知財判決速報/裁判例集知的財産に関する判決速報,判決データベース

ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 令和6(ワ)2395 商標権侵害差止等請求事件

この記事をはてなブックマークに追加

令和6(ワ)2395商標権侵害差止等請求事件

判決文PDF

▶ 最新の判決一覧に戻る

裁判所 請求棄却 大阪地方裁判所
裁判年月日 令和8年3月26日
事件種別 民事
当事者 原告株式会社丸万本舗
法令 商標権
商標法38条2項11回
商標法4条1項10号4回
商標法38条3項4回
商標法4条1項7号2回
商標法4条1項19号1回
商標法38条4項1回
商標法36条1項1回
商標法32条1回
キーワード 商標権59回
許諾34回
侵害12回
実施10回
損害賠償9回
無効8回
差止4回
無効審判2回
審決1回
主文 1 被告は、
2 被告は、
3 被告は、別紙ウェブサイト目録記載のウェブサイトから、別紙被告標章目録記
4 被告は、原告に対し、5943万3942円及びうち次の内金額欄記載の各金
1467万9520円 令和3年12月31日
1331万0690円 令和4年12月31日
1364万6804円 令和5年12月31日
1364万6804円 令和6年12月31日
415万0124円 令和7年4月21日
5 原告のその余の主位的請求を棄却する。
6 被告は、原告に対し、115万2388円及びうち次の内金額欄記載の各金額
56万6058円 令和4年12月31日
58万6330円 令和7年7月15日
7 原告のその余の予備的請求を棄却する。
8 訴訟費用は、被告の負担とする。
9 この判決は、第4項及び第6項に限り、仮に執行することができる。
事件の概要 1 本判決で用いる呼称(略語) (1) 原告商標(権) :別紙原告商標権目録記載の各商標(権)の総称。なお、個別 の商標については同目録の項番を用いて、 「原告商標(権)1」等という。 (2) 被告標章:別紙被告標章目録記載1ないし7の標章の総称。なお、個別の標 章については同目録の項番を用いて、 「被告標章1」等という。 (3) 原告従前商標:商標登録第4979082号及び同第5034368号の商 標 (4) 原告店舗:原告がその肩書地で運営する飲食店。 「丸万支店」 とも称される。 (5) 被告店舗:被告が福岡市内で運営する地鶏料理の提供・販売を行う飲食店 (6) 丸万本店:本店所在地を宮崎市●●●●丁目●番●号とする有限会社丸万焼

▶ 前の判決 ▶ 次の判決 ▶ 商標権に関する裁判例

本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。

判決文

令和8年3月26日判決言渡 同日原本受領 裁判所書記官
令和6年(ワ)第2395号 商標権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 令和8年1月20日
判 決
原告 株式会社丸万本舗
代表者代表取締役
訴訟代理人弁護士 田上洋平
訴訟復代理人弁護士 笠井康平
10 訴訟代理人弁護士 西川大貴
被告
訴訟代理人弁護士 新里浩樹
同 野々上祐太
15 訴訟代理人弁理士 有吉修一朗
同 森田靖之
主 文
1 被告は、壁面看板・提灯看板・袖看板等の看板類、絨毯及びのれん等の広告物、
店舗扉、制服に別紙被告標章目録記載1ないし7の標章を付し、又は同標章を包
20 装に付した焼鳥を製造し、販売し、若しくは販売のために展示してはならない。
2 被告は、焼鳥に関する別紙被告標章目録記載1ないし7の標章を付した包装を
廃棄せよ。
3 被告は、別紙ウェブサイト目録記載のウェブサイトから、別紙被告標章目録記
載1ないし7の標章を削除せよ。
25 4 被告は、原告に対し、5943万3942円及びうち次の内金額欄記載の各金
額に対する、対応する起算日欄記載の各日から各支払済みまで、年3パーセント
の割合による金員を支払え。
内金額 起算日
1467万9520円 令和3年12月31日
1331万0690円 令和4年12月31日
1364万6804円 令和5年12月31日
1364万6804円 令和6年12月31日
415万0124円 令和7年4月21日
5 原告のその余の主位的請求を棄却する。
6 被告は、原告に対し、115万2388円及びうち次の内金額欄記載の各金額
に対する対応する起算日欄記載の各日から各支払済みまで、年3パーセントの割
5 合による金員を支払え。
内金額 起算日
56万6058円 令和4年12月31日
58万6330円 令和7年7月15日
7 原告のその余の予備的請求を棄却する。
8 訴訟費用は、被告の負担とする。
9 この判決は、第4項及び第6項に限り、仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
10 第1 請求
1 主文第1項ないし第3項同旨
(主位的請求)
2 被告は、原告に対し、6000万円及び次の内金額欄記載の各金額に対する対
応する起算日欄記載の各日から各支払済みまで、年3パーセントの割合による金
15 員を支払え。
内金額 起算日
56万6058円 令和2年12月31日
1467万9520円 令和3年12月31日
1331万0690円 令和4年12月31日
1364万6804円 令和5年12月31日
1364万6804円 令和6年12月31日
415万0124円 令和7年4月21日
(予備的請求-上記2に対し)
3 被告は、原告に対し、85万1196円及びこれに対する令和7年7月15日
から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
4 被告は、原告に対し、6000万円及び次の内金額欄記載の各金額に対する対
5 応する起算日欄記載の各日から各支払済みまで、年3パーセントの割合による金
員を支払え。
内金額 起算日
1250万5338円 令和3年12月31日
1412万5682円 令和4年12月31日
1448万2375円 令和5年12月31日
1448万2375円 令和6年12月31日
440万4230円 令和7年4月21日
第2 事案の概要
1 本判決で用いる呼称(略語)
(1) 原告商標(権)
:別紙原告商標権目録記載の各商標(権)の総称。なお、個別
10 の商標については同目録の項番を用いて、「原告商標(権)1」等という。
(2) 被告標章:別紙被告標章目録記載1ないし7の標章の総称。なお、個別の標
章については同目録の項番を用いて、「被告標章1」等という。
(3) 原告従前商標:商標登録第4979082号及び同第5034368号の商

