ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 令和7(行コ)10001 処分取消請求控訴事件
| 裁判所 | 控訴棄却 知的財産高等裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 令和7年11月27日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 法令 |
特許権 特許法184条の175回 特許法184条の44回 特許法48条の31回 特許法195条の31回 特許法18条の21回 民事訴訟法307条1回 |
| キーワード | 無効3回 |
| 主文 | 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を3 0日と定める。 |
| 事件の概要 | 1 事案の要旨 本件は、控訴人が、特許協力条約に基づく国際出願(国際出願番号PCT/ DE2019/000338)であって、その国際出願日にされた特許出願と みなされた本件国際特許出願について、本件国際特許出願に係る本件出願審査 請求は、特許法184条の4第1項の規定する翻訳文が提出される前に行われ たものであり、同法184条の17の要件を満たさないことから、同法18条 の2第1項に基づき、その出願審査請求に係る手続を却下する本件処分を受け たため、本件処分が違法であるとして、被控訴人に対し、その取消しを求めた 事案である。 |
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令和7年11月27日判決言渡
令和7年(行コ)第10001号 処分取消請求控訴事件
(原審・東京地方裁判所令和6年(行ウ)第5001号)
口頭弁論終結日 令和7年10月7日
判 決
控 訴 人 X
同特許管理人弁理士 木 村 高 明
被 控 訴 人 国
処 分 行 政 庁 特 許 庁 長 官
同 指 定 代 理 人 市 原 麻 衣
中 内 麻 里 子
坂 本 千 鶴 子
森 川 暢 也
山 本 晃 司
中 島 あ ん ず
主 文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を3
0日と定める。
事 実 及 び 理 由
【略語】略語は、本判決で新たに定めるもののほか、原判決の例による。
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
5 2 特許庁長官が特願2022-539391について令和5年10月20日付けで控訴人に対してした出願審査請求に係る手続を却下する処分を取り消す。
第2 事案の概要等
1 事案の要旨本件は、控訴人が、特許協力条約に基づく国際出願(国際出願番号PCT/DE2019/000338)であって、その国際出願日にされた特許出願とみなされた本件国際特許出願について、本件国際特許出願に係る本件出願審査請求は、特許法184条の4第1項の規定する翻訳文が提出される前に行われたものであり、同法184条の17の要件を満たさないことから、同法18条の2第1項に基づき、その出願審査請求に係る手続を却下する本件処分を受けたため、本件処分が違法であるとして、被控訴人に対し、その取消しを求めた事案である。原判決は、同法184条の17の要件について瑕疵が治癒される余地はなく、仮に本件処分が取り消されたとしても、本件出願審査請求に係る手続は不適法として却下を免れないから、控訴人に本件処分を取り消す法律上の利益がないとして、本件訴えを却下したところ、これを不服として控訴人が控訴を提起した。2 前提事実前提事実は、原判決「事実及び理由」の第2の2(2頁~)に記載するとおりであるから、これを引用する。3 争点原判決「事実及び理由」の第2の3(3頁~)に記載するとおりであるから、これを引用する。
第3 争点に関する当事者の主張
以下のとおり当審における当事者の補充的主張を付加するほか、原判決「事実及び理由」の第3(4頁~)に記載するとおりであるから、これを引
5 用する。
1 争点1(訴えの利益の有無)について
【控訴人の主張】原判決は、仮に本件処分が取り消されたとしても、本件出願審査請求に係る手続は不適法として却下を免れないから、本件処分を取り消す法律上の利益はないと判断した。しかし、本件処分が判決によって取り消された場合には、本件出願審査請求も適法・有効なものとして取り扱われるから、本件出願審査請求に係る手続が却下されることはない。したがって、控訴人には訴えの利益が認められるべきである。【被控訴人の主張】仮に本件処分が取り消されたとしても、特許法184条の17所定の要件についての瑕疵が治癒される余地がない以上、本件出願審査請求に係る手続は不適法として却下を免れないから、訴えの利益は存在しない。
