ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 令和7(ワ)7894 発信者情報開示命令の申立てについての決定に対する異議の訴え
| 裁判所 | 大阪地方裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 令和8年1月22日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 法令 |
不正競争 |
| キーワード | 侵害3回 無効2回 |
| 主文 | 1 大阪地方裁判所令和6年(発チ)第111号発信者情報開示命令申立事件につ 2 訴訟費用(補助参加人に生じたものも含む。)は、原告の負担とする。 |
| 事件の概要 | 1 本判決における呼称(証拠番号については枝番を含む。以下同じ) (1) 本件決定 : 発信者情報開示命令申立事件 (当庁令和6年 (発チ) 第111号) について大阪地方裁判所が令和7年6月30日にした決定(甲6) (2) 本件申立て:上記事件に係る原告の発信者情報開示命令申立て (3) 本件ウェブサイト:補助参加人が運営する、別紙「ウェブサイト目録」記載 のウェブサイト(甲2) (4) 本件記事:本件ウェブサイトにおいて公開された別紙 「投稿記事目録」 記載 のウェブ記事(甲5) |
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令和8年1月22日判決言渡 同日原本受領 裁判所書記官
令和7年(ワ)第7894号 発信者情報開示命令の申立てについての決定に対する
異議の訴え
口頭弁論終結日 令和7年11月27日
判 決
原 告 株式会社プロテラス
同代表者代表取締役
同訴訟代理人弁護士 小沢一仁
被 告 エックスサーバー株式会社
同代表者代表取締役
同訴訟代理人弁護士 和田敦史
被告補助参加人 A
同訴訟代理人弁護士 中澤佑一
主 文
1 大阪地方裁判所令和6年(発チ)第111号発信者情報開示命令申立事件につ
いて、同裁判所が令和7年6月30日にした決定は、被告に対し、別紙「発信者
情報目録」記載の情報を原告に開示することを求める申立てを却下した限度で認
可する。
2 訴訟費用(補助参加人に生じたものも含む。)は、原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 大阪地方裁判所令和6年(発チ)第111号発信者情報開示命令申立事件について、同裁判所が令和7年6月30日にした決定のうち、被告に対し、別紙「発信者情報目録」記載の情報を原告に開示することを求める申立てを却下した部分を取り消す。2 被告は、原告に対し、別紙「発信者情報目録」記載の各情報を開示せよ。
第2 事案の概要
5 1 本判決における呼称(証拠番号については枝番を含む。以下同じ)
(1) 本件決定:発信者情報開示命令申立事件(当庁令和6年(発チ)第111号)について大阪地方裁判所が令和7年6月30日にした決定(甲6)
(2) 本件申立て:上記事件に係る原告の発信者情報開示命令申立て
(3) 本件ウェブサイト:補助参加人が運営する、別紙「ウェブサイト目録」記載のウェブサイト(甲2)
(4) 本件記事:本件ウェブサイトにおいて公開された別紙「投稿記事目録」記載のウェブ記事(甲5)
(5) 本件サービス:原告が、パチンコホール運営会社に対して提供する「テラスモバイル2」と称するサービス(甲3)
(6) 本件利用規約:本件サービスの利用者に対して提示されている利用規約(甲11)
(7) TMサーバー:本件サービスを利用する者(主としてパチンコホール運営会社)が、同サービスを使用した集客用のウェブサイトを蔵置する原告が管理するサーバー
(8) 台データ:パチンコホールに設置されたパチンコ台の出玉データ等の情報
(9) DBサーバー:原告が管理する台データ等が記録されているサーバーで、TMサーバーとは異なるもの
(10) CT:「CloudflareTurnstile」と題するツール
(11) 情プラ法:特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律(令和6年法律第25号による改正の前後を問わず、このように呼称する。)
(12) 不競法:不正競争防止法2 本件は、原告が、被告が提供するホスティングサービスを利用する補助参加人において、本件サービスが提供する限定提供データ((不競法2条7項のもの。以下同じ)を不正に取得し、本件記事ほか3件の記事を投稿したことで同データを
5 開示し、もって不競法2条1項11号に違反して原告の営業権を侵害したことが明らかであるとして、情プラ法5条1項に基づく本件申立てをしたところ、本件決定により、その申立てが全部却下されたことから、原告が、本件記事の投稿に関する発信者情報開示の限度で情プラ法14条1項に基づき異議の訴えを提起し、本件決定を取り消し、被告に対し、別紙「発信者情報目録」記載の各情報の開示を命じる旨の裁判を求めた事案である。3 前提事実(争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実)
