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令和7(行ケ)10048審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和8年4月16日
事件種別 民事
当事者 原告陽進堂ホールディングス株式会社
被告株式会社大塚製薬工場
対象物 含硫化合物と微量金属元素を含む輸液製剤
法令 特許権
キーワード 無効20回
審決18回
進歩性3回
無効審判3回
特許権2回
実施2回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 本件は、原告が、特許権者である被告に対し、特許無効審判請求を不成立と した審決の取消しを求める事案である。争点は、進歩性に関する判断の誤りで ある。

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判決文

令和8年4月16日判決言渡
令和7年(行ケ)第10048号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和8年2月26日
判 決
エイワイファーマ株式会社訴訟承継人
原 告 陽進堂ホールディングス株式会社
同訴訟代理人弁護士 川 田 篤
10 井 上 義 隆
今 井 和 男
大 鷹 一 郎
望 月 崇 司
鈴 木 恭 平
被 告 株式会社大塚製薬工場
同訴訟代理人弁護士 設 樂 隆 一
河 合 哲 志
20 松 阪 絵 里 佳
生 駒 阿 門
同訴訟代理人弁理士 今 村 玲 英 子
主 文
1 原告の請求を棄却する。
25 2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
特許庁が無効2023-800032号事件について令和7年4月2日にし
た審決を取り消す。
第2 事案の概要
5 本件は、原告が、特許権者である被告に対し、特許無効審判請求を不成立と
した審決の取消しを求める事案である。争点は、進歩性に関する判断の誤りで
ある。
1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがないか、又は当裁判所に顕
著な事実)
10 ⑴ 被告は、平成14年1月16日、発明の名称を「含硫化合物と微量金属元
素を含む輸液製剤」とする発明について、特許出願(特願2002-782
1号)をし、平成20年8月15日、特許権の設定登録(特許第41712
16号。請求項の数11。以下、この特許を「本件特許」という。)を受けた。
その後、被告は、原告による本件特許の無効審判請求を受ける形で、3度
15 にわたり訂正の請求をし、それらの請求に係る訂正を認める旨の審決は、い
ずれも確定している。
⑵ 原告は、その後、令和5年5月30日、本件特許の特許請求の範囲の請求
項10及び11に記載された発明に係る特許につき、無効審判を請求した(無
効2023-800032号)。
20 被告は、令和6年5月7日、当該事件において、本件特許の特許請求の範
囲の請求項10及び11を訂正する旨の訂正(以下「本件訂正」という。)を
請求した。
特許庁は、令和7年4月2日、本件訂正を認めた上で、
「本件審判の請求は、
成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、
25 同月15日、原告に送達された。
⑶ 原告は、同年5月14日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。
2 特許請求の範囲及び明細書の記載
本件訂正後の特許請求の範囲の請求項10及び11の記載は、以下のとおり
である(以下、本件訂正後の請求項10及び11に係る発明を、請求項の番号
に応じて「本件訂正発明10」等といい、これらを併せて「本件各訂正発明」
5 という。甲64(枝番を含む。以下、掲記の書証につき同じ。)。)。また、本件
特許に係る明細書及び図面(以下、併せて「本件明細書」という。)の記載は、
本件特許に係る特許公報(甲26)に記載のとおりである(以下、その段落番
号等を【】で示す。)。
【請求項10】
10 複室輸液製剤の輸液容器において、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群
より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液を収容している室と別室に鉄、マ
ンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む
液が収容された微量金属元素収容容器を収納し、微量金属元素収容容器は熱可
塑性樹脂フィルム製の袋であることを特徴とする輸液製剤の保存安定化方法で
15 あって、
前記溶液は、アセチルシステインを含むアミノ酸輸液であり、且つL-チロ
シンは、前記アミノ酸輸液のみに含まれており、
前記輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されており、
前記外袋内の酸素を取り除いた、
20 保存安定化方法。
【請求項11】
複室輸液製剤の輸液容器において、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群
より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液を収容している室と別室に銅を含
む液が収容された微量金属元素収容容器を収納し、微量金属元素収容容器は熱
25 可塑性樹脂フィルム製の袋であることを特徴とする輸液製剤の保存安定化方法
であって、
前記溶液は、pHが5~8であって、システイン、またはその塩、エステル
もしくはN-アシル体、及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液であり、且つL-チ
ロシン及びニコチン酸類は、前記アミノ酸輸液のみに含まれており、
