ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 令和6(ワ)5424等 損害賠償等請求事件
| 裁判所 | 大阪地方裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 令和8年1月22日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 法令 |
不正競争 民法719条1回 不正競争防止法2条1項21号1回 |
| キーワード | 差止18回 侵害7回 損害賠償6回 実施1回 |
| 主文 | 1 被告会社は、原告から取得した別紙「差止対象情報目録」記載1の情報をその 2 被告会社は、前項の情報を廃棄せよ。 3 被告Aは、原告から取得した別紙「差止対象情報目録」記載2の情報を、その 4 被告Aは、前項の情報を廃棄せよ。 5 原告の被告会社及び被告Aに対するその余の請求並びに被告B、被告C及び被 6 訴訟費用は、原告と被告会社及び被告Aとの間においては、原告に生じた費用 |
| 事件の概要 | 1 本判決で用いる用語 ・ 原告情報:別紙2「原告秘密情報目録」記載の情報の総称 ・ 本件マスタメンテ情報:別紙2「原告秘密情報目録」記載の「第1 マスタ メンテに登録された情報(マスタメンテ情報) 」記載の情報(具体的には、別紙 3-1ないし別紙3-6記載の情報の総称) ・ 本件訪問看護記録書Ⅰ情報:別紙2「原告秘密情報目録」記載の「第2 訪 問看護記録書Ⅰに記載された情報(訪問看護記録書Ⅰ情報) 」記載の情報 ・ 本件訪問看護記録Ⅱ情報:別紙2「原告秘密情報目録」記載の「第3 訪問 看護記録Ⅱに記載された情報(訪問看護記録Ⅱ情報) 」記載の情報 ・ 原告共有ドライブ:原告が利用するクラウドストレージサービス(Goog le Drive) ・ 本件業務上データ1ないし3 |
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令和8年1月22日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和6年(ワ)第5424号 損害賠償等請求事件(甲事件)
令和6年(ワ)第8059号 損害賠償請求事件(乙事件)
口頭弁論終結日 令和7年11月20日
判 決
甲事件原告兼乙事件原告 株式会社光陽
(以下「原告」という。)
代表者代表取締役
訴訟代理人弁護士 細井 大輔
同 林 遥平
甲事件被告 A
(以下「被告A」という。)
甲事件被告 B
(以下「被告B」という。)
甲事件被告 C
(以下「被告C」という。)
甲事件被告 合同会社玉吉
(以下「被告会社」という。)
代表者代表社員
乙事件被告 D
(以下「被告D」という。)
被告ら訴訟代理人弁護士 南條 浩志
主 文
1 被告会社は、原告から取得した別紙「差止対象情報目録」記載1の情報をその
5 営業上の活動に、自ら又は第三者をして使用し、若しくは開示してはならない。
2 被告会社は、前項の情報を廃棄せよ。
3 被告Aは、原告から取得した別紙「差止対象情報目録」記載2の情報を、その
営業上の活動に使用又は開示してはならない。
4 被告Aは、前項の情報を廃棄せよ。
5 原告の被告会社及び被告Aに対するその余の請求並びに被告B、被告C及び被
告Dに対する請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用は、原告と被告会社及び被告Aとの間においては、原告に生じた費用
の20分の1を被告会社及び被告Aの負担とし、その余は各自の負担とし、原告
と被告B、被告C及び被告Dとの間においては、全部原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 甲事件
(1) 被告会社は、別紙2「原告秘密情報目録」のうち「第1 マスタメンテに登録された情報」記載の情報をその営業上の活動に使用又は開示してはならない。
(2) 被告会社は、別紙2「原告秘密情報目録」記載の情報を被告システムにおいて、自ら使用し、又は第三者に使用させてはならない。
(3) 被告会社は、別紙2「原告秘密情報目録」記載の情報を廃棄せよ。
(4) 被告会社は、別紙3-3「関連機関担当者目録」記載の関連機関担当者、別紙3-5「医師目録」記載の医師及び別紙3-6「利用者目録」記載の利用者に対し、面会を求め、電話をし、又は郵便物を送付する等によって営業活動をしてはならない。
(5) 被告会社は、別紙3-1「職員目録」に記載された職員に対し、面会を求め、電話をし、又は郵便物を送付する等によって、引抜し、又は勧誘活動をしてはならない。
5 (6) 被告A、被告B、被告C及び被告会社は、原告に対し、2200万円及びこれに対する令和6年6月14日から支払済みまで年3分の割合による金員を連帯して支払え。
(7) 被告Aは、別紙2「原告秘密情報目録」記載の情報のうち、「第1 マスタメンテに登録された情報(マスタメンテ情報)」記載の情報をその営業上の活動に使用又は開示してはならない。
(8) 被告Aは、別紙2「原告秘密情報目録」記載の情報のうち、「第1 マスタメンテに登録された情報(マスタメンテ情報)」記載の情報を廃棄せよ。2 乙事件被告Dは、原告に対し、2200万円及びこれに対する令和6年9月3日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本判決で用いる用語・ 原告情報:別紙2「原告秘密情報目録」記載の情報の総称・ 本件マスタメンテ情報:別紙2「原告秘密情報目録」記載の「第1 マスタメンテに登録された情報(マスタメンテ情報)」記載の情報(具体的には、別紙3-1ないし別紙3-6記載の情報の総称)・ 本件訪問看護記録書Ⅰ情報:別紙2「原告秘密情報目録」記載の「第2 訪問看護記録書Ⅰに記載された情報(訪問看護記録書Ⅰ情報)」記載の情報・ 本件訪問看護記録Ⅱ情報:別紙2「原告秘密情報目録」記載の「第3 訪問看護記録Ⅱに記載された情報(訪問看護記録Ⅱ情報)」記載の情報・ 原告共有ドライブ:原告が利用するクラウドストレージサービス(Google Drive)・ 本件業務上データ1ないし3:原告共有ドライブに保存されていた別紙2「原告秘密情報目録」記載の「第4 業務上データに記載された情報」の1ないし3であり、順に、別紙5-1ないし別紙5-3)
5 ・ 原告事業所:原告の運営する訪問看護事業の事業所・ 被告事業所:被告会社の運営する訪問看護事業の事業所・ 原告システム:原告において、市販の訪問看護向け電子カルテソフトウェア(iBow)を利用して構築されたシステム・ 被告システム:被告において利用されている、原告システムと同じソフトウェアを利用して構築されたシステム・ K :K・ 当初引継対象者:別紙4「対象利用者情報」目録・番号1ないし23の利用者・ 本件取得対象者:当初引継対象者のうち、別紙4「対象利用者情報」目録・番号8と23を除いた者・ YA氏:別紙「対象利用者情報」目録の番号21の利用者・ ME氏:別紙「対象利用者情報」目録の番号24の利用者・ NK氏:別紙「対象利用者情報」目録の番号25の利用者・ 不競法:不正競争防止法2 原告の請求(訴訟物)(甲事件)
(1) 被告A、同B及び同Cによる原告情報の取得及び被告会社による原告情報の使用が不正競争(不競法2条1項4号、5号)に当たることを前提とする、(被告会社に対する請求)ア 不競法3条1項に基づく、本件マスタメンテ情報等の使用等の差止請求(第1の1(1)(2))イ 同条2項に基づく、原告情報の廃棄請求(第1の1(3))ウ 同条1項に基づく、別紙3-3「関連機関担当者目録」記載の担当者等に対する面会等の差止請求(第1の1(4)(5))(被告Aに対する請求)
5 エ 同条1項に基づく、本件マスタメンテ情報の使用等の差止請求(第1の1
(7))オ 同条2項に基づく、本件マスタメンテ情報の廃棄請求(第1の1(8))(被告A、同B、同C及び被告会社に対する請求)カ 被告A、同B、同C及び被告会社に対する、共同不法行為に基づく損害賠償請求(第1の1(6))(後記(2)と選択的請求)
(2) 利用者の引抜き及び従業員の退職勧誘について被告らに共同不法行為が成立することを前提とする、被告A、同B、同C及び被告会社に対する、民法719条に基づく損害賠償請求(上記(1)カと選択的請求)(乙事件)
(3) 被告Dに、上記(1)の不正競争及び不法行為について共同不法行為が成立することを前提とする、民法719条に基づく損害賠償請求(第1の2)3 前提事実(争いのない事実及び証拠〔枝番を含む。以下同じ〕により容易に認定できる事実)
(1) 当事者等ア 原告は、令和2年2月3日に設立された、介護保険法に基づく居宅サービス事業等を目的とする株式会社であり、同年5月1日から、訪問看護事業に係る原告事業所の運営を開始した。イ 被告Aは、看護師の資格を有し、令和6年3月31日に原告を退職し、翌日から被告会社に勤務する者である。ウ 被告Bは、精神保健福祉士の資格を有し、令和6年3月31日に原告を退職し、現在は被告会社の代表者を務める者である。エ 被告Cは、被告Aの妻であり、看護師の資格を有し、同年3月31日に原告を退職し、翌日から被告会社に勤務する者である。オ 被告Dは、看護師の資格を有し、同年3月31日に原告を退職し、現在は被告会社に勤務する者である。
