令和7(行ケ)10057審決取消請求事件
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| 裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
|
| 裁判年月日 |
令和8年5月19日 |
| 事件種別 |
民事 |
| 当事者 |
原告トヨタ紡織株式会社 被告株式会社三井ハイテック
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| 対象物 |
永久磁石の樹脂封止方法 |
| 法令 |
特許権
特許法17条の22回 特許法36条6項2号1回 特許法36条4項1号1回
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| キーワード |
審決45回 無効37回 分割32回 実施19回 進歩性8回 新規性4回 刊行物4回 無効審判3回 特許権2回 間接侵害1回 侵害1回
|
| 主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
| 事件の概要 |
本件は、原告が、特許権者である被告に対し、特許無効審判請求を不成立と
した審決の取消しを求める事案である。 |
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判決文
令和8年5月19日判決言渡
令和7年(行ケ)第10057号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和8年3月3日
判 決
原 告 ト ヨ タ 紡 織 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 黒 田 健 二
吉 村 誠
10 同訴訟代理人弁理士 平 田 忠 雄
中 村 恵 子
被 告 株式会社三井ハイテック
15 同訴訟代理人弁護士 鮫 島 正 洋
栁 下 彰 彦
杉 尾 雄 一
同訴訟代理人弁理士 山 口 高 志
主 文
20 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
特許庁が無効2020-800097号事件について令和7年4月28日に
25 した審決を取り消す。
第2 事案の概要
本件は、原告が、特許権者である被告に対し、特許無効審判請求を不成立と
した審決の取消しを求める事案である。
1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがないか、当裁判所に顕著な
事実)
5 ⑴ 被告は、平成17年1月24日に出願した特許出願(特願2005-15
860号。以下「最初の親出願」という。)の一部を分割した同年11月24
日の特許出願(特願2005-339116号。以下「第1世代の出願」と
いう。)を順次分割した平成21年9月14日の特許出願(特願2009-2
12139号。以下「第2世代の出願」という。)、平成23年10月13日
10 の特願2011-226055号。以下「第3世代の出願」という。)、平成
25年4月2日の特許出願(特願2013-76991号。以下「第4世代
の出願」という。)、平成26年2月3日の特許出願(特願2014-186
80号。以下「第5世代の出願」という。)、平成27年1月16日の特許出
願(特願2015-6922号。以下「原出願」という。)の一部を更に分割
15 して、平成28年3月2日、発明の名称を「永久磁石の樹脂封止方法」とす
る発明について、新たな特許出願(特願2016-40066号。以下「本
件出願」という。)をした。
被告は、平成29年2月9日付けで特許請求の範囲及び明細書について手
続補正(以下「本件補正」という。)をし、同年7月28日、特許権の設定登
20 録(特許第6180569号。請求項の数3。以下、この特許を「本件特許」
という。)を受けた。
⑵ 原告は、令和2年10月8日、本件特許の請求項1から3までの発明に係
る特許について、特許無効審判(無効2020-800097号事件。以下、
この審判手続を「本件審判手続」という。)を請求したところ、特許庁は、令
25 和3年10月22日、
「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下
「前件審決」という。)をした。
原告が、知的財産高等裁判所に対し、前件審決の取消しを求める旨の審決
取消訴訟を提起したところ、同裁判所は、令和5年9月20日、前件審決を
取り消す旨の判決(以下「前件判決」という。)をし、同判決は確定した。
⑶ 特許庁は、前件判決を受けて、上記⑵の特許無効審判事件の審理を再開し
5 た。被告は、令和6年11月8日、特許庁に対し、本件特許の特許請求の範
囲及び明細書を訂正する旨の訂正(以下「本件訂正」という。)を請求した。
特許庁は、令和7年4月28日、本件訂正を認めた上で、
「本件審判の請求
は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本
は、同年5月13日、原告に送達された。
10 ⑷ 原告は、同年6月11日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。
2 特許請求の範囲、明細書及び図面の記載
⑴ 本件特許の出願時(本件補正前)の特許請求の範囲
本件特許の出願時の特許請求の範囲の記載は、次のとおりである
(甲33)。
【請求項1】
15 複数枚の鉄心片が積層された回転子積層鉄心の複数の磁石挿入孔にそれぞ
れ永久磁石を挿入し、前記各磁石挿入孔に前記永久磁石を樹脂封止する方法
において、
前記回転子積層鉄心を、上型及び下型の間に配置して、前記下型及び前記
上型で前記回転子積層鉄心を押圧し、前記回転子積層鉄心の前記磁石挿入孔
20 に前記永久磁石を樹脂封止することを特徴とする回転子積層鉄心への永久磁
石の樹脂封止方法。
【請求項2】
請求項1記載の回転子積層鉄心への永久磁石の樹脂封止方法において、前
記下型を上昇させることによって、前記回転子積層鉄心を前記上型及び前記
25 下型によって押圧することを特徴とする回転子積層鉄心への永久磁石の樹脂
封止方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の回転子積層鉄心への永久磁石の樹脂封止方法におい
て、前記上型に前記磁石挿入孔に樹脂部材を押し込むポットが設けられてい
ることを特徴とする回転子積層鉄心への永久磁石の樹脂封止方法。
5 ⑵ 本件補正後(本件訂正前)の特許請求の範囲
本件補正後の特許請求の範囲の記載は、次のとおりである(下記下線部分
は、本件補正による補正箇所である。甲9)。
【請求項1】
複数枚の鉄心片が積層された回転子積層鉄心の複数の磁石挿入孔にそれぞ
10 れ永久磁石を挿入し、前記各磁石挿入孔に前記永久磁石を樹脂封止する方法
において、
前記回転子積層鉄心を、上型及び下型の間に配置して、前記上型及び前記
下型同士が当接することなく、前記下型及び前記上型で前記回転子積層鉄心
を押圧し、前記回転子積層鉄心の前記磁石挿入孔に前記永久磁石を樹脂封止
15 することを特徴とする回転子積層鉄心への永久磁石の樹脂封止方法。
【請求項2】
請求項1記載の回転子積層鉄心への永久磁石の樹脂封止方法において、前
記下型を上昇させることによって、前記回転子積層鉄心を前記下型及び前記
上型によって押圧することを特徴とする回転子積層鉄心への永久磁石の樹脂
20 封止方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の回転子積層鉄心への永久磁石の樹脂封止方法におい
て、前記上型に前記磁石挿入孔に樹脂部材を押し込むポットが設けられてい
ることを特徴とする回転子積層鉄心への永久磁石の樹脂封止方法。
25 ⑶ 本件訂正後の特許請求の範囲
