ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 令和6(ワ)1462 民事訴訟 実用新案権
| 裁判所 | 一部認容 大阪地方裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 令和8年1月22日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 当事者 | 原告株式会社ドウシシャ 被告明光ホームテック株式会社 |
| 法令 |
実用新案権 実用新案法29条2項7回 実用新案法29条3項4回 実用新案法27条1項1回 |
| キーワード | 実施35回 実用新案権24回 無効22回 進歩性18回 侵害18回 許諾6回 新規性5回 差止4回 ライセンス4回 損害賠償3回 |
| 主文 | 1 被告は、 2 被告は、前項記載の座いすを廃棄せよ。 3 被告は、原告に対し、444万1254円及びうち200万円に対する令和6 4 原告のその余の請求を棄却する。 5 訴訟費用は、これを10分し、その9を被告の負担とし、その余を原告の負担 6 この判決は、第1項及び第3項に限り、仮に執行することができる。 |
| 事件の概要 | 1 本判決で用いる略称 (1) 被告製品 :別紙被告製品目録記載1及び2の製品の総称(同目録記載1の 製品の総称は「被告製品1」 、同2の製品は「被告製品2」 。同目録記載1①の 製品は「被告製品1①」 、同1②の製品は「被告製品1②」 ) (2) 本件実用新案 (権) :実用新案登録第3236826号 (に係る実用新案権) (3) 本件明細書:本件実用新案に係る公報の明細書又は図面 (4) 本件考案 :本件実用新案の請求項1ないし5に係る考案の総称(なお、各 請求項1に係る考案は「本件考案1」 |
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令和8年1月22日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和6年(ワ)第1462号 実用新案権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 令和7年11月11日
判 決
原告 株式会社ドウシシャ
代表者代表取締役
訴訟代理人弁護士 犬飼 一博
同 甲斐 一真
訴訟復代理人弁護士 森田 啓正
被告 明光ホームテック株式会社
代表者代表取締役
訴訟代理人弁護士 三木 浩太郎
同 早川 尚志
同 不破 佳介
同 飯田 明弘
補佐人弁理士 寺脇 歩
同 渡邉 秀樹
主 文
1 被告は、別紙被告製品目録記載1の座いすを生産し、使用し、譲渡し、貸渡し、
輸入し、譲渡又は貸渡しの申出をしてはならない。
2 被告は、前項記載の座いすを廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、444万1254円及びうち200万円に対する令和6
年2月29日から、うち244万1254円に対する令和7年10月17日から
各支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
4 原告のその余の請求を棄却する。
5 訴訟費用は、これを10分し、その9を被告の負担とし、その余を原告の負担
とする。
6 この判決は、第1項及び第3項に限り、仮に執行することができる。
5 事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は、別紙被告製品目録記載1及び2の座いすを生産し、使用し、譲渡し、
貸渡し、輸入し、譲渡又は貸渡しの申出をしてはならない。
2 被告は、前項記載の座いすを廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、463万6770円及びうち200万円に対する令和6
年2月29日(訴状送達の日の翌日)から、うち263万6770円に対する令
和7年10月17日(請求の拡張申立書送達の日の翌日)から各支払済みまで年
3パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本判決で用いる略称
(1) 被告製品 :別紙被告製品目録記載1及び2の製品の総称(同目録記載1の
製品の総称は「被告製品1」、同2の製品は「被告製品2」。同目録記載1①の
製品は「被告製品1①」、同1②の製品は「被告製品1②」)
(2) 本件実用新案(権)
:実用新案登録第3236826号(に係る実用新案権)
(3) 本件明細書:本件実用新案に係る公報の明細書又は図面
(4) 本件考案 :本件実用新案の請求項1ないし5に係る考案の総称(なお、各
請求項1に係る考案は「本件考案1」、請求項2に係る考案は「本件考案2」、
請求項3に係る考案は「本件考案3」、請求項4に係る考案は「本件考案4」、
請求項5に係る考案は「本件考案5」)
(5) 乙11文献:意匠登録第1694785号公報(乙11。乙11文献記載の
考案は「乙11考案」)
(6) 乙12文献: 実用新案登録第3061157号公報(乙12。乙12文献
の請求項1記載の考案は「乙12考案」)
(7) 乙13文献: 特開平9-248321号公報(乙13。乙13文献記載の
考案は「乙13考案」)
5 (8) 乙14文献: 実願昭60-163717号(実開昭62-070847号)
のマイクロフィルム(乙14。乙14文献記載の考案は「乙14考案」)
(9) 乙15文献: 意匠の新規性の喪失の例外の規定の適用を受けるための証明
書(乙15。乙15文献記載の考案は「乙15考案」)
(10) 乙17文献: 特許第6999957号公報(乙17。乙17文献記載の
考案は「乙17考案」)
(11) 乙18文献: 特開平11-241号公報(乙18。乙18文献記載の考
案は「乙18考案」)
(12) 乙21文献: 中国実用新案第2299537号明細書(乙21の1、2
1の2。乙21文献記載の考案は「乙21考案」)
(13) 乙22文献: 特開2017-042451号公報(乙22。乙22文献
記載の考案は「乙22考案」)
(14) 乙23文献: 実用新案登録第3187631号公報(乙23。乙23文
献記載の考案は「乙23考案」)
(15) 乙24文献: 特開平5-199925号公報(乙24。乙24文献記載
の考案は「乙24考案」)
(16) 乙25文献: 特開2014-23593号公報(乙25。乙25文献記
載の考案は「乙25考案」)
(17) 乙26文献: 実用新案登録第3208798号公報(乙26。乙26文
献記載の考案は「乙26考案」)
(18) 明光家俱: 明光家俱(香港)有限公司(MEIKO HOME TEC
(HK),LIMITED)
(19) A : 株式会社 A
(20) 原告製品: 商品名を「肘付きクッション いつでも背もたれ ベッド上
フロアクッション」とする製品(乙50)
(21) ●● :●●●●●●●●●●●
5 2 原告の請求(訴訟物)
被告製品の譲渡等が本件実用新案権の侵害であることを理由とする、原告の
被告に対する、①実用新案法27条1項に基づく被告製品の譲渡等の差止請求
権、②同条2項に基づく被告製品の廃棄請求権、③民法709条に基づく損害
賠償請求権(明示的一部請求)
なお、原告は、訴状においては、200万円の損害賠償請求とともに「本訴
状送達の日の翌日」を起算日とする遅延損害金を請求した上、後の令和7年1
0月14日付けの請求の拡張申立書でも、遅延損害金の起算日を「本訴状送達
の日の翌日」としていたが、上記請求の拡張申立書において「訴状送達」では
なく「本訴状送達」との語を用いていることも踏まえると、訴状の段階から請
求していた200万円に係る遅延損害金については、訴状送達の日の翌日か
ら、上記請求の拡張申立書で拡張した263万6770円に係る遅延損害金に
ついては同申立書送達の日の翌日からの各遅延損害金を請求するものと解され
る。
3 前提事実(争いのない事実及び証拠〔枝番を含む。以下同じ〕により容易に認
定できる事実)
(1) 当事者等
ア 原告は、家庭用雑貨、身辺細貨、時計、電気製品、喫煙用具、繊維二次製
品の製造、加工販売および輸出入業等を目的とする株式会社である(甲1)。
イ 被告は、インテリア家具の製造販売等を目的とする株式会社である(甲2)。
(2) 本件実用新案権(甲3、4)
原告は、本件実用新案権を保有しているところ、本件実用新案の書誌的事項
は、次のとおりである。
ア 出願日 :令和4年1月18日
イ 登録日 :令和4年3月10日
ウ 考案の名称 :座いす
5 (3) 本件考案の構成要件の分説
本件考案の構成要件は、次のとおり分説される。
【請求項1】
A 背もたれ部と、
B 背もたれ部の下部左右から前方に延びる一対の肘置き部と、
C 背もたれ部の下部から後方に延びる底面部と、
D 背もたれ部の背もたれ角度を調整する第1調整機構と、を備えた
E 座いす