5 カ 被告会社は、令和5年11月1日に被告Bにより設立された、介護保険法に基づく居宅サービス事業等を目的とする株式会社であり、遅くとも令和6年4月から、被告事業所の運営を開始した(なお、運営開始時期について、争いがある。)。
(2) 被告Aないし同Dの原告での勤務及び原告の組織等ア 原告代表者は、従前、訪問看護を行う事業所の管理者であったが、退職して原告を設立した。イ 被告Aないし同Dは、原告代表者と同時期に同事業所に勤務していたが、被告A、同B及び同Cは令和3年から、被告Dは令和4年4月1日から、原告に勤務するようになった。ウ 原告は、原告の設立後に原告事業所を開設し、令和4年2月1日、事業拡大のため、奈良県天理市に新たな事業所を開設し、同年12月1日には、事務所スペースの拡大のため、原告事業所を現住所に移転した。令和4年12月末時点で、原告の2つの事業所の利用者数は300ないし400名であり、原告の正社員は21名であった。原告では、①上記2つの事業所について「代表取締役社長 統括所長」、「本部地域ネットワーク事務部部長」が配置され、②原告事業所について、「所長」「副所長」、及び3つのエリア(「北部」「中部」「南部」)に分けられた各エリアに「主任看護師」及び「看護師」等がそれぞれ配置され、③天理市の事業所について、「所長」、「主任看護師」及び「看護師」が配置されていた。(甲21)エ 被告Bは、令和4年3月1日、原告の「本部地域ネットワーク事務部部長」に就任した。被告Aは、令和5年1月1日、原告事業所の所長に主任した。被告Cは、同年6月1日、原告事業所の「中部エリア」の主任看護師に就任した。
5 (3) 被告Aないし同Dの退職に至る経緯等ア 被告Bは、令和5年12月8日、原告代表者に対し、被告A及び被告Cと同様の訪問看護サービス事業を立ち上げることを考えている旨を伝えた。原告代表者は、退職の時期等に関して当初異論を述べて遺留したものの、最終的にはこれを了解し、被告A、被告B及び被告Cは令和6年3月31日に退職することとなった。イ 被告Dは、同年1月22日、原告代表者に退職希望の意向を伝え、同年3月31日に退職することとなった。ウ 同年2月及び3月の間、原告の従業員4名が原告を退職した。エ Kは、同年2月26日、原告代表者に対し、同年3月31日付けで退職することを希望したが、原告の業務上の都合により、同年4月15日に退職することとなった。オ 被告Aないし同Dは、令和6年3月31日に原告を退職し、Kは、同年4月15日に原告を退職し、いずれも被告会社に勤務するようになった(甲4)。被告A、同B及び同Cは、退職にあたり、在職中に知り得た技術上又は営業上の秘密を開示、漏洩若しくは使用しないこと(1条)、秘密情報関連資料を返還し、一切保有していないこと(2条)、原告の従業員に対して退職を勧める一切の行為をしないこと(3条)等を定めた「秘密保持等に関する誓約書」に署名押印した(甲5)。
(4) 利用者の引継ぎ等ア 原告代表者は、被告A、同B及び同Cの退職後に残った従業員によっては、全利用者へのサービスの提供は困難であるとして、同年2月上旬、当初引継対象者(23名)を被告会社に引き継ぐことを決定した。イ その後、原告代表者は、複数名の従業員の退職及び退職予定を踏まえ、当初引継対象者のほかに10名の利用者を被告会社以外の他の事業者に引き継ぐことを決定した。
5 (5) 原告の情報の管理状況等ア 本件マスタメンテ情報原告は、訪問看護事業の遂行にあたり、原告システムを利用して利用者情報や訪問看護サービスに必要な情報を一元的に管理し、本件マスタメンテ情報を登録していた。原告においては、所長権限、事務員権限及び本社職員権限を有する者のみが、原告システムにあるマスタメンテ機能(他のiBowのシステムにデータ移行するための項目を選択するとデータ移行のためのファイルを出力させる機能)を操作することができた。イ 訪問看護記録書Ⅰ情報原告は、訪問看護事業の遂行にあたり、利用者への初回サービス提供時やアセスメント後や利用者の状況が変化した際、主として訪問看護サービスに向けて看護師が知っておくべき利用者の基本的な情報を原告システムに看護記録書として記録しており(訪問看護記録書Ⅰ情報)、同情報には本件訪問看護記録Ⅰ情報が登録されていた。ウ 訪問看護記録書Ⅱ情報原告は、訪問看護事業の遂行にあたり、原告システムに利用者の病状や提供した看護内容等の情報を看護記録として登録しており(訪問看護記録書Ⅱ情報)、同記録には本件訪問看護記録書Ⅱ情報が登録されていた。エ 本件業務上データ1ないし3原告は、業務を円滑に遂行するため、原告共有フォルダにおいて、業務上必要なデータを従業員間で共有しており、原告共有ドライブには、本件業務上データ1ないし3の情報が保存されていた。
(6) 被告会社による情報管理被告会社は、訪問看護事業の遂行において、被告システムを利用していた。
(7) 被告A、同B及び同Cによる情報取得
5 ア 被告Aは、令和5年8月30日及び同年9月22日、原告に無断で、本件マスタメンテ情報を出力して取得した。イ 被告Bは、同年11月1日、原告に無断で、本件業務上データ1をUSBメモリーに移動させて取得した。ウ 被告Cは、令和6年3月24日及び同月28日、原告に無断で、本件業務上データ3をダウンロードして取得した。エ 被告Aは、令和6年3月28日、①本件業務上データ2並びに②本件取得対象者、ME氏及びNK氏に関する本件訪問看護記録Ⅰ情報をダウンロードして取得した。4 争点
(1) 原告情報の取得等について不正競争(不競法2条1項4号又は5号)及び共同不法行為が成立するか(争点1)ア 本件マスタメンテ情報の取得等について(争点1-1)イ 本件訪問看護記録書Ⅰ情報の取得等について(争点1-2)ウ 本件訪問看護記録Ⅱ情報の取得等について(争点1-3)エ 本件業務上データ1ないし3の取得等について(争点1-4)オ 共同不法行為が成立するか(争点1-5)
(2) 利用者の引抜きを理由とする共同不法行為が成立するか(争点2)
(3) 集団退職及び退職勧誘を理由とする共同不法行為が成立するか(争点3)
(4) 原告に対する信用毀損を理由とする不正競争(不競法2条1項21号)が成立するか(争点4)
(5) 原告の被った損害の額(争点5)
(6) 差止めの必要性(争点6)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1-1(本件マスタメンテ情報の取得等について)について
【
(原告の主張)
】
5 (1) 本件マスタメンテ情報の営業秘密該当性
ア 秘密管理性本件マスタメンテ情報は、原告システムで管理され、アクセスには指紋認証(管理職)やパスワードの入力(一般職)が要求されており、情報の移行に必要なマスタメンテ機能の操作権限は管理権限及び事務権限を有する者に限定されていた。また、本件マスタメンテ情報は、原告の利用者の極めて個人的な情報であるから、原告の従業員において当然に秘密情報に当たることを認識することができ、原告の従業員には就業規則や退職時の「秘密保持等に関する誓約書」によって秘密保持に関する注意喚起がされていた。したがって、本件マスタメンテ情報には、秘密管理性がある。イ 有用性本件マスタメンテ情報は、原告の利用者の基本情報を膨大に記載したサービス提供の基盤となるものであり、原告の経営効率改善又は事業の優位性の確保のため、原告の事業活動に有用な営業上の情報といえるから、有用性がある。ウ 本件マスタメンテ情報は、原告独自のデータであるから、非公知性がある。エ よって、本件マスタメンテ情報は、営業秘密に該当する。
(2) 被告Aの行為
被告Aは、令和5年8月30日及び同年9月22日、原告に無断で本件マスタメンテ情報を出力して自己のUSBメモリーに保存し、被告会社に開示した。被告Aの行為は、不正競争(不競法2条1項4号)に当たる。
(3) 被告会社の行為
被告会社は、令和5年11月1日から被告システムを利用した訪問看護事業を始めており、被告Aによる本件マスタメンテ情報の取得が不正な取得であることを知りながら、被告Aから開示を受けた本件マスタメンテ情報を被告システムに取り込み、自己の業務に使用した。被告会社の行為は、不正競争(同項
5 5号)に当たる。
【被告A及び被告会社の主張】
(1) 営業秘密該当性
本件マスタメンテ情報のうち、本件マスタメンテ情報のうちの別紙2「第1」の「6」以外の情報(別紙3-1ないし別紙3-5に係る情報)は、原告の職員名や医療機関名、事業所名、医師・担当者の名前であって、一般に公開されており、事業活動に有用な技術上又は営業上の情報ではなく、有用性及び非公知性の要件を欠くから、営業秘密に当たらない。本件マスタメンテ情報のうち、別紙2「第1」の「6」の情報(別紙3-6記載の利用者に関する情報)が営業秘密に当たることは認める。
