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令和6(ワ)70460特許権侵害損害賠償請求等事件

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裁判所 請求棄却 東京地方裁判所
裁判年月日 令和8年1月15日
事件種別 民事
当事者 原告株式会社安藤・間
被告大成建設株式会社
対象物 シールドトンネルの拡幅構造、シールドトンネルセグメント及びシールドトンネルの拡幅方法
法令 特許権
特許法70条3回
特許法29条2項3回
特許法36条6項2号1回
特許法29条1項3号1回
特許法102条3項1回
民法709条1回
キーワード 侵害25回
実施14回
進歩性12回
特許権8回
無効7回
新規性5回
分割4回
損害賠償2回
刊行物1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 本件は、発明の名称を「シールドトンネルの拡幅構造、シールドトンネルセ グメント及びシールドトンネルの拡幅方法」とする特許第4782704号の 特許(以下「本件特許」という。)に係る特許権(以下「本件特許権」といい、 本件特許権に係る明細書及び図面を「本件明細書」という。 )を有する原告が、 別紙対象製品目録記載の製品(以下「本件対象製品」という。)及び本件対象 製品を用いたトンネルの拡幅工事方法(以下「本件対象方法」という。)を使 用した被告に対し、これらの使用行為が本件特許権の侵害を構成するとして、 民法709条に基づき、損害賠償金24億円の一部請求として13億5000 万円及びこれに対する不法行為の後の日である令和6年10月18日(訴状送 達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支 払を求める事案である。

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判決文

令和8年1月15日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

令和6年(ワ)第70460号 特許権侵害損害賠償等請求事件

口頭弁論終結日 令和7年10月17日

判 決

原 告 株 式 会 社 安 藤 ・ 間

同訴訟代理人弁護士 近 藤 惠 嗣

同 前 田 将 貴

被 告 大 成 建 設 株 式 会 社

同訴訟代理人弁護士 重 冨 貴 光

同 長 谷 部 陽 平

同 秋 田 康 博

同 池 田 幸 来 子

同訴訟代理人弁理士 町 田 能 章

同 中 丸 宗 一 郎

主 文

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

被告は、原告に対し、13億5000万円及びこれに対する令和6年10月18日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

本件は、発明の名称を「シールドトンネルの拡幅構造、シールドトンネルセグメント及びシールドトンネルの拡幅方法」とする特許第4782704号の特許(以下「本件特許」という。)に係る特許権(以下「本件特許権」といい、本件特許権に係る明細書及び図面を「本件明細書」という。)を有する原告が、

5 別紙対象製品目録記載の製品(以下「本件対象製品」という。)及び本件対象製品を用いたトンネルの拡幅工事方法(以下「本件対象方法」という。)を使用した被告に対し、これらの使用行為が本件特許権の侵害を構成するとして、民法709条に基づき、損害賠償金24億円の一部請求として13億5000万円及びこれに対する不法行為の後の日である令和6年10月18日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠〔枝番の記載は省略する。〕及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実をいう。)

⑴ 当事者等ア 原告は、建設業を業とする株式会社である。原告は、原告、被告、五洋建設株式会社、飛島建設株式会社及び大豊建設株式会社からなる特定建設工事共同企業体(以下「本線JV」という。)の構成員である(争いがない)。イ 被告は、建設業を業とする株式会社である。被告は、本線JVの代表企業であるとともに、被告、飛島建設株式会社及び大豊建設株式会社からなる特定建設工事共同企業体(以下「ランプ部JV」という。)の代表企業である(争いがない)。ウ 本線JVは、東京外かく環状道路本線トンネル(北行)大泉南工事(以下「本線工事」という。)を施工している。ランプ部JVは、東京外かく環状道路大泉南工事(以下「ランプ部工事」という。)を施工している。

⑵ 原告の有する特許権(甲1、2)原告は、以下の内容の本件特許権を有している。特許番号 特許第4782704号発明の名称 シールドトンネルの拡幅構造、シールドトンネルセグメント

5 及びシールドトンネルの拡幅方法出 願 日 平成19年1月9日出願番号 特願2007-1202号登 録 日 平成23年7月15日

⑶ 本件特許に係る特許請求の範囲(甲2)本件特許の特許請求の範囲の請求項1及び請求項5の記載は、次のとおりである(以下、請求項1に記載された発明を「本件発明1」といい、請求項5に記載された発明を「本件発明5」といい、これらを併せて「本件発明」という。)。なお、請求項5の「拡幅セグメント接合凹部」との記載は、「拡幅セグメント接合用凹部」の誤記と解される。ア 請求項1シールドトンネルを構成するセグメント本体の外面に仮補填ケースを着脱自在に取り付けた拡幅セグメント接合用凹部が形成され、前記仮補填ケース中に充填材を充填することにより拡幅セグメント接合用凹部を仮に補填できるようにしたことを特徴とするシールドトンネルセグメント。イ 請求項5シールドトンネルのセグメント組み立て後、そのセグメントの外面に仮補填ケース中に充填材を充填した仮補填部材を着脱自在に取り付けた拡幅セグメント接合凹部を形成し、前記仮補填部材を撤去して前記接合用凹部に拡幅セグメントの端部を嵌合させてこれらセグメントを接合することにより、拡幅セグメントによる拡幅覆工をシールドトンネルからその外側へ延設し、該拡幅覆工までシールドトンネルを切り拡げることを特徴とするシールドトンネルの拡幅方法。

⑷ 本件発明の構成要件本件発明を構成要件に分説すると、次のとおりである。ア 本件発明1

5 1A シールドトンネルを構成するセグメント本体の外面に仮補填ケースを着脱自在に取り付けた拡幅セグメント接合用凹部が形成され、1B 前記仮補填ケース中に充填材を充填することにより拡幅セグメント接合用凹部を仮に補填できるようにしたことを特徴とする1C シールドトンネルセグメント。イ 本件発明55A シールドトンネルのセグメント組み立て後、5B そのセグメントの外面に仮補填ケース中に充填材を充填した仮補填部材を着脱自在に取り付けた拡幅セグメント接合凹部を形成し、5C 前記仮補填部材を撤去して前記接合用凹部に拡幅セグメントの端部を嵌合させてこれらセグメントを接合することにより、5D 拡幅セグメントによる拡幅覆工をシールドトンネルからその外側へ延設し、5E 該拡幅覆工までシールドトンネルを切り拡げることを特徴とする5F シールドトンネルの拡幅方法。

⑸ 本件対象製品及び本件対象方法(乙2、弁論の全趣旨)本件対象製品の客観的な形状は、別紙対象製品目録記載のとおりである(争いがない。第5回弁論準備手続調書参照)。本件対象方法は、ランプ部工事の一部の工程で行われる本件対象製品を用いたトンネルの拡幅工事方法であり、ランプ側及び本線側の円形断面トンネル(以下、前者を「Fランプトンネル」といい、後者を「本線トンネル」という。)を掘削した後、Fランプトンネルと本線トンネルとの間を拡幅する工事(以下「本件拡幅工事」という。)の施工方法である。原告が主張する本件対象製品及び本件対象方法の構成は別紙物件等説明書記載のとおりである。なお、本件対象製品が、前記⑷の構成要件1Cを充足することのほか、本件対象方法が、前記⑷の構成要件5Dないし5Fを充足

5 することは、当事者間に争いがない。

⑹ 被告の行為被告が、本件対象製品を使用していることは当事者間に争いがない。被告が本件対象方法を使用しているか否かについては、後記第3の13のとおり、当事者間に争いがある。

⑺ 先行文献本件特許の出願日より前に、以下の刊行物が存在した。ア 特開平7-197771号公報(乙27。以下「乙27公報」といい、これに記載された発明を「乙27発明」という。)イ 特開2000-257373号公報(乙10。以下「乙10公報」といい、これに記載された発明を「乙10発明」という。)ウ 特開2004-353377号公報(乙12。以下「乙12公報」といいう。)エ 特開2006-307478号公報(甲5。以下「本件拒絶引用文献」といい、これに記載された発明を「拒絶引例」という。)

⑻ 本件特許の出願に関する経緯等ア 本件特許の出願人(株式会社間組。以下、登記名義人の表示変更の前後を問わず「原告」という。)は、平成19年1月9日、本件特許を出願したが、特許庁審査官は、平成23年3月22日付けで、出願時の請求項8及び13以外の請求項に係る発明については、拒絶引例と同一又は本件拒絶引用文献から当業者であれば容易に発明をすることができたと認められるとして、拒絶の理由を通知した。出願時の主な請求項は、別紙出願時の請求項記載のとおりである。(甲1、4ないし6)イ 原告は、前記アの拒絶理由の通知を受けて、手続補正書を提出し、同手続補正書中の新たな請求項1、5及び6について、出願時の請求項8と1

5 3にある「仮補填ケース中に充填材を充填した仮補填部材を着脱自在にして拡幅セグメント接合用凹部に取り付けたもの」を必要構成として取り入れた。なお、出願人は、意見書において、新たな請求項5は、出願時の請求項9に上記の構成を取り入れたものである旨説明した。(甲3、乙15)

⑼ 前提となる知識(争いがない)ア シールド(トンネル)工法シールド(トンネル)工法とは、円筒状のシールド機(鋼製の円筒状の機械)を用いて、シールド機の先端に設置されるカッターフェースを回転させて地盤を掘削しつつ、シールド機内部で、トンネルの外壁となるセグメントを組み立てることを繰り返すことで、地盤内を推進しながらトンネルを構築していく工法のことをいう。具体的には、後掲の【図1】のSTEP1ないしSTEP3(STEP1ないしSTEP3は同時並行で行われる。)及びSTEP4の工程を交互に繰り返してトンネルを掘削する工法のことをいう。【図1】シールド(トンネル)工法の概要シールド機前面に設置されたカッターフェースが回転して地盤を掘削する(STEP1)。掘削された土砂は、カッターフェースのすぐ後ろに位置するチャンバー

5 を経て、スクリューコンベヤやベルトコンベヤなどによってトンネル外に搬出される(STEP2)。シールド機には、進行方向とは逆方向(既に掘り進んだトンネル側)に伸びるようにジャッキが取り付けられており、シールド機は、既設のセグメントリング(円環状に配置されたセグメント)にジャッキを押し当てて反力を得て、前方(掘削方向)に推進してさらに地盤を掘り進める(STEP3)。上記のとおり、STEP1ないしSTEP3、すなわち地盤の掘削、土砂の搬出及びジャッキを用いた推進は、順次行われるのではなく、同時並行で行われる。シールド機がある程度前進したら、ジャッキを収縮させ、シールド機内部で既設セグメントに接するように新たなセグメントを設置していく(STEP4)。この際、セグメントは重量物であるため、エレクターという

5 トンネル内に設置された機械を用いて運搬され、シールド機外殻の内周面に沿って設置される(後掲の【図2】参照)。このようにして、複数のセグメントを組み合わせてリング状に仕上げていく。こうして地中をシールド機で推進しながら、シールド機内で、セグメントを外壁とする地中のトンネルを徐々に伸張させることで、トンネル全体が完成していく。このような手順でトンネルを掘削する工法をシールド(トンネル)工法という。【図2】エレクターの概要イ セグメントセグメントとは、シールド(トンネル)工法によってトンネルを掘削する際に、リング状のトンネル外壁(セグメントリング)を構成する部材である。各セグメントは通常、円弧状になっており、複数のセグメントが組み合わさることでリング状のトンネル外壁(セグメントリング)を構成する。セグメントは、土水圧の高い地盤中に敷設されるトンネルの外壁の役割を果たすことから、高い強度と耐久性が求められるほか、設置の効率性や

5 設計精度も重視される。上記の役割等から、セグメントは一定の強度を持った素材で製造されている。具体的には、セグメントは、素材ごとに大きく三つの種類に分けることができる。すなわち、①鉄筋コンクリート製のもの(コンクリート系セグメント)、②鋼製のもの(鋼製セグメント)及び③鋼製のものにコンクリートを併用するもの(合成セグメント)の3種類である(後掲【図3】参照)。【図3】素材によるセグメントの分類鋼製セグメントは、セグメントが外殻だけで構成されて内部が中空である場合には、土水圧やシールド機のジャッキによる圧力によって変形してしまい、セグメントとしての用をなさない。そのため、鋼製セグメントは、上記【図3】及び後掲【図4】のとおり、①トンネル外面に当接する「スキンプレート」、②セグメントリングを輪切りにした際に側面に見えることとなる「主桁」2枚以上、③円周方向に隣接するセグメントを接続する面である「継手板」2枚のほか、④スキンプレートの内側に位置し、2枚の主桁同士の間を支える「縦リブ」が複数本設置される構造となっている。この構造とすることにより、土水圧によるリング状のトンネル中心側に向かう圧力や、シールド機のジャッキによる進行方向とは逆方向に向かう(トンネルの軸方向の)圧力に対する必要な耐力を備えることができるようになる。【図4】一般的な鋼製セグメントの構造図ウ シールドトンネルの拡幅工法高速道路トンネルの分合流部などでは、隣接する2本のトンネルを1本にしてトンネル全体を拡幅するに当たり、セグメントを外壁とする複数のシールドトンネルを1本に合体させてトンネル内を拡幅する工事を行うことがある。そのような拡幅工法の一つに、隣接するトンネルのセグメント間にアーチ型の構造物を架ける方法がある。2 争点

⑴ 文言侵害の成否(争点1)ア 「仮補填ケースを着脱自在に取り付けた」(構成要件1A)の充足性(争点1-1)イ 「仮補填ケース中に充填材を充填する」(構成要件1B)の充足性(争点1-2)ウ 「シールドトンネルのセグメント組み立て後」(構成要件5A)、「そのセグメントの外面に…拡幅セグメント接合凹部を形成し」(構成要件5B)の充足性(争点1-3)エ 「仮補填ケース中に充填材を充填した仮補填部材」(構成要件5B)の

5 充足性(争点1-4)オ 「仮補填部材を撤去して」(構成要件5C)の充足性(争点1-5)

⑵ 均等侵害の成否(争点2)ア 本件発明1についての均等侵害の成否(争点2-1)イ 本件発明5についての均等侵害の成否(争点2-2)

⑶ 本件発明の無効理由の有無(争点3)ア 乙10発明を主引例とする本件発明1の進歩性の有無(争点3-1)イ 乙27発明を主引例とする本件発明1の進歩性の有無(争点3-2)ウ 乙12発明を主引例とする本件発明1の新規性の有無(争点3-3)エ 乙12発明を主引例とする本件発明1の進歩性の有無(争点3-4)オ 本件発明5の明確性要件違反の有無(争点3-5)

⑷ 損害の発生の有無及びその額(争点4)

第3 争点に対する当事者の主張

1 争点1-1(「仮補填ケースを着脱自在に取り付けた」〔構成要件1A〕の

充足性)について

(原告の主張)

