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令和7(行ケ)10039審決取消請求事件

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裁判所 知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和8年1月15日
事件種別 民事
当事者 原告リケンテクノス株式会社
被告特許庁長官
対象物 活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、ハードコート積層フィルム、及びガラス外貼り用フィルム
法令 特許権
特許法120条の62回
キーワード 進歩性29回
実施3回
特許権1回
優先権1回
主文 1 特許庁が異議2024-700281号事件につい
353441号の請求項1から7まで、9及び10
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事件の概要 本件は、 特許異議の申立てに基づく特許取消決定の取消しを求める事案である。

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判決文

令和8年1月15日判決言渡
令和7年(行ケ)第10039号 特許取消決定取消請求事件
口頭弁論終結日 令和7年11月19日
判 決
原 告 リケンテクノス株式会社
同訴訟代理人弁護士 浅 村 昌 弘
松 川 直 樹
10 和 田 研 史
同訴訟代理人弁理士 井 上 洋 一
亀 岡 幹 生
被 告 特 許 庁 長 官
15 同指定代理人 藤 井 眞 吾
金 丸 治 之
海 老 原 え い 子
大 野 明 良
北 村 英 隆
20 主 文
1 特許庁が異議2024-700281号事件につい
て令和7年3月21日にした決定のうち、特許第7
353441号の請求項1から7まで、9及び10
に係る特許を取り消した部分を取り消す。
25 2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
本件は、特許異議の申立てに基づく特許取消決定の取消しを求める事案である。
5 1 特許庁における手続の経緯等
(1) 本件特許
原告は、発明の名称を「活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、ハードコート
積層フィルム、及びガラス外貼り用フィルム」とする発明について、平成30
年4月24日(優先権主張。優先日は平成29年5月30日。以下「本件優先
10 日」という。)にした特許出願(特願2018-82694号)の一部を、令和
4年8月8日に新たな特許出願とし(特願2022-125981号)、令和
5年9月21日、特許権の設定登録を受け(特許第7353441号、請求項
の数10。以下、この特許を「本件特許」という。)、同月29日、特許掲載公
報が発行された(甲8)。
15 (2) 特許異議の申立て
本件特許(全ての請求項に係るもの)について、令和6年3月28日、特許
異議の申立てがされた(異議2024-700281号事件)。
原告は、上記特許異議申立事件において、令和6年12月10日付けで、本
件特許に係る特許請求の範囲(請求項1~10)を訂正する旨の訂正請求をし
20 た(甲9。以下、この訂正を「本件訂正」という。)。
特許庁は、令和7年3月21日、本件訂正を認めた上で、「特許第7353
441号の請求項1~7、9、10に係る特許を取り消す。特許第73534
41号の請求項8に係る特許を維持する。」との決定(以下「本件決定」とい
う。)をし、その謄本は同月28日、原告に送達された。
25 原告は、令和7年4月24日、本件決定のうち、請求項1から7まで、9及
び10に係る特許を取り消した部分を不服として本件訴えを提起した。
2 特許請求の範囲の記載
本件特許に係る本件訂正後の特許請求の範囲の記載は、別紙(本件訂正後の特
許請求の範囲の記載)のとおりである(以下、本件訂正後の請求項記載の各発明
を請求項の番号に応じて「本件訂正発明1」などという。)。
5 3 本件決定の理由の要旨
(1) 甲2発明
本件優先日前に出願公開された甲2(特開2013-216774号公報。
以下、同公報中の段落番号等を〔〕で示す。)には、次の発明(本件決定中の表
現は「引用発明2」。以下、本判決では「甲2発明」という。)が記載されてい
10 る。
「屋外側の硝子表面に貼着する硝子外貼り用フィルムであって、紫外線吸収
剤を含むポリエチレンテレフタレートフィルムの一方の面に、最大吸収波長が
360nm以上400nm以下である紫外線吸収剤を含むアンカーコート層
と、最大吸収波長が200nm以上360nm未満である紫外線吸収剤および
15 樹脂成分を含むハードコート層とがこの順で積層され、前記ポリエチレンテレ
フタレートフィルムの他方の面に、熱線吸収剤を含む裏面コート層および粘着
層がこの順で積層されてなり、前記ハードコート層における紫外線吸収剤が、
前記樹脂成分と結合してなる硝子外貼り用フィルム。」
(2) 本件訂正発明1と甲2発明の対比
20 本件訂正発明1と甲2発明を対比すると、一致点及び相違点は次のとおりで
ある。
ア 一致点
「実使用状態において太陽光が入射する側の表面から順に、ハードコー
ト、アンカーコート、及び樹脂フィルムの層を有し;上記ハードコートは、
25 実使用状態において太陽光が入射する側の表面を形成する、ハードコート積
層フィルム。」
イ 相違点1
本件訂正発明1は「上記ハードコートは、1分子中にベンゾトリアゾール
骨格、トリアジン骨格、及びベンゾフェノン骨格からなる群から選択される
1種以上の骨格を1個以上有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位
5 を、全構成モノマーに由来する構成単位の総和を100モル%として、1モ
ル%以上の量で含む(A)重合体を含む第1の塗料からな」り、
「(但し、上
記ハードコートから、樹脂成分として有機骨格に無機成分が結合した有機無
機複合体を含むものを除く)」のに対して、甲2発明は「ハードコート層」が
「最大吸収波長が200nm以上360nm未満である紫外線吸収剤およ
10 び樹脂成分を含」み、「前記ハードコート層における紫外線吸収剤が、前記
樹脂成分と結合してなる」点。
ウ 相違点2
本件訂正発明1は「上記アンカーコートは、1分子中にベンゾトリアゾー
ル骨格、トリアジン骨格、及びベンゾフェノン骨格からなる群から選択され
15 る1種以上の骨格を1個以上有する(メタ)アクリレートに由来する構成単
位を、全構成モノマーに由来する構成単位の総和を100モル%として、1
モル%以上の量で含む(P)重合体を含む第2の塗料からなり;ここで、上