(1) 当事者ア 原告は、情報提供サービス等を目的とする会社であり、パチンコホール運営会社向けに本件サービスを提供している。イ 被告は、サーバーの販売、貸与、保守及び管理業務等を目的とする会社である。被告は、本件記事が蔵置されたサーバーを管理している。ウ 補助参加人は、本件ウェブサイトを管理し、同ウェブサイトにおいて本件記事を投稿した者である。補助参加人は、被告と締結した契約に基づき、本件記事が蔵置されたサーバーを利用している。
(2) 本件申立て及び本件決定ア 原告は、令和6年、被告を相手方として、本件記事ほか3件の記事について、各記事を投稿した者が、原告が提供する限定提供データを不正に取得し、開示し、もって原告の営業権を侵害したと主張して、同投稿者らに関する発信者情報の開示を求める申立てをした(本件申立て)。イ 補助参加人は、本件申立ての手続に、利害関係参加人として参加した。ウ 大阪地方裁判所は、令和7年6月30日、原告の本件申立てを全部却下する決定(本件決定)をした。
(3) 本件サービスの内容と利用方法(甲7ないし12)ア 本件サービスの内容について本件サービスは、主としてパチンコホール運営会社に対して、集客用ウェ
5 ブサイトの作成を容易にするためのものであり、これを利用するパチンコ事業者は、原告が管理するTMサーバーにウェブサイトを蔵置することとなる。また、本件サービスが提供する機能の一つに、各パチンコホールに設置されたパチンコ台の出玉データ等の情報(台データ)やその動向を表やグラフ等で表示させるものがあり、これによって、パチンコホールを利用する顧客(以下、パチンコホールを利用する顧客を、単に、「顧客」という。)は、当該パチンコホールに係る台データ等の情報を確認することができる。台データは、パチンコホールから提供されるデータを基に、TMサーバーとは別のデータベースサーバー(DBサーバー)で記録、管理されており、両サーバーはAPI((各サーバーが提供するサービスを、それぞれのサービスが定める仕様に従ったメッセージをやり取りすることで連携させるもの)で連携されている。イ 台データが取得、表示されるまでの流れについて(ア) 顧客が、TMサーバーに蔵置されたパチンコホールのウェブサイトにアクセスし、同ホールの台データを閲覧しようとすると、「当社( (判決注:パチンコ事業者)及び株式会社プロテラス(判決注:原告)がスクレイピング((判決注:プログラム等を用いて表示されたウェブサイトのHTML情報を解析し、そこから必要な情報を取捨選択する行為)と判断し、またはスクレイピングに類すると判断し、不当にデータを収集したりアクセスしたりする行為」などを行わないものとする旨記載された利用規約((本件利用規約)が表示され、顧客が台データを閲覧するためには、これに同意する必要がある。一方、顧客が、ユーザー登録やパスワード等による認証をする必要はなく、閲覧のために金銭を支払う必要もない。同ウェブサイトには、bot(特定のタスクを自動で実行するためのプログラム)によるデータの自動収集を回避するため、人間が使用していることを確認するための検証ツールである「CloudflareTurn
5 stile」(CT)が設置されており、顧客は、この検証ツールを通過する必要がある。ただし、CTは、一度通過すると、その後、同一のアクセス元からのアクセスであれば、30分間は、検証をしない。(イ) 本件利用規約への同意及びCTによる検証通過が確認されると、TMサーバーからDBサーバーに対し、台データを集計した表やグラフを表示するために必要な情報を取得するためのリクエストメッセージが送信される。その際、どのようなデータを取得したいかは、リクエストメッセージに台の名前を含ませるなどの方法によって特定し、DBサーバーはAPIを介して送信されたリクエストメッセージを基に、必要なデータをTMサーバーに返答する。その結果、TMサーバー上にあるウェブサイトに、台データを集計した表やグラフが表示される。
(4) 補助参加人の利用形態について補助参加人は、botを用いてTMサーバー上のウェブサイトに表示された台データを取得したことがある。
(5) 被告による発信者情報の保有被告は、本件記事を投稿した者((補助参加人)に係る発信者情報を保有している。
(6) 原告は、令和7年7月29日、本訴訟を提起した。
(7) 補助参加人は、本訴訟に、被告を補助するために補助参加をした。
(8) 原告は、令和7年10月3日、本件第1回弁論準備手続期日において、補助参加人と原告との間の本件利用規約の同意及びこれに伴う台データの閲覧権限付与に係る合意を、詐欺又は錯誤を理由として取り消すとの意思表示をした。4 争点
