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令和6(ワ)70521損害賠償請求事件

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裁判所 一部認容 東京地方裁判所
裁判年月日 令和8年2月13日
事件種別 民事
当事者 原告株式会社村井敬合同設計
被告綜合商事株式会社
法令 商標法38条3項5回
商標法26条1項6号3回
キーワード 商標権53回
許諾22回
損害賠償13回
無効10回
侵害9回
実施2回
無効審判1回
主文 1 被告は、原告に対し、4620万円及びこれに対する令和6年11月20日
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを10分し、その3を被告の負担とし、その余は原告の負
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
事件の概要 1 事案の概要 本件は、別紙原告商標目録記載1ないし3の各商標(以下「原告商標1」な いし「原告商標3」といい、これらを併せて「原告各商標」という。 )に係る商 標権(以下、原告商標1から3までに係る商標権を「原告商標権1」ないし 「原告商標権3」といい、これらを併せて「原告各商標権」という。 )を有する 原告が、被告による自身の所有する物件を紹介する別紙被告ウェブページ目録 記載1ないし3の各ウェブページ(以下「被告ウェブページ1」ないし「被告 ウェブページ3」といい、これらを併せて「被告各ウェブページ」という。 )に 別紙被告標章目録記載1ないし3の各標章(以下「被告標章1」ないし「被告 標章3」といい、これらを併せて「被告各標章」という。 )を付す行為が原告各 商標に係る商標権を侵害すると主張して、被告に対し、不法行為に基づき、損

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判決文

令和8年2月13日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和6年(ワ)第70521号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 令和7年10月28日
判 決
5 原 告 株式会社村井敬合同設計
同訴訟代理人弁護士 庭 山 正 一 郎
金 子 憲 康
採 澤 友 香
被 告 綜合商事株式会社
10 同訴訟代理人弁護士 小 川 憲 久
早 川 大 地
主 文
1 被告は、原告に対し、4620万円及びこれに対する令和6年11月20日
から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
15 2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを10分し、その3を被告の負担とし、その余は原告の負
担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
20 第1 請求
被告は、原告に対し、1億5388万9130円及びこれに対する令和6年
11月20日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
1 事案の概要
25 本件は、別紙原告商標目録記載1ないし3の各商標(以下「原告商標1」な
いし「原告商標3」といい、これらを併せて「原告各商標」という。)に係る商
標権(以下、原告商標1から3までに係る商標権を「原告商標権1」ないし
「原告商標権3」といい、これらを併せて「原告各商標権」という。)を有する
原告が、被告による自身の所有する物件を紹介する別紙被告ウェブページ目録
記載1ないし3の各ウェブページ(以下「被告ウェブページ1」ないし「被告
5 ウェブページ3」といい、これらを併せて「被告各ウェブページ」という。)に
別紙被告標章目録記載1ないし3の各標章(以下「被告標章1」ないし「被告
標章3」といい、これらを併せて「被告各標章」という。)を付す行為が原告各
商標に係る商標権を侵害すると主張して、被告に対し、不法行為に基づき、損
害賠償金1億5388万9130円(令和元年10月1日から令和6年9月3
10 0日までの損害として商標法38条3項に基づき算定される額)及びこれに対
する訴状送達の日の翌日である令和6年11月20日から支払済みまで民法所
定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
なお、原告と被告の間においては、原告が被告に対し、本件各商標権に係る
未払商標使用料ないし被告による商標の無断使用を理由とする不法行為に基づ
15 く使用料相当損害金の支払を求める先行訴訟(以下「前訴」という。)を提起し、
その控訴審判決において、被告は、不法行為に基づき、平成28年4月1日か
ら令和元年9月30日までの商標使用料相当損害金の支払を命じられ、同判決
は確定した。本件訴訟は、原告が被告に対し、前訴において支払を求めた以後
の期間に係る商標使用料相当損害金の支払を求めるものである。
20 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠(枝番を含む。以下特
段の断りのない限り同じ。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
⑴ 当事者等
ア 原告は、建築の設計、監理、コンサルタント業務、不動産の管理等を目
的とする株式会社である。(甲1)
25 イ 被告は、不動産の保有及び賃貸等を目的とする株式会社である。(甲2)
ウ 被告代表者であるY(以下「Y」という。)と原告代表者であるX(以下
「X」という。)は兄弟であり、Xは平成9年から被告の取締役、平成11
年12月1日からはYを含む3人の代表取締役の一人として被告の代表取
締役に就任し、被告の不動産事業を担当していたが、平成26年9月15
日付けの被告取締役会において代表取締役から解職され、平成27年2月
5 19日付け被告株主総会において取締役からも解任された。(甲43、51、
乙109~111)
⑵ 原告の商標権
原告は、原告各商標に係る商標権(原告各商標権)を有しているほか、登
録商標を「日本芸術センター」とする商標権(登録番号第5204518号。
10 以下、当該商標を「原告関連商標」という。)を有している。(甲7~12、
23)
⑶ 被告による不動産事業
被告は、平成10年頃、不動産事業を開始し、以下の3物件(これらの3
物件を併せて「本件各物件」という。)を含む建物を建設し、不動産事業を行
15 っている。(甲4~6、25~27、126~138、143、238、乙3
9~43、46、79、91)
ア 足立物件
被告は、平成18年3月、東京都足立区に地下1階地上22階建の建物
(以下「足立物件」という。)を建設した。
20 足立物件には、劇場、会議室、ピアノラウンジ、スタジオ等の一般利用