本件対象製品には、拡幅セグメント接合用凹部が形成され、当該接合用凹部には保護ピースが着脱自在に取り付けられている。したがって、本件対象製品は、構成要件1Aを充足する。これに対し、被告は、本件対象製品の保護ピースは「仮補填ケース」に該当しない旨主張する。しかしながら、本件発明1は物の発明であって構成要件1A及び1Bは物の構造を規定するものであるから、これらを併せて読めば「充填材を充填した仮補填ケース」を着脱自在に取り付けた拡幅セグメント接合用凹部が形成されたシールドトンネルセグメントが、本件発明1の技術的範囲に含まれることは明らかである。

(被告の主張)

5 本件発明1の特許請求の範囲及び本件明細書(【0046】及び【図7】な

いし【図9】)の記載によると、本件発明1において拡幅セグメント接合用凹部に着脱自在に取り付けられるものは、充填材を充填していない「仮補填ケース」であり、それ単独で拡幅セグメント接合用凹部を補填できる「仮補填部材」ではない。これを本件対象製品についてみると、本件対象製品の保護ピースは、後記2

⑵のとおり、単一の鋼製部材(鋼製セグメント)であり、「仮補填ケース」と

「充填材」に分けられないし、仮補填ケース中に充填材を充填することは想定されていない。また、保護ピースは、それ単独でD型セグメントの切り欠き部を仮補填することができるものである。したがって、本件対象製品の保護ピースは、「仮補填ケース」に該当する構成を有さず、本件対象製品は、本件発明1の構成要件1Aを充足しない。

2 争点1-2(「仮補填ケース中に充填材を充填する」〔構成要件1B〕の充

足性)について

(原告の主張)

本件発明1は、「仮補填ケース」に「充填材を充填」することで拡幅セグメント接合用凹部を「仮に補填」し、掘削されたトンネルの周りの土圧を支保するとともに、掘進時にシールドマシンのジャッキ反力を支えるという施工上の機能を発揮できるようにしたものであり、当業者にとって、鋼製セグメントが上記機能を奏することは周知である。また、「充填」の辞書的な意味は、「あいた所につめてふさぐこと。」、「つめること」も含むところ、一般的な鋼製セグメントは、主桁や継手板間の空間に縦リブとスキンプレートを詰めている。したがって、構成要件1Bは、鋼製セグメントの構成を除外するものではない。そして、本件対象製品の保護ピースは、鋼板で構成される底部(一部は推力伝達フランジと呼ばれる。)、端部、側部及び表面部(スキンプレート)からなり、両側部は縦リブと呼ばれる2枚の鋼板でその内部が連結されている。こ

5 のような構成によって、本件対象製品の保護ピースは、掘削されたトンネルの

周りの土圧を支保するとともに、掘進時にシールドマシンのジャッキ反力を支えるという施工上の機能を発揮している。したがって、本件対象製品の保護ピースは、底部、端部及び両側部で形成される部分が「仮補填ケース」(構成要件1B)に該当し、表面部(スキンプレート)と縦リブが「充填材」(構成要件1B)に該当するから、構成要件1Bを充足する。

(被告の主張)

⑴ 「充填材」、「充填」、「仮補填ケース」を充足しないこと

「充填」は、「物を詰めて欠けた所や空所を満たすこと。」を意味し(乙19)、「材」とは「原料となるもの。」を意味する(乙21)。したがって、構成要件1Bにおいて、①「充填材」とは空所を満たすために詰められる原料を意味し、②「充填」とは物を詰めて欠けた所や空所を満たすことを意味し、③「仮補填ケース」とは、充填材を充填される対象となる容器・入れ物を意味する。これを本件対象製品についてみると、本件対象製品の保護ピースの内部は、内部に設けられた鋼材以外は中空になっており、空所を満たすための部材は存しないし、空所を満たすこともされていない。したがって、本件対象製品の保護ピースは、「充填材」を「充填」した「仮補填ケース」に該当せず、本件対象製品は構成要件1Bを充足しない。なお、原告が出願人である特開2000-314296に係る公開特許公報(乙16【0014】)の用例からも明らかなとおり、当業者である原告も「充填」や「充填材」について被告が主張するような意味で用いていることからしても、縦リブ等が「充填材」に該当しないことは明らかである。

⑵ 別部材である「仮補填ケース」と「充填材」を充足しないこと

構成要件1Bは、「前記仮補填ケース中に充填材を充填することにより拡

5 幅セグメント接合用凹部を仮に補填できるようにした」として、「仮補填ケ

ース」と「充填材」を別部材として規定していることに着目すれば、「充填材」を「仮補填ケース」中に「充填」することにより、拡幅セグメント接合用凹部を仮に補填できるようにするという、仮補填部材の具体的構成を特定したものである。そして、本件明細書(【0046】、【図8】、【図9】)の記載によれば、「充填材」は、別部材である「仮補填ケース」の空所を満たすために充填される原料であること、「充填材」として「コンクリート等」が用いられることが理解され、「仮補填ケース」は、充填材を充填される対象となる容器・入れ物であること、「仮補填ケース」は、単独で着脱自在に取り付けられるものであり、「上面が開口した」、「金属製」が想定されていることが理解される。さらに、本件特許の出願の経緯等(前記前提事実⑻)に鑑みても、本件発明1の構成要件1Bは、セグメント本体の外面に取り付けた「仮補填ケース」中に別部材である「充填材」を充填することにより、拡幅セグメント接合用凹部を仮に補填できるようにした構成を特定したものである。これを本件対象製品についてみると、本件対象製品の保護ピースは、鋼材(スキンプレート、側面プレート、端部プレート、フランジ、推力伝達フランジ及び縦リブ)を溶接してなる単一の鋼製部材(鋼製セグメント)であり、保護ピースのみを使用して切り欠き部を仮に補填できるようにしたものである。このような単一の部材である保護ピースによる仮補填は、「仮補填ケース」及び「充填材」を別部材として用いて、「仮補填ケース中に充填材を充填することにより拡幅セグメント接合用凹部を仮に補填できるようにした」という構成要件1Bを充足しない。

3 争点1-3(「シールドトンネルのセグメント組み立て後」

〔構成要件5A〕、「そのセグメントの外面に…拡幅セグメント接合凹部を形成し」〔構成要件5B〕の充足性)について5

(原告の主張)

⑴ 本件発明5の解釈

本件明細書(【0035】参照)には、実施例として、「セグメント組み立て後」に、仮補填部材4を撤去し、拡幅セグメントの接合を行う拡幅方法のみが記載されていることからすれば、本件発明5の特許請求の範囲の記載が誤記であることは明らかであるから、本件明細書の記載を参酌して、誤記を訂正するように解釈すべきである。また、前記前提事実⑻のとおり、出願人(原告)は、審査官からの拒絶理由の通知(甲4)を受けて補正を行い、別紙出願時の請求項記載の請求項9に同記載の請求項13の内容を取り入れて新たな請求項5としたのであるから、請求項5の文言はこのような補正の経緯も斟酌して解釈されるべきである。したがって、請求項5は、以下のように訂正され得るものとして解釈すべきものである(なお、下線は訂正部分)。5A シールドトンネルのセグメント組み立て後、5B’ そのセグメントの外面に形成され、仮補填ケース中に充填材を充填した仮補填部材を着脱自在に取り付けた拡幅セグメント接合用凹部から5C’ 前記仮補填部材を撤去して、5D’ 前記接合用凹部に拡幅セグメントの端部を嵌合させてこれらセグメントを接合することにより、5E’ 拡幅セグメントによる拡幅覆工をシールドトンネルからその外側へ延設し、該拡幅覆工までシールドトンネルを切り拡げることを特徴とする5F シールドトンネルの拡幅方法

⑵ 本件対象方法の充足性

本件対象方法の構成は、別紙物件等説明書記載2のとおりである。そして、前記⑴の解釈を前提とすると、本件対象方法は、構成要件5A及び5Bを充

5 足する。

(被告の主張)

⑴ 本件発明5の解釈

本件発明5の特許請求の範囲の記載によれば、本件発明5は、構成要件5B以下で規定されるシールドトンネルの拡幅方法の工程が、「シールドトンネルのセグメント組み立て後」(構成要件5A)のものであることを特定するものである。そして、本件明細書(【0035】等)の記載を踏まえると、「シールドトンネルのセグメント組み立て後」(構成要件5A)とは、シールドトンネルのセグメントの組立てを完了した後の状態を意味し、セグメントの「組み立て」とは、複数のセグメントを円環状に配置したセグメントリングをトンネル軸方向に連続配置してトンネルを形成すること、又は、少なくとも複数のセグメントによりセグメントリングを形成すること、のいずれかを意味すると理解される。また、構成要件5Bにおける「そのセグメントの外面に…拡幅セグメント接合凹部を形成し」とは、セグメントの外面に拡幅セグメント接合用凹部を形成する工程を特定したものである。これに対し、原告は、拡幅セグメント接合用凹部の形成はセグメントの組立前に必要な構成であることは明らかであるとして、構成要件5Bを「そのセグメントの外面に形成され、仮補填ケース中に充填材を充填した仮補填部材を着脱自在に取り付けた拡幅セグメント接合用凹部から」と読み替える解釈をするが、

(原告の主張)

は、特許請求の範囲の記載を実質的に書き換えて解釈するものであり、特許法70条に照らしておよそ許されない。

⑵ 本件対象方法の充足性

これを本件対象方法についてみると、本件拡幅工事においては、別紙対象方法説明書記載のとおり、①D型セグメントへの保護ピースの取付けは製造工場で行われた後に、②保護ピースが取り付けられた状態のD型セグメントが搬入されてシールド機内でセグメントの組立てが行われる。したがって、

5 本件対象方法の構成5aないし5dは次のとおり特定されるべきである。

5a シールドトンネルのセグメント組み立て前から、5b D型セグメントの外面に保護ピースを着脱自在に取り付けた切り欠き部が形成されており、5c シールドトンネルのセグメント組み立て後に、前記保護ピースを撤去して前記切り欠き部に拡幅セグメントの端部を嵌合させてこれらセグメントを接合することにより、5d 拡幅セグメントによる拡幅覆工をシールドトンネルからその外側へ延設し、以上のとおり、本件対象方法は、シールドトンネルのセグメント組み立て前にD型セグメントに保護ピースが取り付けられるから、構成要件5Aを充足しない。また、本件対象方法において、D型セグメントは略S字形状のセグメントとして作製されるものであり、円弧形状のセグメントに切り欠き部を形成する工程は存在しないから、構成要件5B(そのセグメントの外面に…拡幅セグメント接合凹部を形成し)を充足しない。仮に、構成要件5Bを充足するものとしても、「形成」の構成は、「シールドトンネルのセグメント組み立て前」に行われるものであるから、構成要件5Aを充足しない。

4 争点1-4(「仮補填ケース中に充填材を充填した仮補填部材」〔構成要件

5B〕の充足性)について

(原告の主張)

前記2のとおり、本件発明5は、鋼製セグメントの構成を除外するものではなく、本件対象方法の保護ピースは「充填材を充填した仮補填部材」に該当する。したがって、本件対象方法は構成要件5Bを充足する。

(被告の主張)

前記2⑴の「充填材」、「充填」及び「仮補填ケース」の意義を前提とする

5 と、構成要件5Bは、「充填材」(空所を満たすために詰められる原料)を「仮

補填ケース」(容器・入れ物)中に「充填」(物を詰めて空所を満たす)した「仮補填部材」をセグメントの外面に着脱自在に取り付けるという、拡幅セグメント接合用凹部の具体的な形成方法を特定したものである。これを本件対象方法についてみると、前記2⑴及び⑵のとおり、本件対象方法の保護ピースは、鋼材を溶接してなる単一の鋼製部材であり、内部は、中空になっており、空所を満たすための部材は存しないし、空所を満たすこともされていない。したがって、保護ピースの内部に設けられた鋼材は、「充填材」に該当せず、保護ピースは、「充填材」を「充填」した「仮補填ケース」にも該当しないまた、保護ピースは、その製造過程において本件明細書に記載されているような箱状の容器が形成されることはないことからも、「仮補填ケース」にも「仮補填部材」にも該当しない。さらに、本件対象方法の保護ピースは、本件発明5における仮補填ケースや仮補填部材とは大きく設計思想、機能及び技術的特徴を異にするものである。すなわち、本件発明5の「仮補填ケース」はシンプルな箱状の容器であって設計、作製が容易であり、仮補填ケース中にコンクリート等の充填材を充填する作業もシンプル(例えば、工事現場に仮補填ケース及びコンクリート等を運搬し、仮補填ケースをボルトにて取り付けてコンクリート充填を行うなど)であるから、本件発明5の仮補填部材は、「補填の容易性」という作用効果を奏する。これに対し、本件対象方法は、保護ピースを作製し、D型セグメントの切り欠き部に保護ピースを取り付ける方法として、D型セグメントを横向きに寝かせた状態で、ジャッキを使用しつつ、高さを調整しながらD型セグメントの背面側からボルトで保護ピースを取り付けるものであり、慎重かつ精緻な方法を要するから、補填作業を容易にできるものではない。

5 したがって、本件対象方法の保護ピースは、構成要件5Bの「仮補填ケース

中に充填材を充填した仮補填部材」を充足しない。

5 争点1-5(「仮補填部材を撤去して」〔構成要件5C〕の充足性)につい

て

(原告の主張)

前記4のとおり、本件対象方法の保護ピースは「仮補填部材」に該当し、本件対象方法においては保護ピースを撤去しているから、本件対象方法は、構成要件5Cを充足する。

(被告の主張)

前記4のとおり、本件対象方法における保護ピースは、「仮補填部材」に該当しないから、本件対象方法は、構成要件5Cを充足しない。

6 争点2-1(本件発明1についての均等侵害の成否)について

(原告の主張)

仮に、本件対象製品が、「仮補填ケース中に充填材を充填」(構成要件1B)という文言を充足しないとしても、以下の⑴ないし⑷のとおり、上記の点はいずれの均等の要件も充足するから、本件対象製品については均等侵害が認められる。

⑴ 第1要件(非本質的部分)を充足すること

知財高裁平成27年(ネ)第10014号同28年3月25日特別部判決(マキサカルシトール事件)によると、特許発明の本質的部分について、「明細書に記載されていない従来技術も参酌して、当該特許発明の従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が認定されるべきである。」と判示されている。本件特許の出願の経緯等を踏まえると、本件発明1は、本件拒絶引用文献に開示されていない「仮補填ケース中に充填材を充填した仮補填部材を着脱自在にして拡幅セグメント接合用凹部に取り付けた」という構成を取り入れ