(4) 原告店舗:原告がその肩書地で運営する飲食店。
「丸万支店」とも称される。
(5) 被告店舗:被告が福岡市内で運営する地鶏料理の提供・販売を行う飲食店
(6) 丸万本店:本店所在地を宮崎市●●●●丁目●番●号とする有限会社丸万焼
5 鳥本店及び同社が運営する店舗
(7) 本件ウェブサイト:被告が管理運営する(一部そうでないものを含む)別紙
ウェブサイト目録記載のウェブサイトの総称(個別のウェブサイトは「本件ウ
ェブサイト1」等)
(8) 原告提供料理:原告が、原告店舗や丸万本店で提供する、鶏肉の炭火焼きを
10 中心とする料理
(9) 被告提供料理:被告が、被告店舗(同)で提供又は持ち帰り用として販売す
る、鶏肉の炭火焼きを中心とする料理
(10) 原告代表者の家族関係
原告代表者の祖母には長男及び次男がおり、その次男が原告代表者の父に当
15 たる。
2 原告の請求
原告商標権を有する原告の、被告による商標権侵害を理由とする、
(1) 商標法36条1項、2項に基づく差止め及び廃棄請求
(2) 主位的請求
20 令和2年12月15日から令和7年4月21日までの被告の行為について
の不法行為に基づく損害賠償請求(1億7956万0443円の損害賠償請求
権の明示的一部請求)及び各年の損害に対する各年の最終行為日(12月31
日)から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支
払請求
25 (3) 予備的請求
ア 令和2年12月15日から令和3年3月13日までの被告の行為につい
ての不当利得返還請求及び請求の日の翌日から支払済みまで民法所定の割
合による利息請求
イ 令和3年3月14日から令和7年4月21日までの被告の行為について
の不法行為に基づく損害賠償請求(1億6920万0568円の損害賠償請
5 求権の明示的一部請求)及び各年の損害に対する各年の最終行為日(12月
31日)から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害
金の支払請求
3 前提事実
(1) 当事者等
10 ア 原告は、飲食店業等を目的とする株式会社であり、令和元年7月29日に
設立された。原告は、宮崎市において、原告提供料理の販売・提供を行う飲
食店(原告店舗)を運営している。
イ 被告は、福岡市において被告提供料理の販売・提供を行う飲食店(被告店
舗)を運営する個人事業主である。
15 (2) 「丸万」の事業の系譜
ア 原告代表者の祖母は、昭和29年頃、宮崎市内において、
「丸万」の屋号で
原告提供料理を販売する店舗を開いた。
イ 同人の死亡後、同人の営んでいた事業(丸万本店)はその長男に承継され、
その子が、平成7年10月26日、会社として丸万本店を設立した(乙4)。
20 ウ 原告代表者の父(祖母の次男)は、宮崎市内において「丸万」の屋号で丸
万支店を開業し、その後、令和元年7月29日、原告を設立した。
(3) 原告商標権の登録等
原告代表者は、原告商標権の当初商標権者であり、原告に対し、独占的通常
使用権を許諾していたが、令和3年10月26日、原告に、原告商標権をいず
25 れも譲渡した。
原告商標権の書誌事項は、別紙原告商標権目録記載のとおりである(甲3な
いし6)。
(4) 被告による被告標章の使用(甲7ないし9、24)
ア 被告は、遅くとも令和2年12月15日から令和7年3月31日まで、被
告店舗において、被告標章を壁面看板・提灯看板等の看板類、絨毯及びのれ
5 ん等の広告物に使用しながら、被告提供料理を提供し、また持ち帰り用とし
て製造し、被告標章を包装に付した上で販売していた。
イ 被告は、上述の期間、本件ウェブサイトにおいて被告標章を含む画像をア
ップロードして掲載する方法により使用して、広告を行い又は被告商品を通
信販売していた。
10 ウ 被告は、遅くとも令和2年12月15日から令和7年4月21日まで、本
件ウェブサイト1のURLを、自己のホームページのアドレスとして使用し、
同4及び5のウェブサイトにおいて被告標章7を使用していた。
(5) 使用中止の申入れ
原告は、令和2年12月頃、被告に対し、電話で、被告標章の使用を中止す
15 るよう求めた。
また、原告は、令和4年5月2日付で、被告に対して警告書を発し、被告標
章の使用を止めるよう求めた(乙16)。
(6) 無効審判
被告は、特許庁に対し、原告商標について無効審判の請求をしたが(原告商
20 標1について無効2024-890029、原告商標2について無効2024
-890027)、同庁は、令和6年12月24日、同審判請求は成り立たない
との審決をした(甲22、23)。
(7) 時効援用の意思表示
被告は、本手続において、原告の被告に対する原告商標権侵害を理由とする
25 不法行為に基づく損害賠償請求権のうち、令和3年3月13日以前に生じたも
のについて、消滅時効を援用するとの意思表示をした。
(8) 不当利得についての請求
原告は、令和7年7月14日、本手続において、被告の原告商標の利用に係
る不当利得につき、その返還を請求した。
(9) 原告商標と被告標章の類否
5 被告は、原告商標と被告標章が類似することにつき、その基礎となる事実を
認めるか又は不知とし、積極的に争わない。
4 争点
(1) 被告に先使用により商標を使用する権利があるか(争点1)
(2) 被告に、許諾による通常使用権があるか(争点2)
10 (3) 原告が、被告店舗における被告標章の使用を黙示的に許諾しており、本件請
求が権利濫用に当たるか(争点3)
(4) 原告商標に次の無効理由があるか(争点4)
ア 他人(丸万本店)の業務に係る役務を表示しているものとして需要者の間
に広く認識されている商標を類似の役務に使用するものか(商標法4条1項
15 10号)(争点4-1)
イ 他人(丸万本店)の業務に係る役務を表示しているものとして需要者の間
に広く認識されている商標を不正の目的で使用するものか(同項19号)
(争
点4-2)
ウ 公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのあるものか(同項7号)(争点
20 4-3)
(5) 原告の被った損害又は損失(争点5)
ア 主位的請求について(争点5-1)
イ 予備的請求について(争点5-2)
なお、被告は、令和3年3月13日以前に生じた不法行為に基づく損害賠償請
25 求権について、消滅時効を主張している。
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(被告に先使用により商標を使用する権利があるか)について
【被告の主張】
(1) 被告標章の使用開始の経緯
被告は、昭和55年、被告の叔父が丸万都城店の店長になったことから、同
5 店で従業員として働くようになった。被告の叔父と被告は、昭和56年、丸万
鹿児島店への異動となり、平成6年まで同店で働いた。
被告の叔父は、原告代表者の父より、原告代表者が鹿児島店の跡継ぎをする
との理由で退職を促され、被告の叔父と被告の退職金の代わりに、「丸万」の
暖簾分けを行うこととなり、同年、被告の叔父が店舗の代表となり、福岡市内
10 で「丸万」の屋号で被告店舗を開業し、被告標章の使用を開始した。このとき、
被告は、被告店舗で従業員として働くようになった。被告店舗は、以後、現在
に至るまで、30年間、同一の場所で営まれている。
(2) 被告による被告店舗の承継
平成15年に、被告の叔父が死去し、被告が被告店舗の事業を承継した際、