者向けの施設及び賃貸住宅兼事務所が設けられているほか、足立区が運営
するハローワーク、創業者支援のための創業支援館なども設けられている。
また、足立物件は、東京芸術センターという名称が付されている。
イ 神戸物件
25 被告は、平成20年1月、兵庫県神戸市中央区に地上37階建の建物
(以下「神戸物件」という。)を建設した。
神戸物件には、芸術劇場、音楽ホール、グランドサロン、会議室、スタ
ジオ等の一般利用者向け施設や賃貸住宅が設けられている。
また、神戸物件は、神戸芸術センターという名称が付されている。
ウ 福岡物件
5 被告は、平成13年10月、福岡県福岡市博多区に地下1階地上15階
建の建物(以下「福岡物件」という。)を建設した。
福岡物件には、店舗や住居として利用できる区画が設けられている。
また、福岡物件は、福岡都心共同住宅と福岡芸術センターという2つの
名称が付されている。
10 ⑷ 被告によるウェブサイトの開設等
被告は、平成29年9月頃、ウェブサイト(以下「被告ウェブサイト」と
いう。)を開設し、少なくとも令和6年11月5日までの間、同ウェブサイト
内において、以下の表示をしていた。(甲25~27、30~33)
ア 被告ウェブページ1の表示
15 被告ウェブページ1には、足立物件の写真が掲載され、その横に「Art
Center of Tokyo 東京芸術センター」との文字が記載されており、足立物
件の所在地、構造、竣工時期、アクセス方法、フロア構成などが紹介され
るとともに、次の記載がある。
「文化芸術の発信の場としてご利用いただける複合施設」
20 「天空劇場(21階・22階)
最大400名収容可能。
演劇、演奏会、展示会等多目的に利用可能です。
スタジオ(2階から4階)
写真撮影スタジオや映画上映スタジオがあります。
25 SOHO(住宅兼事務所)(12階から19階)
47㎡・64㎡・81㎡の3タイプ、計96戸をご用意しています。」
イ 被告ウェブページ2の表示
被告ウェブページ2には、神戸物件の写真が掲載され、その横に「Art
Center of Kobe 神戸芸術センター」との文字が記載されており、神戸物
件の所在地、構造、竣工時期、アクセス方法、フロア構成などが紹介され
5 るとともに、次の記載がある。
「劇場や音楽ホール、商業施設も併設する快適で便利な賃貸住宅」
「賃貸住宅
172戸24タイプ
賃貸住宅のロビーにはコンシェルジュがあり、ご入居者やご来館者のみ
10 なさまをサポートさせていただきます。
芸術センター(1階~5階)
芸術に親しめる各種施設をご用意しています。」
ウ 被告ウェブページ3の表示
被告ウェブページ3には、福岡物件の写真が掲載され、その横に「Art
15 Center of Fukuoka 福岡芸術センター」との文字が記載されており、福岡
物件の所在地、構造、竣工時期、アクセス方法、フロア構成などが紹介さ
れるとともに、次の記載がある。
「JR博多駅より徒歩10分 SOHOでの使用が可能な家具、家電も完
備した賃貸住宅」
20 「住居
112戸8タイプ。生活に必要な家具、家電もついています。」
⑸ 前訴の概要
原告は、被告に対し、主位的に、商標使用許諾契約に基づき、平成28年
4月1日から同年9月末日までの未払商標使用料453万6000円及び同
25 契約終了後の商標の無断使用を理由として、不法行為に基づき、同年10月
1日から令和元年9月末日までの商標使用料相当損害金2721万6000
円の各支払を、予備的に、上記期間を通じて商標の無断使用を理由として、
不法行為に基づき、平成28年4月1日から令和元年9月末日までの商標使
用料相当損害金3175万2000円の支払を求める訴訟を提起した(東京
地方裁判所平成31年(ワ)第2614号商標使用料等請求事件)。東京地方
5 裁判所は、令和4年10月25日、商標許諾契約に係る契約書の成立の真正
が認められないこと、原告の被告に対する商標権の行使が権利濫用であるな
どとして、原告の請求を棄却する判決をした。(乙1)
原告は、上記判決を不服として控訴したところ(知的財産高等裁判所令和
4年(ネ)第10117号商標使用料等請求控訴事件)、知的財産高等裁判所
10 は、令和6年4月10日、商標使用許諾契約は利益相反取引として無効であ
るとしつつ、原告の被告に対する商標権の行使は権利濫用に当たらないとし
て、原判決を変更し、予備的請求を全部認容する判決をした。(甲3)
3 争点
⑴ 被告各ウェブページに被告各標章を付すことが「使用」に当たるか(争点
15 1)
⑵ 被告各標章が「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認
識することができる態様により使用されていない商標」(商標法26条1項6
号)に当たるか(争点2)
⑶ 原告による不法行為に基づく損害賠償請求権の行使が権利の濫用として許
20 されないか(争点3)
⑷ 損害の発生及び損害額(争点4)
4 争点に関する当事者の主張
⑴ 争点1(被告各ウェブページに被告各標章を付すことが「使用」に当たる
か)について
25 (原告の主張)
被告は、原告各商標の指定役務に含まれる建物の貸与、音響用又は映像用
スタジオの提供、会議室及び展示施設の貸与に関し、被告各ウェブページに
おいて原告各商標と同一の被告各標章を表示しており、当該表示行為は、役
務に関する広告を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する
行為であるから、使用に当たる。
5 (被告の主張)
被告各ウェブページに被告各標章が表示されていたことは認めるが、その
余は否認ないし争う。
被告の所有する本件各物件の名称は、それぞれ東京芸術センター、神戸芸
術センター及び福岡芸術センターであるところ、被告各ウェブページにおい
10 て、被告各標章は、被告が所有する物件を紹介するために使用されているに
すぎず、原告各商標の指定役務である建物の貸与、音響用又は映像用スタジ
オの提供、会議室及び展示施設の貸与に関する表示ではない。
⑵ 争点2(被告各標章が「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務である
ことを認識することができる態様により使用されていない商標」(商標法26
15 条1項6号)に当たるか)について
(被告の主張)
被告各ウェブページにおける被告各標章の表示は、被告が所有する物件名
を表示したものにすぎず、役務の提供について使用していないのであるから、
これらの表示が原告各商標権の出所表示機能を侵害することはない。
20 (原告の主張)
被告ウェブサイトにおける被告各標章が掲載された被告各ウェブページに
おいては、賃借人や利用者を誘引する文言が記載されており、被告各標章は、
何人かの業務に係る役務であることを認識することができる態様により使用
されているといえる。
25 ⑶ 争点3(原告による不法行為に基づく損害賠償請求権の行使がいずれも権
利の濫用として許されないか)について
(被告の主張)
