令和7(行ケ)10075審決取消請求事件
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| 裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
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| 裁判年月日 |
令和8年5月13日 |
| 事件種別 |
民事 |
| 当事者 |
原告ザケマーズカンパニーエフシーリミテッドライアビリティ 被告特許庁長官
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| 対象物 |
2,3-ジクロロ-1,1,1-トリフルオロプロパン、2-クロロ-1,1,1-トリフルオロプロペン、2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンまたは2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含む組成物 |
| 法令 |
特許権
特許法36条6項1号2回 特許法44条1項1回 特許法29条1項3号1回
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| キーワード |
実施86回 分割31回 審決21回 新規性11回 拒絶査定不服審判2回 優先権2回 進歩性1回
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| 主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日 |
| 事件の概要 |
本件は、本願の特許出願の拒絶査定不服審判請求に係る不成立審決(以下「本
件審決」という。)の取消訴訟であり、争点は、本件審決の新規性欠如及びその
前提となる分割出願の適法性、並びに、サポート要件適合性に係る各判断の当否
である。 |
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判決文
令和8年5月13日判決言渡
令和7年(行ケ)第10075号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和8年2月16日
判 決
原 告 ザ ケマーズ カンパニー エフシ
ー リミテッド ライアビリティ
カンパニー
同訴訟代理人弁護士 大 野 聖 二
同 大 野 浩 之
被 告 特 許 庁 長 官
15 同 指 定 代 理 人 光 本 美 奈 子
同 村 守 宏 文
同 渡 辺 陽 子
同 天 野 貴 子
同 阿 曾 裕 樹
20 主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日
と定める。
25 事 実 及 び 理 由
(注)本判決で用いる略語の定義は、本文中で別に定めるほか、審決の例による。
第1 請求
特許庁が不服2023-16883号事件について令和7年3月26日にした
審決を取り消す。
第2 事案の概要
5 本件は、本願の特許出願の拒絶査定不服審判請求に係る不成立審決(以下「本
件審決」という。)の取消訴訟であり、争点は、本件審決の新規性欠如及びその
前提となる分割出願の適法性、並びに、サポート要件適合性に係る各判断の当否
である。
1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがない。)
10 ⑴ 原告は、令和3年7月15日、発明の名称を「2,3-ジクロロ-1,1,
1-トリフルオロプロパン、2-クロロ-1,1,1-トリフルオロプロペ
ン、2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンまたは2,3,
3,3-テトラフルオロプロペンを含む組成物」とする発明について、本願
の特許出願をした(特願2021-116989号)。
15 本願は、平成21年(2009年)5月7日を国際出願日とする特許出願
(特願2011-508656号〔原出願〕。パリ条約による優先権主張
日・平成20年〔2008年〕5月7日、優先権主張国・米国)の一部を分
割して、平成27年2月17日にした新たな特許出願(特願2015-28
960号〔分割出願1〕)の一部をさらに分割して、平成29年2月10日
20 にした新たな特許出願(特願2017-23243号)の一部をさらに分割
して、平成30年9月20日にした特許出願(特願2018-176306
号)の一部をさらに分割して、令和元年5月7日にした新たな特許出願(特
願2020-81750号)の一部をさらに分割して、新たな特許出願とし
たものである。
25 ⑵ 原告は、令和3年8月10日及び令和5年3月31日に、それぞれ手続補
正書を提出して、本願の特許請求の範囲の記載を補正したが、同年5月24
日付けで拒絶査定を受けたことから、同年10月5日、拒絶査定不服審判を
請求し、特許庁は、これを不服2023-16883号事件として審理した。
⑶ 特許庁は、令和7年3月26日、「本件審判の請求は、成り立たない。」
との本件審決をし(出訴期間として90日が付加された。)、その謄本は、
5 同年4月8日、原告に送達された。
⑷ 原告は、令和7年8月4日、当庁に対し、本件審決の取消しを求める本件
訴訟を提起した。
2 本願発明の内容等
⑴ 本願の特許請求の範囲の請求項1の記載(令和5年3月31日付け手続補
10 正書による補正後のもの)は、次のとおりであり、上記請求項1に係る発明
(本願発明1)を組成する化合物は、別表のとおりである。
「 77.0モルパーセント以上のHFO-1234yfと、
0.2モルパーセント以下のHFC-143aと、
HFC-23、HFO-1141、HFC-245cb、HFC-25
15 4eb、HCFC-244bb及びHCFO-1233xfからなる群か
ら選択される少なくとも1つの追加の化合物と、
含有する組成物。」
⑵ 明細書等
原出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲及び図面(原出願明細書等)
20 は、別紙「公表特許公報」(特表2011-520017〔引用文献1〕、
公表日・平成23年7月14日)に記載のとおりであり、本願の明細書、特
許請求の範囲及び図面(以下、本願の明細書と図面を併せて「本願明細書」
という。)と原出願明細書等とでは、特許請求の範囲の記載が異なるほか、
① 本願明細書には「発明が解決しようとする課題」として「出願人は、1
25 234yf等の新たな低地球温暖化係数の化合物を調整する際に、特定の追
加の化合物が少量で存在することを見出した。」との記載があるのに対し
(【0003】。【】は明細書の段落番号等を、【図】はその図面をそれぞ
れ示す。以下同じ。)、原出願明細書等では、これが「課題を解決するため
の手段」として記載され(【0003】)、「発明が解決しようとする課題」
の記載がない点、② 実施例17(【0127】~【0130】【表8】)
5 について、本願明細書には「本発明は以下の実施の態様を含むものである。」
との記載があり、4つの実施態様が示されているのに対し(【0129】)、
原出願明細書等では、その記載がない点(【0129】)において相違する
ものの、その余の記載は同一である。
3 本件審決の理由
10 本件審決の理由は、別紙「本件審決の理由(抜粋)」のとおりであり、新規
性欠如及びその前提となる分割出願の適法性、並びに、サポート要件適合性に
係る各判断は、概要、次のとおりである。
⑴ア ① 原出願明細書等に「77.0モルパーセント以上のHFO-123
4yfと、0.2モルパーセント以下のHFC-143aと、HFC-2
15 3、HFO-1141、HFC-245cb、HFC-254eb、HC
FC-244bb及びHCFO-1233xfからなる群から選択される
少なくとも1つの追加の化合物と、含有する組成物。」との記載はないこ
と、② HFC-254ebは原出願明細書等の【表6】(実施例15の
表5)及び【表7】(実施例16の表6)にのみ記載され、HFC-14
20 3aが0.2モルパーセントであることは、【表6】にのみ記載されると
ころ、実施例15の記載(【0121】~【0123】)のみから、本願
発明1を把握することはできず、他の原出願明細書等の記載を加えても、
当業者が、追加の化合物の中でも特にHFC-143aのみに着目し、こ
れを他の追加の化合物と区別して0.2モルパーセント以下とすること、
25 及び、その技術的意義、並びに、実施例15に記載の組成中、「HFC-
23、HFO-1141、HFC-245cb、HFC-254eb、H
CFC-244bb及びHCFO-1233xf」のうち1つの化合物が
一定濃度以上のHFO-1234yfと一定濃度以下のHFC-143a
に加えて含まれること、及び、その技術的意義が原出願明細書等に開示さ
れていたと理解するといえないこと、③ 当業者において「0.2モルパ
5 ーセント以下のHFC-143a」と「HFC-23、HFO-1141、
HFC-245cb、HFC-254eb、HCFC-244bb及びH
CFO-1233xfからなる群から選択される少なくとも1つの追加の
化合物」を含有し、100モルパーセントに近い態様をも包含する「77.