15 原告代表者の父に電話連絡し、丸万の屋号及び丸万ロゴを継続して被告が使用
することについて承諾を得た上で、被告店舗の事業を承継した。
(3) 被告標章の周知性
ア 被告店舗の来客数、売上
被告店舗の1か月単位での来客数は、年々増加傾向にあり、平成14年か
20 らは1000人程度以上の来客が訪れている。また、令和3年には、1か月
単位での来客数は、2000人程度まで増加している。被告店舗における平
成6年から令和5年までの売上は、年々順調に伸びている。
イ 広告宣伝の状況等
被告は、平成20年から平成30年までは年間20万円から40万円を、
25 令和元年から令和5年までは年間60万円から100万円の費用を宣伝広
告に投じ、タウンページ等に掲載するほか、被告店舗のウェブサイトを作成
し(平成24年9月)、保守運営の費用が毎月発生している。その他、電車内
のポスター広告を掲載(平成23年10月から平成24年10月)したりし
ていた。
その他、被告店舗は、開店当初から継続的にグルメ情報誌にも掲載され、
5 YouTubeでも被告店舗を紹介する動画が掲載されているほか、令和4
年9月には福岡のテレビ局のRKBオンラインの飲食店の紹介動画でも取
り上げられている。
ウ まとめ
よって、被告標章は、原告商標権の商標登録出願時には、被告の業務に係
10 る商品又は役務を表示するものとしても、需要者の間に広く認識されたもの
となっていた。なお、被告店舗は福岡県で、原告は宮崎県で営業していると
ころ、これら二地点では商圏が重ならないから、この周知性は、原告に依拠
するものではなく、被告独自の事業活動によるものである。
(4) 小括
15 上記の被告標章の使用開始の経緯から、被告に不正競争の目的はないから、
被告は、先使用権を有している。
【原告の主張】
(1) 原告主張の経緯は事実と異なること
そもそも平成6年9月当時から少なくとも被告の叔父が死亡するまでの間、
20 被告店舗を運営していたのは被告ではない。
なお、原告代表者の父が被告の叔父に対し、丸万鹿児島店の店長を辞するよ
うに促したのは、同人が、同店の売上を横領している疑いがあったためであり、
原告代表者の父は、被告の叔父が長年、丸万の系列店において勤務していたこ
とに免じ、同店を退職することを条件にこれを許した。なお、原告代表者が同
25 店の店長となったことはなく、そのような予定となったこともない。
その後、被告の叔父は、被告店舗の開業に当たり、被告標章を使用したいと
申し出たところ、原告代表者の父は、被告の叔父が丸万の求める焼鳥の味を創
出できる技術を有していることや同人の長年の貢献等を理由に、同人に対して
のみ、被告店舗において丸万の屋号を使用することを認めた。しかし、原告の
関係者はいずれも、被告に対しては、丸万の屋号の使用を許諾していない。
5 (2) 周知性について
被告店舗は、被告の叔父が、原告を含む複数の丸万系列店の姉妹店という位
置づけで開業し、原告代表者の父の許諾のもと、被告標章を使用していたので
あるから、被告が主張する周知性は、原告商標の周知性にほかならず、被告標
章独自の周知性とは評価できない。
10 また、商圏の相違については、福岡県と宮崎県では商圏が重ならないとはい
えないし、そもそも、被告店舗は、上記のとおり、丸万系列店の姉妹店という
位置づけで開業し、対外的にもそのように広報していたのであるから、原告商
標の周知性を使用しているに過ぎない。
(3) 不正競争の目的について
15 被告は、原告代表者の父が使用していた原告商標により化体した信用を利用
し、被告標章を使用し続けており、不正競争の目的がある。
2 争点2(被告に、許諾による通常使用権があるか)について
【被告の主張】
(1) 被告店舗は、いわゆる「暖簾分け」によって開設されたこと
20 前記のとおり、原告代表者の父は、平成6年、被告の叔父に対し、被告店舗
につき原告の祖業である「丸万」を飲食業からのいわゆる「暖簾分け」を許諾
し、同人が死亡したときは、被告が継続して事業を承継することを承諾した。
この承諾によって、被告は長期間被告事業を継続してきた。
被告店舗は、丸万支店から、
「丸万」及び丸万のロゴについて、暖簾分けによ
25 る許諾を受けて店舗の営業を行っているものであり、被告による「丸万」及び
丸万のロゴの使用は、許諾に基づく使用である。また、この旨は、被告店舗の
本件ウェブサイト1を作成した平成25年から明記している。また、被告店舗
が開店した当初である平成6年に発行された雑誌や、その1年後に発行された
雑誌では、被告店舗が、宮崎に本店を持つ老舗「丸万」から暖簾分けをされた
店であることが明記されている。
5 (2) 許諾による通常使用権があること
以上のとおり、原告代表者の父からの被告店舗及び被告への事業に関する名
称使用の許諾は、被告の事業遂行の必須条件であり、原告の商標権取得後も継
続して、原告代表者の父と一体となった原告から被告に対する原告商標使用の
許諾が認められる。
10 【原告の主張】
原告代表者の父が被告の叔父に対して「暖簾分け」の許諾をし、被告標章の使
用を許諾したこと、被告のホームページにおいて、被告が「丸万」の屋号の暖簾
分けを受けた旨記載していることは認めるが、これは属人的な関係に基づくもの
であり、被告の叔父の事業を承継した者にまで、許諾の効果が及ぶ理由はない。
15 このことは、商標の通常使用権は相続その他の一般承継の場合に限り移転できる
とされていること(商標法31条3項)からもいえる。
3 争点3(原告が、被告店舗における被告標章の使用を黙示的に許諾しており、
本件請求が権利濫用に当たるか)について
【被告の主張】
20 (1) 原告(関係者を含む)の態度について
被告は、前記のとおり、被告標章について、暖簾分けによる許諾を受けて被
告店舗の営業を行っている。また、被告は、平成6年の開店時から現在に至る
まで、長年、同一場所で被告店舗の営業を行っており、営業開始当初から、令
和4年5月に、原告から被告に対する警告書が届くまでは、原告や丸万本店か
25 ら被告標章の使用に対して、丸万本店及び丸万支店から異議を申し立てられた
ことはなかった。
このように、原告や丸万本店は、28年もの間、被告が、被告店舗の営業を
行うにあたり被告標章を使用していたことについて認識しながら、使用の中止
等を求めてこなかった。
(2) 原告商標権の行使が権利濫用に当たること
5 そうすると、被告は、原告から被告標章を使用することにつき、黙示的に許
諾がされていたといえる。にもかかわらず、原告商標権を登録したことを奇貨
として、原告商標権侵害を主張することは、権利濫用に当たる。
【原告の主張】
平成6年9月当時においては、被告の叔父が被告店舗での事業を行っていた
10 のであり、被告が行っていたのではない。そして、原告代表者の父が被告標章の
使用を許諾したのは被告の叔父のみであり、被告に許諾した事実はなく、被告の
使用を黙認したわけでもない。加えて、原告やその関係者と被告との間には一切
の血縁関係も存在しない。
また、原告代表者は、被告に対し、令和2年12月頃に電話にて被告標章の使
15 用に対して異議を申し立てており、被告による被告標章の使用を黙認していない。
そして、被告は、当該異議を受け、保有する2店舗のうち被告店舗以外の店舗に
おける被告標章の使用を中止した。また、原告はその後令和4年5月2日付で、
被告に対して警告書を発し、被告標章の使用差止めを請求している。
よって、原告商標権を行使することは、権利濫用に当たらない。
