ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 令和7(ネ)10045 特許権侵害差止請求控訴事件
| 裁判所 | 控訴棄却 知的財産高等裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 令和7年11月17日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 当事者 | 被控訴人株式会社エアウィーヴ |
| 対象物 | マットレス |
| 法令 |
特許権 特許法100条1項1回 |
| キーワード | 分割33回 進歩性20回 実施19回 新規性11回 無効5回 特許権4回 差止4回 無効審判2回 侵害2回 ライセンス1回 |
| 主文 | 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は、控訴人の負担とする。 |
| 事件の概要 | と、「被告」を「控訴人」と(それぞれの製品の略語中のものを含む)、「別 紙」を「原判決別紙」とそれぞれ読み替える。) |
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令和7年11月17日判決言渡
令和7年(ネ)第10045号 特許権侵害差止請求控訴事件(原審 東京地方裁
判所 令和5年(ワ)第70594号)
口頭弁論終結日 令和7年9月10日
判 決
控 訴 人 株式会社モーブル
同訴訟代理人弁護士 岩 月 泰 頼
同 兼 定 尚 幸
同 西 村 公 芳
同 保 科 拓 人
被 控 訴 人 株式会社エアウィーヴ
同訴訟代理人弁護士 田 中 昌 利
同 山 内 貴 博
同 岡 田 紘 明
同 加 藤 希 実
主 文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は、控訴人の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 控訴の趣旨
1 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。2 前項の取消しに係る被控訴人の請求をいずれも棄却する。3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要(略語は原判決の表記に従う。ただし、「原告」を「被控訴人」
と、「被告」を「控訴人」と(それぞれの製品の略語中のものを含む)、「別紙」を「原判決別紙」とそれぞれ読み替える。)1 本件は、発明の名称を「マットレス」とする特許(第7045336号。本件特許)に係る特許権(本件特許権)を有する被控訴人が、控訴人による原判決別紙控訴人製品目録記載の各製品(控訴人各製品)の製造等が、本件特許権を侵害すると主張して、特許法100条1項及び2項に基づき、控訴人各製品の製造等の差止め並びに控訴人各製品及びその半製品の廃棄を求める事案である。原審が、被控訴人の請求を一部認容したところ、控訴人がその取消しを求めて本件控訴を提起した。2 前提事実、争点及び争点に対する当事者の主張は、次のとおり補正し、後記
第3のとおり当審における控訴人の主な補充主張を付加するほかは、原判決「事
実及び理由」中の第2の1ないし3(原判決2頁16行目から22頁4行目まで)(以下、原判決を引用するときには、「『事実及び理由』中の」との記載を省略する。)に記載のとおりであるから、これを引用する。
⑴ 原判決5頁6行目(原判決第2の2⑶)の「差止めの必要性」を「輸入及
び輸出の差止めの必要性」と改める。
⑵ 原判決7頁6行目(原判決第2の3⑴
(原告の主張)
イ)の「および」を「及び」と改める。
第3 当審における控訴人の主な補充主張
1 争点1-1(構成要件G及びH(「圧着」)の充足性)
⑴ 原判決の説示の誤りと「圧着」の意義
原判決の「圧着」についての説示は、広辞苑(第七版)に明記されている「圧着」の語義を差し置いて、「圧」の語義を引用しつつ「着」の語義を簡易に付加して「圧着」を解釈しており、失当である。本件明細書の「圧着」の記載について、原判決は、「クッション体同士が相互に、左右方向に強い圧力をかけるというような表現はされていない。」と説示する。しかし、段落【0017】(以下、明細書の記載を引用する場合に「段落」の記載は省略する。)の「全てのクッション体を圧着した状態でマットレスカバーに容易に組入れることが可能となる。」との記載は、「圧着」、つまり、広辞苑(第七版)によると「強く圧迫してくっつけること」を表す語が用いられていることによって、「全てのクッション体を強く圧迫してくっつけた状態でマットレスカバーに容易に組入れることが可能となる。」の意を有するから、クッション体同士が相互に、左右方向に強い圧力をかけるというような表現がされている。同様に、【0050】の「底面側カバー10bにクッション体21〜23を圧着させながら収容する」との記載、及び【0051】の「この方法により、複数のクッション体21〜23を、圧着した状態でマットレスカバー10に容易に組入れることができる。」との記載も、「強く圧迫してくっつけること」を表す「圧着」が用いられていることによって、それぞれ、「底面側カバー10bにクッション体21〜23を強く圧迫してくっつけながら収容する」、及び「この方法により、複数のクッション体21〜23を、強く圧迫してくっつけた状態でマットレスカバー10に容易に組入れることができる。」との意を有するから、クッション体同士が相互に、左右方向に強い圧力をかけるというような表現がされており、原判決の上記説示には、理由がない。また、原判決の「本件発明が、手足等が溝に落ち込みにくいマットレスを提供するという効果を奏するものであるところ、本件明細書の記載によると、上記効果は、『マットレスカバーの周面部(側面部)には伸張防止部材が設けられている』(【0011】)ことによるものであって、クッション体同士が強く圧迫してくっついていることによるものとはされていないことを総合すると、本件発明では、手足等が落ち込みにくくなるように、クッション体の境界部に手足等が落ち込むような隙間が生じていないことは予定されているといえるものの、クッション体同士が強く圧迫してくっついているような状態にあることまで予定されていると認めることはできない。」との説示については、本件発明の「手足等が溝に落ち込みにくいマットレスを提供するという効果」が「『マットレスカバーの周面部(側面部)には伸張防止部材が設けられている』(【0011】)ことによる」とすると、確かに、「クッション体同士が強く圧迫してくっついているような状態にあることまで」は不要である。ところが、だからといって、「圧着」の語から「強く圧迫」の意が消失し、「クッション体同士に隙間が生じない程度に相互に何らかの圧力がかかる状態」の意に変容するというのは、非論理的であり恣意的である。そもそも、被控訴人は、令和4年2月3日付け手続補正書(乙3)で「圧着」を加える補正をした本件発明について、同日付け意見書(乙2)で「本発明のマットレスにおいては、複数のクッション体は圧着した状態でマットレスカバーに組入れられているため、本願明細書の段落0007〜0009等に示されたクッション体同士の境界部の隙間が広がり易くなるという問題をより効果的に防ぐことができ、この隙間(溝)に手足等が落ち込むことも極力防ぐことが可能となっています。」などと主張しており、この主張のとおり、「圧着した状態」が「クッション体同士の境界部の隙間が広がり易くなるという問題をより効果的に防ぐ」のであれば、「圧着」が「強く圧迫」を含意しないとは考えられない。さらに、「クッション体同士の境界部の隙間が広がりやすくなり、発生した溝の中に手足等が落ち込みやすくなるという課題」(原判決33頁)に対し、その隙間が広がらない(生じない)ことを目的とする本件発明において、「圧着」を「クッション体同士に隙間が生じない程度に相互に何らかの圧力がかかる状態であることをいうものと解する」(原判決37頁)のは、目的がそのまま構成要件に入っただけで、具体的な課題解決手段がないというクレーム解釈であって、失当である。よって、「圧着」の意義は、控訴人が原審で主張したとおり、「強く圧迫してくっつけること」と認定されるべきである。
⑵ 控訴人各製品の「圧着」の充足性