【請求項2】
F 構成要件Bにおける一対の肘置き部は、前方にいくほど互いの距離が離
間するように配置されていることを特徴とする
G 請求項1に記載の座いす
【請求項3】
H 構成要件Fにおける肘置き部の内部には、金属製の第1フレーム部が設
けられ、
I この第1フレーム部は載置面から起立した枠状に形成されると共に、左
右外側に向けて傾斜していることを特徴とする
J 請求項2に記載の座いす
【請求項4】
K 構成要件Hにおける第1フレーム部の枠内に枠内を橋渡しするように
樹脂製バンドが設けられていることを特徴とする
L 請求項3に記載の座いす
【請求項5】
M 構成要件Aにおける背もたれ部の内部には、金属製の第2フレーム部が
設けられ、
N 第2フレーム部の下部に前記第1調整機構が設けられ、
5 O 上部に背もたれ部の上部の角度を調整する第2調整機構が設けられて
いることを特徴とする
P 請求項1~4のいずれか1項に記載の座いす
(4) 原告製品及び被告製品1の販売等
ア 原告は、本件考案の実施品である原告製品を、アマゾンなどのECサイト
で販売した(乙50、52、弁論の全趣旨)。
イ 被告は、遅くとも令和4年9月頃から、被告製品1の製造販売を開始し、
被告製品1①は自社サイト等で、被告製品1②はアマゾンなどのECサイ
トで販売した。
ウ 被告製品1は、少なくとも別紙「被告製品1の構成」の「構成c1-1」
を除く構成を有する。
エ 被告製品1は、構成要件C(これに従属する構成要件G、J、L、P)以
外の構成要件を充足する。
(5) 原告の警告
ア 原告は、令和5年1月13日付け通知書により、被告に対し、特許庁作成
の実用新案技術評価書(請求項4のみ評価6)を添付の上、被告製品1が本
件考案4の技術的範囲に属するとして、同製品の販売の中止等を求め、同通
知書は同月16日に被告に到達した(甲8)。
イ 原告は、同年7月31日付け通知書により、被告に対し、特許庁作成の新
たな実用新案技術評価書を添付の上、被告製品1が本件考案の技術的範囲に
属するとして、今後の対応の回答を求めた(甲9)。
ウ 被告は、その後も被告製品1の製造販売を継続した。
4 争点
(1) 被告製品2の譲渡等主体性(争点1)
(2) 本件考案の技術的範囲への属否(争点2)
具体的には、構成要件C「底面部」の充足性
5 (3) 無効理由の有無(争点3)
ア 乙11文献を主引例とする進歩性欠如(争点3-1・本件考案1)
イ 乙12文献を主引例とする新規性欠如(争点3-2・本件考案1)
ウ 乙12文献を主引例とする進歩性欠如(争点3-3・本件考案1)
エ 乙13文献を主引例とする進歩性欠如(争点3-4・本件考案1)
オ 乙14文献を主引例とする進歩性欠如(争点3-5・本件考案1)
カ 進歩性欠如(争点3-6・本件考案2)
キ 進歩性欠如(争点3-7・本件考案3)
ク 進歩性欠如(争点3-8・本件考案4)
ケ 進歩性欠如(争点3-9・本件考案5)
コ サポート要件違反(争点3-10・本件考案)
サ 実施可能要件違反(争点3-11・本件考案)
(4) 損害の有無及び額(争点4)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(被告製品2の譲渡等主体性)について
【
(原告の主張)
】被告製品2は、明光家俱によって中国で製造されて A に輸出された製品であるところ、明光家俱は、被告の国際貿易における取引主体となる現地法人として香港に設立された被告の100%子会社の法人であり、その代表者と被告の代表者は同一である。また、被告は、中国で製造した自社製品を輸入して日本国内販売する販売モデルを採用している。そうすると、被告製品2について、 Aと明光家俱との間の契約に基づいて輸出されたことは、被告が明光家俱を手足として A と契約を締結させて輸出させたものといえるから、明光家俱から Aへの輸出は、被告による輸入及び A への譲渡と同視することができる。よって、被告は、被告製品2の譲渡等の主体であり、少なくとも「譲渡の申出」を行ったといえる。
5 【
(被告の主張)
】被告製品2については、明光家俱が、 A との間の製造委託契約に基づいて中国国内で製造及び引渡しをし、 A が日本国内に輸入し販売している。被告と明光家俱は、法人格が異なるから、各自の法主体及び事実行為は別個である。そして、実用新案権の実施行為である「輸出」は、「内国貨物を外国に向けて送り出すこと」(関税法2条1項2号)であるから、被告製品2を上海港発のA の指定する船舶に引き渡す行為は、上記「輸出」に当たらず、その主体は被告ではなく明光家俱である。また、実用新案権の実施行為である「輸入」とは、「外国から本邦に到着した貨物又は輸出の許可を受けた貨物を本邦に引き取ること」(同項1号)であるところ、被告製品2を日本国内に引き取った主体はA であり、被告及び明光家俱ではない。さらに、実用新案権の実施行為である「譲渡」とは、「物の発明(考案)たる特許発明(考案)を化体した特許(実用新案)製品についての移転」であるところ、被告製品2を A に販売した主体は明光家俱である上、同社と A との売買契約は日本国外で行われたものであるから、被告製品2の「譲渡」の主体は A である。以上から、被告は、被告製品2の譲渡等の主体ではない。
2 争点2(本件考案の技術的範囲への属否)について
【
(原告の主張)
】
(1) 被告製品の構成
被告製品の構成は、別紙「被告製品1の構成」及び別紙「被告製品2の構成」の「
(原告の主張)
」欄のとおりである。
(2) 構成要件Cを充足すること
ア 「底面部」の意義本件考案の「底面部」とは、本件明細書において、「背もたれ部」等と同様に、本件考案の構成を特定する造語として使用された文言である。本件考案は、「一般的な座いすの場合、座面を有するために使用する場面
5 が限られるという問題」を踏まえ、「使用可能な場面を拡大した座いすを提
供すること」との課題を解決する手段として、「背もたれ部と背もたれ部の下部左右から前方に延びる一対の肘置き部を備えており、通常の座いすが備えている矩形の座面は備えていない」こと、「背もたれ部の角度は第1調整機構により調整可能であり、好みに応じて調整することができる」こと、及び、「背もたれ部の後方には底面部を備え」る構成を採用した(【0004】【0005】【0007】)。また、「座いすを床面等に載置する場合は、一対の肘置き部2と底面部3により安定した姿勢で座いすを載置させることができる」(【0021】)という本件明細書の記載のとおり、背もたれ部の下部の「後方」に延びる「底面部」は、座椅子を床面等に載置した際に、背もたれ部の下部左右から「前方」に延びる一対の「肘置き部」とともに床面等に接地し、これにより「安定した姿勢で座いすを載置させること」を実現するものである。さらに、本件考案では、「通常の座いすが備える座面を具備しないため、当該座いすに座って背もたれ部に荷重がかかった際に、背もたれ部が後ろに倒れ込む」が、これを防ぐ手段として、背もたれ部の下部の前後に延びる「肘置き部」と「底面部」が機能するところ、当該機能は「安定した姿勢で座いすを載置させること」に含まれる。そうすると、「底面部」の技術的意義は、一対の「肘置き部」とともに、上記の背もたれ部の倒れ込みの防止を含む、「安定した姿勢で座いすを載置させること」を実現する点にある。そして、本件明細書には「底面部3は所定の厚みを有する板状を呈し」(【0020】)との記載があり、「底面部」が二次元的な「面」ではなく、三次元的・立体的な「部材」であることは明らかである。以上から、構成要件Cの「底面部」とは、背もたれ部の下部から後方に伸びるものであり、かつ肘置き部とともに床面等に接地することで、「安定した座椅子を載置させること」を実現する部材を意味する。イ 被告製品の構成要件充足性
5 被告製品は「板状部」を備えるところ、
「板状部」は背もたれ部の後方の下部から背もたれ部の後方の接地面に向かって斜めに延びるように設置されており、所定の厚みを有し、平面視において矩形状に形成されている。そして被告製品は、上記床面等に載置された際、左右の肘置き部と板状部(構成c1-1、c2-1)が地面に接して座いすを支えることになる。以上によれば、上記「板状部」は、構成要件Cの「底面部」に該当する。よって、被告製品は、構成要件Cを充足する。なお、仮に、構成要件Cの「底面部」を、被告が主張するように「背もたれ部の荷重を受け止めるために座いすの下部に設けられた、床面等に接地するある程度のひろがりを有する面」を意味すると解するとしても、被告製品の板状部は所定の厚みを有し、平面視において「ある程度のひろがりを有する面」として床面等に接地している(甲10)から、被告製品は、構成要件Cを充足する。【
(被告の主張)
】
(1) 被告製品の構成
被告製品の構成は、別紙「被告製品1の構成」及び別紙「被告製品2の構成」の「
(被告の主張)
」欄のとおりである。構成c1-1については、その内部に金属製のフレームパイプが設けられ、その上にカバーを外装しているから、「板状」部材ではない。また、該部分は、その内部に背もたれ部を後方から支持するものであるから、その機能に着目して「支持部」と表現すべきである。