前記輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されている、
5 保存安定化方法。
3 本件審決の理由の要旨
前記1⑵の審判手続において主張された無効理由についての本件審決の判
断の要旨は、次のとおりである(本件審決によって判断され、原告が主張する
審決取消事由に関係するものに限る。)。
10 ⑴ 無効理由1(甲1を主引用例とする進歩性欠如)について
以下の理由により、本件各訂正発明は、甲1に記載された発明(以下「甲
1発明」という。)、甲1の記載並びに本件特許の出願時の技術常識、周知の
課題及び周知技術から、当業者が容易に発明することができたものであると
はいえない。
15 ア 甲1発明
甲1(平成13年6月19日に公開された特開2001-163780
号公報)には、次の発明が記載されていると認められる。
「連通可能な隔離手段で区画され、連通後、内容物を外気にさらすことな
く混合することができる3室を有する輸液容器の、
20 A室に、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニ
ン、L-フェニルアラニン、L-トレオニン、L-トリプトファン、L-
バリン、L-システイン、L-アルギニン、L-ヒスチジン、L-アラニ
ン、L-アスパラギン酸、L-グルタミン酸、グリシン、L-プロリン、
L-セリン、ビタミンC、パントテン酸類及び亜硫酸塩を含有するpH5
25 ~8の輸液、
B室に、ブドウ糖、L-チロシン、ビタミンB 1、ビタミンB2、ビタミン
B 6 及びニコチン酸類を含有するpH2.5~4.5の輸液、
C室に、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、ビタミン
B12、葉酸、ビタミンH及び溶解補助剤を含有するpH4.5~7の輸液が
充填されており、
5 A室及び(又は)B室の輸液にさらに電解質が含有されており、かつ、
A室~C室の輸液を混合したのちの輸液のpHが4~7であり、A室の輸
液、B室の輸液、C室の輸液の容積比が20~2000:10~2500:
1であり、加熱滅菌されてなる総合栄養輸液剤の保存安定化方法であって、
前記輸液容器が、A室とB室の間に連通可能な隔離壁を有し、
10 前記A室に連通用部材を介して輸液供給部が設けられており、
前記輸液供給部内にC室が含有され、
前記輸液容器が、空気透過性容器であり、
前記空気透過性容器に充填された総合栄養輸液剤が、脱酸素剤とともに
気密性容器に封入されている、前記保存安定化方法。」
15 イ 本件訂正発明10との一致点・相違点
(一致点)
複室輸液製剤の輸液容器において、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からな
る群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液を収容している室、及び
別室を有する、前記輸液製剤の保存安定化方法であって、
20 前記溶液は、含硫アミノ酸を含むアミノ酸輸液であり、
前記輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されており、
前記外袋内の酸素を取り除いた、
前記保存安定化方法。
(相違点1-10-1)
25 本件訂正発明10では、「別室」について、「鉄、マンガンおよび銅から
なる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容され
た微量金属元素収容容器を収納し、微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂
フィルム製の袋であること」を特定しているのに対し、甲1発明では、
「別
室」に相当するB室について、上記のような特定をしていない点。
(相違点1-10-3)
5 本件訂正発明10では、「L-チロシン」が、「含硫アミノ酸および亜硫
酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液」である「ア
セチルシステインを含むアミノ酸輸液」のみに含まれているのに対し、
甲1発明では、
「L-チロシン」が、A室に充填されている「L-イソロイ
シン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-フェニルアラニ
10 ン、L-トレオニン、L-トリプトファン、L-バリン、L-システイン、
L-アルギニン、L-ヒスチジン、L-アラニン、L-アスパラギン酸、
L-グルタミン酸、グリシン、L-プロリン、L-セリン、ビタミンC、
パントテン酸類及び亜硫酸塩を含有するpH5~8の輸液」には含まれて
おらず、B室に充填されている、
「ブドウ糖、L-チロシン、ビタミンB 1、
15 ビタミンB 2、ビタミンB6 及びニコチン酸類を含有するpH2.5~4.
5の輸液」のみに含まれている点。
ウ 相違点1-10-1について
当業者が、微量金属元素の添加手段として、専ら脂溶性ビタミンの用時
混合に用いることが知られていたにすぎない、輸液容器の2室のうちの1
20 室に熱可塑性樹脂フィルム製の小袋である「追加の小さな区画室」を設け
た形態の輸液容器を採用することまで想到し得たとはいえないから、甲1
発明の総合栄養輸液剤に微量金属元素を含む少量の製剤(溶液)を添加す
る際に、微量金属元素を含む液が収容された熱可塑性樹脂フィルム製の袋
である微量金属元素収容容器を、甲1発明のB室(本件訂正発明10の「別
25 室」に相当する。)に収納することによって、甲1発明を、相違点1-10
-1に係る本件訂正発明10の構成を備えたものとすることを、当業者が
容易に想到し得たとはいえない。
エ 相違点1-10-3について
甲1発明の「B室の輸液(還元糖輸液)」に含まれる「L-チロシン」を、
「B室の輸液(還元糖輸液)」に配合せず、「A室の輸液(アミノ酸輸液)
5 のみ」に配合するように変更して、甲1発明を相違点1-10-3に係る
本件訂正発明10の構成を備えたものとすることを、当業者が容易に想到
し得たとはいえない。