(2) 被告Aの行為について
被告Aは、令和5年8月30日及び同年9月22日に、本件マスタメンテ情報を原告に無断で取得し、取得した本件マスタメンテ情報のうち、別紙2「第1」の「1」ないし「5」記載の情報(別紙3-1ないし別紙3-5に係る情報)を被告システムにインポートする方法によって被告会社に開示した。しかし、当該情報は、いずれも営業秘密に該当しないから、当該情報の取得及び開示について、被告Aに不正競争は成立しない。一方、被告Aは、被告システムに当初引継対象者に関する情報を手入力する方法により入力し、その際、上記取得による本件マスタメンテ情報中の別紙2「第1」の「6」記載の情報のうちの「(1)医療保険」「(2)高齢者受給者証」、「(3)高額療養費」、「(4)介護保険」、「(5)負担割合証」、及び「
(6)公費」
の情報を参照したが、あくまで入力した情報は被告会社が独自に入手した情報であるから、別紙2「第1」の「6」記載の情報を被告会社に開示したことにはならない。また、本件マスタメンテ情報のうちのNK氏に関する情報を被告会社に開示したこともない。
(3) 被告会社
5 被告会社は、本件マスタメンテ情報のうちの別紙2「第1」の「1」ないし
「5」記載の情報の開示を受けて使用したが、これらの情報は営業秘密ではないから、この点について、被告会社の不正競争は成立しない。また、被告会社は、本件マスタメンテ情報のうちの別紙2「第1」の「6」記載の情報の開示を受けていない。当該情報に対応する情報は、自らが独自に入手した情報であるから、その使用について不正競争は成立しない。
2 争点1-2(本件訪問看護記録書Ⅰ情報の取得等について)について
【
(原告の主張)
】
(1) 営業秘密該当性
訪問看護記録書Ⅰ情報は、原告システムで管理されているから、上記のとおり、秘密管理性がある。また、本件訪問看護記録書Ⅰ情報は、膨大な利用者の基本情報の一部であり、利用者に応じたサービスを提供するために必要な、原告の事業活動に有用な営業上の情報であるから、有用性がある。本件訪問看護記録Ⅰ情報は、原告が原告の利用者に限定して作成したものであるから、非公知性がある。よって、本件訪問看護記録Ⅰ情報は「営業秘密」に該当する。
(2) 被告Aの行為
被告Aは、原告に無断で、令和6年3月28日、本件取得対象者、ME氏及びNK氏に関する本件訪問看護記録書Ⅰ情報を、原告から貸与されたパソコンにダウンロードして取得し、被告会社に開示した。被告Aの上記取得・開示行為は、不正競争(不競法2条1項4号)に該当する。なお、原告は、被告会社に対し、当初引継対象者分について、看護サマリー及び保険証のコピーを渡したが、訪問看護記録Ⅰは交付しないと決めていたので、本件訪問看護記録Ⅰ情報の引継ぎに同意した事実はない。また、元々引き継ぐ対象ではなかった利用者NK氏が、後に被告会社との間で正式に訪問看護サービス利用契約を締結したとしても、被告Aの不正競争の成否には影響しな
5 い。
(3) 被告会社及び被告B
被告会社は、上記情報が被告Aにより不正に取得されたことを知りながら、これを業務のために使用した。被告会社及び被告Bの上記情報の使用行為は、不正競争(不競法2条1項5号)に該当する。【被告A及び被告会社の主張】
(1) 営業秘密該当性
本件訪問看護記録Ⅰ情報は、利用者の重要な個人情報ではあるが、医療関係者やケアマネージャー等の関係者に共有されるべき情報であるから、非公知性及び有用性を欠き、「営業秘密」に該当しない(なお、被告は、当初、本件訪問看護記録書Ⅰ情報が、「営業秘密」に該当することを争っていなかった。)。
(2) 被告A
被告Aが、令和6年3月28日に、本件取得対象者、ME氏及びNK氏に係る本件訪問看護記録書Ⅰ情報を取得したこと、同情報中の本件取得対象者中の1名(ME氏)を除く利用者22名分の情報を被告会社に開示したことは認める。しかし、原告は、被告Aによる本件訪問看護記録Ⅰ情報の取得を明示又は黙示に承諾していたから、被告Aによる上記取得について不正競争は成立しない。すなわち、当初引継対象者に係る情報について、被告Aは、原告代表者から、引継ぎに必要な看護サマリーの作成及び保険情報の複製・持出しを自ら行うよう求められていたが、看護サマリーは、訪問看護記録Ⅰ情報を参照又は引用して作成されるため、これらの内容は大部分において共通していた。また、被告会社は、令和6年3月中に、引継ぎ予定の利用者との間で訪問看護サービス利用契約を締結し、利用者から原告からの個人情報の取得について包括的な同意を得ていたため、原告に対し、利用者に代わって訪問看護サービスを受けるために必要な情報の開示を求める権限を有していた。そうすると、被告Aは、当
5 初引継対象者に関する本件訪問看護記録Ⅰについて、原告(又は当初引継対象
者)から明示的又は黙示的な同意を得て、正当な権限に基づいて取得し、被告会社に開示したといえる。また、上記取得時点において、ME氏及びNK氏に係る情報の取得について原告の同意がなかったとしても、NK氏については、同年6月に被告会社との間で訪問看護サービス利用契約を締結したことによって、同人に代わって原告に情報の開示を求める正当な権限を得たため、瑕疵が治癒される。
(3) 被告会社
被告会社は、被告Aから、本件取得対象者及びNK氏に係る本件訪問看護記録書Ⅰ情報の開示を受け、業務に使用したが、上記のとおり、当該限度の情報の取得は不正な取得ではないから、その情報の使用について、被告会社に不正競争は成立しない。
3 争点1-3(本件訪問看護記録Ⅱ情報の取得等について)について
【
(原告の主張)
】
(1) 営業秘密該当性
本件訪問看護記録書Ⅱ情報は、「営業秘密」(不競法2条6項)に該当する。
(2) K
Kは、令和6年4月3日、原告に無断で、原告から被告会社に引き継がれた利用者YA氏に関する情報のうち、「2024年3月4日、3月11日、3月25日」の訪問日に係る情報(本件訪問看護記録書Ⅱ情報)をPDF化してダウンロードする方法により取得し、被告Aに開示した。Kのこの取得及び開示行為は、不正競争(不競法2条1項4号)に該当する。
(3) 被告A
被告Aは、YA氏の本件訪問看護記録Ⅰに関する情報を持ち出せなかったため、Kに対し、当該情報の取得を依頼し、Kの不正取得が介在したことを知って、本件訪問看護記録書Ⅱ情報を取得した。よって、被告Aには、不正競争(不
5 競法2条1項5号)が成立する。
(4) 被告会社
被告会社は、K及び被告Aの不正取得が介在したことを知りながら、YA氏に関する本件訪問看護記録書Ⅱ情報を被告システムに入力し、これを業務に使用した。被告会社による使用行為は、不正競争(不競法2条1項5号)に該当する。【被告A及び被告会社の主張】
(1) 営業秘密該当性
利用者の病状や提供した看護内容等の情報が、全体として営業秘密(不競法2条6項)に該当することは認める。
(2) Kの行為について
Kが、YA氏に係る本件訪問看護記録Ⅱ情報を不正に取得したとの事実は、不知。
(3) 被告A及び被告会社
仮に、Kが、YA氏に関する本件訪問看護記録書Ⅱ情報を取得したとしても、被告A及び被告会社は、Kから開示を受けておらず使用もしていない。よって、被告A及び被告会社には、本件訪問看護記録書Ⅱ情報について、不正競争は成立しない。なお、仮に、被告Aが、KからYA氏に関する本件訪問看護記録書Ⅱ情報に関する情報の提供を受けたとしても、引継ぎ予定の利用者の情報提供を求めたこと対し、原告の同意を得て提供を受けたにすぎず、被告会社は、YA氏との訪問看護サービス利用契約の締結によって、YA氏にかわって、原告に対し訪問看護サービスの提供に必要な情報の開示を求める権限を有することとなった以上、不正競争は成立しない。
4 争点1-4(本件業務上データ1ないし3の取得等について)について
【
(原告の主張)
】
5 (1) 営業秘密該当性
原告は、「共有ドライブ」と「マイドライブ」からなる原告共有ドライブ内で業務上のデータを管理しており、本件業務上データ1ないし3を含む上記業務上のデータにアクセスするために、パソコンの場合には指紋認証(管理職)又はパスワード入力(一般職)を、iPhoneの場合は顔認証を必要とし、データの内容によってアクセス権者を限定していた。また、原告は、就業規則によって、従業員に対し、機密情報の持出し等を禁止し、退職する従業員には「秘密保持等に関する誓約書」の提出を求めて、情報の持出しに関する注意喚起をした。よって、原告共有ドライブで管理されていた業務上データは、秘密管理性を有する。また、上記業務上データのうち、少なくとも次の情報は、訪問看護サービス事業を行う原告が、利用者へのサービス提供の中でノウハウを蓄積していた結晶であるから、作業効率化のために原告の事業活動において有用な営業上の情報であり、原告が利用者は関係者との関わり合いの中で日々独自に蓄積した情報であり、公然と知られていない情報である。
① 「24時間対応体制加算同意書」
(本件業務上データ1の番号13、16)
② 「複数名訪問看護加算同意書」(本件業務上データ1の番号18、19)