(2) 構成要件Cを充足しないこと
ア 「底面部」の意義「底面部」について、本件明細書には何ら定義はないから、普通の意味、すなわち、日本語としての通常の意味及び出願時における当業者の一般的な用法を基礎に、実用新案登録請求の範囲並びに明細書及び図面から読み取れる考案の技術的意義に従って解釈すべきである。
5 一般的に、「底面」とは「底の面」を、「底」とは「物体の下面。底面。」、
「面」とは「物の外郭を成す、角だっていないひろがり。物のおもて。部材の稜角を削り落として生ずる表面」を、「部」とは「分けること。分けた一区分。」を意味する(広辞苑7版)。この一般的な意義によれば、「底面部」とは「物体の下側のある程度のひろがり」と理解される。本件明細書には、本件考案の課題である「使用可能な場面を拡大した座いすを提供する」(【0005】)ことの解決手段が「背もたれ部の後方には底面部を備え」ることであり、該「底面部」により「安定した状態で床面等に載置することができ…使用可能な場面を拡大した座いすを提供することができる」との作用効果を奏する(【0007】)との記載がある。また、本件明細書には、該「底面部」につき、「背もたれ部」と「底面部」とを、側面視「∠(カク)字状」に構成し、同「∠字状」の下面にあたる「底面部」を、底面視「面」として床面等に載置する構成は実施例として開示されているが、他に当該座いすを安定して床面等に載置する手段は何ら開示も示唆もされていない。そうすると、本件考案の座いすは、通常の座いすが備える座面を具備しないため、当該座いすに座って背もたれ部に荷重がかかった際に、背もたれ部が後ろに倒れ込むのを防ぐ手段として、「背もたれ部」にかかる荷重を、「背もたれ部」と側面視「∠(カク)字状」に構成された「底面部」において「面」として受け止めることによって、当該座いすを安定した状態で載置するものであることを技術的特徴とするものといえる。さらに、当業者において、本件明細書の記載から、「底面部の裏面が床面等に載置されない構成」ないし「前記底面部と前記肘置き部の裏面が同一面にならない」構成を実施し得るとする客観的根拠も存在しない。以上のとおり、文言の一般的な意義及び本件考案の技術的意義に照らせば、構成要件Cの「底面部」とは、構成の作用・効果を表す「肘置き部」「支持部」と異なり、物の位置や形状に関する用語と解され、かつ、本件考案の技術的
5 意義に照らせば、床面等に「背もたれ部の荷重を受け止めるために座椅子の
下部に設けられた、床面等に接地するある程度のひろがりを有する面」を意味する。イ 被告製品1について被告製品1は、通常の座いすが備える座面を具備しないが、座いすに座って背もたれ部に荷重がかかった際に、背もたれ部が後ろに倒れ込むのを防ぐ手段として、「背もたれ部」にかかる荷重を、側面視「ʎ(ターンド・ワイ)字状」に構成された「支持部」の最下端部の「辺」において、「線」で支えることによって当該座いすを安定した状態で載置するものであることを技術的特徴とするものである。すなわち、被告製品1の「支持部」は、背もたれ部後方を直接支持することによって、当該座いすが後ろに倒れこむことを防ぐ具体的手段であり、「背もたれ部の荷重を受け止めるために座椅子の下部に設けられた、床面等に接地するある程度のひろがりを有する面」をもって背もたれ部にかかる荷重を支えるものではないから、本件考案の技術的特徴とは異なる。また、被告製品1は、「底面部」が「面」として床面等と接地する本件考案とは異なり、「支持部」が「線」として床面等と接地するものであるため、凹凸のある面にも載置することが可能であるとの本件考案とは異なる作用効果を奏する。以上から、被告製品1は、構成要件Cの「底面部」を備えず、構成要件Cを充足しない。なお、原告は、被告製品1の「板状部」は「ある程度のひろがりを有する面」として床面等に接地しているから構成要件Cを充足すると主張するが、
(被告の主張)
する上記「線」及び「辺」とは、本件明細書(【0025】【0027】【図4】~【図6】)のとおり「底面部」が立体的な「部材」であることを前提として、該「底面部」の「端部、へり、ふち」を意味するものであ
5 り、数学的な意味における「幅及び厚さを持たないもの」ではなく、また、
被告製品1の「支持部」は金属フレームパイプにカバーを外装したものであるから、上記主張は理由がない。ウ 被告製品2について被告製品2も、上記イと同様の理由から、構成要件Cの「底面部」を備えず、同構成要件を充足しない。
3 争点3(無効理由の有無)について
【
(被告の主張)
】本件考案については、別紙「争点3(無効理由の有無)」の「
(被告の主張)
」欄のとおり、無効理由がある。【
(原告の主張)
】別紙「争点3(無効理由の有無)」の「
(原告の主張)
」欄のとおり、本件考案には被告主張の無効理由はない。
4 争点4(損害の有無及び額)について
【
(原告の主張)
】
(1) 実用新案法29条2項に基づく損害(主位的主張)
ア 被告製品の販売による利益被告は、被告製品1及び被告製品2の販売により、遅くとも令和4年9月以降、少なくとも1億4150万円の売上げを獲得し、その販売利益は、少なくとも売上げの30パーセントである4245万円(=1億4150万円×30%)を下らない。イ 被告製品1の販売による利益(限界利益)(ア) 令和5年1月18日から令和7年1月16日までの間における被告製品1①の販売によって被告が得た利益(限界利益)は、別紙「損害一覧表」の「
(原告の主張)
」欄のとおり、合計245万9730円である。(イ) 令和5年2月7日から令和6年11月18日までの間における被告
5 製品1②の販売によって被告が得た利益(限界利益)は、別紙「損害一
覧表」の「
(原告の主張)
」欄のとおり、合計217万7040円である。ウ 推定覆滅事由の主張について(ア) 競合品の存在被告は、「座いす」と「クッション」が同一カテゴリーの商品として取り扱われているのが通例であることを前提に、「座いす」「クッション」等のキーワードによる検索結果として多数の製品が存在すると主張するが、両者のカテゴリーは同一ではない。また、被告は、原告製品と同一又は類似のキーワードによる検索の結果、多数の製品がヒットすることをもって、機能面及び外観面において原告製品と競合する製品が多数存在すると主張するが、アマゾンのキーワードは検索該当性を向上させるために対象商品と無関係のものも選択されることが常態化しているから、当該検索結果をもって、機能面及び外観面を同一とする製品が存在することにはならない。むしろ、アマゾンでは、「座椅子」の「特徴」として、「調節可能な背もたれ」、「リクライニング」、及び、「ひじかけ」が挙げられているから、原告製品の需要者は、単に「座椅子」や「クッション」又は「背もたれの角度調整機能の付いたクッション」や「座面のない背もたれに肘置きがあるクッション」を求めるのでもなく、原告製品の機能的特徴(座面がないこと、安定した姿勢で座椅子を載置するための底面部と肘置き部があること、及び背もたれの角度調整機能を備えることの3点)を備えた製品を求めて、購入したと推認されるところ、上記機能的特徴を兼ね備えた製品はないから、原告製品と競合する製品はない。(イ) 営業努力
(被告の主張)
する事情は、被告が通常の範囲を超える格別の工夫や営業努力をしたことを示すものではない。
5 (ウ) 製品の性能
被告は、「被告製品は、…底面を有しないために、凹凸な床面でも、安定して載置できるという被告製品独自の性能」があると主張するが、被告製品1に上記性能があることの立証はない。また、製品の性能が推定覆滅事由に該当するためには、単に、被告製品1が原告の製品に比べて優れた効能を有しているだけでは足らず、当該効能により被告の売上に貢献したという事情がなければならないが、この点についての具体的な主張立証はない。(エ) 市場の非同一性被告は、被告製品1①の販売につき、被告固有の販路であると主張するが、その根拠はいずれも理由がない。また、被告製品1②の一部について、被告独自のECサイトで販売されていたとしても、同サイトは通常の検索サイト上でも表示されるから、同サイトが「既存の顧客が被告の商品群全体を定期的に閲覧・購入する場として機能している」とはいえない。よって、被告と原告との間で販売経路・顧客層の性質が異なるとはいえず、両者の製品の市場が一致していないともいえない。(オ) 小括以上から、被告主張の事情は、いずれも推定覆滅事由に当たらない。エ 弁護士費用原告は、本件訴訟の遂行を原告代理人らに委任し、報酬の支払を約したところ、その報酬は少なくとも500万円を下らない。オ 小括よって、被告の被告製品の販売による本件実用新案権の侵害によって、原告が被った損害は、4745万円を下らない。原告は、本訴において、上記損害の一部請求として463万6770円を請求する。
5 (2) 実用新案法29条2項及び3項の重畳適用に基づく損害(予備的主張1)