0モルパーセント以上のHFO-1234yf」を含む組成物が原出願明
10 細書等に開示されていたと理解できないことからすると、本願発明1は、
原出願明細書等に記載された事項の範囲内の発明とはいえず、本願は原出
願に基づき適法に分割出願されたものとはいえない。
イ 本願の出願日は早くとも分割出願1の出願日である平成27年2月17
日以降であるところ、本願発明1は、平成23年7月14日に公開された
15 原出願の公表特許公報(引用文献1)に記載された引用発明1~3であり、
特許法29条1項3号に該当する。
⑵ 本願発明1は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された発明で、発明
の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得
るものとも、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に
20 照らして当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものともいえず、
特許法36条6項1号に規定する要件(サポート要件)に適合しない。
4 原告主張の審決取消事由
⑴ 本願発明1の新規性欠如及びその前提となる分割出願の適法性に係る各判
断の誤り(以下「取消事由1」という。)
25 ⑵ 本願発明1のサポート要件適合性に係る判断の誤り(以下「取消事由2」
という。)
第3 当事者の主張
1 取消事由1について
(原告の主張)
⑴ 本願発明1が原出願明細書等に記載された事項の範囲内のものであること
5 は、次のとおりである。本願は原出願に基づき適法に分割出願されたもので
あり、その出願は原出願の特許出願の時にしたものとみなされるから、引用
文献1を先行文献としてした本件審決の新規性欠如に係る判断は誤りである。
ア 原出願明細書等に、HCFC-244bbを脱塩化水素化してHFO-
1234yfを製造する 実施例15~17(【0121】~【013
10 0】)が記載され、実施形態において、HFO-1234yfを含有す
る組成物中の追加の化合物の合計量は、1重量%未満となってよいこと
が示されていること(【0011】【0012】)、実施例17におい
て、触媒を用いることにより、低温でもHCFC-244bbからHF
O-1234yfへの変換が進行することが示されていることからする
15 と、当業者は、触媒を用い、実施例15と同様の温度調整を行うことに
より、HFO-1234yfへの変換効率をより高められることを容易
に認識できる。
また、原出願明細書等には「さらに他の実施形態において、反応容器
の温度は、HCFC-244bbのHFO-1234yfへの熱分解が、
20 85%以上の選択性でなされるのに十分に高い温度に維持される。」と
記載され(【0096】)、本願発明1のプロセスにより生成される生
成物混合物から、蒸留を用いて、生成物化合物であるHFO-1234
yfを分離回収できることが開示されているところ(【0062】)、
他の化合物の沸点は、HFO-1234yfの沸点(-29.4℃)と
25 異なるのであるから、当業者が、蒸留を用いて、生成物混合物からHF
O-1234yfを分離回収することに困難はない。
そうすると、原出願明細書等には、生成物混合物に含まれるHFO-
1234yfの比率が603℃で85.0モルパーセントに達すること
のみならず、さらに高いモルパーセントのHFO-1234yfを含有
する組成物について開示があるといえる。
5 イ 原出願明細書等の実施例15及び16によれば、400℃より高温の条
件下で、HCFC-244bbからHFO-1234yfを生成する際、
「0.2モルパーセント以下のHFC-143a」と、「HFC-23、
HFO-1141、HFC-245cb、HFC-254eb、HCF
C-244bb及びHCFO-1233xfからなる群から選択される
10 少なくとも1つの追加の化合物」を含有する組成物が得られることが確
認でき、実施例15で示される574℃~626℃の温度範囲であれば、
HFC-143aが生成し、その含有量を0.2モルパーセント以下の
範囲に抑えられることが開示されている。
そうすると、原出願明細書等には、「0.2モルパーセント以下のHF
15 C-143a」と、「HFC-23、HFO-1141、HFC-24
5cb、HFC-254eb、HCFC-244bb及びHCFO-1
233xfからなる群から選択される少なくとも1つの追加の化合物」
について開示があるといえる。
⑵ 被告は、本願発明1の技術的事項は当該組成物に含まれる化合物の組合せ
20 を導き出す技術的意義によって理解されるべきであり、本願発明1が、原出
願明細書等に記載された事項の範囲内であるといえるためには、本願発明1
の組合せの組成物が原出願明細書等に記載されていると合理的に認識し得る
ものであることを要する旨の主張をする。
しかしながら、本件発明1の技術的意義は、HFO-1234yfを製造
25 するプロセスにおいて有用な組成物を提供することにあるところ、原出願明
細書等に「HCFC-243db、HCFO-1233xfおよび/または
HCFC-244bb(なお、原出願明細書等に「HCFC-244db」
とあるのは「HCFC-244bb」の誤記である。)を含む組成物が、H
FO-1234yfを作製するプロセスにおいて有用である。」との記載が
あることや(【0005】)、本願発明1は、実施例15で示される、HF
5 O-1234yfを製造するプロセスで用いられるHCFC-244bbを
含有する組成物のうちの一部を請求項としたものであることからすると、原
出願明細書等の記載から本願発明1の組合せの組成物を十分に認識し得る。
(被告の主張)
⑴ 本願発明1は「77.0モルパーセント以上のHFO-1234yf」と、
10 「0.2モルパーセント以下のHFC-143a」と、「追加の化合物」と
を含有する組成物という物の発明であるところ、HFO-1234yfの製
造方法や冷媒の候補としての有用性については、原出願日前から知られてい
たのであるから、本願発明1の技術的事項は、当該組成物に含まれる化合物
の組合せを導き出す技術的意義によって理解されるべきである。そして、特
15 定の割合による含有量の「HFO-1234yf」と、特定の割合による含
有量の「HFC-143a」と、「追加の化合物」とを組み合わせた組成物
をその構成とする本願発明1が、原出願明細書等に記載された事項の範囲内
であるといえるためには、その記載から、上記の組合せの組成物が原出願明
細書等に記載されていると合理的に認識できることを要し、仮に「HFO-
20 1234yf」、あるいは「HFC-143aと、追加の化合物」が原出願
明細書等に記載されているとしても、これをもって、本願発明1が原出願明
細書等に記載された事項の範囲内であるということはできない。
しかるに、原告は、原出願明細書等に、本願発明1の組成物が明示的に記
載されていないことを争わず、「HFO-1234yf」のみ、あるいは、
25 「HFC-143aと、追加の化合物」のみに着目して、分割出願の適法性
を主張するのであり、失当である。
また、原出願明細書等は、HFO-1234yf等の化合物を調製する際
に、特定の追加の化合物が少量で存在することを見出したという(【000
3】)、調製方法における発見を記載するものであるところ、「追加の化合
物」とは、前駆体に含まれる不純物、当該不純物の反応による形成物、副生
5 成物等であり、その種類や量は製造方法及びその条件により異なるのであっ
て、原出願明細書等の記載から、当業者は、それぞれの条件下における反応
により、副生成物としてどのような化合物群がどの程度生成され得るか理解
できるとしても、そうであるからといって、原出願明細書等に記載される化
合物の組合せ以外をも包含する本願発明1の組成物が、これに記載されてい
10 ると認識するものではない。
いずれにせよ、原出願明細書等の記載に接した当業者が、「77.0モル
パーセント以上のHFO-1234yf」と、「0.2モルパーセント以下
のHFC-143aと、HFC-23、HFO-1141、HFC-245
cb、HFC-254eb、HCFC-244bb及びHCFO-1233
15 xfからなる群から選択される少なくとも1つの追加の化合物」という、特
定の組合せが、具体的な技術的思想として、発明の詳細な説明に記載されて
いると合理的に認識できるとはいえず、85.0モルパーセントよりさらに
高いモルパーセントのHFO-1234yfを含有する組成物が、発明の詳
細な説明に記載されていると合理的に認識できるともいえない。
20 ⑵ア 原告は、原出願明細書等の実施例15~17によれば、当業者は、触媒
を用い、温度調整を行うことにより、HFO-1234yfへの変換効率を
より高められることを容易に認識できることや、原出願明細書等の記載によ
れば、当業者が、蒸留を用いて、生成混合物からHFO-1234yfを分
離回収することに困難はないことからすると、原出願明細書等において、生
25 成混合物に含まれるHFO-1234yfの比率が603℃で85.0モル
パーセントに達することのみならず、さらに高いモルパーセントのHFO-
1234yfを含有する組成物について開示がされている旨の主張をする。
しかしながら、原出願明細書等の実施例16(【表7】〔実施例16の表
6〕)に、「HFC-143a」及び「HCFO-1233xf」の記載は
