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令和7(ネ)10077職務発明対価請求控訴事件

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裁判所 控訴棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和8年3月24日
事件種別 民事
当事者 被控訴人株式会社ダイフク
法令 特許権
特許法35条4項5回
特許法35条2回
特許法35条1項1回
キーワード 職務発明6回
実施3回
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事件の概要 1 請求の要旨 本件は、被控訴人の従業員であった控訴人が、被控訴人在職中にした4件の職 務発明(本件各発明)についての特許を受ける権利を、被控訴人の発明考案に関 する規定(本件規定)により被控訴人に取得させたところ、被控訴人が控訴人に 対して本件規定及びこれに基づき定められた実績報奨制度に関する実施細則(本 件細則)の定めにより相当の金銭その他の経済上の利益(特許法35条4項。以 下「相当の利益」という。)を与えることは不合理であるとして、特許法35条 7項、4項に基づき、相当の利益の一部(令和6年3月31日までに発生したも のに限る。)である5775万円及びこれに対する令和6年8月1日(訴状送達 の日の翌日)から支払済みまで民法所定年3%の割合による遅延損害金の支払を 求める事案である。

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判決文

令和8年3月24日判決言渡

令和7年(ネ)第10077号 職務発明対価請求控訴事件

(原審・大阪地方裁判所令和6年(ワ)第7193号)

口頭弁論終結日 令和8年2月3日

判 決

控 訴 人 X

同訴訟代理人弁護士 川 口 直 也

田 村 樹 子

被 控 訴 人 株 式 会 社 ダ イ フ ク

同訴訟代理人弁護士 岡 田 春 夫

瓜 生 嘉 子

主 文

1 本件控訴を棄却する。

2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1 控訴の趣旨

1 原判決を取り消す。2 被控訴人は、控訴人に対し、600万円及びこれに対する令和6年8月1日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要等(略語は特記するもののほか原判決の例による。)

1 請求の要旨本件は、被控訴人の従業員であった控訴人が、被控訴人在職中にした4件の職務発明(本件各発明)についての特許を受ける権利を、被控訴人の発明考案に関する規定(本件規定)により被控訴人に取得させたところ、被控訴人が控訴人に対して本件規定及びこれに基づき定められた実績報奨制度に関する実施細則(本件細則)の定めにより相当の金銭その他の経済上の利益(特許法35条4項。以下「相当の利益」という。)を与えることは不合理であるとして、特許法35条7項、4項に基づき、相当の利益の一部(令和6年3月31日までに発生したものに限る。)である5775万円及びこれに対する令和6年8月1日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。原審は、控訴人の請求を棄却したため、控訴人が原判決を不服として控訴を提起した。控訴人は、当審において、請求額を600万円及びこれに対する令和6年8月1日から支払済みまで年3%の割合による遅延損害金へと減縮した。2 前提事実及び争点前提事実及び争点は、原判決の「事実及び理由」第2の3及び4(2頁23行目~5頁8行目)に記載のとおりであるからこれらを引用する。3 争点に関する当事者の主張争点に関する当事者の主張は、原判決の9頁3行目末尾に行を改めて「よって、控訴人は、特許法35条7項、4項に基づき、被控訴人に対し、相当の利益の一部請求として600万円及び遅延損害金の支払を求める。」を加え、次に当審における控訴人の争点1についての補充主張を加えるほかは、原判決の「事実及び理由」第3(5頁9行目~10頁19行目)に記載のとおりであるからこれを引用する。【控訴人の争点1についての補充主張】

⑴ 本件規定及び本件細則の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況についてア 原判決は、被控訴人が、平成28年6月30日、被控訴人の労働組合代表者との間で相当の利益(報奨金)を決定するルールに関する協議を行ったと認定した。しかし、原判決が認定の根拠とした議事録(乙17。以下「本件議事録」という。)は、被控訴人が作成した書面であって客観的な証拠とはいえない。また、本件議事録には「退職者にも報奨金を支払う」旨の回答が記載されているが、この記載は、被控訴人が直後にした本件規定の改定時に同旨の規定を加えていないこと、被控訴人が退職者である控訴人に海外出願に係る報奨金の支払の申出をしなかったこと、被控訴人の従業員が退職者への報奨は国内出願のみが対象となる旨説明したこと等の事実関係と整合しない。したがって、本件議事録の記載を信用することはできず、これを根拠に労使協議の事実を認めた原判決の認定には誤りがある。イ 仮に、上記アの労使協議が存在したとしても、控訴人は、平成28年6月30日当時、被控訴人に入社していなかったから、労働組合代表者が控訴人を正当に代表していたとはいえない。したがって、労使協議の存在をもって、控訴人との関係でも「協議」が正当にされたとする原判決の評価には誤りがある。