仮に、推定覆滅事由が認められるとしても、覆滅部分については、同条3項を重畳適用することができる。すなわち、競合品の存在、被告製品の性能又は市場の非同一性による推定覆滅部分については、侵害品が市場に流通した以上、かかる範囲において権利者のライセンス機会の喪失を観念することは可能である。また、被告の営業努力を理由とする推定覆滅部分についても、被告の営業努力は、本件実用新案権の存在を前提とするものである以上、原告における被告に対するライセンス機会の存在は認められる。
(3) 実用新案法29条3項に基づく損害(予備的主張2)
ア 実施料相当額上記(1)のとおり、被告製品の販売による被告の売上げは1億4150万円であり、本件実用新案の実施により受けるべき実施料率は7パーセントを下らない。よって、被告製品の販売によって、990万5000円(=1億4150万円×7パーセント)の損害を被った。イ 弁護士費用原告は、本件訴訟の遂行を原告代理人らに委任し、報酬の支払を約したところ、その報酬は、少なくとも100万円は下らない。ウ 小括よって、被告の被告製品の販売による本件実用新案権の侵害によって、原告が被った損害は、1090万5000円を下らない。原告は、本訴において、上記損害の一部請求として463万6770円を請求する。【
(被告の主張)
】
(1) 実用新案法29条2項に基づく損害
ア 被告製品1の販売行為のうち、被告に過失が認められるのは、原告が被告
5 に対し、本件実用新案に係る実用新案技術評価書を提示して警告をした後で
あるから、同評価書を添付した警告書を受け取った令和5年1月16日の翌日である同月17日以降の販売行為である。イ 被告製品1の販売による利益(限界利益)(ア) 令和5年1月18日から令和7年1月16日までの間における被告製品1①の販売によって被告が得た利益(限界利益)は、別紙「損害一覧表」の「
(被告の主張)
」欄のとおり、合計239万5640円である(被告は、限界利益の合計額を主張していないが、限界利益単価及び販売数の主張から上記のとおりの主張と解する。)。(イ) 令和5年2月7日から令和6年11月18日までの間における被告製品1②の販売によって被告が得た利益(限界利益)は、別紙「損害一覧表」の「
(被告の主張)
」欄のとおり、合計189万2220円である(限界利益合計額についての
(被告の主張)
の解釈は、上記と同様である。)。ウ 推定覆滅事由が存在すること(ア) 競合品が多数存在すること「座いす」と「クッション」は同一のカテゴリーと認識されているところ、アマゾンで「座いす」「クッション」等のキーワードにより検索した場合には前者で3万件、後者で4万件の商品がヒットし、そのうち「座面のない背もたれに肘置きがあるクッション」は、原告製品以外に10点以上が検索結果の冒頭に表示される。また、原告が商品名中に表示する「いつでも背もたれ」をキーワードとして検索すると、364件がヒットし、検索結果の上位には原告製品以外の製品が少なくとも7点表示される。このように、市場には、機能面及び外観面において、原告製品と競合する製品が多数存在しており、競合品の中には原告製品の半額又はそれ以下のものもある。
5 (イ) 被告の営業努力
被告製品1①は、被告の長年の取引により信頼関係を築いた既存の取引先のみに販売したものであり、これらの取引先は、被告が自らの営業努力によって開拓、維持してきたものであり、原告が通常展開している販路とは異なる性質を有する。特に、売上の大半を占める●●は、特殊な販売形態をとっており、複数の取引条件を満たした上で●●に取引口座を開設することが必要であるところ、被告は、これらの条件を満たして取引口座を開設して●●と取引を行っている。一方、原告は上記取引口座を有しておらず、直ちに●●を通じて原告製品を販売することはできる状況にはない。被告製品1②の一部は、被告独自の自社ECサイトで販売されており、当該サイトにおける購入者は、被告の既存の購入者において被告の販売する製品を確認して見つけて購入している。このように、被告製品1の販売は、被告の営業努力によるものである。(ウ) 被告製品1の性能被告製品1は、底面を有するがゆえに凹凸な床面では安定して載置できない原告製品とは異なり、座面を有しないために、凹凸な床面でも安定して載置できるという被告製品独自の性能があり、原告製品よりも使用できる場所及び場面が広がっており、原告製品よりも安定性が向上している。このように、被告製品1と原告製品には性能に大きな差がある。(エ) 市場の非同一性について上記のとおり、被告製品1①及び被告の自社ECサイトで販売する被告製品1②の一部は、被告固有の販路に基づくものである。このように、原告と被告では、販売経路及び顧客層の性質が異なっており、両者の製品が実際に流通している市場も一致していない。
5 (オ) 以上によれば、被告製品1の販売がなかったとしても、当該需要が原
告製品に移転するとの因果関係はなく、原告製品の売上げが増加することにはならない。よって、上記(ア)ないし(エ)の事情は、損害推定の覆滅事由となる。エ 弁護士費用については、否認ないし争う。
(2) 実用新案法29条2項及び3項の重畳適用に基づく損害
実用新案法29条2項による推定が覆滅される場合であっても、当該推定覆滅部分について、実用新案権者が実施許諾をすることができたと認められるときに限り、同条3項の適用が認められる。そして、同条2項による推定覆滅事由には、①侵害品の販売等の数量について実用新案権者の販売等の実施の能力を超えることを理由とする覆滅事由と、②それ以外の理由によって実用新案権者が販売等をすることができないとする事情があることを理由とする覆滅事由があり得るものと解されるところ、①の覆滅事由に係る推定覆滅部分については、実用新案権者は、特段の事情のない限り、実施許諾することができたと認められるのに対し、上記の販売等をすることができないとする事情があることを理由とする覆滅事由に係る推定覆滅部分については、当該事情の事実関係の下において、実用新案権者が実施許諾をすることができたかどうかを個別に判断すべきである本件で認められる推定覆滅事由は、上記(1)ウのとおりであって上記①の覆滅事由には当たらない。そして、「競合品の存在」を覆滅事由とする推定覆滅部分には、権利者においてライセンスを行う機会はなく、「被告の営業努力」及び「市場の非同一性」を覆滅事由とする推定覆滅部分は、被告独自の営業努力によって被告製品1の売上が向上した部分であり、「被告製品1の性能」を覆滅事由とする推定覆滅部分は、侵害品に本件考案以外の性能において優れた点があることをもって製品の付加価値が上がって利益を乗せて販売できた部分であるから、いずれも実用新案権の保護範囲に含まれるものではなく、重畳適用を
5 認める合理性はない。
よって、本件において重畳適用は認められない。
(3) 実用新案法29条3項に基づく損害
(原告の主張)
は、争う。本件考案は、従来技術や周辺技術と比べて技術的な独自性や優位性に乏しく、他の競合品によって代替される可能性が高い。また、被告製品1の売上及び利益に対する本件考案の貢献度は低い上、上記のとおり、原告製品と被告製品1には販路の違い等があり、座いす又はクッションの分野における具体的な競業関係が存在するともいえない。このように、本件考案の被告製品1の売上に対する貢献は乏しいから、実施料率は1パーセントを上回らない。
第4 判断
1 争点1(被告製品2の譲渡等主体性)について
原告は、香港で設立された会社である明光家俱が被告と実質的に同一であることを前提に、被告製品2について、明光家俱による譲渡等の行為をもって被告の行為と評価できる旨主張する。この点、証拠(乙1ないし4)及び弁論の全趣旨によれば、被告製品2については、明光家俱と A との間の2015(平成27)年11月9日付け商品製造及び業務委託基本契約書において、明光家俱が A から製造の委託を受けて製造して A に供給するとの合意(契約書1条)がされ、明光家俱が製造し、A を荷受人として中国から日本へ輸出し、 A が自己名義で日本国内で販売した事実が認められる上、明光家俱は被告が2010(平成22)年に国際貿易における取引主体となる現地法人として香港に設立された会社であり(甲13)、両者の代表者は同一人物である(甲14)ことは確かである。しかし、両社の法人格はあくまで別個であり、被疑侵害行為の主体を論じる文脈において、両法人を同一と評価すべきことを根拠づけるに足りる事情、証拠はないから、明光家俱の譲渡等の行為をもって、被告の行為と見ることはできない。
5 したがって、
(原告の主張)
は前提において誤りがあり、被告製品2について、被告が主体となって譲渡等をした旨の主張を採用することはできない。
2 争点2(本件考案の技術的範囲への属否)について
(1) 「底面部」の意義