2 争点2(本件処分の違法性)について
【控訴人の主張】
(1) 原告は、本件出願審査請求期間内、かつ、翻訳文提出の特例期間内に本件
翻訳文を提出したのであるから、本件出願審査請求より前に本件翻訳文を提出しなかったとの瑕疵は治癒された。したがって、本件出願審査請求に係る手続に瑕疵はなく、本件処分は違法である。
(2) 特許庁長官が、特許法18条の2に基づいて手続却下処分をするに当たっ
ては、当然に、行政手続法7条の趣旨が適用されるというべきであり、手続却下処分の時期に関して特許庁長官に裁量権があるとしても、これが同条の趣旨に反する場合には、裁量権逸脱として違法無効になる。本件において、特許庁長官は、控訴人が令和4年6月24日に本件出願審査請求をしたにもかかわらず、本件出願審査請求期間を3か月経過し、再度
5 の出願審査請求が不可能となった令和5年4月4日になって、本件出願審査
請求を審査し、同年10月20日に本件処分をした。このような控訴人の利益を不当に害する時期にされた本件処分は、行政手続法7条の趣旨に反し、却下処分の時期に関する裁量権を逸脱して違法無効である。【被控訴人の主張】
(1) 特許法は、外国語でされた国際特許出願についての出願審査の請求を行う
前に、所定の翻訳文を特許庁長官に提出することを手続要件としており、この先後関係の瑕疵については治癒を許さない性質のものである。本件出願審査請求の瑕疵が本件翻訳文の提出によって治癒されたと扱うことは、特許法の建て付けと整合しないだけでなく、第三者の利益を害するものであり、認められない。
(2) 仮に、特許法195条の3の規定にもかかわらず、行政手続法7条の趣旨
が本件に及ぶと解したとしても、処分庁に、再度の申請が可能な時期までに審査を終えることまでが義務付けられているとはいえず、申請者に、再度の出願審査の請求が可能な時期までに却下処分を受けるべき権利ないし法律上の利益が保障されているということもできない。また、仮に本件出願審査請求の方式審査において、行政手続法7条の趣旨に反した手続的瑕疵があったとしても、これにより却下という結論が左右される余地はないから、このように結果に影響を及ぼさない手続的瑕疵は、本件処分の違法事由にならない。
第4 当裁判所の判断
当裁判所は、控訴人には本件処分の取消しを求める訴えの利益が認められ、
本件訴えを却下した原判決は失当であるが、当事者の主張内容及び審理の経過
等に照らし、更に弁論をする必要は認められないため、本案について検討し、
控訴人の本案に係る主張には理由がないと判断する。
その理由は、以下のとおりである。
1 争点1(訴えの利益の有無)について
(1) 本件処分は、控訴人がした本件出願審査請求につき、特許法184条の4
第1項の規定する翻訳文が提出される前に行われたものであり、同法184
条の17所定の要件を満たさないとして、同法18条の2第1項に基づき、
本件出願審査請求に係る手続を却下したものである。
控訴人は、本件出願審査請求より前に本件翻訳文を提出しなかったとの瑕
疵が治癒されたことなどを本件処分の違法事由として主張し、本件処分の取
消しを求めているところ、上記瑕疵の治癒が認められるとして、本件処分が
判決によって取り消されれば、本件処分は遡って失効するとともに本件出願
審査請求に係る手続が復活し、控訴人は本件出願審査請求について審査を受
けることができるようになるのであるから、控訴人には、本件処分を取り消
す利益がある。
(2) これに対し、被控訴人は、本件処分が取り消されたとしても、特許法18
条の17所定の要件についての瑕疵が治癒される余地がない以上、本件出
願審査請求に係る手続は不適法として却下を免れず、控訴人には本件処分を
取り消す利益がない旨主張する。
しかしながら、判決において、本件出願審査請求につき、特許法184条
の17所定の要件に係る瑕疵は存在しないとして本件処分が取り消された場
合、特許庁長官は、上記取消判決の拘束力により、同瑕疵が存在することを
理由に再び手続却下処分をすることはできないから(行政事件訴訟法33条
項、2項)、本件出願審査請求に係る手続が不適法として却下を免れない
とはいえない。
被控訴人の上記主張が、判決において、特許法184条の17所定の要件
に係る瑕疵は存在しないと判断される余地がないことを理由とするものであ
れば、それは本件処分の違法事由として本案で判断されるべき問題であり、
その結論によって訴えの利益の有無を左右するものではない。
したがって、被控訴人の上記主張は採用できない。
(3) 以上によれば、本件訴えには訴えの利益が認められる。
争点2(本件処分の違法性)について
