令和7(行ケ)10037審決取消請求事件
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| 裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
|
| 裁判年月日 |
令和8年2月18日 |
| 事件種別 |
民事 |
| 当事者 |
原告デンツプライシロナインコーポレイテッド 被告株式会社アイキャット
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| 対象物 |
断面画像検出装置 |
| 法令 |
特許権
特許法44条1項1回 特許法44条1回 特許法17条の21回
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| キーワード |
審決57回 無効38回 実施37回 進歩性34回 分割14回 新規性7回 無効審判5回 刊行物3回 特許権2回 優先権1回
|
| 主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期 |
| 事件の概要 |
1 特許庁における手続の経過等(当事者間に争いがないか、又は当裁判所に
顕著である。 |
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判決文
令和8年2月18日判決言渡
令和7年(行ケ)第10037号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和7年12月23日
判 決
原 告 デ ン ツ プ ラ イ シ ロ ナ
インコーポレイテッド
10 同訴訟代理人弁理士 阿 部 達 彦
崔 允 辰
高 橋 史 生
田 中 研 二
塚 田 悠 貴
15 同訴訟代理人弁護士 松 本 慶
被 告 株式会社アイキャット
同訴訟代理人弁護士 山 本 健 策
20 福 永 聡
本 田 輝 人
池 田 有 沙
同訴訟代理人弁理士 田 中 宏 樹
主 文
25 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期
間を30日と定める。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
5 特許庁が無効2023-800069号事件について令和6年12月18日
にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経過等(当事者間に争いがないか、又は当裁判所に
顕著である。)
10 (1) 被告は、発明の名称を「断面画像検出装置」とする発明についての特許
第5231350号(請求項の数2。以下、この特許を「本件特許」とい
う。)の特許権者であり、本件特許に係る発明について、平成21年7月1
2日に、平成20年7月21日に出願した特願2008-187993号
(甲13。以下「親出願」という。)の一部を特許法44条1項の規定によ
15 り新たな特許出願としたものである。親出願は、2005年(平成17年)
9月26日を国際出願日とする特願2006-536445号(以下「原出
願」という。)の一部を同項の規定により新たな特許出願としたものであり、
親出願の優先権主張は平成16年9月24日(以下「優先日」という。)及
び平成17年3月9日である。平成25年3月29日に本件特許に係る特許
20 権の設定登録がされた。
(2) 原告は、令和5年10月31日、被告を被請求人として、本件特許の請
求項1及び2に係る発明についての特許を新規性欠如、進歩性欠如、実施可
能要件違反、発明該当性欠如、新規事項追加(補正要件違反)、サポート要
件違反及び明確性要件違反の理由で無効とすることを求める無効審判を請求
25 し、特許庁はこれを無効2023-800069号事件として審理を行った
(以下「本件無効審判」という。)。
(3) 特許庁は、令和6年12月18日、「本件審判の請求は、成り立たない。」
との審決(以下「本件審決」という。)をし(出訴期間として原告に対し9
0日を付加)、その謄本は同月25日原告に送達された。
(4) 原告は、令和7年4月23日、本件審決の取消しを求める本件訴えを提
5 起した。
2 本件特許に係る発明の概要
(1) 特許請求の範囲
本件特許の特許請求の範囲の記載は、以下のとおりである(以下、本件
特許の各請求項に係る発明を請求項番号に対応して「本件発明1」などとい
10 い、総称して「本件発明」という。請求項1及び2の分説は、本件審決によ
るものであり、後記において「構成要件A」のようにして参照する場合があ
る。)。
【請求項1】
A ディスプレイ上に表示された歯列を含む上顎部及び/又は下顎部の3次
15 元撮影画像上に、歯科用インプラントを任意に位置決めすることで、基
準軸としての歯科用インプラント長軸を含む所定の平面領域の画像を生
成する断面画像検出装置であって、
B1 前記歯科用インプラントは、前記ディスプレイ上を移動させることで
任意に位置決められ、
20 B2 該歯科用インプラントが任意に位置決めされると前記平面領域も位置
決められ、
C また、前記歯科用インプラントは、
上顎部及び/又は下顎部の座標系を固定した状態で任意の方向に傾斜さ
せることができ、
25 D 且つ前記平面領域は前記歯科用インプラントとともに傾斜させることが
でき、
E 前記平面領域は前記歯科用インプラント長軸を中心に、軸周りに回転さ
せることができる、ことを特徴とする
F 断面画像検出装置。
【請求項2】
5 G 前記歯科用インプラントの傾斜に拘わらず、前記平面領域を表示する
ディスプレイ上に表示される断面画像は、基準となる咬合平面を固定状
態で表示させる、ことを特徴とする
H 請求項1記載の断面画像検出装置。
(2) 本件特許に係る明細書等の記載事項
10 本件特許に係る明細書及び図面(甲23。以下、まとめて「本件明細書」
という。)の抜粋を、別紙1「本件明細書等の記載事項(抜粋)」に掲げる。
これによれば、本件発明について以下のとおりの事項が開示されているもの
と認められる(【】内は段落番号を表す。以下同じ。)。
ア 技術分野
15 本件発明は、顎骨等の頭部のCT撮影画像の任意に位置決めされた歯
科用インプラント画像の軸周りの断面画像を検出・表示する断面画像検
出装置に関する。(【0001】)
イ 背景技術
患者を患部の疾患を検出する一つ方法としてCT撮影が存在する。こ
20 のCT撮影は患者内部の断層画像を取得する撮影方法であるが、2次元
のアナログ情報であるため撮影部位の任意断層を平面的に視認すること
はできても、3次元イメージとして把握することができないという不具
合があった。近年、この不具合を解消するためにCT撮影から取得され
た2次元アナログ情報を3次元デジタル情報に変換し、変換された情報
25 をディスプレイ上に3次元画像として表示するシステムが開発されてき
た。このシステムでは、オペレータがディスプレイ上の患者部位の3次
元イメージを視認しながらこのイメージの任意位置を指定することで、
目的とする患者部位の断層画像を取得することができる。(【0002】)
しかしながら、上記システムでは、オペレータがディスプレイに表示
された3次元画像を視認することはできても、歯科医師等が所望する基
5 準位置からの見た画像情報を取得することはできない。これは、CT撮
影情報がワールド領域(絶対座標を有する仮想空間)上の絶対的な座標
上に配置されているにすぎないからであり、基準位置に対する相対的な
撮影情報の設定がなされていないからである。例えば、歯列欠損部に歯
科用インプラント(以下「人工歯根」ともいう。)を埋入する目的で患者
10 の顎部をCT撮影した場合で説明すれば、CT撮影は患者の頭部を寝台
に載置してなすものであり、撮影された断層情報は寝台を位置基準とす
る断面情報となる。(【0003】)
これに対して、歯科医師が要求する断層情報は、その治療態様に応じ
て歯科医師が所望する人体要素を位置基準とした情報である。したがっ
15 て、CT撮影を実行する歯科医師(又は歯科医師の指示を受けたオペ
レータ)は、所望する位置基準に基づいて患者を位置決めして撮影する
必要がある。これは非常に困難且つ経験を要する作業である反面、患者
の被爆度を考慮すれば、撮影のやり直しを繰り返すことができないとい
う事情がある。このような事情により、従来から医療関係者の間では、
20 任意の位置に位置決めされた患者部位のCT撮影情報を患者部位の基準
面(咬合面のように)からの相対的位置情報を含む人体情報として検出
する手段が求められてきた。(【0004】)
上記問題を解決するために、近年、種々の技術が開発検討されてきた
が、処理速度が遅い又は装置が大型化するという問題も指摘されている。
25 とりわけ、インプラント手術を実行する歯科医師にとって、CT等撮影
情報から埋入するインプラントを基準とした断面情報の取得が望ましい
が、従来のCT等撮影の場合、歯科医師は患者の前方から咬合平面を視
認した状態の視点座標に基づいて施術を実行するのに対して、CT撮影
情報はワールド領域を外部から視認した座標系で画像表示され、歯科医
師にとって施術段階での視点と異なる断面画像が提供されるという問題
5 もあった。これは断面画像を見て施術する歯科医師の豊富な経験を要す
る作業である。このような事情により、従来から歯科関係者の間では任
意の基準位置に基づいた患者の断面情報、さらには歯科医師の施術視点
で要求される断面画像の提供が望まれていた。(【0006】)
ウ 発明が解決しようすると課題
10 本件発明は、以上の事情に鑑みて創作されたものであり、上顎部及び
/又は下顎部の3次元撮影画像内に位置決めされた歯科用インプラント
の軸周りの断面画像を検出し、更にはその断面画像を歯科医師等が所望
する視点で提供する断面画像検出装置を提供することを目的としている。
(【0008】)
15 エ 課題を解決するための手段
本件発明の断面画像検出装置によれば、ディスプレイ上に表示された
歯列を含む上顎部及び/又は下顎部の3次元撮影画像上に、歯科用イン
プラントを任意に位置決めすることで、基準軸としての歯科用インプラ
ント長軸を含む所定の平面領域の画像を生成する。(【0009】)
20 歯科用インプラントは、ディスプレイ上を移動させることで任意に位
置決められ、歯科用インプラントが任意に位置決めされると平面領域も
位置決められる。また、歯科用インプラントは上顎部及び/又は下顎部
の座標系を固定した状態で任意の方向に傾斜させることができ、且つ平
面領域は歯科用インプラントとともに傾斜させることができる。また、
25 平面領域は前記歯科用インプラント長軸を中心に、軸周りに回転させる
ことができる。(【0010】)
また、本断面画像検出装置によれば、歯科用インプラントの傾斜に拘
わらず、平面領域を表示するディスプレイ上に表示される断面画像は、
基準となる咬合平面を固定状態で表示させることができる。(【0011】)
オ 発明の実施をするための形態
5 本件発明の3次元画像の断面画像を検出する装置において、ディスプ
レイ上にはCT撮影により得た3次元情報に基づいて顎部が表示されて
いる。(【0046】)
歯冠画像は予め作成された歯冠形状の模型をCT撮影しておき、その
撮影情報に基づいた画像を一つのオブジェクトとしてディスプレイ上の
10 任意の位置に配置される。通常、この画像(オブジェクト)をオペレー
タがディスプレイ画像内で移動させ、欠損部に重ね合わせ、適当と判断
される位置に適宜配置する。(【0047】)
また、この歯冠画像の下端には基準軸に沿って歯科用インプラントが
画像表示されており、さらに基準軸には歯科用インプラント及び歯科用
15 インプラント長軸を含む所定の平面領域が付与されている 。(【004
8】)
オペレータがディスプレイ上を移動させ、歯科用インプラントが任意
に位置決め画像表示される。さらに、歯科用インプラントが位置決めさ
れると平面領域も位置決めされ、画像表示されることとなる。この平面
20 領域こそがここで断面画像を所望する平面である。ここで平面領域の位
置決めについて言及すれば、断面検出用画像はワールドエリア内で該画
像が配設されたローカルエリアを設定すれば、歯科用インプラント画像
の任意の傾斜角、平面領域の任意の回転角を選択、設定することができ
る。歯科用インプラント長軸をZ軸とし、平面領域をXY平面とする歯
25 科医視点の座標系を設定すれば、3次元撮影画像内の任意の歯科用イン
プラントの軸周りに回転させた平面領域上の断面画像が表示される。ま
た、歯科用インプラントを3次元撮影画像内で移動・傾斜させ、これと
インプラントと平面領域とを軸周りに回転させることができる。このよ
うにしてディスプレイの撮影画像上に任意に位置決めされた歯科用イン
プラントを移動・軸回転・傾斜させたときの該インプラント長軸周りの
5 平面領域の画像を取得すれば、ディスプレイの撮影画像上の歯科用イン
プラントの埋入位置を確認しながら、その断面画像を取得することが可
能となる。(【0049】)
カ 発明の効果
本件発明の断面画像検出装置では、歯科医師がディスプレイ上の任意の
10 位置に位置決めされた歯科用インプラント画像の軸周りの断面画像を取
得することができる。歯科医師は、ディスプレイ上で自己の治療状態を
イメージしながら、歯科用インプラント画像を基準とした座標系で断面
情報を取得することができる。例えば、インプラントの埋入位置を画定
させたい歯科医師においては、ディスプレイ上でインプラント画像に埋
15 入させた様子を視認しつつ下顎管等の神経に当接しないインプラント位
置を検出することができる。さらに、本件発明の断面画像検出装置では、
歯科医師等が施術の際に思考する視点基準である咬合平面が固定された
状態で断面画像を取得することができる。
さらに、本件発明の断面画像検出装置によれば、CT撮影画像特有の
20 画像の不明確性を排除し、とりわけ歯科医師にとって、ディスプレイ上
の任意の位置の位置決めした歯科用インプラントを傾斜、軸回転させた
断面画像を視認でき、且つ歯科医師の医療上基準として考える咬合平面
を画像上固定表示させることができる。したがって、CT撮影画像及び
その断面画像に基づいて歯科用インプラントの埋入画像処理を実行する
25 歯科医師のユーザビリティが大幅に向上する。(【0012】)
3 甲第1号証記載の発明について
(1) 甲第1号証の記載事項
原告が本件無効審判において本件発明の進歩性欠如(無効理由1-1)の
主引用例文献としたのは、優先日前に頒布された刊行物である甲第1号証
(R.Cucchiara 外、「An image analysis approach for automatically re-
5 orienteering CT images for dental implants」と題する論文、Computer
ized Medical Imaging and Graphics 28 (2004) 、p185~201)及び甲第1
号証の2(R.Cucchiara 外、「An image analysis approach for automatic
ally re-orienteering CT images for dental implants」と題するウェブ
ページ<URL: https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii
10 /S0895611104000254>)を印刷した書面(写し)であり、この甲第1号証
(訳文)には別紙2「甲第1号証の記載事項(抜粋)」のとおりの記載があ
る。
(2) 本件審決が認定した甲第1号証記載の発明
本件審決は、甲第1号証及び同号証の2には、以下の発明が記載されて
15 いると認定した(以下「甲1発明」という。)。
「1a11 患者の各欠損歯に装着された放射線用ステントにチタン製マー
カが挿入された状態でCTスキャンすることで生成されたCT画
像において、前記チタン製マーカの軸に直交する新しいアキシャ
ル画像を抽出し、該新しいアキシャル画像及び該新しいアキシャ
20 ル画像上で計算したパノラミックラインに直交する再配向後のク
ロスセクショナル画像を生成し、また、
1a12 前記新しいアキシャル画像及び前記再配向後のクロスセクショナ
ル画像を含む新しいマルチビューにおいて、仮想的なマーカを別
の位置に移動させ、新しいマーカの位置を考慮した新しいマルチ
25 ビューを構築する、ソフトウェア・システム、又は、
1a13 チタン製マーカーは、インプラントを計画する必要のある欠損歯
と一致しているものであり、
1a2 前記チタン製マーカについて構築した新しいマルチビューからス
タートして、仮想的なマーカが別の位置に移動され、該仮想的な
マーカの軸に垂直に抽出された新しいアキシャル面においてパノ
5 ラミック切断曲線が計算され、パノラミック画像が抽出され、新
しいマルチビューが構築されるソフトウェア・システムであって、
1b11 前記チタン製マーカは欠損歯に装着されており、
1b12 また、グラフィックツールを使用することで、仮想的なマーカが
コンピュータベースのアニメーションで別の位置に移動させられ
10 るものであり、
1b21 患者の前記各欠損歯にチタン製マーカが挿入された状態で生成さ
れたCT画像において、前記チタン製マーカの軸は自動的に識別
されその位置が特定され、該軸に直交する新しいアキシャル画像
が抽出され、該新しいアキシャル画像及び該新しいアキシャル画
15 像上で計算したパノラミックラインに直交する再配向後のクロス
セクショナル画像が生成され、
1b22 また、前記仮想的なマーカが別の位置に移動させられた場合、新
しい軸が計算され、該軸に垂直に抽出された新しいアキシャル面
においてパノラミック切断曲線が計算され、その後パノラミック
20 画像が抽出され、新しいマルチビューが構築されるものであり、
1c11 前記チタン製マーカは、CT画像のスキャン・生成前に患者の各
欠損歯に装着された放射線用ステントに挿入されるものであって、
1c12 該挿入後、CT画像のスキャン・生成が行われ、前記チタン製
マーカの軸に直交する新しいアキシャル画像を抽出し、該新しい
25 アキシャル画像及び該新しいアキシャル画像上で計算したパノラ
ミックラインに直交する再配向後のクロスセクショナル画像が生
成されるものであり、
1c2 前記仮想的マーカは、前記チタン製マーカについて構築した新し
いマルチビューからスタートして、別の位置にコンピュータベー
スのアニメーションにより仮想的に移動されるものであり、
5 1d1 患者の前記各欠損歯にチタン製マーカが挿入された状態で生成さ
れたCT画像において、前記チタン製マーカの軸は自動的に識別
されその位置が特定され、該軸に直交する新しいアキシャル画像
が抽出され、該新しいアキシャル画像及び該新しいアキシャル画
像上で計算したパノラミックラインに直交する再配向後のクロス
10 セクショナル画像が生成され、
1d2 前記仮想的なマーカは、別の位置に移動させられた場合、新しい
軸が計算され、該軸に垂直に抽出された新しいアキシャル面にお
いてパノラミック切断曲線が計算され、その後パノラミック画像
が抽出され、新しいマルチビューが構築されるものである、
15 1f ソフトウェア・システム。」
4 甲第2号証記載の発明について
(1) 甲第2号証の記載事項