本件における原告の商標権侵害に基づく損害賠償請求は、以下で述べると
おり、権利濫用である。
ア 正当に商標権が帰属すべき者に対して商標権を行使していること
5 原告各商標はいずれも本件各物件の名称と同一であるところ、いずれの
物件も被告の事業としてその建設及び運営が進められたものであり、真の
原告各商標権の帰属主体は被告である。
特に、原告商標1は、Xが、被告の代表取締役として被告名義で商標登
録出願を行い、登録査定を受けた後、原告に出願人名義を変更した結果、
10 原告が商標権者となっている。このような出願人名義の変更は、被告との
関係で利益相反取引となるところ、被告の他の取締役は出願人名義変更の
事実を認識しておらず、被告取締役会において、当該取引を承認する決議
は行われていないのであるから、出願人名義の変更は無効であり、原告商
標1の商標登録出願により生じた権利はいまだ被告にある。
15 また、原告商標2及び同3は、被告所有の物件名称として決定されたも
のを、原告が被告に無断で商標登録出願及び設定登録したものである。
そして、原告各商標は、いずれも本件各物件の名称が決定されて以降、
現在に至るまで、本件各物件の名称として一般に使用されており、原告も
本件各物件の存在を前提とした使用をしている。
20 このように、原告各商標は、本件各物件の名称として周知されているも
のであって、原告独自の信用が化体したものではなく、本来、本件各物件
の所有者である被告に正当に帰属すべきものであり、原告が被告の商標権
侵害を主張し、損害賠償請求を行うことは、権利の濫用として許されない。
イ 不正目的をもって商標権が取得・行使されていること
25 原告各商標の商標登録出願は、本件各物件を所有する被告名義で行うの
が自然であり、原告による名義人変更や商標登録出願は、本来行う必要が
なく、少なくとも被告にとっては何の利益もない。他方で、原告は商標権
者となることにより、使用料を請求する名目を有することになり、かつ、
被告による自身のウェブサイトへの自社保有物件名の掲載を抑止すること
が可能となり、被告の事業運営への影響力という利益を得ることができる。
5 加えて、原告商標1において被告名義で商標登録出願後、登録査定がさ
れていることから、原告各商標について、被告名義で商標登録出願ができ
ないという事情も存在しない。
このように、被告にとって、あえて行う必要がなく、一方的に原告にと
って有利な名義変更や商標登録出願が原告により行われているのは、原告
10 が被告から利益を得るためや、被告の事業運営に影響力を行使して、利益
構造を維持するためという不正な目的に基づくものというほかない。
ウ 被告の使用態様からして実質的な損害がないこと
被告ウェブサイトは、Xが被告名義で虚偽の内容を記載したウェブサイ
トを掲載し続けていたことから開設したものであり、被告において何らか
15 の利益を享受しようという意図はない。被告は、被告各ウェブページを用
いて本件各物件の賃借人の募集等を行っていないし、原告又は原告の関連
会社が本件各物件を不法に占有していることから、賃借人の募集等を行う
ことができていない。
他方で、原告又は原告の関連会社は、本来使用権原が無いにもかかわら
20 ず、被告に無断で本件各物件の貸与等の役務の提供を行っている。
このように、被告ウェブサイトの開設は、Xによる虚偽内容のウェブサ
イトの掲載が原因である上、原告各商標の使用態様や被告ウェブサイトの
機能、効果、原告による役務の提供状況に鑑みても、原告に実質的な損害
はなく、原告による商標権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求は、権利
25 の濫用というべきである。
(原告の主張)
ア 原告各商標権の帰属すべき主体について
被告は、原告商標1について、被告から原告に対する出願人名義変更が
無効であり原告商標1の商標登録出願により生じた権利はいまだ被告にあ
ると主張するが、原告商標1の設定登録日から5年が経過していることか
5 ら無効の抗弁を提出することはできない。
また、被告が述べる本件各物件の名称の決定、本件各物件の管理運営及
び広報活動による一般への原告各商標の周知は、従業員のいない被告に代
わり、全て原告が担ってきたのであり、原告こそが、本件各物件に係る事
業を遂行し、その信用を形成してきた。このような原告の役割と貢献に鑑
10 みれば、原告各商標を原告に帰属させることは何ら不合理ではないし、被
告においても原告の商標登録出願を認識していた。
さらに、節税等の目的で、知的財産権を含む資産を関係会社や子会社に
分配して保有させるなどして利益を関係会社等に分散させることは、企業
経営者の経営判断として一般に採用し得る手法であって、商標権を、事業
15 主体である被告ではなく、その事業運営を請け負う原告が取得し、被告か
らその商標使用料の支払を受けることが直ちに不自然であるとはいえず、
被告が本件各物件の所有者であるからといって、原告各商標権が「被告に
正当に帰属すべきもの」とはいえない。
イ 不正目的をもって商標権が取得・行使されていないこと
20 上記アのとおり、原告が被告の取締役に無断で原告各商標の商標登録出
願や登録をしたということは認められず、また、原告各商標の商標登録出
願を原告がしたことが不合理であるということも認められない。
したがって、原告に原告各商標権の取得及び行使について「不正な目的」
があるという主張は、被告の根拠のない憶測であって、失当である。
25 ウ 被告の使用態様について
上記⑵(原告の主張)のとおり、被告各標章が掲載された被告各ウェブ
ページは、賃借人や利用者を誘引する文言が記載されるなど、広告的機能
を有しているところ、仮に、被告が述べるように、原告が運営するウェブ
サイトに誤った情報が掲載され、これが訂正されないために被告ウェブサ
イトが開設され、被告において何らかの利益を享受しようという意図がな
5 いとすれば、当該誤った情報を訂正するような情報を掲載すれば足りるは
ずであるが、そのような情報は被告ウェブサイトに掲載されておらず、専
ら被告の不動産事業を広告する情報を掲載している。
また、被告は、原告が本件各物件の管理運営業務を継続していることに
より、当該業務の対価としての報酬を支払わずに本件各物件の賃料収入を
10 収受し続けている。
このような被告の被告各標章の使用態様からすれば、原告による商標権
侵害に基づく損害賠償請求が権利濫用であるとはいえない。
⑷ 争点4(損害の発生及び損害額)について
(原告の主張)
15 ア 商標法38条3項による損害額の算定
被告の原告各商標権の侵害により原告に生じた損害は、商標法38条3
項により使用料相当額をもって算定されるべきである。
原告が把握する直近(平成26年10月1日から平成27年9月30日ま
で。以下「平成27年9月期」といい、同様の方法で会計年度を表記す
20 る。)の本件各物件における各事業の年間売上額に、全商標分類のロイヤル
ティ率の平均値である2.6%を乗じた金額は以下(ア)ないし(ウ)のとおり
である。