記(P)重合体から、反応性シリル基を有するモノマーを、全モノマー成分
を100質量%として、50~90質量%の量で重合してなるものを除くも
20 のとする」のに対して、甲2発明は「アンカーコート層」が「最大吸収波長
が360nm以上400nm以下である紫外線吸収剤を含む」点。
(3) 甲1記載事項
本件優先日前に出願公開された甲1(特開2001-246687号公報)
には、次の事項(本件決定中の表現は「引用文献1記載事項」。以下、本判決で
25 は「甲1記載事項」という。)が記載されている。
「二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルムの太陽光が入射する側に、
紫外線吸収層(A)層を形成し、紫外線吸収層を兼ねた耐候性表面硬度化層(B)
層を形成した光触媒コート用積層フィルムにおいて、
(A)層の塗料組成物が、
2-(2’-ヒドロキシ-5’-メタクリロキシエチルフェニル)-2H-ベ
ンゾトリアゾール(30wt%)共重合メチルメタクリレート95部、変性飽
5 和ポリエステル樹脂4部、メチル化メラミン樹脂1部を含有すること。」
(4) 相違点1について
甲2の〔0016〕の記載を参考にして、甲2発明の「ハードコート層」に
おける「紫外線吸収剤」を、公知のベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系
等の骨格を有するアクリレートに由来する構成単位を含むようにすることは、
10 当業者が適宜なし得たことである。
その際、当該構成単位をどの程度とするかは当業者が適宜決め得ることであ
り、相違点1に係る本件訂正発明1の量で含むものとすることに格別の困難性
はない。
相違点1に係る本件訂正発明1において除かれた構成を除くものとするこ
15 とにも格別の困難性はない。
(5) 相違点2について
甲1記載事項の「(A)層の塗料組成物が、2-(2’-ヒドロキシ-5’-
メタクリロキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール(30wt%)
共重合メチルメタクリレート95部、変性飽和ポリエステル樹脂4部、メチル
20 化メラミン樹脂1部を含有すること」と、本件訂正発明1の「上記アンカーコ
ートは(中略)ものとする」こととは、
「上記アンカーコートは、1分子中にベ
ンゾトリアゾール骨格、トリアジン骨格、及びベンゾフェノン骨格からなる群
から選択される1種以上の骨格を1個以上有する(メタ)アクリレートに由来
する構成単位を(P)重合体を含む第2の塗料からなり;ここで、上記(P)
25 重合体から、反応性シリル基を有するモノマーを、全モノマー成分を100質
量%として、50~90質量%の量で重合してなるものを除くものとする」こ
とで共通する。そうすると、甲1記載事項は、本件訂正発明1の用語を用いて
表現すると、「実使用状態において太陽光が入射する側から順に、ハードコー
ト、アンカーコート、及び樹脂フィルムの層を有し;上記アンカーコートは、
1分子中にベンゾトリアゾール骨格、トリアジン骨格、及びベンゾフェノン骨
5 格からなる群から選択される1種以上の骨格を1個以上有する(メタ)アクリ
レートに由来する構成単位を(P)重合体を含む第2の塗料からなり;ここで、
上記(P)重合体から、反応性シリル基を有するモノマーを、全モノマー成分
を100質量%として、50~90質量%の量で重合してなるものを除くもの
とする」ことといえる。
10 甲2発明と甲1記載事項とは、実使用状態において太陽光が入射する側から
順に、ハードコート、アンカーコート及び樹脂フィルムの層を有するハードコ
ート積層フィルムにおいて、アンカーコートが紫外線吸収の機能を有するもの
であるから、甲2発明におけるアンカーコートとして甲1記載事項のものを採
用することは、当業者が容易に想到できたものである。
15 その際、当該構成単位を相違点2に係る本件訂正発明1の量で含むとするこ
とは、当事者が適宜なし得たことである。
相違点2に係る本件訂正発明1において除かれた構成を除くとすることに
も格別の困難性はない。
(6) 本件訂正発明1についての小括
20 よって、本件訂正発明1は、甲2発明及び甲1記載事項に基づいて当業者が
容易に発明できたものである。
(7) 本件訂正発明2から7まで、9及び10について
本件訂正発明2から7まで、9及び10も、甲2発明、甲1記載事項及び周
知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものである。
25 第3 原告主張の取消事由
1 取消事由1(本件訂正発明1の進歩性判断の誤り)
(1) 相違点2の検討における誤り
ア 最大吸収波長の観点から、動機付けが認められないこと
甲2発明は、紫外線の吸収特性等に優れるガラス外貼り用フィルムを提供
するという課題に対し、ポリエチレンテレフタレートフィルムの一方の面に
5 アンカーコート層及びハードコート層を積層し、ポリエチレンテレフタレー
トフィルム、アンカーコート層及びハードコート層の全てに紫外線吸収剤を
配合するとともに、アンカーコート層及びハードコート層の紫外線吸収剤の
最大吸収波長を各層で特定範囲に設定し、かつハードコート層における紫外
線吸収剤を樹脂成分と結合させるという解決手段を示し、具体的には、紫外
10 線吸収剤の最大吸収波長の範囲を、アンカーコート層においては「360n
m以上400nm以下」と、ハードコート層においては「200nm以上3
60nm未満」と、それぞれ設定している(〔0007〕~〔0009〕)。し
たがって、アンカーコート層に含ませる紫外線吸収剤の最大吸収波長が「3
60nm以上400nm以下である」ことは、甲2発明における技術的思想
15 の中核部分であり必須の構成といえるから、これを失わせることは、甲2発
明の目的を失わせるものである。
ここで、本件決定が採用可能とした甲1記載事項のうち、紫外線吸収剤に
対応する「2-(2’-ヒドロキシ-5’-メタクリロキシエチルフェニル)
-2H-ベンゾトリアゾール」
(以下「甲1吸収剤」という。)について、甲
20 1には、ベンゾトリアゾール系である旨の記載はあるが、最大吸収波長につ
いての記載はない。
そうすると、当業者は、最大吸収波長の数値範囲を必須の構成とする甲2
発明に、最大吸収波長の記載がない甲1吸収剤を採用しようと試みることは
ないから、甲2発明に甲1記載事項を適用する動機付けはないというべきで
25 ある。
仮に、当業者が甲1吸収剤の最大吸収波長を調べたとしても、その数値は
約300nmであって(甲10~12)、甲2発明に甲1吸収剤を採用する
と、上記のとおり甲2発明の必須の構成を失わせることとなるから、甲2発
明に甲1記載事項を適用することには、阻害要因がある。