なく、実施例17(【表8】〔実施例17の表7〕)には、さらに「HFC
5 -254eb」に関する記載もないことからすると、これらが本願発明1の
組成物に係る実施例でないことは明らかである。また、実施例15は、HC
FC-244bbを触媒なしで500℃~626℃まで加熱した際の流出物
の分析結果を示すものであり、HFO-1234yfのモルパーセントは、
603℃までは温度上昇に伴って上昇し85.0モルパーセントに達するも
10 のの、626℃では82.5モルパーセント に低下している のであって
(【表6】〔実施例15の表5〕)、これは、温度を上昇させるほどHFO
-1234yfのモルパーセントが上昇することを開示するものでも、温度
を上昇させることにより、85.0モルパーセントを大幅に超える割合でH
FO-1234yfが生成されることを開示するものでもない。原告は、実
15 施例17において、触媒を用いることにより、低温でもHCFC-244b
bからHFO-1234yfへの変換が進行することが示されている旨の主
張もするが、原出願明細書等には、触媒を用いて温度調整を行うことにより
反応生成物中のHFO-1234yfの割合を85.0モルパーセントより
高められることに関する記載はないし、触媒を用いた反応では、温度が上昇
20 するほど種々の反応が起こりやすくなり、目的の反応の選択性が低下するこ
とは当該技術分野における技術常識であるから、原出願明細書等に接した当
業者は、400℃より高温で触媒反応を進行させた場合、未知の化合物の割
合がより高くなって、HFO-1234yfの割合が85.0モルパーセン
トに達しないことを認識するといえる。
25 かかる事情に加え、① 原出願明細書等(【0011】)には、「HFC
-143a」と、「追加の化合物」として択一的に記載される「HFC-2
54eb」以外の化合物が、他の化合物と共に列挙される一方で、「HFC
-254eb」の記載はないこと、② 原出願明細書等(【0012】)は、
85.0モルパーセント超で99重量パーセント以上でないHFO-123
4yfを含有する組成物について記載するものではないこと、③ 原出願明
5 細書等(【0096】)は、温度を上昇させるほどHCFC-244bbか
らHFO-1234yfへの熱分解の選択性が上昇することを記載するもの
ではないこと、④ 原出願明細書等(【0062】)は、生成物混合物とし
て、本願発明1の「追加の化合物」である「HCFO-1233xf」と
「HFO-1234yf」を併記する一方、これに「HFC-143a」、
10 「HFC-23」、「HFO-1141」及び「HFC-254cb」の記
載はなく、上記の記載は、本願発明1の組成物に対応するものでないこと、
⑤ 原出願明細書等において、HFO-1234yfの沸点が、「HFC-
254cb」や実施例15~17に「未知の化合物」として分類される化合
物のそれと異なり、蒸留を用いてHFO-1234yfを分離回収すること
15 につき開示されていたとはいえないこと、⑥ 仮に、当業者が技術常識に基
づき蒸留を用いてHFO-1234yfを分離回収できたとしても、原出願
明細書等には、「追加の化合物」が、それぞれどのような作用効果をもたら
し、冷媒等としての機能にどのような影響を及ぼすかにつき何らの記載もな
く、これは、「追加の化合物」をHFO-1234yfに配合して組成物を
20 調製することを記載ないし示唆するものではないことを併せ考慮すると、原
出願明細書等に、本願発明1の組合せの組成物について開示があるとはいえ
ない。
イ 原告は、原出願明細書等の実施例15及び16によれば、これには、「0.
2モルパーセント以下のHFC-143a」と、「HFC-23、HFO-
25 1141、HFC-245cb、HFC-254eb、HCFC-244b
b及びHCFO-1233xfからなる群から選択される少なくとも1つの
追加の化合物」について開示がある旨の主張をする。
しかしながら、原出願明細書等に本願発明1の組成物が明示的に記載され
ていないことに加え、実施例15に「HFC-143a」に関する説明はな
く、その含有量に着目することについての記載も示唆もないことや、前記ア
5 のとおり、実施例16(【表7】〔実施例16の表6〕)に、「HFC-1
43a」及び「HCFO-1233xf」の記載はないことからすると、原
出願明細書等の記載から、「HFO-1234yf」を含有する組成物につ
いて「0.2モルパーセント以下のHFC-143a」と、「HFC-23、
HFO-1141、HFC-245cb、HFC-254eb、HCFC-
10 244bb及びHCFO-1233xfからなる群から選択される少なくと
も1つの追加の化合物」との組合せを特定することは、原出願明細書等に対
して新たな技術的事項を導入するものである。
⑶ 以上のとおり、原出願明細書等は、本願発明1の組合せの組成物を記載す
るものでも、当業者において、発明の詳細な説明が記載されていると認識で
15 きるものでもなく、本願発明1は、原出願明細書等に記載された事項の範囲
内のものであるとはいえない。本件審決の分割出願の適法性に係る判断に誤
りはなく、したがって、引用文献1を先行文献とする新規性欠如に係る判断
にも誤りはない。
2 取消事由2について
20 (原告の主張)
本願明細書と原出願明細書等の発明の詳細な説明の記載は、前記第2の2⑵
記載の点を除き同一であるところ、本願発明1が原出願明細書等の発明の詳細
な説明に記載された発明であることは、前記1の原告の主張のとおりであり、
したがって、本願発明1は本願明細書の発明の詳細な説明に記載された発明と
25 いうべきであるから、本件審決のサポート要件適合性に係る判断は誤りである。
(被告の主張)
本願明細書と原出願明細書等の発明の詳細な説明の記載は、前記第2の2⑵
記載の点を除き同一であるところ、原出願明細書等は、本願発明1の組合せの
組成物を記載するものでも、当業者において、発明の詳細な説明が記載されて
いると認識できるものでもないことは、前記1の被告の主張のとおりである。
5 したがって、本願発明1は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された発
明ではなく、本願明細書の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると
認識し得る範囲のものでも、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課
題を解決できると認識し得る範囲のものでもないことから、サポート要件に適
合しない。本件審決のサポート要件適合性に係る判断に誤りはない。
10 第4 当裁判所の判断
1 取消事由1について
⑴ 原出願明細書等(甲4)の記載は、別紙「公表特許公報」のとおりであり、
これには、HFO-1234yfと組み合わせる多種多様な化合物や、HC
FC-243dbからHFO-1234yfを製造する反応(【0009】、
15 【図1】)、HFO-1234yf等の製造に関する実施例のほか、次のよ
うな記載はあるものの、本願発明1の「77.0モルパーセント以上のHF
O-1234yfと、0.2モルパーセント以下のHFC-143aと、H
FC-23、HFO-1141、HFC-245cb、HFC-254eb、
HCFC-244bb及びHCFO-1233xfからなる群から選択され
20 る少なくとも1つの追加の化合物と、含有する組成物」について明示的な記
載はなく、「HFO-1234yf」及び「HFC-143a」をそれぞれ
一定の割合の含有量とすることや、当該組成物が「HFO-1234yf」
以外の化合物を含有することによる作用効果に関する記載もない。
ア 技術分野
25 本開示内容は、熱伝達組成物…として有用な組成物の分野に関する。
特に、本開示内容は、…HFO-1234yf…または…HCFC-2
43db…または…HCFO-1233xf…または…HCFC-24
4bb…を含む組成物等の熱伝達組成物として有用な組成物に関する
(【0001】)。
イ 背景技術
5 新たな環境規制によって、冷蔵、空調およびヒートポンプ装置に用い
る新たな組成物が必要とされてきた。低地球温暖化係数の化合物が特に
着目されている(【0002】)。
ウ 発明の概要、課題を解決するための手段
出願人は、1234yf等の新たな低地球温暖化係数の化合物を調製
10 する際に、特定の追加の化合物が少量で存在することを見出した(【0
003】)。
HCFC-243db、HCFO-1233xfおよび/またはHC
FC-244dbを含む組成物が、HFO-1234yfを作製するプ
ロセスにおいて有用である。従って、1234yfを含む組成物は、あ
15 る量のHCFC-243db、HCFO-1233xfおよび/または
HCFC-244dbを、他の化合物に加えて含有していてもよい 。
(【0005】)
エ 発明を実施するための形態
HFO-1234yfには、いくつかある用途の中で特に、冷蔵、熱
20 伝達流体…としての用途が示唆されてきた。また、HFO-1234y
fは、…低地球温暖化係数(GWP)を有することも分かっており有利
である。このように、HFO-1234yfは、高GWP飽和HFC冷
媒に替わる良い候補である。(【0010】)
HFO-1234yfを含む本明細書に開示された組成物は、低地球
25 温暖化係数(GWP)熱伝達組成物…として有用である。開示されてい
る組成物は、熱を熱源からヒートシンクへ伝えるのに用いる作業流体と