したがって、その合計額は、1年当たり3077万7826円であり、
令和元年10月1日から令和6年9月30日まで5年間の損害額は、1億
25 5388万9130円となる。
(ア) 足立物件
年間売上額 6億9511万5749円
2.6%を乗じた金額 1807万3009円
(イ) 神戸物件
年間売上額 3億9565万0063円
5 2.6%を乗じた金額 1028万6902円
(ウ) 福岡物件
年間売上額 9299万6740円
2.6%を乗じた金額 241万7915円
イ 損害不発生の抗弁について
10 被告が損害不発生の抗弁の根拠として主張する被告各標章が原告との出
所誤認を生じさせないことや、被告が被告ウェブサイト上で賃借等の募集
をしていないことなどの事情は、損害の不発生を基礎付けるものではない。
(被告の主張)
ア 損害不発生の抗弁
15 原告各商標が商標登録出願及び登録されたのは、被告や自治体により本
件各物件の名称が決定された後であり、かつ「東京芸術センター」、「神戸
芸術センター」及び「福岡芸術センター」の言葉は、被告のみならず第三
者においても、専ら本件各物件の建物名称を指すものとして認知されてお
り、これらの言葉を聞いたり、見たりして需要者が想起するのは本件各物
20 件そのものである。そのため、原告との出所誤認は生じず、原告各商標独
自の顧客吸引力は認められない。
また、原告各商標は、標準文字商標であり意匠性はない上、構成も地名、
芸術という普通名詞、センターという場所を示す名詞を組み合わせたもの
にすぎず、建物名称として特徴的なものとはいえない。本件各物件の賃
25 料・使用料収入のうち相当の部分は建物利用そのものに関する対価であっ
て、原告各商標を使用する対価は含まれておらず、取引の実態としても、
当該建物を利用するかどうかは、その立地、床面積、間取り、設備、価格、
周辺環境等の事情を重視して判断するのが通常であり、原告各商標の存在
を理由として本件各物件を利用する者は想定し難く、本件各物件に関し原
告各商標には顧客吸引力は認められないし、被告の売上への寄与もない。
5 さらに、被告が所有する本件各物件の名称を自社のウェブサイトのペー
ジである被告各ウェブページに掲載する行為によって、使用料が発生する
ことはおよそ観念し難く、また、被告において賃借人等の募集も行ってい
ないのであるから、原告各商標の使用は被告の売上に全く貢献していない。
したがって、得ベかりし利益としての使用料相当額の損害は原告に生じ
10 ていない。
イ 損害額について
原告の主張する平成27年9月期の本件各物件の売上額は否認する。
原告が売上額の根拠とする減損分析資料(甲28)には作成名義人とさ
れるAⅰ公認会計士の記名や押印もないことから、その成立の真正を争う。
15 また、同資料に記載された金額の根拠もないことから、信用性も認められ
ない。
上記アのとおり、原告各商標の顧客誘引力は乏しく、かつ、被告の売上
げに対する貢献はないし、被告ウェブサイトでの原告各商標の掲示が、原
告による本件各物件における無権原での事業を阻害している事情はないの
20 であるから、年間2.6%という使用料率は著しく高率であり、本件にお
いては、0.25%を上回ることはない。
また、原告は前訴において、原告と被告との間で締結された商標使用許
諾契約における使用料をもって、使用料相当損害金であると主張していた
ことからすれば、原告において同契約に定める使用料が相当であると認識
25 していたというべきであり、商標法38条3項に基づく使用料相当損害金
は、前訴の金額を下回る金額が損害とされるべきである。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前記前提事実並びに後掲証拠(枝番を含む。以下特段の断りのない限り同じ。)
及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認定することができる。
5 ⑴ 被告における不動産事業開始の経緯
ア 被告は、昭和42年6月7日、X及びYの父が創業者として設立した警
備会社(以下「本件警備会社」といい、その創業者であるX及びYの父を、
単に「創業者」という。)の株式の保有及び管理を目的として設立された株
式会社である。
10 イ 被告は、本件警備会社の株式を含む投資有価証券以外の財産をほとんど
有していなかった。しかし、創業者が亡くなった後、被告の株式を承継し
たX及びYを含む創業者一族は、本件警備会社の将来の発展及び株価の上
昇を見越すと、創業者の妻が死亡し、その子らが相続する段階で、被告の
株式について多額の相続税が課されることを懸念するようになった。そこ
15 で、創業者一族は、被告の株式に係る相続税の評価に際し、類似業種比準
方式(非上場企業の株価の評価方法の一つで、事業内容が類似している上
場企業の株価と比較することで算定する手法)を受けられるようにするこ
とで、相続税を節税することを考え、平成9年12月頃に、被告において
建物を建設して所有し、当該建物を利用して不動産賃貸事業及び展示ホー
20 ル等の貸館事業(不動産事業)を行うこととした。(甲43、153、15
7、237、238、239)
ウ 被告は、不動産事業の運営を、不動産事業について知見を有していたX
に任せることとし、Xは、平成9年12月3日、被告の不動産事業の担当
として取締役に就任し、平成11年12月1日には被告の代表取締役に就
25 任した。被告は、不動産事業に従事する従業員を雇用しておらず、同事業
の運営は、Xが経営する原告ないしその関連会社に行わせることとされ、
原告と被告との間で、物件の管理等の事業全般に関する業務を原告に委託
し、これに対し被告が報酬を支払う旨の契約(以下「本件各業務委託契約」
という。)が締結された。(甲43、51、126~138、153、19
8、234、238)
5 ⑵ 本件各物件の名称及び原告各商標権等の取得の経緯
ア 足立物件
(ア) 名称
被告は、足立区が平成12年頃に実施した「足立区本庁舎跡地の開
発・整備事業プロポーザル」との名称のコンペティションに、官民パー
10 トナーシップ事業を行う施設として足立物件の建設計画を提案し、平成
14年7月頃に採用された。
Xは、被告代表者として、足立区に対し、足立物件の名称を「東京芸
術センター」とすることを提案し、足立物件が竣工する平成18年3月
までには、正式名称が「東京芸術センター」と決定された。(甲18、1
15 43~145、238、乙2、44、81、82)
(イ) 原告商標権1の取得
被告は、平成17年3月7日、出願人名を被告、出願人住所を原告の
本店所在地とする原告商標1の商標登録出願をし、同年11月18日、
登録査定を受けた。その後、被告は、同年12月6日、特許庁に対し、
20 出願人名義を被告から原告に変更することを求める旨の出願人名義変更
届を提出し、平成18年1月27日、原告を商標権者とする原告商標1
の設定登録がされた。(甲7、8、242~244、乙4~7、116~
118)
イ 神戸物件
25 (ア) 名称