オ 本件訂正発明11との一致点・相違点
(一致点)
10 複室輸液製剤の輸液容器において、前記輸液容器が、含硫アミノ酸およ
び亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液を収
容している室、及び別室を有する、前記輸液製剤の保存安定化方法であっ
て、
前記溶液は、pHが5~8であって、システイン、またはその塩、エス
15 テルもしくはN-アシル体、及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液であり、
前記輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されている、
前記保存安定化方法。
(相違点1-11-1)
本件訂正発明11では、「別室」について、「銅を含む液が収容された微
20 量金属元素収容容器を収納し、微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィ
ルム製の袋であること」が特定されているのに対し、甲1発明では、
「別室」
であるB室について、そのような特定がされていない点。
(相違点1-11-2)
本件訂正発明11では、「L-チロシン及びニコチン酸類」が、「pHが
25 5~8であって、システイン、またはその塩、エステルもしくはN-アシ
ル体、及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液」のみに含まれていることが特定
されているのに対し、甲1発明では、
「L-チロシン」が、A室に充填され
る、
「L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L
-フェニルアラニン、L-トレオニン、L-トリプトファン、L-バリン、
L-システイン、L-アルギニン、L-ヒスチジン、L-アラニン、L-
5 アスパラギン酸、L-グルタミン酸、グリシン、L-プロリン、L-セリ
ン、ビタミンC、パントテン酸類及び亜硫酸塩を含有するpH5~8の輸
液」には含まれておらず、B室に充填される、
「ブドウ糖、L-チロシン、
ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB 6 及びニコチン酸類を含有するpH
2.5~4.5の輸液」のみに含まれており、
「L-チロシン及びニコチン
10 酸類」が上記「A室」のみに含まれていることは特定されていない点。
カ 相違点1-11-1について
相違点1-10-1(前記ウ)と同様にして、甲1発明を相違点1-1
1-1に係る本件訂正発明11の構成を備えたものとすることを、当業者
が容易に想到し得たとはいえない。
15 キ 相違点1-11-2について
相違点1-10-3(前記エ)と同様にして、甲1発明において、
「L-
チロシン及びニコチン酸類」を「A室の輸液(アミノ酸輸液)のみ」に配
合するように変更して、甲1発明を相違点1-11-2に係る本件訂正発
明11の構成を備えたものとすることを、当業者が容易に想到し得たとは
20 いえない。
⑵ 無効理由2(甲17を主引用例とする進歩性欠如)について
以下の理由により、本件各訂正発明は、甲17に記載された発明(以下「甲
17発明」という。)、甲17の記載並びに本件特許の出願時の技術常識、周
知の課題及び周知技術から、当業者が容易に発明することができたものであ
25 るとはいえない。
ア 甲17発明
甲17(平成6年1月25日に公開された特開平6-14975号公報)
には、次の発明が記載されていると認められる。
「液剤を収容するための2つの室が連通可能な仕切り手段で仕切られてな
る可撓性を有する複室容器に収容された液剤の経時安定化方法であって、
5 前記2つの室中の、システイン又はトリプトファンをそれぞれ添加した
アミノ酸液製剤を収容した室は、室全体を覆うガス非透過性の外壁と、外
壁に覆われた前記室を構成する内壁とを備えると共に、
前記外壁に覆われない室とこの室に隣接しかつ外壁に覆われた室との
仕切り手段は、室に外圧を加えることにより容易に剥離し得る弱シール部
10 が1条若しくは2条以上配置されて構成されており、
前記外壁と前記内壁との空間部の空気を不活性ガスに置換する、
前記経時安定化方法。」
イ 本件訂正発明10との一致点・相違点
(一致点)
15 複室輸液製剤の輸液容器において、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からな
る群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液を収容している室と、別
室とを有することを特徴とする輸液製剤の保存安定化方法であって、
前記溶液は含硫アミノ酸を含むアミノ酸輸液である、
前記保存安定化方法。
20 (相違点17-10-1)
本件訂正発明10では、「別室」が、「鉄、マンガンおよび銅からなる群
より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量
金属元素収容容器を収納し、微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィル
ム製の袋であること」が特定されているのに対し、甲17発明では、
「別室」
25 に相当する「前記外壁に覆われない室」について、このような特定がない
点。
(相違点17-10-3)
本件訂正発明10では、輸液容器がガスバリヤー性外袋に収納されてい
ることが特定されているのに対し、甲17発明にはそのような特定はない
点。
5 (相違点17-10-4)
本件訂正発明10では、上記外袋内の酸素を取り除いたことが特定され
ているのに対し、甲17発明にはそのような特定はない点。
ウ 相違点17-10-1について
甲17発明の「複室容器に収容された液剤」が、微量金属元素の添加を
10 必須とするものであるとはいえないから、上記「複室容器に収容された液
剤」に、さらに「鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくと
も1種の微量金属元素を含む液」を添加するために、甲17発明の「別室」
に相当する「前記外壁に覆われない室」に、上記微量金属元素を含む液が
収容された微量金属元素収容容器を収納して、甲17発明を相違点17-
15 10-1に係る本件訂正発明10の構成を備えたものとすることを、当業
者が容易に想到し得たとはいえない。
エ 相違点17-10-3について
甲17には、甲17発明の「複室容器」の全体をガスバリヤー性外袋に
収納することは記載されておらず、甲17発明は、複室容器の全体を外部
20 の水分や酸素から遮断することを目的とするものであるとはいえないか
ら、甲17発明の「複室容器」の全体を、ガスバリヤー性外袋に収納して、
甲17発明を相違点17-10-3に係る本件訂正発明10の構成を備
えたものとすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
オ 相違点17-10-4について
25 上記エと同様にして、甲17発明の「複室容器」の全体をガスバリヤー
性外袋に収納し、当該外袋内の酸素を取り除くことにより、甲17発明を
相違点17-10-4に係る本件訂正発明10の構成を備えたものとす
ることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
カ 本件訂正発明11との一致点・相違点
(一致点)
5 複室輸液製剤の輸液容器において、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からな
る群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液を収容している室と、別
室を有する輸液製剤の保存安定化方法であって、
前記溶液は、システイン、またはその塩、エステルもしくはN-アシル

10 を含むアミノ酸輸液である、
前記保存安定化方法。
(相違点17-11-1)
本件訂正発明11では、「別室」が、「銅を含む液が収容された微量金属
元素収容容器を収納し、微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製
15 の袋であること」が特定されているのに対し、甲17発明では、
「別室」に
相当する「外壁に覆われない室」について、このような特定がない点。
(相違点17-11-3)
本件訂正発明11では、輸液容器が「ガスバリヤー性外袋に収納されて
いる」ことが特定されているのに対し、甲17発明では、そのような特定
20 がされていない点。
キ 相違点17-11-1について
相違点17-10-1(前記ウ)と同様にして、甲17発明の「複室容
器に収容された液剤」に、さらに「銅を含む液」を添加するために、甲1
7発明の「別室」に相当する「前記外壁に覆われない室」に、上記「銅を
25 含む液」が収容された微量金属元素収容容器を収納し、甲17発明を相違
点17-11-1に係る本件訂正発明11の構成を備えたものとするこ
とを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
ク 相違点17-11-3について
相違点17-10-3(前記エ)と同様にして、甲17発明の「複室容
器」の全体を、ガスバリヤー性外袋に収納し、甲17発明を相違点17-
5 11-3に係る本件訂正発明11の構成を備えたものとすることを、当業
者が容易に想到し得たとはいえない。
第3 原告主張の審決取消事由
1 取消事由1-1(無効理由1・本件訂正発明10と甲1発明の相違点に関す
る容易想到性の判断の誤り)
10 ⑴ 相違点1-10-1の容易想到性の判断の誤り
甲1に接した当業者は、甲1発明の総合栄養輸液剤において、患者の生命
の維持に必要な成分で、かつ、経中心静脈高カロリー輸液法(IVH)又は
完全静脈栄養法(TPN)用の輸液の必須の成分である微量金属元素を含有
する少量の溶液を添加する必要があることを認識し、その添加に当たり、用
15 時に添加する煩雑な混注操作が不要であり、より簡便に追加の少量の溶液を
添加する方法として、①連通可能な隔壁手段で区画されている2室を有する
輸液容器における上記2室と並列の位置に、微量金属元素の液を収容した、
熱可塑性樹脂製の「追加の小さな区画室」を用時連通可能な状態で独立に設
置する形態(以下「①の形態」という。)又は②上記2室のうちの含硫アミ
20 ノ酸を含むアミノ酸輸液を収容した室とは「別室」(ブドウ糖輸液を収容し
た室)に微量金属元素を含有する少量の溶液を収容した「熱可塑性樹脂フィ
ルム製の小袋」を収納する形態(以下「②の形態」という。)を順次適用す
ることを試みる動機付けがあるというべきであるから、甲1発明において、
A室(アミノ酸輸液を収容した室)とは別室のB室(ブドウ糖輸液(還元糖
25 輸液)を収容した室)に微量金属元素を含有する少量の溶液を収容した「熱
可塑性樹脂フィルム製の小袋」を収納する構成(相違点1-10-1に係る
本件訂正発明10の構成)とすることを容易に想到することができた。
⑵ 相違点1-10-3の容易想到性の判断の誤り
甲1に接した当業者は、甲1発明の総合栄養輸液剤においてビタミンB 2
の光安定性を更に向上させるため、L-チロシン及びビタミンB 2 を共にB
5 室の輸液(ブドウ糖輸液(還元糖輸液))に配合する構成に代えて、これらを
共にA室の輸液(アミノ酸輸液)に配合することを試みる動機付けがあると
いうべきであるから、
「L-チロシン」がA室(アミノ酸輸液)のみに含まれ
ている構成(相違点1-10-3に係る本件訂正発明10の構成)とするこ
とを容易に想到することができた。
10 2 取消事由1-2(無効理由1・本件訂正発明11と甲1発明の相違点に関す
る容易想到性の判断の誤り)
⑴ 相違点1-11-1の容易想到性の判断の誤り
相違点1-11-1と相違点1-10-1とは実質的に同一であるから、
相違点1-10-1の容易想到性の判断の誤り(前記1⑴)と同様である。
15 ⑵ 相違点1-11-2の容易想到性の判断の誤り