原告が本件無効審判において本件発明の進歩性欠如(無効理由1-2)の
主引用例文献としたのは、優先日前に頒布された刊行物である甲第2号証の
20 1(株式会社横河マテリアライズ、「SimPlant 8.1 Training Manual(第2
版)」、2003年8月20日(発行日))及び甲第2号証の2(審判請求人
代理人田中研二、「写真報告書-SimPlant 8.1 の動作等-」、令和5年10
月31日(動作確認実施日:令和5年8月22日))であり、この甲第2号
証の1及び2には別紙3「甲第2号証の記載事項(抜粋)」のとおりの記載
25 がある。
(2) 本件審決が認定した甲第2号証記載の発明
本件審決は、甲第2号証の1及び2を踏まえると、優先日前に頒布され
た「SimPlant8.1と称するソフトウェアをインストールしたコン
ピュータ」の公知発明(以下「甲2公知発明」という。)を認定することが
できるとした(なお、本件審決における甲2公知発明の認定では、「アク
5 シャル」と「アキシャル」の用語が混在しているため、以下においては後者
で統一した。)。
「2a1 ディスプレイ上に表示された、少なくとも患者の下顎部のX線C
T画像 をもと に生 成 された 、複数 のク ロ スセク ショナ ル、 ア キ
シャル、パノラミックの各画像を領域分けして表示させ、前記各
10 クロスセクショナル画像は相互に等距離間隔の面における画像を
並べて配置したものであり、
2a2 前記表示されたクロスセクショナル画像内の歯科用インプラント
を埋入したい位置をクリックで指定し、さらに埋入するインプラ
ントの長さと向きを決めてクリックすることで、上下端位置にそ
15 れぞれ白い正方形の記号を備える長方形形状の歯科用インプラン
トのマーカを前記クロスセクショナル画像上に配置し、
2a3 さらに、ディスプレイ上に少なくとも患者の下顎部のX線CT画
像をもとに生成された3D画像を選択的に表示させ、
2a41 該表示させた3D画像には、アキシャル面(赤色)及びクロスセ
20 クショナル面(青色)を示す表示が重畳される機能があり、
2a42 該機能において、アキシャル画像上で、複数表示されているうち
の任意の歯科用インプラント表示をクリックすることで、クロス
セクショナル画像位置を示す青色ラインを該クリック対象の歯科
用インプラント位置に移動させ、クロスセクショナル画像表示領
25 域の中心の位置に、前記青色ラインに対応するクロスセクショナ
ル画像を表示させる機能をさらに備え、
2a43 さらに、クロスセクショナル画像上にインプラントのマーカを配
置したあと、3D画像上でも歯科用インプラントのマーカを移動
することができるものであり、
2a5 前記3D画像上には、前記歯科用インプラントのマーカの上下端
5 に白い正方形の記号が重畳表示される機能があり、
2a6 また、前記3D画像には、前記歯科用インプラントのマーカの軸
を上下方向にそれぞれ延長した赤色の線分が表示され、
2a7 前記3D画像において、骨を半透明にしたり、表示するCT値を
調整して骨の部分を非表示(透過)にしたりすることで、前記赤
10 色の線分を上下方向に伴う円柱状の歯科用インプラント表示が表
示される、
2a8 SimPlant8.1と称するソフトウェアをインストールし
たコンピュータであって、
2b1 歯科用インプラントは、ディスプレイ上のアキシャル画像及びパ
15 ノラミック画像上で、既に表示されている歯科用インプラント表
示を複写または定まった距離水平移動させることができ、
2b2 アキシャル画像上で、複数表示されているうちの任意の歯科用イ
ンプラント表示をクリックすることで、クロスセクショナル画像
位置を示す青色ラインを該クリック対象の歯科用インプラント位
20 置に移動させ、クロスセクショナル画像表示領域に該青色ライン
に対応するクロスセクショナル画像をその中央に表示させる機能
をさらに備え、
2c1 クロスセクショナル画像又は3D画像に重畳された歯科用インプ
ラント表示は、マウス操作により軸線方向を回転させることがで
25 き、
2c2 前記回転の前後において、3D画像に重畳されているアキシャル
面(赤)及びクロスセクショナル面(青)の表示に変化はなく、
該回転の前後で、歯科用インプラント表示の軸と前記両面との成
す角が前記回転の分だけ変化することになっている、
2f SimPlant8.1と称するソフトウェアをインストールし
5 たコンピュータ。」
5 甲第3号証記載の発明について
(1) 甲第3号証の記載事項
原告が本件無効審判において本件発明の進歩性欠如(無効理由1-3)の
主引用例文献としたのは、優先日前に頒布された刊行物である甲第3号証
10 (特開2003-245289号公報)であり、この甲第3号証には別紙4
「甲第3号証の記載事項(抜粋)」のとおりの記載がある。
(2) 本件審決が認定した甲第3号証記載の発明
本件審決は、甲第3号証には、以下の発明が記載されていると認定した
(以下「甲3発明」という。)。
15 「3a1 患者の歯牙の欠損部分について取得した印象を基に作成され、こ
の欠損部位を含む歯牙列に冠せて用いられる、3点以上のX線不
透過性3次元位置決め用マーカを設けたステントに、この欠損部
位に植え立てる義歯を固定するためのインプラント埋入ガイド穴
を加工する歯科用インプラント施術支援装置において、
20 3a2 前記ステントを装着して撮影した患者の顎部X線CT画像が取得
され、
3a3 前記顎部X線CT画像は前記歯科用インプラント施術支援装置が
備える画像表示操作装置に3次元的に表示できるものであり、
3a4 前記画像表示操作装置には複数のインプラントアイコンが表示さ
25 れ、該インプラントアイコンから所望のインプラントアイコンを
選択操作することにより、欠損部分に用いるべき歯科用インプラ
ント画像が選択され、
3a5 前記画像表示操作装置の表示画面1cにおいて、前記顎部X線C
T画像IGに前記欠損部分に用いるべき歯科用インプラント画像
IIを重畳表示し、
5 3a61 この場合の顎部X線CT画像は、マウスやキーボードを操作する
ことで位置と向きを自由に変えることができる顎部X線CT画像
IGであり、かつ/若しくは、3次元的に表示された顎部X線C
T画像であるか、又は、
3a62 予め複数枚準備された、相互に直交するXYZ座標軸における相
10 互に直交するX断層面、Y断層面、Z断層面についてのスライス
断層面画像IX、IY、IZから選択された所望の組み合わせの
スライス断層面画像IX、IY、IZからなる3次元スライス画
像ISであり、
3a7 前記3次元スライス画像ISは、ステント7を装着した状態の顎
15 部をX線CT撮影し、下顎のX線吸収係数の3次元データを得、
この3次元データを、X断層面、Y断層面、Z断層面に平行な断
面で、細かいピッチ、例えば、0.1ミリピッチで、スライス断
層面画像IX、IY、IZとして80枚から100枚用意された
ものであり、
20 3a8 インプラントを埋入しようとしている部分がXYZ軸に対し傾い
ている場合には、前記表示画面1c上の「スライス角度設定」ア
イコンのクリックにより座標軸の角度を設定し、前記表示画面1
c上の「再スライス」アイコンのマウスクリックによって前記X
YZ座標軸を回転し、該回転した座標軸について改めてスライス
25 断層面画像IX、IY、IZを作成する機能を備え、
3b1 画面1c上に表示されたインプラントアイコンIiから所望のイ
ンプラントアイコンIIを選択操作して欠損部分に用いるべき歯
科用インプラント画像IIを選択し、マウスやキーボードを操作
することで歯科用インプラント画像IIの位置と向きを自由に変
えることができ、最終的に、該歯科用インプラント画像IIの最
5 適な埋入位置方向を決めることができ、例えば一旦埋入位置に表
示した歯科用インプラント画像II(0)の位置方向を、顎部X
線CT画像IGが表示座標系に対し静止した状態で変更して最終
的に歯科用インプラント画像II(1)とすることができ、
3b2 インプラントを埋入しようとしている部分がXYZ軸に対し傾い
10 ている場合には、前記表示画面1c上の「スライス角度設定」ア
イコンクリックにより座標軸の角度を設定し、前記表示画面1c
上の「再スライス」アイコンのマウスクリックによって前記XY
Z座標軸を回転し、該回転した座標軸について改めてスライス断
層面画像IX、IY、IZを作成することができ、
15 3c1 前記、XYZ軸の回転は、歯科用インプラント画像IIが顎骨の
埋入位置にXYZ軸に対し傾斜した状態で表示された画像に対し、
アイコン操作により行われるものであり、
3c2 また、例えば、顎部X線CT画像IG上の埋入位置に一旦表示し
た歯科用インプラント画像II(0)の位置方向を、顎部X線C
20 T画像IGが表示座標系に対し静止した状態で変更して最終的に
歯科用インプラント画像II(1)とすることができ、
3d 前記XYZ軸の回転は、具体的には例えば、X、Y、Zカーソル
をそれぞれCX、CY、CZとしたとき、顎骨の断面がカーソル
CY、CZに対して傾いている場合には、[スライス角度設定]ア
25 イコンをクリックして、この顎骨の傾斜を示す2点をクリックす
ることで、顎骨がカーソルCYに平行になるように座標軸の角度
を設定でき、[再スライス]アイコンをクリックするとその回転後
の座標軸について再スライスされ、新たなスライス断層面画像I
X、IY、IZが表示され、スライス断層面画像IXでも、顎骨、
インプラントが垂直となって表示されるものである、
5 3f 歯科用インプラント施術支援装置。」
6 本件審決の理由の要旨
原告(請求人)は、本件発明に係る特許の無効理由として、①甲1発明に基
づく進歩性欠如(無効理由1-1)、②甲2公知発明に基づく進歩性欠如(無
効理由1-2)、③甲3発明に基づく進歩性欠如(無効理由1-3)、④甲第1
10 3号証に記載された発明に基づく新規性及び進歩性の欠如(無効理由1-4)、
⑤実施可能要件違反(無効理由2)、⑥発明該当性欠如(無効理由3)、⑦新規
事項追加(無効理由4)、⑧サポート要件違反(無効理由5)、⑨明確性違反
(無効理由6)を主張したところ、本件審決はこれらの無効理由はいずれも理
由がないと判断した。後記の取消事由に関連する本件審決の理由の要旨は、別
15 紙5「取消事由に関する本件審決の理由の要旨」に記載のとおりである。
7 取消事由
(1) 取消事由1(甲1発明に基づく進歩性判断の誤り)
(2) 取消事由2(甲2公知発明に基づく進歩性判断の誤り)
(3) 取消事由3(甲3発明に基づく進歩性判断の誤り)
20 (4) 取消事由4(新規事項追加及び分割要件の判断の誤り)
(5) 取消事由5(実施可能要件の判断の誤り)
(6) 取消事由6(サポート要件の判断の誤り)
第3 当事者の主張
1 取消事由1(甲1発明に基づく進歩性判断の誤り)について
25 【原告の主張】
(1) 甲1発明の認定の誤り及び相違点1-3の認定の誤り
ア(ア) 本件審決は、甲第1号証の記載事項から看取・認定される事項1-
1(本件審決28~29頁。特に「該各画像はいずれも、前記マーカの
中心軸線をほぼ含む(平面についての)画像であると推察される。」と
する点)を踏まえて甲1発明を認定し、その上で相違点1-3を認定し
5 たが、これは誤りである。
すなわち、甲第1号証(1頁左欄下から2行~右欄15行)には、
「the optimal plane,・・・will contain the axis of the implant」
(最適な平面は・・・インプラントの軸を含む)との記載があり、また、
甲1発明は、「装着されるインプラントの軸を含む」平面が「最適な平
10 面」であるという前提のもと、「各インプラントに最適な切断面を特定
するための革新的なプロセスを定義する」ものであるから、甲1発明
において生成される「各インプラントに最適な切断面」が「装着され
るインプラントの軸を含む」ことは明らかである。
(イ) また、甲1発明の具体的な計算処理は、①チタン製マーカの軸の位
15 置を特定し、②当該軸に直交する新しいアキシャル画像を抽出し、③
当該新しいアキシャル画像上でパノラミックラインを計算し、④当該
パノラミックラインに直交する再配向後の複数のクロスセクショナル
画像を生成する、という手順で実行されるところ、①でマーカの軸の
位置が特定されているのであるから、④のクロスセクショナル画像の
20 一つは①で位置が特定されたマーカの軸を含むと理解するのが自然な
理解である。
(ウ) そして、甲第1号証(186頁。訳文では4頁)で文献[6]とし
て参照された文献(甲11)において「DentalVox」というソフトウェ
アが記載されており、このソフトウェアはユーザにより指定された歯
25 軸を含むクロスセクショナル画像を生成することができるものである
(甲33)。これは、甲1発明の認定に当たって参酌されるべき技術常
識であるといえ、この技術常識を踏まえれば、甲1発明におけるクロ
スセクショナル画像の一つがマーカの軸を含むと理解するのが相当で
ある。
(エ) さらに、甲第1号証の図14をみると、左上から右下まで6枚の断
5 面像が並んでおり、これらに映った2本の白い縦線として撮影されて
いるチタン製マーカの幅を見ると、6枚目だけ他の断面像と違って2
本の縦線がほぼ一体化していることから、6枚の断面像の中で最もチ
タン製マーカの中心軸線から遠い位置にあると推認される。そして、
1枚目と5枚目とで2本の縦線間の幅が概ね同程度であること、2枚
10 目と4枚目とで2本の縦線間の幅が概ね同程度であること、3枚目の
2本の縦線間の幅が最も大きいことも看取できる。これらの事実から、
3枚目こそが中心軸線を含む断面像であり、当該3枚目の画像こそが
中心軸線を含む断面像と推認される。
(オ) よって、甲第1号証の記載事項から、正しくは「該各画像はいずれ
15 も、前記マーカの中心軸線に平行な(平面についての)画像であり、
この6枚のクロスセクショナル画像のうち最も平行二本線の間隔が広
い右上の画像が前記マーカの中心軸線を含む(平面についての)画像
である。」と認定されるべきものである。
イ また、甲1発明において、仮想的なマーカを別の位置に移動させ、新し
20 いマーカの位置を考慮した新しいマルチビューを構築する際にも、チタ
ン製マーカに対する前記①から④までの処理が実行されることは、甲第
1号証の記載(15頁左欄下から8行目~右欄5行目)から明らかであ
る。
したがって、仮想的なマーカを別の位置に移動させた後の「新しいマ
25 ルチビュー」が、移動後の仮想的なマーカの軸に 直交する新しいアキ
シャル画像と、当該新しいアキシャル画像及び当該新しいアキシャル画
像上で計算したパノラミックラインに直交する再配向後の複数のクロス
セクショナル画像とを含み、当該クロスセクショナル画像の一つが、移
動後の仮想的なマーカの軸を含むことも明らかである。
ウ 以上を踏まえると、甲1発明は、正しくは「該クロスセクショナル画像
5 のうち一つは、前記チタン製マーカの軸を含み」(構成1a11、1b2
1、1c12、1d1)、「該新しいマーカの位置を考慮した新しいマル
チビューにおけるクロスセクショナル画像の一つは、該移動後の仮想的
なマーカの軸を含む」(構成1a12、1a2、1b22、1d2)の構
成を付加して認定されるべきである。
10 エ 以上により、甲1発明の認定には誤りがあり、これにより本件審決の対
比及び一致点・相違点の認定にも誤りがある。原告主張のとおりに甲1
発明を認定すれば、甲1発明の「クロスセクショナル画像」は、本件発
明1の「基準軸としての歯科用インプラント長軸を含む所定の平面領域
の画像」と、歯科人工物の画像オブジェクトの軸を含む画像である点で
15 共通する。したがって、本件審決が認定した相違点1-3は存在しない。
(2) 相違点1-6の認定の誤りについて
相違点1-6についての本件審決の認定では、構成要件Eの文言「前記
平面領域は前記歯科用インプラント長軸を中心に、軸周りに回転させること
ができる」を形式的に引用したことによって、「歯科用インプラント長軸」
20 という文言が相違点1-6に入り込んでしまい、既に相違点1-1として認
定されている「ディスプレイ上に表示され、位置決めされる歯科人工物の画
像オブジェクトが、本件発明1では歯科用インプラントのものであるのに対
し、甲1発明では患者の欠損歯に装着された放射線用ステントに挿入された
チタン製マーカの仮想的マーカである点」が、相違点1-6において重複し
25 て認定されてしまっている。
しかしながら、本件特許の発明の詳細な説明の記載を参照すると、相違
点1-6に係る「前記平面領域は前記歯科用インプラント長軸を中心に、軸
周りに回転させることができる」との構成(構成要件E)の技術的意義は、
本件特許の発明の詳細な説明の【0012】に記載された「下顎管等の神経
に当接しないインプラント位置を検出することができる」という点にあると
5 理解できる。そして、「歯科人工物の画像オブジェクト」が「歯科用インプ
ラントの画像オブジェクト」であれ「仮想的マーカの画像オブジェクト」で
あれ、歯科用インプラント施術時の人工歯根の顎骨に対する挿入位置を模擬
する「歯科人工物の画像オブジェクト」の軸を中心に、平面領域を軸周りに
回転させることができれば、「下顎管等の神経に当接しないインプラント位
10 置を検出することができる」という上記技術的意義は達成される。
したがって、相違点1-6について、あえて相違点1-1と重複して
「前記平面領域は前記歯科用インプラント長軸を中心に、軸周りに回転させ
ることができる」と認定すべき理由はないから、本件発明1について、構成
要件Eの「前記平面領域は前記歯科用インプラント長軸を中心に、軸周りに
15 回転させることができる」との文言を形式的に引用して認定するのではなく、
一致点及び相違点1-1を含む他の相違点の認定を踏まえて、より実質的に、
以下のように認定すべきである(下線部は原告による付記)。
「f 相違点1-6(構成要件E)
本件発明1では、歯科人工物の画像オブジェクトの軸を含む画像は、
20 歯科人工物の画像オブジェクトの軸を中心に、軸周りに回転させること
ができるのに対し、これに相当または対応する構成を甲1発明は備えな
い点。」
(3) 相違点1-6の容易想到性の判断の誤り
ア(ア) 本件審決は、相違点1-6に係る構成はいずれの証拠にもなく、周
25 知技術でもないとしたが、甲第3号証(別紙4参照)、甲第6号証(特
開2001-51593号公報)、甲第7号証(国際公開第03/08
4407号)及び甲第8号証(特開2002-11000号公報)によ
れば、歯顎などのX線CT画像を用いた画像診断の分野において、歯軸
など特定の基準軸を中心として、軸周りの様々な角度で断面画像を取得
することは、本件特許出願の優先日当時において広く行われていた周知
5 技術(本件審決179頁で定義された「周知技術2」。 以下、同様に
「周知技術2」という。)である。
(イ) また、本件審決は、甲第3号証、甲第6号証及び甲第8号証につい
て、直交座標系を維持した状態での、当該直交座標系全体を、そのう
ちの1軸または2軸が指定した軸に一致するように回転させる技術で
10 あって、特定の断面を特定の1軸の周りに回転させるものではないと
した。しかし、仮に、そのような技術であったとしても、結果として、
表示される断面画像を所定の軸の周りで回転させることができる技術
であることに変わりはない。そして、断面画像を軸周りに回転させる