被告は、平成16年12月、神戸市による「JR新神戸駅前布引車庫
跡地土地利用計画」との名称のコンペティションに、布引車庫跡地を利
用して芸術・文化発信の拠点となる「神戸芸術センター」の建設計画で
ある「神戸芸術センタープロジェクト」を提案し、採用された。
神戸物件は、平成20年1月に竣工したところ、その名称は、被告が
5 提案した「神戸芸術センター」が継続して使用されることとなった。(甲
19、41、143、144、乙45)
(イ) 原告商標権2の取得
原告は、平成18年6月7日、原告商標2について商標登録出願をし、
同年12月22日、原告を商標権者とする原告商標2の設定登録を受け
10 た。(甲9、10)
ウ 福岡物件
(ア) 名称
福岡物件は、平成13年10月に竣工し、福岡都心共同住宅との名称
を用いて家具家電付賃貸住宅事業が行われていたが、平成20年1月に
15 「神戸芸術センター」が竣工したことを機に、被告が東京、神戸及び福
岡の3拠点体制により芸術文化事業を実施していることを明確にするた
め、同年2月頃、「福岡芸術センター」の名称も併用されることになった
(甲21、38、143)。
(イ) 原告関連商標の取得
20 原告は、平成19年12月4日、原告関連商標(日本芸術センター)
の商標登録出願をし、平成21年2月20日、原告を商標権者とする原
告関連商標の設定登録を受けた。(甲23、弁論の全趣旨)
(ウ) 原告商標権3の取得
原告は、平成26年7月25日、原告商標3の商標登録出願をし、平
25 成27年7月3日、原告を商標権者とする原告商標3の設定登録を受け
た。(甲11、12)
⑶ 原告各商標の使用及び被告による使用料の支払
ア 原告は、原告商標1、原告商標2及び原告関連商標の設定登録を受けた当
初、被告に対し、これらの商標の使用を無償で許諾していたが、被告の税
務を担当する税理士から、商標の無償での使用許諾は原告から被告への寄
5 付に該当し、税務上問題がある旨の指摘を受けた。
そこで、Xは、原告と被告との間の商標の有償使用に係る契約を締結す
ることとし、被告が原告に対し、原告各商標の使用料として本件各物件の
年間売上の0.5%程度を限度として支払うことを決議した旨の平成20
年2月23日付け被告取締役会議事録を作成し、また、同年10月1日付
10 けで、原告代表取締役であるXの記名押印及びXとは別の被告代表取締役
の記名押印のある「商標使用に関する契約書(甲23。以下「本件商標使
用許諾契約書」といい、同契約書上の契約を「本件商標使用許諾契約」と
いう。)を作成した。(甲22、23、238、弁論の全趣旨)
イ 本件商標使用許諾契約書においては、原告商標1、原告商標2及び原告
15 関連商標が対象商標とされ、「福岡芸術センター」の名称は、原告関連商標
により保護されるものとされていた。原告商標1の使用料は、1か月当た
り31万5000円(平成18年1月27日からの分を含む額であり、う
ち消費税が1万5000円)、原告商標2の使用料は、1か月当たり31万
5000円(平成18年12月22日からの分を含む額であり、うち消費
20 税が1万5000円)、原告関連商標の使用料は、1か月当たり10万50
00円(うち消費税が5000円)とされていた。
ウ 被告は、原告に対し、平成21年8月20日から平成28年2月10日
までの間、原告商標1、原告商標2及び原告関連商標の商標使用料の名目
で、本件商標使用許諾契約書所定の金員を支払った。(甲148、184~
25 197)
エ 平成22年10月1日から平成23年9月30日を事業年度とする被告
の確定申告書の付属明細書には、「未払金の内訳書」として、原告に対する
未払金として「その他-業務委託費(神戸芸術センター商標権使用料)」、
「その他-業務委託費(東京芸術センター商標権使用料)」、「その他-業務
委託費(日本芸術センター商標権使用料)」が記載されていた。
5 また、Yは、平成23年12月23日の被告株主総会において、上記未
払金が存在する前提で作成された貸借対照表や損益計算書等の報告を受け
ていた。(甲113、148、153、171、184~197、乙29)
⑷ 被告ウェブサイト作成の経緯
Xは、遅くとも平成26年9月15日までに、被告が管理及び運営するウ
10 ェブサイト(以下「旧ウェブサイト」という。)を開設した。
旧ウェブサイトには、トップページに被告の商号とともに、本件各物件を
含む複数の物件名が表示され、会社概要のページには、被告の所有不動産と
して、神戸芸術センター、東京芸術センター、福岡都心共同住宅等の名称が
記載されていた。
15 旧ウェブサイトは、平成27年2月19日にXが被告の取締役を解任され
た後、更新されないままとなっていたところ、被告は、平成29年9月頃、
新たに、被告各ウェブページを含む被告ウェブサイトを開設した。
(甲25~27、30~33、乙39~43、106、107)
⑸ Xの被告取締役解任の経緯等
20 ア 平成25年11月13日に創業者の妻が死亡した。同人は、その保有す
る被告の株式の一部を第三者(財団)に遺贈していたところ、これが判明
したことを機に、創業者一族の間で相続をめぐる紛争が生じた。(乙67、
68)
イ Xは、創業者の妻が行った遺贈の効力を争い、平成26年9月12日、
25 その遺言執行者に対し、被告の取締役会の決議を経ることなく、取締役会
の決定事項であるとして、遺言執行者からの株式譲渡承認請求を拒絶する
意思を表明した。そこで、被告は、平成26年9月15日付け取締役会に
おいてXを代表取締役から解職し、平成27年2月19日付け株主総会に
おいて同人を取締役から解任した。(乙109~111)
ウ Yは、Xが行っていた業務の内容を把握するため、原告に対し、被告の
5 運営及び取引に係る書類等の引渡し又は開示を、原告の関連会社に対し、
被告との間の取引に係る書類等の引渡し又は開示をそれぞれ求めたが、い
ずれも拒否された。そこで、被告は、平成28年5月23日付け解約通知
書をもって、本件各業務委託契約並びにその他全ての契約を解除する旨の
意思表示をし、同通知書は、同月25日、原告及びその関連会社に到達し
10 た。(乙23~27)
エ 他方で、原告は、平成28年1月に被告名義の預金口座の代表者名義が
XからYに変更されて以降、被告が本件各物件の公租公課等の支払を停止
したため、同年4月3日以降、複数回にわたり支払を督促したものの、被
告がこれに応じないことから、同年9月12日、被告に対し、原告各商標
15 の使用許諾を停止する旨通知した。(甲24)
2 争点1(被告各ウェブページに被告各標章を付すことが「使用」に当たるか)
について
前提事実⑷のとおり、被告各ウェブページには、原告各商標と同一の表示で
ある被告各標章が付されているほか、本件各物件の特色や賃貸住宅の特色、提
20 供する役務の内容などが記載されており、原告各商標の指定役務に含まれる建
物の貸与について、申込みの誘因を行う態様で用いられていることが認められ
る。
よって、被告が被告各ウェブページに被告各標章を付すことは、役務に関す