して作用し得る。かかる熱伝達組成物はまた、流体が相変化する、すな
わち、液体から気体へ、そして戻るまたは反対も同様のサイクルで冷媒
としても有用である。(【0023】)
オ 実施例15
5 実施例15は、HCFC-244bb…のHFO-1234yf…へ
の触媒なしでの変換を示すものである(【0121】)。
加熱ゾーンが約12インチの空のInconel(登録商標)管(1
/2インチOD)を、500℃~626℃の温度まで加熱し、HFC-
244bbを、0.52mL/時で、40℃に設定された気化器を通し
10 て、2.4sccm(4.0×10 -8 ㎥)のN 2 スイープを用いて供給し
た。リアクタ流出物を、オンラインGSMSで分析した。結果をモルパ
ーセントで記録してある。(【0122】【0123】【表6】〔実施
例15の表5〕)
15 ⑵ア 特許出願人が分割出願(特許法44条1項)をした場合、その出願は、
もとの特許出願の時にしたものとみなされること(同条2項本文)に照ら
すと、分割出願の明細書、特許請求の範囲及び図面に記載された事項は、
もとの特許出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲及び図面に記載され
た事項の範囲内であることを要するものと解される。
20 イ これを本件について見ると、前記⑴のとおり、原出願明細書等には、①
本願発明1の内容は、HFO-1234yf等を含有する熱伝達組成物と
して有用な組成物に関するものであること、② HFO-1234yf等
の新たな低地球温暖化係数の化合物を調製する際に、特定の追加の化合物
が少量で存在することを見出したこと、③ HCFC-243db、HC
5 FO-1233xfおよび/またはHCFC-244dbを含む組成物が、
HFO-1234yfを作製するプロセスにおいて有用である こと、④
HFO-1234yfは、低地球温暖化係数を有し熱伝達組成物として有
利であり、HFO-1234yfを含む原出願明細書等に開示された組成
物は、熱伝達組成物として有用であることなどが記載され、HFO-12
10 34yfと組み合わせる多種多様な化合物が列挙されているものの、本願
発明1の組成物について明示的な記載はないし、「HFO-1234yf」
及び「HFC-143a」をそれぞれ一定の割合の含有量とすることや、
当該組成物が「HFO-1234yf」以外の化合物を含有することの技
術的意義に関する記載も示唆もない。
15 そうすると、原出願明細書等の記載により導かれる技術的事項は、HF
O-1234yf等の低地球温暖化係数を有する熱伝達組成物として有用
な化合物を調製する際に、特定の追加の化合物が存在し得るという点にと
どまるものと解するほかなく、したがって、原出願明細書等に記載された
組合せと異なる組成物を特定することは、新たな技術的事項を導入するも
20 のといわざるを得ない。
ウ 原告は、原出願明細書等の実施例15~17によれば、これには、本願
発明1の組合せの組成物について開示がある旨の主張をする。
しかしながら、原出願明細書等の実施例15(【表6】〔実施例15の
表5〕)は、「77.0モルパーセントのHFO-1234yf」、「8
25 5.0モルパーセントのHFO-1234yf」あるいは「82.5モル
パーセントのHFO-1234yf」と、「0.2モルパーセント以下の
HFC-143a」と、「追加の化合物」とを含有する組成物について開
示するにとどまり、本願発明1の組合せの組成物のうち、少なくとも「8
5.0モルパーセントを超えるHFO-1234yf」と、「0.2モル
パーセント以下のHFC-143a」と、「追加の化合物」とを含有する
5 組成物を開示するものではない。また、実施例16(【表7】〔実施例1
6の表6〕)及び実施例17(【表8】〔実施例17の表7〕)も、これ
らは「0.2モルパーセント以下のHFC-143a」を含有する組成物
について開示するものではない。
原告は、当業者が、触媒を用い、温度調整を行うことにより、HFO-
10 1234yfへの変換効率をより高められることを容易に認識できること
や、蒸留を用いて、生成物混合物からHFO-1234yfを分離回収す
ることに困難はないことからすると、原出願明細書等には、85.0モル
パーセントより高いモルパーセントのHFO-1234yfを含有する組
成物について開示がされている旨の主張もするが、原出願明細書等に、実
15 施例15~17において「未知」とされる化合物の沸点の記載はなく、蒸
留を用いてHFO-1234yfを分離回収することについて開示がある
とはいえないし、仮に、当業者において、その分離回収が可能であったと
しても、これまで説示したところによれば、原出願明細書等に、本願発明
1の組成物について開示があるということはできない。
20 エ 以上によれば、本願発明1は、原出願明細書等に記載した事項の範囲内
のものとはいえず、本願は、原出願に基づき適法に分割出願されたものと
もいえない。そして、証拠(甲4)及び弁論の全趣旨によれば、本願発明
1は、本願の出願日より前に公開された引用文献1に記載された発明1~
3であると認められるのであって、本件審決における本願発明1の新規性
25 欠如及びその前提となる分割出願の適法性に係る各判断にいずれも誤りは
ない。
2 サポート要件適合性について
⑴ 特許請求の範囲の記載が、特許法36条6項1号に規定するサポート要件
に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを
対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載され
5 た発明であり、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解
決できると認識し得る範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がな
くとも、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると
認識し得る範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
⑵ これを本件について見ると、本願明細書と原出願明細書等の発明の詳細な
10 説明の記載は前記第2の2⑵記載の点を除き同一であるところ、原出願明細
書等が、本願発明1の組合せの組成物を記載するものでも、当業者において、
発明の詳細な説明が記載されていると認識できるものでもないことは、前記
のとおりであるから、本願発明1は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載
された発明ではなく、本願明細書の記載により当業者が当該発明の課題を解
15 決できると認識し得る範囲のものでも、当業者が出願時の技術常識に照らし
当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものでもないというべきで
あり、サポート要件に適合しない。
⑶ したがって、本件審決における本願発明1のサポート要件適合性に係る判
断にも誤りはない。
20 3 結論
以上によれば、原告の主張する審決取消事由はいずれも認められず、原告の
請求は理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
森 冨 義 明
裁判官
菊 池 絵 理
裁判官
頼 晋 一
(別表)
コード 構造 化学名 本願発明1の組成
HFO-1234yf CF3CF=CH2 2,3,3,3-テトラフルオロプロペン 77.0モル%以上
HFC-143a CF3CH3 1,1,1-トリフルオロエタン 0.2モル%以下
HFC-23 CHF3 トリフルオロメタン
HFO-1141 CHF=CH2 フルオロエテン
HFC-245cb CF3CF2CH3 1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン
少なくとも1つを含有
HFC-254eb C3H4F4 1,1,1,2-テトラフルオロプロパン
HCFC-244bb CF3CFClCH3 2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパン
HCFO-1233xf CF3CCl=CH2 2-クロロ-1,1,1-トリフルオロプロペン
(別紙)「公表特許公報」
省略
(別紙)
本件審決の理由(抜粋)
第4 分割の適法性について
5 前記第3(注:原査定の拒絶の理由)1は、本願が前記原出願に基づき適法に分割出願
されたものではないことを前提とするものである。
本件分割出願が前記原出願に基づき適法に分割出願されたといえるためには、少なくと
も「分割出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項が、原出願の出願当初
の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内である」必要がある。
10 はじめに、本願発明1が、原出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載
された事項の範囲内のものであるか否かという点について検討する。
1 原出願の出願当初の特許請求の範囲、明細書及び図面の記載
原出願の出願当初の特許請求の範囲、明細書及び図面(以下、「原出願明細書等」と