5 たものである。すなわち、拒絶引例では、「凹部」は、拡幅セグメントを設

置するための支保工掘進のガイド及びアーチユニットセグメントの接合箇所の目安という機能を有し、ウレタンフォームや発泡スチロールといった切削可能な材料で直接充填されるものであるのに対し、本件発明1では、「拡幅セグメント接合用凹部」は、拡幅セグメント端部と嵌合して当該端部に生じる力を面で支持するという構造力学上の機能を有し、着脱自在な仮補填部材によって凹部を補填しておく点で相違する。このように、本件発明1における「拡幅セグメント接合用凹部」は、拒絶引例における「凹部」とはその性質が本質的に異なっており、本件発明1の「仮補填部材」は、掘削されたトンネル周りの土圧を支保するという構造力学上の機能とともに、掘進時にシールドマシンのジャッキ反力を支えるというシールドトンネルセグメントの施工上の機能を凹部に提供している。したがって、本件発明1の本質的部分は、上記のような構造力学上の機能と施工上の機能の両立を提供する「着脱自在な仮補填部材によって拡幅セグメント接合用凹部を仮に補填しておく点」にある。そうすると、本件発明1と本件対象製品の相違点である構成要件1Bの「仮補填ケース中に充填材を充填」するという構成は本質的部分ではないから、均等の第1要件を充足する。これに対し、被告は、構成要件1Bの「充填材を充填」するという構成も本件発明1の本質的部分であると主張する。しかしながら、「充填」の目的は、仮補填部材が上記の構造力学上及び施工上の機能を果たすようにするために必要な構成にすぎず、仮補填部材をコンクリート系セグメントや合成セグメントに限定すべき理由はないから、「充填材を充填」するという構成は、本件発明1の本質的部分ではない。

⑵ 第2要件(置換可能性)、第3要件(置換容易性)

本件発明1の作用効果は、「拡幅セグメント接合用凹部」の「補填を容易に行える」こと(【0027】)であり、本件発明1において、「拡幅セグ

5 メント接合用凹部」を補填する部材は「仮補填部材」である。ここで、「仮

に補填する」(【0046】)とは、シールドトンネル掘削時に通常のセグメントと同様に機能することを意味しており、仮補填部材として鋼製セグメントを除外する理由はない。したがって、本件発明1の「仮補填部材」に代えて、本件対象製品の「保護ピース」のような鋼製セグメントを用いても、本件発明1の作用効果を容易に奏することができるから、均等の第2要件及び第3要件を充足する。

⑶ 第4要件(容易推考性)

否認ないし争う。

⑷ 第5要件(意識的除外)

被告は、本件発明1と本件対象製品との相違部分(縦リブとスキンプレートによって仮補填部材を形成する点)は、周知、公知技術の状況並びに本件特許に係る出願の審査段階でされた補正の経緯及び内容に照らせば、特許請求の範囲から意識的に除外されている旨主張する。しかしながら、本件明細書(【0046】)の記載は、客観的外形的に見て本件対象製品に係る構成が特許請求の範囲に記載された構成を代替すると認識しながらあえて特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示したものではないし、出願時の経緯を踏まえても、客観的外形的にみて、充填材を「コンクリート等」に限定し、縦リブとスキンプレートによって仮補填部材を形成する場合を本件発明1から除外したとは解釈できない。もとより、原告は、審査官の拒絶理由通知に対応した際にも、請求項8及び請求項13については「拒絶の理由を発見しない」という審査官の見解に従っただけであるから、意識的除外に該当しないことは明らかである。

(被告の主張)

本件対象製品は、以下のとおり、均等の各要件を満たさない。

⑴ 第1要件の非充足

5 ア 本件発明1は、拡幅セグメント接合用凹部の補填手段を、「仮補填ケー

ス中に充填材を充填」することにより仮に補填する構成に特定し、それにより「拡幅セグメント接合用凹部を補填しておくに当たり、その補填を容易に行える」(本件明細書段落【0027】)との作用効果を奏する点に技術的特徴を有するものである。したがって、本件発明1の本質的部分は、「仮補填ケース中に充填材を充填」するという構成である。これに対し、原告は、本件発明1の本質的部分は、構造力学上の機能と施工上の機能の両立を提供する「着脱自在な仮補填部材によって拡幅セグメント接合用凹部を仮に補填しておく点」であり、仮補填部材を合成セグメントとすることは本件発明1の本質的部分に属さないと主張する。しかしながら、本件発明1の特許請求の範囲及び本件明細書の記載や本件特許の出願経過を踏まえても、

(原告の主張)

には根拠がなく、明らかに失当である。イ これを本件対象製品についてみると、前記2のとおり、本件対象製品は、D型セグメントの切り欠き部を、単一の鋼製部材(鋼製セグメント)である「保護ピース」で補填するセグメントであり、「仮補填ケース中に充填材を充填」することにより凹部を補填するセグメントではない。また、本件対象製品の「保護ピース」は、その設計作製、D型セグメントとの組立結合等に相応の負担を要し、従来技術と比較して「拡幅セグメント接合用凹部を補填しておくに当たり、その補填を容易に行える」(本件明細書段落【0027】)ものではない。そもそも「保護ピース」のような鋼製セグメントによって凹部を補填することは従来技術であるから、本件対象製品が従来技術と比較して補填が容易になる作用効果を奏する理由はない。以上のとおり、本件対象製品は、本件発明1の本質的部分を備えておらず、本件発明1と本件対象製品とは、本質的部分において相違するから、

5 均等の第1要件(非本質的部分)を充足しない。

⑵ 第2要件及び第3要件の非充足

本件発明1の作用効果は、拡幅セグメント接合用凹部の仮補填の方法として、特定の構成(「仮補填ケース中に充填材を充填」する)を用いることにより補填を容易に行えるようにする点にある。「仮補填ケース中に充填材を充填」することにより凹部を補填するという補填手段に代えて、本件対象製品の「保護ピース」により凹部を補填するという補填手段を採用した場合、本件発明1の「拡幅セグメント接合用凹部を補填しておくに当たり、その補填を容易に行える」という作用効果を奏しない。したがって、本件発明1の「仮補填ケース中に充填材を充填」することにより凹部を補填するという補填手段と、本件対象製品の「保護ピース」により凹部を補填するという補填手段とには、置換可能性がなく、そのような置換えを行うことには阻害要因があるから、均等の第2要件(置換可能性)及び第3要件(置換容易性)を充足しない。

⑶ 第4要件の非充足

以下のとおり、「保護ピース」により凹部を補填するという補填手段を採用した本件対象製品は、本件発明1の特許出願時における公知技術と同一又は当業者が当該公知技術から特許出願時に容易に推考可能であるから、均等の第4要件(非容易推考性)を充足しない。ア 後記10(乙12発明に基づく本件発明1の新規性の有無)において述べるとおり、乙12発明における「セグメントカバー11」は、本件対象製品の「保護ピース」に相当する構成を備える。イ 後記8(乙10発明を主引例とする本件発明1の進歩性の有無)で述べるとおり、乙10発明における「撤去用ブロック4」につき、鋼製セグメントの代表例であって本件対象製品の「保護ピース」と同様のスキンプレ

5 ート、主桁、継手板、縦リブ等で構成されるセグメントとすることは、先

行技術の寄せ集め又は単なる設計事項にすぎず、容易に推考可能である。ウ 後記9(乙27発明を主引例とする本件発明1の進歩性の有無)で述べるとおり、乙27発明における「セグメント支持部6aを仮に補填する部材」として、鋼製セグメントの代表例であり、本件対象製品の「保護ピース」と同様のスキンプレート、主桁、継手板、縦リブ等で構成されるセグメントを採用することは、先行技術の寄せ集め又は単なる設計事項にすぎず、あるいは、周知技術を適用することにより容易に想到できるものであり、容易に推考可能である。

⑷ 第5要件の非充足

本件特許の出願時において、鋼製部材により凹部を補填する方法は周知の技術であり(乙12、13、17、24)、本件特許の出願の補正時には、本件対象製品に係る「保護ピース」と酷似する鋼製部材(スキンプレートや縦リブ等を備える。)により凹部を補填する方法も開示されており(乙25)、原告もその存在を認識していた(乙26)。このような状況下で、原告は、補填手段を「仮補填ケース中に充填材を充填」するものに限定する補正を行ったのであり、原告は、本件対象製品に係る構成(保護ピースを用いた補填手段)を明確に認識しながら、上記の構成を特許請求の範囲から除外したものといえる。したがって、本件対象製品は、本件特許の出願経過において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たることは明らかであるから、均等の第5要件(特段の事情の不存在)を充足しない。

7 争点2-2(本件発明5についての均等侵害の成否)について

(原告の主張)

仮に、本件対象方法が、「仮補填ケース中に充填材を充填」(構成要件5B)という文言を充足しないとしても、前記6のとおり、上記の点はいずれの均等

5 の要件も充足するから、本件対象方法については均等侵害が認められる。

(被告の主張)

以下のとおり、本件対象方法は、均等の各要件を満たさない。

⑴ 第1要件の非充足

従来技術や本件特許の出願経過を踏まえると、本件発明5に特有の構成は、「仮補填ケース中に充填材を充填する」という拡幅セグメント接合用凹部の具体的な補填手段である。また、本件発明5に特有の作用効果は、「拡幅セグメント接合用凹部を補填しておくに当たり、その補填を容易に行える」(【0027】)ことである。そうすると、本件発明5の本質的部分は、「仮補填ケース中に充填材を充填」した「仮補填部材」を用いる点にある。他方、本件対象方法は、単一の鋼製セグメントである「保護ピース」によりD型セグメントの切り欠き部を(仮)補填する方法であり、仮補填ケースの中に充填材を充填した仮補填部材を用いる方法ではない。したがって、本件対象方法は、本件発明5の本質的部分を備えておらず、本件発明5と本件対象方法とは、本質的部分において相違するから、均等の

第1要件(非本質的部分)を充足しない。

⑵ 第2要件及び第3要件の非充足

前記⑴のとおり、本件発明5の作用効果は、「拡幅セグメント接合用凹部を補填しておくに当たり、その補填を容易に行える」点にある。「仮補填ケース中に充填材を充填」した「仮補填部材」により凹部を補填するという補填手段に代えて、本件対象方法の「保護ピース」により凹部を補填するという補填手段を採用した場合、本件発明5の作用効果を奏しない。したがって、本件発明5の「仮補填ケース中に充填材を充填」した「仮補填部材」により凹部を補填するという補填手段と、本件対象方法の「保護ピース」により凹部を補填するという補填手段とは、置換可能性がなく、その

5 ような置換えを行うことには阻害要因があるから、均等の第2要件(置換可

能性)及び第3要件(置換容易性)を充足しない。

⑶ 第4要件の非充足

前記6⑶のとおり、「保護ピース」により凹部を補填するという補填手段を採用した本件対象方法は、本件発明5の特許出願時における公知技術と同一又は当業者が当該公知技術から特許出願時に容易に推考可能であるから、均等の第4要件(非容易推考性)を充足しない。

⑷ 第5要件の非充足

前記6⑷のとおり、本件対象方法が、本件特許の出願経過において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たることは明らかであるから、均等の第5要件(特段の事情の不存在)を充足しない。

8 争点3-1(乙10発明を主引例とする本件発明1の進歩性の有無)につい

て

(被告の主張)

以下に述べるとおり、本件発明1は、乙10発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項により無効とされるべきものである。

⑴ 主引例

乙10公報の記載を踏まえ、本件発明1の構成要件に照らして、乙10発明の構成を整理したものは、以下のとおりである。1-1a 先行トンネル1を構成するセグメント12の外面に撤去用ブロック4を組み付けた、後行トンネル2のセグメント22との連結部位が形成され、1-1b 撤去用ブロック4により後行トンネル2のセグメント22との連結部位を仮に補填できるようにしたことを特徴とする1-1c セグメント12乙10公報【図1】 乙10公報【図2】

⑵ 相違点

ア 本件発明1と乙10発明とを対比すると、以下の点で相違し、その余は一致する。(相違点1b)本件発明1は、拡幅セグメント接合用凹部を仮に補填する構成(部材)が、「前記仮補填ケース中に充填材を充填する」ものである(構成要件1B)のに対し、乙10発明は、「撤去用ブロック4」がその素材・構成が特に限定されておらず、特定の素材・構成が具体的に明らかとはされていない点イ

(原告の主張)

に対する反論(ア) 相違点1a’の主張について原告は、相違点1a’( 本件発明1の「拡幅セグメント接合用凹部」は、シールドトンネルセグメントによって拡幅セグメントを支持するものであるのに対し、乙10発明は、仮設セグメントの撤去に際して、「撤去用ブロック4」と「撤去用セグメント3」と分割して撤去できるようにして、「撤去用ブロック4」を先に撤去することにより後行トンネルの

5 「セグメント22」を一時的に「撤去用セグメント3」で支持できるよ

うにした点)が存在する旨主張する。しかしながら、本件発明1は、「拡幅セグメント」が「シールドトンネルセグメント」に「接合」するという限度で両者の関係性を発明特定事項とするものであり、シールドトンネルセグメントによって拡幅セグメントを「支持」することは発明特定事項ではない。そして、乙10発明の「セグメント12」と「セグメント22」は、継ぎ合わされているから「接合」関係にあることが明らかである。したがって、相違点1a’は存在しない。仮に、シールドトンネルセグメントによって拡幅セグメントを「支持」することも本件発明1の発明特定事項であると解したとしても、乙10発明において、「セグメント12」は「セグメント22」の横向きのベクトルに対する抗力を発生させているから、「セグメント22」は「撤去用セグメント3」又は「補強梁5」に加えて、「セグメント12」によって支持されているといえるから、相違点1a’は存在しない。(イ) 相違点1b’の主張について原告は、相違点1b’(本件発明1では充填材を充填した仮補填ケースにより拡幅セグメント接合用凹部を仮に補填することにより、補填されたセグメントがトンネル支保機能及びジャッキ反力を支える機能を有するのに対し、乙10発明では、明示されてはいないものの、先行トンネルの掘削に際して、「撤去用セグメント3」がトンネル支保機能及びジャッキ反力を支える機能を発揮する構造を有していることは推測できるものの、「撤去用ブロック4」が同様の構造を有するか否か明らかではない点)が存在する旨主張する。しかしながら、本件発明1の構成要件1Bは、構造力学上の機能及び施工上の機能(ジャッキ反力を支える機能等)を必須としておらず、こ

5 れらの機能の有無は問題とならないから、

(原告の主張)

は失当である。仮に、原告が主張するように、本件発明1の構成要件1Bが、構造力学上の機能及び施工上の機能を有することを必須とするものであるとしても、乙10発明の「撤去用ブロック4」は、これと共にセグメントリングを構成する「セグメント12」や「撤去用セグメント3」と同様に、同質のセグメントであるものと理解される。したがって、原告が指摘する点は相違点にならず、構成要件1Bに関する相違点は、前記アのとおり認定されるべきである。

