されており、相当の利益の具体的内容が開示されていた。なお、被告が、当初、原告に対し、本件規定や本件細則を開示しなかったのは、原告が既に被告を退職しており、社外秘に該当するこれらの規定を開示することができなかったためである。

(2) 本件規定の制定経緯

本件規定1は、平成28年6月30日、被告と被告の労働組合代表者との間で、本件指針が公表されたことに伴う協議を行った結果策定されたものである。本件指針によると、特許法35条5項の協議は、必ずしも従業者等一人一人と個別に行う必要はなく、従業者等の代表者を通じて話し合いを行うことでもよい。このように、被告は、本件規定1を策定する際に、従業者との間で協議を行った。また、原告は、平成30年4月1日、被告に雇用されたが、同年6月8日に行われた新人研修の中で、当時施行されていた本件規定1及び本件細則2の内容について説明を受け、そのときには、質疑応答の時間も設けられていた。このように、被告は、既に被告において適用されている基準について、原告に対し、十分な説明を行った。

(3) 本件規定等の改定の経緯

本件規定2は、実質的には本件規定1から実績報酬金の金額のみを増額したものであるところ、被告は、改定に際し、従業者に対し意見聴取を行った。原告は、退職前に、改定内容に関する質問をしており、被告はメールで回答をした。その際、原告は、本件規定2への改定について好意的な意見を寄せていた。このように、原告と被告は、本件規定1から本件規定2へ改定するときにも、

5 実質的な協議を行った。

なお、本件規定3は、原告が退職した後に改定されたものであるが、これは、退職者に対しても報奨金を支払ってきたこれまでの慣行を明文化したものであり、従業者にとって何ら不利益なものではない。

(4)

(原告の主張)

について原告は、実績報奨金について、何ら具体的な金額等が開示されておらず、意見聴取も行われていないと主張するが、実績報奨金については、本件細則に具体的な審査基準が示されている。なお、実績報奨金の等級基準や考慮要素については、細則1から4までの改定において実質的に変更されていない。また、本件各発明に関する実績報奨金は、本件口頭弁論終結時点において審査できるだけの実施実績がないため、意見聴取を行うこと自体が不可能である。被告は、原告に対し、本件発明3に関する登録報奨金を支払う旨を通知した際、質問や意見があれば連絡をするよう伝えているが、今後、原告に対し、実績報奨金等が支払われるようになれば、同様の意見聴取を行う意向である。

(5) 小括

以上のとおり、本件規定及びこれに附属する本件細則は、被告の従業者との間で、具体的な内容を開示し、十分に協議を行い、原告からも意見を聴取し、又はその機会を与えたうえで定めたものであるから、本件各発明についての相当の利益は本件規定及び本件細則(なお、被告は、原告に最も有利になる規定を適用する考えである。)に基づいて算定すべきである。

2 争点2(本件規定によらない場合の特許法35条7項の「相当の利益」の額)

について【

(原告の主張)

】本件各発明に関し、原告が受けるべき相当の利益の額(令和6年3月31日までのもの)は、以下のとおり、5775万円を下回らない。

(1) 売上高

5 被告は、本件各発明に係るシステムが搭載された半導体の搬送設備を他社に

提供している。被告の半導体の搬送設備の提供による売上は、令和6年3月決算時点で2035億円であり、その30パーセントはメンテナンス等のサービスによる売上であるから、残り70パーセントに相当する約1425億円が搬送設備の提供による売上高となる。そして、この売上高の大部分は、本件各発明に係るシステムが搭載された搬送設備を販売したことによるものであり、令和5年4月1日から令和6年3月31日までの間で、1100億円を下回らない。

(2) 超過売上高率

被告は、本件各発明に係るシステムが搭載された半導体の搬送設備を提供することにより、半導体製造工場向け自動搬送システム市場において50パーセント以上のシェアを獲得している。そうすると、被告が本件各発明によって得ることができた超過売上高率は50パーセントを下らない。