いう。)には、以下の記載がなされている。
15 (略)
2 原出願明細書等の記載についての検討
(1)原出願明細書等には、「77.0モルパーセント以上のHFO-1234yfと、
0.2モルパーセント以下のHFC-143aと、
HFC-23、HFO-1141、HFC-245cb、HFC-254eb、HC
20 FC-244bb及びHCFO-1233xfからなる群から選択される少なくとも1つ
の追加の化合物と、
含有する組成物。」との記載はない。
(2)「HFC-254eb」は、原出願明細書等の【表6】(表5)及び【表7】(表
6)にのみ記載されるものであること、並びに、「HFC-143aが0.2モルパーセ
25 ント」であることは【表6】(表5)のみに記載されるものであることから、はじめに、
【表6】(表5)と関連する実施例15(【0121】~【0123】)について検討す
る。
実施例15は、前記1のとおり、HCFC-244bbのHFO-1234yfへの触
媒なしでの変換を示すものであり、加熱ゾーンが約12インチの空のInconel(登
5 録商標)管(1/2インチOD)を、500℃~626℃の温度まで加熱し、HFC-2
44bbを、0.52mL/時で、40℃に設定された気化器を通して、2.4sccm
(4.0×10-8m3)のN2 スイープを用いて供給した後、リアクタ流出物を、オンライン
GSMSで分析した結果を【表6】(表5)にモルパーセントで記録したものである。
当該記載から明らかなように、【表6】(表5)はそれぞれの温度における(なお反応
10 時間は不明である。)リアクタ反応物のオンラインGSMSでの分析結果を示すものであ
る。当該表及び上記記載から、当該記載に接した当業者は、実施例15の原料であるHC
FC-244bbは高温条件での反応ほどリアクタ反応物中の割合が低くなること、及び、
目的化合物であるHFO-1234yfのリアクタ反応物中の割合は、603℃までは温
度上昇に伴い上昇して85.0モルパーセントまで達するものの、626℃では82.5
15 モルパーセントまでリアクタ反応物中の割合が低下していることを理解できる。
しかしながら、【表6】(表5)は、HCFC-244bbやHFO-1234yfと、
HFC-23、HFC-143a、HFO-1141、HFC-245cb、HFC-2
54eb、HCFC-244bb及びHCFO-1233xfを並列に記載するものであ
って、「HFC-143a」と「HFC-23、HFO-1141、HFC-245cb、
20 HFC-254eb、HCFC-244bb及びHCFO-1233xf」を区別して記
載するものではない。実施例15には、HCFC-244bbとHFO-1234yfに
ついての言及はあるものの、「HFC-143a」について説明はなされておらず、「H
FC-143a」の割合に着目することについての記載も示唆もなされていない。
以上のとおりであるから、実施例15の記載のみから、本願発明1を把握することはで
25 きない。
(3)そこでさらに、実施例15の記載に加え、他の原出願明細書等の記載から、本願発
明1が、原出願明細書等に記載された事項の範囲内のものであるといえるかについて検討
する。
ア 【背景技術】欄の「新たな環境規制によって、冷蔵、空調及びヒートポンプ装置に
5 用いる新たな組成物が必要とされ、特に、低地球温暖化係数の化合物が着目されている」
との記載(【0002】)、「HFO-1234yfには、・・・冷蔵、熱伝達流体、エ
アロゾル噴霧剤、発泡膨張剤としての用途が示唆されてきた。」及び「低地球温暖化係数
(GWP)を有することも分かっており有利である。このように、HFO-1234yf
は、高GWP飽和HFC冷媒に替わる良い候補である。」(いずれも【0010】)との
10 記載から、HFO-1234yfをHFC冷媒に代替する低地球温暖化係数の冷媒の用途
に用いることが、従来技術として既に示唆されていたことが理解される。
(なお、【背景技術】欄に記載はないものの、HCFO-1233xfやHCFC-24
4bbから脱塩化水素反応によりHFO-1234yfを製造する等の1234yfの調
製方法は、当業者に知られていたものであると認められる(要すれば、国際公開第200
15 7/079431号公報の実施例5A~7等参照)。)
イ 【0003】に「HFO-1234yf等の新たな低地球温暖化係数の化合物を調
製する際に、特定の追加の化合物が少量で存在することを見出した」と記載され、【00
09】において「【図1】 HFO-1234yfを243dbから製造する反応を示す
概略図である。」と説明される【図1】には、243db→1233xf→244bb→
20 1234yfとの反応工程が記載されている。
【0029】には、243db、1233xf及び244bbは特殊化学メーカーより
入手可能であり、また、公知文献に記載されたとおり調製することができることが記載さ
れており、【0013】【0016】【0019】【0022】【0029】及び【00
30】には、「追加の化合物」について、特定の前駆体化合物は、組成物において追加の
25 化合物として現れる不純物を含有し、また追加の化合物は前駆体の不純物の反応により形
成され、また、副生成物として形成されることが記載されている。さらに、【0029】
には「各開示された組成物に存在する追加の化合物は、製造方法に応じて異なる。」こと
が、【0030】には「これらの追加の化合物の量および識別は、243db、1233
xfまたは244bbが生成される特定の条件に応じて異なる。」ことが記載されている。
実際、原出願明細書には実施例1~17として各製造工程に関する記載がなされている
5 ところ、244bbから1234yfへの触媒なしでの変換について記載する実施例15
と16は、同定された化合物の種類として、出発材料である244bb、生成物である1
234yfに加え、【0120】において244bbへの変換で他の成分として確認され
た245cbと1233xfを含むという点で共通するものの、実施例15の574℃で
の反応後にGCMSで確認された組成と、実施例16の575℃での反応後にGCMSで
10 確認された組成とは、化合物の種類もそれぞれのモルパーセント比も異なるものである。
さらに、244bbから1234yfへの活性カーボン触媒の存在下での脱塩化水素化を
示す実施例17で確認された組成は、出発材料である244bb、生成物である1234
yfに加え、【0120】において244bbへの変換で他の成分として確認された24
5cbと1233xfを含むという点で実施例15及び16と共通するものの、実施例1
15 5や実施例16の組成とは、それ以外の化合物の種類もモルパーセント比も異なるもので
ある。
このように、原出願明細書等は、HFO-1234yfを調製する際に、特定の追加の
化合物が少量で存在することを見出したといういわば調製方法における発見を記載するも
のであり、「追加の化合物」とは、図1の244bb→1234yf反応において、前駆
20 体に含まれる不純物、当該不純物の反応により形成されたもの、及び、前記反応の副生成
物等であり、その種類及び量は、製造方法及びその条件によって異なるものである。
ウ 請求項1、【0004】及び【0011】の「本開示内容は、HFO-1234y
fと、・・・からなる群から選択される少なくとも1つの追加の化合物とを含む組成物を
提供する。」等の記載について、追加の化合物とは、前記イのとおり、前駆体に含まれる
25 不純物、当該不純物の反応により形成されたもの、及び、前記反応の副生成物等であるこ
とをふまえると、原出願明細書等は、請求項1、【0004】及び【0011】等に「少
なくとも1つの追加の化合物」として列挙される化合物を1234yfに配合して組成物
を調製することを記載ないし示唆するものではない。そもそも、請求項1、【0004】
及び【0011】等は、追加の化合物としてHFC-254ebを含むものでもない。
また、【0062】には特定の化合物に言及して「分離プロセス、例えば、蒸留を用い
5 て、かかる生成物混合物から生成物化合物を回収することができる」との記載があるもの
の、HFO-1234yfと実施例15等において確認されたHFC-254eb等の
個々の追加の化合物をどのような条件で分離するか等について何ら具体的に記載するもの
ではなく、そのような分離条件が技術常識から明らかということもできない。
エ 加えて、前記アのとおり、HFO-1234yfそれ自体は低地球温暖化係数で有
10 用なHFC冷媒の代替候補であることが技術常識であったとしても、原出願明細書等は、
実施例で調製された組成物が低地球温暖化係数で有用なHFC冷媒の代替候補であるとい
う点に留まらず、作動媒体としてのサイクル性能等種々の観点から冷媒等として用い得る
ものであることについて具体的に記載するものではなく、実施例15等で確認される追加
の化合物の各々がどのような作用効果や冷媒等としての機能に影響をもたらすか等という
15 点について何ら記載するものでもない。
オ 検討
(ア)前記ア~エから、原出願明細書等は、243db→1233xf→244bb→1
234yfとの1234yfの製造工程を記載すると共に、特定の条件下におけるそれら
の工程において、追加の化合物としてどのような化合物がどの程度現れるかを開示するも
20 のであり、個々の追加の化合物が組成物に及ぼす影響や特性を何ら開示するものではない。
(イ)本願発明1は、前記第2のとおり、HFO-1234yfそれ自体ではなく、「0.