20 4 争点4-1(原告商標が、他人(丸万本店)の業務に係る役務を表示している
ものとして需要者の間に広く認識されている商標を類似の役務に使用するもの
か)について
【被告の主張】
(1) 「丸万」の屋号の帰属について
25 「丸万」の屋号の店舗は、
「丸万本店」
「丸万支店」
「被告店舗」が存在し、原
告代表者の祖母が開業した「丸万」の事業を主として承継したのは丸万本店で
ある。
(2) 丸万ブランドの周知性
昭和30年代後半から「宮崎への新婚旅行」の人気が高まり、そうした中で、
著名人がお忍びで「丸万」の店舗を訪れたところ週刊誌が報道し、同店が全国
5 的に有名になった。また、昭和29年から現在に至るまで丸万本店が「丸万」
の標章やロゴを使用し、丸万支店(原告)及び被告店舗も開業から現在に至る
まで「丸万」の標章やロゴを使用している。
このように、丸万ブランドは、原告商標権の出願時点(令和元年10月2日)
において広く知られるものであったが、このような周知性を獲得するに至った
10 経緯には、原告代表者の祖母の事業を承継した丸万本店の寄与が大きい。丸万
支店や被告店舗の業務に係る商品役務を表示するものとして、「丸万」の標章
及び丸万のロゴが広く認識されていること自体は否定できないものの、その知
名度や信用の獲得に大きく貢献したのはあくまでも丸万本店であるから、原告
商標は、丸万本店の業務を表示するものとして広く認識されているものという
15 べきである。
よって、原告商標には、商標法第4条1項10号所定の事由がある。
【原告の主張】
次のとおり、原告商標には、商標法4条1項10号所定の事由はない。
(1) 原告代表者の祖母による飲食店事業は、宮崎市内にて、遅くとも昭和29年
20 頃に開始された。その後の昭和42年頃、同人は、宮崎市内の現在の原告の肩
書地において2店舗目を開業した。その後、前者の店舗は「丸万本店」、後者の
店舗は「丸万支店」と称されるようになった。
このように、
「丸万本店」と「丸万支店」はいずれもその起源を同じくする関
係にあり、丸万本店は、商標法4条1項10号における「他人」に当たらない。
25 (2) また、丸万本店の宣伝や雑誌の掲載が行われたとしても、原告設立の経緯や、
原告代表者の父が原告従前商標について商標登録を行うことにより、丸万とい
う商標が原告代表者の父に帰属することを公示していたことに鑑みれば、原告
商標が丸万本店の業務に係る商品又は役務を表示するものとしてのみ、需要者
の間に広く認識されているに至ったとはいえない。
(3) 丸万本店は、原告から原告商標の使用の許諾を受けている立場であり、丸万
5 本店自身、原告商標権が原告に帰属していることを認めている。
よって、原告商標権の出願は丸万本店とは無関係ではなく、原告代表者の父
から続く原告に係る商品・役務の周知性に基づくものである。
5 争点4-2(原告商標が、他人の業務に係る役務を表示しているものとして需
要者の間に広く認識されている商標を不正の目的で使用するものか)について
10 【被告の主張】
(1) 丸万本店の使用標章の周知性について
前記の通り、丸万本店の使用標章「丸万」及び丸万のロゴは、原告商標権の
出願時には既に、丸万本店の業務を表示するものとして、取引者及び需要者の
間に広く認識されており、その状態は、原告商標の登録査定時にも継続してい
15 る。
(2) 原告商標について
原告商標1は、「丸万本店」の使用標章である丸万のロゴと類似である。ま
た、原告商標2の要部である「丸万」の文字部分は、丸万本店の使用標章「丸
万」と同一の文字からなる。また、原告商標1と被告標章1ないし4、原告商
20 標2と被告標章5ないし7は類似している。
(3) 不正の目的について
ア 丸万本店との関係について
原告は、その設立の時点で、丸万支店が丸万本店から暖簾分けされた店舗
であることは理解していた。また、原告商標権の出願日時点において、丸万
25 本店及び丸万支店の各店舗は隣接する建物に入居している。
そうすると、原告代表者は、原告商標権の出願時において、丸万本店の存
在及び活動について、更には、
「丸万」及び丸万のロゴという丸万本店の使用
標章について熟知していたといえる。そして、丸万本店の使用標章と実質同
一である原告商標権を、丸万本店から暖簾分けを受けた原告代表者が出願し
登録を受けるべき合理的理由は無い。むしろ、原告代表者は、丸万本店の使
5 用標章が商標登録されていないことを奇貨として、これを剽窃的に先取りし、
「丸万」の標章及び丸万のロゴに化体した顧客吸引力、信用、名声を不正に
利用し、不正の利益を得る目的、他人たる丸万本店に損害を加える目的その
他の不正の目的をもって原告商標権を出願し登録を受けたものと言わざる
を得ない。
10 イ 被告店舗との関係について
被告標章は、原告商標権の出願時には既に、被告店舗の業務を表示するも
のとして、取引者及び需要者の間に広く認識されており、その状態は、原告
商標権の登録査定時にも継続している。
原告は、このように需要者の間に広く認識されるに至った被告標章に関し
15 て、その信用を自己の利益に用いるために、原告代表者から原告商標権を譲
り受けたものである。
これに加えて上記に指摘した事情も考慮すると、原告代表者は、原告商標
権の出願時において、被告店舗の存在及び活動について、更には、被告標章
について熟知していたといえる。そして、被告標章と実質同一である、原告
20 商標について原告代表者が出願し登録を受けるべき合理的理由は無い。むし
ろ、原告代表者は、被告標章が商標登録されていないことを奇貨として、こ
れを剽窃的に先取りし、被告標章に化体した顧客吸引力、信用、名声を不正
に利用し、不正の利益を得る目的、他人たる被告店舗に損害を加える目的そ
の他の不正の目的をもって原告商標権を出願し登録を受けたものである。
25 (4) 小括
丸万本店の使用標章「丸万」及び丸万のロゴの周知性、被告標章の周知性と、
原告商標権の登録出願の経緯等を総合すれば、原告商標権は、商標法4条1項
19号所定の事由がある。
【原告の主張】
原告商標は、いずれも、その出願時に被告店舗の業務を表示するものとして周
5 知であったとはいえない。また、原告代表者は、同人の父が丸万支店で事業を行
っていたときから継続的に使用していた標章について商標出願をしたに過ぎず、
不正の目的など何ら有さない。
6 争点4-3(原告商標が、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのあるもの
か)について
10 【被告の主張】
これまでに主張した、被告店舗が円満に開業した経緯や、長きに渡って、被告
店舗における被告標章の使用に対して、丸万本店や丸万支店から異議は述べられ
ていない状況において、突如として、原告から警告書が届いた。
これらの事実を総合してみれば、原告代表者は、被告に対して原告商標権を行
15 使することによって、被告の「丸万」標章及び丸万のロゴの使用、被告提供料理
の提供を困難にし、不当な利益を得る目的を有していたと推認できる。
そうとすると、原告代表者は、原告商標について、被告が「丸万」標章及び丸
万のロゴを使用していることを知った上で、被告の営業の妨害をする目的をもっ
て登録出願したものとみるのが相当であり、原告商標権は、出願の経過、目的に
20 社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反
するものとして到底容認できない場合に当たるものとして、「公の秩序又は善良