イ 接着性を担う機能の観点から、動機付けが認められないこと
5 甲2発明におけるアンカーコート層は、上記アのとおり、紫外線吸収剤の
最大吸収波長の数値範囲を設定しているほか、ポリエチレンテレフタレート
フィルム及びハードコート層との密着性及び接着性を確保する機能を有し
ている。
これに対し、甲1の段落【0021】に「本発明において、基材の熱可塑
10 性フィルムと紫外線吸収層との接着性を向上させる目的で、熱可塑性フィル
ム表面に(中略)アンカーコート処理などを施すことができる。」との記載
があることに照らすと、甲1における「紫外線吸収層(A)」には、熱可塑性
フィルムとの接着性を担う機能や、耐候性を考慮した高い接着性を担う機能
はないといえる。
15 そうすると、当業者は、密着性及び接着性が求められる甲2発明のアンカ
ーコートに代えて、そのような機能があるか不明である甲1の「紫外線吸収
層(A)」を採用しようと試みることはないから、甲2発明に甲1記載事項
を適用する動機付けはないというべきである。
ウ 相違点2についての小括
20 したがって、当業者が、甲2発明と甲1記載事項に基づいて、相違点2に
係る本件訂正発明1の構成に容易に想到し得たということはできないから、
本件決定がこれを容易に想到し得たとする判断には誤りがある。
(2) 相違点1の検討における誤り
甲2発明は、特許請求の範囲に「ハードコート層における樹脂成分が、有機
25 無機複合体である」が追加された上で特許されたことや、
〔0016〕の記載、
実施例も全て有機無機複合体を用いていること等からして、ハードコート層に
おける樹脂成分が有機無機複合体であることを必須の構成とするものである。
そうすると、当業者が、甲2発明の構成から、
「(但し、上記ハードコートか
ら、樹脂成分として有機骨格に無機成分が結合した有機無機複合体を含むもの
を除く。)」という、相違点1に係る本件訂正発明1の構成に想到するとは考え
5 られない。
したがって、当業者が、甲2発明から、相違点1に係る本件訂正発明1の構
成に容易に想到し得たということはできないから、本件決定がこれを容易に想
到し得たとする判断には誤りがある。
(3) 本件訂正発明1についての小括
10 以上のとおり、本件訂正発明1は、本件優先日当時、当業者が甲2発明に基
づいて容易に発明をすることができたものではない。本件決定は、本件訂正発
明1の進歩性判断を誤っている。
2 取消事由2(本件訂正発明2の進歩性判断の誤り)
本件訂正発明2と甲2発明とは、上記相違点1及び2において相違するとこ
15 ろ、前記1のとおり、本件決定による相違点1及び2に係る容易想到性の判断に
はいずれも誤りがある。
また、本件決定は、本件訂正発明2と甲2発明との相違点3から5まで(本件
決定24頁)につき、甲2発明におけるアンカーコートに甲1記載事項を適用で
きることを前提として、単に課題を挙げるのみで、具体的に、どのように可視光
20 線透過率を80%以上とするか(相違点3)、どのように紫外線透過率を1%以
下とするか(相違点4)、どのように本件訂正発明2の耐候性を確保するか(相
違点5)について、それぞれ何らの検討もしないまま容易想到と結論付けている
から、本件決定による相違点3から5までに係る容易想到性の判断には誤りがあ
る。
25 以上のとおり、本件決定は、本件訂正発明2の進歩性判断を誤っている。
3 取消事由3(本件訂正発明3の進歩性判断の誤り)
本件訂正発明3と甲2発明とは、上記相違点1から5までにおいて相違すると
ころ、前記1及び2のとおり、本件決定による相違点1から5までに係る容易想
到性の判断にはいずれも誤りがある。
また、本件決定は、本件訂正発明3と甲2発明との相違点6(本件決定26頁)
5 について、甲2にはハードコート層に無機粒子を含むことについての記載がない
ことを理由に容易想到性を肯定したが、当業者は、記載されていないものからは
何らの情報を引き出すことはできないから、本件決定による相違点6に係る容易
想到性の判断には誤りがある。
以上のとおり、本件決定は、本件訂正発明3の進歩性判断を誤っている。
10 4 取消事由4(本件訂正発明4及び5の進歩性判断の誤り)
本件訂正発明4及び5と甲2発明とは、上記相違点1から6までにおいて相違
するところ、前記1から3までのとおり、本件決定による相違点1から6までに
係る容易想到性の判断にはいずれも誤りがある。
また、本件決定は、本件訂正発明4と甲2発明との相違点7(本件決定26頁)
15 及び本件訂正発明5と甲2発明との相違点8(同27頁)について、甲2発明の
アンカーコートに甲1記載事項のものを採用した上で、更に周知技術1(本件決
定19頁)を組み合わせて容易想到性を肯定しているが、このような論理付けは、
いわゆる「容易の容易」の論理であって、容易想到性の判断としては誤っている。
加えて、甲2発明に組み合わせるべき周知技術は、アンカーコート層の樹脂組
20 成物を特定するために利用されるものであるから、ポリエチレンテレフタレート
フィルムとハードコートとの密着性及び接着性を確保するのに資する樹脂組成
物に関する周知技術でなくてはならない。しかし、本件決定が周知技術1の認定
に用いた甲6及び7は、いずれもこのような密着性及び接着性を確保するのに資
する樹脂組成物についてのものではないから、本件決定が認定した周知技術1は
25 存在しない。
したがって、本件決定による相違点7及び8に係る容易想到性の判断には誤り
がある。
以上のとおり、本件決定は、本件訂正発明4及び5の進歩性判断を誤っている。
5 取消事由5(本件訂正発明6の進歩性判断の誤り)
本件訂正発明6と甲2発明とは、上記相違点1から8までにおいて相違すると
5 ころ、前記1から4までのとおり、本件決定による相違点1から8までに係る容
易想到性の判断にはいずれも誤りがある。
また、本件決定は、本件訂正発明6と甲2発明との相違点9(本件決定28頁)
について、甲2発明のアンカーコートに甲1記載事項のものを採用し、周知技術
1を組み合わせた上で、更に周知技術2(本件決定19~20頁)を組み合わせ
10 て容易想到性を肯定しているが、このような論理付けは、いわゆる「容易の容易」
の論理であって、容易想到性の判断としては誤っている。
加えて、甲2発明に組み合わせるべき周知技術は、アンカーコート層の樹脂組
成物を特定するために利用されるものであるから、ポリエチレンテレフタレート
フィルムとハードコートとの密着性及び接着性を確保するのに資する樹脂組成
15 物に関する周知技術でなくてはならない。しかし、本件決定が認定した周知技術
1が存在しないことは前記4のとおりであるし、本件決定が周知技術2の認定に
用いた甲6及び7は、このような密着性及び接着性を確保するのに資する樹脂組
成物についてのものではないから、本件決定が認定した周知技術2も存在しな
い。