⑶ 相違点1bに係る構成が容易想到であること

ア 先行技術の寄せ集めにすぎないこと乙10発明の「撤去用ブロック4」の素材・構成は特に限定されていないものの、乙10公報の【図1】から明らかなように、「撤去用ブロック4」は、「セグメント12」と「撤去用セグメント3」との間に介設され、それらと共に「先行トンネル1」のセグメントリングを構成している。そのため、「撤去用ブロック4」は、「セグメント12」や「撤去用セグメント3」と同様に、ジャッキ推力や土水圧に耐え得るセグメントであることが要求される。そして、本件特許の出願日時点において、セグメントの種類として、コンクリート系セグメント、鋼製セグメント及び合成セグメントの3種類が存在することは、シールドトンネルの分野における技術常識であった。したがって、乙10発明に接した当業者は、「撤去ブロック4」として、コンクリート系セグメント、鋼製セグメント又は合成セグメントのいずれかを適宜選択して採用する。この場合、合成セグメントの代表例は、金属製の枠体(ケース)にコンクリート等の固化材を充填したセグメントである(例えば、乙16、28、29、30)。また、鋼製セグメントの代表例は、スキンプレート、主桁、継手板、縦リブ等で構成されるセグメントである(乙30、12、13、

5 17、24等)。そして、本件発明1の「仮補填ケース中に充填材を充填

する」仮補填部材は、合成セグメントに相当する。仮に原告のクレーム解釈を前提とすれば、本件発明1の「仮補填ケース中に充填材を充填する」仮補填部材は、鋼製セグメントに相当する。すなわち、本件発明1は、乙10発明の「撤去用ブロック4」として鋼製セグメント又は合成セグメントの代表例を採用したものにすぎず、単なる先行技術の寄せ集めであって、当業者の通常の創作能力の発揮の範囲内でされたものである。イ 設計事項であること当業者は、公知材料の中から最適材料を選択するという観点から、乙10発明の「撤去用ブロック4」として合成セグメント又は鋼製セグメントを選択するといえる。したがって、相違点1bに係る構成(前記「仮補填ケース中に充填材を充填する」構成)を採用することは、単なる設計事項であり、当業者の通常の創作能力の発揮の範囲内で適宜行うことができる事項である。ウ 小括以上によれば、相違点1bに係る構成は容易想到である。

(原告の主張)

⑴ 主引例について

否認する。乙10発明の構成は、以下のとおり認定されるべきである。1-1a 先行トンネル1の円形断面を形成するセグメントを、テール端部13を有するセグメント12と仮設セグメントによって構成し、前記仮設セグメントは、テール端部13に組み付けられた撤去用ブロック4と撤去用セグメント3からなり、1-1b 後行トンネル2のセグメント22は先行トンネル1の前記セグメント12と線対称の形状を有し、前記撤去用ブロック4を除去す

5 ることにより、前記セグメント1の前記テール端部13と合致さ

せることのできるテール端部23を有し、前記テール端部13と前記テール端部23とを合致させた後に、前記撤去用セグメント3を撤去して補強梁を構築することにより、先行トンネル1と後行トンネル2を連結した空間を確保できるようにした、1-1c 前記セグメント12と仮設セグメントからなるセグメント

⑵ 相違点

本件発明1と乙10発明とを対比すると、以下の点で相違し、その余は一致する。(相違点1a’)本件発明1の「拡幅セグメント接合用凹部」は、シールドトンネルセグメントによって拡幅セグメントを支持するものであるのに対し、乙10発明は、仮設セグメントの撤去に際して、「撤去用ブロック4」と「撤去用セグメント3」と分割して撤去できるようにして、「撤去用ブロック4」を先に撤去することにより後行トンネルの「セグメント22」を一時的に「撤去用セグメント3」で支持できるようにした点(相違点1b’)本件発明1では充填材を充填した仮補填ケースにより拡幅セグメント接合用凹部を仮に補填することにより、補填されたセグメントがトンネル支保機能及びジャッキ反力を支える機能を有するのに対し、乙10発明では、明示されてはいないものの、先行トンネルの掘削に際して、「撤去用セグメント3」がトンネル支保機能及びジャッキ反力を支える機能を発揮する構造を有していることは推測できるものの、「撤去用ブロック4」が同様の構造を有するか否か明らかではない点

⑶ 容易想到ではないこと

ア 相違点1a’について

5 本件発明1は、「シールドトンネルセグメント」と「拡幅セグメント」

を接合用凹部で接合して支持することによってトンネル構造を維持するものであるのに対し、乙10発明は、補強梁という接続対象とは独立した専ら接合のために用意された部材によって連形トンネルを支持するものであり、補強梁、支柱などの支持部材を用いなければトンネル構造を維持することはできない。したがって、本件発明1と乙10発明は、トンネル構造に関する設計思想を全く異にし、各発明の作用、機能が全く異なるから、技術思想が同一であるとはいえない。これに対し、被告は、本件発明1は、シールドトンネルセグメントによって拡幅セグメントを「支持」することを発明特定事項としていないし、仮に上記の点を発明特定事項としていたとしても、乙10発明における「セグメント22」は「撤去用セグメント3」又は「補強梁5」に加えて、「セグメント12」によって支持されているから相違点1a’は存在しない旨主張する。しかしながら、本件明細書の記載から、本件発明1の「拡幅セグメント接合用凹部」 がシールドトンネルセグメントによって拡幅セグメントを支持するために必要な構造であることは明らかであるし、ここでいう拡幅セグメントの支持が構造力学上の機能を奏する接合構造を意味することも明らかである。また、乙10発明における「セグメント22」が、仮に「撤去用セグメント3」又は「補強梁5」に加えて、「セグメント12」によって支持されているとしても、シールドトンネルセグメントのみによって拡幅セグメントを支持する本件発明1の作用効果を奏するものではなく、 乙10公報にはこの点について何の示唆もない。以上によれば、乙10発明に基づいて本件発明1に想到することはできない。イ 相違点1b及び相違点1b’について被告は、乙10発明における「撤去用ブロック4」がその周囲のセグメ

5 ントと同様の構造であることは自明である旨主張する。

しかしながら、「撤去用ブロック4」は、「撤去用セグメント3」の撤去を容易にするためのブロックであり、「セグメント12」や「撤去用セグメント3」と同様の構造を有しなければならない理由はなく、主たる構成部分でもないから、周囲のセグメントと同様の構造を有すると推測することはできない。確かに、「撤去用ブロック4」は、その外側が「先行トンネル1」の断面形状に一致していることから、トンネル支保の機能(被告がいう土水圧に耐える機能)を有することは理解できるものの、その内側は、「先行トンネル1」の「セグメント12」の内側の円筒面と一致する位置にあるために、断面図では一点しかない。このような「撤去用ブロック4」が、ジャッキ反力を支える機能を果たすように構成されることはあり得ない。むしろ、乙10公報の【図1】を見れば容易に分かるとおり、「テール端部13」は前記円筒面よりも厚くなっているため、「先行トンネル1」の掘削に際しては、「セグメント12」の「テール端部13」にジャッキを配置することが望ましく、さらに必要であれば、「撤去用セグメント3」の端部付近にジャッキを配置すれば足りることは明らかである。したがって、「撤去用ブロック4」にジャッキを配置するという前提が存在せず、ジャッキ反力を支えるために「撤去用ブロック4」の内部に充填材を充填するという動機は存在しない。かえって、ジャッキ反力を支えるための構造を採用すると、撤去が困難となるといえる。したがって、乙10発明に基づいて本件発明1に想到することはできない。

9 争点3-2(乙27発明を主引例とする本件発明1の進歩性の有無)につい

て

(被告の主張)

以下に述べるとおり、本件発明1は、乙27発明に基づいて、本件特許の出

5 願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条

2項により無効とされるべきものである。

⑴ 主引例

乙27公報の記載を踏まえ、本件発明1の構成要件に照らして、乙27発明の構成を整理したものは、以下のとおりである。2-1a パイロット坑31を構成するスチールセグメント6の外面にアーチセグメント11を接続するためのセグメント支持部6aが形成された2-1b なし2-1c スチールセグメント6乙27公報【図2】

⑵ 対比

ア 本件発明1と乙27発明とを対比すると、本件発明1と乙27発明は、以下の点において相違し、その余は一致する。(相違点2ab)本件発明1は、構成要件1A、1Bの構成について、拡幅セグメント接合用凹部を仮に補填する構成が開示されているのに対し、乙27発明においてはそのような構成の開示がない点イ これに対し、原告は、相違点2abについて、本件発明1では拡幅セグメント接合用凹部は覆工として残るセグメントに含まれているのに対し、乙27発明における「パイロット杭31」は仮設の構築物であり最終的な完成形のトンネルの一部を構成しないから、乙27発明においては「接合用凹部を仮に補填する構成を有しない」と認定するべきである旨主張する。しかしながら、本件発明1は、「拡幅セグメント接合用凹部は覆工として

5 残るセグメントに含まれている」という構成を発明特定事項とするもので

はなく、原告の上記主張は、特許請求の範囲や本件明細書の記載に基づくものではない。この点を措くとしても、乙27発明の「パイロット坑31」は、最終的な完成形のトンネルの一部を構成している(乙27公報【0023】、【図2】参照)から、「パイロット坑31」が仮設の構築物であり最終的な完成形のトンネルの一部を構成しないことを前提とする原告の上記主張は、誤りである。なお、本件発明1は、拡幅されたシールドトンネルの内部に道路、内壁等を構成する構造躯体を設置することを当然に予定しているから、乙27発明において内部に構造躯体が存在することは、トンネル覆工(シールドトンネルセグメント)がトンネルを構成することを否定する事情とはならない。

⑶ 相違点の容易想到性

一般に、シールド(トンネル)工法において、セグメントの外面に凹部が存在する場合には、セグメントの外面を平滑にするために当該凹部を(仮に)補填することは、技術常識である。乙27発明においても、「セグメント支持部6a」を露出させた状態で「先進シールド機5」を掘進させると、「セグメント支持部6a」内への土砂の流入に伴う地盤変状のリスクや、「セグメント支持部6a」を通じて裏込材が「先進シールド機5」内に流入するリスクが高くなるため、シールドトンネル工事に携わる当業者であれば、「セグメント支持部6a」を仮に補填することは、技術常識に基づいて容易に想到する。

5 この場合、「セグメント支持部6a」を仮に補填する部材としては、技術

常識を踏まえると、ジャッキ推力や土水圧に耐え得るセグメントが想定されるところ、本件特許出願日以前より、スキンプレート、主桁、継手板、縦リブ等で構成されるセグメントや枠体(ケース)にコンクリート等の固化材を充填したセグメントは、周知技術である。また、凹部を仮に補填する部材をセグメントと同じ構造とすることも、周知技術である。したがって、当業者であれば、乙27発明に周知技術を適用し、本件発明1に想到することは容易である。これに対し、原告は、乙27発明における「先進シールド機5」は回転式のカッタを有しない内部が密閉されていない開放型のシールド機であるとして、円環状の「スチールセグメント6」の一部に凹部が形成されていても差し支えないと主張する。しかしながら、開放型のシールド機を用いたシールド工法の場合においても、密閉型のシールド機と同様に、シールド機の後方に発生する「テール部隙間」への裏込材の注入が必要となる点は変わらないから、セグメントの凹部を仮に補填しておく必要があるのであって、原告の主張は当たらない。

(原告の主張)

⑴ 主引例

乙27発明の構成は特に争わない。

⑵ 相違点

相違点については特に争わない。なお、正確には、乙27発明においては「そのような構成(仮に補填する構成)がない。」とすべきである。すなわち、本件発明1においては、拡幅セグメント接合用凹部は、完成されたトンネルの壁面(覆工)として残るセグメントに含まれる。これに対し、乙27発明においては、「スチールセグ

5 メント6a」は、仮設のものであって埋め殺されることを前提としているか

ら、セグメント支持部6aを仮に補填しておく必要がない。したがって、乙27発明においては、仮補填部材が存在せず、「接合用凹部を仮に補填する」構成がない。

⑶ 容易想到ではないこと

否認ないし争う。被告は、周知・慣用技術の立証として複数の書証を提出するが、いずれも本件発明1における「仮補填ケース中に充填材を充填することにより拡幅セグメント接合用凹部を仮に補填できるようにした」という構成が周知技術であったことを示す立証としては、不十分である。したがって、乙27発明のセグメント支持部6aに仮補填部材に相当する部材を設ける動機付けが存在するとはいえない。なお、シールドジャッキを配置するためにセグメントの外周面を円周面にしなければならないという技術常識は存在しないし、通常のセグメントの外周面は平滑な円筒面であるという点が技術常識であるとしても、何らかの理由でセグメントの外面に凹部を形成せざるを得ない場合にも、外周面を平滑な円筒面にするために当該凹部を(仮に)補填するという技術常識は存在しない。そのため、

(被告の主張)

する技術常識は、一般的、抽象的には誤りではないとしても、乙27発明から本件発明1を容易に発明することができたとする根拠にはなり得ない。したがって、本件発明1は、乙27発明に基づいて当業者が容易に想到できたものではない。

10 争点3-3(乙12発明を主引例とする本件発明1の新規性の有無)につ

いて

(被告の主張)

以下に述べるとおり、本件発明1は、乙12発明と同一の発明であるから、

5 特許法29条1項3号により無効とされるべきものである。

⑴ 乙12発明について

乙12公報の記載を踏まえ、本件発明1の構成要件に照らして、乙12発明の構成を整理したものは、以下のとおりである。3-1a シールド孔1の地山を覆工する鋼殻セグメント4の外面に、セグメントカバー11を着脱自在に取り付けた拡幅用の推進管3接合用の開口部10が形成され、3-1b セグメントカバー11は、複数の主桁11a、11aと複数の縦リブ11b、11bとスキンプレート11cとから形成され、前記開口部10を仮に補填できるようにしたことを特徴とする3-1c 鋼殻セグメント4乙12公報【図1】 乙12公報【図4】

⑵ 対比

ア 乙12発明において、「鋼殻セグメント4」は、その外面に凹部である「開口部10」が形成されているところ、「推進管3」は並設されたシールドトンネル間を拡幅する際の覆工となるから、本件発明1の「拡幅セグ

5 メント」に相当し、「開口部10」は、本件発明1の「拡幅セグメント接

合用凹部」に相当する。そして、「セグメントカバー11」は、代表的な鋼製セグメントの構成を有する部材であり、原告のクレーム解釈を前提とすれば、「セグメントカバー11」のうち、主桁11a、11aとトンネル円周方向両端の縦リブ11b、11bで構成される枠状部分(下図の赤色部分)が本件発明1の「仮補填ケース」に相当し、トンネル円周方向の両端以外に配置された3本の「縦リブ11b」と「スキンプレート11c」(下図の黄色部分)が本件発明1の「充填材」に相当する(下図参照)。したがって、「セグメントカバー11」は、本件発明1の「仮補填ケース中に充填材を充填することにより、拡幅セグメント接合用凹部を仮に補填できるようにした」ものに相当する。以上によれば、本件発明1と乙27発明は同一の発明である。イ これに対し、原告は、後記の相違点3a’-1(本件発明1が「拡幅セグメント接合用凹部」を備えているのに対し、乙12発明はパイプルーフ工法であり「拡幅セグメント接合用凹部」を備えていない点)、相違点3a’-2(本件発明1の仮補填ケースがセグメント本体の外面に着脱自在に取

