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令和7(ワ)2859特許権侵害差止等請求事件

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裁判所 請求棄却 大阪地方裁判所
裁判年月日 令和8年5月14日
事件種別 民事
当事者 原告株式会社オーラルファッション
被告株式会社SHIMADA
法令 特許権
特許法102条2項1回
特許法100条1項1回
キーワード 進歩性13回
侵害11回
無効8回
特許権6回
差止2回
実施2回
訂正審判1回
損害賠償1回
審決1回
分割1回
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 本判決で用いる呼称(略語) (1) 本件特許(権) :特許第7002839号に係る特許(権) (2) 本件明細書:本件特許権に係る明細書及び図面。本件明細書の内容は、別紙 特許公報記載のとおり。なお、本件明細書中の段落は【 (4桁の数字) 】として 示す。 (3) 本件発明1:本件特許の特許請求の範囲請求項1の発明 (4) 本件発明4:本件特許の特許請求の範囲請求項4の発明(本件発明1と併せ て「本件各発明」 ) (5) 被告製品:別紙被告製品目録記載の製品 (6) 第1要件(等) :最高裁平成6年(オ)第1083号同10年2月24日第三

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判決文

令和8年5月14日判決言渡 同日原本受領 裁判所書記官
令和7年(ワ)第2859号 特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 令和8年3月12日
判 決
原告 株式会社オーラルファッション
代表者代表取締役
訴訟代理人弁護士 若本修一
訴訟代理人弁理士 永井道彰
被告 株式会社SHIMADA
代表者代表取締役
訴訟代理人弁護士 雨宮沙耶花
同 大林良寛
15 同 中野雅司
補佐人弁理士 齋藤拓也
同 谷山稔男
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
20 2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は、別紙被告製品目録記載の製品を製造し、譲渡し、輸出し、又は譲渡の
申出をしてはならない。
25 2 被告は、前項記載の製品を廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、4400万円及びこれに対する令和7年4月11日から
支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本判決で用いる呼称(略語)
(1) 本件特許(権):特許第7002839号に係る特許(権)
5 (2) 本件明細書:本件特許権に係る明細書及び図面。本件明細書の内容は、別紙
特許公報記載のとおり。なお、本件明細書中の段落は【(4桁の数字)】として
示す。
(3) 本件発明1:本件特許の特許請求の範囲請求項1の発明
(4) 本件発明4:本件特許の特許請求の範囲請求項4の発明(本件発明1と併せ
10 て「本件各発明」)
(5) 被告製品:別紙被告製品目録記載の製品
(6) 第1要件(等)
:最高裁平成6年(オ)第1083号同10年2月24日第三
小法廷判決・民集52巻1号113頁において判示された、均等侵害が成立す
るための各要件(第1要件:非本質的部分、第2要件:置換可能性、第3要件:
15 置換容易性、第4要件:容易推考性、第5要件:意識的除外)
(7) 乙8発明:米国特許第4649861号明細書(乙8の1。昭和62年3月
17日登録、同日公開。以下「乙8文献」)に記載の発明
(8) 乙13-1発明:米国特許第4852517号明細書(乙13の1。平成元
年8月1日登録、同日公開。以下「乙13文献」)の図15に記載の発明
20 (9) 乙13-2発明:乙13文献の図4に記載の発明
(10) 乙16発明:特開2015-100299号公報(乙16。平成27年6
月4日公開。以下「乙16文献」)に記載の発明
2 原告の請求(訴訟物)
被告製品の販売等が本件特許権を侵害するものであることを前提とする、
25 (1) 特許法100条1項、2項に基づく被告製品の製造・譲渡・輸出等の差止め
及び被告製品の廃棄の請求
(2) 不法行為(民法709条。ただし、令和7年3月末までのもの)に基づく損
害賠償金4400万円及びこれに対する不法行為の後日から支払済みまで民
法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払請求
3 前提事実
5 (1) 当事者
ア 原告は、医療機器、日用雑貨品等の企画、製品評価、研究、開発等を目的
とする株式会社である。
イ 被告は、ネズミ捕り粘着板の製造販売等を目的とする株式会社である。
(2) 本件特許権
10 原告は、本件特許権の持分2分の1を有している。本件特許の書誌的事項は、
次のとおりである。(甲1、2)
ア 特許番号:特許第7002839号
イ 出願日:平成28年11月11日
ウ 登録日:令和4年1月5日
15 エ 発明の名称:3次元ダニ捕獲体
(3) 本件各発明の構成要件の分説
ア 本件発明1
本件発明1の構成要件は、以下のとおり分説される。
A ダニを捕獲する3次元ダニ捕獲体であって、
20 B スポンジ状の連続気泡構造体の多孔質体であって、その孔径が300~
3000μmの3次元構造体であり、前記3次元構造体の内部に粘着剤を
含まず、前記ダニが通過し得る3次元連続気泡構造体通過層と、
C スポンジ状の連続気泡構造体の多孔質体であって、その孔径が300~
3000μmの3次元構造体であり、前記3次元構造体の内部にダニ捕獲
25 用の粘着剤が含浸されて形成された3次元連続気泡構造体粘着層を備え、
D スポンジ状の前記3次元連続気泡構造体粘着層を内側に設け、その外側
に隣接し合って連続してスポンジ状の前記3次元連続気泡構造体通過層
を設けた多層連続気泡多孔質体構造を備え、
E スポンジ状の前記3次元連続気泡構造体通過層の外表面から内部に入
り込んだ前記ダニを通過させ、その外側に連続したスポンジ状の前記3次
5 元連続気泡構造体粘着層で捕獲せしめる
F ことを特徴とする3次元ダニ捕獲体。
イ 本件発明4
本件発明4の構成要件は、以下のとおり分説される。なお、同構成要件に
ついては、誤記の訂正を目的とした訂正審判請求を認める旨の審決が確定し
10 ており(甲3)、以後の記載は全て訂正後のものである。
G ダニを捕獲する3次元ダニ捕獲体であって、
H メッシュ状の連続格子構造体の多孔質体であって、その孔径が300~
3000μmの3次元構造体であり、前記3次元構造体の内部に粘着剤を
含まず、前記ダニが通過し得る3次元連続格子構造体通過層と、
15 I メッシュ状の連続格子構造体の多孔質体であって、その孔径が300~
3000μmの3次元構造体であり、前記3次元構造体の内部にダニ捕獲
用の粘着剤が含浸されて形成された3次元連続格子構造体粘着層を備え、
J メッシュ状の前記3次元連続格子構造体粘着層を内側に設け、その外側
に隣接し合って連続してメッシュ状の前記3次元連続格子構造体通過層
20 を設けた多層連続格子多孔質体構造を備え、
K メッシュ状の前記3次元連続格子構造体通過層の外表面から内部に入
り込んだ前記ダニを通過させ、メッシュ状の前記3次元連続格子構造体粘
着層で捕獲せしめる
L ことを特徴とする3次元ダニ捕獲体。
25 (4) 被告製品の構成
被告製品の構成について、原告は、別紙「被告製品の構成(原告主張)」のと
おり主張する。このうち、被告製品がダニを捕獲する立体構造のダニ捕獲シー
トであること、不織布を素材とし、その内部に粘着剤を含まずダニが通過し得
る立体構造の通過層が存在すること(構成bの一部)、表面に粘着剤を盛りつ
けた粘着シートが挿入されていること(構成c2)は当事者間に争いがない。
5 被告製品の構成が、本件発明1の構成要件A及びF並びに本件発明4の構成
要件G及びLをそれぞれ充足することは実質的に当事者間に争いがない。
なお、後記争点のほか、被告は、本件発明1の構成要件D、本件発明4の構
成要件Jの「内側」
「外側」で規定される各層の位置関係を問題とするところ、
やや分かりにくい文言ではあるものの、相違点を構成するものとはいえないと
10 認め、争点としては取り上げない。
(5) 被告の行為
被告は、遅くとも令和5年10月頃から、被告製品を製造・販売している。
4 争点
(1) 被告製品が本件発明1の技術的範囲に属するか(争点1)
15 ア 「スポンジ状の連続気泡構造体」
(構成要件BないしE)を備えるか(争点
1-1)
イ 「粘着層」(構成要件CないしE)を備えるか(争点1-2)
(2) 被告製品が本件発明4の技術的範囲に属するか(争点2)
ア 「メッシュ状の連続格子構造体」
(構成要件HないしK)を備えるか(争点
20 2-1)
イ 「粘着層」(構成要件IないしK)を備えるか(争点1-2と同じ)
(3) 「スポンジ状の連続気泡構造体」ないし「メッシュ状の連続格子構造体」を
「不織布」に置換した構成について、均等侵害が成立するか(争点3)
(4) 本件特許に次の無効理由があるか(争点4)
25 ア 明確性要件違反(本件各発明関係)(争点4-1)
イ 乙8発明を主引用例とする進歩性欠如(本件発明1関係)(争点4-2)
ウ 乙13-1発明を主引用例とする進歩性欠如(本件発明4関係)(争点4
-3)
エ 乙13-2発明を主引用例とする進歩性欠如(本件発明4関係)(争点4
-4)
5 オ 乙16発明を主引用例とする進歩性欠如(本件各発明関係、予備的主張)
(争点4-5)
(5) 損害の有無及び額(争点5)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1-1(被告製品が「スポンジ状の連続気泡構造体」(構成要件Bないし
10 E)を備え、本件発明1の技術的範囲に属するか)について
【原告の主張】
(1) 構成要件の解釈
ア 「スポンジ状」について
「スポンジ」とは「海綿」を意味するが(乙4の1)、より分かりやすくい
15 えば、「内部に細かな孔が無数に空いた多孔質の柔らかい物質」などと説明
されている(甲16)。
「状」とは、
「ありさま、すがた、かたち」のほか、名詞に付いて「…のよ
うな形である、…に似たようすである」を意味する(甲18)。
そうすると、
「スポンジ状」とは、
「内部に細かな孔が無数に空いた多孔質
20 の柔らかい物質」、あるいは「そのような形」のことをいう。
イ 「連続気泡構造体」について