る広告を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為である
25 といえるから、「使用」に当たると認められる。
3 争点2(被告各標章が「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であるこ
とを認識することができる態様により使用されていない商標」(商標法26条1
項6号)に当たるか)について
⑴ 上記2のとおり、被告各標章は、原告各商標の指定役務に含まれる建物の
貸与について、申込みの誘因を行う態様で用いられていることからすると、
5 「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することがで
きる態様により使用されていない商標」であるとは認められない。
⑵ これに対し、被告は、被告ウェブサイトにおける被告各ウェブページの表
示は、被告が所有する本件各物件の名称を表示したにすぎない旨主張する。
しかしながら、前提事実⑷のとおり、被告各ウェブページにおいては、本
10 件各物件の特色や賃貸住宅の特色、提供する役務の内容が記載されているの
であって、このような表示は、単に本件各物件の名称を表示したものである
ということはできない。
よって、被告の上記主張は採用することができない。
なお、被告は、被告ウェブサイトは、被告の代表取締役を解任されたXが、
15 自身が被告の代表取締役であるといった虚偽の内容の旧ウェブサイトを掲載
し続けていたため開設したものであり、利益を享受しようとする意図がない
とか、本件各物件はいずれも原告又は原告の関連会社が不法に占有されてお
り、被告において本件各物件を用いた事業をすることができる状況になく、
また、実際に本件各物件について賃借人の募集等の役務の提供を行っていな
20 いなどとも主張するが、これらの主張に係る事情は、被告ウェブサイト上の
被告各ウェブページの内容ないし被告各標章の表示態様に関するものではな
く、前記認定を左右するものではない。
4 争点3(原告による不法行為に基づく損害賠償請求権の行使が権利の濫用と
して許されないか)について
25 ⑴ 原告が正当に商標権が帰属すべき者に対して商標権を行使しているとの主
張について
ア 被告は、原告各商標は、本件各物件の名称として周知されているもので
あって、原告独自の信用が化体したものではなく、本来、本件各物件の所
有者である被告に正当に帰属すべきものであるとして、原告が商標権侵害
を理由に損害賠償請求することが権利の濫用に当たると主張する。
5 イ 確かに、前提事実⑶及び認定事実⑵のとおり、本件各物件は、いずれも
被告の事業としてその建設及び運営が進められたものであり、原告各商標
は、いずれも本件各物件の名称と同一であるから、一般論として、不動産
事業を行うに当たり、事業対象である不動産に付された名称を商標権とし
て権利化するのであれば、その帰属を同一の者とすることは、権利関係の
10 複雑化を避ける意味で、合理的であるといえなくもない。
もっとも、認定事実⑴イのとおり、被告の不動産事業は、創業者一族に
おいて、被告の株式に係る相続税を節税することを目的として始められた
ものであり、しかも、同ウのとおり、被告の不動産事業は、これに従事す
る従業員を被告において雇用しておらず、不動産事業について知見を有し
15 ていたXに任され、Xが代表者である原告ないしその関連会社に事業運営
が委託されていたことが認められる。
このような事情を前提にすると、いずれも創業者一族により経営されて
いる被告及び原告において、本件各物件に係る所有権の帰属と商標権の帰
属が分属されることになっても、直ちに不都合が生じることは想定されて
20 おらず、むしろ、被告の資産価値を減少させることにより被告株式の評価
額が減少する関係にあることからすると、資産として計上されるべき知的
財産を、実際に当該知的財産を利用する業務を行う関連会社等に分散させ
ることは、経営者の経営手法として一般に採用し得る手法であるといえる。
そうすると、本件の事実関係を前提にする限りは、実際の事業を行う原告
25 において原告各商標を取得することが明らかに不自然、不合理であるとま
では言い難い。
ウ これに対し、被告は、X以外の被告の取締役は、原告商標1に係る出願
人名義変更の事実を認識していなかったとか、原告商標2及び3は、原告
が被告に無断で商標登録出願及び設定登録したと主張する。
しかしながら、前記イのとおり、被告における不動産事業は専らXに任
5 されていたのであるから、X以外の被告の取締役において、事業の詳細に
ついての認識を欠いたとしても不自然ではなく、むしろ、Xは被告の代表
取締役でもあったのであるから、X以外の被告の取締役が詳細を承知して
いないことが、直ちに原告が被告に無断で行ったことになるものでもない。
そして、認定事実⑶のとおり、原告商標1、原告商標2及び原告関連商
10 標が、税務上の問題により、原告から被告への無償での使用許諾から、本
件商標使用許諾契約書に基づく有償での使用許諾へと変更され、かつ、被
告においては、同契約書に対応する支払及び会計処理が行われ、そのよう
な会計処理を前提とする決算書類が被告の株主総会において報告されるな
ど、本件各物件に係る所有権の帰属と商標権の帰属が異なることについて
15 は、客観的に明らかにされていたことが認められるし、そのことは、被告
の代表取締役であったYにおいても、容易に知り得た事実であったことが
認められる。
しかるに、Yを含む被告の取締役において、被告が本件各業務委託契約
を解除する平成28年5月以前に異議を述べたことはうかがわれないし、
20 その他、被告内において、本件各物件に係る所有権の帰属と商標権の帰属
が異なることについて疑義が生じたり、問題視された形跡は見当たらない。
そうすると、本件各物件に係る所有権の帰属と商標権の帰属が異なるこ
とについては、被告においては所与のものとして受け入れられていたとい
うべきであって、これに反する被告の上記主張は採用することができない。
25 エ なお、被告は、出願人名義の変更は無効であり、原告商標1の商標登録
出願により生じた権利はいまだ被告にあるとも主張する。
確かに、前記認定事実⑵ア(イ)のとおり、原告商標1は、当初、被告名義
で登録出願がされ、登録査定を受けた後、原告への出願人名義変更がされ
ているところ、当該出願人名義変更は、原告商標1の設定登録を受ける権
利を被告から原告に移転するものであるから、利益相反取引に該当し、被
5 告の取締役会において承認を得ていない以上、被告は、当該出願人名義変
更についての無効を主張することができたといえる。
もっとも、原告商標1の設定登録日である平成18年1月27日からす
でに5年が経過していることから、無効審判により無効とすることはでき
ず(商標法46条1項4号、47条)、当該事由をもって、原告商標1が無
10 効とされるべき商標であると主張することはできないのであるから、当該
出願人名義変更の存在をもって原告商標権1の行使を制限すべきであると