⑵ 策定された本件規定及び本件細則の開示の状況について原判決は、本件規定及び本件細則について、「社内システムの「ダイフク諸規定集」に収録され、被控訴人の従業員は、いつでも最新のものを閲覧することができた」とか、「新入社員に、報奨金制度や表彰制度の存在を理解してもらう趣旨で、毎年行われる新人研修において、本件規定及び本件細則について簡単に説明し、質問に応答することとしていた」との事実を認定した。しかし、いずれの事実についても、原判決が認定の根拠とした陳述書(乙16。以下「本件陳述書」という。)は、被控訴人の従業員が作成した書面であって客観的な証拠とはいえない。実際には、上記のような事実は存在しないから、原判決の認定には誤りがある。

⑶ 相当の利益の内容の決定について行われる控訴人からの意見の聴取の状況についてア 原判決は、被控訴人が本件細則の改正を発案し、全従業員を対象とする意見募集を行った際に、控訴人が賛同の意を示すとともに、意見を提出し、被控訴人がこれに対して検討結果を回答したと認定した。しかし、控訴人は、被控訴人から検討結果を受領していないから、「回答した」との事実認定は誤っている。また、「相当の利益の内容の決定について行われる従業者等からの意見の聴取」とは、特定の職務発明につき相当の利益の内容を決定する場合に、当該発明をした従業者等から意見を聴くことをいうのであって、本件細則の改正について控訴人が意見を述べたとしても、それは本件各発明についての相当の利益の内容に関する意見の聴取ということはできない。イ 原判決は、発明者の意見を聴く機会は相応に確保されていると認定、評価した。しかし、被控訴人が控訴人に送付した報奨金支払に関する通知(甲19)には、質問や意見があれば申し出るようにとの記載はない。被控訴人は、本件訴訟が提起されてから、「意見の聴取」が行われていた旨の主張をする目的で、その後発出する通知に、質問や意見を聴く旨の記載を追加したにすぎない。加えて、本件規定及び本件細則においては、制度上、報奨金の審査をする際に発明者の意見を聴く機会が設けられていない。したがって、発明者の意見を聴く機会が相応に確保されていたということはできず、原判決の認定及び評価には誤りがある。

⑷ 対価的均衡を欠くことについて本件規定及び本件細則がなければ、控訴人は、被控訴人に本件各発明の特許を受ける権利を取得させたことに伴う相当の利益として年額5775万円を得ることができた。これに対し、本件規定及び本件細則の定めによると、●(省略)●支払われないのであるから、本件規定及び本件細則の定めは、対価的均衡を欠き、不合理である。

第3 当裁判所の判断

1 当裁判所も、控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は、次のと

おり付加するほかは、原判決の「事実及び理由」第4(10頁20行目~16頁8行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。

2 本件訴訟の請求の範囲について

本件においては、控訴人が、本件訴訟の対象として、本件各発明につき我が国で特許を受ける権利を被控訴人に取得させたことによる相当の利益に加えて、外国の特許を受ける権利を被控訴人に取得させたことによる相当の利益を請求しているのかどうかが問題となるので、以下、この点について検討する。我が国の特許法が、外国の特許又は特許を受ける権利について直接規律するものではないことは明らかであり、特許法35条1項から3項までにいう「特許を受ける権利」が我が国の特許を受ける権利を指すものと解さざるを得ないことに照らすと、同条4項にいう「特許を受ける権利」についてのみ外国の特許を受ける権利が含まれると解することは、文理上困難であって、外国の特許を受ける権利を取得させたことによる相当の利益の請求について、同条4項及び7項の規定を直接適用することはできず、これらの規定が類推適用されるにとどまるものと解される(最高裁平成16年(受)第781号同18年10月17日第三小法廷判決・民集60巻8号2853頁参照)。このように、我が国の特許を受ける権利を取得させたことによる相当の利益の請求と、外国の特許を受ける権利を取得させたことによる相当の利益の請求とは、法条の適用関係が異なるから、訴訟上、別個の請求を構成するものと解すべきである。このことは、実務上、職務発明の対価又は利益の請求訴訟事件において、「特許を受ける権利(外国の特許を受ける権利を含む。)」などとして、特許法35条及びその類推適用により対価又は利益の額が一体として算定されることがあるとしても左右されるものではない。これを本件についてみると、控訴人は、訴状中の請求の原因として、我が国の特許出願番号及び出願公開番号等により本件各発明を特定した上で、「原告は、被告に対し本件各発明に係る特許を受ける権利を譲渡したため、特許法35条4項により、被告より相当の金銭その他の経済上の利益…を受ける権利を有する。」と記載しており、特許を受ける権利に外国の特許を受ける権利が含まれていることを明記しておらず、特許法35条4項の類推適用を主張することも記載していない。加えて、控訴人は、原審の口頭弁論終結以降、当審においても、被控訴人から、外国の特許を受ける権利を取得させたことによる相当の利益の請求は本件訴訟の対象外であると主張され、その根拠とするところも具体的に示されていたのに、当審の弁論終結に至るまでの間に、訴えの追加等をしなかった。これらの事実関係によると、控訴人は、本件訴訟において、被控訴人に対し、特許法35条4項に基づき、本件各発明について我が国で特許を受ける権利を被控訴人に取得させたことによる相当の利益のうち、令和6年3月31日までに発生したものを請求していると解するのが相当である。