の風俗を害するおそれがある商標」に該当する。
したがって、原告商標は、商標法4条1項7号に該当する事由が認められる。
【原告の主張】
25 争う。なお、被告が被告標章の使用を中止しても、被告提供料理の提供が困難
になる事由など存在しない。
7 争点5-1(原告の損害)のうち主位的請求について
【原告の主張】
(1) 商標法38条2項により推定される損害
ア 商標法38条2項の適否について
5 宮崎の料理が福岡で食べることができたと述べる需要者が存するなど、需
要者にとって、被告店舗と原告の間で選好関係が成立しているから、商圏が
重なっている。また、被告は、原告商標に化体された顧客吸引力を利用して
顧客を獲得しているから、商標法38条2項が適用される。
イ 限界利益
10 令和2年度から令和5年度までの被告店舗の事業における収入額は、別紙
被告収支状況の「事業収入及び雑収入」欄のとおりである。この金額は、被
告の事業収入と雑収入を合算したものである。
なお、令和2年から令和4年の雑収入には新型コロナ感染症対策として交
付された助成金が含まれているとの指摘があるが、雑収入の内訳が明らかで
15 はないし、助成金が交付されていた時期と雑収入が発生している時期も一致
しないことから、全て合算した金額を売上高とすべきである。
また、被告は令和6年度以降の売上に関する資料を提出していないところ、
令和4年から令和5年にかけて被告店舗の売上高が増加していることに鑑
みれば、令和6年度以降の売上高は令和5年度の売上高を下回ることはない。
20 ウ 覆滅について
被告は、商標法38条2項による推定額は、商圏の重なりや被告の営業努
力等を理由に、大幅な割合で覆滅されるべきであると主張する。しかし、商
圏が重なっていないとはいえないことは前述のとおりであるし、被告が主張
する営業努力も、一般的な営業努力の域を出ない。また、被告は、被告標章
25 の使用を中止してからも売上が維持されていると主張するが、被告標章を使
用していた前年度と比較すると売上は減少傾向にある。
そうすると、本件では推定を覆滅すべき理由はない。
エ 小括
以上を踏まえ、令和2年12月15日から令和7年4月21日までの限界
利益は次のとおりとなり、同額が原告に生じた損害と推定される。
期間 額
令和2年 1,400,023
令和3年 36,306,627
令和4年 32,921,122
令和5年 33,752,426
令和6年 33,752,426
令和7年(4月21日まで) 10,264,436
合計 148,397,060
5 そして、同額の賠償を被告に求めるために必要かつ相当な弁護士費用(1
483万9706円)及び消費税相当額(その合計の10パーセント)を同
欄記載のとおり加えると、原告に生じた損害の額は1億7956万0443
円となる。
(2) 商標法38条3項により算定される損害
10 ア 令和2年12月15日から令和5年末までの被告の売上高は別紙被告収
支状況の「事業収入及び雑収入」欄(ただし、令和2年についての日割額は
別掲)記載のとおりであり、前記のとおり令和6年、令和7年(ただし、4
月21日までの日割額)について、令和5年分と同額の収入があったとした
場合の合計は、2億6304万5631円である。
15 イ 原告商標が、長年にわたり信用力を獲得してきたこと、被告の被告標章の
利用形態、飲食店業界の一般的な実施料率統計等をふまえ、更に、商標法3
8条4項の趣旨を踏まえると、実施料率は6パーセントとすることが相当で
ある。
ウ 以上を踏まえ、令和2年12月15日から令和7年4月21日までの商標
法38条3項に基づき算定される損害額を求めると、その損害は1578万
2738円となる。
同額の賠償を被告に求めるために必要かつ相当な弁護士費用及び消費税
5 相当額を同欄記載のとおり加えると、被告の原告商標権侵害によって原告に
生じた損害の額は1909万7113円となる。
(3) 原告は、被告に対し、商標法38条2項及び3項に基づき算定される損害額
のうち、高い方の金額の賠償を求める。
【被告の主張】
10 (1) 商標法38条2項が適用できないこと
侵害品と商標権者の商品との間について、市場において、相互補完関係(需
要者が侵害品を購入しなかった場合に商標権者の商品を購入するであろうと
いう関係)が存在するということが困難な場合には、商標法38条2項によっ
て損害額を推定するのは相当でなく、その判断に当たっては、特に商圏の重な
15 りが重視される。
本件について検討すると、原告は宮崎県宮崎市に所在しており、被告は福岡
県福岡市に所在しており、距離としても著しく離れている。さらに、原告が福
岡県福岡市や同地域周辺において、何らの事業を営んでいることもなければ、
第三者を介して事業を行っていることもない。ましてや、顧客の共通性等は皆
20 無であり、相互補完関係、すなわち、需要者が侵害品を購入しなかった場合に
商標権者の商品を購入するであろうという関係は一切認められない。
そうすると、本件では、商標法38条2項の適用の基礎を欠く。
(2) 限界利益について
ア 令和2年度から令和7年度までの被告店舗の事業における収入額は、別紙
25 被告収支状況の事業収入及び雑収入(A)欄から、コロナ助成金・雑収入欄と
家事消費等欄記載の金額を差し引いた金額とすべきである。
この点、被告は、令和2年から令和4年にかけて、新型コロナ感染症対策
の助成金を受け取っており、これが雑収入に反映されている。しかし、助成
金は、現実の営業活動によって得た収入ではないことから、限界利益の算定
に際しては、控除されるべきである。また、その他の雑収入についても、事
5 業活動とは無関係に発生したものであり、全体として、収入から除くべきで
ある。
イ 限界利益を算定する際に控除すべき経費は、別紙被告収支状況に記載され
た経費全てである。支払手数料は、商品の配達サービスを利用する際の手数
料であり、売上に伴って生じたものである。また、その余の経費についても、
10 いずれも、売上向上に伴って、又は、売上向上のために支出されているもの
であり、変動費と認められるべきである。
ウ 覆滅について
上記のとおり、原告と被告店舗の間には商圏の重なりがなく、仮に被告が
被告標章を使用したとしても、そのために原告の顧客が減少する関係にはな
15 い。
また、被告が令和7年4月1日に被告標章の使用を中止してからも、被告
店舗の売上は減少していないことに鑑みれば、被告は、自らの営業活動によ
って顧客を獲得しており、被告標章を使用したことによって顧客を獲得して
いたものではない。
20 加えて、被告は、原告の店舗では提供していないメニューを提供したり、
宅配サービスを利用したりするなど、独自の営業努力を重ねており、これに
よって顧客を獲得している。以上を踏まえると、仮に、商標法38条2項に
基づき損害額が推定されたとしても、大幅に覆滅される。
(3) 商標法38条3項について
25 商圏の重なりがないこと、被告標章の使用を止めた後のほうが売上が上がっ
ていることなどの事情を踏まえると、被告店舗において被告標章を使用するこ
との価値が高いとはいえず、実施料率は、1パーセントを上回らない(なお、
令和7年 1 月から3月について、以後の売上額との対比する趣旨で売上額の主
張がある。)。
8 争点5-2(原告の損害)のうち予備的請求について
5 【原告の主張】
(1) 被告は、令和2年12月15日から令和3年3月13日までの間、本来なら
ば原告から原告商標の実施許諾を得たうえで使用しなければならなかったに