③ 「(医療保険)重説・契約書2022.2.1(郡山).doc」
(本件業務上データ1の番号15)
④ 「契約時業務確認表 C」(本件業務上データ3の番号1)
⑤ 「★R6.4~新エリア」(本件業務上データ3の番号2)
⑥ 「個人情報提供に関する同意書」(甲9)
⑦ 「訪問スケジュール表」(甲11)
よって、これらの情報は、「営業秘密」に該当する。
(2) 被告B
被告Bは、原告に無断で、令和5年11月1日、令和6年2月16日、同年
5 3月2日、同月21日に、本件業務上データ1をダウンロードし、上記①②③
⑥⑦の情報を不正に取得し、その後、被告会社に開示した。
被告Bの上記行為は、不正競争(不競法2条1項4号)に該当する。
(3) 被告A
被告Aは、原告に無断で、令和5年10月11日、同年12月26日、同月28日、同月29日、令和6年1月16日、同年3月28日に、本件業務上データ2をダウンロードして不正に取得し、被告会社に開示した。被告Aの上記行為は、不正競争(不競法2条1項4号)に該当する。
(4) 被告C
被告Cは、原告に無断で、令和6年3月24日及び同月28日、本件業務上データ3をダウンロードして不正に取得し、被告会社に開示した。被告Cの上記行為は、不正競争(不競法2条1項4号)に該当する。
(5) 被告会社
被告会社は、上記のとおり、被告A、同B及び同Cが本件業務上データ1ないし3を不正に取得したことを知りながら、開示された各情報を業務のために使用した。被告会社の使用は、不正競争(不競法2条1項5号)に該当する。【被告A、同B、同C及び被告会社の主張】
(1) 営業秘密該当性
原告が営業秘密であると主張する次の各情報は、いずれも「営業秘密」に当たらない。ア 「24時間対応体制加算同意書」、「複数名訪問看護加算同意書」、「(医療保険)重説・契約書2022.2.1(郡山).doc」、「個人情報提供に関する同意書」は、いずれも原告の利用者に開示されているから非公知性を欠き、有用性も欠く。また、上記同意書は、原告共有ドライブ以外にも書面等の形式で存在しており、秘密管理性を欠く。イ 「訪問スケジュール表」の内容は、一般的なスケジュール表に記載する内
5 容を超えるものではなく、有用性を欠き、秘密管理性も欠く。
ウ 「契約時業務確認表 C」は、被告Cが、業務改善のための作成した仕掛中の書面であり、原告に有用なものではないから有用性を欠く。エ 「★R6.4~新エリア」原告の営業秘密として保護すべき原告独自の有用な情報とはいえず、有用性を欠く。
(2) 被告B
被告Bが令和5年11月1日に原告共有ドライブから本件業務上データをダウンロードして取得し、被告会社に対し、その一部を(別紙5-1の番号13、15、16、18、19)を開示したことは認めるが、その余の部分を開示したことはない。そして、上記のとおり、本件業務上データ1は営業秘密に該当しない以上、その取得及び開示について、被告Bに不正競争は成立しない。
(3) 被告A
被告Aが令和6年3月28日に本件業務上データ2を取得したことは認めるが、同日以外に取得した事実はない。また、被告Aが本件業務上データ2を被告会社に開示したことはない。そして、上記のとおり、本件業務上データ2は営業秘密に該当しない以上、その取得について被告Aに不正競争は成立しない。
(4) 被告C
被告Cが令和6年3月25日及び同月29日に、本件業務上データ3を取得したことは認めるが、被告会社に開示したことはない。そして、上記のとおり、本件業務上データ3は営業秘密に該当しない以上、その取得について被告Cの不正競争は成立しない。
(5) 被告会社
被告会社は、被告Aらから本件業務上データ1ないし3を取得しておらず、業務に使用していないので、不正競争は成立しない。
5 5 争点1-5(共同不法行為が成立するか)について
【
(原告の主張)
】上記のとおり、原告情報の取得について、被告A、同B、同C及び被告会社に不正競争が成立するところ、被告Aないし同Dは、被告会社と通謀して、原告に損害を加える目的で被告会社の業務を行っているから、上記被告らの不正競争行為について、共同不法行為責任を負う。【被告らの主張】否認ないし争う。
6 争点2(利用者の引抜きを理由とする共同不法行為が成立するか)について
【
(原告の主張)
】
(1) 被告A及び被告Bの不法行為
従業員は、雇用契約期間中、会社に対し、その指揮命令に従い、誠実に労働する義務を負い、会社の利益を不当に侵害しないように行動する義務(職務専念義務、競業避止義務)を負っている。また、原告の従業員は、就業規則(52条3項、67条20号)により、在職中及び退職後における利用者の引抜き行為が禁止されている。よって、被告A、被告B及び被告Cは、原告の在職中、原告の利用者の引抜きを行わないように行動する義務(職務専念義務、競業避止義務)を負っていた。被告A及び被告Bは、原告在職中、新規利用者の申込窓口を担当していたが、令和6年2月以降、原告に新規利用を申し込んだEK氏他6名に対し、原告に無断で被告会社のサービスを受けるように積極的に勧誘して引き抜き、職務専念義務及び競業避止義務に違反した。
(2) 共同不法行為
被告Cは、被告A及び被告Bと共に、原告在職中から被告会社の設立準備に関与して利用者情報等の情報共有を行い、被告会社の開業初日から上記利用者7名の訪問スケジュール作成に関与し、上記引抜きにより利益を直接享受した。
5 被告Dは、後述のとおり、被告A、同B及び同Cの勧誘を受けて原告を退職
し、被告会社の開業に併せて同社に転職し、原告の離職者及び利用者の引継ぎの調整に協力し、上記引抜き行為を支援した。被告会社は、被告A及び被告Bの原告在職中に設立された法人であり、開業当初から原告の利用者23名及び上記新規利用者7名を受けいれており、上記の不正な引抜き行為を明確に認識し、引抜きによる利益を享受した。以上から、被告A及び被告Bを主導者とし、被告C、被告D及び被告会社がこれに協力、利益享受した一連の行為は、被告らの共同不法行為に当たる。【被告らの主張】否認ないし争う。被告A及び被告Bは、原告との雇用期間中に職務専念義務違反及び競業避止義務に違反した事実はない。すなわち、EK氏については、被告A及び被告Bは、同人のケアマネージャーから原告での利用希望の申入れを受け、同年2月頃、EK氏の親族及びケアマネージャーと面談し、その後、訪問看護指示書を発行する医療機関が同年4月に決定する予定であるとの連絡を受け、同年3月中旬、原告との契約締結に向けた調整を行っていたところ、EK氏の親族らから被告会社での利用を強く希望され、同年4月との間で利用契約が締結されたにすぎない。
7 争点3(集団退職及び退職勧奨を理由とする共同不法行為が成立するか)につ
いて【
(原告の主張)
】
(1) 被告A、同B及び同Cの不法行為
被告A、同B及び同Cは、原告の中核的な役職を担っていたにもかかわらず、原告在職中に被告会社の設立準備を進め、被告D及びKに対して被告会社への転職を勧誘し、原告に与える影響が極めて大きいことを認識しながら、原告からの集団退職を実行した。また、被告A、同B及び同Cの退職予定を知って不
5 安を抱いた原告従業員4名も退職し、被告D及びKも原告を退職した。
このような被告3名の行為は、極めて悪質かつ背信的な行為であるから、不法行為に該当する。
(2) 共同不法行為
被告会社は、被告A、同B及び同Cの上記不法行為の存在を認識し、又は容易に認識し得る立場にありながら、当該不法行為によって生じた利益を享受しているから、共同不法行為責任を負う。被告Dは、被告A、同B及び同Cの勧誘を受け、「訪問看護業界を離れたい」との虚偽の理由をもって原告を退職して被告に転職したのであって、被告A、同B及び同Cの背信的な退職計画を認識し、その実現に協力したから、共同して原告の事業基盤の毀損に加担したものとして、共同不法行為責任を負う。【被告らの主張】否認ないし争う。被告A、同B及び同Cは、原告の退職によって原告に損害を加える目的はなく、十分な期間をあけて退職の申し入れをした。被告ら以外の原告従業員4名が退職した主たる理由は、原告代表者に対する不満にあり、被告A、同B及び同Cの退職ではない。被告Dは、被告A、同B及び同Cと働く希望を持ち、被告A、同B及び同Cの退職を知って自ら退職を希望した。被告A及び被告Bは、原告の退職後に、被告Bの勧誘を受けて原告に就職したKが残ることが気になり、Kに被告会社への転職を勧誘したことはあるが、Kは、令和6年2月ごろ、原告代表者の言動に耐えられないとの理由から原告からの退職を希望した。以上から、被告A及び被告BがKに転職を勧誘したとしても、社会通念上許される範囲を逸脱したものとはいえない。
8 争点4(原告に対する信用毀損を理由とする不正競争(不競法2条1項21号)
が成立するか)について
5 【
(原告の主張)