原審で被控訴人が証拠として提出した報告書(甲10)に記載の測定実験では、富士フィルム株式会社製の感圧フィルム(富士フィルムプレスケールLLLWPS。以下「感圧フィルム」という。)が使用されており、感圧フィルムは、0.2MPa以上の圧力が加わると赤色に変色し、0.2MPaが測定可能圧力範囲の下限である。試料1の測定では、上記報告書(甲10)の写真13で「頭側のミディアムタイプと中央のハードタイプに挟まれていた感圧フィルム片」に集中して変色がみられることから、報告書(甲10)の報告者(実験者)がハードタイプの中材を嵌め込む際に、それを頭側のミディアムタイプの中材に押し当てて下向きに押し込み(甲2【0051】、【図5】、甲16第2の3⑵、4参照)、このときに頭側のミディアムタイプの中材に貼り付けられた感圧フィルム片に圧力がかかって変色したと考えられる。このため、三つの中材のうち二つの中材(頭側のミディアムタイプの中材と中央のハードタイプの中材)同士には、アウターカバーに組み入れられる際に0.2MPa以上の圧力が部分的にかかっていたかもしれないが、三つの中材同士に「アウターカバーに組入れられている状態で、少なくとも0.2MPa(1500mmHg)の圧力がかかっている」とはいえない。また、このように圧力が中材をアウターカバーに組み入れる際の報告者の組入方法に依存する以上、控訴人製品1とは横幅が異なる控訴人製品2及び3について、中材同士にかかる圧力を「同様であると推認する」ことはできない。次に、試料2の測定では、報告書(甲10)の写真14で「頭側のソフトタイプと中央のハードタイプに挟まれていた感圧フィルム片」にわずかに変色がみられ、ほぼ同様の変色が「中央のハードタイプと足側のミディアムタイプに挟まれていた感圧フィルム片」にもみられることから、報告者が頭側のソフトタイプの中材と足側のミディアムタイプの中材を嵌め込む際に、中央のハードタイプの中材に貼り付けられた感圧フィルム片に圧力がかかって、その上下の部分でわずかに変色したと考えられる。このため、三つの中材同士には、アウターカバーに組み入れられる際に0.2MPa以上の圧力が局所的、ごく部分的にかかっていたかもしれないが、三つの中材同士に「アウターカバーに組入れられている状態で、少なくとも0.2MPa(1500mmHg)の圧力がかかっている」とはいえない。また、圧力が中材をアウターカバーに組み入れる際の報告者の組入方法に依存する以上、控訴人製品4とは横幅が異なる控訴人製品5ないし7について、中材同士にかかる圧力を「同様であると推認する」ことはできない。したがって、被控訴人は、「圧着」をどう解釈するかにかかわらず、控訴人各製品でマットレスカバーに組み入れられたクッション体同士に、どのような圧力がかかっているのかを示し得ておらず、ましてや、「圧着」を「強く圧迫してくっつけること」と解するのであれば、クッション体同士に「強く圧迫」の程度に達する圧力がかかっていることを、あるいは、「圧着」を「クッション体同士に隙間が生じない程度に相互に何らかの圧力がかかる状態」と解するのであれば、クッション体同士に「隙間が生じない程度」に達する圧力がかかっていることを、何ら示し得ていない。そうすると、控訴人各製品が構成要件Hを充足しているとは到底いえないから、原判決の「控訴人各製品は、『中材が、圧着した状態でアウターカバーに組入れられているマットレス』であるといえるから、構成h(『前記の中材は、圧着した状態で前記アウターカバーに組入れられているマットレス。』)を有し、『中材』は『クッション体』に、『アウターカバー』は『マットレスカバー』に相当するから、構成要件Hを充足する。」とする判示には誤りがある。さらに原判決は、控訴人各製品が構成要件Hを充足することを前提に、「組入れた際に圧着した状態にあるのであるから、組入れ時にも圧着した状態であったと推認できるので、控訴人各製品は、『アウターカバー』の『有底筒状のカバー部材』に、『複数の中材を圧着させながら嵌め込み可能』となっていると認めるのが相当である。」と認定しているが、上記のとおり、その前提自体に誤りがあるから、上記認定に続く「控訴人各製品は構成g(『前記アウターカバーは、前記のように裏面カバー上部と側面カバーの下部に設けられたファスナーで結合されることで有底筒状のカバー部材が構成され、これに、前記複数の中材を圧着させながら嵌め込むことが可能となっており、』)を有し、前記のとおり『アウターカバー』は『マットレスカバー』に、『中材』は『クッション体』に相当するから、構成要件Gを充足する。」との判示にも、誤りがある。よって、被控訴人の実験結果に基づいて、控訴人各製品による構成要件G及びHの「圧着」の充足を認めた原判決には、争点1-1に関する判断を誤った違法がある。
⑶ 控訴人の圧力測定及び隙間測定について
上記⑵で述べたとおり、被控訴人は、控訴人各製品でマットレスカバーに組み入れられたクッション体同士に、どのような圧力がかかっているのかを示し得ておらず、控訴人に、その被控訴人の立証の欠缺を補う意図はないが、原判決の誤りを正すことを意図して、何点か付言する。・控訴人製品1及び4の中材同士の境界部の圧力測定に関する「上記控訴人の測定(乙7、25)は、アウターカバーの表面カバーの一部を切除して実施されていることから、中材がアウターカバーに組入れられている状態で測定したものといえるか疑問である」との説示については、表面カバーの一部を切除しても、中材同士の相対的な位置関係に変化はなく、中材同士にかかる圧力にも変化はないと考えられるし、表面カバーの一部を切除する方法によると、アウターカバーに組入れ済みの中材同士の境界部にセンサシートを差し込むことにより、組入れ中の圧力を拾う事態を防止することができる。さらに、控訴人の圧力測定では、センサシート上の感圧部に生じる圧力をリアルタイムで計測しており、この点でも感圧フィルムを用いた被控訴人の測定よりも高精度である。・「控訴人製品1及び4の中材の境界部の複数個所で10~19mmHgの圧力が測定されており、これをノイズと認めるべき事情はない」との説示については、センサシート上の数か所だけで出現している20mmHgにも満たないような微小な圧力は、控訴人製品における中材同士の接触特性や接触傾向を示すものではなく、電気的又は物理的な要因で生じたノイズと把握することが技術的に自然である。・「控訴人による中材隙間測定(乙5)は、アウターカバーの表面カバーの一部を切除して実施されていることから、中材がアウターカバーに組入れられた状態で測定したものといえるか疑問である」との説示については、上記のとおり、表面カバーの一部を切除しても、中材同士の相対的な位置関係に変化はなく、中材同士の境界部の隙間にも変化はないと考えられる。・「本件発明における『圧着』は、手足等が落ち込むことがないよう、『クッション体同士に隙間が生じない程度に相互に何らかの圧力がかかる』ことを意味するから、仮に中材同士の接触面の一部においてわずかな隙間が生じていたとしてもその余の部分が隙間なく接触し、中材同士に圧力がかかっていれば『圧着』に当たるといえる」との説示については、既に述べたとおり、「圧着」の解釈に誤りがあり、この説示における「仮に中材同士の接触面の一部においてわずかな隙間が生じていたとしてもその余の部分が隙間なく接触し、中材同士に圧力がかかっていれば」との仮定は、中材隙間測定(乙5)の「スチール定規を差し込むと底面まで達する。」、「中材が接する上下の隙間を測定。下部=5.70mm/上部=5.35mm」との結果や、センサシート上の数か所でしか圧力が出現しなかった圧力測定の結果と不整合である。・「控訴人各製品は、アウターカバーの内側にインナーパッドを敷くことで、横になった時に身体とマットレスの隙間を減らし、より自然な体圧分散効果が期待できるとされていることが認められる(甲4、5)が、控訴人各製品が構成hを有することは前記ウのとおりであり、中材と上部カバーの間に入れるインナーパッドという構成が付加されているからといって、構成要件Hを充足しないということにはならない。」との説示については、上記⑵で述べたとおり、控訴人各製品が構成要件Hを充足しているとは到底いえない。
2 争点2-1(乙11に基づく進歩性欠如)
原判決は、乙11(特表2010-530764号公報)に基づく進歩性欠如に関して、「乙11発明においては、マットレスフレームの収容部に収容された複数のクッション部材の外側部が、マットレスフレームの周壁の内壁面及び隣接するクッション部材の外側部と接触して、マットレスフレームに密着収容されることで、単一のクッション部材のように機能するものと認められる。」と説示した。しかし、乙11における「マットレスフレームと複数のクッション部材が一つのマットレスボディーを構成」するとの記載(【0017】)や、「収容部20に2列で配置された六つのクッション部材30は、その外側部が周壁11の互いに対応する内壁面さらに隣接するクッション部材の外側部と接触して密着収容されるので、従来の一つの単一クッション部材のように機能」するとの記載(【0020】)は、マットレスフレーム及び複数のクッション部材が側面パッド及び上下部カバーパッドとともに組み付けられた後の状態で、「単一のクッション部材のように機能する」ことを説明するにすぎず、組付けの過程では、まず下部カバーパッド50’を側面パッド40の下端部にファスナー60’によって結束し、次いで側面パッド40の内側にフレーム10を配置した上で、そのフレーム10の内側に複数のクッション部材30を収容し、続いて上部カバーパッド50を側面パッド40の上端部にファスナー60によって結束すると考えられるから、マットレスフレーム及び複数のクッション部材は、単一のクッション部材のように機能しない。