令和7(行ケ)10085審決取消請求事件
判決文PDF
▶ 最新の判決一覧に戻る
| 裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
|
| 裁判年月日 |
令和8年1月27日 |
| 事件種別 |
民事 |
| 当事者 |
原告株式会社フィジテック 被告特許庁長官
|
| 法令 |
商標権
商標法3条1項3号9回 商標法4条1項16号3回 商標法10条1項1回
|
| キーワード |
審決18回 拒絶査定不服審判3回 分割1回
|
| 主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
| 事件の概要 |
本件は、商標登録拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟であ
る。争点は、商標法3条1項3号及び4条1項16号該当性である。 |
▶ 前の判決 ▶ 次の判決 ▶ 商標権に関する裁判例
本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。
判決文
令和8年1月27日判決言渡
令和7年(行ケ)第10085号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和7年12月10日
判 決
原 告 株式会社フィジテック
同訴訟代理人弁理士 高 橋 孝 仁
10 被 告 特 許 庁 長 官
同指定代理人 中 島 光
大 島 康 浩
吉 田 聡 一
主 文
15 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
特許庁が不服2024-8713号事件について令和7年7月10日にした
20 審決を取り消す。
第2 事案の概要
本件は、商標登録拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟であ
る。争点は、商標法3条1項3号及び4条1項16号該当性である。
1 特許庁における手続の経緯等
25 (1) 原告は、令和5年2月2日に商標登録出願がされた「ヘルスジム」の文字
を標準文字で表してなる商標(以下「本願商標」という。)につき、同年8月
30日、商標法10条1項の規定による分割出願として、指定役務を第41
類に属する願書記載のとおりの役務とする商標登録出願(以下「本願」とい
う。)をした。原告は、その後、本願商標の指定役務を第41類に属する審決
別掲1記載のとおりの役務に変更した(甲9。本判決では、書証の掲記に際
5 して枝番号の記載を省略する。)。本願商標の指定役務には、
「トレーニングジ
ムの提供」、「スポーツの興行の企画・運営又は開催」等が含まれている。
(2) 原告は、令和6年2月16日付けで、本願商標が商標法3条1項3号及び
4条1項16号に該当するとして拒絶査定を受けたので、拒絶査定不服審判
請求(不服2024-8713号事件)をしたが、特許庁は、令和7年7月1
10 0日、
「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」とい
う。)をして、その謄本は、同年8月4日に原告に送達された。
(3) 原告は、令和7年9月2日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起し
た。
2 本件審決の理由の要旨
15 本願商標は、
「ヘルスジム」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成
中の「ヘルス」の文字は、
「健康。」
(広辞苑第七版)等の意味を有する語であり、
「ジム」の文字は、
「室内トレーニング施設。」
(同)等の意味を有する語である。
審査段階で示された事実及び審判段階における職権調査によると、本願の指
定役務と関連する分野において、健康の促進・維持等のための各種トレーニン
20 グをすることができる健康機器や運動器具を備えた施設が提供されており、当
該施設が「ヘルスジム」と称されている実情が認められる。
以上を踏まえると、本願商標は、構成文字全体として「健康のためのトレー
ニング施設」程の意味合いを認識させるものである。
そうすると、本願商標を本願指定役務に使用した場合、これに接する取引者、
25 需要者は、その役務が「健康のためのトレーニング施設」に係る役務であるこ
と、すなわち、単に役務の質(内容)を普通に用いられる方法で表示したものと
して認識し、本願商標を「健康のためのトレーニング施設」に係る役務以外の
役務に使用するときは、役務の質の誤認を生じさせるおそれがあるというのが
相当である。
よって、本願商標は、商標法3条1項3号及び4条1項16号に該当する。
5 第3 原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性判断の誤り)
(1) 本願商標から生じる意味の認定の誤り
本願商標を構成する「ヘルスジム」の文字からは、抽象的な意味しか生じ
ず、本件審決が認定するような「健康のためのトレーニング施設」という具
10 体的な意味は生じない。
すなわち、本願商標は「ヘルスジム」という一体の語であり、全体として特
定の語義を有しない一種の造語と理解されるものであって、
「ヘルス」と「ジ
ム」に分断して把握すべき理由はない。仮に、
「ヘルス」と「ジム」とに分断
して、それぞれの意味を「健康」及び「トレーニング施設」と把握するとして
15 も、構成全体からは、