もかかわらず、これを免れていたものであるから、実施料相当額について不当
に利得していたものといえる。
10 令和2年12月15日から令和3年3月13日までの被告の売上高は、別紙
被告収支状況の日割額欄記載のとおりであり(合計1418万6600円)、
実施料率は、6パーセントを下回らない。
よって、被告は、原告に対し、85万1196円の不当利得返還義務を負っ
ている。
15 (2) 商標法38条2項及び3項に基づく主張について
商標法38条2項及び3項に基づく主張については、令和3年3月14日か
ら令和7年4月21日までの売上について、同様に計算して算定される。
よって、商標法38条2項によって算定される被告の原告商標権侵害によっ
て原告に生じた損害の額は1億6920万0568円と、同条3項によって算
20 定される損害の額は1806万7164円となる。なお、原告は、高い方の金
額の賠償を求める。
【被告の主張】
争点5-1における主張に同じ
第4 判断
25 1 認定事実
後掲各証拠(枝番のあるものは枝番を含む)及び弁論の全趣旨によると、次の
各事実を認めることができる。
(1) 原告の起源等(甲2、10、11、15、18、乙1、17、18、弁論の
全趣旨)
原告代表者の祖母は、昭和29年に、
「丸万」との屋号で、当初屋台で、鶏も
5 も肉の炭火焼の販売を始めたところ、次第に評判になり、翌年には店舗(丸万
本店)で提供するようになった。これは、現在宮崎県の名物料理とされ、様々
な飲食店で提供される地鶏の炭火焼のルーツとされている。
この後、原告代表者の母は、
「丸万」の2店目を出店し、それぞれを子に承継
させたが、うち、
「丸万支店」を承継したのが原告代表者の父であった。なお、
10 原告代表者の父は、平成18年頃、原告従前商標について商標登録を得ていた
(後に存続期間満了により抹消)。
丸万本店は、原告提供料理が特徴として認知度を上げ、観光ガイドブック等
に継続して掲載されて紹介され、また、原告は、口コミサイトの焼鳥の百名店
に選出されるなどした。
15 なお、原告代表者は、その商標権者であった当時に、原告に独占的通常使用
権を認めていた。また、原告は、丸万本店に、原告商標権の利用を許諾してい
る。
(2) 被告店舗における被告標章の使用態様等(甲7ないし9、乙6)
被告店舗は、平成6年9月に開店してから原告商標権の登録出願時に至るま
20 で、宮崎県の本店から暖簾分けをした店舗であることをその特徴として打ち出
していた。また、被告提供料理も、鶏もも肉の炭火焼を核心的なメニューとす
る点において原告提供料理と共通する上、店内のメニューにおいては、これが
「宮崎名物」とされていた。
他方、被告店舗や本件ウェブサイトにおいて、原告や丸万本店とは別個の被
25 告独自の標識として被告標章が利用されていることをうかがわせるものは存
しない。
(3) 利用客の感想等(甲13、乙6)
被告店舗の利用者によるインターネットの投稿等において、被告店舗につい
て、本場宮崎の料理が福岡で食べられるとか、原告ないし丸万本店の系列にあ
るとかと理解されることがみられた。
5 2 争点1(被告に先使用により商標を使用する権利があるか)について
前記認定及び前提事実によると、被告店舗は、その開業当時から、原告(ない
し丸万本店)の営業を示す「丸万」の認知度や、その特徴的な原告提供料理の顧
客誘引力に依拠して営業をしていたものと認められ、これとは別個の、独立して
識別される標識として、被告標章を使用していたものとは認められない。需要者
10 においても、原告や丸万本店から別個独立したものではなく、丸万の系列店に準
じる店舗として認識されていたものと認められる。被告は、原告や丸万本店とは
メニュー構成等が異なる旨主張立証するが、前判示の事実関係に照らし、上記判
断を左右しない。
そうすると、原告商標権が登録出願された時点で、需要者が、被告標章を、原
15 告と被告ないし被告店舗とを区別し、被告の業務に係る商品や役務を表示するも
のとして認識していたものとは認められない。
したがって、被告の先使用権(商標法32条)は認められず、この点をいう被
告の主張は、理由がない。
3 争点2(被告に、許諾による通常使用権があるか)について
20 被告店舗の開店に当たり、被告の叔父が、
「丸万」の屋号及び被告標章の使用に
つき原告代表者の父の許諾を得ていたことは、当事者間に争いがない。他方、被
告が、被告店舗を、被告の叔父から承継するにあたり、原告代表者の父を含む関
係者から同様の許諾を得ていたことを認めるに足りる証拠はない。
この点、いわゆる「暖簾分け」が、商標権の使用許諾を含む場合はありうるも
25 のの、本件においては、原告ないし原告商標権が、被告主張の暖簾分け当時に存
在していたものではなく、その許諾が原告商標権の通常使用権を意味することに
はならない上、被告の叔父への許諾の内容も詳細は不明であって、少なくとも、
許諾を受けた地位が、当然にその事業の承継人(被告)に承継されるとは解され
ない。
そうすると、被告は、原告商標権に対する、許諾による有効な通常使用権を有
5 するとは認められない。この点をいう被告の主張は、理由がない。
4 争点3(原告が、被告店舗における被告標章の使用を黙示的に許諾しており、
本件請求が権利濫用に当たるか)について
前記認定事実に前提事実を総合しても、原告が、原告商標の使用を被告に黙示
に許諾していたとは認められないし、原告の商標権の行使が権利濫用に当たると
10 はいえない。
被告主張の、被告が同一場所で被告店舗の営業を継続していたことや、長年原
告の関係者が異議を述べてこなかったことがあったとしても、原告商標権の行使
が権利濫用になるものではない。
この点に係る被告の主張は、理由がない。
15 5 争点4(原告商標に無効理由があるか)について
(1) 争点4-1(原告商標に、他人(丸万本店)の業務に係る役務を表示してい
るものとして需要者の間に広く認識されている商標を類似の役務に使用する
ものとの無効理由があるか)及び争点4-2(他人の業務に係る役務を表示し
ているものとして需要者の間に広く認識されている商標を不正の目的で使用
20 するものか)について
前記認定事実及び弁論の全趣旨によると、丸万本店は、原告同様、原告代表
者の祖母による「丸万」の飲食店営業をルーツに持つものであり、多少店舗形
態やメニューが異なるものの(乙5)、原告提供料理と同様の料理を提供し、現
在も親族が営業していること、原告商標権の利用許諾を受けていることが認め
25 られるのであって、これらからすれば、原告商標権との関係で、丸万本店が商
標法4条1項10号、17号にいう「他人」に当たるということはできない。
したがって、その余の点を検討するまでもなく、これらの無効理由の存在を
いう被告の主張は、いずれも理由がない。
(2) 争点4-3(公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのあるものか(同項7
号))について
5 本件全証拠によるも、原告商標権が、それ自体として公序良俗に反すること
その他商標法4条1項7号の要件を基礎づけるに足りる事実は認められない。
被告の主張は、それ自体失当である。
6 争点5(原告の被った損害又は損失)について
(1) 消滅時効
10 前提事実によると、原告は、令和2年12月頃には、被告による被告標章の
使用が原告商標権の侵害であることを前提としてその中止を申し入れたから、
その時点で損害及び加害者を知っていたと認められるところ、本訴提起日(令