被告製品1については、「背もたれ部の下部から後方に延びる底面部」(構成要件C。請求項1ないし5に共通。)の充足性について争いがあり、特に、「底面部」の解釈と、被告製品1が当該「底面部」を備えた構成であるかをめぐって争われているため、以下、この点を検討する。ア 【実用新案登録請求の範囲】の記載本件考案(本件考案1ないし5)に係る【実用新案登録請求の範囲】(【請求項1】ないし【請求項5】)には、「底面部」について、「背もたれ部の下部から後方に延びる底面部」との記載があるほかは、その構成を特定の形状等に限定するような記載はない。この点、本件実用新案の【実用新案の特許請求の範囲】のうちの【請求項6】には、「底面部」につき、「前記底面部と前記肘置き部の裏面が同一面になるように構成されていることを特徴とする…」との記載があるが、本件考案に係る【実用新案登録請求の範囲】には、このような記載もない。また、「底面部」との字義を考えると、一般的に、「底面」とは、「底の面」を意味するところ、「底」とは「物体の下面。底面。」を、「面」とは「物の外郭を成す、角だっていないひろがり。物のおもて。部材の稜面を削り落として生ずる表面」をそれぞれ意味する。また、「部」とは「分けること。分けた一区分。」を意味する。(広辞苑第7版、乙5ないし8)そうすると、【実用新案登録請求の範囲】上の文言からは、「底面部」について、「背もたれ部の下部から後方に延びる」という以上に構成を限定、特定するものではなく、ただ、「背もたれ部の下部から後方に延び」て床等に接する座いす下面の部位が、角だっておらず、一定のひろがりを有する区分であ
5 るという限りにおいて、その形状を特定するものと解される。
イ 本件明細書の記載次に本件明細書記載の技術事項等も参酌しての解釈を検討するに、本件明細書には、「本考案は、座面を有しない座いすに関する。」(【0001】)ものであり、「一般的な座いすの場合、座面を有するために使用する場面が限られるという問題がある。例えば、ベッドの上では使用しにくいし、座面の厚みに起因してテーブルで使用するときに、テーブルの下に足が入りにくいなどの使い勝手の悪さが生じる。」(【0004】)との背景技術を前提に、「使用可能な場面を拡大した座いすを提供すること」(【0005】)を課題とし、その解決の手段として、「本考案に係る座いすは、背もたれ部と、背もたれ部の下部左右から前方に延びる一対の肘置き部と、背もたれ部の下部から後方に延びる底面部と、背もたれ部の背もたれ角度を調整する第1調整機構と、を備えたことを特徴と」(【0006】)し、その作用・効果として「この座いすは、背もたれ部と背もたれ部の下部左右から前方に延びる一対の肘置き部を備えており、通常の座いすが備えている矩形の座面は備えていない。従って、座いすを使用するときは、床面等に直接座った状態で肘置き部に肘を置いた状態で使用する。背もたれ部の角度は第1調整機構により調整可能であり、好みに応じて調整することができる。また、背もたれ部の後方には底面部を備えており、安定した状態で床面等に載置することができる。従って、使用可能な場面を拡大した座いすを提供することができる。」(【0007】)との記載がある。また、構成について、本件明細書には、「前記底面部と前記肘置き部の裏面が同一面になるように構成されていることが好まし」(【0016】)く、「これにより、座いすを安定した状態で床面等に設置することができる。」(【0017】)との記載がある。さらに、本件明細書には、実施形態として、「座いすは…背もたれ部1の下部10から後方に延びる底面部3を備えている…底面部3は所定の厚みを有する板状を呈しており、平面視で矩
5 形状に形成されている。」
(【0020】【図1】)こと、「肘置き部2の裏面と底面部3の裏面は同一の面であり、この裏面が床面等に載置されることになる。」(【0022】【図3】)こと、「座いすを構成する背もたれ部1、一対の肘置き部2、底面部3の外観はカバー部材により覆われている…」(【0025】)こと、 「図4は、座いすの内部に設けられるフレーム部の全体構成を示している…フレーム部は主として金属製…のパイプにより構成される。第1パイプ部材4は、底面部3の内部に配置されるコの字の第1パイプ部分4aと、第1パイプ部分4aの左右先端から前方斜めに一体的に伸びる一対の
第2パイプ部分4bを有する…」
(【0027】)こと、「<別実施形態> 座いすの内部に設けられるフレーム部の構成は、本実施形態のものに限定されるものではなく、種々の構成を採用することができる。」(【0041】)ことが記載されている。このような本件明細書の記載によれば、本件考案(本件考案1ないし5)の「底面部」とは、座面のない座いすを安定した状態で床面等に設置することができるとの作用効果を奏するものであることが求められている一方、「底面部」の具体的な構成及び形状としては、「所定の厚みを有する板状」であって「平面視で矩形状に形成されてい」(【0020】)れば足り、その「外観はカバー材で覆われて」(【0025】)いるが「座いすの内部に設けられるフレーム部の全体構成」(【0027】)は実施形態に限定されず(【0041】)、同フレーム部の構成として種々の構成が想定されている。なお、本件明細書には、「底面部と肘置き部の裏面が同一面になるように構成されていることが好ましい」(【0017】)との記載はあるが、あくまで「好ましい」との指摘にすぎない上、同構成は本件考案(本件考案1ないし5)ではなく別個の【請求項6】に係る【実用新案登録請求の範囲】に記載されていることからすれば、本件考案の「底面部」が「肘置き部の裏面が同一面となる」ものであると限定して解することはできない。
5 このように本件明細書の記載を参酌しても、【実用新案登録請求の範囲】
の文言に係る上記アでの解釈以上に、「底面部」の構成を限定的に解すべき理由は見出せないところ、構成要件Cの「底面部」とは、座いすを安定した状態で床等に設置すべく、「背もたれ部の下部から後方に延びる」座いす下面にある部位であって、角だっていないひろがりの区分であるものと解される。
(2) 被告製品1の充足性
被告製品1は、背もたれ部の下部から後方に向かって接地面まで達する部材を備える構成を有するところ、当該部材部分を「板状部」又は「支持部」と表現するか否かはさておき、当該部材部分には接地面において所定の厚みを有する角だっていないある程度のひろがりを有する区分があり、その形状は平面視で矩形状であると認められる(甲5、6、11)。また、当該部材部分が存在することによって、座面のない被告製品1を安定した状態で床面等に設置することができる(弁論の全趣旨)から、当該部材部分は本件考案と同一の作用効果を奏するものでもある。以上からすれば、被告製品1の上記部材部分は、上記(1)で解釈したところの「底面部」(構成要件C)に該当するといえるから、被告製品1は構成要件Cを充足するもので、その結果、本件考案の各技術的範囲に属するといえる。
3 争点3(無効理由の有無)について
(1) 争点3-1(乙11文献を主引例とする進歩性欠如・本件考案1)
ア 乙11考案の構成等乙11考案は、意匠に係る物品を「背もたれクッション」とする意匠公報(乙11文献)に記載されており、乙11文献には、次の構成が開示されていると認められる。a.背もたれ部とb.背もたれ部の下部から後方に延びる底面部と
5 c.背もたれ部の背もたれ角度を調整するリクライニング構造と
d.を備えたクッションイ 本件考案1と乙11考案との相違点本件考案1は「背もたれ部の下部左右から前方に延びる一対の肘置き部」を備えるが、乙11考案は同部分に相当する構成を備えない点において、両者は相違する。ウ 容易想到性等(ア) 乙18ないし20に開示された技術との組合せ乙18文献には、発明の名称を「座面付きクッション」とする背もたれ部及び肘置き部を備えるクッションが、乙19及び乙20は、座面のない肘置き部を有する背もたれクッションが開示されているから、乙18ないし20には、上記イの相違点に係る構成が開示されている。乙18ないし20に開示されているのは、いずれも背もたれクッションであるから、乙11考案と技術分野において共通する。しかし、乙11考案は、意匠公報(乙11文献)に記載されているもので、乙11文献にその課題に関する記載はないから、乙11考案の課題と乙18ないし20に開示された背もたれクッションの課題が共通すると認めることはできない。また、乙11文献の【意匠の物品の説明】欄には、乙11考案の用途につき、「背もたれクッション」のほか「枕、オットマン、座布団として使用することもできる」と記載されているところ、仮に、乙11考案に上記相違点である肘掛け部の構成を付加すると、上記の「枕」や「座布団」の用途を実現することができなくなる上、背もたれ部と底面部という2つの構成のみから成るデザインであるという乙11考案の意匠としての美観が損なわれることになるから、乙11考案に乙18ないし20に開示された上記肘掛け部の構成を組み合わせることについては阻害要因がある。
5 よって、乙11文献を主引例とし、乙18ないし20に開示された技