はいえない。
オ 以上によれば、原告各商標が、本件各物件の名称を商標とするものであ
ることを考慮に入れたとしても、原告による損害賠償請求権の行使が権利
15 濫用に該当するとは認められない。
よって、被告の上記主張はいずれも採用することができない。
⑵ 不正目的をもって商標権が取得・行使されているとの主張について
被告は、被告にとって、あえて行う必要がなく、一方的に原告にとって有
利な名義変更や商標登録出願が原告により行われているのは、原告が被告か
20 ら利益を得るためや、被告の事業運営に影響力を行使して、利益構造を維持
するためという不正な目的に基づくものであると主張する。
しかしながら、被告における不動産事業の実態に照らし、実際の事業を行
う原告において原告各商標を取得することが不自然、不合理であるとは言い
難いことは、上記⑴で説示したとおりである。
25 そして、証拠(甲3)によれば、本件商標使用許諾契約が無効となったの
は、同契約が利益相反取引であり、取締役会の承認等を得られていなかった
からであるところ、本件商標使用許諾契約当時、被告の不動産事業を任され
ていたXにおいて、取締役会の承認を得られないような事情はうかがわれな
い。また、Xにおいて、本件各物件に係る所有権の帰属と商標権の帰属が異
なることについて、殊更に隠匿しようとしていたような事情は見当たらず、
5 むしろ、上記⑴のとおり、当該事実は会計書類等により客観的に明らかにな
っていたことが認められる。さらに、本件商標使用許諾契約に定められた商
標使用料は、証拠(甲14~16)により認められる被告の平成25年9月
期から平成27年9月期までの不動産事業の各期の売上高である約26億な
いし27億と比較しても、相当に低廉であり、原告各商標の構成が一般的な
10 普通名詞の組み合わせたものであり、顧客誘引力が高いものであるとはいえ
ないことを考慮しても、高額であるとはいえない。
これらに加えて、認定事実⑸ウ及びエのとおり、原告が原告各商標権の行
使に至ったのは、被告から本件各業務委託契約を解除され、本件各物件の公
租公課等の支払を拒まれたことから、原告各商標の使用許諾を停止したこと
15 によるものであり、それ自体、被告を害するなどの不当な目的に基づくもの
とはいえないことを踏まえると、原告による損害賠償請求権の行使が権利濫
用に該当するとは認められない。
よって、被告の上記主張は採用することができない。
⑶ 被告の使用態様からして実質的な損害がないとの主張について
20 被告は、被告ウェブサイトの開設は、Xによる虚偽内容のウェブサイトの
掲載が原因である上、原告に実質的な損害はなく、原告による損害賠償請求
権の行使は権利濫用である旨主張するが、被告が主張するウェブサイト開設
の経緯や実質的な損害の有無等に係る事情は、原告による権利行使が権利濫
用であることを基礎付けるものとはいえない。
25 よって、被告の上記主張は採用することができない。
5 争点4(損害の発生及び損害額)について
⑴ 商標法38条3項による損害額の算定
ア 認定事実⑶のとおり、原告は、被告による本件各物件に原告商標1、原
告商標2及び原告関連商標を使用することに対して受けるべき金銭の額を
本件商標使用許諾契約書に記載された額であると認識し、実際にその支払
5 を受けていたことに加え、前記4⑵で説示したとおり、同金額が不当に高
額であるとも認められないことを踏まえれば、原告各商標の使用に対し受
けるべき金銭に相当する額は、本件商標使用許諾契約書に記載された額と
認めるのが相当である。なお、原告商標3については、本件商標使用許諾
契約書作成時に商標登録出願されておらず、認定事実⑶イのとおり、原告
10 関連商標による保護が想定されていたが、原告商標3と被告標章3とは同
一であることからすれば、原告商標3の使用料は、本件商標使用許諾契約
書の原告関連商用の使用料に記載された額と認めるのが相当である。
そうすると、原告商標1及び原告商標2についてはそれぞれ月額30万
円(税抜き)、原告商標3については月額10万円(税抜き)となり、これ
15 らに本件における不法行為当時の消費税率10%を加算した額は月額77
万円となる。そして、侵害期間である令和元年10月1日から令和6年9
月30日までの60か月間の金額は4620万円となる。
イ これに対し、原告は、原告が把握する直近の会計年度である平成27年
9月期の本件各物件の年間売上額に、全商標分類のロイヤルティ率の平均
20 値である2.6%を乗じた金額が商標法38条3項による損害額である旨
主張する。
しかしながら、原告が平成27年9月期の本件各物件の年間売上額の認
定根拠とする減損分析資料(甲28)については、成立の真正が争われて
いるところ、同資料は、作成者とされるAⅰ公認会計士の署名押印等がな
25 く、作成経緯も明らかでないことからすると、同資料の成立の真正を認め
ることはできない。そうである以上、平成27年9月期の本件各物件の年
間売上額が原告の主張する金額であると認めることはできない。
また、仮に、被告の平成27年9月期の本件各物件年間売上額が原告主
張のとおりであることを前提にしても、全商標分類のロイヤルティ率に基
づいて使用料相当損害金を算定すべき事情はうかがわれないことからすれ
5 ば、いずれにせよ、かかる事情は上記アの結論を左右するものではない。
⑵ 損害不発生の抗弁について
被告は、原告各商標は本件各物件の建物名称と同一であり、特徴的なもの
ではなく、顧客吸引力が全く認められないこと、本件各物件を用いた事業収
入は建物利用そのものに対するものであり、また、被告各ウェブページにお
10 いて賃借人等の募集も行っておらず、被告における原告各商標の使用が被告
の売上に全く寄与していないことが明らかであるから、得ベかりし利益とし
ての使用料相当額の損害は原告に生じていない旨主張する。
しかしながら、原告各商標が本件各物件の建物名称と同一であり、その構
成が一般的な普通名詞を組み合わせたものであるとしても、普通名詞単独で
15 はなく、組み合わせにより構成されているものである以上、原告各商標の顧
客誘引力が全くないということはできないし、前記2で述べたとおり、被告
各標章は、物件の特色や賃貸住宅の特色、提供する役務の内容などが記載さ
れている被告各ウェブページに付されており、原告各商標の指定役務に含ま
れる建物の貸与について、申込みの誘因を行う態様で用いられていることも
20 踏まえると、被告における被告各商標の使用が被告の売上に全く寄与してい
ないともいえない。
そうすると、原告各商標に顧客吸引力が全くなく、原告商標と類似する被
告各標章を使用することが、被告の提供する役務の売上に全く寄与していな
いことが明らかであるとは認められず、被告の上記主張は採用することがで
25 きない。
第4 結論
以上によれば、原告の請求は、主文掲記の限度で理由があるからこれを認容
することとし、その余の請求は理由がないから棄却することとして、主文のと
おり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官