(3) 仮想実施料率

半導体製造装置技術を含む特殊産業用機械の分野における実施料率は、一般的に5パーセント程度といわれているから、仮想実施料率は5パーセントを下らない。

(4) 発明者の貢献度

本件各発明は、これらのシステムを開発した発明者の創意工夫の結果であり、発明者の貢献度は極めて高く、その貢献度は10パーセントを下回らない。

(5) 発明の寄与率

本件各発明に係るシステムが搭載された半導体の搬送設備には、本件各発明以外の発明も寄与しているが、本件各発明は、同搬送設備の性能を大幅に向上させたものであり、その売上に大きく貢献している。そのため、本件各発明の寄与率は70パーセントを下回らない。

(6) 発明者間寄与率

5 原告は、本件各発明に係る計画、進捗の管理を行っており、開発段階で問題

が生じたときは、方針を決定するなどしていた。また、システム評価を行う際にも、作業担当者に指示を出したり、自ら評価結果の確認を行ったりし、時には、自らも評価を行っていた。そして、不具合が生じたときには、自らその原因を確認し、対処していた。以上のような原告の貢献度に鑑みれば、本件各発明に関する原告の共同発明者間の寄与率は30パーセントを下回らない。

(7) まとめ

以上から、原告が得るべき本件各発明に係る相当の対価の額は、少なくとも、

(1)の1100億円に(2)から(6)の割合を各乗じた5775万円を下回らない。

【

(被告の主張)

】前記1のとおり、相当の利益は、本件規定によって算定されるべきである。そして、実績報奨金については、現時点で算定することができないが、将来、算定できるようになったときには支払う予定である。また、原告が主張する金額は高額に過ぎる。

第4 判断

1 争点1(本件規定により対価を支払うことが不合理なものであるかどうか)に

ついて

(1) 認定事実

掲記の証拠、前提事実及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実を認めることができる。ア 本件規定等の制定経緯(原告が雇用される以前)本件規定は、被告の就業規則を根拠とし、平成15年に従前の規定を廃止して新たに制定されたものを基礎として順次改定を経てきたものであり、また、本件細則は、平成28年3月1日に制定されたものである(乙11)。イ 平成28年6月の協議の状況(乙17)

5 被告は、平成28年4月1日に特許法35条が改正され、また同年4月2

2日に本件指針が公表されたことから、本件指針に基づき、同年6月30日、被告の労働組合代表者との間で「相当の利益」(報奨金)を決定するルールに関する協議を行った。同協議には、労働組合側から幹部10人が出席し、会社側は、本部長等、知的財産権を担当する部署の6人が出席して行われ、特許法35条4項にいう「相当の利益」に相当する被告の最新の報奨金制度について、各報奨項目及び報奨フロー、各報奨項目の推移、実績報奨の等級別比率、対象件数の推移につき説明し、また、特級の報奨金については、これまで計算式が用意されていなかったが、判例に基づいた計算式が採用された点、事例を交えて製品における特許が寄与する営業利益等についても説明がされた。議事においては、労働者側から、特級以外にも基準があるのか、営業利益がマイナスでは報奨金が出ないのか、発明者の寄与率が固定でよいのか、退職者にも支払われるのか、等の質問があり、それぞれ会社から、特級以外は● (((省略)( ●を点数化して算出すること、営業利益がマイナスの場合でも売上に貢献していれば報奨金が支払われる場合があること、退職者(死亡していた場合はその遺族)にも支払われること、寄与率は●(省略)●を基本としつつ、個別に決定するうえで発明者から意見を聴取する機会をもつことなどを回答した。被告は、本件規定について改定を行い(本件規定1)、同年8月1日これを施行した。また、本件細則については、文言を適切にするなどの修正をする改定を行った(本件細則1)。ウ 本件規定等の周知状況等本件規定及び本件細則は、被告の社内システムの「ダイフク諸規定集」に収録され、被告の従業員は、いつでも最新のものを閲覧することができた(乙16)。