(1) 本件利用規約への同意及びCTによる検証を求めることにより、台データが、特定の者に提供する情報として管理されているといえるか(争点1)
5 (2) 補助参加人が、限定提供データ不正取得行為をし、同行為によって取得した限定提供データを使用し、開示したか(争点2)ア 補助参加人がbotを用いたことが限定提供データ不正取得行為に該当するか(争点2-1)イ 本件利用規約への同意によって基礎づけられる補助参加人の台データの閲覧権限が、同規約が詐欺又は錯誤により取り消されたことで無効なものとなるか(争点2-2)ウ 台データが無償で公開されているものであり、補助参加人が、これと同一の限定提供データを取得等したか(争点2-3)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(本件利用規約への同意及びCTによる検証を求めることにより、台デ
ータが、特定の者に提供する情報として管理されているといえるか)について【
(原告の主張)
】原告は、業として本件サービスを運営し、その中で台データを提供している。また、台データは、電磁的方法により相当量蓄積・管理されている。そして、台データは、利用規約に同意し、CTによる検証を通過した特定の者にしか提供されていない。CTは、条件を通過した閲覧者に対して情報を提供するために構築されているという性質を有しており、顧客に対し、これを通過しなければならないことを明示しているものであるから、原告が、台データを特定の者に対して提供するものとして電磁的に管理する意思を客観的に明らかにしているものといえる。よって、台データは限定提供データに該当する。【被告及び補助参加人の主張】台データは、本件利用規約への同意を求められる以外、何らのアクセス制限措置が講じられておらず、不特定多数の者が閲覧可能なものである。また、CTによる検証は、アクセス方法を限定する効果はあるものの、アクセスする者を限定
5 するものではない。
よって、台データを特定の者に対して提供するものとして管理する意思が外部に対して明確化されているとはいえないから、台データは限定提供データに該当しない。
2 争点2(補助参加人が、限定提供データ不正取得行為をし、同行為によって取
得した限定提供データを使用し、開示したか)について
(1) 争点2-1(補助参加人がbotを用いたことが限定提供データ不正取得
行為に該当するか)【
(原告の主張)
】補助参加人は、本件サービスを用いて台データを閲覧したときに、スクレイピングを禁止する本件利用規約に同意した。本件利用規約がスクレイピングを禁止する趣旨は、botによるデータの大量取得が行われると、サーバーに過度な負荷がかかることとなり、本件サービスの業務遂行に支障を来す可能性があるためである。しかし、補助参加人は、同規約に反し、botを用いたスクレイピングを行い、短時間で大量の台データを取得した。CTによる検証は、このようなbotを利用しないことを確認するためのものであることも踏まえると、補助参加人は、スクレイピングを行う予定であるのにこれを秘匿し、本件利用規約に同意し、CTによる検証を通過し、もって、原告を欺罔したものである。よって、補助参加人がbotを用いたことは、限定提供データ不正取得行為に該当し、これを本件ウェブサイトで公開したことは、限定提供データ不正取得行為によって取得された限定提供データを使用し、又は開示する行為に該当する。【被告及び補助参加人の主張】不競法が定める「不正の手段」とは、刑罰法規に触れるような行為か、これに準じるような行為といえる程度の実質的な違法性ないし不当性が必要であ
5 り、単なる規約違反(債務不履行)にとどまるようなものは含まれない。
補助参加人はbotを用いたスクレイピングを行ったものの、スクレイピング自体は、何ら、刑罰法規に触れるようなものではない。また、補助参加人がbotを用いてアクセスした頻度も、一秒間に何度もアクセスするといったようなサーバーに過度な負荷をかけるようなものではない。よって、補助参加人がbotを用いたことには、不正競争としての実質を備えるような違法性ないし不当性がないから、限定提供データ不正取得行為には該当しない。
(2) 争点2-2(本件利用規約への同意によって基礎づけられる補助参加人の
台データの閲覧権限が、同規約が詐欺又は錯誤により取り消されたことで無効なものとなるか)について【
(原告の主張)
】補助参加人は、スクレイピングを禁止する本件利用規約に同意することを条件に、台データの閲覧権限を取得した。しかし、前記(1)の【
(原告の主張)
】のとおり、補助参加人は、スクレイピングを行う意思を秘匿したまま同利用規約に同意したものであり、もって、原告を欺罔し、又は、原告に対し、補助参加人がスクレイピングを行わない者であると誤信させた。よって、補助参加人の本件利用規約への同意と、これに伴って付与された同人の台データへの閲覧権限の付与に関する合意は、詐欺又は錯誤により取り消す。【被告及び補助参加人の主張】否認し争う。