2モルパーセント以下のHFC-143a」と「HFC-23、HFO-1141、HF
C-245cb、HFC-254eb、HCFC-244bb及びHCFO-1233x
fからなる群から選択される少なくとも1つの追加の化合物」を含む組成物に係る発明で
25 ある。すなわち、本願発明1は、たとえば、77.0モルパーセント以上の1234yf
と、0.2モルパーセント以下のHFC-143aと、HFC-23を含むが、HFO-
1141、HFC-245cb、HFC-254eb、HCFC-244bb及びHCF
O-1233xfのいずれも含まない組成物の態様をも包含するものである。
(ウ)原出願明細書等は、本願発明1に関連して、実施例15~17に記載のHFO-1
234yfを製造する具体的な製造方法において、条件毎にどのような追加の化合物がど
5 の程度ずつ含まれるかその組成(プロファイル)をGCMSにより確認したことを開示す
るものである。たとえば、【表6】(表5)の実施例15に記載の方法で574℃に加熱
した条件では(なお、本実施例では加熱時間が不明である。)、23が2.7モルパーセ
ント、1141が1.1モルパーセント、143aが0.1モルパーセント、245cb
が0.0モルパーセント、1234yfが77.0モルパーセント、254ebが1.9
10 モルパーセント、244bbが13.0モルパーセント、1233xfが1.4モルパー
セントに加え、未知の化合物が2.8モルパーセント(なお、未知の化合物の分子量は不
明なため、どのようにモルパーセントを算出したか不明である。)である組成(プロファ
イル)であったことを開示するものである。
(エ)前記(3)イのとおり、「追加の化合物」とは、前駆体に含まれる不純物、当該不
15 純物の反応により形成されたもの、及び、前記反応の副生成物等であり、前記(3)ウの
とおり、原出願明細書等は、「追加の化合物」を1234yfに配合して組成物を調製す
ることを記載ないし示唆するものではない。また、前記(3)ウのとおり、原出願明細書
等は、HFO-1234yfと実施例15等において確認されたHFC-254eb等の
個々の追加の化合物をどのような条件で分離するか等について何ら具体的に記載するもの
20 ではなく、加えて、そのような分離条件が技術常識から明らかということもできない。
そして、請求項1、【0004】及び【0011】の記載から、本願発明1の少なくと
もHFC-143aやHFC-23等は「追加の化合物」であると認められるところ、原
出願明細書等は、77.0モルパーセント以上のHFO-1234yfと、「0.2モル
パーセント以下のHFC-143a」と「HFC-23、HFO-1141、HFC-2
25 45cb、HFC-254eb、HCFC-244bb及びHCFO-1233xfから
なる群から選択される少なくとも1つ」を配合して調製することを開示するものではなく、
また、実施例15に開示される組成(プロファイル)の中で、特定の化合物のみを分離し
たり濃度を上昇または低下させたりすることを開示するものでもない。そして、追加の化
合物について、「HFC-143a」と「HFC-23」等の化合物とを区別することを
開示または示唆するものでもない。
5 (オ)そうしてみると、原出願明細書等は、前記(ウ)の特定の組成(プロファイル)の
組成物を開示するとしても、【表6】(表5)の記載をもって、前記(イ)に例として挙
げられる77.0モルパーセント以上の1234yfと、0.2モルパーセント以下のH
FC-143aと、HFC-23を含むが、HFO-1141、HFC-245cb、H
FC-254eb、HCFC-244bb及びHCFO-1233xfのいずれも含まな
10 い組成物といった多様な組成物を開示するものとはいえず、原出願明細書等は、このよう
な多様な組成物の技術的な意義について記載するものでもない。
(カ)加えて、本願発明1において77.0モルパーセント以上含まれることが特定され
るHFO-1234yfについても、実施例15の【表6】(表5)には603℃までは
温度上昇に伴いその比率が高まり603℃で85.0モルパーセントに達することが記載
15 されているものの、626℃で82.5モルパーセントまで低下することが開示されてお
り、温度を上昇させる程1234yfのモルパーセントが上昇することを開示するもので
はなく、どのような条件で反応を行えば、1234yfが100モルパーセントに近くな
るかという点についての具体的な記載もなされていない。そもそも、実施例16に加え、
触媒存在下における実施例15と同じ反応様式を示す実施例17では、1234yfが7
20 7.0モルパーセント以上となる組成(プロファイル)は記載されていない。
(キ)そうすると、原出願明細書等の記載に接した当業者は、本願発明1に列挙される化
合物の中で、HFO-1234yfが低地球温暖化係数で有用なHFC冷媒の代替候補で
あること、及び、244bbが1234yfの製造工程における原料となるとの技術的意
義は理解できるものの、追加の化合物の中でも特にHFC-143aのみに着目して、そ
25 の他の追加の化合物と区別して0.2モルパーセント以下とすること及びその技術的意義
や、実施例15に記載される組成(プロファイル)の中で、「HFC-23、HFO-1
141、HFC-245cb、HFC-254eb、HCFC-244bb及びHCFO
-1233xf」のうち1つの化合物が一定濃度以上のHFO-1234yfと一定濃度
以下のHFC-143aに加えて含まれること及びその技術的意義が、原出願明細書等に
開示されていたと理解するとはいえない。
5 加えて、上記(カ)のとおり、「0.2モルパーセント以下のHFC-143a」と
「HFC-23、HFO-1141、HFC-245cb、HFC-254eb、HCF
C-244bb及びHCFO-1233xfからなる群から選択される少なくとも1つの
追加の化合物」を含んだ上で、100モルパーセントに近い態様をも包含する「77.0
モルパーセント以上のHFO-1234yf」を含む組成物が原出願明細書等に開示され
10 ていたと理解することもできない。
カ 小括
以上のとおり、本願発明1は、原出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面に
記載された事項の範囲内のものとはいえないから、本願は原出願に基づき適法に分割出願
されたものとはいえない。
第5 理由1(新規性)について
前記第4のとおり、本願は原出願に基づき適法に分割出願されたものとはいえないから、
本願の出願日は早くとも分割出願1の出願日である2015年2月17日以降であるとこ
ろ、2015年2月17日より前の2011年7月14日に公開された原出願の公表公報
20 である特表2011-520017号公報(以下、「引用文献1」という。)には、前記
の第4 1のとおりの記載がなされている。
1 引用文献1に記載された発明
引用文献1の前記第5 1(6)の実施例15には、以下の発明が記載されている。
(1)「HFC-23が2.7モルパーセント、HFO-1141が1.1モルパーセン
25 ト、HFC-143aが0.1モルパーセント、HFC-245cbが0.0モルパーセ
ント、HFO-1234yfが77.0モルパーセント、HFC-254ebが1.9モ
ルパーセント、HCFC-244bbが13.0モルパーセント、HCFO-1233x
fが1.4モルパーセントに加え、未知の化合物が2.8モルパーセントである組成物」
(以下、「引用発明1」という。)
(2)「HFC-23が6.8モルパーセント、HFO-1141が2.4モルパーセン
5 ト、HFC-143aが0.2モルパーセント、HFC-245cbが0.0モルパーセ
ント、HFO-1234yfが85.0モルパーセント、HFC-254ebが1.4モ
ルパーセント、HCFC-244bbが1.3モルパーセント、HCFO-1233xf
が0.7モルパーセントに加え、未知の化合物が2.2モルパーセントである組成物」
(以下、「引用発明2」という。)、及び、