20 したがって、本件決定による相違点9に係る容易想到性の判断には誤りがあ
る。
以上のとおり、本件決定は、本件訂正発明6の進歩性判断を誤っている。
6 取消事由6(本件訂正発明7の進歩性判断の誤り)
本件訂正発明7と甲2発明とは、上記相違点1から9までにおいて相違すると
25 ころ、前記1から5までのとおり、本件決定による相違点1から9までに係る容
易想到性の判断にはいずれも誤りがある。
また、本件決定は、本件訂正発明7と甲2発明との相違点10(本件決定28
頁)について、甲2発明のアンカーコートに甲1記載事項のものを採用した上で、
更に周知技術3(本件決定20頁)を組み合わせて容易想到性を肯定しているが、
このような論理付けは、いわゆる「容易の容易」の論理であって、容易想到性の
5 判断としては誤っている。
加えて、甲2発明に組み合わせるべき周知技術は、アンカーコート層の樹脂組
成物を特定するために利用されるものであるから、ポリエチレンテレフタレート
フィルムとハードコートとの密着性及び接着性を確保するのに資する樹脂組成
物に関する周知技術でなくてはならない。しかし、本件決定が周知技術3の認定
10 に用いた甲4、6及び7は、このような密着性及び接着性を確保するのに資する
樹脂組成物についてのものではないから、本件決定が認定した周知技術3は存在
しない。
したがって、本件決定による相違点10に係る容易想到性の判断には誤りがあ
る。
15 以上のとおり、本件決定は、本件訂正発明7の進歩性判断を誤っている。
7 取消事由7(本件訂正発明9及び10の進歩性判断の誤り)
本件訂正発明9及び10と甲2発明とは、少なくとも上記相違点1から10ま
でにおいて相違するところ、前記1から6までのとおり、本件決定による相違点
1から10までに係る容易想到性の判断はいずれも誤っているから、本件決定
20 は、本件訂正発明9及び10の進歩性判断を誤っている。
8 取消事由8(理由付記義務違反)
本件決定は、主引用発明である甲2発明の必須の構成を失わせてまで甲1記載
事項を適用する動機付けを具体的に説明しないほか、容易想到性の判断において
特段の根拠を示していないなど、特許を取り消す決定に一般的に求められる具体
25 的理由を付すべき義務に違反しており(特許法120条の6第1項4号)、その
程度は著しいというべきであるから、本件決定は取り消されるべきである。
第4 被告の反論
1 取消事由1(本件訂正発明1の進歩性判断の誤り)について
(1) 相違点2の検討について
ア 最大吸収波長の観点について
5 原告は、相違点2に関し、本件決定が、甲2発明におけるアンカーコート
層を甲1に記載された「紫外線吸収層(A)」と置き換えることが容易であ
る旨判断したという前提で主張しているが、本件決定はそのような判断はし
ていない。本件決定は、甲2発明におけるアンカーコートの紫外線吸収剤と
して、甲1記載事項の「2-(2’-ヒドロキシ-5’-メタクリロキシエ
10 チルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール(30wt%)共重合メチルメ
タクリレート」のようなベンゾトリアゾール系紫外線吸収モノマー共重合ア
クリル樹脂を採用することは容易であると判断したものである。
塗膜を形成する塗料に紫外線吸収剤を配合するとブリードアウトの問題
が生じることや、紫外線吸収能を有する有機骨格を持つ重合体を用いてこれ
15 を解決できることは、いずれも本件優先日当時公知であったところ、当業者
は、甲2発明においてもこのような課題が内在していることを認識できるか
ら、甲2発明に、
「2-(2’-ヒドロキシ-5’-メタクリロキシエチルフ
ェニル)-2H-ベンゾトリアゾール(30wt%)共重合メチルメタクリ
レート」のようなベンゾトリアゾール系紫外線吸収モノマー共重合アクリル
20 樹脂を採用することは十分に動機付けられる。
そして、甲2発明のアンカーコート層に含ませる紫外線吸収剤の最大吸収
波長は360nm以上400nm以下とされているから、当業者は、紫外線
吸収剤としてベンゾトリアゾール系紫外線吸収モノマー共重合アクリル樹
脂を採用するに際し、甲1吸収剤の最大吸収波長が上記範囲内になければ、
25 これを採用しないのは当然である。最大吸収波長が360nm以上400n
m以下の範囲内にあるベンゾトリアゾール系紫外線吸収モノマー共重合ア
クリル樹脂も知られているから(乙10。なお、乙10は、本訴訟において
新たな副引用例として主張するものではない。)、甲1吸収剤の最大吸収波長
が甲1からは分からず、また、甲1吸収剤の最大吸収波長が約300nmで
あるとしても、甲2発明における紫外線吸収剤として、ベンゾトリアゾール
5 系紫外線吸収モノマー共重合アクリル樹脂を採用する動機付けがないとい
うことにはならない。
イ 接着性を担う機能の観点について
上記アのとおり、本件決定は、甲2発明におけるアンカーコート層を甲1
に記載された「紫外線吸収層(A)」に置き換えることが容易であるとは判
10 断していないから、原告の主張は本件決定を正解しないものであり、前提を
欠いて失当である。
仮に原告の主張を前提としても、甲1の記載から直ちに「紫外線吸収層
(A)」が接着性を有しないとは断言できず、むしろ、屋外用途の積層フィ
ルムが有すべき通常の接着性を有するものとみるべきであるし、甲1から
15 「2-(2’-ヒドロキシ-5’-メタクリロキシエチルフェニル)-2H
-ベンゾトリアゾール(30wt%)共重合メチルメタクリレート」以外の
具体的な化合物が特定できないとしても、当業者であれば、当然、通常の積
層フィルムに使用する「変性飽和ポリエステル樹脂」や「メチル化メラミン
樹脂」を使用するということができるから、甲2発明に甲1記載事項を適用
20 する動機付けが認められるというべきである。
(2) 相違点1の検討について
甲2発明は、ポリエチレンテレフタレートフィルム、アンカーコート層及び
ハードコート層の全てに紫外線吸収剤を配合するとともに、該アンカーコート
層及びハードコート層の紫外線吸収剤の最大吸収波長を各層で特定範囲に設
25 定し、かつ該ハードコート層における紫外線吸収剤を樹脂成分と結合させるこ
とによって、紫外線の吸収特性、熱線の吸収特性、耐傷付き性、透明性、耐候
性、塗膜密着性に優れるガラス外貼り用フィルムを提供するという目的を達す
るものであるから、ハードコート層における樹脂成分が有機無機複合体である
ことを必須の構成とするものではない。
したがって、ハードコート層の樹脂成分として有機無機複合体を採用するこ
5 とは、任意付加的な事項にすぎないというべきである。
(3) 本件訂正発明1についての小括
以上のとおり、本件訂正発明1は、本件優先日当時、当業者が甲2発明に基
づいて容易に発明をすることができたものである。本件決定に取り消されるべ
き誤りはない。