ために、(i) 座標系を固定して断面のみを回転させる、(ii) 座標系
15 全体を回転させることによって断面を回転させる、のいずれの手段を
選択するかは、本件発明1の構成要件Eでは特定されておらず、本件
発明1においても甲1発明においても、上記選択に特段の技術的意義
はない。このため、上記(i)及び(ii)は、当業者が適宜選択し得る設計
的事項にすぎない。
20 イ そして、甲1発明では、仮想的なマーカが別の位置に移動させられると、
当該移動後の仮想的なマーカの軸の位置が特定されるとともに、当該移
動後の仮想的なマーカの軸を含むクロスセクショナル画像が生成される
ところ、甲1発明において移動後の仮想的なマーカの軸は、新たなマル
チビューを生成する基準となる基準軸である。したがって、「歯軸など特
25 定の基準軸を中心として、軸周りの様々な角度で断面画像を取得する」
という周知技術2を、「移動後の仮想的なマーカの軸」を基準軸とする甲
1発明に適用すれば、「該移動後の仮想的なマーカの軸を中心として、軸
周りの様々な角度で断面画像を取得する」という構成が得られる。この
構成は、前記のとおり原告主張の正しく認定した相違点1-6に係る
「歯科人工物の画像オブジェクトの軸を含む画像は、歯科人工物の画像
5 オブジェクトの軸を中心に、軸周りに回転させることができる」ことに
相当又は対応する構成であるから、甲1発明に上記周知技術2を適用す
ることによって、相違点1-6に係る構成が得られる。
甲1発明に周知技術2を適用する動機付けについては、本件特許の優
先日当時において、インプラントと顎骨とを立体的に観察することや、
10 インプラント埋入時に歯槽神経などの解剖学的構造との干渉を避けるこ
とは、甲1発明においてインプラントの埋入位置を表す仮想的なマーカ
を位置決めする際の自明な課題であり、本件特許の優先日当時において
周知であった(甲34、35、38~41)。当業者であれば、周知技術
2の解決しようとする課題が、甲1発明においても自明な課題として存
15 在することを認識したはずであるから、当業者が甲1発明における自明
な課題を解決するために、周知技術2を甲1発明に適用する動機付けが
あるといえる。
ウ 本件審決は、本件発明1と甲 1 発明は、相違点1-1として、歯科人工
物の画像オブジェクトが、患者の欠損歯に装着された放射線用ステント
20 に挿入されたチタン製マーカの仮想的マーカであるのか(甲1発明)、歯
科用インプラント(の画像オブジェクト)であるのか(本件発明1)に
ついても相違しているから 、相違点1-6の構成に至るには、仮想的
マーカを歯科用インプラント(の画像オブジェクト)に変更することに
想到し、さらに、甲第7号証等に記載の技術的事項(以下「甲7技術」
25 という。)を当該歯科用インプラント(の画像オブジェクト)に適用して、
その軸周りに平面領域を回転させるようにすることに想到するとの、2
つの段階を要するもの(いわゆる「容易の容易」)であるとする。しかし、
相違点1-1と相違点1-6とは互いに独立した相違点であり、前記の
とおり正しく相違点1-6を認定すれば、甲1発明において相違点1-
6に係る構成に想到することは複数の段階を経るものではなく、いわゆ
5 る「容易の容易」には当たらない。
仮に、相違点1-6についての本件審決の認定を前提とした場合で
あっても、甲1発明の適用対象を仮想的マーカの画像オブジェクトから
歯科用インプラントの画像オブジェクトに変更する程度のことは、当業
者が適宜なし得る設定的事項の範囲内のことにすぎない。したがって、
10 本件審決で認定された相違点1-6に係る構成は、甲1発明に対して周
知技術2を適用するに 当たり、上記設定的事項を適宜採用することに
よって当業者が容易に想到し得たことである。このような判断手法は、
いわゆる「容易の容易」に当たるものではない。
エ 仮に、周知技術2が認められないとしても、甲1発明に甲7技術を適用
15 して相違点1-6に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たこ
とである。
そもそも本件発明1や甲1発明においても、実体物である顎骨や歯牙の
断面画像を表示する点では甲7技術と共通している。ここで、甲1発明
と甲第7号証の記載事項とを対比すると、甲1発明では仮想的なマーカ
20 の長軸が基準軸であるのに対し、甲第7号証では基準軸が特に特定され
ていない任意の軸である点で異なる。しかしながら、甲第7号証で基準
軸が特定されていないということは、むしろ適用対象はどのような軸で
もよいと認識されるから、甲第7号証の記載事項を甲1発明に適用すれ
ば、自ずと甲1発明で基準軸とされている仮想的なマーカの長軸の周り
25 に断面画像を回転させることになる。
そして、当業者であれば、甲1発明における前記の自明な課題を解決す
るために、甲1発明に甲7技術を適用する動機付けがある。
オ さらに、原告は、本件審決で実施可能要件との関係で認定された周知慣
用技術、すなわち、CT画像を扱う医学分野において、CT画像などか
ら任意の断面を切り出して表示したり、CT画像から切り出した断面の
5 画像をディスプレイ上で三次元的に表示したり、CT画像から切り出し
た断面に対して回転を含む動的表示をしたりする技術(以下「周知慣用
技術A」という。)を甲1発明に適用することで、相違点1-6に係る構
成とすることは、当業者が容易になし得たことである(予備的主張)。
この周知慣用技術Aを、「移動後の仮想的なマーカの軸」を含む断面を
10 表示する甲1発明に適用することによっても、移動後の仮想的なマーカ
の軸を含む断面画像を、マーカの軸を中心に、軸周りに回転させるとい
う構成が得られる。この構成は、相違点1-6に係る「歯科人工物の画
像オブジェクトの軸を含む画像は、歯科人工物の画像オブジェクトの軸
を中心に、軸周りに回転させることができる」ことに相当または対応す
15 る構成であるから、甲1発明に上記周知慣用技術Aを適用することに
よって、相違点1-6に係る構成が得られる。
そして、当業者であれば、甲1発明における前記の自明な課題を解決
するために、甲1発明に周知慣用技術Aを適用する動機付けがあるとい
える。
20 カ 以上より、甲1発明において、上記周知技術2、甲7技術又は周知慣用
技術Aを適用して相違点1-6に係る構成とすることは、当業者が容易
になし得たことである。
【被告の主張】
(1) 甲1発明の認定の誤り及び相違点1-3の認定の誤りの主張について
25 ア 原告は、甲第1号証の図14の右上のクロスセクショナル画像がマーカ
の中心軸線を含む画像であると主張するが、甲第1号証の主眼は誤差の
ない測定をすることであり、この点は甲第1号証の随所で明記されてい
る。そして、マーカの中心軸と平行であればかかる目的は達成されるか
ら、中心軸を含む断面を取得する必要はない。
イ 原告が指摘する連続する6枚のクロスセクショナル画像は、その取得方
5 法が記載されていないうえ、中心位置(中心軸線)を取得し得ない偶数
枚が表示されているから、仮に原告の主張に沿って解釈しても、中心軸
線が3枚目から4枚目までの間の位置にあると推察されるにとどまる。
ウ なお、甲第1号証に記載された発明が甲1発明であるから、甲1発明の
認定において他の文献における DentalVox に関する記載を考慮することは
10 許されない。
エ よって、相違点1-3は認められる。
(2) 相違点1-6の認定の誤りの主張について
原告は、相違点1-6の認定において、相違点1-1および平面領域に
係る構成(「前記平面領域」及び「前記歯科用インプラント長軸」)は捨象す
15 べきであると主張する。
しかし、「前記平面領域」及び「前記歯科用インプラント長軸」は、普遍
的な概念ではなく有意な発明特定事項であるから、原告の主張は、有意な発
明特定事項の一部を捨象することで、本件発明1及び甲1発明の技術的範囲
を拡大し、相違点を減縮しようとするものであって、失当である。
20 また、構成要件Eに係る相違点において、「前記平面領域」及び「前記歯
科用インプラント長軸」は直接参照されるという最も強い関連性があり、か
つ有意な発明特定事項であるから、独立の相違点とはいえず、相違点1-6
から分離して細分化することは許されない。
(3) 相違点1-6の容易想到性の判断の誤りの主張について
25 ア 上述のとおり、相違点1-6に係る原告の主張は誤りであり、原告が主
張する周知技術2を甲1発明に適用しても、相違点1-6に係る構成は
得られない。
イ また、仮に、原告が主張する相違点1-6を前提としても、容易想到と
はいえない。周知技術2は、「回転」ではなく「様々な角度で断面を取得
すること」にとどまるところ、甲1発明においても、クロスセクショナ
5 ル面とパノラミック面という二つの角度の断面を取得するのであり、単
に複数の角度の断面を取得することと、断面の任意の回転が可能である
ことは同義でない。
さらに、原告が周知技術2の根拠とする甲第3号証、甲第6号証及び
甲第8号証に記載された技術は、「直交座標系を維持した状態での、該直
10 交座標系全体を、そのうちの1軸または2軸が指定した軸に一致するよ
うに回転させる技術」であり、これは「特定の断面を特定の1軸周りに
回転させるものではない」。すなわち、少なくとも、平面を所定の軸に一
致させる回転において回転軸は任意かつ回転軸以外の所定の軸を含む平
面を計算するのに対し、所定の軸周りの回転は当該所定の軸を回転軸と
15 しなければならないうえ、回転軸以外の所定の軸を含む平面を計算する
ものに限られないのであり、到底同じ技術とは言い難い。
ウ そもそも甲第1号証には、ここに記載された方法により得られる断面が
最善の視点であるという技術的思想を基礎付ける記載があり、異なる技
術の適用に対しては動機付けの欠如ないし阻害要因がある。
20 エ 原告は、甲1発明に甲7技術を適用しても相違点1-6に係る構成に容
易に想到すると主張するが、甲第7号証はCT画像の一般的な再構成の
際の具体的な処理方法に関する文献にすぎず、甲1発明に甲7技術を適
用しても相違点1-6に係る構成は得られない。
オ 原告は、周知慣用技術Aを副引用発明として甲1発明に適用する旨主張
25 するが、原告が主張する周知慣用技術Aは周知技術2よりさらに抽象的
なCT画像の基本的操作に係る技術であるから、周知技術2に係る被告
主張が全て当てはまる。
なお、仮に、周知技術2と実質的に異なる要素がある旨の主張を含む
のであれば、審判手続で審理判断されていない無効理由の追加であり許
されない。
5 2 取消事由2(甲2公知発明に基づく進歩性判断の誤り)について
【原告の主張】
(1) 相違点2-2から相違点2-4までの認定の誤り
ア 前記1【原告の主張】(2)と同様に、相違点2-2から2-4までは、
既に相違点2-1として認定された「生成される『所定の平面領域の画
10 像』が、本件発明1では『基準軸として歯科用インプラント長軸を含む』
のに対し、甲2公知発明では、生成するいずれの平面画像も歯科用イン
プラント長軸を含むとの特定がされない」という点を取り込んで認定さ
れている点で誤りである。
イ また、相違点2-2については、本件発明1が、歯科用インプラントが
15 任意に位置決めされると平面領域も位置決められるとの特定事項を備え
るのに対し、甲2公知発明においても、歯科用インプラントが任意に位
置決めされると、これに伴って歯科用インプラントに紐づいた平面領域
であるアキシャル面、パノラミック面、及びクロスセクショナル面の位
置が自動的に変更され、新しい位置に位置決めされる。結局、上記アの
20 誤りを正して相違点を認定すれば、相違点2-2は存在しない。
ウ そして、上記アの誤りを正せば、相違点2-3及び相違点2-4は実質
的に以下のとおりに認定すべきである。
【相違点2-3(構成要件D)】
本件発明1が、平面領域を歯科用インプラントとともに傾斜させる機
25 能を備えるのに対し、甲2公知発明は、これに相当する機能を備えない
点。
【相違点2-4(構成要件E)】
本件発明1が、平面領域の基準軸を中心に、当該平面領域を基準軸周
りに回転させることができる機能を備えるのに対し、甲2公知発明は、
これに相当する構成を備えない点。
5 (2) 相違点2-1の容易想到性の判断の誤り
本件審決は、甲2公知発明に甲1発明を適用して相違点2-1の構成
(生成される「所定の平面領域の画像」が、本件発明1では「基準軸として
歯科用インプラント長軸を含む」こと)を備えるようにするためには、チタ
ン製マーカの実体物の像を、画像上の仮想的な表示である歯科用インプラン
10 ト(の画像オブジェクト)に変更する必要があり、仮に、当該適用がなされ
ても、甲2公知発明は画像が歯科用インプラントの長軸を含むように生成さ
れるとの技術的事項は含まないから、相違点2-1の構成を備えるに至らな
いとした。
しかしながら、チタン製マーカの像を歯科用インプラントの画像オブ
15 ジェクトに変更する点については、甲1発明の仮想的なマーカの軸を含むク
ロスセクショナル画像を生成する技術の適用先が、「仮想的なマーカの画像
オブジェクト」(甲1発明)であるか、「歯科用インプラントの画像オブジェ
クト」(甲2公知発明)であるかの違いにすぎない。甲1発明において、イ
ンプラント埋入手術が想定されていることを考慮すると、当該適用先の変更
20 は、当業者であれば容易になし得た設計的事項の範囲内である。また、甲2
公知発明は画像が歯科用インプラントの長軸を含むように生成されるとの技
術的事項は含まないとの点については、前記1【原告の主張】(1)で述べた
とおり、甲1発明において再配向後のクロスセクショナル画像の一つはマー
カの軸を含んでいる。
25 したがって、甲1発明を甲2公知発明に適用することで、相違点2-1
に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。
(3) 相違点2-2及び2-3の容易想到性の判断の誤り
ア 本件審決では、相違点2-1の容易想到性を否定したことにより、相違
点2-2及び相違点2-3について実質的な判断をしていない。しかし
ながら、上記(2)のとおり、相違点2-1に係る構成は当業者が容易に想
5 到し得たものであるから、相違点2-2及び相違点2-3の容易想到性
を検討しなければ、本件発明1の容易想到性を判断することはできない。
イ この点、前記(1)イのとおり、そもそも相違点2-2は存在しない。
ウ また、相違点2-3については、甲2公知発明において歯科用インプラ
ントが任意に位置決めされると、これに伴って歯科用インプラントに紐
10 づいた平面領域が新しい位置に位置決めされるところ、甲2公知発明に
おいて相違点2-1に係る構成とした場合、自ずと平面領域は歯科用イ
ンプラントの長軸を含むものとなるから、自ずと相違点2-3に係る構
成が得られることになる。
仮にそうでないとしても、インプラントの埋入角度とCTスキャンに
15 沿ったアキシャル面とが直交していない場合(すなわち、クロスセク
ショナル面がインプラント長軸の全体を含んでいない場合)に、クロス
セクショナル断面画像上の測定に誤差が生じるという周知の課題に照ら
せば、歯科用インプラントの移動に伴って、インプラント長軸を面内に
含み続けるようにクロスセクショナル面を同様に移動させることは、上
20 記周知の課題を解決する観点から当然に行われることであるか、又は当
業者が適宜なし得た事項である。
したがって、甲1発明を甲2公知発明に適用することで、相違点2-
3に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。
(4) 相違点2-4の容易想到性の判断の誤り
25 相違点1-6と同様に、インプラントと顎骨とを立体的に観察すること
や、インプラント埋入時に歯槽神経などの解剖学的構造との干渉を避けると
いう自明な課題に基づいて、周知技術2を甲2公知発明に適用して相違点2
-4の構成(本件発明1は「歯科用インプラント長軸を含む所定の平面領域」
を歯科用インプラント長軸を中心に、軸周りに回転させることができる。)
を得ることは、当業者にとって容易になし得たことである。
5 【被告の主張】
(1) 相違点2-2から相違点2-4までの認定の誤りの主張について
前記1【被告の主張】(2)と同様に、原告のこれらの相違点の認定に係る
主張は失当である。原告主張は、各構成要件が直接参照する特定事項(「平
面領域」及び「歯科用インプラント長軸」)を分離・細分化しようとするも
10 のであり、裁判例及び現行実務に反する。
(2) 相違点2-1の容易想到性の判断の誤りの主張について
前記1【被告の主張】(1)で主張したとおり、甲1発明においては、各画
像はいずれもマーカの中心軸線をほぼ含む(平面についての)画像であると
推察されるにすぎず、マーカの中心軸を含む画像ではないから、甲2公知発
15 明に甲1発明を適用しても相違点2-1の構成を得られない。
(3) 相違点2-2及び相違点2-3の容易想到性の判断の誤りの主張につい
て
原告のこれらの相違点の認定に係る主張が是認し得ないことは既に前記
(1)で述べたとおりであるから、本件審決に誤りはない。
20 (4) 相違点2-4の容易想到性の判断の誤りの主張について
原告の相違点の認定に係る主張が是認し得ないことは既に前記(1)で述べ
たとおりであるから、原告の主張はその前提を欠く、また、甲2公知発明に
周知技術2を適用しても相違点2-4の構成(基準軸周りに回転)を得られ
ないことは取消事由1の相違点1-6の容易想到性の判断に関する被告の主
25 要と同様である。
3 取消事由3(甲3発明に基づく進歩性判断の誤り)について
【原告の主張】
(1) 相違点3-3の認定の誤り
甲3発明においては、ユーザはXYZ軸を任意に回転させることによっ
てスライス断層面画像IX、IY、IZを回転させることができ、スライス
5 断層面画像IXが歯科用インプラントを含んでいる状態において座標軸を適
宜回転させることによって、歯科用インプラントを含むスライス断層面画像
IXを、歯科用インプラント長軸を中心に、軸周りに回転させることができ
ることになる。この機能は、相違点3-3に係る本件発明1の構成(所定の
平面領域やその画像が、本件発明1では基準軸としての歯科用インプラント
10 長軸を含むこと)に相当するから、相違点3-3は存在しない。
(2) 相違点3-1の容易想到性の判断の誤り
前記1【原告の主張】(1)記載の相違点1-3の認定の誤りにおいて述べ
たとおり、甲1発明において再配向後のクロスセクショナル画像の一つは
マーカの軸を含む。また、前記2【原告の主張】(2)の相違点2-1の容易
15 想到性について述べたのと同様に、甲3発明に甲1発明を適用するに際し、
甲第1号証に記載された仮想的なマーカの軸を含むクロスセクショナル画像
を生成する技術の適用対象を甲3発明の「歯科用インプラントの画像オブ
ジェクト」に変更する程度のことは、単なる適用対象の変更にすぎず、特段
の技術的意義は認められないから、当業者であれば容易になし得た設計的事
20 項の範囲内である。そして、測定誤差を防ぐという周知の課題により、甲3
発明に甲1発明を適用する動機付けもある。
よって、甲3発明に甲1発明を適用して相違点3-1の構成(所定の平
面領域やその画像が、本件発明1では基準軸としての歯科用インプラント長
軸を含むこと)とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