10 (3)「HFC-23が6.9モルパーセント、HFO-1141が2.0モルパーセン
ト、HFC-143aが0.2モルパーセント、HFC-245cbが0.0モルパーセ
ント、HFO-1234yfが82.5モルパーセント、HFC-254ebが0.7モ
ルパーセント、HCFC-244bbが0.2モルパーセント、HCFO-1233xf
が1.4モルパーセントに加え、未知の化合物が5.9モルパーセントである組成物」
15 (以下、「引用発明3」という。)
2 対比・判断
(1) 本願発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「HFO-1234yfが77.0モルパーセント」及び「HFC-14
3aが0.1モルパーセント」は、本願発明1の「77.0モルパーセント以上のHFO
20 -1234yf」及び「0.2モルパーセント以下のHFC-143a」に相当する。ま
た、引用発明1の「HFC-23が2.7モルパーセント、HFO-1141が1.1モ
ルパーセント」、「HFC-245cbが0.0モルパーセント」、「HFC-254e
bが1.9モルパーセント、HCFC-244bbが13.0モルパーセント、HCFO
-1233xfが1.4モルパーセントに加え、未知の化合物が2.8モルパーセントで
25 ある」は、本願発明1の「HFC-23、HFO-1141、HFC-245cb、HF
C-254eb、HCFC-244bb及びHCFO-1233xfからなる群から選択
される少なくとも1つの追加の化合物と、含有する」に相当する。
したがって、両者に発明特定事項の差異はなく、本願発明1は引用発明1である。
(2) 本願発明1と引用発明2を対比する。
5 引用発明1の「HFO-1234yfが85.0モルパーセント」及び「HFC-14
3aが0.2モルパーセント」は、本願発明1の「77.0モルパーセント以上のHFO
-1234yf」及び「0.2モルパーセント以下のHFC-143a」に相当する。ま
た、引用発明1の「HFC-23が6.8モルパーセント、HFO-1141が2.4モ
ルパーセント」、「HFC-245cbが0.0モルパーセント」、「HFC-254e
10 bが1.4モルパーセント、HCFC-244bbが1.3モルパーセント、HCFO-
1233xfが0.7モルパーセントに加え、未知の化合物が2.2モルパーセントであ
る」は、本願発明1の「HFC-23、HFO-1141、HFC-245cb、HFC
-254eb、HCFC-244bb及びHCFO-1233xfからなる群から選択さ
れる少なくとも1つの追加の化合物と、含有する」に相当する。
15 したがって、両者に発明特定事項の差異はなく、本願発明1は引用発明2である。
(3) 本願発明1と引用発明3とを対比する。
引用発明3の「HFO-1234yfが82.5モルパーセント」及び「HFC-14
3aが0.2モルパーセント」は、本願発明1の「77.0モルパーセント以上のHFO
-1234yf」及び「0.2モルパーセント以下のHFC-143a」に相当する。ま
20 た、引用発明1の「HFC-23が6.9モルパーセント、HFO-1141が2.0モ
ルパーセント」、「HFC-245cbが0.0モルパーセント」、「HFC-254e
bが0.7モルパーセント、HCFC-244bbが0.2モルパーセント、HCFO-
1233xfが1.4モルパーセントに加え、未知の化合物が5.9モルパーセントであ
る」は、本願発明1の「HFC-23、HFO-1141、HFC-245cb、HFC
25 -254eb、HCFC-244bb及びHCFO-1233xfからなる群から選択さ
れる少なくとも1つの追加の化合物と、含有する」に相当する。
したがって、両者に発明特定事項の差異はなく、本願発明1は引用発明3である。
(4)請求人の主張について
ア 請求人は、本願明細書は技術的に意義のある製造方法を開示しており、当該製造工
程を採用した場合には【表6】(表5)で示されるような組成物が得られるという技術的
5 に価値のある情報を提供するものであり、触媒を使用せずとも所定の条件下で574~6
26℃という温度を利用することによって、所定の組成物(中間生成物)が得られること
を開示するものであると主張する。
本願明細書には従来技術としての記載がないものの、HCFO-1233xfやHCF
C-244bbから脱塩化水素反応によりHFO-1234yfを製造する等の1234
10 yfの調製方法は、当業者に知られていたものと認められる(要すれば、国際公開第20
07/079431号公報の実施例5A~7等参照)。
本願明細書は、請求人が主張するとおり、所定の条件下でHCFC-244bbから脱
塩化水素反応によりHFO-1234yfを製造する際に、どのような組成(プロファイ
ル)のガスが生成されるかを【表6】(表5)として開示するものであるところ、上記技
15 術常識を踏まえれば、本願明細書は、実施例15に記載される特定の条件下での製造方法
において、時間や温度等のさらなる条件毎にどのような組成(プロファイル)のガスが生
成するかという技術情報を開示するものと認められる。
しかしながら、本願発明1は、上記のとおり本願明細書の【表6】(表5)に記載され
る組成(プロファイル)以外の非常に多様な組成を有する組成物に係る発明であるから、
20 本願発明1が請求人のいう技術的に価値のある情報を提供するものとはいえない。加えて、
本願明細書は、実施例15に記載される特定の条件下での製造方法で、どのような追加の
化合物が生成し得るかという化学情報を提供するものであるとしても、前記のとおり非常
に多様な組成である組成物(物)についての技術的意義を何ら提供するものではない。
請求人自らが「所定の組成物(中間生成物)」と表現するように、本願明細書には、各
25 種化合物を配合して本願発明1の組成物を提供することは記載されておらず、また、所定
の組成物が種々の追加の化合物を含んでいることにより、組成物という物の発明として、
どのような技術的意義を有するかについて記載も示唆もされていないことも、前記第4
2で検討したとおりである。
したがって、上記請求人の主張をもって、本願発明1が新規性を有するとはいえない。
イ 請求人は、【0012】には「一実施形態において、HFO-1234yfを含む
5 組成物中の追加の化合物の合計量は、ゼロ重量パーセントを超え、1重量パーセント未満
までの範囲である。」ことも記載されており、HFO-1234yfを生成する実施例1
5に関する【表6】(表5)の開示を根拠に、本件発明1の範囲をクレームアップするこ
とによって第三者が不測の損害を受けることはなく、本願は分割要件を満たしている旨主
張する。
10 しかしながら、【0012】はHFC-254ebを記載するものでも、HFC-14
3aが0.2モルパーセント以下であることを記載するものでもない。そもそも本願発明
1は、HFC-23、HFO-1141、HFC-245cb、HFC-254eb、H
CFC-244bb及びHCFO-1233xfの含有量を特定するものでもないから、
【表6】(表5)に加え【0012】の記載をもって、本願発明1が原出願明細書等に記
15 載された事項の範囲内のものということはできない。
ウ 請求人は、さらに、分割出願の要件に違反した場合に遡及効が認められない趣旨は、
原出願に開示されていない技術的事項を導入し、その結果として第三者に不測の損害が及
ぶためであり、第三者に不測の損害が及ばない態様であれば分割出願による遡及効は認め
ても問題のないこと、及び、引用文献1を根拠に本願の新規性及び進歩性を否定すること
20 は、引用文献1の明細書の開示が本願明細書と同様であることから、本願明細書には具体
的な技術的思想として、請求項1に記載の発明に対応する構成が開示されていることにな
るから、第三者が不測の損害を受けることはなく、本願は分割要件を満たしている旨主張
する。
しかしながら、前記1のとおり、本審決は引用文献1の【表6】(表5)に記載される
25 具体的な組成(プロファイル)の組成物を引用発明として認定するものであって、「77.
