知財判決速報/裁判例集知的財産に関する判決速報,判決データベース

ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 令和6(ワ)70129 民事訴訟 特許権

この記事をはてなブックマークに追加

令和6(ワ)70129民事訴訟 特許権

判決文PDF

▶ 最新の判決一覧に戻る

裁判所 請求棄却 東京地方裁判所
裁判年月日 令和8年1月15日
事件種別 民事
法令 特許権
キーワード 無効38回
実施31回
特許権26回
分割13回
無効審判9回
進歩性6回
侵害5回
新規性3回
差止3回
損害賠償2回
刊行物1回
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要

▶ 前の判決 ▶ 次の判決 ▶ 特許権に関する裁判例

本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。

判決文

令和 8 年 1 月 15 日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和 6 年(ワ)第 70129 号 特許権侵害行為差止等請求事件
口頭弁論終結日 令和 7 年 10 月 7 日
判 決
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
5 主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
10 1 被告は、別紙被告製品目録記載の製品を生産し、譲渡し、貸し渡し、若しくは
輸出し、又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。
2 被告は、原告に対し、100 万円及びこれに対する令和 5 年 11 月 1 日から支払
済みまで年 3%の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
15 本件は、いずれも発明の名称を「箱型船」とする 2 つの特許に係る各特許権
(以下、特許第 6978797 号の特許及びこれに係る特許権を「本件特許 1」及び
「本件特許権 1」と、特許第 7005039 号の特許及びこれに係る特許権を「本件
特許 2」及び「本件特許権 2」といい、これらを併せて「本件各特許」及び「本
件各特許権」という。また、本件各特許に係る発明をそれぞれ「本件発明 1」
20 などといい、これらを併せて「本件各発明」という。)を有する原告が、別紙被
告製品目録記載 1 の製品(以下「被告製品 1」という。)は本件発明 1 の技術的
範囲に、同目録記載 2 の製品(以下「被告製品 2」といい、これと「被告製品
1」を併せて「被告各製品」という。)は本件発明 2 の技術的範囲にそれぞれ属
するから、被告による被告各製品の生産等は本件各特許権を侵害する旨主張し
25 て、被告に対し、本件各特許権に基づき被告各製品の生産等の差止めを求める
(特許法(以下「法」という。)100 条 1 項)と共に、本件各特許権侵害の不法
行為に基づき、損害額の一部である 100 万円の損害賠償及びこれに対する不法
行為後の日である令和 5 年 11 月 1 日から支払済みまで民法所定の年 3%の割合
による遅延損害金の支払を求める事案である。
5 1 前提事実(証拠等を掲記しない事実は、当事者間に争いがないか、弁論の全趣
旨により容易に認められる。なお、書証の番号は特に断らない限り枝番号を含
む(以下同じ。)。)
(1) 当事者
ア 原告は、水産養殖資材の製造・化学工業品の販売を目的とする株式会社
10 である。(甲 5)
イ 被告は、漁網総合メーカーである株式会社である。(甲 6)
(2) 本件各特許権
原告は、次の各特許権を有する。以下、本件各特許に係る明細書及び図面
を「本件明細書 1」などという(「/」は改行部分を示す。以下同じ。)。
15 ア 本件特許権 1
特許番号 特許第 6978797 号
発明の名称 箱型船
出願日 令和 2 年 3 月 3 日
出願番号 特願 2020-35824 号
20 分割の表示 特願 2017-73990 号の分割
原出願日 平成 28 年 10 月 26 日
登録日 令和 3 年 11 月 16 日
特許請求の範囲【請求項 1】
「酸処理液を貯留する酸処理槽と、該酸処理槽内に設けられ、海苔が付
25 着した海苔網を巻き取る一対の巻取ロールを備える箱型船であって、/
前記酸処理槽に設けられ、前記酸処理液の pH を検出する pH センサと、
/前記巻取ロールに巻き取られる前記海苔網と干渉しない位置に設けら
れ、酸原液を吐出する原液吐出部と、/前記 pH センサの検出値に基づ
いて前記原液吐出部に供給する前記酸原液の供給量を自動調節する原液
供給装置とを備え、/前記原液吐出部は、前記海苔網の侵入方向に対し
5 て各々の前記巻取ロールの後方に設けられ、前記酸処理液に対して上方
から前記酸原液を供給することを特徴とする箱型船。」
イ 本件特許権 2
特許番号 特許第 7005039 号
発明の名称 箱型船
10 出願日 令和 2 年 3 月 3 日
出願番号 特願 2020-36038 号
分割の表示 特願 2017-251641 号の分割
現出願日 平成 28 年 10 月 26 日
登録日 令和 4 年 1 月 7 日
15 特許請求の範囲【請求項 1】
「酸処理液を貯留する酸処理槽と、該酸処理槽内に設けられ、海苔が付
着した海苔網を巻き取る一対の巻取ロールを備える箱型船であって、/
前記酸処理槽に設けられ、前記酸処理液の pH を検出する pH センサと、
/前記巻取ロールに巻き取られる前記海苔網と干渉しない位置に設けら
20 れ、酸原液を吐出する原液吐出部と、/前記 pH センサの検出値に基づ
いて前記原液吐出部に供給する前記酸原液の供給量を自動調節する原液
供給装置とを備え、/前記原液吐出部は、前記酸処理槽において前記海
苔網の進入側で前記海苔網とは異なる方向に前記酸原液を吐出すること
を特徴とする箱型船。」
25 (3) 構成要件の分説
ア 本件発明 1
A 酸処理液を貯留する酸処理槽と、該酸処理槽内に設けられ、海苔が付
着した海苔網を巻き取る一対の巻取ロールを備える箱型船であって、
B 前記酸処理槽に設けられ、前記酸処理液の pH を検出する pH センサ
と、
5 C 前記巻取ロールに巻き取られる前記海苔網と干渉しない位置に設けら
れ、酸原液を吐出する原液吐出部と、
D 前記 pH センサの検出値に基づいて前記原液吐出部に供給する前記酸
原液の供給量を自動調節する原液供給装置とを備え、
E 前記原液吐出部は、前記海苔網の侵入方向に対して各々の前記巻取ロ
10 ールの後方に設けられ、前記酸処理液に対して上方から前記酸原液を供
給する
F ことを特徴とする箱型船。
イ 本件発明 2
G 酸処理液を貯留する酸処理槽と、該酸処理槽内に設けられ、海苔が付
15 着した海苔網を巻き取る一対の巻取ロールを備える箱型船であって、
H 前記酸処理槽に設けられ、前記酸処理液の pH を検出する pH センサ
と、
I 前記巻取ロールに巻き取られる前記海苔網と干渉しない位置に設けら
れ、酸原液を吐出する原液吐出部と、