10 2 取消事由2(本件訂正発明2の進歩性判断の誤り)について
原告は、本件決定が、相違点3及び4について何らの理由を示すことなく容易
想到性を肯定したとするが、甲2には、ガラス外貼り用フィルムの透明性を優れ
たものとするため可視光線透過率が大きい方が好ましいこと、また、紫外線吸収
特性を優れたものとするために紫外線透過率が小さい方が好ましいことが記載
15 されており、本件決定は、これらの記載に基づいて容易想到性を肯定したもので
ある。
また、積層体における可視光線透過率80%以上という構成は特殊なものでな
いから、相違点3に係る本件訂正発明2の構成は設計事項にすぎない。
さらに、相違点4及び5に係る原告の主張は、甲2発明のアンカーコート層を
20 甲1に記載された「紫外線吸収層(A)」と置き換えることを前提とした主張で
あるところ、その前提が誤っていることは前記1(1)のとおりである。
よって、本件決定による本件訂正発明2の進歩性判断に誤りはない。
3 取消事由3(本件訂正発明3の進歩性判断の誤り)
原告は、本件決定による相違点6の判断につき、甲2にはハードコート層に無
25 機粒子を含むことについての記載がなく、当業者は、記載されていないものから
は何らの情報を引き出すことはできないとして、容易想到性を肯定したことを論
難する。
しかし、ハードコートには無機粒子を必ず配合するという技術常識が存在する
ことも特に確認できないから、甲2発明のハードコート層につき無機粒子を含ま
ないとすることに格別の困難性はないとした本件決定による本件訂正発明3の
5 進歩性判断に誤りはない。
4 取消事由4(本件訂正発明4及び5の進歩性判断の誤り)
原告は、本件決定が甲2発明のアンカーコート層を甲1に記載された「紫外線
吸収層(A)」に置き換えることが容易であると判断したことを前提として、こ
れに周知技術1を組み合わせることは、
「容易の容易」に当たるなどと主張する。
10 しかし、前記1(1)のとおり、本件決定は、甲2発明において、紫外線吸収剤
として、紫外線吸収構造としてのベンゾトリアゾール骨格を有するベンゾトリア
ゾール系紫外線吸収モノマー共重合アクリル樹脂を採用することが容易である
と判断したものである。
そして、そのような樹脂として、周知技術1に係る周知の重合体を採用し(相
15 違点7)、その構成割合をどのようにするかを決めること(相違点8)は、当業者
の通常の創作能力の発揮というべきであって、「容易の容易」には当たらない。
なお、原告は、本件決定が周知技術1の認定に用いた甲6及び7は、密着性と
接着性を確保するのに資する樹脂組成物に係るものではないと主張するが、本件
決定は、周知技術1として、単にコーティング組成物に含まれる紫外線吸収性重
20 合体の構成自体を認定したにすぎず、密着性や接着性を確保する点まで含めて周
知技術として認定したものではない。
よって、本件決定による本件訂正発明4及び5の進歩性判断に誤りはない。
5 取消事由5(本件訂正発明6の進歩性判断の誤り)
原告は、本件訂正発明6についても、本件決定は「容易の容易」の論理で判断
25 したとするが、この主張に理由がないことは前記4のとおりである。
そして、甲2発明に甲1記載事項を適用する際に、周知技術1のベンゾトリア
ゾール骨格を有する紫外線吸収性重合体を採用することは当業者の通常の創作
能力の発揮であるところ、
「アルキル(メタ)アクリレート」は、特定の単一化合
物の名称ではなく、その中で「メチル(メタ)アクリレート」や「エチル(メタ)
アクリレート」は周知技術2のとおり周知であるから、これらを採用すること(相
5 違点9)は当業者にとって容易である。
なお、原告は、周知技術2の認定についても、甲6及び7が密着性及び接着性
を確保するのに資する樹脂組成物に係るものではないと主張するが、本件決定
は、周知技術2として、単にアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位
として特定のものが周知であることを認定したにすぎず、密着性及び接着性を確
10 保する点まで含めて周知技術として認定したものではない。
よって、本件決定による本件訂正発明6の進歩性判断に誤りはない。
6 取消事由6(本件訂正発明7の進歩性判断の誤り)
原告は、本件訂正発明7についても、本件決定は「容易の容易」の論理で判断
したとするが、この主張に理由がないことは前記4のとおりである。
15 そして、甲2発明におけるアンカーコート層に、甲1に記載されたベンゾトリ
アゾール系紫外線吸収モノマー共重合体アクリル樹脂を含有させるのとは別に、
紫外線吸収性樹脂層の成分として「1分子中に2個以上のイソシアネート基を有
する化合物」を含有させることは周知技術3のとおり周知であるから、これを採
用すること(相違点10)は当業者にとって容易である。
20 なお、原告は、周知技術3の認定についても、甲4、6及び7が密着性及び接
着性を確保するのに資する樹脂組成物に係るものではないと主張するが、本件決
定は、周知技術3として、紫外線吸収性樹脂層の成分として1分子中に2個以上
のイソシアネート基を有する化合物が周知であることを認定したにすぎず、密着
性及び接着性を確保する点まで含めて周知技術として認定したものではない。
25 よって、本件決定による本件訂正発明7の進歩性判断に誤りはない。
7 取消事由7(本件訂正発明9及び10の進歩性判断の誤り)
既に述べたとおり、相違点1~10に係る本件決定の判断に誤りはないから、
本件決定による本件訂正発明9及び10の進歩性判断に誤りはない。
8 取消事由8(理由付記義務違反)
特許法120条の6第1項4号の「決定の理由」とは、最終的な結論を導き出
5 すのに必要な限度で示されるものであり、判断の過程において認定される全ての
事実についてそれぞれ根拠を示さなくてはならないものではない。本件決定は、
結論を導出するために必要な理由を構成し、引用文献の内容を具体的に摘記した
上で検討しているから、原告が主張するような理由付記義務違反はない。
第5 当裁判所の判断
10 1 取消事由1(本件訂正発明1の進歩性判断の誤り)について
(1) 本件訂正発明1
本件訂正発明1は、次のとおりである(甲8、9)。
「実使用状態において太陽光が入射する側の表面から順に、ハードコート、
アンカーコート、及び樹脂フィルムの層を有し;上記ハードコートは、実使用
15 状態において太陽光が入射する側の表面を形成し、上記ハードコートは、1分
子中にベンゾトリアゾール骨格、トリアジン骨格、及びベンゾフェノン骨格か
らなる群から選択される1種以上の骨格を1個以上有する(メタ)アクリレー
トに由来する構成単位を、全構成モノマーに由来する構成単位の総和を100
モル%として、1モル%以上の量で含む(A)重合体を含む第1の塗料からな
20 り(但し、上記ハードコートから、樹脂成分として有機骨格に無機成分が結合