気泡構造には連続気泡構造と独立気泡構造が存在する。このうち、「連続
気泡構造」は気泡がつながっており、気泡がそれぞれ独立している独立気泡
構造と区別される。
25 連続気泡構造では、気泡が連続的につながっていることから、気体や液体
が通り抜けることができる点に特徴があり、また、気泡はつながっているの
であるから、その形状が球形である必要はない。
ウ 被告の主張について
「スポンジ」は食器洗い用だけでなく、化粧用、浴用、医療用など様々な
種類があるうえ(甲16)、ウレタンを素材としない不織布やポリエステル
5 のスポンジ製品が数多く存在している(甲15の1~4)。
被告が挙げる3つの例についても、スポンジを使用する消費者は、ウレタ
ンフォームのみのものだけでなく、ウレタンフォームに不織布がついた二層
のもの、あるいはウレタンフォームと不織布とポリエステル等で形成された
三層のもの、いずれも製品全体をスポンジと呼んでおり、殊更、ウレタン部
10 分をスポンジと呼んでいるわけではない。
(2) 被告製品の不織布について
被告製品は不織布を素材とするところ、不織布は、繊維間に微小な空隙を無
数に有する多孔構造であるから(甲10)、
「内部に細かな孔が無数に空いた多
孔質の柔らかい物質」、あるいは「そのような形」であり、
「スポンジ状」の構
15 成を備え、その繊維間に無数の微小な空隙を有する多孔質体であるから、「ス
ポンジ状の連続気泡構造体の多孔質体」に当たる。また、被告製品の内部には、
粘着剤を含まないダニが通過し得る立体構造の通過層が存在し、上記空隙の孔
径は300~3000μmである。
したがって、被告製品は連続気泡構造と同じ形状、構造、特徴を有している
20 から「スポンジ状の連続気泡構造体」との構成を備えている。
【被告の主張】
(1) 「スポンジ状の連続気泡構造体」の意義
ア 「スポンジ」は、
「あかすり・食器洗い・クッションなどに使う海綿状のゴ
ムまたは合成樹脂製品」を意味する(乙4の1)。
25 また、本件明細書では、
「スポンジ状の連続気泡構造体の多孔質体」の素材
として、
「ウレタンフォーム、ゴム発泡剤フォーム、メラミンフォーム、EV
Aスポンジフォームなど」が挙げられている(【0024】)。
ウレタンフォーム等である「スポンジ」の一般的な製造方法は、合成樹脂
材料を発泡剤等により発泡させて気泡を発生させる方法である(乙6)。そ
して、
「気泡」とは、
「液体または固体中にあって気体を含む微小部分」
(乙4
5 の1)、「液体・固体の内部や表面にできる、気体を含んで丸くなったもの。
泡(あわ)。」(乙4の2)を意味する。
イ 「気泡構造体」
(単に「気泡体」とも呼ばれる。)は、
「多孔質体」、すなわ
ち「多数の微細な孔をもつ物質」のうち、
「気泡」が発生することによってで
きたものである。さらに、
「気泡体」は、
「連続気泡体」と「独立気泡体」に
10 分類され、「連続気泡体」は、気泡が連続しているものを指す。
ウ 以上の「スポンジ状」、
「連続気泡構造体」の意義からすると、
「スポンジ状
の連続気泡構造体」とは、発泡により形成された気体を含んで丸くなった微
小部分を連続して多数有する海綿状のゴムまたは合成樹脂製品を意味する
と解される。
15 (2) 被告製品が構成要件を充足しないこと
被告製品の素材である不織布は、「平面状の繊維集合体」で、その製造方法
も、
「1本ごとに独立に分散された繊維」を「接着剤や熱による接着、あるいは
機械的な絡合によって形成」するものであるから、不織布の孔は、発泡により
形成されたものではない。
20 さらに、一般的な不織布(甲10の図1.1参照)や被告製品に使用されて
いる不織布(甲11参照)については、孔は存在しても、気体を含んで丸くな
ったものではない。なお、外観及び機能面に着目して本来はスポンジではない
ものを「スポンジ」と称する例があったとしても、本件発明1を目にした当業
者が「スポンジ状」という単語から一般的な不織布を想到することはないとい
25 える。
したがって、被告製品の不織布は、
「スポンジ状の連続気泡構造体」に該当せ
ず、被告製品は、本件発明1のかかる構成要件(構成要件BないしE)を充足
しない。
2 争点1-2(被告製品が「粘着層」
(構成要件CないしE)を備え、本件発明1
の技術的範囲に属するか)について
5 【原告の主張】
(1) 構成要件の解釈
本件発明1において、
「粘着層」は、ダニの「背中や胴が網目を形成する糸状
の壁面や柱に捉えられ、もはや足で移動することはできず、逃走が不可能にな
る」
(【0014】)ためのもの、すなわち、
「ダニの体の一部が3次元構造粘着
10 層の粘着剤に捕獲されて動けなく」なるとの機能を果たすものであればよく、
粘着層の存在は不可欠だとしても、その厚さに限定はなく、最低300μmで
ある必要はない。
300~3000μmが好ましいとされるのは、3次元構造体の孔径、すな
わちダニが侵入してくる隙間(いわば道幅)のサイズのことであり、粘着層の
15 厚さ(深さ)とは関係がない。
(2) 被告製品の構成について
被告製品には、現に粘着層が存在しており、大半のダニがこの粘着層で捕獲
されているから、「粘着層」との構成を備えている。
【被告の主張】
20 (1) 「粘着層」の意義
本件発明1においては、3次元構造体110aの下面と110bの上面それ
ぞれに粘着剤を塗布し、粘着剤を「含浸」させて、一定の厚さを有した「粘着
層」を形成させている。これにより、従来製品におけるシートと比べて3次元
的に飛躍的に粘着面積を増加させて、「ダニの体の一部が3次元構造粘着層の
25 粘着剤に捕獲されて動けなくなるまで3次元構造粘着層の内部に侵入させ」
(【0014】)てダニを捕獲するとしている。
すなわち、
「粘着層」は、その文言通り「層」となっている必要があり、かつ、
その「層」は従来製品には見られないような厚さとなっている必要がある。そ
うしなければ、従来製品におけるシートと比べて3次元的に飛躍的に粘着面積
を増加させた「粘着層」といえない。
5 そして、
「ダニの体長が幼虫で100μm 、成虫で300μm~500μm
程度である」
(【0015】)ことから、
「連続気泡構造体の孔径としては300
~3000μmが好ましい。」としており、
「孔径」は最低でも300μmとさ
れている。また、粘着剤は「ウレタン等の3次元網目状の構造体の壁面や柱自
体には行き渡る」
「含浸量」としていること(【0042】)から、少なくとも1
10 つの「孔」の「壁面や柱自体」に粘着剤が「行き渡る」ことが想定されている。
そうすると、「粘着層」の厚さは、最低でも300μmが必要であると解され
る。
したがって、
「粘着層」は、従来製品におけるシートと比べて3次元的に飛躍
的に粘着面積を増加させたもので、その厚さが最低でも300μm以上である
15 ものと解される。
(2) 被告製品が構成要件を充足しないこと
被告製品のシートに塗布される粘着剤の目標の厚さは、60ないし70μm
である。そして、原告が実施した実験の報告書(甲11)のうち、観察方法と
して一定の合理性がある「電子顕微鏡観察」によると、被告製品の不織布に付
20 着している粘着剤の厚さは、わずか約150μmである。しかも、被告製品に
おいては、2枚の不織布の間に塩化ビニル樹脂製のシートが存在し、ダニはシ
ートを通過することができないため、ダニの大きさとの関係で必要な粘着層の
厚さとしては、2分の1の約75μmといえる。原告の主張によっても164.
3μmにとどまる。
25 このように、最低でも必要な300μmの厚さに大きく満たないものである
から、被告製品に「粘着層」は存在しない。また、原告は、被告製品の孔径に
つき少なくとも300μmはあると主張するものと解されるところ、粘着剤の
厚さが上記のとおり約75μm又は164.3μmである場合、粘着剤部分の
内部に複数の「孔」は存在せず、くぼみ(クレーター)ができているにすぎな
いことになるから、多孔質体である「粘着層」は存在しないことになる。なお、
5 被告製品の製造方法においては、
【0044】に示された方法とは異なり、粘着
剤を塗布した3次元構造体110aと110bとを貼り合わせるという工程
が存在しないため、その点からも被告製品には「粘着層」が形成されない。
したがって、被告製品は、本件発明1の「粘着層」の構成要件(構成要件C
ないしE)を充足しない。
10 3 争点2―1(被告製品が、
「メッシュ状の連続格子構造体」
(構成要件Hないし
K)を備え、本件発明4の技術的範囲に属するか)について
【原告の主張】
(1) 「メッシュ状の連続格子構造体」について
ア 「メッシュ状」について
15 メッシュは「網の目」又は「網目織」を意味する(乙4の1)。また、
「状」
とは、名詞に付いて「…のような形である、…に似たようすである」を意味
する(甲18)。
よって、メッシュ状とは、
「網の目」
「網目織」のような形、あるいは、そ
れに似たようすであることを指す。
20 一方、不織布とは、織ったり編んだりしないでつくる、いわゆる織らない
布をいい、その繊維は一方向又はランダム(規則性がないこと)に配向して
いる(甲10)。
被告製品の不織布の繊維は、拡大鏡や電子顕微鏡の写真(甲11の写真2
~6)によれば、一方向ではなくランダムに配向しており、網の目のような
25 形をしているから、「メッシュ状」に該当する。
イ 「連続格子構造体」について
格子構造とは「ラティス(格子)構造」のことであり、枝状に分岐した格
子を周期的に配置した立体構造を指し、規則的な形状だけでなく不規則な形
状が含まれる(甲20)。
このように、格子構造とは、単なる「格子」の「構造」、すなわち、格子が
5 縦横に規則正しく連続している構造を意味するのではなく、不規則な形状を
含むラティス構造を指す。
ウ 被告の主張について
被告は、
「格子」とは「細い角材を縦横、あるいはそのどちらかの方向に間
をすかして組んだもの」を意味するとして、
「連続格子構造体」の意義を、そ
10 のような「格子」が連続しているもの(縦横に規則正しく連続しているもの)
と解している。
しかし、
「格子構造」という用語から「格子」だけを取り出し、それを「縦
横に規則正しく連続しているもの」と2次元的に捉えることは、本件発明4
が3次元構造であることと符合しない。また、
「格子構造」の本来の意味から
15 逸脱する。そして、不規則なラティス構造は、正に「網の目」あるいは「網
の目のような形」といえる。
(2) 被告製品が、「メッシュ状の連続格子構造体」との構成を備えること
被告製品は不織布を素材とし、その繊維間に無数の微小な空隙を有する多孔
質体であるから、
「メッシュ状の連続格子構造体の多孔質体」に当たる。また、
20 被告製品の内部には、粘着剤を含まないダニが通過し得る立体構造の通過層が
