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令和6(ワ)4753民事訴訟 特許権

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裁判所 請求棄却 大阪地方裁判所
裁判年月日 令和8年4月16日
事件種別 民事
当事者 原告中外商工株式会社
被告日本ペイント株式会社
法令 特許権
特許法17条の21回
特許法102条2項1回
特許法100条1項1回
キーワード 無効12回
実施11回
進歩性8回
新規性7回
特許権5回
差止2回
侵害2回
損害賠償1回
刊行物1回
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、補助参加によって生じた分も含め、原告の負担とする。
事件の概要 1 本判決で用いる呼称(略語) (1) 本件特許(権) :特許第5676371号に係る特許(権) (2) 本件明細書:本件特許権に係る明細書及び図面。本件明細書の内容は、別紙 特許公報記載のとおり。なお、本件明細書中の段落は【 (4桁の数字) 】として 示す。 (3) 本件発明:本件特許の特許請求の範囲請求項1の発明 (4) 被告製品1(ないし4) :別紙「被告製品目録」記載1(ないし4)の製品 (これらの総称は「被告各製品」 ) (5) CERI:一般財団法人化学物質評価研究機構 (6) FT-IR法:フーリエ変換赤外分光分析法

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判決文

令和8年4月16日判決言渡 同日原本受領 裁判所書記官
令和6年(ワ)第4753号 特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 令和8年2月19日
判 決
原告 中外商工株式会社
代表者代表取締役
訴訟代理人弁護士 永田貴久
同 赤松俊治
10 同 後藤泰徳
同 中川美佐
同 阪本敬幸
被告 日本ペイント株式会社
15 代表者代表取締役
訴訟代理人弁護士 佐藤安紘
同 小西絵美
被告
補助参加人 大信ペイント株式会社
代表者代表取締役
訴訟代理人弁護士 高橋司
同 中村克宏
25 同 禿祥子
同 村上奈緒子
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、補助参加によって生じた分も含め、原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
5 第1 請求
1 被告は、別紙「被告製品目録」記載の各製品を製造し、使用し、譲渡し、貸し
渡し若しくは輸出し、又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。
2 被告は、別紙「被告製品目録」記載の各製品を廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、2億8850万円及びこれに対する令和6年5月24日
10 から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本判決で用いる呼称(略語)
(1) 本件特許(権):特許第5676371号に係る特許(権)
(2) 本件明細書:本件特許権に係る明細書及び図面。本件明細書の内容は、別紙
15 特許公報記載のとおり。なお、本件明細書中の段落は【(4桁の数字)】として
示す。
(3) 本件発明:本件特許の特許請求の範囲請求項1の発明
(4) 被告製品1(ないし4):別紙「被告製品目録」記載1(ないし4)の製品
(これらの総称は「被告各製品」)
20 (5) CERI:一般財団法人化学物質評価研究機構
(6) FT-IR法:フーリエ変換赤外分光分析法
(7) PyGC/MS法:熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析法
(8) 1H-NMR法:プロトン核磁気共鳴(1H―NMR)法(これにより得ら
れたスペクトルは「1H-NMRスペクトル」)
25 (9) GPC法:ゲル浸透クロマトグラフ法
(10) 樹脂A・樹脂B:シラノール基を有する特定の樹脂製品(樹脂Aと樹脂B
は型番が異なる)
(11) 甲8試験:被告製品3につき原告からの依頼によりCERIが実施した、
PyGC/MS法による分析試験及びその結果(甲8。被告製品1、2及び4
についての甲51に係る同種試験は「甲51試験」、これらを併せて「甲8等試
5 験」)
(12) 甲19試験:被告製品3につき原告からの依頼によりCERIが実施した、
甲19に係る1H-NMR法による測定試験(被告製品1についての同種試験
に係る甲20、被告製品2についての同種試験に係る甲52を含めて「甲19
等試験」)
10 (13) 乙7発明:特開2000-336311号公報(乙7文献。平成12年1
2月5日公開)に記載の発明
(14) 乙8発明:特開2002-213705号公報(乙8文献。平成14年7
月31日公開)に記載の発明
2 原告の請求(訴訟物)
15 被告が、遅くとも令和2年7月から被告各製品を製造・販売等しており、これ
が本件特許権を侵害するものであることを前提とする、
(1) 特許法100条1項、2項に基づく被告各製品の製造・使用・譲渡等の差止
め及び被告各製品の廃棄の請求
(2) 不法行為(民法709条)に基づく損害賠償金2億8850万円及びこれに
20 対する不法行為の後日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合に
よる遅延損害金の支払請求
3 前提事実(争いのない事実、掲記の証拠〔枝番を含む、以下同じ。〕及び弁論の
全趣旨により容易に認定できる事実)
(1) 当事者
25 ア 原告は、塗料の開発・製造・販売等及び各種工事業を業とする株式会社で
ある。
イ 被告は、塗料の開発・製造・販売等を業とする株式会社である。
ウ 補助参加人は、各種塗料、接着剤及びライニング材の製造販売等を目的と
する株式会社であり、被告各製品を製造して被告に納入している。
(2) 本件特許権
5 原告は、本件特許権を有している。本件特許の書誌的事項は、次のとおりで
ある。(甲1、2)
ア 特許番号:特許第5676371号
イ 出願日:平成23年6月7日
ウ 優先日:平成22年6月30日
10 エ 登録日:平成27年1月9日
オ 発明の名称:物質の放射熱軽減塗料及び放射熱軽減方法
(3) 本件発明の構成要件の分説
本件発明の構成要件は、以下のとおり分説される。
A 空気中の水分によって硬化反応するアルコキシシロキサンをビヒクルの
15 主成分とし、
B 金属粉末と溶剤を混合したものであって、
C 該金属粉末の混合量は、該ビヒクル100容積部に対して金属粉末が30
~50容積部であり、
D 該金属粉末は、アルミニウム粉末、銀粉末、クロム粉末、ニッケル粉末の
20 中から選ばれる1又は複数のものであり、
E さらに沈降防止剤を混合したことを特徴とする
F 放射熱軽減塗料。
(4) 被告各製品の構成等
ア 被告各製品の構成について、原告は、以下のaないしfのとおり主張する
25 ところ、少なくとも、被告各製品(構成b及びd)が、構成要件B及びDを
充足する点は争いがない。
a ポリマーは、シリコーンポリマーのみで構成され、当該シリコーンポリ
マーは、
(1)ヘキサメチルシクロトリシロキサン、
(2)オクタメチルシ
クロテトラシロキサン、(3)メチルフェニルオリゴシロキサンから構成
されている。
5 b アルミニウム粉末とエチルベンゼン等が含まれている。