】被告A及び被告Bは、令和6年3月頃、原告の取引先の関係施設職員に対し、原告事業所の提供する訪問看護サービスの質が低く、同サービスを受けないほうがいいとの虚偽の事実を告知した。また、被告Aは、原告の取引先の行政職員に対し、同年4月頃、原告事業所のスタッフの一部の気分にむらがあり、良質な看護サービスを提供ないのでサービスを受けないほうがいいとの虚偽の事実を告知・流布した。被告A及び被告Bの上記告知・流布行為は、原告と競争関係にある被告会社のためにされたものであるから、不正競争(不正競争防止法2条1項21号)に該当する。【被告らの主張】否認ないし争う。
9 争点5(原告の被った損害額)について
【
(原告の主張)
】
(1) 原告情報の取得等に係る不正競争による損害
原告の営業秘密の取得及び開示等による被告らの不正競争と相当因果関係のある損害は、少なくとも次の合計330万1784円である。ア 被告会社が、令和6年4月及び5月の間に本件引継対象者へサービス提供によって得られたであろう利益合計308万1784円(=154万0892円[原告における上記利用者23名の月額平均売上額]×2か月)イ 営業秘密の不正取得の調査のために調査会社に支払った費用22万円
(2) 利用者の引抜きを理由とする共同不法行為による損害
原告は、被告A及び被告Bによる違法な利用者の引抜きがなければ、7名の利用者に対する訪問看護サービス提供が可能であった。上記不法行為によって原告が被った損害は、少なくとも1176万円(=7名×平均月額顧客単価7
5 万円×24か月(平均継続期間))である。
(3) 集団退職及び退職勧奨を理由とする共同不法行為による損害
原告の主力メンバーであった被告A、同B及び同Cが一斉に退職したことにより、原告は本件引継者のほかに10名の利用者を失った。上記不法行為によって原告が被った損害は、少なくとも1680万円(=10名×平均月額顧客単価7万円×24か月[平均サービス継続期間])である。
(4) 信用毀損を理由とする不正競争(不競法2条1項21号)による損害
被告らによる信用毀損行為によって、原告の取引先や利用者の原告に対する信用が低下したので、その損害(無形損害)は200万円を下らない。
(5) 弁護士費用
上記(1)ないし(4)の損害合計3386万1784円のうち、原告の請求する一部である2000万円の10パーセントに相当する200万円が、相当な弁護士費用である。【被告らの主張】否認ないし争う。
10 争点6(差止めの必要性)について
【
(原告の主張)
】
(1) 被告会社に対する請求
被告会社は、被告Aが営業秘密である本件訪問看護記録書Ⅰ情報を不正に取得したことを知りながら、被告Aから同情報の開示を受けて使用した。また、本件訪問看護記録書Ⅰ情報が不正に取得されたことが明らかとなれば、原告は利用者の信用を失い、原告の顧客誘引力に影響が生ずる。以上から、被告会社による本件訪問看護記録書Ⅰの使用によって、原告の営業上の利益を侵害されるおそれがあるから、その使用等を差し止める必要性がある。
(2) 被告Aに対する請求
被告Aは、本件マスタメンテ情報をUSBメモリーに保存したところ、同情
5 報には、原告の全利用者の氏名、住所、症状の内容や主治医等の情報が含まれ
ており、これらを利用することによって、被告Aは、容易に原告の利用者に接触、勧誘し、事業所を移転させることができ、原告の営業基盤を侵害する具体的な危険を生じさせることができる。よって、被告Aの本件マスタメンテ情報の使用等を差し止める必要性がある。【被告会社及び被告Aの主張】否認ないし争う。
(1) 被告会社は、NK氏と令和6年6月に訪問看護サービス利用契約を締結した
ことにより、原告に対し、NK氏に代わって利用者情報の開示を求める正当な権限を有しているから、本件訪問看護記録書Ⅰ情報の使用によって、原告の営業上の利益が侵害され又は侵害されるおそれがあるとはいえない。また、被告会社は、ME氏との間で訪問看護サービス利用契約を締結するに至らなかったため、被告Aは、同人に関する情報を削除して被告会社に開示しなかった。よって、被告会社は、本件訪問看護記録書Ⅰ情報のうちME氏に係る情報は保有していない。
(2) 被告Aは、本件マスタメンテ情報が含まれたUSBメモリーを捜査機関に任
意提出して領置され、所有権放棄をしたので、上記USBメモリーを保有しておらず、返還される予定もない。よって、被告Aが、今後、本件マスタメンテ情報を使用して原告の営業上の利益を侵害し、又は侵害するおそれはないから、その使用等を差し止める必要性はない。
第4 判断
1 争点1-1(本件マスタメンテ情報の取得等について)について
(1) 本件マスタメンテ情報の営業秘密該当性
ア 非公知性及び有用性について本件マスタメンテ情報は、別紙2「第1」の「1」ないし「6」(別紙3-1ないし別紙3-6記載に対応)の各情報に大別されるところ、被告は、同
5 「1」ないし「5」記載の各情報について非公知性及び有用性はないと主張
し、同「6」記載の情報については、令和5年8月に取得された古い情報であって有用性がないと主張する(なお、被告は、当初、同「6」記載の情報に有用性があることは認めていた。)。この点、別紙2「第1」の「1」ないし「5」記載の各情報は、「1 別紙3-1「職員目録」に記載された職員名の①職員システムID、②職員名」、「2 別紙3-2「関連機関目録」に記載された関連機関名の①関連機関システムID、②支援事業所区分、③関連機関名」、「3 別紙3-3「関連機関担当者目録」に記載された関連機関担当者名の①関連機関システムID、
②関連機関名、③担当課、④担当者名」、「4 別紙3-4「医療機関目録」
に記載された医療機関名の①医療機関システムID、②医療機関名、③事業所番号、④住所」、「5 別紙3-5「医師目録」に記載された医師名の①医療機関システムID、②医療機関名、③医師システムID、④担当科、⑤医師名」を記載内容とするものである。これらの情報は、原告の訪問看護サービスの事業遂行において関係する機関及びその担当者並びに医療機関や医師の名称等に関する情報ではあるが、当該機関名や担当者、医師名自体は秘密に属する情報ではない上、原告と当該機関等が関係していることについても、一般的に公となるか、少なくとも原告において秘密として維持することが性質上できない情報あるいは利用者には明らかとなっている情報である(弁論の全趣旨)。そうすると、これらの情報は、少なくとも非公知性を欠くというべきである。他方、別紙2「第1」の「6」記載の情報は、いずれも原告の利用者個人の情報であり、具体的には、医療保険や高齢者受給者証、高額療養費、介護保険、負担割合証及び公費に関する情報のほか、医療機関からの指示書や訪問看護における計画書等に関する情報である。これらの情報は、いずれも個人情報保護の観点からも保護の必要性の高い情報であり、その性質上、公知
5 の情報とはいえず、契約継続中の利用者に関する情報である限り、原告の事
業上有用な情報であるといえる。したがって、同「6」記載の情報は、非公知性及び有用性がある。イ 秘密管理性本件マスタメンテ情報の原告における管理状況は、前提事実記載のとおりであり、本件マスタメンテ情報が登録されていた原告システムへのアクセス制限措置が講じられ、本件マスタメンテ情報の操作に係るマスタメンテ機能の利用者が一部の従業員に限定されていた。また、証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告の就業規則(68条)によって原告の従業員に対して原告の「機密条項」に関する守秘義務の徹底が周知されていたこと(甲3)、本件マスタメンテ情報中の別紙2「第1」の「6」記載の情報は、利用者のセンシティブ情報を含む個人情報等であって、それ自体慎重に取り扱うべきことは自明である上、外部への持出しは問題であると被告A自身も認識していたこと(被告A本人)が認められる。このような、情報それ自体の性質、本件マスタメンテ情報の客観的な管理状況や被告Aを含む原告従業員の認識可能性に照らせば、本件マスタメンテ情報中の上記「6」記載の情報について、秘密管理性が認められる。ウ 小括以上によれば、本件マスタメンテ情報については、別紙2「第1」の「1」ないし「5」記載の各情報は営業秘密(不競法2条6項)には該当するとはいえないが、同「6」記載の情報は営業秘密に該当する。
(2) 被告Aの不正競争の成否について
ア 取得について前記前提事実のとおり、被告Aは、原告に無断で本件マスタメンテ情報を取得したところ、別紙2「第1」の「6」記載の情報の取得について、被告Aの不正競争(不競法2条1項4号)が成立する。
5 イ 開示について