澁 谷 勝 海
裁判官
塚 田 久 美 子
裁判官
浅 川 浩 輝

(別紙)
原告商標目録
1 原告商標1
5 ⑴ 登録番号 第4923608号
⑵ 出願日 平成17年3月7日
⑶ 登録日 平成18年1月27日
⑷ 更新登録日 平成27年12月15日
⑸ 登録商標 東京芸術センター(標準文字)
10 ⑹ 商品及び役務の区分・指定役務
第35類 広告、商品の販売に関する情報の提供、競売の運営、輸出入
に関する事務の代理又は代行、建築物における来訪者の受付
及び案内
第36類 有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり、ガス料金又は
15 電気料金の徴収の代行、建物の管理、建物の貸借の代理又は
媒介、建物の貸与、建物の売買、建物の売買の代理又は媒介、
建物又は土地の鑑定評価、土地の管理、土地の貸借の代理又
は媒介、土地の貸与、土地の売買、土地の売買の代理又は媒
介、建物又は土地の情報の提供、骨董品の評価、美術品の評
20 価、宝玉の評価、中古自動車の評価
第41類 当せん金付証票の発売、技芸・スポーツ又は知識の教授、セ
ミナーの企画・運営又は開催、電子出版物の提供、図書及び
記録の供覧、美術品の展示、書籍の制作、映画・演芸・演劇
又は音楽の演奏の興行の企画又は運営、映画の上映・制作又
25 は配給、演芸の上演、演劇の演出又は上演、音楽の演奏、放
送番組の制作、教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作
(映画・放送番組・広告用のものを除く。)、放送番組の制
作における演出、映像機器・音声機器等の機器であって放送
番組の制作のために使用されるものの操作、スポーツの興行
の企画・運営又は開催、興業の企画・運営又は開催(映画・
5 演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・
競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。)、音響
用又は映像用のスタジオの提供、運動施設の提供、娯楽施設
の提供、映画・演芸・演劇・音楽又は教育研修のための施設
の提供、興行場の座席の手配、映画機械器具の貸与、映写フ
10 ィルムの貸与、楽器の貸与、運動用具の貸与、テレビジョン
受信機の貸与、ラジオ受信機の貸与、図書の貸与、レコード
又は録音済み磁気テープの貸与、録画済み磁気テープの貸与、
ネガフィルムの貸与、ポジフィルムの貸与、書画の貸与、写
真の撮影、通訳、翻訳、カメラの貸与、光学機械器具の貸与
15 第43類 会議室の貸与、展示施設の貸与、家具の貸与
2 原告商標2
⑴ 登録番号 第5012587号
⑵ 出願日 平成18年6月7日
⑶ 登録日 平成18年12月22日
20 ⑷ 更新登録日 平成28年8月30日
⑸ 登録商標 神戸芸術センター(標準文字)
⑹ 商品及び役務の区分・指定役務
第35類 広告、商品の販売に関する情報の提供、競売の運営、輸出入
に関する事務の代理又は代行、建築物における来訪者の受付
25 及び案内
第36類 有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり、ガス料金又は
電気料金の徴収の代行、建物の管理、建物の貸借の代理又は
媒介、建物の貸与、建物の売買、建物の売買の代理又は媒介、
建物又は土地の鑑定評価、土地の管理、土地の貸借の代理又
は媒介、土地の貸与、土地の売買、土地の売買の代理又は媒
5 介、建物又は土地の情報の提供、骨董品の評価、美術品の評
価、宝玉の評価、中古自動車の評価
第41類 当せん金付証票の発売、技芸・スポーツ又は知識の教授、セ
ミナーの企画・運営又は開催、電子出版物の提供、図書及び
記録の供覧、美術品の展示、書籍の制作、映画・演芸・演劇
10 又は音楽の演奏の興行の企画又は運営、映画の上映・制作又
は配給、演芸の上演、演劇の演出又は上演、音楽の演奏、放
送番組の制作、教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作
(映画・放送番組・広告用のものを除く。)、放送番組の制作
における演出、映像機器・音声機器等の機器であって放送番
15 組の制作のために使用されるものの操作、スポーツの興行の
企画・運営又は開催、興行の企画・運営又は開催(映画・演
芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競
艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。)、音響用又
は映像用のスタジオの提供、運動施設の提供、娯楽施設の提
20 供、映画・演芸・演劇・音楽又は教育研修のための施設の提
供、興行場の座席の手配、映画機械器具の貸与、映写フィル
ムの貸与、楽器の貸与、運動用具の貸与、テレビジョン受信
機の貸与、ラジオ受信機の貸与、図書の貸与、レコード又は
録音済み磁気テープの貸与、録画済み磁気テープの貸与、ネ
25 ガフィルムの貸与、ポジフィルムの貸与、書画の貸与、写真
の撮影、通訳、翻訳、カメラの貸与、光学機械器具の貸与
第43類 会議室の貸与、展示施設の貸与、家具の貸与
3 原告商標3
⑴ 登録番号 第5775734号
⑵ 出願日 平成26年7月25日
5 ⑶ 登録日 平成27年7月3日
⑷ 登録商標 福岡芸術センター(標準文字)
⑸ 商品及び役務の区分・指定役務
第35類 広告、商品の販売に関する情報の提供、競売の運営、輸出入
に関する事務の代理又は代行、建築物における来訪者の受付
10 及び案内
第36類 有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり、ガス料金又は
電気料金の徴収の代行、建物の管理、建物の貸借の代理又は
媒介、建物の貸与、建物の売買、建物の売買の代理又は媒介、
建物又は土地の鑑定評価、土地の管理、土地の貸借の代理又
15 は媒介、土地の貸与、土地の売買、土地の売買の代理又は媒
介、建物又は土地の情報の提供、骨董品の評価、美術品の評
価、宝玉の評価、中古自動車の評価
第41類 セミナーの企画・運営又は開催、美術品の展示、映画・演
芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営、映画の上
20 映・制作又は配給、演芸の上演、演劇の演出又は上演、音楽
の演奏、音響用又は映像用のスタジオの提供、映画・演芸・
演劇・音楽又は教育研修のための施設の提供
第43類 会議室の貸与、展示施設の貸与、家具の貸与
以 上
(別紙)
被告ウェブページ目録
1 被告ウェブページ1
5 http://以下省略
2 被告ウェブページ2
http://以下省略
3 被告ウェブページ3
http://以下省略
10 以 上

(別紙)
被告標章目録

以 上

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