存在し、上記空隙の孔径は300~3000μmである。(構成要件Hないし
K関係)
したがって、被告製品の構成hないしkは、本件発明4の構成要件Hないし
Kを充足する。
25 【被告の主張】
(1) 「メッシュ状の連続格子構造体」の意義
「メッシュ」は、
「網の目」又は「網目織」を意味する(乙4の1)。したが
って、
「メッシュ状」は、
「網の目」又は「網目織」の状態のものを意味すると
解される。
「格子」は、
「細い角材を縦横、あるいはそのどちらかの方向に間をすかして
5 組んだもの」を意味する(乙4の1)。したがって、
「連続格子構造体」は、そ
のような「格子」が連続しているものを意味すると解される。本件明細書には、
「メッシュ状の連続格子構造体は、連続気泡構造体の多孔質体よりも規則正し
い3次元構造である」との記載(【0053】)がある。
以上のことからすると、
「メッシュ状の連続格子構造体」とは、網の目又は網
10 目織が縦横に規則正しく連続しているものを指すと解される。
(2) 被告製品が構成要件を充足しないこと
「網の目又は網目織が縦横に規則正しく連続しているもの」の典型例は、一
般的な織物、編物であるが、不織布は、
「紙,織物,編物,タフト及び縮じゅう
(絨)フェルトを除く。」とされ、一般的な織物、編物が除かれている。甲10
15 の図1.1でも、一般的な織物、編物の図が示されており、これらは不織布に
は含まれないとされている。甲11に示されている被告製品の不織布も、網の
目又は網目織が縦横に規則正しく連続しているものではない。
原告は、格子構造とは、格子が縦横に規則正しく連続している構造を意味す
るのではなく、不規則な形状を含むラティス構造を指すところ、不織布の繊維
20 はランダム(規則性がないこと)に配向し、網の目のような形をしているから、
不規則なラティス構造(格子構造)と同じ形状である旨主張する。しかし、ラ
ティス構造は、
「枝状に分岐した格子を周期的に配置した構造」
(甲20)、
「周
期的なパターンや配置を持つ立体構造」
(甲21)とされており、不規則なもの
を含むとしても、パターン・配置に周期性があるものであるが、不織布の構造
25 は、単なる「繊維集合体」であって(乙3)、パターン・配置に周期性はないか
ら、ラティス構造とはいえない。
したがって、被告製品の不織布は、
「メッシュ状の連続格子構造体」に該当せ
ず、被告製品は、本件発明4のかかる構成要件(構成要件HないしK)を充足
しない。
4 争点3(「スポンジ状の連続気泡構造体」ないし「メッシュ状の連続格子構造
5 体」を「不織布」に置換した構成について、均等侵害が成立するか)について
【原告の主張】
被告製品の不織布は、本件発明1の「スポンジ状の連続気泡構造体」又は本件
発明4の「メッシュ状の連続格子構造体」と均等なものとして、その技術的範囲
に属する。
10 (1) 第1要件(非本質的部分)
本件各発明は、ダニが通過可能な孔径を備えた3次元構造体通過層と、その
内部にダニ捕獲用の粘着剤が含浸されて形成された3次元構造体粘着層を備
え、3次元構造体の外表面から内部に入り込んだダニを3次元粘着層で捕獲す
ることを特徴とする3次元ダニ捕獲体である(【0013】)。
15 ここで、本件各発明の中核となるのは、ダニが通過して、粘着層の内部に侵
入することができるだけの孔径を備えた3次元構造体の多孔質体で構成され
ている点であり、3次元構造体の多孔質体がスポンジ状の気泡構造であること
は必須の構成ではない。
この点、
【0015】には、
「3次元構造体としては、スポンジ状の連続気泡
20 構造体の多孔質体がある。」、
「また、例えば、3次元構造体としては、メッシュ
状の連続格子構造体のメッシュ構造体がある」と説明されている。
【0053】
でも、「3次元構造体110aおよび110b、3次元構造粘着層120の構
造としては、連続気泡構造体の多孔質体として説明したが、メッシュ状の連続
格子構造体のメッシュ構造体であっても同様である。」と説明されている。こ
25 れらの説明は、スポンジ状の連続気泡構造体やメッシュ状の連続格子構造体が、
3次元構造体の多孔質体を組成する部材の一例であることを示すものである。
以上のことからすると、本件各発明の本質的部分は、3次元構造体の多孔質
体で構成されている点であり、その部材がスポンジ状の気泡構造又はメッシュ
状の格子構造であることは、本件各発明の本質的部分ではない。
したがって、被告製品の不織布が「スポンジ状の連続気泡構造体」又は「メ
5 ッシュ状の連続格子構造体」に該当しないとしても、その相違点は本質的部分
ではない。
(2) 第2要件(置換可能性)
本件発明1の「スポンジ状の連続気泡構造体」又は本件発明4の「メッシュ
状の連続格子構造体」を被告製品の不織布に置き換えても、ダニの通過、侵入
10 は可能であり、本件各発明の目的を達成することができるから、被告製品は、
本件各発明と同一の作用効果を有するものといえる。
(3) 第3要件(置換容易性)
本件発明1の通過層及び粘着層が「スポンジ状の連続気泡構造体」であって
も被告製品の不織布であっても、また、本件発明4の通過層および粘着層が「メ
15 ッシュ状の連続格子構造体」であっても被告製品の不織布であっても、いずれ
も3次元構造体の多孔質体であることに変わりはなく、構成上の相違はない。
そして、不織布はありふれた素材であり、汎用性も高く、入手も容易であっ
て、代替品として利用することは極めて容易である。
したがって、本件各発明の通過層及び粘着層を被告製品の不織布にすること
20 は、当業者であれば容易に想到できたといえる。
(4) 第4要件(容易推考性)
ダニの通過が可能な孔径を備えた3次元構造体通過層と、その内部にダニ捕
獲用の粘着剤が含浸されて形成された3次元構造体粘着層を備え、3次元構造
体の外表面から内部に入り込んだダニを3次元粘着層で捕獲するという発明
25 は、本件各発明の出願当時に存在していなかった。
したがって、被告製品は、当業者が公知技術から容易に推考することができ
たものとはいえない。
(5) 第5要件(意識的除外)
本件各発明の出願及び審査の過程において、素材を不織布とすることを意識
的に除外したなどという特段の事情は存在しない。
5 【被告の主張】
次のとおり、均等侵害は成立しない。
(1) 第1要件(非本質的部分)
本件各発明の課題は、粘着剤部分を通りかかったダニのみを粘着して捕獲す
るため捕獲効率が悪い等の従来の防ダニシートの課題とされていた点である
10 (【0008】~【0011】)。本件各発明は、その課題を解決するために、
「ダ
ニが通過可能な孔径を備えた3次元構造体と、前記3次元構造体の内部にダニ
捕獲用の粘着剤が含浸されて形成された3次元構造粘着層を備え」た(【00
13】)。すなわち、本件各発明の本質的部分は、①ダニが通過可能な孔径を備
えた3次元構造体と、②その内部に3次元構造粘着層が備えられていることに
15 ある。
そして、本件各発明において、
「3次元構造体」は「スポンジ状の連続気泡構
造体」及び「メッシュ状の連続格子構造体」であるため、
「スポンジ状の連続気
泡構造体」及び「メッシュ状の連続格子構造体」は、本件各発明の本質的部分
である。本質的部分に係る構成に複数の構成が考えられる場合に、そのうち特
20 定の構成が選択されたのであれば、その選択された構成が正に本質的部分に該
当するものである。
(2) 第2要件(置換可能性)
【0016】は、
「本発明の3次元ダニ捕獲体では、3次元構造粘着層がスポ
ンジ状の連続気泡構造体またはメッシュ状の連続格子構造体でありその骨格
25 となる構造体が粘着性を持つため、その面積は3次元的に飛躍的に増大してい
る。」と述べる。すなわち、本件各発明では、「スポンジ状の連続気泡構造体」
及び「メッシュ状の連続格子構造体」の「3次元構造粘着層」を備えることで、
粘着性のある「面積」を「3次元的に飛躍的に増大」するという効果を発揮す
るとされている。
不織布は、繊維により構成されたものであり、不織布に粘着剤を含浸させて
5 も粘着性のある「面積」が「3次元的に飛躍的に増大」するものではない。
したがって、
「スポンジ状の連続気泡構造体」及び「メッシュ状の連続格子構
造体」を不織布に置換した場合、その作用効果は同一ではない。
(3) 第3要件(置換容易性)
「スポンジ状の連続気泡構造体」及び「メッシュ状の連続格子構造体」と不
10 織布は異なる素材であり、被告製品製造時において、当業者にとって、
「スポン
ジ状の連続気泡構造体」及び「メッシュ状の連続格子構造体」を不織布に置換
することは容易想到であったとはいえない。
(4) 第4要件(容易推考性)
本件明細書の記載からすると、本件特許の出願時において粘着剤が塗布され
15 その塗布面にダニ誘引剤を貼り付け、さらにその上に不織布を貼り付けた防ダ
ニシートは公知技術であり、被告製品は、その公知技術と同一又は当業者に容
易に推考できたものである。
(5) 第5要件(意識的除外)
本件明細書の記載からすると、出願時において、原告は「3次元構造体」を
20 不織布で構成することを認識していた。そして、原告が自認するとおり、原告
は「スポンジ状の連続気泡構造体」及び「メッシュ状の連続格子構造体」が、
「3次元構造体の多孔質体を組成する部材の一例である」と認識していた。
したがって、原告は、
「3次元構造体の多孔質体」には不織布を含む複数の選
択肢が存在することを認識していた状況において、あえてその一例である「ス
25 ポンジ状の連続気泡構造体」及び「メッシュ状の連続格子構造体」を選択した
のであり、不織布は、本件特許の出願手続で特許請求の範囲から意識的に除外
されたものである。
5 争点4-1(本件特許に明確性要件違反の無効理由があるか(本件各発明関係))
について
【被告の主張】
5 本件特許の特徴は、
「粘着層」を備えることで、従来製品におけるシートと比べ
て3次元的に飛躍的に粘着面積を増加させた点にある(【0016】)。すなわち、
従来製品におけるシートの粘着部分は面(=縦と横からなる2次元)であったと
ころ、本件特許は、高さ(=厚さ)も備えた「粘着層」とすることで、従来製品
におけるシートと比べて3次元的に飛躍的に粘着面積を増加させたものである。
10 しかし、本件特許の請求項、明細書及び図面には、
「粘着層」の高さ(=厚さ)
の記載は一切なく、出願当時の技術常識を考慮してもそれは不明である。
したがって、本件特許には明確性要件違反の無効理由がある。
【原告の主張】
本件特許において粘着層の高さなど限定されないから、その記載は不要であり、
15 明確性要件違反の無効理由はない。
6 争点4-2(乙8発明を主引用例とする進歩性欠如(本件発明1関係))につい