術を組み合わせることを理由とする無効理由は認められない。(イ) 乙21文献を副引例とする組合せ乙21文献には、多用途の多目的ソファータイプのクッションに係る考案(乙21考案)として、本体の両側に各アームレストを備える構成が開示されているから、上記イの相違点に係る構成が開示されている。この点、乙11考案と乙21考案の技術分野は、いずれもクッションに関する考案であるとの点において技術分野は共通であるといえるが、上記(ア)のとおり、乙11考案は意匠公報(乙11文献)に記載されているもので、乙11考案の構成やその用途を前提とすると、乙11考案に上記相違点に係る構成である肘掛け部の構成を付加することについては阻害要因がある。よって、乙11文献を主引例とし、乙21文献を副引例として組み合わせることを理由とする無効理由は認められない。
(2) 争点3―2(乙12文献を主引例とする新規性欠如・本件考案1)
ア 乙12考案の構成等乙12文献には、考案の名称を「上体凭れ具」とする実用新案に係る考案(乙12考案)として、次の構成が開示されていると認められる。a.背凭れ部とb.棒材あるいはパイプ材で二つの側部材と後部材からなるU字状に形成され腰を下ろす座面に接して置かれる背凭れ支持体とc.前記両側部材の間を繋ぐ補強部材とd.前記背凭れ支持体の両側部材の間の座面に置き外し自在に置かれるクッションを備えe.前記補強部材の近傍で前記背凭れ支持体の両側部材上に、前記背凭れ部の下端部を、前記背凭れ部の傾斜角度を変える角度調整機構を介して
5 回動自在に取り付け
f.前記背凭れ部の前方に突出し、かつ、前記背凭れ部の両側縁に沿う状態に回動し得る肘掛けを前記背凭れ部の両側に回動自在に装着しg.前記クッションの両側縁部に前記背凭れ支持体の各側部材が着脱自在に挿入される穴を設けh.前記クッションを前記補強部材に着脱自在に結合する取付片を前記クッションの後縁部に設けたi.ことを特徴とする上体凭れ具イ 本件考案1と乙12考案との対比被告は、乙12考案の構成fは本件考案1の構成要件Bと実質的に同一であり、その他の構成は本件考案1の他の構成要件と同一であると主張する。乙12文献には、乙12考案の構成fの「肘掛け」につき、一対の「肘掛け」が「背凭れ部」(本件考案1の「背もたれ部」に相当する。)から前方に延びる構成が開示されているところ、乙12文献の実用新案登録請求の範囲及び明細書には、「肘掛け」が「背凭れ部」のどの位置から延びるかについて明示する記載はなく、実施例(【図1】【図4】など)に「肘置き部」が「背凭れ部」から前方に延びる構成が示されているにとどまり、その点に係る技術的意義の開示もない。一方で、本件考案1における「肘掛け部」は、「背もたれ部」の「下部(左右)」から前方に延びる構成に特定されているもので、本件明細書の記載からは、「後方に延びる底面部」(構成要件C)とともに作用して、座面のない座いすを床等に安定的に設置させられる程度に「下部」から前方に延びる構成であることが求められていると解されるところ、乙12文献の「肘掛け」がそのような構成を開示するものとは認められず、本件考案1の構成要件Bの構成とは相違する。ウ 以上のとおり、本件考案1と乙12考案には相違点がある以上、本件考案1には、乙12文献を主引例とする新規性欠如の無効理由があると認めるこ
5 とはできない。
(3) 争点3-3(乙12文献を主引例とする進歩性欠如・本件考案1)
被告は、本件考案1と乙12考案との相違点が、乙12考案の構成b「棒材あるいはパイプ材で二つの側部材と後部材からなるU字状に形成され腰を下ろす座面に接して置かれる背凭れ支持体」記載の「二つの側部材」の構成の有無のみであることを前提に、乙12文献を主引例とする進歩性欠如の無効理由がある旨主張する。しかしながら、上記(2)のとおり、本件考案1と乙12考案は、本件考案1の構成要件Bの構成を備えるか否かが相違点となるところ、被告の上記主張は相違点の解釈を誤るものである上、副引例等との組合せによる容易想到性について具体的な主張立証をしていない。よって、被告の上記主張は採用できず、乙12文献を主引例とする進歩性欠如の無効理由があると認めることはできない。
(4) 争点3-4(乙13文献を主引例とする進歩性欠如・本件考案1)
ア 乙13考案の構成等乙13文献には、発明の名称を「介護用背もたれ器具」とする発明に係る考案(乙13考案)として、乙13文献の【請求項1】ないし【請求項3】において、次の構成が開示されている。a.下面に滑り止めマットを張った正方形または長方形の底板の上面の一端にb.丁番取り付け桟を取り付け、その上面に2個の丁番を取り付けc.その丁番に底板と同じ大きさの立て板を連結する。d.底板の上面にいくつかの凹みを設けた2本の支柱受け桟を間隔を開けて丁番取り付け桟に対して直角に取り付ける。e.立て板の上部の二か所にボルト穴をあけたL字形の金具を向かい合わせに2個取り付けて、コ字形に曲げた支柱の両端にボルト穴をあけ、その両
5 端をL字形の金具にボルトで連結し、それを軸にコ字形支柱を動かせるよ
うにしたf.介護用背もたれ器具イ 本件考案1と乙13考案との相違点本件考案1と乙13考案との相違点は、本件考案1の構成要件B「背もたれ部の下部左右から前方に延びる一対の肘置き部」の構成の有無である。ウ 容易想到性等(ア) 乙18ないし20に開示された技術との組合せ上記のとおり、乙18ないし20に開示されているのは、いずれも背もたれクッションであるのに対し、乙13考案は、介護用背もたれ器具であるところ、人が背もたれ部に背面を預けて床面等に安定的に座るという意味においては共通するが、介護用であるか広く一般消費者用であるかとの点において大きく異なる以上、両者は、産業上の利用分野及び技術分野において相違するというべきである。また、乙13考案は、「従来の椅子に介護人が病人を抱えて座らせるという重労働を解消するために、介護人が楽に病人を安定した状態で座らせるとの課題(乙13文献【課題】【0002】【0003】)を解決するための背もたれ器具であり、介護人が重労働から解放されて非常に楽になり、器具の滑りを防ぐとともに、器具を閉じたときに出てくる支柱(コ字形支柱)を持ち運びのときの取っ手として利用でき、閉じバンドを設けてマジックテープで止めればコンパクトに収納することができるとの作用効果(同【発明の効果】)」を奏するものである。一方、乙18ないし20に開示された背もたれクッションの作用効果が、乙13考案の上記作用効果を有するものとは認められないから、両者の作用効果は相違する。そして、乙13考案に上記相違点に係る「肘置き部」の構成を付加す
5 ると、介護者の重労働からの解放やコンパクトな収納の実現といった乙
13考案の上記作用効果に反することになるといえ、乙13考案に乙18ないし20に開示された技術を適用することには阻害要因があるというべきである。以上から、乙13文献を主引例とし、乙18ないし20に開示された技術を組み合わせることを理由とする無効理由は認められない。(イ) 乙21考案を副引例とする組合せ上記のとおり、乙21文献には、多用途の多目的ソファータイプのクッションに係る考案(乙21考案)として、本体の両側に各アームレストを備える構成が開示されている。しかし、上記(ア)のとおりの乙13考案の課題及び作用効果等に照らせば、乙13考案と乙21考案は、産業上の利用分野及び技術分野、並びに作用効果において相違する。また、上記(ア)のとおり、乙13考案に上記相違点に係る構成を付加することについては、阻害要因がある。以上から、乙13文献を主引例とし、乙21文献を副引例として組み合わせることを理由とする無効理由は認められない。
(5) 争点3-5(乙14文献を主引例とする進歩性欠如・本件考案1)
ア 乙14考案の構成等乙14文献には、考案の名称を「携帯用座椅子」とする考案(乙14考案)として、次の構成が開示されている。a.背板にb.支柱をねじで取り付けるc.支柱の先端にストッパーを取り付けるd.背板に座布を取り付けるe. 携帯用座椅子
5 イ 本件考案1と乙14考案との相違点
本件考案1と乙14考案との相違点は、本件考案1の構成要件B「背もたれ部の下部左右から前方に延びる一対の肘置き部」の構成の有無である。ウ 容易想到性等(ア) 乙18ないし20に開示された技術との組合せ上記のとおり、乙18ないし20に開示されているのは、いずれも背もたれクッションであり、乙18文献によれば、「ベッド上あるいは床に直接敷いたマットレスや布団の上で使用すること」(乙18文献【0013】)が想定されている。他方、乙14考案は、屋内の使用を目的に作られていた座いすには重くて屋外への携帯に不便であったとの従来の欠点を除くために考案された「携帯用座椅子」であり、海浜や山里への携帯を容易にできるものである(乙14文献「考案の詳細な説明」)。そうすると、両者は、人が背もたれ部に背面を預けて床面等に安定的に座るという意味においては共通するが、産業上の利用分野及び技術分野において相違するというべきである。また、上記のとおり、乙14考案は、屋外への携帯を容易にするとの作用効果を奏するものであるが、乙18ないし20に開示された背もたれクッションの作用効果が同様の作用効果を有するものとは認められないから、両者の作用効果は相違する。そして、乙14考案に上記相違点に係る「肘置き部」の構成を付加すると、携帯の容易性という乙14考案の上記作用効果に反することになるから、乙14考案に乙18ないし20に開示された技術を適用することには阻害要因があるというべきである。以上から、乙14文献を主引例とし、乙18ないし20に開示された技術を組み合わせることを理由とする無効理由は認められない。(イ) 乙21考案を副引例とする組合せ