もともと乙11は、「安楽な睡眠のためにユーザの部位に対応して区画したマットレスの異なる部位に配列された複数のクッション部材を装着または交換するとともに、年齢、性別、身長および体重を考慮してユーザの身体の対応部位に適合する弾性を有することができるマットレスを提供すること」を目的としており(【0007】)、その特許請求の範囲には、「前記収容部に装着されて前記マットレスフレームと共に一つのマットレスボディーを形成する一あるいは二列とした複数のクッション部材」が構成要件に含まれているものの(【請求項1】等)、上記目的の達成には、複数のクッション部材がマットレスの異なる部位に配列されていればよく、「一つのマットレスボディーを形成する」かどうかは、何ら関係ない。したがって、当業者が、乙11に記載された発明に乙13に記載された構成d2(「クッション体(クッション用中材)が、厚み方向両端部にフィラメントの密度が厚み方向中央部より高い平滑表面層を備える樹脂製のフィラメント3次元結合体を用いて形成されている点」)や構成e2(「フィラメント3次元結合体の厚みが10〜25cm、フィラメント径が0.5〜2mm、かさ密度が30〜150kg/m3である点」)を適用するに際し、「単一のクッション部材のように機能する」かどうかは動機付けを阻害しないし、適用の結果、本件発明との間になお相違点2’(本件発明では、複数のクッション体がマットレスカバーに組入れられているのに対し、乙11発明では、複数のクッション体に相当する「複数のクッション部材30」が「マットレスフレーム10」に組入れられている点)が残ったとしても、組付け中の観点からフレーム10がマットレスカバーに含まれると整理して、あるいは、乙11に記載された発明の目的に供しないフレーム10を省略して、本件発明に想到することは、当業者にとって容易である。よって、控訴人が原審で主張したとおり、本件発明の進歩性は、乙11に基づいて否定されるべきである。
3 争点2-2(乙19に基づく進歩性欠如)
原判決は、乙19(実用新案登録第3190739号公報)に基づく進歩性欠如に関して、「乙19に記載された図面は別紙乙19図面のとおりであり、これらの図面をみても、マットレスの中身がどのようにカバーに包まれているかを看取することはできず、乙19の記載全体をみても、クッション体を接触させながら嵌め込み可能であるか否か、接触した状態でカバーに組入れられているか否かは不明というほかない」と説示した。しかし、乙19における、「本考案は、ベッドの中身が3分割(4分割・2分割)できるマットレスに関する。」(【0001】)、「この課題を解決するために、マットレスの中身(外カバー以外)を4分割又は3分割、2分割でき寝心地を損なうことなく両面を使用できるマットレスを実現した。」(【0007】)、「マットレスの中身を4分割又は3分割、2分割の大きさに分割し、各中身を生地(ネット・不織布など含む)に入れたり、裸のまま、専用カバーに入れファスナーをする。」(【0009】)、「4分割・3分割・2分割など中身の形状及び仕様は様々である。」(【0010】)との各記載にあるとおり、乙19では、マットレスの搬入及び移動を容易にするために(【0006】、【0008】)、マットレスの中身である一つのクッションを四つ、三つ又は二つのクッション体に分割しただけであるから、乙19明細書の実施形態に、一つのクッションを構成する四つ、三つ又は二つのクッション体同士が離間した「寝心地を損なう」(【0007】)マットレスが記載されているはずはない。換言すると、乙19に記載のマットレスにおいて、四つ、三つ又は二つのクッション体同士が接触していることは、当然である。さらに、乙19における上記各記載を踏まえて、原判決別紙乙19図面をみると、「マットレスの中身がどのようにカバーに包まれているかを看取すること」ができないはずはなく、クッション体同士が「接触した状態でカバーに組入れられている」ことも、そのために、「クッション体を接触させながら嵌め込み可能である」ことも、当業者にとって自明である。原判決は、クッション体が「接触した状態でカバーに組入れられているか否かは不明というほかない」と説示しており、そうすると、乙19には、クッション体同士が接触せずに隙間をあけて離間した状態でカバーに組み入れられたマットレスが開示されているとも捉えられるということになる。ところが、そのようなマットレスでは、使用者の身体の一部がマットレスに支えられず橋桁のようになってしまうから、使用者が隙間への沈み込みか、隙間に沈み込まないような姿勢を強いられることになり、寝具として最低限の寝心地も確保することができない。したがって、原判決による上記説示は、マットレスに関する特許文献の解釈としておよそあり得ないものであり、甚だ不合理である。また、原判決は、「クッション体を接触させながら嵌め込み可能であるか否か」「は不明というほかない」と説示するが、クッション体が接触した状態でカバーに組み入れられている以上、その嵌め込みの過程でクッション体同士が接触することは、本件明細書の【図5】を示すまでもなく明らかであるから、原判決による上記説示も、マットレスに関する特許文献の解釈としておよそあり得ないものであり、甚だ不合理である。なお、原判決の定義する「圧着」は、圧力の程度を問うことなく、クッション体同士が接触して何らかの圧力が加わっていることを意味することは既に述べたとおりである。よって、控訴人が原審で主張したとおり、本件発明の進歩性は、乙19に基づいて否定されるべきである。
4 争点2-3(乙21に基づく進歩性欠如)
原判決は、乙21(特開2011-19822号公報)に基づく進歩性欠如に関して、「乙21の記載からは、乙21発明の上部マット11、中間マット12及び下部マット13がマットレスカバーに包まれる状態で使用されることは読み取れるものの、これらを接触させながら容器本体40に嵌め込み可能であることや、接触した状態でマットレスカバーに組入れられていることについての記載はない」と説示した。しかし、乙21における、「本発明に係る組立式マットレスは、平板直方体形状のアッパーマットと、その下方に積み重ねられる平板直方体形状のアンダーマットと、アッパーマット及びアンダーマットを積み重ね状態で収納できる折り畳み可能なマットレスカバーとから構成され、アッパーマットはクッション性材料からなるマット本体から構成され、マット本体は、複数に分割されたそれぞれ同幅のマットからなり、アンダーマットは、上記アッパーマットと同幅で同長さの大きさをなし、クッション性材料からなる複数に分割されたそれぞれ同幅のマット片からなり、アッパーマットとアンダーマットとを積み重ねた状態において、アッパーマットにおけるマット本体を構成する各マットの隣接境界線と、アンダーマットの各マット片の隣接境界線とが重ならないように構成したことを特徴とするものである。」(【0008】)、「上記構成の組立式マットレスにおいて、アッパーマットは、マット本体が、頭部側を上にして、3つに分割されたそれぞれ同幅の上部マット、中間マット及び下部マットからなり、アンダーマットは、4つに分割された同一形状のマット片を4つ折り可能になるように一部連結して構成してもよい。」(【0009】)、「図1〜図4において、Aは平板な直方体形状をなすアッパーマットであり、マット本体10とエッジマット20とから構成される。マット本体10は、上部マット11、中間マット12及び下部マット13の3つに分割された同一大の直方体形状をなし、それぞれネット袋11a、12a、13aで包皮されている。」(【0020】)、「本実施例においてはアッパーマットAとしてエッジマット20を備えたものを示しているが、エッジマットを備えず、マット1つのサイズを幅97cm、長さ66.6cm、厚み9cmの3つのマット本体のみからアッパーマットを構成してもよい。また、本実施例においては、マット本体10を3つに分割したものであるが、これに限られるものではなく、後述するように、アッパーマットとアンダーマットとを積み重ねた状態において、アッパーマットにおけるマット本体を構成する各マットの隣接境界線と、アンダーマットの各マット片の隣接境界線とが重ならないように構成することを満たせば、本発明の効果は達成できる。」(【0023】)、「本実施例においては、マット1つのサイズを幅80cm、長さ66.6cm、厚み9cmとしているがこれに限られるものではなく、分割された各マットが同一幅でかつ同一厚みであれば長さはそれぞれ異なるものとしてもよく、また、分割された各マットが同一幅でかつ同一厚みの条件の下で幅及び厚みは適宜変更可能である。」(【0024】)との各記載にあるとおり、乙21では、搬送を容易にするために(【0001】、【0004】、【0028】)、マット本体10を上部マット11、中間マット12及び下部マット13の三つに分割しただけであるから、乙21の実施形態に、マット本体10を構成する上部マット11、中間マット12及び下部マット13が離間した「寝心地が悪い」(【0006】)マットレスが記載されているはずはない。換言すると、乙21に記載のマットレスにおいて、上部マット11、中間マット12及び下部マット13が接触していることは、当然である。さらに、乙21における上記各記載を踏まえて、原判決別紙乙21図面をみると、上部マット11、中間マット12及び下部マット13が接触することを読み取れないはずはなく、上部マット11、中間マット12及び下部マット13が「接触した状態でマットレスカバーに組入れられていること」も、そのために、上部マット11、中間マット12及び下部マット13「を接触させながら容器本体40に嵌め込み可能であること」も、当業者にとって自明である。