20 J 前記 pH センサの検出値に基づいて前記原液吐出部に供給する前記酸
原液の供給量を自動調節する原液供給装置とを備え、
K 前記原液吐出部は、前記酸処理槽において前記海苔網の進入側で前記
海苔網とは異なる方向に前記酸原液を吐出する
L ことを特徴とする箱型船。
25 (4) 被告の行為
被告は、養殖海苔漁業者に対し、市販の pH センサや pH 管理装置を販売
したり、顧客が保有する箱型船に pH センサ等を取り付ける等の行為をして
いる。このような被告の行為の対象となる箱型船には、
「原液吐出部を酸処理
槽の中央に設けたもの」と、
「原液吐出部を酸処理槽の側方に設けたもの」の
2 種類がある。ただし、被告が行う具体的な行為等については、後記のとお
5 り、当事者間に争いがある。
2 争点
(1) 被告各製品の本件各発明の技術的範囲への属否(争点 1)
(2) 被告各製品に係る被告の関与(争点 2)
(3) 本件各特許の無効理由の有無(争点 3)
10 ア 本件特許 1 について
(ア) 無効理由 1-1(争点 3-1-1)
乙 7 文献~乙 9 文献に基づく進歩性欠如
(イ) 無効理由 1-2(争点 3-1-2)
記載要件(明確性要件、実施可能要件、サポート要件)違反
15 (ウ) 無効理由 1-3(争点 3-1-3)
実施可能要件違反
(エ) 無効理由 1-4(争点 3-1-4)
発明未完成
イ 本件特許 2 について
20 (ア) 無効理由 2-1(争点 3-2-1)
分割要件違反を前提とする新規性ないし進歩性欠如
(イ) 無効理由 2-2(争点 3-2-2)
乙 8 文献、乙 11 文献及び乙 12 文献に基づく進歩性欠如
(ウ) 無効理由 2-3(争点 3-2-3)
25 記載要件(明確性要件、実施可能要件、サポート要件)違反
(エ) 無効理由 2-4(争点 3-2-4)
実施可能要件違反
(オ) 無効理由 2-5(争点 3-2-5)
発明未完成
(4) 原告の損害額(争点 4)
5 3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点 1(被告各製品の本件各発明の技術的範囲への属否)について
(原告の主張)
ア 被告各製品の構成は、別紙「被告製品の構成(原告の主張)」記載のとお
りである。
10 被告が生産等する製品には、酸原液を吐出する原液吐出部が船の進行方
向中央付近に設けられている製品(被告製品 1)と、原液吐出部が船の進
行方向前方側又は後方側に設けられている製品(被告製品 2)の 2 種類が
ある。
イ 被告製品 1 について
15 被告製品 1 は、以下のとおり、本件発明 1 の技術的範囲に属する。
(ア) 「一対の巻取ロール」(構成要件 A)について
被告製品 1 の「ロール」
(構成 1a)は、網を巻き取るものであるから、
本件発明 1 の「巻取ロール」(構成要件 A)に該当する。
箱型船は、一般に、2 本のロールを設ける船と、4 本のロールを設ける
20 船に大別されるところ、被告製品 1 には 4 本のロールが設けられている
から、「一対の巻取ロール」が設けられているといえる。
したがって、被告製品 1 の構成 1a は、本件発明 1 の構成要件 A を充
足する。
(イ) 「pH センサ」
(構成要件 B)及び「原液供給装置」
(構成要件 B、D)
25 について
被告製品 1 は、pH センサ及び原液供給装置を備えているから、被告
製品 1 の構成 1b 及び 1d は、本件発明 1 の構成要件 B 及び D を充足す
る。
(ウ) 「原液吐出部」(構成要件 C 及び E)について
被告製品 1 の原液吐出部は、箱型船の進行方向中央に位置する中央の
5 太いパイプの下側にある緑色のパイプであり、これに設けられている孔
が原液を吐出する孔である。この酸原液が吐出される孔が本件発明 1 の
「原液吐出部」(構成要件 C、E)に該当する。
したがって、被告製品 1 の構成 1c 及び 1e は、本件発明 1 の構成要件
C 及び E を充足する。
10 ウ 被告製品 2 について
被告製品 2 は、以下のとおり、本件発明 2 の技術的範囲に属する。
(ア) 「一対の巻取ロール」(構成要件 G)について
被告製品 2 には、4 本のロールが設けられているから、一対の巻取ロ
ールが設けられているといえる。
15 したがって、被告製品 2 の構成 2g は、本件発明 2 の構成要件 G を充
足する。
(イ) (構成要件 H)及び「原液供給装置」
「pH センサ」 (構成要件 H 及び
J)について
被告製品 2 は、pH センサ及び原液供給装置を備えているから、被告
20 製品 2 の構成 2h 及び 2j は、本件発明 2 の構成要件 H 及び J を充足す
る。
(ウ) 「原液吐出部」(構成要件 I 及び K)について
被告製品 2 の原液吐出部は、進行方向前方側及び後方側に設けられた
黒色の棒状のパイプであり、このパイプに設けられている孔から、酸原
25 液が吐出される。この酸原液が吐出される孔が本件発明 2 の「原液吐出
部」に該当する。また、黒い棒状のパイプの上面部には酸原液が吐出さ
れるような孔は存在せず、同パイプの下側に孔が存在するところ、同パ
イプと箱型船の前後方向の壁面との位置関係から、酸原液は、箱型船の
前後方向の壁面又は壁面からやや下方に向けて吐出されていることがわ
かる。
5 したがって、被告製品 2 の原液吐出部は、海苔網の進入側で、海苔網
とは異なる方向に酸原液を吐出しているといえるから、被告製品 2 の構
成 2i 及び 2k は、本件発明 2 の構成要件 I 及び K を充足する。
エ 以上のとおり、被告製品 1 の構成 1a~1f は本件発明 1 の構成要件 A~F
を充足するので、被告製品 1 は本件発明 1 の技術的範囲に属し、被告製品
10 2 の構成 2g~2l は本件発明 2 の構成要件 G~L を充足するので、被告製品
2 は本件発明 2 の技術的範囲に属する。
(被告の主張)
被告各製品は、以下のとおり、それぞれ本件各発明の構成要件を備えてお
らず、本件各発明を実施していない。
15 ア 被告製品 1 について
(ア) 「一対の巻取ロール」(構成要件 A)について
原告は、被告製品 1 には「ロールの軸」が 4 か所あるとするが、証拠
上 4 本のロールの存在は確認できない上、どのロールが「一対の巻取ロ
ール」であるのか不明である。
20 したがって、被告製品 1 の構成 1a は本件発明 1 の構成要件 A を充足
しない。
(イ) 「pH センサ」(構成要件 B)及び「原液供給装置」(構成要件 B 及び
D)について
pH センサ及び原液供給装置の存在は証拠上確認できないから、被告
25 製品 1 の構成 1b 及び 1d は本件発明 1 の構成要件 B 及び D を充足しな
い。
(ウ) 「原液吐出部」(構成要件 C 及び E)について
証拠上吐出孔の位置は判然としないことから、被告製品 1 が原液吐出
部を備えているとはいえない。
したがって、被告製品 1 の構成 1c 及び 1e は本件発明 1 の構成要件 C
5 及び E を充足しない。
イ 被告製品 2 について
(ア) 「一対の巻取ロール」(構成要件 G)について