5 また、被告においては、新入社員に、報奨金制度や表彰制度の存在を理解

してもらう趣旨で、毎年行われる新人研修において、本件規定及び本件細則について簡単に説明し、質問に応答することとしていた。エ 本件細則4への改定に際しての意見聴取の状況令和4年1月に、本件細則の改廃手続について承認者を「知的財産担当役員」とする旨のみの改定(本件細則3)がされた(乙13)のち、令和5年3月には、被告は、発明奨励のため、実績報奨金の増額を行うための本件細則の改正を発案し、社内システムを通じて、全従業員にこのことに関する意見募集を行った。この意見募集においては、従業員からの意見を集約して、これに対する被告の回答を示すとともに、再度の意見をさらに受け付けることとしていた(乙18)。原告は、この意見募集に対し、賛同の意を示すとともに、実績報奨金に加え、昇給等で使える「特許ポイント」を導入するなどの提案を含む意見を提出し、これに対し、被告は、同年4月4日、原告の意見部分に対し、被告としての原告の意見の理解とそれに基づく検討結果を回答した(乙19)。オ 本件規定3への改定(乙10)被告は、令和6年11月5日に、従業員に意見募集を行った上、同年12月1日に、本件規定を本件規定3とする改定をした。

(2) 検討

前記前提事実及び上記認定事実によれば、次のとおりいうことができ、これらのことからすると、本件規定及び本件細則は、基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況、当該基準の開示の状況、相当の利益の内容の決定について行われる従業者等からの意見聴取の状況のいずれの観点からみても、その定めたところにより相当の利益を与えることが不合理であるということはできず、むしろ合理的なものというべきである。ア 被告は、本件規定1及び本件細則1の改定にあたり、新たに公表された本

5 件指針をふまえ、これに忠実な手続をとるべく、労働者の代表としての労働

組合に対し、規定の内容を説明するとともに、質問にも応じていた。また、本件細則4への改定に当たっても、社内システムを通じて全従業員からの意見を募ったうえでこれを集約し再度の意見を募り、原告からの本件規定2の改定自体には関わらない個別の意見にも会社としてのスタンスを説明していた。このように、被告は、本件規定及び本件細則の内容説明、運用、改定等について、従業員への意見聴取及びこれに対する応答に関し、慎重かつ真摯、丁寧に当たっていた。また、本件規定及び本件細則の改定の内容は、特段発明者に不利な内容は含まれておらず、むしろ有利に働くものである。イ 本件規定及び本件細則は、常時被告の社内システムに掲載されており、毎年の新人研修においても、報奨制度について説明をしていたものであって、また、改定にあっては全従業員に意見を聴取していることと相まって、会社として、開示、周知のために合理的な手段を講じている。ウ 本件規定は、発明者からの報告を端緒として実績報奨金の審査をすべきことを定めているうえ、本件細則は、実績報奨に関し、事業部及び知的財産部が、当該特許の実績を客観的な指標をもとに数値化して評価し、特許発明の価値を段階的に把握してその等級を決するものであるところ(特級については、別途特級審査委員会の手続において発明者の意見が徴収される。)、事業部は、当該対象特許権の実施状況について発明者等から確認するなどとされており、その内容(特許実績評価シート)についても、発明者又は担当者において確認できる仕組みになっていること(乙11ないし14)、各種報奨金の支払時においても、問い合わせないし意見聴取の窓口を案内していることからすると、発明者の意見を聴取する機会は相応に確保されている。

(3)

(原告の主張)