5 り付けられているのに対し、乙12発明のセグメントカバー11の外側(地

山側)には固化材からなる外殻12が形成されている点)及び相違点3b’(本件発明1が充填材を充填した仮補填ケースを撤去することにより拡幅セグメント接合用凹部が形成されるものであるのに対し、乙12発明のセグメントカバー11は推進管施工後に再び取り付けてコンクリートの中詰め及びセグメントカバー11に突設されたブラケット21と接続金具6とを連結ピン7で接合することにより推進管3をセグメントカバー11に接合する点)が存在する旨主張する。しかしながら、①乙12発明の「推進管3」は、その内部に「中詰めコンクリート5」を充填するものであり、シールドトンネルを拡幅するものであるから、本件発明1における「拡幅セグメント」(合成セグメント)に相当する。したがって、相違点3a’-1は存在しない。また、②本件発明1の構成要件1Aにおける「セグメント本体の外面に」との文言は「拡幅セグメント接合用凹部」を修飾するものであるところ、乙12発明における「開口部10」は「鋼殻セグメント4」の外面に形成されているから、相違点3a’-2は存在しない。さらに、③本件発明1は、仮補填ケースを撤去することにより拡幅セグメント接合用凹部が形成される構成や仮に補填した後の構成を発明特定事項とするものではなく、相違点3b’の主張は、本件発明1の発明特定事項を誤るものであり、失当である。したがって、相違点3b’は存在しない。

(原告の主張)

⑴ 乙12発明について

被告による乙12発明の認定は、否認ないし争う。乙12公報に記載されているのは、推進管を用いたパイプルーフ工法であり(乙12【0002】等)、本件発明のトンネル拡幅工法と全く異なるものである。また、乙12発明における推進管は、推進工法において地中に管

5 や管状の構造物を埋没するために用いられる管であるから、セグメントに相

当するものではない。被告が主張するように、乙12発明の一部の工程を切り出して、本件発明1の構成要件に即して整理したものは、次のとおりである。3-1a シールド孔1の地山を覆工する鋼殻セグメント4に、固化材からなる外殻12で覆われた内部にセグメントカバー11が着脱自在に取り付けられた開口部10が形成され、3-1b セグメントカバー11は、複数の主桁11a、11aと複数の縦リブ11b、11bとスキンプレート11cとから形成された、3-1c 鋼殻セグメント4

⑵ 対比

ア 本件発明1と乙12発明とを対比すると、以下の点で相違するから、本件発明1と乙12発明は同一の発明とはいえない。(相違点3a’-1)本件発明1が「拡幅セグメント接合用凹部」を備えているのに対し、乙12発明はパイプルーフ工法であり「拡幅セグメント接合用凹部」を備えていない点(相違点3a’-2)本件発明1の仮補填ケースがセグメント本体の外面に着脱自在に取り付けられているのに対し、乙12発明のセグメントカバー11の外側(地山側)には固化材からなる外殻12が形成されている点(相違点3b’)本件発明1が充填材を充填した仮補填ケースを撤去することにより拡幅セグメント接合用凹部が形成されるものであるのに対し、乙12発明のセグメントカバー11は、推進管施工後に再び取り付けてコンクリートの中詰め及びセグメントカバー11に突設されたブラケット21と接続金具6

5 とを連結ピン7で接合することにより、推進管3をセグメントカバー11

に接合する点イ これに対し、被告は、乙12発明は本件発明1の構成要件1Bを備えると主張する。しかしながら、本件発明1の「拡幅セグメント接合用凹部」が、同部に拡幅セグメントを嵌合して接合することによって構造力学上の機能を奏するための構造であることは明らかである。これに対し、乙12発明では、いったん取り外した「セグメントカバー11」を推進管施工後に再び取り付けて、「セグメントカバー11」に突設された「ブラケット21」と「接続金具6」を「連結ピン7」で接合することにより、「推進管3」を「セグメントカバー11」に接合するものであるから、本件発明1の構成要件1Bに相当する構成を備えるものではない。

11 争点3-4(乙12発明を主引例とする本件発明1の進歩性の有無)につ

いて

(被告の主張)

前記10のとおり、乙12発明のセグメントの「開口部10」は、鋼製セグメント(「セグメントカバー11」)で仮補填されるものであるが、仮に、「開口部10」が、鋼製セグメント(「セグメントカバー11」)及び固化材(コンクリート等)からなる外殻によって仮補填されると解したとしても、本件発明1は、乙12発明に基づいて本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項により無効とされるべきものである。

⑴ 主引例について

乙12発明におけるセグメントの「開口部10」が、「セグメントカバー11」と「鋼殻セグメント4」とにより構成された空間に固化材を充填して「外殻12」を形成することによって仮補填されると解すると、乙12文献に記載されたシールド(トンネル)工法は、本件発明1の構成要件に照らし

5 て、以下のとおり整理される(構成要件に付した番号については前記10⑴

の各図参照)。4-1a シールド孔1の地山を覆工する鋼殻セグメント4の外面に、セグメントカバー11を着脱自在に取り付けた拡幅用の推進管3接合用の開口部10が形成され、4-1b セグメントカバー11と鋼殻セグメント4の主桁4a、4aと縦リブ4b、4bとにより構成された空間にコンクリート等の固化材を充填することにより外殻12を形成し、前記開口部10を仮に補填できるようにしたことを特徴とする4-1c 鋼殻セグメント4

⑵ 相違点

本件発明1と乙12発明とを対比すると、以下の点で相違し、その余は一致する。(相違点4b)本件発明1では、充填材は、仮補填ケース中に充填されるのに対し、乙12発明においては、固化材は、セグメントカバー11と鋼殻セグメント4の主桁4a、4aと縦リブ4b、4bとにより構成された空間に充填される点(下図参照)。※4が鋼殻セグメント(青色部分)、10が開口部、11がセグメントカバー(赤色部分)、12が固化材により形成される外殻(黄色部分)である。

⑶ 相違点の容易想到性

上記相違点に係る構成(仮補填ケースに充填材を充填する構成)は、設計事項にすぎない。すなわち、乙12発明においては、固化材は、「セグメントカバー11」と「鋼殻セグメント4」の主桁4a、4aと縦リブ4b、4bとにより構成された空間に充填されるところ、これは、①「鋼殻セグメント4」に「セグメントカバー11」をはめ込んだ後に、②流状体である固化材を充填して「外殻12」を形成する、という順序で製作する場合の構成である。そうではなく、①「セグメントカバー11」と固化材からなる「外殻12」を一体に形成した後に、②「セグメントカバー11」(と外殻12)を「鋼殻セグメント4」にはめ込み接合する、という順序で製作することも当然あり得る。②の場合に、固化材を充填して外殻12を形成するための型枠が必要になることは当業者にとって自明であり、「 セグメントカバー11」に枠体を設けること(「セグメントカバー11」を底部材と枠体の2ピース構造とすること)は、当業者の通常の創作能力の発揮の範囲内で適宜選択されるものである。このように、「セグメントカバー11」に枠体を設けてケースを形成し、当該ケースに固化材を充填して「外殻12」を形成することにより、仮補填ケースに充填材を充填した部材を製作することは、設計事項にすぎないから、上記相違点に係る構成は容易想到である。なお、仮に、乙12発明における「推進管3」がセグメントではないと解し、相違点であると整理したとしても、本件発明1の発明特定事項である「拡

5 幅セグメント接合用凹部」との関係で、パイプを用いるか複数のセグメント

を接合したものを用いるかに技術的相違は存在しないから、上記相違点に係る本件発明1の構成(拡幅セグメント接合用凹部)は容易想到である。

(原告の主張)

⑴ 主引例及び相違点

前記10のとおり

⑵ 容易想到ではないこと

ア 相違点3a’-1及び相違点3a’-2について乙12発明は、推進機を用いて地山を掘削し推進管を施工するパイプルーフ工法であり、セグメントの外側に固化材からなる「外殻12」を備えることで開口部における土砂や水の流入を防止するとともに、推進管施工時は「エントランスパイプ14」によって土砂や水の流入を防止することで、当該開口部から推進管を施工することを可能にするものである。そして、開口部は「シールド孔1」の内部から推進管を施工するために必要とされるものであ 乙12公報【図5】るから、セグメントの内側(シールド孔側)に向かって開口しており、シールドの外側は「外殻12」で覆われている。他方で、本件発明1は、セグメントを用いて拡幅するものであり、拡幅セグメントの端部を既設トンネルセグメントの外面(地山側)に接合させ

5 る必要があるから(甲2 【図1】、【図4】参照)、拡幅セグメントを接

合する凹部をトンネルセグメントの外側(地山側)に向かって開口して設ける必要がある。したがって、構成要件1Aに関する相違点は、これら工法の違いによって生じる根本的な相違であり、乙12発明に基づいて本件発明1を想到することはできない。イ 相違点3b’について本件発明1は、拡幅セグメント接合用凹部に拡幅セグメントの端部を接合し、シールドトンネルセグメントによって拡幅セグメントを支持するものである。これに対して、乙12発明は、推進管施工後、一時的に取り外していた「セグメントカバー11」を再び取り付け、コンクリートの中詰めを行い、「セグメントカバー11」の「ブラケット21」を用いて「推進管3」と接合する。これらの接合方法の相違は、工法の違いから生ずる根本的な相違であり、乙12発明に基づいて本件発明1を想到することはできない。

12 争点3-5(本件発明5の明確性要件違反の有無)について

(被告の主張)

原告のクレーム解釈を前提とすれば、本件特許の特許請求の範囲の請求項5の文言は、読み替えなしには理解できない不自然な部分がある。したがって、本件発明5は、「請求項の記載自体が不明確である結果、発明が不明確となる場合」に該当する。以上によれば、本件発明5は、特許法36条6項2号に規定される記載要件を充足しないため、同法123条1項4号に該当し、無効とされるべきものである。

(原告の主張)

前記3のとおり、本件発明5に係る特許請求の範囲の記載は、客観的・外形

5 的に見て明確な誤記であることが明らかであり、これが訂正されたものとして

解釈されるべきである。そうすると、上記特許請求の範囲の記載は明確であるから、明確性要件違反には当たらない。

13 争点4(損害の発生の有無及びその額)について

(原告の主張)

ランプ部JVは、本件対象製品を使用したことにより本件発明1を実施し、本件対象方法を使用したことにより本件発明5を実施した。 そして、被告は、ランプ部JVの代表者かつ構成員である。したがって、被告は、本件特許権の侵害によって原告に生じた損害について、他のランプ部JVの構成員とともに連帯して賠償責任を負う。そして、ランプ部工事のうち、本件拡幅工事の総延長は約105mであり、1m当たりの工事価格は2億8600万円を下らない。そうすると、本件拡幅工事の工事価格は少なくとも300億円である。通常、高速道路の工事の利益率は、20%から30%程度であるから、本件拡幅工事の利益率を25%とすると、ランプ部JVは、本件拡幅工事によって74億5000万円の利益を得ている。そして、原告が、本件特許の実施に対し受けるべき金額は、工事価格の8%を下回ることはない。したがって、原告が、特許法102条3項により受けるべき実施料相当額の損害金の額は、24億円(300億円×8%)である。なお、上記の金額は、本件対象製品を使用しなければ本件対象方法を実施することができないことに鑑み、本件発明について一括して算出したものである。

(被告の主張)

否認ないし争う。なお、被告は、令和9年6月以降、本件対象方法の施工を予定しており、現時点において本件対象方法を実施していない。本件特許は、同年1月9日をもって存続期間が満了するから、本件発明5の実施に基づく侵害責任は生じ得な

5 い。

第4 当裁判所の判断

1 本件発明の内容証拠(甲2)によれば、本件明細書には、次のとおりの記載があることが認められる。なお、【0014】の「接合凹部」との記載は「接合用凹部」の、【0035】の「セングメント」は「セグメント」の、【0042】の「トルネル」は「トンネル」の、それぞれ誤記と解される。また、文中に引用されている【図4】、【図11】、【図12】は省略する。

⑴ 背景技術【0002】従来の拡幅方法としては次のような工法があった。(1) 切り拡げ部分のセグメントを取り外し、新たなセグメントを組み立てる方法この方法では、セグメントを取り外す際に、トンネル全体の安定性が損なわれ、変形してしまう。それを防止するための補強工が大規模となる。

(2) 連結セグメントを溶接等でシールドトンネルセグメントに固定する方法この方法では、溶接作業のスペース確保のため、シールドトンネルセグメントの周囲を大きく切り拡げる必要がある。

(3) 鉄筋コンクリートにより切り拡げ部に躯体を構築する方法この方法では、コンクリート部材の寸法が大きくなり、切り拡げ掘削の範囲が広がり、コスト、工期がかかる。【0003】これらの問題点を解決するための技術として、特許文献1(特開2006-183352号公報)に記載の方法があり、この方法では次のようにして拡幅する。

5 シールド機の部分拡幅用カッタにより上下の部分拡幅部を掘削し、シールド機が進行するに伴いシールドテールから上下の鋼製セグメントが放出された時点で、シールド機内の上部用連結セグメント押込装置及び下部用連結セグメント押込装置の油圧ジャッキの伸張動作によって、上下の鋼製セグメント内から連結セグメントを掘削部分拡幅部に押し込む。このようにして覆工の完了した当該拡幅区間において、覆工トンネル内部より、本線トンネルとランプトンネルの間において、上下の地山に対して薬液注入工を施す。次に、上下の薬液注入工において、本線トンネル及びランプトンネルの連結セグメントの間に長尺鋼管フォアパイリングによるアーチ状の支保工を施工する。そして、本線トンネル及びランプトンネルの間において、上下の支保工間の地山を掘削する。次に、本線トンネル及びランプトンネルの連結セグメントにわたって鋼殻を設置するとともに、その鋼殻内へのコンクリート打設工を施工する。その後、本線トンネル及びランプトンネルのセグメントリングの互いに隣接するセグメントを撤去して、本線トンネルとランプトンネルを横方向に連続させる。【0004】しかし、この方法では、特殊なシールド機を使って連結セグメントをシールドトンネル内から地盤に押し出すため、特殊な機械が必要でありコストが高い。また、連結セグメントを押し出すため、シールドトンネルの止水性の確保が問題となる。⑵ 発明が解決しようとする課題【0005】本発明の課題は、特殊なシールド機を使って拡幅のためのセグメントを地