被告製品 2 につき、証拠上は 3 本のロールしか確認できず、どのロー
ルが「一対の巻取ロール」であるのか不明である。
10 したがって、被告製品 2 の構成 2g は本件発明 2 の構成要件 G を充足
しない。
(イ) 「pH センサ」及び「原液供給装置」(構成要件 H 及び J)について
pH センサ及び原液供給装置の存在を証拠上は確認できないから、被
告製品 2 の構成 2h 及び 2j は、本件発明 2 の構成要件 H 及び J を充足
15 しない。
(ウ) 「原液吐出部」(構成要件 I 及び K について)
否認ないし争う。
(2) 争点 2(被告各製品に係る被告の関与)について
(原告の主張)
20 被告は、毎年、海苔養殖終了後の 2 月~3 月頃、顧客が保有する被告各製
品から pH センサ、原液吐出部及び原液供給装置を取り外し、これらを被告
において保管する。また、被告は、毎年、海苔養殖開始前の 10 月頃、顧客が
保有する箱型船に対し、保管していた pH センサ、原液吐出部及び原液供給
装置を、必要があれば修理又は新型に取り換えて取り付けている。
25 既に原液吐出部が設けられたパイプが取り付けられている箱型船に対して
被告が pH センサや pH 管理装置を取り付ける場合は、発明の構成要件を充
足していない状態から、被告が構成要件を充足した状態にさせているから、
そのような被告の行為は「生産」(法 2 条 3 項 1 号)に該当する。まだ箱型
船にパイプが取り付けられていない場合の pH センサ等の取付行為について
は、パイプ取付業者の取付行為と共同で「生産」したといえる。
5 また、被告は、顧客が保有する箱型船に対して、毎年、海苔漁が始まる前
に pH センサ等を取り付け、取り付け終わった被告各製品を顧客に引き渡し
ている。この引渡行為は「譲渡」(法 2 条 3 項 1 号)に該当する。
(被告の主張)
被告は漁網のメーカーであり、箱型船を製造・販売していない。証拠上被
10 告各製品の製造等に対する被告の関与は明らかでなく、また、養殖海苔酸処
理用の箱型船を製造、販売している業者は複数存在する。
被告は、養殖海苔漁業者の求めに応じて pH センサや pH 管理装置を販売
し、また、これらを箱型船へ取り付ける場合もある。しかし、それは、養殖
海苔漁業者の委託に基づき、その指示によって取り付けるものであって、
「加
15 工」の主体は被告でない上、pH センサ等は市販されており、養殖海苔酸処理
用箱型船にこれらの機器を取り付ける業者は少なからず存在する。
(3) 争点 3(本件各特許の無効理由の有無)について
ア 無効理由 1-1(争点 3-1-1)について
(被告の主張)
20 (ア) 乙 7 文献記載事項
特開平 5-95740 号公報(乙 7。以下「乙 7 文献」という。)には、酸原
液を吐出する原液吐出部(パイプ 11)と、pH センサの検出値に基づい
て原液吐出部に供給する酸原液の供給量を自動調節する原液供給装置
(酸原液補給装置 8)とを備えた船において、原液吐出部(パイプ 11)
25 は、海苔網の侵入方向に対して、巻取ロール(回転体 4)の後方に設け、
処理液槽の底面から吐出することが開示されている(以下、この技術的
事項を「乙 7 文献記載事項」という。)。
そもそも、海苔網は巻取ロールに向かって侵入するものである。海苔
網の侵入方向に対して巻取ロールの前方上方に原液吐出部を設けると、
その下方を侵入する海苔網に酸原液が直接かかり、又は濃い濃度のまま
5 影響を及ぼす恐れがある。このため、海苔網の侵入方向に対して巻取ロ
ールの後方以外に原液吐出部を設けることはあり得ない。
(イ) 乙 8 文献記載事項 1
特開平11-332406号公報(乙8。以下「乙8文献」という。)には、箱型
船に海苔網の酸処理装置を搭載すると共に、酸処理装置における処理液
10 槽に一対の巻取ロールを配設することが開示されている(以下、この技
術的事項を「乙8文献記載事項1」という。)。
(ウ) 乙 9 文献記載事項
特開平 8-298885 号公報(乙 9。以下「乙 9 文献」という。)には、箱
型船に海苔網の酸処理装置を搭載すると共に、処理装置における処理液
15 槽に一対の巻取ロールを配設することが開示されている(以下、この技
術的事項を「乙 9 文献記載事項」という。)。
(エ) 本件発明 1 の容易想到性
海苔が付着した海苔網に酸原液が干渉しないようにすることは技術的
常識であるから、乙 7 文献記載事項、乙 8 文献記載事項 1 及び乙 9 文献
20 記載事項に基づき、酸処理槽に一対の巻取ロールを配設する養殖海苔を
酸処理する箱型船において、原液吐出部を巻取ロールの後方に設けて上
方から前記酸原液を供給することは、当業者が容易になし得ることであ
る。
(オ) 小括
25 したがって、本件特許 1 は、法 29 条 2 項に違反してされたものであ
り、特許無効審判により無効にされるべきものであるから(法 123 条 1
項 2 号)、原告は、被告に対し、本件特許権 1 を行使できない(法 104 条
の 3 第 1 項)。
(原告の主張)
(ア) 乙 7 発明及びこれと本件発明 1 の相違点
5 乙 7 文献の記載によれば、同文献記載の発明(以下「乙 7 発明」とい
う。)の認定に当たっては、底面から酸原液を吐出していること及び原液
吐出部が海苔網と干渉する位置にあると認定すべきである。これを踏ま
えると、本件発明 1 と乙 7 発明の相違点は、以下のとおりとなる。
a 相違点 1-1
10 本件発明 1 は、
「前記原液吐出部は、前記海苔網の侵入方向に対して
各々の前記巻取ロールの後方に設けられ、前記酸処理液に対して上方
から前記酸原液を供給する」のに対し、乙 7 発明は、酸処理液に対し
て底面から酸原液を吐出する点。
b 相違点 1-2
15 本件発明 1 は、「前記巻取ロールに巻き取られる前記海苔網と干渉
しない位置に設けられ、酸原液を吐出する原液吐出部」を備えるのに
対し、乙 7 発明は、原液吐出部が、海苔網と干渉する位置に設けられ
ている点。
(イ) 相違点の非容易想到性
20 a 相違点 1-1 について
本件発明 1 は、相違点 1-1 に係る構成を有することにより、酸処理
液内の酸の濃度を均一にすることができる。
他方、相違点 1-1 に係る本件発明 1 の構成については、乙 8 文献及
び乙 9 文献のいずれにも記載も示唆もされておらず、また、乙 7 発明
25 に対して乙 8 文献又は乙 9 文献記載の発明を組み合わせる積極的な動
機付けもない。
したがって、本件発明 1 は、いずれの文献にも記載がない相違点 1-
1 に係る構成を有しており、当該構成によって有利な作用効果を奏す
るのであるから、本件発明 1 は進歩性を有する。
b 相違点 1-2 について
5 相違点 1-2 に係る本件発明 1 の構成について、乙 8 文献には記載さ
れているように見受けられる。しかし、乙 7 発明において、乙 8 文献
記載の発明を組み合わせる積極的な動機付けはない。
したがって、本件発明 1 は、乙 7 発明をもとにした場合、克服する
ことのできない相違点 1-2 があるため、進歩性を有する。
10 イ 無効理由 1-2(争点 3-1-2)について