c アルミニウム粉末量は、ビヒクル100容積部に対して41.1容積部
と算定される。
d アルミニウム粉末が含まれている。
e 沈降防止剤が含まれている。
10 f 環境配慮形シリコーン樹脂系耐熱用上塗り塗料と銘打っている。
イ 被告製品3については、安全データシート(SDS)の記載上、令和5年
11月2日の同シート改定の前後で、化学物質の濃度に下表記載の差異があ
り(「製品の入手日」及び「製品のLot.」は、原告による被告製品3の入
手日及び入手した製品のLot.である。)、被告製品1、2及び4について
15 もこれと類似の差異がある(以下、上記改定後の安全データシートに係る被
告各製品については、
「変更後被告製品3」などということがある。)
(甲9、
10、26ないし29、弁論の全趣旨)。
テツゾール600エコシルバー
製品の入手日 2023年3月30日 2024年10月25日
製品のLot. O.C.06 DP-1 P.G.10 DP-1
20 CAS番号
SDS制定年月日 2022年8月12日 2023年11月2日
SDS整理番号 RXG-001-0003-12 RXG-001-0003-14
エチルベンゼン 100-41-4 23 23

キシレン 1330-20-7 33 33

アルミニウム粉 7429-90-5 15~20 15~20

中沸点脂肪族ナフサ 64742-88-7 5~10

エチルアルコール 64-17-5 0.1~1
25 の
トルエン 108-88-3 0.1~1

脂肪族炭化水素 64742-48-9 6.1

低沸点芳香族ナフサ 64742-95-6 2.1
(5) 被告の行為
被告は、遅くとも令和2年7月から、被告各製品の販売及び販売の申出をし
ている。
5 4 争点
(1) 被告各製品が本件発明の技術的範囲に属するか(争点1)
ア 被告各製品が構成要件Aを充足するか(争点1-1)
イ 被告各製品が構成要件Cを充足するか(争点1-2)
ウ 被告各製品が構成要件Eを充足するか(争点1-3)
10 エ 被告各製品が構成要件Fを充足するか(争点1-4)
(2) 本件特許に次の無効理由があるか(争点2)
ア 明確性要件違反(争点2-1)
イ サポート要件違反(争点2-2)
ウ 補正要件違反(争点2-3)
15 エ 乙7発明を引用例とする新規性・進歩性欠如(争点2-4)
オ 乙8発明を引用例とする新規性・進歩性欠如(争点2-5)
(3) 損害の有無及び額(争点3)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1-1(被告各製品が構成要件Aを充足するか)について
20 【原告の主張】
(1) 甲8等試験から、被告製品のポリマーの主成分がアルコキシシロキサンに当
たるといえること
ア CERIにおいて、被告製品3をFT-IR法で分析したところ、被告製
品3のポリマーの主成分はシリコーンポリマーのみであるという結果が得
25 られた。また、被告製品3を塗料等の高分子化合物(ポリマー)の構造分析
等に一般的に用いられるPyGC/MS法で分析したところ、上記シリコー
ンポリマーから①ヘキサメチルシクロトリシロキサン、②オクタメチルシク
ロテトラシロキサン、③メチルフェニルオリゴシロキサンが検出された(甲
51試験によれば、被告製品1及び2についても同様である。)。
これらの熱反応の過程としては、別紙「原告主張の熱反応の過程図」が挙
5 げられるところ、上記①ないし③のシロキサンの熱反応前のそれぞれの化合
物は、Si-O結合(シロキサン結合)を持ち、分子内にアルコキシ基(R
-O-)を含んでいるため、アルコキシシロキサンに該当する。
ここで、シリコーンポリマーとは、ケイ素と酸素からなるシロキサン結合
(≡Si-O-Si≡)を骨格とし、そのケイ素(Si)にメチル基(-C
10 H3)を主体とする有機基が結合したポリマーの総称をいうため、これらア
ルコキシシロキサンはシリコーンポリマーである。そして、前記のとおり、
被告製品3のポリマーの主成分はシリコーンポリマーであるため、被告製品
3のシリコーンポリマーはアルコキシシロキサンに該当する。また、そのア
ルコキシシロキサンが被告製品3のポリマーの主成分であることから、アル
15 コキシシロキサンがビヒクルの主成分であるといえる。
そして、被告製品1ないし4は、それぞれ400℃以上、500℃以上、
600℃以上、700℃以上の耐熱性能を有する塗料であり、このような耐
熱性能を持たせるためにシリコーン樹脂を配合しているものであるから、被
告製品1、同2及び同4についても、同3と同様にアルコキシシロキサンを
20 ビヒクルの主成分としているものといえる。
イ 前記①ないし③のシロキサンの生成方法として、一般に、㋐シラノール基
を有するシリコーンレジンの「熱硬化」(加熱しなければ熱反応による硬化
が開始しない。)と、㋑アルコキシ基を有するシリコーンオリゴマーの「湿気
硬化」(常温においても空気中の水分の吸収により、硬化反応が開始する。)
25 の2種類の反応がある。
被告各製品の製品使用説明書には、塗装基準の一項目として、
「乾燥時間」
に関する表が記載されており、5℃、23℃、30℃における半硬化乾燥時
間が、それぞれ6時間、4時間、3時間と示されている(甲4~7)。日本産
業規格の塗料の一般試験方法を規定した規格(JISK5600-1-1:
1999)によると、
「半硬化乾燥」とは、塗面の中央を指先で静かに軽くこ
5 すって塗面にすり跡が付かない状態をいい(甲23)、既に硬化反応が開始
していることを意味する。「乾燥時間」に関する表に記載されている温度か
らすると、被告製品は「熱硬化」ではなく、
「湿気硬化」により塗膜を形成す
るタイプの塗料であると考えられる。
したがって、PyGC/MS法による熱分解前の化合物は、アルコキシ基
10 を有するアルコキシシロキサンに該当する。
(2) 甲19試験から、被告製品のポリマーの主成分がアルコキシシロキサンであ
るといえること
ア 被告製品1及び3につき、CERIにおいて、1H-NMR法による測定
にて分析したところ、そのスペクトルから、シリコーンポリマーの構造に帰
15 属すると推定されるメトキシ基(アルコキシ基の一種)のピーク(3.66
ppm)が認められ、また、かかるメトキシ基はケイ素と直接結合している
(メトキシシリル基である)と推定されるとの分析結果を得た(甲19、2
0)。
「1H-NMRスペクトルからは、次表に示すシリコーンポリマ
すなわち、
20 ーの構造に帰属すると推定されるピークが認められた」とされ、図2(c)
において、帰属化学構造として、
「メトキシシリル基」
(-Si-O-CH3)
が明記されている(具体的記載は、別紙「甲19試験報告書(抜粋)」のとお
り)。そして、同試験の添付資料1ないし3において、実際に3.66ppm
にピークの認められる、詳細な1H-NMRスペクトルのデータが添付され
25 ている。
アルコキシシロキサンは、Si-O結合(シロキサン結合)を持ち、分子
内にアルコキシ基を有するもの(本件明細書【0007】)であるが、上記分
析結果は、被告製品1及び3に含まれるシリコーンポリマーが、アルコキシ
シロキサンであることを意味する。そして、被告製品1及び3のポリマーの
主成分はシリコーンポリマーであることからすると、被告製品1及び3は、
5 アルコキシシロキサンをビヒクルの主成分としているものといえる。
被告各製品は、全てシリコーン樹脂を配合している塗料であるから、被告
各製品全てについて、アルコキシシロキサンをビヒクルの主成分としている
ものといえる。
イ 3.66ppmのピークは、メトキシ基の一般的な化学シフト値である3.