甲1に接した当業者が、甲1発明の総合栄養輸液剤においてビタミンB 2
の光安定性を更に向上させるため、L-チロシン及びビタミンB 2 を共にB
室の輸液(ブドウ糖輸液(還元糖輸液))に配合する構成に代えて、これらを
共にA室の輸液(アミノ酸輸液)に配合することを試みる際に、併せて「ニ
20 コチン酸類」に含まれる「ニコチン酸アミド」についてもA室の輸液(アミ
ノ酸輸液)に配合する構成に代えることは適宜選択すべき設計的事項である
といえるから、甲1発明の総合栄養輸液剤において、
「L-チロシン及びニコ
チン酸類」をA室の輸液(アミノ酸輸液)のみに含まれている構成(相違点
1-11-2に係る本件訂正発明11の構成)とすることを容易に想到する
25 ことができた。
3 取消事由2-1(無効理由2・本件訂正発明10と甲17発明の相違点に関
する容易想到性の判断の誤り)
⑴ 相違点17-10-1の容易想到性の判断の誤り
中心静脈栄養法の患者に用いられる高カロリー輸液についても、甲17発
明の「複室容器に収容された液剤」にいう「液剤」として使用することを想
5 定していることは、当業者であれば当然に認識し得ることであり、かつ、甲
17に微量金属元素を液剤とする例についての記載がないとしても、経中心
静脈栄養を必要とする患者に投与される高カロリー輸液に微量金属元素を混
注することは周知技術であるから、甲17に接した当業者は、上記技術常識
及び周知技術を踏まえて、甲17発明において、相違点17-10-1に係
10 る本件訂正発明10の構成とすることを容易に想到することができた。
また、甲17発明は、輸液を充填して保存し得る構造を備えた別室(外壁に
覆われない室。以下「別室②」ともいう。)と、輸液を充填して保存し得る構
造となっていない構成の別室(アミノ酸輸液製剤を収容した室と外壁との間
の空間。以下「別室①」ともいう。)を有するところ、本件審決は、別室①が
15 本件訂正発明10の「別室」に該当することを認定することなく、別室①に
「微量金属元素」を含む液が収容された「室」
(容器)を設けることの容易想
到性の判断を遺脱した誤りがある。
⑵ 相違点17-10-3の容易想到性の判断の誤り
甲17発明自体は、外装袋にガスバリヤー性を持たせ、かつ、外装袋内の
20 酸素を取り除くことを必須とはしていないとしても、酸素の影響を受けやす
いアミノ酸液を入れた容器の外装袋にガスバリヤー性を持たせ、かつ、外装
袋内の酸素を取り除くことは、本件特許の出願時の周知技術であるから、甲
17に接した当業者は、この周知技術を踏まえて、甲17発明において、相
違点17-10─3に係る本件訂正発明10の構成とすることを容易に想到
25 することができた。
⑶ 相違点17-10-4の容易想到性の判断の誤り
アミノ酸など酸化分解されやすい成分を含有する輸液を収納する輸液容
器全体を気体及び液体を通さない性質(ガスバリヤー性)を備えた外装袋に
収納し、さらに、外装袋と容器との間に脱酸素剤を収容し、外装袋内の酸素
を取り除くことによって、上記成分の酸化分解を抑制できる効果がより向上
5 することは、本件特許の出願時の周知技術であったから、甲17に接した当
業者は、甲17発明の「複室容器に収容された液剤」中の酸化分解されやす
い成分の酸化分解の抑制をさらに確実にするため、この周知技術を適用し、
甲17発明において、相違点17-10-4に係る本件訂正発明10の構成
とすることを容易に想到することができた。
10 4 取消事由2-2(無効理由2・本件訂正発明11と甲17発明の相違点に関
する容易想到性の判断の誤り)
⑴ 相違点17-11-1の容易想到性の判断の誤り
本件訂正発明11の「銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器」は、
本件訂正発明10の「鉄、マンガン及び銅からなる群より選ばれる少なくと
15 も1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器」(相違
点17-10-1に係る本件訂正発明10の構成)に含まれるから、相違点
17-10-1の容易想到性の判断の誤り(前記3⑴)と同様である。
⑵ 相違点17-11-3の容易想到性の判断の誤り
相違点17-11-3と相違点17-10-3とは同一であるから、相
20 違点17-10-3の容易想到性の判断の誤り(前記3⑵)と同様である。
第4 被告の反論
1 取消事由1-1(無効理由1・本件訂正発明10と甲1発明の相違点に関す
る容易想到性の判断の誤り)について
⑴ 相違点1-10-1の容易想到性の判断の誤りについて
25 当業者が、甲1の記載に従って、甲1発明の輸液剤に電解質としての無機
成分を配合しようとする場合には、甲1の記載に従って、各室輸液の成分、
各室輸液のpHなどとの適合性も考慮のうえ、必要に応じて選択した成分
を、A室、B室の輸液のいずれか一方、又はA室及びB室の輸液に適宜分散
して、直接配合すればよいと考えるのが当然である。万が一、当業者が、甲
1の記載に反して、甲1発明の輸液剤に電解質としての無機成分を隔離して
5 収容しようと考えたとしても、せいぜい、アミノ酸や糖類とは異なる区画
(小室)を設けて、「鉄、マンガン又は銅」が含まれるとは限らない微量元
素を収容することに想到できるにすぎない。よって、甲1発明において、含
硫アミノ酸を含有している室と別室に、鉄、マンガン及び銅からなる群より
選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された、熱可塑性樹
10 脂フィルム製の袋である微量金属元素収容容器を収納する動機付けは存在し
ない。
⑵ 相違点1-10-3の容易想到性の判断の誤りについて
甲1発明において、L-チロシンは、ビタミンB 2 の光安定性を確保するた
めにビタミンB 2 と共にB室に配合されることが必須である。ビタミンC及
15 びビタミンB 2 がそれぞれ安定に配合されている甲1発明において、B室に
配合されているL-チロシンをビタミンB 2 と共に、あえて、ビタミンCが配
合されているA室の輸液(アミノ酸輸液)に配合することを試みる動機付け