本件訂正後の特許請求の範囲の記載は、次のとおりである(以下、本件訂
正後の特許請求の範囲の請求項1から3までに係る発明をそれぞれ「本件訂
正発明1」などといい、これらをまとめて「本件各訂正発明」という。なお、
下記下線部分は、本件訂正による訂正箇所であり、これらの訂正を順に「訂
正事項1」などという。甲87)。
5 【請求項1】
複数枚の鉄心片が積層され、中央に軸孔を有する回転子積層鉄心の複数の
磁石挿入孔にそれぞれ永久磁石を挿入し、前記各磁石挿入孔に前記永久磁石
を樹脂封止する方法において、
前記回転子積層鉄心の下面が当接するトレイ部と、前記トレイ部の中心部
10 に立設され、前記回転子積層鉄心の前記軸孔に嵌入するガイド部材とを有す
る搬送トレイに載せた前記回転子積層鉄心を、前記回転子積層鉄心を収容す
る有底穴部のない下型上に搬送し、上型及び下型の間に配置して、前記上型
及び前記下型同士が当接することなく、前記下型及び前記上型で前記回転子
積層鉄心を押圧し、前記回転子積層鉄心の前記磁石挿入孔に前記永久磁石を
15 樹脂封止し、その後、前記搬送トレイを前記回転子積層鉄心と共に前記下型
から取り外し、前記回転子積層鉄心が前記搬送トレイから取り外されること
を特徴とする回転子積層鉄心への永久磁石の樹脂封止方法。
【請求項2】
請求項1記載の回転子積層鉄心への永久磁石の樹脂封止方法において、前
20 記下型を上昇させることによって、前記回転子積層鉄心を前記下型及び前記
上型によって押圧することを特徴とする回転子積層鉄心への永久磁石の樹脂
封止方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の回転子積層鉄心への永久磁石の樹脂封止方法におい
25 て、前記上型に前記磁石挿入孔に樹脂部材を押し込むポットが設けられてい
ることを特徴とする回転子積層鉄心への永久磁石の樹脂封止方法。
⑷ 本件訂正後の明細書及び図面
本件訂正後の明細書及び図面(以下、併せて「本件訂正明細書」という。)
の記載は、本件訂正に係る訂正請求書添付の訂正明細書(甲87)及び本件
特許に係る特許公報(甲69)に記載のとおりである(以下、その段落番号
5 等を【】で示す。また、本件訂正前の明細書及び図面を併せて「本件訂正前
明細書」という。)。
本件訂正による訂正箇所は、本件訂正前明細書の段落【0009】を、
「前
記目的に沿う本発明に係る永久磁石の樹脂封止方法は、複数枚の鉄心片が積
層され、中央に軸孔を有する回転子積層鉄心の複数の磁石挿入孔にそれぞれ
10 永久磁石を挿入し、前記各磁石挿入孔に前記永久磁石を樹脂封止する方法に
おいて、前記回転子積層鉄心の下面が当接するトレイ部と、前記トレイ部の
中心部に立設され、前記回転子積層鉄心の前記軸孔に嵌入するガイド部材と
を有する搬送トレイに載せた前記回転子積層鉄心を、前記回転子積層鉄心を
収容する有底穴部のない下型上に搬送し、上型及び下型の間に配置して、前
15 記上型及び前記下型同士が当接することなく、前記下型及び前記上型で前記
回転子積層鉄心を押圧し、前記回転子積層鉄心の前記磁石挿入孔に前記永久
磁石を樹脂封止し、その後、前記搬送トレイを前記回転子積層鉄心と共に前
記下型から取り外し、前記回転子積層鉄心が前記搬送トレイから取り外され
る。」に訂正するものである(下線部が本件訂正による訂正箇所であり、この
20 訂正を「訂正事項5」という。甲87)。
3 本件審決の判断の要旨
本件審決は、本件訂正につき訂正要件を全て満たすとしてこれを認めた上、
要旨、次のとおり判断した。
⑴ 本件出願の分割要件違反を前提とする新規性又は進歩性の欠如の無効理由
25 (無効理由1、2)につき、本件各訂正発明は、最初の親出願、第1世代か
ら第5世代までの分割出願及び原出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲
又は図面(以下、併せて「明細書等」という。)に記載されていたといえるか
ら、本件出願は分割要件に違反せず、本件特許の出願日は、最初の親出願の
出願日である平成17年1月24日にしたものとみなされ、甲1(特許第3
786946号公報。発行日は平成18年6月21日。)に記載された発明(以
5 下「甲1発明」という。)は、本件特許の出願前に頒布された刊行物に記載さ
れた発明とはいえないから、本件各訂正発明は、本件特許の出願前に頒布さ
れた刊行物に記載された発明であるとはいえず、また、本件特許の出願前に
頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をするこ
とができたものともいえない。
10 ⑵ 進歩性欠如の無効理由(無効理由3)につき、本件各訂正発明は、甲5(特
開2001-157394号公報)に記載された発明(以下「甲5発明」と
いう。)に、甲2(特開平5-278079号公報)に記載された技術事項及
び周知技術を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができた
ものとはいえない。
15 ⑶ 補正要件違反の無効理由(無効理由4)につき、本件補正で追加された「前
記上型及び前記下型同士が当接することなく、」という事項は、出願当初の明
細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
⑷ 実施可能要件違反の無効理由(無効理由5)につき、本件訂正明細書の発
明の詳細な説明には、この発明を当業者が過度の試行錯誤を要することなく、
20 実施することができる程度に記載されている。
⑸ サポート要件違反の無効理由(無効理由6)につき、本件各訂正発明は、
本件訂正明細書の発明の詳細な説明において、当業者が出願時の技術常識も
照らして、当該発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものでは
なく、発明の詳細な説明に記載したものである。
25 ⑹ 明確性要件違反の無効理由(無効理由7)につき、本件特許の特許請求の
範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほど不明確であるとはいえな
い。
第3 当事者の主張
1 取消事由1(訂正要件違反)
⑴ 原告の主張
5 本件審決は、本件訂正は訂正要件を満たしているとして、本件訂正を認め
たが、以下のとおり誤りである。
ア 訂正事項2から4までは、訂正前の請求項にはなかった新たな工程を追
加する訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に
該当する訂正であるため、特許請求の範囲の減縮を目的とするものとは認
10 められない。
イ 訂正事項3の「前記回転子積層鉄心を、前記回転子積層鉄心を収容する
有底穴部のない下型上に搬送し、」という発明特定事項は、本件訂正前の明
細書等には記載されておらず、新たな技術的事項を導入するものであるか
ら、新規事項の追加に該当する。
15 ウ 訂正事項2から4までが訂正要件を満たさないのと同様の理由により、
訂正事項5も訂正要件を満たさない。
⑵ 被告の主張
ア 訂正事項2から4までが実質上特許請求の範囲を拡張又は変更する訂正
に該当するものでないとの本件審決の認定に誤りはない。
20 イ 訂正事項3の「前記回転子積層鉄心を、前記回転子積層鉄心を収容する
有底穴部のない下型上に搬送し、」という発明特定事項は、本件訂正前の明
細書等に記載されており、新たな技術的事項を導入するものではないとの
本件審決の認定に誤りはない。
2 取消事由2(サポート要件違反・無効理由6)
25 ⑴ 原告の主張
本件審決は、サポート要件違反の無効理由(無効理由6)につき、本件各
訂正発明は、本件訂正明細書の発明の詳細な説明において、当業者が出願時
の技術常識も照らして、当該発明の課題を解決できると認識できる範囲を超
えるものではなく、発明の詳細な説明に記載したものである旨判断したが、
以下のとおり誤りである。
5 ア 本件審決が認定する
「回転子積層鉄心12を入れる有底穴部のない下型」
であっても、依然として、回転子積層鉄心を下型から取り出す作業の作業
性が悪いという課題は解決できない。
イ 「収容」の意味からすれば、
「回転子積層鉄心を収容する有底穴部のない
下型」は、
「回転子積層鉄心を入れる有底穴部のない下型」とは同義ではな
10 く、下型に有底穴部を有するが、上面から回転子積層鉄心がはみ出してい
る構成を含むところ、これでは回転子積層鉄心を下型から取り出す作業の
作業性が悪いという本件各訂正発明の課題は解決できない。仮に、
「収容」
の意味について、対象となる物品が、一定の範囲からはみ出している状態
をも含めたものと理解されるとしても、回転子積層鉄心を下型から取り出
15 す作業の作業性が悪いという課題を解決するためには、回転子積層鉄心の
みならず、搬送トレイも有底穴部のない下型上に配置されることが必要で
あり、
「前記回転子積層鉄心を、前記回転子積層鉄心を収容する有底穴部の
ない下型上に搬送し、」と特定したのみでは上記課題は解決できない。
ウ 回転子積層鉄心を下型から取り出す作業の作業性が悪いという課題を解
20 決するためには、少なくとも、
「一枚の平板からなる下型」であることが必
要である。
エ 「搬送トレイ」の形状が特定されておらず、また、
「搬送トレイを回転子
積層鉄心と共に下型から取り外す」方法、
「搬送トレイ」から「回転子積層
鉄心」を取り外す方法が特定されていないため、課題を解決することがで
25 きると認識することができない。
オ 原告は、本件審判手続において、本件訂正発明1の「前記上型及び下型
同士が当接することなく」、
「下型及び上型で回転子積層鉄心を押圧し」、
「上
型」という発明特定事項について、サポート要件違反の無効理由があると
主張したが、本件審決は、この点についての判断を一切しておらず、判断
に遺漏がある。
5 ⑵ 被告の主張
前件判決の判示内容に従った本件訂正により、本件各訂正発明は、本件訂
正明細書の発明の詳細な説明に記載された発明となった。本件審決の認定は
前件判決の認定に従うものであるから、サポート要件違反はないとする本件
審決の認定に誤りはない。
10 3 取消事由3(分割要件違反を前提とする甲1に基づく新規性の判断の誤り・
無効理由1)
⑴ 原告の主張
本件審決は、本件出願は、最初の親出願からの分割要件を全て満たしてい
るから、本件特許の出願日は、最初の親出願の出願日に遡及し、平成17年
15 1月24日となるとした上で、甲1は、平成18年6月21日に公開された
ものであるから、本件各訂正発明は、本件特許の出願日前に頒布された刊行
物に記載された発明ではないとして、甲1に基づく新規性欠如の原告の主張
は理由がない旨判断したが、以下のとおり、本件審決の判断は誤りである。
ア 最初の親出願の出願当初の明細書等(甲13)から導かれる技術的事項
20 としては、従来技術である、上型に形成された1つの樹脂供給穴部より分
岐した複数の注入穴部を介して、積層鉄心の注入用穴部を経由して磁石挿
入孔に注入されるので、樹脂部材を各磁石挿入孔に均等に充填することが
困難という課題を解決するために、上型に、複数の磁石挿入孔に応じて同
数のポットを設け、ポットと同数のプランジャーで溶けた樹脂部材をポッ
25 トから押し出して、分岐のない樹脂流路により磁石挿入孔に充填すること
により、
「樹脂封止が確実に行われると共に、簡単な工程で、短時間に行う
ことができ、生産性及び作業性に優れており、安価に作業ができる」とい
うものであるところ、本件各訂正発明は、少なくとも、①複数の磁石挿入
孔と同数のポット内の樹脂部材を、ポットと同数のプランジャーでポット
から押し出すという構成以外の構成も含み、②上型に形成された樹脂供給
5 穴部より分岐した複数の注入穴部を有する構成を含むことになり、これら
は最初の親出願の出願当初の明細書等に記載されていない新たな技術的事
項を追加するものである。
イ 最初の親出願の出願当初の明細書等には、
「搬送トレイ16に載せた回転
子積層鉄心12を、該回転子積層鉄心12を収容する有底穴部のない下型
10 17上に搬送すること」及び「上型21及び下型17同士が当接すること
なく、下型17及び上型21で回転子積層鉄心12を押圧すること」が記
載されていない。
ウ 第7世代目の分割出願である本件出願が分割要件を満たすためには、少
なくとも原出願が、もとの出願との関係で分割の要件を満たし、かつ、本
15 件出願が最初の親出願の出願当初の明細書等に記載した事項の範囲内のも
のであること、という要件を満たさなければならないところ、少なくとも
原出願が分割要件に違反するから、原出願からの分割出願である本件出願
も分割要件に違反する。
⑵ 被告の主張
20 分割要件の適否は、分割出願の明細書等に記載された事項が最初の親出願、
第1世代から5世代までの分割出願及び原出願の出願当初の明細書等に記載
されているか否かによって判断され、分割出願が新たな技術的事項を導入す
るものでない場合には当該分割出願は適法なものとして認められる。そして、
最初の親出願の出願当初の明細書等に記載されているか否かの判断は、記載
25 されている事項そのもののみならず、当業者によって明細書又は図面の全て
の記載を総合することにより導かれる技術的事項も含めて検討されることに
なる。しかるに、原告の主張はその内容を論じるものとなってはおらず、分
割要件違反を主張するものとはなっていないから失当である。
4 取消事由4(分割要件違反を前提とする甲1に基づく進歩性の判断の誤り・
無効理由2)
5 ⑴ 原告の主張
取消事由3に係る原告の主張と同様である。
⑵ 被告の主張
取消事由3に係る被告の主張と同様である。
5 取消事由5(進歩性判断の誤り・無効理由3)
10 ⑴ 原告の主張
本件審決は、甲5発明に、甲2に記載された事項及び周知技術を考慮して
も、当業者が容易に発明をすることができたとはいえないとして、甲5に基
づく本件各訂正発明の進歩性欠如の主張は理由がない旨判断したが、以下の
とおり、本件審決の判断は誤りである。
15 ア 本件審決は、甲5発明として、
「 複数枚の第1及び第2の板状磁性部材1、
2が積層され、中心部に軸用穴部1c、2cが配置された積層鉄心3の複
数の磁石用穴部1a、2aにそれぞれ永久磁石A4a、B4b、C4cを
挿入し、前記各磁石用穴部1a、2aに前記永久磁石A4a、B4b、C
4cを熱可塑性樹脂でなる樹脂部材5で樹脂封止する方法において、前記
20 積層鉄心3を下型9の有底穴部9a内に嵌挿し、上型8を前記下型9の上
部に載置し、締付治具により前記上型8および前記下型9を固着し、前記
積層鉄心3の前記磁石用穴部1a、2aに前記永久磁石A4a、B4b、
C4cを樹脂封止し、次いで、前記締付治具を緩めて前記上型8を外し、
前記積層鉄心3を前記下型9から取り出す磁石埋込型回転子の製造方法。」
25 と認定したが、
「前記積層鉄心3を下型9の有底穴部9a内に嵌挿し、上型
8を前記下型9の上部に載置し、」との部分は、「前記積層鉄心3を、下型
9の有底穴部9a内に嵌挿し、上型8と下型9の間に配置し、」と認定され
るべきである。
イ 本件審決は、本件訂正発明1と甲5発明の相違点として、回転子積層鉄
心を上型及び下型の載置面の間に配置していること、永久磁石を樹脂封止
5 する際の上型及び下型の関係、及び回転子積層鉄心を下型から取り外すこ
とに関して、本件訂正発明1は、
「前記回転子積層鉄心の下面が当接するト
レイ部と、前記トレイ部の中心部に立設され、前記回転子積層鉄心の前記
軸孔に嵌入するガイド部材とを有する搬送トレイに載せた前記回転子積層
鉄心を、前記回転子積層鉄心を収容する有底穴部のない下型上に搬送し、
10 上型及び下型の間に配置して」、「前記上型及び前記下型同士が当接するこ
となく、前記下型及び前記上型で前記回転子積層鉄心を押圧し」、「前記搬
送トレイを前記回転子積層鉄心と共に前記下型から取り外し、前記回転子
積層鉄心が前記搬送トレイから取り外される」のに対し、甲5発明は、
「積
層鉄心3を下型9の有底穴部9a内に嵌挿し、上型8を前記下型9の上部
15 に載置し、締付治具により前記上型8および前記下型9を固着し」ており、
積層鉄心3が搬送トレイに載せられていない点」と認定したが、以下の3
つの相違点と認定すべきである。
相違点1:本件訂正発明1が「前記回転子積層鉄心の下面が当接するト
レイ部と、前記トレイ部の中心部に立設され、前記回転子積
20 層鉄心の前記軸孔に嵌入するガイド部材とを有する搬送トレ
イに載せた前記回転子積層鉄心を、前記回転子積層鉄心を収
容する有底穴部のない下型上に搬送し」ているのに対し、甲
5発明は、
「積層鉄心3を、下型9の有底穴部9a内に嵌挿し」
ており、「前記回転子積層鉄心の下面が当接するトレイ部と、
25 前記トレイ部の中心部に立設され、前記回転子積層鉄心の前
記軸孔に嵌入するガイド部材とを有する搬送トレイ」を有し
ているか明らかでない点
相違点2:本件訂正発明1が、
「前記上型及び前記下型同士が当接するこ
となく、前記下型及び前記上型で前記回転子積層鉄心を押圧
し」ているのに対し、甲5発明は、
「締付治具により前記上型
5 8および前記下型9を固着し」ている点
相違点3:本件訂正発明1が、「前記搬送トレイを前記回転子積層鉄心
と共に前記下型から取り外し、前記回転子積層鉄心が前記搬
送トレイから取り外される」のに対し、甲5発明は、かかる
構成を有しているか明らかでない点
10 ウ 甲5発明には、搬送トレイを用いて、搬送トレイを回転子積層鉄心と共
に取り外すことが開示されているに等しいか、又は、甲5発明において、
搬送トレイを用いて、搬送トレイを回転子積層鉄心と共に取り外すことも、
当業者が適宜選択できるから、本件訂正発明1は、甲5発明、甲2に記載
された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることがで
15 きたものである。
⑵ 被告の主張
ア 本件審決による甲5発明の認定は、甲5の記載から素直に認定している
にすぎず、誤りはない。
イ 原告は、本件審決の相違点の認定について、複数の相違点をひとまとま
20 りの相違点であると認定していることを誤りであると主張するが、いかな
る理由に基づいて誤っているかを主張していないので失当である。
ウ 進歩性における「相違点にかかる構成を当業者が容易に想到できた」と
いうためには、甲5発明において相違点に係る発明特定事項を当業者が容
易に想到できたことを主張、立証しなければならないところ、原告はその
25 ような主張をしていないから失当である。
6 取消事由6(新規事項追加・無効理由4)
⑴ 原告の主張
本件審決は、本件補正で追加された「前記上型及び前記下型同士が当接す
ることなく、」という記載に係る補正は、本件出願の願書に最初に添付した明
細書、特許請求の範囲又は図面(以下、上記明細書と図面を併せて「本件当
5 初明細書」という。甲33)に記載した事項の範囲内においてしたものと認
められるから、新規事項の追加に当たらず、特許法17条の2第3項に規定
する要件に適合する旨判断したが、以下のとおり、本件審決の判断は誤りで
ある。
ア 本件当初明細書の発明の詳細な説明には、いかなる場合であっても、
「上
10 型及び下型同士が当接することなく、下型及び上型で回転子積層鉄心を押
圧する」ことについて、明示的な記載や上記の上型及び下型の構造や動作
を示唆する記載もなく、
「上型及び下型が当接しないこと」の作用・効果に
ついても記載がない。また、本件当初明細書の下型が上昇限位置でプラン
ジャーが下降限位置にある場合の要部拡大図である図5及び図6の記載を
15 参照すると、キャビティブロック74の円形溝76の内側面と搬送トレイ
16のガイド部材27の先端部の外側面が当接している状態が示されてい
ることは明らかである。すなわち、上型21と下型17は、キャビティブ
ロック74と搬送トレイ16を介して間接的に当接している。したがって、
「前記上型及び前記下型同士が当接することなく、」という限定を追加する
20 本件補正は、新たな技術的事項を導入するものである。
イ 本件審決は、本件当初明細書の図1を根拠として、回転子積層鉄心12
が押し付けられる際、下型17と上型21とは当接していないことが把握
できると判断したが、同図は概念図にすぎないから、同図を根拠にした判
断には誤りがある。
25 ⑵ 被告の主張
本件審決は、本件当初明細書の図1の記載に基づき、
「下型17と上型21
とは当接していないことが把握できる」と認定しているのであり、まさに「願
書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面…に記載した事項の範
囲内において」補正がなされていることを認定しているものであるから、特
許法17条の2第3項の規定に沿ってなされた認定であり、誤りはない。
5 7 取消事由7(実施可能要件違反・無効理由5)
⑴ 原告の主張
本件審決は、本件訂正明細書の発明の詳細な説明には、この発明を当業者
が過度の試行錯誤を要することなく、実施することができる程度に記載され
ているから、特許法36条4項1号に規定する要件に適合する旨判断したが、
10 以下のとおり、本件審決の判断は誤りである。
ア 「上型及び下型同士が当接しないこと」と「下型及び上型で回転子積層
鉄心を押圧すること」の技術的手段の相互関係が出願時の技術常識に基づ
いても当業者が理解できない。
イ 発明の詳細な説明に、請求項に記載された上位概念(「前記上型及び下型
15 同士が当接することなく」、
「下型及び上型で回転子積層鉄心を押圧し」、
「上
型」)に含まれる一部の下位概念についての実施例のみが記載されており、
他の下位概念について実施可能に記載されていない。
ウ 「回転子積層鉄心の取り出し」について、本件訂正明細書の記載や技術
常識から認めることができず、過度の試行錯誤を要することなく、本件各
20 訂正発明を実施することができない。
⑵ 被告の主張
実施可能要件は、当業者が、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載及
び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その
発明を実施することができる程度の記載があるかどうかによって判断される
25 ところ、本件審決は、これに従って認定しているから、誤りはない。
8 取消事由8(明確性要件違反・無効理由7)
⑴ 原告の主張
本件審決は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえ
ず、記載は明確である旨判断したが、以下に述べるとおり本件各訂正発明は
明確性要件(特許法36条6項2号所定の要件)に適合しないから、誤りで
5 ある。
ア 本件訂正発明1において、
「上型」の技術的意味(発明において果たす働
きや役割)を理解するための事項が不足している。
イ 本件訂正発明1の「当接することなく」という表現によって除かれる前
の発明の範囲が明確でなく、かつ、
「当接することなく」という表現によっ
10 て除かれる部分の範囲が明確でない。
ウ 本件訂正発明1の「前記回転子積層鉄心を収容する有底穴部のない」と
いう表現によって除かれる部分の範囲が明確でない。
エ 本件訂正発明1の「前記上型及び前記下型同士が当接することなく」と
いう発明特定事項と、
「前記下型及び前記上型で前記回転子積層鉄心を押圧
15 し、」という発明特定事項の関係が明らかではないため、不明確である。
オ 本件訂正発明1の「回転子積層鉄心を収容する」という発明特定事項が、
回転子積層鉄心が有底穴部からはみ出している部分を有するのか否か、ま
た、回転子積層鉄心が有底穴部からはみ出している部分を有するものとし
てもどの程度はみ出しているものまで含むのかが不明確である。
20 ⑵ 被告の主張
明確性要件は、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請
求の範囲の記載だけではなく、明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業
者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第
三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断
25 すべきところ、第三者にとって不明確な表現は存在しないから、本件審決に
誤りはない。
第4 当裁判所の判断
1 本件各訂正発明の概要
本件訂正後における本件特許の特許請求の範囲及び本件訂正明細書の記載
(前記第2の2⑶及び⑷)によると、本件各訂正発明の概要は、以下のとおり
5 であると認められる。
⑴ 本件各訂正発明は、複数の鉄心片が積層された回転子積層鉄心に形成され
た複数の磁石挿入孔に挿入された永久磁石を、樹脂部材を磁石挿入孔に注入
して固定する永久磁石の樹脂封止方法に関するものである(【0001】)。
⑵ 従来、永久磁石を積層鉄心に樹脂封止により固定する方法として、複数枚
10 の鉄心片が打抜きかしめ等により固着一体化して積層され、永久磁石を挿入
するための磁石挿入孔が外周部に複数形成されるとともに、封止樹脂を注入
するための注入用穴部が複数形成された積層鉄心を、下型の有底穴部に嵌挿
し、磁石挿入孔に永久磁石を挿入した後、注入用穴部に符合する位置に注入
穴部が形成された上型を、注入穴部が注入用穴部に一致するように下型の上
15 端に載置し、下型と上型を締結手段により固定した状態で、上型の注入穴部
に連通する樹脂供給穴部から所定の圧力で樹脂部材を供給して樹脂部材を磁
石挿入孔に充填して、その後、加熱手段により積層鉄心を加熱することによ
り、樹脂部材を硬化させて永久磁石を積層鉄心に固定するようになっている
方法が知られていた(【0002】)。
20 しかし、樹脂部材を磁石挿入孔に充填する際、上型に形成された樹脂供給
穴部及び当該樹脂供給穴部より分岐した複数の注入穴部を介して、積層鉄心
の注入用穴部を経由して磁石挿入孔に注入されるので、樹脂部材を各磁石挿
入孔に均等に充填することが困難であり、信頼性に劣り、しかも、樹脂部材
を供給するポンプは大きな供給圧力を必要とし、装置が高価なものとなった
25 こと(以下「従来技術の問題1」という。)、また、積層鉄心を下型の有底穴
部に嵌挿し、加熱後、積層鉄心を下型の有底穴部から取り出す作業は、人手
又は機械によっても、時間を要するもので、作業性が極めて悪いこと(以下
「従来技術の問題2」という。)という2つの問題があった(【0004】)。
⑶ 本件各訂正発明は、生産性及び作業性に優れ、安価に作業ができる永久磁
石の樹脂封止方法を提供することを課題とするものである(【0005】)。
5 本件各訂正発明は、その課題解決手段として、複数枚の鉄心片が積層され、
中央に軸孔を有する回転子積層鉄心の複数の磁石挿入孔にそれぞれ永久磁石
を挿入し、前記各磁石挿入孔に前記永久磁石を樹脂封止する方法において、
前記回転子積層鉄心の下面が当接するトレイ部と、前記トレイ部の中心部に
立設され、前記回転子積層鉄心の前記軸孔に嵌入するガイド部材とを有する
10 搬送トレイに載せた前記回転子積層鉄心を、前記回転子積層鉄心を収容する
有底穴部のない下型上に搬送し、上型及び下型の間に配置して、前記上型及
び前記下型同士が当接することなく、前記下型及び前記上型で前記回転子積
層鉄心を押圧し、前記回転子積層鉄心の前記磁石挿入孔に前記永久磁石を樹
脂封止し、その後、前記搬送トレイを前記回転子積層鉄心と共に前記下型か
15 ら取り外し、前記回転子積層鉄心が前記搬送トレイから取り外されるという
構成を有するものである(【0009】)。
⑷ この構成により、複数の鉄心片が積層された回転子積層鉄心に形成された
複数の磁石挿入孔に挿入された永久磁石を、樹脂部材を磁石挿入孔に注入し
て固定する際、上型及び下型により回転子積層鉄心を押圧し、樹脂部材を磁
20 石挿入孔に充填することによって、樹脂封止が確実に行われるとともに、簡
単な工程で、短時間に行うことができ、生産性及び作業性に優れており、安
価に作業ができるという効果を奏するものである(【0011】)。
2 取消事由1(訂正要件違反)について
⑴ア 原告は、訂正事項2から4までは、訂正前の請求項にはなかった新たな
25 工程を追加する訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更す
る訂正に該当する訂正であるため、特許請求の範囲の減縮を目的とするも
のとは認められないと主張する。
前記第2の2⑶において認定したとおり、訂正事項2は、本件訂正前は
回転子積層鉄心を載せるものに関する特段の限定がなかったのに対し、
「前
記回転子積層鉄心の下面が当接するトレイ部と、前記トレイ部の中心部に
5 立設され、前記回転子積層鉄心の前記軸孔に嵌入するガイド部材とを有す
る搬送トレイに載せた」ものであることを限定するもの、訂正事項3は、
本件訂正前は下型上への搬送に関する特段の限定がなかったのに対し、
「前
記回転子積層鉄心を収容する有底穴部のない下型上に搬送し」て、配置す
るものと限定するもの、訂正事項4は、本件訂正前は「前記回転子積層鉄
10 心を、上型及び下型の間に配置して、前記上型及び前記下型同士が当接す
ることなく、前記下型及び前記上型で前記回転子積層鉄心を押圧し、前記
回転子積層鉄心の前記磁石挿入孔に前記永久磁石を樹脂封止する」ことが
特定されていたのに対し、前記のとおり、訂正事項2及び訂正事項3によ
り搬送トレイに係る限定がされたことを受けて、当該特定に加えて、
「その
15 後、前記搬送トレイを前記回転子積層鉄心と共に前記下型から取り外し、
前記回転子積層鉄心が前記搬送トレイから取り外される」ことを特定する
ものであるから、いずれも新たな工程を追加するものではなく、特許請求
の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
イ これに対し、原告は、本件訂正発明1が、課題を解決するために不可欠
20 な構成を備えないことによる無効理由6を有する発明を、課題を解決する
ために不可欠な構成を加えることによって無効理由6を有さない発明に訂
正することを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、
又は変更するものに該当すると主張する。
しかし、訂正前の特許請求の範囲の請求項に記載された事項に、課題を
25 解決するための手段が十分に特定されておらず、課題を解決できない発明
も含まれていた場合、特許請求の範囲を減縮する訂正により、訂正後の請
求項の記載において、課題を解決するための手段を十分に特定し、課題を
解決できる発明のみとすることは、実質上特許請求の範囲を拡張するもの
でも、変更するものでもない。
また、原告は、訂正事項2から4までは、搬送トレイを構成要素として
5 含んでおり、搬送トレイについて間接侵害が成立することになるほか、カ
テゴリーを変更する訂正となるため、第三者に不測の損害を与えることに
なるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当する
と主張する。
しかし、本件訂正前明細書の記載によると、従来技術の問題2を解決す
10 るための手段として、搬送トレイを不可欠の構成としていると解されると
ころ、従来技術の問題2を解決する本件訂正発明1が当該不可欠な構成で
ある搬送トレイを備えているであろうことは第三者も理解するのであるか
ら、本件訂正により、本件訂正発明1が搬送トレイを構成要素として含ん
だとしても、第三者に不測の損害を与えることになるとはいえない。また、
15 本件訂正の前後の発明は、いずれも「回転子積層鉄心への永久磁石の樹脂
封止方法」についての発明であることに変わりはなく、発明のカテゴリー
が変更する訂正ということはできない。
⑵ア 原告は、訂正事項3の「前記回転子積層鉄心を、前記回転子積層鉄心を
収容する有底穴部のない下型上に搬送し、」という発明特定事項は、新たな
20 技術的事項を導入するものであるから、新規事項の追加に該当すると主張
する。
本件訂正前明細書によると、永久磁石を積層鉄心に樹脂封止により固定
する方法において、従来は、積層鉄心を下型の有底穴部に嵌挿していたた
め、積層鉄心を下型の有底穴部から取り出す作業の作業性が極めて悪いと
25 いう課題を有していたことから、生産性及び作業性に優れており、安価に
作業ができる永久磁石の樹脂封止方法を提供することを目的として当該発
明がされたことが記載されており(【0002】、
【0004】、
【0005】)、
下型17には、回転子積層鉄心12を入れる(嵌挿する)有底穴部が示さ
れていない構成が図示されている(【図1】、
【図7】、
【図10】)。かかる構
成によれば、搬送トレイ16に載せた回転子積層鉄心12を下型17上に
5 搬送・配置するに際し、回転子積層鉄心12が下型17に入らないことか
ら、下型17と搬送トレイ16に載せた回転子積層鉄心12の分離が容易
であることは明らかであり、従来の、積層鉄心を下型の有底穴部から取り
出す作業の作業性が極めて悪いという課題が解決されることが理解できる。
そうすると、上記課題を解決するために、搬送トレイ16に載せた回転子
10 積層鉄心12を、当該回転子積層鉄心12を入れる(嵌挿する)有底穴部
のない下型17上に搬送することが、本件訂正前の明細書等に開示されて
いるものといえるから、訂正事項3の「前記回転子積層鉄心を、前記回転
子積層鉄心を収容する有底穴部のない下型上に搬送し、」という発明特定事
項が、新たな技術的事項を導入するものということはできない。
15 イ これに対し、原告は、本件訂正前の明細書等には、搬送トレイが配置さ
れる表面に凹凸のない一枚の平板からなる下型のみが開示されているにす
ぎないと主張する。
しかし、本件訂正前明細書には、
「回転子積層鉄心を入れる有底穴部のな
い下型」が開示されており、これにより、積層鉄心を下型の有底穴部から
20 取り出す作業の作業性が極めて悪いという課題が解決できることは、上記
のとおりであるから、搬送トレイが配置される表面に凹凸のない一枚の平
板からなる下型のみが開示されているにすぎないということはできない。
また、原告は、
「収容」とは、特定の範囲の場所にしまう対象となる人や
物品の全てがおさめ入れられ、当該人や物品がはみ出すことはないとの意
25 味であるから、
「収容」と「入れる」とは同義ではなく、本件審決が、これ
を同義に理解したことは誤りであると主張する。
しかし、「収容」という用語の意味については、「人や物品を一定の場所
におさめ入れること。」(広辞苑(第七版)1389頁・甲68)、「おさめ
いれること。」(新選国語辞典(改訂新版)441頁・甲91)、「人や物品
をおさめいれること。」(日本国語大辞典(第二版)1313頁・甲92)
5 と記載されており、さらに、
「おさめ」るという用語の意味については、
「物
を特定の場所に入れる。しまう。」
(広辞苑(第七版)409頁・甲90)、
「しかるべき所にしまう。」(大辞林(第二版)339頁・甲45)、「しま
う。なかへ入れる。」
(新選国語辞典(改訂新版)120頁・甲91)、
「(品
物、農作物などを)ある場所にしまう。」(日本国語大辞典(第二版)11
10 19頁・甲92)などと記載されている。そして、本件訂正前明細書に「嵌
挿」
(【0004】。挿入して嵌めること・甲34)との用語が用いられてい
ることを併せ考慮すると、
「収容」については、物を一定の場所に入れるこ
とを意味しており、物が一定の場所からはみ出ていないことまでを意味す
るものとは解されないから、原告の主張は前提を欠くものである。
15 ⑶ 以上のとおり、訂正事項2から4まではいずれも訂正要件を満たすから、
原告の主張は採用することができない。そして、訂正事項2から4までが訂
正要件を満たさないのと同様の理由により訂正事項5が訂正要件を満たさな
いとする原告の主張も、同様にして採用することができない。
3 取消事由2(サポート要件違反・無効理由6)について
20 ⑴ 原告は、本件審決が認定する「回転子積層鉄心12を入れる有底穴部のな
い下型」であっても、依然として、回転子積層鉄心を下型から取り出す作業
の作業性が悪いという課題は解決できないと主張する。
しかし、
「回転子積層鉄心12を入れる有底穴部のない下型」という構成に
よって、回転子積層鉄心を下型から取り出す作業の作業性が悪いという課題
25 が解決できることは、前記2⑵アに判示したとおりである。
⑵ 原告は、
「収容」の意味からすれば、
「収容」と「入れる」は同義ではなく、
「回転子積層鉄心を収容する有底穴部のない下型」は、下型に有底穴部を有
するが、上面から回転子積層鉄心がはみ出している構成を含むところ、これ
では回転子積層鉄心を下型から取り出す作業の作業性が悪いという本件各訂
正発明の課題は解決できないと主張する。
5 しかし、
「収容」の意味については、前記2⑵イに判示したとおり、物を一
定の場所に入れることを意味すると解されるのであるから、
「回転子積層鉄心
を収容する有底穴部のない下型」は、下型に有底穴部を有するが、上面から
回転子積層鉄心がはみ出している構成を含まない。
また、原告は、回転子積層鉄心を下型から取り出す作業の作業性が悪いと
10 いう課題を解決するためには、回転子積層鉄心のみならず、搬送トレイも有
底穴部のない下型上に配置されることが必要であり、
「前記回転子積層鉄心を、
前記回転子積層鉄心を収容する有底穴部のない下型上に搬送し、」と特定した
のみでは上記課題は解決できないと主張する。
しかし、
「回転子積層鉄心を入れる有底穴部のない下型」という構成により、
15 回転子積層鉄心を下型の有底穴部から取り出す作業の作業性が極めて悪いと
いう課題が解決できるのであって、このことは、搬送トレイの下型への配置
状態を問わないものである。
⑶ 原告は、回転子積層鉄心を下型から取り出す作業の作業性が悪いという課
題を解決するためには、少なくとも、
「一枚の平板からなる下型」であること
20 が必要であると主張する。
しかし、
「回転子積層鉄心12を入れる有底穴部のない下型」という構成に
よって、回転子積層鉄心を下型から取り出す作業の作業性が悪いという課題
が解決できることは、前記2⑵アに判示したとおりであるから、上記課題の
解決のためには、
「一枚の平板からなる下型」であることが必要であるという
25 ことはできない。
⑷ 原告は、「搬送トレイ」の形状が特定されておらず、また、「搬送トレイを
回転子積層鉄心と共に下型から取り外す」方法、
「搬送トレイ」から「回転子
積層鉄心」を取り外す方法が特定されていないため、課題を解決することが
できると認識することができないと主張する。
しかし、
「回転子積層鉄心12を入れる有底穴部のない下型」という構成に
5 よって、回転子積層鉄心を下型から取り出す作業の作業性が悪いという課題
が解決できることは、前記2⑵アに判示したとおりであるから、原告が指摘
する上記の方法が特定されていないとしても、上記課題を解決することがで
きると認識することができないということはできない。
⑸ 原告は、本件審判手続において、本件訂正発明1の「前記上型及び下型同
10 士が当接することなく」、
「下型及び上型で回転子積層鉄心を押圧し」、
「上型」
という発明特定事項について、サポート要件違反の無効理由があると主張し
たが、本件審決は、この点についての判断を一切しておらず、判断に遺漏が