(被告の主張)
本件特許 1 の特許請求の範囲請求項 1 記載の発明(本件発明 1)によっ
ては、本件明細書 1 記載の「第 2 実施形態」又は「第 2 実施形態に係る箱
型船 B」を実施することができない。このような特許請求の範囲の記載は、
15 特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、また、その発明が発
明の詳細な説明に記載したものであるともいえない。さらに、本件明細書
1 の発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野における通
常の知識を有する者が特許請求の範囲記載の発明を実施することができる
程度に明確かつ十分に記載したものでない。
20 したがって、本件特許 1 は、法 36 条 4 項 1 号、同条 6 項 1 号及び同項
2 号に違反してされたものであり、特許無効審判により無効にされるべき
ものであるから(同法 123 条 1 項 4 号)、原告は、被告に対し、本件特許
権 1 を行使できない。
(原告の主張)
25 本件発明 1 に対応する実施形態は、本件明細書 1 記載の第 1 の実施形態
である。このため、敢えて同明細書記載の第 2 の実施形態を参酌して本件
発明 1 を解釈する必要はなく、本件発明 1 と第 2 の実施形態との内容が齟
齬したとしても、なんら本件発明 1 は不明確とならないから、明確性要件
に違反しない。また、本件発明 1 は、本件明細書 1 の第 1 の実施形態にお
いて、当業者が実施できる程度に具体的に記載されているから、実施可能
5 要件及びサポート要件に違反しない。
ウ 無効理由 1-3(争点 3-1-3)について
(被告の主張)
(ア) 本件明細書 1 には、作業開始時の巻出ロール 14a、14b に海苔が付着
していない状態の海苔網が巻きつけられていること、海苔が付着した海
10 苔網 4 が全て巻き取られ、海苔網 4 上の海苔が酸処理された後に巻出ロ
ール 14a に巻き付けられている海苔が付着していない状態の海苔網は、
船本体 1 が前進するにつれて船本体 1 外へ巻き出され、海苔の付着した
海苔網 4 が設置されていた場所に設置されることは記載されているが、
「船本体 1 が前進するにつれて、巻出ロール 14a に巻き付けられてい
15 る、海苔が付着していない状態の海苔網が、船本体 1 外へ巻き出される」
ことについて、海苔網 4 を船本体 1 外へ巻き出す方法、巻出しの方向(船
本体 1 の前進方向と後退方向のいずれであるか)及び巻き出しの動力の
供給方法については開示がない。
このため、「海苔が付着していない状態の海苔網は、船本体 1 が前進
20 するにつれて、船本体 1 外へ巻き出される」との本件明細書 1 の記載は、
その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が、海苔が付
着していない海苔網を船体外へ巻き出すことを実施することができる程
度に明確かつ十分に記載されていない。
(イ) 本件明細書 1 の記載によれば、巻取ロール 5a には海苔が付着した海
25 苔網が巻き取られている一方、巻出ロール 14a からは海苔が付着してい
ない海苔網が巻き出されるところ、
「海苔の採取方法」について、船本体
1 のどこでどのように海苔の採取が行われるか、海苔の採取は船本体 1
以外の装置で行うのか、海苔の採取は行わないのかについては、本件明
細書 1 に開示がない。このため、本件明細書 1 には、
「海苔の採取方法」
について、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が
5 実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
(ウ) これらの点から、本件特許 1 は、法 36 条 4 項 1 号に違反してされた
ものであり、特許無効審判により無効にされるべきものであるから、原
告は、被告に対し、本件特許権 1 を行使できない。
(原告の主張)
10 本件発明 1 は箱型船の発明であるが、箱型船自体は古くからあるもので
あり、箱型船を使用する者は、被告が指摘する各事項はいずれも熟知して
おり、明細書に記載がなくても適切に実施できる。したがって、本件発明
1 は実施可能要件に違反するものではない。
エ 無効理由 1-4(争点 3-1-4)について
15 (被告の主張)
(ア) 本件発明1は、
「特許文献1のモグリ船を用いた酸処理」の課題を解決す
る「箱型船」を提供することを目的とする。「特許文献1」すなわち特開
2003-38051号公報(乙12。以下「乙12文献」という。)には、
「船体に設
けられた酸洗浄槽及び水洗浄槽の上に海苔網を順次通過させて酸洗浄及
20 び水洗浄を行う方法」であって、水洗後の海苔網を養殖場に戻すことを
特徴とする海苔網の連続処理方法が開示され、海苔網を処理槽へ巻き上
げる過程と、船体上で酸処理する過程と、酸処理後海苔網を船外へ放出
する過程が開示されている。しかるに、本件発明1においては、海苔網4
上の海苔が酸処理された後、巻出ロール14aを船外へ放出する過程が具
25 体的に開示されていない。このため、本件発明1によっては、「特許文献
1のモグリ船を用いた酸処理」の課題を解決する「箱型船」を提供する目
的が達成されていない。
(イ) 本件発明1は、「特許文献1のモグリ船を用いた酸処理」の課題を解決
する「箱型船」を提供することを目的とする。乙12文献には、海苔が付
着された海苔網を酸処理する前に、船上のカッターにより海苔を刈り取
5 って採取する「海苔の採取方法」として、海苔網から海苔を刈り取る過
程、海苔網を酸処理する過程及び酸処理後海苔網を船外へ放出する過程
が開示されている。しかるに、本件発明1においては、船本体1のどこで
どのように海苔の採取が行われるのか、海苔の採取は船本体1以外の装
置で行うのか、海苔の採取は行わないのか、について開示されていない。
10 このため、本件発明1によっては、「特許文献1のモグリ船を用いた酸処
理」の課題を解決する「箱型船」を提供する目的が達成されていない。
(ウ) これらの点から、本件発明1は発明として未完成であり、
「産業上利用
することができる発明」(法29条1項柱書)に該当しない。そうすると、
本件特許1は、法29条1項柱書に違反してされたものであり、特許無効審
15 判により無効にされるべきものであるから、原告は、被告に対し、本件
特許権1を行使できない。
(原告の主張)
当業者であれば、巻取ロールを送り出しロールとして用いて海苔網を船
外に送り出すことができる。また、乙 12 文献のモグリ船を用いた酸処理
20 の課題は、モグリ船が大きいのでモグリ船を用いることができない地域が
ある、というものであるが、この課題は、箱型船であれば小さいので解決
できる。さらに、通常、箱型船では海苔を採取しないから、海苔の採取方
法について開示がないのは当然である。
したがって、本件発明 1 は「発明」に該当する。
25 オ 無効理由 2-1(争点 3-2-1)について
(被告の主張)
(ア) 分割要件違反
本件特許 2 は、以下のとおり、原出願である特願 2017-251641 号(乙