10 25~4.00ppmの範囲内にあり(甲46)、メトキシ基の典型的な特徴
であるシングレット(一重線)のピークとして現れている。加えて、当該ピ
ークは、被告製品1ないし3の全てにおいて、3.66ppmの化学シフト
値にて、同程度のシグナル強度にて検出されている。これらから、このピー
クはメトキシ基由来であると推定される。そして、被告各製品に関して、前
15 述のFT-IR法による分析、PyGC/MS法による分析、及び1H-N
MR法による測定を実施して得られた結果等を、総合的に考慮するとメトキ
シ基(O-CH3)がケイ素(Si)に結合している(つまり、メトキシシリ
ル基(-Si-O-CH3)である)と推定できる。
(3) 被告の主張について
20 被告各製品の配合表につき樹脂A及び樹脂B以外の部分が黒塗りとされて
いることや、1H-NMR法による分析結果(スペクトルの違い)及びGPC
法による分析結果(分子量の違い)によると、被告各製品には樹脂A及び樹脂
B以外の樹脂が配合されている。
また、被告各製品については、原告が被告に対して通知書を送付した直後の
25 令和5年11月2日に安全データシートの改定がされ、設計変更がされている
ところ、上記と同様の分析結果によると、変更後被告製品3にも樹脂A以外の
樹脂が配合されている。
(4) 小括
以上より、被告各製品(変更後被告製品3を含む。)の構成aは、本件発明の
構成要件Aを充足する。
5 【被告の主張】
(1) 被告製品に使用される樹脂A及び樹脂Bはアルコキシシロキサンではない
こと
被告製品1ないし3には樹脂Aが、被告製品4には樹脂Bがそれぞれ配合さ
れており、これら以外の樹脂は配合されていないところ、樹脂A及び樹脂Bは
10 いずれもシリコーンレジンであり、その官能基はシラノール基であってアルコ
キシ基ではないから、アルコキシシロキサンには該当しない。
(2) 甲8試験からは、アルコキシシロキサンであるとはいえないこと
別紙「原告主張の熱反応の過程図」の右側記載の①ないし③のシロキサンの
生成方法には、一般に、シラノール基を有するシリコーンレジンを「熱硬化」
15 させてシロキサン結合を生成する反応と、アルコキシ基を有するシリコーンオ
リゴマーを「湿気硬化」させてシロキサン結合を生成する反応の2種類がある
から、被告製品3を熱分解したものに上記①ないし③のシロキサンが含まれて
いるからといって、「湿気硬化」の反応によるものであると特定することはで
きない。かえって、被告製品は官能基にシラノール基を保有しており、アルコ
20 キシ基を保有していないのであるから、被告製品3の熱分解後のシロキサンは、
被告製品3に配合されるシラノール基を有するシリコーンレジンの熱硬化に
より生成されるものであるといえる。
樹脂A及び樹脂Bが熱硬化型の樹脂であることは、その製品説明資料に●●
●●●●●●●●●●●●●●●と明記されているとおりである。被告製品の
25 製品仕様説明書には、乾燥時間に関する表が記載されており、5℃、23℃、
30℃で「半硬化乾燥」することが記載されてはいるが、
「半硬化乾燥」は、
「塗
面の中央を指先で静かに軽くこすって塗面にすり跡が付かない状態」(甲23
の8頁)と定義される現象であって、これは、塗料中の溶剤が大気中に揮発す
ることで塗膜の表面張力が増加し、樹脂成分が融着することにより、指でこす
っても変形しない程度の強度が得られる現象にすぎず、「物理的乾燥」のプロ
5 セスであるから、「熱硬化」「湿気硬化」(いずれも化学反応を伴う「化学的硬
化」である。)とは本質的に異なるものである。
(3) 甲19等試験について
甲19等試験は、樹脂(樹脂A及び樹脂B)ではなく、塗料(被告製品1な
いし3)の分析である。このような分析をしたとしても、塗料全体に含まれる
10 化合物の分子構造や物性を解明することができるにすぎず、樹脂自体に含まれ
る化合物の分子構造や物性を解明することはできない。実際、塗料には樹脂以
外にも顔料、溶剤及び添加剤などが配合されているから、塗料全体の分析結果
から特定の化合物の分子構造を推定できたとしても、その塗料に配合される樹
脂自体の化合物の分子構造を特定したことにはならない。また、甲19等試験
15 でその存在が推定されている「メトキシ基」は、極めて弱いピーク値しか示し
ておらず、塗料全体の化合物の分析にとって何らかの意味を持つ有意な値を示
しているともいえない。
さらに、上記の点を措くとしても、アルコキシシロキサンとはSi-O結合
とアルコキシ基の双方を備える化合物をいうから(本件明細書【0007】)、
20 1H-NMRスペクトルによって塗料内にアルコキシシロキサンが存在する
ことを推定するためには、アルコキシ基(メトキシ基(-OCH3))が存在す
ることを示すだけではなく、少なくともアルコキシ基(メトキシ基(-OCH
3))がケイ素(Si)に結合している化合物(「-Si-OCH3」のメトキシ
シリル基)が存在することを示す必要がある。このメトキシシリル基は、1H
25 -NMRスペクトルでは、測定溶媒が重水(D2O)や重クロロホルムの場合
には3.51ppmで観察されるものであるから、1H-NMRスペクトルに
おいて3.51ppm付近で所定のピークが観察されなければ、その分析対象
の塗料にはメトキシシリル基が存在しないということになる。これを前提に、
甲19等試験をみると、添付資料3において、測定溶媒を重クロロホルムとし
た場合に、
「c」に相当するピークは3.66ppmであり、3.51ppm付
5 近では何らのピークも観察されていない。そうすると、仮に、上記「c」に係
る分析結果が何らかの有意な値を示しているとしても、被告製品1ないし3に
はむしろメトキシシリル基(-Si-OCH3)が存在しないことが端的に裏
付けられており、そうである以上、アルコキシシロキサンも存在しない。甲1
9等試験は、何らの具体的な根拠を述べることもなく「次表に示すシリコーン
10 ポリマーの構造に帰属すると推定されるピークが認められた」という結論を述
べているが、3.66ppmにピークを示す官能基はメトキシ基(-OCH3)
であって、ケイ素と結合したメトキシシリル基(-Si-OCH3)ではない。
(4) 被告製品には樹脂A又は樹脂B以外の樹脂は使用されていないこと
原告は、被告各製品につき設計変更がされている旨主張するが、被告各製品
15 のアルミぺーストを変更し、その中の溶剤が異なることから安全データシート
の値も変更したにすぎず、構成要件Aの充足性に影響はない。上記の変更前・
変更後を問わず、被告各製品に配合されている樹脂は、被告製品1ないし3に
ついては樹脂A、被告製品4については樹脂Bであり、それ以外の樹脂は配合
されていない。原告が指摘する1H-NMR法の分析結果(スペクトルにおけ
20 るピークの差異)は、溶剤のピークが変更前の被告製品では強く、変更後の被
告製品では弱く観察されたことや、「遠心分離によりアルミニウム粉末を沈殿
させ、上澄みを重クロロホルムに溶解」するという前処理の過程でシリコーン
樹脂のビニル基がアルミニウム粉末に吸着するなどして沈殿してしまい、測定
の対象となった上澄みに存在しなくなったことによるものにすぎない。また、
25 GPC法の分析結果(分子量の差異)も、塗料をフィルターに通過させてろ過
した結果、樹脂の高分子がフィルターを通過できず、試料とされたろ液には低
分子が多く含まれることになったからにすぎないと考えられ、いずれも、樹脂
の種類が変更されたことを示すものではない。
(5) 小括
したがって、被告各製品は、本件発明の構成要件Aを充足しない。
5 2 争点1-2(被告各製品が構成要件Cを充足するか)について
【原告の主張】
(1) 被告各製品におけるアルミニウム粉末の容積比
被告各製品の安全データシートから、金属粉末はアルミニウム粉末とされて
いる(甲9)。これを前提に、被告製品3について、第三者機関において、濾別
10 による残渣率の測定(原塗液の濾別を行った後、含侵溶媒成分を除去するため、
250℃の高温加熱乾燥処理を行い、金属粉末の重量%を測定)をした(甲8)。
そうしたところ、被告製品3において、金属粉末(アルミニウム粉末)が17.