についてア 本件規定及び本件細則の周知の状況について

5 原告は、新人研修における説明の存在を争うほか、退職者が本件規定及び

本件細則を知り得ず、問い合わせに対しても応答を拒んだこと、本件規定が複雑であることから、使用者が労働者の求めに応じて適切な説明・情報提供を行い、労働者が規則内容を認識できる状況を提供すべきだが、これがされてないことなどを指摘する。しかし、新人研修において本件規定及び本件細則の概要の説明があったと認められること、その他被告のとった周知の措置が合理的なものといえることは前記認定判断のとおりであるし、就業規則に由来する本件規定の性質からして、個々の従業者に対し個別に説明し同意を得なければならない性質のものでもない。その上、原告は、その雇用期間中、本件規定に基づく報奨金を受領していたのであるから、これが何等かの根拠に基づく支給であることは当然に理解しうる立場にあったのであって、この点を考慮しても、原告の主張は採用できない。また、退職者にどの程度被告の内規に当たる本件規則等を説明するかは、従業者とは異なり得るものであって、本件における被告の対応は、前記判断を左右しない。イ 内容の不合理性をいう点について原告は、本件各発明に対する相当な対価が年間5775万円であることを前提に、本件規定に基づいて対価を算定すると、著しい不均衡が生じるなどと主張する。しかし、原告主張の相当対価に根拠があるかは疑問であるが、その点を措いても、特許法35条5項において定める不合理性の判断の観点に、それ自体私的自治に委ねられるとも考えられる対価の額の妥当性が当然に含まれるかは疑問であるし、仮に考慮要素の一要素となり得るとしても、例えば出願報奨、登録報奨の低廉な一時金のみを支払い、その後特許権の実施によって会社が得た利益を分配しないような規定であれば格別、本件細則は、実施

5 に係る特許権等の経済的価値を、利益貢献や競合の排除といった様々な観点

から評価して段階的に相応の実績報奨金を支払うものであって、不合理とする点は見出しがたい。ウ まとめ以上のほか、原告が本件において縷々主張する点を考慮しても、本件規定及び本件細則の不合理性が基礎づけられることはない。

2 争点1の判断のとおり、本件規定により対価を支払うことが不合理であるとは

認められないところ、原告の、本件規定が適用されないことを前提とする特許法35条7項の適用による相当の利益の請求は、理由がない。また、原告は、令和6年3月31日までに発生した相当の利益を一部請求として請求するところ、同時点までに発生した報奨金については、被告は弁済をしているから、この部分に係る請求としても、理由がない。

3 原告は、令和7年7月14日午後4時の本件口頭弁論期日において、被告の同

日付け準備書面5の主張及び乙第21号証、同22号証(以下「被告準備書面等」という。)の提出につき、これらが陳述及び提出されることには異議があり、時機に後れた攻撃防御方法として却下すべきであると主張し、また、同期日において口頭弁論を終結することについても異議を述べた。上記の被告準備書面等は、原告が、同年7月11日午後6時43分に提出した、本件発明2が、米国においても特許出願され、同年4月15日に登録されていたのに、これにつき原告からの意見聴取をせず、報奨金も支払わないことを問題とする同年7月11日付け原告第6準備書面に対する認否反論、反証をするものである。

(原告の主張)

は、本件の弁論準備手続終結後かつ本件口頭弁論期日の直前に提出されたものであり、この主張自体を時機に後れたものと扱わないのであれば、被告の認否反論も同様に扱うのが合理的かつ衡平にかなうものであるし、原告の主張を考慮しても本件規定及び本件細則の不合理性の判断が左右されないのは前

5 判示のとおりであって、被告準備書面等を審理することにより訴訟の完結を遅延

させることにはならないから、時機に後れた攻撃防御方法とは扱わない。また、弁論終結に対する異議につき、これを民訴法150条に基づくものと解するとすれば、不適法又は理由がないので、却下することとする。

第5 結論

以上の次第で、原告の本件請求は、いずれも理由がない。大阪地方裁判所第26民事部裁判長裁判官松(阿(彌 隆裁判官阿(波(野 右 起裁判官西 尾 太 一(別紙1)本件規定の概要

第1 本件規定1

1 目的(1条)

5 この規定は、就業規則54条1項2号の規定に基づき、被告の従業員の発明を

奨励するとともに、その発明者としての権利を保障し、併せて発明によって得た特許権の管理及び実施の合理的運用を図ることを目的とする。

2 権利の帰属(3条)

被告は、職務発明について、その発明が完成したときに、特許を受ける権利を取得する。この取得にあたっては、これを有償とする。

3 届出及び評価(4条)