10。以下「乙 10 文献」という。)との関係で新規事項の追加があり、分
割要件に違反する。
5 すなわち、乙10文献の明細書には、酸原液12を酸処理槽3の壁面に向
かって吐出し、当該壁面をつたって流下することは記載されているもの
の、「海苔網とは異なる方向のうち、酸処理槽3の壁面以外に向かって」
吐出することは開示されていない。他方、本件特許2の特許請求の範囲請
求項1には、
「前記酸処理槽において前記海苔網の進入側で前記海苔網と
10 は異なる方向に前記酸原液を吐出すること」と記載されている。
「海苔網
とは異なる方向」は、「海苔網とは異なる方向のうち、酸処理槽3の壁面
へ向かって」と、「海苔網とは異なる方向のうち、酸処理槽3の壁面以外
へ向かって」に分けることができるところ、上記のとおり、原出願の明
細書には「海苔網とは異なる方向のうち、酸処理槽3の壁面以外へ向かっ
15 て」については記述されていない。
したがって、本件特許2に係る分割出願は、その請求項1における「海
苔網とは異なる方向」につき、乙10文献の明細書に記載されていない「海
苔網とは異なる方向のうち、酸処理槽3の壁面以外へ向かって」という新
規事項を追加するものであるから、分割要件に違反する。このため、本
20 件特許2については、現実の出願日である令和2年3月3日に出願されたも
のとして、特許要件の充足が判断されなければならない。
(イ) 新規性ないし進歩性の欠如
乙 10 文献の明細書には、
「前記海苔網の進入側に前記酸原液を吐出す
る」ことが開示されている。このため、同文献記載の発明(以下「乙 10
25 発明」という。)は、本件発明 2 とは、「前記海苔網の進入側に前記酸原
液を吐出する」点において発明の内容が同一であるから、本件発明 2 は、
特許出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された発明とい
える。したがって、本件特許 2 は、法 29 条 1 項 3 号に違反してされた
ものであり、特許無効審判により無効にされるべきものであるから、原
告は、被告に対し、本件特許権 2 を行使できない。
5 仮に本件発明 2 と乙 10 発明とに相違点が存在し、新規性の要件を充
足するとしても、乙 10 文献の明細書には「海苔網の進入側に前記酸原
液を吐出する」ことは開示されている。海苔が付着した海苔網に酸原液
が干渉しないようにすることは当業者の技術的常識であるから、
「 海苔網
の進入側で前記海苔網とは異なる方向に前記酸原液を吐出する」ことは、
10 技術の具体的適用に伴う設計変更に過ぎず、当業者が容易に想到するこ
とができたものである。したがって、本件特許 2 は、法 29 条 2 項に違
反してされたものであり、特許無効審判により無効にされるべきもので
あるから、原告は、被告に対し、本件特許権 2 を行使できない。
(原告の主張)
15 乙 10 文献の明細書の記載によれば、原出願には、海苔網の進入側、すな
わち壁面側に複数の吐出孔を備え、各吐出孔が、酸原液を酸処理槽の壁面
に向かって吐出するように、下方又は下方に対して酸処理槽の壁面側に傾
斜した角度で形成されていること、すなわち、吐出孔は、壁面側に設けら
れており、壁面側かつ下側の方向に原液を吐出することが記載されている。
20 ここで、海苔網の侵入側、すなわち壁面側に設けられた吐出孔において、
上方や壁面側とは反対の方向は、海苔網の方向となる。逆にいえば、壁面
側に設けられた吐出孔において、壁面側かつ下側は、海苔網とは異なる方
向となる。
このように、吐出孔が壁面側に設けられており、壁面側かつ下側の方向
25 に原液を吐出することが記載されている以上、原出願には、当業者であれ
ば、海苔網と異なる方向に酸原液の吐出部を設けることが記載されている
と理解できる。
したがって、本件特許 2 に係る分割出願に当たっては、新規事項の追加
はなく、分割要件に違反しない。
カ 無効理由 2-2(争点 3-2-2)について
5 (被告の主張)
仮に本件特許 2 に係る分割出願が分割要件を満たすとしても、以下のと
おり、本件特許 2 は法 29 条 2 項に違反してされたものであり、特許無効
審判により無効にされるべきものであるから、原告は、被告に対し、本件
特許権 2 を行使できない。
10 (ア) 乙 8 文献には、消毒液が貯留された容器 2 (酸処理槽)と、容器 2 の
内部に配設され、海苔網 8(海苔網)を巻き取るための巻取り体 3A、3D
(一対の巻取ロール)とを備える船 1(箱型船)であって、濃いめの消
毒液が貯留されたタンク 10 と、容器 2 の互いに相対する壁面に設けら
れ、タンク 10 内に貯留された濃い目の消毒液を容器 2 へ供給する吐出
15 部 19、20(原液吐出部)とを備え、容器 2 内の消毒液の濃度調整を手軽
に行うことができる船 1(箱型船)について記載されており、また、吐
出部 20(原液吐出部)は、巻取り体 3A の方向に向けて設置されており、
海苔網 8 は巻取り体 3A に巻き取られることで進入するのであるから、
吐出部 20(原液吐出部)は海苔網 8 の進入側に消毒液を吐出しているこ
20 とが記載されている(以下、この技術的事項を「乙 8 文献記載事項 2」
という。)。
(イ) 特開平 3-198728 号公報(乙 11。以下「乙 11 文献」という。)には、
PH 値が 1.5〜3.0 程度の酸処理液 W を所定量貯留する処理タンク 1 と、
処理タンク 1 に設けられた酸原液注入装置 3 とを備え、海苔網 N を処
25 理タンク 1 内へ浸漬して消毒する、船に設けられた海苔網の酸処理装置
D であって、酸原液注入装置 3 は、処理タンク 1 内の酸処理液 W の PH
値を監視する PH センサ 3a と、酸原液 E を貯留する酸原液タンク 3b
と、酸原液タンク 3b 内の酸原液 E を処理タンク 1 内に注入する酸原液
注入ポンプ 3c と、処理タンク 1 内への酸原液Eの注入口とからなり、
処理タンク 1 内の酸処理液 W の PH 値が設定値の範囲外(1.5〜3.0)に
5 なると PH センサ 3a が作動し、注入ポンプ 3c による酸原液 E の注入が
行なわれることで、浸漬時に持ち込まれた多量の海水による酸処理液 W
の PH 値の変動を防ぎ、酸処理液 W の PH 値を自動的に一定値に保つ、
船に設けられた海苔網の酸処理装置 D が記載されている(以下、この技
術的事項を「乙 11 文献記載事項」という。)。
10 (ウ) 特開 2003-38051 号公報(乙 12。以下「乙 12 文献」という。)には、
海苔網の酸液処理において、ポンプ P1 により汲み上げられて散布機 5
により海苔網 1 上に散布されこれを洗浄し、洗浄後の液は酸洗浄槽 2 に
戻して循環され、ポンプ P1 の出口経路には pH 計 6 が設置され、容器
7 内の酸処理液 8 を用いて、ポンプ出口の pH 値を目的に合った範囲、
15 すなわち pH=0.5~2.5 の範囲に自動制御を行う機構が開示されている
(以下、この技術的事項を「乙 12 文献記載事項」という。)。
(エ) 本件発明 2 の容易想到性