原判決は、「上部マット11、中間マット12及び下部マット13」が「接触した状態でマットレスカバーに組入れられていることについての記載はない」と説示しており、そうすると、乙21には、上部マット11、中間マット12及び下部マット13が接触せずに隙間をあけて離間した状態でマットレスカバーに組み入れられたマットレスが開示されているとも捉らえられるということになる。ところが、そのようなマットレスでは、使用者の身体の一部がマットレスに支えられず橋桁のようになってしまうから、使用者が隙間への沈み込みか、隙間に沈み込まないような姿勢を強いられることになり、寝具として最低限の寝心地も確保することができない。したがって、原判決による上記説示は、マットレスに関する特許文献の解釈としておよそあり得ないものであり、甚だ不合理である。また、原判決は、「上部マット11、中間マット12及び下部マット13」「を接触させながら容器本体40に嵌め込み可能であること」「についての記載はない」と説示するが、上部マット11、中間マット12及び下部マット13が接触した状態でカバーに組み入れられている以上、その嵌め込みの過程で上部マット11、中間マット12及び下部マット13が接触することは明らかであるから、原判決による上記説示も、マットレスに関する特許文献の解釈としておよそあり得ないものであり、甚だ不合理である。よって、控訴人が原審で主張したとおり、本件発明の進歩性は、乙21に基づいて否定されるべきである。
5 争点2-4(控訴人の公知発明による新規性欠如)
原判決は、控訴人の公知発明による新規性欠如に関して、「②控訴人が、平成29年1月31日にJTBに提出した御見積書には、ライトウェーブコア材のマットレスを、長さ方向を1950mmと50mmのものに分割する形式とし、コの字ファスナー仕様のカバーを利用することが記載されていたこと(乙66の1)」が「認められる。」としながら、「少なくとも、控訴人の主張する構成f5(『マットレスカバーの周面部には、ファスナーが設けられており、』)、構成g5(『マットレスカバーは、複数のクッション体を接触させながら嵌め込み可能である有底筒状のカバー部材を有し、』)及び構成h5(『複数のクッション体は、接触した状態で前記マットレスカバーに組入れられているマットレス。』)について、開示されたことを認めることはできない」と説示した。しかし、上記の②の事実が認められるというのであれば、「コの字ファスナー仕様」の「ファスナー」がマットレスカバーの四つの周面部のうち三つの周面部に亘って平面視「コの字」状であることは、当然、JTBにとってもホテルにとっても共通の理解であったから、原判決が、構成f5(「マットレスカバーの周面部には、ファスナーが設けられており、」)について開示されたことを認めることはできない、と説示したことには、誤りがある。また、御見積書(乙66の1)には、「コア材」として、長さ2000mmのクッションが長さ1950mmのクッション体と長さ50mmのクッション体に分割されて構成され、これらのクッション体が接触していることが図示されており、原判決が、構成h5(「複数のクッション体は、接触した状態で前記マットレスカバーに組入れられているマットレス。」)について開示されたことを認めることはできない、と説示したことには、誤りがある。なお、控訴人が本件訴訟と同様の無効理由を主張して、現在特許庁において審理されている特許無効審判事件(無効2024-800091)の審尋(乙79。令和7年2月28日起案日)では、控訴人の主張にかかる公知発明が、以下のマットレス(ごろ寝マット)であると説示されており、構成f5及びh5が認められている。「W970mmで長手方向にL1950mmとL50mmとに2分割されたH105mmとH80mmの『ライトウェーブコア材』を、高さ方向に2枚合わせたごろ寝マットコア材と、ごろ寝マットコア材を収納するごろ寝マット用カバーと、を含むごろ寝マットであって、ごろ寝マット用カバーは、『シンコールネクステリア+底面滑り止め』であり、コの字ファスナー仕様である、ごろ寝マット。」さらに、既に述べたとおり、クッション体同士を嵌め込みの過程で一切接触させず、嵌め込みが完了した瞬間に接触させることは極めて困難であるし、原判決も「組入れた際に圧着した状態にあるのであるから、組入れ時にも圧着した状態であったと推認できる」(原判決37頁21行目から22行目まで、原判決第3の2⑵ウ)と説示しているのであるから、御見積書(乙66の1)に構成h5の開示がある以上、構成g5の開示もあるといえ、原判決が、構成g5(「マットレスカバーは、複数のクッション体を接触させながら嵌め込み可能である有底筒状のカバー部材を有し、」)について開示されたことを認めることはできない、と説示したことには、誤りがある。よって、控訴人が原審で主張したとおり、本件発明の新規性は、控訴人の公知発明により否定されるべきである。
6 争点2-5(本件公用発明による新規性欠如及び進歩性欠如)
⑴ 本件公用発明による新規性欠如及び進歩性欠如に関して、原判決は、次の
とおり説示した。「そこで検討するに、控訴人が『協同組合 福岡・大川家具工業会』の組合員であり(乙35)、平成29年1月11日及び同月12日に同協同組合により『第49回大川家具新春展』が開催されたこと(乙37)、同月頃までに、控訴人が同家具展に出展するために、コア材を3分割したものを2層重ね、その上にウレタンマットを置く形式のマットレスを製造し(乙38~41)、『スリーレイヤーズマットレス』という商品名のパンフレット(乙42)及び『スロットインマットレス』という商品名のパンフレット(乙43)を作成したことが認められる。(判決注:以下、本項において「第1段落」という。)しかしながら、上記各証拠から、上記各マットレスが『第49回大川家具新春展』において出品されたことや、どのような形状で展示されたのかを認めることをできず、ほかにこれを認めるに足りる証拠はないから、上記各マットレスの展示による公然実施がされたことを認めることは困難である。(判決注:以下、本項において「第2段落」という。)この点を措くとしても、上記各証拠から、上記各マットレスに用いられた3分割されたコア材(クッション体)の厚みやフィラメント径、かさ密度がどの程度であるか認めることはできないから、上記各マットレスが、控訴人の主張する構成d6(『複数のクッション体それぞれは、厚み方向両端部にフィラメントの密度が厚み方向中央部より高い平滑表面層を備える樹脂製のフィラメント3次元結合体を用いて形成され、』)及び構成e6(『フィラメント3次元結合体は、厚みが10~25cm、フィラメント径が0.5~2mm、かさ密度が30~150kg/m 3の範囲内にあり、』)を有していたと認めることはできない。(判決注:以下、本項において「第3段落」という。)また、上記各証拠からは、構成g6(『クッション体を接触させながら嵌め込み可能な有底筒状のカバー材』)及び構成h6(『クッション体が接触した状態でマットレスカバーに組入れられている』)を備えることも明らかとはいえないし、構成要件G及びHの『圧着』にかかる、クッション体同士に隙間が生じない程度に相互に何らかの圧力がかかるようにしながら嵌め込み可能であり、クッション体同士に隙間が生じない程度に相互に何らかの圧力がかかる状態でマットレスカバーに組入れられているという構成を有するかも不明である。(判決注:以下、本項において「第4段落」という。)」(原判決第3の3⑸イ)
⑵ しかし、第1段落に記載された事実が認められるのであれば、
「スリーレイヤーズマットレス」及び「スロットインマットレス」は、パンフレット(乙42、43)に掲載された形状で第49回大川家具新春展に出品されて展示されたことが経験則から導かれるし、報告書(乙16)に記載のとおり、控訴人は、現に、上記各マットレスをパンフレット(乙42、43)に掲載した形状で同家具展に出展した。なお、同家具展における控訴人のブースには、毎年150社程度の来訪があり、「スリーレイヤーズマットレス」のパンフレット(乙42)及び「スロットインマットレス」のパンフレット(乙43)は、300部程度ずつ作成して配布している。したがって、上記各マットレスの展示により、本件公用発明は公然実施されたものであり、原判決が、第2段落記載のように、上記各マットレスの展示による公然実施がされたことを認めることは困難であると結論付けるのは、経験則及び報告書(乙16)を含む証拠に反して不合理である。
⑶ 次に、第3段落に関して、上記各マットレスが構成e6(「フィラメント3