した有機無機複合体を含むものを除く);上記アンカーコートは、1分子中に
ベンゾトリアゾール骨格、トリアジン骨格、及びベンゾフェノン骨格からなる
群から選択される1種以上の骨格を1個以上有する(メタ)アクリレートに由
来する構成単位を、全構成モノマーに由来する構成単位の総和を100モル%
25 として、1モル%以上の量で含む(P)重合体を含む第2の塗料からなり;こ
こで、上記(P)重合体から、反応性シリル基を有するモノマーを、全モノマ
ー成分を100質量%として、50~90質量%の量で重合してなるものを除
くものとする、ハードコート積層フィルム。」
(2) 甲2発明
本件優先日前に出願公開された甲2(特開2013-216774号公報)
5 には、本件決定が認定したとおりの甲2発明が記載されていると認められる
(前記第2の3(1)参照)。
(3) 本件訂正発明1と甲2発明との対比
本件訂正発明1と甲2発明とを対比すると、本件決定が認定したとおりの一
致点並びに相違点1及び2が認められる(前記第2の3(2)参照)。
10 (4) 相違点2についての検討
ア 甲2の記載
甲2には、要旨、次の記載がある。
(ア) 本発明は、屋外側のガラス表面に貼着するガラス外貼り用フィルムに関
する。(〔0001〕)
15 (イ) 従来、紫外線や赤外線の屋内への侵入を防ぐために、ガラス表面に紫外
線や赤外線を遮へいする機能を持たせたフィルムを施工する方法が採用
されている。このようなフィルムは、直接太陽光を受けて劣化が早まるこ
とを防ぐため、屋内側のガラス表面に貼着するのが一般的である。施工作
業の都合上、屋外側のガラス表面に貼着するフィルムの要望が高まってい
20 るが、期待するほどの紫外線吸収効果、熱吸収効果がみられず、耐傷付き
性、飛散防止性、透明性、耐候性、塗膜密着性にも改善の余地があった。
(〔0002〕~〔0005〕)
(ウ) 本発明の目的は、上記の従来の課題を解決し、紫外線の吸収特性、熱線
の吸収特性、耐傷付き性、透明性、耐候性、塗膜密着性に優れるガラス外
25 貼り用フィルム及びその製造方法を提供することにある。(〔0007〕)
(エ) 課題を解決するための手段として、本発明の発明者は、ポリエチレンテ
レフタレートフィルムの一方の面にアンカーコート層及びハードコート
層を積層し、他方の面に熱線吸収剤を含む裏面コート層及び粘着層を積層
し、該ポリエチレンテレフタレートフィルム、アンカーコート層及びハー
ドコート層の全てに紫外線吸収剤を配合するとともに、該アンカーコート
5 層及びハードコート層の紫外線吸収剤の最大吸収波長を各層で特定範囲
に設定し、かつ該ハードコート層における紫外線吸収剤を樹脂成分と結合
させることによって、上記課題を解決できることを見いだした。
本発明は、屋外側のガラス表面に貼着するガラス外貼り用フィルムであ
って、紫外線吸収剤を含むポリエチレンテレフタレートフィルムの一方の
10 面に、最大吸収波長が360nm以上400nm以下である紫外線吸収剤
を含むアンカーコート層と、最大吸収波長が200nm以上360nm未
満である紫外線吸収剤及び樹脂成分を含むハードコート層とがこの順で
積層され、前記ポリエチレンテレフタレートフィルムの他方の面に、熱線
吸収剤を含む裏面コート層及び粘着層がこの順で積層されてなり、前記ハ
15 ードコート層における紫外線吸収剤が、前記樹脂成分と結合してなること
を特徴とするガラス外貼り用フィルムである。
(〔0008〕~〔0009〕)
(オ) 本発明によれば、紫外線の吸収特性、熱線の吸収特性、耐傷付き性、飛
散防止性、透明性、耐候性、塗膜密着性に優れるガラス外貼り用フィルム
を得ることができる。(〔0010〕)
20 (カ) 発明を実施するための形態のうち、アンカーコート層は、最大吸収波長
が360nm以上400nm以下である紫外線吸収剤を含むコート層で
ある。
アンカーコート層に用いる紫外線吸収剤としては、最大吸収波長が36
0nm以上400nm以下であるものの中から適宜選択すればよいが、ベ
25 ンゾフェノン系が好ましく、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、2,
4-ジヒドロキシ-ベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-ベ
ンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシ-ベンゾフェノン、
2-ヒドロキシ-4-ドデシロキシ-ベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-
4-オクタデシロキシ-ベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4-
メトキシ-ベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメト
5 キシ-ベンゾフェノン、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシ-ベンゾフ
ェノン等が挙げられる。(〔0015〕)
イ 検討
原告は、相違点2について、甲2発明においてアンカーコート層に含ませ
る紫外線吸収剤の最大吸収波長が「360nm以上400nm以下」である
10 ことは必須の構成であり、これを失わせることは甲2発明の目的を失わせる
ものであるから、当業者は、最大吸収波長の数値範囲を必須の構成とする甲
2発明に、最大吸収波長の記載がない甲1吸収剤を採用しようと試みること
はないから、甲2発明に甲1記載事項を適用する動機付けはないと主張する。
そこで検討すると、上記アに認定した甲2の記載によると、次の点を指摘
15 することができる。
すなわち、甲2発明は、紫外線の吸収特性、熱線の吸収特性、耐傷付き性、
透明性、耐候性、塗膜密着性に優れるガラス外貼り用フィルムを提供するこ
とを課題とし、これを解決するため、ポリエチレンテレフタレートフィルム
の一方の面にアンカーコート層及びハードコート層を積層し、他方の面に熱
20 線吸収剤を含む裏面コート層及び粘着層を積層したガラス外貼り用フィル
ムにおいて、ポリエチレンテレフタレートフィルム、アンカーコート層及び
ハードコート層の全てに紫外線吸収剤を配合するとともに、紫外線吸収剤の
最大吸収波長を各層で特定範囲、具体的には、アンカーコート層において3
60nm以上400nm以下、ハードコート層において200nm以上36
25 0nm未満に設定し、かつ、ハードコート層において紫外線吸収剤が樹脂成
分と結合してなる構成としたものである。
ここで、甲2には、アンカーコートに用いる紫外線吸収剤としては、最大
吸収波長が360nm以上400nm以下であるものの中から適宜選択す