【被告の主張】
(1) 乙8発明
20 乙8公報には、以下の乙8発明が記載されている(なお、構成の英文字は、
本件発明4の構成要件のそれと対応しているわけではない。)。
構成1a ダニ透過性材料からなる上層と、
構成1b ダニ非透過性材料からなる下層と、
構成1c 前記上層及び前記下層の間に配置されたウレタンフォームからな
25 る開孔発泡材層であって、前記下層から粘着剤浸透線まで粘着剤が含浸され
た開孔発泡材層と、
構成1d を備えたペット用マットであって、
構成1e ダニは、前記上層から前記開孔発泡材層に移動し、前記粘着剤に付
着して捕獲される、
構成1f ペット用マット。
5 (2) 本件発明1と乙8発明の相違点
本件発明1と乙8発明は、以下の点で相違する。
ア 相違点1
本件発明1における「3次元連続気泡構造体通過層」の孔径は300~3
000μmであるが、乙8発明における「開孔発泡材層のうち粘着剤非含浸
10 部分」の孔径は不明である点
イ 相違点2
本件発明1における「3次元連続気泡構造体粘着層」の孔径は300~3
000μmであるが、乙8発明における「開孔発泡材層のうち粘着剤含浸部
分」の孔径は不明である点
15 (3) 相違点に係る容易想到性
ア ダニの大きさ
先行文献(乙9ないし12)によれば、ダニの大きさが300~3000
μm程度であることは、本件特許の出願時において技術常識であった。
イ 「開孔発泡材層のうち粘着剤非含浸部分」の孔径
20 「開孔発泡材層のうち粘着剤非含浸部分」は、ダニが通過する部分である
ため、その孔径は、ダニが内部に入り込める大きさにする必要がある。
したがって、
「開孔発泡材層のうち粘着剤非含浸部分」の孔径を、ダニの大
きさに基づく300~3000μmの孔径とすることは、当業者であれば容
易に想到できる。
25 ウ 「開孔発泡材層のうち粘着剤含浸部分」の孔径
「開孔発泡材層のうち粘着剤含浸部分」は、一定の厚さがあることから、
ダニをその表面又は内部で捕獲することが想定されているため、その孔径は、
ダニが内部に入り込める大きさにする必要がある。
また、
「開孔発泡材層のうち粘着剤含浸部分」は、ダニが通過する部分であ
る「開孔発泡材層のうち粘着剤非含浸部分」と同一の開孔発泡材層であるた
5 め、孔径も同一である。
したがって、
「開孔発泡材層のうち粘着剤非含浸部分」の孔径を、ダニの大
きさに基づく300~3000μmの孔径とすることは、当業者であれば容
易に想到できる。
エ 有利な効果はないこと
10 「開孔発泡材層のうち粘着剤非含浸部分」及び「開孔発泡材層のうち粘着
剤含浸部分」の孔径を、300~3000μmとしたことによる効果は、単
に、ダニの成虫が無理なく侵入できるという効果であるが、ダニの大きさが
300~3000μm程度であるという技術常識であることからすると、何
ら有利な効果ではない。
15 (4) 小括
よって、本件発明1は、乙8発明と技術常識により当業者が容易にし得る発
明であるから、進歩性欠如の無効理由がある。
【原告の主張】
乙8発明は、ペットが野外から持ち込んだマダニなどの害虫が室内に拡散しな
20 いようマットの領域内にマダニ等の移動範囲を制限することを課題とし、そのた
めの構成としてマダニ等が通過できない非透過性材料で構成された下層を設け
ることによって、ペットに付着したマダニ(体長は3~8mm、吸血後は10m
m~20mmに及ぶ)等がマットを通り抜けて室内に拡散することを防止すると
ともに、室内側からもダニがマット内部に侵入することを不可能にしている。
25 これに対して、本件発明1は、既に室内に存在するイエダニを捕獲対象とし、
表面側と裏面側の両方に、ダニが通過し得る3次元構造の通過層を設けて、表面、
裏面、側面の全方向から内部にダニを導き入れる構成となっていて、技術思想が
全く逆である。
このように、乙8発明と本件発明1とは、課題、作用、機能を異にするから、
たとえ技術常識に照らしても、当業者が乙8発明から本件発明1を容易に想到す
5 るための論理付けなどできない。
したがって、本件発明1は進歩性を有する。
7 争点4-3(乙13-1発明を主引用例とする進歩性欠如(本件発明4関係))
について
【被告の主張】
10 (1) 乙13-1発明
乙13文献中の図15には、以下の乙13-1発明が開示されている(なお、
構成の英文字は、本件発明4の構成要件のそれと対応しているわけではない。)
構成2a ダニが通過できる上層と、
構成2b ダニが通過できる下層と、
15 構成2c 前記上層及び前記下層の間に配置された中間層と、
構成2d を備えた動物用マットであって、
構成2e 前記上層及び下層はメッシュで構成されており、
構成2f 前記中間層は、非乾燥性または遅乾性の粘着剤で被覆されたメッシ
ュで構成され、前記上層に隣接し合って連続して設けられており、
20 構成2g ダニは、前記上層又は前記下層から前記中間層に移動し、前記粘着
剤によって捕獲される、
構成2h 動物用マット。
(2) 本件発明4と乙13-1発明の相違点
本件発明4と乙13-1発明は、以下の点で相違する。
25 ア 相違点1
本件発明4における「3次元連続格子構造体通過層」の孔径は300~3
000μmであるが、乙13-1発明における「上層」及び「下層」の孔径
は不明である点
イ 相違点2
本件発明4における「3次元連続格子構造体粘着層」の孔径は300~3
5 000μmであるが、乙13-1発明における「中間層」の孔径は不明であ
る点
(3) 相違点に係る容易想到性
前述のダニの大きさに関する技術常識からすると、
「上層」と「中間層」の孔
径を、ダニの大きさに基づく300~3000μmの孔径とすることは、当業
10 者であれば容易に想到できる。
(4) 有利な効果がないこと
「上層」及び「中間層」の孔径を、300~3000μmとしたことによる
効果は、単に、ダニの成虫が無理なく侵入できるという効果であるが、ダニの
大きさが300~3000μm程度であるという技術常識であることからす
15 ると、何ら有利な効果ではない。
(5) 小括
よって、本件発明1は、乙13-1発明と技術常識により当業者が容易にし
得る発明であるから、進歩性欠如の無効理由がある。
【原告の主張】
20 乙13-1発明(乙13-2発明も同様)は、乙8発明の一部継続出願であり、
乙8発明と同じ技術的思想によるものである。
したがって、捕獲対象となるダニが異なるという点で乙8発明での主張と同様
のことが当てはまる。
加えて、乙13-1発明は、
「鞍用マット」であるとされるが、その作用、機能
25 の詳細は不明であり、当該発明が解決しようとした課題に対応するものといえる
のかなどにつき、当業者が理解可能な態様で開示されていない。
したがって、乙13-1発明は、構成、作用、機能が具体的に開示されておら
ず、被告主張のように特定することができないし、本件発明4に想到するための
論理付けもできない。
8 争点4-4(乙13-2発明を主引用例とする進歩性欠如(本件発明4関係))
5 について
【被告の主張】
(1) 乙13-2発明について
乙13文献中の図4には、以下の乙13-2発明が開示されている。
構成3a ダニが通過できる上層と、
10 構成3b 下層と、
構成3c 前記上層及び前記下層の間に配置された中間層と、
構成3d を備えた動物用マットであって、
構成3e 前記中間層は、スクリムを重ね合わせて配置し、粘着剤を含浸させ
た非対称メッシュで構成され、前記上層に隣接し合って連続して設けられて
15 おり、
構成3f ダニは、前記上層から前記中間層に移動し、前記粘着剤によって捕
獲される、
構成3g 動物用マット。
(2) 本件発明4と乙13-2発明の相違点
20 本件発明4と乙13-2発明は、以下の点で相違する。
ア 相違点1
ダニが通過する3次元構造体通過層として、本件特許発明4は、メッシュ
状の連続格子構造体の多孔質体であって、その孔径が300~3000μm
の3次元構造体を用いている。これに対して、乙13-2発明の「上層」は、
25 その具体的な構造及び孔径が不明である点
イ 相違点2
本件発明4における「3次元連続格子構造体粘着層」の孔径は300~3
000μmであるが、乙13-2発明における「中間層」の孔径は不明であ
る点
(3) 相違点に係る容易想到性について
5 本件発明4と乙13-1発明の相違点に関する前記の主張と同様である。