「健康のトレーニング施設」といった抽象的な意味しか
生じず、「健康になれるトレーニング施設」や「健康的なトレーニング施設」
等、複数の漠然とした観念が生じる。
このように、本願商標は、役務の意味や雰囲気を漠然・抽象的に想起させ
るものの、役務の特性表示として一般に用いられるものではない。このよう
20 な商標は、一般に自他識別力を有するものとして市場で承認されているから、
本願商標も自他識別力を有するというべきである。
(2) 取引の実情の認定の誤り
本件審決は、
「健康の促進・維持のための各種トレーニングをすることがで
きる健康機器や運動器具を備えた施設が「ヘルスジム」と称されている」と
25 認定したが、そのような一般的な実情は存在しない。本件審決が根拠とした
証拠は薄弱であり、本件訴訟において被告が提出した証拠を加えても、この
ような実情を、一般的・恒常的な取引の実情として認定することはできない。
すなわち、本件審決が掲げた証拠によると、
「ヘルスジム」の使用例は、昭
和58年から本件審決(令和7年)までの約40年間でわずか19件程度が
見つかるにとどまり、その中には、既に実在しない施設の説明や、特定の個
5 人が発信するにすぎないものまであるから、一般的・恒常的な取引の実情を
認定するには不十分である。そして、被告が本件訴訟において提出した証拠
は、
「ヘルスジム」とは全く構成の異なる「健康ジム」の使用例であり、
「ヘル
スジム」の使用例を実質的に追加するものではない。
「健康ジム」の使用例に
よって「ヘルスジム」の使用に関する実情を認定することは許されない。
10 (3) 小括
以上のとおり、本願商標をその指定役務について使用したとしても、取引
者、需要者は、これを単なる役務の質(内容)その他の特徴を表示するものと
して認識するとはいえない。
よって、本願商標は、指定役務の質その他の特徴を普通に用いられる方法
15 によって表示する標章のみからなる商標とはいえず、商標法3条1項3号に
当たらない。本件審決は、同号該当性の判断を誤ったものであり、取り消さ
れるべき違法がある。
2 取消事由2(商標法4条1項16号該当性判断の誤り)
上記1のとおり、本願商標は、役務の質その他の特徴を表示する文字には当
20 たらず、
「ヘルスジム」の文字は特定の意味を生じないか、せいぜい「健康のト
レーニング施設」といった抽象的な意味しか生じない。
よって、本願商標をその指定役務について使用したとしても、取引者、需要
者において、役務の質の誤認を生ずるおそれがあるとはいえないから、本願商
標は、商標法4条1項16号に当たらない。本件審決は、同号該当性の判断を
25 誤ったものであり、取り消されるべき違法がある。
第4 被告の反論
1 取消事由1に対する反論
本願商標は、
「ヘルスジム」の文字を標準文字で表してなるところ、
「ヘルス」
は「健康」を、
「ジム」は「室内トレーニング施設」を意味する平易な外来語で
あり、共に「ヘルス○○」、「○○ジム」のように、複合語の一部としてよく用
5 いられている(乙1~12)。
本願商標の指定役務の取引分野においては、トレーニングマシンやエアロバ
イク等の健康機器や運動器具を備え、健康(維持、促進)のためにトレーニン
グを行う施設として、
「ヘルスジム」や「健康ジム」と称するジムが多数存在す
る実情が認められる(乙13~55)。
10 このような本願商標の構成文字の語義や、その指定役務に係る取引の実情を
踏まえると、本願商標は、構成文字全体として「健康のためのジム」程度の意
味合いを容易に認識、理解させるものであるから、取引者、需要者によって、
役務の質(内容)を表示したものと一般に認識されるにとどまる。
したがって、本願商標は、商標法3条1項3号に該当する。
15 2 取消事由2に対する反論
上記1に主張した本願商標から生じる意味合いからすると、本願商標が「健
康のためのジム」と関連する役務以外の指定役務について使用されたときは、
役務の質の誤認を生ずるおそれがある。
したがって、本願商標は、商標法4条1項16号に該当する。
20 第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性判断の誤り)
(1) 商標法3条1項3号について
商標法3条1項3号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くとされているの
は、これらの商標が、指定商品又は指定役務との関係で、取引に際し必要適
25 切な表示として何人もその使用を欲するものであるから、特定人によるその
独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、一般的に使
用される標章であって、多くの場合自他商品識別力を欠き、商標としての機
能を果たし得ないものであることによるものである(最高裁昭和53年(行
ツ)第129号同54年4月10日第三小法廷判決・裁判集民事126号5
07頁参照)。
5 そうすると、ある商標が、その指定役務について役務の質、態様その他の
特徴(以下「質等」という。)を普通に用いられる方法で表示する標章のみか
らなる商標であるというためには、当該商標が当該役務との関係で役務の質
等を表示記述するものであって、当該商標が当該役務に使用された場合に、
取引者、需要者により、将来を含め、役務の質等を表示したものとして一般
10 に認識されるものであれば足りる。そして、当該商標の取引者、需要者によ
って当該役務に使用された場合に役務の質等を表示したものと一般に認識さ