5 盤に押し出すようなことがなく、しかも、切り拡げ部のセグメントを取り外す前に、拡幅のための新しいトンネル覆工を設置することにより、トンネルの変形を抑制しつつ、拡大したトンネルを容易に完成することができるようにすることにある。⑶ 課題を解決するための手段【0006】請求項1の本発明は、シールドトンネルを構成するセグメント本体の外面に仮補填ケースを着脱自在に取り付けた拡幅セグメント接合用凹部が形成され、前記仮補填ケース中に充填材を充填することにより拡幅セグメント接合用凹部を仮に補填できるようにしたものである。【0014】請求項5の本発明は、シールドトンネルのセグメント組み立て後、そのセグメントの外面に仮補填ケース中に充填材を充填した仮補填部材を着脱自在に取り付けた拡幅セグメント接合凹部を形成し、前記仮補填部材を撤去して前記接合用凹部に拡幅セグメントの端部を嵌合させてこれらセグメントを接合することにより、拡幅セグメントによる拡幅覆工をシールドトンネルからその外側へ延設し、該拡幅覆工までシールドトンネルを切り拡げることを特徴とする。

⑷ 発明の効果【0027】請求項1の発明のシールドトンネルセグメントによれば、シールドトンネルからの拡幅覆工の施工が容易で、従来に比べ工費及び工期を低減できる。また、拡幅覆工のセグメントと安定して接合できるので、拡幅覆工とシールドトンネル覆工とが強固に一体化した安定した拡幅構造となる。また、拡幅覆工施工前に拡幅セグメント接合用凹部を補填しておくに当たり、その補填を容易に行える。…(以下省略)

5 【0028】…請求項5の発明の拡幅方法によれば、前記請求項1の効果の他に、拡幅覆工の施工が容易で、従来に比べ工費及び工期を低減できる。また、拡幅覆工のセグメントとシールドトンネル覆工のセグメントとを安定して接合できるので、拡幅覆工とシールドトンネル覆工とが強固に一体化した安定した拡幅構造を構築できる。

⑸ 発明を実施するための最良の形態【実施例1】【0035】実施例1は、並行する2つのシールドトンネル間を拡幅する場合である。図1は、2つの単円のシールドトンネル1・2が並行し、そのぞれぞれのセングメントの組み立ては完了していて、これからシールドトンネル1・2間を拡幅しようとしている状態である。【図1】【0036】各シールドトンネル1・2の上部及び下部のそれぞれには、通常のセグメントに代えて、外面に拡幅セグメント接合用凹部3(以下、凹部3と略記する)を有するセグメント1a・1b及び2a・2bが使用され、それぞれの

5 凹部3は仮補填部材4で補填され、これらセグメント1a・1b及び2a・2bの外面も他のセグメントの外面と連続する円周面となっている。…(以下省略)【0038】図2は、拡幅のために、両シールドトンネル1・2間の上部と下部を掘削し、上部掘削空間5及び下部掘削空間6を形成した状態で、仮補填部材4は撤去されて、上部のセグメント1a・2aの凹部3は上部掘削空間5内に開口し、下部のセグメント1b・2bの凹部3は下部掘削空間6内に開口している。…(以下省略)。【図2】【0039】図3は、上部掘削空【図3】間5内において、上部拡幅覆工を両方のシー

5 ルドトンネル1・2から施工していく施工例を示す。各シールドトンネル1・2の上部のセグメント1a・2aのそれぞれにつき、その凹部3に拡幅覆工用の拡幅セグメント8の端部を嵌合させて、各セグメント1a・2aにこの拡幅セグメント8を例えばボルトを用いて接合した後、他の拡幅セグメント9を順次継ぎ足し接合する。【0040】そして、最後に、図4に示すように中間の隣接する2つの拡幅セグメント9間にクサビ10を差し込んで拡幅セグメント全体を閉合することで、アーチ形の上部拡幅覆工を完成する。【0041】図2における下部掘削空間6内でも、下部のセグメント1b・2bに対して同様に拡幅セグメント8を接合した後、他の拡幅セグメント9を順次継ぎ足し接合することにより、下部拡幅覆工を完成する。【0042】この よう に して 上 部 拡 【図5】幅 覆工及び下部拡幅 覆工を 施工した後、各シ ール

5 ド トンネル1・2の それぞ れにつき、凹部3 を有す る上下のセグメン ト1a ・1bの間のセグ メント 1c、及び同じく 凹部

3 を有する上下のセ グメント2a・2bの間のセグメント2cを撤去するとともに、これらの間に残っていた土砂7を排除すると、図5に示すように、両シールドトンネル1・2が上部拡幅覆工11及び下部拡幅覆工12により覆工断面を拡大された、ほぼ楕円形の大断面トルネル覆工が完成する。【0044】次に、凹部3を有するセグメント1a・1b及び2a・2bの具体例について、そのなかの一つのセグメント2aを代表として説明する。【0045】図7に示すように、セグメント【図7】2aは、全体鋼製の鋼製セグメント、又は鋼製のセグメント本体の中空部にコンクリート詰めしたいわゆる合成セグメントで、その凹部3は、その鋼製部分を断面三角形に欠如したようにしてセグメント2aの外面に形成されている。凹部3の底面は、その両側部分3aを残して底抜けとなり、セグメント2aの内面側の開口部13へ通じている。【0046】この凹部3を補填しておくため、上面が開口した金属製(例えば鋼製)の

5 仮補填ケース14が用意されている。この仮補填ケース14は凹部3に合致する箱状で、図8に示すように凹部3に着脱自在に嵌合させることができ、これに設けられたボルト孔15を凹部3側のボルト孔16に合わせてボルト(図示せず)で止めるようになっている。この後、図9に示すように、仮補填ケース14内にコンクリート等の充填材17を充填する。その充填したものが仮補填部材4となって凹部3を仮に補填することになる。【図8】 【図9】【0047】図2に示したように拡幅覆工を【図10】施工する準備ができたら、図10に示す よ うに 仮 補 填部 材4 を 撤去 して凹部3を開放し、図11及び図12に 示 すよ う に 拡幅 セグ メ ント 8の端部8aを凹部3に嵌合させ、その嵌 合 部分 を ボ ルト で緊 締 して 拡幅セ グ メン ト 8 をセ グメ ン ト2 aに接合する。その際、セグメント2aの内面側の開口部13はボルト接合のための作業口となる。拡幅セグメント8の端部8aは、凹部3に合致させるため拡幅セグメント8の内面側を部分的に厚くしてある。

2 争点1-2(「仮補填ケース中に充填材を充填する」〔構成要件1B〕の充

5 足性)について⑴ 事案の性質に鑑み、争点1-2から先に判断する。⑵ 本件対象製品の構成前記前提事実に加え、証拠(乙37、38)及び弁論の全趣旨によれば、本件対象製品の客観的な形状は、別紙対象製品目録記載のとおりであるものと認められる。当該形状によれば、本件発明1に対応する形で特定した本件対象製品の構成は、以下のとおりと認めるのが相当である。1a シールドトンネルを構成するD型セグメントの外面に保護ピースを着脱自在に取り付けた切り欠き部が形成され、1b 前記保護ピースを取り付けることにより切り欠き部を仮に補填できるようにしたことを特徴とする1c 被接合セグメント⑶ 「仮補填ケース中に充填材を充填する」(構成要件1B)の意義本件発明1の特許請求の範囲の記載によれば、構成要件1Bは、「仮補填ケース」という文言を使用し、「仮補填ケース」の中に「充填材を充填する」旨を規定している。そして、証拠(甲10、乙19、21)及び弁論の全趣旨によれば、「充填」という用語は、一般に「物を詰めて欠けた所や空所を満たすこと」を意味するものといえ、「材」とは、「原料となるもの」を意味するものと認められる。また、構成要件1Aは、「仮補填ケース」を「着脱自在に取り付けた」と規定し、本件明細書には、「…上面が開口した金属製(例えば鋼製)の仮補填ケース14が用意されている。…仮補填ケース14内にコンクリート等の充填材17を充填する。」(【0046】)と記載されている。上記構成要件及び本件明細書の各記載によれば、「仮補填ケース」とは「充填材」を「充填する」対象となる容器を、「充填材」とは隙間や空所を詰める原料を、それぞれ意味するものと解され、「仮補填ケース」と「充填材」

5 とは、物理的に互いに別個独立した部材であると解するのが相当である。⑷ 本件対象製品の充足性これを本件対象製品についてみると、証拠(乙37、38)及び弁論の全趣旨によれば、本件対象製品の保護ピースは、フランジ、推力伝達フランジ、側面プレート、端面プレート、縦リブ及びスキンプレートを溶接して一体化した単一の部材であることが認められる。そうすると、上記保護ピースにおいて、これらの部材が、物理的に互いに別個独立した部材であると認めることはできず、上記保護ピースは、「仮補填ケース」と「充填材」に相当する構成を有するものとはいえないと認めるのが相当である。したがって、本件対象製品においては、「仮補填ケース」と「充填材」を有するものと認めることはできず、構成要件1Bを充足しないものといえる。⑸ 原告の主張についてこれに対し、原告は、本件発明1は、「仮補填ケース」に「充填材を充填」することで、トンネルの支保やシールドマシンのジャッキへの反力の提供といった構造力学上の機能と施工上の機能を奏するものであるところ、本件対象製品の保護ピースは、鋼板で構成される底部、端部、側部及びスキンプレート並びに両側部の内部を連結する2枚の縦リブからなり、このような構造によりトンネルの支保やシールドマシンのジャッキへの反力の提供といった構造力学上の機能と施工上の機能を奏するものであるから、本件対象製品の保護ピースのうち、底面、端面及び両側面で形成される部分は「仮補填ケース」(構成要件1B)に該当し、スキンプレートと縦リブは「充填材」(構成要件1B)に該当する旨主張する。しかしながら、原告がいうトンネルの支保やシールドマシンのジャッキ反力を支えるといった構造力学上及び施工上の機能については、本件特許請求の範囲の記載及び本件明細書に記載も示唆もないものであり、そのような記

5 載も示唆もない構造力学上及び施工上の機能を奏することを前提として、「仮補填ケース中に充填材を充填する」という構成を解釈するのは相当ではない。そして、本件発明1の構成要件及び本件明細書の各記載によれば、「仮補填ケース」と「充填材」とは、物理的に互いに別個独立した部材であると解するのが相当であることは、前記において説示したとおりであり、本件対象製品における保護ピースは、溶接により一体化された単一の部材であるから、その一部であるスキンプレートと縦リブのみを切り出して物理的に互いに別個独立した部材であるということはできない。したがって、原告の主張は、採用することができない。

3 争点1-1(「仮補填ケースを着脱自在に取り付けた」〔構成要件1A〕の充足性)について前記2のとおり、本件対象製品は本件発明1を充足するものではないが、本件訴訟の経過に鑑み、念のため争点1-1についても判断する。原告は、本件対象製品における保護ピースが「仮補填ケース」(構成要件1A)に相当する旨主張する。しかしながら、前記2のとおり、本件対象製品における保護ピースは、フランジ、推力伝達フランジ、側面プレート、端面プレート、縦リブ及びスキンプレートを溶接して一体化された単一の部材であって、充填材を充填する対象となる容器である「仮補填ケース」に相当する構成を備えるものとはいえない。したがって、本件対象製品が、構成要件1Aを充足するものと認めることはできない。

4 争点1-3(「シールドトンネルのセグメント組み立て後」〔構成要件5A〕、「そのセグメントの外面に…拡幅セグメント接合凹部を形成し」〔構成要件5B〕の充足性)について⑴ 請求項5の解釈について原告は、本件明細書(【0035】参照)には、実施例として、「セグメント組み立て後」に、仮補填部材4を撤去し、拡幅セグメントの接合を行う

5 拡幅方法のみが記載されていることからすれば、本件発明5の特許請求の範囲の記載が誤記であることは明らかであり、本件明細書の記載を参酌して、誤記を訂正するように解釈すべき旨主張する。しかしながら、特許法70条によれば、特許発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならず、本件明細書の記載は、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈する限度で考慮されるにすぎないものと解される。これを本件特許の請求項5についてみると、請求項5の特許請求の範囲には、「シールドトンネルのセグメント組み立て後」(構成要件5A)に「拡幅セグメント接合凹部を形成」(構成要件5B)する旨が記載されていることからすると、構成要件5B以下の手順は、その文言どおり、「シールドトンネルのセグメント組み立て後」であるという時間的順序を規定していることは明らかである。そうすると、上記時間的順序を変更する原告の解釈は、特許法70条を正解することなく、特許請求の範囲の記載を超えて解釈するものである。したがって、原告の主張は、採用することができない。以上によれば、請求項5の構成要件は、上記時間的順序に関する規定に基づき、解釈するのが相当である。⑵ 本件対象方法の構成ア 前記前提事実に加え、証拠(乙37)及び弁論の全趣旨によれば、本件拡幅工事の施工手順並びにD型セグメント及び保護ピースの納品からシールドトンネルのセグメント組立てまでの施工手順は、別紙対象方法説明書記載のとおりであるものと認められる。上記施工手順によれば、本件発明5に対応する形で特定した本件対象方法の構成は、以下のとおりと認めるのが相当である。5a シールドトンネルのセグメント組み立て前から、5b D型セグメントの外面に保護ピースを着脱自在に取り付けた切り欠

5 き部が形成されており、5c シールドトンネルのセグメント組み立て後に、前記保護ピースを撤去して前記切り欠き部に拡幅セグメントの端部を嵌合させてこれらセグメントを接合することにより、5d 拡幅セグメントによる拡幅覆工をシールドトンネルからその外側へ延設し、5e 該拡幅覆工までシールドトンネルを切り拡げることを特徴とする5f シールドトンネルの拡幅方法。イ これに対し、原告は、本件特許の請求項5について、前記第3の3(原告の主張)⑴のとおり解釈されるべきことを前提として、本件対象方法を特定しているものの、誤記をいう原告の主張を採用することができないことは、前記において説示したとおりであり、原告の主張は、その前提を欠く。したがって、原告の主張は、採用することができない。⑶ 本件対象方法の構成要件5A、5Bの充足性について本件発明5の特許請求の範囲の記載によれば、構成要件5A及び5Bは、「シールドトンネルのセグメント組み立て後」に、「 拡幅セグメント接合(用)凹部を形成」することを規定していることは、前記において説示したとおりである。これを本件対象方法についてみると、前記⑵アのとおり、本件対象方法においては、シールドトンネルのセグメントを組み立てる前から、「D型セグメントの切り欠き部」が既に形成されていることが認められる。そうすると、「シールドトンネルのセグメント組み立て後」に、「 拡幅セグメント接合(用)凹部」に相当する「D型セグメントの切り欠き部」が形成されるものではなく、本件対象方法は、この点において上記各構成要件に規定する時間的順序と異なるものといえる。したがって、本件対象方法は、構成要件5A及び5Bをいずれも充足する