3 控訴人の補充主張について

⑴ 本件規定及び本件細則の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる

協議の状況についてア 控訴人は、平成28年6月30日に実施されたとされる労使協議(原判決の「事実及び理由」第4の1⑴イ。同11頁4行目~同頁末行)について、同事実の認定の基礎となった本件議事録(乙17)は、被控訴人が作成したものであるほか、その記載内容が事実関係と整合しないから、労使協議があったとの事実は認められない旨主張する。しかし、本件議事録の記載は、出席者、議題詳細及び議事についての記載がいずれも相当程度具体的であって、本件訴訟のために作成されたものとはにわかには認め難いところ、被控訴人が退職者である控訴人に対して報奨金の支払の申出をせず、また、被控訴人の従業員が控訴人に対して一部の報奨金は退職者には支払われない旨伝えたことのみをもっては、本件議事録の成立や信用性を疑うべき事情があるとはいえず、他に本件議事録の記載に反する具体的事実関係や証拠もない。したがって、本件議事録に基づき、労使協議があったとした原判決の認定は正当である。イ 控訴人は、仮に労使協議が存在したとしても、控訴人はその時被控訴人に入社していなかったから、労働組合代表者が控訴人を正当に代表しているということはできない旨主張する。しかし、労使協議の時点で控訴人が被控訴人に入社していないとしても、引用に係る原判決の「事実及び理由」第4の1⑴ウ及びエ(12頁1行目~同頁19行目)のとおり、本件規定及び本件細則は、新入社員研修において、控訴人を含む新入社員に対して説明がされた上、被控訴人の社内システムの「ダイフク諸規程集」に収録され、控訴人を含めた被控訴人の従業員がいつでも最新のものを閲覧できるようにされていたほか、控訴人は、令和5年3月に実施された被控訴人による本件細則の改正案について賛同の意を示すとともに意見を述べるなどしていたのであるから、本件規定及び本件細則の存在を認識・理解し、その内容について協議したというのに準じた状況にあったと評価できる。控訴人は、上記意見に対する被控訴人からの回答を閲読することができなかったと主張するが、そのような事実があったとしても、上記評価を左右するものではない。

⑵ 策定された本件規定及び本件細則の開示の状況について

控訴人は、被控訴人の従業員による本件陳述書(乙16)は客観的な証拠ではなく、これに基づいて、本件規定及び本件細則が社内システムに収録され、従業員がいつでも最新のものを閲覧することができたとか、被控訴人が新人研修で本件規定及び本件細則について簡単に説明し、質問に応答することとしていた等の事実を認定した原判決は誤りである旨主張する。しかし、本件陳述書は、社内システムのスクリーンショットや研修スライドを交え、相当程度具体的に記載されており、その記載に反する具体的事実関係や証拠もない。かえって、前記⑴のとおり、被控訴人は、令和5年3月、全従業員を対象に、本件細則の改定について意見を募集しており、控訴人もこれに意見を述べていることからすると、本件規定及び本件細則は、控訴人を含む被控訴人の従業員に開示されていたと認めるのが相当であるから、原判決の認定は正当である。