乙 8 文献記載事項 2 として、原液吐出部は海苔網 8 の進入側に消毒液
を吐出している構造が開示されているところ、海苔が付着した海苔網に
20 酸原液が干渉しないようにすることは技術的常識である。また、海苔網
の酸液処理において、海苔網の酸液処理の pH 管理の問題を克服するた
め、pH 計、pH 管理機器によって処理液の pH 値を自動制御する動機付
けには困難性が見当たらない。このため、容器 2 内の酸処理液の pH 管
理を行うための構成として、乙 8 文献に開示された箱形船において、乙
25 11 文献記載事項及び乙 12 文献記載事項を適用し、容器 2 内に pH セン
サを設け、pH 管理機器を備えて、酸処理液の pH 値を所望の範囲に自動
制御することは、当業者にとって容易である。
(オ) 小括
したがって、本件特許2は、法29条2項に違反してされたものであり、
特許無効審判により無効にされるべきものであるから、原告は、被告に
5 対し、本件特許権2を行使できない。
(原告の主張)
(ア) 乙 8 発明及びこれと本件発明 2 との相違点
乙 8 文献の記載によれば、同文献には、消毒効果を大きくすることを
目的に、海苔網に向かって直接消毒液を吐出する構成が記載されている。
10 また、乙 8 文献には、適正濃度に消毒液を調合した上で、既に調合さ
れた消毒液をポンプを用いて容器へ供給することが記載されており、酸
原液を吐出する技術や pH センサを用いた液の供給量の自動調節につい
ては記載されていない。
そうすると、本件発明 2 と乙 8 文献記載の発明(以下「乙 8 発明」と
15 いう。)の相違点は、以下のとおりとなる。
a 相違点 2-1
本件発明 2 は、「前記酸処理槽において前記海苔網の進入側で前記
海苔網とは異なる方向に前記酸原液を吐出する」のに対し、乙 8 発明
は、海苔網に向かって消毒液を吐出する点。
20 b 相違点 2-2
本件発明 2 は、
「前記酸処理槽に設けられ、前記酸処理液の pH を検
出する pH センサ」を備え、
「前記 pH センサの検出値に基づいて前記
原液吐出部に供給する前記酸原液の供給量を自動調節する」のに対し、
乙 8 発明は、酸処理槽に pH センサが設けられておらず、酸処理槽内
25 に適正濃度に調合された消毒液を供給する点。
(イ) 相違点の非容易想到性
a 相違点 2-1 について
本件発明 2 は、「前記酸処理槽において前記海苔網の侵入側で前記
海苔網とは異なる方向に前記酸原液を吐出する」構成を備えることに
より、海苔網に直接酸原液がかかるのを防ぐことができるという優れ
5 た作用効果を奏する。他方、乙 11 文献及び乙 12 文献には、相違点 2-
1 に係る本件発明 2 の構成に関する記載はない。また、相違点 2-1 に
係る本件発明 2 の構成を当業者にとっての設計事項とする根拠はない。
加えて、乙 8 発明は、消毒効果を大きくすることを目的に、海苔網に
向かって直接消毒液を吐出する発明である。このため、乙 8 発明をも
10 とに、海苔網と異なる方向に酸原液を吐出するとの構成を採用するこ
とは、乙 8 発明の目的に反することになる。
したがって、乙 8 発明において相違点 2-1 に係る本件発明 2 の構成
を採用することは、当業者が容易に想到することはできない。
b 相違点 2-2 について
15 乙 8 発明は、消毒効果を大きくすることを目的に、海苔網に向かっ
て直接消毒液を吐出する発明であり、その前提として、適正濃度に調
合された消毒液を吐出する発明である。このため、乙 8 発明において、
調合された消毒液ではなく酸原液を吐出する構成に置き換えると、そ
の濃度が濃いため海苔網を傷めてしまうことになり、海苔網に直接吐
20 出することができなくなって、乙 8 発明の目的に反することになる。
したがって、乙 8 発明において相違点 2-2 に係る本件発明 2 の構成
を採用することは、当業者が容易に想到することはできない。
キ 無効理由 2-3(争点 3-2-3)について
(被告の主張)
25 本件明細書 2 の記載によれば、同明細書記載の「第 1 実施形態」又は「第
1 実施形態に係る箱型船 A」は、
「原液吐出部を酸処理槽の中央に設けたも
の」である。他方、本件発明 2 に係る特許請求の範囲には、
「前記原液吐出
部は、前記酸処理槽において前記海苔網の進入側で前記海苔網とは異なる
方向に前記酸原液を吐出することを特徴とする箱型船」が記載されている。
本件明細書 2 記載の「第 1 実施形態」又は「第 1 実施形態に係る箱型船 A」
5 は、本件発明 2 の特許請求の範囲に記載された発明から実施することがで
きない。
このため、本件発明 2 に係る本件特許 2 の特許請求の範囲請求項 1 記載
は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、また、その発明
が発明の詳細な説明に記載したものであるともいえない。さらに、本件明
10 細書 2 の発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野におけ
る通常の知識を有する者が特許請求の範囲記載の発明を実施することがで
きる程度に明確かつ十分に記載したものでない。
したがって、本件特許 2 は、36 条 4 項 1 号、同条 6 項 1 号及び同項 2
号に違反してされたものであり、特許無効審判により無効にされるべきも
15 のであるから、原告は、被告に対し、本件特許権 2 を行使できない。
(原告の主張)
本件発明 2 に対応する実施形態は、本件明細書 2 記載の第 2 の実施形態
において、当業者が実施できる程度に具体的に記載されているから、本件
特許 2 は、実施可能要件及びサポート要件に違反しないし、敢えて第 1 の
20 実施形態を参酌して本件発明 2 を解釈する必要はないから、明確性要件に
も違反しない。
ク 無効理由 2-4(争点 3-2-4)について
この点に関する被告及び原告の各主張は、前記ウと同様である。
ケ 無効理由 2-5(争点 3-2-5)について
25 この点に関する被告及び原告の各主張は、前記エと同様である。
(4) 争点 4(原告の損害額)について
(原告の主張)
被告は、現在に至るまでに少なくとも 300 万円以上の限界利益を得ており、
これは原告の損害と推定される(法 102 条 2 項)。また、原告は、被告の行
為に対して本件訴訟の提起を余儀なくされたから、上記損害と相当因果関係
5 のある訴訟代理人費用は上記損害額の 1 割を下らない。
したがって、原告が被った損害は 330 万円を下らない。
(被告の主張)
否認ないし争う。
第3 当裁判所の判断
10 1 争点 1(被告各製品の本件各発明の技術的範囲への属否)について
(1) 被告製品1の構成について
原告は、被告製品 1 について、別紙「被告製品の構成(原告の主張)」記
載のとおり主張し、これを裏付ける証拠として、原告従業員作成に係る陳
述書(甲 8。以下「甲 8 陳述書」という。)を提出する。同陳述書には、以
15 下の写真 1 が掲載されている(写真 1’は写真 1 と同じ写真に「中央の太い
パイプ」の位置を付記したものである。)。
写真 1 写真 1’