(3) 争点2-3(台データが無償で公開されているものであり、補助参加人が、
これと同一の限定提供データを取得等したか)について【被告及び補助参加人の主張】台データを閲覧するためには本件利用規約への同意や、CTによる検証を通
5 過することが求められるが、その他、ユーザー登録をすることも、金銭その他
何らかの対価を支払うことも求められていない。よって、台データを取得等する行為は、無償で公衆に利用可能となっている情報と同一の限定提供データを取得等するものであるから、不正競争に該当しない(不競法19条1項9号ロ)。【
(原告の主張)
】ア 無償で公衆に利用可能となっている情報と同一の限定提供データを取得等する行為は、相手を特定・限定せずに無償で広く提供されているデータは、だれでも自由に使うことができるものであるため、不正競争行為に該当しないものと解される。しかし、台データは、上記1の【
(原告の主張)
】のとおり、データを提供する相手を特定・限定しているし、パチンコホール運営会社に対しては、有償で台データを提供している。イ また、「同一」の限定提供データであるとは、当該データがオープンなデータと実質的に同一であることを意味するところ、本件記事は、本件サービスによる台データの公表では本来予定していない、他店舗との比較用に台データを開示している。ウ よって、本件記事の投稿のために本件台データを取得したことは、無償で公衆に利用可能となっている情報と同一の限定提供データを取得等した行為とはいえないから、不競法2条1項11号の不正競争行為に該当する。
第4 判断
1 争点1(本件利用規約への同意及びCTによる検証を求めることにより、台デ
ータが、特定の者に提供する情報として管理されているといえるか)について
(1) 不競法2条7項が定める限定提供データは、業として「特定の者」に提供さ
れる情報として電磁的方法により相当量蓄積され、かつ、「電磁的方法により管理されている」営業上の情報であることを要する。このうち、業務性、相当
5 蓄積性及び営業上の情報該当性については、前記前提事実から明らかに認めら
れるので、以下、限定提供性及び電磁的管理性について検討する。
(2) 前記前提事実(3)のとおり、原告が保有する台データを閲覧するためには、
本件利用規約への同意とCTによる検証を通過する必要こそあるものの、ユーザー登録を求めるなどのデータにアクセスする者を特定、限定するための措置などが講じられているわけではなく、上記台データは、その提供相手を誰とするかについて、原告の選択や裁量が入る余地のないまま、インターネット上で上記同意等の手続に応じさえすれば、何人たりとも無償で提供を受けることのできる情報であるところ、そもそも、不特定の者に提供されている情報であって、「特定の者」に対して提供されている情報とはいえない。また、電磁的管理性の要件は、データ保有者がデータを提供する際に、特定の者に対して提供するものとして管理する意思が外部に対して明確化され、第三者が認識できるようにされている必要があると解されるところ、上記のとおり、本件の台データは、そもそも、「特定の者」に対して提供されている情報とはいえないから、そのような管理の意思が外部に対して明確化されているものではなく、電磁的管理性の前提を欠くものといえる。これに対し、前記前提事実のとおり、本件の台データについては、CTによる検証の仕組みがとられることで、botによるアクセスを制限しているし、そのような管理の意思が外部に対して示されているといえるものではある。しかし、不競法上の限定提供データは、あくまで、特定の「者」に対して提供している情報につき、これを電磁的方法により管理していることを求めているのであるところ、botによるアクセスを制限していることをもって、データにアクセスする「者」を限定することができているわけではなく、限定提供データとしての要件が充足されるとは解し得ない。
(3) 以上のとおり、本件の台データが、限定提供データに該当するものとは認
められない。
5 2 原告の請求は、本件の台データが限定提供データに該当することを前提として
いるから、その余の争点について判断するまでもなく、原告の本件申立ては理由がないこととなるので、これと同旨の原決定は相当である。
第5 結論
よって、原告の本件申立てには理由がないところ、これと同旨の本件決定のうち、原告が異議の訴えを提起した、被告に対し、別紙「発信者情報目録」記載の情報を原告に開示することを求める申立てを却下した部分を認可することとし、主文のとおり判決する。大阪地方裁判所第21民事部裁判長裁判官松 川 充 康裁判官島 田 美 喜 子裁判官西 尾 太 一※別紙発信者情報目録、別紙ウェブサイト目録及び別紙投稿記事目録はいずれも掲載省略
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