次元結合体は、厚みが10〜25cm、フィラメント径が0.5〜2mm、かさ密度が30〜150kg/m3の範囲内にあり、」)を有していたことは、報告書(乙16)に記載のとおりである。また、控訴人は、フィラメント3次元結合体のクッションの製造装置を平成26年にシーエンジから導入して現在に至るまで1台しか有しておらず(乙16)、このことは、控訴人の平成26年における確定申告書の特別償却の付表(乙80)に「C-CRE設備」として記載していたとおりである。一方、被控訴人は、原審において、「控訴人は、控訴人各製品について、『平成25年6月に株式会社シーエンジ……とライセンス契約を締結し』(乙16)開発されたものと主張するところ、株式会社シーエンジの有するフィラメント3次元結合体の製造技術とは、まさしく、『溶融フィラメント群の幅を、シュートおよび引取機などで規制する』技術である。」(令和6年3月22日付け原告第1準備書面6頁)、「フィラメント3次元結合体を『溶融フィラメント群の幅を、シュートおよび引取機などで規制する』方法によって製造する場合に、『厚み方向両端部にフィラメントの密度が厚み方向中央部より高い平滑表面層を備え』る、という構成を有することは技術常識である。」などと主張していたのであるから(令和6年7月19日付け原告第2準備書面5ないし6頁)、控訴人が「スリーレイヤーズマットレス」及び「スロットインマットレス」をシーエンジから導入した唯一の製造装置により製造していたことを前提とすれば、上記各マットレスが構成d6を有することを被控訴人は争わないはずであり、第3段落の、上記各マットレスが構成d6(「複数のクッション体それぞれは、厚み方向両端部にフィラメントの密度が厚み方向中央部より高い平滑表面層を備える樹脂製のフィラメント3次元結合体を用いて形成され、」)を有していたと認めることはできないとの説示も、不合理である。このように、第49回大川家具新春展における上記各マットレスの展示により、本件公用発明は、構成e6、d6を備えるものとして公然実施されたものである。
⑷ 第4段落に関して、
「スリーレイヤーズマットレス」及び「スロットインマットレス」が構成h6(「クッション体が接触した状態でマットレスカバーに組入れられている」)を備えることは、クッション体同士が接触せずに隙間をあけて離間した状態でマットレスカバーに組み入れられるマットレスであるとすれば寝具として不適切であることに照らすと、明らかである。さらに、上記各マットレスが構成g6(「クッション体を接触させながら嵌め込み可能な有底筒状のカバー材」)を備えることも、クッション体同士を嵌め込みの過程で一切接触させず、嵌め込みが完了した瞬間に接触させることは極めて困難であることに照らせば、明らかである。このように、第49回大川家具新春展における上記各マットレスの展示により、本件公用発明は、構成h6、g6を備えるものとして公然実施されたものである。
⑸ よって、控訴人が原審で主張したとおり、本件発明の新規性及び進歩性は、
本件公用発明により否定されるべきである。
7 争点2-6(明確性要件違反)
本件発明の特許請求の範囲の記載について明確性要件違反はないとした原判決の判断は失当であって、「圧着」は「強く圧迫してくっつけること」と解すべきであるが、「強く」に該当するか否かを判断するための基準や程度が第三者にとって不明であるから、本件発明の特許請求の範囲の記載は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確である。また、仮に、原判決のように「圧着」を「クッション体同士に隙間が生じない程度に相互に何らかの圧力がかかる状態」と解したとしても、「クッション体同士に隙間が生じない程度」にかかる「何らかの圧力」は、本件明細書に説明がないばかりか、第三者にとって皆目不明であるから、原判決の「圧着」の解釈によっても、本件発明の特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であることに変わりはない。よって、本件発明の特許請求の範囲の記載についての明確性は、「圧着」を「強く圧迫してくっつけること」と解した上で否定されるべきであるし、仮に、「圧着」を「クッション体同士に隙間が生じない程度に相互に何らかの圧力がかかる状態」と解したとしても、やはり否定されるべきであるから、原判決には、争点2-6(明確性要件違反)に関する判断を誤った違法がある。
第4 当裁判所の判断
当裁判所も、被控訴人の請求は、主文掲記の限度で理由があり、その限度で
認容されるべきであるが、その余は理由がないから棄却すべきであると判断す
る。その理由は、原判決を次のとおり補正し、後記2のとおり控訴人の当審に
おける主な補充主張に対する判断を加えるほかは、原判決第3の1ないし4(原
判決22頁6行目から54頁22行目まで)に記載のとおりであるから、これ
を引用する。
⑴ 原判決35頁21行目から37頁7行目まで(原判決第3の2⑵ア、イ)
を以下のとおり改める。
「上記構成要件G、Hに記載された『圧着』の語は、
『強く圧迫してくっつけ
ること』を意味するものであるところ(広辞苑第七版。乙1)、このように解
すると、
『強く』は相対的な程度を示すものであるから、その『圧迫』する程
度がどの程度のものであるのか、複数のクッション体を『圧迫してくっつけ
る』際の具体的な態様はどのようなものかを理解する必要があるが、この点
について、『圧着させながら嵌め込』む(構成要件1G)、あるいは『圧着し
た状態で・・・組み入れられている』
(構成要件1H)との特許請求の範囲の
記載からは直ちには明らかとはいえない。
そして、前記1⑵のとおり、本件発明は、クッション体を用いて形成され
るマットレスに関するものであり、クッション体同士の境界部の隙間が広が
ることにより生じる溝に手足等が落ち込みにくいマットレスの提供を課題と
するものであるところ、本件明細書には、『圧着』に関連して、『例えば3個
のクッション体を組入れる場合、まず底面側カバーの長さ方向両側の内面に
つのクッション体の側面をそれぞれ押し当てておき、これらのクッション
体の間に、残りのクッション体(山折りしておいても良い)を下向きに押し
込むことにより、全てのクッション体を圧着した状態でマットレスカバーに
容易に組入れることが可能となる。』
(【0017】)、
『【図面の簡単な説明】
・・・
【図5】底面側カバーにクッション体を収容する様子を示す概念図である。』、
『フィラメント3次元結合体41の厚みが10cm未満の場合、フィラメン
ト3次元結合体41自体がねじれて鉛直方向上下に重なりやすくなり、長さ
方向への圧着力を十分に伝えることが難しくなる。』(【0045】)、『本実施
形態のマットレス1は、長さ方向に変形しにくいフィラメント3次元結合体
を含む複数のクッション体21~23(これらを一体的に見ると、マットレ
ス用クッション20である)と、これらのクッション体21~23を長さ方
向に圧密状態で被覆するマットレスカバー10を含む。マットレスカバー1
には伸張防止部材14が設けられているため、マットレスカバー10は長
さ方向へ非常に伸び難くなっている。そのため、クッション体21~23の
隙間に局所的な荷重が加わっても、溝が形成されにくく、使用者の手足等(例
えば肘や膝)が落ち込むことを防止できる。』(【0049】)、『図5は、マッ
トレス1について、底面側カバー10bにクッション体21~23を圧着さ
せながら収容する様子の一例を示す概念図である。』(【0050】)、『図5に
は、マットレスカバー10内に複数のクッション体21~23を組入れる方
法として、底面側カバー10bの長さ方向両側の側面部13(側面部13の
前側と後側)を利用する方法が例示されている。この方法では、まず側面部
の前側と後側に2つのクッション体21、23の側面をそれぞれ押し当
てて、その後、クッション体22を鉛直方向下向きに押し込む。この方法に
より、複数のクッション体21~23を、圧着した状態でマットレスカバー
に容易に組入れることができる。なおクッション体22を押し込む際、
クッション体22を山折りにしておいても良い。』(【0051】)等の記載が
ある。これらの記載によれば、クッション体同士を『圧着』することにより、
クッション体相互に圧力がかかっている状態となり、これにより、伸張防止
部材14の効果に加えて、局所的な荷重が加わっても溝が形成されない状態
にあることが示されている。
そして、底面側カバー10bにクッション体21~23を圧着させながら
収容する様子の一例を示す概念図とする図5には、二つのクッション体の間
に、別のクッション体が下方向に押し込まれて、マットレスカバー内に三つ
のクッション体が隙間なく密着して収容されることが示されているが、一方
で、圧着によりクッション体が大きく変形する様子などは示されていない。
これらの本件明細書の記載を踏まえると、本件発明の構成要件G、Hにお
ける『圧着』とは、クッション体同士が隙間なく密着する程度に、相互に圧
力がかかっている状態をいうものと解するのが相当である。」
⑵ 原判決38頁17行目の「クッション体同士」から同頁18行目の「圧力
がかかる」まで(原判決第3の2⑵エ)を「クッション体同士が隙間なく密
着する程度に、相互に圧力がかかっている」と、同頁20行目の「接触」を
「密着」とそれぞれ改める。
⑶ 原判決39頁11行目(原判決第3の3⑴ア)の末尾の次を改行し、次の
とおり加える。
「【0007】本発明は、前記のような従来のマットレスの問題点などを勘案
してなされたものであり、その目的は安楽な睡眠のためにユ-ザの部位に対
応して区画したマットレスの異なる部位に配列された複数のクッション部材