あると主張する。
本件審判手続における原告の主張を踏まえると、原告の主張は、上記発明
15 特定事項について、いずれも発明の詳細な説明に記載された特定の具体例を
超えて上位概念化(拡張又は一般化)できないという主張であると解される
が、いずれの主張も発明の詳細な説明に記載された特定の具体例との比較を
主張するにとどまるものであるから、上記主張を踏まえても、本件各訂正発
明は、発明の詳細な説明に基づき、当業者が出願時の技術常識も照らして、
20 当該発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものではない。よっ
て、仮に本件審決の判断に遺漏があったとしても、本件審決の結論に影響を
及ぼすものとはいえない。
4 取消事由3(分割要件違反を前提とする甲1に基づく新規性の判断の誤り・
無効理由1)について
25 ⑴ 原告は、本件各訂正発明は、少なくとも、①複数の磁石挿入孔と同数のポッ
ト内の樹脂部材を、ポットと同数のプランジャーでポットから押し出すとい
う構成以外の構成も含み、②上型に形成された樹脂供給穴部より分岐した複
数の注入穴部を有する構成を含むことになり、これらは最初の親出願の出願
当初の明細書等に記載されていない新たな技術的事項を追加するものである
と主張する。
5 そこで検討するに、原告の上記主張は、最初の親出願の出願当初の明細書
等(甲13)には、
「上型に、複数の磁石挿入孔に応じて同数のポットを設け、
ポットと同数のプランジャーで溶けた樹脂部材をポットから押し出して、分
岐のない樹脂流路により磁石挿入孔に充填することにより、樹脂封止が確実
に行われると共に、簡単な工程で、短時間に行うことができ、生産性及び作
10 業性に優れており、安価に作業ができる」という発明のみが記載されている
ことを前提とするものであるところ、同明細書等(甲13)の記載によると、
同明細書等には、このような発明だけでなく、
「回転子積層鉄心の下面が当接
するトレイ部と、前記トレイ部の中心部に立設され、前記回転子積層鉄心の
軸孔に嵌入するガイド部材とを有する搬送トレイに載せた回転子積層鉄心を、
15 前記回転子積層鉄心を収容する有底穴部のない下型上に搬送し、上型及び下
型の間に配置して、前記上型及び前記下型同士が当接することなく、前記下
型及び前記上型で前記回転子積層鉄心を押圧し、前記回転子積層鉄心の磁石
挿入孔に永久磁石を樹脂封止し、その後、前記搬送トレイを前記回転子積層
鉄心と共に前記下型から取り外し、前記回転子積層鉄心が前記搬送トレイか
20 ら取り外される回転子積層鉄心への永久磁石の樹脂封止方法」の発明も記載
されていると認められるから、原告の上記主張は前提を欠くものである。
⑵ 原告は、最初の親出願の出願当初の明細書等(甲13)には、
「搬送トレイ
16に載せた回転子積層鉄心12を、該回転子積層鉄心12を収容する有底
穴部のない下型17上に搬送すること」及び「上型21及び下型17同士が
25 当接することなく、下型17及び上型21で回転子積層鉄心12を押圧する
こと」が記載されていないと主張する。
しかし、同明細書等において、
「搬送トレイ16に載せた回転子積層鉄心1
2を、該回転子積層鉄心12を収容する有底穴部のない下型17上に搬送す
ること」及び「上型21及び下型17同士が当接することなく、下型17及
び上型21で回転子積層鉄心12を押圧すること」が記載されていることは、
5 上記⑴に認定したとおりである。
⑶ 原告は、第7世代目の分割出願である本件出願が分割要件を満たすために
は、少なくとも原出願が、もとの出願との関係で分割の要件を満たし、かつ、
本件出願が最初の親出願の当初の明細書等に記載した事項の範囲内のもので
あること、という要件を満たさなければならないところ、少なくとも原出願
10 が分割要件に違反するから、原出願からの分割出願である本件出願も分割要
件に違反すると主張する。
しかし、原出願の出願当初の明細書等(甲14)の記載によると、原出願
の特許請求の範囲に記載された請求項1に係る発明(以下「原出願発明」と
いう。)は、原出願の明細書及び図面に記載された発明であるところ、最初の
15 親出願、第1世代から第5世代までの分割出願及び原出願の出願当初の明細
書等(甲13、57、58、19、59、60、14)の記載によると、第
1世代から第5世代までの分割出願及び原出願の出願当初の明細書及び図面
においても、最初の親出願の出願当初の明細書及び図面の記載と同様の記載
がされており、最初の親出願の出願当初の明細書及び図面には、原出願発明
20 も記載されていると認められるから、原出願の明細書等において、最初の親
出願の出願当初の明細書等に記載されていない新たな技術的事項が追加され
たとはいえず、分割要件に違反するということはできない。
5 取消事由4(分割要件違反を前提とする甲1に基づく進歩性の判断の誤り・
無効理由2)について
25 取消事由4に係る原告の主張は、取消事由3に係る原告の主張と同様である
ところ、前記4に判示したとおり、取消事由3に係る原告の主張は理由がない
から、取消事由4に係る原告の主張も同様に理由がない。
6 取消事由5(進歩性判断の誤り・無効理由3)について
原告は、甲5発明には、搬送トレイを用いて、搬送トレイを回転子積層鉄心
と共に取り外すことが開示されているに等しいか、又は、甲5発明において、
5 搬送トレイを用いて搬送トレイを回転子積層鉄心と共に取り外すことも当業者
が適宜選択できるから、本件訂正発明1は、甲5発明、甲2に記載された事項
及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである
と主張する。
しかし、前記第3の5⑴イのとおり、原告の主張においても、回転子積層鉄
10 心が搬送トレイに載せられている点が本件訂正発明1と甲5発明との相違点で
あると解されるところ、この点については、甲5には何ら記載も示唆もされて
いない上、甲2から甲4まで、甲6、甲29から甲32においても何ら記載も
示唆もされていない。
したがって、甲5発明には、搬送トレイを用いて、搬送トレイを回転子積層
15 鉄心と共に取り外すことが開示されているに等しいか、又は、甲5発明におい
て、搬送トレイを用いて搬送トレイを回転子積層鉄心と共に取り外すことも当
業者が適宜選択できるということはできない。そうすると、本件訂正発明1は、
甲5発明、甲2に記載された事項及び周知技術を考慮しても、当業者が容易に
発明をすることができたということはできない。
20 7 取消事由6(新規事項追加・無効理由4)について
⑴ 原告は、本件当初明細書の図5及び図6からすると、上型21と下型17
は、キャビティブロック74と搬送トレイ16を介して間接的に当接してい
るから、「前記上型及び前記下型同士が当接することなく、」という限定を追
加する本件補正は、新たな技術的事項を導入するものであると主張する。
25 そこで検討するに、
「当接」とは、その語義から、物同士が当たって接して
いることをいうと解されるところ、本件当初明細書の発明の詳細な説明には、
搬送トレイ16にセットされた回転子積層鉄心12は、上型21と下型17
とにより、押圧されることが記載されているが(甲33の【0041】)、下
型17を上昇させることにより、下型17上の搬送トレイ16にセットされ
た回転子積層鉄心12を上型21に押し付けるにあたり、下型17が上型2
5 1に当接することは、本件当初明細書には、何ら記載も示唆もされていない。
むしろ、本件当初明細書の図1の図示内容をみると、回転子積層鉄心12が
押し付けられる際、下型17と上型21とは当接していないことが把握でき
るのであるから、本件当初明細書には、上型21及び下型17同士が当接す
ることなく、下型17及び上型21で回転子積層鉄心12を押圧することが
10 記載されているといえる。
そして、上記のとおり、
「当接」とは、物同士が当たって接していることを
いうと解されるのであるから、キャビティブロック74と搬送トレイ16を
介するのであれば、そもそも上型21と下型17が当接しているとはいえな
い。また、本件当初明細書には、キャビティブロック74の下面に形成され
15 た円形溝76の底面とガイド部材27の先端部の頂面が当接することについ
て、明示的な記載も示唆もない上、図5及び図6を見ても、円形溝76の底
面とガイド部材27の先端部の頂面が当接している状態が示されていること
は明らかでないから、上型21と下型17が、キャビティブロック74とガ
イド部材27を備える搬送トレイ16を介して間接的に当接しているとも認
20 められない。
⑵ 原告は、本件審決が、概念図にすぎない本件当初明細書の図1を根拠とし
て、回転子積層鉄心12が押し付けられる際、下型17と上型21とは当接
していないことが把握できると判断したことに誤りがあると主張する。
しかし、本件当初明細書の図1が概念図(甲33の【0014】参照)で
25 あるとしても、その工程図(同【0014】参照)である図10を併せて見
ると、図1は図10の(c)の図と同様の状態を示した図であり、図10(c)は、
下型17を上昇させて搬送トレイ16にセットされた回転子積層鉄心12を
上型21に押し付ける状態を示しているのであるから(同【0041】)、図
1も同様に、下型17を上昇させて搬送トレイ16にセットされた回転子積
層鉄心12を上型21に押し付ける状態を示しているということができる。
5 そして、図1を見ると、下型17と上型21とが当接していないことは明ら
かであるから、図1を根拠にして、回転子積層鉄心12が押し付けられる際、
下型17と上型21とは当接していないことが把握できるというべきであり、
本件審決の判断に誤りはない。
8 取消事由7(実施可能要件違反・無効理由5)について
10 原告は、①「上型及び下型同士が当接しないこと」と「下型及び上型で回転
子積層鉄心を押圧すること」の技術的手段の相互関係が出願時の技術常識に基
づいても当業者が理解できない、②本件訂正明細書の発明の詳細な説明に、請
求項に記載された上位概念(「前記上型及び下型同士が当接することなく」、
「下
型及び上型で回転子積層鉄心を押圧し」、
「上型」)に含まれる一部の下位概念に
15 ついての実施例のみが記載されており、他の下位概念について実施可能に記載
されていない、③「回転子積層鉄心の取り出し」について、本件訂正明細書の
記載や技術常識から認めることができず、過度の試行錯誤を要することなく、
本件各訂正発明を実施することができないなどとして、本件訂正明細書の発明
の詳細な説明には、この発明を当業者が過度の試行錯誤を要することなく、実
20 施することができる程度に記載されていないと主張する。
しかし、上記①については、本件訂正明細書の発明の詳細な説明に、
「前記上
型及び前記下型同士が当接することなく、前記下型及び前記上型で前記回転子
積層鉄心を押圧」することが記載されているから、これらの技術的手段の相互
関係は明らかである。上記②については、
「上型及び下型同士が当接することな
25 く」、
「下型及び上型で回転子積層鉄心を押圧し」、及び「上型」について、発明
の詳細な説明に実施可能に記載されており、これらの記載に基づいて、本件各
訂正発明に含まれる範囲で、当業者は、適宜、技術常識を用いて設計変更を加
えたものについても実施することができるから、本件各訂正発明に含まれる様々
な実施形態が発明の詳細な説明に記載されていなくても、本件各訂正発明は、
過度の試行錯誤を要することなく、実施することができる。上記③については、
5 本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載によると、本件各訂正発明は、回転
子積層鉄心を収容する有底穴部のない下型から、搬送トレイを回転子積層鉄心
と共に取り外すことにより、回転子積層鉄心の下型からの取り出しを容易にす
ることができるものと把握でき、回転子積層鉄心を取り出す際の条件や、取り
出しのための手段は、当業者が適宜、選択することができるものであるから、
10 発明の詳細な説明に、その条件や手段が記載されていないとしても、本件各訂
正発明は、過度の試行錯誤を要することなく、実施することができるというべ
きである。
したがって、原告の上記主張はいずれも採用することができない。
9 取消事由8(明確性要件違反・無効理由7)について
15 原告は、①本件訂正発明1において、
「上型」の技術的意味を理解するための
事項が不足している、②本件訂正発明1の「当接することなく」という表現に
よって除かれる前の発明の範囲が明確でなく、かつ、
「当接することなく」とい
う表現によって除かれる部分の範囲が明確でない、③本件訂正発明1の「前記
回転子積層鉄心を収容する有底穴部のない」という表現によって除かれる部分
20 の範囲が明確でない、④本件訂正発明1の「前記上型及び前記下型同士が当接
することなく」という発明特定事項と、
「前記下型及び前記上型で前記回転子積
層鉄心を押圧し、」という発明特定事項の関係が明らかではないため、不明確で
ある、⑤本件訂正発明1の「回転子積層鉄心を収容する」という発明特定事項
が、回転子積層鉄心が有底穴部からはみ出している部分を有するのか否か、ま
25 た、回転子積層鉄心が有底穴部からはみ出している部分を有するものとしても
どの程度はみ出しているものまで含むのかが不明確であるなどとして、本件各
訂正発明は明確性要件に違反すると主張する。
しかし、上記①については、本件訂正発明1の特許請求の範囲には、
「搬送ト
レイに載せた前記回転子積層鉄心を、前記回転積層鉄心を収容する有底穴部の
ない下型上に搬送し、上型及び下型の間に配置して、前記上型及び前記下型同
5 士が当接することなく、前記下型及び前記上型で前記回転子積層鉄心を押圧し」
と記載されているから、「上型」は、下型との間に回転子積層鉄心を配置でき、
さらに、下型とにより回転子積層鉄心を押圧するものと解されるから、不明確
な点はない。上記②については、
「当接する」は当たり接することを意味し、
「前
記上型及び前記下型同士が当接することなく」とは、上型と下型が当たって接
10 している状態になることがないことを特定していると解されるから、不明確な
点はない。上記③については、
「前記回転子積層鉄心を収容する有底穴部のない」
は、回転子積層鉄心を収容する有底穴部がないことを特定していると解される
から、不明確な点はない。上記④については、
「上型及び下型同士が当接するこ
となく」とは、上型と下型で回転子積層鉄心を押圧する状態のときに、上型及
15 び下型同士が当接しないものであることを特定しており、これは、回転子積層
鉄心の厚みが想定される範囲内で変化した場合にも、
「上型及び下型同士が当接
することなく、前記下型及び前記上型で前記回転子積層鉄心を押圧」するもの
と解されるから、不明確な点はない。上記⑤については、本件訂正明細書にお
いて、
「収容」とは、物を一定の場所に入れることを意味し、物が一定の場所か
20 らはみ出ていないことまでを意味するものでないと解されることは、前記2⑵
イに判示したとおりであるから、不明確な点はない。
したがって、原告の上記主張はいずれも採用することができない。
10 結論
以上のとおり、原告が主張する取消事由はいずれも理由がない。原告は、そ
25 の他にも様々な主張をするが、いずれも前記認定判断を左右するものではない。
よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとお
り判決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官
増 田 稔
裁判官
伊 藤 清 隆
裁判官
天 野 研 司
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