5 ものとはいえない。

5 争点2-1(本件発明1についての均等侵害の成否)について⑴ 原告は、本件対象製品の保護ピースが、「仮補填ケース中に充填材を充填」(構成要件1B)という文言を充足しないとしても、保護ピースの底部、端部及び両側部で形成される部分は、縦リブで両側部の間を詰めスキンプレートで外面をふさいで円周面とする構成として、「仮補填ケース中に充填材を充填」する構成と均等なものであり、均等侵害に当たる旨主張する。そこで、本件対象製品の均等侵害の成否について検討する。⑵ 均等侵害の成立要件特許請求の範囲に記載された構成中に相手方が製造等をする製品又は用いる方法(以下「対象製品等」という。)と異なる部分が存する場合であっても、⑴同部分が特許発明の本質的部分ではなく、⑵同部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、⑶上記のように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、⑷対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから同出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、⑸対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、同対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である(最高裁平成6年(オ)第1083号同10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁参照。以下、上記⑴ないし⑸の要件を、順次「第1要件」ないし「第5要件」という。)。⑶ 第1要件についてア 本質的部分の認定

5 特許発明における本質的部分とは、当該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解すべきであり、上記本質的部分は、特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて、特許発明の課題及び解決手段とその効果を把握した上で、特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定することによって認定されるべきである。すなわち、特許発明の実質的価値は、その技術分野における従来技術と比較した貢献の程度に応じて定められることからすれば、特許発明の本質的部分は、特許請求の範囲及び明細書の記載、特に明細書記載の従来技術との比較から認定されるべきである。ただし、明細書に従来技術が解決できなかった課題として記載されているところが、出願時の従来技術に照らして客観的に見て不十分な場合には、明細書に記載されていない従来技術も参酌して、当該特許発明の従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が認定されるべきである(知財高裁平成27年(ネ)第10014号同28年3月25日特別部判決参照)。イ 従来技術前記前提事実⑻及び前記1の本件明細書の記載に加え、証拠(甲2ないし6、13、乙15)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件明細書において、特開2006-183352号公報(甲13)に記載された技術を従来技術(特許文献1)として、発明の課題を、「特殊なシールド機を使って拡幅のためのセグメントを地盤に押し出すようなことがなく、しかも、切り拡げ部のセグメントを取り外す前に、拡幅のための新しいトンネル覆工を設置することにより、トンネルの変形を抑制しつつ、拡大したトンネルを容易に完成することができるようにすることにある。」(【0005】)と記載して本件特許の出願をしたこと、特許庁審査官は、原告に

5 対し、上記出願について、一部の請求項を除き、本件拒絶引用文献(甲5)に基づいて新規性及び進歩性を欠く旨の拒絶理由の通知をしたこと、これを受けて原告は、新たな請求項1及び5に「仮補填ケース中に充填材を充填した仮補填部材を着脱自在にして拡幅セグメント接合用凹部に取り付けたもの」を必要構成として取り入れた手続補正を行ったこと、特許庁審査官は、補正後の出願について特許査定をしたこと、以上の事実が認められる。上記の出願経過に鑑みれば、本件明細書に記載された従来技術(特許文献1)は、出願時の従来技術に照らして客観的に見て不十分であったといえるから、本件発明1の本質的部分(従来技術に見られない特有の技術思想を構成する特徴的部分)を認定するに当たっては、出願時の拒絶理由の根拠として引用された本件拒絶引用文献(甲5)が開示する従来技術も参酌するのが相当である。そして、証拠(甲5)及び弁論の【図21】全趣旨によれば、本件拒絶引用文献(甲5)には、「既設トンネルセグメント35側には、1アーチユニットの セグ メン ト 5と の接 合箇 所となる 外周 面に 予 め凹 部3 6を 形成し、この凹部36に、切削可能な充填材料(例えば、ウレタンフォームや発泡スチロールなど)37を充填してセグメント外径を維持しておく。そして、この凹部36を支保工掘進ガイドとして、これに沿って上記のようにアーチ形掘削機3を掘進させながらアーチ形支保工の構築を行う。」(【0037】)、「…この凹部36内に1アーチユニットのセグメント6の端面を当て、ここで1アーチユニットのセグメント5と既設トンネルセグメント35とをボルト38で緊締

5 して接合する。このとき、凹部36はその接合性を高める」(【0038】)との記載があることが認められる。以上のとおり、本件拒絶引用文献が開示するところによれば、2本のシールドトンネル間にアーチ形の支保工を構築する方法において、既設トンネルのセグメントに凹部を形成し、切削可能な充填材料で凹部を仮に充填しておくことは、従来技術として公知であったものと認められる。ウ 本件発明の本質的部分前記1の本件明細書の記載に加え、前記ア及びイの出願経過及び拒絶引例の内容に鑑みると、本件発明1は、本件拒絶引用文献の記載を踏まえ、セグメントにアーチ形支保工のセグメントとの接合箇所となる接合用凹部に「仮補填ケース」が「着脱自在に取り付け」られ、かつ、「仮補填ケース中に充填材を充填する」構成を追加したものであるのに対し、拒絶引例においては、仮補填部材が、切削可能な充填材料を充填したものであって、「仮補填ケース中に充填材を充填した」ものではなく、「着脱自在に取り付けた」ものでもない点で相違する。そうすると、本件発明1において従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分は、追加された上記構成であるといえるから、本件発明1の本質的部分は、①「仮補填ケースを着脱自在に取り付けた」(構成要件1A)、②「前記仮補填ケース中に充填材を充填する」(構成要件1B)という、一連一体の構成にあるものと認めるのが相当である。これを本件対象製品についてみると、前記2及び3のとおり、本件対象製品の保護ピースは、本件発明1の「仮補填ケース」と「充填材」に相当する構成を備えていないものであるから、本件発明1の本質的部分を備えるものとはいえない。したがって、本件対象製品は、均等侵害に係る第1要件を充足しないものといえる。

5 これに対し、原告は、本件発明1の本質的部分は、シールドトンネルセグメントの構造力学上及び施工上の機能を提供する「着脱自在な仮補填部材によって拡幅セグメント接合用凹部を仮に補填しておく点」にあると主張し、「充填材を充填する」(構成要件1B)という構成については、本件明細書上、上記構成によって「容易に補填」できることの記載はないから、本質的部分ではない旨主張する。しかしながら、本件発明1における「拡幅セグメント接合用凹部を仮に補填」(構成要件1B)するという構成は、上記①の構成に加え、上記②の構成をもって実現されるものであるから、上記①と上記②の構成は一連一体のものであり、これらを切り離してその一部のみが本質的部分であると評価することは相当ではない。したがって、原告の主張は、採用することができない。⑷ 第5要件について前記前提事実⑻に加え、証拠(甲2ないし6、乙15)及び弁論の全趣旨によれば、本件特許の出願当初の特許請求の範囲の記載においては、請求項8に、「仮補填ケース」の「中に充填材を充填する」ことにより「拡幅セグメント接合用凹部を仮に補填できるようにした」との事項が記載されていたところ、前記⑶イのとおり、原告は、本件拒絶引用文献(甲5)に基づく新規性及び進歩性の拒絶理由を解消するために、出願時の請求項8にある上記の構成を新たな請求項1の必要な構成として取り入れて、手続補正を行い、特許査定を受けたことが認められる。そうすると、上記認定に係る本件特許の出願経過を踏まえると、原告は、上記構成以外の具体的構成については、特許請求の範囲から意識的に除外したものと認めるのが相当である。したがって、本件対象製品は、均等侵害に係る第5要件を充足しないものといえる。⑸ 小括以上によれば、その余の均等の要件を検討するまでもなく、本件対象製品

5 が、本件発明1の均等侵害に当たるという原告の主張は、採用することができない。

6 争点2-2(本件発明5についての均等侵害の成否)について⑴ 原告は、本件対象方法の保護ピースが「仮補填ケース中に充填材を充填」(構成要件5B)という文言を充足しないとしても、前記5と同様に本件対象方法の保護ピースの構成は、「仮補填ケース中に充填材を充填」する構成と均等なものとして、均等侵害に当たる旨主張する。しかしながら、前記4のとおり、本件対象方法は、構成要件5A及び5Bについても本件発明5と相違しているのであるから、仮に、原告が主張する本件保護ピースの構成が本件発明5と均等であったとしても、均等侵害を構成するに至らない。本件訴訟の経過に鑑み、念のため、原告が主張する構成について、均等の各要件を充足するか否かについて検討しても、前記5において説示したところと同様に、前記1の本件明細書の記載に加え、本件特許の出願経過及び拒絶引例の内容を踏まえると、本件発明5の本質的部分は、「仮補填ケース中に充填材を充填した仮補填部材を着脱自在に取り付けた」(構成要件5B)という一連一体の構成であると認めるのが相当である。これを本件対象方法についてみると、前記2及び3と同様の理由により、本件対象方法における保護ピースも、本件発明5の「仮補填ケース」と「充填材」に相当する構成を備えていないから、本件発明5の本質的部分を備えるものとはいえない。したがって、本件対象方法は、均等侵害に係る第1要件を充足しないものといえる。⑵ また、前記5において説示したところと同様に、本件特許の出願経過を踏まえると、原告は、出願時の請求項13にある「仮補填ケース」の「中に充填材を充填」することにより「拡幅セグメント接合用凹部を仮に補填する」という構成以外の具体的構成については、本件発明5の特許請求の範囲から

5 意識的に除外したものと認めるのが相当である。したがって、本件対象方法は、均等侵害に係る第5要件を充足しないものといえる。⑶ 以上によれば、その余の均等の要件について検討するまでもなく、本件対象方法が、本件発明5の均等侵害に当たるという原告の主張は、採用することができない。

7 争点3-1(乙10発明を主引例とする本件発明1の進歩性の有無)について前記2ないし6のとおり、本件対象製品及び本件対象方法は、いずれも本件発明の技術的範囲に属するものとはいえず、均等の要件も満たさないから、その余の争点を判断するまでもなく、原告の請求には理由がない。もっとも、本件事案及び審理経過に鑑み、本件の中核的争点の一つとされていた争点3-1に限り、念のため、以下、判断を簡潔に示しておくこととする。⑴ 証拠(乙10)によれば、乙10公報には、次のとおりの記載があることが認められる。ア 発明の属する技術分野【0001】本発明は、複数のトンネルを水平方向に連結させる連形トンネルの構造および連形トンネルの構築方法に関する。イ 従来の技術【0002】二連形や三連形など、複数のトンネルを水平方向に連結して構築するため、DOTシールド掘進機やMFシールド掘進機を用いた方法が知られている。これらのシールド掘進機を用いたトンネル同士の境界部は、柱などの公知の支持部材により支持されている。ウ 発明が解決しようとする課題

5 【0003】前記した従来の連形トンネルの構築方法には、以下のような問題点がある。<イ> 従来工法により構築された連形トンネルは、トンネル同士の境界部にトンネルを支持するための柱が存在するため、連続した広い空間を確保することができない。<ロ> トンネル同士の境界部に柱が存在するため、例えば連形トンネルを道路に用いる場合には頻繁かつ自由な車線変更が規制される、そのため道路の分岐・合流部などには不適であり、鉄道のトラサーバ部に用いた場合にも前記柱が邪魔となるため不適となる。エ 発明の目的【0004】本発明は上記の問題点に鑑みてなされたもので、空間中に支柱を一切用いず、水平方向に広い内空断面を確保するトンネルを構築することを可能とする、連形トンネルの構造および連形トンネルの構築方法を提供することを目的とする。オ 課題を解決するための手段【0005】上記課題を解決するための手段として、本発明は、先行して構築したトンネル躯体の一部と、後行するトンネル躯体の一部とがトンネル長手方向に重複する連形トンネルの構造において、先行トンネルと後行トンネルの境界部に位置するトンネル躯体の内側に、両トンネル間に跨がった補強梁を設けることを特徴とする、連形トンネルの構造およびこのトンネルの構築方法を提供する。カ 発明の実施の形態【0008】<イ>先行トンネルの構築

5 図1に示すように先行トンネル1は、円形の先行シールド掘進機11がセグメント12を組み立てながら掘進して構築する通常の円形トンネルである。先行トンネル1は、後述する後行トンネル2と重複する側部を撤去用セグメント3で構成している。また、撤去用セグメント3との接合部に位置する【図1】先行トンネル1のテール端部13には、撤去用ブロック4を組付けてある。先行トンネル1から撤去用ブロック4を撤去することにより、先行トンネル1のテール端部13に後述する後行トンネル2との連結部位を形成する。【0009】<ロ>後行トンネルの構築図 2に 示 す よ う に後 行 トン ネ乙10公報【図2】ル2は、例えば月形の後行シールド掘進 機21 がセ グ メント 22

5 を組み 立てな がら 掘 進して 構築する非円形トンネルである。この際、後行シールド21の鋼殻は先行トン ネル1 との 重 複部分 まで厚く伸びていて、スクレーパ可能な構造になっている。図3に示すように後行トンネル2の形状は、乙10公報【図3】例えば前述した先行トンネル1から撤去用セグメント3を除いた線対称となるようにする。後行トンネル2のテール端部23は、前記工程で撤去用ブロック4を撤去した先行トンネル1のテール端部13に合致させる。これにより先行トンネル1および後行トンネル2は、撤去用セグメント3により支持された状態となる。【0010】<ハ>撤去用セグメントの部分撤去図4に示すように先行トンネル1の一部である撤去用セグメント3を、例えばトンネル軸方向に対して垂直方向に分割されたセグメントとする。この場合、撤去用セグメント3は、その後行撤去部31を残して先行撤去部32を撤去することにより、先行トンネル1及び後行トンネル2を支持しながら、後述する補強梁5を構築するための空間33を確保できる。撤去用セグメント3は、先行トンネル1のテール端部13よりスライドさせながら撤去することが可能である。この他にも、撤去用セグメント3を1リングおきに交互に撤去することにより、先行トンネル1および後行トンネル2を支持しながら補強梁5、5を構築する空間を確保することも考え

5 られる。【0011】<ニ>補強梁の構築図5に示すように補強梁5は、先行トンネル1と後行トンネル2との境界部(上下のくびれ部)に位置するトンネル躯体の内側に、トンネル長手方向に沿って両トンネル1、2間に跨がって位置し、両トンネル1、2の躯体の剛性を高め、両トンネル1、2を連【図5】結および支持するための部材である。補強梁5を構築することにより、先行トンネル1と後行トンネル2との境界部間を支柱あるいは壁などの公知の支持部材でもって支持する必要が無くなる。なお補強梁5は、例えば鉄筋コンクリートで構築した公知の梁である。【0012】<ホ>撤去用セグメントの全部撤去図5に示すように、先行トンネル1と後行トンネル2との境界部は補強梁5、5により補強されるから、撤去用セグメント3の後行撤去部31を撤去できる。これにより、図6に示すように先行トンネル1と後行トンネル2との境界部には柱あるいは壁などの支持部材が無く、両トンネル1、2間に亘る障害物の無い連続した広い空間6を確保できる。⑵ 乙10発明の内容前記⑴の乙10公報の明細書【0008】の記載を踏まえ、本件発明1の構成要件に照らし、乙10発明の構成を整理すると、乙10発明の構成は、以下のとおりと認めるのが相当である。1-1a 先行トンネル1を構成するセグメント12の外面に撤去用ブロック4を組み付けた、後行トンネル2のセグメント22との連結部