和6年3月13日)の3年前の応当日以前の不法行為に基づく損害賠償請求権
は、被告の時効援用の意思表示により、消滅した(したがって、この期間の原
15 告の主位的請求は、理由がない。)
(2) 損害賠償請求について
ア 商標法38条2項の適用について
被告店舗は福岡県に所在する一方、原告店舗は宮崎県に所在し、このこと
が、顧客の選好に与える影響はあるものの、前記のとおり、被告は、原告商
20 標に化体された、「丸万」ブランドの信用力を利用して被告店舗を営んでい
たものであるし、宮崎まで行かなくとも福岡で「丸万」ブランドの地鶏料理
を食べることができると認識する需要者もいること(甲13)に照らすと、
商標権者に、侵害者による商標権侵害行為がなかったならば利益が得られた
であろう事情があるといえ、商標法38条2項の適用を肯定することができ
25 る。
イ 令和6年以降の売上高について
本件において、被告は、令和2年から令和5年までの事業所得に関する証
拠は提出したものの、令和6年以降のものについては提出しないところ、令
和6年度の売上高は、少なくとも令和5年度の売上高を下回らないとの原告
の主張に対しても、積極的な反証をしない。
5 そうすると、令和6年度以降の被告の限界利益は、令和5年のそれを基礎
として計算することに合理性が認められる。
ウ 限界利益の算定について
被告は、限界利益の算定にあたり、別紙被告収支状況の諸経費のうち、控
除すべきことに争いのない売上原価及び支払手数料の控除のほか、その余の
10 経費についても控除すべきことを主張するが、これらは、費目の性質上、当
然に、売上に伴って発生するものとは認められず(むしろ、専従者給与や福
利厚生費のように、固定費であることが明らかであるものもある。)、控除す
ることはできない。
エ 限界利益の算定の基礎となる売上高について
15 被告の雑収入には、新型コロナ感染症対策として支給された助成金が含ま
れるため、この扱いが問題となる。
この点、新型コロナ感染症対策の助成金は、感染症対策のために売上が減
少する個人事業主に対する営業利益の補填との性質もあるものの、あくまで
も、前年度所得額等を基礎とした推定計算に基づいて支給されるものであり、
20 現実の営業活動によって生じたものではない。また、助成金以外の雑収入に
ついても、証拠上、その内実が明らかではなく、売上高として計上すべきで
あるとは認められない。そうすると、限界利益の算定に当たっては、現実の
収入額、すなわち雑収入等を控除した後の金額を採用することが相当である。
したがって、令和3年から令和5年の各年の限界利益額は次のとおりとな
25 る。
令和3年 令和4年 令和5年
事業収入及び雑収入 59,086,721 58,806,373 61,898,705
コロナ助成金・雑収入 12,263,224 2,439,878 732,771
家事消費等 - 90,000 90,000
売上原価 18,035,450 21,168,182 23,351,704
支払手数料 3,758,782 3,515,904 3,609,661
限界利益額 25,029,265 31,592,409 34,114,569
オ まとめ
したがって、令和3年3月14日から令和7年4月21日までの、被告の
限界利益の額は、次のとおりと認められる(令和3年、令和7年はいずれも
日割計算)。
期間 額
令和3年(3月14日から) 20,091,985
令和4年 31,592,409
令和5年 34,114,569
令和6年 34,114,569
令和7年(4月21日まで) 10,374,567
5 カ 推定の覆滅について
前記の原告と被告店舗の商圏が地理的に隔離することは推定を覆滅すべ
き事由といえるが、なお商圏には一定の重なりが認められるから、推定され
た損害額の大部分を覆滅すべき事情に当たるとまではいえない。
また、被告が縷々主張する営業努力は、一般的な飲食店としての営業活動
10 の域を出ておらず、推定を覆滅すべき事情であるとは認められない。特に、
被告は、被告標章の使用を中止しても売上が減少していない点を指摘するが、
被告が長期間にわたり被告標章を使用していたことに照らすと、むしろ、原
告商標に化体された顧客吸引力により売上が維持されているものと解し得
る。
その他、本件における一切の事情を考慮すると、商標法38条2項に基づ
いて推定される損害額のうち、30パーセントについて、推定の覆滅を認め
るのが相当である。
キ 小括
5 以上に加え、相当な弁護士費用及び消費税額(各10パーセント)を考慮
した原告の損害額は、次のとおりと認められる(なお、商標法38条3項に
よる損害はこれを下回る。)。そして、原告は、各年単位で損害を把握して一
部請求(主位的請求・予備的請求)をするところ、令和3年からの各年の損
害額はいずれもこれを上回るから、原告の各一部請求の限度において(ただ
10 し、予備的請求は、主位的請求の棄却の範囲内である56万6058円につ
いて審理対象となるところ、本訴請求の態様に照らし、予備的請求のうち履
行期が最先の令和4年分について同額の範囲で)原告の請求を認容すべきで
ある。
期間 額
令和3年(3月14日から) 17,017,911
令和4年 26,758,770
令和5年 28,895,040
令和6年 28,895,040
令和7年(4月21日まで) 8,787,258
合計 110,354,019
(3) 不当利得返還請求について
15 令和2年12月15日から令和3年3月13日までの間、被告は、同期間、
本来なら商標権者又は独占的通常使用権者に対し、実施料相当額を負担すべき
であったにもかかわらずこれを免れていたものであると認められるから、かか
る実施料相当額については、不当利得返還義務が発生していたものと認められ
る(商標権者と独占的通常使用権者のいずれの損失とみるのかは、最終的には
両者の内部関係によって決せられるが、本件では、原告のみが不当利得返還請
求権を行使しており、これによる限り、商標権者であった原告代表者において
は権利行使しない趣旨と解される。)。
そして、令和2年12月15日から令和3年3月13日までの被告店舗にお
5 ける売上高は、前記損害賠償請求と同様に、コロナ助成金・雑収入欄記載の金
額を差し引き、次のとおりと認められる(合計)。
期間 額
令和2年(12月15日から) 2,490,188
令和3年(3月13日まで) 9,236,416
合計 11,726,604
また、売上高に対する実施料率は、飲食店における実施料率の一般的動向(甲
26)、被告の原告商標によって生じた顧客吸引力への依拠の程度が高いこと、
九州地方における原告商標の知名度等を踏まえると、5パーセントとすること
10 が相当である。
以上によると、被告が原告に返還すべき不当利得額は、58万6330円と
なり、この限度で、原告の予備的請求(ただし、不当利得に関するもの)は理
由がある。
第5 結論
15 1 原告の差止め、廃棄、削除の各請求は、被告の応訴態度等弁論に表れた事情を
考慮すると、必要性も認められ、請求は理由がある。ただし、各請求にかかる仮
執行宣言は相当でないのでこれを付さない。
2 原告の主位的請求、予備的請求は、各主文掲記の限度で理由があり、その余は
理由がない。
20 3 訴訟費用の負担については、民訴法64条ただし書を適用して、被告の負担と
する。
よって、主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第26民事部