しかし、甲 8 陳述書は原告従業員が作成したものであり、その内容を裏
付けるに足りる客観的資料は、写真 1 等の写真のほかは見当たらない。こ
20 のため、その信用性は乏しいものとみるべきである。

ひとまずその点を置くとしても、まず、写真 1 によっては被告製品 1 に
おける pH センサ及び原液供給装置の存在及び位置は不明というほかなく、
被告製品 1 に「前記酸処理液の pH を検出する pH センサ」が「酸処理槽
に設けられ」ていること(構成 1b)及び「原液供給装置とを備え」(構成
5 1d)ていることを認めることはできない。また、写真 1’によれば、
「中央の
太いパイプ」の下側に緑色の細いパイプが存在することが認められるもの
の、この「細いパイプ」の構成及びこれが果たす機能は、当該写真からは
判然としない。このため、当該「細いパイプ」をもって「酸原液を吐出す
る」ものであり、
「酸処理槽」に貯留された「酸処理液に対して上方から前
10 記酸原液を供給する」ものである「原液吐出部」(構成 1c、1e)と認める
ことはできない。
このため、被告製品 1 については、そもそも原告の主張する構成を有す
るものと認めるに足りる証拠はないから、その本件発明 1 の技術的範囲へ
の属否を論ずる前提を欠くといえる。
15 したがって、被告製品 1 につき、本件発明 1 の技術的範囲に属するもの
ということはできない。
なお、原告は、被告の具体的態様の明示義務(法 104 条の 2)を指摘す
る。しかし、被告は、箱型船である被告各製品の製造販売を否認すると共
に、被告各製品に対する被告の関与も不明であるとして否認ないし争って
20 いるところ、被告による被告各製品の製造販売や関与を裏付ける証拠は甲
8 陳述書しかなく、これを認めるに足りる客観的な証拠はない。このよう
な状況においては、上記明示義務により被告が具体的態様を明らかにすべ
きとされる「自己の行為」自体が特定されているとはいえない。そうであ
る以上、この点に関する原告の主張は採用できない。
25 (2) 被告製品 2 の構成について
原告は、被告製品 2 について、別紙「被告製品の構成(原告の主張)」記
載のとおり主張し、これを裏付ける証拠として甲 8 陳述書を提出する。同
陳述書には、以下の写真 2-1 が掲載されている。また、原告は、このほか
に、写真 2-2(原告第 1 準備書面の写真 F)、写真 2-3(同写真 C)、写真 2-
4(原告第 4 準備書面の写真 4)、写真 2-5(同写真 5)及び写真 2-6(同写
5 真 6)も被告製品 2 に係る写真である旨指摘する。
写真 2-1 写真 2-2