れるかどうかは、当該商標の構成やその指定役務に関する取引の事情を考慮
して判断すべきである。
(2) 本願商標の構成
15 本願商標は、「ヘルスジム」の文字を標準文字で表してなるものである。
ここで、
「ヘルス」は「健康」
(乙1:広辞苑第七版、乙2:大辞林第四版)、
「ジム」は「室内トレーニング施設」
(乙3:広辞苑第七版)、
「トレーニング
のための屋内施設」
(乙4:大辞林第四版)を意味する語として、いずれも辞
書に載録され、外来語由来ではあるが我が国において広く用いられるなじみ
20 の深い語である。そして、上記辞書の記載によると、
「ヘルス」の語は、
「ヘル
スセンター」、
「ヘルスケア」及び「ヘルスツーリズム」のように、語の後ろに
名詞を組み合わせて「健康のための○○」を示す用法が慣用されていると認
められる。また、証拠(乙5~12)によると、
「ジム」の語は、それ自体「健
康増進、維持を目的とする屋内運動施設」を示す用語として使用されるほか、
25 「フィットネスジム」、
「パーソナルジム」及び「リハビリジム」のように、語
の前に名詞又は形容詞を組み合わせて「○○といった特徴を有する屋内トレ
ーニング施設」を示す用法が慣用されていると認められる。
そうすると、本願の指定役務の取引者、需要者というべき一般消費者は、
「ヘルスジム」との文字列から、
「健康のための屋内トレーニング施設」との
意味合いを容易に想起するものといえる。
5 (3) 取引の実情
以上の点は、本願の指定役務に関する取引の実情からも裏付けることがで
きる。
すなわち、証拠(乙13~20、24~26、35、36、38~40、4
3、44、48)によると、全国版・地方版を問わない新聞記事、地方公共団
10 体の広報紙、不動産開発会社や旅行代理店のウェブサイト、店舗検索ウェブ
サイト、インターネット上のニュースサイトやブログ等において、
「ヘルスジ
ム」の語が、
「健康のための屋内トレーニング施設」といった意味合いを示す
用語として、特段の語句の説明もなく、相当程度使用されていることが認め
られる。このことは、本願の指定役務の取引者、需要者において、
「ヘルスジ
15 ム」の文字列から、
「健康のための屋内トレーニング施設」との意味合いを容
易に想起することを裏付ける実情ということができる。
(4) 検討
以上によると、本願商標は、
「トレーニングジムの提供」等を含むその指定
役務との関係で、役務の質(内容)を表示記述するものであって、本願商標が
20 当該指定役務に使用された場合に、取引者、需要者により、将来を含め、役務
の質(内容)を表示したものと一般に認識されるものである。そして、本願商
標は、
「ヘルスジム」の文字を標準文字で表してなるものであり、特段、識別
力を獲得するための他の要素は加えられていない。
したがって、本願商標は、その指定役務について役務の質(内容)を普通に
25 用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるといえるから、商標
法3条1項3号に該当する。
(5) 原告の主張について
ア 原告は、
「ヘルスジム」の文字からは、抽象的な意味が生ずるのみであっ
て、
「健康のためのトレーニング施設」という具体的な意味は生じないと主
張する。
5 しかし、
「ヘルスジム」を構成する「ヘルス」及び「ジム」が、それぞれ
「健康」及び「室内トレーニング施設」を意味する語として、我が国におい
て広く用いられるなじみの深い語であること、これらの語がいずれも他の
語と組み合わせて使用される用法が慣用されていることは前記(2)のとお
りであるから、本願商標の指定役務の取引者、需要者は、
「ヘルスジム」と
10 の構成から、
「ヘルス」及び「ジム」の各語の意味をそれぞれ想起し、全体
として「健康のための屋内トレーニング施設」との意味合いを容易に想起
するといえる。原告の主張は採用することができない。
イ 原告は、健康の促進・維持のための各種トレーニングをすることができ
る健康機器や運動器具を備えた施設が「ヘルスジム」と称されているとい
15 う一般的・恒常的な実情は存在しないと主張する。
しかし、
「ヘルスジム」という語の実際の使用例が多数とまではいえない
としても、
「ヘルスジム」が、
「健康のための屋内トレーニング施設」といっ
た意味合いを示す用語として、特段の語句の説明もなく相当程度使用され
ていることは前記(3)のとおりであって、これらが一般消費者への説明とし
20 て成り立っていることは、取引者、需要者が「ヘルスジム」との構成から
「健康のためのトレーニング施設」との意味合いを容易に想起することを
裏付ける実情ということができる。原告の主張は採用することができない。
(6) 小括
以上のとおり、本願商標は、商標法3条1項3号に該当するから、商標登
25 録を受けることができない。原告主張の取消事由1には理由がない。
2 結論
そうすると、本願商標は商標登録を受けることができない商標であるから、
原告主張の取消事由2の理由の有無により本件審決の結論は左右されない。し
たがって、取消事由2について判断するまでもなく、拒絶査定不服審判請求を
成り立たないとした本件審決に取り消されるべき違法はない。
5 よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとして、主文の
とおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官
増 田 稔
裁判官
伊 藤 清 隆
裁判官
25 天 野 研 司
最新の判決一覧に戻る