5 裁判長裁判官
松 阿 彌 隆

10 裁判官
島 田 美 喜 子

15 裁判官
西 尾 太 一

(別紙)
被告標章目録












7 丸万

(別紙)
原告商標権目録
1 登録番号 第6329204号
出願日 令和元年10月2日
5 登録日 令和2年12月15日
登録商標

指定商品又は指定役務並びに商品及び役務の区分
第29類 焼鳥,鶏のもも焼,地鶏焼,鶏の串焼,焼きとり丼のもと,鶏肉,
10 食肉
第43類 焼鳥(もも焼・地鶏焼・串焼)を主とする飲食物の提供
2 登録番号 第6329205号
出願日 令和元年10月2日
15 登録日 令和2年12月15日
登録商標

指定商品又は指定役務並びに商品及び役務の区分
第29類 焼鳥,鶏のもも焼,地鶏焼,鶏の串焼,焼きとり丼のもと,鶏肉,
食肉
5 第43類 焼鳥(もも焼・地鶏焼・串焼)を主とする飲食物の提供

(別紙)
ウェブサイト目録
省略


以上

(別紙)
被告収支状況
令和2年 令和3年 令和4年 令和5年
事業収入及び雑収入(A) 54,493,888 59,086,721 58,806,373 61,898,705
コロナ助成金・雑収入 881,603 12,263,224 2,439,878 732,771
家事消費等 - - 90,000 90,000
売上原価 19,790,342 18,035,450 21,168,182 23,351,704
荷造運賃 254,430 313,742 307,450 218,350
水道光熱費 1,052,596 985,862 1,201,165 1,184,914
旅費交通費 180,350 289,420 87,600 279,300
通信費 340,861 231,925 284,087 260,811
広告宣伝費 547,313 554,192 1,066,045 801,810
接待交際費 1,320,389 958,955 1,809,888 2,565,868
消耗品費 1,061,388 1,045,331 995,362 847,096
福利厚生費 211,902 250,809 512,748 358,200
給料賃金 4,107,100 3,565,860 4,235,790 5,124,200
支払手数料 3,509,287 3,758,782 3,515,904 3,609,661
雑費 852,340 1,424,470 1,506,124 1,376,476
専従者給与 4,650,000 4,800,000 4,200,000 4,500,000
R2.12.15~R2.12.31
の売上(A の日割計算) 2,531,137
R3.1.1~R3.3.13 の
売上(A の日割計算) 11,655,463
以上

最新の判決一覧に戻る

法域

特許裁判例 実用新案裁判例
意匠裁判例 商標裁判例
不正競争裁判例 著作権裁判例

最高裁判例

特許判例 実用新案判例
意匠判例 商標判例
不正競争判例 著作権判例

今週の知財セミナー (5月18日~5月24日)

5月20日(水) - オンライン

画像意匠の実務判断と活用戦略

来週の知財セミナー (5月25日~5月31日)

5月27日(水) - 東京 千代田区

「損害賠償額算定の実務とその問題点」

5月28日(木) - オンライン

知財人材の育て方と活かし方

特許事務所紹介 IP Force 特許事務所紹介

SAHARA特許商標事務所

大阪府大阪市中央区北浜3丁目5-19 淀屋橋ホワイトビル2階 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング 

七星特許事務所

東京都外神田4-14-2 東京タイムズタワー2703号室 特許・実用新案 鑑定 

イージスエイド特許事務所

東京都新宿区四谷2-12-5 四谷ISYビル3階 PDI特許商標事務所内 特許・実用新案 訴訟 鑑定 コンサルティング