25 (3) 相違点3-2の容易想到性の判断の誤り
ア 本件審決では、相違点3-1の容易想到性を否定したことにより、相違
点3-2について実質的な判断をしていない。しかしながら、上記(2)の
とおり、相違点3-1に係る構成は当業者が容易に想到し得たものであ
るから、相違点3-2の容易想到性を検討しなければ、本件発明1の容
易想到性を判断することはできない。
5 イ この点、前記1【原告の主張】(1)イで主張したとおり、甲1発明は
「前記仮想的なマーカは、別の位置に移動させられた場合、新しい軸が
計算され、該軸に垂直に抽出された新しいアキシャル面においてパノラ
ミック切断曲線が計算され、その後パノラミック画像が抽出され、新し
いマルチビューが構築され、該新しいマルチビューにおけるクロスセク
10 ショナル画像の一つは、該移動後の仮想的なマーカの軸を含むものであ
る」から、甲3発明に甲1発明を適用することによって、自ずと、歯科
用インプラントの位置決めを契機として平面領域の位置決めが行われる
ことになる。これは、相違点3-2に係る本件発明1の構成(本件発明
1では「歯科用インプラントが任意に位置決めされる」ことを契機とし
15 て平面領域の位置決めが行われること)に相当するから、相違点3-2
に係る構成について当業者は容易に想到し得たことであるといえる。
(4) 相違点3-3の容易想到性の判断の誤り
ア 前記(1)のとおり、相違点3-3は存在しない。
イ 仮に、相違点3-3が存在するとしても、甲3発明に甲1発明を適用す
20 ることによって相違点3-1に係る構成とすれば、上記(2)のとおり甲3
発明は所定の基準軸を中心に、断面を示す平面領域を軸周りに回転させ
る機能を有するのであるから、自ずと相違点3-3に係る構成が得られ
る。
したがって、仮に、相違点3-3が存在するとしても、甲3発明に甲
25 1発明を適用することによって相違点3-3に係る構成とすることは、
当業者が容易に想到し得たことである。
【被告の主張】
(1) 相違点3-3の認定の誤りの主張について
甲第3号証の【0081】に記載されているように、IX断層画像上で
CYカーソルに対し傾斜するインプラント(画像)に対し、「スライス角度
5 設定のアイコン」(【0080】)の操作による角度設定によって座標軸を回
転して、インプラント(画像)の長軸をCYカーソルに合致させてIX断層
画像上で垂直(鉛直)(すなわちZ軸に一致)とした上で、さらにIZ断層
画像上で「スライス角度設定のアイコン」によって座標軸を回転させること
ができれば、インプラント画像の長軸(=z軸)周りにIX断層画像やIY
10 断層画像を回転させることができると推察される。
しかし、甲第3号証においてそのような座標軸の回転操作については記
載がなく、インプラント画像の軸に合わせて座標軸を回転させることを目的
とし、当該軸に合わせた後に、異なるIX・IY断面画像を得るために画像
(座標軸)を回転させるとの動機付けを導き出すことはできない。さらには、
15 「スライス角度設定のアイコン」が、インプラントの傾斜の影響を受けない
IZ断層画像上で機能するのかについても甲第3号証に記載がなく不明であ
る。
よって、「歯科用インプラントを含むスライス断層面画像IXを、歯科用
インプラント長軸を中心に、軸周りに回転させることができる」との技術的
20 事項は甲第3号証に記載されていないこととなり、本件審決の相違点3-3
の認定に誤りはない。
(2) 相違点3-1の容易想到性の判断の誤りの主張について
甲1発明の認定の誤り(相違点1-3の認定の誤り)に係る原告主張が
誤りであることは、取消事由1及び2で述べたとおりである。
25 (3) 相違点3-2の容易想到性の判断の誤りの主張について
本件審決の相違点3-1の判断に誤りが無いことから、相違点3-2の
判断にも誤りはない。
(4) 相違点3-3の容易想到性の判断の誤りの主張について
本件審決の相違点3-3の認定に誤りが無いことは前記(1)で述べたとお
りである。
5 4 取消事由4(新規事項追加及び分割要件の判断の誤り)について
【原告の主張】
(1) 本件補正における新規事項の追加
本件特許については、本件補正(手続補正書1(甲25)による補正)
により、本件特許出願の当初明細書及び図面(甲24。以下、まとめて「本
10 件当初明細書」という。)の段落【0049】中の「歯冠」に関する記載の
一切が削除されたことにより、新たな技術的事項が導入されている。
すなわち、本件当初明細書の段落【0046】から【0049】までの
記載を総合すると、オペレータが歯冠画像208をワールドエリア上の歯列
欠損箇所に篏合するように位置決めすると、これに伴ってインプラント、基
15 準軸206、及び平面領域204も位置決めされ、基準軸206をZ軸とし、
平面領域204をXY平面とするローカル座標系を設定することによって歯
冠画像位置、基準軸206の傾斜角、及び平面領域204の回転角を設定で
き、これによって歯冠及びインプラントの埋入位置を確認しながら、その断
面情報を取得できることが記載されている。
20 一方、本件補正により段落【0049】から「歯冠」に関する記載が全
て削除された。具体的には、本件補正前の段落【0049】に記載されてい
た、歯冠画像208を歯列欠損部に篏合するように位置決めすると、これに
応じてインプラント及び基準軸206も位置決めされるという事項、歯冠画
像位置を設定するという事項、及び歯冠の埋入位置を確認しながら断面画像
25 を取得するという事項が、本件補正により削除された。
以上の点を総合的に考慮すると、本件補正が本件当初明細書に記載され
た歯冠画像の位置決め及び歯冠画像とインプラント等の要素との連動に関す
る事項を捨象して、「歯冠画像208の有無にかかわらず、ディスプレイ上
で歯科用インプラント206自体を任意に移動させて位置決めする」という
新たな技術的事項を導入するものであることは明らかである。したがって、
5 本件補正は、当業者によって本件当初明細書の全ての記載を総合することに
より導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するも
のであり、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。
(2) 分割要件違反を前提とする新規性欠如
上記(1)のとおり、本件補正は新規事項の追加に当たり、本件特許出願は
10 親出願に対し分割要件を満たさない。その結果、本件特許出願は親出願に関
し出願日の遡及効を有しないので、本件特許出願の出願日は現実の出願日で
ある平成21年7月12日になる。そうすると、本件発明1及び2は、いず
れも同日より前の平成20年10月23日に公開された甲第13号証(親出
願の公開公報)に記載された発明(甲13発明)であり、同号証に記載され
15 た発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるから、新規性及び進
歩性を欠く。
【被告の主張】
(1) 本件当初明細書の段落【0046】から【0051】までは明らかに一
つの実施形態の説明であるところ、本件補正の前後でその挙動に変更はない
20 し、本件補正後の段落【0048】でも、当該実施形態では歯冠画像208
がその下端で歯科用インプラント206と一体になっていることが明記され
ている。そして、その直後の段落【0049】の内容は、本件補正の前後を
問わず、歯冠画像208を任意の位置に操作すると、歯科用インプラント2
06も任意の位置に位置決めできるという実施形態の説明であると容易に理
25 解される。
以上のとおり、本件補正の前後で実施形態の内容・説明に実質的な変更
はないのであるから、新規の技術的事項が追加されていないことは明白であ
り、新規事項の追加および分割要件違反はない。
(2) 仮に、原告の主張を前提としても、本件審決で説示されているとおり、
本件特許の出願当初の請求項1及び親出願(甲13)の出願当初の請求項7
5 は歯科用インプラント長軸を発明特定事項としており、歯科用インプラント
自体を任意に移動させて位置決めするという技術的事項は当初から記載され
ている。原告主張の新規事項はこれと同一概念であるから、新規事項の追加
および分割要件違反に当たらない。
5 取消事由5(実施可能要件の判断の誤り)について
10 【原告の主張】
(1) 平面領域を歯科用インプラントに追随させることについて
本件発明1は、歯科用インプラントがどのように動いても、これに追随
して必ず歯科用インプラントを含むように平面領域が生成されるものである
ところ、これを具体的にどのようなアルゴリズムにより実現し、コンピュー
15 タ上で実装するのか、本件明細書の発明の詳細な説明に記載がなく、不明で
ある。
仮に、本件審決で認定されたとおり、「CT画像を扱う医学分野など、三
次元データをディスプレイ上に画像表示する技術分野」において、「任意の
平面、つまり断面のデータを切り出して表示」し、「ディスプレイ上で該平
20 面(断面)の画像を三次元的に表示」し、「傾斜・回転・移動などの動的表
示(アニメーション表示)」する技術(周知慣用技術A)が本件特許出願の
出願時において周知慣用の技術であったとしても、それだけでは歯科用イン
プラントの移動に追随して必ず歯科用インプラントを含むように平面領域が
生成されるようにする技術、アルゴリズムを理解できるとはいえず、当業者
25 が本件発明1を実施するためには過度の試行錯誤を必要とするものである。
(2) 平面領域の回転について
本件発明1の構成要件Eの「平面領域」は、構成要件A・C・Dで特定
されるように、「上顎部及び/又は下顎部の3次元撮影画像上に」「任意に位
置決め」され、「上顎部及び/又は下顎部の座標系を固定した状態で任意の
方向に傾斜させることができ」る「歯科用インプラント」の、「歯科用イン
5 プラント長軸を含」み、「前記歯科用インプラントとともに傾斜させること
ができ」る「平面領域」であるが、これがどのように実装されるのかも本件
明細書からは明らかではない。
この点、本件審決が認定した周知慣用技術Aは、このように任意に移動
され、また、傾斜させられた歯科用インプラント長軸を含む断面の回転につ
10 いての技術ではない。仮に、「任意に移動され、また、傾斜させられた歯科
用インプラント長軸を含む断面の回転」する技術までが周知慣用技術である
とすれば、取消事由1において述べたとおり、相違点1-6に係る構成は、
甲1発明に前記周知慣用技術を適用することによって容易に想到し得たもの
であるといえる。
15 【被告の主張】
(1) 平面領域を歯科用インプラントに追随させることについて
任意の軸線を含む平面の方程式表現は技術常識である。また、直線(線
分)の三次元空間内での移動や傾斜の方程式表現も同じく代数幾何学上で解
決済みの技術常識である。よって、直線(線分)たる歯科用インプラント長
20 軸を任意に移動・傾斜させた場合の当該歯科用インプラント長軸の方程式表
現は技術常識であり、当該歯科用インプラント長軸を任意に移動・傾斜させ
た場合の当該歯科用インプラント長軸を含む平面の方程式表現もまた技術常
識である。
そうすると、平面領域を歯科用インプラントに追随させるには技術常識
25 の範疇にある方程式表現を計算すれば足りる。かかる計算のためのアルゴリ
ズムは、本件審決で認定されているとおり周知慣用技術(周知慣用技術A)
であるから、当業者は、過度の試行錯誤を要することなく、平面領域を歯科
用インプラントに追随させることができるといえる。
(2) 平面領域の回転について
上記同様、平面領域の回転についても過度の試行錯誤を要するようなも
5 のではない。
なお、原告は、本件審決の進歩性の判断との相違を指摘するが、進歩性
欠如の判断においては、主引用発明から出発して本件発明1と同一の構成に
想到することの論理付けが必要であるから、主引用発明および副引用発明の
発明特定事項が問題となる。これに対し、平面領域の回転が実施可能か否か
10 の判断においては、同種の操作は同種のアルゴリズムを参考に実施可能であ
るという限度での参酌であり、具体的には、本件審決では、当業者は実質的
に同一の操作である周知慣用技術Aの実施形態ないし各種アルゴリズムを参
考とし得るという限度で参酌されているにすぎない。原告は、進歩性欠如に
おける本件審決の説示と実施可能要件における本件審決の説示の違いを理解
15 せずに主張しており、失当である。
6 取消事由6(サポート要件の判断の誤り)について
【原告の主張】
本件明細書の段落【0003】にある「歯列欠損部に歯科用インプラント
(以下、人工歯根とも称する)を埋入する目的」との記載に照らせば、「上顎
20 部及び/又は下顎部の3次元撮影画像内に位置決めされた歯科用インプラント
の軸周りの断面画像を検出」するという課題は、歯列欠損部に歯科用インプラ
ントを埋入することが前提となっていることは明らかである。そして、本件明
細書の段落【0046】に記載されているように、本件明細書に記載された具
体的な解決手段は、歯列欠損部に歯科用インプラントを適切に埋入するために、
25 歯冠画像208を歯列欠損部に篏合させて歯冠画像208の位置決めを行い、
歯冠画像208の下端に画像表示された歯科用インプラント206の位置決め
をも行うというものである。
しかしながら、本件発明では、歯冠画像について特定されておらず、歯科用
インプラントが歯冠画像と一体に移動して位置決めされる点も特定されていな
い。したがって、本件発明1は、歯冠画像を使用しない態様、歯冠画像と独立
5 して歯科用インプラントのみを位置決めする態様及び歯列欠損箇所でない位置
に歯科用インプラントを位置決めする態様も包含している。そのような態様は、
本件明細書の発明の詳細な説明には記載されておらず、本件明細書の全体及び
技術常識を参酌しても、これらの態様によって上記課題を解決できることを当
業者が認識することができるとは認められない。したがって、本件発明はサ
10 ポート要件を満たさない。
【被告の主張】
原告の主張は、自身が主張する課題を十分に特定しておらず、いかなる構成
によってサポート要件違反を基礎付けようとしているのか不明である。
第4 当裁判所の判断
15 1 取消事由1(甲1発明に基づく進歩性欠如の判断の誤り)について
(1) 甲1発明の認定の誤り及び相違点1-3の認定の誤りについて
ア 原告は、甲1発明及び相違点1-3の認定について、甲1発明の断面画
像、特に、甲第1号証の図14の右上の画像(3枚目)は、マーカの中
心軸を含むと認定すべきであって、正しく甲1発明を認定すれば前記相
20 違点1-3は存在しないと主張する。
イ しかしながら、そもそも本件審決は、相違点1-3は当業者が容易に想
到し得たことであると認めているのであるから(別紙5記載1(2))、仮
に原告の主張どおりに相違点1-3が存在しないとしたとしても、当該
相違点に関する限り、この点だけを理由に本件審決を取り消すことには
25 ならない。
ウ(ア) 上記の点をおくとしても、原告が前記ア記載の主張の根拠とする甲
第1号証の「will contain the axis of the implant」(インプラント
の軸を含む)との記載については、英語の「will」という未来ないし
不確実さを表す語が用いられているとおり、最適な平面がインプラント
の軸を含むことがあるものの、これは不確実であり、必ず含むとまで表
5 現しているとはいえない。そして、甲第1号証によれば、甲1発明の主
眼は誤差のない測定をすることであり、この点はマーカの中心軸と平行
であれば目的が達成されるといえるから、甲1発明の課題解決手段を考
慮しても、インプラントの中心軸を含む断面を取得する必要はない。
(イ) また、原告は、甲1発明の具体的な計算処理から、チタン製マーカ
10 の軸の位置が特定される以上、生成されるクロスセクショナル画像の
一つにも、位置が特定された当該マーカの軸を含むと理解するのが自
然であるとも主張する。
しかし、甲第1号証の記載からは、チタン製マーカの軸を識別し、当
該マーカの軸に垂直な新しいアキシャル画像に基づいてパノラミックラ
15 インを計算し、アキシャル画像とパノラミックラインに直交しマーカの
断面が長方形となるクロスセクショナル面を抽出すること(クロスセク
ショナル面がマーカの軸と平行な断面であること)は認められるものの、
クロスセクショナル面が上記マーカの軸を含むように抽出されることま
でを認めることはできない。また、そのようにチタン製マーカの軸の位
20 置が特定される結果、生成されるクロスセクショナル画像の一つにも当
該マーカの軸が含まれることになることを明示ないし示唆した記載もな
い。
(ウ) さらに、原告は、甲第1号証に文献[6]として参照された文献
(甲11)に記載された「DentalVox」というソフトウェアが、ユーザ
25 により指定された歯軸を含むクロスセクショナル画像を生成すること
ができるものであり、これが甲1発明の認定の際にも技術常識として
参酌可能であることも指摘する。
しかし、甲第1号証における文献[6]の引用(186頁。訳文では
4頁)は、「我々は[6]で、アキシャル面と選択した歯の軸や計画し
ているインプラントの軸とが厳密に直交しない場合は常に、クロスセク
5 ショナル画像で得られた測定値が測定誤差の影響を受ける可能性がある
ことを概説した」とするものであり、測定誤差の影響の存在を示すため
に引用されたものにすぎない。このような文脈に鑑みれば、上記文献は
甲1発明の構成を認定する際に参考となる技術常識とはいえないのであ
り、甲第1号証に記載されたクロスセクショナル面(断面画像)がマー
10 カの軸を含むように生成することを示す根拠となるものではない。
(エ) 加えて、原告は、甲第1号証の図14の左上部分にある6枚の画像
におけるチタン製マーカの幅の広さ・狭さを踏まえた主張をし、その
幅が最も大きい3枚目(右上)の画像をもって当該マーカの中心軸線
を含む断面像と推認するが、単に6枚の画像中の最大幅の画像が存在
15 することを指摘するだけでは、その幅がチタン製マーカの幅そのもの、
すなわちチタン製マーカの直径と同一の幅であることを推認させるこ
とまではできない。
エ また、原告は、甲1発明において仮想的なマーカを別の位置に移動させ、
新しいマーカの位置を考慮した新しいマルチビューを構築する際にも、
20 チタン製マーカに対する上記の処理が実行されるとして、移動後の仮想
的なマーカの軸を含むことも明らかであると主張する。
しかし、上記ウ(イ)のとおり、上記処理が実行されるとしても、この点
だけをもってクロスセクショナル面がマーカの軸を含むように抽出され
るとまでは把握することはできないから、移動後の仮想的なマーカの軸
25 についても同様にクロスセクショナル画像が当該マーカの軸を含むと解
することはできない。
オ 以上によると、甲1発明の認定の誤り及び相違点1-3の認定の誤りに
関する原告の主張は採用することができない。
(2) 相違点1-6の認定の誤りの主張について
原告は、相違点1-6について、相違点1-1との重複を排して、実質
5 的に「歯科人工物の画像オブジェクトの軸を含む画像は、歯科人工物の画像
オブジェクトの軸を中心に、軸周りに回転させることができる」と認定すべ
きであると主張する(下線部は原告による付記)。
しかし、進歩性の判断における本件発明1と引用発明の対比は、特許請