5 位が形成され、1-1b 撤去用ブロック4により後行トンネル2のセグメント22との連結部位を仮に補填できるようにしたことを特徴とする1-1c セグメント12⑶ 対比ア 本件発明1と乙10発明を対比すると、乙10発明の「セグメント12」は、先行トンネル1を構成しており、本件発明1における「シールドトンネルを構成するセグメント本体」に相当する。これを前提として、本件発明1における「拡幅セグメント接合用凹部」についてみると、本件明細書によれば、「外面に拡幅セグメント接合用凹部3(以下、凹部3と略記する)を有するセグメント1a・1b及び2a・2bが使用され…これらセグメント1a・1b及び2a・2bの外面も他のセグメントの外面と連続する円周面となっている。」(【0036】)という記載があることが認められる。これらの記載を踏まえると、本件発明1の「セグメント本体の外面に…拡幅セグメント接合用凹部が形成され」との構成は、セグメント本体の外面(他のセグメントの外面と連続する円周面)を基準とし、これに対して拡幅セグメントを接合するために凹んだ部分が形成されることを意味するものと解するのが相当である。そして、本件明細書(【0001】、【0055】、【図16】)の記載によれば、「拡幅」とは、シールドトンネルの断面の面積が、拡幅前と比べて増大するような覆工一般を広く意味し、「拡幅セグメント」とは、そのような覆工に用いられるセグメントを指すものと解するのが相当である。これを乙10発明についてみると、「先行トンネル1」の「セグメント12」の「テール端部13」(後行トンネル2との接続部位)の外面に、「セグメント12」の外面(先行トンネル1の円周面を構成する面)を基準として、これに対して凹んだ部分に相当する凹部が形成されていること、

5 「先行トンネル1」は、「後行トンネル2」と連結されることで「両トンネル1、2間に亘る障害物の無い連続した広い空間6」(【0012】)となるものであり、「後行トンネル2のセグメント22」は、「先行トンネル1」を上記「空間6」とするためのセグメントであるといえる。そうすると、乙10発明における「後行トンネル2のセグメント22」は、本件発明1における「拡幅セグメント」に相当し、乙10発明における「後行トンネル2のセグメント22との連結部位」、すなわち、「セグメント12」の「テール端部13」の外面に形成された凹んだ部分は、「拡幅セグメント接合用凹部」に相当するものといえる。以上によれば、本件発明と乙10発明は、以下の相違点において相違し、その余は一致するものと認めるのが相当である。(相違点1b)本件発明1は、拡幅セグメント接合用凹部を仮に補填する構成(部材)が、「前記仮補填ケース中に充填材を充填する」ものである(構成要件1B)のに対し、乙10発明は、「撤去用ブロック4」はその素材・構成が特に限定されておらず、特定の素材・構成が具体的に明らかとはされていない点イ これに対し、原告は、本件発明1は、シールドトンネルセグメントによって拡幅セグメントを支持するのに対し、乙10発明は補強梁によって後行トンネル2を支持する点で、トンネル構造に関する設計思想を異にするとして、相違点1a’(本件発明1の「拡幅セグメント接合用凹部」は、シールドトンネルセグメントによって拡幅セグメントを支持するものであるのに対し、乙10発明は、仮設セグメントの撤去に際して、「撤去用ブロック4」と「撤去用セグメント3」と分割して撤去できるようにして、「撤去用ブロック4」を先に撤去することにより後行トンネルの「セグメント22」を一時的に「撤去用セグメント3」で支持できるようにした点)

5 が存在する旨主張する。しかしながら、本件発明1は、そもそも、単一のシールドトンネルセグメントに係る発明であり、拡幅後のシールドトンネルの構造や、シールドトンネルの拡幅方法に係る発明ではない。のみならず、本件発明1の請求項の記載も、拡幅セグメント接合用凹部を仮に補填できるようにした構成を規定するにとどまるのであるから、拡幅後のシールドトンネルの荷重を支持する構造物の構成は、本件発明1の構成と乙10発明の構成の違いを左右するものとはいえない。したがって、原告の主張は、採用することができない。また、原告は、乙10発明においては、本件発明1の「拡幅セグメント接合用凹部」に相当する部位がないから、この点についても、本件発明1と乙10発明の相違点として認定すべきである旨主張するものの、前記アのとおり「セグメント12」の「テール端部13」の外面に形成された凹んだ部分は、「拡幅セグメント接合用凹部」に相当するといえるから、原告の主張は、採用の限りではない。⑷ 相違点1bの容易想到性相違点1bにつき検討すると、前記前提事実⑼に加え、証拠(乙24、29、31)及び弁論の全趣旨によれば、本件特許の出願当時、シールドトンネルを構成するセグメントには、コンクリート系セグメント、鋼製セグメント、合成セグメントの3種類があること、上記3種類のセグメントの素材及び構造は、構造上又は施工上の利点、欠点等においてそれぞれ異なるものであるという知識は、当業者において一般的に知られていたことが認められる。上記認定事実によれば、上記にいう知識は、本件特許出願当時の技術常識であったと認めるのが相当である。そして、乙10発明における「撤去用ブロック4」は、先行のシールドトンネルを構成するセグメントの一部であるところ、証拠(乙31)及び弁論の全趣旨によれば、シールドトンネルを構

5 成する他のセグメントと撤去用ブロック4を異なる素材、構造とした場合には、より複雑な設計(耐力計算)が必要となることは当業者において自明であるから、当業者は、設計、資材調達等の効率化及び工事コストの削減の観点から、通常、同じ素材や構造の材料を選択するものといえる。そうすると、乙10発明において、「セグメント12」の素材、構造として合成セグメントを選択することは、当業者にとって公知材料の中から最適材料を選択するものにすぎず、その際に、「撤去用ブロック4」の素材や構造として、設計、資材調達等の効率化及び工事コストの削減の観点から、「セグメント12」の素材や構造と同じ合成セグメントを用いることは、当業者が通常行う材料の選択であるといえる。したがって、相違点1bに係る本件発明1の構成は、乙10発明に基づき、当業者が容易に想到し得たものと認めるのが相当である。これに対し、原告は、乙10発明においては、本件発明1の「仮補填ケース」は存在せず、仮補填ケースを充填材で充填するようなことは行われていないから、この点も相違点として認定すべき旨主張する。しかしながら、仮にこれらの点が相違点に当たるとしても、上記のとおり、乙10発明において、「セグメント12」の素材や構造として合成セグメントを選択することは、当業者にとって公知材料の中から最適材料を選択するものにすぎない。そうすると、乙10発明における「セグメント12」として、鋼製のセグメントにコンクリートを併用した合成セグメントを用い、「 撤去用ブロック4」に「セグメント12」と同じ素材や構造を有する合成セグメントを用いることは、当業者においては設計事項にすぎないものといえる。この場合において、合成セグメントにおける「鋼製のセグメント」及び「コンクリート」は、本件発明1の「仮補填ケース」及び「充填材」にそれぞれ相当するものであるから、乙10発明において、「テール端部13」の外面に「セグメント12」の外面を基準として、これに対して凹んだ部分に相当

5 する凹部を、合成セグメントからなる「撤去用ブロック4」で仮に補填する構成とすることは、乙10発明に基づき、当業者が容易に想到し得たものといえる。したがって、原告の主張は、採用することができない。⑸ 小括以上によれば、本件発明1は、乙10発明に基づき進歩性を欠くものであり、無効理由が認められる。

8 その他その他に、原告提出に係る準備書面及び証拠並びに専門委員関与に係る技術説明会の結果を踏まえ、原告の主張立証を改めて検討しても、原告の主張は、本件発明が採用した「仮補填ケース中に充填剤を充填」という文言の意義などを十分に正解しないものに帰し、前記において説示したところを踏まえると、前記判断をいずれも左右するものとはいえない。したがって、原告の主張は、いずれも採用することができない。

第5 結論

よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部

裁判長裁判官

中 島 基 至

裁判官

武 富 可 南

裁判官

小 橋 陽 一 郎

(別紙)

対象製品目録東京外かく環状道路本線トンネル(北行)大泉南工事(本線工事)及び東京

5 外かく環状道路大泉南工事(以下「ランプ部工事」という。)において使用される下記の形状を有するセグメント記1 対象製品は、以下の設計図面のうち水色囲みの部材(以下「D型セグメント」という。)と赤囲みの部材(以下「保護ピース」という。)の2つの部材から構成される。2 D型セグメントは、スキンプレート、主桁、継手板及び縦リブによって構成される。3 保護ピースは、スキンプレート、側面プレート、端部プレート、フランジ及び推力伝達フランジ並びに縦リブという名称の各鋼板を溶接すること5 で構成される。4 D型セグメントの端部の切り欠き部に保護ピースを接合させると、スキンプレートが円周状になる。※なお、上記2及び3において添付した各図面は、説明の便宜上添付したものであり、対象製品の範囲を限定するものではない。以上

(別紙)

物件等説明書1 本件対象製品1a シールドトンネルを構成するセグメント本体の外面に保護ピースを着5 脱自在に取り付けた拡幅セグメント接合用凹部が形成され、1b 前記保護ピースは、底面に推力伝達フランジを含むフランジを有し、内部に縦リブが溶接され、外側縁部にスキンプレートが溶接されていることにより拡幅セグメント接合用凹部を仮に補填できるようになっている1c シールドトンネルセグメント。2 本件対象方法5a シールドトンネルのセグメント組み立て後、5b そのセグメントの外面に着脱自在に取り付けられている保護ピースを撤去することによって拡幅セグメント接合用凹部を形成し、5c 前記保護ピースを撤去することによって形成された前記接合用凹部に拡幅セグメントの端部を嵌合させて5d これらセグメントを接合することにより、拡幅セグメントによる拡幅覆工をシールドトンネルからその外側へ延設し、5e 該拡幅覆工までシールドトンネルを切り拡げる5f シールドトンネルの拡幅方法。

(別紙)

出願時の請求項1 請求項6(拒絶理由あり、現在の請求項1に修正された)シールドトンネルを構成するセグメント本体の外面に拡張セグメント接合5 用凹部が形成され、この凹部に拡幅セグメントの端部を嵌合させて前記セグメントと接合することにより、拡幅セグメントによる拡幅覆工を延設できるようになっていることを特徴とするシールドセグメント。2 請求項8(拒絶の理由を発見しない)拡幅セグメント接合用凹部に着脱可能に取り付けることができる仮補填ケースを備え、その中に充填材を充填することにより拡幅セグメント接合用凹部を仮に補填できるようにしたことを特徴とする請求項6又は7に記載のシールドトンネルセグメント。3 請求項9(拒絶理由あり)シールドトンネルのセグメント組み立て後、そのセグメントの外面に形成された拡幅セグメント接合用凹部に拡幅セグメントの端部を嵌合させてこれらセグメントを接合することにより、拡幅セグメントによる拡幅覆工をシールドトンネルからその外側へ延設し、該拡幅覆工までシールドトンネルを切り拡げることを特徴とするシールドトンネルの拡幅方法。4 請求項12(拒絶理由あり)拡幅セグメント接合用凹部を補填手段で仮に補填しておき、該補填手段を撤去してから拡幅セグメント接合用凹部に拡幅セグメントの端部を嵌合させてセグメント接合を行うことを特徴とする請求項9ないし11のいずれかに記載のシールドトンネルの拡幅方法。5 請求項13(拒絶の理由を発見しない)拡幅セグメント接合用凹部に仮補填ケースを着脱可能に取り付け、その中に充填材を充填して拡幅セグメント接合用凹部を仮に補填することを特徴とする請求項12に記載のシールドトンネルの拡幅方法。以上

(別紙)

対象方法説明書本件拡幅工事の施工手順の概要は、以下の1ないし7のとおりである(後掲の図5 参照)。このうち、本件発明5に関係するのは主に6の手順である。本件対象方法は、Fランプトンネルのセグメントの1つとして本件対象製品(D型セグメントの切り欠き部に保護ピースを結合したセグメント)を利用して形成されたセグメントリングについて、トンネルを拡幅する段階になって、当該保護ピースをD型セグメントの切り欠き部分から取り外して切り欠き部を露出させ、当該露出した切り欠き部に拡幅セグメントを接合して、本線に係るシールドトンネルを構成するセグメントとの間で拡幅セグメントを架橋する方法である。また、D型セグメント及び保護ピースの納品からシールドトンネルのセグメント組立てまでの施行手順は、後掲の写真2のとおりである。1 地盤にセメント系の固化材を混合して地盤を固める(地盤改良)。2 Fランプと本線の2本のシールドトンネルが通過する。3 片方のシールドトンネルから他方のシールドトンネルに向けて掘削機で穴を掘りながら、曲線状に加工した円筒形の鋼材を架け渡して、Fランプと本線との間の上部に曲線状のパイプルーフを作る。さらに、トンネルの下部3分の1ほどの高さに直線状のパイプルーフを入れる。両方のパイプルーフをトンネル軸方向にそれぞれ1m以下の間隔で配置してトンネルと固定する。これらにより、2本のトンネルの寄り付きを防止する。4 上部のパイプルーフの端部に合わせてトンネル内に支柱(内部支柱)を立て、トンネルと固定することでトンネル自体の変形を防止する。また、トンネルの内側斜め上の部分にトンネルが完成した際の補強となる鋼材を取り付ける。5 上部の曲線状のパイプルーフを屋根として、2本のトンネルの間の土砂を掘る。その底の部分には2本のトンネルの間に梁となる弧状の鋼材(鋼製支保工)を入れる。

6 保護ピースを取り外して、2本のトンネルをつなぐ新たなセグメント(拡幅セグメント)を取り付ける。これにより大きな横長のセグメントリングとしてつながり、2本のトンネルが一体となる(後掲の写真1参照)。

7 一体化された2本のトンネルの内側の不要なセグメント、パイプルーフ、支柱や土砂を撤去する。【写真1】本線・Fランプトンネル拡幅セグメント仮組状況(上図の⑥、⑦の作業のうちセグメントに係る部分について、地上に平置きしたセグメントで再現したもの)D型セグメントFランプ Fランプ本線 本線D型セグメント拡幅セグメント本線 Fランプ拡幅トンネル拡幅セグメント【写真2】D型セグメント及び保護ピースの納品からシールドトンネルのセグメント組立てまでの施行手順① 製造工場(他社)で組立て ②作業所へ搬入③受入検査、残りのシール材貼り付け ④ シ ー ル ド 機 内 で セ グ メ ン ト を 組 立の実施 て以上

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