5 上記のとおり、乙21文献には、多用途の多目的ソファータイプのク
ッションに係る考案(乙21考案)として、本体の両側に各アームレストを備える構成が開示されている。しかし、上記(ア)のとおりの乙14考案の課題及び作用効果等に照らせば、乙13考案と乙21考案は、産業上の利用分野及び技術分野、並びに作用効果において相違する。また、上記(ア)のとおり、乙14考案に上記相違点に係る構成を付加することについては、阻害要因がある。以上から、乙14文献を主引例とし、乙21文献を副引例として組み合わせることを理由とする無効理由は認められない。
(6) 争点3-6ないし3-9(進歩性欠如・本件考案2ないし5)
本件考案2ないし5の進歩性欠如を無効理由とする
(被告の主張)
は、いずれも本件考案1に上記(1)ないし(5)のいずれかの新規性欠如又は進歩性欠如を理由とする無効理由の存在を前提とするものであるが、上記で検討したとおり、本件考案1には
(被告の主張)
する進歩性欠如の無効理由はいずれも認められないから、上記主張は前提に誤りがあり、採用できない。
(7) 争点3-10(サポート要件違反)
被告は、考案の詳細な説明には、本件考案が「座面を有しない座いす」に関するものであると記載されているが、実用新案登録請求の範囲にはそのような記載はなく、座面を有しない座いすに関する考案であるかが不明であるから、本件考案にはサポート要件違反の無効理由があると主張する。実用新案登録請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、実用新案登録請求の範囲の記載と考案の詳細な説明の記載とを対比し、実用新案登録請求の範囲に記載された考案が、考案の詳細な説明に記載された考案で、考案の詳細な説明の記載により当業者が当該考案の課題を解決できる範囲のものであるか否か、また、考案の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願
5 時の技術常識に照らし当該考案の課題を解決できると認識できる範囲のもの
であるか否かを検討して判断すべきものである。この点、本件考案の実用新案登録請求の範囲には、本件考案が「座面を有しない座いす」であるとの明示的な記載はないが、「座面を有しない」構成を除外する記載もない。また、本件明細書によれば、本件考案の課題は「一般的な座いすの場合」座面を有するために使用する場面が限られるという問題」(【0004】)を前提に、「使用可能な場面を拡大した座いすを提供すること」(【0005】)にあるところ、「背もたれ部の下部左右から前方に延びる一対の肘置き部」(構成要件B)の構成は、従来の座いすにない構成(【0007】参照)であるといえ、同文言に「座面を有しない」構成が含まれていると解することはできる。さらに、本件明細書には、座面を有しない座いすの構成として複数の実施形態の記載がある。そうすると、当業者は、本件明細書の記載をもって、本件考案の構成が座面を有しない構成であると認識し得るといえる。したがって、本件考案は、「考案の詳細な説明に記載したものである」といえるから、サポート要件違反の無効理由があると認めることはできない。
(8) 争点3-11(実施可能要件違反)
被告は、「(底面部が)背もたれ部の下部から後方に延びることで、座いすを床面等に載置する際に…安定した状態に保つことを作用効果とする」ことについて「底面部と肘置きの裏面が同一になるように構成されること」を要求されないと解すると、大別して4つのパターンの構成が考えられるが、本件明細書にはこれらの構成や作用効果との関係について、当業者が当該構成を実施可能な程度に明確かつ十分な記載がない旨主張する。しかし、明細書の考案の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するか否かは、当業者が、明細書の考案の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その考案を実施することができる程度に考案の構成等の記載があるか否かを検討して判断すべきであるところ、
5 本件明細書には、「前記底面部と前記肘置き部の裏面が同一面になるように構
成されていることが好ましい」(【0017】)との記載こそあるものの、各部の裏面が必ずしも同一面であることを要求するまでの記載はない。また、本件明細書には、底面部と肘置き部の裏面が同一面となる実施形態として、少なくとも一つのパターンは示されている(【0022】参照)。そうすると、本件明細書の考案の詳細な説明は、当業者が本件考案を実施することができる程度に考案の構成が記載されているといえるから、本件考案に関する実施可能要件違反の無効理由は認められない。
4 争点4(損害の有無及び額)について
(1) 実用新案法29条2項に基づく損害について
ア 賠償請求可能な損害発生の始期証拠(甲8)及び弁論の全趣旨によれば、原告が、被告に対し、被告製品1の販売行為について、本件実用新案に係る実用新案技術評価書を提示して警告をしたのは、令和5年1月16日であることが認められるところ、損害賠償請求権の権利行使が可能であるのは、その後の販売行為ということになる(実用新案法29条の2)。以下、これを前提に、原告の被った損害の額を算定する(原告も、実質において、損害算定の期間については受け入れているものと解されるし、被告も、侵害論そのものを争うことを除き、この期間の過失を否定するものではない。)。イ 限界利益(ア) 被告製品1①について証拠(甲30ないし43、乙39ないし41)及び弁論の全趣旨によれば、上記警告以降の期間である令和5年1月18日から令和7年1月16日までの間に、被告製品1①の販売によって被告が得た限界利益の額は、
(原告の主張)
するとおり、次の計算式により算出される合計245
5 万9730円であると認められる。
【算式】(全期間分)=「限界利益(単価)」×「販売数」・ 限界利益(単価) ●●●●円= 売上単価●●●●円-経費単価合計(仕入価格〔単価〕●●●●円+梱包費〔単価〕●●●●円+得意先への運送費●●●●円)・ 販売数●●●●個なお、原告と
(被告の主張)
は、売上単価及び仕入価格において相違するが、
(原告の主張)
は、金額に関する
(被告の主張)
に対し、新たに開示を受けた費用に係る証拠を踏まえて同主張の金額を修正したものであるところ、その修正内容は証拠(甲30~43)に基づいた正確なものであり、信用できる。(イ) 被告製品1②について証拠(甲44ないし51、乙42、45ないし47)及び弁論の全趣旨によれば、上記警告以降の期間である令和5年2月7日から令和6年11月18日までの間に、被告製品1②の販売によって被告が得た限界利益の額は、
(原告の主張)
するとおり、次の算式により算出される合計217万7040円であると認められる。【算式】(全期間分)=「限界利益(単価)」×「販売数」・ 限界利益(単価) ●●●●円= 売上単価●●●●円-経費単価合計●●●●円(仕入価格〔単価〕●●●●円+購入者への運送費●●●●円+ECサイト手数料●●●●円)・ 販売数●●●●個
5 なお、原告と
(被告の主張)
は、仕入価格において相違するが、原告の主張は、金額に関する
(被告の主張)
に対し、新たに開示を受けた費用に係る証拠を踏まえて同主張の金額を修正したものであるところ、その修正内容は証拠(甲44ないし51)に基づいた正確なものであるから、信用できる。(ウ) 小括以上によれば、被告製品1①及び被告製品1②の販売によって被告が得た限界利益は、合計463万6770円となる。ウ 推定覆滅事由実用新案法29条2項は損害額の推定規定であるから、侵害者の側で、侵害者が得た利益の一部又は全部について、実用新案権者が受けた損害との相当因果関係が欠けることを主張立証した場合には、その限度で前記の推定は覆滅される。(ア) 市場における競合品の存在被告製品1及び原告製品は、いずれも座面がなく、肘置き部及び角度調整可能な背もたれ部のある座いす又はクッションとして販売されている製品である。この点、本件考案は「座いす」に関する考案であり、原告製品は本件考案の実施品であるが、原告自身、原告製品を「クッション」として販売していることからすれば、製品名やカテゴリーが「座いす」であるか「クッション」という点をもって競合品に当たるか否かを検討すべきではなく、「クッション」として販売されている製品であっても、構成や機能等を共通するものは競合品として解するのが相当である。また、原告製品は、販売先のECサイト上の表示によれば、「肘付きクッション いつでも背もたれ ラクラクいつでも背もたれ」とのキャッチフレーズで、フローリングやラグ上で使用でき、便利な肘掛けや調整