3%含まれているという結果が得られた(甲8)。なお、この結果は、被告製品
の安全データシートに記載の範囲内の数値である(甲9、10)。
15 また、被告製品3につき、加熱残分測定(105℃で1時間、250℃で2
時間加熱後に、デシケータで放冷し秤量)を行い、溶媒等を蒸発させたところ、
33.2重量%の残留物が得られた(甲8)。加熱残分測定においては、被告製
品3について、250℃の高温で加熱していることから、残留物はビヒクルと
金属粉末のみとされるところ、上記のとおり、金属粉末は17.3重量%であ
20 るため、ビヒクルは15.9重量%(33.2重量%-17.3重量%)含ま
れる。
このように算出した金属粉末及びビヒクルの含有率を前提とし、各成分の比
重を用いて容積への換算を行った。各成分の比重に関し、金属粉末は、被告製
品の安全データシートに記載のとおり、アルミニウムであり、その比重は2.
25 7としている。また、ビヒクルの主成分であるアルコキシシロキサンの比重は、
PyGC/MS法により検出された①ヘキサメチルシクロトリシロキサン(比
重1.02)、②オクタメチルシクロテトラシロキサン(比重0.956)、③
メチルフェニルオリゴシロキサン(比重1.07)を踏まえ、これらの中間値
である1.02とし、ビヒクルの100容積部に対する金属粉末の容積部を算
定した。
5 そうすると、以下の計算式のとおり、ビヒクルの100容積部に対するアル
ミニウム粉末の容積部は、41.1(小数第二位を四捨五入)と算定される。
(計算式)
(17.3(アルミニウムの重量含有率)/2.7(アルミニウムの比重))
÷(15.9(ビヒクルの重量含有率)/1.02(ビヒクルの比重))×1
10 00=41.1
このように、被告各製品におけるアルミニウム粉末の量は、ビヒクル100
容積部に対して41.1容積部と算定されるため、被告各製品の金属粉末は、
該ビヒクル100容積部に対して金属粉末が30~50容積部の範囲である
といえる。
15 (2) 「ビヒクル」の意義について
本件特許の特許請求の範囲請求項1は「・・・アルコキシシロキサンをビヒ
クルの主成分とし、金属粉末と溶剤を混合したものであって・・・」とされ、
ビヒクルと溶剤を明確に区別している。また、同請求項は「該ビヒクル100
容積部に対して金属粉末が30~50容積部」とされているところ、この点に
20 ついて、「アルコキシシロキサンと金属粉末の混合比率は、前者100容積部
に対して、金属粉末が・・・好ましくは30~50容積部である」とあり(本
件明細書【0009】)、
「アルコキシシロキサン100容積部に対して、溶剤が
10~50容積部程度である」
(同【0008】)とある。このような本件明細
書の記載から、「ビヒクル」は、液体成分から溶剤を除いたものである。
25 (3) 小括
以上より、被告各製品の構成cは、本件発明の構成要件Cを充足する。
【被告の主張】
(1) 樹脂A及びBは構成要件A、Cの「ビヒクル」に当たらないこと
被告各製品に配合される各樹脂は、
「アルコキシシロキサン」に該当せず、か
つ、
「空気中の水分によって硬化反応する」こともないから、被告各製品につい
5 てはそもそも構成要件Cの「該ビヒクル」に対する金属粉末の容積比を計算す
ることができない。
(2) 「ビヒクル」の意義
「ビヒクル」とは溶剤等を含む概念であり(乙5~6、乙21)、被告製品の
樹脂にも溶剤等が含有されている(乙10・7頁、乙13の1~2、乙21・
10 5頁)。この「ビヒクル」を構成する溶剤等を全て蒸発させた残留物(から金属
粉末を除いたもの)と金属粉末との容積比を算出しても、構成要件Cの「ビヒ
クル」と「金属粉末」との容積比を算出したことにはならない。
この点、
「ビヒクル」という用語は、塗料業界では2つの文脈で用いられる。
1つは、塗料全体に着目し、その構成要素である樹脂・添加剤・溶剤を「ビヒ
15 クル」と呼ぶものであり、もう1つは、塗料に配合される樹脂原料に着目し、
その樹脂原料を「ビヒクル」と呼ぶが、溶剤系樹脂(所定の溶剤を含む樹脂)
の場合は樹脂自体に含まれる溶剤も併せて「ビヒクル」と扱うものである。こ
のように、
「ビヒクル」という用語は、上記のいずれの文脈で用いる場合でも、
溶剤が存在する場合にはその溶剤を含む概念として当業者に理解されている。
20 そして、本件明細書においては、構成要件Bの「溶剤」が「塗布剤の粘度調整
のために加えるもの」
(【0008】)と定義され、塗料の製造過程で配合される
「溶剤」を意味しており、樹脂自体に含まれる溶剤を意味していないこと、実
施例1においてもこの特許請求の範囲の記載に対応してシリコーンアルコキ
シオリゴマー(樹脂)とは別にイソプロピルアルコール(溶剤)を配合して塗
25 料を製造することが説明されていること(【0036】)からすると、本件発明
における「ビヒクル」という用語は、樹脂原料に着目した場合の「ビヒクル」
の概念として理解される一方で、樹脂自体に含まれる溶剤に言及するものでは
ないといえる。以上のことからすると、構成要件Cの「ビヒクル」につき、樹
脂に含まれる溶剤が除かれるという解釈を導く根拠はない。
(3) 小括
5 原告の主張は、主張の前提自体を二重に誤るもので失当であり、被告製品は、
本件発明の構成要件Cを充足しない。
3 争点1-3(被告各製品が構成要件Eを充足するか)について
【原告の主張】
被告各製品には金属粉末が混合されているところ、このような塗料は、塗りム
10 ラ軽減、並びに沈降防止対策のため沈降防止剤が含まれている。
沈降防止剤は、金属粉末が沈降して下方に偏ることを防止するために加えるも
ので、これを加えない場合には、混合容器の底部に金属粉末が偏ることになる(本
件明細書【0013】)。そして、金属粉末が多く含まれている塗料に沈降防止剤
を含まなければ、ハードケーキングという現象が発生し得るところ、これにより
15 当該塗料は、廃却せざるを得ないものとなる。そのため、被告各製品のように金
属粉末が多く含まれている塗料において、仮に沈降防止剤が含まれていないとす
れば、ハードケーキングという現象が発生し得ることから、商品性を維持できな
いものとなる。
被告製品は希釈率0~5%と無希釈で、はけ、ローラー塗りが可能(甲4~7)
20 な粘度の低い塗料であり、アルミニウム(比重2.7)という比重(密度)の大
きい顔料が配合されている。また、被告製品3のアルミニウムの定量分析結果に
よると、被告製品3に含まれるアルミニウム粉末の量は、被告製品3の全体質量
に対して、17.3質量%と算出されており、被告各製品は、多くの金属粉末が
含まれている塗料であると認められる。このような塗料に沈降防止剤を加えなけ
25 れば、ケーキング、ハードケーキングが発生することは当業者として容易に想定
される。
被告において、商品性を維持できない商品を販売してはいないと考えられるこ
とから、多くの金属粉末が含まれる被告各製品について、少なくとも被告が販売
しているものは、商品性維持のため、沈降防止剤が加えられている。
したがって、被告各製品の構成eは、本件発明の構成要件Eを充足する。
5 【被告の主張】
被告各製品には、「沈降防止剤」に該当する添加剤は配合されていない。
沈降防止剤を配合しなくとも、顔料・樹脂・溶剤のバランスを調整することな
どによりハードケーキングを回避できるから、ハードケーキングが発生し得る塗
料であっても、沈降防止剤の配合が必須であるなどという技術常識は存在しない。
10 したがって、被告各製品は本件発明の構成要件Eを充足しない。
4 争点1-4(被告各製品が構成要件Fを充足するか)について
【原告の主張】
被告各製品は、環境配慮形シリコーン樹脂系耐熱用上塗り塗料と銘打っている
ところ、これを塗布することにより、放射率が0.23程度(甲11に係る試験
15 結果)、あるいは0.13~0.18程度(甲43に係る試験結果)と低くなり、
その結果放射熱を軽減できるため、放射熱軽減塗料である。
被告は、被告により算出された被告製品3の放射率の値が平均0.58であり、
全く小さくなっていないと主張するが、かかる主張を前提としたとしても、放射
率の数値が構成要件となっているわけではないから、放射率の数値が下がってい
20 れば、放射熱量が小さくなり放射熱が軽減される塗料といえる。
したがって、被告各製品の構成fは、本件発明の構成要件Fを充足する。
【被告の主張】
本件明細書において、放射熱が軽減するメカニズムは放射率の軽減にあること
が説明されている(【0017】以下)ことなどからすると、
「放射熱軽減」とい
25 うためには、少なくとも、その塗料が通常使用される状態で放射率が小さくなっ
ていることが必要である。そこで、被告製品3につき、通常使用される状態を想
定した試験片を準備して、すなわち、被告製品3を塗装板に対して塗布し、乾燥
条件を200℃×1時間、耐熱試験条件を600℃×96時間で試験片を準備し
て、本件明細書又は甲11と同等の測定条件で接触温度及び非接触温度を測定し、
その放射率を算出すると、その値は平均0.58であった(乙14)。この放射率
5 については、本件明細書において、補正後の特許請求の範囲の数値範囲を満たす
実施例が、表1のうち「実施例」4、5、7、10ないし12に限定されており、
それらの放射率は0.03ないし0.20の範囲内であることに照らすと、
「0.
58」という値が小さい値ではないことは明白である。
したがって、被告各製品の構成fは、本件発明の構成要件Fを充足しない。
10 5 争点2-1(本件特許に明確性要件違反の無効理由があるか)について
【被告の主張】
本件特許には、以下の各点につき、明確性要件違反の無効理由がある。
(1) 「ビヒクル」(構成要件A)について
構成要件Aには「ビヒクル」との記載がある。しかし、
「ビヒクル」は、通常、
15 樹脂と溶剤等が混合された液体成分をいうところ(乙5~6)、原告は液体成
分から溶媒等を蒸発させた残留物が「ビヒクル」に該当すると主張しており、
液体成分から溶剤(樹脂中に含まれる溶剤も含む。)を除いたものを「ビヒク
ル」と解釈している。本件明細書には「ビヒクル」の定義はなく、
「ビヒクル」
を原告主張のように通常の意味とは異なる特定の意味に限定して解釈する根
20 拠もないから、その範囲の外延は不明確である。
(2) 「主成分」(構成要件A)について
構成要件Aには「アルコキシシロキサンをビヒクルの主成分とし」との記載
がある。しかし、本件明細書には「主成分」に関する説明は一切なく、アルコ
キシシロキサンをどの程度含有していれば「主成分とし」ていることになるの
25 か一義的に確定することができないから、その範囲の外延は不明確である。
(3) 構成要件Fには「放射熱軽減塗料」との記載がある。しかし、本件明細書に
は「軽減」に関する比較の対象や程度に関する説明は一切なく、どのような条
件で測定した放射熱が何と比較してどの程度軽減すれば「放射熱軽減塗料」に
該当するのかを一義的に確定することができないから、その範囲の外延は不明
確である。
5 【原告の主張】
(1) 「ビヒクル」について
前記のとおり、本件明細書から、液体成分から溶剤を除いたものが「ビヒク
ル」であることが明らかであり、その記載が明確であるため、明確性要件違反
はない。
10 (2) 「主成分」について
「主成分」は、一般的な意味として、ある物質を構成している成分のうちの
主なものとされており(デジタル大辞泉)、その字義のとおり、主なものであれ
ば足り、本件明細書において、これに反する解釈をいう記載はない。
そのため、アルコキシシロキサンがビヒクルの主成分であることは当業者で
15 あれば明確に理解されるところであり、構成要件Aの「アルコキシシロキサン
をビヒクルの主成分とし」との記載について、明確性要件違反はない。
(3) 「放射熱軽減塗料」について
「放射熱軽減塗料」との記載から、放射熱を軽減する塗料であることはその
記載として一義的に明確であり、当業者として明確に理解されるため、明確性
20 要件違反はない。
また、本件明細書においては、放射熱を軽減する塗料であることと矛盾する
記載などはなく、かえって、放射熱を軽減するということは、物質から熱量が
無駄に放出されることを軽減するということであるとされ(【0005】)、放
射率が下がっていれば、放射熱量が小さくなり放射熱が軽減される塗料といえ
25 るから、
「放射熱軽減塗料」の記載について、当業者において明確に理解される
ところであり、明確性要件違反はない。
6 争点2-2(本件特許にサポート要件違反の無効理由があるか)について
【被告の主張】
本件特許には、以下の各点につき、サポート要件違反の無効理由がある。
(1) 「アルコキシシロキサンをビヒクルの主成分とし」(構成要件A)について
5 本件特許の特許請求の範囲請求項1には「アルコキシシロキサンをビヒクル
の主成分とし」
(構成要件A)と記載されている。しかし、本件明細書には、具
体例として、
「シリコーンアルコキシオリゴマー」
(ジメチルシリコーンオイル
とメチルトリメトキシシランオリゴマーのブロックポリマー)を「ビヒクルの
主成分」とする実施例が開示されているのみであり(【0036】~【003
10 8】)、「アルコキシシロキサン」一般を「ビヒクルの主成分」とした場合にま
で、本件明細書に開示された内容を拡張ないし一般化することはできない。
また、本件明細書には、具体例として、
「アルコキシシロキサン」
(厳密には
「シリコーンアルコキシオリゴマー」)を「ビヒクル」の全成分とする実施例が
開示されているのみであり(【0036】~【0038】)、
「アルコキシシロキ
15 サン」以外の樹脂類を配合して「ビヒクル」に対する「アルコキシシロキサン」
の割合が50%前後やそれ未満に低下した場合にまで、本件明細書に開示され
た内容を拡張ないし一般化することはできない。
(2) 「金属粉末(を)混合し」(構成要件B)について
前記請求項には「金属粉末(を)混合し」と記載されており(構成要件B)、
20 その金属粉末の粒径の大きさ及び粒子の形状が特定されていない。しかし、本
件明細書には、具体例として、粒径の平均が15μm又は8μmの金属粉末を
使用する実施例が開示されているのみであり(【0036】及び【0038】)、
15μm及び8μm以外のあらゆる粒径及び粒子形状(涙滴状、球状、鱗片状
等)の金属粉末を用いる場合にまで、本件明細書に開示された内容を拡張ない
25 し一般化することはできない。
(3) 「さらに沈降防止剤を混合したこと」(構成要件E)について
前記請求項には「さらに沈降防止剤を混合したこと」
(構成要件E)と記載さ
れている。しかし、本件明細書には、具体例として、沈降防止剤を混合した実
施例が1つも開示されておらず、沈降防止剤を混合した場合にまで、本件明細
書に開示された内容を拡張ないし一般化することはできない。
5 【原告の主張】
(1) 「アルコキシシロキサンをビヒクルの主成分とし」(構成要件A)について
本件明細書において、塗料のビヒクルの主成分がアルコキシシロキサンであ
ること(【0006】)、及びアルコキシシロキサンがSi-O結合(シロキサン
結合)を持ち、分子内にアルコキシ基を有するもの(【0007】)と記載され
10 ている。
このように、本件明細書において、Si-O結合(シロキサン結合)を持ち、
分子内にアルコキシ基を有するアルコキシシロキサンについて開示されてい
る以上、サポート要件違反はない。
また、当業者であれば、「アルコキシシロキサンをビヒクルの主成分とした
15 もの」を理解できるため、発明の詳細な説明に記載した範囲内といえる以上、
そもそも被告の指摘は当たらない。
(2) 「金属粉末(を)混合し」(構成要件B)について
金属粉末には様々な形状があることは当業者にとって周知であり、また、本
件明細書においても、
「金属粉末は、そのサイズとしては、0.5~50μm程
20 度のものである。粒度がある程度分散するため、中心サイズ(平均サイズ)が
この範囲ならよい」
(【0010】)と記載がある。そのため、本件明細書におい
て開示されているといえ、サポート要件違反はない。
(3) 「さらに沈降防止剤を混合したこと」(構成要件E)について
本件明細書において「本発明塗料には、沈降防止剤を加えてもよい。」
(【00
25 13】)との記載がされるなど、沈降防止剤の混合について、本件明細書で開示
されている以上、サポート要件違反はない。
7 争点2-3(本件特許に補正要件違反の無効理由があるか)について
【被告の主張】
本件特許の出願に係る明細書(乙2の2)には、アルコキシシロキサンと金属
粉末の混合比率を100容積部対30~50容積部とする旨の記載はあるもの
5 の(【0009】)、平成26年4月25日付け手続補正書(乙2の11)に基づき
補正された事項である「(アルコキシシロキサンを主成分とする)ビヒクル」と金
属粉末の混合比率を100容積部対30~50容積部とする旨の記載はないか
ら、上記補正は、本件特許の出願に係る明細書との関係で新たな技術的事項を導
入するものであり、「願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に
10 記載した事項の範囲内」
(特許法17条の2第3項)においてするものではない。
したがって、本件特許には、補正要件違反の無効理由がある。
【原告の主張】
本件特許の出願に係る明細書における、アルコキシシロキサンをビヒクルの主
成分とする旨の記載(【0006】)、アルコキシシロキサンと金属粉末の混合比
15 率を好ましくは100容積部対30~50容積部とする旨の記載(【0009】)
等から自明な事項といえる。したがって、補正要件違反はない。
8 争点2-4(本件特許に乙7発明を引用例とする新規性・進歩性欠如の無効理
由があるか)について
【被告の主張】
20 (1) 乙7発明の構成
乙7文献には、次の構成を備える乙7発明が開示されている。
構成1a 空気中の水分によって加水分解及び重縮合反応するエチルシリケ
ート40を展着剤の主成分とする。
構成1b 金属粉末と溶剤を混合する。
25 構成1c 金属粉末の混合量が、展着剤100容積部に対して金属粉末が42.
94又は50.34容積部である。
構成1d 金属粉末がアルミニウム粉末である。
構成1e 沈殿防止剤を混合する。
構成1f 船舶用耐熱塗料として放射率が小さくなる効果を発揮する。
(2) 乙7発明と本件発明の対比
5 ア 構成1aと構成要件Aの対比
構成1aの「エチルシリケート40」と「展着剤」は、構成要件Aの「ア
ルコキシシロキサン」と「ビヒクル」にそれぞれ該当する。
イ 構成1bと構成要件Bの対比
構成1bの「金属粉末」と「溶剤」は、構成要件Bの「金属粉末」と「溶
10 剤」にそれぞれ該当する。
ウ 構成1cと構成要件Cの対比
構成1cの「金属粉末の混合量が、展着剤100容積部に対して金属粉末
が42.94又は50.34容積部」は、構成要件Cの「該金属粉末の混合
量は、該ビヒクル100容積部に対して金属粉末が30~50容積部」に該
15 当する。
エ 構成1dと構成要件Dの対比
構成1dの「アルミニウム粉末」は、構成要件Dの「アルミニウム粉末」
に該当する。
オ 構成1eと構成要件Eの対比
20 構成1eの「沈殿防止剤」は、構成要件Eの「沈降防止剤」に該当する。
カ 構成1fと構成要件Fの対比
構成1fの「船舶用耐熱塗料として放射率が小さくなる効果を発揮する」
塗料は、構成要件Fの「放射熱軽減塗料」に該当する。
(3) 新規性又は進歩性の欠如
25 以上から、乙7発明は、本件発明と同一である。
仮に、本件発明と乙7発明との間に何らかの相違点があるとしても、本件発
明は乙7発明から容易に想到することができるものであるから、本件特許には
進歩性欠如の無効理由がある。
【原告の主張】
(1) 構成1aと構成要件Aは一致しないこと
5 構成aの「エチルシリケート40」に関する文書(乙18)は、その記載か
ら、2018年に公開されたと推定される。そのため、同文書は、本件特許の
優先日後に公開された資料と推定されるから、本件特許の新規性を判断する資
料として妥当ではない。さらに、
「エチルシリケート40」は商品名であるとこ
ろ、商品名は同じであっても中身の成分を変える、いわゆる設計変更を行う場
10 合は多々あり、刊行物に記載の商品名と同一であったとしても、特定の成分が
含まれていると一義的に導き出せるわけではない。
したがって、構成1aは、本件発明の構成要件Aに相当するものとはいえな
い。
(2) 構成1cの認定の誤り
15 乙7文献の段落【0027】
〈塗料の調整〉、
【0033】
【表1】から明らか
なとおり、乙7発明の塗料には、アルミ粉末以外に酸化チタンやリン酸アルミ
といった金属粉末が含まれているにもかかわらず、構成1cに係る被告の主張
においてはこれらアルミ粉末以外の金属粉末が考慮されていない。そのため、
被告の主張は前提に誤りがある。
20 (3) 構成1fの認定の誤り
乙7には放射熱軽減についての記載がないから、乙7発明は、構成1fを備
えるものとはいえない。
9 争点2-5(本件特許に乙8発明を引用例とする新規性・進歩性欠如の無効理
由があるか)について
25 【被告の主張】
(1) 乙8発明の構成
乙8文献には、次の構成を備える乙8発明が開示されている。
構成2a メチルフェニルシリコン系樹脂ワニスを主体にフェノール変性樹
脂ワニスを併用したシリコン系樹脂ワニスをビヒクルの主成分とする。
構成2b 金属粉末と溶剤を混合する。
5 構成2c 金属粉末の混合量が、シリコン系樹脂ワニス100容積部に対して
金属粉末が35.48容積部である。
構成2d 金属粉末がアルミニウム粉末である。
構成2e 沈降防止剤を混合する。
構成2f 耐熱性塗料として放射率が小さくなる効果を発揮する。
10 (2) 乙8発明と本件発明の対比
ア 構成2aと構成要件Aの対比
構成2aの「メチルフェニルシリコン系樹脂ワニスを主体にフェノール変
性樹脂ワニスを併用したシリコン系樹脂ワニス」は、被告製品と同じメチル
基とフェニル基を有するシリコーン系樹脂である。このため、「メチルフェ
15 ニルシリコン系樹脂」には、その基本構成単位である「メチルフェニルオリ
ゴシロキサン」が含まれている。
原告は、充足論において、
「メチルフェニルオリゴシロキサン」は熱分解さ
れる前の段階では「アルコキシシロキサン」に該当する旨を主張しているか
ら、この原告の主張を前提にする限り(ただし、この主張は客観的に誤りで
20 ある。)、構成2aの樹脂も「アルコキシシロキサン」に該当する。また、原
告は、充足論において、この種の樹脂が当然に「空気中の水分によって硬化
反応する」ことを前提とした主張をしている(ただし、この主張も客観的に
誤りである。)。
したがって、原告の主張によると、構成2aの「メチルフェニルシリコン
25 系樹脂ワニスを主体にフェノール変性樹脂ワニスを併用したシリコン系樹
脂ワニス」は、構成要件Aの「空気中の水分によって硬化反応するアルコキ
シシロキサン」を「主成分」とする「ビヒクル」に該当する。
イ 構成2bと構成要件Bの対比
構成2bの「金属粉末」と「溶剤」は、構成要件Bの「金属粉末」と「溶
剤」にそれぞれ該当する。
5 ウ 構成2cと構成要件Cの対比
構成2cの「金属粉末の混合量が、シリコン系樹脂ワニス100容積部に
対して金属粉末が35.48容積部」は、構成要件Cの「該金属粉末の混合
量は、該ビヒクル100容積部に対して金属粉末が30~50容積部」に該
当する。
10 エ 構成2dと構成要件Dの対比
構成dの「アルミニウム粉末」は、構成要件Dの「アルミニウム粉末」に
該当する。
オ 構成2eと構成要件Eの対比
構成eの「沈降防止剤」は、構成要件Eの「沈降防止剤」に該当する。
15 カ 構成2fと構成要件Fの対比
構成2fの「耐熱性塗料として放射率が小さくなる効果を発揮する塗料」
は、構成要件Fの「放射熱軽減塗料」に該当する。
(3) 新規性又は進歩性の欠如
よって、乙8発明と本件発明は同一である。仮に、本件発明と乙8発明との
20 間に何らかの相違点があるとしても、本件発明は乙8発明から容易に想到する
ことができるものであるから、本件特許には進歩性欠如の無効理由がある。
【原告の主張】
(1) 構成2aと構成要件Aは一致しないこと
構成2aの「メチルフェニルシリコン系樹脂ワニスを主体にフェノール変性
25 樹脂ワニスを併用したシリコン系樹脂ワニス」は「アルコキシシロキサン」に
は該当しない。
(2) 構成2cの認定の誤り
構成2cにつき、乙8文献の段落【0019】及び【0020】、
【表1】に
おいては「樹脂」とのみ記載されており、どのような樹脂との比率かは乙8文
献には記載がない。
5 したがって、乙8文献から乙8発明が構成2cを備えるものとは認められな
い。
(3) 構成2fについて
乙8文献には放射熱軽減についての記載がないから、乙8発明が構成2fを
備えるものとはいえない
10 10 争点3(損害の有無及び額)について
【原告の主張】
被告は、遅くとも令和2年7月以降、被告各製品を販売しており、その1kg
当たりの利益額は、少なくとも2万8000円を下らない。そして、被告各製品
の年間販売量は、およそ2500kgであると推測される。
15 一方、原告は、
「サーモレジンSV600」という製品を販売し、本件発明を実
施しているところ、被告の上記行為により、上記製品の販売機会を喪失するなど、
損害が生じている。
したがって、特許法102条2項により、被告の上記行為(3年9か月)によ
り原告が被った損害額は、2億6250万円と推定される。また、本訴提起のた
20 めに必要な弁護士費用は2600万円を下らないから、原告の合計損害額は2億
8850万円である。
【被告の主張】
否認し争う。
第4 判断
25 1 判断の大要
当裁判所は、被告各製品は、少なくとも本件発明の構成要件A及びC(争点1
-1及び1-2)を充足しないから、その余の争点(その余の構成要件充足性、
無効論、損害論)につき判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がない
ものと判断する。
2 争点1-1(被告各製品が構成要件Aを充足するか)について
5 被告各製品におけるビヒクルの主成分が「アルコキシシロキサン」(構成要件
A)と認められるかにつき検討する。
(1) 甲8等試験の評価について
原告は、被告製品3をPyGC/MS法で分析した甲8試験により、①ヘキ
サメチルシクロトリシロキサン、②オクタメチルシクロテトラシロキサン、③
10 メチルフェニルオリゴシロキサンが検出されたところ、別紙「原告主張の熱反
応の過程図」のとおり、これらの熱反応前の3つの化合物はいずれもアルコキ
シシロキサンであることから、被告製品3のビヒクルの主成分はアルコキシシ
ロキサンである旨主張し、甲51試験のとおり、被告製品1及び2についても
同様である旨主張する。
15 この点、上記①ないし③のシロキサンの生成方法として、一般に、シラノー
ル基を有するシリコーンレジンの「熱硬化」と、アルコキシ基を有するシリコ
ーンオリゴマーの「湿気硬化」の2種類の反応が考えられることは当事者間に
争いがないところ、原告の主張を前提とすると、湿気硬化の反応によって上記
①ないし③のシロキサンが生成されたことになる。しかし、甲8等試験は、試
20 料に600℃の熱を加えるものであるが(「加熱条件:600℃×0.2分間」
との記載。甲8、51)、この加熱により、熱硬化ではなく湿気硬化の反応が生
じたといえることを認めるに足りる証拠はない。
(2) 被告製品の硬化過程に関する原告の主張ついて
原告は、被告各製品の製品使用説明書(甲4~7)に「乾燥時間」や「半硬
25 化乾燥」についての記載があることを根拠に、被告製品は熱硬化ではなく湿気
硬化により塗膜が形成されるタイプの塗料であるとも主張する。しかし、上記
説明書に「所定塗膜性能を得るためには、200℃60分以上の加熱が必要で
す。」と記載されていることに加え、●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●(乙10)にも、
「加熱硬化」についての説明として●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
5 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●と記載されていることに照
らせば、被告各製品は、熱硬化により塗膜が形成されるタイプの塗料であると
認められる。他方で、日本産業規格(JIS)の「塗料一般試験方法」
(甲23)
に、
「4.3.5 評価 製品規格に規定する乾燥時間を過ぎたとき、次のいず
れかの方法によって乾燥の程度を調べる。」、「b)半硬化乾燥 塗面の中央を
10 指先で静かに軽くこすって塗面にすり跡が付かない状態」とあることからすれ