写真 2-3 写真 2-4

写真 2-5 写真 2-6

まず、甲 8 陳述書の信用性については、被告製品 1 との関係で論じたと
10 おりである。
また、写真 2-1~2-6 によっても被告製品 2 の pH センサ及び原液供給装
置の存在及び位置は不明というほかなく、被告製品 2 に「前記酸処理液の
pH を検出する pH センサ」が「酸処理槽に設けられ」ていること(構成
2b)及び「原液供給装置とを備え」(構成 2d)ていることを認めることは
できない 。
他方、写真 2-1、2-3 及び 2-4 によれば、箱型船の進行方向前方側及び後
方側に、その前後方向の壁面の近くに黒い棒状のパイプ様のものが設けら
5 れていることが認められるところ、その位置から、当該「黒い棒状のパイ
プ様のもの」は「海苔網と干渉しない位置」(構成 2i)であって、「海苔網
(構成 2k)に位置するものといえる。また、写真 2-5 及び 2-6 に
の進入側」
よれば、上記「黒い棒状のパイプ様のもの」の下側に「孔」とみ得るもの
があることもうかがわれるところ、これが「孔」といえるものであるとす
10 ると、その向きは、「海苔網の進入側で海苔網とは異なる方向」(構成 2k)
を向いているということができる。
しかし、被告製品 2 における上記「黒い棒状のパイプ様のもの」の構成
及びこれが果たす機能は、上記各写真からは必ずしも判然としない。この
ため、当該「黒い棒状のパイプ様のもの」をもって「酸原液を吐出する」
15 ものである「原液吐出部」(構成 2i、2k)と認めることはできない。
そうすると、被告製品 2 についても、そもそも原告の主張する構成を有
するものと認めるに足りる証拠はないから、その本件発明 2 の技術的範囲
への属否を論ずる前提を欠くといえる。
したがって、被告製品 2 につき、本件発明 2 の技術的範囲に属するもの
20 ということはできない。これに反する原告の主張は採用できない。
2 まとめ
以上のとおり、被告製品 1 は本件発明 1 の技術的範囲に属するとはいえず、
被告製品 2 は本件発明 2 の技術的範囲に属するとはいえないから、その余の争
点について論ずるまでもなく、被告による本件各特許権の侵害は認められず、
25 原告は、被告に対し、本件各特許権に基づく差止請求権及び本件特許権侵害の
不法行為に基づく損害賠償請求権を有しない。
第4 結論
よって、原告の請求はいずれも理由がないから、これらをいずれも棄却する
こととして、主文のとおり判決する。
5 東京地方裁判所民事第 47 部

裁判長裁判官
10 杉 浦 正 樹

裁判官
池 田 幸 子

20 裁判官
松 尾 恵 梨 佳

別紙
当事者目録
原 告 光洋通商株式会社
同訴訟代理人弁護士 三縄 隆
同 青木 悠夏
同補佐人弁理士 黒瀬 雅一
被 告 日東製網株式会社
同訴訟代理人弁護士 日野 修男

(別紙)
被告製品目録
1 海苔養殖用の箱型船であって、原液吐出部を船の進行方向中央付近に設けた
5 もの
2 海苔養殖用の箱型船であって、原液吐出部を船の進行方向前方側又は後方側
に設けたもの

(別紙)
被告製品の構成(原告の主張)
1 被告製品 1
5 1a 酸処理液を貯留する酸処理槽と、該酸処理槽内に設けられ、海苔が付着し
た海苔網を巻き取る一対のロールを備える箱型船であって、
1b 前記酸処理槽に設けられ、前記酸処理液の pH を検出する pH センサと、
1c 前記ロールに巻き取られる前記海苔網と干渉しない位置に設けられ、酸原
液を吐出する原液吐出部と、
10 1d 前記 pH センサの検出値に基づいて前記原液吐出部に供給する前記酸原液
の供給量を自動調節する原液供給装置とを備え、
1e 前記原液吐出部は、前記海苔網の侵入方向に対して各々の前記ロールの後
方に設けられ、前記酸処理液に対して上方から前記酸原液を供給する
1f ことを特徴とする箱型船。
2 被告製品 2
2g 酸処理液を貯留する酸処理槽と、該酸処理槽内に設けられ、海苔が付着し
た海苔網を巻き取る一対のロールを備える箱型船であって、
2h 前記酸処理槽に設けられ、前記酸処理液の pH を検出する pH センサと、
20 2i 前記ロールに巻き取られる前記海苔網と干渉しない位置に設けられ、酸原
液を吐出する原液吐出部と、
2j 前記 pH センサの検出値に基づいて前記原液吐出部に供給する前記酸原液
の供給量を自動調節する原液供給装置とを備え、
2k 前記原液吐出部は、前記酸処理槽において前記海苔網の進入側で前記海苔
25 網とは異なる方向に前記酸原液を吐出する
2l ことを特徴とする箱型船。

最新の判決一覧に戻る

法域

特許裁判例 実用新案裁判例
意匠裁判例 商標裁判例
不正競争裁判例 著作権裁判例

最高裁判例

特許判例 実用新案判例
意匠判例 商標判例
不正競争判例 著作権判例

今週の知財セミナー (3月16日~3月22日)

来週の知財セミナー (3月23日~3月29日)

3月23日(月) - オンライン

中国特許セミナー

3月26日(木) - オンライン

研究者探索サービス活用セミナー

特許事務所紹介 IP Force 特許事務所紹介

特許業務法人 浅村特許事務所 (東京都品川区)

〒140-0002 東京都品川区東品川2丁目2番24号 天王洲セントラルタワー21F・22F 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング 

芦屋国際特許事務所

659-0068 兵庫県芦屋市業平町4-1 イム・エメロードビル503 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング 

IPP国際特許事務所

〒141-0031 東京都品川区西五反田3-6-20 いちご西五反田ビル8F 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング