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令和7(ネ)10061損害賠償請求控訴事件

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裁判所 控訴棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和8年1月27日
事件種別 民事
法令 著作権
キーワード 侵害10回
損害賠償2回
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴人が当審で追加した請求を棄却する。
3 当審における訴訟費用は、全て控訴人の負担とする。
事件の概要 判決中の「原告」、「被告」はそれぞれ「控訴人」、「被控訴人」に読み替え る。)

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判決文

令和8年1月27日判決言渡
令和7年(ネ)第10061号 損害賠償請求控訴事件(原審・東京地方裁判所令
和6年(ワ)第70505号)
口頭弁論終結日 令和7年12月15日
5 判 決
控 訴 人 X
同訴訟代理人弁護士 野 口 明 男
同 藤 井 智 裕
10 同 福 田 正 樹
同 山 下 晃 生
同 犬 塚 敦 也
同 渡 邉 暉 文
15 被 控 訴 人 Y
主 文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴人が当審で追加した請求を棄却する。
3 当審における訴訟費用は、全て控訴人の負担とする。
20 事 実 及 び 理 由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を次のとおり変更する。
2 被控訴人は、控訴人に対し、235万9066円及びこれに対する令和4年
6月13日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
25 3(当審における追加請求)
被控訴人は、控訴人に対し、55万円及びこれに対する令和7年5月12日
から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要(略称等は、特に断らない限り、原判決の表記による。また、原
判決中の「原告」、「被告」はそれぞれ「控訴人」、「被控訴人」に読み替え
る。)
5 1 本件の原審段階における請求は、控訴人が、被控訴人に対し、被控訴人がイ
ンスタグラム(インターネットを利用して画像等を投稿することができるソー
シャルネットワーキングサービス(SNS)の一つ。)において原判決別紙投稿
記事目録記載の投稿(本件投稿)をしたことにより、原判決別紙動画目録記載
の動画に係る控訴人の著作権(複製権及び公衆送信権)及び著作者人格権(氏
10 名表示権)が侵害されたと主張し、不法行為に基づく損害賠償請求として、2
35万9066円及びこれに対する不法行為の後の日である令和4年6月1
3日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による金員の支払を
求めていたものである(以下、この請求を「請求1」という。)。
原判決は、被控訴人は、本件投稿により、控訴人の本件動画に係る著作権(複
15 製権及び公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害したものと認め
られるとして、控訴人の請求のうち、47万9000円及びこれに対する令和
4年6月13日から支払済みまで年3パーセントの割合による遅延損害金の支
払を求める限度で認容し、その余の請求を棄却した。
控訴人は、原判決のうち控訴人敗訴部分を不服として控訴し、被控訴人は控
20 訴も附帯控訴もしなかった。
控訴人は、当審において、被控訴人が控訴人の人格的価値について有する主
観的な評価を踏みにじる内容の記載を含む文章を控訴人代理人弁護士に送付し、
これにより控訴人の名誉感情を侵害したと主張して、被控訴人に対し、不法行
為に基づき、損害金55万円及びこれに対する不法行為の日である令和7年5
25 月12日から支払済みまで年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求
める請求を追加した(以下、この請求を「請求2」という。)。被控訴人は、こ
の当審における追加的請求である請求2に対し、異議なく応訴し、反論の主張
をした。