を装着または交換するとともに、年齢、性別、身長および体重を考慮してユ
ーザの身体の対応部位に適合する弾性を有することができるマットレスを提
供することである。」
⑷ 原判決45頁19行目(原判決第3の3⑶ア)の末尾の次を改行し、次の
とおり加える。
「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】本発明は、組立式マットレスに関し、特に搬送が容易なベッド
用の組立式マットレスに関する。」
⑸ 原判決49頁19行目の「マット同士に」から同頁21行目の「圧力がか
かる」まで(原判決第3の3⑶イ(イ))を「マット同士が隙間なく密着する程
度に相互に圧力がかかるようにしながら嵌め込み可能であり、マット同士が
隙間なく密着する程度に相互に圧力がかかっている」と改める。
⑹ 原判決51頁2行目の「クッション体同士に」から同頁4行目の「圧力が
かかる」まで(原判決第3の3⑷イ)を「クッション体同士が隙間なく密着
する程度に相互に圧力がかかるようにしながら嵌め込み可能であり、クッシ
ョン体同士が隙間なく密着する程度に相互に圧力がかかっている」と改める。
⑺ 原判決52頁16行目の「クッション体同士」から同頁19行目の「かか
る」まで(原判決第3の3⑸イ)を「クッション体同士が隙間なく密着する
程度に相互に圧力がかかるようにしながら嵌め込み可能であり、クッション
体同士が隙間なく密着する程度に相互に圧力がかかっている」と改める。
⑻ 原判決53頁24行目の「クッション」から同頁25行目の「かかる状態」
まで(原判決第3の3⑹)を「クッション体同士が隙間なく密着する程度に、
相互に圧力がかかっている状態」と改める。
控訴人の当審における主な補充主張に対する判断
⑴ 争点1-1(構成要件G及びH(「圧着」))の充足性)に関し
ア 控訴人は、構成要件G及びHの「圧着」の意義に関する原判決の説示に
は誤りがあると主張する(前記第3の1⑴)。
しかし、補正(前記1⑴)の上で引用した原判決第3の2⑵ア、イ(原
判決35頁17行目から37頁7行目まで)のとおり、本件発明の構成要
件G、Hにおける「圧着」とは、クッション体同士が隙間なく密着する程
度に、相互に圧力がかかっている状態をいうものと解するのが相当である
から、控訴人の上記主張は、採用することができない。
イ 控訴人は、被控訴人が原審において証拠として提出した報告書(甲10。
以下「甲10報告書」という。)では、実験者が中材を嵌め込む際に、感圧
フィルム片に圧力がかかって変色したと考えられるから、中材同士に「ア
ウタ-カバーに組入れられている状態で、少なくとも0.2MPa(15
mmHg)の圧力がかかっている」とはいえない旨主張する(前記第
の1⑵)。
しかし、被控訴人が当審において証拠として提出した報告書(甲28。
以下「甲28報告書」という。)によると、控訴人製品1において、予め嵌
め込んだ両端のミディアムタイプの中材と中央のハードタイプの中材の
間を、押し広げて隙間を作り、その隙間を利用して感圧フィルム片6枚を
枚ずつ貼り付け、その際に、中材が感圧フィルム片に触れて、変色する
ことがないよう細心の注意を払った場合(甲28報告書7頁)においても、
甲10報告書の実験結果と同様に、感圧フィルム片の複数箇所で変色が生
じたことが認められる。
また、甲28報告書には、本件明細書の段落【0051】及び【図5】
に記載されたマットレスカバーにクッション体を組入れる方法で中材を
嵌め込んだ実験結果も記載されているところ、その場合には、感圧フィル
ム片の複数個所に擦ったような変色が発生し、甲10報告書の結果に比べ、
変色の度合いも強かったことが認められる。
さらに、被控訴人が当審において証拠として提出した報告書(甲29。
以下「甲29報告書」という。)によると、控訴人製品4において、1段目
として、予め嵌め込んだ両端の中材と中央の中材の間を、押し広げて隙間
を作り、その隙間を利用して感圧フィルム片6枚を1枚ずつ貼り付け、そ
の際、中材が感圧フィルム片に触れて、変色することがないよう細心の注
意を払う(甲29報告書6頁)とともに、2段目として、1段目の両端の
中材の上に、もう一つの中材を置き、置いた2つの中材に、それぞれ感圧
フィルム片6枚を1枚ずつ貼り付けた上で、2段目として、もう一つの中
材を、1段目の中央の中材の上に置き、その際、中材が、2段目の両端の
中材に貼り付けた感圧フィルム片に触れて変色することがないよう細心
の注意を払った場合(甲29報告書7頁)においても、甲10報告書の実
験結果と同様に、1段目、2段目ともに、感圧フィルム片の複数箇所で変
色が生じたことが認められる。
甲29報告書には、本件明細書の段落【0051】及び【図5】に記載
されたマットレスカバーにクッション体を組入れる方法で、中央の中材を
後から嵌め込んだ実験結果も記載されているところ、その場合には、1段
目、2段目ともに、感圧フィルム片の複数箇所に擦ったような、強い変色
が生じたことが認められる。
これら甲28報告書及び甲29報告書に記載された実験結果を踏まえる
と、甲10報告書に記載された実験結果は、実験者が中材を嵌め込む際の
圧力が感圧フィルム片にできるだけ現れないように慎重に挟み込みを行
ったことによるものであると認められる。
したがって、甲10報告書につき、実験者が中材を嵌め込む際に感圧フ
ィルム片に圧力がかかって変色したとする控訴人の上記主張は採用する
ことができない。
ウ 控訴人は、控訴人が原審で提出した証拠(乙7、25)に係る測定にお
ける表面カバーの一部を切除する方法によると、アウタ-カバーに組入れ
済みの中材同士の境界部にセンサシ-トを差し込むことにより、組入れ中
の圧力を拾う事態を防止することができ、さらに、控訴人の圧力測定では、
センサシ-ト上の感圧部に生じる圧力をリアル夕イムで計測しており、こ
の点でも感圧フィルムを用いた被控訴人の測定よりも高精度である旨主張
する(前記第3の1⑶)。
しかし、控訴人の測定(乙7、25)は、アウターカバーの一部が切り
取られており(乙25、2頁及び3頁試料1ないし3)、必ずしも、中材が
アウターカバーに組入れられている状態を再現しているとはいえない。
さらに、控訴人の測定(乙7、25)では、空隙率が極めて高い中材(乙
、引用した原判決第3の1⑴イの本件明細書の【背景技術】
【0002】
の記載参照)に対し、センサシートの一部である感圧部のみでしか測定で
きないシートを利用した測定結果である上に、控訴人の使用したセンサシ
ートが検知できる圧力の最下限は10mmHgであるから(乙7、44、
原審における令和6年9月26日付け被告準備書面⑸10頁)、控訴人製
品1及び4のクッション体同士が向かい合う面の面積を10.6(cm)
×97.52(cm)=1033.712(cm 2)とすると、約13.4
kgの重さに相当する力が長さ方向にかかっていても、これを測定でき
ないこととなる(原審における令和6年11月14日付け原告第5準備書
面8頁)。
これらの点を踏まえると、控訴人のセンサシートが、圧力をリアルタイ
ムで計測できるものとしても、上記被控訴人の測定結果よりも高精度であ
ると認めることができない。
したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
エ 以上によれば、争点1-1(構成要件G及びH(「圧着」)の充足性)に
関する控訴人の主張は採用することはできない。
⑵ 争点2-1(乙11に基づく進歩性欠如)に関し
控訴人は、乙11発明は、組付けの過程では、側面パッド40の内側にフ
レーム10を配置した上で、そのフレーム10の内側に複数のクッション部
材30を収容することとなるから、マットレスフレーム及び複数のクッショ
ン部材は、単一のクッション部材のように機能しない他、もともと乙11は、
「安楽な睡眠のためにユ-ザの部位に対応して区画したマットレスの異なる
部位に配列された複数のクッション部材を装着または交換するとともに、年
齢、性別、身長および体重を考慮してユーザの身体の対応部位に適合する弾
性を有することができるマットレスを提供すること」を目的としており(【0
】)、上記目的の達成には、複数のクッション部材がマットレスの異な
る部位に配列されていればよく、
「一つのマットレスボディーを形成する」か
どうかは、関係がないから、本件発明と乙11発明との間に相違点2’があ
るとしても、組付け中の観点からフレーム10がマットレスカバーに含まれ
ると整理して、あるいは、乙11に記載された発明の目的に供しないフレー
ム10を省略して、本件発明に想到することは、当業者にとって容易である
旨主張する(前記第3の2)。
しかし、補正(前記1⑶)の上で引用した原判決第3の3⑴のとおり、乙
には、マットレスフレームと複数のクッション部材が一つのマットレス
ボディーを構成するとの記載があり(【0017】)、「収容部20に2列で配
置された六つのクッション部材30は、その外側部が周壁11の互いに対応
する内壁面さらに隣接するクッション部材の外側部と接触して密着収容され
るので、従来の一つの単一クッション部材のように機能し」
(【0020】)と