⑶ 相当の利益の内容の決定について行われる控訴人からの意見の聴取の状況に

ついてア 控訴人は、被控訴人から本件細則の改正に関する意見への回答を受領していないとか、本件細則の改正についての控訴人の意見は、「相当の利益の内容の決定について行われる従業者等からの意見の聴取」には当たらない旨主張する。しかし、控訴人が本件細則の改正について意見を述べたことは、前記⑴及び引用に係る原判決の「事実及び理由」第4の1⑵ア(13頁4行目~同頁14行目)のとおり、本件規定及び本件細則の策定や、内容説明、運用、改定等についての意見聴取の状況が適切であったという評価を基礎付ける事情として説示されているものであって、「相当の利益の内容の決定について行われる従業者等からの意見の聴取の状況」について述べるものではないから、控訴人の主張は前提を誤るものである。イ 控訴人は、本件訴訟の提起前に被控訴人が控訴人に対して送付した通知には、質問や意見があれば申し出るようにとの記載がないこと、本件規定及び本件細則において、報奨金の審査をする際に発明者の意見を聴く機会が設けられていないこと等を挙げて、発明者の意見を聴く機会が相応に確保されていたとはいえない旨主張する。しかし、控訴人が指摘する通知(甲19)は、特許出願報奨金の支払通知に関するものであるところ、そこには、特許出願番号及び発明の名称によりどの職務発明に関する報奨金であるかが明示された上で、被控訴人の知的財産部の電話番号とともに、「報奨金は、発明者連名の場合、持分に応じて均等割りとなります。」、「本件に関する問合せは、知的財産部にお願い致します。」との注意書きが記載されているのであるから、控訴人は、当該特許出願報奨金がどの職務発明につきされた出願を対象としているかを知り得たといえるし、意見を述べる機会も確保されていたということができる。本件規定及び本件細則において、各種報奨金の支給及びその額を決定するに当たり、発明者の意見を聴くことが制度として規定されていないとしても、上記の事情のほか、本件においては、令和6年3月31日までに発生した相当の利益に限って請求がされていることから、通知の対象となった報奨金が特許出願報奨金のみであることも併せ考慮すると、発明者である控訴人の意見を聴く機会は、相応に確保されていたと評価することができる。

⑷ 小括

上記⑴から⑶までのとおり、本件規定及び本件細則の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われた協議の状況、策定された本件規定及び本件細則の開示の状況並びに相当の利益の内容の決定について行われる控訴人からの意見の聴取の状況を総合すると、控訴人が本件各発明について我が国で特許を受ける権利を被控訴人に取得させたことによる相当の利益を決定する手続は、適正に行われたものと評価できる。したがって、相当の利益を本件規定及び本件細則に基づいて与えることが不合理であるということはできない。控訴人は、本件規定及び本件細則の定めが対価的均衡を欠いて不合理であると主張するが、本件全証拠をもっても、本件規定及び本件細則の定める報奨金の額が対価的均衡を欠いているかは明らかではないし、特許法35条は、同条5項に例示する手続が適正であると認められる限りは、使用者等と従業者等があらかじめ定めた契約、勤務規則その他の定めが尊重されることを前提とするものと解されるところ、上記のとおり、当該手続は適正に行われたと評価できるのであるから、控訴人の主張は採用することができない。

4 本件請求について

前記2のとおり、控訴人は、本件訴訟において、被控訴人に対し、特許法35条4項に基づき、本件各発明について我が国で特許を受ける権利を被控訴人に取得させたことによる相当の利益のうち、令和6年3月31日までに発生したものを請求しているものと解される。そして、前記3のとおり、本件各発明について我が国で特許を受ける権利を被控訴人に取得させたことによる相当の利益を、本件規定及び本件細則の定めるところにより与えることが不合理であるということはできない。そうすると、控訴人が、被控訴人に対して本件各発明につき我が国で特許を受ける権利を取得させたことにより、本件規定及び本件細則に基づいて令和6年3月31日までに発生した報奨金は、令和4年6月から令和5年3月にかけて行われた本件各発明に係る4件の特許出願報奨金であるところ、これらは全て控訴人に支払われていると認められる(引用する原判決の「事実及び理由」第2の3⑹。同4頁11行目~同頁23行目)。したがって、本件請求には理由がない。

5 結論

以上のとおり、控訴人の請求は理由がないから棄却すべきものであり、これと同旨の原判決は相当であるから、本件控訴には理由がない。よって、本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。知的財産高等裁判所第1部裁判長裁判官増 田 稔裁判官伊 藤 清 隆裁判官天 野 研 司

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