2 前提事実、請求1に係る争点及び争点に対する当事者の主張は、後記3のと
おり控訴人の当審における請求1に関する補充主張を付加するほか、原判決
5 「事実及び理由」
(以下、
「事実及び理由」の記載を省略する。)第2の2及び3
(2頁6行目から3頁11行目まで)記載のとおりであるから、これを引用す
る。また、請求2に係る控訴人の主張及び被控訴人の反論は、後記4のとおり
である。
3 当審における控訴人の請求1に関する補充主張
10 ⑴ 本件動画は、控訴人が筋痛性脳脊髄炎、甲状腺機能低下症、若年性更年期
障害を患い、しばらく寝たきりの状態であったところから何とか回復し、ミ
セス・グローバル・アース日本大会でもグランプリを獲得するなど、必死に
あきらめずに努力してきた控訴人のそれまでの人生を振り返り、第二の人生
の幕開けという控訴人の思いを込めたものである。被控訴人は本件画像をイ
15 ンターネット上に公開し続け、利用し続けている。そのため、控訴人が著作
権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額は、月額5000円が相当
である。
⑵ 被控訴人は、本件投稿において、控訴人の著作者名を表示せずに、無断で
控訴人の著作物を掲載した本件投稿をインターネット上に投稿し、公衆への
20 提供を行っているのみならず、コメント欄には控訴人を侮辱する内容が掲載
されている。
また、被控訴人は、本件訴訟係属中にも、本件画像について控訴人を揶揄
する記載をした投稿をインターネット上に行っている(甲13)。
なお、原審口頭弁論終結後、被控訴人は、後記4⑴に挙げた行為(「本件投
25 稿2」)に及んでいる。
これらの事情を勘案すると、著作者人格権侵害による慰謝料額は80万円
を下らない。
⑶ 本件においては、発信者情報開示命令申立ての制度が創設される前に発信
者情報開示手続を行ったものであり、仮処分命令申立て及び発信者情報開示
請求訴訟と2段階の裁判手続を利用したこともあり、税込み120万460
5 5円の費用は相当に高額とはいえない。
そのため、その全額が本件投稿による不法行為と相当因果関係のある損害
である。
4 請求2(当審で追加された請求)に関する当事者の主張
⑴ 控訴人の主張
10 被控訴人は、本件訴訟係属中であり、原審の口頭弁論終結後である令和7
年5月12日、控訴人代理人の法律事務所に対して、別紙送信記事目録記載
の内容(甲14)をファックスで送信した(以下、被控訴人が送信したファ
ックスを「本件ファックス」という。)。
(判決注:控訴人は、訴えの変更申立
書及び令和7年10月29日付け第2準備書面において、上記ファックスの
15 送信行為を「投稿」であるとし、この行為について「本件投稿2」との略称
を用いているが、ファックスの送信が「投稿」に当たるとは解されないので、
この判決において、以下では、上記略称を用いない。)
本件ファックスは、本件訴訟係属中に控訴人代理人の法律事務所に送付さ
れ、
「X」という控訴人の氏名を記載した表題を付け、さらに本文中には「X」
20 という控訴人の名前、控訴人の顔写真を掲載しており、控訴人を対象として
いると特定することが可能である。
本件ファックスに含まれる記載は、控訴人が精神病に罹っていると指摘し、
さらに本件訴訟を嘲り、控訴人の肖像画像は加工し過ぎていると嘲笑し、控
訴人の容姿や年齢を愚弄し、金に汚いなどとして、控訴人の人格を踏みにじ
25 るものであり、控訴人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について有
する主観的な評価を著しく踏みにじっている。したがって、本件ファックス
の送信は、控訴人の名誉感情を侵害し、社会通念上許される限度を超える侮
辱行為であるから、控訴人の人格的利益を侵害している。
控訴人は被控訴人による本件ファックスの送信により、自身の人格を否定
され、多大な精神的苦痛を受けており、これによる慰謝料は50万円を下ら
5 ない。
また、上記金額の10%相当額である5万円が、被控訴人による本件ファ
ックスの送信と相当因果関係のある弁護士費用の損害として認められるべき
である。
⑵ 被控訴人の主張
10 本件ファックス(甲14)は、控訴人のストーリーを見た友人たちが、ま
た控訴人がストーリーをあげている、と被控訴人に知らせてきたものである。
その中の友人たちとのやり取りを、控訴人代理人弁護士藤井智裕に対し、ま
たストーリーにあげられているから、と注意喚起のもと、友人とのLINE
のやり取りであると伝えてファックスした。このように、ファックスをした
15 意図を控訴人代理人に伝えたにもかかわらず、控訴人の主張書面には「投稿」
と記載している。LINEのやり取りは「投稿」とはいわず、これは事実と
異なることを記載している。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は、控訴人の請求のうち請求1については、原判決と同じく、47
20 万9000円及びこれに対する令和4年6月13日から支払済みまで年3パ
ーセントの割合による金員の支払を求める限度で理由があるから、この限度で
認容し、その余は理由がないから棄却すべきであると判断する。その理由は、
後記2のとおり当審における控訴人の請求1に関する補充主張に対する判断
を付加するほか、原判決第3(3頁12行目から5頁13行目まで)に記載の
25 とおりであるから、これを引用する。
また、当裁判所は、控訴人の請求のうち請求2については、理由がないから
棄却すべきであると判断する。その理由は後記3のとおりである。
2 当審における控訴人の請求1に関する補充主張に対する判断
⑴ 控訴人は、前記第2の3⑴のとおり、本件投稿に関し、控訴人が著作権の
行使につき受けるべき金銭の額に相当する額は、月額5000円が相当であ
5 ると主張する。
しかし、本件動画の制作経過、本件動画の性質及び被控訴人による本件動
画の利用の態様に照らせば、著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当
する額は月額3000円と認めるのが相当であることは、引用した原判決第
3の2⑴の説示のとおりであり、控訴人が前記第2の3⑴に挙げる事情を考
10 慮しても上記判断は左右されない。
したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
⑵ 控訴人は、前記第2の3⑵のとおり、本件投稿による著作者人格権侵害に
係る慰謝料の額は80万円を下らないと主張する。
しかし、本件画像が投稿された被控訴人のインスタグラムアカウントのフ
15 ォロワー数が24人と少数であること、本件画像は本件動画をスクリーンシ
ョットした静止画であって、本件動画のごく一部が用いられたにすぎないこ
となどの事情によれば、著作者人格権による慰謝料額を5万円と認めるのが
相当であることは、引用した原判決第3の2⑵のとおりであり、控訴人が前
記第2の3⑵に挙げる事情を考慮しても上記判断は左右されない。
20 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
⑶ 控訴人は、前記第2の3⑶のとおり、控訴人が発信者情報開示の手続のた
めに支払った費用の全額が、被控訴人の不法行為と相当因果関係のある控訴
人の損害であると主張する。
しかし、控訴人が前記第2の3⑶で挙げる事情は、いずれも、控訴人が発
25 信者情報開示手続に関して支出した費用の全てが被控訴人の不法行為と相当
因果関係を有すると解すべき事情とはいえず、控訴人の主張を考慮しても、
発信者情報開示手続の性質、発信者である被控訴人により侵害されたとする
控訴人の権利の内容を勘案し、控訴人が上記開示手続に関して支出した費用
のうち30万円の範囲で被控訴人の不法行為と相当因果関係のある損害と認
めた、原判決の判断は相当である。
5 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
3 請求2に対する当裁判所の判断
⑴ 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 被控訴人は、令和7年5月12日、本件訴訟の控訴人代理人弁護士らの
所属する弁護士事務所に対し、10枚のファックス(本件ファックス)を
10 送信した。本件ファックスの1枚目には、
「藤井智裕様 X Instagramス
トーリー 2025年5月11日投稿」と記載されていた。藤井智裕は、
本件訴訟の控訴人代理人弁護士の一人である(以下、藤井智裕を「藤井弁
護士」という。)。本件ファックスの2枚目以降は、被控訴人とその知人と
のLINEのやり取りを印刷したものであり、この中には、控訴人がイン
15 スタグラムの「ストーリー」に投稿した内容を、被控訴人の知人がLIN
Eで被控訴人に知らせ、これについてやり取りをしたものが含まれており、
控訴人の上記投稿の画面も表示されている。本件ファックスの2枚目以降
に印刷された被控訴人とその知人とのLINEでのやり取りの中には、別
紙送信記事目録記載の表現が存在する。(甲14)
20 イ 被控訴人は、本件訴訟の原審段階において、控訴人がインスタグラムの
「ストーリー」に投稿した内容が、被控訴人に対する嫌がらせに当たると
いう趣旨の主張をしていた(答弁書(令和7年4月8日裁判所受付のもの)、
第1準備書面(令和7年5月8日裁判所受付))。また、被控訴人は、本件
訴訟の原審段階において、被控訴人とその知人とのLINEでのやり取り
25 を印刷した証拠を提出したが(乙2)、その中には、控訴人がインスタグラ
ムの「ストーリー」その他のSNSにした投稿等の内容を、被控訴人の知
人がLINEで被控訴人に知らせ、これについて被控訴人とその知人とが
やり取りをしたものが含まれていた。
⑵ 他人の名誉感情を侵害する行為については、社会通念上許される限度を超
える侮辱行為と認められる場合、当該他人の人格的利益の侵害が認められ、
5 不法行為が成立し得ると解される。
本件ファックスの送信について検討すると、まず、上記⑴アの認定事実に
よれば、本件ファックスは、藤井弁護士宛であることが明示された表紙を付
けて、藤井弁護士が所属する弁護士事務所に送信されたものである。この表
紙を含め、本件ファックスには、控訴人本人に本件ファックスを見せるよう
10 に求める旨の記載があるとは認められず、被控訴人が、藤井弁護士に対し、
本件ファックスを控訴人本人に見せるように求めたとも認められない。
また、本件ファックスでは、上記表紙に、
「X Instagramストーリー 2
025年5月11日投稿」との記載もされており、2枚目以降における被控
訴人とその知人とのLINEのやり取り中には、控訴人がインスタグラムの
15 「ストーリー」に投稿した内容を、被控訴人の知人がLINEで被控訴人に
知らせるものが含まれており、上記投稿の画面も表示されている。このよう
な本件ファックスの内容は、被控訴人が原審で提出していた乙2の内容(上
記⑴イ)に類似したものといえる。これに加え、上記のとおり本件ファック
スの表紙に記載された宛名が藤井弁護士であることや、被控訴人が控訴人に
20 よるインスタグラムの「ストーリー」への投稿に関して原審で提出していた
主張の内容(上記⑴イ)も考慮すれば、本件ファックスは、被控訴人が、控
訴人代理人弁護士である藤井弁護士に対し、控訴人によるインスタグラムの
「ストーリー」への投稿の事実及びその内容を知らせる趣旨のものであった
と認められる。
25 そして、民事訴訟の一方当事者となっている者が、訴訟の手続外で、他方
当事者の訴訟代理人を務める弁護士に対し、当該他方当事者に関して記載さ
れた資料を送付した場合、あるいは電話をかけるなどして当該他方当事者に
関する発言をした場合に、一般的に同弁護士が、これらの資料や発言の趣旨
を依頼者である当該他方当事者に伝えることがあったとしても、当該他方当
事者が見たり聞いたりした場合にその名誉感情を毀損すると思われる表現等
5 を含めて、これらの資料の内容や発言の内容を全てそのまま当該他方当事者
本人に伝えるのが当然であるとまでは解されない。
以上によれば、本件ファックスに印刷されたLINEのやり取りの中に、
控訴人の名誉感情を毀損する表現が含まれていたとしても、被控訴人が藤井
弁護士に本件ファックスを送信した行為が、控訴人に対する社会通念上許さ
10 れる限度を超える侮辱行為であるとは認められない。
したがって、被控訴人による本件ファックスの送信が、控訴人に対する不
法行為を構成するとは認められないから、請求2は理由がない。
4 その他、控訴人が縷々主張する内容を検討しても、当審における上記認定判
断(原判決引用部分を含む。)は左右されない。
15 5 結論
以上によれば、控訴人の請求のうち、請求1については、47万9000円
及びこれに対する令和4年6月13日から支払済みまで年3パーセントの割合
による遅延損害金の支払を認める限度で理由があるから、この限度で認容し、
その余の請求は理由がないからこれを棄却すべきであり、これと同旨の原判決
20 は相当であり、本件控訴は理由がない。また、当審で追加された請求2につい
ては理由がないからこれを棄却すべきである。
よって、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部

裁判長裁判官
中 平 健
裁判官
10 今 井 弘 晃

15 裁判官
水 野 正 則

(別紙)
送信記事目録
(記載省略)
以 上

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