なお、乙13-2の図4には「上層」の素材の記載はないが、乙13-2に
はダニが通過できる「上層」として、ポリエステルスクリム、メッシュ又は不
織布を用いることが記載されているのであるから、その中からメッシュを選択
して「上層」を形成することは、当業者であれば容易に想到できることである。
10 (4) 小括
よって、本件発明4は、乙13-2発明により当業者が容易にし得る発明で
あるから、進歩性欠如の無効理由がある。
【原告の主張】
乙13-2発明も乙8発明と同様、ペットが野外から持ち込んだマダニなど
15 の害虫が室内に拡散しないようマットの領域内にマダニ等の移動範囲を制限
することを課題としている。この課題を解決するべく、乙13-2発明におい
ても、マダニ等が通過できない非透過性材料で構成された下層を設けることに
よって、ペットに付着したマダニ等がマットを通り抜けて室内に拡散すること
を防止するとともに、室内側からもダニがマット内部に侵入することを不可能
20 にしている。
これに対して、本件発明4は、既に室内に存在するイエダニを捕獲対象とし、
表面側と裏面側両方に、ダニが通過し得る3次元構造の通過層を設けることに
よって、表面、裏面、側面の全方向から内部にダニを導き入れる構成となって
いるから、技術思想が全く逆である。
25 このように、乙13-2発明と本件発明4とは、課題、作用、機能を異にす
るから、たとえ技術常識に照らしても、当業者が乙13-2発明から本件発明
4を容易に想到するための論理付けはできない。
9 争点4-5(乙16発明を主引用例とする進歩性欠如)について
【被告の主張】
(1) 乙16発明
5 乙16文献には、以下の乙16発明が記載されている。
構成4a 不織布層と、
構成4b 前記不織布層の片側表面に設けた粘着層と、
構成4c シート層と、
構成4d をこの順に設けたワクモ等のダニを捕獲するダニ増殖抑制シート
10 であって、
構成4e 前記粘着層は、前記不織布層の片側表面に対して、スプレーにより
液状の粘着剤を塗装することにより、前記不織布内部の一部まで前記粘着剤
が入り込んでいる層が形成されており、
構成4f 前記不織布層のうち、前記不織布内部の一部まで前記粘着剤が入り
15 込んでいる層以外の部分は、前記不織布内部の一部まで前記粘着剤が入り込
んでいる層に隣接し合って設けられており、
構成4g ワクモ等のダニは、前記不織布層における、前記粘着剤が塗装され
ていない他方側の表面から侵入し、前記不織布層の奥深いところで、前記粘
着剤によって捕獲される、ダニ増殖抑制シート。
20 (2) 本件発明1と乙16発明の相違点
本件発明1と乙16発明は、以下の点で相違する。
ア 相違点1
本件発明1における「3次元連続気泡構造体通過層」は、その孔径が30
0~3000μmであるが、乙16発明における「不織布層のうち粘着剤が
25 入り込んでいない部分」は、その孔径が不明である点
イ 相違点2
本件発明1における「3次元連続気泡構造体粘着層」は、その孔径が30
0~3000μmであるが、乙16発明における「不織布内部の一部まで粘
着剤が入り込んでいる層」は、その孔径が不明である点
(3) 相違点に係る容易想到性について
5 前述のダニの大きさに関する技術常識からすると、「不織布層のうち粘着剤
が入り込んでいない部分」と、「不織布内部の一部まで粘着剤が入り込んでい
る層」の孔径を、ダニの大きさに基づく300~3000μmの孔径とするこ
とは、当業者であれば容易に想到できる。
(4) 有利な効果がないこと
10 「不織布層のうち粘着剤が入り込んでいない部分」及び「不織布内部の一部ま
で粘着剤が入り込んでいる層」の孔径を、300~3000μmとしたことに
よる効果は、単に、ダニの成虫が無理なく侵入できるという効果であるが、ダ
ニの大きさが300~3000μm程度であるという技術常識であることか
らすると、何ら有利な効果ではない。
15 (5) 小括
よって、本件各発明は、乙16発明により当業者が容易になし得る発明であ
るから、進歩性欠如の無効理由がある。
【原告の主張】
乙16発明は、外部から鶏舎内に侵入してくるワクモなどの外部寄生虫が鶏舎
20 内に拡散しないようにして鶏を保護することを課題とし、ワクモが通過できない
プラスティック素材のシート層を設けることによって、ワクモを鶏舎内に侵入し
ないよう防除するとともに、鶏舎内からワクモを導き入れることを不可能にして
いる。
これに対して、本件各発明は、既に室内に存在するイエダニを捕獲対象とし、
25 表面側と裏面側両方に、ダニが通過し得る3次元構造の通過層を設けて、表面、
裏面、側面の全方向から内部にダニを導き入れる構成となっているから、技術思
想は全く逆である。
このように、乙16発明と本件各発明とは、課題や作用・機能を異にするから、
たとえ技術常識に照らしても、当業者が乙16発明から本件各発明を容易に想到
するための論理付けはできない。
5 10 争点5(損害の有無及び額)について
【原告の主張】
被告は、遅くとも令和5年10月頃から継続して被告製品を製造・販売してお
り、令和7年3月末までの販売数量は、合計50万個を下らない。また、被告製
品の1個当たりの販売単価は400円程度と推測される。そうすると、上記期間
10 の被告製品の売上金額は、少なくとも2億円に上る。
被告製品の限界利益率は40パーセントを下らないため、被告製品の製造・販
売により、被告は8000万円の利益を得ており、これに本件特許権の原告の持
分割合2分の1を乗じた4000万円が原告の被った損害と推定される(特許法
102条2項)。
15 本件における弁護士費用としては、上記4000万円の10パーセントである
400万円とするのが相当である。
以上より、原告が被った損害額は、4400万円となる。
【被告の主張】
争う。
20 第4 判断
1 判断の大要
当裁判所は、被告製品は、少なくとも本件発明1の「連続気泡構造体」との構
成要件(構成要件BないしE)及び本件発明4の「連続格子構造体」との構成要
件(構成要件HないしK)を充足せず(争点1-1及び2-1)、これらについて
25 の均等侵害も成立しないから(争点3)、その余の争点につき判断するまでもな
く、原告の請求はいずれも理由がないものと判断する。
2 本件各発明について
(1) 本件明細書の記載
ア 発明が解決しようとする課題(【0008】ないし【0012】)
(従来技術にみられる)防ダニシートは、粘着テープの表面に繊維製品を
5 貼付しているため、繊維自体が粘着面に粘着されて粘着テープを覆ってし
まうため未粘着部分が狭くなっており、粘着剤部分を通りかかったダニの
みを粘着して捕獲するものであり捕獲効率が悪い。また、
・・粘着剤の表面
に種々のゴミや粉塵が付着し易く、ゴミや粉塵が付着した場合にはダニが
粘着剤に触れて捕獲される確率はさらに低くなり、実際にダニを捕獲する
10 ことが十分にできない(
【0008】)問題、粘着面が剥き出しであるため埃
による粘着力の低下が早いという問題、一度捕捉したダニが粘着シートか
ら離脱して逃走し得る(【0009】)問題、粘着シートの表面がフラットな
ものであるため、8本のうち先に触れた細い足を捕捉する力がいまだ弱い
うちにダニが粘着を感知してしまい、残りの足で捕捉された足を引き剥が
15 して逃走してしまう(【0010】
【0011】)問題がみられた。
本発明は、「ダニに対する粘着力を発揮する構成部材を剥き出しにせず粘
着力の低下を防止しつつ、粘着力を発揮する構成部材により一度捕捉したダ
ニの離脱を許さず逃走できない3次元ダニ捕獲体を提供」(【0012】)す
るものである。
20 イ 課題を解決するための手段(【0013】ないし【0018】)
上記3次元ダニ捕獲体は、「ダニが通過可能な孔径を備えた3次元構造体
と、前記3次元構造体の内部にダニ捕獲用の粘着剤が含浸されて形成された
3次元構造粘着層を備え、前記3次元構造体の外表面から内部に入り込んだ
前記ダニを前記3次元構造粘着層で捕獲すること」(【0013】)を特徴と
25 する。
上記の3次元構造粘着層は、「3次元構造体の素材に粘着剤を含浸させて
形成したものである。3次元構造体の外表面には前記3次元構造粘着層が露
出しておらず、ダニの体の一部が3次元構造粘着層の粘着剤に捕獲されて動
けなくなるまで3次元構造粘着層の内部に侵入させることが好ましい。そう