は全くないし、むしろ、そのような配合先の変更は、ビタミンB 1、ビタミン
B 2 及びビタミンCを長期間安定に保存し得る総合栄養輸液剤を提供すると
20 いう甲1発明の課題を達成できなくなるから、阻害要因がある。
2 取消事由1-2(無効理由1・本件訂正発明11と甲1発明の相違点に関す
る容易想到性の判断の誤り)について
⑴ 相違点1-11-1の容易想到性の判断の誤りについて
相違点1-10-1についての被告の主張(前記1⑴)と同様である。
25 ⑵ 相違点1-11-2の容易想到性の判断の誤りについて
相違点1-10-3についての被告の主張(前記1⑵)と同様であり、ニ
コチン酸類についても同様である。
3 取消事由2-1(無効理由2・本件訂正発明10と甲17発明の相違点に関
する容易想到性の判断の誤り)について
⑴ 相違点17-10-1の容易想到性の判断の誤りについて
5 甲17には、そもそも、微量金属元素を添加することについて全く記載さ
れておらず、別室、すなわち外壁で覆われない室に、「鉄、マンガンおよび
銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容さ
れた」、「熱可塑性樹脂フィルム製の袋」である「微量金属元素収容器」を収
納することは、記載も示唆もされていない。
10 当業者が、甲17発明に鉄、マンガン、銅からなる群より選ばれる少なく
とも1種の微量金属元素を配合しようとする場合には、外壁で覆われない室
に直接配合しても、外壁内部にとどまる硫化水素と反応することはないので
あるから、わざわざ、
「鉄、マンガン、銅からなる群より選ばれる少なくとも
1種の微量金属元素を含む液」を「熱可塑性樹脂フィルム製の袋」に収容し
15 てから別室(外壁で覆われない室)に収容するという、煩雑な構成を採用す
る必要性は全くないから、別室(外壁で覆われない室)に、
「鉄、マンガンお
よび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収
容された」、「熱可塑性樹脂フィルム製の袋」である「微量金属元素収容器」
を収納する動機付けは存在しない。
20 ⑵ 相違点17-10-3及び相違点17-10-4の容易想到性の判断の
誤りについて
甲17に記載された技術は、水分・ガスバリヤー性フィルムで複室容器全
体を覆うことや、脱酸素剤を封入することによって、コストが高くなるとい
う課題を解決することを目的とするもので、甲17においては「吸湿性や易
25 酸化性を有する液剤、粉末剤もしくは固形剤」が収容されている室は、既に
水分非透過性、ガス非透過性のフィルムを含む外壁で覆われている。そうす
ると、甲17発明において、輸液容器全体を「ガスバリヤー性外袋」に収納
し、さらに、脱酸素剤などによって外袋内の酸素を取り除く構成を採用する
ことは、甲17の目的に反するから、動機付けがなく、むしろ阻害要因があ
る。
5 4 取消事由2-2(無効理由2・本件訂正発明11と甲17発明の相違点に関
する容易想到性の判断の誤り)について
⑴ 相違点17-11-1の容易想到性の判断の誤りについて
相違点17-10-1についての被告の主張(前記3⑴)と同様である。
⑵ 相違点17-11-3の容易想到性の判断の誤りについて
10 相違点17-10-3についての被告の主張(前記3⑵)と同様である。
第5 当裁判所の判断
1 本件各訂正発明の概要
本件訂正後における本件特許の特許請求の範囲及び本件明細書の記載(前記
第2の2)によると、本件各訂正発明の概要は、以下のとおりであると認めら
15 れる。
⑴ 本件各訂正発明は、連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有する輸
液容器が開発され、病院で使用されるようになったことを背景とする、経時
変化を受けることなく保存でき、使用時に細菌による汚染なく薬剤の配合を
行うことができる複数の室を有する輸液容器に収容されている輸液製剤に関
20 する発明である(【0001】、【0002】)。
⑵ 微量金属元素は輸液と混合した状態で保存すると、化学反応によって品質
劣化の原因となることが知られていたところ(【0003】)、外部からの押圧
によって連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器を用い、
用時に細菌汚染の可能性なく微量金属元素を混入することができ、かつ、保
25 存安定性にも優れた輸液製剤であって、微量金属元素が安定に存在している
ことを特徴とする含硫化合物を含む溶液を有する輸液製剤を提供することが
課題であった(【0004】、【0005】。なお、含硫アミノ酸の分解により
気体として発生する硫化水素が、銅などの微量金属元素と反応すると、硫化
銅などの硫化物の着色沈殿が生成されることは技術常識である(甲14~1
6)。)。
5 ⑶ 本件各訂正発明は、上記課題を解決するための手段として、連通可能な隔
壁手段で区画されている複室からなる輸液容器において、その一室に「硫黄
原子を含む化合物を含有する溶液」を充填し、他の室に「微量金属元素収容
容器」を収納し、上記輸液容器の各室を、
「気体および液体を通さない性質の
外袋」に収納することを含む手段を用いるものである(【0006】、
【001
10 2】、【0014】、【0035】)。
⑷ 本件明細書には、比較例の輸液製剤(【図4】)と実施例1から4までの輸
液製剤(【図1】~【図3】)を比較すると、60℃で2週間保存した場合、
比較例の輸液製剤においてのみ微量金属元素収容容器に着色が見られ、実施
例1から4までの製剤は比較例の輸液製剤より銅の安定性に優れていたとい
15 う結果が記載されており(【0065】、
【表5】)、これらの結果は、本件各訂
正発明の保存安定化方法によって、輸液製剤の優れた保存安定性が奏された
という効果を示すものである(【0066】)。
2 甲1発明及び甲17発明並びに本件各訂正発明との対比
甲1に甲1発明が記載されていること及びこれと本件各発明を対比すると本