0モルパーセント以上のHFO-1234yf」と、「0.2モルパーセント以下のHF
C-143aと」、「HFC-23、HFO-1141、HFC-245cb、HFC-
254eb、HCFC-244bb及びHCFO-1233xfからなる群から選択され
る少なくとも1つの追加の化合物」とを含有する組成物なる技術思想を認定するものでな
い。むしろ、請求人が主張するように、原出願明細書等に何ら区別なく記載されている、
5 たとえば、【0004】や【0011】の記載から60万以上となり得る組み合わせ等の
開示に基づき(なお、【0004】や【0011】には、HFC-254ebは記載され
ていない。)、「0.2モルパーセント以下のHFC-143aと」、「HFC-23、
HFO-1141、HFC-245cb、HFC-254eb、HCFC-244bb及
びHCFO-1233xfからなる群から選択される少なくとも1つの追加の化合物」と
10 いう特定の組み合わせを含む組成物に係る発明についての分割出願が、原出願の出願日か
ら10年以上経過後に出願されて適法となれば、原出願明細書等の記載からそのような発
明を技術思想として認識しえない第三者に不測の損害が及ぶ可能性があるといえる。
したがって、上記請求人の主張も採用できない。
(5) 小括
15 以上のとおりであるから、本願発明1は、引用文献1に記載された発明である。
第6 理由3(サポート要件)について
1 前提
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆる「サ
20 ポート要件」)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載と
を対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、
発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できるもので
あるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発
明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきもので
25 ある。
2 検討
前記1の前提をふまえ、はじめに、本願発明1が発明の詳細な説明に記載された発明で
あるかという点について、以下、検討する。
本願明細書と原出願明細書の発明の詳細な説明の記載は、本願明細書には【0003】
の前に【解決しようとする課題】と記載されるのに対し、原出願の明細書には【0003】
5 の前に【課題を解決するための手段】と記載されているという点でのみ相違するものであ
る。
そうすると、前記第4 2で検討した理由と同様の理由から、本願発明1は発明の詳細
な説明に記載された発明とはいえないところ、特に「1234yfが77.0モルパーセ
ント以上」との態様である本願発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明ではないこ
10 とは、前記第4 2及び前記第3 2(1)のとおりである。
以上のとおりであるから、本願発明1が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明
の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できるものである
か否か(注:これは「認識できるものであるとはいえず」の誤記と認める。)、また、そ
の記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる
15 と認識できる範囲のものとはいえない。
3 請求人の主張について
(1)請求人は以下のとおり主張する。
ア サポート要件を充足するには、明細書に接した当業者が、特許請求された発明が明
細書に記載されていると合理的に認識できれば足り、また、課題の解決についても、当業
20 者において、技術常識も踏まえて課題が解決できるであろうとの合理的な期待が得られる
程度の記載があれば足りる。
本願発明1の課題は、低地球温暖化係数(GWP)を有する1234yfを含有し、熱
伝達組成物、エアロゾル噴霧剤、発泡剤、ブロー剤、溶媒、クリーニング剤、キャリア流
体、置換乾燥剤、バフ研磨剤、重合媒体、ポリオレフィンおよびポリウレタンの膨張剤、
25 ガス状誘電体、消火剤および液体またはガス状形態にある消火剤として有用な組成物を提
供することであり、この課題を本願発明1によれば解決できることは、本件発明1の技術
的意義からして容易に理解でき、少なくとも、本願明細書に接した当業者であれば、技術
常識も踏まえて課題が解決できるであろうと解釈できることは合理的に期待されるもので
ある。
本願明細書[表6](表5)の開示によれば、少なくとも574℃、603℃及び62
5 6℃の3つの実施例において、本件発明1に対応する発明が具体的な技術的思想(発明)
として導ける。
引用文献1を根拠として本件発明1の新規性欠如で拒絶査定をしているにも関わらず、
サポート要件に違反するという判断は誤っている。
イ [表6](表5)は図1の最終工程に相当する実施例であり着目すべき理由がある
10 し、また当該[表6](表5)では温度調整をした結果として連続性をもって組成物が得
られることが示されており、各々の組成物が何ら意味もなく羅列されているものではなく、
本願明細書[表6](表5)はHCFC-244bbの脱塩化水素化を用いたHFO-1
234yf作製方法のうち、触媒なしの特定の条件で得られた組成物という開示の中で示
されているものであり、HFO-1234yfを作成する際に、温度を調整することで、
15 85.0モルパーセント以上のHFO-1234yfを含有する組成物を得られると当業
者であれば理解する。
(2)請求人の主張についての検討
ア 上記(1)アの主張について
サポート要件を充足するには、明細書に接した当業者が、特許請求された発明が明細書
20 に記載されていると合理的に認識できれば足りることは、請求人の主張するとおりである。
新規性に関する判断において認定された引用発明は引用文献1の実施例15に具体的に
記載される組成(プロファイル)を有する組成物である。これに対し、本願の請求項1に
係る発明は、574℃、603℃及び626℃の3つの実施例の組成(プロファイル)の
組成物に対応するものではなく、「HFC-143a」が「0.2モルパーセント以下」
25 含まれ、かつ、「HFC-23、HFO-1141、HFC-245cb、HFC-25
4eb、HCFC-244bb及びHCFO-1233xfからなる群から選択される少
なくとも1つ」が含まれる、すなわち、「HFC-23、HFO-1141、HFC-2
45cb、HFC-254eb、HCFC-244bb及びHCFO-1233xf」の
うち1つのみが含まれる組成物なるものであり、このような組成物に係る発明が、発明の
詳細な説明に具体的な技術的思想(発明)として開示されていたと合理的に認識できない
5 ことは、前記第4 2及び前記第5においても検討したとおりである。
また、請求人は「本願発明1の課題は、・・・1234yfを含有し、熱伝達組成
物・・・として有用な組成物を提供すること」と主張する一方、前記第5 2(4)のと
おり、表6(表5)について「所定の組成物(中間生成物)が得られることを開示するも
のである」と主張している。
10 これらの主張からは、請求人が、本願発明1の組成物そのものを熱伝達組成物として使
用すること、または、本願発明1の組成物は1234yfを得るための中間生成物として
使用することのいずれを主張するものか判然としない。前記第4 2(3)のとおり、本
願明細書の発明の詳細な説明には、実施例15に具体的に記載される組成(プロファイル)
を有する組成物についてすら、熱伝達組成物として使用することは開示されておらず、ま
15 た、実施例15に具体的に記載される組成(プロファイル)を有する組成物から1234
yfのみ含み、他の追加の化合物を一切含まないように精製することについて開示されて
いない。
そもそも前記のとおり、本願発明1は、発明の詳細な説明に具体的な技術的思想(発明)
として開示されていたといえない以上、本願はサポート要件を満たすということはできな
20 い。
イ 上記(1)イの主張について
前記第4 2(3)において検討したとおり、実施例15の【表6】(表5)には60
3℃までは温度上昇に伴いその比率が高まり603℃で85.0モルパーセントに達する
ことが記載されているものの、626℃で82.5モルパーセントまで低下することが開
25 示され、温度を上昇させる程1234yfのモルパーセントが上昇することを開示するも
のではない。また、実施例16に加え、触媒存在下における実施例15と同じ反応様式を
示す実施例17では、1234yfが77.0モルパーセント以上となる組成(プロファ
イル)は記載されていない。
本願明細書の発明の詳細な説明には、どのような温度条件等とすれば、244bbから
の反応生成物中の1234yfのモルパーセントが、85.0モルパーセントを超え、か
5 つ、「0.2モルパーセント以下のHFC-143aと」、「HFC-23、HFO-1
141、HFC-245cb、HFC-254eb、HCFC-244bb及びHCFO
-1233xfからなる群から選択される少なくとも1つの追加の化合物」を含有する組
成物を製造できるかということについて記載されておらず、「HFO-1234yfを作
成する際に、温度を調整することで、85.0モルパーセント以上のHFO-1234y
10 fを含有する組成物を得られると当業者であれば理解する」との請求人の上記主張は採用
できない。
4 小括
したがって、この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定
する要件を満たしていない。
第7 むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29
条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
また、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件
20 を満たしていない。
したがって、本願は拒絶されるべきものである。
以 上
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