(1) 特許法は、外国語でされた国際特許出願の出願人は、同法184条の4第
項所定の翻訳文を特許庁長官に提出しなければならないとし(同項本文)、
上記翻訳文の提出等の手続をした後でなければ、国際特許出願についての出
願審査の請求をすることができないと規定している(同法184条の17)。
本判決で引用する原判決「事実及び理由」の第2の2(3)(2頁)で認定
した事実によれば、控訴人は、本件出願審査請求より前に、特許法184条
の4第1項所定の翻訳文を提出していないから、本件出願審査請求は同法1
条の17の規定に違反する。
また、特許法は、出願審査請求が所定の期間内にされなかった場合や、翻
訳文等が所定の期間内に提出されなかった場合については、瑕疵の補正を許
容する規定を置くのに対し(令和3年法律第42号による改正前の特許法4
条の3第5項、同法184条の4第4項参照)、外国語でされた国際特許
出願に係る出願審査請求が、特許法184条の4第1項所定の翻訳文の提出
等の手続をせずにされ、同法184条の17所定の要件に係る瑕疵が存在す
る場合につき、その瑕疵の治癒を許容する規定を置いていない。
したがって、本件出願審査請求に係る手続は、不適法であり、その補正を
することができないものと言わざるを得ないから、これを却下した本件処分
に違法はない。
(2)ア これに対し、控訴人は、本件出願審査請求後、本件出願審査請求期間内
かつ翻訳文提出の特例期間内に本件翻訳文を提出したのであるから、特
許法184条の17所定の要件に係る瑕疵は治癒されたと主張する。
しかしながら、前記(1)で述べたとおり、特許法は、外国語でされた国
際特許出願に係る出願審査請求が、特許法184条の4第1項所定の翻
訳文の提出等の手続をせずにされ、同法184条の17所定の要件に係
る瑕疵が存在する場合につき、その瑕疵の治癒を許容する規定を置いて
いない。
そして、特許法は、外国語でされた国際特許出願について、明細書、
請求の範囲等の日本語による翻訳文の提出を義務付け(同法184条の
第1項)、同翻訳文を同法36条2項の規定により願書に添付した明
細書や特許請求の範囲等とみなす旨規定していること(同法184条の
第2項)からすれば、この翻訳文を欠いた外国語でされた国際特許出
願に係る出願審査請求は、明細書や特許請求の範囲の添付を欠いた特許
出願と同視されるべきものであり、およそ実体審査を行うことはできな
いものである。そうすると、同法184条の4第1項所定の翻訳文の提
出等の手続をせずにされた国際特許出願の出願審査請求に係る手続は、
特許法によって要求される本質的要件を欠くものであり、その瑕疵は補
正によって治癒し得ない性質のものであると言わざるを得ない。
したがって、本件翻訳文の提出により瑕疵が治癒されたと解すること
はできず、控訴人の上記主張は採用できない。
イ また、控訴人は、特許庁長官が、本件出願審査請求期間を経過し、再
度の出願審査請求が不可能となった後に本件処分をしたことは、法令に
定められた形式上の要件に適合しない申請について速やかに許認可等を
拒否すべき旨定めた行政手続法7条の趣旨に違反し、裁量権を逸脱して
違法無効であると主張する。
しかしながら、行政手続法7条の趣旨を考慮したとしても、特許庁長
官に、瑕疵ある出願審査請求をした者に対し、再度の出願審査請求が可
能な時期までに却下処分をすべき一般的な義務があると解するのは困難
であるから、控訴人の主張は採用できない。
ウ 控訴人のその余の主張も、本件処分の違法性を根拠づけるものとはい
えない。
第5 結論
以上によれば、控訴人には本件処分の取消しを求める訴えの利益が認めら
れるが、控訴人の請求には理由がない。
本件訴えを却下した原判決は失当であるが、当事者の主張内容及び審理の
経過等に照らし、本件につき更に弁論をする必要がないと認められるから、
民事訴訟法307条ただし書により、自判するのが相当である。そして、上
記のとおり、控訴人の請求は棄却されるべきものであるが、被控訴人が控訴
も附帯控訴もしていない本件においては、当審が原判決を取り消した上で 控
訴人の請求を棄却する本案判決をすることは、不利益変更禁止の原則に違反
して許されないから、控訴人の本件控訴を棄却するにとどめるのが相当であ
る。
よって、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判官
岩 井 直 幸
裁判官
安 岡 美 香 子
裁判長裁判官増田稔は、差し支えにつき署名押印することができない。
裁判官
岩 井 直 幸
| 特許裁判例 実用新案裁判例 |
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