記載されているのであるから、組付けの過程として、側面パッド40の内側
にフレーム10を配置した上で、フレーム10の中に複数のクッション部材
を収容するという過程を採用したとしても、マットレスフレームと複数のク
ッション部材とが一つのマットレスボディーを構成することに変わりはない
というべきである。
そうすると、乙11発明において、本件発明の「マットレスカバー」に相
当する構成は、側面パッド40及び上下部カバーパッド50、50’である
と認めるのが相当であり、マットレスフレーム10がマットレスカバーに含
まれるとする控訴人の上記主張は採用することができない。
さらに、乙11の上記【0020】の記載に照らせば、補正(前記1⑶)
の上で引用した原判決第3の3⑴のとおり、クッション部材30を密着収容
して配列する上で、周壁11を構成するマットレスフレーム10は必要不可
欠な構成であると認められ、これを省略することには阻害要因があるという
べきである。
したがって、マットレスフレーム10を省略して本件発明に想到すること
は、当業者にとって容易であるとする控訴人の上記主張は採用することがで
きない。
したがって、争点2-1(乙11に基づく進歩性欠如)に関する控訴人の
主張は採用することはできない。
⑶ 争点2-2(乙19に基づく進歩性欠如)に関し
控訴人は、乙19は、マットレスの搬入及び移動を容易にするために(【0
】、【0008】)、マットレスの中身である一つのクッションを四つ、
三つ又は二つのクッション体に分割しただけであるから、乙19の実施形態
に、一つのクッションを構成する四つ、三つ又は二つのクッション体同士が
離間した「寝心地を損なう」
(【0007】)マットレスが記載されているはず
はなく、乙19に記載のマットレスにおいて、クッション体同士が接触して
いることは、当然である、乙19における記載を踏まえて、乙19図面をみ
ると、クッション体同士が「接触した状態でカバーに組入れられている」こ
とも、そのために、
「クッション体を接触させながら嵌め込み可能である」こ
とも、当業者にとって自明である旨などを主張する(前記第3の3)。
しかし、乙19の図面は原判決別紙乙19図面記載のとおりであるところ、
乙19の図1は、3分割したマットレスの中身を立てた状態の画像、図2は
外カバーに包んだ状態のマットレスの外観画像、図3は外カバーを外した状
態のマットレスの中身の画像、図4はカバーのファスナー部分の画像に過ぎ
ず、引用した原判決第3の3⑵のとおり、乙19の記載全体を見ても、マッ
トレスの中身が、どのような手順でカバー内に収められ、隣接するマットレ
スの中身同士が、どのような状態でカバーに包まれているのかについては、
何ら開示されていない。
そうすると、乙19のマットレスは、必ずしも接触した状態で外カバーに
組入れられているとは限らないから、原判決が「乙19の記載全体をみても、
クッション体を接触させながら嵌め込み可能であるか否か、接触した状態で
カバーに組入れられているか否かは不明というほかないから、乙19発明が、
控訴人の主張する構成g3(『カバーは、複数のクッション体を接触させなが
ら嵌め込み可能である有底筒状のカバー部材を有し、』)及び構成h3(『複数
のクッション体は、接触した状態で力バ-に組入れられているマットレス。』)
を有すると認めることはできない。」と判断したことは相当である。
そして、本件発明と乙19発明とを対比すると、乙19発明は、控訴人の
主張する相違点3以外にも、構成要件G及びHに相当する構成を備えていな
い点で相違するものということができる。既に述べたとおり、本件発明の構
成要件G、Hにおける「圧着」とは、クッション体同士が隙間なく密着する
程度に、相互に圧力がかかっている状態であることをいうものと解されると
ころ、乙19発明は、隣接するマットレス同士がどのような状態であるか不
明であるから、乙19発明において、本件発明の構成要件G、Hのごとく構
成することが、当業者にとって容易であったとはいえない。
したがって、争点2-2(乙19に基づく進歩性欠如)に関する控訴人の
主張は採用することはできない。
⑷ 争点2-3(乙21に基づく進歩性欠如)に関し
控訴人は、乙21では、搬送を容易にするために(【0001】、
【0004】、
【0028】)、マット本体10を上部マット11、中間マット12及び下部
マット13の三つに分割しただけであるから、乙21の実施形態に、マット
本体10を構成する上部マット11、中間マット12及び下部マット13が
離間した「寝心地が悪い」
(【0006】)マットレスが記載されているはずは
なく、乙21に記載のマットレスにおいて、上部マット11、中間マット1
及び下部マット13が接触していることは、当然である、さらに、乙21
における上記各記載を踏まえて、原判決別紙乙21図面をみると、上部マッ
ト11、中間マット12及び下部マット13が「接触した状態でマットレス
カバーに組入れられていること」も、そのために、上部マット11、中間マ
ット12及び下部マット13「を接触させながら容器本体40に嵌め込み可
能であること」も、当業者にとって自明である旨などを主張する(前記第3
の4)。
しかし、補正(前記1⑷、⑸)の上で引用した原判決第3の3⑶のとおり、
乙21には、上部マット11、中間マット12及び下部マット13が、どの
ような手順でマットレスカバーC内に組立収納され、マットレスカバーCに
収納された状態で、隣接するマット同士がどのような状態であるのかは、そ
の明細書及び図面の記載を含め何ら開示されていないから、乙21の各マッ
トは、必ずしも、接触した状態でマットレスカバーに組入れられているとは
認められない。
そして、本件発明と乙21発明とを対比すると、乙21発明は、控訴人の
主張する相違点4以外にも、構成要件G及びHに相当する構成を備えていな
い点で相違する。繰り返し述べるとおり、本件発明の構成要件G、Hにおけ
る「圧着」とは、クッション体同士が隙間なく密着する程度に、相互に圧力
がかかっている状態であることをいうものと解されるところ、乙21発明は、
上部マット11、中間マット12及び下部マット13同士が、どのような状
態であるか不明であるから、乙21発明において、本件発明の構成要件G、
Hのごとく構成することが、当業者にとって容易であったとはいえない。
したがって、争点2-3(乙21に基づく進歩性欠如)に関する控訴人の
主張は採用することはできない。
⑸ 争点2-4(控訴人の公知発明による新規性欠如)に関し
ア 控訴人は、原判決が、
「②控訴人が、平成29年1月31日にJTBに提
出した御見積書には、ライトウェーブコア材のマットレスを、長さ方向を
mmと50mmのものに分割する形式とし、コの字ファスナー仕
様のカバーを利用することが記載されていたこと(乙66の1)」が「認め
られる。」というのであれば、「コの字ファスナー仕様」の「ファスナー」
がマットレスカバーの四つの周面部のうち三つの周面部に亘って平面視
「コの字」状であることは、当然、JTBにとってもホテルにとっても共
通の理解であったから、原判決が、構成f5(「マットレスカバーの周面部
には、ファスナーが設けられており、」)について開示されたことを認める
ことはできない、と説示したことには誤りがある旨主張する(前記第3の
)。
そこで、乙66の1(平成29年1月31日付け「御見積書②」)をみる
と、そこには、
「カバー」との記載の下に「【シンコール ネクステリア】」
と記載され、その下に直方体形状の図が記載されている。そして、その横
に「裏面:滑り止め」及びその下に「コの字ファスナー仕様」とそれぞれ
記載されている。その直方体形状の図には、ファスナーは描かれていない。
これらの記載を総合すると、直方体形状の図はカバーを模した図であって、
コの字ファスナーはカバーの裏面(直方体形状の底面)に設置されている
と解される。この理解は、実際に納入されたマットレスのカバーの「コの
字ファスナー」が、カバーの裏面(底面)であって、側面との境界部に設
置されていることとも整合する(乙74の1の写真)。
そうすると、原判決が、構成f5(「マットレスカバーの周面部には、フ
ァスナーが設けられており、」)について開示されたことを認めることはで
きない旨判断したことは相当である。
控訴人が当審において提出する証拠(乙79)は、本件特許の無効審判
請求における審理段階において審判合議体から発せられた審尋の書面に
過ぎず、証拠に基づく上記認定を左右するものではない。
したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
イ 控訴人は、乙66の1には、
「コア材」として、長さ2000mmのクッ
ションが長さ1950mmのクッション体と長さ50mmのクッション体
に分割されて構成され、これらのクッション体が接触していることが図示
されており、原判決が、構成h5(「複数のクッション体は、接触した状態
で前記マットレスカバーに組入れられているマットレス。」)について開示
されたことを認めることはできない、と説示したことには、誤りがある、
クッション体同士を嵌め込みの過程で一切接触させず、嵌め込みが完了し