(1) 発明をした従業員は、すみやかにその発明の内容を記載した発明提案書を、

自己の所属長に届け出なければならない。

(2) 所属長は、前項の定めによる届出をうけたときは、当該届出に係る発明の

評価等に関する意見を添えて、当該発明提案書を知的財産部に提出しなければならない。

4 出願(5条)

(1) 被告は、3(2)の届出があったときは、所定の審議を経て、当該届出に係る

発明が職務発明であるか否かの認定をし、職務発明であると認定したときは、本邦その他会社による原始取得を認める国における特許を受ける権利に関しては被告による取得を確認し、発明者からの譲渡書等を必要とする国における特許を受ける権利については、被告は権利を承継する。

(2) 被告は、(1)に従い特許を受ける権利を被告が取得したことを確認した場合、

及び被告が権利を承継した場合には、出願するか、又は出願を留保するかの決定をする。

(3) 被告は、(1)の認定及び決定の結果を、当該発明をした従業員とその所属長

に通知する。

5 出願報奨金、登録報奨金の支払(8条)

(1) 被告は、被告が特許を受ける権利を取得し、これを特許出願した場合、当該

発明をした発明者に対し、国内出願については、(●)円、外国出願については

5 (●)円の出願報奨金を支払う。

(2) 被告は、被告が特許を受ける権利を取得し、これが登録になったときは、当

該発明をした発明者に対し、国内登録について(●)円、外国登録について(●)円の登録報奨金を支払う。(被告が特許権を譲り受けたときも同じ。)

(3) 被告は、4(2)の決定の結果、届出にかかわる発明をノウハウとして出願を

留保すると決定したときは、当該発明をした発明者に対し、出願報奨金に相当する額の報奨金を支払う。

(4) 被告は、(3)の場合を除き、4(2)の決定の結果、特許出願しなかった場合に

おいても、発明提案書に所要の記載がされているときは、当該発明者に対し、発明提案報奨金((●)円)を支払う。

(5) 外国の産業財産権を対象とする発明について準用するが、報奨金の支払は、

第1国のみを対象としてこれを支払う。

6 その他の報奨金の支払(9条)

(1) 被告は、5(1)において、被告に対して貢献した極めて優秀な発明をした特

許出願の発明者に対し、所定の基準に基づき、取締役会の審査を経て、ダイフク発明大賞として、特別出願報奨金(ダイフク発明大賞に((●)円、ダイフク発明賞に(●)万円)を支払う。

(2) 被告は、職務発明に基づく特許権の実施により、利益を得るなどして被告

に対して事業貢献したと認定するときは、当該特許権にかかわる発明をした発明者に対し、所定の基準に基づき、取締役会の審査を経て、実績報奨金を支払う(●以下省略以上省略●)。

(3) 被告は、(2)に規定するもののほか、知的財産活用において特に顕著な事業

貢献をした貢献者に対しては知的財産積極活用報奨金を、登録されない発明考案及びこれに準じる技術(ソフトウェア等を含む)によって特に顕著な事業貢献をした貢献者に対しては、実績報奨金に相当する額の報奨金を取締役会の審

5 査を経て支払う。

7 共同発明者に対する報奨(10条)

5及び6の報奨金は、当該報奨金を受ける権利を有する発明者が複数あるときは各発明者に対し貢献度に応じて支払い、貢献度が明らかでない場合には均等割での支払とする。

8 発明者よりの特許権実施報告(14条)

被告は、発明者より職務発明に基づく特許権の実施により会社に事業貢献した旨の報告があったときは、これを所定の基準に基づいて、実績報奨につき審査を行わなければならない。

第2 本件規定2

本件規定1からの主な変更点は次のとおり。

1 取締役会が行っていた特別出願報奨金の認定を、知的財産部における審査を経

たうえで法務・コンプライアンス本部長が行うこととした。

2 取締役会が行っていた実績報奨金の認定を、1級以下については知的財産権部

が行うことになった。

3 実績報奨金の金額の一部につき、増額変更(●以下省略

以上省略●)された。

第3 本件規定3

本件規定2に、各報奨金が退職者にも支払われる旨の附則3条を設けた。(別紙2)(省略)

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