ればよいが、ベンゾフェノン系が好ましい旨が記載されている。
他方、甲1には、実施例として、ポリエチレンテレフタレートフィルムの
5 片面にA層(紫外線吸収層)及びB層(耐候性表面硬度化層)を順に積層し、
A層の塗料組成物として「2-(2’-ヒドロキシ-5’-メタクリロキシ
エチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール(30wt%)共重合メチル
メタクリレート」(これは、相違点2に係る本件訂正発明1の「ベンゾトリ
アゾール骨格、トリアジン骨格、及びベンゾフェノン骨格からなる群から選
10 択される1種以上の骨格を1個以上有する(メタ)アクリレートに由来する
構成単位」に当たる。)が含まれる構成の光触媒コート用積層フィルムが記
載されているが、甲1には、紫外線吸収剤に相当する「2-(2’-ヒドロ
キシ-5’-メタクリロキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール」
(甲1吸収剤)の最大吸収波長を読み取ることができる記載はない。
15 そうすると、アンカーコートに用いる紫外線吸収剤として、最大吸収波長
が360nm以上400nm以下であるものの中から適宜選択すればよい
とされる甲2発明に接した当業者が甲1の記載に接したとしても、最大吸収
波長が明らかではない甲1吸収剤を、甲2発明のアンカーコートに用いる紫
外線吸収剤として採用する動機付けがあるとはいえず、これを左右する技術
20 常識等も認められない。
よって、当業者が、本件優先日当時、甲2発明及び甲1の記載に基づいて、
相違点2に係る本件訂正発明1の構成に容易に想到できたということはで
きず、これを容易に想到できるとした本件決定には誤りがある。
(5) 被告の主張について
25 ア 被告は、本件決定が、甲2発明におけるアンカーコートの紫外線吸収剤と
して、甲1記載事項の「2-(2’-ヒドロキシ-5’-メタクリロキシエ
チルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール(30wt%)共重合メチルメ
タクリレート」のようなベンゾトリアゾール系紫外線吸収モノマー共重合ア
クリル樹脂を採用することは容易に想到できたと判断したものである旨を
主張し、原告の主張の前提を争うほか、甲2発明と甲1記載事項から、相違
5 点2に係る本件訂正発明1の構成に容易に想到し得た旨を主張する。
しかし、相違点2に係る本件決定の判断は、前記第2の3(5)のとおり、
「甲2発明におけるアンカーコートとして甲1記載事項のものを採用する
ことは、当業者が容易に想到できた」というものである。そして、ここで甲
1記載事項とは、前記第2の3(3)のとおり、ポリエチレンテレフタレート
10 フィルムの外面に紫外線吸収層(A)層と紫外線吸収層を兼ねた耐候性表面
硬度化層(B)層を形成した積層フィルムにおける(A)層の塗料組成物に
関する事項であり、当該塗料組成物が、
「2-(2’-ヒドロキシ-5’-メ
タクリロキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール(30wt%)
共重合メチルメタクリレート95部、変性飽和ポリエステル樹脂4部、メチ
15 ル化メラミン樹脂1部を含有すること」を述べるものである。しかるところ、
本件決定には、甲2発明における「紫外線吸収剤」として、甲1記載事項の
うち紫外線吸収剤に相当する「2-(2’-ヒドロキシ-5’-メタクリロ
キシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール」(甲1吸収剤)のよう
なものを採用するとか、「ベンゾトリアゾール系紫外線吸収モノマー共重合
20 アクリル樹脂」を採用するなどの記載は見られないのであって、このような
理由の記載のみから、本件決定が、甲2発明におけるアンカーコートの紫外
線吸収剤として、
「2-(2’-ヒドロキシ-5’-メタクリロキシエチルフ
ェニル)-2H-ベンゾトリアゾール(30wt%)共重合メチルメタクリ
レート」のようなベンゾトリアゾール系紫外線吸収モノマー共重合アクリル
25 樹脂を採用することは容易に想到できた旨の理由が記載されていると読み
取ることは困難である。
この点を措くとしても、甲2には、アンカーコート層に用いる紫外線吸収
剤としては、最大吸収波長が360nm以上400nm以下であるものの中
から適宜選択すればよいが、ベンゾフェノン系が好ましい旨が記載されてい
るところ、そのような甲2発明につき、最大吸収波長が甲1の記載からは明
5 らかではなく、かつ、ベンゾフェノン系でもないベンゾトリアゾール系紫外
線吸収モノマー共重合アクリル樹脂を採用する動機付けがいかなる理由に
より認められるのかに関して、本件決定の論理は不明瞭というほかない。
したがって、被告の上記主張は採用することができない。
イ 被告は、塗膜を形成する塗料に紫外線吸収剤を配合するとブリードアウト
10 の問題が生じることや、紫外線吸収能を有する有機骨格を持つ重合体を用い
てこれを解決できることは、いずれも本件優先日当時公知であったところ、
当業者は、甲2発明においてもこのような課題が内在していることを認識で
きるから、甲2発明に、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収モノマー共重合ア
クリル樹脂を採用することは十分に動機付けられると主張する。
15 しかし、そもそも本件決定にはそのような理由が記載されていない上に、
仮にそのような課題とその解決手段が公知であったとしても、被告の主張は、
あえてベンゾトリアゾール系紫外線吸収モノマー共重合アクリル樹脂を採
用する理由を説明できていない。
したがって、被告の上記主張は採用することができない。
20 ウ 被告は、甲1の「紫外線吸収層(A)」が接着性を有しないとは断言でき
ず、むしろ、屋外用途の積層フィルムが有すべき通常の接着性を有するもの
とみるべきであるし、甲1から「2-(2’-ヒドロキシ-5’-メタクリ
ロキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール(30wt%)共重合
メチルメタクリレート」以外の具体的な化合物が特定できないとしても、当
25 業者であれば、当然、通常の積層フィルムに使用する「変性飽和ポリエステ
ル樹脂」や「メチル化メラミン樹脂」を使用するということができるから、
甲2発明に甲1記載事項を適用する動機付けが認められるとも主張する。
しかし、前記イと同様に、そもそも本件決定にはそのような理由が記載さ
れていない上に、被告の主張は、甲2発明の構成につき別の何らかの構成を
採用する動機付けの論理として成り立っていない。
5 したがって、被告の上記主張は採用することができない。