前記前提事実に加えて、証拠(乙4、7、9、被告A本人)及び弁論の全趣旨によれば、被告会社が令和6年4月から被告システムの利用契約を締結し、同月1日から訪問看護サービスの提供を開始した事実、被告会社が同年3月中に当初引継対象者との間で訪問看護サービスサービス利用契約を締結した事実、遅くとも同月末頃から被告システムへの入力が可能となり、当初引継対象者の情報として、少なくとも本件マスタメンテ情報の別紙2「第1」の「6」の「(1)医療保険、(2)高齢者受給者証、(3)高額療養費、(4)介護保険、(5)負担割合証、(6)公費」の項目に対応する情報が被告Aによって被告システムに登録された事実、被告システムには、他の利用者に係る情報として基本情報以外に上記「(1)」ないし「(6)」の情報が登録され、本件マスタメンテ情報の上記「6」の情報の「(7)」以下の情報が登録されていない事実が、それぞれ認められる。これらの事実に加え、上記「(1)」ないし「(6)」の情報は、利用者IDや公的な資格に関する情報であって、被告会社が原告から引継ぎを受けた時点より半年以上前に取得された情報であったとしても、引き継いだ利用者の情報である以上、利用する余地は十分にあるというべきであることや、被告システムが利用するソフトウェア(iBow)において、別の事業所の情報を他の事業所に取り込むことは推奨されていないものの、取込みが自体は可能であること(甲14)を考慮すると、被告Aによって本件マスタメンテ情報の別紙2「第1」の「6」の「(1)」ないし「(6)」の情報が被告システムに登録されたと推認することができる。以上によれば、被告Aは、本件マスタメンテ情報の同「6」記載の情報のうち、上記「(1)」ないし「(6)」に係る情報を被告会社に開示したといえ、当該開示について、不正競争(不競法2条1項4号)が成立する。これに対し、原告は、被告Aが本件マスタメンテ情報の上記「6」の全て
5 の情報を被告会社に開示したと主張するが、被告会社の他の利用者の情報と
して同「6」の情報の「(7)」以下の項目は入力されておらず、他に、これらの項目の情報が被告システムに入力された事情はうかがわれない。これらの項目の情報は、主として原告での訪問看護サービスの提供方針等に関する情報といえ、必ずしも被告会社において利用される必要性が高いとはいえない。そうすると、被告Aがこれらの情報を被告システムに入力して被告会社に開示したとは認められず、原告の上記主張は採用できない。一方、被告Aは、上記登録において入力した情報は、被告会社が独自に入手した情報であり、本件マスタメンテ情報の同「6」の「(1)」ないし「(6)」の項目の情報を参照したにすぎないと主張するが、被告会社が独自に入手した情報の内容は明らかではなく、その立証もない上、被告Aが開示の事実を当初は認めていたにもかかわらず、その後合理的な理由もなくこれを否認するに至っているとの事情に鑑みると、上記主張を採用することはできない。
(3) 被告会社の不正競争の成否について
上記の認定事実及び弁論の全趣旨によれば、被告会社は、被告Aによる被告システムへの登録という方法によって本件マスタメンテ情報の上記「6」の「(1)」ないし「(6)」の情報の開示を受け、令和6年4月から、被告システムを用いて、同情報に係る利用者である当初引継対象者に対する訪問看護サービスの提供を開始し、上記情報を業務に使用したことが認められる。そして、被告会社の事業が被告A及び被告Bを中心として開始されたこと(乙9)ことからすれば、被告会社は、被告Aによる上記情報の不正取得行為が介在したことを知って、上記情報を使用したといえる。以上によれば、被告会社の上記情報の使用について、不正競争(不競法2条1項5号)が成立する。
2 争点1-2(本件訪問看護記録書Ⅰ情報の取得等について)について
(1) 本件訪問看護記録書Ⅰ情報の営業秘密該当性
5 前記前提事実のとおり、本件訪問看護記録書Ⅰ情報は、原告システムに登録
された本件取得対象者、ME氏及びNK氏に関する訪問看護サービスに関する看護記録に関する情報であるところ、上記のとおりの原告システムの情報の管理の実情や個人情報であるとの情報それ自体の性質に照らせば、秘密管理性があるといえる。また、上記のとおりの本件訪問看護記録書Ⅰ情報の内容及び性質に加え、その内容が、外部に共有されている事情もうかがわれないことに照らせば、非公知性及び有用性もあるというべきである。以上によれば、本件訪問看護記録書Ⅰ情報は、営業秘密(不競法2条6項)に該当する。
(2) 被告Aの不正競争の成否
ア 取得について前記前提事実に加えて、証拠(甲19、乙9、原告代表者本人、被告A本人)によれば、被告Aは、令和6年3月28日の業務時間終了後、本件取得対象者21名、ME氏及びNK氏に関する本件訪問看護記録書Ⅰ情報をダウンロードして取得した事実が認められる。そして、上記(1)のとおり、本件訪問看護記録書Ⅰ情報は営業秘密に当たるから、その取得について、被告Aの不正競争(不競法2条1項4号)が成立する。これに対し、被告は、本件取得対象者については、当初引継対象者に含まれていることから、上記取得については原告の明示又は黙示の同意があったこと、NK氏については、引継ぎ対象ではなかったが同年6月に被告会社との間で訪問看護サービス利用契約を締結したことをもって、取得に係る瑕疵があったとしても治癒されることから、上記取得について被告Aに不正競争は成立しないと主張する。しかし、原告が被告会社に引き継いだのは、本件訪問看護記録書Ⅰ情報を参照して作成された訪問看護サマリーであり、この訪問看護サマリーの内容は必ずしも訪問看護記録書Ⅰ情報と一致するものではない(以上につき、甲
5 22、原告代表者本人、被告A本人)。また、原告代表者が、上記引継ぎに際
して被告Aに対し、本件訪問看護記録書Ⅰを引き継いでよいと明示的に述べたことがないことは、被告Aも認めるところである(被告A本人)。加えて、訪問看護サマリーのみを引き継ぐことが、引継ぎの実務において不自然な取扱いではあるとはいえない(原告代表者本人)ことも踏まえると、原告の、当初引継対象者の決定や訪問看護サマリーの引継ぎの同意をもって、その作成で参照された本件訪問看護記録書Ⅰ情報の引継ぎまで同意されていたとまではいえない。さらに、NK氏については、後に、被告会社と訪問看護サービス利用契約を締結し、原告に対する情報開示請求権を観念できるとしても、そのような正当な手続を経て入手した情報ではないのであるから、情報の取得当時の原告の同意の有無の判断に影響する事情とはならない。よって、被告Aの上記主張はいずれも採用できない。イ 開示について証拠(乙9、被告A本人)によれば、被告Aは、本件取得対象者及びEK氏に関する本件訪問看護記録Ⅰ情報を被告会社に開示した事実が認められる。したがって、上記開示について、被告Aの不正競争(不競法2条1項4号)が成立する。これに対し、原告は、ME氏に関する本件訪問看護記録Ⅰ情報も開示したと主張するが、被告会社がME氏との間で訪問看護サービス利用契約を締結しておらず(乙9、被告A本人)、同人の情報を取得する必要性も見当たらず、他に本件記録上、上記主張を認めるに足りる証拠はない。よって、原告の上記主張は採用できない。ウ 被告会社の不正競争の成否について上記イを前提に、被告会社が本件取得対象者及びNK氏に対して、訪問看護サービスを提供したことからすれば、被告会社は、被告Aから開示を受け
5 た本件取得対象者及びNK氏に関する本件訪問看護記録Ⅰ情報を業務にお
いて使用したと認められる。そして、上記イで検討したとおりの被告会社と被告Aとの関係に照らせば、被告会社は、被告Aによる不正取得行為が介在したことを知って、上記情報を使用したと認められる。エ 小括以上によれば、被告会社による上記情報の使用について、不正競争(不競法2条1項5号)が成立する。
3 争点1-3(本件訪問看護記録Ⅱ情報の取得等について)について
原告は、本件訪問看護記録書Ⅱ情報が営業秘密であることを前提に、これをKが取得して被告Aに開示し、被告Aから開示を受けた被告会社が使用した旨主張する。前記前提事実及び証拠(甲13)によれば、Kが、原告の利用者に関する本件訪問看護記録書Ⅱ情報を令和6年4月3日にPDF化して取得した事実が認められる。もっとも、Kが、上記情報を被告Aに開示したとの主張に沿う証拠は、Kの代理人弁護士作成の電子メール等(甲16、17)のみであり、本件においてこれについて的確な弾劾の機会がなかったことも考慮すると、上記メールの内容から直ちにそのとおり認定することはできず、他にこれを認めるに足りる証拠もない。よって、Kが被告Aに本件訪問看護記録書Ⅱ情報を開示したとの事実を認めることはできず、原告の上記主張は採用することはできない。よって、本件訪問看護記録書Ⅱ情報に関し、被告A及び不正競争は成立しない。
4 争点1-4(本件業務上データ1ないし3の取得等について)について
原告は、本件業務上データ1ないし3、とりわけ、不正競争の対象と主張する前記
(原告の主張)
掲記①から⑦の情報が営業秘密に該当すると主張する。しかしながら、本件業務上データは、原告共有ドライブに保存され、従業員間で共有されていた情報であり、情報の種類によってアクセス権者が限定されていた情報も存在するようであるが(甲22)、パスワード認証等の具体的なアクセ
5 ス制限措置の実施の有無や内容は明らかでなく、従業員においても原告の秘密情