求の範囲に記載された本件発明1の構成に基づいて行うべきものであるとこ
10 ろ、原告の主張する本件発明1の構成における「歯科人工物の画像オブジェ
クトの軸を含む画像」及び「歯科人工物の画像オブジェクトの軸」は、いず
れも特許請求の範囲に記載されたものではないから、そのような事項に基づ
いて本件発明1の特定事項を認定し、甲1発明と構成の対比を行うことは許
されない。
15 (3) 相違点1-6の容易想到性の判断の誤りの主張について
ア 原告は、甲1発明に周知技術2を適用することで相違点1-6に係る本
件発明1の構成に至ると主張する。
しかし、前記のとおり、原告が主張する正しく認定された相違点1-6
なるものは認めることができない。そうすると、相違点1-6に関して
20 甲1発明から本件発明1に至るには、チタン製マーカの仮想的マーカを
歯科用インプラントの画像オブジェクトに変更し、さらに、当該歯科用
インプラント長軸を中心に、軸周りに回転させることができることが必
要になるところ、このように主引用発明(甲1発明)から複数の段階を
経て当該相違点に係る構成に想到することについて、当業者が格別の努
25 力を要することなく容易に遂行し得たと認めるに足りる証拠はない。
また、原告は、甲1発明の適用対象を仮想的マーカの画像オブジェクト
から歯科用インプラントの画像オブジェクトに変更する程度のことは、
当業者が適宜なし得る設定的事項の範囲内のことにすぎないなどとも主
張する。しかし、両画像オブジェクトは、歯科用インプラント施術時の
人工歯根の顎骨に対する挿入位置を模擬する画像オブジェクトとして共
5 通するとしても、前者は患者の欠損歯に装着された放射線用ステントに
挿入されたチタン製マーカの仮想的マーカであり、後者は画像上に任意
に位置決めされる単なる仮想上の画像オブジェクトにすぎないから、技
術的意義の異なるものであり、前者から後者へ変更することが当業者が
適宜なし得る設計的事項であるということはできない。
10 イ(ア) 上記アの点をおくとしても、本件発明は、歯科用インプラント長軸
を含む平面領域を用い、当該平面領域は歯科用インプラント長軸を中心
に、軸周りに回転させることができるというものであるのに対し、周知
技術2は、歯顎などのX線CT画像を用いた画像診断の分野において、
歯軸など特定の基準軸を中心として、軸周りの様々な角度で断面画像を
15 取得することにすぎず、基準軸を歯科用インプラント長軸とし、これを
中心に、軸回りに回転させることまで特定するものではない。
(イ) これに対し、原告は、周知技術2に関する証拠である甲第3号証、
甲第6号証及び甲第8号証について、仮に、これらの証拠に記載され
た技術が「直交座標系を維持した状態での、該直交座標系全体を、そ
20 のうちの1軸または2軸が指定した軸に一致するように回転させる技
術」であったとしても、結果として、表示される断面画像を所定の軸
の周りで回転させることができる技術であることに変わりはなく、こ
れらの技術でも、「特定の断面を特定の1軸の周りに回転させる」こと
は可能であるとし、甲1発明において、座標系を固定して断面のみを
25 回転させるか、座標系全体を回転させることによって断面を回転させ
るかは当業者が適宜選択し得る設計的事項にすぎないと主張する。
しかし、直交座標系を維持した状態で直交座標系全体を回転させる技
術と、特定の断面を特定の1軸の周りに回転させる技術は、回転の対象
や方法が大きく異なるものであり、単なる設計的事項などといえるもの
ではない。
5 (ウ) そうすると、甲1発明に周知技術2を適用したとしても、画像オブ
ジェクトとしてのチタン製マーカの仮想的マーカに関する特定の基準
軸を中心に、軸周りの様々な角度で断面画像を取得する ものとなるだ
けであって、歯科用インプラント長軸を基準軸とし、軸周りに回転さ
せることができるといった構成を想到し得るということはできない。
10 ウ また、原告は、甲1発明に甲7技術を適用しても当業者は容易に相違点
1-6に係る構成に至る旨主張する。
しかし、甲第7号証には、CT画像の一般的な再構成の際の具体的な処
理方法が記載されているにすぎず、撮影関心領域内に定める軸CTRを
インプラントの長軸を中心軸とすることの示唆も開示も認められないか
15 ら、甲1発明に甲7技術を適用しても、撮影する平面領域が歯科用イン
プラント長軸を中心に、軸周りに回転させることができるものになるも
のではない。
よって、甲1発明に甲7技術を適用するとの原告の主張も採用するこ
とができない。
20 エ さらに、原告は、甲1発明に周知慣用技術Aを適用しても当業者は容易
に相違点1-6に係る構成に至る旨主張する。
しかしながら、原告の主張する周知慣用技術Aは、本件審決の実施可能
要件の判断において認定されたものであり、CT画像を扱う医学分野に
おいて、CT画像などから任意の断面を切り出して表示したり、CT画
25 像から切り出した断面の画像をディスプレイ上で三次元的に表示したり、
CT画像から切り出した断面に対して回転を含む動的表示をしたりする
技術(アルゴリズムを含む。)というものである。これは、前記の周知技
術2、すなわち、歯顎などのX線CT画像を用いた画像診断の分野にお
いて、歯軸など特定の基準軸を中心として、軸周りの様々な角度で断面
画像を取得する技術よりさらに技術分野を広げたものである。そうする
5 と、前記イのとおり、周知技術2によっても相違点1-6に係る本件発
明1の構成に想到し得ない以上、周知慣用技術Aを適用しても同様に当
該相違点に係る構成に想到するとはいえない。
オ 以上のとおり、相違点1-6に係る構成が容易想到であるとする原告の
主張も採用することができない。
10 (4) 小括
よって、本件審決における甲1発明に基づく進歩性の判断に誤りがある
とはいえない。
2 取消事由2(甲2公知発明に基づく進歩性判断の誤り)について
(1) 相違点2-2から相違点2-4までの認定の誤りの主張について
15 ア 原告は、相違点2-2から2-4までは、既に相違点2-1として認定
された「生成される『所定の平面領域の画像』が、本件発明1では『基
準軸として歯科用インプラント長軸を含む』のに対し、甲2公知発明で
は、生成するいずれの平面画像も歯科用インプラント長軸を含むとの特
定がされない」という点を取り込んで認定されているから、この点を排
20 除して正しく相違点2-2から相違点2-4までを認定すべきであると
主張する。
しかし、前記1(2)において説示したとおり、進歩性の判断における本
件発明1と引用発明の対比は特許請求の範囲に記載された本件発明1の
構成に基づいて行うべきものであるところ、本件発明1の構成における
25 「前記平面領域」(B2、D、E)とは、構成Aにおける「基準軸として
の歯科用インプラント長軸を含む所定の平面領域」のことであり、原告
の上記主張は、特許請求の範囲に記載されていない単なる「平面領域」
を対比の対象とするものにほかならず、そのような対比を行うことは許
されない。
イ また、原告は、甲2公知発明においても、歯科用インプラントが任意に
5 位置決めされると、これに伴って歯科用インプラントに紐づいた平面領
域であるアキシャル面、パノラミック面、及びクロスセクショナル面の
位置が自動的に変更され、新しい位置に位置決めされるから、相違点2
-2は存在しないと主張する。
しかし、原告の上記主張は前記ア記載の原告の主張を前提とするもので
10 あり、そもそもその前提を採用することができない。そして、甲第2号
証の2(原告訴訟代理人作成に係る写真報告書)の5、6頁には、甲2
公知発明の動作等に関し、「歯科用インプラントを平行移動させた後、移
動後の歯科用インプラントをクリックすると、・・・移動後の歯科用インプ
ラントの近傍の断面画像を表示するように、アキシャル面、パノラミッ
15 ク面、及びクロスセクショナル面の位置が自動的に変更される」と記載
されており、これによれば、甲2公知発明におけるアキシャル面、パノ
ラミック面及びクロスセクショナル面の画像は、いずれも歯科用インプ
ラントに最も近い断面画像といえるものの、歯科用インプラントの長軸
を含むように変更されるものとはいえない。
20 よって、相違点2-2が存在しないとする原告の主張も採用することが
できない。
(2) 相違点2-1の容易想到性の判断の誤りの主張について
ア 原告は、甲2公知発明に甲1発明を適用して相違点2-1に係る構成を
備えるようにするため、チタン製マーカの実体物の像を、画像上の仮想
25 的な表示である歯科用インプラント(の画像オブジェクト)に変更する
ことは、当業者であれば容易になし得た設計的事項の範囲内であると主
張する。
しかし、甲1発明のマーカ像と甲2公知発明の歯科用インプラントは、
歯科人工物の画像オブジェクトである点では共通するものの、前者がC
T撮影によって得られた画像に含まれるものであって、アキシャル面の
5 画像の基準として用いられるものであるのに対して、後者はCT撮影さ
れた画像とは異なる画像で、CT撮影された画像上を任意に移動させら
れ、ディスプレイ上でインプラントを埋入させた様子を視認できるもの
である。そうすると、両者は画像としての使用目的や機能などにおいて
同一なものではなく、容易に置換し得るような単なる設計的事項とはい
10 えない。
イ また、原告は、甲2公知発明の画像が歯科用インプラントの長軸を含む
ように生成されるとの技術的事項を含まない点について、甲1発明にお
いて再配向後のクロスセクショナル画像の一つがマーカの軸を含むこと
を主張するが、前記1(1)で相違点1-3に関して説示したとおり、甲1
15 発明の断面画像(クロスセクショナル面)がマーカの中心軸線を含むかは
不明である。
ウ よって、相違点2-1が容易想到であるとする原告の主張は採用するこ
とができない。
(3) 相違点2-2及び相違点2-3の容易想到性の判断の誤りの主張につい
20 て
ア 上記(2)のとおり、相違点2-1について容易想到とはいえないから、
相違点2-2及び相違点2-3については本来判断を要しないものであ
るが、事案に鑑み、以下検討する。
イ 原告は、相違点2-2が存在しないとし、仮に存在するとしても、容易
25 想到であると主張するが、同相違点が認められることについては前記(1)
イに記載のとおりであり、この点に係る構成に至ることが直ちに容易想
到ともいえない。
ウ(ア) 原告は、相違点2-3について、甲2公知発明において相違点2-
1に係る構成とした場合、自ずと平面領域は歯科用インプラントの長軸
を含むものとなるから、相違点2-3に係る構成が得られることになる
5 と主張する。
しかし、相違点2-1が容易想到でないことは前記(2)に記載のとお
りであるから、原告の上記主張はその前提を欠く。
(イ) さらに、原告は、相違点2-3について、歯科用インプラントの移
動に伴ってインプラント長軸を面内に含み続けるようにクロスセク
10 ショナル面を同様に移動させることは、測定誤差防止という周知の課
題を解決する観点から当然に行われることであるか、又は当業者が適
宜なし得た事項であると主張する。
しかし、上記(ア)のとおり、相違点2-3に関する原告の主張が採用
できないのみならず、仮に、甲2公知発明に甲1発明を適用したとし
15 ても、相違点2-3のうちの「歯科用インプラントの傾斜とともにい
ずれかの断面を傾斜させる機能」にも至らないから、相違点2-3に
係る構成に当業者が容易に想到するともいえない。
エ 以上により、相違点2-2及び2-3が容易想到であるとする原告の主
張は採用することができない。
20 (4) 相違点2-4の容易想到性の判断の誤りの主張について
ア 上記(2)のとおり、相違点2-1について容易想到とはいえないから、
相違点2-4については本来判断を要しないものであるが、事案に鑑み、
以下検討する。
イ 原告は、相違点1-6と同様に、自明な課題に基づいて周知技術2を甲
25 2公知発明に適用して相違点2-4の構成を得ることは、当業者にとっ
て容易になし得たことであると主張する。
しかし、甲2公知発明に周知技術2を適用しても、画像オブジェクト
としての仮想的マーカに関する特定の基準軸を中心に、軸周りの様々な
角度で断面画像を取得するものとなるだけであって、歯科用インプラン
ト長軸を基準軸とし、軸周りに回転させることができるといった相違点
5 2-4の構成を想到し得るということはできない。
また、前記(2)に記載したとおり、甲2公知発明において相違点2-1
の構成に至ることが容易想到ではないことからすると、本件発明1の構
成Eにおける「前記平面領域」を「歯科用インプラント長軸を中心に、
軸周りに回転させる」ことが容易想到であるとはいえないことも明らか
10 である。
よって、相違点2-4が容易想到とする原告の主張は採用することが
できない。
(5) 小括
以上のとおり、本件審決における甲2公知発明に基づく進歩性の判断に
15 誤りがあるとはいえない。
3 取消事由3(甲3発明に基づく進歩性判断の誤り)について
(1) 相違点3-3の認定の誤りの主張について
原告は、甲3発明において、スライス断層面画像IXが歯科用インプラ
ントを含んでいる状態において座標軸を適宜回転させることによって、歯科
20 用インプラントを含むスライス断層面画像IXを、歯科用インプラント長軸
を中心に、軸周りに回転させることができ、これは相違点3-3に係る本件
発明1の構成Eに相当するから、相違点3-3は存在しないと主張する。
この点、甲第3号証の記載等(【0079】~【0081】、図4。別紙
4)によれば、甲3発明においては、スライス断層面画像IXが歯科用イン
25 プラントを含んでいる状態において座標軸を適宜回転させ、回転した座標軸
について、改めてスライス断層面画像IX、IY、IZを作成することが認
められるものの、甲第3号証において、歯科用インプラントの長軸を中心に
スライス画像(座標軸)を回転させるとの動作をさせる技術思想があること
を認めるに足りる記載は見当たらない。そうすると、甲3発明の回転が基準
軸としての「歯科用インプラント長軸を中心に」、「軸回りに」されるものと
5 いうことはできない。
よって、本件審決における相違点3-3の認定に誤りがあるとはいえな
い。
(2) 相違点3-1の容易想到性の判断の誤りの主張について
前記1(1)及び2(2)に記載したのと同様の理由により、甲1発明の断面
10 画像(クロスセクショナル面)がマーカの中心軸線を含むかは不明であり、
また、甲1発明のマーカ像と甲3発明の歯科用インプラントが容易に置換し
得る単なる設計的事項であるともいえないから、相違点3-1に係る構成が
容易想到であるとする原告の主張は採用することができない。
(3) 相違点3-2の容易想到性の判断の誤りの主張について
15 ア 上記(2)のとおり、相違点3-1について容易想到とはいえないから、
相違点3-2については本来判断を要しないものであるが、事案に鑑み、
以下検討する。
イ 原告は、甲1発明において、クロスセクショナル画像の一つが移動後の
仮想的なマーカの軸を含むものであることを前提として、甲3発明に甲
20 1発明を適用することで、相違点3-2に係る構成(平面領域の位置決
めが行われるのが、本件発明1では「歯科用インプラントが任意に位置
決めされる」ことを契機とすること)に容易に想到する旨主張する。
しかし、前記1(1)エに記載したとおり、移動後の仮想的なマーカの軸
についても同様にクロスセクショナル画像が当該マーカの軸を含むと解
25 することはできないから、原告の主張はその前提を欠き、採用すること
ができない。
(4) 相違点3-3の容易想到性の判断の誤りの主張について
上記(2)のとおり、相違点3-1について容易想到とはいえないから、相
違点3-3については判断を要しない。
(5) 小括
5 以上のとおり、本件審決における甲3発明に基づく進歩性の判断に誤り
があるとはいえない。
4 取消事由4(新規事項追加及び分割要件の判断の誤り)について
(1) 本件補正による新規事項の追加の主張について
ア 原告は、本件補正により「歯冠」に関する記載が削除されていることか
10 ら、「歯冠画像208の有無にかかわらず、ディスプレイ上で歯科用イン
プラント206自体を任意に移動させて位置決めする」という技術的事
項が導入されており、これは本件当初明細書に記載された事項との関係
で新たな技術的事項が導入されたものであるといえるから、新規事項の
追加であり、分割出願の親出願の記載から見て分割要件違反にもなると
15 主張する。
イ そこで検討するに、本件当初明細書(甲24)の段落【0046】から
【0049】までには、発明の実施をするための形態として、オペレー
タが歯列の欠損部を認識し、歯冠画像208を欠損部に嵌合させ、ワー
ルドエリア上で移動させ位置決めすると、これに応じてインプラントお
20 よび基準軸206も位置決めされることが記載されていることが認めら
れる。
ウ もっとも、上記の記載は、本件当初明細書における実施例の説明にすぎ
ない。そして、本件特許の出願当初の請求項1及び親出願(甲13)の
出願当初の請求項7は歯科用インプラント長軸を発明特定事項としてお
25 り、歯科用インプラント自体を任意に移動させて位置決めするという技
術的事項は当初から記載されているといえる。
さらに、本件特許の親出願(甲13)の段落【0026】及び本件当初
明細書の段落【0012】には以下の記載が認められ、これらの記載か
らすると、本件発明においては、インプラント及び基準軸の位置決めは、
医師が所望する任意の医療部材を基準にすることが想定されており、歯
5 科欠損部への歯冠画像を基準にすることは例示されているにすぎないと
いえる。
(甲13【0026】及び甲24【0012】の記載)
「本発明の断面情報検出装置では、歯科医師が所望する基準軸周り、と
りわけ歯科用インプラント長軸周りの断面情報を取得することができる。
10 また、この基準軸には医療部材を表示することもできるため、医師は
ディスプレイ上で自己の治療状態をイメージしながら医療部材を基準と
した座標系で断面情報を取得することができる。例えば、インプラント
の埋入位置を画定させたい歯科医師においては歯冠を歯列画像に埋入さ
せた様子を視認しつつ下顎管等の神経に当接しないインプラント位置を
15 検出することができる。さらに、本発明の断面情報検出装置では、歯科
医師等が施術の際に思考する視点座標で断面情報を取得することができ
る。・・・」
エ 以上を踏まえると、本件当初明細書においては「歯冠」を特定事項とし
ない技術思想の存在が認められるといえ、「歯冠画像208の有無にかか
20 わらず、ディスプレイ上で歯科用インプラント206自体を任意に移動
させて位置決めする」という技術的事項が記載されているとするのが相
当である。
したがって、本件補正により歯冠に関する事項を削除し、上記技術的事
項が含まれることになったとしても、本件補正は、特許法17条の2第
25 3項に違反する新規事項の追加であるということはできない。
(2) 分割要件違反を前提とする新規性欠如の主張について
上記のとおり、本件補正は新規事項の追加とはいえず、二以上の発明を
包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とするものである
といえるから、特許法44条の分割要件の規定に違反するものではない。
(3) 小括
5 よって、取消事由4に関する原告の主張も採用することができない。
5 取消事由5(実施可能要件の判断の誤り)について
(1) 原告は、本件発明は、歯科用インプラントがどのように動いてもこれに
追随して必ず歯科用インプラントを含むように平面領域が生成されるもので
あるところ、これを具体的にどのようなアルゴリズムにより実現するのか不
10 明であるとして、実施可能要件に違反すると主張する。
しかしながら、任意の平面の画像をディスプレイ上で三次元的に表示し、
傾斜、回転等をさせる周知慣用技術(周知慣用技術A。アルゴリズムの点を
含む。)に加え、仮想的なインプラントをディスプレイ上で移動させること
(甲3~5)及び基準軸を中心に軸周りの様々な角度で断面画像を取得する
15 こと(甲3、6~8)も周知技術であると認められる。そうすると、本件明
細書に接した当業者であれば、これらの周知技術を用いて上記の平面領域の
生成をすることができるといえ、その結果、本件各発明の装置を作り、かつ、
使用することができるといえる。原告は、歯科用インプラントの移動に追随
して「必ず」歯科用インプラントを含むように平面領域が生成されるように
20 する技術の実施の困難さを主張するが、当該困難さを立証するために裏付け
となるような的確な証拠を提出するものでもなく、採用することができない。
(2) また、原告は、本件発明における平面領域の回転について、任意に移動
され、また、傾斜させられた歯科用インプラント長軸を含む断面を回転させ
るという技術まで直ちに周知慣用技術であるとはいえず、実施可能ではない
25 旨主張する。
しかし、上記同様、周知慣用技術を用いれば、任意に移動され、また、
傾斜させられた歯科用インプラント長軸を含む断面を回転させることも実施
可能であるというのが相当である。
なお、原告は、仮に、「任意に移動され、また、傾斜させられた歯科用イ
ンプラント長軸を含む断面の回転」する技術が周知慣用技術(周知慣用技術
5 A)であるとすれば、相違点1-6に係る構成は、甲1発明に前記周知慣用
技術を適用することによって容易に想到し得たものである(取消事由1)と
主張する。しかし、引用発明や周知技術によって本件各発明を想到できるか
を問題とする進歩性要件の判断と、本件各発明の課題、解決手段及び作用効
果が実施可能かを問題とする実施可能要件の判断では、前提となる事情や要
10 件の判断が異なるものであって、原告が主張するように、周知慣用技術Aに
よって実施可能であれば進歩性が欠如するなどと、連動して短絡的に判断す
ることができるものではない。
(3) よって、取消事由5に関する原告の主張も採用することができない。
6 取消事由6(サポート要件の判断の誤り)について
15 原告は、本件発明では歯冠画像について特定されておらず、歯科用インプラ
ントが歯冠画像と一体に移動して位置決めされる点も特定されていないので、
歯冠画像を使用しない態様が包含され、サポート要件に違反すると主張する。
しかし、前記4(1)記載の取消事由4(新規事項追加)について検討したの
と同様に、本件明細書にも歯冠画像を課題解決手段に含まない技術思想が記載
20 されていると認められるから、上記各態様も、本件発明の課題が解決できるこ
とを認識できるように記載された範囲を超えるとはいえない。
よって、サポート要件違反に関する原告の主張は採用することができない。
7 結論
以上のとおり、本件審決についての原告の取消事由に関する主張は採用でき
25 ず、そのほかに本件において本件審決を取り消すべき事由は認められない。
よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとお
り判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
長 谷 川 浩 二
裁判官
10 岩 井 直 幸
裁判官
安 岡 美 香 子
(別紙1)
本件明細書等の記載事項(抜粋)
【発明の詳細な説明】
5 【技術分野】
【0001】
本発明は、顎骨等の頭部のCT撮影画像の任意に位置決めされた歯科用インプラント画像
の軸周りの断面画像を検出・表示する断面画像検出装置に関する。
【背景技術】
10 【0002】
患者を患部の疾患を検出する一つ方法としてCT撮影が存在する。このCT撮影は患者内部
の断層画像を取得する撮影方法であるが、2次元のアナログ情報であるため撮影部位の任意断
層を平面的に視認することはできても3次元イメージとして把握することができないという不
具合があった。近年、この不具合を解消するためにCT撮影から取得された2次元アナログ情
15 報を3次元デジタル情報に変換し、変換された情報をディスプレイ上に3次元画像として表示
するシステムが開発されてきた。このシステムでは、オペレータがディスプレイ上の患者部位
の3次元イメージを視認しながら該イメージの任意位置を指定することで目的とする患者部位
の断層画像を取得することができる。実際には、CT撮影より得た患者部位の3次元情報を
ディスプレイ上に画像表示するには、その処理上、ワールド領域なる絶対座標を有する仮想空
20 間上に患者部位の情報(以下、「人体情報」とも称する)を配設して画像表示することとなる。
【0003】
しかしながら、上記システムではオペレータがディスプレイに表示された3次元画像を視認
することはできても、歯科医師等が所望する基準位置からの見た画像情報を取得することはで
きない。これは、CT撮影情報がワールド領域上の絶対的な座標上に撮影情報が配置されてい
25 るに過ぎないからであり、基準位置に対する相対的な撮影情報の設定がなされていないからで
ある。例えば歯列欠損部に歯科用インプラント(以下、人工歯根とも称する)を埋入する目的
で患者の顎部をCT撮影した場合で説明すれば、CT撮影は患者の頭部を寝台に載置してなす
ものであり撮影された断層情報は寝台を位置基準とする断面情報となる。
【0004】
これに対して歯科医師が要求する断層情報はその治療態様に応じて歯科医師が所望する人体
5 要素を位置基準とした情報である。従って、CT撮影を実行する歯科医師(又は歯科医師の指
示を受けたオペレータ)は所望する位置基準に基づいて患者を位置決めして撮影する必要があ
る。これは非常に困難且つ経験を要する作業である反面、患者の被爆度を考慮すれば撮影やり
直しを繰り返すことができない事情がある。このような事情により、従来から医療関係者の間
では任意の位置に位置決めされた患者部位のCT撮影情報を患者部位の基準面(咬合面のごと
10 き)からの相対的位置情報を含む人体情報として検出する手段が求められてきた。
【0006】
さらに、上記問題を解決するために近年、種々の技術が開発検討されてきたが、処理速度が
遅い又は装置が大型化するという問題も指摘されている。
とりわけ、インプラント手術を実行する歯科医師にとってCT等撮影情報から埋入するイン
15 プラントを基準とした断面情報の取得が望ましいが、従来のCT等撮影の場合、歯科医師は患
者の前方から咬合平面を視認した状態の視点座標に基づいて施術を実行するのに対してCT撮
影情報はワールド領域を外部から視認した座標系で画像表示され、歯科医師にとって施術段階
での視点と異なる断面画像が提供されるという問題もあった。これは断面画像を見て施術する
歯科医師の豊富な経験を要する作業である。このような事情により、従来から歯科関係者の間
20 では任意の基準位置に基づいた患者の断面情報、さらには歯科医師の施術視点で要求される断
面画像の提供が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
25 【特許文献1】 特開2002-177262号公報
【特許文献2】 特開2001-000430号公報
【特許文献3】 米国特許第6,704,439号 公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
5 本発明は、以上の事情に鑑みて創作されたものであり、上顎部及び/又は下顎部の3次元撮
影画像内に位置決めされた歯科用インプラントの軸周りの断面画像を検出し、さらにはその断
面画像を歯科医師等が所望する視点で提供する断面画像検出装置を提供することを目的として
いる。
【課題を解決するための手段】
10 【0009】
本発明の断面画像検出装置によれば、ディスプレイ上に表示された歯列を含む上顎部及び/
又は下顎部の3次元撮影画像上に、歯科用インプラントを任意に位置決めすることで、基準軸
としての歯科用インプラント長軸を含む所定の平面領域の画像を生成する。
【0010】
15 前記歯科用インプラントは、前記ディスプレイ上を移動させることで任意に位置決められ、
該歯科用インプラントが任意に位置決めされると前記平面領域も位置決められる。また、上記
歯科用インプラントは、上顎部及び/又は下顎部の座標系を固定した状態で任意の方向に傾斜
させることができ、且つ前記平面領域は前記歯科用インプラントとともに傾斜させることがで
きる。また、前記平面領域は前記歯科用インプラント長軸を中心に、軸周りに回転させること
20 ができる。
【0011】
また、本断面画像検出装置によれば、前記歯科用インプラントの傾斜に拘わらず、前記平面
領域を表示するディスプレイ上に表示される断面画像は、基準となる咬合平面を固定状態で表
示させる、ことができる。
25 【発明の効果】
【0012】
本発明の断面画像検出装置では、歯科医師がディスプレイ上の任意の位置に位置決めされた
歯科用インプラント画像の軸周りの断面画像を取得することができる。歯科医師はディスプレ
イ上で自己の治療状態をイメージしながら歯科用インプラント画像を基準とした座標系で断面
情報を取得することができる。例えば、インプラントの埋入位置を画定させたい歯科医師にお
5 いてはディスプレイ上でインプラント画像に埋入させた様子を視認しつつ下顎管等の神経に当
接しないインプラント位置を検出することができる。さらに、本発明の断面画像検出装置では、
歯科医師等が施術の際に思考する視点基準である咬合平面が固定された状態で断面画像を取得
することができる。
さらに、本発明の断面画像検出装置によれば、CT撮影画像特有の画像の不明確性を排除し、
10 とりわけ歯科医師にとってディスプレイ上の任意の位置の位置決めした歯科用インプラントを
傾斜、軸回転させた断面画像を視認でき且つ歯科医師の医療上基準として考える咬合平面を画
像上固定表示させることができる。従って、CT撮影画像及びその断面画像に基づいて歯科用
インプラントの埋入画像処理を実行する歯科医師のユーザビリティが大幅に向上する。
【図面の簡単な説明】
15 【0013】
【図5】本発明の人体情報抽出装置で基準面(咬合平面)を一致させる様子を示した略示図で
ある。
【図6】本発明の断面画像検出装置においてディスプレイ上で基準面と平面領域とを設定する
様子を示している。
20 【図7】本発明の断面画像検出装置で基準軸周りの断面情報を検出するステップを示したフ
ロー図である。
【図9】上下顎部の断面画像を例示した図である。
【図10】本発明の断面画像検出装置で断面画像を取得する際の上下顎部のCT撮影画像と基
準軸及び平面領域との位置関係を示した画像図である。
25 【発明の実施をするための形態】
【0014】
CT撮影画像は患者顎部の断層画像であり2次元アナログ情報である。従って、3次元情報
として視認させるために、2次元アナログ情報をデジタル化した後に3次元情報への変換がな
され、変換された3次元情報に基づいてディスプレイ上に患者顎部が画像表示されることとな
る。また、CT撮影情報により得た3次元情報は、患者の人体要素の構成状態が検出されたも
5 のであり、そのままでは基本的に位置情報(変位情報)で構成されているに過ぎないが、3次
元デジタル化された情報にすれば歯科医師が有する他の臨床データ等の医療情報を含めた3次
元の人体情報としてディスプレイに画像表示することもできる。従って、歯科医師は、ディス
プレイ上の任意点又は任意面を指定すれば該当部分の断層画像や医療情報を視認することがで
きる。
10 【0046】
次に、上記人体情報抽出装置により抽出された人体情報に基づく3次元画像の断面画像を検
出する装置について説明する。図6は本装置により処理されるステップをディスプレイ上の画
像表示で示しており、図7はそのステップのフローチャートが示されている。まず、ディスプ
レイ上の画像で説明すれば図6(a)に示すようにディスプレイ上にはCT撮影により得た3
15 次元情報に基づいて顎部200が表示されている。オペレータは、この画像を視認しながら歯
列の欠損部(図示しない)を認識する。欠損部が認識されるとまず最初にオペレータは歯冠画
像208を欠損部に嵌合させてみる。
【0047】
ここで、歯冠画像208の嵌合について説明する。歯冠画像208は予め作成された歯冠形
20 状の模型をCT撮影しておき、その撮影情報に基づいた画像208を一つのオブジェクトとし
てディスプレイ上の任意の位置に配置される。通常、この画像(オブジェクト)をオペレータ
がディスプレイ画像内で移動させ、上記欠損部に重ね合わせ適当と判断される位置に適宜配置
する。しかしながら、患者によっては多数の歯列欠損が生じている場合もあり、オブジェクト
の移動実行前に欠損箇所から離間した任意の位置に複数の歯冠画像208が配置されていると
25 オペレータにとってどの歯冠画像が各欠損歯列に適合するものか判りにくくなり、処理効率が
悪くなる可能性がある。このため自動的に歯冠画像を欠損歯列の近傍に配置しておくようにし
ても良い。具体的には、上述する位置決め部材10から検出された基準面(咬合平面)を利用
する。まず予め検出された咬合平面上に歯列を設定し、その歯列上に各歯冠画像情報を配置し
ておき、画面には各歯冠画像を非表示としておく。そして、欠損部に歯冠画像を重ね合わす処
理をオペレータが実行する段階において該当する欠損箇所に対応する咬合平面上の歯冠画像2
5 08を表示する。このような処理を行うと、歯冠画像を移動させる前の初期段階においてもオ
ペレータが所望する歯冠画像をある程度欠損部に近接した位置に自動的に表示することができ、
逆に直近に所望しない歯冠画像を表示させないようにすることができる。
【0048】
また、この歯冠画像208の下端には基準軸に沿って歯科用インプラント206(参照番号
10 206は基準軸としての歯科用インプラント長軸をも示している)が画像表示されており、さ
らに基準軸206には歯科用インプラント及び歯科用インプラント長軸を含む所定の平面領域
204が付与されている。
【0049】
従って、オペレータがディスプレイ上を移動させ、歯科用インプラント206が任意に位置
15 決め画像表示される。さらに、歯科用インプラント206が位置決めされると平面領域204
も位置決めされ、画像表示されることとなる。この平面領域204こそがここで断面画像を所
望する平面である。ここで平面領域204の位置決めについて言及すれば、断面検出用画像2
02はワールドエリア内で該画像が配設されたローカルエリアを設定すれば、歯科用インプラ
ント画像206の任意の傾斜角、平面領域204の任意の回転角を選択、設定することができ
20 る。図6(a)では、歯科用インプラント長軸206を中心として画像表示を回転させ(矢印
A方向の回転)、これに伴ってインプラント206と平面領域204とを回転させる様子を略
示している。歯科用インプラント長軸206をZ軸とし、平面領域204をXY平面とする歯
科医視点の座標系を設定すれば、3次元撮影画像内の任意の歯科用インプラント206の軸周
りに回転させた平面領域204上の断面画像が表示される。また、図6(b)では、歯科用イ
25 ンプラント206を3次元撮影画像内で移動・傾斜させ、これとインプラント206と平面領
域204とを軸周りに回転させる様子を略示している。このようにしてディスプレイの撮影画
像上に任意に位置決めされた歯科用インプラント206を移動・軸回転・傾斜させたときの該
インプラント長軸周りの平面領域の画像を取得すれば、ディスプレイの撮影画像上の歯科用イ
ンプラントの埋入位置を確認しながら、その断面画像を取得することが可能となる。
【0050】
5 以上が本発明の断面画像検出装置の説明であるが、この装置で具体的に処理されるステップ
の一例についても説明しておく。図7に示すようにオペレータは上述するように基準軸の回転、
傾斜を実行することで平面領域204、すなわち所望する検出断面を設定する(STEP2
0)。次に検出断面内における検出点を設定する。具体的には検出断面に配置された多数の
voxel から予め設定された位置に存在する voxel を検出し、これを検出点として設定する(S
10 TEP22)。次に設定された平面領域における複数の検出点から1つの検出点を検出中心と
して設定する(STEP24)。さらに、検出中心の近傍に位置する隣接点を検出し、設定す
る(STEP26)。このステップで設定される隣接点は、検出中心から予め設定された領域
(voxel 群領域)内に存在する点(voxel)を検出することにより実行される。そして、設定
された検出中心と隣接点とに対応するワールドエリア上の人体情報を取得し(STEP28)、
15 取得された複数の人体情報を平均化する(STEP30)。さらに、このようにして検出中心
に対応する人体情報が平面領域全体に亘って検出(取得)されたか否かが判定され、検出され
るまではSTEP22~30を繰り返すこととなる(STEP32)。そして、平面領域全体
に亘って人体情報が検出されると、これを別途設定した画面内に2次元情報として設定するこ
とで(STEP34)、ディスプレイ上にインプラント等基準軸周りの断面情報を提供するこ
20 とが可能となる。なお、図7では、検出領域ごとに人体情報を取得し、平均化するステップが
示されているが、一旦、平面領域全体に亘って各検出点の人体情報を取得した後に、各検出中
心および隣接点を有する検出領域における人体情報を平均化するステップであっても差し支え
ない。具体的には、図7のSTEP28、STEP32をSTEP22~24の間に介挿させ
ること等が考えられる。
25 【0051】
なお、平面領域204の任意の2点間の距離を測定することも、任意の3点間の角度を測定
することも可能である。具体的には、所望する2点以上の位置検出点(voxel)のワールドエ
リア上の座標を設定し、設定された位置検出点が2点であるときには検出点それぞれの座標を
用いて検出点間の距離を測定する。また、設定された位置検出点が3点以上であるときには検
出点のうち任意の2点で形成される線分を2点の座標から測定し、該線分同士の角度及び/又
5 は該線分の距離を検出点の座標を用いて測定する。
【0052】
さらに、本発明の断面画像検出装置では他の実施形態をも提供する。この断面画像検出装置
では、基準軸206を人体要素に基づく所定の方向に傾斜させることができ、且つ平面領域2
04は基準軸206とともに傾斜することができる。ここで、人体要素の所定の方向の傾斜と
10 は例えば、図6においてX方向で示す歯列方向の傾斜(近遠心の傾斜とも称する)やY方向で
示す頬舌方向の傾斜を意味するものであり、前者は基準軸206の上端近傍(人工歯根画像に
おいてはその頸部)を中心に近遠心に傾斜させ、後者は基準軸206の上端近傍を中心に頬舌
方向に傾斜させるものである。この傾斜における座標概念は、ワールドエリアにおいて通常意
味する座標系とは異なる歯科医師等が施術時に想定している座標概念である。ここで歯科医師