た瞬間に接触させることは極めて因難であるし、御見積書(乙66の1)
に構成h5の開示がある以上、構成g5の開示もあるといえ、原判決が、
構成g5(「マットレスカバーは、複数のクッション体を接触させながら嵌
め込み可能である有底筒状のカバー部材を有し、」)について開示されたこ
とを認めることはできない、と説示したことには、誤りがある旨主張する
(前記第3の5)。
しかし、乙66の1には、コア材がどのような手順でカバー内に収納さ
れ、カバーに収納された状態で、隣接するコア材がどのような状態である
のかについて何ら開示がされていないから、乙66の1のコア材は、接触
した状態でマットレスカバーに組み入れられていると認めることができ
ない。また、コの字ファスナーの底面内における位置や、コの字部分の大
きさ等の具体的な構成についても不明であり、マットレスカバーが、複数
のコア材を接触させながら嵌め込み可能である有底筒状のカバー部材を
有するものともいえない。
そうすると、本件公知発明が本件発明と同一であり、これが本件優先日
前に公知であったと認めることはできないから、本件発明に、本件公知発
明による新規性欠如の無効理由があるとはいえない。
したがって、控訴人の上記主張は採用できない。
ウ 以上によれば、争点2-4(控訴人の公知発明による新規性欠如)に関
する控訴人の主張は採用することはできない。
⑹ 争点2-5(本件公用発明による新規性欠如及び進歩性欠如)に関し
ア 控訴人は、原審で証拠として提出した報告書(乙16)に記載のとおり、
現に、
「スリーレイヤーズマットレス」及び「スロットインマットレス」を
バンフレット(乙42、43)に掲載した形状で第49回大川家具新春展
に出展したところ、同家具展における控訴人のブースには、毎年150社
程度の来訪があり、
「スリーレイヤーズマットレス」のパンフレット(乙4
)及び「スロットインマットレス」のパンフレット(乙43)は、30
部程度ずつ作成して配布している、したがって、原判決が、
「上記各証拠
から、上記各マットレスが『第49回大川家具新春展』において出品され
たことや、どのような形状で展示されたのかを認めることをできず、ほか
にこれを認めるに足りる証拠はないから、上記各マットレスの展示による
公然実施がされたことを認めることは困難である。」と判断したのは、経験
則及び報告書(乙16)を含む証拠に反し不合理である旨などを主張する
(前記第3の6⑵)。
しかし、補正(前記1⑺)の上で引用した原判決第3の3⑸イのとおり、
上記パンフレット(乙42、43)に掲載された各マットレスの実物が同
家具展に出展されたことを認めるに足りる証拠はない上、上記パンフレッ
トには、少なくとも本件発明の構成要件G、Hが要する「圧着」に係る記
載はなく、仮に上記各マットレスの実物が同家具展において展示されてい
たとしても、本件発明の構成要件G、Hに係る構成を備えることが理解で
きる態様で展示されたことを認めるに足りる証拠はない。そうすると、上
記各マットレスの同家具展における展示により、本件公用発明が、本件発
明の構成要件G、Hに係る構成を備えるものとして公然実施されたとは認
められない。
イ 控訴人は、報告書(乙16)の記載や、フィラメント3次元結合体のク
ッションの製造装置を平成26年に導入して現在に至るまで1台しか有し
ていないこと等から、第49回大川家具新春展に出展した「スリーレイヤ
ーズマットレス」及び「スロットインマットレス」は、構成e6(「フィラ
メント3次元結合体は、厚みが10〜25cm、フィラメント径が0.5
〜2mm、かさ密度が30〜150kg/m 3の範囲内にあり、」)及び構成
d6(「複数のクッション体それぞれは、厚み方向両端部にフィラメントの
密度が厚み方向中央部より高い平滑表面層を備える樹脂製のフィラメント
次元結合体を用いて形成され、」)を備えており、上記各マットレスの展
示により、本件公用発明は、構成e6、d6を備えるものとして公然実施
された旨主張する(前記第3の6⑶)。
前記アのとおり、上記各マットレスの実物が同家具展に出展されたこと
を認めるに足りる証拠はないが、その点を措くとして、控訴人が挙げる上
記の事情があるとしても、本件において、上記各マットレスが構成e6、
d6を備えていたことを認めるに足りる証拠があるとはいえないし、仮に
上記各マットレスが構成e6、d6を備え、同家具展に上記各マットレス
の実物が展示されていたとしても、構成e6、d6の内容は、マットレス
カバーを外してクッション体を観察しなければ確認できない上、構成e6
の「フィラメント3次元結合体は、
・・・フィラメント径が0.5〜2mm、
かさ密度が30〜150kg/m3の範囲内にあり」との点は、肉眼による
目視だけでは認識不可能であるから、上記各マットレスの実物が展示され
ていたというのみでは、それが構成e6、d6を備えることを認識し得る
ような状態であったとは認められず、本件発明が公然実施されていたとは
認められない。
ウ また、控訴人は、
「スリーレイヤーズマットレス」及び「スロットインマ
ットレス」が「構成h6(『クッション体が接触した状態でマットレスカバ
ーに組入れられている』)を備えること」は、クッション体同士が接触せず
に隙間をあけて離間した状態でマットレスカバーに組み入れられるマット
レスであるとすれば寝具として不適切であることに照らすと、明らかであ
り、
「スリーレイヤーズマットレス」及び「スロットインマットレス」が「構
成g6(『クッション体を接触させながら嵌め込み可能な有底筒状のカバー
材』)」
「を備えること」も、クッション体同士を嵌め込みの過程で一切接触
させず、嵌め込みが完了した瞬間に接触させることは極めて困難であるこ
とに照らせば、明らかである旨などを主張する(前記第3の6⑷)。
しかし、補正(前記1⑺)の上で引用した原判決第3の3⑸イのとおり、
乙38ないし43のいずれの証拠にも、クッション体が、どのような手順
でカバー内に収納され、カバーに収納された状態において、隣接するクッ
ション体がどのような状態であるのかについては何ら開示がされておら
ず、その他に隣接するクッション体の状態を裏付ける証拠はないし、寝具
において、クッション体間に隙間が生じず、接触していることが自明であ
ることを認めるに足りる証拠もない。
なお、控訴人が当審において提出する証拠(乙80)も、平成26年に
作成されたものであり、第49回大川家具新春展の時点(平成29年)の
状況を示すものでもなく、上記認定を左右しない。
そして、既に繰り返し述べたとおり、本件発明の構成要件G、Hにおけ
る「圧着」とは、クッション体同士が隙間なく密着する程度に、相互に圧
力がかかっている状態であることをいうものと解されるところ、本件公用
発明は、クッション体同士がどのような状態であるか不明であり、本件公
用発明が、上記のような「圧着」を伴う本件発明の構成要件G、Hを充足
する構成を備えていたと認めるに足りる証拠はないし、本件公用発明に基
づいて、上記のような構成を想到することが、当業者にとって容易であっ
たと認めることもできない。
したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
エ 以上によれば、争点2-5(本件公用発明による新規性欠如及び進歩性
欠如)に関する控訴人の主張は採用することはできない。
⑺ 争点2-6(明確性要件違反)に関し
控訴人は、
「圧着」は「強く圧迫してくっつけること」と解すべきであると
ころ、
「強く」に該当するか否かを判断するための基準や程度が第三者にとっ
て不明であるから、本件発明の特許請求の範囲の記載は、第三者の利益が不
当に害されるほどに不明確である旨主張する(前記第3の7)。
しかし、既に繰り返し述べたとおり、本件発明の構成要件G、Hにおける
「圧着」とは、クッション体同士が隙間なく密着する程度に、相互に圧力が
かかっている状態であることをいうものと解するのが相当である。そして、
上記クッション体相互にかかる圧力については、数値等の定量的な基準がな
くとも、本件明細書の記載を通じ、マットレスカバー及びクッション体の構
成等から、当業者が容易に理解できるものと認められる。そのため、本件発
明の特許請求の範囲の記載は明確である。
したがって、争点2-6(明確性要件違反)に関する控訴人の主張は採用
することができない。
以上の認定及び判断は、当審における控訴人のその余の補充主張によっても
左右されない。
よって、その余の点について判断するまでもなく、原判決は相当であり、本
件控訴は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
中 平 健
裁判官
今 井 弘 晃
裁判官
水 野 正 則
| 特許裁判例 実用新案裁判例 |
| 意匠裁判例 商標裁判例 |
| 不正競争裁判例 著作権裁判例 |
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| 不正競争判例 著作権判例 |
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