ば、原告が指摘する上記説明書の「乾燥時間」や「半硬化乾燥」についての記
載は、物理的な乾燥のプロセスに関するものにすぎないと解され、原告の主張
は採用できない(なお、甲51試験によれば、被告製品4については前記③の
シロキサンしか生成されていないが、いずれにしても、被告各製品につき、原
15 告の主張が採用できないことに変わりはない。)。
以上のことは、むしろ、被告各製品にはシリコーンレジンである樹脂A又は
樹脂Bが配合されているとの被告の主張に沿うものといえる。
(3) 甲19等試験について
ア 原告の主張
20 原告は、甲19等試験により得られた1H-NMRスペクトルには、いず
れもシリコーンポリマーの構造に帰属すると推定されるメトキシ基(アルコ
キシ基の一種)のピーク(3.66ppm)が認められ、また、かかるメト
キシ基はケイ素と直接結合している(メトキシシリル基である)と推定され
る旨主張する。
25 イ 3.66ppm付近のピークの評価
甲19等試験における1H-NMRスペクトルには、3.66ppm付近
にピークが認められるものの(甲19、20、52)、いずれも通常倍率のス
ペクトル(添付資料1)を188.4倍に拡大したスペクトル(添付資料3)
において観察可能な程度の極めて微弱なものであり、メトキシ基が存在する
ことは認め得るとしても、シリコーンポリマー(樹脂)や塗料全体の性質に
5 影響を及ぼすほどの量で存在しているものとは考えにくい。
すなわち、主成分であるシリコーンポリマー(樹脂)に由来するメトキシ
基にしてはピークが微弱にすぎ、試料に配合されたシリコーンポリマー(樹
脂)以外の顔料、溶剤、添加剤等に由来するものである可能性が否定できな
いというべきである。このことは、高分子のシリコーンポリマー(樹脂)に
10 由来するメトキシ基であれば、一般的に幅の広いブロードのピークが現れる
と考えられるところ(弁論の全趣旨)、上記スペクトルにおける3.66pp
m付近のピークは、いずれもシャープな形状となっていることからもうかが
われる(原告は、イソタクチックなPMMAアニオンでメタクリル酸ブチル
(BuMA)を重合させて得られたブロック共重合体においては、メトキシ
15 基のピークがシャープな形状で現れていることを指摘するが(甲57)、そ
のような特殊な構造の化合物における例をもって、上記の問題点を解消する
には足りないと解される。)。
ウ メトキシシリル基の存在までは推定されないこと
上記のとおりメトキシ基(-O-CH3)が存在することは認め得るとし
20 ても、甲19等試験から、それがケイ素(-Si)と直接結合していること、
すなわちメトキシシリル基(-Si-O-CH3)が存在することまで推定
されるとはいえない。別紙「甲19試験報告書(抜粋)」の下方図2の右端に
は、
「-Si-O-CH3」の化学構造が記載され、
「CH3」の下には上矢印
と「(c)」の記載(上記の添付資料3において、3.66ppm付近のピー
25 クが「(c)」として指し示されている。)があるものの、
「メトキシ基(推定)」
としか記載されず、メトキシシリル基の存在まで推定される旨の記載はない。
原告は、上記の甲19等試験のほか、甲8等試験を総合的に考慮すると、
甲19等試験の1H-NMRスペクトルにおける3.66ppm付近のピー
クは、メトキシシリル基(-Si-O-CH3)に由来するものと推定され
るし、CERIからも、各分析・測定結果に加え、被告各製品に関する情報、
5 高分子分析ハンドブック(甲57)を含む文献、並びにCERI試験官の専
門的知識及び経験等を踏まえ、上記のように推定した旨の回答を得た旨主張
する。
しかしながら、甲8等試験により、熱分解前の被告各製品にはアルコキシ
シロキサン又はシリコーンレジンのいずれかが含まれているとはいえると
10 しても、上記試験により検出されたシロキサンが被告各製品に含まれるアル
コキシシロキサン(アルコキシ基を有するシリコーンオリゴマー)の湿気硬
化により生成されたと認めるに足りる証拠はなく、むしろ、被告各製品には
シリコーンレジンが配合されているとの被告の主張に沿うものといえるこ
とは、前記判示のとおりである。また、被告各製品のポリマーの主成分がシ
15 リコーンポリマーであることと、甲19等試験を併せて考慮したからといっ
て、前記の3.66ppm付近のピークにつき、メトキシ基(-O-CH3)
とケイ素(-Si)が直接結合したメトキシシリル基(-Si-O-CH3)
に由来するものとまで推定されると認めるに足りる証拠はない。原告がCE
RIから得たとする回答についても、CERIが上記のように推定した具体
20 的根拠に欠けるものである(なお、仮に、前記の3.66ppm付近のピー
クがメトキシシリル基(-Si-O-CH3)に由来するものと推定された
としても、それがシリコーンポリマーの部分構造であるとも認められない。)。
(4) 樹脂A及び樹脂B以外の樹脂が配合されているとの主張について
原告は、1H-NMR法及びGPC法による分析結果から、被告各製品には
25 樹脂A及び樹脂B以外の樹脂が配合されている可能性があり、設計変更後につ
いても同様である旨指摘する。この点、前記前提事実のとおり、安全データシ
ートの記載上、令和5年11月2日の同シート改定の前後で、被告各製品につ
き化学物質の濃度に一定の差異があることは認められる。しかし、原告の上記
指摘を踏まえても、前記判示のとおり、被告各製品におけるビヒクルの主成分
がアルコキシシロキサンであることの立証があるとは認められないことに変
5 わりはない(上記改定の前後でこの点に差異があるとも認められない。)。
(5) 小括
以上から、被告各製品におけるビヒクルの主成分がアルコキシシロキサンで
あるとの原告の主張はいずれも採用できず、他にこれを認めるに足りる証拠も
ない。
10 したがって、被告各製品が構成要件Aを充足するとは認められず、争点1-
1に関する原告の主張は、理由がない。
3 争点1-2(被告各製品が構成要件Cを充足するか)について
構成要件Cにおける「該ビヒクル」は、構成要件Aでいうところのアルコキシ
シロキサンを主成分とするビヒクルのことを指すから、前記2の判示のとおり、
15 被告各製品におけるビヒクルの主成分がアルコキシシロキサンであるとは認め
られない以上、
「ビヒクル」に溶剤を含むか否かにかかわらず、被告各製品は構成
要件Cを充足しない。
したがって、争点1-2に関する原告の主張も、理由がない。
4 結論
20 以上の次第で、原告の請求はいずれも理由がない。
大阪地方裁判所第26民事部

25 裁判長裁判官
松 阿 彌 隆
裁判官島田美喜子及び裁判官阿波野右起は、転補のため、署名押印すること
ができない。
裁判長裁判官
松 阿 彌 隆
※別紙特許公報は添付を省略した。



(別紙)
被告製品目録
以下の名称の塗料
1 「テツゾール400エコシルバー」
5 2 「テツゾール500エコシルバー」
3 「テツゾール600エコシルバー」
4 「テツゾール700エコシルバー」
以 上

(別紙)原告主張の熱反応の過程図



(別紙)甲19試験報告書(抜粋)

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