15 が施術時に想定している座標概念についてさらに言及する。歯科医師は、その施術の際に位置
基準としているのは通常、咬合平面であり、患者の前方から咬合平面を見た状態の視点座標で
施術の適正を判断している。従って、歯科医師にとってワールドエリア上の座標平面で断面情
報検出しても、それを施術に反映させようとすると実質的に咬合平面前方からの視点座標で再
度変換想起する過程が必要とされる。本実施形態では、この点に注目し従来、歯科医師が実質
20 的に自己の頭の中で座標系を変換している過程を排除し、断面情報(これに基づく断面画像)
自体を咬合平面を前方から視認した視点座標系で検出することとしている。従って、歯科医師
にとって所望する断面情報は必ずしも人工歯根の長軸を形成する基準軸206周りの断面情報
が必要であるとは限らない。具体的には、人工歯根を傾斜させて埋入させようと企図する場合、
その傾斜が近遠心方向であるときには所望する断面情報は基準軸206周りの情報であるが、
25 傾斜が頬舌方向であるときには基準軸206周りの情報は不要若しくは却って判断を困難にさ
せる情報となる。この事情に鑑みて実施形態においては、基準軸は歯列方向(近遠心方向)に
も頬舌方向にも傾斜させることができるが、断面情報を検出する平面領域204は、歯列方向
の傾斜の場合にのみ基準軸206とともに歯列方向に傾斜させて基準軸周りに回転させること
とし、頬舌方向の傾斜の場合には基準軸206は画像表示上は頬舌方向の傾斜状態を維持した
まま回転させるが平面領域206は頬舌方向に傾斜していない状態を維持したまま回転させる
5 こととしている。参照までに、図9は平面領域204に位置する断面情報を示した実際の画像
図であり、参照番号206は基準軸を示している。図10は、平面領域204と上下顎部との
位置関係を示した画像図である。
【0053】
さらに、上顎部及び下顎部の3次元撮影情報(CT撮影情報)は上述するフィッティングに
10 より上顎部及び下顎部の模型の3次元撮影情報と重ね合わされているが、人工歯根等の基準軸
206周りの平面領域204に位置する上記断面情報に基づいて断面画像を表示する際には模
型の断面情報をも含めて表示することが好ましい。図9に示すように断面画像は前記CT値に
基づいて濃淡表示されるが、歯列付近の軟組織形状(歯茎の形状)は空気部分とのCT差が小
さく上下顎骨歯列に比してその外形が視認し難い。その一方、上下顎部の模型(歯列模型)は
15 硬質材の中空又は薄肉で形成されておりX吸収率も高いため、平面領域204に位置する上下
顎部の3次元撮影情報と、平面領域に位置する人体模型の3次元撮影情報(図9の白点線又は
図10の上下顎骨画像と歯列画像の間に位置する歯茎画像参照)とを抽出すれば同一断面画像
上で軟組織形状を視認することが容易となり、オペレータのユーザビリティが大幅に向上する。
さらに、図10のごときCT撮影情報において断面情報を検出し人工歯根の埋入位置を検出す
20 る処理を実行する際に、オペレータは該断面画像を視認しながら人工歯根画像を歯列欠損部に
嵌合させるが、このときに人工歯根画像や平面領域画像に予め規定したハンスフィールド値に
相当するCT値をマッピングしても良い。このようなマッピング処理を実行すれば、CT値に
基づく濃淡で画像表示された上下顎部のCT撮影画像と同じ基準のグレースケールで仮想の人
工歯根等を表示することができ、人工歯根表面やその周囲の人体組織(皮質骨や海綿骨)の状
25 況を3次元的にも2次元的にも視認可能であり、オペレータのユーザビリティが向上する。
【0054】
以上、本発明の各装置に関する実施形態ついて例示説明してきたが、本発明はこれに限定さ
れるものではない。例えば、実施形態においては概ね歯科医療分野での実施態様に言及したが、
他の医療分野でも利用可能である。また、本発明はCT撮影情報の問題点の解決手段としての
実施形態が説明されてきたが、患者の位置決めが困難である又はノイズ情報を含む人体撮影で
5 あれば他の撮影方法でも利用することが可能である。
【符号の説明】
【0055】
10…位置決め部材
10a、10b…球状体
10 30、30´…模型撮影用治具
40…位置決め部材
50…位置決め部材
102、106…咬合平面
204…平面領域
15 206…インプラント(歯科用インプラント長軸)
【図5】
10 【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
以上
(別紙2)
甲第1号証の記載事項(抜粋)
([]内は、特に言及のない限り、甲1の抄訳文における頁数である。)
1 「概要・・・もし患者がより多くのインプラントを必要とする場合、異なる切断面が自動
5 的に特定され、またアキシャル画像及びクロスセクショナル画像がそれぞれについて再配向
される。」[1頁]
2 「イントロダクション・・・最新世代のツールでは、関心のある歯科領域やマーカ(たとえ
ば、CTスキャン中に患者が装着するX線透視ステントに挿入された放射線不透過性のシリ
ンダ)、又はインプラントに焦点を当てるために、どの切断面を表示するかを専門医がイン
10 タラクティブに選択できるものもある。その目的は、エラーのない測定を行うために、装着
されるインプラントの軸を含む、骨の断面を表示する最適な平面を特定することである。」
(原文は「・・・the optimal plane,・・・will contain the axis of the implant」)[1頁]
3 「特に、提案されるアプローチでは、1回のCT撮影により、患者の向きや考慮される欠
損歯にかかわらず、土台となる骨及び予定しているインプラントの正確な形態学的測定値を
15 得られるように、インプラントの外科計画が改善される。これは、異なる平面上の、場合に
よっては異なる軸に垂直な平面上の新しいCT画像を生成するために、画像処理、パターン
認識、及びコンピュータビジョン技術を元のCT画像に適用することによって実現される。
この方法の主な利点は、埋入するインプラントの数や患者の向きにかかわらず、1回のCT
撮影で済むことである。」[2頁]
20 4 「提案されるアプローチでは、最良のインプラント計画を決定する行為は、インプラント
の設計を開始する前の物理的な模型を提供する診断用ワックスアップの構築からスタートす
る。この診断用ワックスアップに基づいて、アクリル樹脂製の放射線用ステントが作られる。
次いで、診断用ワックスアップにおいて作られたとおりに、欠損歯ごとに、対応する欠損歯
に位置合わせされて、チタン製マーカが放射線用ステントに挿入される。患者は、CTス
25 キャンの間、この放射線用ステントを装着する必要があり、チタン製マーカは、さらなる画
像処理及びコンピュータビジョン技術を適用するための3D空間内の基準として利用され
る。」[2頁]
5 「マーカ(放射線不透過性シリンダ)及びその軸を自動的に識別し、位置を特定する。基
準点を持つために、患者は通常、CT検査中、各欠損歯に対して1つずつ放射線不透過性
マーカ(すなわちシリンダ)を備えた放射線用ステントを装着する。我々は、3D空間内の
5 すべてのシリンダとその軸を識別し、位置を特定するために、ハフ変換及び断面クラスタリ
ングを使用した、モデルベースの視覚的アプローチを定義した。
アキシャル画像を再配向させ、最適な多視点表現のために相対的なクロスセクショナル
画像を生成する。3D空間の切断面は、オペレータが手動で選択することも、前のステッ
プで自動的に特定することもできる。実際、各マーカ、ひいては埋入される各インプラン
10 トについて、その下にある骨構造における正確な測定値を計算するために、各マーカの軸
が計算されると、最適な切断面(クロスセクショナル画像を含む)は、その軸に直交する
平面となる。」[2頁]
6 「図1に示すように、アキシャル画像は装置から直接取得されるあるいはアキシャル画像
が補間によって計算されるが、取得面と常に平行な平面上にある)。パノラミック画像は、
15 アキシャル画像上に描かれた、上顎堤又は下顎堤の湾曲に沿った曲線(パノラミック切断曲
線)に直交するものとして取得される。オブリーク(又はクロスセクショナル)画像は、前
述した一連の画像と直交する。クロスセクショナル画像は、互いに平行ではなく、歯軸が収
束する集積点を含む集積線に収束する。以下では、このタイプの可視化をマルチビュー・ビ
ジュアリゼーションと呼ぶ。クロスセクショナル画像の定義は、パノラミックラインとCT
20 スキャンの取得面の3D空間における向きとの両方に依存する。」[3頁]
7 【図1】[4頁]
8 「しかしながら、我々は[6]で、アキシャル面と選択した歯の軸や計画しているインプラ
ントの軸とが厳密に直交しない場合は常に、クロスセクショナル画像で得られた測定値が測
定誤差の影響を受ける可能性があることを概説した。図2(a)の立体が歯を表しており、
これがクロスセクショナル画像(図2(b)の灰色面)と交差しているものとする。・・・
15 この系統誤差と、オペレータがツールを手動で操作する際に生じ得る不正確さとによって、
図2(c)に示すように、測定された長さが(図2(d)に示すように)10mmではなく
8.19mmとなるような、無視できない測定のずれが生じる可能性がある。[4頁]
9 【図2】[5頁]
10 「誤差のない測定が可能なのは、アキシャル画像が、埋入予定の歯科用インプラントの
軸に直交する平面上で取得された場合、又は我々が提案するように当該平面上で再構成され
た場合のみである。しかしながら、歯軸は歯列円弧に沿ってその方向を変える(すなわち、
前頭面では歯軸はウィルソン曲線に直交し、矢状面では歯軸はスピー曲線に直交する)。こ
5 のため、ある歯に関して作成された(すなわち、取得面を歯軸に直交するようにした)CT
スキャンは、軸の方向が異なる可能性のある別の歯のインプラント計画には直接役立たない。
したがって、複数のインプラントが埋入予定であり、最終的にこれらの軸が大きく異なる場
合には、アキシャル画像の再配向が唯一の解決策となる。この点で、我々のアプローチは、
(パラ)アキシャル面を決定するプロセスを自動化する基本的なものである。この目的のた
10 めには、CTスキャンの間、患者が、診断用ワックスアップで作られたとおりに放射線不透
過性シリンダを各欠損歯の軸に沿って取り付けたステントを装着していれば、それで十分で
ある。」 [5頁]
11 「しかしながら、補間された体積データセットを利用することで、新しい基準軸が与え
られたときに基準面を再配向させることができる。このような理由で、我々は、放射線科医
15 やインプラント医に最適な歯軸やシリンダ軸をインタラクティブに尋ねるツール[6]を定義
した。これにより、選択された軸に従って画像が回転されて、新しい画像が提供される。こ
れらの画像は、角度ずれの点で誤差のないものとなる。
本論文では、このアプローチをさらに改良し、マーカ(放射線不透過性シリンダ)を自
動的に認識し、位置を特定する方法を定義する。本方法は、識別された各シリンダについ
20 て、その軸を計算し、軸に従ってクロスセクショナル画像を再フォーマットし、正しい測
定ができるように空間を回転させることによって最適なクロスセクショナル図を計算する
(マルチビュー)。」[7~8頁]
12 「このようにして、我々は、可能性のある各ターゲットについて、3D空間で軸を計算
することができる。我々は、3D空間からスタートして、与えられた軸に垂直な新しいアキ
25 シャル画像のセットを抽出し、このアキシャル画像上でパノラミックラインを再び計算する
ことができる。そして、新しいアキシャル面及びパノラミックラインに直交するものとして、
クロスセクショナル面が抽出される。この新しいマルチビューは、マーカ及びその近傍領域
の測定に誤差がないものとなる。図2(c)及び(d)は、再配向の前後のクロスセクショ
ナル画像を示している。前者は元のアキシャル画像セットから作成されたもので、測定され
た長さが誤差の影響を受けることを示しており、後者は、本論文で説明する処理後に作成さ
5 れたものである。
この確かに正しいビューからスタートして、専門家は、環境とインタラクトすることが
でき、いくつかのグラフィックツールを使用して、仮想的なマーカを別の位置に移動させ、
新しいマーカの位置を考慮して新しいマルチビューを構築するようにシステムに要求する
ことができる。
10 このように、アプローチ全体が完全に自動化されており、全プロセスを、各ターゲット
オブジェクト(つまり、診断用ワックスアップの歯軸に基づいて、放射線用ステント上に
マー力が配置された各欠損歯)に対して行うことができる。」[14頁]
13 「図13及び図14は、検出されたターゲットに応じた平面の再配向なし及び再配向あ
りのCT検査のマルチビュー表示である。図13には、右上の臼歯に関するクロスセクショ
15 ナル画像が含まれている。これらの画像では、円柱状の基準マーカの一部の断面が長方形に
なっておらず、元のCT撮影はこのマーカに対して位置合わせされていない。システムは
マーカの軸を(手動選択又は前述の自動処理によって)識別することができる。図14では、
選択されたマーカを基準にして再配向を行った後の再フォーマット画像が示されている。今
度は、表示されている全クロスセクショナル画像において、円筒形の基準マーカの断面が完
20 全に長方形になっていることに注目されたい。」[14~15頁]
14 【図13】[甲1・197頁]
15 【図14】[甲1・198頁]
以上
(別紙3)
甲第2号証の記載事項(抜粋)
1 甲第2号証の1
(1) 15 頁
(2) 37 頁
2 甲2号証の2
(1) 5、6頁
(2) 6、7頁
20 以上
(別紙4)
甲第3号証の記載事項(抜粋)
【請求項4】請求項1から3のいずれかに記載の歯科用インプラント施術支援装置において、
前記画像表示操作装置には、データ記憶装置が接続され、このデータ記憶装置には既存の歯科
5 用インプラントの形状データとこれに対応したインプラントアイコンが記憶され、
前記画像表示操作装置では、複数のインプラントアイコンが表示され、このインプラントアイ
コンから所望のインプラントアイコンを選択操作することにより、前記欠損部分について用い
るべき前記歯科用インプラント画像が選択できるようにしたことを特徴とする歯科用インプラ
ント施術支援装置。
10 【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、患者の歯牙の欠損部分について取得した印象を基に作成
され、この欠損部位を含む歯牙列に冠せて用いられるステントに、この欠損部位に植え立てる
義歯を固定するためのインプラント埋入ガイド穴を加工する歯科用インプラント施術支援装置
15 に関する。
【0017】
【課題を解決するための手段】請求項1に記載の歯科用インプラント施術支援装置は、患者の
歯牙の欠損部分について取得した印象を基に作成され、少なくとも3点以上の3次元位置決め
用マーカを設けたステントを装着して撮影した前記患者の顎部X線CT画像と、前記欠損部分
20 について用いるべき歯科用インプラント画像とを重畳表示し、前記顎部X線CT画像上での前
記歯科用インプラント画像の埋入位置方向を決めることができるようにした画像表示操作装置
と、こうして決められた埋入位置方向データから前記ステントにインプラント埋入ガイド穴を
加工するためのガイド穴加工データを前記位置決め用マーカの位置を基準として作成するデー
タ処理装置とから構成されることを特徴とする。
25 【0018】この装置は、通常歯牙の欠損部分に植え立てる義歯の製作・位置決めなどに用い
られるステントに3次元位置決め用マーカ(X線不透過性)を設け、この位置決め用マーカを、
画像表示操作装置でのインプラントの埋入位置方向の決定、データ処理装置でのガイド穴加工
データの作成の基準として共用しているので、この位置決め用マーカが、それぞれの処理での
座標基準となり、正しいインプラント埋入穴のガイド穴加工データを得ることができる。
【0025】請求項4に記載の歯科用インプラント施術支援装置は、請求項1から3のいずれ
5 かに記載の歯科用インプラント施術支援装置において、前記画像表示操作装置には、データ記
憶装置が接続され、このデータ記憶装置には既存の歯科用インプラントの形状データとこれに
対応したインプラントアイコンが記憶され、前記画像表示操作装置では、複数のインプラント
アイコンが表示され、このインプラントアイコンから所望のインプラントアイコンを選択操作
することにより、前記欠損部分について用いるべき前記歯科用インプラント画像が選択できる
10 ようにしたことを特徴とする。
【0027】請求項5に記載の歯科用インプラント施術支援装置は、請求項1から4のいずれ
かに記載の歯科用インプラント施術支援装置において、前記歯科用インプラントの形状データ
および前記顎部X線CT画像を構成する画像データは3次元データであり、前記画像表示操作
装置には前記歯科用インプラント画像と前記顎部X線CT画像とを3次元的に表示できるよう
15 にしたことを特徴とする。
【0028】この装置は、画像表示操作装置で、歯科用インプラント画像と顎部X線CT画像
とが3次元的に表示されるので、歯科用インプラント画像の埋入位置方向をより実感的に決め
ることができる。
【0043】また、このステント7には、図8の外観斜視図で解るように、その外縁にX線不
20 透過性の材料で製された3次元位置決め用マーカ7aを少なくとも3カ所設けているが、この
図1では、そのうち2個だけが見えている。このマーカ7aは、より具体的には、微小鋼球と
するのが、コスト面、X線不透過性の点でもよい。また、このような微小球を図のような外縁
配置にすると、ステントの取扱にも支障とならない。
【0044】画像表示操作装置1は、その表示画面1cに、マーカ7a(表示画面1c上では、
25 マーカ像I7a)を設けたままステント7(表示画面1c上では、ステント像I7)を装着し
て撮影した患者の顎部X線CT画像IGと、この欠損部分について用いるべき歯科用インプラ
ント画像IIとを重畳表示し、マウス1aやキーボード1bを操作することで、顎部X線CT
画像IG上で歯科用インプラント画像IIの位置と向きを自由に変えることができ、最終的に、
この歯科用インプラント画像IIの最適な埋入位置方向を決めることができるようになってい
る。
5 【0045】例えば、この図では、表示画面1cで点線で表示された位置方向II(0)から、
最終的に、実線で表示された位置方向II(1)に決められている。この場合、位置方向決め
をするための顎部X線CT画像IGは、そのために、最適のものを選ぶことができる。
【0071】図4は、本発明の画像表示操作装置での3次元スライス画像表示の一例を示す図
である。
10 【0072】図1に比べ、ここでは、表示画面1cに表示された3次元スライス画像ISは、
顎部X線CT画像IGを、相互に直交するX断層面、Y断層面、Z断層面についてのスライス
断層面画像IX、IY、IZとして予め複数枚準備しておき、これらを3つ組み合わた画像で
あり、データ記憶装置5に記憶保存されており、カーソルCX,CY,CZの操作に応じて選
択された所望の組み合わせのスライス断層面画像IX、IY、IZが図のように3面表示され
15 ている。
【0073】スライス断層面画像IX、IY、IZには、ステント7の画像I7が、また、ス
ライス断層面画像IX、IYは、このステント7に設置された3次元位置決め用マーカ7aの