報に該当する情報がどの情報であるかを認識していたのかも明らかではない。このような情報の管理情報に照らせば、本件業務上データ1ないし3について、秘密管理性があるとはいえない。また、上記①、②、⑤及び⑥の情報は、一般に、訪問看護サービスの提供にあたって、事業者が利用者に対して、サービスの利用に同意を得たことを確認する内容のものであり、非公知性があるとはいえない。上記③の情報は、原告が、利用者に対して利用契約を締結する際、医療保険についての重要事項の説明を行うためのマニュアルである(弁論の全趣旨)であるところ、医療保険は市場の商品であると解されるから、その説明資料やマニュアルが非公知な情報であるともいえず、原告の事業のために有用な情報であるともいえない。上記④の情報は、被告Cが自己の業務の円滑な遂行のために作成したメモにすぎず、必ずしも原告の事業のために有用な情報であるとはいえない。上記⑦の情報は、訪問スケジュールに関する表であって、少なくとも利用者や関係者には明らかとなっている情報であるから、非公知性を欠く。よって、いずれの情報についても、有用性又は非公知性を欠くというべきである。以上によれば、上記①ないし⑦の情報は、いずれも営業秘密に該当すると認めることはできないから、その情報の取得等について、被告Aらの不正競争は成立しない。
5 争点1-5(共同不法行為が成立するか)について
被告A及び被告会社は、被告Aが不正に取得した本件マスタメンテ情報の別紙2「第1」の「6」記載の「(1)」ないし「(6)」の項目の情報及び本件取得対象者及びNK氏に係る本件訪問看護記録書Ⅰ情報を被告会社に開示し、被告会社がこれを使用したから、これらの取得、開示及び使用について、共同して責任を負うと認められる。他方で、被告Aないし同Dは、原告が同時期に退職し、その後、被告会社で原
5 告と競合する訪問看護サービス事業に従事したが、後述のとおり、これらの行為
が原告に損害を加える目的で行われたものであるとはいえない上、上記被告Aの行為に何らかの加担をしたことを推認させるものでもない。したがって、被告B、被告C及び被告Dが、被告A及び被告会社と共同して、被告A及び被告会社の不正競争を行ったとはいえないから、これらの不正競争について責任を負わない。
6 争点2(利用者の引抜きを理由とする共同不法行為が成立するか)について
(1) 原告は、被告A及び被告Bが、原告への利用申込みをしたEK氏ほか6名に
対し、原告在職中に積極的に被告会社との利用契約の締結を勧めて原告の利用者を引き抜き、競業避止義務及び職務専念義務に違反したと主張する。まず、EK氏については、証拠(甲22、乙9、原告代表者本人、被告A本人)によれば、令和6年1月頃に原告へ利用希望の申入れがあり、同年2月に、被告A及び被告Bが同人の親族及びケアマネージャーと面談し、原告との訪問看護サービスの利用契約の締結に向けた準備が進められていたが、同年4月から被告会社との間で上記契約が締結された事実が認められるところ、この間、被告A及び被告Bが積極的にEK氏又はその親族らに対し、被告会社との契約を勧めたことを認めるに足りる証拠はない。また、被告会社の訪問スケジュール(甲6)には、同年4月現在の見込みとして「新規予定」6名の記載があるが、訪問看護サービスの提供の開始月に上記記載があることをもって、直ちに原告の利用予定者であった6名が被告会社に引き抜かれたとはいえず、他に、本件において、上記利用予定者の引抜きを認めるに足りる証拠はない。よって、原告の上記主張を採用することはできない。
(2) 以上から、被告らには、利用者の引抜きを理由とする共同不法行為は成立し
ない。
7 争点3(集団退職及び退職勧誘を理由とする共同不法行為が成立するか)につ
5 いて
原告は、被告A、同B及び同Cが、原告に損害を加える目的で一斉に退職し、他の原告の従業員の退職を招くとともに、他の原告の従業員の退職を勧誘するなどの背信的行為を行ったことを前提に、被告らに共同不法行為が成立すると主張する。この点、前記前提事実のとおり、被告A、同B及び同Cは、令和6年3月末におのおの原告を退職して原告の事業と競合する事業を行う被告会社で勤務するようになったが、退職予定の約4か月前には、原告代表者に独立して退職する予定であることを伝えており、原告代表者もこれを了承したのであるから、その退職は何ら背信的な行為ではない。そして、証拠によれば、被告Dが被告Bの紹介で原告へ雇用された経緯から、被告A及び被告Bが、自らの退職後に被告Dが残ることに配慮して、被告会社への転職を提案したことが認められる(甲22、乙9、原告代表者本人、被告A本人)ところ、このような退職勧誘の態様が、社会通念上相当な範囲を逸脱する態様であるともいえない。さらに、被告A、同B及び同Cの退職が決定された後、原告の従業員が被告D、Kのほかに4名退職した事実はあるが、令和6年1月時点において、被告Aないし同D以外の原告の従業員もチャットで原告代表者への不満を述べていた(甲8)のであり、上記4名の退職が被告Aないし同Dの退職を契機とするものであったとしても、その要因が原告側にあることも否めない。そして、原告の指摘する原告の従業員のグループチャットの履歴(甲8)等の証拠を精査しても、被告Aないし同Dが、原告に損害を加える目的で一斉に退職し、他の従業員の退職を勧誘したとはいえないから、原告の上記主張を採用することはできない。よって、被告らには、集団退職等を理由とする共同不法行為は成立しない。
8 争点4(原告に対する信用毀損を理由とする不正競争(不競法2条1項21号)
が成立するか)について原告は、被告A及び被告Bが、原告の取引先に原告の提供するサービスの質が
5 良質ではないなどと告知等したことを前提に、不正競争が成立すると主張するが、
原告の指摘する被告A及び被告Bの言動を裏付ける証拠は全くないから、上記主張を採用することはできない。
9 争点5(原告の被った損害の額)について
(1) 営業秘密の不正取得、開示及び使用による損害
原告は、当初引継対象者に関する本件マスタメンテ情報の不正取得、開示及び使用によって、①令和6年4月及び同年5月の間の当初引継対象者に対するサービスの提供によって得られたであろう利益、及び②営業秘密の不正取得のための調査費用の損害を被ったと主張する。しかしながら、①については、当初引継対象者は、被告Aらの原告からの退職と独立それ自体は最終的に容認し、同年3月時点で原告自ら被告会社へ引き継ぐことを決めた利用者であり、同年4月及び5月の間に原告が当初引継対象者に対する訪問看護サービスを提供することはなかったのであるから、そもそも損害は発生していない上、被告A及び被告会社の不正競争との間の相当因果関係を認める余地はない。また、②については、ダウンロード等のログ履歴の調査のために必ずしも調査会社を利用する必要性があるとはいえず、他に必要性を裏付ける事情も本件において認め難く、
(原告の主張)
する調査費用は、被告A及び被告会社の不法行為と相当因果関係のある損害であると認められない。
(2) 以上によれば、被告A及び被告会社による不法行為によって、原告に損害が
生じたと認めることはできない。したがって、原告の損害賠償請求に関する主張は、いずれも理由がない。
10 争点6(差止めの必要性)について
(1) 被告会社に対する本件訪問看護記録 I の使用等差止請求等について
被告会社は、本件訪問看護記録書Ⅰについては、被告に正当な開示請求権限があるから差止めの必要性はない旨主張するが、上記主張が採用できないこと
5 は前記のとおりである。被告会社が、なお本件訪問看護記録書Ⅰ情報を保持し
て利用していることを考慮すると、原告から入手した訪問看護記録書Ⅰ記載の情報の限度では、その使用の差止めの必要性は認められる。また、証拠及び弁論の全趣旨によれば、被告会社が取得した別紙「原告情報目録」第2の「6」記載の情報(本件マスタメンテ情報の一部)を使用するおそれがあると認められるところ、原告は、上記情報について、営業上の活動における使用の差止め(第1の1(1))、被告システム上での使用の差止め(第1の1(2))、別紙3-6「利用者目録」記載の利用者に対する営業活動の差止め(第1の1(4))を求めているが、これらの請求は、被告会社の営業活動において上記「6」記載の情報の使用の差止めを求める請求に包含されていると解される。
(2) 被告Aに対する本件マスタメンテ情報の使用等差止請求について被告Aは、
本件マスタメンテ情報を保存したUSBメモリーを警察に提供して所有権放棄したので、その使用及び廃棄の必要性はない旨主張するが、当該主張から直ちに当該情報の使用を差し止める必要性は否定されず、なお原告から入手した本件マスタメンテ情報中の別紙2「第1」の「6」掲記の情報の使用を差止める必要がある。
第5 結論
以上の次第で、原告の請求は主文の限度で理由があり、その余の請求はいずれも理由がない。大阪地方裁判所第26民事部裁判長裁判官
5 松 阿 彌 隆
裁判官島 田 美 喜 子裁判官西 尾 太 一(別紙)差止対象情報目録
1 別紙4「対象利用者情報目録」番号1ないし23の利用者に関する別紙3-6
5 記載の利用者の情報のうちの以下の情報
(1) 医療保険
①利用者システムID、②利用者名、③医療保険システムID、④保険種類、
⑤保険者番号、⑥保険者名、⑦資格取得年月日、⑧有効期限、⑨給付割合
(2) 高齢者受給者証
①利用者システムID、②利用者名、③高齢受給者証システムID、④有効期