5 可能な背もたれリクライニング及びヘッドレストを備えること等を訴
求している(乙27、50)。他方、被告製品1は、販売店のポップアップの表示によれば、「角度が変えられる背もたれ座いす」(甲18)であることを訴求している。そうすると、原告製品及び被告製品1の需要者は、少なくとも、座面がない場所でも安定して利用することができ、角度調整可能な背もたれ部及び肘置き部を有するといった機能性を重視すると解されるから、被告製品1と同程度の形状、性能及び操作性を実現し、同種の用途に用いられる製品は競合品に該当するというべきである。被告が競合品であると主張する製品は、「座いす」や「クッション」を検索キーワードとして表示される製品、及び、そのうちの「座面のない背もたれに肘置きがあるクッション」(乙48ないし51)であるところ、例えば、CANBYGO製の「クッション 背もたれ」(乙20)やぼん家具製の「クッション 背凭れ」(乙19)、Azamia製の「クッション」(乙51)、Jinmoioy製の「クッション」(乙51)は、座面がなく、背もたれ及び肘置き部のある背もたれクッションではあるが、いずれも背もたれ部の角度調整機能を有しているとはいえず、肘置き部と背もたれ部の接地構成が被告製品1及び原告製品と異なるものもあることからすれば、被告製品1及び原告製品と性能、用途等において少なくとも一部が共通する競合品であるといえるとしても、すべての性能等が共通する競合品が存在するとは認められない。そして、座面のない背もたれクッション又は座いすの市場における被告製品1及び原告製品の市場占有率が明らかではなく、一部の性能等において競合品といえる上記製品の販売価格と原告製品の販売価格との間にある程度の差があることは否定できない。以上によれば、市場において競合品が存在することは推定覆滅事由と
5 なるが、これをもって大幅な推定覆滅を認めることは相当ではない。
(イ) 被告の営業努力実用新案法29条2項の推定を覆滅する事由として認められる被告の営業努力とは、通常の範囲を超える格別の工夫や営業努力をいう。この点、被告は、被告製品1(特に被告製品1①)について被告の長年の取引による既存の取引先への販売であって、被告の営業努力によるところが大きいと主張するが、例えば、取引先である●●との取引を行うには●●所定の取引条件を満たす必要があるといった被告指摘の事情を検討しても、被告製品1の売上について、推定覆滅事由とすべきほどまでの格別の工夫や営業努力があったとまで認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。よって、この点は覆滅事由として認めることはできない。(ウ) 被告製品1の性能被告は、被告製品1は、原告製品とは異なり、凹凸な床面でも安定して載置できるという独自の性能を有すると主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。証拠(乙50)によれば、原告製品には転倒防止ストッパーが付属しており、一定の安定した載置が実現されていることも踏まえると、被告製品1が、原告製品と比して独自の優れた性能を有するとはいえない。よって、この点は、推定覆滅事由に当たらない。(エ) 市場の非同一性被告は、被告製品1①について、被告の既存の顧客に対する販売であり、被告製品1②について、被告の自社サイトでの販売であり、被告独自の販路によるものであって、原告と被告では販売販路及び顧客層が異なると主張する。しかし、被告製品1①が被告の既存の顧客に対する販売であるとしても、当該顧客の獲得及び同顧客との取引の継続については、上記(イ)の
5 とおり、通常の範囲を超える格別の工夫等によるものとはいえない。ま
た、被告製品1②が被告の自社サイトでの販売であるとしても、一般消費者を対象とする販売形態とは異ならず、独自の市場における販売であるとはいえない。よって、被告の上記主張は採用できず、この点は推定覆滅事由とはならない。(オ) 推定覆滅の程度以上の検討した諸事情を総合考慮すると、一定数の競合品が存在することによる推定覆滅が認められるところ、本件においては15%の限度で損害額の推定が覆滅されると解するのが相当である。これに反する原告及び
(被告の主張)
はいずれも採用できない。エ 推定覆滅部分への実用新案法29条3項の重畳適用の可否原告は、同条2項の推定覆滅が一部でも認められたとしても、原告の被告に対するライセンスの機会の存在は認められるから、当該推定覆滅部分については、同条3項を適用することができると主張する。この点、同条2項の規定により推定される実用新案権者が受けた損害額は、実用新案権者が侵害者の侵害行為がなければ自ら販売等をすることができた実施品又は競合品の売上げの減少による逸失利益に相当するものであるのに対し、同項による推定の推定覆滅部分について、実用新案権者が実施許諾をすることができたと認められるときは、実用新案権者は、売上げの減少による逸失利益とは別に、実施許諾の機会の喪失による実施料相当額の損害を受けたものと評価できるから、同条3項の適用が否定されることにはならないと解される(知的財産高等裁判所令和2年(ネ)第10024号・令和4年10月20日特別部判決参照)。しかし、本件における推定覆滅事由は、競合品の存在であるところ、その性質上、当該推定覆滅部分について原告に実施許諾の機会があったと認める
5 ことはできず、同部分について、同条3項を適用することはできない。
オ 小括以上によれば、上記イの限界利益額合計463万6770円から15%の推定覆滅がされた394万1254円(税込)が、被告の被告製品1の販売によって原告が被った損害であると認められる。なお、原告の被った損害について、全体として実施料相当額で算定した場合の額(実用新案法29条3項)が、同条2項による上記算定を上回るものでないことは、上記算定経過で表れた利益率や推定覆滅の割合からして明らかといえる。
(2) 弁護士費用
被告の実用新案権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用は、上記認容額、本件事案の内容、経過や差止請求等が認容されるべきであること(後記5も参照)等の事情に鑑みると、50万円と認めるのが相当である。
(3) まとめ
したがって、原告の損害額は444万1254円となる。
(4) 遅延損害金の起算日
遅延損害金の起算日につき、原告は、①訴状の段階から請求していた200万円については訴状送達の日の翌日である令和6年2月29日から、②これを超える部分については請求の拡張申立書送達日の翌日である令和7年10月17日からであると主張する。このうち②については、被告による本件の侵害行為の終期よりも後を起算日とするものであるから、かかる遅延損害金の請求が認められることは明らかであるが、①については、被告による侵害行為が継続中の日を起算点とするものであるところ、同日までに200万円以上の損害が発生していたといえるかを検討する必要がある。そこで検討するに、証拠上、被告製品1についての上記警告の後から令和6
5 年2月29日までの具体的な販売数量・利益額等は明らかでないものの、被告
製品1①の販売期間は令和5年1月18日から令和7年1月16日までの間(約24か月間)、被告製品1②の販売期間は令和5年2月7日から令和6年11月18日までの間(約21か月間)であるところ、対象期間に応じて案分して考えると、令和6年2月29日までに生じた損害は、弁護士費用分を除いても200万円を超えるもので、弁護士費用を加味しての判断としては、200万円以上であったと認めることができ、この認定を妨げるに足りる証拠はない。したがって、遅延損害金は、原告の請求するとおり、①200万円に対する訴状送達の日の翌日である令和6年2月29日から、②これを超える部分である244万1254円に対する請求の拡張申立書送達日の翌日である令和7年10月17日からの分を認容する。
5 差止めの必要性について
被告は、令和7年1月16日に被告製品1の販売を停止し、在庫も存在しないため、被告製品1の製造販売等を差し止める必要性はないと主張するが、被告は、それまでの間、侵害品である被告製品1の製造販売をしていたもので、本件訴訟において本件実用新案権の侵害を争っていることなども踏まえると、被告製品1の製造販売等を差し止める必要性が認められる。
第5 結論
よって、原告の請求は主文の限度で理由があるから、その限度で認容し、その余を棄却することとし、主文のとおり判決する。なお、主文第2項につき、仮執行宣言は相当でないから付さないこととする。大阪地方裁判所第21民事部
5 裁判長裁判官
松 川 充 康裁判官島 田 美 喜 子裁判官西 尾 太 一
| 特許裁判例 実用新案裁判例 |
| 意匠裁判例 商標裁判例 |
| 不正競争裁判例 著作権裁判例 |
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