すれば、3次元的網目構造体の中で背中や胴が網目を形成する糸状の壁面や
5 柱に捉えられ、もはや足で移動することができず、逃走が不可能になる。」
(【0014】)
3次元構造体としては、例えば、「スポンジ状の連続気泡構造体の多孔質
体がある。連続気泡構造体の孔径としては300~3000μmが好ましい。
寝具類に多く生存しているダニは、ヒョウヒダニ、ケナガコナダニ、チリダ
10 ニが主なものである。このダニを捕獲することは、ダニの体長が幼虫で10
0μm、成虫で300~500μm程度である。成虫が無理なく侵入できる
大きさとしては300~3000μmが適当である。
また、例えば、3次元構造体としては、メッシュ状の連続格子構造体のメ
ッシュ構造体がある。3次元構造粘着層は、3次元構造を持つ粘着層である。
15 3次元構造体がスポンジ状の連続気泡構造体の多孔質体やメッシュ状の連
続格子構造体のメッシュ構造体であるので、それに粘着剤を含浸させれば、
3次元構造の粘着層が形成できる。」(【0015】)
「3次元構造粘着層には300~3000μm程度の隙間が多数形成され
ているので、ダニの体の一部が粘着剤に捕獲されて動けなくなるまで3次元
20 構造粘着層の内部に侵入させることが可能となる。そして3次元構造粘着層
の内部に侵入したダニが後戻りしようとしたり歩き回ろうとしたりするほ
ど、ダニの足以外の背中や体側や頭部などの部位が、粘着性を持った3次元
構造粘着層の骨格となる構造体に触れ、足以外の当該部位が捕捉されて動け
なくなってしまう。」(【0017】)
25 「このように、本発明の3次元ダニ捕獲体は、従来の防ダニシートとは異
なるものであり、明らかに、粘着面積が向上しており、また、ダニを3次元
的に捕捉することができるものとなっている。」(【0018】)
(2) 本件各発明の技術的特徴
上記によると、本件各発明は、従来の防ダニシートにおいては、粘着シート
が剥き出しで埃による粘着力の低下が早いことや、粘着シートの表面が平面的
5 (フラット)で、8本の足の一部を捕捉しても結局ダニが離脱して逃走し得る
ことという課題があったことに対し、スポンジ状の連続気泡構造体の多孔質体
又はメッシュ状の連続格子構造体の多孔質体を用いた3次元構造体に粘着剤
を含侵させて粘着層を3次元構造体の外表面には露出せず内部に形成される
ようにし、3次元構造粘着層の内部に侵入したダニに対して、3次元的にあら
10 ゆる方向に粘着剤が含浸された構造体が存在するようにして、あらゆる方向か
ら粘着剤による捕捉を可能として容易に逃走できないようにするという解決
手段を提供した点にあると認められる。
3 被告製品の構成について
証拠(甲11)及び弁論の全趣旨によれば、被告製品の構造は、別紙「被告製
15 品の構造(認定)」のとおりと認められる。
これによると、被告製品の構造につき次の事実が認められる。
(1) 被告製品は、樹脂シートの両面に粘着剤を加工(塗布)し、その上に不織布
を重層している。
(2) 上記の樹脂シートに加工(塗布)された粘着剤の厚さは、片面につき50μ
20 m弱である。
(3) 上記の粘着剤は、その上に重層された不織布の厚さ全体のうちの一部分に付
着(移行)しており、付着部分の樹脂シートからの厚さ(粘着剤を含む。)は、
厚い部分で164.3μm程度である。
4 争点1-1(被告製品が「スポンジ状の連続気泡構造体」(構成要件Bないし
25 E)を備え、本件発明1の技術的範囲に属するか)について
(1) 「スポンジ状の連続気泡構造体」について
ア 辞書的意味等
「スポンジ状の連続気泡構造体の多孔質体」(構成要件BないしE)につ
き、まず、
「気泡」の字義は、
「液体または固体中にあって気体を含む微小部
分」
(乙4の1、広辞苑第七版)あるいは「液体・固体の内部や表面にできる、
5 気体を含んで丸くなったもの。泡(あわ)」
(乙4の2、デジタル大辞泉)で
あり、
「多孔質」の字義は、
「多数の微細な孔をもつ物質」
(乙4の1)である。
なお、
「スポンジ状」にいう、
「スポンジ」は、
「あかすり・食器洗い・クッ
ションなどに使う海綿状のゴムまたは合成樹脂製品」であるとされている
(乙4の1)。
10 他方、本件明細書においては「スポンジ状の連続気泡構造体」に関しては、
実施例の説明において、
「多孔質体の素材としては、ウレタンフォーム、ゴム
発泡剤フォーム、メラミンフォーム、EVAスポンジフォームなど多様なも
のがある。適度な連続気泡構造体の多孔質体を作れる発泡性能がある素材で
あれば他の素材でも良い。」旨の記載(【0024】)がある。
15 イ 構成要件の解釈
上記の意義に加え、前記の本件発明の技術的特徴に照らすと、「スポンジ
状の連続気泡構造体の多孔質体」は、ダニを捕獲するための粘着層及びその
外側のダニが通過し得る粘着剤を含まない層を構成する部材として、一定の
径を持つ「気泡」が「連続」する立体構造をもつ多孔質体をいうと解され、
20 この構成が、本件発明1の課題解決手段として採用されたものと解される。
(2) 被告製品について
被告製品は、前記のとおり、樹脂シートの両面に粘着剤を加工(塗布)し、
その上に不織布を重層している構造を有している。
ア 不織布の構造等
25 「不織布」は、日本産業規格(令和4年1月20日改正)の定義によると、
「製織、編成及び製紙を除く、物理的方法及び/又は化学的方法によって所
定レベルの構造的強さが得られている平面状の繊維集合体」である(乙3)。
また、不織布は、1本ごとに独立に分散された繊維が接着剤や熱による接着、
あるいは機械的な絡合によって形成された3次元の繊維集合体であり、多孔
性で、繊維間に微小な空隙を無数に有することが構造的特徴である(甲9、
5 10)。
イ 不織布が「連続気泡構造体」に該当するか
上記不織布の構造的特徴からすると、不織布は、繊維が接着・絡合によっ
て形成されたものであって、繊維間に微小な空隙を無数に有するという点に
おいて、多孔性を有する構造体ということはできるものの、固体(繊維)と
10 固体(繊維)の間の空隙が径を観念できる「気泡」に相当するものとはいえ
ないし、当該空隙は、個体(繊維)と個体(繊維)間に形成されたものであ
って、固体中に気体を含む微小部分があるとはいえないし、また、固体(繊
維)の表面に気体を含んで丸くなったもの(泡)が形成されているともいえ
ないから、「気泡」を備える構成であるとはいえない。
15 したがって、不織布は、「連続気泡構造体」に該当しない。
ウ 原告の主張について
原告は、連続気泡構造において気泡は連続的につながっているから球形で
ある必要はない旨主張するが、連続的につながることで丸い形が維持されな
いことはあるとしても(乙7参照。なお、球形である必要はないと解される。)、
20 個々の気泡は飽くまで「気体を含んで丸くなったもの。泡(あわ)」であり、
被告製品の不織布において、固体(繊維)の内部はもちろん、固体(繊維)
の表面についても、そのような気泡が形成されることを認めるに足りる証拠
はない。
(3) 小括
25 よって、他の点につき検討するまでもなく、被告製品は「連続気泡構造体」
との構成を備えるものではなく、構成要件BないしEを充足しないから、本件
発明1の技術的範囲に属しない。原告の主張は、理由がない。
5 争点2―1(被告製品が、
「メッシュ状の連続格子構造体」
(構成要件Hないし
K)を備え、本件発明4の技術的範囲に属するか)について
(1) 「メッシュ状の連続格子構造体」について
5 ア 辞書的意味等
構成要件H等は、「メッシュ状の連続格子構造体の多孔質体」と規定する
ところ、
「メッシュ」の字義は、
「網の目。網目織」である(乙4の1)
。また、
証拠(甲20、21)及び弁論の全趣旨によれば、
「格子構造」とは「ラティ
ス構造」を指すものと認められる。
10 そして、
「ラティス構造」とは、
「枝状に分岐した格子を周期的に配置した
構造」、あるいは「周期的なパターンや配置を持つ立体構造」を意味し、これ
らからすると「周期性」はその構成要素であるといえる。
「格子」の字義は、
「細い角材を縦横、あるいはそのどちらかの方向に間を
すかして組んだもの」であり(乙4の1)、一般的には、規則性の強い構造が
15 想定されるものの、不規則なラティス構造というものも存在しており、例え
ば、以下のような構造図が例として挙げられる(甲20、21)。