限
(3) 高額療養費
①利用者システムID、②利用者名、③高額療養費システムID、④高額療養
費設定、⑤高額療養費設定(金額)、⑥高額療養費(開始日、終了日)
(4) 介護保険
①利用者システムID、②利用者名、③介護保険システムID、④保険者番号、
⑤保険者名、⑥被保険者番号、⑦給付率、⑧医療機関システムID、⑨居宅サ
ービス計画作成者(関連機関名)、⑩担当者システムID、⑪居宅サービス計画作成者(担当者名)、⑫要介護度、⑬申請状態、⑭有効期限
(5) 負担割合証
①利用者システムID、②利用者名、③負担割合証システムID、④給付率の
登録、⑤負担割合、⑥給付率、⑦有効期限
(6) 公費
①利用者システムID、②利用者名、③公費システムID、④公費ID、⑤公
費種類名称、⑥開始日、⑦終了日、⑧負担者番号、⑨受給者番号
2 別紙4「対象利用者情報目録」番号1ないし23の利用者に関する別紙3-6
記載の情報のうちの以下の情報
(1) 医療保険
5 ①利用者システムID、②利用者名、③医療保険システムID、④保険種類、
⑤保険者番号、⑥保険者名、⑦資格取得年月日、⑧有効期限、⑨給付割合
(2) 高齢者受給者証
①利用者システムID、②利用者名、③高齢受給者証システムID、④有効
期限
(3) 高額療養費
①利用者システムID、②利用者名、③高額療養費システムID、④高額療
養費設定、⑤高額療養費設定(金額)、⑥高額療養費(開始日、終了日)
(4) 介護保険
①利用者システムID、②利用者名、③介護保険システムID、④保険者番
号、⑤保険者名、⑥被保険者番号、⑦給付率、⑧医療機関システムID、⑨居宅サービス計画作成者(関連機関名)、⑩担当者システムID、⑪居宅サービス計画作成者(担当者名)、⑫要介護度、⑬申請状態、⑭有効期限
(5) 負担割合証
①利用者システムID、②利用者名、③負担割合証システムID、④給付率
の登録、⑤負担割合、⑥給付率、⑦有効期限
(6) 公費
①利用者システムID、②利用者名、③公費システムID、④公費ID、⑤
公費種類名称、⑥開始日、⑦終了日、⑧負担者番号、⑨受給者番号
(7) 指示書
①利用者システムID、②利用者名、③指示書システムID、④指示書種類、
⑤医療機関システムID、⑥医療機関名、⑦医師システムID、⑧医師ID、
⑨書面未到着、⑩有効期限、⑪点滴注射指示、⑫点滴:有効期限、⑬点滴注射
指示内容、⑭留意事項及び指示事項、⑮主傷病名1~3、⑯疾病、⑰状態、⑱緊急時訪問看護加算、⑲24時間対応体制加算、⑳特別管理加算、㉑他訪問看護ステーションシステムID、㉒訪問看護ステーションへの指示、㉓医師から
5 の指示内容、㉔臨時対応、㉕在宅療養支援診療所又は在宅療養、㉖長時間訪問
看護加算条件、㉗重症児判定
(8) 計画書(衛生材料等)
①利用者システムID、②利用者名、③計画書システムID、④作成月、⑤
衛生材料等が必要な処置の有無、⑥処置の内容、⑦衛生材料等(種類・サイズ)、
⑧必要量、⑨記載日、⑩作成職員システムID、⑪作成職員名、⑫担当職員シ
ステムID、⑬担当職員名
(9) 計画書(長期目標・短期目標)
①利用者システムID、②利用者名、③計画書システムID、④目標システ
ムID、⑤長期・短期区分、⑥目標区分、⑦目標
(10)計画書(問題点・解決策・評価)
①利用者システムID、②利用者名、③計画書システムID、④問題点シス
テムID、⑤年月日、⑥問題点、⑦解決策、⑧評価
(11)報告書
①利用者システムID、②利用者名、③報告書システムID、④報告月、⑤
担当看護師システムID、⑥担当看護師名、⑦病状の経過、⑧看護の内容、⑨家族等(家庭での)状況、⑩衛生材料等の名称、⑪使用及び交換頻度、⑫使用料、⑬衛生材料等変更の必要、⑭変更の内容、⑮連絡・特記事項(別紙2)原告秘密情報目録
5 第1 マスタメンテに登録された情報(マスタメンテ情報)
1 別紙3-1「職員目録」に記載された職員名の①職員システムID、②職員名
2 別紙3-2「関連機関目録」に記載された関連機関名の①関連機関システムI
D、②支援事業所区分、③関連機関名
3 別紙3-3「関連機関担当者目録」に記載された関連機関担当者名の①関連機
関システムID、②関連機関名、③担当課、④担当者名
4 別紙3-4「医療機関目録」に記載された医療機関名の①医療機関システムI
D、②医療機関名、③事業所番号、④住所
5 別紙3-5「医師目録」に記載された医師名の①医療機関システムID、②医
療機関名、③医師システムID、④担当科、⑤医師名
6 別紙3―6「利用者目録」に記載された利用者の以下の情報
(1) 医療保険
①利用者システムID、②利用者名、③医療保険システムID、④保険種類、
⑤保険者番号、⑥保険者名、⑦資格取得年月日、⑧有効期限、⑨給付割合
(2) 高齢者受給者証
①利用者システムID、②利用者名、③高齢受給者証システムID、④有効
期限
(3) 高額療養費
①利用者システムID、②利用者名、③高額療養費システムID、④高額療
養費設定、⑤高額療養費設定(金額)、⑥高額療養費(開始日、終了日)
(4) 介護保険
5 ①利用者システムID、②利用者名、③介護保険システムID、④保険者番
号、⑤保険者名、⑥被保険者番号、⑦給付率、⑧医療機関システムID、⑨居宅サービス計画作成者(関連機関名)、⑩担当者システムID、⑪居宅サービス計画作成者(担当者名)、⑫要介護度、⑬申請状態、⑭有効期限
(5) 負担割合証
①利用者システムID、②利用者名、③負担割合証システムID、④給付率
の登録、⑤負担割合、⑥給付率、⑦有効期限
(6) 公費
①利用者システムID、②利用者名、③公費システムID、④公費ID、⑤
公費種類名称、⑥開始日、⑦終了日、⑧負担者番号、⑨受給者番号
(7) 指示書
①利用者システムID、②利用者名、③指示書システムID、④指示書種類、
⑤医療機関システムID、⑥医療機関名、⑦医師システムID、⑧医師ID、
⑨書面未到着、⑩有効期限、⑪点滴注射指示、⑫点滴:有効期限、⑬点滴注射
指示内容、⑭留意事項及び指示事項、⑮主傷病名1~3、⑯疾病、⑰状態、⑱緊急時訪問看護加算、⑲24時間対応体制加算、⑳特別管理加算、㉑他訪問看護ステーションシステムID、㉒訪問看護ステーションへの指示、㉓医師からの指示内容、㉔臨時対応、㉕在宅療養支援診療所又は在宅療養、㉖長時間訪問看護加算条件、㉗重症児判定
(8) 計画書(衛生材料等)
①利用者システムID、②利用者名、③計画書システムID、④作成月、⑤
衛生材料等が必要な処置の有無、⑥処置の内容、⑦衛生材料等(種類・サイズ)、
⑧必要量、⑨記載日、⑩作成職員システムID、⑪作成職員名、⑫担当職員シ
ステムID、⑬担当職員名
(9) 計画書(長期目標・短期目標)
①利用者システムID、②利用者名、③計画書システムID、④目標システ
5 ムID、⑤長期・短期区分、⑥目標区分、⑦目標
(10)計画書(問題点・解決策・評価)
①利用者システムID、②利用者名、③計画書システムID、④問題点シス
テムID、⑤年月日、⑥問題点、⑦解決策、⑧評価
(11)報告書
①利用者システムID、②利用者名、③報告書システムID、④報告月、⑤
担当看護師システムID、⑥担当看護師名、⑦病状の経過、⑧看護の内容、⑨家族等(家庭での)状況、⑩衛生材料等の名称、⑪使用及び交換頻度、⑫使用料、⑬衛生材料等変更の必要、⑭変更の内容、⑮連絡・特記事項
第2 訪問看護記録書Ⅰに記載された情報(訪問看護記録書Ⅰ情報)
別紙4・対象利用者情報に記載された利用者名(8番及び23番を除く。)の訪問看護記録書Ⅰに記載された①訪問種類、②記録日、③ふりがな、④性別、⑤年齢、⑥氏名、⑦生年月日、⑧住所、⑨電話番号、⑩携帯番号、⑪初回訪問年月日、
⑫主たる傷病名、⑬既往歴及び現病歴、⑭病状/治療状態、⑮病識の有無/程度、
⑯緊急時の連絡方法、⑰当訪問看護ステーションよりの所要時間、⑱住居環境、
⑲家族構成、⑳特記すべき事項
第3 訪問看護記録Ⅱに記載された情報(訪問看護記録Ⅱ情報)
利用者●●●●の訪問看護記録Ⅱに記載された①ID、②ご利用者名、③年齢、
④訪問日、⑤訪問時間、⑥提供時間、⑦担当者、⑧訪問職種、⑨同行者、⑩GA
F評価、⑪本日の状態、⑫観察項目、⑬症状報告、⑭看護内容、⑮連絡事項
第4 業務上データに記載された情報
1 別紙5-1・業務上データ(被告 B による不正取得分)に記載されたファイ
ル名に係る業務上データ
5 2 別紙5―2・業務上データ(被告 A による不正取得分)に記載されたフ
ァイル名に係る業務上データ
3 別紙5-3・業務上のデータ(被告 C による不正取得分)に記載されたフ
ァイル名に係る業務上データ以上(別紙3-1から3-6、別紙4、別紙5-1から5-3 添付省略)
| 特許裁判例 実用新案裁判例 |
| 意匠裁判例 商標裁判例 |
| 不正競争裁判例 著作権裁判例 |
| 特許判例 実用新案判例 |
| 意匠判例 商標判例 |
| 不正競争判例 著作権判例 |
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