(6) 小括
以上によると、本件決定には相違点2に係る容易想到性の判断に誤りがあっ
て、この誤りは本件決定の結論に影響を及ぼすものであるから、本件訂正発明
1と甲2発明との相違点1について検討するまでもなく、本件決定には取り消
10 されるべき違法がある。原告の主張する取消事由1には理由がある。
2 取消事由2から7まで(本件訂正発明2から7まで、9及び10の進歩性判断
の誤り)について
本件訂正発明2から7まで、9及び10と甲2発明とを対比すると、いずれも
上記相違点2において相違することが認められる。そして、本件決定による相違
15 点2に係る容易想到性についての判断が誤っており、この誤りが本件決定の結論
に影響することは、前記1のとおりである。
したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、原告主張の取消事
由2から7までには理由がある。
3 結論
20 以上によると、その余の取消事由について判断するまでもなく、本件決定のうち、
特許第7353441号の請求項1から7まで、9及び10に係る特許を取り消した
部分には、取り消されるべき違法がある。
よって、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官
増 田 稔
裁判官
10 伊 藤 清 隆

15 裁判官
天 野 研 司

(別紙)
本件訂正後の特許請求の範囲の記載
【請求項1】
実使用状態において太陽光が入射する側の表面から順に、ハードコート、アンカーコ
5 ート、及び樹脂フィルムの層を有し;
上記ハードコートは、実使用状態において太陽光が入射する側の表面を形成し、
上記ハードコートは、1分子中にベンゾトリアゾール骨格、トリアジン骨格、及びベ
ンゾフェノン骨格からなる群から選択される1種以上の骨格を1個以上有する(メタ)
アクリレートに由来する構成単位を、全構成モノマーに由来する構成単位の総和を1
10 00モル%として、1モル%以上の量で含む(A)重合体を含む第1の塗料からなり
(但し、上記ハードコートから、樹脂成分として有機骨格に無機成分が結合した有機
無機複合体を含むものを除く);
上記アンカーコートは、1分子中にベンゾトリアゾール骨格、トリアジン骨格、及び
ベンゾフェノン骨格からなる群から選択される1種以上の骨格を1個以上有する(メ
15 タ)アクリレートに由来する構成単位を、全構成モノマーに由来する構成単位の総和
を100モル%として、1モル%以上の量で含む(P)重合体を含む第2の塗料から
なり;
ここで、上記(P)重合体から、反応性シリル基を有するモノマーを、全モノマー成
分を100質量%として、50~90質量%の量で重合してなるものを除くものとす
20 る、
ハードコート積層フィルム。
【請求項2】
下記特性(イ)、(ロ)、及び(ニ)を満たす、請求項1に記載のハードコート積層
フィルム。
25 (イ)可視光線透過率が80%以上である。
(ロ)紫外線透過率が1%以下である。
(ニ)JIS A5759:2016の6.10耐候性に準拠し、JIS B775
3:2007に規定されるサンシャインカーボンアーク灯式耐候性試験機を使用し、
試験片をハードコート積層フィルムのハードコート側の面が照射面となるようにセ
ットし、JIS A5759:2016の6.10耐候性の表11に示される条件で
5 1000時間の促進耐候性処理をした後、碁盤目試験を、JIS K5600-5-
6:1999に従い、促進耐候性処理後のハードコート積層フィルムにハードコート
面側から碁盤目の切れ込みを入れて行ったとき分類4、分類3、分類2、分類1又は
分類0である。
【請求項3】
10 上記ハードコートが、上記(A)重合体を含み、かつ無機粒子を含まない塗料からな
る;請求項1又は2に記載のハードコート積層フィルム。
【請求項4】
上記第2の塗料が含む上記(P)重合体が、
(p1)1分子中にベンゾトリアゾール骨格、トリアジン骨格、及びベンゾフェノン
15 骨格からなる群から選択される1種以上の骨格を1個以上有する(メタ)アクリレー
トに由来する構成単位;
(p2)アルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位;及び、
(p3)水酸基含有(メタ)アクリレートに由来する構成単位;
を含む、請求項1~3の何れか1項に記載のハードコート積層フィルム。
20 【請求項5】
上記第2の塗料が含む上記(P)重合体が、
全構成モノマーに由来する構成単位の総和を100モル%として、
(p1)1分子中にベンゾトリアゾール骨格、トリアジン骨格、及びベンゾフェノン
骨格からなる群から選択される1種以上の骨格を1個以上有する(メタ)アクリレー
25 トに由来する構成単位 1~50モル%;
(p2)アルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位 30~95モル%;及
び、
(p3)水酸基含有(メタ)アクリレートに由来する構成単位 1~50モル%;
を含む、請求項1~4の何れか1項に記載のハードコート積層フィルム。
【請求項6】
5 上記(p2)アルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位が、メチル(メタ)
アクリレートに由来する構成単位、又はエチル(メタ)アクリレートに由来する構成
単位を含む請求項4又は5の何れか1項に記載のハードコート積層フィルム。
【請求項7】
上記第2の塗料が、更に1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物を、
10 上記第2の塗料が含む上記(P)重合体100質量部に対して、1~50質量部含む
請求項1~6の何れか1項に記載のハードコート積層フィルム。
【請求項8】
上記ハードコートが、上記(A)重合体、及び多官能(メタ)アクリレートを含む上
記第1の塗料からなり、ここで上記(A)重合体は、更に、(a2)アルキル(メタ)
15 アクリレートに由来する構成単位、及び(a3)1分子中に1個以上のイソシアネー
ト基を有する化合物に由来する構成単位を含む、請求項1~7の何れか1項に記載の
ハードコート積層フィルム。
【請求項9】
請求項1~8の何れか1項に記載のハードコート積層フィルムを含むガラス外貼り
20 用フィルム。
【請求項10】
請求項1~8の何れか1項に記載のハードコート積層フィルムの有する樹脂フィル
ムの層のハードコートが形成される側の面とは反対側の面の上に粘着剤層を有し;
上記粘着剤層が、上記粘着剤層のベース樹脂100質量部に対して、紫外線吸収剤0.
25 01~50質量部を含む;ガラス外貼り用フィルム。
以 上

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