(構造図)
これからすると、
「格子構造」あるいは「ラティス構造」の語の意義として
は、必ずしも規則性の強い構造のみを指すとは解されないものの、本件明細
20 書の【0053】には、
「メッシュ状の連続格子構造体は、連続気泡構造体の
多孔質体よりも規則正しい3次元構造である」旨の記載があることに照らす
と、本件発明4の「連続格子構造体」は、一定程度の規則正しい構造を備え
ていることは想定されているものと当業者は理解するというべきである。
イ 構成要件の解釈
上記の意義に加え、前記の本件発明4の特徴を考慮すると、「メッシュ状
の連続格子構造体」は、ダニを捕獲するための粘着層及びその外側のダニが
5 通過し得る粘着剤を含まない層を構成する部材として、一定の径と規則性・
周期性を持つ「格子」が「連続」する立体構造をもつ多孔質体をいうと解さ
れ、この構成が、本件発明4の課題解決手段として採用されたものと解され
る。
(2) 被告製品の構成について
10 被告製品に用いられる不織布の構造的特徴等は前記のとおりであるところ、
不織布の1本ごとに独立に分散された繊維が接着剤や熱による接着、あるいは
機械的な絡合によって形成された3次元の繊維集合体であって、多孔性で、繊
維間に微小な空隙を無数に有するという構造的特徴に照らすと、その構造に、
規則性や周期性があることはうかがわれない。
15 実際の被告製品の不織布について見ても、同不織布は、電子顕微鏡で観察す
ると別紙「被告製品の構造(認定)」の写真2のような構造を有しており、繊維
が複雑に絡み合っているところ、かかる構造に一定程度の規則性や周期性があ
ることを認めるに足りる証拠はない。また、上記構造が、ラティス構造の意義
における「枝状に分岐した格子」に当たるかは疑義があるし、仮にこれに当た
20 り得るとしても、少なくとも「周期的に配置した構造」あるいは「周期的なパ
ターンや配置を持つ立体構造」であると認めるに足りる証拠はない(原告自身、
被告製品の不織布の繊維はランダムに配向している旨主張している。)。
(3) 小括
以上によると、被告製品は、
「連続格子構造体」との構成(構成要件Hないし
25 K)を備えるとは認められない。この点に係る原告の主張は、理由がない。
6 争点3(「スポンジ状の連続気泡構造体」ないし「メッシュ状の連続格子構造
体」を「不織布」に置換した構成について、均等侵害が成立するか)について
(1) 第2要件(置換可能性)について
ア 本件各発明の特徴
本件各発明の作用効果(特徴)は、前記のとおり、従来の防ダニシートに
5 おいては、粘着シートが剥き出しで埃による粘着力の低下が早いことや、粘
着シートの表面が平面的(フラット)で、8本の足の一部を捕捉しても結局
ダニが離脱して逃走し得ることという課題があったことに対し、スポンジ状
の連続気泡構造体の多孔質体又はメッシュ状の連続格子構造体のメッシュ
構造体を用いた3次元構造体に粘着剤を含侵させて粘着層を3次元構造体
10 の外表面には露出せず内部に形成されるようにし、3次元構造粘着層の内部
に侵入したダニに対して、3次元的にあらゆる方向に粘着剤が含浸された構
造体が存在するようにして、あらゆる方向から粘着剤による捕捉を可能とし
て容易に逃走できないようにするという解決手段を提供した点にある。
イ 被告製品の不織布について
15 被告製品においては、前記のとおり、粘着層を覆う材料として不織布が用
いられ、樹脂シートの両面に粘着剤が加工(塗布)され、その上に不織布が
重層されている。上記の樹脂シートに加工(塗布)された粘着剤の厚さは、
片面につき50μm弱であり、同粘着剤は、その上に重層された不織布の厚
さ全体のうちの一部分に付着(移行)しており、付着部分の樹脂シートから
20 の厚さは、厚い部分で164.3μm程度である(粘着剤の厚さを含み、こ
れを除くと115μm程度である。)。
ウ 同一の作用効果を奏するか
本件発明1の「連続気泡構造体である多孔質体」ないし本件発明4の「連
続格子構造体である多孔質体」は、いずれもその「径」が「300~300
25 0μm」であるとされている。これは、
「イエダニは、ヒョウヒダニ、ケナガ
コナダニ、チリダニなどが主であり、これらのダニは成虫で300~500
μm程度である。」
(【0024】)であるなど、ダニの体長等を踏まえ、空隙
の幅を当該値にすることにより、あらゆる方向から粘着剤による捕捉を可能
としたものと解される。
前記のとおり、被告製品の不織布のうち粘着剤が付着した部分(本件各発
5 明における、3次元の「連続気泡構造体」又は「連続格子構造体」に粘着剤
を含浸した部分に相当すると解される。)の厚さ(115μm程度)は、ダニ
の成虫の大きさ(300~500μm程度)の3分の1ないし4分の1程度
にとどまることになる。このような構成は、
「3次元構造体」とは言い難く、
「3次元構造粘着層の内部に侵入したダニに対して、3次元的にあらゆる方
10 向に粘着剤が含浸された構造体が存在するようにして、あらゆる方向から粘
着剤による捕捉を可能として容易に逃走できないようにした」という本件各
発明の同一の作用効果を奏するものとは認められないというべきである。
エ 小括
以上のとおり、本件各発明における「連続気泡構造体」又は「連続格子構
15 造体」を、被告製品に用いられる不織布で置換した構成は、本件各発明と同
一の作用効果を奏するとはいえず、均等侵害の第2要件(置換可能性)は認
められない。
(2) 第3要件(置換容易性)について
不織布が、
「スポンジ状の連続気泡構造体」又は「メッシュ状の連続格子構造
20 体」に代わり得るダニ捕獲に適した3次元構造体であるか否かにつき、当業者
であればこれを認識し得たと認めるに足りる証拠はなく、当業者において、上
記置換を通常意図するものとは認められない。また、本件各発明における「3
00~3000μm」という3次元構造体の孔径につき、不織布においてこれ
を容易に調整可能であるかどうかは証拠上明らかでない。
25 したがって、上記の構成の置換につき、均等侵害の第3要件(置換容易性)
を認めることはできない。
(3) 小括
以上のとおり、被告製品に関して、本件各発明に対する均等侵害の成立を認
めることはできない。原告の主張は、理由がない。
第5 結論
5 以上の次第で、被告製品は、本件各発明の技術的範囲に属しないから、請求はい
ずれも理由がない。
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官
松 阿 彌 隆
裁判官島田美喜子及び裁判官阿波野右起は、転補のため署名押印することができない。