20 件審決が認定した一致点及び相違点(前記第2の3⑴ア、イ、オ参照)が認め
られることは、当事者間に争いがない。
また、甲17に甲17発明が記載されていること及びこれと本件各発明を対
比すると本件審決が認定した一致点及び相違点(前記第2の3⑵ア、イ、カ参
照)が認められることは、当事者間に争いがない。
25 3 取消事由1-1(無効理由1・本件訂正発明10と甲1発明の相違点に関す
る容易想到性の判断の誤り)について
⑴ 相違点1-10-1についての判断
原告は、甲1に接した当業者は、甲1発明の総合栄養輸液剤において、輸
液の必須の成分である微量金属元素を含有する少量の溶液を添加する必要が
あることを認識し、その添加に当たり、用時に添加する煩雑な混注操作が不
5 要であり、より簡便に追加の少量の溶液を添加する方法として、①の形態(「追
加の小さな区画室」を並列の位置に独立に設置する形態)又は②の形態(「別
室」に「熱可塑性樹脂フィルム製の小袋」を収納する形態)を順次適用する
ことを試みる動機付けがあり、相違点1-10-1に係る本件訂正発明10
の構成とすることを容易に想到することができた旨主張する。
10 そこで検討するに、甲1によると、甲1発明は、連通可能な隔離手段で区
画され、連通後、内容物を外気にさらすことなく混合できる輸液容器に充填
された、還元糖、アミノ酸、ビタミン及び電解質を全て含み、輸液フィルタ
ーを通過し、かつ、ビタミンB 1 、ビタミンB 2 及びビタミンCを長期間安定
に保存し得る総合栄養輸液剤を提供するものである(甲1の【0001】、
【0
15 008】、【0014】、【0131】)。同発明においては、上記輸液容器のA
室(アミノ酸等の輸液の室)及びB室(還元糖等の輸液の室)に更に充填さ
れ得る電解質である微量金属元素については、各室輸液の成分及びpH等と
の適合性等を考慮して、必要に応じて選択の上、両室の輸液のいずれか一方
又は両室の輸液に適宜分散して、輸液自体に添加することが想定されている
20 (同【0032】~【0034】)。他方、甲1においては、微量金属元素を
輸液自体に添加する代わりに、原告が主張する①の形態や②の形態のような
方法で輸液容器の構成の中にあらかじめ組み込んでおくことが想定されると
いうような記載や示唆はない。
そして、複室輸液製剤の輸液容器における微量金属元素の収容に関して、
25 原告が主張する②の形態を実際に採用した輸液容器についての記載は、本件
証拠上見当たらない。しかも、本件訂正発明10の課題及びその解決手段で
ある、複室輸液製剤の輸液容器において、そこに収容されているアミノ酸輸
液に含まれる含硫アミノ酸から発生し得る硫化水素が、銅などの微量金属元
素と反応し、着色沈殿が生じるのを防ぐことを目的として、微量金属元素を、
煩雑な操作で用時に混注することなく、輸液容器の構成の中にあらかじめ組
5 み込んでおく場合に、輸液容器におけるその収容の仕方を工夫すべきことに
ついて、具体的に述べている記載も、本件証拠上見当たらない。
そうすると、甲1に接した当業者にとって、甲1発明から相違点1-10
-1に係る本件訂正発明10の構成に至るには、甲1発明における輸液容器
において、銅などの微量金属元素を輸液容器の構成の中にあらかじめ組み込
10 んでおくことを着想し、その上で、その収容の仕方を具体的に想起し、①の
形態及び②の形態の中から②の形態を選択するという複数の段階を要するの
であり、甲1発明に基づいて相違点1-10-1に係る本件訂正発明10の
構成に想到することには格別の努力が必要であるから、当業者が相違点1-
10-1に係る本件訂正発明10の構成とすることを容易に想到することが
15 できたということはできない。
これに対し、原告は、ⅰ 甲1発明は、患者の生命の維持に必要な成分を
全て含有させながら、沈殿の生成、変質、着色などの種々の問題を回避でき
る総合栄養輸液剤を提供することを目的とすること(甲1の【0014】、
【0
131】)、ⅱ 甲1発明において、微量金属欠乏症の発症を予防するため、
20 銅、マンガン、鉄等の徴量金属元素の溶液を添加する必要があることを自然
に想起し得たこと、ⅲ 連通可能な隔壁手段で区画されている2室を有する
輸液容器を使用し、それぞれの室にブドウ糖輸液、アミノ酸輸液を収容し、
電解質を双方又はいずれかの室に配合することは、慣用技術であったこと、
ⅳ 連通可能な隔壁手段で区画されている2室を有する輸液容器において、
25 ①の形態及び②の形態が公知又は周知であったこと、ⅴ 硫化水素ガスに関
する技術常識を主張するが、このような主張を踏まえたとしても、上記判示
のように複数の段階を要することに変わりはないから、当業者が相違点1-
10-1に係る本件訂正発明10の構成とすることを容易に想到することが
できたということはできない。
⑵ 以上のとおり、当業者が相違点1-10-1に係る本件訂正発明10の構
5 成とすることを容易に想到することができたということはできないから、そ
の余の点を判断するまでもなく、本件訂正発明10は、当業者が甲1発明に
基づいて容易に発明をすることができたとはいえず、取消事由1-1は理由
がない。
4 取消事由1-2(無効理由1・本件訂正発明11と甲1発明の相違点に関
10 する容易想到性の判断の誤り)について
取消事由1-1に係る相違点1-10-1についての判断(上記3)と同様
にして、当業者が相違点1-11-1に係る本件訂正発明11の構成とするこ
とを容易に想到することができたとはいえないから、その余の点を判断するま
でもなく、本件訂正発明11は、当業者が甲1発明に基づいて容易に発明をす
15 ることができたとはいえず、取消事由1-2は理由がない。
5 取消事由2-1(無効理由2・本件訂正発明10と甲17発明の相違点に
関する容易想到性の判断の誤り)について
⑴ 相違点17-10-1についての判断
ア 原告は、甲17に接した当業者は、高カロリー輸液に関する技術常識及
20 び微量金属元素に関する周知技術を踏まえると、甲17発明において、相
違点17-10-1に係る本件訂正発明10の構成とすることを容易に
想到することができたと主張する。