画像が点線で示されている。
【0074】この3次元スライス画像ISは、ステント7を装着した状態の顎部をX線CT撮
20 影し、下顎のX線吸収係数の3次元データを得、この3次元データを、X断層面、Y断層面、
Z断層面に平行な断面で、細かいピッチ、例えば、0.1ミリピッチで、スライス断層面画像
IX、IY、IZとして80枚から100枚用意されたものである。
【0075】ここで、一つのスライス断層面画像上(IX、IY、IZのいずれか)で、その
画像に表示されたカーソル(CX、CY、CZのうち表示されたもののいずれか)を移動する
25 ことによって、これに対応して他のスライス断層面画像が連動して次々と表示されるので、イ
ンプラントを埋め込むのに適切なスライス画像を簡単に見つけ出すことができる。
【0076】こうして、所望の位置の3次元スライス画像ISが表示され、つまり、より適切
なスライス断層面画像IX、IY、IZが表示されるので、この最適画面上で歯科用インプラ
ント画像Iの埋入位置方向を決めることができ、便利がよい。
【0079】なお、図の「再スライス」は、この装置では、XYZ軸の座標軸の回転をするこ
5 とができるが、その場合に、回転後の座標軸について、スライス断層面画像IX、IY、IZ
を改めて作成させるためのアイコン・・・「スライス角度設定」は、座標軸回転のための角度
を設定するためのアイコン・・・である。
【0080】これらの機能のうち、この3次元スライス画像表示ISを用いて、インプラント
埋入位置を決める際に、便利なのは、「スライス角度設定」、「再スライス」のアイコンである。
10 例えば、これらを用いて、インプラントを埋入しようとする部分が、XYZ軸に対して傾いて
いる場合には、その角度を「スライス角度設定」アイコンをクリックして設定し、「再スライ
ス」アイコンをクリックして、回転した座標軸について、改めてスライス断層面画像IX、I
Y、IZを作成して、保存させることができる。
【0081】具体的には、この図では、スライス断層面画像IXで、顎骨の断面がカーソルC
15 Y,CZに対して傾いているが、この場合には、「スライス角度設定」アイコンをクリックし
て、この顎骨の傾斜を示す二点をクリックすることで、顎骨がカーソルCYに平行になるよう
に座標軸の角度を設定でき、「再スライス」アイコンをクリックするとその回転後の座標軸に
ついて、再スライスされ、新たなスライス断層面画像IX、IY、IZが表示され、スライス
断層面画像IXでも、顎骨、インプラントが垂直となって表示され、便利がよい。
20 【0083】図5(a)、(b)は、図4の3次元スライス画像の作成についての説明図であり、
より詳しくは、図5(a)は、スライス断層面画像の切り出し方法を示す概念図、(b)はこ
れらの断層面画像の表示方法の一例を示す概念図である。
【0084】なお、これより図7までは、3次元スライス画像表示の一般的な例について説明
するものであるが、このような3次元スライス画像表示は、後述するように、本発明のように
25 インプラント埋入位置を決める場合にも有効である。
【0085】図5(a)に示す3次元領域Sは、歯牙列の一部を一般的な例としたもので、こ
の3次元領域Sについては、その3次元領域Sを構成する各点について3次元CTデータが得
られており、この3次元領域Sについて、図のようにxyz座標系を設定すると、このxyz
座標系において、ある点(x,y,z)のボクセル値V(x,y,z)が決まる。
【0096】また、図7に示す画面では、図5の場合と全く同様に、X、Y、Zカーソルcx、
5 cy、czを移動させてスライス断層面画像IX、IY、IZを順次表示させることができる。
【0103】図8は、本発明の画像表示操作装置での3次元的表示の一例を示す図である。
【0104】図1では、顎部X線CT画像IG、歯科用インプラント画像IIは平面的な画像
として表示されていたが、この表示画面1cでは、それぞれ、3次元的に表示されている。
【0105】したがって、歯科用インプラント画像の埋入位置方向をより実感的に決めること
10 ができる。また、条件がよければ、一度に、XYZ三方向の位置と方向を決めることができ
る。
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図7】
10 【図8】
20 以上
(別紙5)
取消事由に関する本件審決の理由の要旨
1 無効理由1―1(甲1発明に基づく進歩性欠如)
5 (1) 本件審決は、本件発明1と甲1発明の対比における相違点のうち、相違点
1-3については、後記(2)のとおり、当業者が容易に想到し得たことである
としたものの、相違点1-6については、後記(3)のとおり、本件発明1は甲
1発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえないと
して、進歩性欠如の無効理由1-1を認めなかった。そして、本件発明2は、
10 本件発明1に対し、さらに構成要件Gに係る事項について限定されたもので
あるから、本件発明1について甲第1号証に記載された発明に基づく容易想
到性がない以上、本件発明2についても甲第1号証に記載された発明に基づ
いて当業者が容易に発明することができたものとはいえないとした(本件発
明2が本件発明1を更に限定したものであるから容易想到性がないと判断す
15 る点について、以下の無効理由1-2及び1-3でも同じであるため、当該
箇所における記載を省略する。)。
【相違点1―3】
≪歯科人工物の画像オブジェクトの軸に平行な画像≫(平面領域の画像)が、
本件発明1では、歯科人工物の画像オブジェクトの長軸を含むのに対し、甲1
20 発明では、前記軸に平行な断面の画像(クロスセクショナル画像)ではあるも
のの、前記軸を該画像が含むかについては不明である点。
【相違点1-6】(構成要件E)
構成要件Eについて、本件発明1の構成要件E「前記平面領域は前記歯科用
インプラント長軸を中心に、軸周りに回転させることができる」ことに相当ま
25 たは対応する構成を甲1発明は備えない点。
(2) 相違点1-3については、甲第1号証には、歯科用人工物の実体物である
チタン製マーカの像の長軸がマルチビューのパノラミック画像やクロスセク
ショナル画像の鉛直軸に対し傾いている場合に、再配向により該各画像の鉛
直軸と前記マーカ像の長軸とが平行になるようにすると共に、クロスセク
ショナル画像が前記マーカの長軸(中心軸線)をほぼ含むものとすることが
5 記載されていると認められる。
よって、甲1発明において、向きが変化させられた仮想的マーカの軸に平行
になるようにクロスセクショナル画像を再配向した際にも、クロスセクショナ
ル画像を、向きが変化した後の仮想的マーカの中心軸を含む断面について生成
するようにして、相違点1-3の構成とすることは、当業者が容易に想到し得
10 たことである。
(3) 相違点1-6に係る構成要件Eの「前記平面領域」は、構成要件A・C・
Dで特定されるとおりの、「上顎部及び/又は下顎部の3次元撮影画像上に」
「任意に位置決め」され、「上顎部及び/又は下顎部の座標系を固定した状態
で任意の方向に傾斜させることができ」る「歯科用インプラント」の、「歯科
15 用インプラント長軸を含」み、「前記歯科用インプラントとともに傾斜させる
ことができ」る「平面領域」である。
これに対し、各証拠の記載等における技術的事項はいずれも、任意に移動さ
れ、また、傾斜させられた歯科用インプラントの画像オブジェクトの軸に基づ
いた座標系や断層面の回転についてのものではなく、相違点1-6に係る構成
20 は容易想到とはいえない。
また、相違点1-6に直接係る「前記平面領域は前記歯科用インプラント長
軸を中心に、軸周りに回転させることができる」点のみについて検討したとし
ても、各証拠の記載から認められる技術は、特定の断面の特定の1軸の周りに
回転させるものではなく、甲1発明において相違点1-6の構成とすることを
25 当業者が容易に想到し得たとはいえない。
さらに、構成要件Eに関し、仮に、構成要件C・Dに係る歯科用インプラン
トの傾斜操作を行う前の、傾斜しない状態で位置決めされた歯科用インプラン
トについて、構成要件Eに係る機能が備われば足るとの解釈を採用するとして
も、相違点1-6の構成に想到するために複数の段階(いわゆる「容易の容易」
の論理)を要することに変わりはない。
5 2 無効理由1-2(甲2公知発明に基づく進歩性欠如)
(1) 本件審決は、本件発明1と甲2公知発明の対比における相違点について、
後記(2)及び(3)のとおり、本件発明1は甲2公知発明に基づいて当業者が容
易に発明することができたものとはいえないとした。
【相違点2-1】(構成要件A)
10 生成される「所定の平面領域の画像」が、本件発明1では「基準軸として歯
科用インプラント長軸を含む」のに対し、甲2公知発明では、生成するいずれ
の平面画像も歯科用インプラント長軸を含むとの特定がされない点。
【相違点2-2】(構成要件B2)
本件発明1が構成要件B2として、「該歯科用インプラントが任意に位置決
15 めされると前記平面領域」(すなわち、構成要件Aにいう「基準軸としての歯
科用インプラント長軸を含む所定の平面領域」)「も位置決められ」るとの特定
事項を備えるのに対し、甲2公知発明は、前提となる相違点2-1に係る「基
準軸としての歯科用インプラント長軸を含む所定の平面領域」の生成がされな
いから、前記構成要件B2に係る特定事項に相当する構成も備えないし、歯科
20 用インプラントの位置決めを契機としていずれかの平面(断面)を位置決めす
る機能も備えない点。
【相違点2-3】(構成要件D)
本件発明1が構成要件Dとして、構成要件Aにいう「基準軸としての歯科用
インプラント長軸を含む所定の平面領域」を前記歯科用インプラントとともに
25 傾斜させる機能を備えるのに対し、甲2公知発明は、前提となる相違点2-1
に係る「基準軸としての歯科用インプラント長軸を含む所定の平面領域」の生
成がされないから、前記構成要件Dに係る特定事項に相当する構成も備えない
し、歯科用インプラントの傾斜とともにいずれかの断面を傾斜させる機能も備
えない点。
【相違点2-4】(構成要件E)
5 本件発明1が、構成要件Eとして、「歯科用インプラント長軸を含む所定の
平面領域」を歯科用インプラント長軸を中心に、軸周りに回転させることがで
きる機能を備えるのに対し、甲2公知発明は、前提となる相違点2-1に係る
「基準軸としての歯科用インプラント長軸を含む所定の平面領域」の生成がさ
れないから、前記構成要件Eに係る特定事項に相当する構成を備えない点。
10 (2) 相違点2-1については、甲2公知発明に甲1発明を適用することを考え
ると、甲1発明においてクロスセクショナル画像の再配向の基準となるのは、
歯科用インプラントではなく、実体物であるチタン製マーカの像であり、再
配向後のクロスセクショナル画像にチタン製マーカの像が含まれるかは不明
である。よって、甲2公知発明において相違点2-1の構成を備えるように
15 するためには、甲1発明のチタン製マーカの実体物の像を画像上の仮想的な
表示である歯科用インプラント(の画像オブジェクト)に変更した技術的事
項を適用する必要があるし、仮に当該適用がなされて再配向後のクロスセク
ショナル画像が生成されたとしても、甲2公知発明は、当該画像が歯科用イ
ンプラントの長軸を含むように生成されるとの技術的事項は含まないから、
20 相違点2-1の構成を備えるに至らない。また、この歯科用インプラント長
軸を含む所定の平面領域の画像を生成するとの技術的事項は、他のいずれの
甲号証にも記載されていない。
よって、甲2公知発明において相違点2-1の構成とすることは、当業者
が容易に想到し得たことであるとはいえない。
25 (3) 相違点2-2から2-4までについては、前提となる相違点2-1に係る
構成を甲2公知発明が備えるようにすることが当業者にとって容易に想到し
得ないのであるから、甲2公知発明において相違点2-2から2-4までの
構成にすることも、当業者が容易に想到し得たものではない。
3 無効理由1-3(甲3発明に基づく進歩性欠如)
(1) 本件審決は、本件発明1と甲3発明の対比における相違点について、後記
5 (2)及び(3)のとおり、本件発明1は甲3発明に基づいて当業者が容易に発明
することができたものとはいえないとした。
【相違点3-1】(構成要件A)
所定の平面領域やその画像が、本件発明1では基準軸としての歯科用インプ
ラント長軸を含むのに対し、甲3発明では相当する構成を備えない点。
10 【相違点3-2】(構成要件B2)
平面領域の位置決めが行われるのが、本件発明1では「歯科用インプラント
が任意に位置決めされる」ことを契機とするのに対し、甲3発明では、表示座
標系やそれに応じた平面領域(画像)の回転は、「インプラントを埋入しよう
としている部分」(構成3b2)や「顎骨」(構成3c1)の傾きに応じて行わ
15 れるのであり、歯科用インプラントの位置決めを契機としない点。
【相違点3-3】(構成要件E)
本件発明1が、平面領域を歯科用インプラント長軸を中心に、軸周りに回転
させることができるのに対し、甲3発明は、そのような構成を備えない点。
(2) 画面上に任意に位置決めした歯科用インプラント(の画像オブジェクト)
20 の長軸を含むように平面領域の画像を生成することはいずれの甲号証にも記
載がないから、甲3発明に甲1発明を適用しても相違点3-1に係る構成を
備えるには至らず、当業者にとって格別の努力を要し、容易になし得たこと
とはいえない。
(3) 相違点3-2及び3-3についても、前提となる相違点3-1に係る構成
25 が容易想到といえない以上、同様に容易想到とはいえない。さらに、相違点
3-3は前記相違点1-6と同様の相違点であり、同様に当業者にとって容
易想到とはいえない。
4 無効理由1-4(甲第13号証に記載された発明に基づく新規性及び進歩性の
欠如)、無効理由4(新規事項追加)
(1) 無効理由1-4は、本件特許出願が分割要件を満たさない手続補正書1
5 (甲25)による補正(以下「本件補正」という。)が新規事項追加に当たり、
分割要件違反である(無効理由4)として、本件特許出願に係る実際の出願
日を基準に判断されることを前提に、本件発明1及び2に対する甲第13号
証に記載された発明(以下「甲13発明」という。)に基づく新規性及び進歩
性欠如である。
10 (2) 請求人は本件補正により「歯冠画像208の有無にかかわらず、ディスプ
レイ上で歯科用インプラント206自体を任意に移動させて位置決めする」
という技術的事項が新たに加入された旨主張するが、歯冠画像208とイン
プラント206とが一体の画像であるとの前提は本件補正前後において変わ
りないから、本件補正後の明細書の記載が前記主張のようにインプラント2
15 06のみを単独で移動させるような技術的事項が加入されたとはいえない。
また、本件補正前の段落【0046】から【0049】までに記載された、
歯列欠損部に歯冠画像208を位置決めした上で、歯冠画像208に付随する
インプラント、基準軸206、及び平面領域204に基づいて断面画像を取得
するという技術的事項は、歯冠画像208とインプラント206とが一体化し
20 た画像要素であるという前提に補正前後で変わりがないから、本件補正により
技術的意義が喪失・変更されたということもない。
よって、本件補正により技術的事項や技術的意義の変更が生じておらず、新
たな技術的事項を加入するものとはいえないから、無効理由4に係る主張は成
り立たない。
25 (3) 無効理由1-4は、本件発明1及び2は甲13発明と同一である、あるい
は、本件発明1は甲13発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであ
るというものであり、甲13は親出願の公開公報であるところ、上記のとお
り分割要件違反は認められないから、本件特許出願の出願日は遡及し、甲第
13号証は本件特許出願日後に公知となったものであるから、無効理由1-
4はその主張の前提を欠く。
5 5 無効理由2(実施可能要件違反)
請求人の主張は、本件明細書の【発明の詳細な説明】からは、歯科用インプ
ラント及び平面領域の概念的な挙動をハードウェアあるいはソフトウェアに
よってどのように実行又は実現されるのか、具体的にどのようなアルゴリズム
/計算手順で実装するかについて、把握することができないというものである。
10 この点、三次元空間内で任意の軸線、つまりベクトルを含む、またはそれに
垂直な平面の方程式表現は代数幾何学上で解決済みの技術常識であり、三次元
空間内での平面の傾斜や回転もその範疇である。そして、CT画像を扱う医学
分野など、三次元データをディスプレイ上に画像表示する技術分野においても、
任意の平面、つまり断面のデータを切り出して表示したり、ディスプレイ上で
15 該平面(断面)の画像を三次元的に表示したり、さらには傾斜・回転・移動な
どの動的表示(アニメーション表示)したりする技術自体は、それをコン
ピュータ上で行うための各種アルゴリズムと共に、本件特許出願の出願時にお
いて周知慣用の技術であったといえる。
よって、本件明細書中に、構成要件A・B・D・Eを実現するための具体的
20 なアルゴリズム等が開示されていないとしても、本件明細書に接した当業者で
あれば、前記技術常識及び周知慣用技術を参考に、過度の試行錯誤を要するこ
となく、本件発明1及び2の装置を作ることができ、かつ、その装置を使用で
きることから、本件発明1及び2を実施することができたものといえる。
6 無効理由5(サポート要件違反)
25 請求人の主張は、本件発明1は、歯冠画像を使用しない態様や、歯冠画像と
独立して歯科用インプラントのみを位置決めする態様、歯列欠損箇所でない位
置に歯科用インプラントを位置決めする態様、歯科用インプラントと独立して
平面領域が回転する態様(構成要件E)、平面頷域を歯科用インプラントととも
に傾斜させることができる態様(構成要件D)を包含しているが、発明の詳細
な説明にはそのような態様の記載はなく、位置決め部材の使用により得られた
5 人体情報が用いられることも特定されていないから、これらの点が課題解決可
能な手段と当業者が認識できるものでもないというものである。
しかし、本件発明については、歯科用インプラントの位置決め、回転、頬舌
方向の傾斜のそれぞれについて、発明の詳細な説明に課題及びその解決手段と
して記載が認められ、サポート要件違反とはいえない。また、本件発明の課題
10 は、本件明細書の段落【0008】記載の「上顎部及び/又は下顎部の3次元
撮影画像内に位置決めされた歯科用インプラントの軸周りの断面画像を検出し、
さらにはその断面画像を歯科医師等が所望する視点で提供する断面画像検出装
置を提供すること」であり、前提となる下顎部の3次元撮影画像が、どのよう
な部材を用いてどのような座標系で撮像されているとしても、目的となる断面
15 画像は歯科用インプラント(の画像オブジェクト)が基準となるのであるから、
前記課題の解決に影響しない。無効理由5に係る請求人の主張はいずれも失当
であり、本件発明は本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものである。
以上
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