裁判長裁判官
松 阿 彌 隆

(別紙)
被告製品目録
1 名称
業務用ダニ捕獲シート
5 2 寸法
本体(幅×高さ×奥行) 140mm×200mm×5mm
シートサイズ 約120mm×160mm
3 重量
本体 10g
10 以 上

(別紙)
被告製品の構成(原告主張)
1 図面

① 立体構造の通過層
② 立体構造の粘着層
③ 粘着シート
2 具体的構成
構成a ダニを捕獲する立体構造のダニ捕獲シートである。
構成b 不織布を素材として、その繊維間に無数の微小な空隙を有する立体構造の
多孔質体であり、その孔径は300~3000μmである。その内部に粘着剤を
20 含まず、ダニが通過し得る立体構造の通過層が存在する。
構成c1 不織布を素材として、その繊維間に無数の微小な空隙を有する立体構造
の多孔質体であり、その孔径は300~3000μmである。その内部にダニ捕
獲用の粘着剤が含浸されて形成された立体構造の粘着層が存在する。
構成c2 表面に粘着剤を盛りつけた粘着シートが挿入されている。
25 構成d 構成c1の粘着層を内側に設け、その外側に隣接し合って連続して構成b
の通過層を設けた多層の連続多孔質体構造を備えている。
構成e 構成bの通過層の外表面から内部に入り込んだダニを通過させ、その外側
に連続した構成c1の粘着層でダニを捕獲する
構成f ことを特徴とする立体構造のダニ捕獲体である。
以 上

(別紙)
被告製品の構造(認定)
1 構造の観察
(写真1)構造



25 ※「供試品」とは被告製品を指す。
2 電子顕微鏡観察
(写真2)

15 (写真3)


3 粘着部厚みの観察
(写真4)樹脂シート(未使用品、不織布のない部分)

15 以 上
(別紙「特許公報」省略)

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