そこで検討するに、甲17発明は、吸湿性を有する液剤、粉末剤若しく
は固形剤、又は易酸化性を有する液剤、粉末剤若しくは固形剤を収容した
25 室のみを外部の水分や酸素から遮断するとともに、脱酸素剤や乾燥剤を封
入することなく、前記物質の酸化防止や吸湿防止を図り得るようにした
複室容器を提供しようとするものである(甲17の【0003】)。そして、
甲17において、上記複室容器には、糖・電解質液も収納し得ることは記
載されているが(同【0012】)、この電解質が、鉄、マンガン又は銅な
どの微量金属元素を含むものであるとの記載や示唆はなく、アミノ酸輸液
5 に含まれる含硫アミノ酸から発生し得る硫化水素が、銅などの微量金属元
素と反応し、沈殿が生じるとの課題についての記載や示唆もない。さらに、
本件訂正発明10の課題及びその解決手段である、複室輸液製剤の輸液容
器において、そこに収容されているアミノ酸輸液に含まれる含硫アミノ酸
から発生し得る硫化水素が、銅などの微量金属元素と反応し、着色沈殿が
10 生じるのを防ぐことを目的として、微量金属元素を、煩雑な操作で用時に
混注することなく、輸液容器の構成の中にあらかじめ組み込んでおく場合
に、輸液容器におけるその収容の仕方を工夫すべきことについて、具体的
に述べている記載も、本件証拠上見当たらない。
そうすると、甲17に接した当業者にとっては、甲17発明における輸
15 液容器において、銅などの微量金属元素を収容した容器を、甲17発明に
おける「前記外壁に覆われない室」に収容することを動機付けられるとは
いえず、相違点17-10-1に係る本件訂正発明10の構成とすること
を容易に想到することができたということはできない。
イ 原告は、本件審決に、原告が主張する別室①(アミノ酸輸液製剤を収容
20 した室と外壁との間の空間)が本件訂正発明10の「別室」に該当するこ
とを認定することなく、別室①に「微量金属元素」を含む液が収容された
「室」
(容器)を設けることの容易想到性の判断を遺脱した誤りがあると主
張する。
しかし、本件審決は、甲17発明について、「アミノ酸輸液製剤を収容し
25 た室」と「前記外壁に覆われない室」
(原告が主張する別室②)が2つの室で
あると認定した上で、相違点17-10-1として、
「前記外壁に覆われない
室」が本件訂正発明10の「別室」に相当するとし、この「前記外壁に覆わ
れない室」について、微量金属元素収容容器を収納するものとの特定がない
点を認定し、その相違点についての容易想到性を判断したものである。そし
て、前記2のとおり、甲17に甲17発明が記載されていること及びこれ
5 と本件発明10を対比すると本件審決が認定した一致点及び相違点が認
められることは当事者間に争いがないのであるから、その判断に遺脱はな
い。
原告が主張する別室①に微量金属元素収容容器を設けることの容易想到
性を争うのであれば、甲17の記載から、甲17発明とは別に、「アミノ酸
10 輸液製剤を収容した室」と、
「その室と外壁との間の空間」を「室」とした
2つの室を有する発明を認定した上で、その発明と本件訂正発明10との
一致点・相違点(「アミノ酸輸液製剤を収容した室と外壁との間の空間」が
「別室」に相当することを前提とした相違点)を認定し、その容易想到性
の誤りを主張すべきところ、原告は、甲17発明及び相違点17-10-
15 1(「前記外壁に覆われない室」が「別室」に相当するとするもの)を認めた
上で、その容易想到性の誤りとして主張しているのであるから、原告の上記
主張は採用することができない。
この点をしばらくおき、原告の主張する別室①(アミノ酸輸液製剤を収容
した室と外壁との間の空間)が、本件訂正発明10の「別室」に相当する
20 ものとして、その容易想到性について判断しても、アミノ酸液製剤を収容
した室に含まれる含硫アミノ酸から発生し得る硫化水素は、銅などと反応
して着色沈殿を生じるという技術常識(甲14~16)を踏まえれば、別
室①はその全体がガス非透過性の外壁で覆われた空間であるから、アミノ
酸液製剤を収容した室に含まれる含硫アミノ酸から発生し得る硫化水素
25 は、別室①から外部に放出されることなく、その内部にとどまることにな
ると考えられる。当業者は、そのように硫化水素が存在し得る別室①に、
硫化水素と反応して着色沈殿を生じる銅などの微量金属元素を含む液が
収容された微量金属元素収容容器を収納することは、むしろ避けるはずで
ある。そうすると、甲17発明において、別室①に相違点17-10-1
に係る本件訂正発明10の構成を適用することには、阻害要因があるとい
5 うべきであり、相違点17-10-1に係る本件訂正発明10の構成とす
ることを容易に想到することができたということはできない。
⑵ 以上のとおり、相違点17-10-1に係る本件訂正発明10の構成とす
ることを容易に想到することができたということはできないから、その余の
点を判断するまでもなく、本件訂正発明10は、当業者が甲17発明に基づ
10 いて容易に発明をすることができたとはいえず、取消事由2-1は理由がな
い。
6 取消事由2-2(無効理由2・本件訂正発明11と甲17発明の相違点に
関する容易想到性の判断の誤り)について
取消事由2-1に係る相違点17-10-1についての判断(上記5)と同
15 様にして、相違点17-11-1に係る本件訂正発明11の構成とすることを
容易に想到することができたとはいえないから、その余の点を判断するまでも
なく、本件訂正発明11は、当業者が甲17発明に基づいて容易に発明をする
ことができたとはいえず、取消事由2-2は理由がない。
7 結論
20 以上のとおり、原告が主張する取消事由はいずれも理由がない。
よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとお
り判決する。
知的財産高等裁判所第1部

裁判長裁判官
5 増 田 稔

裁判官
10 伊 藤 清 隆

裁判官
15 天 野 研 司

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